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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】耐摩耗部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/00 20060101AFI20220812BHJP
   C22C 29/08 20060101ALI20220812BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C22C29/00 Z
C22C29/08
C22C1/05 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021508570
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013457
(87)【国際公開番号】W WO2020194628
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田島 裕一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 好正
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/087097(WO,A2)
【文献】特許第6026015(JP,B2)
【文献】特開2003-160831(JP,A)
【文献】特開昭60-224762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/00
C22C 29/08
C22C 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質部材と摺接する耐摩耗部材であって、
平均粒径が10~150μmの硬質粒子が、Niを含む結合部(ただし、Coを含まない)によって結合された合金から形成されており、
前記耐摩耗部材と摺接する前記硬質部材のロックウェル硬さが80以上である耐摩耗部材。
【請求項2】
前記硬質粒子が、W、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr及びMoの炭化物、窒化物、珪化物、並びに酸化物から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の耐摩耗部材。
【請求項3】
前記硬質粒子がWCである、請求項に記載の耐摩耗部材。
【請求項4】
前記結合部と前記硬質粒子との体積比が30:70~80:20である、請求項1~のいずれか一項に記載の耐摩耗部材。
【請求項5】
前記結合部と前記硬質粒子との体積比が40:60~60:40である、請求項に記載の耐摩耗部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗部材に関する。
【背景技術】
【0002】
耐摩耗部材は、様々な機械、部品、工具などの摩耗箇所に用いられている。
例えば、特許文献1には、熱間圧延のホットストリップミルに用いられる圧延用複合ロールに、遠心力鋳造によってMC型炭化物の均質な外層を設けることにより、圧延用複合ロールの耐摩耗性を向上させる技術が提案されている。
また、特許文献2には、エンジンのピストンにおけるスカート部などのように油中潤滑下で摺動される箇所に、ポリアミドイミド樹脂に固体潤滑剤及び耐摩耗剤を分散させた摺動部材用組成物を用いて耐摩耗性に優れた潤滑膜を形成する技術が提案されている。
【0003】
また、特許文献3には、最表面にリチウム・鉄複合酸化物層を形成することにより、自動車用足回り部材の耐摩耗性を向上させる技術が提案されている。
さらに、超硬合金、サーメット、セラミックスなどの焼結硬質材料も耐摩耗性が良好であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6313844号公報
【文献】特開2002-53883号公報
【文献】特開2005-126752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、様々な箇所に耐摩耗部材が用いられており、耐摩耗部材同士が接触することも多くなっている。耐摩耗部材の耐摩耗性は、耐摩耗部材それ自体の性質だけでなく、接触する相手(相手材)の材料の性質によっても変化するため、耐摩耗部材同士が接触すると、耐摩耗部材の耐摩耗性が十分に得られないことがある。
例えば、特許文献1に記載の外層、特許文献2に記載の潤滑膜及び特許文献3に記載のリチウム・鉄複合酸化物層はいずれも、特定の材質の相手材に対する耐摩耗性は良好であるものの、超硬合金、サーメット、セラミックスなどの焼結硬質材料が相手材である場合に、耐摩耗性が十分でないという課題がある。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、様々な硬質部材と摺接する際に摩耗し難い耐摩耗部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定の平均粒径を有する硬質粒子が結合部によって結合された合金が、様々な硬質部材に対する耐摩耗性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、硬質部材と摺接する耐摩耗部材であって、平均粒径が10~150μmの硬質粒子が、Niを含む結合部(ただし、Coを含まない)によって結合された合金から形成されている耐摩耗部材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、様々な硬質部材と摺接する際に摩耗し難い耐摩耗部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0011】
本発明の一実施形態に係る耐摩耗部材は、平均粒径が10~150μmの硬質粒子が結合部によって結合された合金から形成されている。
硬質粒子の平均粒径を10μm以上とすることにより、耐摩耗部材と摺接する硬質部材(相手材)に対する耐摩耗性を確保することができる。また、硬質粒子の平均粒径を150μm以下とすることにより、耐摩耗部材の表面が粗くなりすぎることを抑制することができるため、相手材と摺接する用途で耐摩耗部材を用いることができる。硬質粒子の平均粒径は、好ましくは12~140μm、より好ましくは14~120μmである。
【0012】
ここで、本明細書において、耐摩耗部材における硬質粒子の平均粒径とは、耐摩耗部材の断面を画像解析し、断面画像中の水平方向のferet径と垂直方向のferet径の平均値を意味する。具体的には、断面画像中の少なくとも100個以上の硬質粒子について水平方向のferet径と垂直方向のferet径を測定する。そして、硬質粒子の両feret径の平均値を合算して、測定粒子数で除したものを硬質粒子の平均粒径とする。なお、耐摩耗部材の断面の画像解析は、光学顕微鏡、SEM(走査型電子顕微鏡)、エネルギー分散型X線(EDS)などを用いて行うことができる。
【0013】
合金の種類としては、特に限定されないが、超硬合金であることが好ましい。
硬質粒子としては、特に限定されず、合金に一般に用いられるものを使用することができる。硬質粒子の例としては、W、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr及びMoの炭化物、窒化物、珪化物、並びに酸化物などの粒子が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの中でも硬質粒子は、耐摩耗性の観点からWCであることが好ましい。
【0014】
結合部は、特に限定されないが、Ni及びCoから選択される1種以上を含むことが好ましい。このような結合部を用いることにより、結合部の弾性によって相手材からの衝撃を緩和することができる。
【0015】
耐摩耗部材における結合部と硬質粒子との体積比は、特に限定されないが、好ましくは30:70~80:20、より好ましくは40:60~60:40である。このような体積比とすることにより、硬質粒子と結合部との間の密着力を高めることができるため、相手材との間でアグレッシブ摩耗があった場合でも、耐摩耗部材から硬質粒子が脱落し難くなる。したがって、結合部の弾性による衝撃緩和に加えて、硬質粒子による耐摩耗性の効果をより一層向上させることができる。
ここで、本明細書において、耐摩耗部材における結合部と硬質粒子との体積比とは、耐摩耗部材の断面を画像解析し、結合部と硬質粒子との面積比を、結合部と硬質粒子との体積比とする。なお、耐摩耗部材の断面の画像解析は、光学顕微鏡、SEM(走査型電子顕微鏡)、エネルギー分散型X線(EDS)などを用いて行うことができる。
【0016】
耐摩耗部材と摺接する硬質部材(相手材)としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。なお、本明細書において硬質部材とは、硬質材料から形成される部材のことを意味する。
硬質部材を形成する硬質材料の例としては、JIS B4053:2013に規定されるHW、HF、HT、HCなどの超硬合金が挙げられる。
【0017】
ここで、HWとは、硬質相及び結合相からなり、硬質相の主成分がWCであり、硬質相に含まれる硬質粒子の平均粒径が1μm以上であるものをいう。また、HFとは、硬質相及び結合相からなり、硬質相の主成分がWCであり、硬質相に含まれる硬質粒子の平均粒径が1μm未満であるものをいう(一般に、超微粒超硬合金と称される)。また、HTとは、硬質相及び結合相からなり、硬質相に含まれる硬質粒子の主成分がチタン、タンタル又はニオブの炭化物、炭窒化物、窒化物であって、WCの成分が少ないものをいう(一般に、サーメットと称される)。また、HCとは、上記の超硬合金の表面に炭化物、炭窒化物、窒化物、酸化物、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボンなどを1層以上化学的又は物理的に被覆させたものをいう(一般に、被覆超硬合金と称される)。なお、結合相には、Fe族の金属(Fe、Co、Ni)を用いることができる。
【0018】
具体的には、相手材に用いられる超硬合金としては、HW-P01、HW-P10、HW-P20、HW-P30、HW-P40、HW-P50、HW-M10、HW-M20、HW-M30、HW-M40、HW-K01、HW-K10、HW-K20、HW-K30、HW-K40、HT-P01、HT-P10、HT-P20、HT-P30、HT-P40、HT-P50、HT-M10、HT-M20、HT-M30、HT-M40、HT-K01、HT-K10、HT-K20、HT-K30、HT-K40、HF-P01、HF-P10、HF-P20、HF-P30、HF-P40、HF-P50、HF-M10、HF-M20、HF-M30、HF-M40、HF-K01、HF-K10、HF-K20、HF-K30、HF-K40、HC-P01、HC-P10、HC-P20、HC-P30、HC-P40、HC-P50、HC-M10、HC-M20、HC-M30、HC-M40、HC-K01、HC-K10、HC-K20、HC-K30、HC-K40などを用いることができる。
【0019】
相手材に超硬合金を用いる場合、硬質粒子の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは8μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。超硬合金は、硬質粒子の平均粒径が小さいほど、硬くなる傾向にある。そのため、相手材の硬質粒子の平均粒径を上記の範囲に制御することにより、相手材と耐摩耗部材との硬度差が大きくなり、耐摩耗部材が摩耗し難くなる。
なお、相手材の超硬合金に含有される硬質粒子の平均粒径は、耐摩耗部材における硬質粒子の平均粒径と同様の方法で求めることができる。
【0020】
相手材に用いられる超硬合金における結合相の体積割合は、特に限定されないが、好ましくは35体積%未満、より好ましくは30体積%以下、さらに好ましくは25体積%以下である。また、相手材における硬質相の体積割合は、好ましくは65体積%以上、より好ましくは70体積%以上、さらに好ましくは75体積%以上である。結合相の体積割合を35体積%未満、及び硬質粒子の体積割合を65体積%以上とすることにより、耐摩耗部材と相手材との硬度差が大きくなり、耐摩耗部材が摩耗し難くなる。
なお、相手材の超硬合金における結合相及び硬質相の体積割合は、耐摩耗部材における結合相と硬質粒子との体積比と同様の方法で求めることができる。
【0021】
相手材のロックウェル硬さ(HRA)としては、特に限定されないが、硬質部材としての硬さを確保する観点から、好ましくは80以上、より好ましくは83以上、さらに好ましくは85以上である。
【0022】
本発明の一実施形態に係る耐摩耗部材は、従来の粉末冶金法に準じて製造することができる。具体的には、平均粒径が10~150μmの硬質粒子の原料粉末と、結合部を与える金属粉末と、バインダとを混合してペースト状の成形材料を得た後、この成形材料を所定の形状に成形して焼結させればよい。成形材料には、必要に応じて溶媒を添加してもよい。また、各粉末の割合や焼結条件などについては、特に限定されず、使用する粉末の種類に応じて適宜設定すればよい。
なお、原料粉末の硬質粒子の平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%の粒径(D50)を意味する。feret径とD50の各々で求めた平均粒径には、さほど大きな差はない。
【実施例
【0023】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
平均粒径が110μmのWC粒子の原料粉末(日本新金属株式会社製WC-S)60gと、Ni粉末(福田金属箔粉工業株式会社製FP-606)28gと、バインダ(東亜合成株式会社製アロン(登録商標))5gとをビーカー内で混合してペースト状の成形材料を得た。次に、この成形材料をSUS製の容器(内寸が15cm×15cm×15cm)に流し込んだ後、真空炉にて温度890℃で2時間焼成することによって耐摩耗部材を得た。
【0025】
(実施例2)
平均粒径が16μmのWC粒子の原料粉末(日本新金属株式会社製WC-S)60gと、Ni粉末(福田金属箔粉工業株式会社製FP-606)34gと、バインダ(東亜合成株式会社製アロン(登録商標))5gとをビーカー内で混合して成形材料を得たこと以外は、実施例1と同様にして耐摩耗部材を得た。
【0026】
(比較例1)
耐摩耗部材として、市販の超硬合金(冨士ダイス株式会社製D40)を準備した。
【0027】
上記で得られた実施例及び比較例の耐摩耗部材について、下記の評価を行った。
【0028】
(1)硬質粒子の平均粒径、及び結合部と硬質粒子との体積比
耐摩耗部材の断面について、光学顕微鏡を用いて画像解析し、上述した方法に基づいて平均粒径、及び結合部と硬質粒子との体積比を求めた。
【0029】
(2)ロックウェル硬さ(HRA)
ロックウェル硬さ試験機を用いてロックウェル硬さを測定した。
【0030】
(3)摩耗量
ASTM D2670に基づき、高速ファレックス形摩擦試験機(神鋼造機株式会社製)を用いて摩耗量を評価した。具体的には、次のようにして摩耗量の測定を行った。
まず、相手材として、市販の超硬合金(冨士ダイス株式会社製D60)を準備した。この超硬合金は、平均粒径が4μmのWC粒子を含む硬質相が結合相(Co)中に分散したものであり、硬質相(WC)と結合相(Co)との体積比が75:25、ロックウェル硬さが88である。なお、この超硬合金の平均粒径、体積比及びロックウェル硬さは、上述の方法によって測定した。
次に、相手材として用いる超硬合金から円柱状のピンを採取した。ピンは、直径6.35mm、長さ31.75mmとした。また、上記の実施例及び比較例で得られた耐摩耗部材からVブロックを採取した。Vブロックは、直径を12.83mm、長さ10.16mm、V溝の角度を96°、溝幅を6.35mmの試験片とした。そして、上記のピン及びVブロックを高速ファレックス形摩擦試験機に設置した。
【0031】
次に、水道水300mLに対してセラミックス(#220のSiC)1kgを配合したセラミックス含有スラリーを調製し、オイルバス内にセラミックス含有スラリーを入れた。
次に、オイルバス内のセラミックス含有スラリー中に、高速ファレックス形摩擦試験機に設置したピン及びVブロックを浸漬しながらファレックス摩耗試験を行った。ファレックス摩耗試験は、ピンの回転数を300rpm、ピンに対するVブロックの試験荷重を500N、試験時間を60分、試験温度を常温(約25℃)とし、当該試験後にVブロックの摩耗量(摩耗減量)を測定した。
上記の各評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示されるように、実施例1及び2の耐摩耗部材は、比較例1の耐摩耗部材に比べて摩耗量が少なかった。
【0034】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、様々な硬質部材と摺接する際に摩耗し難い耐摩耗部材を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の一実施形態に係る耐摩耗部材は、様々な部材と摺接又は摺動する部材に利用することができる。特に、本発明の一実施形態に係る耐摩耗部材は、様々な硬質部材と摺接する部材、例えば、圧延ロール、エンジンのピストン、ベアリングのハウジング、自動車の足回り部材などに利用することができる。