IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

特許7122475ブレーキシステムを運転するための方法およびブレーキシステム
<>
  • 特許-ブレーキシステムを運転するための方法およびブレーキシステム 図1
  • 特許-ブレーキシステムを運転するための方法およびブレーキシステム 図2
  • 特許-ブレーキシステムを運転するための方法およびブレーキシステム 図3
  • 特許-ブレーキシステムを運転するための方法およびブレーキシステム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】ブレーキシステムを運転するための方法およびブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1761 20060101AFI20220812BHJP
【FI】
B60T8/1761
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021531180
(86)(22)【出願日】2019-06-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2019066564
(87)【国際公開番号】W WO2020035200
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】102018213592.4
(32)【優先日】2018-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】クルーク,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ポッゲンブルク,リューディガー
(72)【発明者】
【氏名】ツェーベレ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】アイゼレ,アヒム
(72)【発明者】
【氏名】クラニッヒ,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァインガルト,フィリップ
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-071231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(102)のブレーキシステム(100)を運転するための方法において、
前記ブレーキシステム(100)で初期圧力(114)を表す初期圧力値(106)および前記車両(102)のブレーキダイナミックスを表す処理規定(108)を用いて前記ブレーキシステム(100)のブレーキ圧(112)のための初期制御値(110)を設定し、
前記初期制御値(110)の初期制御勾配を、前記処理規定(108)および前記初期圧力値(106)の初期圧力勾配を用いて設定することを特徴とする、車両のブレーキシステムを運転するための方法。
【請求項2】
前記車両(102)の車軸毎に前記初期制御値(110)を設定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記処理規定(108)が、前記車両(102)の制動時における車両モデル固有の経時的な垂直力変化を表す、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記処理規定(108)が、前記車両(102)の制動時における車両モデル固有のピッチングダイナミックスを表す、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記初期圧力勾配が限界勾配よりも大きいときに、前記初期制御勾配を制限する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
車両(102)のブレーキシステム(100)を運転するための方法において、
前記ブレーキシステム(100)で初期圧力(114)を表す初期圧力値(106)および前記車両(102)のブレーキダイナミックスを表す処理規定(108)を用いて前記ブレーキシステム(100)のブレーキ圧(112)のための初期制御値(110)を設定し、
ホイールブレーキシリンダ毎に前記ブレーキ圧(112)の目標値(126)を、前記初期制御値(110)および前記ホイールブレーキシリンダによって制動されたホイールのホイール回転数(402)の微分を用いて個別に調整し、
前記目標値(126)を、制動開始中に前記初期制御値(110)に応じて設定し、制動開始時間の経過後に前記初期制御値(110)および前記ホイール回転数(402)の微分を用いて調整する、方法。
【請求項7】
前記目標値(126)を、前記ホイール回転数(402)がスリップコリドー(406)内で低下するように、調整する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ブレーキシステム(100)において、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法を相応の装置で実施、実行および/または制御するために構成されている、ブレーキシステム(100)
【請求項9】
コンピュータプログラム製品において、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法を実施、実行および/または制御するために設計されている、コンピュータプログラム製品
【請求項10】
機械読み取り可能な記憶媒体において、前記機械読み取り可能な記憶媒体に請求項9記載のコンピュータプログラム製品が記憶されている、機械読み取り可能な記憶媒体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシステムを運転するための方法およびブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両はアンチロックブレーキシステムを有していてよい。アンチロックブレーキシステムは、車両のブレーキシステムに介入することによって、車両のホイールの持続的なロックを阻止することができる。これによって車両は制動時に操縦可能に維持される。
【発明の概要】
【0003】
このような背景から、ここに記載された提案により、独立請求項による、ブレーキシステムを運転するための方法およびブレーキシステム、並びに相応のコンピュータプログラム製品および機械読み取り可能な記憶媒体が紹介される。ここに記載された提案の好適な実施態様および改善は、明細書および従属請求項に記載されている。
【発明の効果】
【0004】
本発明の実施例によれば、好適な形式で、車両の迅速な制動時に、車両のABSが車両のブレーキスリップを最適なスリップ範囲内で制御するまでの時間間隔を短縮することができる。
【0005】
ブレーキシステムで初期圧力を表す初期圧力値および車両のブレーキダイナミックスを表す処理規定を用いてブレーキシステムのブレーキ圧のための初期制御値を設定することを特徴とする、車両のブレーキシステムを運転するための方法が提案されている。
【0006】
本発明の実施例の着想は特に、以下に記載する考え方および認識に基づいているものとみなされてよい。
【0007】
車両のホイールの制動力は、接地面上におけるホイールの静止摩擦よりも大きくてよい。この場合、接地面上におけるホイールのスリップは、許容可能なスリップより大きい。車両を制御可能に維持するために、車両のブレーキシステムのアンチロックブレーキ機能が作動し、制動力が静止摩擦より再び小さくなるまで、ホイールブレーキシリンダ内のブレーキ圧を低下させる。それにともなってスリップも許容可能なスリップより小さくなり、車両は再び制御され得る。次いでブレーキ圧は、スリップが再び許容可能なスリップより大きくなるまで、再び上昇される。それと同時に、アンチロックブレーキ機能の新たな介入サイクルを開始する。このサイクルは繰り返し実行される。これによって、車両は接地面上での最大可能な減速度で制動される。
【0008】
静止摩擦は、ホイールにおける垂直力によって左右される。垂直力は、車両の重量配分および車両のブレーキダイナミックスに依存する。車両の重心は、接地面に対して間隔を保っているので、車両の質量慣性に基づいて制動時に車両の前車軸のホイールが負荷され、これに対して車両の後車軸のホイールは負荷軽減される。さらに、車両はそのばね減衰されたホイールサスペンションおよび空気タイヤによって振動可能なシステムであり、このシステムは、制動時に引き起こされたピッチングトルクによって振動を引き起こす。縮むときにホイールサスペンションおよび空気タイヤは圧縮され、伸びるときにホイールサスペンションおよび空気タイヤは負荷軽減される。ホイールが縮んでいる間、垂直力は、ホイールが伸びているときよりも高い。従って、ホイールは縮んでいるときに、伸びているときよりも高い制動力を接地面に伝達することができる。この振動は制動時に重量配分とオーバーラップする。
【0009】
初期圧力は、ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダとブレーキシステムの弁ブロックとの間でブレーキシステムの圧力センサによって検出される。つまり初期圧力は、ブレーキペダルの操作によって設定され得る。同様に、例えばマスタブレーキシリンダが別の方法で操作されるかまたは別個のセンサが制御されることによって、車両の運転者アシストシステムが初期圧力を設定することができる。
【0010】
ここに記載された提案において、ホイールのロックを避けるために、ホイールに作用する初期圧力は、処理機能によって車両のダイナミックスおよび重量配分に基づいて可能な静止摩擦に適合される。
【0011】
車両の軸線毎に初期制御値が設定されてよい。制動時の重量移動によって、後車軸に、前車軸におけるよりも小さい制動力が伝達され得る。また、後車軸のダイナミックスは前車軸のダイナミックスとは異なっている。
【0012】
処理規定は、車両の制動時における車両モデル固有の経時的な垂直力変化を表す。様々な車両モデルは様々なブレーキダイナミックスを有している。処理規定は車両モデル毎に異なっていてよい。
【0013】
処理規定は、車両の制動時における車両モデル固有のピッチングダイナミックスを表す。シャーシ適合に応じて、車両は様々なピッチングダイナミックスを有していてよい。シャーシ適合は処理規定に表されていてよい。
【0014】
初期制御値の初期制御勾配は、処理規定および初期圧力値の初期圧力勾配を用いて設定されてよい。急激な制動開始時に、つまり例えばブレーキペダルが非常に素早く踏み込まれると、制動力は、非常に迅速に高められ、それぞれの接地面のために明らかに強すぎることになる。すると、スリップは非常に大きくなり、ホイールはロックされ得る。従来形式では、ホイールのロックを避けるために若しくはホイールを再び回転させるために、アンチロックブレーキ機能はその最初の介入時にブレーキ圧を非常に強く低下させる。システム全体の慣性に基づいて、アンチロックブレーキ機能が安定的に制御されるまで、所定の時間経過する。この時間中に、車両は最適に減速されない。ここに記載された提案では、処理機能は、制動力がコントロールされて上昇し、許容可能なスリップが得られるとアンチロックブレーキ機能が迅速に介入できる、初期圧力と初期制御圧との間の関係を表す。
【0015】
初期制御勾配は、初期圧力勾配が限界勾配よりも大きいときに、制限され得る。予め規定された限界勾配に達するまで、アンチロックブレーキ機能は十分迅速に反応し、初期制御圧力の適合は必要ない。限界勾配から、初期制御勾配は、初期圧力勾配よりも1ファクタだけ小さく設定され得る。初期制御勾配は最大勾配に制限されてもよい。初期制御勾配は段階的に制限されてよい。制限された初期勾配は、予め定められた勾配変化に従う。
【0016】
ホイールブレーキシリンダ毎に、ブレーキ圧の目標値は、ホイールブレーキシリンダによって制動されたホイールのホイール回転数および初期制御値を用いて個別に調整され得る。ホイール回転数はホイールで直接検出され得る。異なるホイールのホイール回転数は異なっていてよい。ホイール回転数は高ダイナミックスで検出され得る。間接的にしか推定することができないスリップとは異なり、ホイール回転数は直接に測定することができる。ホイール回転数の微分を用いることによって、迅速な調整が得られる。ホイール回転数の低下が早すぎると、ホイールは短時間で過剰にスリップすることになる。
【0017】
目標値は、制動開始中に初期制御値に応じて設定することができる。制動開始時間の経過後に、目標値は初期制御値およびホイール回転数の微分を用いて調整され得る。制動開始過程の開始時にシャーシ特性およびタイヤ特性に基づいて高ダイナミックスな振動動作が行われ、この振動動作はホイール回転数を介して検出される。これを、調整のために弱くするために、ホイール回転数は予め規定された制動開始時間まで無視されてよい。制動開始時間後に、ホイール回転数を用いて調整が開始される。
【0018】
ホイール回転数はホイール速度を表す。ホイール回転数の変化若しくは微分はホイール減速度を表す。目標値は、ホイール目標減速度が追加的にホイール目標スリップコリドーによって監視されるように、調整される。ホイール目標スリップコリドーは、時間の経過に伴って変化する最小/最大ホイール目標スリップ閾値によって決定されてよい。ホイールが目標スリップコリドー内を走っていれば、目標ホイール圧力勾配は目標ホイール減速度に基づいて算出される。目標スリップコリドーの最小限界/最大限界を下回るか/上回ると、ホイール圧力勾配が目標スリップに依存したプログラムに基づいて算出される。
【0019】
この方法は、例えばソフトウエアまたはハードウエアで、あるいはソフトウエアとハードウエアとの混合形で例えばコントロールユニットにより実行されてよい。
【0020】
ここに記載された提案はさらに、ここに記載された方法の変化形のステップを相応の装置で実施、制御若しくは実行するために構成されたブレーキシステムを提供する。
【0021】
このためにブレーキシステムは、信号またはデータを処理するための少なくとも1つの演算装置、信号またはデータを記憶するための少なくとも1つの記憶装置、および通信プロトコルに埋め込まれたデータを読み取るかアウトプットするための少なくとも1つのインターフェースおよび/または通信インターフェースを有していてよい。演算装置は、例えば信号プロセッサ、いわゆるシステムASIC、またはセンサ信号を処理しかつセンサ信号に依存してデータ信号をアウトプットするためのマイクロコントローラであってよい。記憶装置は、例えばフラッシュメモリ、EPROMまたは磁気記憶装置であってよい。インターフェースは、センサからのセンサ信号を読み取るためにセンサインターフェースとして、および/またはデータ信号および/または制御信号をアクチュエータにアウトプットするためのアクチュエータインターフェースとして構成されていてよい。通信インターフェースは、データを無線誘導および/または有線誘導で読み取るかまたはアウトプットするために構成されていてよい。インターフェースは、例えば別のソフトウエアモジュールの隣でマイクロコントローラに設けられたソフトウエアモジュールであってもよい。
【0022】
機械読み取り可能な媒体または記憶媒体、例えば半導体記憶装置、ハードディスクまたは光学式記憶装置に記憶されたプログラムコードを有していて、特にプログラム製品またはプログラムがコンピュータまたは装置で実行されると、前記実施例による方法のステップを実施、実行および/または制御するためのコンピュータプログラム製品またはコンピュータプログラムも有利である。
【0023】
本発明の可能な特徴および利点のうちの幾つかが、様々な実施例に関連して記載されていることを指摘しておく。当業者にとって、本発明の別の実施例を獲得するために、このブレーキシステムおよび方法の特徴が適切な形式で組み合わされ、適合されるかまたは交換され得ることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】1実施例によるブレーキシステムのブロック図である。
図2】1実施例に従って調整されたブレーキ圧変化を示す図である。
図3】ホイール回転数を用いて調整された、1実施例によるブレーキ圧変化の図である。
図4】1実施例に従って調整されたホイール回転数変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施例が添付の図面を用いて説明されているが、この場合、図面も明細書も発明としてこれに限定されないと解釈されるべきである。
【0026】
図面は単に概略的であって、縮尺通りではない。図面中、同じ符号は同じまたは作用的に同じ特徴を表す。
【0027】
図1は、1実施例による車両102のブレーキシステム100のブロック図を示す。ブレーキシステム100は、ここに紹介された提案に従って方法を実行するために構成されている。このために、ブレーキシステム100は調節ユニット104を有しており、この調節ユニット104内で初期圧力値106および処理規定108を用いて、ブレーキシステム100のブレーキ圧112のための初期制御値110が調節される。この場合、初期圧力値106はブレーキシステム100における初期圧力を表し、これに対して処理規定108が車両102のブレーキダイナミクスを表す。
【0028】
初期圧力値106は、車両102のマスタブレーキシリンダ116とブレーキシステム100との間に配置された圧力センサ118によって検出され、装置104のための電気信号若しくはデータ項目として提供される。
【0029】
ブレーキ圧112は、ブレーキシステム100の弁ブロック120内で初期制御値110を用いて調節される。このために、弁ブロック120は、マスタブレーキシリンダ116に流体接続されている。弁ブロック120は吸入バルブおよび吐出バルブを有しており、これらの吸入バルブおよび吐出バルブを介して車両102のホイールブレーキシリンダにおけるブレーキ圧112が調節され得る。この場合、弁は比例弁であってよく、これらの比例弁で貫流横断面が適切に調節され得る。吸入バルブは、無電流開放式である。開放した状態でブレーキ圧112は初期圧力114と同じである。吸入バルブの貫流横断面が狭くされると、ブレーキ圧112は初期圧力114に対して低下する。吐出バルブは無電流閉鎖式である。吸入バルブが閉鎖されると、吐出バルブが開放される。吐出バルブによってブレーキ圧112は、迅速にしかも初期圧力114とは無関係に低下され得る。弁ブロック120の弁は制御信号122を介して電気的に操作される。制御信号122は、弁駆動装置124によって初期制御値110を用いて発生される。例えば、弁ブロック120の弁はパルス幅変調された制御信号122によって制御される。
【0030】
ブレーキ圧112は、車両102のホイールのホイールブレーキシリンダに液圧式に伝達される。各ホイールブレーキシリンダは、それぞれのホイールに連結されたブレーキディスクまたはブレーキドラムと摩擦するブレーキライニングを操作する。回転するホイールとの摩擦がブレーキトルクを発生する。ホイールのローリング半径を介してブレーキトルクがホイールの制動力を生ぜしめる。
【0031】
車両102の質量が結果としてホイールの重量となる。車両102の重量配分が、1つのホイールの重量のどの部分が垂直力として作用するかを規定する。垂直力および道路状態が、ホイールによって接地面に伝達され得る摩擦力を規定する。制動力が最大静止摩擦力よりも大きければ、ホイールは空転する。何故ならば、同じ接地面上の滑り摩擦は、通常は静止摩擦力よりも小さいからである。ホイールがホールディングを失う前に、スリップが発生する。スリップは、例えばホイールのタイヤの断面ブロックの変形および/またはタイヤ自体の縮充の結果生じる。
【0032】
スリップによって、タイヤは制動時に、車両102の速度でタイヤが回転するべきであるよりもゆっくりと回転する。ホイールが空転若しくはロックすると、車両102が動いているにもかかわらずホイールは回転しない。
【0033】
車両102が制動力によって制動されると、車両102の慣性質量に基づいて制動力に対抗して向けられた慣性力が働く。この慣性力は、簡単に言えば車両102の重心に作用する。しかしながら重心は、制動力の作用点若しくは複数の制動力の複数の作用点、つまり接地面とホイールとの接触箇所から間隔を保っている。このような間隔に基づいて、ピッチングモーメントとも呼ばれる、車両102におけるトルクが生ぜしめられる。ピッチングモーメントは、重量をホイールに伝達するピッチング力をホイールに発生させる。
【0034】
ホイールは、ホイールサスペンションを介してばね減衰されて支承され、ホイールの、空気の満たされたタイヤが空気ばねとして作用する。ホイールサスペンションはさらにショックアブソーバによって減衰されている。つまり、車両102は振動可能なシステムであって、ピッチングモーメントによって振動せしめられる。ピッチング力は正または負であってよい。正のピッチング力によってホイールはさらに負荷される。負のピッチング力によってホイールは負荷軽減される。正のピッチング力によってホイールの垂直力は上昇し、ホイールサスペンションは縮み、これに対してタイヤは圧縮される。負のピッチング力によってホイールのピッチング力は低下し、タイヤが伸張している間、ホイールサスペンションは伸びる。
【0035】
このシステムの振動特性は処理規定108に表されている。処理規定108によって、垂直力の時間的な変化が分かる。処理規定108は例えば実験によって算出され得る。
【0036】
垂直力の経時変化によって同様に、得られる制動力の経時変化が明らかになる。この場合、ホイールの圧縮時に、ホイールの伸長時におけるよりも高い制動力を得ることができる。処理規定108によって、初期制御値110は圧縮時に高められ、伸長時に低下される。
【0037】
1実施例では、車両102の前輪若しくは前車軸のために前方の初期制御値110が調節される。車両102の後輪若しくは後車軸のために後方の初期制御値110が調節される。これによって、車軸の頻繁な逆向きの圧縮および伸長が考慮される。
【0038】
1実施例では、個別のホイールのブレーキ圧112の目標値126が、それぞれの初期制御値110およびそれぞれのホイールのホイール回転数の微分を用いて個別に調整される。このために、ホイールの回転数がセンサ128によって監視され、回転数値130で表される。回転数値130の微分を用いて、ブレーキシステム100のガバナ132で、各ホイール用にブレーキ圧112のための個別の目標値126が調整される。このために修正ファクタ134が決定され、この修正ファクタ134によって、目標値126を得るためにそれぞれの初期制御値110が精算される。
【0039】
ブレーキ操作の開始時に初期圧力114の早すぎる上昇が行われると、複数のホイールにおいて早すぎかつ大きすぎるブレーキトルクが生ぜしめられ、ホイールがロックされる。ホイールがロックしてからはじめて、吸入バルブが閉じられると、ブレーキ圧ピークが低下されホイールが再び回転するまで、吐出バルブを介してブレーキ圧112を低下させる必要がある。ホイールおよび全システムの慣性に基づいてこの過程は続く。ホイールが再び静止摩擦を有してからはじめて、ブレーキ圧112は、ブレーキシステム100の通常のアンチロック制御を得るために、新たに高められる。
【0040】
従って、1実施例では、車両102の振動特性を考慮することに加えて、初期制御値110の初期制御勾配が初期圧力114の初期圧力勾配に依存して調節される。初期圧力114の上昇が早すぎて限界値を超えると、初期制御値110は、初期圧力114に対して低下された初期制御勾配で調節される。これによって、吸入バルブ貫流横断面はタイミングよく少なくとも狭められ、ブレーキ圧ピークは避けられる。ブレーキ圧112のゆっくりとした上昇によって、1つのホイールにおけるスリップが目標スリップよりも大きいときに、ホイールが前もってロックすることなしに、アンチロック制御が作用する。初期制御勾配は、例えば時間の関数として設定されてよい。
【0041】
図2は、1実施例に従って調整されたブレーキ圧変化200を示す。ブレーキ圧変化200は、図1のブレーキ圧112の少なくとも1つの経時変化を表し、例えば図1に示されているように、例えばブレーキシステムのホイールブレーキシリンダにおいてブレーキ圧変化200が検出される。ブレーキ圧変化200は、横座標に時間tが記載され縦座標に圧力pが記載されたグラフに示されている。初期圧力変化202は、図1の初期圧力114の経時変化を表す。初期圧力変化202は、図1に示されたブレーキシステムではブレーキシステムの入力において圧力センサによって記録される。
【0042】
限界圧力204まで、ブレーキ圧変化200と初期圧力変化202とは重なり合っている。初期圧力114が限界圧力204より大きくなると、ブレーキ圧112に影響を及ぼすために、初期制御値が設定される。初期制御値を設定するための追加的な基準として、初期圧力勾配若しくは、初期圧力114が上昇する速度が監視される。初期制御値は、初期圧力勾配が限界勾配よりも大きいときに設定される。
【0043】
ここでは、2つの基準が満たされている。従って、限界圧力204を上回る初期制御値が時間の関数として、ブレーキ圧112が初期圧力114よりも僅かに早く上昇するように設定される。ここでは、限界値204を上回るブレーキ圧変化200のための関数が異なる勾配を有する2つのセクションを描く。この場合、第1の勾配は第2の勾配より大きい。2つのセクションは曲線形に近づいている。
【0044】
ブレーキ圧112は限界圧力204の上側で、初期圧力114よりも小さいブレーキ圧勾配を有している。ブレーキ圧112は、限界圧力204の上側で、ホイールにおけるスリップが目標スリップよりも大きい値に達する。これにより車両のABSが作動し、次いでブレーキ圧を周期的にABS制御圧206まで近づけて再び低下させるために、ブレーキ圧112を迅速に再び低下させる。
【0045】
図3は、ホイール回転数を用いて調整された、1実施例によるブレーキ圧変化200を示す。この場合、図面は、図2の図面に概ね相当する。図2に追加して、ブレーキ圧112は限界圧力204の下側でホイール回転数の微分を用いて調整されるので、ホイール回転数はスリップコリドー“Schlupfkorridor”内で低下する。ホイール回転数が十分迅速に低下しない場合、ブレーキ圧のための目標値は修正ファクタを超えて高められる。回転数の早すぎる低下が行われると、目標値は修正ファクタを超えて低下される。実際のブレーキ圧変化200は、初期制御値を超えて予め設定された初期制御変化300だけ、調整によって変動する。
【0046】
図4は、1実施例に従って調整されたホイール回転数変化400の図を示す。ホイール回転数変化400は、横座標に時間tが示され縦座標にホイール回転数402が示されたグラフに表されている。つまり、ホイール回転数変化400は、時間tに対するホイールのホイール回転数402の変化を描く。この場合、ホイール回転数変化400は、概ね図3のブレーキ圧変化に相当する。時点t0で、ブレーキ圧の初期制御が、ここに示された提案に従って作動される。作動は、ここでは論理0から論理1への論理状態変化404によって示されている。
【0047】
時点t1まで、ブレーキ圧は初期制御値にだけ従って設定される。時点t1で、ブレーキ圧の調整がホイール回転数402の微分を介して作動される。この場合、ホイール回転数402は、ホイールの回転数センサを介して検出され、ホイール回転数402の微分から初期制御値のための修正ファクタが算出される。次いで、修正ファクタおよび初期制御値が共同で、調整された目標値をもたらし、この目標値を介して弁ブロック内でブレーキ圧が調節される。
【0048】
この場合、ホイール回転数402が、スリップコリドー406内で調整される。スリップコリドー406は、所望の回転数変化の公差範囲を表す。所望の回転数変化は、時間tに対するホイール回転数402の概ね一次関数的な低下に相当する。この場合、一次関数的な低下は一定の減速度に相当する。
【0049】
実際のスリップ402がスリップコリドー406を下回っていれば、修正ファクタは、ブレーキ圧が初期制御値によって予め設定された圧力を下回って低下するように適合される。何故ならば、ホイールのスリップは大きすぎるからである。低下されたブレーキ圧によって、ホイール回転数402は再びスリップコリドー406内に上昇する。実際のホイール回転数402がスリップコリドー404を上回ると、修正ファクタは、ブレーキ圧が初期制御値によって予め設定された圧力を超えて上昇するように調節される。何故ならば、ホイールが接地面に伝達する制動力は小さすぎるからである。上昇されたブレーキ圧によって、再びより大きい制動力が生ぜしめられ、ホイール回転数402は再びスリップコリドー06内に低下する。
【0050】
1実施例では、実際の時間値に割り当てられた、回転数変化の目標回転数変化に対する、ホイール回転数402の微分の誤差が、修正ファクタに換算される。これによって、修正ファクタが直接調整され、ホイール回転数402がスリップコリドー406内に留まる。
【0051】
言い換えれば、高摩擦値へのABS制御最適化は、制動力勾配制限(Pre-Control Action「プレコントロールアクション」-PCA)によって説明される。
【0052】
有利には、高摩擦値の高い制動開始勾配において、つまり制動要求が急激に高くなると、できるだけ最適なABS制御の開始を保証するために、ホイールブレーキにおける制動力勾配を制限する。そうでなければ、急勾配すぎる力発生勾配により、高すぎるホイールスリップが発生し、その結果、ABS開始時にホイールを安定させるために強い第1の圧力低下が発生する。制動力勾配を制限することによって、最適な摩擦係数利用および制動距離短縮が得られる。
【0053】
急激な運転者初期圧力上昇が検出され、ホイールにおける所定のブレーキスリップおよび所定のブレーキトルクが発生すると、制動力勾配制限PCAが始動される。次いで、吸入バルブが制御され、圧力上昇パルス列によりホイールブレーキ圧のさらなる上昇が調整されることによって、制動力勾配制限が実現される。上昇パルス列の目標勾配の調整は、ホイール回転数の微分に依存して算出される。このような措置は車軸単位で、つまり前車軸および後車軸のために作動可能およびパラメータ化可能である。この機能は、初期圧力が運転者を介してではなく、ESPシステムまたはI-Booster(電気油圧式ブースタ)を介して生ぜしめられるときに、同様に自動式の非常ブレーキ時に作動されてよい。
【0054】
制動開始時に強いピッチング特性を有する車両、例えば高重心および柔らかいシャーシを有するフロント荷重型の車両のために、上昇勾配が意図的に最大制動力を明確に下回ったままであることによって、制動力勾配制限がピッチング減衰措置としても使用され得る。このために、相応のパラメータ化が必要である。
【0055】
ここに記載された目標上昇勾配の算出時に、車両固有のピッチングダイナミックス若しくはダイナミックな垂直力変化が考慮される。この場合、上昇勾配は、ホイールスリップに依存して閉ループ制御で調整されない。何故ならば、制動開始段階中に、前車軸および後車軸における垂直力は非常に迅速に変化し得るからである。ホイール回転数の微分を介して行われる、ここに記載された調整は、高ダイナミックスを有している。さらに、垂直力変化の各段階で所定のスリップを調整することは有意義ではない。車両が例えば既にスプリングの力で戻る直前にあって、前車軸の垂直力が再び低下すると、ここに記載された提案において、ABSへのゆるやかな移行を保証するための、この車軸における急勾配すぎる上昇勾配は避けられる。ここに記載された考え方は、高いロバストネスを提供し、短い制動距離のためのおよびABS制御特性の最適化のための安価なアプリケーションコストを要求する。
【0056】
ここに記載された提案は、初期制御が各車軸のホイール圧の基本上昇形を制動開始操作中の車両の垂直力変化に適合させることにより、ABS制御特性を改善する。さらに、高ダイナミックスを有する閉ループ制御器は、発生する許容誤差、例えばブレーキライニングのエアギャップ、制動係数および/または路面摩擦係数の許容誤差を補正する。
【0057】
車軸固有の時変的な初期制御勾配は、ホイールブレーキトルクをピッチング過程中の垂直力上昇に適合させるために、PCA圧力上昇勾配の基本形状を決定する。この特徴的な目標圧力変化は、迅速な制動開始操作のための時間制御をベースとして最適化され得る。ホイール固有の修正メカニズム(“Feedback-Controller”フィードバックコントローラ)は、特徴的な基本形状周辺の高ダイナミックスを有する障害を補正する。目標値として、ホイール減速度が時間依存のスリップ幅内で調整される。上昇の基本形状は、閉ループ制御器を介して制御誤差に依存して適合される。
【0058】
閉ループ制御器のための目標値としてホイール減速度が選択され、それによってホイール特性に素早く反応することができる。規定可能なスリップ帯域内で目標値がPCA作動時間に亘って予め設定され得る。これにより、高い目標ホイール減速度を有するPCA調整の開始時に制動力を迅速に上昇させることができ、この場合、垂直力が最大に達する直前で、ABSへの移行が低いホイール減速度を目標値として高精度に調整される。さらに、最大スリップ帯域および最小スリップ帯域はPCAに依存して規定されている。最大スリップを上回るか若しくは最小スリップを下回ると、強すぎるスリップにおいては即座に圧力保持を得るために、若しくは弱すぎる圧力においては非常に急勾配の上昇勾配を得るために、制御増幅が強められる。
【0059】
図4には、相応の調整範囲を有するPCA調整中のホイールのホイール速度変化が示されている。この場合、特徴的なことは、連続的な勾配変化を有する圧力勾配制限が、所定のホイールスリップ限界を上回るか若しくは下回る際のホイール減速度および急激な勾配適合に依存しているということである。
【0060】
最後に、「有する」、「含有する」等の用語は、その他の部材またはステップを除外するものではなく、また「1」または「1つの」の用語は、複数を除外するものではない、ということを指摘しておく。請求項の符号は、これに限定されないとみなされるべきである。
【符号の説明】
【0061】
100 ブレーキシステム
102 車両
104 調節ユニット
106 初期圧力値
108 処理規定
110 初期制御値
112 ブレーキ圧
114 初期圧力
116 マスタブレーキシリンダ
118 圧力センサ
120 弁ブロック
122 制御信号
124 弁駆動装置
126 目標値
128 センサ
130 回転数値
132 ガバナ
134 修正ファクタ
200 ブレーキ圧変化
202 初期圧力変化
204 限界圧力
206 ABS制御圧
300 初期制御変化
400 ホイール回転数変化
402 ホイール回転数、スリップ
404 論理状態変化
406 スリップコリドー
p 圧力
t 時間
t0,t1 時点
図1
図2
図3
図4