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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】がん転移阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/403 20060101AFI20220815BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220815BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220815BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
A61K31/403
A61P35/00
A61P43/00 112
A61P35/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018521010
(86)(22)【出願日】2017-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2017020569
(87)【国際公開番号】W WO2017209272
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-06-01
(31)【優先権主張番号】62/345,028
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518207926
【氏名又は名称】村田 幸久
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】村田 幸久
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸司
(72)【発明者】
【氏名】大森 啓介
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02388540(GB,A)
【文献】特表2009-504574(JP,A)
【文献】特表2013-500979(JP,A)
【文献】国際公開第2014/144865(WO,A1)
【文献】特開2013-082729(JP,A)
【文献】特表2009-538289(JP,A)
【文献】特表2014-517041(JP,A)
【文献】国際公開第2008/122787(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/033069(WO,A1)
【文献】特表2013-501791(JP,A)
【文献】TORRES, D. et al.,Prostaglandin D2 Inhibits the Production of IFN-gamma by Invariant NK T Cells: Consequences in the C,J. Immunol.,2008年,Vol. 180,pp. 783-792
【文献】Clin Exp Metastasis,2006年,Vol.23,pp.41-53
【文献】Journal of Oral and Maxillofacial Surgery,2015年,Vol.73,No.9,Supp.1,pp e3-4
【文献】Journal of the National Cancer Institue,1980年,Vol.64,No.4,pp.891-900
【文献】大阪大学歯学雑誌,1985年,Vol.30,No.1,pp.87-109
【文献】Family Practice Research Journal,1991年,Vol.11,No.4,pp.363-370
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマトロバンおよび/またはその薬学的に許容される塩であるCRTH2阻害剤を有効成分とする、がん転移又は再発抑制剤。
【請求項2】
がん転移又は再発抑制に使用するための、ラマトロバンおよび/またはその薬学的に許容される塩であるCRTH2阻害剤を含む、医薬組成物
【請求項3】
がん転移又は再発抑制剤の製造におけるラマトロバンおよび/またはその薬学的に許容される塩であるCRTH2阻害剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん転移阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
無秩序に増殖して他臓器へ転移していくがんは、多くの命を奪う。特に、転移又は再発したがんの予後は不良である。がんの増殖を抑える薬剤(抗がん剤)は多く開発されてきたが、最も重要ながんの転移を抑える、もしくはがんの再発を抑える薬剤の開発は進んでいない。
【0003】
がんの発生や血中循環は、健常者でも観察されるが、健常者では、免疫系による正常な炎症活性がこれを抑えており、発がんや転移はおこらない。一方、がん患者では、異物に対する免疫を抑制する機構(“免疫チェックポイント”)が働いてがんに対する炎症反応が低下するため、発がんや転移を抑制することができない。つまり、がんの悪性化は“宿主の炎症活性の低下”に大きく依存しており、それを抑えるにはがんに対する宿主の炎症活性を規定する上記の機構の存在と仕組みを明らかにして、治療へ応用する必要がある。
【0004】
脂質メディエータの1つであるプロスタグランジンD2(PGD2)は、PG類の共通中間体であるPGH2からPGD2への異性化を触媒するPGD合成酵素(PGDS)により産生される。PGDSには、リポカリン型PGDS(lipocalin-type PGDS: L-PGDS)と造血器型PGDS(hematopoietic PGDS: H-PGDS)の2種類が存在する。これら2種類の酵素は、同じ反応を触媒するにもかかわらず、アミノ酸配列に相同性が認められず組織分布や細胞局在にも違いが認められる。それぞれの酵素で産生されたPGD2は、DP(D prostanoid receptor)及びCRTH2(Chemoattractant receptor-homologous molecule on Th2 cells)(非特許文献1)の2種類の受容体に作用して、種々の生理機能に関与している(L-PGDS及びH-PGDSの機能については非特許文献2などの総説を参照のこと)。
【0005】
H-PGDSにより合成されるPGD2がアレルギー反応の進展に密接に関与していることが示唆されている。また抗アレルギー薬であるHQL-79が、PGD2の産生抑制作用、及びH-PGDS阻害作用を有していることが報告されている(非特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. Exp. Med., 193, pp.255-261, 2001
【文献】Folia Pharmacol. Jpn., 123, pp.5-13, 2004
【文献】Jpn. J. Pharmacol., 78, pp.1-10, 1998
【文献】Jpn. J. Pharmacol., 78, pp.11-22, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、脂質メディエータの1つであるプロスタグランジンD2(PGD2)の病態生理作用に注目して研究を行い、PGD2が強力な炎症抑制物質であることを証明してきた。他の多くのPG類が炎症を促進する一方で、PGD2の抑制作用は大変ユニークなものである。本発明者は、続く研究の中で、PGD2合成酵素やPGD2受容体の欠損マウスや、PGD2合成酵素又はPGD2受容体の阻害剤の投与により、がんの転移が強く抑えられることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、以下を提供する。
〔1〕CRTH2阻害剤を有効成分とする、がん転移又は再発抑制剤。
〔2〕造血器型プロスタグランジンD合成酵素阻害剤を有効成分とする、がん転移又は再発抑制剤。
〔3〕〔1〕又は〔2〕記載のがん転移又は再発抑制剤を含有する、がん治療薬。
〔4〕さらに抗がん剤を含有する、〔3〕記載のがん治療薬。
〔5〕がん転移又は再発抑制に使用するための、CRTH2阻害剤。
〔6〕がん転移又は再発抑制に使用するための、造血器型プロスタグランジンD合成酵素阻害剤。
〔7〕〔5〕記載のCRTH2阻害剤、又は〔6〕記載の造血器型プロスタグランジンD合成酵素阻害剤を含有する、がん治療薬。
〔8〕さらに抗がん剤を含有する、〔7〕記載のがん治療薬。
〔9〕がん転移又は再発抑制剤の製造におけるCRTH2阻害剤の使用。
〔10〕がん治療薬の製造におけるCRTH2阻害剤の使用。
〔11〕前記がん治療薬がさらに抗がん剤を含有する、〔10〕記載の使用。
〔12〕がん転移又は再発抑制剤の製造における造血器型プロスタグランジンD合成酵素阻害剤の使用。
〔13〕がん治療薬の製造における造血器型プロスタグランジンD合成酵素阻害剤の使用。
〔14〕前記がん治療薬がさらに抗がん剤を含有する、〔13〕記載の使用。
〔15〕がんの治療方法であって、それを必要とする対象にCRTH2阻害剤を有効量で投与することを含む、方法。
〔16〕前記がんの治療が、がんの転移もしくは再発の防止、又は転移がんもしくは再発がんの増殖抑制である、〔15〕記載の方法。
〔17〕前記CRTH2阻害剤と抗がん剤を投与することを含む、〔15〕記載の方法。
〔18〕がんの治療方法であって、それを必要とする対象に造血器型プロスタグランジンD合成酵素阻害剤を有効量で投与することを含む、方法。
〔19〕前記がんの治療が、がんの転移もしくは再発の防止、又は転移がんもしくは再発がんの増殖抑制である、〔18〕記載の方法。
〔20〕前記造血器型プロスタグランジンD合成酵素阻害剤と抗がん剤を投与することを含む、〔18〕記載の方法。
〔21〕がん治療剤の選択方法であって、
CRTH2を発現する細胞に試験物質を投与すること;及び
該試験物質の、プロスタグランジンD2によるCRTH2活性化の阻害作用を測定すること;
を含む、方法。
〔22〕がん治療剤の選択方法であって、
造血器型プロスタグランジンD合成酵素を発現する細胞に試験物質を投与すること;及び
該試験物質の、造血器型プロスタグランジンD合成酵素の発現又は活性阻害作用を測定すること;
を含む、方法。
〔23〕前記がん治療剤が、がん転移又は再発抑制剤である、〔21〕又は〔22〕記載の方法。
〔24〕前記試験物質が抗体である、〔21〕~〔23〕のいずれか1項記載の方法。
【0009】
好ましい実施形態において、前記CRTH2阻害剤は、抗CRTH2抗体、ならびに後述の(1)~(119)で示される化合物及びこれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0010】
好ましい実施形態において、前記造血器型プロスタグランジンD合成酵素阻害剤は、HQL-79、TFC-007、及び造血器型プロスタグランジンD合成酵素に対する抗体からなる群より選択される少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のH-PGDS阻害剤及びCRTH2阻害剤は、がんの転移又は再発を抑制し、がんを治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】H-PGDS-/-マウスにおけるメラノーマ転移抑制。A:転移がんを有する肺の写真、B:肺における転移がんコロニー数。WT:野生型、H-PGDS-/-:H-PGDS遺伝子欠損マウス、L-PGDS-/-:L-PGDS遺伝子欠損マウス。*:p=0.0019、N.S.:non-significant(Student’s t-test、n=9-24)。
図2】H-PGDS-/-マウスにおける肺がん転移抑制。A:転移がんを有する肺の写真、B:肺における転移がんコロニー数。WT:野生型、H-PGDS-/-:H-PGDS遺伝子欠損マウス。*:p=0.031(Student’s t-test、n=6-7)。
図3】H-PGDS阻害剤HQL-79によるがん転移抑制。図は肺における転移がんコロニー数を示す。CMC:溶媒(CMC)投与群、HQL:HQL-79投与群。
図4】H-PGDS-/-由来骨髄移植によるがん転移抑制。図は肺における転移がんコロニー数を示す。WT:野生型、H-PGDS-/-:H-PGDS遺伝子欠損マウス、*:p<0.05(One-way ANOVA、n=10-20)。
図5】肺組織切片の免疫染色像。左:組織マーカーによる染色像、中央:H-PGDS染色像、右:マージ像。
図6】CRTH2-/-マウスにおけるメラノーマ転移抑制。A:転移がんを有する肺の写真、B:肺における転移がんコロニー数。WT:野生型、DP-/-:DP遺伝子欠損マウス、CRTH2-/-:CRTH2遺伝子欠損マウス。
図7】CRTH2阻害剤ラマトロバンによるがん転移抑制。図は肺における転移がんコロニー数を示す。CMC:溶媒(CMC)投与群、Rama:ラマトロバン投与群。
図8】CRTH2-/-由来骨髄移植によるがん転移抑制。図は肺における転移がんコロニー数を示す。*:p<0.05(Student’s t-test、n=8-9)。
図9】CRTH2-/-マウスにおける肺がん転移抑制。図は肺における転移がんコロニー数を示す。WT:野生型、CRTH2-/-:CRTH2遺伝子欠損マウス。*:p=0.0383(Student’s t-test、n=9-10)。
図10】肺がん移植マウスにおける原発がんの腫瘍サイズ。WT:野生型、CRTH2-/-:CRTH2遺伝子欠損マウス。
図11】マウスにおけるサイトカイン発現レベル。WT:野生型、H-PGDS-/-:H-PGDS遺伝子欠損マウス、CRTH2-/-:CRTH2遺伝子欠損マウス。エラーバー=標準誤差(n=4-8)。
図12】抗IFN-γ抗体の投与によるがん転移抑制の解除。図は肺における転移がんコロニー数を示す。WT:野生型、CRTH2-/-:CRTH2遺伝子欠損マウス、*:p<0.05、N.S.:non-significant(Student’s t-test、n=7-12)。
図13】CD45陽性IFN-γ産生細胞のフローサイトメトリー。
図14】抗Gr-1抗体投与によるがん転移の促進。図は肺における転移がんコロニー数を示す。*:p<0.05(Student’s t-test、n=4-5)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の本明細書に引用されている文献、特許出願及びその他の刊行物は、あたかもそれが本明細書に完全に記載されているかのように参考として援用される。
【0014】
造血器型プロスタグランジンD合成酵素(H-PGDS)は、プロスタグランジンD2(PGD2)合成酵素の1つであり、PGH2からPGD2への異性化を触媒する。H-PGDSにより合成されるPGD2がアレルギー反応の進展に密接に関与していることが示唆されている。ヒト由来H-PGDSはグルタチオンS転移酵素(GST)のスーパーファミリーに属し、アミノ酸残基数198個、分子量23,300、グルタチオン(GSH)要求性(Km=300μM)酵素で、ダイマーとして機能することが知られている。ラット由来H-PGDSの3次元立体構造が解析されており、モノマー構造は4本のβストランドと3本のαヘリックスで構成されるN末端側ドメインと、5本のαヘリックスで構成されるC末端側ドメインの2つのドメインからなり、全体構造は他のGSTと類似しているが、活性に関与するTrp104の側鎖の配向が他のGSTの構造にはない特徴を有することが報告されている(Cell, 90、pp.1085-1095, 1997)。
【0015】
CRTH2(Chemoattractant receptor-homologous molecule on Th2 cells)は、PGD2の受容体の1つであり、DP2又はGPR44とも称される。CRTH2は、GiタイプのG蛋白に共役する受容体(GPCR)に分類され、その活性化は細胞内cAMPの濃度を低下させる。CRTH2がT細胞を代表とする免疫細胞に多く発現しており、これらの細胞のPGD2に対する走化性を仲介することが報告されている。PGD2-CRTH2シグナルは、アレルギー性炎症に重要な役割を果たすと考えられている。
【0016】
本明細書において、がんの「転移」とは、がん細胞がリンパ節や他の臓器に移動し、そこで増殖することをいう。本明細書において、がんの「再発」とは、生体からがんを摘出して一定期間経過した後、同じ部位にがんが再現する場合、及びがんが転移した場合を含む。「転移性のがん」とは転移しているか又はその可能性があるがんをいう。
【0017】
本発明の対象となる「がん」の種類は特に限定されないが、例えば、肺がん、前立腺がん、膵がん、胆道がん、乳がん、メラノーマ等が挙げられ、好ましくは肺がんである。本発明の対象となる「がん」は、原発がんであっても、転移がん又は再発がんであってもよい。
【0018】
H-PGDS又はCRTH2の阻害によって、腫瘍転移が抑制された。このH-PGDS又はCRTH2阻害による腫瘍転移抑制作用におけるインターフェロンγの関与が見出された(後述の実施例を参照)。これらは、H-PGDS-PGD2-CRTH2経路を介した腫瘍転移抑制機構が、体内での細胞性免疫(Th1型)の増強、及び細胞性免疫(Th1型)と液性免疫(Th2型)のバランスの改善に基づくことを示唆している。
【0019】
したがって、PGD2は、がんの転移刺激に反応して産生され、がんに対する宿主の炎症・免疫活性を規定する新しい分子として有望であることが見出された。本発見は、PGD2産生阻害やシグナル阻害のがん再発防止又は転移阻害剤の開発につながるものである。本発明によれば、H-PGDS阻害剤及びCRTH2阻害剤により、がん細胞の周辺に存在する微小環境構成細胞を制御することで、癌細胞の転移及び微小がんを抑制することができる。また、これらのH-PGDS阻害剤及びCRTH2阻害剤を公知の抗がん剤と併用することで、抗がん剤の抗がん効果を高めることが期待される。H-PGDS-CRTH2シグナル阻害は、転移性のがんに特に有効であると考えられる。
【0020】
したがって、本発明は、がん転移又は再発抑制剤を提供する。一実施形態において、本発明のがん転移又は再発抑制剤は、CRTH2阻害剤を有効成分として含有する。別の一実施形態において、本発明のがん転移又は再発抑制剤は、H-PGDS阻害剤を有効成分として含有する。
【0021】
また本発明は、がん転移又は再発抑制剤の製造におけるCRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤の使用を提供する。また本発明は、がん転移又は再発抑制に使用するための、CRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤を提供する。
【0022】
CRTH2阻害剤の例としては、ラマトロバン、CAY10471、ならびに特許第4313819号公報、特許第5629403号公報、特表2009-511591号公報、特表2009-533473号公報、特許第5278318号公報、特表2009-544721号公報、及び特表2014-507449号公報のいずれかに記載の化合物が挙げられる。一般式として記載された化合物又は具体的に開示された化合物を含めて、上記の各特許文献の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。
【0023】
CRTH2阻害剤のより具体的な例としては、以下の化合物が挙げられる:
(1) ラマトロバン((+)-(3R)-3-[[(4-フルオロフェニル)スルホニル]アミノ]-1,2,3,4-テトラヒドロ-9H-カルバゾール-9-プロパン酸、CAS16649-85-5);
(2) 4-(3-{3-〔3-(ジフェニルメチル)-6-オキソピリダジン-1(6H)-イル〕プロピル}フェノキシ)ブタン酸;
(3) 1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メチル-ピリミジン-4-イル}-ピロリジン-3-カルボン酸;
(4) 2-(1-{2-メトキシ-6-[2-(4-トリフルオロメトキシ-フェニル)-エチルアミノ]-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-イル)-2-メチル-プロピオン酸;
(5) 2-[3-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-5-(1-ヒドロキシ-1-メチル-エチル)-フェニル]-プロパン-2-オール;
(6) [6-(3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル]-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチル]-アミン;
(7) [6-(4-アミノ-ピペリジン-1-イル)-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル]-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチル]-アミン;
(8) N-(1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-4-イル)-アセトアミド;
(9) 5-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-1-メチル-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸;
(10) 2-メチル-プロパン-2-スルホン酸[2-(3-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-フェニル)-2-メチル-プロピオニル]-アミド;
(11) N,N-ジメチルアミド-2-スルホン酸[2-(3-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-フェニル)-2-メチル-プロピオニル]-アミド;
(12) 2-(3-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-フェニル)-2-メチル-1-チオモルホリン-4-イル-プロパン-1-オン;
(13) 2-(3-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-フェニル)-イソブチルアミド;
(14) 2-(3-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-フェニル)-N,N-ジメチル-イソブチルアミド;
(15) (1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-イル)-酢酸;
(16) 1-{2-メトキシ-6-[2-(4-トリフルオロメトキシ-フェニル)-エチルアミノ]-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-カルボン酸;
(17) N-(1-{2-メトキシ-6-[2-(4-トリフルオロメトキシ-フェニル)-エチルアミノ]-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-カルボニル)-メタンスルホンアミド;
(18) 5-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-1-メチル-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸エチルエステル;
(19) (1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-イル)-酢酸エチルエステル;
(20) N-(1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-カルボニル)-メタンスルホンアミド;
(21) エタンスルホン酸(1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-カルボニル)-アミド;
(22) 2-メチル-プロパン-2-スルホン酸(1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-カルボニル)-アミド;
(23) N-(1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-カルボニル)-C,C,C-トリフルオロ-メタンスルホンアミド;
(24) 1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-カルボン酸(1H-テトラゾール-5-イル)-アミド;
(25) 1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-カルボン酸アミド;
(26) 1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-カルボン酸ジメチルアミド;
(27) N,N-ジメチルアミド-2-スルホン酸 1-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-ピペリジン-3-カルボキシアミド;
(28) 5-{2-メトキシ-6-[2-(4-トリフルオロメトキシ-フェニル)-エチルアミノ]-ピリミジン-4-イル}-チオフェン-2-カルボン酸;
(29) 5-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-2,3-ジヒドロ-ベンゾフラン-2-カルボン酸;
【0024】
(30) 2-(3-{6-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルアミノ]-2-メトキシ-ピリミジン-4-イル}-フェニル)-2-メチル-プロピオン酸;
【0025】
(31) 4-{シクロプロピル[cis,cis-4-{[4-(トリフルオロメトキシ)フェニル]カルボニル}-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-1H-シクロペンタ[b]キノリン-9-イル]アミノ}-4-オキソブタン酸;
(32) 4-[シクロプロピル[cis,cis-7-フルオロ-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-4-[4-(トリフルオロメトキシ)ベンゾイル]-1H-シクロペンタ[b]キノリン-9-イル]アミノ]-4-オキソブタン酸;
(33) 4-[[cis,cis-6-クロロ-7-フルオロ-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-4-[4-(トリフルオロメトキシ)ベンゾイル]-1H-シクロペンタ[b]キノリン-9-イル]シクロプロピルアミノ]-4-オキソブタン酸;
(34) 4-[シクロプロピル[cis,cis-5-フルオロ-1,2,2a,3,8,8a-ヘキサヒドロ-3-[4-(トリフルオロメトキシ)ベンゾイル]シクロブタ[b]キノリン-8-イル]アミノ]-4-オキソブタン酸;
(35) 4-[シクロプロピル[cis,cis-6-フルオロ-1,2,2a,3,8,8a-ヘキサヒドロ-3-[4-(トリフルオロメトキシ)ベンゾイル]シクロブタ[b]キノリン-8-イル]アミノ]-4-オキソブタン酸;
(36) (cis,cis)-8-[(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)シクロプロピルアミノ]-5-クロロ-2,2a,8,8a-テトラヒドロシクロブタ[b]キノリン-3(1H)-カルボン酸3-(フェニルメチル);
(37) (cis,cis)-8-[(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)シクロプロピルアミノ]-2,2a,8,8a-テトラヒドロシクロブタ[b]キノリン-3(1H)-カルボン酸3-(フェニルメチル);
(38) 4-[シクロプロピル[cis,cis-1,2,2a,3,8,8a-ヘキサヒドロ-3-[4-(トリフルオロメトキシ)ベンゾイル]シクロブタ[b]キノリン-8-イル]アミノ]-4-オキソブタン酸;
(39) [[[シクロプロピル[cis,cis-3-(3,4-ジフルオロベンゾイル)-1,2,2a,3,8,8a-ヘキサヒドロシクロブタ[b]キノリン-8-イル]アミノ]カルボニル]オキシ]酢酸;
(40) cis,cis-8-[(3-カルボキシプロピル)シクロプロピルアミノ]-5-フルオロ-2,2a,8,8a-テトラヒドロシクロブタ[b]キノリン-3(1H)-カルボン酸3-(フェニルメチル);
(41) 4-[シクロプロピル[cis,cis-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-4-[4-(トリフルオロメトキシ)ベンゾイル]-1H-シクロペンタ[b]キノリン-9-イル]アミノ]ブタン酸;
(42) 4-[シクロプロピル[cis,cis-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-4-[4-[(トリフルオロメチル)チオ]ベンゾイル]-1H-シクロペンタ[b]キノリン-9-イル]アミノ]-4-オキソブタン酸;
(43) (R)-1-((cis,cis-3-(ベンジルオキシカルボニル)-5,6-ジフルオロ-1,2,2a,3,8,8a-ヘキサヒドロシクロブタ[b]キノリン-8-イル)(シクロプロピル)カルバモイル)アゼチジン-2-カルボン酸;
(44) 4-(シクロプロピル(cis,cis-3-(4-((トリフルオロメチル)チオ)ベンゾイル)-1,2,2a,3,8,8a-ヘキサヒドロシクロブタ[b]キノリン-8-イル)アミノ)-4-オキソブタン酸;
(45) 4-(エチル(cis,cis-6-フルオロ-3-(4-((トリフルオロメチル)チオ)ベンゾイル)-1,2,2a,3,8,8a-ヘキサヒドロシクロブタ[b]キノリン-8-イル)アミノ)-4-オキソブタン酸;
(46) 4-(エチル(cis,cis-7-フルオロ-4-(4-((トリフルオロメチル)チオ)ベンゾイル)-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-1H-シクロペンタ[b]キノリン-9-イル)アミノ)-4-オキソブタン酸;
(47) 4-(シクロプロピル(cis,cis-7-フルオロ-4-(4-((トリフルオロメチル)チオ)ベンゾイル)-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-1H-シクロペンタ[b]キノリン-9-イル)アミノ)-4-オキソブタン酸;
(48) 4-(シクロプロピル(cis,cis-7-フルオロ-4-(4-(トリフルオロメトキシ)ベンゾイル)-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-1H-シクロペンタ[b]キノリン-9-イル)アミノ)ブタン酸;
【0026】
(49) {3-[1-(4-クロロ-フェニル)-エチル]-5-フルオロ-2-メチル-インドール-1-イル}-酢酸;
(50) {5-フルオロ-2-メチル-3-[1-(4-トリフロロメチル-フェニル)-エチル]-インドール-1-イル}-酢酸;
(51) {3-[1-(4-tert-ブチル-フェニル)-エチル]-5-フルオロ-2-メチル-インドール-1-イル}-酢酸;
(52) {5-フルオロ-3-[1-(4-メタンスルフォニル-フェニル)-エチル]-2-メチル-インドール-1-イル}-酢酸;
(53) [5-フルオロ-2-メチル-3-(1-ナフタレン-2-イル-エチル)-インドール-1-イル]-酢酸;
(54) (5-フルオロ-2-メチル-3-キノリン-2-イルメチル-インドール-1-イル)-酢酸;
(55) (5-フルオロ-2-メチル-3-ナフタレン-2-イルメチル-インドール-1-イル)-酢酸;
(56) [5-フルオロ-3-(8-ヒドロキシ-キノリン-2-イルメチル)-2-メチル-インドール-1-イル]-酢酸;
(57) (5-フルオロ-2-メチル-3-キノキサリン-2-イルメチル-インドール-1-イル)-酢酸;
(58) [5-フルオロ-3-(4-メトキシ-ベンジル)-2-メチル-インドール-1-イル]-酢酸;
(59) (5-フルオロ-2-メチル-3-チアゾール-2-イルメチル-インドール-1-イル)-酢酸エチルエステル;
(60) [3-(4-クロロ-ベンジル)-5-フルオロ-2-メチル-インドール-1-イル]-酢酸;
(61) [5-フルオロ-2-メチル-3-(4-トリフロロメチル-ベンジル)-インドール-1-イル]-酢酸;
(62) [5-フルオロ-2-メチル-3-(4-tert-ブチル-ベンジル)-インドール-1-イル]-酢酸;
(63) (3-ビフェニル-4-イルメチル-5-フルオロ-2-メチル-インドール-1-イル)-酢酸;
(64) [5-フルオロ-3-(4-メタンスルフォニル-ベンジル)-2-メチル-インドール-1-イル]-酢酸;
(65) [5-フルオロ-3-(6-フルオロ-キノリン-2-イルメチル)-2-メチル-インドール-1-イル]-酢酸;
(66) (2-メチル-3-キノリン-2-イルメチル-インドール-1-イル)-酢酸;
(67) (5-クロロ-2-メチル-3-キノリン-2-イルメチル-インドール-1-イル)-酢酸;
【0027】
(68) {2-[4-クロロ-3-(2,6-ジクロロ-ベンジルスルファモイル)-フェニル]-1H-インドール-3-イル}-酢酸;
(69) {2-[4-クロロ-3-(3,5-ジクロロ-ベンジルスルファモイル)-フェニル]-1H-インドール-3-イル}-酢酸;
(70) (2-{4-クロロ-3-[2-(2,4-ジクロロ-フェニル)-エチルスルファモイル]-フェニル}-1H-インドール-3-イル)-酢酸;
(71) (2-{4-クロロ-3-[2-(2-メトキシ-フェニル)-エチルスルファモイル]-フェニル}-1H-インドール-3-イル)-酢酸;
(72) (2-{4-クロロ-3-[2-(3-メトキシ-フェニル)-エチルスルファモイル]-フェニル}-1H-インドール-3-イル)-酢酸;
(73) (2-{4-クロロ-3-[2-(4-メトキシ-フェニル)-エチルスルファモイル]-フェニル}-1H-インドール-3-イル)-酢酸;
(74) (2-{4-クロロ-3-[2-(2-トリフルオロメトキシ-フェニル)-エチルスルファモイル]-フェニル}-1H-インドール-3-イル)-酢酸;
(75) [2-(4-クロロ-3-フェネチルスルファモイル-フェニル)-1H-インドール-3-イル]-酢酸;
(76) {2-[4-クロロ-3-(3-フェニル-プロピルスルファモイル)-フェニル]-1H-インドール-3-イル}-酢酸;
(77) 2-[2-(4-クロロ-3-シクロヘキシルスルファモイル-フェニル)-1H-インドール-3-イル]-N-メチル-アセトアミド;
(78) [4-クロロ-2-(4-クロロ-3-シクロヘキシルスルファモイル-フェニル)-1H-インドール-3-イル]-酢酸;
(79) [4-クロロ-2-(4-クロロ-3-シクロヘキシルスルファモイル-フェニル)-1H-インドール-3-イル]-酢酸カリウム;
(80) [2-(4-クロロ-3-シクロヘキシルスルファモイル-フェニル)-4-フルオロ-1H-インドール-3-イル]-酢酸;
(81) [2-(4-クロロ-3-シクロヘキシルスルファモイル-フェニル)-4-メチル-1H-インドール-3-イル]-酢酸;
(82) [7-クロロ-2-(4-クロロ-3-シクロヘキシルスルファモイル-フェニル)-1H-インドール-3-イル]-酢酸;
(83) 2-クロロ-N-シクロヘキシル-5-[3-(2-メタンスルホニルアミノ-2-オキソ-エチル)-1H-インドール-2-イル]-ベンゼンスルホンアミド;
(84) 2-クロロ-N-シクロヘキシル-5-[3-(2-エタンスルホニルアミノ-2-オキソ-エチル)-1H-インドール-2-イル]-ベンゼンスルホンアミド;
(85) 2-クロロ-N-シクロヘキシル-5-[3-(2-オキソ-2-トリフルオロメタンスルホニルアミノ-エチル)-1H-インドール-2-イル]-ベンゼンスルホンアミド;
(86) 2-[2-(4-クロロ-3-シクロヘキシルスルファモイル-フェニル)-1H-インドール-3-イル]-N-(1H-テトラゾール-5-イル)-アセトアミド;
(87) [2-(3-シクロヘキシルスルファモイル-4-エチル-フェニル)-1H-インドール-3-イル]-酢酸;
(88) 2-[2-(4-クロロ-3-シクロヘキシルスルファモイル-フェニル)-1H-インドール-3-イル]-プロピオン酸;
(89) {2-[4-クロロ-3-(3-クロロ-フェニルメタンスルホニル)-フェニル]-1H-インドール-3-イル}-酢酸;
(90) {2-[4-クロロ-3-(3-クロロ-フェニルメタンスルホニルアミノ)-フェニル]-1H-インドール-3-イル}-酢酸;
及び
(91)(5-フルオロ-2-メチル-3-キノリン-2-イルメチル-インドール-1-イル)-酢酸;
【0028】
【化1】
【0029】
【化2】
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
【化5】
【0033】
【化6】
【0034】
【化7】
【0035】
【化8】
【0036】
【化9】
【0037】
【化10】
【0038】
上記に例示したCRTH2阻害剤は、遊離形態の化合物であってもよく、又はその薬学的に許容されるその塩、水和物もしくは溶媒和物などの形態であってもよい。あるいは、該化合物に立体異性体が存在する場合には、該化合物のエナンチオマー又はジアステレオマーなどの純粋な形態の立体異性体のほか、ラセミ体や任意の立体異性体の混合物を、本発明でCRTH2阻害剤として用いることができる。
【0039】
あるいは、CRTH2阻害剤としては、CRTH2に対する抗体(抗CRTH2抗体)が挙げられる。さらに、CRTH2 mRNAに対するsiRNAなどもCRTH2阻害剤の一例である。
【0040】
上記に例示したCRTH2阻害剤は、いずれか単独で、又はいずれか2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、本発明で用いられるCRTH2阻害剤は、抗CRTH2抗体、ならびに上記(1)~(119)で示される化合物及びこれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される1種以上である。もっとも、本発明で用いられるCRTH2阻害剤は、上記に例示したものに限定されない。
【0041】
CRTH2阻害剤は、市販のものを使用することができる。例えば、上記(1)~(119)で示される化合物は、Cayman Chemical、LKT Laboratories,Inc.等から購入することができる。
【0042】
H-PGDS阻害剤の例としては、例えば、特開平7-70112号公報に記載された一般式(1)で表されるテトラゾール誘導体等を用いることができる。好ましいH-PGDS阻害剤の例としては、HQL-79(特開平9-70112号公報、1-[3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロピル]-4-(ベンズヒドリルオキシ)ピペリジン)、及びTFC-007(N-(4-(4-(モルホリン-4-カルボニル)ピペリジン-1-イル)フェニル)-2-フェノキシピリミジン-5-カルボキサミド)が挙げられる。さらなるH-PGDS阻害剤の例としては、SAR News, No.10, pp.2-6, 2006のFig.4に記載されたBSPT、CBB、PGD-042などを挙げることができる。さらに、H-PGDSに対する特異的阻害剤は、例えば、国際公開WO2005/094805、国際公開WO2007/041634、国際公開WO2007/007778、特開2007-051121号公報、国際公開WO2008/075172、国際公開WO2008/104869、国際公開WO2008/121670、国際公開WO2008/122787、国際公開WO2009/153720、国際公開WO2009/153721、国際公開WO2010/033977、及び国際公開WO2010/104024などにも記載されており、これらの刊行物に一般式として記載された化合物又は具体的に開示された化合物を用いてもよい。一般式として記載された化合物又は具体的に開示された化合物を含めて上記の各特許文献の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。
【0043】
上記に例示したH-PGDS阻害剤は、遊離形態の化合物であってもよく、又はその薬学的に許容されるその塩、水和物もしくは溶媒和物などの形態であってもよい。あるいは、該化合物に立体異性体が存在する場合には、該化合物のエナンチオマー又はジアステレオマーなどの純粋な形態の立体異性体のほか、ラセミ体や任意の立体異性体の混合物を、本発明でH-PGDS阻害剤として用いることができる。
【0044】
さらなるH-PGDS阻害剤の例としては、造血器型プロスタグランジンD合成酵素に対する抗体(抗H-PGDS抗体)が挙げられる。さらに、H-PGDS mRNAに対するsiRNAなどもH-PGDS阻害剤の一例である。
【0045】
上記に例示したH-PGDS阻害剤は、いずれか単独で、又はいずれか2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、本発明で用いられるH-PGDS阻害剤は、HQL-79、TFC-007、及び抗H-PGDS抗体からなる群より選択される1種以上である。もっとも、本発明で用いられるH-PGDS阻害剤は、上記に例示したものに限定されない。
【0046】
H-PGDS阻害剤は、市販のものを使用することができる。例えば、HQL-79は、Cayman Chemical等から購入することができる。
【0047】
本発明のがん転移又は再発抑制剤の有効成分である上記CRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤は、がんの治療を受けた後、又は受けている最中の患者における、がんの転移又は再発を防止するために使用することができる。例えば、当該CRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤は、がん治療のための外科手術、放射線療法又は化学療法を受けた後の患者における、がんの転移又は再発を防止するために使用することができる。また例えば、当該CRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤は、放射線療法又は化学療法等を受けているがん患者に使用することができる。本発明において、当該CRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤は、原発がんを有する患者に投与して、該原発がんの転移又は再発を防止するために使用されてもよいが、転移がん又は再発がんを有する患者に投与して、その増殖又は転移を抑制するために使用されてもよい。
【0048】
したがって、本発明はまた、本発明のがん転移又は再発抑制剤を含有するがん治療薬を提供する。言い換えると、本発明のがん治療薬は、上述したCRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤を有効成分として含有する。
【0049】
一実施形態において、本発明のがん治療薬は、放射線療法又は他の化学療法と併用されてもよい。別の一実施形態において、本発明のがん治療薬は、さらに抗がん剤を含有してもよい。当該抗がん剤の例としては、特に限定されることなく公知の抗がん剤を挙げることができる。組み合わせる抗がん剤の種類は、適用するがんの種類や患者の状態に合わせて、当業者が適宜選択することができる。
【0050】
本発明のがん転移又は再発抑制剤、及びがん治療薬(以下、まとめて本発明の医薬と称する)は、有効成分である上述したCRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤からなるものであってもよいが、上述したCRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤を、他の成分とともに含有する医薬組成物であってもよい。
【0051】
本発明の医薬の投与形態は、経口投与および非経口投与の何れであってもよい。該医薬の剤形は、経口または非経口的に投与可能な剤形であれば特に限定されない。経口投与用の剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与用の剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0052】
本発明の医薬は、当業者に周知の方法に従って製造可能である。例えば、医薬組成物を製造する場合、有効成分であるCRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤を、薬学的に許容される担体、他の活性成分等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。薬学的に許容される担体の例としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができるが、これらに限定されない。他の活性成分としては、上述した抗がん剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
本発明の医薬の投与量は特に限定されず、患者の体重、年齢もしくは状態、疾患の種類、予防又は治療の目的、有効成分の種類、投与経路、投与計画など、通常考慮すべき種々の要因に応じて、当業者が適宜決定することができる。例えば、本発明の医薬は、経口投与の場合には成人一日あたり0.01~1,000mg程度の範囲で用いることができるが、投与量は当業者によって適宜選択可能であり、上記の範囲に限定されることはない。
【0054】
本発明の医薬の投与対象としては、ヒト及び非ヒト哺乳動物を挙げることができるが、好ましくはヒトである。これらの投与対象は、がん患者及びがんの既往歴を有する者であり得、より好ましくはがんの転移又は再発抑制を必要とする者である。このような者としては、がん治療のための外科手術、放射線療法もしくは化学療法を受けた後の患者、放射線療法もしくは化学療法等を受けているがん患者、などが挙げられる。がんとしては、原発がんであっても、転移がん又は再発がんであってもよい。
【0055】
さらに本発明は、がんの治療方法であって、それを必要とする対象におけるCRTH2又はH-PGDSの活性を阻害することを含む、方法を提供する。好ましくは、当該本発明の方法におけるがんの治療とは、がんの転移もしくは再発の防止、及び転移がんもしくは再発がんの増殖抑制を包含する。
【0056】
本発明のがんの治療方法において、対象におけるCRTH2又はH-PGDSの活性を阻害する手段としては、該対象への上述したCRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤の投与が挙げられる。したがって好ましくは、本発明は、がんの治療方法であって、それを必要とする対象に本発明の医薬を有効量で投与することを含む、方法を提供する。
【0057】
本発明のがん治療方法で投与される本発明の医薬は、上述したCRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤それ自体であってもよいが、該CRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤を含有する医薬組成物であってもよい。一実施形態において、本発明のがん治療方法においては、本発明の医薬の投与は、放射線療法又は他の化学療法と併用することができる。別の一実施形態において、本発明のがん治療方法は、該CRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤と抗がん剤とを投与することを含み得る。使用可能な抗がん剤の例は、上述したとおりである。本発明の医薬の有効量は、通常考慮すべき種々の要因に応じて、当業者が適宜決定することができる。
【0058】
さらなる態様として、本発明は、CRTH2活性化の阻害作用又はH-PGDSの発現又は活性の阻害作用を指標とした、がん治療剤の選択方法を提供する。一実施形態において、本発明のがん治療剤の選択方法は、CRTH2を発現する細胞に試験物質を投与することと、該試験物質の、PGD2によるCRTH2活性化の阻害作用を測定することとを含む。別の一実施形態において、本発明のがん治療剤の選択方法は、H-PGDSを発現する細胞に試験物質を投与することと、該試験物質の、H-PGDSの発現又は活性阻害作用を測定することとを含む。当該方法は、インビボ方法であってもインビトロ方法であってもよい。
【0059】
CRTH2を発現する細胞としては、Th2細胞や、好酸球、好塩基球などの免疫細胞が挙げられる。H-PGDSを発現する細胞としては、マスト細胞や、樹状細胞、マクロファージ、上皮細胞などが挙げられる。
【0060】
試験物質の種類は、特に限定されず、天然物でも合成物でもよく、また単一物質であっても組成物若しくは混合物であってもよい。細胞に対する試験物質の投与の形態は、該試験物質及びそれを投与する細胞の種類に依存して、任意の形態であり得る。例えば、細胞を培養する培地中に試験物質を添加してもよく、又は培養されている細胞に対して直接試験物質を適用してもよい。あるいは、CRTH2又はH-PGDS発現細胞を有する動物の生体に試験物質を投与してもよい。
【0061】
細胞におけるPGD2によるCRTH2活性化を検出する方法としては、細胞を用いたシグナル活性の評価が挙げられる。例えば、Gi型のGPCRの活性が引き起こす細胞内cAMP濃度低下を検出する方法がある。
【0062】
細胞におけるH-PGDS発現を検出する方法としては、従来のPCR法や、in situ hybridization、抗体を用いた組織免疫染色、FACS(fluorescence activated cell sorting)などが挙げられる。H-PGDSの活性を検出する方法としては、PGD2やその代謝産物の産生量を測定する方法、PGD2の基質となるPGH2の変換効率をラベル体を用いて評価する方法などが挙げられる。
【0063】
検出したCRTH2活性に基づいて、試験物質による該CRTH2活性化の阻害作用を測定する。あるいは、検出したH-PGDSの発現もしくは活性に基づいて、試験物質による該H-PGDS発現又は活性の阻害作用を測定する。好ましい実施形態においては、当該測定は、対照との比較によって行われる。例えば、該試験物質を投与されていないCRTH2又はH-PGDS発現細胞(対照細胞)において、上記と同様の手順でPGD2によるCRTH2活性化、又はH-PGDS発現もしくは活性を検出する。次いで、対照細胞での検出値を基準に、該試験物質のCRTH2活性化、又はH-PGDS発現もしくは活性の阻害作用を測定する。例えば、試験物質を投与した細胞におけるCRTH2活性又はH-PGDS発現もしくは活性についての検出値が対照細胞よりも低いとき、該試験物質は、CRTH2活性化、又はH-PGDS発現もしくは活性の阻害作用を有する。該CRTH2活性化、又はH-PGDS発現もしくは活性の阻害作用を有する試験物質は、CRTH2阻害剤又はH-PGDS阻害剤として機能し得、したがって、がん治療剤の候補として選択され得る。好ましくは、本発明で選択されるがん治療剤は、がん転移又は再発抑制剤である。
【0064】
本発明のがん治療剤の選択方法の好ましい実施形態において、試験物質は抗体である。例えば、試験物質は、任意の抗体のライブラリから選択され、好ましくは抗CRTH2抗体又は抗H-PGDS抗体のライブラリから選択される。これら抗体の中から、上述の本発明による手順で、PGD2によるCRTH2活性化の阻害作用を有する抗CRTH2抗体、又はH-PGDSの活性の阻害作用を有する抗H-PGDS抗体を検出する。検出された抗体は、がん治療剤、好ましくはがん転移又は再発抑制剤の候補として選択することができる。
【実施例
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0066】
〔方法〕
A)試薬
CRTH2阻害剤
ラマトロバン:Cayman Chemical
H-PGDS阻害剤
HQL-79:Cayman Chemical
抗体
抗H-PGDS抗体:Cayman Chemical
抗CD45抗体:Millipore
抗CD31抗体:Biocare Medical
抗E-cadherin抗体:Biolegend
抗IFN-γ抗体:Biolegend
抗Gr-1抗体:Biolegend
【0067】
B)動物
動物にはC57BL/6J系統マウス(8~12週齢)を用いた。H-PGDS遺伝子欠損マウス(H-PGDS-/-)、L-PGDS遺伝子欠損マウス(L-PGDS-/-)、CRTH2遺伝子欠損マウス(CRTH2-/-)、及びDP遺伝子欠損マウス(CRTH2-/-)は、J Immunol 177, pp.2621-2629 (2006)に記載の手順に従って作製した。
【0068】
C)がん細胞の注射
がん細胞としては、B16メラノーマ又はLewis lung carcinoma(LLC)(いずれもRIKEN BRC 細胞材料開発室 -CELL BANK-)を用いた。がん細胞(20万個/100μL)を懸濁した液(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)をマウスの尾静脈に注射した。薬剤投与する場合、CRTH2阻害剤(30 mg/kg)及びH-PGDS阻害剤(50 mg/kg)は、B16メラノーマ注射後14日間、1日2回、0.5%カルボキシメチルセルロース溶液に溶かして腹腔投与した。抗IFN-γ抗体(200μg)は、B16メラノーマ注射3時間後に単回、生理食塩水に溶かして腹腔投与した。抗Gr-1抗体(100μg)は、B16メラノーマ注射前日から2日に2回、14日間生理食塩水に溶かして生理食塩水に溶かして腹腔投与した。がん細胞注射の14日後、マウスを安楽死させ、肺を摘出し、肺葉毎に切り分けたのち、転移がんのコロニー数を実体顕微鏡下で目視によって計数した。原発がんの腫瘍サイズは、楕円球に近似して算出した(腫瘍体積=腫瘍長径×腫瘍短径×短径×π/6)。腫瘍長径及び腫瘍短径は電子ノギスを用いて計測した。
【0069】
D)骨髄移植
ドナーマウスの上腕、大腿もしくは脛骨から骨髄細胞を採取し、γ線照射したレシピエントマウス(3~4週齢)の静脈内に移植した(200万個/100μL)。移植6週間後のレシピエントマウスを実験に用いた。
【0070】
E)免疫染色
摘出した左肺を、4%パラホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝生理食塩水(4℃)に1日浸漬して固定した。固定した組織を、30%スクロースを含む水溶液(4℃)に1日浸して脱水した。その後、OCTコンパウンドを用いて組織を凍結包埋し、クライオスタットを用いて4μmの厚さで薄切して切片標本を作製した。白血球マーカーにCD45、血管内皮マーカーにCD31、上皮マーカーにE-cadherinを用いて、各々のいずれかとH-PGDSについて切片の二重免疫染色を行った。標本を0.05% tritonおよび3% normal donkey serumを含むリン酸緩衝生理食塩水にてブロッキング処理し、一次抗体には、抗CD45ラット抗体(Millipore)、抗CD31ラット抗体(Biocare Medical)、抗E-cadherinラット抗体(Biolegend)、及び抗H-PGDSウサギ抗体(Cayman Chemical)を用いた。二次抗体には蛍光標識抗ラット抗体(Invitrogen)又は抗ウサギ抗体(Invitrogen)を用いた。蛍光観察は、蛍光顕微鏡(Eclipse E800、Nikon)を用いて行った。CD45、CD31、E-cadherin及びH-PGDSについての蛍光は、それぞれ617nm、617nm、617nm、及び525nmで検出した。
【0071】
実施例1 H-PGDS阻害によるがん転移抑制
1)H-PGDS-/-マウスにおけるメラノーマ転移抑制
方法C)に従って、野生型マウス(WT)、H-PGDS-/-マウス、及びL-PGDS-/-マウスにB16メラノーマ(2×10個)を注射し、14日後に肺における転移がんコロニー数を評価した。その結果を図1に示す。図1Aは、典型的な転移がんを有する肺の写真、図1Bは、肺における転移がんコロニー数を示す。H-PGDS遺伝子欠損マウス(H-PGDS-/-)では、野生型に比べて、がん転移が統計学的に有意に減少した(Student’s t-test、p=0.0019、n=9-24)。一方で、L-PGDS遺伝子欠損マウス(L-PGDS-/-)では、がん転移の有意な減少はみられなかった。
【0072】
2)H-PGDS-/-マウスにおける肺がん転移抑制
1)と同様に、Lewis Lung Carcinoma(2×105個)をWTマウスとH-PGDS-/-マウスに注射して、14日後に肺における転移がんコロニー数を評価した。その結果を図2に示す。図2Aは、典型的な転移がんを有する肺の写真、図2Bは、肺における転移がんコロニー数を示す。H-PGDS-/-マウスでは、野生型に比べて、がん転移が統計学的に有意に減少した(Student’s t-test、p=0.031、n=6-7)。
【0073】
3)H-PGDS阻害剤によるがん転移抑制
1)と同様に、WTマウスにB16メラノーマを注射した。マウスを2群に分け、一方にはH-PGDS阻害剤であるHQL-79(50 mg/kg)を、もう一方には溶媒(カルボキシメチルセルロース; CMC)のみを14日間、1日2回腹腔投与した。メラノーマ注射の14日後、肺における転移がんコロニー数を評価した。結果を図3に示す。HQL-79投与群(HQL)では、溶媒のみの投与群(CMC)と比較して、メラノーマの肺転移が統計学的に有意に抑制された(Student’s t-test、p=0.002、n=9-14)。
【0074】
4)H-PGDS-/-由来骨髄移植によるがん転移抑制
骨髄移植マウスに対して、1)と同様にB16メラノーマを注射し、14日後に肺における転移がんコロニー数を評価した。結果を図4に示す。H-PGDS-/-由来の骨髄細胞を有するマウスでは、WT由来の骨髄細胞を有するマウスと比べて、がん転移が統計学的に有意に減少した(One-way ANOVA、p<0.05、n=10-20)。
【0075】
5)がん罹患組織におけるH-PGDS局在
方法E)に従って、WTマウスの肺組織におけるH-PGDS局在を調べた。図5に肺組織切片の免疫染色像を示す。図5左には組織の染色像、図5中央にはH-PGDSの染色像を示す。マージ像(図5右)に示されるとおり、H-PGDSは肺の上皮及び血管内皮に局在していた。
【0076】
実施例2 CRTH2阻害によるがん転移抑制
1)CRTH2-/-マウスにおけるメラノーマ転移抑制
PGD2受容体であるDPとCRTH2の遺伝子欠損マウスを用いて、B16メラノーマの肺転移を評価した。方法C)に従って、WTマウス、CRTH2-/-マウス、及びDP-/-マウスにB16メラノーマ(2×10個)を注射し、14日後に肺における転移がんコロニー数を評価した。結果を図6に示す。図6Aは、典型的な転移がんを有する肺の写真、図6Bは、転移がんコロニー数を示す。DPの遺伝子欠損は肺転移に影響を与えなかったが、CRTH2欠損マウス(CRTH2-/-)では、野生型に比べて、肺へのがん転移が統計学的に有意に減少した(One-way ANOVA、p=0.0058、n=7-12)。
【0077】
2)CRTH2阻害剤によるがん転移抑制
1)と同様の手順でWTマウスにB16メラノーマを注射した。マウスを2群に分け、一方にはCRTH2阻害剤であるラマトロバン(30 mg/kg)を、もう一方には溶媒(CMC)のみを14日間、1日2回腹腔投与した。14日後、肺における転移がんコロニー数を評価した。結果を図7に示す。Ramatroban投与群(Rama)では、溶媒のみの投与群(CMC)と比較して、B16メラノーマの肺転移が抑制された(Student’s t-test、p=0.1233、n=4-14)。
【0078】
3)CRTH2-/-由来骨髄移植によるがん転移抑制
骨髄移植マウスに対して、1)と同様にB16メラノーマを注射し、14日後に肺における転移がんコロニー数を評価した。結果を図8に示す。CRTH2-/-由来の骨髄細胞を有するマウスでは、WT由来の骨髄細胞を有するマウスと比べて、がん転移が統計学的に有意に減少した(Student’s t-test、p<0.05、n=8-9)。
【0079】
4)CRTH2阻害による肺がん転移抑制
1)と同様に、Lewis Lung Carcinoma(2×105個)をWTマウスとCRTH2-/-マウスに注射して、14日後に肺における転移がんコロニー数を評価した。結果を図9に示す。CRTH2-/-マウスでは、野生型に比べて、肺へのがんの転移が統計学的に有意に減少した(Student’s t-test、*:p=0.0383、n=9-10)。
【0080】
5)原発がんサイズ
4)でLewis Lung Carcinomaを注射したWTマウスとCRTH2-/-マウスにおいて、注射したがん細胞による原発がんの腫瘍サイズを測定した。結果を図10に示す。原発がんの腫瘍サイズにはWTマウスとCRTH2-/-マウスの間に違いはなかった。
【0081】
実施例3 IFN-γを介したH-PGDS-CRTH2シグナル阻害によるがん転移抑制
1)サイトカイン発現レベルの定量
H-PGDS-CRTH2シグナル阻害によるがん転移抑制機構を明らかにする目的で、マウスにおけるサイトカイン発現レベルを評価した。方法C)に従って、B16メラノーマ(2×106個)を、WTマウス、CRTH2-/-マウス、及びH-PGDS-/-マウスに注射した。1日後、肺を摘出して、転移に関与するサイトカインのmRNA発現量をrealtime-PCRを用いて定量した。サイトカインとしては、IFN-γ(interferon-γ)、IL-4(interleukin-4)、IL-12(interleukin-12)及びそのサブユニットであるIL-12p35とIL-12p40、TNFα(tumor necrosis factor α)、ならびにiNOS(inducible nitric oxide synthase)を調べた。摘出した肺組織からacid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction法を用いてtotal RNAを抽出した。抽出したRNAから、TaKaRa PCR Thermal Cycler MP TP3000を用いて、逆転写酵素(ReverTra Ace)による逆転写反応を行いcDNAを調製した。realtime-PCRは、Aria Mx Real-Time PCR system(Agilent Technologies)を用いて、添付の説明書に従って行った。内部標準には18rRNA遺伝子を用いた。内部標準に対するサイトカイン遺伝子の相対発現量を求めた。結果を図11に示す。H-PGDS-/-マウスにおいて、IFN-γ遺伝子の統計学的に有意な発現上昇が確認された(One-way ANOVA、p<0.05、n=5-8)。
【0082】
2)IFN-γ抑制によるがん転移抑制の解除
方法C)に従って、WTマウス及びCRTH2-/-マウスに対してB16メラノーマ(2×105個)を注射した。3時間後、それぞれのマウスを2群に分け、一方の群には抗IFN-γ中和抗体(200μg)を、もう一方の群には生理食塩水を腹腔投与した。14日後、肺でのがん転移コロニー数を評価した。結果を図12に示す。抗IFN-γ抗体は、CRTH2-/-マウスにおける肺へのがん転移抑制を解除した(Student’s t-test、p<0.05、n=7-12)。この結果、H-PGDS又はCRTH2遺伝子欠損は、IFN-γの産生を上昇させることで、がん転移を抑えることが明らかとなった。
【0083】
3)IFN-γ産生細胞の抑制によるがん転移促進
肺組織におけるIFN-γ産生細胞を、フローサイトメトリーにより調べた。フローサイトメトリーでは、B16メラノーマを投与して3時間後の肺組織を灌流及び摘出し、2mg/mLのコラゲナーゼを含んだDulbecco’s Modified Eagle’s Medium溶液にて肺組織を37℃で1時間分解処理した。その後、標識抗体で4℃、30分間処理し、BD AccuriTM C6 FlowCytometer(BD Biosciences)にて解析した。結果を図13に示す。肺におけるCD45陽性IFN-γ産生細胞の多くは、CD11b陽性/Gr-1陽性(CD11bGr-1)であった。
【0084】
2)と同様の手順でWTマウスに対してB16メラノーマを注射した。マウスを2群に分け、一方には抗Gr-1抗体(100μg)を、もう一方には生理食塩水を腹腔投与した。14日後、肺における転移がんコロニー数を評価した。結果を図14に示す。抗Gr-1抗体の投与により、がんの転移が促進された(Student’s t-test、p<0.05、n=4-5)。
図1
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