(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】展示・観察用途および透明封入物に特化した封入剤とその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 1/00 20060101AFI20220815BHJP
A01N 3/00 20060101ALI20220815BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20220815BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20220815BHJP
C08K 5/21 20060101ALI20220815BHJP
C08L 5/12 20060101ALI20220815BHJP
C08L 89/00 20060101ALI20220815BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
A01N1/00
A01N3/00
C08K3/20
C08K5/053
C08K5/21
C08L5/12
C08L89/00
C08L101/14
(21)【出願番号】P 2017082870
(22)【出願日】2017-04-19
【審査請求日】2019-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2016083575
(32)【優先日】2016-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511256761
【氏名又は名称】株式会社アクアテイメント
(74)【代理人】
【識別番号】100167416
【氏名又は名称】下田 佳男
(72)【発明者】
【氏名】松前 諭
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-019933(JP,A)
【文献】米国特許第04348424(US,A)
【文献】特開平08-157301(JP,A)
【文献】特許第096149(JP,C2)
【文献】特許第082748(JP,C2)
【文献】特許第072025(JP,C2)
【文献】特表2011-511060(JP,A)
【文献】特開2004-339496(JP,A)
【文献】特開平06-080501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤であって、
水と、グリセロールと、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、
防腐剤としてのチモールと、尿素とからなる封入剤。
【請求項2】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤であって、
水と、グリセロールと、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、
防腐剤としてのチモールと、尿素と、着色剤と、からなる封入剤。
【請求項3】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤であって、
水と、グリセロールと、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、
防腐剤としてのチモールと、尿素と、香料と、からなる封入剤。
【請求項4】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤であって、
水と、グリセロールと、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、
防腐剤としてのチモールと、尿素と、紫外線防止剤と、からなる封入剤。
【請求項5】
前記紫外線防止剤は、紫外線吸収剤及び/又は紫外線散乱剤であることを特徴とする請求項4のいずれかに記載の封入剤。
【請求項6】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤の製造方法であって、
摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤としてのチモールとを加えて撹拌する第一の工程と、
前記第一の工程で生成された前記増粘安定剤と前記防腐剤としてのチモールとの混合液を前記湯煎から取り出し、グリセロールと、尿素とを加えて撹拌する第二の工程と、
前記第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、
前記第三の工程で加温撹拌された液体を濾過する濾過工程と、
前記濾過された液体を熱除去してゲル化する工程と、
からなる封入剤の製造方法。
【請求項7】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤の製造方法であって、
摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤としてのチモールとを加えて撹拌する第一の工程と、
前記第一の工程で生成された前記増粘安定剤と前記防腐剤としてのチモールとの混合液を前記湯煎から取り出し、グリセロールと尿素とを加えて撹拌する第二の工程と、
前記第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、
前記第三の工程で加温撹拌された液体に着色剤を添加する着色工程と、
前記着色工程で着色された液体を濾過する濾過工程と、
前記濾過された液体を熱除去してゲル化する工程と、
からなる封入剤の製造方法。
【請求項8】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤の製造方法であって、
摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤としてのチモールとを加えて撹拌する第一の工程と、
前記第一の工程で生成された前記増粘安定剤と前記防腐剤としてのチモールとの混合液を前記湯煎から取り出し、グリセロールと尿素とを加えて撹拌する第二の工程と、
前記第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、
前記第三の工程で撹拌された液体を濾過する濾過工程と、
前記濾過工程で撹拌された液体に着色剤を添加する着色工程と、
前記着色された液体を熱除去してゲル化する工程と、
からなる封入剤の製造方法。
【請求項9】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤の製造方法であって、
摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤としてのチモールとを加えて撹拌する第一の工程と、
前記第一の工程で生成された前記増粘安定剤と前記防腐剤としてのチモールとの混合液を前記湯煎から取り出し、グリセロールと尿素とを加えて撹拌する第二の工程と、
前記第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、
前記第三の工程で加温撹拌された液体に香料を添加する香料添加工程と、
前記香料添加工程で香料が添加された液体を濾過する濾過工程と、
前記濾過された液体を熱除去してゲル化する工程と、
からなる封入剤の製造方法。
【請求項10】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤の製造方法であって、
摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤としてのチモールとを加えて撹拌する第一の工程と、
前記第一の工程で生成された前記増粘安定剤と前記防腐剤としてのチモールとの混合液を前記湯煎から取り出し、グリセロールと尿素とを加えて撹拌する第二の工程と、
前記第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、
前記第三の工程で撹拌された液体を濾過する濾過工程と、
前記濾過工程で濾過された液体に香料を添加する香料添加工程と、
前記香料が添加された液体を熱除去してゲル化する工程と、
からなる封入剤の製造方法。
【請求項11】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤の製造方法であって、
摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤としてのチモールとを加えて撹拌する第一の工程と、
前記第一の工程で生成された前記増粘安定剤と前記防腐剤としてのチモールとの混合液を前記湯煎から取り出し、グリセロールと尿素とを加えて撹拌する第二の工程と、
前記第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、
前記第三の工程で加温撹拌された液体に紫外線防止剤を添加する紫外線防止剤添加工程と、
前記紫外線防止剤添加工程で紫外線防止剤を添加した液体を濾過する濾過工程と、
前記濾過された液体を熱除去してゲル化する工程と、
からなる封入剤の製造方法。
【請求項12】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤の製造方法であって、
摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤としてのチモールとを加えて撹拌する第一の工程と、
前記第一の工程で生成された前記増粘安定剤と前記防腐剤としてのチモールとの混合液を前記湯煎から取り出し、グリセロールと尿素とを加えて撹拌する第二の工程と、
前記第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、
前記第三の工程で撹拌された液体を濾過する濾過工程と、
前記濾過工程で濾過された液体に紫外線防止剤を添加する紫外線防止剤添加工程と、
前記紫外線防止剤が添加された液体を熱除去してゲル化する工程と、
からなる封入剤の製造方法。
【請求項13】
展示・観察用途に係る透明封入物に収容する封入剤の製造方法であって、
摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤としてのチモールとを加えて撹拌する第一の工程と、
前記第一の工程で生成された前記増粘安定剤と前記防腐剤としてのチモールとの混合液を前記湯煎から取り出し、グリセロールと尿素とを加えて撹拌する第二の工程と、
前記第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、
前記第三の工程で加温撹拌された液体に着色剤を添加する着色工程と、
前記着色工程で着色された液体に香料を添加する香料添加工程と、
前記香料添加工程で香料を添加した液体に紫外線防止剤を添加する紫外線防止剤添加工程と、
前記紫外線防止剤添加工程で紫外線防止剤を添加して撹拌された液体を濾過する濾過工程と、
前記濾過された液体を熱除去してゲル化する工程と、
からなる封入剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本・試料・商品類等をガラス・樹脂等の小瓶、展示用ケース等に封入して保存又は展示する場合の封入剤に関するものであり、封入操作が容易で、封入剤のゲル化速度が速く、封入品の観察・鑑賞に適した封入剤で、特に封入品を再び取り出すことが容易で、安価、変色などの劣化に対する安定性も特徴な封入剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明化生物標本は、「透明骨格標本」と呼ばれ、小型生物のタンパク質を透明化させ、解剖することなく繊細な骨格や軟骨を観察するために使用される。透明な筋肉組織の中に鮮やかに染色された骨格が、生きていた時の立体配置で観察できるため、生物学・発生学・系統分類学・医学分野では、体の構造や分類などを知る上で欠かせない透明骨格標本であるが、最近では、アート作品としても注目を集め、研究試料としての用途から教材・商材・鑑賞用途として販売されている。
【0003】
透明骨格標本を作製する方法としていくつかの方法が考案されてきたが、原理的には、アルカリで透明化する方法と、タンパク質分解酵素で透明化する方法の二つに分けることができる。
アルカリで透明化する方法は、処置に要する操作が簡便であり、コスト面や特殊な機材が必要ないという利点がある反面、標本サイズが大型になると透明度が落ちるといった欠点を有する。他方、タンパク質分解酵素で透明化する方法は、トリプシン処理によって、前者に比較して割と大きなサイズの組織まで透明化することができ、美しい標本を作ることができるものの、標本作製時の細かな管理や必要となる機材が生じ、コスト面でも欠点がある。
以上の方法で透明化された標本は、通常、グリセリンに防腐剤を入れて液侵保存する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「別冊宝島 驚異!透明標本いきもの図鑑」2009年 宝島社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
標本等を封入する封入剤としては、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の高分子化合物が考えられる。アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の高分子化合物は透明性の良い封入剤であるが、溶液状態でも強い刺激臭や可燃性を有するうえ、繊細な計量・配合作業が生じる硬化剤を必要とする等取扱い方法が煩雑である。さらに、非常に粘稠な液体であるため、封入作業の難しさや、気泡の抜けの悪さが仕上りにも影響し、一度硬化すると封入した物品を取り出すことが容易ではない。また、透明性が良いとはいえ、薬品や封入物との相性で白濁・発泡することもあるうえ、樹脂では硬化時間が長いことや硬化後に切削・研磨を行う必要があることから、手間がかかり、コスト面や研磨技術の安定性の確保が問題となる。さらに、樹脂は経年劣化しやすいことから、アートや展示・観察用途として鑑賞に耐える期間が長期に及ばないという問題がある。また、硬化時の発熱が封入物に影響を与える可能性があるとともに、発熱や硬化による樹脂の膨張や収縮により、ガラス等容器に変形やひびがいったり容器内に隙間を生じるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本願発明者は鋭意検討を行った。すなわち、無色になった組織の屈曲率を、透徹に用いる溶媒として用いるグリセロールの屈曲率にできる限り近づけることが重要となると考え、溶媒に水とグリセロールを用いて、これに尿素を加えることにより、透明性を安定的に維持できることを新たに見出すとともに、高分子化合物による架橋反応ではなく、凝固作用による封入方法とすることで、発熱・膨張・収縮による影響が改善される材料とその配合を見出し、本願発明を想到するに至った。
【0007】
本発明に係る封入剤は、展示・観察用途および透明封入物に特化した封入剤(以下、「封入剤」という。)であって、水と、グリセロール、フルクトース、1,2-ヒドロキシプロパン=プロピレングリコール、グルコノデルタラクトン、キャプタン、酢酸ベンジル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラノリン、ワセリン、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、グァーガム、ローカストビーンガム、ペクチン(植物性寒天)、ゼラチン、アガー(動物性寒天)、ポバール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストリン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロ-ス、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、でんぷん、アルギン酸ナトリウム、カゼインナトリウム、ポリソルベ-ト80、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、キサンタンガム、ポリエチレングリコール、ステアロイル乳酸ナトリウム、タラガム、タマリンドガム、ヒドロキシプロピルグアーガム、合成ケイ酸ナトリウムマグネシウム、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、ジェランガム、パルミチン酸デキストリン、ダイユータンガム、水あめのいずれか又は組み合わせの溶媒と、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤と、尿素又は尿素誘導体と、からなることを特徴とする。また、当該封入剤に、着色剤、香料、紫外線防止剤を添加することもできる。なお、紫外線防止剤は、紫外線吸収剤及び/又は紫外線散乱剤を使用するとよいが、紫外線散乱剤が好適である。
【0008】
なお、防腐剤は、エタノール、塩化ベンゼトニウム、クエン酸一水和物、サリチル酸ナトリウム、カルボール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、硫酸オキシキノリン、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼンコニウム、しょ糖、ハチミツ、2-プロパノール、ホルマリン、1,2-ヒドロキシプロパン、ヒト血清アルブミン、L-グルタミン酸カリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、チメロサール、ホウ酸、タウリン、エデト酸ナトリウム、N-ヘキサデシルビリジニウムクロリド、4-クロロ-3-メチルフェノール、m-クレゾール、クレゾール、フェニルエタノール、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、亜硫酸ジナトリウム、グリセロール、硫酸銅(II)、D-ソルビトール、リン酸、ブチルグリシジルエーテル、dl-カンファー、クエン酸ナトリウム、クロロブタノール、2-ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸フェニル、チモール、パラホルム、ベンジルアルコール、四ホウ酸ナトリウム、l-メントール、カルボキシベンゼン、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、ユーカリ油、グルコン酸クロルヘキシジン、ブチルヒドロキシトルエン、ソルビン酸、ボルネオール、β-ナフトール、デヒドロ酢酸、p-オキシ安息香酸イソブチル、ペルーバルサムインカラー、ベンゾイン、寒天、2-メルカプトベンズイミダゾール、p‐オキシ安息香酸イソプロピル、n-ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、Tea Tree Oil、カプリン酸グリセリル、ラウリン酸ポリグリセリル-2、ラウリン酸ポリグリセリル-10、エチルヘキシルグリセリン、カプリル酸グリセリルのいずれか又は複数の組み合わせを用いると好適である。
【0009】
また、本発明に係る封入剤の製造方法は、摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤とを加えて撹拌する第一の工程と、第一の工程で生成された増粘安定剤と防腐剤との混合液を湯煎から取り出し、グリセロール等の溶媒と、尿素又は尿素誘導体とを加えて撹拌する第二の工程と、第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、第三の工程で加温撹拌された液体を濾過する濾過工程と、濾過された液体を熱除去してゲル化する工程と、とからなることを特徴とする。
【0010】
当該封入剤を着色する場合の製造方法は、摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤とを加えて撹拌する第一の工程と、第一の工程で生成された増粘安定剤と防腐剤との混合液を湯煎から取り出し、グリセロール等の溶媒と、尿素又は尿素誘導体とを加えて撹拌する第二の工程と、第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、第三の工程で加温撹拌された液体に着色剤を添加する着色工程と、着色工程で着色された液体を濾過する濾過工程と、濾過された液体を熱除去してゲル化する工程と、とからなることを特徴とする。また、さらに、当該封入剤に香料を添加する場合の製造方法は、摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤とを加えて撹拌する第一の工程と、第一の工程で生成された増粘安定剤と防腐剤との混合液を湯煎から取り出し、グリセロール等の溶媒と、尿素又は尿素誘導体とを加えて撹拌する第二の工程と、第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、第三の工程で加温撹拌された液体に香料を添加する香料添加工程と、香料添加工程で香料を添加した液体を濾過する濾過工程と、濾過された液体を熱除去してゲル化する工程と、からなることを特徴とする。さらに、当該封入剤に紫外線防止剤を添加する場合の製造方法は、摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤とを加えて撹拌する第一の工程と、第一の工程で生成された増粘安定剤と防腐剤との混合液を湯煎から取り出し、グリセロール等の溶媒と、尿素又は尿素誘導体とを加えて撹拌する第二の工程と、第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、第三の工程で加温撹拌された液体に紫外線防止剤を添加する紫外線防止剤添加工程と、紫外線防止剤添加工程で紫外線防止剤を添加した液体を濾過する濾過工程と、濾過された液体を熱除去してゲル化する工程と、からなることを特徴とする。
【0011】
なお、当該封入剤に着色剤と香料と紫外線防止剤のすべてを添加してもよい。この場合の製造方法は、摂氏略75度の湯煎の条件において、水に、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤とを加えて撹拌する第一の工程と、第一の工程で生成された増粘安定剤と防腐剤との混合液を湯煎から取り出し、グリセロール、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プロピレングリコール、マクロゴールのいずれかの溶媒と、尿素又は尿素誘導体とを加えて撹拌する第二の工程と、第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して撹拌する第三の工程と、第三の工程で加温撹拌された液体に着色剤を添加する着色工程と、着色工程で着色された液体に香料を添加する香料添加工程と、香料添加工程で香料を添加した液体に紫外線防止剤を添加する紫外線防止剤添加工程と、紫外線防止剤添加工程で紫外線防止剤を添加した液体を濾過する濾過工程と、濾過された液体を熱除去してゲル化する工程と、からなることを特徴とする。
【0012】
上述した製造方法で、着色工程や香料添加工程や紫外線防止剤添加工程は、濾過工程とゲル化工程との間で行ってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る封入剤によれば、一般的に封入剤として用いられる樹脂で見られる黄変などの経時劣化が、本封入剤では見られず高い安定性を持つ。低コストで作製でき、作業性や安定性が良好で封入した標本の取り出すことが容易であるという効果がある。また、硬化時の発熱による封入物への影響がなく、硬化時や作業時の収縮・膨張係数が少ないため、容器内での封入に好適であるうえ、容器内で封入することにより、樹脂封入で生じる切削・研磨作業が不必要となる。さらに、本発明に係る封入剤の再利用も可能という効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る封入剤の製造工程を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の変形形態である実施例2に係る封入剤の製造工程を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の別の変形形態である実施例3に係る封入剤の製造工程を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の別の変形形態である実施例4に係る封入剤の製造工程を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の別の変形形態である実施例5に係る封入剤の製造工程を示すフローチャートである。
【
図6】本発明に係る試料X及び比較試料Yの透過率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。各図において、同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は、本発明を理解するために誇張して表現している場合もあり、必ずしも縮尺どおり精緻に表したものではないことに留意されたい。なお、本発明は下記に示される実施の形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
実施例1を詳細に説明する。
【0017】
本発明に係る封入剤は、水と、グリセロールと、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤と、尿素又は尿素誘導体と、からなることを特徴とする。
【0018】
主溶媒としては、水が好ましい。使用される全溶媒に占める水の体積の割合が他の溶媒よりも多いことが好ましく、仕上り量に対して30%以上の配合が好適である。また、副溶媒としては、グリセロールが好適であるが、限定されない。グリセロールも仕上り量に対して30%以上の配合が好適である。例えば、フルクトース、1,2-ヒドロキシプロパン=プロピレングリコール、グルコノデルタラクトン、キャプタン、酢酸ベンジル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラノリン、ワセリン、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、グァーガム、ローカストビーンガム、ペクチン(植物性寒天)、ゼラチン、アガー(動物性寒天)、ポバール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストリン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロ-ス、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、でんぷん、アルギン酸ナトリウム、カゼインナトリウム、ポリソルベ-ト80、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、キサンタンガム、ポリエチレングリコール、ステアロイル乳酸ナトリウム、タラガム、タマリンドガム、ヒドロキシプロピルグアーガム、合成ケイ酸ナトリウムマグネシウム、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、ジェランガム、パルミチン酸デキストリン、ダイユータンガム、水あめのいずれか又は組み合わせを使用することができる。なお、封入物、製造コスト、取扱い方法などに応じて使用・配合・比率を変更することができる。また、ゲルの透明度を維持するため、無色・透明であることが望ましいが、添加量が少量であれば特に問題はない。さらに、添加剤の形状は、粉末・液状・結晶状等様々であるが主剤に均等に混合、溶解させ、場合によっては、粉末(微粒子)状にするとよい。
【0019】
ここで、増粘安定剤とは、食品や飲料に粘性や接着性を付けるための食品添加物をいう。具体的には、食品に粘りやとろみをつけるための増粘剤、食品を接着し形が崩れないようにする安定剤(結着剤)、食品をゲル化するゲル化剤に分けられる。成分は、天然由来の多糖類が用いられることがほとんどで、でんぷんや果実、藻類などから直接もしくは発酵する等の手法により抽出する。実施例では、増粘安定剤として、植物性のカラギーナンや寒天などのアガーや、動物性のゼラチンを使用するとよい。カラギーナンは直鎖含硫黄多糖類の一種で、D-ガラクトース(もしくは 3,6-アンヒドロ-D-ガラクトース)と硫酸から構成される陰イオン性高分子化合物であり、紅藻類からアルカリ抽出により得られる。カラギーナンは弾力のある高分子で二重らせん構造を作って互いにからみあっており、これにより室温でゲルを形成するので、封入剤としてゲル化するのに好適である。なお、増粘安定剤は一種類を使用する場合の配合量が各仕様に準じる。複数の組み合わせで使用する場合は、動物性の増粘安定剤と植物性の増粘安定剤を混合すると好適である。この混合増粘安定剤の場合、仕上り量に対して0.38%以上を配合するとよい。
【0020】
防腐剤は、エタノール、塩化ベンゼトニウム、クエン酸一水和物、サリチル酸ナトリウム、カルボール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、硫酸オキシキノリン、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼンコニウム、しょ糖、ハチミツ、2-プロパノール、ホルマリン、1,2-ヒドロキシプロパン、ヒト血清アルブミン、L-グルタミン酸カリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、チメロサール、ホウ酸、タウリン、エデト酸ナトリウム、N-ヘキサデシルビリジニウムクロリド、4-クロロ-3-メチルフェノール、m-クレゾール、クレゾール、フェニルエタノール、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、亜硫酸ジナトリウム、グリセロール、硫酸銅(II)、D-ソルビトール、リン酸、ブチルグリシジルエーテル、dl-カンファー、クエン酸ナトリウム、クロロブタノール、2-ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸フェニル、チモール、パラホルム、ベンジルアルコール、四ホウ酸ナトリウム、l-メントール、カルボキシベンゼン、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、ユーカリ油、グルコン酸クロルヘキシジン、ブチルヒドロキシトルエン、ソルビン酸、ボルネオール、β-ナフトール、デヒドロ酢酸、p-オキシ安息香酸イソブチル、ペルーバルサムインカラー、ベンゾイン、寒天、2-メルカプトベンズイミダゾール、p‐オキシ安息香酸イソプロピル、n-ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、Tea Tree Oil、カプリン酸グリセリル、ラウリン酸ポリグリセリル-2、ラウリン酸ポリグリセリル-10、エチルヘキシルグリセリン、カプリル酸グリセリルのいずれか又は複数の組み合わせを用いることができる。なお、溶媒として水やグリセロールを用いる場合、防腐剤としては、水やグリセロールに比較的溶けやすいものが好適である。なお、封入物、製造コスト、取扱い方法などに応じて使用・配合・比率を変更することができる。また、ゲルの透明度を維持するため、無色・透明であることが望ましいが、添加量が少量であれば特に問題はない。さらに、添加剤の形状は、粉末・液状・結晶状等様々であるが主剤に均等に混合、溶解させ、場合によっては、粉末(微粒子)状にするとよい。防腐剤は、仕上り量に対して0.01%以上を配合するとよい。
【0021】
尿素は、生体試料内の光散乱を最小限に控え、生体試料内の光の吸収には影響を与えないので、封入剤の透明化の維持には好適である。可視領域の光は、生体試料を直進することはできない。光の直進を妨げる主要因は散乱で、試料の中で光の散乱が起こり光の進行方向が変わってしまうことが問題となる。尿素の保水性を利用することで処理をすると、いろいろな材料が水になじみやすい。換言すれば、尿素は、属性が極めて低い生体由来の成分であるともいえる。また、尿素は、極めて安価で入手容易であり、かつ取り扱い性に優れるため、極めて低コストかつ簡単な手順で本封入剤の透明維持化処理を行い得る。尿素は、仕上り量に対して0.01%以上を配合するとよい。なお、尿素のほか、尿素誘導体でも同様の効果を得ることが可能である。
【0022】
次に、
図1を参照しながら、封入剤の製造方法について、詳細に説明する。
【0023】
まず、第一の工程として、湯煎条件の下、すなわち、鍋等に湯を沸かし、その中に一回り小さい容器を入れて、内側の容器中に、主溶媒の水750gに、ゼラチン5gとアガー15gを混合した増粘安定剤と、防腐剤としてチモール0.1gとを投入して、間接的に加熱し、摂氏略75度で5~6分間撹拌する(S11)。
【0024】
次に、第二の工程として、第一の工程で生成された増粘安定剤と防腐剤との混合液を湯煎から取り出し、グリセロール280gと、尿素を少量加えて撹拌する(S12)。副溶媒としては、グリセロールが好適であるが、限定されない。例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プロピレングリコール、マクロゴールを使用してもよい。また、尿素の代替として、尿素誘導体を用いることができる。
【0025】
そして、第三の工程として、第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して5~6分間撹拌する(S13)。
【0026】
その後、第三の工程で加温撹拌された液体を150メッシュ以上の網にて濾過する(S14)。
【0027】
最後に、濾過された液体を熱除去してゲル化する(S15)ことで、透明な封入剤が完成する。
【実施例2】
【0028】
実施例2を詳細に説明する。
【0029】
実施例2に係る封入剤は、水と、グリセロールと、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤と、尿素又は尿素誘導体と、着色剤と、からなることを特徴とする。着色することにより、インテリアや展示に好適な用途もあり得る。着色剤としては、染料系や顔料系があるが、いずれを使用してもよい。なお、染料系は溶剤に溶けやすく、浸透性・透明性・鮮明性に優れるものの、紫外線に対する抵抗力が劣る。一方、顔料系は溶剤に溶けにくいものの、紫外線に対する抵抗力に優れる。本来、顔料系は染料系に比較して、発色が鈍いと言われるが、超微粒子化することにより、発色の鮮明度を向上させることできる。なお、着色剤は、封入剤としての透明性の維持と、紫外線による退色を考慮すれば、透明顔料(クリアカラー)が好適である。
【0030】
なお、実施例2に係る封入剤は、実施例1に係る封入剤に着色料を加えたものであり、実施例1において説明した内容はここでは省略する。
【0031】
図2を参照しながら、実施例2に係る封入剤の製造方法について、詳細に説明する。
【0032】
まず、第一の工程として、湯煎条件の下、すなわち、鍋等に湯を沸かし、その中に一回り小さい容器を入れて、内側の容器中に、主溶媒の水750gに、ゼラチン5gとアガー15gを混合した増粘安定剤と、防腐剤としてチモール0.1gとを投入して、間接的に加熱し、摂氏略75度で5~6分間撹拌する(S21)。
【0033】
次に、第二の工程として、第一の工程で生成された増粘安定剤と防腐剤との混合液を湯煎から取り出し、グリセロール280gと、尿素を少量加えて撹拌する(S22)。副溶媒としては、グリセロールが好適であるが、限定されない。例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プロピレングリコール、マクロゴールを使用してもよい。また、尿素の代替として、尿素誘導体を用いることができる。
【0034】
そして、第三の工程として、第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して5~6分間撹拌する(S23)。
【0035】
その後、所望の着色料を添加して撹拌する(S24)。実施例2においては、透明顔料として、日新レジン社の「Craft Resin(登録商標)NRクリアカラー」を使用した。当該透明顔料は、主成分を酢酸ブチルとメチルイソブチルケトンとするものであり、添加量は仕上り量の1%以内程度を添加するとよい。
【0036】
第四の工程で加温撹拌された液体を150メッシュ以上の網にて濾過する(S25)。
【0037】
最後に、濾過された液体を熱除去してゲル化する(S26)ことで、着色された封入剤が完成する。
【0038】
なお、着色工程は、濾過工程(S25)とゲル化工程(S26)との間で行ってもよい。
【0039】
次に、実施例2に係る封入剤の物性試験について説明する。
以下、詳細に物性試験の結果を説明する。測定は下記条件の下、一般財団法人 化学物質評価研究機構(大阪府東大阪市荒本北1丁目5番55号)において、平成29年2月22日に実施された。ここで、当該試験は、当該実施機関において、上記実施例2に係る封入剤に係る試料Xが作製され、試料Xについて試験及び分析が行われた。物性試験は、融点測定、凝固点測定、透過率測定、pH測定、針入度試験、引火点測定、液状確認試験が実施された。なお、比較例として使用された比較試料Yは、日新レジン社製の注型用ウレタン樹脂(2液性)のグミーキャスト(登録商標)を使用した。試料Yは、A液とB液からなり、A液はポリエーテルポリオールと二塩基酸エステルからなり、B液はメチレンビス(4,1-フェニレン)=ジイソシアネートと二塩基酸とエステルからなる。
【0040】
上記実施された測定又は試験のうち、本発明に関連する透過率測定について説明する。
測定方法:紫外可視分光光度計によるスペクトル測定
測定装置:島津製作所製UV-2600
測定波長:300-800nm
測定試料:試料X(実施例2に係る封入剤)
比較試料Y(日新レジン社製 注型用ウレタン樹脂(2液性)グミーキャスト(登録商標))
図6は、試料X及び比較試料Yの透過率の測定結果を示すグラフである。また、表1は、試料X及び比較試料Yの主な波長における透過率を示している。
図6に示すとおり、可視光の波長域380~800nmのうち、波長域420~800nmにおいては、試料Xと比較試料Yの透過率は略同様の測定値であるが、全波長領域で試料Xの透明度が高い結果となった。
以上の結果から、実施例2に係る封入剤の透明度は、透明度が高い樹脂系の封入剤と比較して遜色ないといえる。
【表1】
【0041】
上記実施された測定又は試験のうち、本発明に関連する融点測定について説明する。
融点測定は、示差走査熱量測定法(DSC測定法)と毛細管法とにより実施した。上記試料Xについて、示差走査熱量測定(DSC測定)を行った結果、融解による吸熱ピークは認められなかった。また、毛細管法により上記試料Xの融点を測定した結果、摂氏70度付近までの加熱では融解現象は認められなかった。さらに高温に加熱したところ、毛細管の内壁に水蒸気由来と考えられる曇りが生じたため、摂氏70度付近よりも高温において、融解の観察は困難であった。
【0042】
次に上記実施された測定又は試験のうち、本発明に関連する液状確認試験について説明する。
液状確認とは、物品がある温度で液状であるか否かを判断する方法である。本件液状確認においては、摂氏75度の試料Xと、摂氏80度の試料Xとについて、確認した結果(1秒未満)、完全に液状であることが確認された。
実施した融点測定ならびに液状確認から、再加熱による封入物の取り出しが可能であることが確認できた。
【0043】
次に、上記実施された測定又は試験のうち、本発明に関連する引火点測定について説明する。引火点測定は、JIS K 2265-2-2007に基づいて、下記の条件で実施された。結果として、上記試料Xは引火点なしであった。
測定方法:セタ密閉方式
試験量:2mL又は4mL
保持時間:1分又は2分
試験条件:23°C、27%RH、1005hPa
使用試験機:セタ社製13740-2
引火点測定から、可燃性がなく合成樹脂に比較して、取扱い面と安全面とで優れているといえる。
【0044】
次に、上記実施された測定又は試験のうち、本発明に関連するpH測定について説明する。pH測定は、JIS K 6503:2001に基づいて、下記装置を用いて実施された。結果として、上記試料XのpHは7.7でほぼ中性となった。
測定装置:堀場社製 LAQUA
pH測定から、試料XはpHによる封入物の選択性はないといえる。
【実施例3】
【0045】
実施例3を詳細に説明する。
【0046】
実施例3に係る封入剤は、水と、グリセロールと、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤と、尿素又は尿素誘導体と、香料と、からなることを特徴とする。香料を添加することにより、防腐剤のにおいを軽減させる効果が期待できる。
なお、実施例3に係る封入剤は、実施例2に係る封入剤の着色料に代えて香料を加えたものであり、実施例1及び2において説明した内容はここでは省略する。
【0047】
図3を参照しながら、実施例3に係る封入剤の製造方法について、詳細に説明する。
【0048】
まず、第一の工程として、湯煎条件の下、すなわち、鍋等に湯を沸かし、その中に一回り小さい容器を入れて、内側の容器中に、主溶媒の水750gに、ゼラチン5gとアガー15gを混合した増粘安定剤と、防腐剤としてチモール0.1gとを投入して、間接的に加熱し、摂氏略75度で5~6分間撹拌する(S31)。
【0049】
次に、第二の工程として、第一の工程で生成された増粘安定剤と防腐剤との混合液を湯煎から取り出し、グリセロール280gと、尿素を少量加えて撹拌する(S32)。副溶媒としては、グリセロールが好適であるが、限定されない。例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プロピレングリコール、マクロゴールを使用してもよい。また、尿素の代替として、尿素誘導体を用いることができる。
【0050】
そして、第三の工程として、第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して5~6分間撹拌する(S33)。
【0051】
その後、所望の香料を添加して撹拌する(S34)。香料は、天然香料と合成香料の2種類と、それら2種類または同種の別香料を組み合わせてつくる調合香料を用いることができる。なお、防腐剤を添加した際の臭いをマスキングするために、香料を添加する。香料の添加量は、防腐剤の添加量や好みに応じて、適宜調製することができるが、仕上り量の概ね1.0%を添加するとよい。
【0052】
第四の工程で加温撹拌された液体を150メッシュ以上の網にて濾過する(S35)。
【0053】
最後に、濾過された液体を熱除去してゲル化する(S36)ことで、香料が添加された封入剤が完成する。
【0054】
なお、香料添加工程は、濾過工程(S35)とゲル化工程(S36)との間で行ってもよい。
【実施例4】
【0055】
実施例4を詳細に説明する。
【0056】
実施例4に係る封入剤は、水と、グリセロールと、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤と、尿素又は尿素誘導体と、紫外線防止剤と、からなることを特徴とする。紫外線防止剤を添加することにより、紫外線による封入剤又は封入物への影響を緩和させる効果が期待できる。紫外線防止剤の添加は、実施例2で
図6及び表1に示したとおり、紫外線波長域に関して、実施例2に係る封入剤に紫外線遮蔽率がやや低いことに対応するものである。
なお、紫外線の影響は、展示・観察用途および透明封入物に係る封入剤にとって問題となる。特に、封入物の脱色、封入剤の劣化や変色、着色剤を添加した場合の色の脱色や変色、香料を添加した場合の香料の変質が挙げられる。
【0057】
実施例4に係る封入剤は、実施例2に係る封入剤の着色料に代えて紫外線防止剤を加えたものであり、実施例1、2及び3において説明した内容はここでは省略する。
【0058】
図4を参照しながら、実施例4に係る封入剤の製造方法について、詳細に説明する。
【0059】
まず、第一の工程として、湯煎条件の下、すなわち、鍋等に湯を沸かし、その中に一回り小さい容器を入れて、内側の容器中に、主溶媒の水750gに、ゼラチン5gとアガー15gを混合した増粘安定剤と、防腐剤としてチモール0.1gとを投入して、間接的に加熱し、摂氏略75度で5~6分間撹拌する(S41)。
【0060】
次に、第二の工程として、第一の工程で生成された増粘安定剤と防腐剤との混合液を湯煎から取り出し、グリセロール280gと、尿素を少量加えて撹拌する(S42)。副溶媒としては、グリセロールが好適であるが、限定されない。例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プロピレングリコール、マクロゴールを使用してもよい。また、尿素の代替として、尿素誘導体を用いることができる。
【0061】
そして、第三の工程として、第二の工程で生成された液体を、さらに摂氏略60度に加温して5~6分間撹拌する(S43)。
【0062】
その後、所望の紫外線防止剤を添加して撹拌する(S44)。紫外線防止剤は、紫外線吸収剤又は紫外線散乱剤のいずれか又はその両方を用いることができる。
ここで、紫外線吸収剤とは、紫外線を自らの中に取り込むことができる性質を持った成分のことで、紫外線が当たると、熱に変えたり他の物質に変わったりすることによって紫外線を吸収する。紫外線によって一旦変質するとその後は紫外線を吸収することができなくなるため、時間が経過すると効果がなくなる。紫外線吸収剤は、封入剤に対して、紫外線による劣化や変色や退色を防ぐ効果があり、封入物に対しては、紫外線による日焼けや変色や退色を防ぐ効果がある。
他方、紫外線散乱剤とは、紫外線を反射又は散乱させる性質を持った成分のことで、紫外線を物理的にはね返す。紫外線散乱剤は構造が壊れにくく持続効果があり、有機化合物ではないので、化学反応が起こらないが、白浮きが欠点である。紫外線散乱剤は、封入剤に対して、紫外線による劣化や変色や退色を防ぐ効果があり、封入物に対しては、紫外線による日焼けや変色や退色を防ぐ効果がある。
【0063】
紫外線吸収剤としては、オクチルメトキシシンナメート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)、オクトクリレン、ジメチコジエチルベンザルマロネート、ポリシリコーン-15、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、エチルヘキシルトリアゾン、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、オキシベンゾン-3、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール、ポリシリコーン-15、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、ホモサレート、サリチル酸エチルへキシル等の有機紫外線吸収剤を挙げることができる。これら紫外線吸収剤の添加量は、通常、0.01~10.0重量%、特に0.01~3.0重量%、さらに特に0.02~2.0重量%の範囲内が好ましい。
【0064】
紫外線散乱剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛,酸化セリウム等が例示でき、特に酸化チタンが好適である。これら紫外線散乱剤の添加量は、その種類やその比表面積により異なるが、通常、2~40重量%程度、さらに特に5~30重量%の範囲内が好ましい。なお、経年変化の耐性と透明性から、上記紫外線散乱剤のなかでも無機系の酸化亜鉛若しくは酸化チタン、又は双方の混合でかつナノ粒子が好適である。一般に、酸化亜鉛はUV-Aに、酸化チタンはUV-Bに、高い効果を奏するといわれる。添加量は、酸化亜鉛のみの場合、仕上り量に対し7.0%程度、酸化亜鉛と酸化チタンの混合の場合、仕上り量に対し8.00%程度添加するとよい。
【0065】
第四の工程で加温撹拌された液体を150メッシュ以上の網にて濾過する(S45)。
【0066】
最後に、濾過された液体を熱除去してゲル化する(S46)ことで、紫外線防止剤が添加された封入剤が完成する。
【0067】
なお、紫外線防止剤添加工程は、濾過工程(S45)とゲル化工程(S46)との間で行ってもよい。
【実施例5】
【0068】
実施例5を詳細に説明する。
【0069】
実施例5に係る封入剤は、水と、グリセロールと、動物性の若しくは植物性の又はこれら両方を混合した増粘安定剤と、防腐剤と、尿素又は尿素誘導体と、着色剤と、香料と、紫外線防止剤と、からなることを特徴とする。
【0070】
なお、実施例5に係る封入剤は、実施例1に係る封入剤に、実施例2の着色料、実施例3の香料、実施例4の紫外線防止剤を加えたものであり、実施例1、2、3及び4において説明した内容はここでは省略する。
【0071】
図5を参照しながら、実施例5に係る封入剤の製造方法について、詳細に説明する。
【0072】
第一の工程(S51)、第二の工程(S52)、第三の工程(S53)については、実施例1~4と同様である。
【0073】
その後、所望の着色料、香料、紫外線防止剤の順序で添加して撹拌する(S54、S55、S56)。そして、加温撹拌された液体を150メッシュ以上の網にて濾過する(S57)。最後に、濾過された液体を熱除去してゲル化する(S58)ことで、着色剤と香料と紫外線防止剤とが添加された封入剤が完成する。
【実施例6】
【0074】
実施例6を詳細に説明する。
【0075】
実施例6においては、本発明に係る封入剤と、増粘剤として一般的なゼラチン(動物由来)と寒天(植物由来)とを比較検証した。なお、比較検証に使用した試料は、実施例2に係る封入剤Xと同比率の溶媒と増粘剤を用いた。比較品の溶媒は、通常の使用方法と同じ水を用いた(観察環境温度:摂氏17~24度)。
比較試料についての詳細は下記のとおりである。
ゼラチン「森永製菓社 クックゼラチン(登録商標)」
原材料:ゼラチン・顆粒タイプ
栄養成分(5g当り):熱量18kcaL、たんぱく質4.4g、脂質0g、炭水化物0g、ナトリウム18mg
寒天「粉末寒天」
原材料:海藻(オゴ草、天草)・顆粒タイプ
栄養成分(4g当り):熱量0kcaL、たんぱく質0g、脂質0g、炭水化物0g、食物繊維3.2g、ナトリウム13mg
【0076】
検証内容としては、観察期間を6日間とし、3種類の容器に収容した試料を比較した。3種類の容器は、蛇の目猪口(30ml)、シャーレ (20ml)、広口試薬瓶(130ml)である。蛇の目猪口では透明度と色味とを、シャーレでは、抗菌作用(カビの発生観察)を、広口試薬瓶では、離水率(作成時重量を元に経時毎に計量して算出)を比較検証した。
検証結果としては、下記の結果が得られた。
蛇の目猪口(30ml)において、ゼラチンは72時間以降もゲル化せず、本発明に係る封入剤と寒天は6時間後にゲル化した。検証実施第3日目に、14人に目視でのアンケート調査を実施した。その結果、表2に示されるとおり、本発明に係る封入剤Xの透明度の優位性が明らかとなった。
次に、シャーレ (20ml)において、ゼラチンは72時間以降もゲル化せず、本発明に係る封入剤と寒天は6時間後にはゲル化した。寒天は第4日目にカビ発生が目視確認され、本発明に係る封入剤の優位性が確認された。
最後に、広口試薬瓶(130ml)において、ゼラチンは72時間以降もゲル化せず、本発明に係る封入剤と寒天は6時間後にはゲル化した。シャーレ検証の結果から、寒天では第4日目以降カビ発生による影響があるため、第3日目までの比較が妥当と考えられる。その結果、本発明に係る封入剤が優れていることが確認された。
【表2】
【実施例7】
【0077】
実施例7を詳細に説明する。
【0078】
実施例7においては、本発明に係る封入剤と、合成樹脂品の経年変化の比較を行った。
【0079】
封入用途で用いられる合成樹脂では黄変による透明度の低下が認められる。同等の年数を経過した、本発明に係る封入剤では透明度が維持されていることが確認できる。また、本発明に係る封入剤では開封状態にも関わらずカビ発生もなく高い抗菌性と透明度が認められる。また、離水性(蒸発)についても、目立った離水は認められない。
【表3】
【0080】
以上、本発明の封入剤及びその製造方法における好ましい実施形態を説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の封入剤は、観察・展示用の生物標本の封入剤として利用できるのみならず、研究用標本の封入剤として、大学、博物館、病院等の学術研究機関、教育機関等で広く利用することができるほか、封入物の対象に応じて工業用途や商業用途としても利用することが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
S11 S21 S31 S41 S51 第一の工程
S12 S22 S32 S42 S52 第二の工程
S13 S23 S33 S43 S53 第三の工程
S14 S25 S35 S45 S57 濾過工程
S15 S26 S36 S46 S58 ゲル化工程
S24 S54 着色工程
S34 S55 香料添加工程
S44 S56 紫外線防止剤添加工程
X 本発明に係る封入剤の試料
Y 比較試料