(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】耐摩耗性に優れるポリエステル繊維とその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/92 20060101AFI20220815BHJP
【FI】
D01F6/92 307G
D01F6/92 307C
(21)【出願番号】P 2018007346
(22)【出願日】2018-01-19
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017135148
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金築 亮
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雄俊
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 光洋
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-016731(JP,A)
【文献】特開平05-059615(JP,A)
【文献】特開平05-086507(JP,A)
【文献】特開2010-150721(JP,A)
【文献】特開平10-081812(JP,A)
【文献】特公昭46-041408(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル系樹脂組成物により構成されるポリエステル繊維の製造方法であって、
ポリオレフィン系樹脂に、重量平均分子量が5万~900万の熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹
脂を溶融混合させたマスターバッチを準備し、
次いで、マスターバッチとポリエステル系樹脂チップとを所定量混合して溶融混錬し、ポリエステル系樹脂中に熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂およびポリオレフィン系樹脂が分散してなるポリエステル系樹脂組成物とし、該樹脂組成物を溶融紡糸した後に延伸することによりポリエステル繊維を得ることを特徴とする耐摩耗性に優れるポリエステル繊維の製造方法。
【請求項2】
マスターバッチにおける混合量(質量%)が、ポリオレフィン系樹脂/熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂=90~65/10~35であることを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性に優れるポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】
ポリエステル系樹脂組成物中における熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂の含有率が0.2~5質量%であることを特徴とする請求項1
または2記載の耐摩耗性に優れるポリエステル繊維
の製造方法。
【請求項4】
ポリエステル系樹脂組成物中におけるポリオレフィン系樹脂の含有率が1~10質量%であることを特徴とする請求項1
~3のいずれか1項記載の耐摩耗性に優れるポリエステル繊維
の製造方法。
【請求項5】
ポリオレフィン系樹脂が、変性ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに1項記載の耐摩耗性に優れるポリエステル繊維
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性を向上させたポリエステル繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、一般衣料用途や、カーテン、カーペット等のインテリア用途、車両内装用途等の様々な用途へ展開されている。中でもポリエチレンテレフタレート繊維は、その価格と強伸度等の物理的特性とのバランスの良さから様々な用途への展開の拡大が期待されている。
【0003】
しかしながら、ポリエステル繊維は、他の熱可塑性繊維であるポリアミド繊維に比べて耐摩耗性に劣るという欠点があり、産業資材用途の中でも耐摩耗性や耐屈曲摩耗性を要求される用途への展開は、十分には進んでいない。高強度ポリエチレンテレフタレート繊維を例にとれば、高強度化するほど分子鎖が繊維軸方向に高度に配向しているために、繊維軸に対して垂直方向の力に対しては非常に弱く、摩擦などにより繊維が容易にフィブリル化するという欠点がある。そのため、例えば、建設現場で使用される安全ネットや河川、港湾等の埋め立て護岸工事の際に中に石等を詰めて使用されるボトムフィルターのようなネット状袋材といった製網加工を施す用途においては、網組織が複雑であるため、製網加工工程で網地にかかる負荷や摩擦は、一直線方向のものだけでなく多方向からも複雑にかかるものとなり、加工工程において毛羽立ちや断糸、白化等が生じるという欠点があった。この問題を解消するためには、加工速度を低下させることが必要となるが、そうすると操業性が悪くなるという問題が新たに発生する。
【0004】
また、繊維製品使用における問題として、ネット状袋材を例に挙げると、袋材の内側では中に詰めた石が移動する際に生じる摩擦や衝撃を受け、一方、袋材外側では流石や流木等による摩擦や衝撃を受けることとなる。このため、袋材の内側と外側に繰り返しかかる多方向からの負荷によって、毛羽が発生したり、繊維が擦り切れたりするなど、耐久性にも問題があった。
【0005】
耐久性を解消する技術として、例えば、特許文献1には、合成繊維からなるモノフィラメントの表面に特定のシラン系コート剤で被覆する方法が提案されている。この方法により得られる繊維は、耐摩耗性はある程度改善されるものの、未だ不十分であり、さらに製造工程が複雑になると共に、コストアップにつながる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題を解決し、長期に亘り優れた耐摩耗性を維持でき、実用的な強度を有するとともに、耐摩耗性と強度とのバランスの優れた繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【0008】
本件出願人は、上記課題を達成するために検討し、ポリエステル系樹脂に、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂を混合した混合樹脂を溶融紡糸して得られた繊維を評価したところ、非常に耐摩耗性が向上することを見出し、ポリエステル系樹脂と熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂により構成される繊維に関する発明について特許出願を行った(特願2017-124398号)。
【0009】
本発明者等は、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂をポリエステル系樹脂に混合するにあたり、より均一にポリエステル系樹脂中に混合しうることを検討している中で、マスターバッチの樹脂として、ポリエステル系樹脂ではなく、ポリオレフィン系樹脂を使用したところ、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂の混合分散性が向上し、取扱い性が向上するとともに、これにより得られた繊維の耐摩耗性がさらに向上することを見出した。本発明は、前記した出願の発明と利用し、さらに耐摩耗性を向上させる発明を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル系樹脂組成物により構成されるポリエステル繊維の製造方法であって、
ポリオレフィン系樹脂に、重量平均分子量が5万~900万の熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂を溶融混合させたマスターバッチを準備し、
次いで、マスターバッチとポリエステル系樹脂チップとを所定量混合して溶融混錬し、ポリエステル系樹脂中に熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂およびポリオレフィン系樹脂が分散してなるポリエステル系樹脂組成物とし、該樹脂組成物を溶融紡糸した後に延伸することによりポリエステル繊維を得ることを特徴とする耐摩耗性に優れるポリエステル繊維の製造方法を要旨とするものである。
【0011】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0012】
本発明におけるポリエステル繊維は、ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル系樹脂組成物により構成される。なお、ポリエステル系樹脂を主成分とするが、樹脂組成物中において、ポリエステル系樹脂が占める割合は80質量%以上がよく、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0013】
ポリステル系樹脂としては、分子内にエステル結合を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば芳香族ポリエステルでは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等が挙げられ、また、脂肪族ポリエステルでは、例えばポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等が挙げられる。機械的強度等に優れることから、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンタレフタレートを好ましく用いる。
【0014】
また、本発明における目的を阻害しない範囲であれば、上記したポリエステルに他のジカルボン酸成分、ジオール成分あるいはオキシカルボン酸成分等を共重合してもよく、あるいは上記したポリエステル同士のブレンドや、上記したポリエステルと共重合したポリエステルとをブレンドしたものであってもよい。共重合できる他の成分としては、ジカルボン酸では、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、セバシン酸、アジピン酸、コハク酸等が挙げられ、ジオール成分では、エタンジオール、プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0015】
本発明におけるポリエステルの相対粘度としては、特に限定はされないが、用途に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、強伸度等の実用的な観点から、衣料用繊維については、相対粘度が1.2以上、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.35以上であり、産業資材用繊維については、相対粘度が1.4以上、より好ましくは1.5以上である。
【0016】
本発明におけるポリエステル繊維を構成するポリエステル系樹脂組成物は、上記したポリエステル系樹脂中に、ポリオレフィン系樹脂と熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂とが分散して存在する。ポリエステル系樹脂組成物中に含まれる熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドの含有量は0.2~5質量%が好ましく、より好ましくは0.4~4質量%である。後述するが、溶融紡糸前の樹脂組成物中に存在する熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドは、良好にポリエステル系樹脂中に分散し、溶融紡糸後の工程で、水に触れることにより、繊維表面に存在する熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドを溶出することもあり、この溶出によって、繊維表面の熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドが脱落することにより、繊維中に含まれる熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドの含有率が溶融紡糸前の混合量よりも低下する。繊維中に存在する熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドの含有量が5質量%を超えると、ポリエステル系樹脂組成物中に混合してなるポリオレフィン系樹脂の含有量も増えることとなり、そうすると相対的に主成分であるポリエステル系樹脂が占める割合が減ることになるため、繊維の強伸度等の機械的特性の低下を招きやすい。また、繊維の製造工程において、紡糸、延伸、巻き取り時に糸切れ等が発生し操業性が悪化しやすく、これが起因して得られる繊維において強伸度等の機械的特性も劣るものとなりやすい。
【0017】
熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂としては、エチレンオキシドのみによって構成される樹脂であっても、また、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとがランダム共重合してなるエチレンオキシド・プロピレンオキシドランダム共重合体であっても、ブロック共重合してなるものであってもよい。また、母体となるポリエステル系樹脂への分散性を考慮し、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂の重量平均分子量として5万~900万のものを用いる。重量平均分子量が5万~900万のポリエチレンオキシド系樹脂は、溶融紡糸前の溶融押出機内で、ポリエステル系樹脂と良好に混合し、ポリエステル系樹脂中に良好に分散する。なお、溶融紡糸するにあたって、重量平均分子量50万を超える熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂を混合する場合は、紡糸温度は290℃以上に設定すると、母体となるポリエステル系樹脂中に良好に分散する。また、重量平均分子量50万以下の熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂を混合する場合は、290℃以下であってポリエステル系樹脂が溶融する温度に設定すればよく、290℃以下の温度において、母体となるポリエステル系樹脂中に良好に分散する。
【0018】
ポリエステル系樹脂組成物中に含まれるポリオレフィン系樹脂の含有量は、1~10質量%が好ましく、より好ましくは2~5質量%である。ここで、ポリオレフィン系樹脂は、上記した熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂が、主成分であるポリエステル系樹脂中に効率よく分散混合するために、マスターバッチを作成する際の樹脂として用いるものであるが、得られる繊維における耐摩耗性の向上にも大きく寄与する。ポリエステル系樹脂組成物中におけるポリオレフィン系樹脂が10質量%を超えると、上記した熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドの含有量が5質量%を超える場合と同様の理由で、繊維の強伸度等の機械的特性の低下を招きやすく、また、繊維の製造工程において、紡糸、延伸、巻き取り時に糸切れ等が発生し操業性が悪化しやすく、これが起因して得られる繊維において強伸度等の機械的特性も劣るものとなりやすい。
【0019】
本発明で用いるポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖型低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン樹脂などの汎用のポリオレフィンや、変性ポリオレフィン系樹脂が挙げられ、本発明においては、変性ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。
【0020】
変性ポリオレフィン系樹脂としては、不飽和カルボン酸、その無水物または誘導体がグラフト共重合した酸変性ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。変性されるポリオレフィンとしては、例えば、ポリプロピレンまたはポリエチレンを挙げることができる。
【0021】
ポリオレフィンの変性に使用される不飽和カルボン酸、その無水物またはそれらの誘導体は、1分子内にエチレン性不飽和結合とカルボキシル基、酸無水物基または誘導体基とを有する化合物である。不飽和カルボン酸類の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2,3-ジカルボン酸、メチル-エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸等の不飽和カルボン酸;これらの不飽和カルボン酸の無水物;不飽和カルボン酸ハライド、不飽和カルボン酸アミド、および不飽和カルボン酸イミドの誘導体などが挙げられる。より具体的には、塩化マレニル、マレイミド、N-フェニルマレイミド、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエートなどを挙げることができる。これらの中では、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水ナジック酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。このような不飽和カルボン酸やその誘導体は1種であっても、2種以上の併用であってもよい。
【0022】
ポリエステル繊維の繊維形態としては、上記したポリエステル系樹脂を主成分とし、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドとポリオレフィン系樹脂とを含有するポリエステル系樹脂組成物のみにより構成される単相繊維やこの単相繊維に中空部を有する中空繊維が挙げられる。また、上記したポリエステル樹脂組成物と、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドとポリオレフィン系樹脂とを含有しない熱可塑性樹脂との複合繊維であってもよい。複合繊維とする場合、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドとポリオレフィン系樹脂とを含有するポリエステル系樹脂組成物は繊維表面に配置させる。例えば、前記ポリエステル系樹脂組成物を鞘成分とした芯鞘型複合繊維、前記ポリエステル系樹脂組成物と熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドとポリオレフィン系樹脂とを含有しない熱可塑性樹脂とを貼り合せたサイドバイサイド型複合繊維、前記ポリエステル系樹脂組成物を海部に配して、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドとポリオレフィン系樹脂とを含有しない熱可塑性樹脂を島部に配した海島型複合繊維、また、ポリエステル系樹脂組成物と、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシドとポリオレフィン系樹脂とを含有しない熱可塑性樹脂とを並列状や放射状等に配した多層型複合繊維、放射型複合繊維、分割型複合繊維、多葉型複合繊維等の複合型断面や他の異形断面複合繊維など、適宜選択することができる。なお、このような複合型の繊維を紡糸するにあたっては、通常の手法にて行えばよい。
【0023】
複合繊維とする場合、ポリエステル系樹脂組成物と複合する他の熱可塑性樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば特に限定するものではないが、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエステル系樹脂組成物の主成分として用いるポリエステルとして上述したものと同様のものを用いればよく、また、ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン69、ナイロン46,ナイロン610,ナイロン1010,ナイロン11,ナイロン12,ナイロン6T,ナイロン9T,ポリメタキシレンアジパミドやこれら各成分を共重合したものやブレンドしたもの等が挙げられる。
【0024】
本発明におけるポリエステル繊維の形態は、連続繊維であっても、特定の繊維長を有する短繊維として用いてもよく、繊維形態としては特に限定されない。連続繊維の場合、マルチフィラメント糸の形態であれば、マルチフィラメント糸を構成するポリエステル繊維の単繊維繊度は1~200dtex、総繊度は20~5000dtexが好ましく、中でも総繊度は40~3000dtexがより好ましい。モノフィラメント糸の形態とする場合、モノフィラメント糸の繊度は150~5000dtexが好ましい。
【0025】
本発明におけるポリエステル繊維は、以下の方法により得ることができる。
【0026】
まずは、熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを溶融混合して、マスターバッチを作成する。このときポリオレフィン系樹脂中に高濃度の熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂を混合させるため、混合量(質量%)は、ポリオレフィン系樹脂/熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂=90~65/10~35がよい。
【0027】
次いで、上記したマスターバッチと主成分であるポリエステル系樹脂チップとを所定量となるように計量して混合、溶融混練し、ポリエステル系樹脂中に熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂およびポリオレフィン系樹脂が分散してなるポリエステル系樹脂組成物とする。
【0028】
本発明において、単相繊維を得る場合は、このポリエステル系樹脂中に熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂およびポリオレフィン系樹脂が分散してなるポリエステル系樹脂組成物を溶融紡糸する。一方、他の熱可塑性樹脂と複合化して複合繊維を得る場合は、ポリエステル系樹脂中に熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂およびポリオレフィン系樹脂が分散してなるポリエステル系樹脂組成物と、複合する他の熱可塑性樹脂とを準備のうえ、別途溶融させて、通常の複合紡糸装置を用いて、溶融紡糸する。
【0029】
なお、ここで、本発明におけるポリエステル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、例えば、熱安定剤、結晶核剤、艶消し剤、顔料、耐光剤、耐候剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、微粉体、難燃剤等の各種添加剤を添加することができる。また、得られる繊維の結節強度を高めるために、脂肪酸アミド類、例えばメタキシリレンビスステアリルアミド、メタキシリレンビスオレイルアミド、キシレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリン酸アミド等を添加することができる。
【0030】
溶融紡糸により得られた糸条を冷却し、油剤を付与し、あるいは付与せず、一旦未延伸糸として巻き取った後あるいは一旦巻き取ることなく引き続いて延伸を施す。溶融紡糸後の糸条の冷却は、室温での冷却、冷却風を吹付けによる冷却、水浴中に通すことにより冷却が挙げられる。延伸にあたっての延伸倍率は2~8倍とし、熱延伸を施す。熱延伸の加熱手段としては、温水バス中で熱延伸するか、加熱ローラを用いて熱延伸する。熱延伸後は、巻取り操作を連続して行い、目的とする繊維を得る。
【0031】
本発明におけるポリエステル繊維は、溶融紡糸後の工程もしくは繊維を得た後工程にて、繊維を水もしくは水蒸気に接触させることにより、繊維表面に分散して存在する熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂が溶出することもある。
【0032】
本発明におけるポリエステル繊維は、基準ポリエステル繊維(熱可塑性水溶性ポリエチレンオキシド系樹脂を混合しないポリエステル樹脂を用いたこと以外は、凡そ同様の製造条件で得られた繊維)との対比で、1.4倍以上の摩耗性を発揮する。本発明のポリエステル繊維の形態に起因して摩耗性効果を奏することを確認するために、耐摩耗性評価にあたっては、基本的には、繊維表面に油剤を付与していないものを評価する。
【0033】
<耐摩耗性評価1 セラミックス丸棒>
直径10mmのセラミックス製丸棒を用い試料となるポリエステル繊維に、デシテックス当たり0.9gの荷重をかけ、直径10mmのセラミックス丸棒に対し、90度の角度で接触させ、ストローク幅300mm、ストローク速度30±1回/分で往復摩擦させ、ポリエステル繊維が破断に至るまでの回数を計測する。試料数は2点の測定とし、2点のうち低い方の摩耗回数を対比した。
【0034】
<耐摩耗性評価2 ステンレス六角棒>
ステンレス六角棒(横断面が正六角形であり1辺の長さが7mm)に対し、六角の2辺が接触するようにして、ストローク幅300mm、ストローク速度30±1回/分で往復摩擦させ、ポリエステル繊維が破断に至るまでの回数を計測する。なお、試料となるポリエステル繊維には、デシテックス当たり0.6gの荷重をかけ、試料数は2点の測定とし、2点のうち低い方の摩耗回数を対比した。
【0035】
なお、上記したように繊維表面に油剤は付与しないものを評価するため、製造工程において、繊維表面に油剤が付着している場合は、洗浄により油剤を落としてから評価する。
【0036】
本発明におけるポリエステル繊維は、上記したように優れた耐摩耗性を有するものであり、従来からポリエステル繊維が用いられている分野である産業資材分野、土木資材分野、建築資材分野、農業資材分野、生活資材分野やそれ以外の種々の分野や用途において、ロープ状や、各種織編物、網物、ネット、ベルト等の形態にして良好に使用しうるものである。
また、用途としては、従来からポリエステル繊維が用いられている分野やそれ以外の種々の分野や用途において良好に使用しうるものである。例えば、具体的には、陸上等の各種ロープ、陸上ネットや防球ネット、防護ネット、補強用ネット、抄紙用ネット、フェルト補強ネット、フィルター用ネット、スリングベルト、また、各種の土木資材としても好適に用いられ、例えば、網状袋体、蛇篭、ふとん篭等の素材、生活資材としては、例えば、服地、カバン地、椅子カバー地、ブラシの毛材、リード紐等の各種ペット用品、各種スポーツ用途、バトミントンやテニス等のラケットガット等が挙げられる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の製造方法によって得られるポリエステル繊維は、耐摩耗性に優れ、かつ実用的な強度を有するため、耐摩耗性と強度バランスに優れたものとなる。このため、種々の摩擦や摩耗、繰り返しの屈曲が課せられる様々な分野において好適に使用することができる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1
重量平均分子量20万のポリエチレンオキシド(明成化学工業株式会社製、商品名 アルコックス 品番R-400)20質量%と変性ポリエチレン樹脂(三井化学株式会社製、商品名 アドマー HE810)80質量%を混合し、予めマスターチップを作製した。そのマスターチップを用い、樹脂組成物中の含有量において、ポリエチレンオキシドが0.5質量%となるように、相対粘度(ηrel)1.62のポリエチレンテレフタレート樹脂(ユニチカ株式会社製)97.5質量%とマスターチップ2.5質量%とを混合し、ポリマー温度を290℃で1.4mmφ×2Hの紡糸口金から溶融紡糸した。紡糸した繊維を60℃の水浴中で冷却した後、巻き取ることなく、速度20m/分で90℃の温浴中で延伸し、さらに巻き取ることなく、120℃の乾熱雰囲気中で総延伸倍率が5.25倍となるように延伸し、油剤を付けずに巻き取った。繊度830dtex、強度3.96cN/dtex、伸度13.8%のモノフィラメント糸(ポリエステル繊維)を得た。
【0040】
なお、得られた繊維の強度と伸度は、JIS L 1013に準じて、定速伸長形引張試験機(島津製作所製オートグラフDSS-500)を用い、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分で測定した。
【0041】
実施例2
重量平均分子量20万のポリエチレンオキシド(明成化学工業株式会社製、商品名 アルコックス 品番R-400)20質量%と変性ポリエチレン樹脂(三井化学株式会社製、商品名 アドマー HE810)80質量%を混合し、予めマスターチップを作製した。そのマスターチップを用い、樹脂組成物中の含有量において、ポリエチレンオキシドが1.0質量%となるように、相対粘度(ηrel)1.62のポリエチレンテレフタレート樹脂(ユニチカ株式会社製)95.0質量%とマスターチップ5.0質量%混合した以外は、実施例1と同様にして、繊度821dtex、強度3.87cN/dtex、伸度14.2%のモノフィラメント(ポリエステル繊維)を得た。
【0042】
比較例1
構成樹脂としては、相対粘度(ηrel)1.62のポリエチレンテレフタレート樹脂(ユニチカ株式会社製)のみを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、繊度846dtex、強度4.28cN/dtex、伸度14.7%のモノフィラメント糸(実施例1に対する基準ポリエステル繊維)を得た。
【0043】
得られた実施例1、2のポリエステル繊維と、比較例1の基準ポリエステル繊維、参考例1、2のポリエステル繊維について、上記した<耐摩耗性評価1 セラミックス丸棒>、<耐摩耗性評価2 ステンレス六角棒>により、耐摩耗性について測定評価し、その結果を表1、2に示した。なお、耐摩耗性試験は、米倉製作所製 耐摩耗試験装置を用いて行った。
【0044】
表からも明らかなように、本発明の実施例1、2のポリエステル繊維は、耐摩耗性については、基準ポリエステル繊維を比較し、飛躍的に向上したものであった。また、下記の評価方法における耐屈曲疲労性の評価を行ったところ、本発明の実施例1、2のポリエステル繊維は、基準ポリエステル繊維と比較して優れた結果であった。
【0045】
<耐屈曲疲労性>
屈曲疲労性は、JIS P8115 耐折れ強さ試験方法 MIT試験機を用いて測定した。試験片は長さ110mmのものを準備し、測定条件として、屈曲角度は左右135°、屈曲速度175往復/毎分、荷重5N、チャック先端R0.38mmにより、試験片が破断するまでの往復折れ曲げ回数を測定する。なお、試験片3点について測定し、最小値を表3に示した。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
実施例3
重量平均分子量20万のポリエチレンオキシド(明成化学工業株式会社製、商品名 アルコックス 品番R-400)30質量%と変性ポリエチレン樹脂(三井化学株式会社製、商品名 アドマー HE810)70質量%を混合し、予めマスターチップを作製した。そのマスターチップを用い、樹脂組成物中の含有量において、ポリエチレンオキシドが0.75質量%となるように、相対粘度(ηrel)1.62のポリエチレンテレフタレート樹脂(ユニチカ株式会社製)97.5質量%とマスターチップ2.5質量%とを混合し、孔径0.55mm、孔数70個の紡糸口金を装着した溶融紡糸装置により、温度290℃で紡出し、直下に常設された温度420℃、長さ400mmの加熱筒内を通過させた後、長さ1800mmの横型冷却装置で温度15℃、速度0.7m/秒の冷却風を用いて冷却した後、オイリングローラーで油剤を塗布した。続いて、速度408m/分の非加熱ローラーと速度417m/分の非加熱ローラーとの間を通して、1.02倍にて引き揃えを行った後、スチーム処理機を通してスチーム処理(オリフィス径2mm、温度500℃、圧力0.9MPa)を行った。次いで、速度2076m/分、温度215℃の加熱ローラーにかけて4.98倍の延伸を行った後、速度2012m/分、温度187℃のローラーにて弛緩熱処理を行い、速度2000m/分のワインダーに捲き取り、1380dtex/70fのポリエステルマルチフィラメント糸を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸は、強度5.3cN/dtex、伸度17.8%、結節強度4.4cN/dtexであった。
【0050】
なお、得られたマルチフィラメント糸の強度と伸度は、JIS L 1013に準じて、定速伸長形引張試験機(島津製作所製オートグラフDSS-500)を用い、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分で測定した。
【0051】
実施例4
重量平均分子量20万のポリエチレンオキシド(明成化学工業株式会社製、商品名 アルコックス 品番R-400)30質量%と変性ポリエチレン樹脂(三井化学株式会社製、商品名 アドマー HE810)70質量%を混合し、予めマスターチップを作製した。そのマスターチップを用い、樹脂組成物中の含有量において、ポリエチレンオキシドが0.75質量%となるように、相対粘度(ηrel)1.62のポリエチレンテレフタレート樹脂(ユニチカ株式会社製)96.7質量%とマスターチップ3.3質量%とを混合したこと以外は、実施例3と同様にして、1337dtex/70fのポリエステルマルチフィラメント糸を得た。ポリエステルマルチフィラメント糸は、強度5.5cN/dtex、伸度18.3%、結節強度3.7cN/dtexであった。
【0052】
比較例2
構成樹脂としては、相対粘度(ηrel)1.62のポリエチレンテレフタレート樹脂(ユニチカ株式会社製)のみを使用したこと以外は、実施例3と同様にして、1402dtex/70fのポリエステルマルチフィラメント糸(実施例4、5に対する基準ポリエステル繊維)を得た。このポリエステルマルチフィラメント糸は、強度5.5cN/dtex、伸度18.3%、結節強度3.7cN/dtexであった。
【0053】
得られた実施例3、4および比較例2のマルチフィラメント糸を用いて、耐摩耗性評価試料とする8本組紐を作成した。マルチフィラメント糸は、マルチフィラメントを構成する各々の単繊維が細いため、モノフィラメント糸(1本の単繊維で構成)の耐摩耗評価のごとく、1本の糸を評価試料とせずに、組紐を作成しこれを試料とした。なお、摩耗子としては、金属やすりを使用し、耐摩耗性試験は、米倉製作所製 耐摩耗試験装置を用いて行った。評価方法は下記のとおりである。
【0054】
<マルチフィラメント糸の耐摩耗性評価 金属やすり>
試料の一端に質量200gの荷重をかけ、丸やすり(ツボミヤ社製 優良鉄工用ヤスリ丸中目)に対し、90度の角度で接触させ、ストローク幅230±30mm、ストローク速度30±1回/分で往復摩擦させ、試料が完全に破断に至るまでの回数を計測した。試料数は2点の測定とし、2点のうち低い方の摩耗回数を対比した。
【0055】
耐摩耗評価においては、室温で耐摩耗性を評価したものは「乾摩耗」とし、また、試料を工業用水に5分間浸漬後の水分を含んだ状態で耐摩耗性を評価したものは「湿摩耗」とした。なお、「湿摩耗」においては、試験開始直前と、摩耗100回毎に1ccの水を、丸やすりの位置において試料に滴下して測定した。
【0056】
結果を表4に示す。本発明の実施例3、4のポリエステルマルチフィラメント糸は、基準ポリエステルマルチフィラメント糸と比較して優れた結果であった。
【0057】