(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】ワイマラナー種の犬における先天性プレカリクレイン欠乏症の遺伝子診断
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6827 20180101AFI20220815BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220815BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220815BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220815BHJP
C07K 14/745 20060101ALN20220815BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z ZNA
G01N33/50 P
G01N33/53 M
C12N15/12
C07K14/745
(21)【出願番号】P 2019004514
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 克也
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】Takumi OKAWA et al.,J. Vet. Med Sci.,2011年08月23日,Vol. 73, No. 1,p. 107-111
【文献】Yasuhiro TAKASHIMA et al.,J. Vet. Med. Sci.,2016年12月30日,Vol. 79, No. 2,p. 387-392
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
G01N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイマラナー犬から採取された核酸検体について、犬プレカリクレイン遺伝子のc.965G>A(p.C322Y)変異を検出するステップを含む、ワイマラナー犬の先天性プレカリクレイン欠乏症の検査法。
【請求項2】
前記変異が検出された場合に先天性プレカリクレイン欠乏症に罹患していると判定する、請求項1に記載の検査法。
【請求項3】
犬プレカリクレイン遺伝子のc.965G>A(p.C322Y)変異を検出するための核酸であって、前記変異位置を含む一定領域に相補的な配列を含み、前記領域に対して特異的にハイブリダイズする核酸を含む、ワイマラナー犬の先天性プレカリクレイン欠乏症の検査試薬。
【請求項4】
請求項3に記載の検査試薬を含む、ワイマラナー犬の先天性プレカリクレイン欠乏症の検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は獣医療における検査/診断技術に関する。詳しくは、ワイマラナー種の犬(以下、「ワイマラナー犬」と略称する)の先天性プレカリクレイン欠乏症の検査法及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
血漿プレカリクレイン(以下、「PK」と略す)は血液凝固系の接触因子群(第XI因子、第XII因子、PK、高分子量キニノゲン(HMWK))の一つであり、内因系血液凝固反応、キニン生成による炎症反応、線溶反応の促進に重要な役割を担っている他、補体系の活性化による生体防御やTGF-βによる組織線維化など、多彩な生理作用に関与している。
【0003】
先天性PK欠乏症は、PK(KLKB1)遺伝子の変異(異常)によって生じる常染色体劣性遺伝性の血液凝固異常症である。本疾患(先天性PK欠乏症)の発生報告は極めて少なく、ヒトではこれまでに世界中で約90症例が報告されているにすぎない。また、これらの症例の中で遺伝子の変異が確認されたのは12例であり、日本国内では4例(内2例は同じ変異)が確認されているだけである(非特許文献1)。一方、犬の先天性PK欠乏症は、これまでに世界中で4症例の報告があるのみで、遺伝子の変異が確認されたのはシーズ種で報告された1例のみである(非特許文献2)。したがって、本疾患の原因となるPK遺伝子の変異に関する情報は極めて乏しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Girolami A, Scarparo P, Candeo N, Lombardi AM: Congenital prekallikrein deficiency. Expert Rev Hematol 3:685-695, 2010.
【文献】Okawa T, Yanase T, Shimokawa Miyama T, Hiraoka H, Baba K, Tani K, Okuda M, Mizuno T: Prekallikrein deficiency in a dog. J Vet Med Sci 73:107-111, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
犬の先天性血液凝固異常症の診断は、一般に、臨床症状(表現型)、血液凝固検査(スクリーニング検査と血液凝固因子活性の測定)およびPK遺伝子の変異の確認による。先天性PK欠乏症は出血や血栓などの臨床症状に乏しく、遺伝子にホモ接合型(homozygous)の変異(ホモ変異)がある場合に、活性化部分トロンボプラスチン時間(以下、「APTT」と略す)の延長によって発見されることが多い。しかし、ヘテロ接合型(heterozygous)の変異(ヘテロ変異)では、APTTで異常を検出することが難しい。また、APTTが延長した場合でも、血漿中のPK活性が特異的に低下していることを証明するには、内因系凝固反応に関わる6因子(第VIII因子、第IX因子、第XI因子、第XII因子、PK、HMWK)の凝固活性を、ヒトの各凝固因子欠乏血漿を用いて測定することが必要となり、高額な費用を伴う。さらに、上記の通り遺伝子の変異がシーズ種の1例にしか発見されていないこと、一般臨床での血液凝固検査では診断が困難であることから、本疾患が広く潜在している可能性がある(非特許文献2)。加えて、本疾患はPK遺伝子の変異によって発生することから、発生の拡大を防ぐためには、PK遺伝子に変異を有する潜在個体を確実に診断する必要がある。そこで本発明は、犬の先天性PK欠乏症を精度よく且つ安価に診断する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の通り、犬の先天性PK欠乏症では、PK遺伝子の変異はシーズ種の1例にしか確認されておらず、過去の例を手がかりに検討を進めることは難しい状況にあるが、本発明者は、日本国内で先天性PK欠乏症が多発しているワイマラナー犬に的を絞り、PK遺伝子の変異を同定することを試みた。検討を重ねた結果、1ヵ所の新たな点変異を同定することに成功した。当該点変異を指標(マーカー)とすれば、ホモ変異、ヘテロ変異又は正常を精度よく鑑別診断することができる。また、高額の費用も不要となる。
以上の成果に基づき、以下の発明が提供される。
[1]ワイマラナー犬から採取された核酸検体について、犬PK遺伝子のc.965G>A(p.C322Y)変異を検出するステップを含む、ワイマラナー犬の先天性PK欠乏症の検査法。
[2]前記変異が検出された場合に先天性PK欠乏症に罹患していると判定する、[1]に記載の検査法。
[3]犬PK遺伝子のc.965G>A(p.C322Y)変異を検出するための核酸であって、前記変異位置を含む一定領域に相補的な配列を含み、前記領域に対して特異的にハイブリダイズする核酸を含む、ワイマラナー犬の先天性PK欠乏症の検査試薬。
[4][3]に記載の検査試薬を含む、ワイマラナー犬の先天性PK欠乏症の検査キット。
[5]犬PK遺伝子のc.965G>A(p.C322Y)変異からなる、ワイマラナー犬の先天性PK欠乏症マーカー。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】先天性PK欠乏症と診断したワイマラナー種の家系図。番号が付記されていない個体は,検査を実施していない個体である。
【
図3】遺伝子解析及び血液凝固検査の結果。PT;プロトロンビン時間(sec),APTT;活性化部分トロンボプラスチン時間(sec),Fib;血漿フィブリノゲン濃度(mg/dL),APTTウェット法;(1):トロンボチェックAPTT試薬,(2):トロンボチェックAPTT-SLA試薬,(3):プラテリンLS-II試薬,PK;プレカリクレイン,HMWK;高分子量キニノゲン,トロンボエラストグラフ(NATEM法);CT:coagulation time(sec),CFT:clot formation time(sec),α:α angle(°),MCF:maximum clot firmness(mm),ND;検査しなかった(Not done),ホモ;ホモ接合型変異,へテロ;ヘテロ接合型変異。
【
図4】ワイマラナー犬の先天性PK欠乏症の現状と本発明の意義。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.先天性PK欠乏症の検査法
本発明の第1の局面はワイマラナー犬の先天性PK欠乏症を検査する方法(以下、「本発明の検査法」と略称することがある)に関する。本発明者の検討によって、先天性PK欠乏症を引き起こす原因としてPK遺伝子に1ヵ所の点変異c.965G>A(p.C322Y)が特定された。本発明は当該点変異を検出対象とする。具体的には、本発明の検査法では、ワイマラナー犬(被検査イヌ)から採取された核酸検体について、犬PK遺伝子のc.965G>A(p.C322Y)変異を検出する。
【0009】
慣例に従い、本明細書では、翻訳開始コドン基準の番号、即ち、翻訳開始コドンのAを1番目(1位塩基)として番号付けした位置で変異位置を特定する。
【0010】
野生型(正常型)の犬PK遺伝子(Gene ID: 475624)のmRNAの配列を配列番号1(NCBI GenBank, ACCESSION: NM_001242717 XM_532838, Version: NM_001242717.1, DEFINITION: Canis lupus familiaris kallikrein B1 (KLKB1), mRNA.)に、同アミノ酸配列を配列番号2(NCBI GenPept, ACCESSION: NP_001229646 XP_532838, VERSION: NP_001229646.1, DEFINITION: plasma kallikrein [Canis lupus familiaris].)にそれぞれ示す。
【0011】
c.965G>A(p.C322Y)変異はPK遺伝子の965位塩基(配列番号1の配列では973番目の塩基)のGからAへの置換を表す。この変異は322番アミノ酸(システイン:Cys)のチロシン(Tyr)への置換(ミスセンス変異)をもたらす。
【0012】
本発明では、核酸検体が特定の変異を有するか否か、即ち、特定の塩基位置に関して野生型であるか変異型であるかを明らかにするために「変異の検出」が行われる。従って、変異の有無を調べるための検出ないし測定を「変異の検出」又は「変異を検出する」等と表現する。
【0013】
本発明の検査法では、まず、ワイマラナー犬(被検査イヌ)から採取された核酸検体を用意する。核酸検体は被検査イヌの血液、唾液、リンパ液、尿、汗、皮膚細胞、粘膜細胞、毛髪、手術により採取あるいは切除した組織等から公知の抽出方法、精製方法を用いて調製することができる。検出対象の変異位置を含むものであれば任意の長さのゲノムDNAを核酸検体として用いることができる。
【0014】
被検査イヌはワイマラナー犬である。ワイマラナー犬はドイツ原産の犬種であり、狩猟能力の高い狩猟犬として知られている。従順でしつけやすい性格から、特に欧米では人気が高い。本発明の検査法は先天性PK欠乏症の診断に有用であり、本発明の検査法によれば、先天性PK欠乏症を発症していない個体(即ち、先天性PK欠乏症に特有の症状が認められない個体)についても、先天性PK欠乏症に罹患しているか否かを診断可能となる。後述の実施例に示した解析結果が裏付けるように、先天性PK欠乏症は臨床症状に乏しく、原因遺伝子(即ちPK遺伝子)にホモ変異がある場合を除いて、APTTは延長せず、健康なワイマラナー犬との鑑別はできなかった。即ち、ヘテロ変異についての鑑別は困難であった。このように従来のAPTTでは診断が困難であったヘテロ変異についても、本発明の検査法は適切な診断を可能にする。
【0015】
本発明ではc.965G>A(p.C322Y)変異が検出された場合、即ち、被検査イヌが変異型のPK遺伝子をホモ接合型又はヘテロ接合型に保有していることが明らかになった場合に「先天性PK欠乏症に罹患している」と判定する。本発明では、このように客観的指標、即ち、特定の遺伝子変異の有無に基づく判定が行われる。従って、正確かつ信頼度の高い診断が可能になる。尚、ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、獣医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。
【0016】
変異の検出手段は特に限定されるものではなく例えばアレル特異的プライマー(及びプローブ)を用い、PCR法による増幅、及び増幅産物の変異を蛍光又は発光によって検出する方法や、PCR(polymerase chain reaction)法を利用したPCR-RFLP(restriction fragment length polymorphism:制限酵素断片長多型)法、PCR-SSCP(single strand conformation polymorphism:単鎖高次構造多型)法(Orita,M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 86, 2766-2770(1989)等)、PCR-SSO(specific sequence oligonucleotide:特異的配列オリゴヌクレオチド)法、PCR-SSO法とドットハイブリダイゼーション法を組み合わせたASO(allele specific oligonucleotide:アレル特異的オリゴヌクレオチド)ハイブリダイゼーション法(Saiki, Nature, 324, 163-166(1986)等)、TaqMan(登録商標、Roche Molecular Systems社)-PCR法(Livak, KJ, Genet Anal,14,143(1999),Morris, T. et al., J. Clin. Microbiol.,34,2933(1996))に代表されるリアルタイムPCR法、Invader(登録商標、Third Wave Technologies社)法(Lyamichev V et al., Nat Biotechnol,17,292(1999))、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を利用した方法(Heller, Academic Press Inc, pp. 245-256(1985)、Cardullo et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8790-8794(1988)、国際公開第99/28500号パンフレット、特開2004-121232号公報など)、ASP-PCR(Allele Specific Primer-PCR)法(国際公開第01/042498号公報など)、プライマー伸長法を用いたMALDI-TOF/MS(matrix)法(Haff LA, Smirnov IP, Genome Res 7,378(1997))、RCA(rolling cycle amplification)法(Lizardi PM et al., Nat Genet 19,225(1998))、DNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法(Wang DG et al., Science 280,1077(1998)等)、プライマー伸長法、サザンブロットハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法(Southern,E., J. Mol. Biol. 98, 503-517(1975))等、公知の方法を採用できる。さらに、検出対象の変異位置を直接シークエンスすることにしてもよい。尚、これらの方法を任意に組み合わせて変異を検出してもよい。また、PCR法又はPCR法を応用した方法などの核酸増幅法により核酸試料を予め増幅(核酸試料の一部領域の増幅を含む)した後、上記いずれかの検出法を適用することもできる。
【0017】
多数の核酸検体の変異を検出する場合にはアレル特異的PCR法、アレル特異的ハイブリダイゼーション法、TaqMan(登録商標)-PCR法、Invader法、FRETを利用した方法、ASP-PCR法、プライマー伸長法を用いたMALDI-TOF/MS(matrix)法、RCA(rolling cycle amplification)法、又はDNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法等、多数の検体を比較的短時間で検出可能な検出法を用いることが特に好ましい。
【0018】
以上の方法では、各方法に応じたプローブやプライマー等の核酸(本発明において「変異検出用核酸」ともいう)が使用される。プローブとして利用される変異検出用核酸の例としては、検出対象の変異位置を含む染色体領域(部分染色体領域)に特異的にハイブリダイズする核酸を挙げることができる。従って、変異位置(965位)を含む染色体領域を標的としてプローブを設計すればよい。ここでの「部分染色体領域」の長さは、例えば16~500塩基長、好ましくは18~200塩基長、さらに好ましくは20~50塩基長である。また、当該核酸は好ましくは部分染色体領域に相補的な配列を有するが、特異的なハイブリダイゼーションに支障のない限り、多少のミスマッチがあってもよい。ミスマッチの程度としては、1~数個、好ましくは1~3個、更に好ましくは1~2個である。ここでの「特異的なハイブリダイゼーション」とは、核酸プローブによる検出の際に通常採用されるハイブリダイゼーション条件(好ましくはストリンジェントな条件)の下、標的の核酸(部分染色体領域)に対してハイブリダイズする一方で、他の核酸との間にクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。尚、当業者であれば例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)を参考にしてハイブリダイゼーション条件を容易に設定可能である。
【0019】
プライマーとして利用される変異検出用核酸の例としては、検出対象の変異位置を含む染色体領域(部分染色体領域)に相補的な配列を有し、当該変異部分を含むDNAフラグメントを特異的に増幅できるように設計された核酸を挙げることができる。プライマーとして利用される変異検出用核酸の他の例として、検出対象の変異位置がいずれかの塩基である場合にのみ当該変異位置を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計されたプライマーペアを挙げることができる。より具体的には、検出対象の変異位置を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計されたプライマーペアであって、変異位置がいずれかの塩基であるアンチセンス鎖の当該変異位置を含む染色体領域(部分染色体領域)に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、センス鎖の一部領域(変異位置の近傍領域)に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーとからなるプライマーペアを例示することができる。ここで、増幅されるDNAフラグメントの長さはその検出に適した範囲で適宜設定され、例えば15~1000塩基長、好ましくは20~500塩基長、更に好ましくは30~200塩基長である。尚、プローブの場合と同様、プライマーとして利用される変異検出用核酸についても、増幅対象(鋳型)に特異的にハイブリダイズし、目的のDNAフラグメントを増幅することができる限り、鋳型となる配列に対して多少のミスマッチがあってもよい。ミスマッチの程度としては、1~数個、好ましくは1~3個、更に好ましくは1~2個である。
【0020】
変異検出用核酸(プローブ、プライマー)には、検出法に応じて適宜DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA: Peptide nucleic acid)等が用いられる。変異検出用核酸の塩基長はその機能が発揮される長さであればよく、プローブとして用いられる場合の塩基長の例としては16~500塩基長、好ましくは18~200塩基長、さらに好ましくは20~50塩基長である。他方、プライマーとして用いられる場合の塩基長の例としては10~50塩基長、好ましくは15~40塩基長、更に好ましくは15~30塩基長である。
【0021】
変異検出用核酸(プローブ、プライマー)はホスホジエステル法など公知の方法によって合成することができる。尚、変異検出用核酸の設計、合成等に関しては成書(例えばMolecular Cloning,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New YorkやCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))を参考にすることができる。
【0022】
本発明における変異検出用核酸を予め標識物質で標識しておくことができる。このような標識化核酸を用いることにより、例えば、増幅産物の標識量を指標として変異を検出することができる。また、変異型の遺伝子における部分DNA領域に特異的なプローブと、野生型の遺伝子における部分DNA領域に特異的なプローブを異なる標識物質で標識しておけば、増幅産物から検出される標識物質及び標識量によって、変異の有無を判別できる。
【0023】
変異検出用核酸の標識に用いられる標識物質としてはFAMTM(6-carboxyfluorescein)、VICTM、TETTM(tetrachlorofluorescein)、NEDTM、HEXTM、CAL Fluor Gold 540、CAL Fluor Orange 560(CFO)、CAL Fluor Red 590、CAL Fluor Red 610、CAL Fluor Red 635、Quasar 570、Quasar 670、Quasar 705、T(JOETM)、7-AAD、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)555、Alexa Fluor(登録商標)568、Alexa Fluor(登録商標)594、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)647、CyTM 2、DsRED、EGFP、EYFP、FITC、PerCPTM、R-Phycoerythrin、Propidium Iodide、AMCA、DAPI、ECFP、MethylCoumarin、Allophycocyanin(APC)、CyTM 3、CyTM 5、Rhodamine-123、Tetramethylrhodamine、テキサスレッド(Texas Red(登録商標))、PE、PE-CyTM5、PE-CyTM5.5、PE-CyTM7、APC-CyTM7、オレゴングリーン(Oregon Green)、カルボキシフルオレセイン、カルボキシフルオレセインジアセテート、量子ドットなどの蛍光色素、32P、131I、125Iなどの放射性同位元素、ビオチンを例示でき、標識方法としてはアルカリフォスファターゼ及びT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いた5'末端標識法、T4 DNAポリメラーゼやKlenow断片を用いた3'末端標識法、ニックトランスレーション法、ランダムプライマー法(Molecular Cloning,Third Edition,Chapter 9,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)などを例示できる。
【0024】
変異検出用核酸を不溶性支持体に固定化した状態で用いることもできる。固定化に使用する不溶性支持体をチップ状、ビーズ状などに加工しておけば、これら固定化核酸を用いて変異の検出をより簡便に行うことができる。
【0025】
2.先天性PK欠乏症の検査試薬及びキット
本発明の第2の局面は、ワイマラナー犬の先天性PK欠乏症の検査に用いられる試薬及びキットを提供する。本発明の試薬は、PK遺伝子のc.965G>A(p.C322Y)変異を検出するための核酸(変異検出用核酸)からなる。
【0026】
本発明の試薬である変異検出用核酸は、それが適用される検出法(上述したアレル特異的核酸等を用いたPCR法を利用する方法、PCR-RFLP法、PCR-SSCP法、TaqMan(登録商標)-PCR法、Invader(登録商標)法、DigiTag2法等)に応じて適宜設計される。変異検出用核酸の詳細については既述の通りである。本発明のキットには、本発明の試薬(変異検出用核酸)が含まれる。本発明のキットの要素ないし成分として利用可能な変異検出用核酸又は変異検出用核酸のセット等の具体例を以下の(1)~(5)に示す。
(1)変異位置の塩基がAである、PK遺伝子の染色体領域(部分染色体領域)に相補的な配列を有する非標識又は標識核酸
(2)(1)の核酸と、変異位置の塩基がGである、PK遺伝子の染色体領域(部分染色体領域)に相補的な配列を有する非標識又は標識核酸との組合せ
(3)変異位置の塩基がAである場合にのみ、該変異部位を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計された核酸セット
(4)(3)の核酸セットと、変異位置の塩基がGである場合にのみ、該変異部位を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計された核酸セットの組合せ
(5)変異位置を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、変異位置の塩基がAである、当該変異位置を含む、PK遺伝子の染色体領域(部分染色体領域)に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー、及び/又は変異位置の塩基がGである、当該変異位置を含む、PK遺伝子の染色体領域(部分染色体領域)に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、当該部分染色体領域の近傍領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット
【0027】
変異検出用核酸を使用する際(即ち変異の検出の際)に必要な試薬(DNAポリメラーゼ、制限酵素、緩衝液、発色試薬など)や容器、器具等を本発明のキットに含めてもよい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0028】
日本で高頻度に発生しているワイマラナー犬の先天性PK欠乏症を精度よく且つ安価に診断する方法の創出を目指し、PK遺伝子における新規の変異の同定を試みた。
【0029】
1.遺伝子変異の検索
11頭のワイマラナー犬を対象として、PK遺伝子の解析を行った。特に、HMWKと結合するなどPKの機能に関わり、加えてS-S結合が多く、遺伝子(アミノ酸)変異が構造と機能に影響を与えやすい部位であるアップルドメイン4と、シーズ種の先天性PK欠乏症の原因である点変異を有する部位であるエクソン8に注目した。
【0030】
1-1.方法
1)ワイマラナー犬の末梢血白血球からゲノムDNA(genomic DNA)抽出(分離)
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)で処理した抗凝固全血を材料に、市販のQuickGene DNA全血キット(富士フイルム和光純薬(株),大阪,日本)を用いて、末梢血白血球からゲノムDNAを抽出(分離)した。尚、ゲノムDNAの最大の利点はサンプルを容易に入手できることといえる。
【0031】
2)犬PKの重鎖をコードするエクソン8のポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」と略す)による増幅
既報(非特許文献2)を参考にして、以下のプライマーを設計(作製)した。
<プライマー>
KLKB1_ex8_seq_F 配列(5'-3')CAAACCCCAGTACCAAAACC(配列番号3)
KLKB1_ex8_seq_R 配列(5'-3')GAAGGGCATAACTCATGCAA(配列番号4)
【0032】
ゲノムDNAをテンプレートにして、DNAポリメラーゼ(TaKaRa Taq Hot Start Version,タカラバイオ(株),滋賀,日本)を用いてPCR反応を行った。PCRの条件は以下の通りである。
<反応溶液>
最終容量50μL;プライマー各0.3 μM,100 ng ゲノムDNA, 1× PCR buffer for TaKaRa Taq, 250 μM dNTPs, 10 mM Tris-HCL (pH 8.9), 50 mM KCL, 2.5 mM MgCl2 を含む
<反応サイクル>
前熱変性(95℃,3分)を1サイクル
熱変性(95℃,20秒)-アニーリング反応(58℃,20秒)-重合反応(72℃,60秒)を35サイクル
伸長反応(72℃,5分)を1サイクル
尚、T100TMサーマルサイクラー(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を使用した。
【0033】
反応終了後、アガロース電気泳動によりPCR産物の確認と精製を行った。具体的には、2.0%トリスホウ酸EDTA緩衝液で調整したアガロースゲル(GenePure LE,BioExpress,UT, USA)を用いて泳動後、エチジウムブロマイド染色を施した。次に、PCRにより増幅されたDNA断片をExoSAP IT Express(ThermoFisherScientific, MA,USA)と反応させた。詳細には、PCR産物(2.0 μL)、蒸留水(10 μL)及びExoSAP IT Express(1.0 μL)を混和し、37℃で15分、80℃で15分の条件で反応させた。
【0034】
続いて、DNA断片を解析した。精製したDNAの塩基配列を自動シークエンサー(ABI 3130x/ Genetic Analyze,Applied Biosystems, Foster City, CS, USA)を用いて解析し、遺伝子変異を検出した。
【0035】
1-2.結果(
図2、3)
解析の結果、PK遺伝子の重鎖をコードするエクソン8(A4領域)に1ヵ所の点変異c.965G>A(p.C322Y)が認められた(
図2、3)。11頭中4頭は当該変異に関してホモ変異であった(
図2、3)。また、11頭中4頭にヘテロ変異を認めた(
図2、3)。
【0036】
2.血液凝固検査
2-1.方法
1)検体の調製
22G注射針と5.0 mLのデイズポーザブル注射器を用いて頚静脈、前腕橈側皮静脈あるいは後肢伏在静脈から4.5 mLの血液を採取し、直ちに抗血液凝固剤の3.2%クエン酸ナトリウム溶液0.5 mLの入ったチューブに、クエン酸溶液1容に対して全血9容の割合になるように注入した。次いで、血液と抗凝固剤を優しく転倒混和した後に、室温、3,600 rpm、15分の遠心操作で血漿を分離し、別のマイクロチューブに移注して検体(クエン酸血漿)とした。検体を保存する場合には-80℃で冷凍保存した。凍結した検体は迅速に融解し、解凍後は直ちに測定に供した。
【0037】
2)スクリーニング検査
ドライ法血液凝固検査では、基本検査として(注1)、プロトロンビン時間(PT)[血液凝固外因系と共通経路を評価する]、APTT[血液凝固内因系と共通経路を評価する]、及び血漿フィブリノゲン濃度(Fib)[フィブリノゲンの異常を評価する]の3項目を、動物専用のドライ式血液凝固分析装置(COAG2V,(株)エイアンドティー,神奈川)を用いて測定した。検査方法はメーカーの指示書に従い(注2)、専用のドライ式試薬カードに検体 25 μLを滴下して行なった。
注1:PT、APTT及びFibは血液凝固能をスクリーニングするための基本検査である。これら3項目の検査を組み合わせて測定することによって、出血傾向(血液凝固異常)の原因を推定できる(スクリーニングできる)。
注2:検査方法(メーカーの指示書による)
(1)マイクロチューブにクエン酸血漿(検体)50 μLを分取後、PT・APTT測定用希釈液50 μLを添加し、混和する(2倍希釈検体の作製)。
(2)動物用管理医療機器構成品(ドライ式試薬カード)PTまたはAPTTをCOAG2Vにセットし、2倍に希釈した検体(試料)を25 μL添加し、測定する。
(3)マイクロチューブにクエン酸血漿(検体)25 μLを分取後、フィブリノゲン測定用希釈液350 μLを添加し、混和する(15倍希釈検体の作製)。
(4)動物用管理医療機器構成品(ドライ式試薬カード)FibをCG02NVにセットし、15倍に希釈した検体(試料)を25 μL添加し、測定する。
【0038】
3)ウェット法によるAPTT測定
APTTを3種類の性状の異なる試薬(トロンボチェックAPTT(シスメックス(株),神戸)、トロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス(株),神戸)、プラテリンLS II(協和メデックス(株),東京))を用いて測定した。
【0039】
3-1)APTT試薬
(1)トロンボチェックAPTT;リン脂質としてはウサギ脳由来セファリン、活性化剤としてエラグ酸を用いている。
(2)トロンボチェックAPTT-SLA;リン脂質としては合成リン脂質、活性化剤としてエラグ酸を用いている。
(3)プラテリンLS II;リン脂質としてニワトリおよびブタ由来リン脂質、活性化剤として軽質無水ケイ酸(SiO2)を用いている。
【0040】
3-2)測定(操作)法
半自動血液凝固分析装置KC-4 steel ball coagulometer(Amelung, Lieme, Germany)を使用し、以下の手順で測定した。
(1)測定用キュベットにスチールボールを1個入れ、クエン酸血漿(検体)50μLを分注する(同時測定用に4チャネルがあるので、それぞれ同様に行なう)。
(2)各キュベットにAPTT試薬(試薬毎、別々に行なう)を50 μL添加後、キュベット立てをKC4の測定部にセットし、37℃で3分間(プラテリンLS IIの場合、5分間)、インキュベートする。
(3)インキュベート後、予め37℃に加温した0.02 M(プラテリンLS IIの場合、0.025 M)塩化カルシウム溶液50 μLを各キュベットに加え、APTTを測定する。
(4)独立した2回の測定を実施する。
【0041】
4)内因系凝固反応に関わる6因子(前記)の活性の測定
半自動血液凝固分析装置KC-4 steel ball coagulometer(Amelung, Lieme, Germany)を使用して測定した。
【0042】
4-1)検量線の作成
(1)健常な犬数頭から採取した3.2%クエン酸血漿を混和して作製したプール血漿を、TC緩衝液(シスメックス(株),神戸)で5倍(因子含有率100%に相当)、10倍(因子含有率50%に相当)、20倍(因子含有率25%に相当)、40倍(因子含有率12.5%に相当)、80倍(因子含有率6.25%に相当)、160倍(因子含有率3.125%に相当)の6段階に希釈し、プール血漿の希釈列を作製した。
(2)測定用キュベットにスチールボールを1個入れ、希釈したプール血漿50 μLを分注する(同時測定用に4チャネルがあるので、それぞれ同様に行なう)。
(3)次いでヒト欠乏血漿(注3)50 μLを添加し、さらにAPTT試薬(注4)を50 μL添加して測定部にセットし、37℃で3分間(プラテリンLS IIの場合、5分間)、インキュベートする。
(4)インキュベート後、予め37℃に加温した0.02 M(プラテリンLS IIの場合、0.025M)塩化カルシウム溶液50 μLを各キュベットに加え、APTTを測定する。
(5)測定値(凝固時間(sec))から両対数グラフを用いて、X軸に因子含有率(%)(上記)、Y軸に凝固時間(sec)をプロットし、検量線を作成する。
【0043】
注3:ヒト欠乏血漿
第VIII因子欠乏血漿,第IX因子欠乏血漿,第XII因子欠乏血漿;ヒトから得られた欠乏血漿(シスメックス(株),神戸)
第XI因子欠乏血漿;ウシから得られた欠乏血漿(シスメックス(株),神戸)
PK欠乏血漿;ヒトから得られた欠乏血漿(George King Bio-Medical, Inc., Kansas, USA)(コスモ・バイオ扱い)
キニノゲン欠乏血漿;ヒトから得られた欠乏血漿(Affinity Biologicals, Inc., Ancaster, Ontario, USA)(コスモ・バイオ扱い)
【0044】
注4:APTT試薬
第VIII因子,第IX因子,第XII因子活性測定;トロンボチェックAPTT
第XI因子,HMWK;トロンボチェックAPTT-SLA
PK;プラテリンLS II
【0045】
4-2)被検検体の測定
(1)被検検体をTC緩衝液で5倍希釈する。
(2)検量線の作成の手順(2)~(4)と同様に操作し、凝固時間を測定する。
(3)得られた凝固時間をもとに、(4-1(5)で作成した)検量線から凝固因子含有率(活性)を算出する。
【0046】
5)トロンボエラストグラフ法(参考文献;Clin. Lab. 2016;62:2145-2148、参考資料;ROTEM parameters)
3.2%クエン酸ナトリウム溶液で抗凝固処置した全血を検体とする。血液凝固異常の検出感度の良いNon-activated rotational thromboelastometry assay (NATEM) (ROTEM(登録商標), TEM International, Munich, Germany) 法を用いる。即ち、抗凝固全血300 μLに20 μLの0.2 M CaCl2 Star-tem reagent (ROTEM(登録商標), TEM international, Munich, Germany)を添加し(Ca再加による凝固反応)、ROTEM(登録商標)装置(TEM international, Munich, Germany)に設置された自動ピペットでミキシング後、120分間、反応を観察した。評価は、coagulation time (CT)、clot formation time (CFT),α angle及びmaximum clot firmness (MCF)で行った。
【0047】
2-2.結果(
図3)
1)スクリーニング検査
遺伝子解析でホモ変異が検出された4頭は、APTTのみが重度に延長していた。ヘテロ変異が検出された4頭では、3頭が基準範囲(13.1~26.9 sec)内の値であった。遺伝子に変異のなかった3頭は、いずれも基準範囲内の値であった。
【0048】
2)ウェット法によるAPTT測定
APTTを性状の異なる3種類の試薬を用いて測定したところ、遺伝子解析でホモ変異が検出された4頭は、いずれのAPTT試薬によってもAPTTが延長した。特にプラテリンLSIIでのAPTT延長が顕著であった。
【0049】
ヘテロ変異を認めた4頭では、3頭のAPTTはいずれのAPTT試薬によっても延長しなかったが、スクリーニング検査でAPTTが延長していた他の1頭は、プラテリンLS IIでのみ軽度の延長を認めた。遺伝子に変異のなかった3頭は、いずれも基準範囲内の値であった。
【0050】
3)凝固因子活性の測定
遺伝子解析でホモ変異が検出された4頭は、PK活性だけが重度に低下していた(0.6,3.2,14.3,3.8 sec)。ヘテロ変異の4頭では、3頭のPK活性がやや低下していたが(59.2,63.0,65.7%)、いずれも基準範囲内(50%<)の値であった。他の1頭は95.7%で、(遺伝子に変異のない)健常個体と差はなかった。遺伝子に変異のなかった3頭は、内因系6因子の全ての因子活性が基準範囲内(50%<)の値であった。尚、スクリーニング検査とウェット法検査でAPTTが延長していたヘテロ変異の1頭のPK活性は63.0%であった。また、PK活性が59.2%と65.7%にわずかに低下していたヘテロ変異の2頭は、APTT検査で異常を検出できなかった。
【0051】
4)トロンボエラストグラフ法
遺伝子解析でホモ変異が検出された3頭ではCTとCFTが延長していた。しかし、α角度とMCFは、ヘテロ変異の2頭、遺伝子に変異のなかった2頭と明らかな差はみられなかった。
【0052】
3.まとめ
・先天性PK欠乏症の原因となるPK遺伝子の新規の変異(c.965G>A(p.C322Y))の同定に成功した。当該変異に関してホモ変異の個体は血液凝固検査でも異常を認めた。対照的に、ヘテロ変異の個体については、4頭中3頭が血液凝固検査で明確な異常を示さなかった。
・新規変異を指標にすれば、PK遺伝子のホモ変異の個体はもとより、臨床症状がなく、しかも血液凝固検査では特定することができなかったヘテロ変異の個体を鑑別できる。潜在するヘテロ変異の個体を特定できれば、先天性PK欠乏症の発生拡散を防止(発生制御)し、先天性PK欠乏症の撲滅に繋がる(
図4)。また、先天性PK欠乏症を発症する可能性のある個体のQOL(生活の質)の向上がもたらされる(
図4)。例えば、臨床症状がなくとも変異が内在(潜在)していることを把握することで、外傷、手術などの「有事」に適切に対応できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
従来、犬の先天性PK欠乏症の診断にはAPTTの延長とPK活性の低下が指標とされている。しかしながら、PK欠乏症は臨床症状に乏しく、遺伝子にホモ変異がある場合を除いて、APTTは延長せず、健康なワイマラナー犬との鑑別はできなかった。また、PK活性の低下を確認するためには高額な費用が必要となる。本発明の検査法によれば、遺伝子変異という客観的指標に基づき、精度よく先天性PK欠乏症を診断/鑑別できる。また、従来のAPTTでは診断できなかったヘテロ変異も特定することができる。さらには、従来の方法よりも大幅に費用を抑えることができ、獣医領域の医療費削減への貢献も期待できる。
【0054】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリーテキスト】
【0055】
配列番号3:人工配列の説明:Primer KLKB1_ex8_seq_F
配列番号4:人工配列の説明:Primer KLKB1_ex8_seq_R
【配列表】