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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】腎ターゲティング型薬物送達用担体
(51)【国際特許分類】
   A61P 13/12 20060101AFI20220815BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20220815BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20220815BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20220815BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220815BHJP
   A61K 31/401 20060101ALI20220815BHJP
   C08G 69/48 20060101ALI20220815BHJP
   C07D 207/16 20060101ALN20220815BHJP
【FI】
A61P13/12
A61K47/59
A61K47/60
A61K31/198
A61K45/00
A61K31/401
C08G69/48
C07D207/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019528002
(86)(22)【出願日】2018-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2018026414
(87)【国際公開番号】W WO2019009436
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2017132806
(32)【優先日】2017-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508319602
【氏名又は名称】学校法人京都薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】勝見 英正
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0136697(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0173172(US,A1)
【文献】NAVATH R.S. et al.,'Amino Acid-Functionalized Dendrimers with Heterobifunctional Chemoselective Peripheral Groups for D,Biomacromolecules,2010年,Vol.11, p.1544-1563
【文献】AOI K. et al.,Globular carbohydrate macromolecule "Sugar Balls",2 Synthesis of mono(glycopeptide)-persubstituted dendrimers by polymer reaction with sugar-substituted α-amino acid N-carboxyanhydrides(glycoNCAs),Macromol. Rapid Commun.,1998年,Vol. 19,P. 5-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/48
A61K 47/59
A61K 47/60
A61P 13/12
A61K 31/198
A61K 45/00
A61K 31/401
C07D 207/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の末端基を有する高分子担体の全末端基数の少なくとも50%に直接又はリンカーを介して、セリンのカルボニル基がペプチド結合又はエステル結合により連結してなる化合物であって、前記高分子担体が、デンドリマー又はデンドロンである、化合物からなり、生体内において腎臓へ選択的に薬物を送達するための薬物送達用担体。
【請求項2】
前記デンドリマー又はデンドロンが、ポリアミドアミン、ポリリジン、ポリエチレングリコールと2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸から構成されるデンドロン、及び2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸から構成されるデンドロンからなる群より選択される化合物から構成される、請求項1に記載の薬物送達用担体
【請求項3】
請求項1又は2に記載の薬物送達用担体に、薬物が直接又はリンカーを介して結合しているか、あるいは内包されてなる、医薬。
【請求項4】
前記薬物が、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、抗癌剤、抗炎症剤、感染症治療剤、抗線維化剤、免疫抑制剤、抗酸化剤、核酸医薬、放射性薬剤及び造影剤からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
前記薬物がカプトプリルであり、カプトプリルが前記薬物送達用担体のセリン修飾された部分のセリン由来の末端アミノ基にリンカーを介して結合してなる、請求項3に記載の医薬。
【請求項6】
前記薬物がシステインであり、システインが前記薬物送達用担体のセリン修飾されていない末端基に直接又はリンカーを介して、システインのカルボニル基がペプチド結合又はエステル結合により連結してなる、請求項3に記載の医薬。
【請求項7】
腎疾患の予防または治療剤である、請求項3~6のいずれか一項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内において腎臓、特に、近位尿細管に選択的に集積する腎ターゲティング型薬物送達用担体、及び該担体に薬物が結合又は内包されてなる腎ターゲティング型医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の体内動態を制御することで薬物を最も有効且つ安全に投与するための剤形開発、すなわち、ドラッグデリバリーシステムは近年、医薬品開発において注目を集めているが、腎臓に選択的に集積する薬物送達用担体はほとんど開発されていない。
例えば、コハク酸やアコニチン酸で修飾された薬物は、比較的腎臓に集積しやすいことが知られているが、同時に肝臓へも集積する(非特許文献1)。
また、ポリビニルピロリドン系化合物は、腎臓選択的に集積するターゲティング素子として注目されたが、人工ポリマーであるため、腎臓へ分布された後、分解されにくく蓄積性、安全性が懸念され、腎臓ターゲティング素子としての臨床応用は困難な状況にあり、実用化には至っていない(非特許文献2)。
腎疾患には 糸球体腎炎、IgA腎症、糖尿病性腎症、膜性腎症、水腎症、造影剤腎症、腎盂腎炎、腎不全、急性腎炎、慢性腎炎、尿毒症、間質性腎炎、腎障害、ネフローゼ症候群、高血圧性腎硬化症、糖尿病性糸球体硬化症、腎結石、アミロイド腎、腎静脈血栓症、Alport症候群、腎腫瘍等の様々な疾患があることから、腎臓選択的に集積する薬物送達用担体の開発は、これら疾患の治療において、極めて重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Yamasaki,Y.et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,2002 May;301(2):467-477
【文献】Kamada,H.et al.,Nat Biotechnol.,21(4):399-404(2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような背景のもと、安全性及び生体適合性に優れ、且つ腎臓への標的化効率が高い薬物送達用担体の開発がますます求められている。
【0005】
本発明の目的は、生体由来成分であるセリンを腎臓ターゲティング素子として用いて、生体適合性が高く、腎臓に選択的に集積する実用的な薬物送達用担体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる状況下、鋭意検討を重ねた結果、デンドリマー、デンドロン、デキストラン及びキトサンからなる群より選択される、複数の末端基を有する高分子担体の全末端基数の少なくとも50%に直接又はリンカーを介して、セリンのカルボニル基がペプチド結合又はエステル結合により連結してなる化合物(以下、「本発明の化合物」と称することもある。)、及び該化合物に薬物が直接又はリンカーを介して結合しているか、あるいは内包されてなる、医薬が高い腎移行選択性及び腎臓への高い標的化効率を実現できることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]複数の末端基を有する高分子担体の全末端基数の少なくとも50%に直接又はリンカーを介して、セリンのカルボニル基がペプチド結合又はエステル結合により連結してなる化合物であって、前記高分子担体が、デンドリマー、デンドロン、デキストラン及びキトサンからなる群より選択される、化合物。
[2]前記高分子担体が、デンドリマー又はデンドロンである、上記[1]に記載の化合物。
[3]前記デンドリマー又はデンドロンが、ポリアミドアミン、ポリリジン、ポリエチレングリコールと2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸から構成されるデンドロン、及び2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸から構成されるデンドロンからなる群より選択される化合物から構成される、上記[2]に記載の化合物。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の化合物からなり、生体内において標的組織へ選択的に薬物を送達するための薬物送達用担体。
[5]前記標的組織が腎臓である、上記[4]に記載の薬物送達用担体。
[6]上記[4]又は[5]に記載の薬物送達用担体に、薬物が直接又はリンカーを介して結合しているか、あるいは内包されてなる、医薬。
[7]前記薬物が、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、抗癌剤、抗炎症剤、感染症治療剤、抗線維化剤、免疫抑制剤、抗酸化剤、核酸医薬、放射性薬剤及び造影剤からなる群より選択される少なくとも一種である、上記[6]に記載の医薬。
[8]前記薬物がカプトプリルであり、カプトプリルが前記薬物送達用担体のセリン修飾された部分のセリン由来の末端アミノ基にリンカーを介して結合してなる、上記[6]に記載の医薬。
[9]前記薬物がシステインであり、システインが前記薬物送達用担体のセリン修飾されていない末端基に直接又はリンカーを介して、システインのカルボニル基がペプチド結合又はエステル結合により連結してなる、上記[6]に記載の医薬。
[10]腎疾患の予防または治療剤である、上記[6]~[9]のいずれかに記載の医薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明の化合物、及び該化合物に薬物が共有結合的若しくは非共有結合的に取り込まれた医薬は、腎臓移行率が格別に高く、且つ他の臓器への移行は殆どない高い腎臓選択性を示すことから、各種腎疾患の予防剤(検査薬)または治療剤として極めて有用である。また、本発明の化合物及び該化合物に薬物が結合又は内包してなる医薬(以下、「本発明の医薬」又は「本発明の医薬組成物」と称することもある。)は、生体由来のセリンを腎ターゲティング素子として使用していることから、生体適合性や安全性に優れ、また簡便に合成可能である等の利点を有していることから、薬効に優れ、副作用の低減された実用的な薬物送達用担体として幅広い用途への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】aは、比較例1の化合物の体内動態を示し、bは、化合物1aの体内動態を示し、cは、比較例2の化合物の体内動態を示し、及びdは、比較例3の化合物の体内動態を示す。
図2】Dye800標識化合物1aの静脈注射後の臓器分布の微弱光イメージング画像を示す。Aは、マウスの全身を撮像した画像を示し、Bは、摘出臓器を撮像した画像を示す。
図3】FITC標識化合物1aの静脈内投与後60分のマウスの腎切片の顕微鏡画像を示す。aは、腎皮質の画像を示し、bは、腎皮質の拡大画像を示し、cは、髄質の画像を示す。
図4】A及びBは、LLC-PK1細胞単層膜の吸収方向および分泌方向における化合物1a及び比較例1の膜透過性をそれぞれ示す。Cは、LLC-PK1細胞における111In標識化合物1aの細胞内取り込みに対する各種阻害剤の影響を示す。
図5】カプトプリル-化合物1aのマウスへの投与後のカプトプリルの体内動態を示す。aは、血漿中のカプトプリル濃度の変化を示し、bは、腎臓中のカプトプリル濃度の変化を示し、カプトプリル濃度は、HPLCにより測定された結果を示す。
図6】カプトプリル単独投与後、及びカプトプリル-化合物1a投与後の腎臓中のアンジオテンシン変換酵素(ACE)活性の変化を示す。
図7】システイン-化合物1aの体内動態を示す。
図8】虚血再灌流マウスにおける、システイン-化合物1a投与後の腎臓切片画像を示す。
図9111In標識化合物1aの静脈注射後の臓器分布のSPECT/CTイメージング画像を示す。
図10】AおよびBは、それぞれ、未処置、PBS、化合物1a、または陽性対照であるHgClの投与後の血漿中のクレアチニン濃度および尿素窒素(BUN)濃度を示し、Cは、未処置、PBS、化合物1a、または陽性対照であるHgClの投与後の腎臓切片画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の詳細を説明する。
【0011】
(定義)
【0012】
本明細書中、「複数の末端基を有する高分子担体」における高分子担体とは、デンドリマー、デンドロン、デキストラン及びキトサンからなる群より選択され、末端基とは、該高分子担体の末端(デンドリマー又はデンドロンの場合は、各枝の末端を意味する。)に存在する官能基を意味し、求核基(例、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基等)であっても求電子基(例、ホルミル基、カルボニル基等)であってもよい。
高分子担体としては、複数の末端基を有するものであれば、特に限定されないが、好ましくは、ポリアミドアミン、ポリリジン、ポリエチレングリコールと2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸から構成されるデンドロン、又は2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸から構成されるデンドロンからそれぞれ構成されるデンドリマー又はデンドロン(例、Sigma-Aldrich社から市販されている2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸デンドロン等)であり、複数の末端基として、アミノ基、ヒドロキシ基等を有するものが挙げられる。より好ましい高分子担体としては、アルキルジアミン(例、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,12-ジアミノドデカン等)をコアとするポリアミドアミンからなるデンドリマー(PAMAM)、又はアルキルジアミン(例、1,6-ジアミノヘキサン等)をコアとするポリリジンから構成されるデンドリマー(例、M.Ohsaki et al.,Bioconjugate Chem.,2002,13,510-517に記載のポリリジンデンドリマー等)及びポリリジンから構成されるデンドロン(例、K.L.Chang et al.,J.Control.Release.,2011,156,195-202に記載のポリリジンデンドロン等)であり、複数の末端基として、アミノ基又はヒドロキシ基を有するものが挙げられる。中でも、末端基がアミノ基であるPAMAM-NHデンドリマー(例、Sigma-Aldrich社から市販されている第1世代~第5世代のPAMAM-NHデンドリマー等)が特に好ましい。また、上記高分子担体を構成する各構成単位(デンドリマー又はデンドロンのコア及び枝部分、或いはモノマー単位)は、本発明の目的に悪影響を及ぼさない範囲で(例えば、薬物等と反応しない範囲で)、例えば、C1-12アルキル基、ハロゲン原子(例、フッ素原子等)等の置換基により置換されていてもよい。
かかる高分子担体の分子量は、生体への投与に支障がない限り、特に限定されるものではないが、約1000~30000Daであり、好ましくは、約3000~15000Daであり、より好ましくは、約3000~7000Daである。
【0013】
本明細書中、「全末端基数の少なくとも50%」とは、前記高分子担体の末端基(すなわち、末端に存在する官能基)の総数に対して少なくとも50%(50%以上)の数の末端基を意味する。
【0014】
本明細書中、「リンカー」とは、セリンのカルボキシ基を複数の末端基を有する高分子担体の末端基に共有結合的に(ペプチド結合又はエステル結合により)連結させる原子の鎖(以下、「第1のリンカー」と称することもある。)であるか、或いは薬物をセリン修飾された高分子担体の末端基のうちセリン由来の末端アミノ基、またはセリン修飾された高分子担体のセリン修飾されていない部分の末端基に共有結合的又は非共有結合的に連結させる原子の鎖、包接部位又はキレート部位(以下、「第2のリンカー」と称することもある。)を含む、二官能性(ホモ二官能性又はヘテロ二官能性)又は多官能性の化学部分を意味する。
二官能性リンカーは、好ましくは、式:
【0015】
【化1】
【0016】
[式中、Xは第1反応性部分であり、Rはスペーサーであり、Yは第2反応性部分である]を有するリンカー試薬から形成される。X及びYは同一(すなわち、ホモ二官能性リンカー)でも異なって(すなわち、ヘテロ二官能性リンカー)いてもよい、適当な反応性部分であり得る。適当な反応性部分にはアルデヒド(ホルミル基)、アミノ基、ハロゲン、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ジエン、ヒドラジド、マレイミド、NHSエステル、ホスホリル基、スルフヒドリル基及び他の反応性部分が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、X及びYのいずれかがハロゲン、ホルミル基、カルボキシ基、ヒドラジド、マレイミド又はスルフヒドリル基である。スペーサー(R)は、適当な未置換もしくは置換脂肪族または芳香族有機部分であり得る。適当な有機部分は、カルボニル、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アリールアルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコシアルキル、ハロアリール、ヒドロキシアルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルカノイル、アルケニル及びアルキニルからなる群から選択される二価の基であり得るが、それらに限定されるわけではない。スペーサーは、好ましくは1~20炭素原子、より好ましくは2~12炭素原子を含む。
【0017】
本発明において、末端基にセリンのカルボニル基又は薬物を共有結合的に連結させる第1のリンカー又は第2のリンカーは、一又は複数の二官能性リンカーからなっていてもよい。かかる二官能性リンカーを形成するリンカー試薬としては、様々な試薬会社から市販されているリンカー試薬(例えば、Pierce Inc.やSigma-Aldrich Co.LLC.等の試薬会社のカタログを参照されたい。)が挙げられ、これらの試薬を用いて自体公知の方法により、当業者により容易に導入され得る。かかる二官能性リンカーを形成するリンカー試薬としては、例えば、6-マレイミドカプロイル(MC)、マレイミドプロパノイル(MP)、p-アミノベンジルオキシカルボニル(PAB)、一又は複数の繰り返しユニットとしてのエチレンオキシ(-CHCHO-;EO又はPEG)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)プロパノエート(SPDP)、PEG化長鎖SPDPクロスリンカー、N-スクシンイミジル-[(N-マレイミドプロピオンアミド)-nエチレングリコール]エステル(SM(PEG)n)(ここで、nは、2、4、6、8、12、24等)、N-スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、N-スクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシ-(6-アミドカプロエート(LC-SMCC)、2-イミノチオラン(Trauts試薬)、スルホスクシンイミジル 6-(3’-(2-ピリジルチオ)プロピオンアミド)ヘキサノエート(sulfo-LC-SPDP)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N-スクシンイミジル-(4-ヨードアセチル)アミノ安息香酸エステル(SIAB)、ビス-マレイミド-トリオキシエチレングリコー(BMPEO)、N-β-マレイミドプロピル-オキシスクシンイミド エステル(BMPS)、N-ε-マレイミドカプロイル-オキシスクシンイミド エステル(EMCS)、N-γ-マレイミドブチリル-オキシスクシンイミド エステル(GMBS)、1,6-ヘキサン-ビス-ビニルスルホン(HBVS)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミド エステル(MBS)、4-(4-N-マレイミドフェニル)酪酸 ヒドラジド(MPBH)、スクシンイミジル3-(ブロモアセトアミド)プロピオネート(SBAP)、スクシンイミジルヨードアセテート(SIA)、スクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート(SMPB)、スクシンイミジル 6-((β-マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート)(SMPH)、N-ε-マレイミドカプロイル-オキシスクシンイミド エステル(スルホ-EMCS)、N-γ-マレイミドブチリル-オキシスクシンイミド エステル(スルホ-GMBS)、N-[κ-マレイミドウンデカノイルオキシ]-スルホスクシンイミド エステル(スルホ-KMUS)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスルホスクシンイミド エステル(スルホ-MBS)、スルホスクシンイミジル (4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート(スルホ-SIAB)、スルホスクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(スルホ-SMCC)、スルホスクシンイミジル 4-(N-マレイミドフェニル)ブチレート(スルホ-SMPB)、スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾアート(SVSB)、ジチオビスマレイミドエタン(DTME)、1,4-ビスマレイミドブタン(BMB)、1,4-ビス-マレイミジル-2,3-ジヒドロキシブタン(BMDB)、ビス(マレイミド)ヘキサン(BMH)、ビス(マレイミド)エタン(BMOE)、1,8-ビスマレイミド-ジエチレングリコール(BM(PEG))、1,11-ビスマレイミド-トリエチレングリコール(BM(PEG))、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-ペンタ酢酸 二無水物(DTPA anhydride)等から選択される一又は複数の市販のリンカー試薬により形成されるリンカーが挙げられるが、これらに限定されない。中でも、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)プロパノエート(SPDP)、PEG化長鎖SPDPクロスリンカー、N-スクシンイミジル-[(N-マレイミドプロピオンアミド)-nエチレングリコール]エステル(SM(PEG)n)(ここで、nは、2、4、6、8、12、24等)、N-スクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシ-(6-アミドカプロエート(LC-SMCC)、2-イミノチオラン(Trauts試薬)及びスルホスクシンイミジル6-(3’-(2-ピリジルチオ)プロピオンアミド)ヘキサノエート(sulfo-LC-SPDP)からなる群より選択される一又は複数のリンカー試薬により形成されるリンカーが特に好ましい。
【0018】
本発明において、末端基に薬物を非共有結合的に包接又はキレートさせて保持する第2のリンカーとしては、例えば、セリン修飾された高分子担体のセリン由来の末端アミノ基、またはセリン修飾された高分子担体のセリン修飾されていない部分の末端基に結合し得、末端に薬物を内包させることが可能な分子認識部分(包接部分又はキレート部分)を有するリンカーが挙げられる。かかるリンカーは、セリン修飾又は未修飾の、末端基に直接又は前記した一又は複数の二官能性リンカーを介して、薬物を内包させることが可能な包接部分又はキレート部分が末端に結合したものである。かかる包接部分又はキレート部分は、薬物とは共有結合によって連結されないが、薬物と非共有結合的な相互作用により繋げる部分であるので、本明細書中では、二官能性リンカーの1つとして定義する。かかる包接部分又はキレート部分としては、例えば、3A-アミノ-3A-デオキシ-(2AS,3AS)-γ-シクロデキストリン水和物、コレステロール、コール酸、C60フラーレン等の包接部分、及びジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-ペンタ酢酸(DTPA)等のキレート部分等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本明細書中、高分子担体の末端基に「直接又はリンカーを介して、セリンのカルボニル基がペプチド結合又はエステル結合により連結してなる」とは、高分子担体に複数存在する各末端基、又は各末端基に前記第1のリンカーが結合することにより形成される新たな末端基のそれぞれが、アミノ基又はヒドロキシ基であり、セリンのカルボキシ基とペプチド結合又はエステル結合により連結することにより導入された状態を意味する。
【0020】
本明細書中、「セリン修飾された」及び「セリン修飾されていない」とは、それぞれ、高分子担体の末端基とセリンのα位カルボキシ基が、直接又はリンカーを介してペプチド結合又はエステル結合により連結されている状態、及び高分子担体の末端基にセリンが連結されていない状態を意味する。
【0021】
本発明の化合物又は本発明の医薬において、高分子担体の末端基のセリン修飾された部位(特に、セリン由来のヒドロキシ基)は、腎ターゲティング素子として機能する。「腎ターゲティング素子」とは、腎臓に対し特異的に結合して本発明の化合物又は医薬と生物学的な結合対を形成し得る、生物学的な認識機能を有する部位を意味する。
【0022】
本発明の化合物又は本発明の医薬が高い腎移行性及び腎選択性を発現するために必要な高分子担体の末端基へのセリンの導入率(セリン修飾率)は、全末端基数に対して、少なくとも50%であり、好ましくは、60%以上であり、より好ましくは、70%以上、特に好ましくは、80%以上である。
【0023】
本明細書中、「薬物」としては、例えば、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、抗癌剤、抗炎症剤、感染症治療剤、抗線維化剤、免疫抑制剤、抗酸化剤、核酸医薬、放射性薬剤、造影剤等が挙げられる。薬物の種類は、特に限定されない。薬物の具体例を以下に示すが、以下の具体例に限定されるものではない。
【0024】
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤としては、例えば、カプトプリル、イミダプリル、エナラプリル、リシノプリル、ベナゼプリル、ベリンドプリル、デラプリル、トランドプリル、シラザプリル等が挙げられる。
【0025】
抗癌剤としては、例えば、BCG、アクチノマイシンD、アスパラギナーゼ、アセグラトン、アナストロゾール、アロプリノール、アントラサイクリン、ビカルタミド、抗アンドロゲン、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、イリノテカン、インターフェロン、インターフェロンアルファ、インターロイキン-2、ウベニメクス、エキセメスタン、エストラムスチン、エストロゲン、エトポシド、エノシタビン、エピルビシン、オキサリプラチン、オクトレオチド、カペシタビン、カルボコン、カルボプラチン、カルモフール、クラドリビン、クラリスロマイシン、クレスチン、ケトコナゾール、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ゲムツズマブ、ゴセレリン、シクロホスファミド、シスプラチン、シゾフィラン、シタラビン、シプロヘプタジン、ジノスタチンスチマラマー、セツキシマブ、ソブゾキサン、タモキシフェン、ダウノルビシン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、チオテパ、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、デキサメタゾン、トポテカン、トラスツズマブ、トリプトレリン、トレチノイン、トレミフェン、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、ドセタキセル、ニムスチン、ネオカルチノスタチン、ネダプラチン、パクリタキセル、ヒドロキシウレア、ヒドロキシカルバミド、ビカルタミド、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、ピシバニール、ピラルビシン、ファドロゾール、フルオロウラシル、フルタミド、フルダラビン、ブスルファン、ブレオマイシン、プレドニゾン、プロカルバジン、プロゲスチン、ペプロマイシン、ペントスタチン、ポルフィマーナトリウム、マイトマイシン、ミトキサントロン、ミトタン、メスナ、メトトレキサート、メドロキシプロゲステロン、メルカプトプリン、メルファラン、ラニムスチン、リツキシマブ、リュープロライド、レチノイン酸、レンチナン、ロイコボリン等が挙げられる。上記の抗癌剤は単独で用いてもよいし、2種類以上の抗癌剤を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
抗炎症剤としては、ステロイド系抗炎症剤及び非ステロイド系抗炎症剤が挙げられる。
ステロイド系抗炎症剤としては、例えば、副腎皮質ステロイド系の抗炎症剤、例えば、デキサメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、ベクロメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロンジアセテート、コルチゾン、コルチゾール、パラメタゾン、トリアムシノロン、ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、ジフロラゾン、フルメタゾン、フルオシノニド、フルオシノロンアセトニド、アルクロメタゾン、フルドロコルチゾン等、またはそれらの塩が挙げられる。より具体的には、例えば、デキサメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、プロピオン酸ベクロメタゾン、コハク酸ヒドロコルチゾン、コハク酸メチルプレドニゾロン、酢酸デキサメタゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、デキサメタゾンメタスルホ酸安息香酸、トリアムシノロンジアセテート、ブチル酢酸プレドニゾロン、リン酸デキサメタゾン、リン酸ヒドロコルチゾン、リン酸プレドニゾロン、リン酸ベタメタゾン、コハク酸プレドニゾロン、酢酸コルチゾン、酢酸パラメタゾン、酢酸メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、吉草酸プレドニゾロン、吉草酸ジフルコルトロン、吉草酸デキサメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、酢酸ジフルプレナート、酢酸ジフロラゾン、ジフルプレドナート、ジプロピオン酸ベタメタゾン、ピバル酸フルメタゾン、フルオシノニド、フルオシノロンアセトニド、プロピオン酸アルクロメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、酪酸クロペタゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、酪酸フルドロコルチゾン、パルチミン酸デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン等が挙げられる。
非ステロイド系抗炎症薬としては、例えば、NSAIDやCOX-2阻害剤等が挙げられる。より具体的には、例えば、アセチルサリチル酸、アルクロフェナク、アルミノプロフェン、ベノキサプロフェン、ブチブフェン、ブクロクス酸、カルプロフェン、セレコキシブ、クリデナック(clidenac)、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェンブフェン、フェノプロフェン、フェンティアジック(fentiazic)、フルフェナミン酸(flufenamic acid)、フルフェナソール(flufenasol)、フルルビプロフェン、フロフェナク、イブフェナック、イブプロフェン、インドメタシン、インドプロフェン、イソキセパク、イソキシカム、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナム酸、メフェナム酸、メロキシカム、ミロプロフェン、ナプロキセン、オキサプロジン、オキシフェンブタゾン、オキシピナック(oxpinac)、パレコキシブ、フェニルブタゾン、ピクラミラスト、ピロキシカム、ピルプロフェン、プラノプロフェン、ロフェコキシブ、スドキシカム、スリンダク、スプロフェン、テンクロフェナック(tenclofenac)、チアプロフェン酸、トルフェナム酸、トルメチン、トラマドール、バルデコキシブ、ゾメピラク等、またはそれらの塩等が挙げられる。
【0027】
感染症治療剤としては、例えば、レボフロキサシン、セフトリアキソン、ミノサイクリン、サルファメソキサゾール、トリメトプリム等が挙げられる。
【0028】
抗線維化剤としては、例えば、ピリドン誘導体、パーフェニドン、パンテチン、システイン、ヒスチジン、S-アリルシステイン、成長因子、HGF(Hepatocyte growth factor)、ベペルミノゲンペルプラスミド、オステオアクチビン、アルドステロン拮抗薬、ACE阻害薬、塩酸イミダプリル、ケラタン硫酸オリゴ糖等が挙げられる。
【0029】
免疫抑制剤としては、例えば、ラパマイシン、タクロリムス、シクロスポリン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、ミゾリビン等が挙げられる。
【0030】
抗酸化剤としては、例えば、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、一酸化窒素供与体、硫化水素供与体、クルクミン、コエンザイムQ10、アスタキサンチン、α-トコフェロール、α-トコフェロール誘導体等が挙げられる。
【0031】
核酸医薬としては、例えば、siRNA、プラスミドDNA、mRNA等が挙げられる。
【0032】
放射性薬剤、造影剤としては、例えば、イットリウムY-90、ガドリニウムGa-67、ガドリニウムGa-68、ルテチウムLu-177、銅Cu-64、テクネシウムTc-99、レニウムRe-186、レニウムRe-188、放射性ヨウ素-131等が挙げられる。
【0033】
本明細書中、「腎疾患」としては、例えば、糸球体腎炎、IgA腎症、糖尿病性腎症、膜性腎症、水腎症、造影剤腎症、腎盂腎炎、腎不全、急性腎炎、慢性腎炎、尿毒症、間質性腎炎、腎障害、ネフローゼ症候群、高血圧性腎硬化症、糖尿病性糸球体硬化症、腎結石、アミロイド腎、腎静脈血栓症、Alport症候群、腎腫瘍等を挙げることができる。
また、本明細書中、「予防又は治療」は、腎機能不全や腎臓の炎症等に関連した症状の発生を抑制する又は進行を維持又は抑止できればよく、予防と治療とは明確に区別されなくてもよい。
【0034】
本明細書中、「薬物が直接又はリンカーを介して結合している」とは、薬物が、本発明の化合物のセリン修飾された末端のセリン由来のアミノ基、又はセリン修飾されていない末端のアミノ基又はヒドロキシ基に、直接又は前記した一又は複数の二官能性リンカー(第2のリンカー)を介して、共有結合により結合した状態を意味する。
【0035】
本明細書中、「薬物が内包されてなる」とは、本発明の化合物の末端のセリン由来のアミノ基に、直接又はリンカー(前記第2のリンカー)を介して、分子認識部分(例、包接部分、キレート部分等)を末端に有する前記第2のリンカーが結合することにより、薬物が疎水的相互作用又はキレート結合により非共有結合的に本発明の化合物の分子認識部分に取り込まれた状態(すなわち、包接又はキレートされた状態)を意味する。
【0036】
本発明の医薬の薬物の担持率又は内包率は、薬物の種類により適宜変更可能であるが、通常、本発明の化合物の全末端基数の約1~20%であり、好ましくは、約5~15%である。
【0037】
本発明の化合物としては、以下の化合物が好適である。
[化合物(A)]
デンドリマー及びデンドロンからなる群より選択される、複数の末端基を有する高分子担体の全末端基数の少なくとも50%に直接又はリンカーを介して、セリンのカルボニル基がペプチド結合又はエステル結合により連結してなる、本発明の化合物。
【0038】
[化合物(B)]
ポリアミドアミン、ポリリジン、ポリエチレングリコールと2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸から構成されるデンドロン、及び2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸から構成されるデンドロンからなる群より選択される、複数の末端基を有する高分子担体の全末端基数の少なくとも50%(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上)に直接セリンのカルボニル基がペプチド結合又はエステル結合により連結してなる、本発明の化合物。
【0039】
[化合物(C)]
ポリアミドアミン及びポリリジンからなる群より選択される、複数の末端アミノ基を有する高分子担体の全末端アミノ基数の少なくとも50%(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上)に直接セリンのカルボニル基がペプチド結合により連結してなる、本発明の化合物。
【0040】
本発明の化合物の平均分子量は、1000以上、好ましくは、3000以上であり、特に上限はないが、40000以下であることが取り扱いの容易さの点で望ましい。
【0041】
本発明の化合物には、塩の形態のものも包含される。本発明の化合物の塩とは、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、アミノ酸との塩等が挙げられる。
【0042】
無機酸との塩としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸等との塩が挙げられる。
有機酸との塩としては、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マレイン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、グルコン酸、アスコルビン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等との塩が挙げられる。
無機塩基との塩として、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
有機塩基との塩として、例えば、メチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、グアニジン、ピリジン、ピコリン、コリン、シンコニン、メグルミン等との塩が挙げられる。
アミノ酸との塩として、例えば、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。
【0043】
また、本発明の化合物には、溶媒和物の形態のものも包含される。本発明の化合物の溶媒和物とは、本発明の化合物に溶媒の分子が配位したものであり、水和物も包含される。例えば、本発明の化合物又はその塩の水和物、エタノール和物、ジメチルスルホキシド和物等が挙げられる。
【0044】
本発明の化合物は、放射性薬剤、造影剤又は同位元素(例えば、H、H(D)、14C、35S、90Y、111In、67Ga、68Ga、177Lu、64Cu、99Tc、186Re、188Re、131I、18F等)で標識されていてもよい。具体例としては、例えば、本発明の化合物の末端基の一部にキレート基(例、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-ペンタ酢酸(DTPA)基等)を導入し、111Inをキレート標識した化合物、本発明の化合物の末端基の一部にフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識した化合物、本発明の化合物の末端基の一部に近赤外線プローブ(例、近赤外蛍光色素であるVivoTag 800(Dye 800))を標識した化合物等も、本発明の化合物に包含される。
【0045】
(本発明の化合物の合成)
本発明の化合物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、以下のような反応を経て合成することができる。
【0046】
原料化合物は、特に述べない限り、市販品として容易に入手できるか、あるいは、自体公知の方法(例、Ohsaki,M.et al.,Bioconjugate Chem.2002,13,510-517;Tomalia,D.A.et al.,Polymer Journal,1985,17,117-132;Chang,K.L.et al.,J.Control.Release.,2011,156,195-202等)またはこれらに準ずる方法に従って製造することができる。
【0047】
以下の各工程において、官能基の保護または脱保護反応は、自体公知の方法、例えば、Protective Groups in Organic Synthesis,4th Ed.,Theodora W.Greene,Peter G.M.Wuts,Wiley-Interscience(2007)等に記載された方法、あるいは本明細書の実施例に記載された方法に準じて行われる。
【0048】
なお、以下の反応式中の各工程で得られた化合物は、反応液のままか粗生成物として次の反応に用いることもできる。あるいは、該化合物は常法に従って反応混合物から単離することもでき、再結晶、蒸留、クロマトグラフィー等の通常の分離手段により容易に精製することができる。
【0049】
本発明の化合物は、例えば、以下の工程により製造することができる。
【0050】
【化2】
【0051】
(式中、Lは、リンカー(第1のリンカー)を示し、Rは、アミノ基又はヒドロキシ基を示し、P及びP’は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ独立して保護基を示し、Zは、NH又は酸素原子を示し、m1は、0又は1を示し、n1は、8以上の整数を示し、n2は、4以上の整数を示す。)
【0052】
工程1
当該工程は、高分子担体(1)の末端基に直接又は第1のリンカーを介して、末端のアミノ基又はヒドロキシ基とアミノ基及びヒドロキシ基を保護したセリン(化合物2)のα位カルボキシ基を、脱水縮合させる工程である。
当該反応は、反応に影響を及ぼさない溶媒中、自体公知の脱水縮合反応条件、を用いて行われる。
【0053】
化合物2の使用量は、高分子担体(1)の末端基の総数(1モル)に対して、通常0.5~3モル、好ましくは、1~1.5モルである。
【0054】
脱水縮合反応に使用する縮合剤としては、例えば、1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N-エチル-N’-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド及びその塩酸塩(EDC・HCl)、ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム(PyBop)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム テトラフルオロボレート(TBTU)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-5-クロロ-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシド ヘキサフルオロホスフェート(HCTU)、O-ベンゾトリアゾール-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロボレート(HBTU)等が挙げられる。
当該縮合工程においては、必要に応じて、縮合添加剤(例、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-トリアゾール-5-カルボン酸エチルエステル(HOCt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)等)や塩基(例、トリエチルアミン、ピリジン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基等)を添加することも可能である。
該縮合剤の使用量は、高分子担体(1)の末端基の総数(1モル)に対して、通常0.5~3モル、好ましくは、1~1.5モルである。
溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類等あるいはそれらの混合物が挙げられ、中でも、N,N-ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン等が好ましい。
反応温度は、通常-10~30℃、好ましくは0℃~20℃であり、反応時間は、通常1~30時間である。
【0055】
工程2
当該工程は、前記工程1で得られる脱水縮合体の保護基P及びP’を脱保護することにより、化合物3を合成する工程である。
当該反応は、反応に影響を及ぼさない溶媒中、自体公知の脱保護反応条件を用いて行われる。
【0056】
脱保護反応における反応条件(反応剤、反応溶媒、反応温度、反応時間等)は、保護基(P及びP’)の種類により異なるが、例えば、Protective Groups in Organic Synthesis,4th Ed.,Theodora W.Greene,Peter G.M.Wuts,Wiley-Interscience(2007)に記載の方法又は本明細書中の実施例、或いはこれらに準ずる方法に従って行うことができる。
【0057】
(本発明の医薬、及びその製造方法)
本発明の化合物からなり、生体内において標的組織(腎臓)へ選択的に薬物を送達するための薬物送達用担体は、前記した薬物と直接又はリンカーを介して共有結合により結合して本発明の医薬(化合物)を形成するか、或いは薬物送達用担体に導入されたリンカーと薬物との非共有結合的相互作用により薬物を内包することにより本発明の医薬(組成物)を形成する。
【0058】
本発明の医薬としては、以下の医薬が好適である。
[医薬(A)]
本発明の化合物のセリン修飾された部分のセリン由来の末端アミノ基の一部(好ましくは、セリン由来のアミノ基の総数に対して、1~20%、より好ましくは5~15%である。)に直接、薬物が結合してなる、本発明の医薬。
【0059】
[医薬(B)]
本発明の化合物のセリン修飾されていない高分子担体部分の末端のアミノ基又はヒドロキシ基の一部(好ましくは、末端のアミノ基又はヒドロキシ基の総数に対して、1~20%、より好ましくは5~15%である。)に直接、薬物が結合してなる、本発明の医薬。
【0060】
[医薬(C)]
本発明の化合物のセリン修飾された部分のセリン由来の末端アミノ基の一部(好ましくは、セリン由来のアミノ基の総数に対して、1~20%、より好ましくは5~15%である。)に、一又は複数の二官能性リンカー(前記第2のリンカー)を介して薬物が結合してなる、本発明の医薬。
【0061】
[医薬(D)]
本発明の化合物のセリン修飾されていない高分子担体部分の末端のアミノ基又はヒドロキシ基の一部(好ましくは、末端のアミノ基又はヒドロキシ基の総数に対して、1~20%、より好ましくは5~15%である。)に、一又は複数の二官能性リンカー(前記第2のリンカー)を介して薬物が結合してなる、本発明の医薬。
【0062】
[医薬(E)]
本発明の化合物のセリン修飾された部分のセリン由来の末端アミノ基の一部(好ましくは、セリン由来のアミノ基の総数に対して、1~20%、より好ましくは5~15%である。)に、分子認識部分(例、包接部分、キレート部分等)が直接結合することにより、当該分子認識部分に薬物が非共有結合的相互作用により内包されてなる、本発明の医薬。
【0063】
[医薬(F)]
本発明の化合物のセリン修飾された部分のセリン由来の末端アミノ基の一部(好ましくは、セリン由来のアミノ基の総数に対して、1~20%、より好ましくは5~15%である。)に、分子認識部分(例、包接部分、キレート部分等)がリンカー(例、一又は複数の二官能性リンカー(前記第2のリンカー))を介して結合することにより、当該分子認識部分に薬物が非共有結合的相互作用により内包されてなる、本発明の医薬。
【0064】
本発明の化合物と薬物との共有結合形成により本発明の医薬が製造される場合、前記した通り、薬物が、本発明の化合物のセリン修飾された部分のセリン由来の末端アミノ基に、直接又は前記した一若しくは複数の二官能性リンカー(第2のリンカー)を介して結合するか、又はセリン修飾されていない高分子担体部分の末端のアミノ基又はヒドロキシ基に、直接又は前記した一若しくは複数の二官能性リンカー(第2のリンカー)を介して結合することにより製造される。かかる医薬の製造方法としては、特に限定されないが、具体的な態様としては、例えば、下式:
【0065】
【化3】
【0066】
(式中、Capは、カプトプリルを示し、SPDPは、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)プロパノエートを示し、n3は、1以上の整数を示し、及びその他の記号は、前記で定義したのと同義である。但し、n1>n3である。)で示されるように、末端基がセリン修飾された高分子担体(化合物4)の末端のセリン由来のアミノ基に、前記した第2のリンカー形成試薬であるSPDPにより形成されるリンカーを自体公知の方法に従い、連結することにより、末端に2-ピリジルジチオ基を有する化合物(化合物5)を得る。化合物5に、末端にスルフヒドリル基を有する薬物(例、カプトプリル(Cap))を、自体公知のジスルフィド結合形成反応により、薬物がS-S結合により薬物送達用担体に結合した、本発明の医薬(化合物6)を製造することができる。また、化合物6は、以下の別法によっても製造することができる。すなわち、前記した第2のリンカー形成試薬であるSPDPと、末端にスルフヒドリル基を有する薬物(例、カプトプリル(Cap))を自体公知のジスルフィド結合形成反応により結合したSPDP-Capを調製した後、末端基がセリン修飾された高分子担体(化合物4)の末端のセリン由来のアミノ基に、自体公知の方法に従い、SPDP-Capを結合させることにより、薬物がS-S結合により薬物送達用担体に結合した、本発明の医薬(化合物6)を製造することができる。
【0067】
【化4】
【0068】
また、別の具体的な態様としては、例えば、下式:
【0069】
【化5】
【0070】
(式中、P’’及びP’’’は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ独立して保護基を示し、n4は、4以上の整数を示し、n5は、1以上の整数を示し、及びその他の記号は、前記で定義したのと同義である。但し、n1≧n4+n5である。)で示されるように、高分子担体(1)の末端のアミノ基又はヒドロキシ基と、アミノ基及びヒドロキシ基を保護したセリン(化合物2)のα位カルボキシ基、並びに薬物としてアミノ基及びスルフヒドリル基を保護したシステイン(化合物2’)のα位カルボキシ基を、前記した自体公知の脱水縮合反応条件下で脱水縮合後、脱保護させることにより、本発明の医薬(化合物7)を製造することができる。
【0071】
本発明の医薬が、薬物送達用担体に導入されたリンカーと薬物との非共有結合的相互作用により薬物を内包することにより製造される場合、前記した通り、本発明の化合物のセリン修飾された部分のセリン由来の末端アミノ基に、分子認識部分(例、包接部分、キレート部分等)が直接又は前記した一若しくは複数の二官能性リンカー(第2のリンカー)を介して結合することにより、当該分子認識部分と薬物との間に疎水的相互作用、キレート結合等の非共有結合的相互作用が生じる結果、薬物が薬物送達用担体に取り込まれることにより、本発明の医薬が製造される。かかる医薬の製造方法としては、特に限定されないが、具体的な態様としては、例えば、下式:
【0072】
【化6】
【0073】
(式中、CD-NHは、末端にアミノ基を有するシクロデキストリン誘導体を示し、CDは、CD-NHから末端アミノ基を除いたシクロデキストリン誘導体残基を示し、n6は、1以上の整数を示し、及びその他の記号は、前記で定義したのと同義である。但し、n1>n6である。)で示されるように、末端基がセリン修飾された高分子担体(化合物4)の末端のセリン由来のアミノ基に、前記した第2のリンカー形成試薬であるSPDPにより形成されるリンカーをペプチド結合により連結することにより、末端に2-ピリジルジチオ基を有する化合物(化合物8)を得る。別途、アミノ側鎖を1個有するシクロデキストリン誘導体(化合物9)をTraut’s試薬により処理することにより、末端にスルフヒドリル基を有する化合物(化合物10)を得る。化合物8と化合物10を自体公知のジスルフィド結合形成反応に付すことにより、末端にシクロデキストリン部位(包接部位)を有する化合物(化合物11)を得、当該シクロデキストリン部位に包接され得る薬物を添加することにより、本発明の医薬(化合物12)を製造することができる。また、別の具体的な態様としては、特に限定されないが、例えば、下式:
【0074】
【化7】
【0075】
(式中、Mは、キレート可能な薬物を示し、n7は、1以上の整数を示し、及びその他の記号は、前記で定義したのと同義である。但し、n1>n7である。)で示されるように、末端基がセリン修飾された高分子担体(化合物4)の末端のセリン由来のアミノ基に、前記した第2のリンカー形成試薬であるDTPA anhydride(化合物13)により形成されるリンカーをペプチド結合により連結して、化合物14を合成し、放射性薬品(M)(例、イットリウムY-90等)等をキレート結合により取り込むことにより、本発明の医薬(化合物15)を製造することができる。後述する試験例1、4では、化合物14に111Inをキレートさせた本発明の化合物(111In標識化合物1a)の体内動態を追跡した。
【0076】
本発明の医薬は、腎移行性が高く、腎臓選択的に薬物を集積させることができるので、腎機能不全や腎臓の炎症等の各種腎疾患の予防又は治療剤として優れた効果を示し得る。かかる腎疾患の具体的としては、例えば、糸球体腎炎、IgA腎症、糖尿病性腎症、膜性腎症、水腎症、造影剤腎症、腎盂腎炎、腎不全、急性腎炎、慢性腎炎、尿毒症、間質性腎炎、腎障害、ネフローゼ症候群、高血圧性腎硬化症、糖尿病性糸球体硬化症、腎結石、アミロイド腎、腎静脈血栓症、Alport症候群、腎腫瘍等を挙げることができる。
【0077】
本発明の医薬の投与経路としては、大きく分けて経口投与及び非経口投与がある。本発明の医薬の投与量は、薬物の種類、投与経路、投与回数、投与対象の年齢、体重、病態及び重症度等により異なるが、通常0.005~150mg/kg/日、好ましくは、0.05~20mg/kg/日であり、1回または数回に分けて投与することができる。
【0078】
本発明の医薬は、通常、医薬用担体と混合して調製した医薬組成物の形で投与され、具体例としては、好適には、マイクロニードル、吸入剤、点鼻剤等の外用剤、静脈内注射剤、皮内注射剤、皮下注射剤又は腹腔内等の体腔内注射剤等の注射剤が挙げられる。これらの医薬組成物は常法に従って調製される。
【0079】
マイクロニードルの基剤の具体例としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ポリグリコール酸、コンドロイチン硫酸、カルボキメチルセルロース、マルトース、デキストラン、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)のような高分子基剤やステンレススチール等の金属、シリコン、チタン等が挙げられる。マイクロニードルの表面に塗布または内部に含有することにより製造することができる。
【0080】
吸入剤は、本発明の化合物を粉末または液状にして、吸入噴霧剤または担体中に配合し、例えば、定量噴霧式吸入器、ドライパウダー吸入器等の吸入容器に充填することにより製造することができる。噴霧剤、エアロゾル剤、スプレー剤であってもよい。吸入噴射剤としては、従来公知のものを広く使用することができ、例えば、フロン-11、フロン-12、フロン-21、フロン-22、フロン-113、フロン-114、フロン-123、フロン-142c、フロン-134a、フロン-227、フロン-C318、1,1,1,2-テトラフルオロエタン等のフロン系ガス、HFA-227、HFA-134a等の代替フロンガス、プロパン、イソブタン、ブタン等の炭化水素系ガス、ジエチルエーテル、窒素ガス、炭酸ガス等があげられる。担体としては、従来公知のものを広く使用でき、例えば、糖類、糖アルコール類、アミノ酸類等が挙げられる。
【0081】
吸入用液剤の場合には、防腐剤(塩化ベンザルコニウム、パラベン等)、着色剤、緩衝化剤(リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等)、等張化剤(塩化ナトリウム、濃グリセリン等)、増粘剤(カルボキシビニルポリマー等)、防腐剤(塩化ベンザルコニウム、パラベン等)、吸収促進剤等を必要に応じて適宜選択して調製される。
【0082】
吸入用粉末剤の場合には、滑沢剤(ステアリン酸及びその塩等)、結合剤(デンプン、デキストリン等)、賦形剤(乳糖、セルロース等)、着色剤、吸収促進剤等を必要に応じて適宜選択して調製される。
【0083】
点鼻剤は、滴下式、塗布式、スプレー式等の種々の形態をとることができる。また、スプレー式の場合には、容器に付属されたポンプを手動で動かして液剤を噴出する機構のある手動ポンプ式点鼻剤、圧縮ガス(空気または酸素、窒素、炭酸または、混合ガス)等の噴射剤を容器内に充填しておいて容器に付属して設けた弁を動かして液剤を自動噴出する機構のあるエアゾール式点鼻剤等も含む。
【0084】
注射剤は、本発明の医薬を注射用蒸留水、更に、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤等を添加した溶液に溶解させて調製したものや、該化合物を注射用蒸留水または植物油に懸濁して調製したものであってもよく、この場合、必要に応じて基剤,懸濁化剤,粘調剤等を添加することができる。また、粉末または凍結乾燥品を用時溶解する形であってもよく、必要に応じて賦形剤(例、マンニトール、ソルビトール、乳酸、トレハロース、スクロース等)等を添加することができる。
【0085】
医薬組成物中における本発明に係る医薬の含有量はその剤形に応じて異なるが、通常、全組成物中0.0025~30重量%である。これらの医薬組成物はまた、治療上有効な他の薬剤を含有していてもよい。併用に際しては、本発明の化合物と併用薬剤の投与時期は特に限定されず、本発明の医薬と併用薬剤の配合比は、投与対象、投与方法、疾患、組合せ等により適宜設定することができる。例えば、本発明の併用剤における併用薬剤の含有量は、製剤の形態によって異なるが、通常、全組成物中0.0025~30重量%である。
【0086】
以下、本発明の好適な実施例及び試験例を示して、本発明をより詳述するが、下記実施例は、本発明の効果を例示的に確認するためのものであって、本発明がこれらのみに限定されるものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【実施例
【0087】
以下に、実施例、製剤例及び試験例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等により限定されるものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
本実施例で用いる装置、試薬等は、特に断りのない限り、当該技術分野で通常実施されている方法に従って容易に入手又は調製可能か、あるいは商業的に入手可能なものである。
以下の実施例中の「室温」は、通常約10℃ないし約25℃を示す。
【0088】
実施例1:腎臓ターゲティング型薬物送達用担体(セリン修飾デンドリマー)(本発明の化合物(化合物1a))の合成
DMF/DMSO(1:1)中で、第3世代のポリアミドアミンデンドリマー(PAMAM)(Sigma-Aldrich社製)の表面アミノ基の総数に対して、1.1当量のBoc-Ser(tBt)-OH(渡辺化学工業株式会社製)、1.1当量の1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム 3オキシド ヘキサフルオロホスフェート(HBTU)(Merck Millipore社製)、1.1当量の無水1-ヒドロキシ-1H-ベンゾトリアゾール(HOBt)(渡辺化学工業株式会社製)及び2.2当量のN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を混合した。次いで、反応混合物を、ニンヒドリン試験がTLC分析によって陰性になるまで室温で攪拌し反応させた。カップリング完了後、この溶液をジエチルエーテルで3回沈殿させることにより精製した。これらの沈殿物をトリフルオロ酢酸(TFA)カクテル(95%TFA、2.5%チオアニソール(TIS)及び2.5%精製水)に溶解し、Boc基及びOBt基を脱保護した。次いで、反応混合物を室温で90分間インキュベートした。脱保護が完了した後、反応液をジエチルエーテルで3回沈殿させて精製した。粗沈殿物を超純水に溶解し、PD-10カラムに通してサイズ排除クロマトグラフィーにより生成物を分離し凍結乾燥することでセリン修飾PAMAM(以下、「化合物1a」と称する。)を得た。粒子サイズ及びゼータ電位の分析のために、化合物1aを1mg/mLの濃度でリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(pH7.4)に溶解した。次いで、これらの特性をゼーターサイザーナノ ZS(Malvern Instruments、Worcestershire、UK)により、化合物1aの粒子径及びゼータ電位を測定した。
【0089】
得られた化合物1aの粒子径は、約4nm(4.03±0.09nm)であり、ゼータ電位は、約4.8mV(4.76±0.70mV)であった。
【0090】
比較例1:ポリアミドアミンデンドリマー(PAMAM G4)
第4世代のポリアミドアミンデンドリマー(PAMAM G4)(Sigma-Aldrich社製)を比較例1の化合物として用いた。
比較例1の化合物の粒子径は、約4.2nm(4.20±0.09nm)であり、ゼータ電位は、約4.6mV(4.56±0.81mV)であった。
【0091】
比較例2:トレオニン修飾デンドリマーの合成
実施例1で使用したBoc-Ser(tBt)-OHを、Boc-Thr(tBu)-OH(渡辺化学工業株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により比較例2の化合物を作製した。
比較例2の化合物の粒子径は、約4.2nm(4.15±0.35nm)であり、ゼータ電位は、約2.6mV(2.58±1.36mV)であった。
【0092】
比較例3:チロシン修飾デンドリマーの合成
実施例1で使用したBoc-Ser(tBt)-OHを、Boc-Tyr(tBu)-OH(渡辺化学工業株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により比較例3の化合物を作製した。
比較例3の化合物の粒子径は、約3.2nm(3.17±0.35nm)であり、ゼータ電位は、約5.3mV(5.26±3.00mV)であった。
【0093】
実施例2:カプトプリルが結合した化合物1a(カプトプリル-化合物1a)の合成
DMSO中に化合物1aに対して6当量のN-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)プロパノエート(SPDP)(東京化成工業株式会社製)と6.6当量のカプトプリル(東京化成工業株式会社製)を加え、室温で10分間攪拌させることでSPDPとカプトプリルを反応させた。その後、DMSOに溶解した化合物1aと混合し、室温で12時間攪拌することで、化合物1aのアミノ基末端にSPDPを介してカプトプリルを結合させて、カプトプリルが結合した化合物1a(カプトプリル-化合物1a)を合成した。
【0094】
実施例3:システインが結合した化合物1a(システイン-化合物1a)の合成
DMF/DMSO(1:1)中で、第3世代のポリアミドアミンデンドリマー(PAMAM)の表面アミノ基の総数に対して、0.88当量のBoc-Ser (tBt)-OH、0.22当量のBoc-Cys(Trt)-OH(渡辺化学工業株式会社製)、1.1当量の1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム 3オキシド ヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、1.1当量の無水1-ヒドロキシ-1H-ベンゾトリアゾール(HOBt)及び2.2当量のN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を混合した。その後の合成工程は、実施例1と同様の方法で行った。
【0095】
試験例1:化合物1aの体内動態評価
(試験方法)
111In標識した化合物1a(以下、「111In標識化合物1a」ともいう。)をddYマウスに静脈内投与し、化合物1aの体内動態を評価した。具体的には、化合物1aを、二官能性キレート剤であるジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-ペンタ酢酸(DTPA)無水物(同仁化学研究所製)を使用して、Hnatowichらによって記載された方法(Int.J.Appl.Radiat.Isot.,12,327-332(1982))に従って、111Inで放射標識した。得られた111In標識化合物1aを、ddYマウスの尾静脈を介して静脈内投与した。静脈注射後の適当な時点で、イソフルラン麻酔下で腹部大静脈から血液を採取した。肝臓、腎臓、脾臓、心臓及び肺組織を摘出し、生理食塩水で洗浄、濾紙で水分を吸い取ってから臓器湿重量を測定した。採取した血液を2000×gで5分間遠心分離して血漿を得た。収集した臓器の試料及び100μLの血漿を計数管に移し、各試料の放射能をガンマーカウンター(1480 WizardTM 3’、Perkin-Elmer、Boston、MA、USA)を用いて測定した。
【0096】
図1は、111In標識化合物1aの静脈注射後の血漿、肝臓、腎臓、脾臓、心臓及び肺における濃度-時間プロファイル(すなわち、化合物1aの体内動態)を示す。
図1のbによれば、静脈内投与後の化合物1aは、投与量の約80%が腎臓に集積した。また他の臓器への移行はほとんど認められず、腎臓選択性に優れた体内動態を示した。これに対し、セリン修飾していないPAMAM(比較例1の化合物)(図1のa)やセリンと類似の構造を有するトレオニン(Thr)やチロシン(Tyr)で修飾した比較例2の化合物(図1のc)や比較例3の化合物(図1のd)では、化合物1aと同等の腎臓移行性や腎臓選択性は得られなかった。具体的には、比較例1の化合物は、肝臓と腎臓に主に分布し、腎移行率も低く、比較例2の化合物は、腎臓に主に分布するが、腎移行率は低く、比較例3の化合物は、肝臓と腎臓に主に分布し、腎移行率も低かった。
図1の結果から、化合物1aは、腎移行性及び腎臓選択性において、格別に優れていることが確認された。
【0097】
試験例2:微弱光イメージングシステムによる化合物1aの臓器分布
(試験方法)
比較例1の化合物及び化合物1aを近赤外蛍光色素であるVivoTag 800(Dye800)(株式会社パーキンエルマー製)で標識した。すなわち、化合物1aを50mM炭酸塩/重炭酸塩緩衝液(pH8.5)に溶解し、次にDMSO中のDye800を化合物1aに対して2:3のモル比で添加した。室温で1時間混合した後、反応混合物を限外濾過によって精製した。次いで、Dye800標識された化合物1a(Dye800標識化合物1a)溶液を、1mg/kgの投与量でHR-1マウスに静脈内投与した。静脈内投与後60分にイソフルラン麻酔下でIVIS Lumina XRMS Series III Multi-Species Optical and X-Ray Imaging Systemを用いてマウス全身の画像化を行った。その後、イソフルラン麻酔下、腹部大静脈から血液を採取した。マウスに心臓の左心室を介して10mlの生理食塩水を灌流し、血液中の化合物1aを洗い流した後、肝臓、腎臓、脾臓、心臓及び肺組織を下肢の骨と共に摘出し、生理食塩水で洗浄した。続いて、IVIS Lumina XRMS Series III Multi-Species Optical and X-Ray Imaging Systemを用いて画像化を行った。
【0098】
図2は、Dye800標識化合物1aの静脈注射後の臓器分布の微弱光イメージング画像を示す。図2Aは、マウスの全身を撮像した画像、図2Bは、摘出臓器を撮像した画像を示す。図2によれば、静脈内投与後のDye800標識化合物1aは主に腎臓に集積し、効率的な腎臓標的化が確認された。
【0099】
試験例3:化合物1aの腎臓内分布
(試験方法)
化合物1aをフルオレセインイソチオシアネート(FITC)(Sigma-Aldrich社製)で標識した(FITC標識化合物1a)。FITC標識化合物1aをddYマウスの尾静脈内に投与した。静脈内投与後60分にイソフルラン麻酔下、腎臓を摘出しOCTで固定し凍結した。腎臓の凍結切片を100μg/mLの4′,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(和光純薬工業株式会社製)で処理し、染色された腎切片を蛍光顕微鏡(Biozero、KEYENCE、Osaka、Japan)で観察した。
【0100】
(結果)
図3は、FITC標識化合物1aの静脈内投与後60分のマウス腎切片の顕微鏡画像を示す。図3のaによれば、FITC標識化合物1aの蛍光は、腎髄質の腎皮質において顕著に高いことが確認された。腎皮質の拡大顕微鏡像を図3のbに示す。近位尿細管にFITC標識化合物1a由来の強い蛍光が観察された。一方、髄質では、FITC標識化合物1a由来の蛍光は、殆ど確認されなかった。以上より、化合物1aは腎臓の近位尿細管に主に分布することが確認された。近位尿細管は腎臓癌や慢性腎不全等の腎臓疾患の発症部位であることから、化合物1aは腎疾患治療や画像診断に有利な腎臓内分布を示すことが分かった。
【0101】
試験例4:ブタ腎臓上皮細胞を用いた化合物1aの膜透過性及び腎臓内取り込み機構の解析
(試験方法)
化合物1aの腎臓上皮細胞膜透過性(吸収方向または分泌方向への透過性)を評価することを目的として、LLC-PK1細胞(ブタ腎臓上皮細胞)単層膜における化合物1aの透過性を評価した。すなわち、LLC-PK1細胞を2.5×10cells/insertでTranswells(Corning Inc、Corning、NY)に播種し、1週間培養した。Apical側およびBasolateral側を、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS;pH 7.4)で1時間プレインキュベートした。次いで、HBSS中の0.1mg/mLのFITC標識化合物1aをApical側(0.5mL)またはBasolateral側(1.5mL)へ添加した。100μLのreceptor溶液(Basolateral側にFITC標識化合物1aを添加した場合は、Apical側、Apical側にFITC標識化合物1aを添加した場合は、Basolateral側)を経時的に回収し、等量のHBSSをreceptor側に加えた。FITC-化合物1aの量は、蛍光分光光度計(Powerscan HT、BioTek Instruments)を用いて測定した。励起波長は485nm、蛍光波長は528nmを用いた。
別途、腎臓上皮細胞への化合物1aの細胞取り込み機構を評価した。すなわち、LLC-PK1細胞を、2.5×10cells/insertでコラーゲンコート24ウェルプレートに播種し、1週間培養した。細胞をHBSS(pH7.4)で1時間プレインキュベートした後、5μg/mLの111In標識化合物1aを添加し、化合物1aの細胞内取り込み量を細胞内の放射活性を指標に評価した。各種阻害剤(過剰量の非標識化合物1a、chlorpromazine 100μM、genistein 370μM、5-(N-ethyl-N-isopropyl)amiloride 100μMまたはlysozyme 1mM)を同時に添加した際の化合物1aの取り込み量の減少により取り込み機構を評価した。
【0102】
結果を図4に示す。
図4A及び図4Bは、LLC-PK1細胞単層膜の吸収方向および分泌方向における化合物1aおよび比較例1の膜透過性をそれぞれ示す。比較例1の膜透過性は吸収方向及び分泌方向で同等であり、差はみられなかった。一方、化合物1aの膜透過性は分泌方向よりも吸収方向が大きく、吸収方向優位な透過性がみられた。このことから、化合物1aは尿細管管腔側から血管側へ取り込まれるものと考えられる。
図4CはLLC-PK1細胞における111In標識化合物1aの細胞内取り込みに対する各種阻害剤の影響を示す。過剰量の非標識化合物1aを添加した群、カベオラ依存性エンドサイトーシス阻害剤のgenistein添加群とマクロピノサイトーシス阻害剤の5-(N-ethyl-N-isopropyl)amiloride添加群、メガリンの基質であるlysozymを添加した群で有意な化合物1aの細胞内取り込み減少が見られたことから、化合物1aはカベオラ依存性エンドサイトーシス、マクロピノサイトーシスまたはメガリンを介したトランスサイトーシスの寄与により取り込まれる可能性が示唆された。
【0103】
試験例5:カプトプリル-化合物1aの体内動態
(試験方法)
カプトプリル-化合物1aの体内動態は、ddYマウスに2mgカプトプリル/kgの投与量でカプトプリル単独又はカプトプリル-化合物1aをそれぞれ静脈内投与することにより評価した。静脈内投与後の適当な時点で、イソフルラン麻酔下で腹部大静脈から血液を採取した後、腎臓を摘出した。その後、血漿中及び腎臓ホモジネート液中のカプトプリル量をHPLCで測定した。
【0104】
結果を図5に示す。図5のbによれば、カプトプリル-化合物1a投与後の腎臓中のカプトプリル濃度は、カプトプリル単独投与群と比較して顕著に高いことが分かる。これにより、化合物1aを利用することによりカプトプリルが効率よく腎臓へ移行することが確認された。
【0105】
試験例6:カプトプリル-化合物1aの薬理効果
(試験方法)
ddY雄性マウスに0.5mgカプトプリル/kgの投与量でカプトプリル又はカプトプリル-化合物1aを、それぞれ静脈内投与した。投与後30分及び120分後にイソフルラン麻酔下、腎臓を摘出し、2mLの50mM KHPO緩衝液(pH7.5)中でホモジナイズしたものを遠心分離した。上清溶液100μL、超純水100μL及び50mM N-ヒプリル-L-ヒスチジル-L-ロイシン50μLを混合し、37℃で15分間反応させ、1N HCl 250μLで酵素反応を停止させた。酢酸エチル400μL×2回で馬尿酸を抽出した後、酢酸エチルを蒸散させた。得られた馬尿酸量をHPLCで測定し、馬尿酸量を指標にアンギオテンシン変換酵素(ACE)活性を評価した。
【0106】
結果を図6に示す。図6によれば、腎臓中ACE活性は、カプトプリル単独投与と比較してカプトプリル-化合物1aの投与により持続的に抑制されることが分かった。
【0107】
試験例7:システイン-化合物1aの体内動態評価
(試験方法)
111In標識したシステイン-化合物1aをddYマウスに静脈内投与し、システイン-化合物1aの体内動態を評価した。システイン-化合物1aの111In標識は、試験例1と同様の方法により行った。
【0108】
結果を図7に示す。図7によれば、システイン-化合物1aも化合物1aと同様、他の臓器へは移行せず、腎臓選択的な体内動態を示した。
【0109】
試験例8:腎臓虚血再灌流障害に対するシステイン-化合物1aの腎臓保護効果
(試験方法)
イソフルラン麻酔下、ddYマウスの右腎臓を摘出した後、左腎臓の腎動静脈の血流をクレンメで遮断し、30分後に血流を再開することにより腎臓虚血再灌流障害モデルを作製した。血流再開直前にシステイン-化合物1aを静脈内投与し、血流再開6時間後の腎臓切片画像から腎臓障害の程度を評価した。
【0110】
結果を図8に示す。図8によれば、腎臓虚血再灌流により腎臓の形態変化が観察されたが、システイン-化合物1aの投与により顕著にその形態変化が抑制されることが確認された。
【0111】
試験例9:Single photon emission computed tomography/computed tomography(SPECT/CT)イメージングによる化合物1aの臓器分布の観察
(試験方法)
SPECT/CTは、NanoSPECT/CT(Bioscan Inc.、Washington DC、USA)を用いて行った。111In標識化合物1a(8.7MBq/マウス)をマウスに静注した。111In標識化合物1aの静脈内投与の3時間後、イソフルラン吸入麻酔下、45分間のマウスのSPECTスキャンを得た。SPECTスキャンに先立ち、解剖学的観察のため、イソフルラン吸入麻酔下でマウスのCTスキャンを実施した。SPECT画像は、HiSPECTソフトウェア(Scivis、Goettingen、Germany)を用いて再構成した。また、Amira 3Dデータ分析および可視化ソフトウェアパッケージ(バージョン5.1;FEI Company、Hillsboro、OR、USA)を用いて画像分析を行った。
【0112】
結果を図9に示す。図9は、111In標識化合物1aの静脈注射後の臓器分布のSPECT/CTイメージング画像を示す。図9によれば、111In標識化合物1aは、一部、膀胱へ分布(尿中排泄)したが、腎臓へ特異的に集積した。また、腎臓内において、111In標識化合物1aは、主に近位尿細管などが存在する皮質部分に集積した。近位尿細管は腎細胞癌や慢性腎不全などの腎臓疾患の発症部位であることから、本検討結果より、化合物1aは、腎臓疾患の画像診断に応用できる可能性が示唆された。
【0113】
試験例10:マウスにおける化合物1aの毒性評価
(試験方法)
ddYマウスに化合物1a(1mg/kg)またはPBSを1日1回5日間静脈内投与した。最初の静脈注射から6日後、イソフルラン吸入麻酔下で大静脈から血液を採取し、マウスを屠殺した。血漿クレアチニンおよび尿素窒素(BUN)レベルを、クレアチニン測定キット(LabAssay、Wako)およびBUN測定キット(DIUR-100、BioAssay System)を用いてそれぞれ測定した。その後、腎臓を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンブロックに包埋した。次いで、厚さ5μmの切片を作成した。腎臓切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、腎臓障害を光学顕微鏡(Biozero、KEYENCE)を用いて評価した。さらに、陽性対照としてHgClを投与した場合の血漿中クレアチニン、BUNレベルおよび腎切片についても、上記の方法を用いて評価した。
【0114】
結果を図10に示す。血漿中クレアチニンおよびBUN濃度は、陽性対照であるHgClの皮下注射によって有意に増加した(図10AおよびB)。さらに、炎症性細胞の浸潤および壊死および損傷細胞が、HgClを投与したddYマウス由来の腎臓組織の組織学的切片において観察された(図10C)。対照的に、化合物1aの投与は、血漿中クレアチニンおよびBUN濃度には、ほとんど影響しなかった。また、化合物1a投与後の腎組織の組織学的切片は未処置およびPBSを投与したマウスのものとほぼ同様であった(図10C)。以上の結果から、化合物1aは比較的安全性の高い薬物キャリアであることが分かった。
【0115】
製剤例(凍結乾燥製剤の製造)
1)本発明の医薬(カプトプリル-化合物1a) 40 mg
2)マンニトール 10 mg
3)超純水 1 ml
計50mg/ml
1)、2)及び3)を混合後、メンブランフィルターを用いて滅菌濾過して、容器に充填し、凍結乾燥することにより、凍結乾燥製剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の化合物、及び該化合物に薬物が共有結合的若しくは非共有結合的に取り込まれた医薬は、腎臓移行率が従来技術と比較して格別に高く、且つ他の臓器への移行が殆どない高い腎臓選択性を示すことから、各種腎疾患の予防剤(検査薬)又は治療剤として極めて有用である。また、本発明の化合物及び医薬は、生体由来のセリンを腎ターゲティング素子として使用していることから、生体適合性や安全性に優れ、また簡便に合成可能であることから、薬効に優れ、且つ副作用の低減された実用的な薬物送達用担体として幅広い用途への応用が期待される。
【0117】
本出願は、特願2017-132806を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10