(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】金属製箱
(51)【国際特許分類】
H05K 5/02 20060101AFI20220815BHJP
【FI】
H05K5/02 M
(21)【出願番号】P 2021094842
(22)【出願日】2021-06-07
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591176258
【氏名又は名称】株式会社飯塚鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110002893
【氏名又は名称】特許業務法人KEN知財総合事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 肇
(72)【発明者】
【氏名】神保 義裕
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】実開平3-127427(JP,U)
【文献】特開2008-192698(JP,A)
【文献】特開平3-207536(JP,A)
【文献】特開2015-61433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面側に開口部を有する箱本体と、前記箱本体の開口部にヒンジによって開閉可能に取り付けられた扉とを有する金属製箱であって、
前記箱本体は、所定形状に形成された一枚の金属板を折り曲げ加工のみにより形成され、背面板部と、前記背面板部と直角な関係にある4つの側板部と、前記4つの側板部とそれぞれ直角な関係にあり前記開口部の周囲に設けられた4つの前面板部とを有し、
前記4つの前面板部のうち、隣接する2つの前面板部の端部の一方には、根元にくびれ部分を持つ第1の突出片が形成され、他方には、前記第1の突出片が嵌る第1の切り欠き部が形成され、
前記4つの側板部のうち、隣接する2つの側板部の一方の端部には、当該一方の側板部に対して直角関係にありかつ根元にくびれ部分を持つ第2の突出片が形成され、前記隣接する2つの側板部の他方の端部には、前記第2の突出片が嵌る第2の切り欠き部が形成され、
前記隣接する2つの側板部のうち、前記第2の突出片が形成されていない側の側板部の端部には、当該側板部に対して直角関係にありかつ根元にくびれ部分を持たない全体として湾曲形状を有する第3の突出片が形成され、前記第2の突出片が形成されている側の側板部には、第3の突出片が嵌る第3の切り欠き部が形成されている、金属製箱。
【請求項2】
前記第3の突出片は、当該第3の突出片が形成された側板部の前記背面板部に対する折り曲げ部に中心線をもつ、第1の曲率半径の第1の湾曲部と、前記第1の曲率半径よりも大きい第2の湾曲部とを有する、請求項1に記載の金属製箱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製箱に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子機器等を収容する収納用の箱は、特許文献1に開示されているように、2枚の金属板から形成した前面に開口部を有する箱本体と、この箱本体の開口部に扉を設けたものが知られている。
特許文献1に開示された金属製箱の箱本体は、1枚の鋼板を折り曲げ加工して天井板とそれに続く左右側板としたコ字状の覆い部材と、1枚の鋼板を折り曲げ加工して背面板とそれに続く底面板としたL字状の本体部材とを合体させて、前面に開口部を有する箱本体とし、この開口部に扉を取り付けた構造となっている。覆い部材と本体部材とは背面板および底面板に形成した接合しろを利用してスポット溶接し箱本体としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記したような箱本体では、2枚の鋼板をそれぞれ折り曲げ加工して覆い部材と本体部材とし、両者をスポット溶接する必要があり、製造工数が多く、コストが比較的高いという問題があった。
【0005】
本発明の目的の一つは、製造工数を削減しかつコストを低減できる金属製箱を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る金属製箱は、前面側に開口部を有する箱本体と、前記箱本体の開口部にヒンジによって開閉可能に取り付けられた扉とを有する金属製箱であって、
前記箱本体は、所定形状に形成された一枚の金属板を折り曲げ加工のみにより形成され、背面板部と、前記背面板部と直角な関係にある4つの側板部と、前記4つの側板部とそれぞれ直角な関係にあり前記開口部の周囲に設けられた4つの前面板部とを有し、
前記4つの前面板部のうち、隣接する2つの前面板部の端部の一方には、根元にくびれ部分を持つ第1の突出片が形成され、他方には、前記第1の突出片が嵌る第1の切り欠き部が形成され、
前記4つの側板部のうち、隣接する2つの側板部の一方の端部には、当該一方の側板部に対して直角関係にありかつ根元にくびれ部分を持つ第2の突出片が形成され、前記隣接する2つの側板部の他方の端部には、前記第2の突出片が嵌る第2の切り欠き部が形成され、
前記隣接する2つの側板部のうち、前記第2の突出片が形成されていない側の側板部の端部には、当該側板部に対して直角関係にありかつ根元にくびれ部分を持たない全体として湾曲形状を有する第3の突出片が形成され、前記第2の突出片が形成されている側の側板部には、第3の突出片が嵌る第3の切り欠き部が形成されている。
【0007】
好適には、前記第3の突出片は、当該第3の突出片が形成された側板部の前記背面板部に対する折り曲げ部に中心線をもつ、第1の曲率半径の第1の湾曲部と、前記第1の曲率半径よりも大きい第2の湾曲部とを有する、構成を採用できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造工数を削減しかつコストを低減できる金属製箱を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る金属製箱の外観斜視図。
【
図2】
図1の金属製箱から扉を除去した箱本体の正面図。
【
図5】第3の突出片の形状を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。説明において同様の要素には同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
図1に本実施形態に係る金属製箱1を示し、
図2に
図1の金属製箱1から扉を取り除いた箱本体20を示し、
図3に箱本体20の外観斜視図を示す。
金属製箱1は、箱本体20と、箱本体20の前面側の開口部20aに設けられた扉30とを有し、扉30は箱本体20にヒンジHGによって開閉自在となっている。ヒンジHGは、扉30および箱本体20にスポット溶接等の結合手段により連結されている。
【0011】
箱本体20は、後述するように、所定形状に形成された一枚の鋼板、ステンレス板等の金属板を折り曲げ加工することのみにより形成される。この箱本体20は、背面板部21と、背面板部21とそれぞれ直角な関係にある天井側、底面側、右側面側および左側面側に位置する4つの側板部22A~22Dと、開口部20aの周囲に設けられた4つの前面板部23A~23Dと、4つの前面板部23A~23Dの内側に形成された扉30を受け止める4つの受板部24A~24Dを有する。
【0012】
図4に箱本体20を形成する展開された平板上の金属板10を示す。
図4において、L1~L20は金属板10の折り曲げ線であり、数字は折り曲げる順に示しており、折り曲げ線L5,L9,L13,L17は金属板10の裏面側に向けて90度折り曲げられ、その他の折り曲げ線は、金属板10の裏面側に向けて90度折り曲げられる。また、折り曲げ線L8a~L8cやL12a~L12cは、同時に金属板10の裏面側に向けて90度折り曲げられることを示している。
【0013】
本実施形態に係る箱本体20では、第1の突出片P1とこれに対応する切り欠き部V1と、第2の突出片P2とこれに対応する切り欠き部V2と、第3の突出片P3とこれに対応する切り欠き部V3とがそれぞれ嵌り合うことにより、金属板10が箱形状に折り曲げ加工された際に、各前面板部23A~23Dの間および各側板部22A~22Dの間が強固に結合される。
【0014】
第1の突出片P1は、
図4に示したように、前面板部23Bの両端部の45度傾斜する傾斜部および前面板部23Cの両端部の45度傾斜する傾斜部の4か所に突出して形成されている。
また、第1の切り欠き部V1は、前面板部23Aの両端部に45度傾斜する傾斜部および前面板部23Dの両端部に45度傾斜する傾斜部の4か所に形成されている。
例えば、
図2Aに示すように、前面板部23Cの上記の傾斜部である端部23e1には、根元にくびれ部P1aをもつ円弧状の第1の突出片P1が形成されている。前面板部23Aの上記の傾斜部である端部23e2には第1の突出片P1が合致して嵌る第1の切り欠き部V1が形成されている。前面板部23Cの第1の突出片P1が前面板部23Aの切り欠き部V1が嵌ることで、前面板部23Aと前面板部23Cとが連結される。4つの前面板部23A~23Dの隣接する端部の間は、同様の構造で結合される。
【0015】
第2の突出片P2は、
図4に示したように、側板部22Aの両端部と側板部22Dの両端部の4か所に形成されている。
また、第2の切り欠き部V2は、側板部22Bの両端部と側板部22Cの両端部の4か所に形成されている。
例えば、
図3Aに示すように、第2の突出片P2は、側板部22Aの端部22e2から突出して形成され、かつ、側板部22Aに対して直角に折り曲げられている。
第2の突出片P2は、
図3Aから分かるように、根元にくびれP2aを有し、先端側に向けて末広がり状に広がる形状を有している。
第2の切り欠き部V2は、側板部22Cの端部22e2に形成され、第2の突出片P2が合致して嵌る形状を有する。
他の第2の突出片P2および第2の切り欠き部V2も同様の構造を有する。
【0016】
第3の突出片P3は、
図4に示したように、側板部22Bの両端部と側板部22Cの両端部の4か所に形成されている。
また、第3の切り欠き部V3は、側板部22Aの両端部と、側板部22Dの両端部の4か所に設けられている。
例えば、
図3Aに示すように、第3の突出片P3は、根元にくびれを有しておらず、全体として湾曲形状を有しており、側板部22Cの端部22e1から突出して形成され、かつ、側板部22Cに対して直角に折り曲げられている。第3の切り欠き部V3は、側板部22Aの端部22e2に形成され、第3の突出片P3が合致して嵌る形状を有する。
他の、第3の突出片P3および第3の切り欠き部V3も同様の構造を有する。
【0017】
第1の突出片P1と第1の切り欠き部V1の役割は、前面板部23A~23Dの端部間を結合することにあるが、前面板部23A~23Dの間を結合しただけでは、箱本体20に外力が作用すると、側板部22A~22Dの隣接する端部22e1と端部22e2との間に隙間が形成されてしまう。例えば、
図3Aにおいて、第2の突出片P2および第2の切り欠き部V2と第3の突出片P3および第3の切り欠き部V3が存在しないとすると、側板部22Aに垂直な方向の力F1や側板部22Cに垂直な方向の力F2が作用すると、隣接する端部22e1と端部22e2との間に隙間が形成される。
この問題を防ぐために、本実施形態では、2つの異なる形状を有する第2の突出片P2および第2の切り欠き部V2と第3の突出片P3および第3の切り欠き部V3をそれぞれ隣接する端部22e1と端部22e2に形成している。加えて、第2の突出片P2と第3の突出片P3とを異なる側板部に形成することで、上記した異なる方向の力F1およびF2に対応可能となっている。
【0018】
図5に第3の突出片P3のさらに詳細な形状を示す。
第3の突出片P3は、背面板部21と側板部22Bとの折り曲げ位置付近に定義される中心線X1を中心にもつ曲率半径R1の湾曲部P3aと、中心線X1を中心にもつ曲率半径R1よりも大きい曲率半径R2の湾曲部P3bとを有する。また、第3の突出片P3の先端部には、突出片P3の幅Wの半分の半径の円弧部P3cが形成されている。
第3の切り欠き部V3は、湾曲部P3a, 湾曲部P3b,円弧部P3cが合致する形状を有している。
【0019】
ここで、上記した曲率半径R1,R2の中心線X1の位置の決定方法を、
図5Aを参照して説明する。
図5Aに、
図5の金属板の折り曲げ部の拡大図である。折り曲げられた金属板は曲げの内側は縮み、曲げの外側は伸び、内部には、N1およびN2で示す伸び縮みしない中立面が存在する。金属板の厚さをT、金属板の表面から中立面N1およびN2までの深さをtとすると、t/TがK係数と呼ばれる中立面の位置を示す係数である。K係数は金属板の材質、厚さ、折り曲げに使用する機械によって変わる。
上記した中心線X1は、中立面N1およびN2の交差する線である。
したがって、あらかじめK係数を求めておくことで、突出片P3の中心線X1の位置を決定することができる。K係数は、実際に曲げた金属板の寸法を測定して計算によって求めることができる。
【0020】
第3の突出片P3は、
図4および
図5からわかるように、背面板部21に対して側板部22Dおよび側板部22Aが直角に折り曲げられた状態において、背面板部21に対して側板部22Bと側板部22Cを直角に折り曲げた際に、対応する切り欠き部V3に差し込まれながら嵌るようになっている。第3の突出片P3および切り欠き部V3の形状を上記のように設計することにより、第3の突出片P3と切り欠き部V3との間の干渉を防ぐことができる。
なお、第3の突出片P3が対応する切り欠き部V3に差し込まれる際には、同時に、第2の突出片P2が対応する切り欠き部V2に嵌る。
【0021】
図3Aに示したように、側板部22Aに垂直な方向の力F1が作用した場合には、第2の突出片P2と切り欠き部V2との係合が、隣接する端部22e1と端部22e2との間に隙間が形成されるのを妨げるように作用する。側板部22Cに垂直な方向の力F2が作用した場合には、第3の突出片P3と切り欠き部V3とは全体的に湾曲していることから、隣接する端部22e1と端部22e2との間に隙間が形成されるのを妨げるように作用する。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、溶接やボルト等の連結手段を使用せずに、金属板10の折り曲げ加工のみで箱本体20を組み立てることができ、しかも、3つの異なる突出片および対応する切り欠き部を設けることで、箱本体20を頑丈に組み立てることができる。溶接やボルト等の連結手段を使用しないので、製造コストを大幅に下げることができる。また、本実施形態によれば、折り曲げ加工機を用いて、箱本体20の組み立てを全自動化することができる。
【0023】
上記実施形態では、第1の突出片P1は、根元にくびれ部P1aをもつ円弧状に形成したが、これに限定されず、根元にくびれ部P1aを有していれば、他の部分の形状は適宜変更できる。第2の突出片P2についても、根元にくびれP2aを有していれば、他の形状は適宜選択できる。
【0024】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 :金属製箱
10 :金属板
20 :箱本体
20a :開口部
21 :背面板部
22A~24D :側板部
22e1、22e2 :端部
23A~23D :前面板部
23e1,23e2 :端部
24A~24D :受板部
30 :扉
HG :ヒンジ
L1~L20 :折り曲げ線
N1,N2 :中立面
P1 :突出片
P1a :くびれ部
P2 :第2の突出片
P3 :第3の突出片
P3a :湾曲部
P3b :湾曲部
P3c :円弧部
R1,R2 :曲率半径
V1 :第1の切り欠き部
V2 :第2の切り欠き部
V3 :第3の切り欠き部
X1 :中心線
【要約】 (修正有)
【課題】製造工数を削減し、かつ、コストを低減できる金属製箱を提供する。
【解決手段】金属製箱において、箱本体は、背面板部と、4つの側板部と、4つの前面板部と、を有する。2つの前面板部の端部の一方には、根元にくびれ部分を持つ第1の突出片が形成され、他方には、第1の突出片が嵌る第1の切り欠き部が形成される。隣接する2つの側板部22A、22Cの一方の端部には、当該一方の側板部に対して直角関係にありかつ根元にくびれ部分を持つ第2の突出片P2が形成され、他方の端部には、第2の突出片が嵌る第2の切り欠き部V2が形成される。第2の突出片が形成されていない側の側板部の端部には、側板部に対して直角関係にありかつ根元にくびれ部分を持たない全体として湾曲形状を有する第3の突出片P3が形成される。第2の突出片P2が形成されている側の側板部には、第3の突出片が嵌る第3の切り欠き部V3が形成されている。
【選択図】
図3A