(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】移動装置
(51)【国際特許分類】
A61G 5/06 20060101AFI20220815BHJP
A61G 5/04 20130101ALI20220815BHJP
B62B 5/02 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
A61G5/06
A61G5/04 707
B62B5/02 D
(21)【出願番号】P 2021102180
(22)【出願日】2021-06-21
(62)【分割の表示】P 2021074008の分割
【原出願日】2021-04-26
【審査請求日】2021-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521180533
【氏名又は名称】LIFEHUB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕士
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-255426(JP,A)
【文献】特開2009-101908(JP,A)
【文献】特開2018-184038(JP,A)
【文献】特開2008-126349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 1/00 - A61G 5/14
B62B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動対象を載せて移動する移動装置において、
二本の脚部と、
前記二本の脚部で支持された、前記移動対象を載せる載置部と、
前記二本の脚部を制御する制御部を備え、
前記各脚部は、上リンクと、当該上リンクに連結された下リンクと、当該下リンクの下端に設けられた端部車輪と、当該上リンクを前後方向に駆動する第一関節アクチュエータと、当該下リンクを前後方向に駆動する第二関節アクチュエータと、当該上リンクを左右方向に駆動する第三関節アクチュエータを備え、
前記制御部による前記端部車輪の回転の制御によって移動装置の姿勢が制御され、
両脚部の端部車輪接地位置に高さ方向の差がある場合に、前記第一関節アクチュエータ、第二関節アクチュエータ及び第三関節アクチュエータが駆動し、当該駆動によ
り当該両脚部の端部車輪接地位置の高さの差分だけ載置部の高さが変化する、
ことを特徴とする移動装置。
【請求項2】
請求項1記載の移動装置において、
合算重心位置と、両端部車輪の双方又はいずれか一方の端部車輪接地位置に基づいて移動装置の姿勢が制御される、
ことを特徴とする移動装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の移動装置において、
第三関節アクチュエータの駆動によって、持ち上げた一方の脚部の移動によって移動した合算重心位置と、持ち上げていない他方の脚部の端部車輪接地位置の左右方向の位置が一致するように、当該持ち上げていない他方の脚部が制御されることによって、移動装置の左右方向の姿勢が制御される、
ことを特徴とする移動装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の移動装置において、
第一関節アクチュエータと第二関節アクチュエータの駆動によって、持ち上げた一方の脚部の移動によって移動した合算重心位置と、持ち上げていない他方の脚部の端部車輪接地位置の前後方向の位置とが一致するように当該持ち上げていない他方の脚部が制御されることによって、移動装置の前後方向の姿勢が制御される、
ことを特徴とする移動装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の移動装置において、
外部状況を認識する外界認識センサと、
前記外界認識センサによって認識された外部状況から、接地車輪の移動すべき経路を生成する経路生成部を備えた、
ことを特徴とする移動装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の移動装置において、
合算重心位置に基づいて各アクチュエータを駆動した際に起こる理論運動が計算され、
慣性センサによって得られる情報から実運動が推定され、
前記理論運動と実運動の差が計算され、
理論運動と実運動に差がある場合に、当該差の量によって外乱量が推定され、
推定された前記外乱量に基づいて前記各アクチュエータの修正駆動量が計算され、
計算された前記修正駆動量に基づいて前記各アクチュエータが制御される、
ことを特徴とする移動装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の移動装置において、
移動対象が人であり、
前記移動対象を載せる載置部として、前記人が乗る椅子部を備えた、
ことを特徴とする移動装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の移動装置において、
上リンクと下リンクの連結位置に中間車輪が設けられ、
両脚部の中間車輪及び端部車輪が接地した四輪接地の状態で、各脚部の中間車輪、端部車輪、第一関節アクチュエータ及び第二関節アクチュエータの一又は二以上が駆動することよって、両脚部の端部車輪が接地した二輪接地の状態に切り替わる、
ことを特徴とする移動装置。
【請求項9】
請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の移動装置において、
上リンクと下リンクの連結位置に中間車輪が設けられ、
両脚部の端部車輪が接地した二輪接地の状態で、各脚部の中間車輪、端部車輪、第一関節アクチュエータ及び第二関節アクチュエータの一又は二以上が駆動することよって、両脚部の中間車輪及び端部車輪が接地した四輪接地の状態に切り替わる、
ことを特徴とする移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人や物などを載せて移動する移動装置に関し、より詳しくは、対象物を載せた状態で階段(段差を含む。以下同じ。)を昇降することができる移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者や身体障害者の中には場所の移動に困難を伴う人がいる。特に階段の昇降は身体への負担が大きい。従来、人を載せて移動する装置として、たとえば、片側四本のリンクと四つの車輪からなる左右一対の車輪支持体を備えた階段昇降式移動車(特許文献1)が知られている。
【0003】
前記特許文献1記載の階段昇降式移動車は、車体を支持する左右一対の車輪支持体のリンク回動駆動及びリンク屈伸駆動を行いながら階段を昇降できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1の装置では、階段を昇降する際に左右合計八つの車輪が接地するスペースが必要であり、この空間が確保できない場合には、当該装置を使って階段を昇降することができない。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、従来の移動装置では昇降が難しかった階段も昇降することができる移動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の移動装置は移動対象を載せて移動する移動装置であって、二本の脚部と、二本の脚部で支持された、移動対象を載せる載置部と、二本の脚部を制御する制御部を備え、各脚部は、上リンクと、上リンクに連結された下リンクと、下リンクの下端に設けられた端部車輪と、上リンクを前後方向に駆動する第一関節アクチュエータと、下リンクを前後方向に駆動する第二関節アクチュエータと、上リンクを左右方向に駆動する第三関節アクチュエータを備え、制御部による端部車輪の回転の制御によって移動装置の姿勢が制御され、両脚部の端部車輪接地位置に高さ方向の差がある場合に、前記第一関節アクチュエータ、第二関節アクチュエータ及び第三関節アクチュエータが駆動し、当該駆動により当該両脚部の端部車輪接地位置の高さの差分だけ載置部の高さが変化するようにした装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の移動装置は、二本の脚部の端部車輪の回転の制御によって姿勢が制御されるため、二本の脚部で起立して階段を昇降することができ、従来の装置では昇降が難しかった階段も昇降することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)は本発明の移動装置の一例を示す正面図、(b)は階段を一段昇った状態の側面図。
【
図2】本発明の移動装置の一例を示す機能ブロック図。
【
図3】階段の昇降が可能な否かの判定手順の一例を示すフローチャート。
【
図4】経路生成部での経路生成の手順の一例を示すフローチャート。
【
図5】(a)は移動装置の幅、階段上方空間の幅方向の片側マージン及び各段の上方空間の幅の説明図、(b)は中心位置と中心位置偏差の説明図。
【
図6】(a)~(c)は階段を上る際の前後方向の姿勢の制御説明図。
【
図7】(a)~(d)は階段を上る際の前後方向の姿勢の制御説明図。
【
図8】(a)~(c)は階段を上る際の左右方向の姿勢の制御説明図。
【
図9】(a)~(d)は階段を上る際の左右方向の姿勢の制御説明図。
【
図10】外乱に対する運動制御の一例を示すフローチャート。
【
図11】(a)~(d)は四輪接地から二輪接地に遷移する場合の一例を示す動作説明図。
【
図12】(a)~(e)は四輪接地から二輪接地に遷移する場合の他例を示す動作説明図。
【
図13】(a)~(e)は二輪接地から四輪接地に遷移する場合の一例を示す動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
本発明の移動装置の一例を、図面を参照して説明する。本発明の移動装置は人や物(以下「移動対象」という)Xなどを載せて移動する装置である。ここでは、人を載せて移動する移動装置(椅子型移動装置)を一例とする。なお、本願では移動装置の進行方向前方側を前、後方側を後ろ、左側を左、右側を右、上方側を上、下方側を下と表現する。
【0011】
また、本願において「合算重心位置」とは、移動装置の重心位置と、移動対象Xの重心位置とを合算した重心位置をいう。移動対象Xの重心位置は、たとえば載置部20に設置された座面センサ24に加わる移動対象Xの荷重から重心位置推定部32によって推定される重心位置とすることができる。
【0012】
移動装置の重心位置は、移動装置を構成する各部品の重心位置に基づいて(各部品の重心位置を合算することで)算出することができる。ここでいう移動装置を構成する各部品には、後述する脚部10の上リンク11、下リンク12、中間車輪13、端部車輪14、第一関節アクチュエータ15、第二関節アクチュエータ16及び第三関節アクチュエータ17が含まれる。
【0013】
具体的には、移動装置の重心位置は次のように算出することができる。移動装置を構成する各部品の重量や重心位置、慣性モーメントは既知であることから、各アクチュエータ15~17の回転角から各部品の相対的な位置関係を特定し、特定された位置関係から各部品の重心位置を算出して各部品の重心位置を合算することで移動装置の重心位置を算出することができる。
【0014】
また、本願において、「端部車輪接地位置」とは、端部車輪14の地面や床面(以下「接地面」という)への接地位置をいう。端部車輪接地位置は、各脚部10の端部車輪14ごとに設定されるものである。両脚部10の端部車輪接地位置は、両脚部10の端部車輪14が前後方向にずれていない場合には横並びの位置となり、両脚部10の端部車輪14が前後方向にずれている場合には前後方向にずれた位置となる。
【0015】
一例として
図1(a)(b)に示す移動装置は、脚部10と、当該脚部10に連結された載置部(以下「椅子部」という)20と、脚部10を制御する制御部30(
図2)を備えている。
【0016】
前記脚部10は椅子部20を支持するものである。
図1(a)(b)に示すように、前進方向左側の脚部(以下「左脚部」という)10aは、左上リンク11a、左下リンク12a、左中間車輪13a、左端部車輪14a、左第一関節アクチュエータ15a、左第二関節アクチュエータ16a及び左第三関節アクチュエータ17aを備えている。
【0017】
前記左上リンク11aは、その上端側が椅子部20の底面に設けられた左ブラケット23aに回転可能に連結され、左下リンク12aは、その上端側が左上リンク11aに回転可能に連結されている。
【0018】
左上リンク11aと左下リンク12aの連結位置には左中間車輪13aが配置され、左上リンク11aと左下リンク12aの連結に用いられた連結具で回転可能に連結されている。
【0019】
左下リンク12aの下端側には左端部車輪14aが回転可能に連結されている。左端部車輪14aは地面(床面)に接地するように、その底面が左下リンク12aの下端よりも下側に突出して設けられている。
【0020】
前記左第一関節アクチュエータ15aは左上リンク11aを前後方向に駆動する駆動手段であり、左上リンク11aと左ブラケット23aとの連結部分に設けられている。左上リンク11aは、左第一関節アクチュエータ15aの動作によって前後方向に回動する。
【0021】
前記左第二関節アクチュエータ16aは左下リンク12aを前後方向に駆動する駆動手段であり、左上リンク11aと左下リンク12aの連結部分に設けられている。左下リンク12aは、左第二関節アクチュエータ16aの動作によって前後方向に回動する。
【0022】
前記左第三関節アクチュエータ17aは左上リンク11aを左右方向(内外方向)に駆動する駆動手段であり、左上リンク11aと左ブラケット23aとの連結部分に設けられている。左上リンク11aは、左第三関節アクチュエータ17aの動作によって左右方向に回動する。
【0023】
前進方向右側の脚部(以下「右脚部」という)10bは、右上リンク11b、右下リンク12b、右中間車輪13b、右端部車輪14b、右第一関節アクチュエータ15b、右第二関節アクチュエータ16b及び右第三関節アクチュエータ17bを備えている。
【0024】
前記右上リンク11bは、その上端側が椅子部20の底面に設けられた右ブラケット23bに回転可能に連結され、右下リンク12bは、その上端側が右上リンク11bに回転可能に連結されている。
【0025】
右上リンク11bと右下リンク12bの連結位置には右中間車輪13bが配置され、右上リンク11bと右下リンク12bの連結に用いられた連結具で回転可能に連結されている。
【0026】
右下リンク12bの下端側には右端部車輪14bが回転可能に連結されている。右端部車輪14bは地面(床面)に接地するように、その底面が右下リンク12bの下端よりも下側に突出して設けられている。
【0027】
前記右第一関節アクチュエータ15bは右上リンク11bを前後方向に駆動する駆動手段であり、右上リンク11bと右ブラケット23bとの連結部分に設けられている。右上リンク11bは、右第一関節アクチュエータ15bの動作によって前後方向に回動する。
【0028】
前記右第二関節アクチュエータ16bは右下リンク12bを前後方向に駆動する駆動手段であり、右上リンク11bと右下リンク12bの連結部分に設けられている。右下リンク12bは、右第二関節アクチュエータ16bの動作によって前後方向に回動する。
【0029】
前記右第三関節アクチュエータ17bは右上リンク11bを左右方向(内外方向)に駆動する駆動手段であり、右上リンク11bと右ブラケット23bとの連結部分に設けられている。右上リンク11bは、右第三関節アクチュエータ17bの動作によって左右方向に回動する。
【0030】
前記両第一関節アクチュエータ15、両第二関節アクチュエータ16、両第三関節アクチュエータ17には、モータや減速機、エンコーダ、ブレーキ等を備えた既存のアクチュエータを用いることができる。
【0031】
前記椅子部20は人が座る部分であり、人が座る着座部21と、人が制御信号を入力する指令操作部22と、脚部10と連結する連結部23を備えている。
【0032】
前記着座部21は、座面21aと背凭れ21bを備えている。着座部21の構造はこれ以外であってもよく、たとえば、座面21aと背凭れ21bと図示しない脚載せ台を備えたものや背凭れ21bのない座面21aのみのもの、座面21aと脚載せ台のみで構成されたもの等とすることもできる。
【0033】
着座部21には、座面21aにかかる人の荷重を検知する座面センサ24と、移動装置周辺の外部状況(たとえば、階段や障害物の有無など)を認識する外界認識センサ25と、直交三軸方向の並進運動や回転運動を検出する慣性センサ26が設けられている。
【0034】
座面センサ24は座面21aの表面側に、外界認識センサ25及び慣性センサ26は座面21aの前面及び側面に設けられている。各センサの設置位置は一例であり、これら以外の場所に設けることもできる。
【0035】
座面センサ24には、たとえば、圧力センサを用いることができる。座面センサ24は座面21aに複数個設置するのが好ましい。座面センサ24による検知信号は後述する制御部30の重心位置推定部32(
図2)に送信され、その検知信号に基づいて人の重心位置が重心位置推定部32で推定される。
【0036】
前記外界認識センサ25には、たとえば、レーザ光線を照射し、その反射光から物体までの距離を測定するレーザレンジファインダを用いることができる。外界認識センサ25にはレーザレンジファインダ以外のものを用いることもできる。外界認識センサ25では、たとえば、階段や障害物(壁や柱、扉、家具、人など)の有無などが認識される。外界認識センサ25による検知信号は後述する制御部30の判定部34(
図2)に送信され、その検知信号に基づいて階段通行の可否が判定部34で判定される。
【0037】
前記慣性センサ26には、たとえば、ジャイロセンサや加速度センサを用いることができる。慣性センサ26では、たとえば、移動装置の実際の運動(移動速度や傾きなど)が検知される。慣性センサ26による検知信号は後述する制御部30の運動推定部37(
図2)に送信され、その検知信号に基づいて実際の動作(以下「実運動」という)が運動推定部37で推定される。慣性センサ26にはジャイロセンサや加速度センサ以外のものを用いることもできる。
【0038】
前記指令操作部22は、人が制御部30に対して制御信号を入力するための手段である。指令操作部22には、ジョイスティックやタッチパネルなど既存の入力装置を用いることができる。この実施形態では、指令操作部22によって、前進、後退、旋回、階段移動といった動作の制御信号が入力できるようにしてある。入力された制御信号は制御部30に送信される。各制御信号が送信された場合の動作については後述する。
【0039】
前記連結部23は二本の脚部10を連結する部分である。一例として
図1(a)(b)に示す連結部23は、座面21aの裏面側に突設された左ブラケット23aと、右ブラケット23bを備えている。左ブラケット23aは左脚部10aを連結するもの、右ブラケット23bは右脚部10bを連結するものである。ここで示すものは一例であり、連結部23は二本の脚部10を回転可能に連結できるものであれば、その構成は特に限定されない。
【0040】
前記制御部30は、脚部10を構成する各アクチュエータ15~17、両中間車輪13及び両端部車輪14を制御するための手段である。制御部30は、プロセッサやメモリ等を主要構成として備えるコンピュータで構成することができる。
【0041】
この実施形態の制御部30は、両脚部10を制御する運動制御部31と、座面センサ24に加わる荷重から重心位置を推定する重心位置推定部32と、合算重心位置を算出する合算重心算出部33と、外界認識センサ25による検知信号から階段の昇降の可否を判定する判定部34と、階段の昇降前に移動経路(軌道)を生成する経路生成部35と、合算重心位置に基づき、各アクチュエータ15~17を駆動した際に起こる理論上の動作(以下「理論運動」という)を計算する理論運動計算部36と、慣性センサ26により得られた実際の運動から実運動を推定する運動推定部37を備えている。
【0042】
この実施形態の制御部30では、静止状態の制御や前進時の制御、後退時の制御、旋回時の制御、階段昇降時の前後方向の姿勢の制御、階段昇降時の左右方向の姿勢の制御、外乱に対する運動の制御、四輪から二輪への切り替え制御、二輪から四輪への切り替え制御等が行われる。
【0043】
はじめに、静止状態の制御、前進時の制御、後退時の制御、旋回時の制御について説明する。
【0044】
[静止状態の制御]
指令操作部22の操作によって指令操作が行われない場合、合算重心位置の前後方向の位置と両端部車輪14の端部車輪接地位置の前後方向の位置とが一致するように、左右の端部車輪14を駆動する。駆動後、最終的には左右の端部車輪14の回転角速度がゼロに収束するように回転角速度を制御する。
【0045】
[前進時の制御]
指令操作部22の操作によって前進の指令操作が行われた場合、合算重心位置の前後方向の位置が両端部車輪14の端部車輪接地位置の前後方向の位置よりも前方に位置するように端部車輪14を駆動させ、合算重心位置と両端部車輪14の端部車輪接地位置との間に差を生じさせる。この差の大きさは指令操作の大きさに比例した値とする。
【0046】
指令操作部22の操作によって前進の指令操作が行われたあと、指令操作が中止された場合、移動装置は合算重心位置の前後方向の位置が両端部車輪14の端部車輪接地位置よりも後ろに位置するように端部車輪14を駆動させ、合算重心位置と両端部車輪14の端部車輪接地位置との間に差を生じさせる。駆動後、最終的には端部車輪14の回転角速度がゼロに収束するように回転角速度を制御し、端部車輪14の回転角速度がゼロ付近に近づいたあと、静止状態の制御を行う。
【0047】
[後退時の制御]
指令操作部22の操作によって後退の指令操作が行われた場合、合算重心位置の前後方向の位置が両端部車輪14の端部車輪接地位置の前後方向の位置よりも後ろに位置するように端部車輪14を駆動させ、合算重心位置と両端部車輪14の端部車輪接地位置との間に差を生じさせる。この差の大きさは指令操作の大きさに比例した値とする。
【0048】
指令操作部22の操作によって後退の指令操作が行われたあと、指令操作が中止された場合、移動装置は合算重心位置の前後方向の位置が両端部車輪14の端部車輪接地位置よりも前に位置するように端部車輪14を駆動させ、合算重心位置と両端部車輪14の端部車輪接地位置との間に差を生じさせる。駆動後、最終的には端部車輪14の回転角速度がゼロに収束するように回転角速度を制御し、端部車輪14の回転角速度がゼロ付近に近づいたあと、静止状態の制御を行う。
【0049】
[旋回時の制御]
指令操作部22の操作によって旋回の指令操作が行われた場合、左右の端部車輪14の回転数に差が生じるように両端部車輪14を駆動する。その差の大きさは旋回の指令操作の大きさに比例した値とする。
【0050】
具体的には、右旋回の指令操作の場合、左端部車輪14aの回転数を右端部車輪14bの回転数よりも大きくし、左旋回の指令操作の場合、右端部車輪14bの回転数を左端部車輪14aの回転数よりも大きくする。
【0051】
左右の端部車輪14の回転数の平均値を、人が旋回の指令操作を行っているときの前進又は後退の指令操作に基づく端部車輪14の回転数に一致させる。なお、前進又は後退の指令操作が行われていない場合に指令操作部22の操作によって旋回の指令操作が行われたときは、左右の端部車輪14の回転数の平均値はゼロとする。
【0052】
次に、階段昇降時の前後方向の姿勢の制御、階段昇降時の左右方向の姿勢の制御について説明する。本実施形態では、階段の昇降に先立ち、階段の昇降を開始するか否かの判定が行われる。具体的には、外界認識センサ25によって階段が認識され、指令操作部22の操作によって階段への移動指令が入力されたときに、階段昇降を開始するか否か(階段昇降の可否)が判定される。この判定は、たとえば、
図3に示す手順で行われる。
【0053】
[階段通行可否の判定]
(1)外界認識センサ25によって外界形状を取得する(S001)。外界認識センサ25による外界形状の取得は継続して行われ、取得された外界形状は制御部30に伝達される。
(2)外界認識センサ25によって取得された外界形状から階段があるか否かが判定される(S002)。
(3)前記(2)の判定の結果、階段がないと認識された場合、移動装置は平面移動を継続する(S003)。
(4)前記(2)の判定の結果、階段があると認識された場合、その階段の形状(以下「階段形状」という)が外界認識センサ25によって取得される(S004)。
(5)外界認識センサ25によって取得された階段形状から、経路生成部35によって階段を昇降するための経路(たとえば、最短経路などの最適経路)が生成される(S005)。
(6)経路生成部35によって経路が生成されたのち、当該経路を通行可能か否かが判定される(S006)。
(7)前記(6)の判定の結果、通行できないと判定された場合、移動装置が階段の手前で停止する(S007)。この場合、図示しない情報表示手段や報知手段等によって、乗っている人に対して通行できないことを伝達することもできる。
(8)前記(6)の判定の結果、通行できると判定された場合、移動装置は当該階段の通行(昇降)を開始する(S008)。
(9)以降、前記(2)~(8)を繰り返して階段を順次昇降していく。
【0054】
[経路生成の手順]
前記(5)の経路生成は、たとえば、
図4に示す手順で行われる。
(1)移動装置の幅W
b、階段上方空間の幅方向の片側マージン(以下「片側幅マージン」という)W
m(
図5(a))及び各段の中心位置から次の段の中心位置に対する幅方向の偏差許容値(以下「中心偏差許容値」という)d
thを設定する(S101)。
(2)外界認識センサ25によって得られた階段の形状に基づき、各段の上方空間の幅W
S(
図5(a))を計測する(S102)。
(3)W
s≧W
b+2W
m(式1)を満たすか否かにより、移動装置が各段の空間を通行可能か否かを判定する(S103)。
(4)前記(3)において、前記式1を満たさない場合には通行不可と判定され、図示しない情報表示手段等によって通行不可能である旨が乗っている人に通知される(S104)。
(5)前記(3)において、前記式1を満たす場合、外界認識センサ25によって得られた階段形状に基づき、各段の中心位置C
si、C
si+1・・・を計算する(S105)。具体的には、
図5(b)に示すように、予め設定された各段に共通に使用する基準線RLと各段を幅方向に二分する中心線L1、L2・・・との距離によって、各段の中心位置C
si、C
si+1・・・が計算される。
(6)前記(5)において各段の中心位置C
siを計算したのち、隣り合う段(たとえば、一段目と二段目、二段目と三段目)ごとに中心位置偏差d
si=|C
si+1-C
si|(式2)を計算する(S106)。
(7)前記(1)で設定した中心偏差許容値d
thと前記(6)で計算した中心位置偏差d
siが、d
th≧d
si(式3)を満たすか否かを判定する(S107)。
(8)前記(7)において、前記式3を満たさない場合(中心偏差許容値d
thが中心位置偏差d
siを下回る場合)には通行不可と判定され、図示しない情報表示手段等によって通行不可能である旨が乗っている人に通知される(S104)。
(9)前記(7)において、前記式3を満たす場合(中心偏差許容値d
thが中心位置偏差d
siを上回る場合)、各段の接地位置を各段の中心位置C
siに設定する(S108)。
(10)前記(9)で各段の接地位置を各段の中心位置C
siに設定したのち、図示しない情報表示手段等によって通行可能である旨が乗っている人に通知される(S109)。
【0055】
なお、各段の接地位置は、幅方向のマージンを確保できる範囲内で、各段の接地位置の幅方向の変化を最小として設定することもできる。この場合、各段の中心位置偏差の総和が最小になるように各段の接地位置を計算する。
【0056】
図3及び
図4に示す手順を経て階段の昇降が開始される場合、移動装置の姿勢は次のように制御される。ここでは、階段昇降時の前後方向の姿勢制御と階段昇降時の左右方向の姿勢制御に分けて説明する。
【0057】
[階段昇降時の前後方向の姿勢制御]
制御部30は、経路生成部35で生成された経路に従い、両脚部10のどちらを持ち上げるかを決定する(
図6(a))。ここでは、左脚部10aを持ち上げたのち、右脚部10bを持ち上げる場合を一例とする。
【0058】
持ち上げた左脚部10aの左端部車輪14aが次の端部車輪接地位置へ移動するように、左第一関節アクチュエータ15a及び左第二関節アクチュエータ16aを駆動する(
図6(b))。ここでいう、次の端部車輪接地位置とは、現在起立している段の次の段の踏み面のうち左脚部10aの左端部車輪14aの接地位置を意味する。
【0059】
このとき、持ち上げた左脚部10aの前方向への移動によって合算重心位置も前へ移動するため、持ち上げていない右脚部10bの端部車輪接地位置と移動した合算重心位置の前後方向の位置とが一致するように、持ち上げていない右脚部10bの右第一関節アクチュエータ15bと右第二関節アクチュエータ16bを駆動する。
【0060】
持ち上げた左脚部10aの左端部車輪14aが次の端部車輪接地位置へ接地したことを確認したのち、左脚部10aの端部車輪接地位置と合算重心位置の前後方向の位置を一致させるように両脚部10の両第一関節アクチュエータ15と両第二関節アクチュエータ16を駆動する(
図6(c)及び
図7(a))。
【0061】
その後、前後の端部車輪接地位置(左端部車輪14aの端部車輪接地位置と右端部車輪14bの端部車輪接地位置)の高さの差に基づき、その高さ分だけ椅子部20の高さを同時に変化させるように、各アクチュエータ15~17を駆動する(
図7(b)(c))。
【0062】
階段昇降時に端部車輪14が一輪接地となるフェーズでは、端部車輪14を駆動し、接地している端部車輪14の端部車輪接地位置と合算重心位置の前後方向の位置を一致させることによって、姿勢制御を行う。
【0063】
移動装置の前後方向の姿勢制御は、バッテリーなどの重量物を前後方向に移動させる際の反作用力を利用して行うほか、椅子部20にフライホイールを設置し、ジャイロモーメントを利用して行うこともできる。
【0064】
ここでは、左脚部10aを持ち上げたのち、右脚部10bを持ち上げて階段を昇る場合を一例としているが、右脚部10bを持ち上げたのち、左脚部10aを持ち上げて階段を昇る場合の動作も同様である。
【0065】
[階段昇降時の左右方向の姿勢制御]
制御部30は、経路生成部35で生成された経路に従い、両脚部10のどちらを持ち上げるかを決定する(
図8(a))。ここでは、右脚部10bを持ち上げたのち、左脚部10aを持ち上げる場合を一例とする。
【0066】
持ち上げていない左脚部10aの接地位置と合算重心位置の左右方向の位置が一致するように、持ち上げていない左脚部10aの左第三関節アクチュエータ17aを駆動する(
図8(b))。
【0067】
持ち上げた右脚部10bの右端部車輪14bが次の端部車輪接地位置(現在起立している段の次の段の踏み面のうち右脚部10bの右端部車輪14bの接地位置)へ移動するように、右第一関節アクチュエータ15bと右第二関節アクチュエータ16bを駆動する(
図8(c)及び
図9(a))。このとき、右脚部10bを持ち上げることによる合算重心位置の左右方向への移動を防ぐため、持ち上げた側の右脚部10bの右第三関節アクチュエータ17bを駆動し、合算重心位置の変化を補償する。
【0068】
前後の端部車輪接地位置(右端部車輪14bの端部車輪接地位置と左端部車輪14aの端部車輪接地位置)の高さの差に基づき、その高さ分だけ椅子部20の高さを同時に変化させるように、各アクチュエータ15~17を駆動する(
図9(b))。階段昇降が終了した場合、合算重心位置を両脚部10の中心に位置させるように、両第三関節アクチュエータ17を駆動する(
図9(b)(c))。
【0069】
移動装置の前後方向の姿勢制御と同様、移動装置の左右方向の姿勢制御は、バッテリーなどの重量物を左右方向に移動させる際の反作用力を利用して行うほか、椅子部20にフライホイールを設置し、ジャイロモーメントを利用して行うこともできる。
【0070】
ここでは、右脚部10bを持ち上げたのち、左脚部10aを持ち上げて階段を昇る場合を一例としているが、左脚部10aを持ち上げたのち、右脚部10bを持ち上げて階段を昇る場合の動作も同様である。
【0071】
前記階段昇降時の前後方向の姿勢制御及び階段昇降時の左右方向の姿勢制御では、階段を昇る場合の姿勢制御を一例としているが、階段を降りる場合も脚部10の上げ下げが逆になる以外は階段を昇る場合と同様の方法で姿勢制御が行われる。
【0072】
[外乱に対する運動制御]
次に、外乱に対する運動制御の一例について説明する。この実施形態の移動装置では、外乱に対して、
図10に示す手順で制御が行われるようにしてある。
(1)座面センサ24によって得られた検知信号から、移動対象(人)Xの重心位置を推定する(S201)。
(2)合算重心算出部33(
図2)で算出された合算重心位置に基づき、各アクチュエータ15~17を駆動する(S202)。
(3)合算重心位置に基づき、各アクチュエータ15~17を駆動した際に起こる理論運動を理論運動計算部36(
図2)で計算する(S203)。
(4)慣性センサ26によって得られた情報から、運動推定部37(
図2)によって実運動を推定する(S204)。
(5)前記(3)で計算した理論運動と前記(4)で推定した実運動とを比較し、両者に差があるか否かを判定する(S205)。
(6)前記(5)において、実運動と理論運動に差がないと判定された場合は、外乱がないものと判定し、外乱に対する運動制御は行わない。
(7)前記(5)において、実運動と理論運動に差があると判定された場合は、その差分の外乱があるものと判定し、その差の量によって外乱量を推定する(S206)。
(8)前記(7)で外乱量を推定したのち、推定した外乱量に基づき、各アクチュエータ15~17の修正駆動量を計算する(S207)。
(9)前記(8)で計算した修正駆動量に基づいて各アクチュエータ15~17を駆動し、外乱に対する運動を制御する(S208)。
【0073】
なお、前記(4)の運動推定部37による実運動の推定には、各アクチュエータ15~17の駆動トルクと座面センサ24による人の重心位置の推定値の変化を用いることもできる。
【0074】
[四輪接地から二輪接地への切り替え]
次に、四輪接地の状態から二輪接地の状態に切り替える際の制御の一例について説明する。本実施形態の移動装置は、四輪接地の状態から二輪接地の状態に切り替えることができる。四輪接地から二輪接地への切り替えは、たとえば、
図11(a)~(d)に示す手順で行うことができる。
(1)
図11(a)は両端部車輪14及び両中間車輪13の四輪が接地面に接地した状態を示すものである。
(2)
図11(a)の状態で両端部車輪14を後進方向に駆動させ、移動装置を後方に(
図11(a)の矢印方向)に並進運動させる。
(3)前記(2)のように移動装置を後方に並進運動させたのち、両端部車輪14に前進方向の駆動トルクをかける。このとき、慣性力によって椅子部20が後方に移動するように、また、椅子部20の高さと姿勢角が変化しないように、両第一関節アクチュエータ15及び両第二関節アクチュエータ16を駆動することで、両中間車輪13が地面から離れる(
図11(b))。
(4)前記(3)の状態で、両端部車輪14、両第一関節アクチュエータ15及び両第二関節アクチュエータ16を駆動させ、両端部車輪14を椅子部20に対して相対的に前方に移動させる。
(5)前記(4)の状態で、椅子部20の後進速度がゼロになると同時に両端部車輪14の端部車輪接地位置が合算重心位置の前後方向と一致するように両端部車輪14を駆動する(
図11(c))。
(6)前記(5)の状態で、左右二輪の端部車輪14のみが接地した状態になったのち、人による指令操作部22の操作に基づき、椅子部20の高さを変化させる。(
図11(d))。
【0075】
本実施形態の移動装置の四輪接地から二輪接地への切り替えは、
図12(a)~(e)に示す手順で行うこともできる。
(1)
図12(a)は両端部車輪14及び両中間車輪13の四輪が接地面に接地した状態を示すものである。
(2)前記(1)の状態で、両第二関節アクチュエータ16を駆動して、合算重心位置の前後方向の位置を両中間車輪13の接地位置(中間車輪接地位置)と両端部車輪14の端部車輪接地位置の間の範囲内で前方に移動させる(
図12(a))。
(3)椅子部20を水平に保った状態で椅子部20を後方に移動させるために、両第一関節アクチュエータ15と両第二関節アクチュエータ16を駆動する。これにより、前後方向の合算重心位置が後方に移動する(
図12(b))。
(4)椅子部20が後方に移動している最中に、その後方への運動を打ち消すように両端部車輪14を駆動するのと同時に、両第一関節アクチュエータ15と両第二関節アクチュエータ16を駆動することで両中間車輪13を接地面から持ち上げる(
図12(c))。
(5)椅子部20の後進速度がゼロになると同時に両端部車輪14の端部車輪接地位置が合算重心位置の前後方向と一致するように両端部車輪14、両第一関節アクチュエータ15、両第二関節アクチュエータ16を駆動する(
図12(d))。
(6)両端部車輪14のみが接地した状態になったのち、人による指令操作部22の操作に基づき、椅子部20の高さを変化させる。(
図12(e))。
【0076】
[二輪接地から四輪接地への切り替え]
本実施形態の移動装置は、二輪接地の状態から四輪接地の状態に切り替えることができる。二輪接地から四輪接地の切り替えは、たとえば、
図13(a)~(e)に示す手順で行うことができる。
(1)
図13(a)は両端部車輪14が接地面に接地した状態で移動装置が起立(自立)した状態を示すものである。
(2)前記(1)の状態で、両第一関節アクチュエータ15及び両第二関節アクチュエータ16を駆動して、椅子部20の高さを四輪接地の状態に近い高さにする(
図13(a)(b))。
(3)前記(2)の状態で、両端部車輪14を駆動し、移動装置を後方(
図13(c)の矢印方向)に並進運動させる(
図13(c))。
(4)前記(3)の状態で、移動装置の後方へ慣性力を打ち消すように両端部車輪14を駆動させると同時に、両第一関節アクチュエータ15及び両第二関節アクチュエータ16を駆動させ、両端部車輪14を椅子部20に対して相対的に後方に移動させる(
図13(d))。
(5)前記(4)の状態で、両第一関節アクチュエータ15と両第二関節アクチュエータ16を駆動し、移動装置の並進速度がゼロになると同時に両中間車輪13を接地させる(
図13(e))。
【0077】
前記切り替え制御は一例であり、四輪接地から二輪接地への切り替え及び二輪接地から四輪接地への切り替えは、これら以外の方法で制御することもできる。
【0078】
本実施形態の移動装置は、制御部30での脚部10の制御によって、二本の脚部10で単一の(階段一段分の)踏み面に起立することができると共に、一方の脚部10の端部車輪14を階段の第一の踏み面に接触させ、他方の脚部10の端部車輪14を第一の踏み面に続く第二の踏み面に接触させた状態で起立できるため、人が階段を昇降する場合と同等の占有空間があれば、二足歩行で階段を昇降することができる。
【0079】
(その他の実施形態)
前記実施形態では人を載せて移動する移動装置(椅子型移動装置)を一例としているが、本発明の移動装置は人以外のもの、たとえば、荷物を載せて移動する荷物移動装置などとして用いることもできる。荷物移動装置として用いる場合、椅子部20に代えて荷物を載せられる荷載せ部を載置部20とすることができる。
【0080】
前記実施形態では、静止や前進、後退、旋回、四輪接地から二輪接地への切り替え、二輪接地から四輪接地への切り替えを、両端部車輪14が前後方向にずれていない状態(横並びの状態)で行う場合を一例としているが、これらの動作は両脚部10(両端部車輪14)が前後方向にずれた状態で行うこともできる。
【0081】
この場合、両端部車輪14の双方又はいずれか一方の回転を制御して、合算重心位置と両端部車輪14のいずれか一方の端部車輪接地位置とを一致させることによって、静止時や前進時、後退時、旋回時、四輪接地から二輪接地への切り替え時、二輪接地から四輪接地への切り替え時における、移動装置の前後方向や左右方向の姿勢を制御することができる。
【0082】
なお、両端部車輪14で起立している状態で、両端部車輪14の端部車輪接地位置が前後方向にずれている場合、両端部車輪接地位置同士を結ぶ直線上に合算重心位置を位置させることで、移動装置の姿勢を制御することができる。
【0083】
前記実施形態では、脚部10が二本の場合を一例としているが、脚部は少なくとも二本あればよく、三本以上の脚部10を備えたものを排除するものではない。
【0084】
本実施形態の移動装置の構成は一例であり、本発明の移動装置の構成はその要旨を変更しない範囲で、適宜、省略や置換、入れ替え等の変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の移動装置は、人を載せて移動する移動装置(椅子型移動装置)として利用するほか、人以外の荷物などを載せて移動する移動装置(荷物移動装置)としても利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 脚部
10a 左脚部
10b 右脚部
11 上リンク
11a 左上リンク
11b 右上リンク
12 下リンク
12a 左下リンク
12b 右下リンク
13 中間車輪
13a 左中間車輪
13b 右中間車輪
14 端部車輪
14a 左端部車輪
14b 右端部車輪
15 第一関節アクチュエータ
15a 左第一関節アクチュエータ
15b 右第一関節アクチュエータ
16 第二関節アクチュエータ
16a 左第二関節アクチュエータ
16b 右第二関節アクチュエータ
17 第三関節アクチュエータ
17a 左第三関節アクチュエータ
17b 右第三関節アクチュエータ
20 載置部(椅子部)
21 着座部
21a 座面
21b 背凭れ
22 指令操作部
23 連結部
23a 左ブラケット
23b 右ブラケット
24 座面センサ
25 外界認識センサ
26 慣性センサ
30 制御部
31 運動制御部
32 重心位置推定部
33 合算重心算出部
34 判定部
35 経路生成部
36 理論運動計算部
37 運動推定部
X 移動対象
【要約】
【課題】 従来の移動装置では昇降できなかったような空間が限られた場所にある階段も昇降することができる移動装置を提供する。
【解決手段】 本発明の移動装置は移動対象Xを載せて移動する移動装置であって、端部車輪14を備えた少なくとも二本の脚部10と、二本の脚部10で支持された、移動対象Xを載せる載置部20と、二本の脚部10を制御する制御部30を備え、制御部30による端部車輪14の回転の制御によって移動装置の姿勢が制御されるようにした装置である。移動装置の姿勢は、合算重心位置と両端部車輪14の双方又はいずれか一方の端部車輪接地位置に基づいて制御されるようにすることができる。
【選択図】
図1