(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】眼内レンズ及び眼内レンズ支持部の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20220815BHJP
【FI】
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2022066823
(22)【出願日】2022-04-14
【審査請求日】2022-04-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500550980
【氏名又は名称】株式会社中京メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】市川 一夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 則彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 裕人
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-005979(JP,A)
【文献】特表平08-501972(JP,A)
【文献】特許第6045659(JP,B1)
【文献】中国実用新案第209347319(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第105142886(CN,A)
【文献】特開2017-080329(JP,A)
【文献】特開2017-148272(JP,A)
【文献】特表2020-534111(JP,A)
【文献】特開平08-114774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ部と、
前記レンズ部から線状に延び出して、眼球の部位に支持される支持部とを備え、
前記支持部の先端は他の部分に比べて幅広の幅広部であり、
前記幅広部は、前記支持部の先端側を眼内から眼外に出す器具に引っ掛けさせる部分であ
り、
前記幅広部は、前記支持部の軸線を面内に含む断面において前記軸線を境にして2つの領域に分けたときに、双方の前記領域の側に出っ張る形状に形成される、
眼内レンズ。
【請求項2】
前記幅広部は前記他の部分の側に向いた裏面を有し、
前記裏面は前記器具に引っ掛けさせる部分である請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項3】
前記幅広部は、前記支持部の
基端と前記先端の間の部分である前記他の部分の軸線回りの全周に亘って前記支持部の延設方向に交差する方向に
前記他の部分から出っ張る形状に形成される請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項4】
前記幅広部の、前記支持部の延設方向に直角な方向における幅は0.2mm~0.6mmである請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項5】
前記幅広部の、前記他の部分からの、前記軸線に直角な方向への出っ張り量は0.1mm以上である請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項6】
前記幅広部の、前記軸線の方向における幅は0.1mm以上2mm以下である請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項7】
前記支持部は、加熱により、前記支持部の延設方向に交差する方向に出っ張る形状の熱変形部を形成する材料で形成される請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項8】
前記支持部の軸線を面内に含む断面で見て、前記幅広部の裏面と、前記支持部の前記他の部分との成す角度が15°以上160°以下である請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項9】
前記幅広部が玉状である請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項10】
前記幅広部は前記器具としての鑷子に引っ掛けさせる部分である請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項11】
眼内に挿入されるレンズ部に一端が接続され、他端側が眼球の部位に支持されるように用いられる、線状に延びる支持部を準備して、眼内に挿入する前に前記支持部の先端を加熱して、前記支持部の延設方向に交差する方向に出っ張る形状の熱変形部を形成
し、
前記熱変形部は、前記支持部の軸線を面内に含む断面において前記軸線を境にして2つの領域に分けたときに、双方の前記領域の側に出っ張る形状に形成される、
眼内レンズ支持部の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レンズ部と、レンズ部から線状に延び出して眼球の部位に支持される支持部とを備えた眼内レンズが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の眼内レンズでは、支持部としてのハプティクの先端からの一部が逆方向に折り返された折り返し部として構成されている。また、特許文献1では、支持部の折り返し部を引っ掛けて、眼内から眼外に出す医療用器具を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
支持部の先端側に折り返し部が形成されていない場合には、その先端側を眼内から眼外に容易に出すことはできない。
【0005】
本開示は、支持部の先端側に折り返し部を形成しなくても、その先端側を眼内から眼外に容易に出すことができる眼内レンズ、及び眼内レンズ支持部の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の眼内レンズは、
レンズ部と、
前記レンズ部から線状に延び出して、眼球の部位に支持される支持部とを備え、
前記支持部の先端は他の部分に比べて幅広の幅広部であり、
前記幅広部は、前記支持部の先端側を眼内から眼外に出す器具に引っ掛けさせる部分である。
【0007】
これによれば、支持部の先端に幅広部を有するので、支持部の先端側を眼外に出す器具にその幅広部を引っ掛けさせることができる。これにより、支持部の先端側に折り返し部を形成しなくても、その先端側を眼内から眼外に容易に出すことができる。
【0008】
また、本開示の眼内レンズ支持部の製造方法は、
眼内に挿入されるレンズ部に一端が接続され、他端側が眼球の部位に支持されるように用いられる、線状に延びる支持部を準備して、眼内に挿入する前に前記支持部の先端を加熱して、前記支持部の延設方向に交差する方向に出っ張る形状の熱変形部を形成する。
【0009】
これによれば、先端に、支持部の延設方向に交差する方向に出っ張る形状の熱変形部を有した眼内レンズ支持部を得ることができる。そして、支持部の先端側を眼外に出す器具にこの熱変形部を引っ掛けさせることができる。これにより、支持部の先端側に折り返し部を形成しなくても、その先端側を眼内から眼外に容易に出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】支持部先端が幅広形状となっていない基本眼内レンズの正面図である。
【
図5】支持部先端に熱変形部を有した眼内レンズの正面図である。
【
図6】眼内レンズが眼内に挿入された状態を示すとともに、その眼内レンズの支持部の先端側を眼外に出すために、鑷子等の器具が眼内に挿入された状態を示す図である。
【
図7】
図6のA部の拡大図であって、支持部先端が鑷子等の器具に引っ掛けられた状態を示す図である。
【
図8】眼内レンズの支持部の先端側が眼外に出された状態を示す図である。
【
図9】眼外に出された支持部先端に、眼球固定用の熱変形部が形成された状態を示す図である。
【
図10】支持部先端の熱変形部が強膜内に埋め込まれた状態を示すとともに、眼内レンズが眼球に装着された状態を示す図である。
【
図11】変形例1に係る支持部先端の平面図であり、2方向に出っ張る形状の支持部先端を示す図である。
【
図12】変形例2に係る支持部先端の平面図であり、4方向に出っ張る形状の支持部先端を示す図である。
【
図13】支持部先端が玉状に形成された眼内レンズの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1に本実施形態の眼内レンズ1(Intraocular Lens:IOL)を示す。眼内レンズ1は主要な構成として、レンズ部2と2つの支持部3とを備える。眼内レンズ1は、レンズ部2と支持部3とが異なる材料で形成された3ピース型の眼内レンズとして構成されている。なお、眼内レンズの種類としては、3ピース型の眼内レンズの他に、レンズ部と支持部とが同一の材料で一体で成型された1ピース型の眼内レンズもある。
【0012】
レンズ2部は、例えば円盤状に形成されている。レンズ部2は例えば白内障により白濁した水晶体を患者の眼から摘出(全摘出、あるいは部分摘出)した後に、眼の後房(あるいは眼後房、つまり虹彩より後ろの領域)に配置して、摘出された水晶体のレンズ機能を代行する。レンズ部2はアクリル、シリコン等の樹脂材料で形成される。また、レンズ部2は、棒状に丸めてインジェクタ等を用いて眼内に挿入できるように、可撓性(言い換えれば弾性又は柔軟性)を有した材料で形成される。
【0013】
支持部3はレンズ部2を後房内に支持する部位である。支持部3は、レンズ部2の外周縁から線状に延び出すように設けられる。具体的には、支持部3は、レンズ部2の外周縁の2箇所から、1対のループ状(換言すれば弧形状又は脚形状又は触覚(haptic)形状)に延設されて、
図1の正面方向から見て、レンズ部2の中心Oに関して点対称な形状を有する。換言すれば、支持部3は、レンズ部2の光軸に関して線対称な形状を有する。なお、レンズ部2の光軸は例えばレンズ部2の中心Oを通る、
図1の紙面に直交する方向に延びる直線である。支持部3のループ形状は具体的には光軸に関する径方向外方に延びつつ、(特に先端側)は周方向にも延びる曲線形状である。さらに言い換えれば、支持部3の形状は、径方向外方に延びつつ、レンズ部2の側(内側)に湾曲する形状である。
図1の例では、支持部3は、レンズ部2から距離が離れるにしたがって次第にレンズ部2の周方向における反時計周りの方向に変位する。
【0014】
支持部3の側方から見た形状は例えば、レンズ部2と略同一平面内に収まる形状でとすればよい。あるいは、側方から見て支持部3を、レンズ部2の外周縁から眼内の前方あるいは後方に向かって斜め方向に延びるように形成してもよい。
【0015】
支持部3の基端33は例えばレンズ部2の外周縁に接続されている。支持部3の先端31は眼球に装着されていない状態で自由端である。その先端31は他の部分32に比べて幅広の形状の幅広部として形成されている。なお、先端31(幅広部)よりも先には支持部3の部位は存在しない。先端31と他の部分32とは同一材料で一体に形成されている。他の部分32は、支持部3の先端31と基端33の間の部分であり、より具体的には、先端31の直近の部分である。先端直近部分32は、眼内レンズ1を眼球に装着する際に、先端31(幅広部)とともに、強膜に形成される針穴に内側から通されて、強膜の外側に出される部分又は該針穴内に留まる部分である。また、先端直近部分32は、
図2に示すように、先端31の裏面31cとの境界部31dを有する。
【0016】
幅広部としての先端31は、支持部3の中心軸線L1に交差する方向に出っ張る形状に形成されている。具体的には、
図2に示すように、先端31は、支持部3の軸線L1を面内に含む断面において、軸線L1を境に2つの領域に分けたときに、双方の領域の側に出っ張る形状に形成されている。すなわち、先端31は、
図2の断面で見て、軸線L1よりも一方の領域側(右側)に出っ張る部分31aと、他方の領域側(左側)に出っ張る部分31bとを有する。これら部分31a、31bの、先端直近部分32からの出っ張り方向は互いに反対方向である。
【0017】
より具体的には、先端31は、例えば軸線L1回りの全周に亘って軸線L1(支持部3の延設方向)に交差する方向に出っ張る形状に形成されている。
図3は先端31の平面図であり、換言すれば先端31を軸線L1の方向から見た図である。支持部3の軸線L1と先端31との交点Pを先端中心とする。
図3に示すように、先端31は、先端中心P回りの全周に亘って先端直近部分32から径方向外方に出っ張っている。また、先端31は、
図3の方向から見て、例えば先端中心Pを中心とした円形に形成されてよい。なお、先端31は、
図3の方向から見て、楕円形、多角形(正方形、長方形など)など円形以外の形状に形成されてもよい。
【0018】
また、
図3に示すように、先端中心Pを通る、支持部3の軸線L1に直交する基準線L0を定義し、先端中心Pから軸線L1に直交する方向R(径方向)を基準線L0に対する角度θで表すとする。先端31は、角度θが0°~360°の全範囲に出っ張る形状に形成されている。すなわち、先端31は、角度θが0°となる方向と、180°となる方向の双方に出っ張っている。加えて、先端31は、角度θが90°の方向と270°の方向にも出っ張っている。
【0019】
図2に示すように、先端31の、軸線L1(支持部3の延設方向)に直角な方向における幅Aは、先端直近部分32の、軸線L1に直角な方向における幅Bよりも大きい。具体的には、幅Aは例えば0.2mm~0.6mmである。この範囲であれば、支持部3の先端側を眼内から眼外に出す際に強膜に形成する針穴を小さくできる。また、鑷子等の器具(支持部3の位置を制御する器具)を用いて、先端31を眼内から眼外に出すときに、その器具に先端31を引っ掛けやすくでき、換言すれば、先端31を器具に引っ掛けて眼外に出す最中に、器具から支持部3(先端31)が外れてしまうのを抑制できる。仮に幅Aが0.2mmより小さい場合には、鑷子等の器具に先端31を引っ掛けるのが困難となる。また、仮に幅Aが0.6mmより大きい場合には、先端31を眼内から眼外に出すために強膜に形成する針穴が大きくなってしまう。
【0020】
先端直近部分32の幅Bは先端31の幅Aよりも小さい。具体的には、幅Bは例えば0.2mmより小さい。
【0021】
また、先端31の、先端直近部分32からの、軸線L1に直角な方向への出っ張り量C(
図2参照)は例えば0.1mm以上に設定される。0.1mm以上であれば、鑷子等の器具に先端31を引っ掛けやすい。また、
図2において、先端31を、軸線L1を境に2つの部分31a、31bに分けたときに、一方の部分31aの出っ張り量Cと、他方の部分31bの出っ張り量Cは互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。さらに、軸線L1回りの全周に亘って同じ出っ張り量Cでもよいし、軸線L1回りの位置に応じて出っ張り量Cが変化してもよい。
【0022】
また、先端31(幅広部)の、軸線L1の方向における幅D(
図2参照)は例えば2mm以下としてよい。これによれば、鑷子等の器具に先端31を引っ掛けて眼内から眼外に出す際に、強膜に形成した針穴に、先端31を入れやすくできる。また、幅Dは例えば0.1mm以上としてよい。これによれば、先端31を鑷子等の器具に引っ掛けたときに、先端31が、後述の角度φ(
図2参照)が大きくなる方向に変形して、先端31が器具から外れてしまうの抑制できる。
【0023】
また、
図2に示すように、先端31は、先端直近部分32側に向いた裏面31cを有する。裏面31cは、鑷子等の器具に引っ掛けられることを想定した引掛想定面である。裏面31cは平面に形成されてもよいし、曲面に形成されてもよい。
図2の断面で見て、裏面31cと、先端直近部分32との成す角度φは例えば15°以上160°以下に設定される。この範囲であれば、鑷子等の器具を裏面31cに引っ掛けやすい。角度φが仮に15°未満又は160°より大きい場合には、器具と裏面31cとの引っ掛かりが困難となる。角度φは、好ましくは45°以上135°以下に設定され、より好ましくは60°以上120°以下に設定されてよい。
図2の例では、角度φが90°に設定された例を示している。なお、角度φは、
図2の断面で見て、裏面31cと先端直近部分32との境界部31dでの裏面31の傾きを示す接線と、境界部31dでの先端直近部分32の傾きを示す接線との成す角度としてよい。
【0024】
また、
図2において、先端31を、軸線L1を境に2つの部分31a、31bに分けたときに、一方の部分31aの角度φと、他方の部分31bの角度φは互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。さらに、軸線L1回りの全周に亘って同じ角度φでもよいし、軸線L1回りの位置に応じて角度φが変化してもよい。
【0025】
なお、一方の支持部3の先端31の形状と、他方の支持部3の先端31の形状とは互いに同じ形状としてよい。なお、
図2では、先端31の断面形状の一例として長方形断面を示しているが、四角形以外の多角形状、曲線を含む形状など、他の断面形状でもよい。
【0026】
支持部3は、棒状に丸めてインジェクタ等を用いて眼内に挿入できるように、可撓性(言い換えれば弾性又は柔軟性)を有した材料で形成される。また、支持部3は、加熱されることで溶けて(熱変形して)、支持部3の延設方向(軸線L1)に交差する方向に出っ張る形状の玉(熱変形部)を形成する材料で形成される。具体的には、支持部3は例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)等の樹脂材料で形成される。また、支持部3はレンズ部2とは異なる材料で形成されてよい。この場合、レンズ部2と支持部3とは別体で形成された後に接着剤等で接合されてよい。
【0027】
支持部3及びその先端31(幅広部)は例えば成型により形成されてよい。または、支持部3の先端31は以下に示すように、加熱処理により形成されてもよい。この場合、先ず、支持部3の基となる一対の基本支持部11(
図4参照)を準備する。このとき、一対の基本支持部11の各基端がレンズ部2に接続された基本眼内レンズ10(
図4参照)を準備してもよいし、レンズ部2から分離された基本支持部11を準備してもよい。レンズ部2から分離された基本支持部11を準備した場合には、後述の加熱処理で支持部11の先端に熱変形部13(
図5参照)を形成した後に、レンズ部2と支持部11(
図1の支持部3に相当)とを接合すればよい。
【0028】
基本支持部11の先端12は他の部分と同等の幅に形成されており、言い換えれば、先端12は幅広形状又は出っ張り形状となっていない。基本支持部11は、先端12以外は、
図1の支持部3と同様の形状であり、すなわち、曲線状(具体的には弧形状又は触覚(haptic)形状)に延びる形状を有する。
【0029】
基本支持部11は、加熱されることで溶けて(熱変形して)、基本支持部11の延設方向に交差する方向に出っ張る形状の熱変形部を形成する材料で形成されている。具体的には例えば、基本支持部11はPVDF(ポリフッ化ビニリデン)等の樹脂材料で形成されている。
【0030】
次に、基本眼内レンズ10又は基本支持部11を眼内に挿入する前に、加熱器具(医療用焼灼器具(アキュテンプ)など)を用いて、各基本支持部11の先端12を加熱により溶かす(熱変形させる)。基本支持部11は、溶けるに伴い、先端に、支持部11の延設方向に交差する方向に出っ張る形状の熱変形部13(
図5参照)を形成しつつ、徐々に縮んでいく。また、縮んでいくに伴い、徐々に熱変形部13が大きくなる。そして、この熱変形部13が目標の大きさ又は形状になったときに加熱を終了する。
図5において、加熱終了時の熱変形部13が
図1の先端31(幅広部)に相当する。加熱終了時の支持部11が
図1の支持部3に相当する。加熱終了時の眼内レンズ10が
図1の眼内レンズ1に相当する。以上により、幅広形状の先端31を有した眼内レンズ支持部3を得ることができる。
【0031】
図1の眼内レンズ1は、例えば白内障により白濁した水晶体を全摘出あるいは部分摘出した後の眼内の後房(眼後房)に、強膜内固定の手法で(縫着なしで)固定される。以下、
図6~
図10を参照して、眼内レンズ1を眼内に装着(固定)する手順の一例を説明する。眼内レンズ1を装着する前提として、水晶体が全摘出又は部分摘出されているものとする。先ず、例えば角膜100(
図6参照)の輪部(換言すれば縁部又は外周部)に切開創を形成して、その切開創から、眼内レンズ1を、棒状に丸めた状態で注射器型のインジェクタ(眼内レンズ挿入器)により、眼内に挿入する。このとき、眼内レンズ1を、虹彩102(
図6参照)よりも後方の領域(つまり後房)に挿入する。
【0032】
次に、眼内レンズ1の支持部3の先端側を強膜101(
図6参照)の外側に引き出す。具体的には、
図6に示すように、眼内レンズ1が挿入された後房と眼球の外側とが導通するよう、針で強膜101に穴(トンネル)101aを形成する。針穴101aを形成する位置は虹彩102よりも後方の位置であり、具体的には例えば、毛様体皺襞部103よりも前方の毛様溝104の位置としてよい。また、各支持部3ごとの穴101aを形成する。このとき、視軸に関して対称な強膜101の2箇所に穴101aを形成する。
【0033】
そして、一方の支持部3の先端側を一方の穴101a(以下、第1の針穴という)から外側に引き出し、他方の支持部3の先端側を他方の穴101a(以下、第2の針穴という)から外側に引き出す。具体的には、支持部3の先端側を眼内から眼外に出すための棒状の器具200を、第1の針穴101aから後房に挿入する。器具200は例えば先端に鈎を有する有鈎鑷子など、先端に、支持部3の先端31を引っ掛けることが可能な引掛部202(
図7参照)を有する。器具200が鑷子の場合には、器具200の先端には先端31を挟んで把持する挟持部201(
図7参照)を有する。そして、器具200で一方の支持部3の先端側を把持させる。このとき、
図7に示すように、器具200の先端の引掛部202に、支持部3の先端31(幅広部)の裏面31cを引っ掛けさせる。その後、器具200を、第1の針穴101aから眼外に引き出す。これに伴い、支持部3の先端31からの一部が第1の針穴101aから眼外に引き出される。
【0034】
同様にして、器具200を第2の針穴101aから後房に挿入し、その器具200で他方の支持部3の先端31からの一部を第2の針穴101aから眼外に引き出す。
図8は、両方の支持部3の先端側が強膜101の外側に引き出された状態を示している。この状態では、レンズ部2は後房に留まっている。
【0035】
その後、眼外に出された支持部3の先端31(幅広部)をハサミで切断する。その後、加熱器具(医療用焼灼器具(アキュテンプ)など)を用いて、幅広部31を切断した後の支持部3の先端を加熱により溶かす(熱変形させる)。支持部3は、溶けるに伴い、先端に、支持部11の延設方向に交差する方向に出っ張る形状の熱変形部34(
図9参照)を形成しつつ、徐々に縮んでいく。また、縮んでいくに伴い、徐々に熱変形部34が大きくなる。そして、この熱変形部34が目標の大きさ又は形状になったときに加熱を終了する。熱変形部34の大きさは、例えば当初の先端31(幅広部)よりも大きいとしてよい。これによれば、熱変形部34を強膜101に埋め込んで支持させたときに、強膜101から熱変形部34が抜けてしまうのを抑制できる。
【0036】
また、一方の支持部3の先端に熱変形部34が形成されるまでは、他方の支持部3に対する当初の先端31の切断及び加熱処理は行わないとしてよい。これによれば、他方の支持部3の先端31(幅広部)がストッパとなることで、一方の支持部3に熱変形部34を形成している最中に、他方の支持部3の先端側が眼内に引き戻されてしまうのを抑制できる。そして、一方の支持部3の先端に熱変形部34を形成した後に、他方の支持部3の先端31をハサミで切断して、切断後の先端を加熱により熱変形させることで、他方の支持部3の先端にも熱変形部34を形成させる。
【0037】
その後、
図10に示すように、各支持部3の先端の熱変形部34を、針穴101a内に押し込むことで、強膜101内に埋め込む。これにより、支持部3が強膜101で固定(支持)される。
【0038】
以上により、眼内レンズ1は眼内に装着される。この状態では、虹彩102の後ろの位置にレンズ部2が配置される。
【0039】
以下、本実施形態の効果を説明する。本実施形態では、支持部3の先端31が幅広部として構成されるので、その先端31を眼内から眼外に出す際に、鑷子等の器具200(
図6、
図7参照)に先端31を引っ掛けることができる。これにより、支持部3の先端31からの一部を簡単に眼外に出すことができる。また、先端31を眼外に引き出した後に、眼内に引き戻されてしまうのを抑制できる。
【0040】
また、先端31は、
図2の断面で見て、軸線L1よりも一方の領域側(右側)に出っ張る部分31aと、他方の領域側(左側)に出っ張る部分31bとを有するので、鑷子等の器具200で先端31を挟むように把持できる。これにより、先端31を眼外に引き出す途中で、先端31が器具200から外れてしまうのを抑制できる。
【0041】
さらに、先端31は、支持部3の軸線L1回りの全周に亘って軸線L1に交差する方向に出っ張る形状に形成されるので、器具200の先端の引掛部202(
図7参照)が、器具200の軸線回りのどの向きにあったとしても、その引掛部202に、支持部3の先端31を引っ掛けることができる。
【0042】
また、先端31の、支持部3の延設方向(軸線L1の方向)に直角な方向における幅が0.2.mm~0.6mmであるので、強膜101に形成する針穴101a(
図6参照)の径を小さくできるとともに、器具200で先端31を眼外に引き出す最中に、先端31が器具200から外れてしまうのを抑制できる。
【0043】
また、
図2の断面で見て、先端31(出っ張り部)の裏面31cと、先端直近部分32との成す角度φが15°以上160°以下であるので、器具200に裏面31cを引っ掛けやすくできる。
【0044】
また、支持部3は、加熱により、支持部3の延設方向に交差する方向に出っ張る形状の熱変形部を形成する材料で形成されるので、眼外に引き出した先端31を切断した後に、その先端31とは大きさ及び支持部3上の位置が異なる、強膜101に固定するための熱変形部34(
図9、
図10参照)を形成できる。
【0045】
なお、本開示は上記実施形態に限定されず種々の変更が可能である。例えば、
図3では、支持部3の先端31が、先端中心P回りの全周に亘って先端直近部分32から径方向外方に出っ張る例を示した。しかし、これに限定されず、
図3の先端31に代えて、例えば
図11又は
図12に示す先端35、36でもよい。なお、
図11、
図12は、変形例に係る支持部3の先端35、36の平面図であり、支持部3の軸線の方向から先端35、36を見た図である。
【0046】
図11、
図12の先端35、36は、先端中心P回りの周方向に間隔をあけて複数の出っ張り部35a、35b、36a~36dを有する。具体的に言えば、
図11の先端35は、先端中心P回りの周方向に等間隔(換言すれば180°間隔)に2つの出っ張り部35a、35bを有する。これら2つの出っ張り部35a、35bは、
図11の方向から見て、先端直近部分32から径方向外方かつ互いに反対方向に出っ張る。換言すれば、2つの出っ張り部35a、35bから構成される先端35は、支持部3の軸線を面内に含む断面(
図11の破線L2で先端35を切った断面、図示外)において、軸線を境に2つの領域に分けたときに、双方の領域の側に出っ張る形状に形成されている。
【0047】
先端35は、互いに反対方向に2つの出っ張り部35a、35bを有するので、上記実施形態と同様に、鑷子等の器具で、2つの出っ張り部35a、35bを引掛けながら、先端35を眼外に出すことができる。
【0048】
また、
図12の先端36は、先端中心P回りの周方向に等間隔(換言すれば90°間隔)に4つの出っ張り部36a~36dを有する。第1の出っ張り部36aと第2の出っ張り部36bとは、
図12の方向から見て、先端直近部分32から径方向外方かつ互いに反対方向に出っ張る。第1、第2の出っ張り部36a、36bは、支持部3の軸線を面内に含む断面(
図12の破線L3で先端36を切った断面、図示外)において、軸線を境に2つの領域に分けたときに、双方の領域の側に出っ張る形状に形成されている。
【0049】
第3の出っ張り部36cと第4の出っ張り部36dとは、
図12の方向から見て、先端直近部分32から径方向外方かつ互いに反対方向に出っ張る。第3、第4の出っ張り部36c、36dは、支持部3の軸線を面内に含む断面(
図12の破線L4で先端36を切った断面、図示外)において、軸線を境に2つの領域に分けたときに、双方の領域の側に出っ張る形状に形成されている。
【0050】
先端36は、互いに異なる4方向に出っ張る形状に形成されるので、上記実施形態と同様に、鑷子等の器具で、4つの出っ張り部36a~36dのいずれかを引掛けながら、先端36を眼外に出すことができる。特に、先端36は、互いに反対方向に出っ張る出っ張り部の組み合わせとして、第1、第2の出っ張り部36a、36bからなる第1の組み合わせと、第3、第4の出っ張り部36c、36dからなる第2の組み合わせとを有するので、鑷子等の器具でより一層引っ掛けやすくできる。すなわち、上記第1の組み合わせを器具に引っ掛けさせることもできるし、上記第2の組み合わせを器具に引っ掛けさせることもできる。
【0051】
また、上記実施形態では、支持部3の先端31側を眼外に引き出した後にその先端31を切断した例を示した。しかし、これに限定されず、眼外に引き出した先端31(幅広部)を切断せずに、その先端31(幅広部)をそのまま眼球の部位(強膜内等)に固定させてもよい。すなわち、先端31(幅広部)を、鑷子等の器具に引っ掛けさせる部分と、眼球の部位に支持(固定)させる部分との兼用部分として構成してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、支持部の個数が2つの例を示したが、3つ以上でもよい。また、有水晶体眼内レンズ(ICL、眼内コンタクトレンズ)に本開示を適用してもよい。
【0053】
また、
図13の眼内レンズ20のように、支持部3の先端37が玉状(換言すれば球状)であってもよい。なお、
図13において、
図1の眼内レンズ1と同様の構成には同一の符号を付している。先端37は全体が曲面状に形成されている。また、先端37は真球状に形成されてもよいし、向きによって径が変化する球状(例えば、軸線L1に直角な方向における径と軸線L1の方向における径とが異なる楕円球状)に形成されてもよい。
【0054】
玉状の先端37は、支持部3の他の部分32よりも、軸線L1に交差する方向に幅広の形状に形成される。つまり、先端37も幅広部として構成される。玉状の先端37は、
図1~
図3の先端31と同様に、支持部3の軸線L1を面内に含む断面(
図14参照)において軸線L1を境にして2つの領域に分けたときに、双方の領域の側に出っ張る形状に形成される。また、先端37は、支持部3の軸線L1回りの全周に亘って支持部3の延設方向に交差する方向に出っ張る形状に形成される。さらに、玉状の先端37の直径(言い換えれば、先端37の、軸線L1に直角な方向における幅)は、
図2の先端31の幅Aと同様に、例えば0.2mm~0.6mmとしてよい。また、先端37の、軸線L1の方向における幅は、先端37の、軸線L1に直角な方向における幅と異なっていてもよく、例えば、
図2の先端31の幅Dと同様に、0.1mm以上2mm以下としてよい。また、
図14の断面で見て、先端37の裏面37a(他の部分32との境界部37b近傍の面)と、他の部分32との成す角度α(
図14参照)が例えば15°以上160°以下である。角度αは、境界部37bでの先端37(裏面37a)の傾き(接線)L5と、境界部37bでの他の部分32の傾き(接線)L6との成す角度とすればよい。
【0055】
先端37は、例えば
図4、
図5と同様に形成されてよい。すなわち、先端に幅広部としての玉が形成されていない基本支持部を準備して、その基本支持部の先端を加熱により溶かす(熱変形させる)ことで、玉状の先端37を形成する。
図13、
図14の構成でも上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0056】
また、上記実施形態では、
図1又は
図13の眼内レンズ1、20の支持部3を強膜内で固定する例を示した。しかし、これに限定されず、眼内レンズ1、20は、例えば、白内障により白濁した水晶体核を摘出した後に、水晶体の嚢内に固定されてもよい。この場合、支持部3はそのループ形状に沿って水晶体嚢の内面に接触する形で水晶体嚢に支持される。また、この場合、眼内レンズ1、20を水晶体の嚢内に装着させる際に、支持部3の位置を制御する器具(鑷子等)に、支持部3の先端の幅広部31、35、36、37(
図1、
図11、
図12、
図13参照)を引っ掛けながら、嚢内での眼内レンズ1、20(レンズ部2及び支持部3)の位置を調整してよい。
【0057】
このように、
図1、
図13の眼内レンズ1、20は強膜内固定と水晶体嚢内の固定のいずれにも用いることができる眼内レンズとして構成されている。なお、幅広部31、35、36、37(
図1、
図11、
図12、
図13参照)は、支持部3の先端側を強膜内で固定する場合に鑷子等の器具に引っ掛けさせる部分として機能し、支持部3が水晶体嚢内に固定される場合には、必ずしも鑷子等の器具に引っ掛けられなくてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1、20 眼内レンズ
2 レンズ部
3 支持部
31、35、36、37 支持部の先端(幅広部)
13 熱変形部
【要約】
【課題】支持部の先端側に折り返し部を形成しなくても、その先端側を眼内から眼外に容易に出すことができる眼内レンズを提供する。
【解決手段】眼内レンズ1の支持部3の先端31は、他の部分32に比べて幅広の幅広部である。幅広部31は、支持部3の先端側を眼内から眼外に出す器具に引っ掛けさせる部分である。幅広部31は、支持部3の軸線L1を面内に含む断面において軸線L1を境にして2つの領域に分けたときに、双方の領域側に出っ張る形状に形成される。言い換えれば、幅広部31は、軸線L1回りの全周に亘って支持部3の延設方向に交差する方向に出っ張る形状に形成される。幅広部31の、支持部3の延設方向に直角な方向における幅が0.2mm~0.6mmである。
【選択図】
図1