(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】燃料電池用膜電極接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1041 20160101AFI20220815BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20220815BHJP
H01M 8/1088 20160101ALI20220815BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20220815BHJP
H01M 8/04119 20160101ALI20220815BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220815BHJP
【FI】
H01M8/1041
H01M8/0273
H01M8/1088
H01M8/1004
H01M8/04119
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2017223598
(22)【出願日】2017-11-21
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】10-2016-0169485
(32)【優先日】2016-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 宗 吉
(72)【発明者】
【氏名】洪 普 基
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-199145(JP,A)
【文献】特開2008-078123(JP,A)
【文献】国際公開第2002/061869(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0045382(US,A1)
【文献】特開2009-301755(JP,A)
【文献】特開2000-251905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1041
H01M 8/0273
H01M 8/1088
H01M 8/1004
H01M 8/04119
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜に積層されたカソード及びアノードと、
前記カソード及びアノードが積層された反応領域の外側である電解質膜の外郭部位に接合されたサブガスケットと、を含み、
前記電解質膜は、
前記反応領域の外側である電解質膜の外郭部位のうち少なくとも一部の選択された部位に、電解質膜内に存在する水の拡散及び外部排出を遮断するように形成された水排出封鎖部を有
し、
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜の外郭部位のうち前記反応領域から離隔している位置に形成されることを特徴とする燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜の外郭部位で電解質膜の辺に沿って所定の幅を持つよう
に形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜でサブガスケットが接合されている外郭部位に形成され、前記水排出封鎖部にサブガスケットが積層及び接合されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項4】
前記サブガスケットは、カソード及びアノードが積層された電解質膜の反応領域を除いた残り領域の電解質膜の全外郭部位に積層されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項5】
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜の外郭部位に電解質膜の4辺に沿っ
て形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項6】
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜の外郭部位に電解質膜の4辺のうち対向する2つの辺に沿っ
て形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項7】
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜の外郭部位のうち前記反応領域から離隔している位置に電解質膜の辺に沿って所定の幅を持つよう
に形成され、前記水排出封鎖部の幅は、前記電解質膜の外郭部位の全体幅の0.5倍以下となることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項8】
前記水排出封鎖部は、電解質膜のスルホン酸基(-SO
3
-H
+)内に結合されている水素イオンを金属カチオンで置換して形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項9】
前記金属カチオンは、Na、Li、K、Ca、Mg、Cu、Zn、Ni、Fe、Cr、及びAlから選択された金属のカチオンであることを特徴とする請求項
8に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項10】
前記金属カチオンは、2価または3価の金属カチオンであることを特徴とする請求項
8に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項11】
電解質膜でカソード及びアノードが積層される反応領域の外側である電解質膜の外郭部位のうち少なくとも一部の選択された部位に、金属カチオン前駆体が溶媒に溶解された金属カチオン溶液を塗布して水排出封鎖部を形成する段階と、
前記電解質膜の反応領域にカソード及びアノードを積層する段階と、
前記電解質膜でカソード及びアノードが積層された反応領域の外側である電解質膜の外郭部位にサブガスケットを積層する段階と、を含み、
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜の外郭部位のうち前記反応領域から離隔している位置に形成し、
前記水排出封鎖部は、電解質膜のスルホン酸基(-SO
3
-H
+)内に結合されている水素イオンを前記溶液内の金属カチオンで置換して形成されることを特徴とする燃料電池用
膜電極接合体の製造方法。
【請求項12】
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜の外郭部位で電解質膜の辺に沿って所定の幅を持つよう
に形成することを特徴とする請求項
11に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項13】
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜の外郭部位に電解質膜の4辺に沿っ
て形成することを特徴とする請求項
11に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項14】
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜の外郭部位に電解質膜の4辺のうち対向する2つの辺に沿っ
て形成することを特徴とする請求項
11に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項15】
前記水排出封鎖部は、前記電解質膜の外郭部位のうち前記反応領域から離隔している位置に電解質膜の辺に沿って所定の幅を持つよう
に形成され、前記水排出封鎖部の幅は、前記電解質膜の外郭部位の全体幅の0.5倍以下となるようにすることを特徴とする請求項
11に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項16】
前記金属カチオン前駆体は、一般式(1)「M(X)n」で表される金属カチオン前駆体であって、前記MはNa、Li、K、Ca、Mg、Cu、Zn、Ni、Fe、Cr、及びAlから選択された金属であり、Xはクロリド(Chloride)、サルフェート(Sulfate)、アセテート(Acetate)、ナイトレート(Nitrate)、ヒドロキシド(Hydroxide)、及びこれらの組合せから選択されるものであることを特徴とする請求項
11に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項17】
前記溶媒は、脱イオン水(De-ionized Water)、メタノール(Methanol)、エタノール(Ethanol)、イソプロピルアルコール(Iso-propyl Alcohol)、1-プロパノール(1-propanol)、2-及びメトキシエタノール(2-methoxyethanol)から選択される1種または2種以上の混合溶媒であることを特徴とする請求項
11に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項18】
前記金属カチオンは、Na、Li、K、Ca、Mg、Cu、Zn、Ni、Fe、Cr、及びAlから選択された金属のカチオンであることを特徴とする請求項
11に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項19】
前記金属カチオンは、2価または3価の金属カチオンであることを特徴とする請求項
11に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【請求項20】
前記水排出封鎖部を形成する段階で、電解質膜で水排出封鎖部が形成される前記選択された部位を除いた残り領域をマスキング部材でマスキングした後、マスキング部材によって覆われていない電解質膜の露出部位に前記金属カチオン溶液を塗布することを特徴とする請求項11に記載の
燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用膜電極接合体及びその製造方法に係り、より詳しくは、膜電極接合体の電解質膜内に存在する水が燃料電池セルの反応領域の外側である外郭部位に広がることを防止し、それによって、電解質膜で燃料電池の反応に用いられる水の損失を防止すると共に、燃料電池内の水管理の効率性とスタックの耐腐食性が増大できる燃料電池用膜電極接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガスと酸化剤ガスを電気化学的に反応させて燃料が持っている化学エネルギを電気エネルギに変換させる一種の発電装置であり、産業用、家庭用、及び車両駆動用電力を供給し、小型の電気/電子製品、特に携帯機器の電力供給にも使用される。
現在、車両用燃料電池としては高い電力密度を有する高分子電解質膜燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)が最も多く使用されており、燃料電池車両で車両を駆動するモータと各種電気装置に電力を供給する動力源(電力源)として用いられている。
このような高分子電解質膜燃料電池は、燃料ガスに水素を使用し、酸化剤ガスに酸素または酸素を含んでいる空気を使用する。
また、燃料電池は、燃料ガスと酸化剤ガスを反応させて電気エネルギを生成するセルを持っているが、通常、出力の要求水準を充足させるために複数のセルを積層及び直列連結して組み立てたスタック(Stack)の形態で用いられている。
車両用燃料電池も高出力が要求されることによって、個別に電気エネルギを生成する数百個の単位セル(Unit Cells)をスタックの形態で積層してその要件を充足させている。
【0003】
高分子電解質膜燃料電池の単位セルは、以下の通り構成されている。即ち、、水素イオンが移動する高分子電解質膜(Polymer Electrolyte Membrane)を中心に膜の両側面に電極(Electrode)を設けた膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)、反応ガスである燃料ガスと酸化剤ガスを膜電極接合体に供給して生成された電気エネルギを伝達するガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)、反応ガス及び冷却水の気密性と適正締結圧を維持するためのガスケット(Gasket)及び締結機構、そして反応ガス及び冷却水を移動させる分離板(BP:Bipolar Plate)を含んで構成される。
ここで、膜電極接合体(MEA)は、水素イオンを移動させる高分子電解質膜と、電解質膜の両面に付着して燃料ガスの水素と酸化剤ガスの空気(または酸素)が反応できるようにする触媒が塗布されている電極のアノード(Anode)及びカソード(Cathode)と、で構成される。
この膜電極接合体の外側部分、すなわちアノード及びカソードの外側部分には燃料ガスと酸化剤ガスを等しく分布させるためのガス拡散層(GDL)が積層され、ガス拡散層の外側には反応ガスと冷却水が通過する流路を提供し、反応ガスをガス拡散層に供給する分離板が位置する。
【0004】
また、単位セルを構成する部品間の流体をシール(Seal)するためのガスケットなどを介して積層されるが、このガスケットは膜電極接合体または分離板に一体成形された状態で提供されてもよい。
このような構成を単位セルとして複数のセルを積層した後、最も外側にはセルを支持するためのエンド・プレートを結合し、スタック締結機構を用いてエンド・プレートとセルを共に締結することによって燃料電池スタックを構成する。
一方、燃料電池の電気エネルギを生成するための反応は、過フッ素スルホン酸系(PFSA:Perfluorinated Sulfonic Acid)電解質膜とアノード及びカソードの電極で構成された膜電極接合体(MEA)で発生する。
この際、燃料電池の酸化極(燃料極)のアノードに供給された燃料ガス、すなわち水素が水素イオン(Proton)と電子で分離され、水素イオンが電解質膜を通して還元極(空気極)のカソードに移動し、カソードで酸素分子、水素イオン、及び電子が共に反応して電気と熱を生成すると共に反応副産物として水を生成する。
【0005】
特に、アノードの水素イオンが膜を通してカソードに移動する時、一般的にヒドロニウムイオン(Hydronium Ion)の形態で水分子と結合して水分子を引っ張っていく「電気浸透抗力(EOD:Electro-Osmotic Drag)」現象が発生する。
また、カソードに累積する水の量が増加すると、一部の水がカソードからアノードに逆移動する「逆拡散(BD:Back Diffusion)」現象が発生することもある。
このような燃料電池の反応により生成及び移動した水は、適切な量が存在する場合、膜電極接合体(MEA)の加湿性を維持させるという好ましい役割を担うが、過量の水が存在する場合、これを適切に除去しなければ「氾濫(Flooding)」の問題が発生する。
また、この氾濫による水は、反応ガスが効率的に燃料電池セルの内部に供給されることを邪魔するため、電圧損失をさらに増加させる。
したがって、燃料電池が、広い電流密度範囲で安定的に作動するためには、このような水の移動に対して正確に理解し、燃料電池内の水を効率的に使用しなければならない。
通常、膜電極接合体はゴム弾性体(Rubber Elastomer)で構成されたガスケットによって長期間圧縮圧力(Compression Pressure)を受けるようになるが、長期間の圧縮条件でも破損や変形することなく、その形態を維持しなければならない。
【0006】
また、膜電極接合体の積層時、ハンドリング性(Handling Property)を円滑にするためには、高い剛性(Stiffness)が必要である。
このような必要性によって一般的に剛性に優れた固相(Solid Phase)のフィルム(Film)形態のサブガスケット(Subgasket)を膜の外郭部位(Peripheral Region)に熱を加えてラミネーション(Lamination)して付着している。
このようにサブガスケットを有する膜電極接合体を使用すると、1つのスタック内に数百枚の膜電極接合体を積層しても長期間使用できるという長所がある。
従来の膜電極接合体の構造では、電解質膜とサブガスケットの接合をしっかりとするために、実際の燃料電池の電気化学反応に用いられるカソード及びアノードが接合されている反応領域(Active Area)の他に、燃料電池セルの反応領域の外側にもっと大きく拡張させた大きさ及び構造を有する電解質膜をさらに製作した後、この拡張された部位の電解質膜の外郭部位にサブガスケットを接合する。
【0007】
しかし、このような従来の膜電極接合体の構造では、サブガスケットが接合されている電解質膜の外郭部位に望まない水の拡散(Diffusion)が発生することがあり、それによって燃料電池の反応に用いられる水が失われるようになる。
また、拡散した水が金属素材からなる他のスタック部品の腐食を促進して車両の運行安定性を大きく低下させるという問題点を有している。
これら問題を解決するために、膜電極接合体(MEA)の反応領域の外側に位置する電解質膜の外郭部位、すなわちサブガスケットが接合される外郭部位の大きさをサブガスケットの外郭の大きさよりも小さくして膜電極接合体で膜が外部に露出することを防止することで、水が外部に排出されることを防ぐという方法が提案された。
しかし、電解質膜が接合されたサブガスケットの部位と接合されていないサブガスケットの部位との間の段差によって、反応ガス及び冷却水のリーク(Leak)が発生することがあり、長期間の運転時に膜とサブガスケットが分離して燃料電池の運転が停止することもある。
他の従来の技術として、サブガスケットをラミネーションでなく、射出成形(Injection Molding)を用いて膜電極接合体に接合する方法が提案されたが、この方法は、サブガスケットを射出成形する時、膜電極接合体の変形または汚染などを誘発することがある。
また、上位問題点を改善するために、複雑な多段階の工程を利用する場合があるが、その結果、サブガスケットの接合工程が複雑になって生産性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、膜電極接合体の電解質膜内に存在する水が燃料電池セルの反応領域の外側である外郭部位に広がることが防止され、それによって、電解質膜で燃料電池の反応に用いられる水の損失が防止されると共に、燃料電池内の水管理の効率性とスタックの耐腐食性が増大できる燃料電池用膜電極接合体及びその製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電解質膜と、前記電解質膜に積層されたカソード及びアノードと、前記カソード及びアノードが積層された反応領域の外側である電解質膜の外郭部位に接合されたサブガスケットと、を含み、前記電解質膜は、前記反応領域の外側である電解質膜の外郭部位のうち少なくとも一部の選択された部位に、電解質膜内に存在する水の拡散及び外部排出を遮断するように形成された水排出封鎖部(Blocking Region)を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、電解質膜でカソード及びアノードが積層される反応領域の外側である電解質膜の外郭部位のうち少なくとも一部の選択された部位に、金属カチオン前駆体が溶媒に溶解された金属カチオン溶液を塗布して水排出封鎖部を形成する段階と、前記電解質膜の反応領域にカソード及びアノードを積層する段階と、前記電解質膜でカソード及びアノードが積層された反応領域の外側である電解質膜の外郭部位にサブガスケットを積層する段階と、を含み、前記水排出封鎖部は、電解質膜のスルホン酸基(-SO3
-H+)内に結合されている水素イオンを前記溶液内の金属カチオンで置換して形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明による燃料電池用膜電極接合体及びその製造方法によれば、膜電極接合体の反応領域の外側領域となる電解質膜の外郭部位に金属カチオン(Metal Cation)が置換して形成された水排出封鎖部が形成されることによって、膜電極接合体で要求されるサブガスケットによる優れたハンドリング性が確保されると共に燃料電池の気密性能が維持でき、前記水排出封鎖部によって燃料電池セルの外郭部位に望まない水の拡散が防止される。
したがって、燃料電池内の水管理効率性とスタックの耐腐食性が増大でき、車両の運行安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例による膜電極接合体を示す図面である。
【
図2】本発明の他の実施例による膜電極接合体を示す図面である。
【
図3】本発明のまた他の実施例による膜電極接合体を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付した図面を参照して本発明について詳細に説明する。
本発明は、燃料電池の運転性能の減少及び気密性の損傷がなくても膜電極接合体の電解質膜に存在する水が燃料電池セルの反応領域の外側である外郭部位に広がることが防止され、それによって、電解質膜で燃料電池の反応に用いられる水の損失が防止されると共に、燃料電池内の水管理の効率性とスタックの耐腐食性が増大できる燃料電池用膜電極接合体及びその製造方法を提供する。
図1は、本発明の一実施例による膜電極接合体を示す平面図及び断面図である。
図1に示すように、本発明による膜電極接合体(MEA)10は、高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)に使用されるもので、水素イオンを移動させる高分子電解質膜11と、電解質膜11の両面に付着され、燃料ガスの水素と酸化剤ガスの空気(または酸素)が反応できるようにする触媒を塗布した電極のアノード(Anode)13及びカソード(Cathode)12と、電解質膜11の両面の外郭部位に接合されるサブガスケット14と、を含んで構成される。
【0015】
このような膜電極接合体10は、電解質膜11とアノード13及びカソード12が接合されている領域であって、電気化学反応が起きる領域、すなわち燃料ガスと酸化剤ガスが供給されて燃料電池の反応が起きる反応領域を有する。
具体的には、高分子電解質膜11を中心として膜の両側面にカソード12とアノード13がそれぞれ装着されており、このカソード12及びアノード13と電解質膜11が接合されている領域が燃料電池の反応が起きる反応領域となる。
また、電解質膜11でカソード12及びアノード13が接合されている反応領域を除く、その外側の外郭部位にサブガスケット14が接合されるが、この際、電解質膜11で前記反応領域を除く、前記外郭部位の全体にサブガスケット14が接合される。
図1は、膜電極接合体の平面図と、この平面図で線「X-X」及び線「Y-Y」に沿った断面図を示しているもので、ここで、線「X-X」は反応領域を通過して膜電極接合体10の長さ方向を示す線であり、線「Y-Y」は反応領域を通過して膜電極接合体の幅方向を示す線である。
図1を参照すると、膜電極接合体10で電解質膜11にカソード12及びアノード13の電極が接合されて形成される燃料電池セルの反応領域が、膜電極接合体の中央に四角領域に設定されることがわかる。
【0016】
また、電解質膜11でカソード12及びアノード13が接合されている中央の反応領域を除いた、その外側の外郭部位にサブガスケット14が接合されており、サブガスケット14は、中央の反応領域を露出させるように、すなわちカソード12とアノード13の電極部分を露出させるように中央に四角形の開口孔が形成された構造である。
結局、サブガスケット14は、四角のリング(Ring)状に形成されると共に膜電極接合体10で四角の枠に沿って位置されるが、この際、カソード12及びアノード13とは重ならないようにカソード及びアノード領域(すなわち反応領域)の外側の外郭部位に沿って電解質膜11の両側表面に積層及び接合される。
一方、本発明による膜電極接合体10は、電解質膜11の前記外郭部位、好ましくは電解質膜11でサブガスケット14が接合されている外郭部位のうち少なくとも一部の選択された部位に水排出封鎖部(Blocking Region)11aが形成される。
水排出封鎖部11aは、電解質膜11内に存在する水が電解質膜中の反応領域の外側の外郭部位に広がって移動することを防ぐ水を封鎖する役割をするように形成されるもので、燃料電池の反応に用いられる水が電解質膜の外郭部位に広がった後、燃料電池の外部に排出して失われることを防ぐ役割をする。
【0017】
このように水排出封鎖部11aによれば、電解質膜11から外側への水の移動及び拡散、外部への水の排出及び損失を防止することで、各セルで排出した水によって、スタック部品の腐食が発生することを防止でき、それによって、スタックの耐腐食性を増大させ、燃料電池内の水管理の効率性も増大させることができる。
本発明で水排出封鎖部11aは、サブガスケット14が接合される電解質膜11の外郭部位に別途処理して形成されるもので、前記処理が行われた電解質膜11の外郭部位そのものが水排出封鎖の機能を行うことができる。
また、水排出封鎖部11aは、電解質膜11の外郭部位で電解質膜11の辺に沿って所定の幅を持つように長く形成されるが、
図1に示したように、膜電極接合体で電解質膜11の外郭部位の全長に沿って連続配置されて四角のリング状に長く形成される。
具体的には、
図1に示すように、サブガスケット14が接合された電解質膜11の外郭部位が全体的に四角のリング状を持つとすると、電解質膜11の外郭部位においても反応領域から所定の距離をおいて離隔されている外側部位に一定の幅を有する水排出封鎖部11aが形成される。
【0018】
この際、水排出封鎖部11aは、サブガスケット14が接合されている外郭部位に形成されるが、それによって、電解質膜11の水排出封鎖部11aにサブガスケット14が積層及び接合される構造となる。
図1の実施例は、膜電極接合体10の4辺のうち長辺と短辺の4辺に沿って、各辺での一定の幅を有する水排出封鎖部11aが電解質膜11に形成される実施例であって、この際、水排出封鎖部11aは四角のリング状である。
この場合、電解質膜11での水排出封鎖部11aの幅は、電解質膜11の外郭部位の全体幅の0.5倍以下になることが好ましい。
具体的には、電解質膜11内の水排出封鎖部11aが、カソード12及びアノード13が接合されている電気化学反応領域を除いて残り電解質膜11の外郭部位において、すなわちサブガスケットの接合部位において、反応領域から各辺での所定の距離だけ一定に離隔している外側部位に水排出封鎖部11aが形成されるが、この際、各辺の任意の位置での水排出封鎖部11aの幅は、同一位置でのサブガスケット接合部位の全体幅の0.5倍以下になる。
しかし、0.5倍を超えると、後述するようにカチオンで置換された水排出封鎖部11aが中央の電気化学反応領域にとても近く隣接するようになって電気化学反応(燃料電池の反応)に影響を及ぼすことがある。
また、
図1の実施例とは異なり、電解質膜11の外郭部位のうち少なくとも一部、より詳細には、電解質膜11の4辺のうち対向する2つの辺の電解質膜11にだけ水排出封鎖部11aを形成してもよい。
【0019】
図2と
図3は、2つの辺の電解質膜11にのみ水排出封鎖部11aが形成された実施例を示した図面であって、
図2は、電解質膜11の4辺のうち対向する2つの長辺部位に沿ってのみ水排出封鎖部11aが形成された実施例を示し、
図3は、電解質膜11の4辺のうち対向する2つの短辺部位に沿ってのみ水排出封鎖部11aが形成された実施例を示す。
各実施例で、水排出封鎖部11aは、前述した通り中央に位置した反応領域から各辺での所定の距離だけ一定に離隔するように形成され、
図2及び
図3の実施例でも各辺の任意の位置での水排出封鎖部11aの幅が、同一位置でのサブガスケットの接合部位の全体幅の0.5倍以下になるようにすることが好ましい。
言い換えれば、
図1から
図3の実施例で、各辺の任意の位置での水排出封鎖部11aの幅が反応領域から離隔している距離以下になるようにすることである。
これは電解質膜11でカソード12及びアノード13の電極が接合された反応領域から水排出封鎖部11aが離隔しており、電解質膜11で反応領域の周辺の外郭部位(すなわち、サブガスケット14が接合された部位)が水排出封鎖部11aを形成している部分と、電解質膜11そのものからなっている部分と、だけで分けられているからである。
一方、本発明の実施例で、水排出封鎖部11aは、金属カチオン(Metal Cation)が含まれている溶液を電解質膜11に塗布して電解質膜11のスルホン酸基(-SO
3
-H
+)内に結合されている水素イオンを金属カチオンで置換することによって形成される。
【0020】
具体的には、本発明で水の移動を封鎖できる水排出封鎖部11aを電解質膜11に形成できるが、この際、電解質膜11の外郭部位の水排出封鎖部の領域に該当する部位の性質を選択的カチオン置換(Selective Cation Substitution)によって変化させることで、電解質膜11内の所望の特定部位が水排出封鎖部11aを形成するようになる。
このように水排出封鎖部11aは、サブガスケット14の間に接合されている電解質膜の部分で、カチオン置換によって性質が変化した特定部位として得られたもので、結局、このような水排出封鎖部11aは、電解質膜11内に存在する水が外側に移動することを遮断して外部に排出することを防止する。
【0021】
電解質膜に関する従来の研究によれば、Na+、Ca2+、Fe3+などの金属カチオンが膜に露出した時、イオン伝導度の減少、膜内の脱水(Membrane Dehydration)などの現象が生じることが知られている(Kitiya Hongsirikarn et al.、J.Power Sources、195、7213-7220 2010;Michael J.Kelly et al.、J.Power Sources、145、249-252 2005;D.A.Shores and G.A.Deluga、“Basic materials corrosion issues”、Ch.23 in Handbook of Fuel Cells-Fundamentals、Technology and Applications、Edited by Wolf Vielstich、Hubert A.Gasteiger、Arnold Lamm.、Volume 3、John Wiley & Sons、Ltd.2003)。
これは水素イオンに比べて、膜のスルホン基(-SO3-)との親和度(Affinity)がさらに高いカチオンが、スルホン酸基(-SO3
-H+)内に結合されている水素イオンを置き換えて水分子との結合を邪魔するからである。
【0022】
特に、これは1価(Monovalent)カチオンよりも2価以上の多価(Multivalent)カチオンによって強く影響を受ける。
このような現象が膜電極接合体の反応領域で発生すると、イオン伝導度が減少して燃料電池の性能が大きく低下する。しかし、電解質膜11で反応領域の外側の外郭部位であるサブガスケットの接合部位でカチオンが置換されると、燃料電池の反応に影響を及ぼすことなく、膜の含水率を低めて膜電極接合体の外郭に排出する水の量を大きく低減することができる。
このような点に着眼して本発明では、選択的カチオン置換によって反応領域の外側の外郭部位で形成された水排出封鎖部11aを含む電解質膜11が用いられる。
この際、電解質膜11内の水排出封鎖部11aは、電気化学反応部である前記反応領域を除いたサブガスケットの接合部位において、外側の少なくとも一部分に形成される。
【0023】
以下、電解質膜に水排出封鎖部を形成する過程を説明する。
先ず、電解質膜11の所定の領域に水排出封鎖部11aを形成する方法は、電解質膜11の両側面で水排出封鎖部11a以外の領域をマスキング部材(図示せず)で覆ってマスキング(Masking)した後、溶媒に金属カチオン前駆体が溶解された金属カチオン溶液を、スプレー(Spray)、ブラッシング(Brushing)、ロール(Roll)などの湿式工程(Wet Process)を用いて、前記マスキング部材によって覆われていない電解質膜11の露出部位に塗布する。
または、燃料電池スタックを組み立てた後、スタックの側面に金属カチオン溶液をスプレーする方式を用いてセルの反応領域の外側に位置している電解質膜の外郭部位に水排出封鎖部を同時に形成してもよく、金属カチオン溶液を塗布する方法は、本発明で前記方法により限定されることはない。
【0024】
本発明で前記金属(M)カチオン溶液は、下記一般式(1)で表される金属カチオン前駆体と溶媒で構成することができる。
[化1]
M(X)n (1)
ここで、Mは、Na、Li、K、Ca、Mg、Cu、Zn、Ni、Fe、Cr、及びAlから選択される金属であり、Xは、クロリド(Chloride)、サルフェート(Sulfate)、アセテート(Acetate)、ナイトレート(Nitrate)、ヒドロキシド(Hydroxide)、及びこれらの組合せから選択されたものである。
また、前記nは、Mの原子価により決定される。
本発明で金属カチオン溶液は、金属カチオン前駆体のうちの1つまたは2つ以上のものを混合して使用でき、好ましくは前記金属(M)から生成された金属カチオンが2価以上のもの、より具体的には2価や3価の金属カチオンを使用することが好ましい。
また、溶液において、金属カチオンの濃度は、少なくとも1mol%以上になるようにするが、金属カチオンの濃度が1mol%未満であれば、カチオンが十分に置換されず、水排出封鎖能力が低下することがある。
一方、溶媒は、金属カチオン前駆体を溶解するために使用されるもので、その具体的な例として、脱イオン水(De-ionized Water)、メタノール(Methanol)、エタノール(Ethanol)、イソプロピルアルコール(Iso-propyl Alcohol)、1-プロパノール(1-propanol)、及びメトキシエタノール(2-methoxyethanol)から選択される1種または2種以上の混合溶媒を使用できるが、この中、脱イオン水の使用が好ましい。
【0025】
上記の通り、水排出封鎖部11aが形成されるように金属カチオン溶液を電解質膜11の所定の部位に塗布した後、カチオン置換が行われる十分な時間内に電解質膜11を乾燥させてマスキング部材を除去する。
この際、乾燥は、自然乾燥方式が好ましいが、乾燥時間を短縮するために熱風乾燥または真空乾燥方式を用いてもよい。
また、マスキング部材を除去して電解質膜11が製作された後、通常の工程でカソード12及びアノード13の電極を電解質膜11に積層形成し、サブガスケット14を積層及び接合する。
また、カソード12及びアノード13の電極を形成する工程後に水排出封鎖部11aを形成してもよい。
このようにして本発明によれば、膜電極接合体の反応領域の外側領域となる電解質膜の外郭部位に金属カチオン(Metal Cation)が置換形成された水排出封鎖部が形成されることで、膜電極接合体に要求されるサブガスケットによる優れたハンドリング性が確保されると共に、燃料電池の気密性能が維持され、かつ前記水排出封鎖部によって燃料電池セルの外郭部位に望まない水の拡散が防止されることになる。
したがって、燃料電池内の水管理の効率性とスタックの耐腐食性が増大でき、車両の運行安定性が増大する。
【0026】
図1から
図3で、A’及びA”は、電気化学反応部、すなわちカソード12とアノード13が電解質膜11に接合して構成される膜電極接合体の反応領域を示し、B’とB”はサブガスケット接合部位、すなわち電解質膜11で反応領域の外側の外郭部位を示す。
より明確には、A’は反応領域の長さとなり、A”は反応領域の幅となる。
また、B’は短辺での外郭部位の幅を示し、B”は長辺での外郭部位の幅を示す。
また、B1’及びB1”は、電解質膜11の外郭部位のうちカチオンの置換が行われていないカチオン未置換部位であって、電解質膜11で反応領域と水排出封鎖部11aとの間を区分して離隔させるために存在する部位である。
この際、B1’は短辺でのカチオン未置換部位の幅(離隔距離)を示し、B1”は長辺でのカチオン未置換部位の幅(離隔距離)を示す。
また、B2’とB2”は、選択的カチオン置換によって形成された電解質膜11の水排出封鎖部11aを示し、
図1の実施例では水排出封鎖部11aが四方の4辺に、
図2の実施例では水排出封鎖部11aが対向する2つの長辺に、
図3の実施例では水排出封鎖部11aが対向する2つの短辺にそれぞれ形成されている。
また、本発明では、前述した通り、
図1の実施例ではB2’≦0.5×B’、B2”≦0.5×B”の関係を持ち、
図2の実施例ではB2”≦0.5×B”の関係を持つ。
また、
図3の実施例ではB2’≦0.5×B’の関係を持つ。
【0027】
以上、本発明に関する好ましい実施例を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の属する技術分野を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0028】
10 膜電極接合体
11 電解質膜
11a 水排出封鎖部
12 カソード
13 アノード
14 サブガスケット