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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】機械部品
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/28 20060101AFI20220815BHJP
   C21D 9/32 20060101ALN20220815BHJP
【FI】
F16H1/28
C21D9/32 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017234951
(22)【出願日】2017-12-07
(65)【公開番号】P2019100510
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(72)【発明者】
【氏名】井関 利幸
(72)【発明者】
【氏名】今津 佑輔
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-251743(JP,A)
【文献】特開昭62-251523(JP,A)
【文献】特開2002-349682(JP,A)
【文献】特開昭60-1423(JP,A)
【文献】特許第5913533(JP,B1)
【文献】特開2012-102342(JP,A)
【文献】特開平11-93971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
C21D 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面において開口する穴を有し、鋼または鋳鉄からなる機械部品であって、
前記第1の表面を含み、前記穴を取り囲む前記機械部品の内周面を含むように配置される焼入硬化層と、
前記焼入硬化層以外の領域であるベース領域と、を備え、
前記第1の表面において、前記焼入硬化層は、前記穴の周方向全周にわたって繋がった形状を有するとともに、前記焼入硬化層の前記穴の径方向における厚みは、前記穴の周方向において異なっており、
前記焼入硬化層は、前記穴の深さ方向において、前記第1の表面を含む一部のみに形成されている、機械部品。
【請求項2】
前記焼入硬化層の前記穴の径方向における厚みは、前記穴の周方向において周期的に変化する、請求項1に記載の機械部品。
【請求項3】
前記第1の表面に垂直な方向から見て、前記第1の表面における前記焼入硬化層の形状は前記穴の重心に対して点対称となっている、請求項1または請求項2に記載の機械部品。
【請求項4】
前記第1の表面に垂直な方向から見て、前記焼入硬化層は、
前記穴の径方向における厚みが第1の厚みである第1領域と、
前記穴の径方向における厚みが前記第1の厚みよりも大きい第2の厚みである第2領域と、を含み、
前記第1領域と前記第2領域とは、前記穴の周方向において交互に配置される、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の機械部品。
【請求項5】
前記機械部品は遊星歯車機構のキャリアであり、
前記穴は、前記キャリアに設置される遊星歯車を支持するピンが挿入される穴であり、
前記第1の表面は、前記遊星歯車に面する表面である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の機械部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業機械のアクスル装置には、遊星歯車機構が含まれる。遊星歯車機構のキャリアには、遊星歯車を支持するピンを挿入するための穴が形成される(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-77830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記キャリアの穴の外縁を含むキャリアの表面であって遊星歯車に面する領域には、耐摩耗性が求められる。この領域の耐摩耗性を向上させるため、当該領域に焼入硬化層を形成する方策が考えられる。このように、表面において開口する穴を有し、鋼または鋳鉄からなる機械部品において、当該表面を含み、上記穴の外縁を含むように焼入硬化層が形成される場合がある。
【0005】
しかしながら、穴の外縁を含むように焼入硬化層を形成すると、穴の寸法精度が低下する。そこで、表面において開口する穴を有し、当該表面を含み、上記穴の外縁を含むように焼入硬化層が形成される鋼または鋳鉄からなる機械部品において、穴の寸法精度の低下を抑制することを本発明の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従った機械部品は、第1の表面において開口する穴を有し、鋼または鋳鉄からなる機械部品である。この機械部品は、第1の表面を含み、上記穴の外縁を含むように配置される焼入硬化層と、焼入硬化層以外の領域であるベース領域と、を備える。第1の表面において、上記焼入硬化層の上記穴の径方向における厚みは、上記穴の周方向において異なっている。
【発明の効果】
【0007】
上記機械部品によれば、穴の寸法精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1における機械部品の構造を示す概略斜視図である。
図2】実施の形態1における機械部品の構造を示す概略平面図である。
図3】実施の形態1における機械部品の構造を示す概略断面図である。
図4】実施の形態1における機械部品の構造を示す概略断面図である。
図5】実施の形態1における機械部品の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図6】実施の形態2における機械部品の構造を示す概略斜視図である。
図7】実施の形態3における機械部品の構造を示す概略平面図である。
図8】実施の形態4における機械部品の構造を示す概略平面図である。
図9】実施の形態5における機械部品の構造を示す概略平面図である。
図10】遊星歯車機構のキャリアの構造を示す概略断面図である。
図11】サンプルにおける焼入硬化層の形成状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
本願の機械部品は、第1の表面において開口する穴を有し、鋼または鋳鉄からなる機械部品である。この機械部品は、第1の表面を含み、上記穴の外縁を含むように配置される焼入硬化層と、焼入硬化層以外の領域であるベース領域と、を備える。第1の表面において、上記焼入硬化層の上記穴の径方向における厚みは、上記穴の周方向において異なっている。
【0010】
上述のように、穴の外縁を含むように焼入硬化層を形成すると、穴の寸法精度が低下する。本発明者は、この問題の原因とその解決策について検討を行った結果、以下のような知見を得て本願発明に想到した。穴の外縁を含むように焼入硬化層を形成する場合、通常は穴の径方向における厚みが穴の周方向において一定となるように焼入硬化層が形成される。一方、焼入硬化層を形成すると当該領域は膨張する。このとき、体積の増加分は、鋼または鋳鉄により拘束された穴の径方向外側よりも、空間である径方向内側に向かう。その結果、穴の寸法精度が低下する。
【0011】
これに対し、本願の機械部品においては、焼入硬化層の上記穴の径方向における厚みが、上記穴の周方向において異なっている。そのため、硬化層の厚みが大きい領域の体積膨張の一部が、周方向において当該領域に隣接する硬化層の厚みが小さい領域の硬化層の外周側に位置するベース領域(変形能が大きい領域)において吸収され、穴の寸法変化が低減される。その結果、穴の寸法精度の低下が抑制される。このように、本願の機械部品によれば、穴の寸法精度の低下を抑制することができる。なお、上記焼入硬化層の上記穴の径方向における厚みが上記穴の周方向において異なる状態には、上記径方向における焼入硬化層の厚みが部分的に0である状態、すなわち焼入硬化層が周方向において断続的となっている状態を含む。
【0012】
上記機械部品において、焼入硬化層の上記穴の径方向における厚みは、上記穴の周方向において周期的に変化していてもよい。このようにすることにより、上記穴の径方向における寸法変化量を穴の周方向において均一化することができる。
【0013】
上記機械部品において、第1の表面に垂直な方向から見て、第1の表面における焼入硬化層の形状は上記穴の重心に対して点対称となっていてもよい。このようにすることにより、上記穴の径方向における寸法変化量を穴の周方向において均一化することができる。
【0014】
上記機械部品において、第1の表面に垂直な方向から見て、焼入硬化層は、上記穴の径方向における厚みが第1の厚みである第1領域と、上記穴の径方向における厚みが第1の厚みよりも大きい第2の厚みである第2領域と、を含んでいてもよい。第1の領域と第2の領域とは、上記穴の周方向において交互に配置されていてもよい。このようにすることにより、上記穴の径方向における寸法変化量を穴の周方向において均一化することが容易となる。
【0015】
上記機械部品は遊星歯車機構のキャリアであってもよい。上記穴は、キャリアに設置される遊星歯車を支持するピンが挿入される穴であってもよい。第1の表面は、遊星歯車に面する表面であってもよい。本願の機械部品は、遊星歯車機構のキャリアとして好適である。
【0016】
[実施形態の具体例]
次に、本発明の機械部品の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0017】
(実施の形態1)
まず、図1図4を参照して、実施の形態1における機械部品について説明する。図1は、機械部品の構造を示す概略斜視図である。図2は、第1端面側から見た機械部品の構造を示す概略平面図である。図3は、図1の線分A-Aに沿う概略断面図である。図4は、図1の線分B-Bに沿う概略断面図である。
【0018】
図1図4を参照して、本実施の形態における機械部品1は、中心軸を含むように中心軸方向に貫通する穴19が形成された中空円筒状の形状を有する。機械部品1は、鋼または鋳鉄からなる。機械部品1は、第1の表面としての一方の端面である第1端面11と、他方の端面である第2端面12と、外周面13と、内周面14とを含む。図2を参照して、第1端面11に垂直な方向から見て、穴19は円形である。第1端面11に垂直な方向から見て、外周面13および内周面14は円形である。第1端面11および第2端面12は円環状の形状を有する。
【0019】
穴19は、第1の表面としての第1端面11において開口する。機械部品1は、第1端面11を含み、穴19の外縁、すなわち内周面14を含むように配置される焼入硬化層21と、焼入硬化層21以外の領域であるベース領域22とを備える。焼入硬化層21は、ベース領域22が焼入処理されることにより形成された領域である。焼入硬化層21は、ベース領域22よりも硬度が高い。焼入硬化層21を構成する鋼または鋳鉄は、マルテンサイト組織を有する。焼入硬化層21は、たとえばレーザ焼入層である。焼入硬化層21における炭素含有量とベース領域22における炭素含有量とは等しい。第1端面11において、焼入硬化層21の穴19の径方向αにおける厚みtは、穴19の周方向において異なっている。
【0020】
より具体的には、第1端面11に垂直な方向から見た図2を参照して、焼入硬化層21は、穴19の径方向αにおける厚みtが第1の厚みである第1領域21Bと、穴19の径方向αにおける厚みtが第1の厚みよりも大きい第2の厚みである第2領域21Aとを含んでいる。第1領域21Bと第2領域21Aとは、穴19の周方向βにおいて交互に配置されている。第1端面11に垂直な方向から見て、第1端面11における焼入硬化層21の形状は穴19の重心(中心)Oに対して点対称となっている。焼入硬化層21の穴19の径方向αにおける厚みtは、穴19の周方向βにおいて周期的に変化している。本実施の形態において、焼入硬化層21の穴19の径方向αにおける厚みtは、穴19の重心Oを通る直線に対して線対称となっている。
【0021】
本実施の形態において、焼入硬化層21は複数(6個)の第2領域21Aと、同数の第1領域21Bとが交互に配置された構造を有している。各第1領域21Bの周方向βにおける長さは等しい。各第2領域21Aの周方向βにおける長さは等しい。6つの第1領域21Bは、同一形状を有している。6つの第2領域21Aは、同一形状を有している。図3および図4を参照して、焼入硬化層21の中心軸方向における深さdは、たとえば0.1mm以上である。
【0022】
本実施の形態の機械部品1においては、焼入硬化層21の穴19の径方向αにおける厚みtが、穴19の周方向βにおいて異なっている。そのため、焼入硬化層21の厚みtが大きい第2領域21Aの体積膨張(焼入硬化層21の形成に伴う体積膨張)の一部が、周方向βにおいて隣接する焼入硬化層21の厚みが小さい第1領域21Bの外周側に位置するベース領域22において吸収され、穴19の寸法変化が低減される。その結果、機械部品1は、穴19の寸法精度の低下が抑制された機械部品となっている。
【0023】
次に、本実施の形態の機械部品1の製造方法の一例について説明する。図5は、機械部品1の製造方法の概略を示すフローチャートである。図5を参照して、本実施の形態の機械部品1の製造方法においては、まず工程(S10)として鋳造工程が実施される。この工程(S10)では、たとえば適切な成分組成を有する溶融状態の鋳鉄が、所望の形状の機械部品1に対応するキャビティを有する型に流し込まれ、凝固する。溶融状態の鋳鉄に代えて、溶融状態の鋼、たとえば溶融状態の機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼が型に流し込まれてもよい。そして、凝固して得られた機械部品1を型から取り出す。
【0024】
次に、工程(S20)として機械加工工程が実施される。この工程(S20)では、工程(S10)において得られた機械部品1に対して、機械加工が実施される。具体的には、機械部品1に対して、切削、旋削などの機械加工が実施され、完成状態の形状を有する機械部品1が得られる。
【0025】
次に、工程(S30)としてレーザ焼入工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において得られた完成状態の形状を有する機械部品1に対して、レーザ焼入が実施される。レーザ焼入に使用されるレーザとしては、たとえば炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、半導体レーザ、ファイバーレーザなどを採用することができる。具体的には、図1および図2を参照して、工程(S20)において得られた焼入硬化層21形成前の機械部品1を中心軸周りに周方向βに沿って回転させつつ、第1端面11に対してレーザを照射する。
【0026】
レーザは、まず第1領域21Bの厚みtに対応する領域に照射され、穴19の外縁(内周面14)を含む全周に一定の厚みtを有する焼入硬化層21が形成される。焼入硬化層21は、レーザの照射により機械部品を構成する鋼または鋳鉄がA変態点以上の温度に加熱された後、レーザの照射領域が移動することにより急冷されることにより形成される。その後、機械部品1の周方向βに沿う回転を維持しつつ、先に形成された焼入硬化層21の外周側にレーザが照射され、焼入硬化層21の形成領域が拡大される。このとき、レーザを断続的に照射することにより、第2領域21Aが形成される。これにより、第1領域21Bと第2領域21Aとが、穴19の周方向βにおいて交互に配置された焼入硬化層21が形成される。その後、必要に応じて防錆処理、塗装等のプロセスを経て、機械部品1が完成する。工程(S30)の後には、穴19の寸法精度を向上させる加工、たとえば旋削、研削などの仕上げ加工や、サイジング処理は実施されない。以上の手順により、本実施の形態の機械部品1を製造することができる。
【0027】
(実施の形態2)
図6は、実施の形態2における機械部品の構造を示す概略斜視図である。図6は、実施の形態1における図1に対応する。図6を参照して、実施の形態2における機械部品1は、基本的には実施の形態1の機械部品1と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2における機械部品1は、穴19の形状において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0028】
図6を参照して、本実施の形態における機械部品1の穴19は、貫通穴ではなく、底を有する穴である。機械部品1は穴19を規定する底面を有している。本実施の形態の機械部品1においても、焼入硬化層21の厚みtが大きい第2領域21Aの体積膨張(焼入硬化層21の形成に伴う体積膨張)の一部が、周方向βにおいて隣接する焼入硬化層21の厚みが小さい第1領域21Bの外周側に位置するベース領域22において吸収され、穴19の寸法変化が低減される。その結果、機械部品1は、穴19の寸法精度の低下が抑制された機械部品となっている。
【0029】
(実施の形態3)
図7は、実施の形態3における機械部品の構造を示す概略平面図である。図7は、実施の形態1における図2に対応する。図7を参照して、実施の形態3における機械部品1は、基本的には実施の形態1の機械部品1と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3における機械部品1は、焼入硬化層21の形状において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0030】
図7を参照して、実施の形態3における機械部品1においては、第1領域21Bの径方向αに沿う厚みtが0となっている。実施の形態3における機械部品1においては、焼入硬化層21が周方向βにおいて断続的となっている。すなわち、第1端面11において、内周面14(穴19の外縁)の一部がベース領域22に含まれる。このような焼入硬化層21は、上記実施の形態1において説明した機械部品の製造方法において、穴19の外縁(内周面14)を含む全周に一定の厚みtを有する焼入硬化層21を形成するステップを省略することにより形成することができる。
【0031】
本実施の形態の機械部品1においては、第2領域21Aの体積膨張(焼入硬化層21の形成に伴う体積膨張)の一部が、周方向βにおいて隣接するベース領域22において吸収され、穴19の寸法変化が低減される。その結果、機械部品1は、穴19の寸法精度の低下が抑制された機械部品となっている。
【0032】
(実施の形態4)
図8は、実施の形態4における機械部品の構造を示す概略平面図である。図8は、実施の形態1における図2に対応する。図8を参照して、実施の形態4における機械部品1は、基本的には実施の形態1の機械部品1と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態4における機械部品1は、焼入硬化層21の形状において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0033】
図8を参照して、焼入硬化層21は、12個の第2領域21Aと、同数の第1領域21Bとが交互に配置された構造を有している。本実施の形態の機械部品1においても、焼入硬化層21の厚みtが大きい第2領域21Aの体積膨張(焼入硬化層21の形成に伴う体積膨張)の一部が、周方向βにおいて隣接する焼入硬化層21の厚みが小さい第1領域21Bの外周側に位置するベース領域22において吸収され、穴19の寸法変化が低減される。その結果、機械部品1は、穴19の寸法精度の低下が抑制された機械部品となっている。
【0034】
(実施の形態5)
図9は、実施の形態5における機械部品の構造を示す概略平面図である。図9は、実施の形態1における図2に対応する。図9を参照して、実施の形態5における機械部品1は、基本的には実施の形態1の機械部品1と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態5における機械部品1は、焼入硬化層21の形状において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0035】
図9を参照して、焼入硬化層21は、3個の第2領域21Aと、同数の第1領域21Bとが交互に配置された構造を有している。本実施の形態の機械部品1においても、焼入硬化層21の厚みtが大きい第2領域21Aの体積膨張(焼入硬化層21の形成に伴う体積膨張)の一部が、周方向βにおいて隣接する焼入硬化層21の厚みが小さい第1領域21Bの外周側に位置するベース領域22において吸収され、穴19の寸法変化が低減される。その結果、機械部品1は、穴19の寸法精度の低下が抑制された機械部品となっている。
【0036】
上記実施の形態1~5において説明したように、第1領域21Bおよび第2領域21Aの径方向αに沿う厚みt、周方向において焼入硬化層21のうち第2領域21Aが占める割合等を、機械部品の構造に合わせて調整することにより、穴19の寸法精度の低下を有効に抑制することができる。
【0037】
(実施の形態6)
次に、本願の機械部品を遊星歯車機構のキャリアに適用した例を実施の形態6として説明する。図10は、遊星歯車機構のキャリアの構造を示す概略断面図である。図10を参照して、本実施の形態における機械部品である遊星歯車機構のキャリア50は、円筒状の形状を有する大径部51と、大径部51に軸方向において接続され、大径部51よりも外径が小さい円筒状の形状の小径部52とを含む。大径部51および小径部52の中心軸を含み、大径部51および小径部52を軸方向に貫通するように、第1貫通穴53が形成されている。第1貫通穴53を取り囲む小径部52の領域は、壁面にスプライン溝が形成されたスプライン部54となっている。スプライン部54は、アクスルシャフト(図示しない)に係合する。
【0038】
大径部51の第1貫通穴53の外周側には、大径部51を軸方向に貫通する第2貫通穴55が形成されている。この第2貫通穴55に挿入されるピン61により、遊星歯車62がキャリア50に対して支持されている。より具体的には、ピン61の外周面と遊星歯車62の内周面との間に軸受(図示しない)が介在することにより、遊星歯車62はピン61に対して周方向に回転自在に支持される。第2貫通穴55の外縁を含むキャリア50の表面であって遊星歯車62に面する領域であるキャリアスラスト面56,57には、上記軸受の軌道輪が接触する。したがって、キャリアスラスト面56,57には、耐摩耗性が求められる。そのため、本実施の形態のキャリア50においては、キャリアスラスト面56,57を含むように焼入硬化層が形成される。
【0039】
キャリアスラスト面56,57は、本願における機械部品の第1の表面に対応する。また、第2貫通穴55は、第1の表面としてのキャリアスラスト面56,57において開口する穴である。そして、キャリア50は、上記機械部品1の場合と同様に、第1の表面としてのキャリアスラスト面56,57を含み、第2貫通穴55の外縁を含むように配置される焼入硬化層と、焼入硬化層以外の領域であるベース領域とを備える。第1の表面としてのキャリアスラスト面56,57において、焼入硬化層の第2貫通穴55の径方向における厚みは、第2貫通穴55の周方向において異なっている。
【0040】
本実施の形態の機械部品であるキャリア50においても、硬化層の厚みが大きい領域の体積膨張(焼入硬化層の形成に伴う体積膨張)の一部が、周方向において隣接する硬化層の厚みが小さい領域の外周側に位置するベース領域において吸収され、第2貫通穴55の寸法変化が低減される。その結果、キャリア50は、第2貫通穴55の寸法精度の低下が抑制された機械部品となっている。
【実施例
【0041】
上記実施の形態1において説明した製造方法により、本願の機械部品が製造可能であることを確認する実験を行った。球状黒鉛鋳鉄であるFCD600からなり、内径100mm、外径144mm、高さ30mmの中空円筒状(円環状)のサンプルを準備した。そして、実施の形態1において説明した手順に従って第1の表面としての一方の端面(第1端面11)に対してレーザ焼入を実施した。焼入後のサンプルの写真を図11に示す。
【0042】
図11を参照して、穴19の径方向αにおける厚みtが第1の厚みである第1領域21Bと、穴19の径方向αにおける厚みtが第1の厚みよりも大きい第2の厚みである第2領域21Aとを含み、穴19の外縁、すなわち内周面14を含むように焼入硬化層21が形成されていることが確認される。このように、レーザ焼入を利用した上記実施の形態1の製造方法により、本願の機械部品を製造可能であることが確認された。
【0043】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0044】
1 機械部品、11 第1端面、12 第2端面、13 外周面、14 内周面、19 穴、21 焼入硬化層、21A 第2領域、21B 第1領域、22 ベース領域、50 キャリア、51 大径部、52 小径部、53 貫通穴、54 スプライン部、55 貫通穴、56,57 キャリアスラスト面、61 ピン、62 遊星歯車。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11