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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】シーディング装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 9/06 20060101AFI20220815BHJP
   B05B 7/08 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
G01M9/06
B05B7/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017251975
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019117151
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】512094410
【氏名又は名称】西華デジタルイメージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安木 政史
(72)【発明者】
【氏名】中村 健一
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-125015(JP,A)
【文献】特開2000-202333(JP,A)
【文献】特開2009-121785(JP,A)
【文献】特開平09-299833(JP,A)
【文献】特開2009-119425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/00- 10/00
B05B 1/00- 3/18
B05B 7/00- 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体粒子により形成されるトレーサ粒子を放出するシーディング装置であって、
液体粒子と気体とを含む噴流を噴出する複数の噴霧ノズルと、
基端部の内側に前記噴霧ノズルが配置され、前記噴流中の液体粒子で形成された前記トレーサ粒子を含む気体流を放出するための開口先端部を有する筒状体とを備え、
前記筒状体の中心軸線に沿った方向に見た場合、各噴霧ノズルからの噴流の中心軸線Cと該筒状体の内面との交点Pにおける該内面の接線をTとすれば、該中心軸線Cの該内面よりも外側に位置する部分と、該接線Tの該中心軸線Cよりも一方の側に位置する部分とが成す角θは鋭角であり、該一方の側は、すべての噴霧ノズルに係る接線Tについて、それぞれに対応する中心軸線Cの同じ方の側であり、かつ各交点Pの位置は、噴霧ノズル毎に異なり、
前記開口先端部は、
前記筒状体の先端の中心部以外の部分を閉塞し、該中心部に対応する部分に開口穴が設けられた閉塞部材と、
前記筒状体の長さ方向に延在し、側面が前記閉塞部材の開口穴に対して気密に固定され、該開口穴よりも該筒状体の後端側に位置する後端側部分を有する筒状放出部とを備え、
前記筒状放出部の内部において該筒状放出部の長さ方向に沿って延在し、該筒状放出部を経て放出される前記トレーサ粒子を含む気体流の旋回を抑制する旋回抑制板を備えるこることを特徴とするシーディング装置。
【請求項2】
各噴霧ノズルは、該噴霧ノズルの噴流の噴出方向が、前記筒状体の中心軸線に垂直な平面に対して所定の鋭角を成すように配置されることを特徴とする請求項1に記載のシーディング装置。
【請求項3】
前記複数の噴霧ノズルは、同一の形態を有し、該噴霧ノズルの数をnとすれば、前記筒体の中心軸線についてn回対称性を呈することを特徴とする請求項1又は2に記載のシーディング装置。
【請求項4】
前記筒状体内に、該筒状体内の気圧を高めて、前記噴霧ノズルからの噴流により形成される旋回流が該筒状体の先端方向に進むのを補助する気体を送る気体供給部を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のシーディング装置。
【請求項5】
前記噴霧ノズルは、衝突型の2流体ノズルであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のシーディング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
液体粒子により形成されるトレーサ粒子を放出するシーディング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このようなシーディング装置として、噴霧ノズルが噴出する液体粒子及び気体とを含む噴流の周りを噴出方向に沿って覆う筒状体を備え、この筒状体の内壁に、該噴流中の粒径の大きい液体粒子を付着させて排除するようにしたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このシーディング装置は、その筒状体の内部で微粒化が進行した粒径の小さい液体粒子をトレーサ粒子として風洞内に放出するものであり、筒状体における噴霧ノズルから所定範囲内の位置に、外気を筒状体内に導入する開口部が設けられる。
【0004】
これによれば、開口部から導入される外気により、液体粒子の微粒化が促進され、粒径の大きい液体粒子が減少するので、トレーサに適した粒径の小さい液体粒子の数が増大する。したがって、より多くのトレーサ粒子を風洞内に供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-125015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来のシーディング装置によれば、より多くのトレーサ粒子を供給するためには、数台のシーディング装置を用意し、これらのシーディング装置を同時に駆動させる必要がある。
【0007】
また、噴霧ノズルが噴出する噴流の方向と、噴流の周りを覆う筒状体の方向とが一致しているので、噴流中の大きい液体粒子を排除しつつ、大きい液体粒子をさらに微粒化する機能が必ずしも十分であるとはいえない。このため、トレーサ粒子の供給効率がより高いシーディング装置が望まれる。
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題に鑑み、1台のシーディング装置で、より多くのトレーサ粒子を効率よく供給できるシーディング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係るシーディング装置は、
液体粒子により形成されるトレーサ粒子を放出するシーディング装置であって、
液体粒子と気体とを含む噴流を噴出する複数の噴霧ノズルと、
基端部の内側に前記噴霧ノズルが配置され、前記噴流中の液体粒子で形成された前記トレーサ粒子を含む気体流を放出するための開口先端部を有する筒状体とを備え、
前記筒状体の中心軸線に沿った方向に見た場合、各噴霧ノズルからの噴流の中心軸線Cと該筒状体の内面との交点Pにおける該内面の接線をTとすれば、該中心軸線Cの該内面よりも外側に位置する部分と、該接線Tの該中心軸線Cよりも一方の側に位置する部分とが成す角θは鋭角であり、該一方の側は、すべての噴霧ノズルに係る接線Tについて、それぞれに対応する中心軸線Cの同じ方の側であり、かつ各交点Pの位置は、噴霧ノズル毎に異なり、
前記開口先端部は、
前記筒状体の先端の中心部以外の部分を閉塞し、該中心部に対応する部分に開口穴が設けられた閉塞部材と、
前記筒状体の長さ方向に延在し、側面が前記閉塞部材の開口穴に対して気密に固定され、該開口穴よりも該筒状体の後端側に位置する後端側部分を有する筒状放出部とを備え、
前記筒状放出部の内部において該筒状放出部の長さ方向に沿って延在し、該筒状放出部を経て放出される前記トレーサ粒子を含む気体流の旋回を抑制する旋回抑制板を備えるこることを特徴とする。
【0010】
第1発明によれば、各噴霧ノズルが噴出する噴流は、筒状体の内面と衝突し、筒状体内で旋回する旋回流を発生させる。この旋回流は、順次生じてくる旋回流により押されて筒状体の先端方向に進む。
【0011】
この間に、旋回流中の比較的径の大きい液体粒子は、旋回して遠心力により筒状体の内壁に衝突して付着し、旋回流から効果的に排除され易く、かつ旋回流により微粒化も進行し易い。一方、比較的径の小さい液体粒子は、遠心力や慣性にさほど影響されずに旋回流に乗るので、筒状体の内壁に付着し難い。
【0012】
これにより、比較的径の小さいトレーサに適した液体粒子をトレーサ粒子として含む気体流が、筒状体の開口先端部から放出される。このトレーサ粒子は、複数の噴霧ノズルから放出された液体粒子により形成されたものであるため、その分、1つの噴霧ノズルから放出される液体粒子で形成されるトレーサ粒子よりも数が多い。
【0013】
したがって、各噴霧ノズルからの噴流で形成される旋回流中の比較的径の大きい液体粒子を旋回流から簡便な構成で排除しつつ、より多くのトレーサ粒子を効率よく放出することができる。また、旋回流中の径の大きい粒子が筒状体に付着して形成される液体が筒状体から放出されるのを、閉塞部材及び筒状放出部の後端側部分によって防止することができる。また、ほぼ直進するトレーサ粒子を含む気体流を筒状体の先端から放出することができる。これにより、筒状体の先端に接続される他の散布用デバイスなどの内壁にトレーサ粒子が付着するのを防止することができる。
【0014】
第2発明に係るシーディング装置は、第1発明において、各噴霧ノズルは、該噴霧ノズルの噴流の噴出方向が、前記筒状体の中心軸線に垂直な平面に対して所定の鋭角を成すように配置されることを特徴とする。
【0015】
第2発明によれば、各噴霧ノズルが放出する噴流により形成される旋回流自体が筒状体の先端方向に向かう運動量の成分を有するので、旋回流を、筒状体の先端方向に効果的に進行させ、トレーサ粒子の効率的な放出に寄与することができる。
【0016】
第3発明に係るシーディング装置は、第1又は第2発明において、前記複数の噴霧ノズルは、同一の形態を有し、該噴霧ノズルの数をnとすれば、前記筒状体の中心軸線についてn回対称性を呈することを特徴とする。
【0017】
第3発明によれば、各噴霧ノズルはn回対称であるため、各噴霧ノズルが噴出する噴流により回転対称な噴流を形成し、より効果的に多量のトレーサ粒子を放出することができる。
【0018】
第4発明に係るシーディング装置は、第1~第3のいずれかの発明において、前記筒状体内に、該筒状体内の気圧を高めて、前記噴霧ノズルからの噴流により形成される旋回流が該筒状体の先端方向に進むのを補助する気体を送る気体供給部を有することを特徴とする。
【0019】
第4発明によれば、噴霧ノズルからの噴流が生成する旋回流を、筒状体の先端に効果的に進行させ、旋回流中のトレーサ粒子に適した径を有する液体粒子が筒状体に付着するのを防止し、より効果的に多くのトレーサ粒子を放出することができる。
【0024】
発明に係るシーディング装置は、第1~第のいずれかの発明において、前記噴霧ノズルは、衝突型の2流体ノズルであることを特徴とする。
【0025】
発明によれば、衝突型の2流体ノズルにより、内部混合で微粒化した液滴同士をさらに衝突させ、均質化・微粒化された液体粒子を有する噴流が得られるので、かかる噴流に基づき、効率的に多量のトレーサ粒子を放出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係るシーディング装置の斜視図である。
図2図1のシーディング装置のエアノズル近傍の部分を示す斜視図である。
図3図1のシーディング装置における噴霧ノズルの噴出方向と筒状体の内壁との関係を示す図である。
図4図1のシーディング装置における各噴霧ノズルの配置の具体例として、筒状体が円筒状である場合について示す図である。
図5図1のシーディング装置における噴霧ノズルの噴出方向と筒状体の中心軸線に垂直な平面とのなす角度を示す図である。
図6図1のシーディング装置により風洞実験を行う様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1に示すように、本実施形態のシーディング装置1は、オイル粒子と空気を含む噴流を噴出する複数の噴霧ノズル3と、基端部の内側に噴霧ノズル3が配置された筒状体4とを備える。
【0028】
筒状体4は、噴霧ノズル3よりも基端側が実質的に閉塞され、噴霧ノズル3の噴流の噴出方向に延在し、先端部に噴流中の液体粒子で形成されたトレーサ粒子を含む気体流を放出するための開口先端部5を有する。
【0029】
筒状体4は、噴流中のオイル粒子のうちの粒径が大きいものをその内壁に付着させて取り除くことにより、粒径が小さいものをトレーサ粒子として放出する機能を有する。シーディング装置1の図1における上方の側を先端側とし、下方の側を後端側とすれば、シーディング装置1は、使用時には、先端側を鉛直上方に向けて配置される。
【0030】
オイル粒子を形成するためのオイルとしては、例えば、DOS(Dioctyl sebacate)オイルや、水とグリセリンの混合物等が用いられる。トレーサ粒子の粒径は、用途によって異なるが、例えば、自動車の風洞実験では、粒径が2~4μm程度のものが好ましい。
【0031】
筒状体4先端の開口先端部5は、筒状体4の先端の中心部以外の部分を閉塞し、該中心部に対応する部分に開口穴6が設けられた閉塞部材7と、筒状体4の長さ方向に延在し、側面が閉塞部材7の開口穴6に対して気密に固定された筒状放出部8とを備える。筒状放出部8は、開口穴6よりも後端側に位置する後端側部分8aと、先端側に位置する先端側部分8bを有する。
【0032】
後端側部分8aは、筒状体4内で大粒径のものが取り除かれたオイル粒子が、トレーサ粒子として、装置外部に供給される際、筒状放出部8の筒状体4に付着したオイル粒子がトレーサ粒子に混入して装置外部へ流出するのを阻止する壁として機能する。また、筒状放出部8の内部には、その長さ方向に沿って延在し、筒状放出部8を経て放出されるトレーサ粒子を含む気体流の旋回を抑制する旋回抑制板8cが設けられる。
【0033】
図2に示すように、各噴霧ノズル3は、平均粒子径が10μm以下の微粒子を生成することが可能な衝突型の2流体ノズルであり、中心軸線10が交差する2つのノズル11a及び11bを備える。ノズル11a及び11bから噴出される噴流は衝突し、中心軸線10が交差する点を始点Sとして、全体として噴出方向Jの方向に進む噴流となる。噴霧ノズル3は、筒状体4の下端に固定された平板状のノズルベース12上に、次に示すような噴流と筒状体4との位置関係が得られるように配置される。
【0034】
すなわち、筒状体4の中心軸線AX(図1参照)に沿った方向に見た場合、図3に示すように、各噴霧ノズル3からの噴流の中心軸線Cと筒状体4の内面4aとの交点Pにおける内面4aの接線をTとする。
【0035】
このとき、中心軸線Cの内面4aよりも外側に位置する部分と、接線Tの中心軸線Cよりも一方の側に位置する部分とが成す角θは鋭角である。そして、該一方の側は、すべての噴霧ノズル3に係る接線Tについて、それぞれに対応する中心軸線Cの同じ方の側であり、かつ各交点Pの位置は、噴霧ノズル3毎に異なる。
【0036】
図4は、このような各噴霧ノズル3の配置の具体例として、筒状体4が円筒状である場合について示す。なお、図4においては、1つの噴霧ノズル3について示しているが、他の噴霧ノズル3についても同様である。
【0037】
図4のように、筒状体4の中心軸線AXに沿った方向に見て、中心軸線AXの位置を位置ベクトルの原点Oとする。各噴霧ノズル3からの噴流の始点Sの位置ベクトルをベクトルsで表す。交点Pの位置ベクトルをベクトルpで表す。また、中心軸線AXに垂直で、位置ベクトルの原点Oを原点とするXY座標系を考える。
【0038】
このとき、ベクトルsとX軸の正側とが反時計回りに成す角をφ、ベクトルpとX軸の正側とが成す角をξ、ベクトルsの大きさをr1、ベクトルpの大きさをr2とする。そうすると、ベクトルs=(r1・cosφ、r1・sinφ)、ベクトルp=(r2・cosξ、r2・sinξ)である。
【0039】
また、噴流の始点Sから交点Pに向かうベクトルを、ベクトルqとすれば、ベクトルq=ベクトルp-ベクトルsである。また、交点Pから接線Tに沿って接線Tの上記一方の側に向かう単位ベクトルをベクトルtとすれば、ベクトルt=(sinξ、-cosξ)である。
【0040】
このとき、上述の鋭角θを用いると、ベクトルq・ベクトルt=|ベクトルq|・|ベクトルt|cosθであるから、θ=cos-1(ベクトルq・ベクトルt/(|ベクトルq|・|ベクトルt|))である。したがって、筒状体4の中心軸線AXに沿った方向に見た場合の各噴霧ノズル3の位置(噴流の始端Sの位置)及び向き(噴流の噴出方向J)は、このθが鋭角となるようなベクトルs及びベクトルpを与えるように設定される。
【0041】
鋭角θとして好ましい値は、噴霧ノズル3からの噴流の広がりの程度などに依存するが、例えば、50°~85°であり、より好ましい値は60°~80°である。
【0042】
また、筒状体4が円筒状である場合、各噴霧ノズル3は、同一の形態を有し、噴霧ノズル3の数をnとすれば、筒状体4の中心軸線AXについてn回対称性を呈するのが好ましい。なお、本実施形態では、n=4である。
【0043】
また、図5に示すように、各噴霧ノズル3は、その噴流の噴出方向Jが、筒状体4の中心軸線AXに垂直な平面PLに対して所定の鋭角αを成し、やや上方を向くように配置される。鋭角αとして好ましい値は3°~15°であり、より好ましい値は5°~10°である。
【0044】
図1のように、噴霧ノズル3の鉛直方向下側には、噴霧ノズル3が形成するオイル粒子の原料となるオイルが蓄えられるオイルタンク13が設けられる。オイルタンク13には、オイルタンク13内にオイルを供給するための注油口14、及びオイルタンク13内のオイルを排出するための排出口15が設けられる。
【0045】
噴霧ノズル3とオイルタンク13との間には、オイルタンク13内のオイルを噴霧ノズル3に供給するためのオイル供給管16が設けられる。オイル供給管16の途中には、オイルタンク13内のオイル量をモニタするための油量計17が設けられる。
【0046】
筒状体4とオイルタンク13との間には、筒状体4の内壁に付着した液体粒子が自重によりオイルタンク13に戻るための流路が設けられる。この流路は、図2に示すようなノズルベース12に設けられた4つのドレーン穴18により構成される。
【0047】
各ドレーン穴18の周囲におけるノズルベース12の上面は、各ドレーン穴18に向かって若干傾斜している。すなわち、ノズルベース12は、筒状体4からノズルベース12上に自重によって移動してきた液体粒子が、この傾斜面により各ドレーン穴18に導かれ、オイルタンク13に落下し易いように構成される。
【0048】
筒状体4の下端には第1フランジ部19が設けられ、これに対応する第2フランジ部20がオイルタンク13の上端に設けられる。第1フランジ部19と第2フランジ部20は、ノズルベース12の外周部を挟むようにして、該外周部を貫通するボルトで相互に結合される。
【0049】
これにより、筒状体4、ノズルベース12及びオイルタンク13が一体化される。噴霧ノズル3には、これに圧縮空気を供給するための第1エア供給管21が接続される。
【0050】
筒状体4内には、筒状体4内の気圧を高めて、噴霧ノズル3からの噴流により形成される噴流旋回流Caが筒状体4の先端方向に進むのを補助する気体を送る気体供給部を有する。気体供給部は、筒状体4内にその内壁に沿ったエア旋回流21bを形成するエアを噴出する2つのエアノズル22を備える。
【0051】
エアノズル22には、これに圧縮空気を供給するための第2エア供給管23が接続される。第1エア供給管21及び第2エア供給管23には、図1のように、これらを通るエアの流量をそれぞれ別個に調整するための第1レギュレータ24及び第2レギュレータ25が設けられる。2つのエアノズル22は、筒状体4の第1フランジ部19の上面側で、かつ各噴霧ノズル3のノズル11a及び11bよりも低い位置に配置される。
【0052】
図1に示すように、各エアノズル22は、筒状体4の内壁に沿ったエア旋回流21bを形成するエアを噴出するように、筒状体4の中心軸線AXについて回転対象の位置関係となるようにして、筒状体4の周方向に沿った方向に向けられる。各エアノズル22は、わずかに、斜め上方に向けられてもよい。ただし、各エアノズル22は、これらが形成するエア旋回流21bの方向が、上述の噴霧ノズル3が形成する噴流旋回流Caの方向と同じになるように設けられる。
【0053】
シーディング装置1は、筒状体4の開口先端部5の筒状放出部8以外の部分は、各噴霧ノズル3の2つのノズル11a及び11b並びにエアノズル22の部分を除き、密閉状態として使用される。
【0054】
この構成において、シーディング装置1でトレーサ粒子を風洞等に供給する際には、筒状放出部8の先端側部分8bに、多孔ノズルを有するシーディングレークのような散布用デバイスが接続される。シーディング装置1の駆動は、第1エア供給管21を介して各噴霧ノズル3に圧搾空気を供給するともに、第2エア供給管23を介してエアノズル22に圧搾空気を供給することにより行われる。
【0055】
各噴霧ノズル3に圧搾空気が供給されると、オイルタンク13内のオイルがオイル供給管16を介して吸い上げられ、各噴霧ノズル3の2つのノズル11a及び11bから、微粒化したオイル粒子と空気とを含む噴流が噴出される。各ノズル11a及び11bから噴出された噴流は衝突し、これによりさらに微粒化したオイル粒子を含む噴流が、各噴霧ノズル3から放出されることになる。
【0056】
各噴霧ノズル3から放出された噴流は、その噴出方向Jが、上述のように、筒状体4の内面4aに対して鋭角θを成すようにして衝突する。これにより、各噴霧ノズル3からの噴流2は、筒状体4の周方向に沿って旋回する噴流旋回流Caを生じる。この噴流旋回流Caは、順次生じてくる噴流旋回流Caにより押されて筒状体4の先端方向に進む。
【0057】
また、これに伴って各エアノズル22に供給される圧搾空気は、各エアノズル22から噴流旋回流Caと同一の周方向に噴出するので、筒状体4内に、噴流旋回流Caと同一周方向のエア旋回流21bを筒状体4の内面4aに沿って形成する。
【0058】
このエア旋回流21bは、噴霧ノズル3による噴流旋回流Caが筒状体4の先端方向に進むのを補助する。すなわち、各エアノズル22からの圧搾空気の圧力により、筒状体4内のトレーサ粒子を含む噴流旋回流Caは、エア旋回流21bとともに混然一体となった旋回流Cbとして、筒状体4の先端方向に進む。
【0059】
筒状体4の先端まで進んだ旋回流Cbは、筒状放出部8を経て、その先端に接続された散布用デバイス内に、その内部からの圧力抵抗に抗して支障なく送り出されてゆく。
【0060】
この間、空気の流れの影響を受け易い粒径の小さいオイル粒子は旋回流Cb中の空気の流れに乗って支障なく筒状放出部8を通過し、散布用デバイス内に、トレーサ粒子として供給されてゆく。
【0061】
一方、空気の流れよりも慣性力の影響を比較的大きく受ける粒径の大きいオイル粒子は、粒径の小さいオイル粒子に比べて、筒状体4の内壁に衝突して付着し易いので、旋回流Cb中から良好に取り除かれる。その際に、粒径の大きいオイル粒子は、筒状体4内の旋回流Cbにより旋回するので、粒径の大きいオイル粒子には遠心力も加わり、筒状体4の内壁への衝突が促進される。これにより、粒径の大きいオイル粒子は、さらに効果的に旋回流Cb中から排除される。
【0062】
また、この間、旋回流Cbの影響により、粒径の大きいオイル粒子については、微細化が促進される。これにより生じた粒径が小さいオイル粒子は、遠心力よりも空気の流れの影響を受け易いので、筒状体4の内壁に衝突することなく、旋回流Cbに乗って筒状放出部8からトレーサ粒子として供給される。これにより、供給されるトレーサ粒子の量が増大する。
【0063】
また、トレーサ粒子を含む旋回流Cbが、筒状放出部8を経て散布用デバイス内に供給されてゆくとき、筒状放出部8の旋回抑制板8cによって、旋回流Cbの旋回が抑制される。したがって、散布用デバイス内に供給されたトレーサ粒子は、旋回していないので、散布用デバイス内に付着する可能性が低くなっており、散布用デバイスをオイルで汚染することが極力防止される。
【0064】
筒状体4に付着した粒径の大きいオイル粒子は、筒状放出部8の後端側部分8aによって散布用デバイス内に流入するのが阻止されるので、トレーサ粒子が供給される散布用デバイスや風洞その他の機器を汚染するコンタミネーションの原因になることもない。筒状体4に付着した粒径の大きいオイル粒子は、自重により筒状体4の内壁に沿って下方へ流れ、ノズルベース12のドレーン穴18を経て、オイルタンク13内に戻る。
【0065】
この間に、噴霧ノズル3に供給される圧搾空気の量を第1レギュレータ24で調整し、及びエアノズル22に供給される圧搾空気の量を第2レギュレータ25で調整することにより、トレーサ粒子の供給量や、粒径の大きいオイル粒子の排除効果の程度が調整される。
【0066】
特に第2レギュレータ25を調整することにより、旋回流Cbによるオイル粒子の微細化促進の程度や、旋回流Cbから排除されるオイル粒子の粒径等を制御できるので、トレーサ粒子の平均粒径もある程度調整される。
【0067】
以上のように、本実施形態によれば、複数の噴霧ノズル3からの噴流自体が噴流旋回流Caを形成するとともに、エアノズル22から噴出するエアもエア旋回流21bとなってオイル粒子の旋回及び筒状体4の先端への進行を補助するので、粒径の小さいオイル粒子の減少を防止しながら、粒径の大きいオイル粒子を効果的に排除することができる。
【0068】
これにより、例えば数μm以上の粒径が大きいオイル粒子によるコンタミネーションを防止し、例えば2~4μm程度の粒径の小さいオイル粒子をトレーサ粒子として供給することができる。
【0069】
また、エアノズル22から噴出する圧搾空気によって筒状体4内の圧力を向上させることができる。したがって、ある程度の高圧な環境におけるトレーサ粒子の供給が可能となり、圧力抵抗のある散布用デバイスを接続して使用することもできる。また、筒状放出部8以外の部分(ただし、噴霧ノズル3及びエアノズル22を除く)を密閉状態としたのでこの効果をさらに高めることができる。
【0070】
また、第1エア供給管21及び第2エア供給管23におけるエアの流量をそれぞれ別個に調整するための第1レギュレータ24及び第2レギュレータ25を備えるので、噴霧ノズル3からの噴霧量とは別個に、エアノズル22からの圧搾空気の噴出量を調整し、エア旋回流21bによる粒径の大きいオイル粒子の排除効果などを制御することができる。
【0071】
また、筒状体4の内壁に付着した液体粒子が自重によりオイルタンク13に戻るための流路を、ドレーン穴18を用いて構成したので、筒状体4の内壁に付着したオイル粒子が筒状体4の底部に溜まるのを防止することができる。
【0072】
図6は、シーディング装置1を用いて風洞実験を行うときの様子を模式的に示す。風洞26内には、風洞26を廻る風を生じさせるファン装置27や、風を均一化するためのハニカム構造の部材で構成された整流部28、風洞26の角部において風を適切に導くためのコーナーベーン29などが設けられる。
【0073】
従来、このような風洞26を用いて風洞実験を行う際には、3~4μm程度の粒径のトレーサをベルマウスと呼ばれる供給口30から供給し、風洞26内を10分程度循環させ、風洞26内全体をトレーサ粒子で満たすグローバルシーディングを行ってから、車両31の周囲の風の流れがカメラなどを用いて計測される。計測は、10~数10秒間行われる。このようにしてトレーサが循環する間に、観察時におけるトレーサ粒子の粒径は減少して1μm程度になる。
【0074】
これに対し、本発明に従ったシーディング装置1を用いて風洞実験を行う場合には、シーディング装置1により、供給口30から10~数10秒間だけトレーサの供給が行われ、その後、供給が停止される。供給されたトレーサは、ファン装置27によって攪拌され、均一化されて、風洞26を1周しただけで、風洞26の出口32から車両31に供給され、計測に供される。
【0075】
この場合、従来と異なり、10~数10秒間のみ、トレーサ33が供給され、車両31の周囲の風の流れが、10~数10秒間計測される。トレーサ33が1周した後、風洞26の適当な位置に、上記の出口32とは別に設けられた出口を開放することにより、トレーサ33を風洞26内から外に逃がすことができる。
【0076】
これによれば、シーディング装置1は4つの噴霧ノズル3を用いているので、供給されたトレーサ33が風洞26を1周しかしていないにも拘わらず、風洞26からは、従来の数倍の数のトレーサ粒子を、一度に車両31の周囲に供給することができる。しかも、車両31の周囲に供給されるトレーサ33は、風洞26を1周しかしていないので、3~4μmの粒径を維持している。
【0077】
このため、トレーサ33をカメラで観察する際に、1つのトレーサ粒子からは、従来よりも4倍程度の光量が得られる。したがって、従来の4倍程度の視野の範囲を一度で観察することができる。また、従来のようにトレーサ33を風洞26内で何度も周回させる必要がなく、1周させるだけで計測を行うことができるので、計測に要する時間を短縮し、かつ風洞26がトレーサ33で汚染されるのを極力防止することができる。
【0078】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明のシーディング装置は、旋回流Cbによって大きい粒径のオイル粒子を効果的に排除しつつ筒状体4内の圧力を高めてトレーサ粒子を送り出すものである。このため、図1のように縦置きにして用いることに代えて、横置きにして用いることも可能である。
【0079】
この場合、オイルタンク13は、筒状体4における噴霧ノズル3が配置された部分の下方に配置し、かつ装置形状が複雑になるのを避けるために筒状体4と分離して配置するのが好ましい。
【0080】
この場合、オイルタンク13と筒状体4との間には、筒状体4の内壁に付着したオイル粒子が自重によりオイルタンク13に戻るための経路の一部として、オイルタンク13と筒状体4とを接続するホースが設けられる。また、オイルタンク13と噴霧ノズル3との間には、オイル供給管16に代えて、オイルタンク13から噴霧ノズル3にオイルを供するためのホースが設けられる。
【0081】
また、衝突型の2流体ノズルである噴霧ノズル3に代えて、1つのノズルを有する噴霧ノズル、又は3以上のノズルを有する衝突型の噴霧ノズルを用いてもよい。また、エアノズル22の数も2つに限定されない。トレーサ粒子の原料となる液体粒子として、上述のオイルに代えて水等の液体を用いてもよい。また、噴霧ノズル3の数は、4つに限らず、2以上であればよい。
【0082】
また、筒状放出部8や閉塞部材7は無くてもよい。また、噴霧ノズル3として、オイルポンプを用いてオイルを供給する形式のものを用いてもよい。また、開口先端部は、単なる開口であってもよい。
【0083】
また、気体供給部は、エアノズル22のように旋回流を生じさせるものではなく、単に筒状体4内の圧力を高めて噴霧ノズル3からの噴流旋回流Caが筒状体4の先端方向に移動するのを補助したり、散布用デバイスへのトレーサの供給を支障なく行えるようにしたりするものであってもよい。また、気体供給部は、なくてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…シーディング装置、3…噴霧ノズル、4…筒状体、4a…内面、5…開口先端部、6…開口穴、7…閉塞部材、8…筒状放出部、8a…後端側部分、8b…先端側部分、8c…旋回抑制板、10、AX、C…中心軸線、11a、11b…ノズル、12…ノズルベース、13…オイルタンク、14…注油口、15…排出口、16…オイル供給管、17…油量計、18…ドレーン穴、19…第1フランジ部、20…第2フランジ部、Ca…噴流旋回流、21b…エア旋回流、22…エアノズル、23…第2エア供給管、24…第1レギュレータ、25…第2レギュレータ、26…風洞、27…ファン装置、28…整流部、29…コーナーベーン、30…供給口、31…車両、32…出口、Cb…旋回流、J…噴出方向、O…原点、P…交点、S…始点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6