(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】カルボキシアルキル化セルロース及びカルボキシアルキル化セルロースナノファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/12 20060101AFI20220815BHJP
【FI】
C08B11/12
(21)【出願番号】P 2018052265
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
(72)【発明者】
【氏名】中谷 丈史
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕亮
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-012553(JP,A)
【文献】特開2016-069623(JP,A)
【文献】特開2017-048293(JP,A)
【文献】特公平01-044201(JP,B2)
【文献】特公昭27-001944(JP,B1)
【文献】特公昭33-005645(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/138574(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 11/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースをマーセル化剤で処理して、マーセル化セルロースを得る工程、及び
マーセル化セルロースをカルボキシアルキル化剤と反応させて、カルボキシアルキル化セルロースを得る工程、
を含み、マーセル化セルロースを得る工程を、水を15質量%以上含む溶媒下で、50℃未満の温度条件下で行い、カルボキシアルキル化セルロースを得る工程を、水と有機溶媒との混合溶媒下で行
い、
カルボキシアルキル化セルロースを得る工程における混合溶媒が、水と有機溶媒との総和に対して有機溶媒を50~99質量%含む溶媒であり、
カルボキシアルキル化セルロースにおける無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度が、0.50未満であり、
カルボキシアルキル化セルロースのセルロースI型の結晶化度が50%以上である、
カルボキシアルキル化セルロースの製造方法。
【請求項2】
カルボキシアルキル化セルロースが、カルボキシメチル化セルロースであり、カルボキシメチル化セルロースにおける無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、0.50未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カルボキシアルキル化セルロースのセルロースI型の結晶化度が
60%以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
マーセル化剤が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、またはこれらの2種以上の組み合せである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
カルボキシアルキル化剤が、モノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
有機溶媒が、イソプロパノール、メタノール、エタノール、アセトン、またはこれらの2種以上の組み合せである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法
を行うことによりカルボキシアルキル化セルロースを
得る工程、および
得られたカルボキシアルキル化セルロースを解繊する
工程
を含む、カルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシアルキル化セルロース及びカルボキシアルキル化セルロースナノファイバーの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシアルキル化セルロースは、セルロースの誘導体であり、セルロースの骨格を構成するグルコース残基中の水酸基の一部にカルボキシアルキル基をエーテル結合させたものである。カルボキシアルキル基の量が増えると(すなわち、カルボキシアルキル置換度が増加すると)、カルボキシアルキル化セルロースは水に溶解するようになる。一方、カルボキシアルキル置換度を適度な範囲に調整することにより、水中でもカルボキシアルキル化セルロースの繊維状の形状を維持させることができるようになる。繊維状の形状を有するカルボキシアルキル化セルロース、例えば、カルボキシメチル化セルロースは、機械的に解繊することにより、ナノスケールの繊維径を有するナノファイバーへと変換することができる(特許文献1)。
【0003】
カルボキシアルキル化セルロースの製造方法としては、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、エーテル化剤(カルボキシアルキル化剤ともいう。)で処理(カルボキシアルキル化。エーテル化とも呼ぶ。)する方法が知られており、マーセル化とカルボキシアルキル化の両方を水を溶媒として行う方法と、マーセル化とカルボキシアルキル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行う方法(特許文献2)が知られており、前者は「水媒法」、後者は「溶媒法」と呼ばれる。
【0004】
ナノスケールの繊維径を有するセルロースナノファイバーの製法としては、カルボキシアルキル化セルロースの機械的解繊だけではなく、カルボキシル基を導入したセルロースの機械的解繊などが知られている(特許文献3)。この様なカルボキシル基を導入したセルロースの解繊により得られるセルロースナノファイバーの水分散体は透明度が高いことが知られているが、溶媒法により得られたカルボキシアルキル化セルロースの解繊により得られるセルロースナノファイバーの水分散体は、カルボキシル基を導入したセルロースの解繊により得られるセルロースナノファイバーの水分散体に比べて、透明性が低いものであった。また水媒法により得られたカルボキシアルキル化セルロースの解繊により得られるセルロースナノファイバーの水分散体は、透明性を高めるためにはマーセル化剤やカルボキシアルキル化剤などの薬剤を多量に使用する必要があり、製造上及び経済上の課題が大きい物であった。透明な素材は多様な用途に適するため、セルロースナノファイバーの透明化が求められており、特に、カルボキシアルキル化セルロースは、安全性が高い素材であるため、カルボキシアルキル化セルロースを用いて透明性が高いセルロースナノファイバーを経済的な方法で得ることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/088072号
【文献】特開2017-149901号公報
【文献】特開2008-1728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透明なセルロースナノファイバー分散体を得ることができるカルボキシアルキル化セルロースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的に対して鋭意検討を行った結果、セルロースのカルボキシアルキル化において、マーセル化(セルロースのアルカリ処理)を水を15質量%以上含む溶媒下で反応温度50℃未満で行い、その後、カルボキシアルキル化(エーテル化ともいう。)を水と有機溶媒との混合溶媒下で行うことにより、従来の水媒法(マーセル化とカルボキシアルキル化の両方を水を溶媒として行う方法)や溶媒法(マーセル化とカルボキシアルキル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行う方法)で得たカルボキシアルキル化セルロースに比べて、解繊した際に、透明度の高いセルロースナノファイバー分散体を、カルボキシアルキル化剤の高い有効利用率で、経済的に製造することができることを見出した。
【0008】
本発明としては、以下に限定されないが、次のものが挙げられる。
(1)セルロースをマーセル化剤で処理して、マーセル化セルロースを得る工程、及び
マーセル化セルロースをカルボキシアルキル化剤と反応させて、カルボキシアルキル化セルロースを得る工程、
を含み、マーセル化セルロースを得る工程を、水を15質量%以上含む溶媒下で、50℃未満の温度条件下で行い、カルボキシアルキル化セルロースを得る工程を、水と有機溶媒との混合溶媒下で行う、カルボキシアルキル化セルロースの製造方法。
(2)カルボキシアルキル化セルロースが、カルボキシメチル化セルロースであり、カルボキシメチル化セルロースにおける無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度が、0.50未満である、(1)に記載の方法。
(3)カルボキシアルキル化セルロースのセルロースI型の結晶化度が50%以上である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)マーセル化剤が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、またはこれらの2種以上の組み合せである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)カルボキシアルキル化剤が、モノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムである、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)カルボキシアルキル化セルロースを得る工程における混合溶媒が、有機溶媒を、20~99質量%含む溶媒である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7)有機溶媒が、イソプロパノール、メタノール、エタノール、アセトン、またはこれらの2種以上の組み合せである、(1)~(6)のいずれか1つに記載の方法。
(8)(1)~(7)のいずれか1つに記載の方法で得られたカルボキシアルキル化セルロースを解繊することを含む、カルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、解繊した際に透明度の高いセルロースナノファイバーの分散体を得ることができるカルボキシアルキル化セルロースを、カルボキシアルキル化剤の高い有効利用率で、製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、カルボキシアルキル化セルロースの製造方法である。カルボキシアルキル化セルロースは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部がカルボキシアルキル基とエーテル結合した構造を有する。カルボキシアルキル化セルロースは、塩の形態をとる場合もあり、カルボキシアルキル化セルロースの塩としては、例えばカルボキシアルキルセルロースナトリウム塩などの金属塩などが挙げられる。
【0011】
カルボキシアルキル化セルロースは、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、得られたマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を、カルボキシアルキル化剤(エーテル化剤ともいう。)と反応させることにより製造することができる。マーセル化及びカルボキシアルキル化を行う際には、従来、これらの両方を水を溶媒として行う方法(水媒法)と、これらの両方を有機溶媒を主とする溶媒を用いて行う方法(溶媒法)が知られていた。水媒法は、一貫して水を単独の溶媒として用いる方法であり、一方、溶媒法は、一貫して高濃度の有機溶媒を用いる方法である。通常、マーセル化反応とカルボキシアルキル化反応は、溶媒としてほぼ同じ組成のものを用いて一貫した流れで行われるものであり、これらの反応ごとに溶媒の組成を意図的に変化させることは行われてこなかった。溶媒の組成を意図的に変化させることは、製造工程の複雑化やコストの増加につながり、利点がないと考えられていた。本発明者らは、これに対し、マーセル化反応とカルボキシアルキル化反応における溶媒の組成をそれぞれ制御することにより、解繊した際に透明度の高いセルロースナノファイバー分散体を与えることができるカルボキシアルキル化セルロースを製造することができることを初めて見出したものである。
【0012】
<セルロース>
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、マーセル化セルロースの原料として用いることができる。
【0013】
天然セルロースとしては、晒パルプまたは未晒パルプ(晒木材パルプまたは未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては例えば、メカニカルパルプ(サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)、ケミカルパルプ(針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)等の亜硫酸パルプ、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプ)等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
【0014】
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
【0015】
<マーセル化>
原料として前述のセルロースを用い、マーセル化剤(アルカリ)を添加することによりマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を得る。本発明では、このマーセル化反応における溶媒に水を15質量%以上の割合で含む溶媒を用い、次のカルボキシアルキル化の際に有機溶媒と水との混合溶媒を使用することにより、解繊した際に高い透明度を有するセルロースナノファイバー分散体とすることができるカルボキシアルキル化セルロースを経済的に得ることができる。
【0016】
水を15質量%以上の割合で含む溶媒とは、溶媒全体の質量を100部とした際に、水の質量が15部以上であるものをいう。溶媒の水以外の残部は、有機溶媒であってよい。マーセル化反応における溶媒は、上記の通り水を15質量%以上の割合で含む溶媒であり、好ましくは水の割合は20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上である。マーセル化の際に水を15質量%以上含むことにより、得られるカルボキシアルキル化セルロースを解繊した際に、透明度の高い水分散体を与えるセルロースナノファイバーを得ることができるようになる。水の割合の上限は限定されず、100質量%(すなわち、溶媒が水)であってもよいが、後述するカルボキシアルキル化剤の有効利用率を向上させる観点からは、水の割合が50質量%以下であることも好ましい。
【0017】
水を15質量%以上含む溶媒中の水以外の(水と混合して用いられる)溶媒としては、後段のカルボキシアルキル化の際の溶媒として用いられる有機溶媒が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に85質量%以下の量で添加してマーセル化の際の溶媒として用いることができる。マーセル化反応の際の溶媒中の有機溶媒は、好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。有機溶媒の割合の下限は限定されず、0質量%であってもよい。
【0018】
マーセル化剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が挙げられ、これらのうちいずれか1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。マーセル化剤は、これに限定されないが、これらのアルカリ金属水酸化物を、例えば、1~60質量%、好ましくは2~45質量%、より好ましくは3~25質量%の水溶液として反応器に添加することができる。
【0019】
マーセル化剤の使用量は、カルボキシアルキル化セルロースの所望の結晶化度及びカルボキシアルキル置換度を達成する量であればよく、特に限定されないが、後述するセルロースI型の結晶化度が50%以上であり、カルボキシアルキル置換度が0.50未満であるカルボキシアルキル化セルロースを製造できるような量を用いることが好ましい。カルボキシアルキル化セルロースのセルロースI型の結晶化度が50%以上であり、カルボキシアルキル置換度が0.50未満であると、カルボキシアルキル化セルロースの繊維状の形状が維持され、セルロースナノファイバーへと解繊しやすくなる。マーセル化剤の使用量は、一実施形態において、セルロース100g(絶乾)に対して0.1モル以上2.5モル以下であることが好ましく、0.3モル以上2.0モル以下であることがより好ましく、0.4モル以上1.5モル以下であることがさらに好ましい。
【0020】
マーセル化の際の水を主とする溶媒の量は、原料の撹拌混合が可能な量であればよく特に限定されないが、セルロース原料に対し、1.5~20質量倍が好ましく、2~10質量倍であることがより好ましい。
【0021】
マーセル化処理は、発底原料(セルロース)と水を15質量%以上含む溶媒とを混合し、反応器の温度を50℃未満に調整して行う。温度を50℃未満とすることにより、反応が均一になりやすく、得られるカルボキシアルキル化セルロースを解繊した際に、透明度の高い水分散体を与えるセルロースナノファイバーを得ることができるようになる。また、副反応を抑制できるため、後述するカルボキシアルキル化剤の有効利用率を向上させることができる。反応器の温度は好ましくは、0℃以上50℃未満であり、より好ましくは10℃以上50℃未満であり、より好ましくは10℃以上40℃以下である。
【0022】
発底原料(セルロース)と溶媒とを加え、温度を上記の通り調整した反応器にマーセル化剤の水溶液を添加し、15分~8時間、好ましくは30分~7時間、より好ましくは30分~3時間撹拌することにより、マーセル化を行う。これによりマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を得る。
【0023】
マーセル化の際のpHは、9以上が好ましく、これによりマーセル化反応を進めることができる。該pHは、より好ましくは11以上であり、更に好ましくは12以上であり、13以上でもよい。pHの上限は特に限定されない。
【0024】
マーセル化は、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することができる反応機を用いて行うことができ、従来からマーセル化反応に用いられている各種の反応機を用いることができる。例えば、2本の軸が撹拌し、上記各成分を混合するようなバッチ型攪拌装置は、均一混合性と生産性の両観点から好ましい。
【0025】
<カルボキシアルキル化>
マーセル化セルロースに対し、カルボキシアルキル化剤(エーテル化剤ともいう。)を添加することにより、カルボキシアルキル化セルロースを得る。本発明では、このカルボキシアルキル化反応における溶媒として、水と有機溶媒との混合溶媒を用いる。マーセル化の際は水を15質量%以上含む溶媒を用い、カルボキシアルキル化の際には水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、解繊した際に高い透明度を有するセルロースナノファイバー分散体とすることができるカルボキシアルキル化セルロースを経済的に得ることができる。
【0026】
カルボキシアルキル化剤としては、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸イソプロピルなどのカルボキシメチル化剤が好ましい。これらのうち、原料の入手しやすさという点でモノクロロ酢酸、またはモノクロロ酢酸ナトリウムがより好ましい。
【0027】
カルボキシアルキル化剤の使用量は、カルボキシアルキル化セルロースの所望の結晶化度及びカルボキシアルキル置換度を達成する量であればよく、特に限定されないが、後述するセルロースI型の結晶化度が50%以上であり、カルボキシアルキル置換度が0.50未満であるカルボキシアルキル化セルロースを製造できるような量を用いることが好ましい。カルボキシアルキル化セルロースのセルロースI型の結晶化度が50%以上であり、カルボキシアルキル置換度が0.50未満であると、カルボキシアルキル化セルロースの繊維状の形状が維持され、セルロースナノファイバーへと解繊しやすくなる。カルボキシアルキル化剤の使用量は、一実施形態において、セルロースの無水グルコース単位当たり、0.5~1.5モルの範囲が好ましい。上記範囲の下限はより好ましくは0.6モル以上、さらに好ましくは0.7モル以上であり、上限はより好ましくは1.3モル以下、さらに好ましくは1.1モル以下である。カルボキシアルキル化剤は、これに限定されないが、例えば、5~80質量%、より好ましくは30~60質量%の水溶液として反応器に添加することができるし、溶解せず、粉末状態で添加することもできる。
【0028】
マーセル化剤とカルボキシアルキル化剤のモル比(マーセル化剤/カルボキシアルキル化剤)は、カルボキシアルキル化剤としてモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムを使用する場合では、0.9~2.45が一般的に採用される。その理由は、0.9未満であるとカルボキシアルキル化反応が不十分となる可能性があり、未反応のモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムが残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45を超えると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムによる副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成する恐れがあるため、不経済となる可能性があることにある。
【0029】
また、本発明では、カルボキシアルキル化剤の有効利用率が、15%以上であることが好ましい。より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上であり、特に好ましくは30%以上である。カルボキシアルキル化剤の有効利用率とは、カルボキシアルキル化剤におけるカルボキシアルキル基のうち、セルロースに導入されたカルボキシアルキル基の割合を指す。本発明では、マーセル化の際に水を15質量%以上含む溶媒を用い、カルボキシアルキル化の際に水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、高いカルボキシアルキル化剤の有効利用率で(すなわち、カルボキシアルキル化剤の使用量を大きく増やすことなく、経済的に)、解繊した際に高い透明度を有するセルロースナノファイバー分散体を得ることができるカルボキシアルキル化セルロースを製造することができる。カルボキシアルキル化剤の有効利用率の上限は特に限定されないが、現実的には80%程度が上限となる。なお、カルボキシアルキル化剤の有効利用率は、AMと略すことがある。
【0030】
カルボキシアルキル化剤の有効利用率の算出方法は以下の通りである:
AM = (DS ×セルロースのモル数)/ カルボキシアルキル化剤のモル数
DS: カルボキシアルキル置換度(測定方法は後述する)
セルロースのモル数:パルプ質量(100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量)/162
(162はセルロースのグルコース単位当たりの分子量)。
【0031】
カルボキシアルキル化反応におけるセルロース原料の濃度は、特に限定されないが、カルボキシアルキル化剤の有効利用率を高める観点から、1~40%(w/v)であることが好ましい。
【0032】
カルボキシアルキル化剤を添加するのと同時に、あるいはカルボキシアルキル化剤の添加の前または直後に、反応器に有機溶媒または有機溶媒の水溶液を適宜添加し、又は減圧などによりマーセル化処理時の水以外の有機溶媒等を適宜削減して、水と有機溶媒との混合溶媒を形成する。本発明では、この水と有機溶媒との混合溶媒下で、カルボキシアルキル化反応を進行させる。有機溶媒の添加または削減のタイミングは、マーセル化反応の終了後からカルボキシアルキル化剤を添加した直後までの間であればよく、特に限定されないが、例えば、カルボキシアルキル化剤を添加する前後30分以内が好ましい。
【0033】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に添加してカルボキシアルキル化の際の溶媒として用いることができる。これらのうち、水との相溶性が優れることから、炭素数1~4の一価アルコールが好ましく、炭素数1~3の一価アルコールがさらに好ましい。
【0034】
カルボキシアルキル化の際の混合溶媒中の有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との総和に対して有機溶媒が20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。有機溶媒の割合が高いほど、セルロースナノファイバー分散体としたときの透明度が高くなるという利点が得られる。有機溶媒の割合の上限は限定されず、例えば、99質量%以下であってよい。添加する有機溶媒のコストを考慮すると、好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは85質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下である。
【0035】
水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、マーセル化セルロースにカルボキシアルキル化剤を投入した後、温度を好ましくは10~40℃の範囲で一定に保ったまま15分~4時間、好ましくは15分~1時間程度撹拌する。マーセル化セルロースを含む液とカルボキシアルキル化剤との混合は、反応混合物が高温になることを防止するために、複数回に分けて、または、滴下により行うことが好ましい。カルボキシアルキル化剤を投入して一定時間撹拌した後、必要であれば昇温して、反応温度を30~90℃、好ましくは40~90℃、さらに好ましくは60~80℃として、30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化(カルボキシアルキル化)反応を行い、カルボキシアルキル化セルロースを得る。
【0036】
カルボキシアルキル化の際には、マーセル化の際に用いた反応器をそのまま用いてもよく、あるいは、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することが可能な別の反応器を用いてもよい。
【0037】
反応終了後、残存するアルカリ金属塩を鉱酸または有機酸で中和してもよい。また、必要に応じて、副生する無機塩、有機酸塩等を含水メタノールで洗浄して除去し、乾燥、粉砕、分級してカルボキシアルキル化セルロース又はその塩としてもよい。乾式粉砕で用いる装置としてはハンマーミル、ピンミル等の衝撃式ミル、ボールミル、タワーミル等の媒体ミル、ジェットミル等が例示される。湿式粉砕で用いる装置としてはホモジナイザー、マスコロイダー、パールミル等の装置が例示される。
【0038】
<カルボキシアルキル化セルロース>
カルボキシアルキル化セルロースとは、セルロースにおけるグルコース残基の水酸基の一部にカルボキシアルキル基がエーテル結合しているものである。本発明のカルボキシアルキル化セルロースに導入されるカルボキシアルキル基としては、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基などが挙げられるが、均一に反応しやすく、経済的に有利な点を考慮するとカルボキシメチル基が好ましい。
【0039】
本発明で製造されるカルボキシアルキル化セルロースは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものが好ましい。すなわち、カルボキシアルキル化セルロースの水分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができ、カルボキシアルキル化セルロースをX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるものが好ましい。
【0040】
水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるカルボキシアルキル化セルロースは、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度が0.50未満であり、好ましくは0.40以下である。当該置換度が0.50以上であると水への溶解が起こりやすくなり、繊維形態を維持できなくなり、ナノファイバーへと解繊しにくくなる。カルボキシアルキル置換度の下限は、カルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーへの解繊のしやすさ、ナノファイバー分散体の透明度及び分散安定性等を考慮すると0.02以上であることが特に好ましく、0.05以上であることが更に好ましく、0.10以上であることが更に好ましく、0.20以上であることが更に好ましい。セルロースにカルボキシアルキル基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発するため、ナノファイバーへと解繊することができるようになるが、カルボキシアルキル置換度が0.02より小さいと、ナノファイバーへの解繊が十分にできない場合がある。また、カルボキシアルキル基を導入することによる効果(保水性の付与、保形性の付与など)を十分に得られない場合がある。カルボキシアルキル置換度は、反応させるカルボキシアルキル化剤の添加量、マーセル化剤の量、水と有機溶媒の組成比率をコントロールすること等によって調整することができる。
【0041】
本発明において無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシアルキル置換度(エーテル化度ともいう。)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基のうちカルボキシアルキルエーテル基に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシアルキルエーテル基の数)を示す。なお、カルボキシアルキル置換度はDSと略すことがある。
【0042】
カルボキシアルキル置換度の測定方法は以下の通りである:
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振盪して、カルボキシアルキル化セルロースの塩(CMC)をH-CMC(水素型カルボキシアルキル化セルロース)に変換する。その絶乾H-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-H2SO4で過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシアルキル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’-0.1N-H2SO4(mL)×F)×0.1]/(H-CMCの絶乾質量(g))
カルボキシアルキル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-H2SO4のファクター
F:0.1N-NaOHのファクター。
【0043】
本発明のカルボキシアルキル化セルロースにおけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整すると解繊により得られるセルロースナノファイバー分散体の透明度が向上する。また、結晶性が高いことにより、保形性等に優れたカルボキシアルキル化セルロースとなる。セルロースの結晶性は、マーセル化剤の濃度と処理時の温度、並びにカルボキシアルキル化の度合によって制御できる。マーセル化及びカルボキシアルキル化においては高濃度のアルカリが使用されるために、セルロースのI型結晶がII型に変換されやすいが、アルカリ(マーセル化剤)の使用量を調整するなどして変性の度合いを調整することによって、所望の結晶性を維持させることができる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。
【0044】
カルボキシアルキル化セルロースのセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
【0045】
Xc=(I002c―Ia)/I002c×100
Xc=セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度。
【0046】
なお、従来の水媒法では、カルボキシアルキル置換度が0.20以上0.50未満であり、かつ、セルロースI型の結晶化度が50%以上であるカルボキシアルキル化セルロースを得ることは困難であった。具体的には、水媒法を用いてカルボキシアルキル置換度0.20以上を達成しようとすると、セルロースI型の結晶化度が50%未満に低下する傾向があった。本発明の方法によれば、カルボキシアルキル置換度が0.20以上0.50未満であり、かつ、セルロースI型の結晶化度が50%以上であるカルボキシアルキル化セルロースを製造することができ、また、得られたカルボキシアルキル化セルロースを用いて製造されるセルロースナノファイバー分散体が高い透明度を有するという利点が得られる。
【0047】
本発明により製造されたカルボキシアルキル化セルロースは、反応後に得られる分散体の状態で使用することも可能であるが、必要に応じて乾燥し、また水に再分散して使用することもできる。乾燥方法は何ら限定されないが、例えば凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、ガラス板等に薄く伸展し乾燥する方法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法、起熱ファン式減圧乾燥法などの既知の方法を使用できる。乾燥後に必要に応じて、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕しても良い。また、水への再分散の方法も特に限定されず、既知の分散装置を使用することができる。
【0048】
<カルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーの製造>
本発明の方法により得たカルボキシアルキル化セルロースを解繊することにより、ナノスケールの繊維径を有するセルロースナノファイバーへと変換することができる。本発明の方法により得られるカルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーは、従来の水媒法または溶媒法で得られたカルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーに比べて、経済的に製造でき、また、水分散体の状態で、高い透明度を有する。
【0049】
解繊の際には、上記の方法で得られたカルボキシアルキル化セルロースの分散体を準備する。分散媒は、取扱いの容易性から、水が好ましい。カルボキシアルキル化セルロースの濃度は、解繊、分散の効率を考慮すると、0.01~10%(w/v)であることが好ましい。
【0050】
カルボキシアルキル化セルロースを解繊する際に用いる装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いることができる。解繊の際にはカルボキシアルキル化セルロースの分散体に強力な剪断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力な剪断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊及び分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、前記分散体に予備処理をほどこしてもよい。
【0051】
高圧ホモジナイザーとは、ポンプにより流体に加圧(高圧)し、流路に設けた非常に繊細な間隙より噴出させることにより、粒子間の衝突、圧力差による剪断力等の総合エネルギーによって乳化、分散、解細、粉砕、及び超微細化を行う装置である。
【0052】
上記のカルボキシアルキル化セルロースの解繊により、平均繊維径が3~500nm、アスペクト比が50以上のカルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーを得ることができる。平均繊維径は好ましくは、3~150nm、さらに好ましくは3~20nm、さらに好ましくは5~19nm、さらに好ましくは5~15nmである。
【0053】
カルボキシアルキル化セルロースまたはカルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、径が20nm以下の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
【0054】
カルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーにおけるカルボキシアルキル置換度は、ナノファイバーとする前のカルボキシアルキル化セルロースにおけるカルボキシアルキル置換度と、通常、同じである。また、カルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーにおけるI型結晶の割合は、ナノファイバーとする前のカルボキシアルキル化セルロースにおけるものと、通常、同じである。
【0055】
本発明の方法で得られたカルボキシアルキル化セルロースを解繊してナノファイバーとすることにより、透明度の高いカルボキシアルキル化セルロースのセルロースナノファイバー分散体を得ることができる。本発明により得られるカルボキシアルキル化セルロースのナノファイバーは、例えば、固形分1%(w/v)の水分散体の透明度(660nm光の透過率)が50%以上である。より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。このようなセルロースナノファイバーは、透明性が要求されるような用途に最適に使用することができる。本発明では、このような透明性の高いセルロースナノファイバーを、カルボキシアルキル化剤の高い有効利用率で(すなわち、カルボキシアルキル化剤の量を大きく増やすことなく、経済的に)、製造することができる。
【0056】
本発明の製法により、透明度の高いセルロースナノファイバーを経済的な方法で得られる理由は明らかではないが、本発明の製法によれば比較的高いセルロースI型の結晶化度を維持することができ、したがって、カルボキシアルキル置換度を比較的高くしてもカルボキシアルキル化セルロースの繊維状の形状を維持させることができることを本発明者らは確認している。繊維状の形状を維持しながらカルボキシアルキル置換度を高くできる(すなわち、カルボキシアルキル基を多く導入する)ことは、カルボキシアルキル化セルロースの解繊性の向上につながると考えられ、これが透明度の高いナノファイバー分散体が得られることの理由の1つであると推測される。しかし、これ以外の理由もあるかもしれない。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例及び比較例をあげてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
(実施例1)
回転数を100rpmに調節した5L容の二軸ニーダーに、水267部と、イソプロパノール(IPA)1089部と、水酸化ナトリウム31部を水200部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で200部仕込んだ。30℃で60分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつモノクロロ酢酸ナトリウム90部を添加し、30℃で30分間撹拌した後、30分かけて70℃に昇温し、70℃で60分間カルボキシメチル化反応をさせた。マーセル化反応時及びカルボキシメチル化反応時の反応媒中の水の割合は、30質量%である。反応終了後、中和し、65%含水メタノールで洗浄し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.28、セルロースI型の結晶化度70%のカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、45%であった。なお、カルボキシメチル置換度及びセルロースI型の結晶化度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率の算出方法は、上述の通りである。
【0058】
得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を水に分散し、1%(w/v)水分散体とした。これを、150MPaの高圧ホモジナイザーで3回処理し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。得られた分散体の透明度を以下の方法で測定した。
【0059】
<セルロースナノファイバー分散体の透明度の測定>
セルロースナノファイバー分散体(固形分1%(w/v)、分散媒:水)の透明度(660nm光の透過率)は、UV-VIS分光光度計 UV-1800(島津製作所社)を用いて測定した。
【0060】
(実施例2)
二軸ニーダーに、初めに、水267部と、IPA467部と、水酸化ナトリウム40部を水200部に溶解したもとを加えてマーセル化反応を行い、また、モノクロロ酢酸ナトリウム90部に代えてモノクロロ酢酸ナトリウム117部を添加してカルボキシメチル化反応を行った以外は実施例1と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。マーセル化反応時及びカルボキシメチル化反応時の反応媒中の水の割合は、50質量%である。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩のカルボキシメチル置換度は0.31、セルロースI型の結晶化度は69%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は38%であった。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0061】
(実施例3)
二軸ニーダーに、初めに、IPA467部に代えてIPA200部を加えてマーセル化反応を行い、また、カルボキシメチル化反応時にモノクロロ酢酸ナトリウム117部と共にIPA267部を加えた以外は実施例2と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。マーセル化反応時の溶媒中の水の割合は70質量%、カルボキシメチル化反応時の溶媒中の水の割合は50質量%である。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩のカルボキシメチル置換度は0.28、セルロースI型の結晶化度は64%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は34%であった。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例2と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0062】
(実施例4)
二軸ニーダーに、初めに、IPA467部に代えてIPA52部を加えてマーセル化反応を行い、また、カルボキシメチル化反応時にモノクロロ酢酸ナトリウム117部と共にIPA415部を加えた以外は実施例2と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。マーセル化反応時の溶媒中の水の割合は90質量%、カルボキシメチル化反応時の溶媒中の水の割合は50質量%である。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩のカルボキシメチル置換度は0.28、セルロースI型の結晶化度は69%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は34%であった。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0063】
(実施例5)
マーセル化反応時にIPA467部を加えず、カルボキシメチル化反応時にIPA467部を加えた以外は実施例2と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。マーセル化反応時の溶媒中の水の割合は100質量%、カルボキシメチル化反応時の溶媒中の水の割合は50質量%である。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩のカルボキシメチル置換度は0.28、セルロースI型の結晶化度は66%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は34%であった。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0064】
(実施例6)
カルボキシメチル化反応時に加えるIPAの量を変更することによりカルボキシメチル化反応時の水の割合を80質量%とした以外は実施例5と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル置換度は0.20、セルロースI型の結晶化度は74%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は24%であった。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0065】
(実施例7)
カルボキシメチル化反応時に加えるIPAの量を変更することによりカルボキシメチル化反応時の水の割合を70質量%とした以外は実施例5と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル置換度は0.24、セルロースI型の結晶化度は73%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は29%であった。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0066】
(実施例8)
カルボキシメチル化反応時に加えるIPAの量を変更することによりカルボキシメチル化反応時の水の割合を10質量%とした以外は実施例5と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル置換度は0.24、セルロースI型の結晶化度は73%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は29%であった。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0067】
(比較例1)
二軸ニーダーに初めに加える溶媒の割合を水10質量%、IPA90質量%とした以外は実施例2と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル置換度は0.27、セルロースI型の結晶化度は64%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は32%であった。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0068】
(比較例2)
カルボキシメチル化反応時にIPAを加えなかった以外は実施例5と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル置換度は0.11、セルロースI型の結晶化度は72%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は13%であった。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0069】
(比較例3)
マーセル化反応時に水酸化ナトリウム40部を水200部に溶解したものに代えて水酸化ナトリウム90部を水200部に溶解したものを用い、カルボキシメチル化反応時のカルボキシメチル化剤としてモノクロロ酢酸ナトリウム117部に代えてモノクロロ酢酸ナトリウム293部を用いた以外は比較例2と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル置換度は0.28、セルロースI型の結晶化度は45%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は13%であった。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
【0070】
【0071】
表1の結果より、マーセル化を水15質量%以上含む溶媒下で行い、カルボキシメチル化を水と有機溶媒との混合溶媒下で行った実施例1~8では、高い透明度を有するセルロースナノファイバー分散体を製造することができることがわかる。一方、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を高濃度の有機溶媒下(IPA90質量%)で行った比較例1(従来の溶媒法)では、セルロースナノファイバー分散体としたときの透明度が低いことがわかる。また、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を溶媒として行った比較例2及び3(従来の水媒法)については、マーセル化剤及びカルボキシメチル化剤の量を溶媒法と同等の量とすると、セルロースナノファイバー分散体の透明度が低くなり、また、カルボキシメチル置換度も低くなることがわかる(比較例2)。一方、マーセル化剤及びカルボキシメチル化剤の添加量を増加させることによりカルボキシメチル置換度を増加させると、セルロースナノファイバー分散体の透明度は高くなるが、カルボキシメチル化剤の有効利用率は実施例1~8に比べて有意に低くなり、また、セルロースI型の結晶化度が低くなることがわかる(比較例3)。