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特許7122844クロマトグラフ分析のためのヘッドスペースからのサンプリング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】クロマトグラフ分析のためのヘッドスペースからのサンプリング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/04 20060101AFI20220815BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20220815BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20220815BHJP
   G01N 30/32 20060101ALI20220815BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
G01N30/04 A
G01N1/00 101R
G01N30/26 M
G01N30/32 A
G01N30/02 Z
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018061117
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2018169395
(43)【公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】102017000034608
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】511241114
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック ソチエタ ペル アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】パオロ マーニ
(72)【発明者】
【氏名】ステファーノ ペラガッティ
(72)【発明者】
【氏名】リカルド ファケッティ
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ スカリオーネ
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-098274(JP,A)
【文献】特表2007-509323(JP,A)
【文献】米国特許第05932482(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフ分析システムに導入する試料の採取方法であって、前記試料は、小びんまたは容器のヘッドスペースから得られ、前記試料は、固体または液体であり、前記方法は、加圧された不活性ガスを、圧力または流れを制御する制御手段を備えた供給ダクトを介して前記ヘッドスペースに導入し、次に、一定の容積を有するループまたはチャンバーを介して、かつ前記供給ダクトに対して分岐している弁を備える放出ダクトを介して、前記ヘッドスペースから前記圧力を放出させる方法において、前記圧力を放出する工程の間は、前記供給ダクトは開いたままであり、前記ループまたはチャンバーの圧力は、前記供給ダクトおよび/または前記放出ダクト内の圧力を検出する手段によって制御されることを特徴とするクロマトグラフ分析システムに導入する試料の採取方法。
【請求項2】
前記供給ダクトを介して前記ヘッドスペースに導入される不活性ガスの圧力および、前記圧力を放出する工程中の前記供給ダクト内の不活性ガスの圧力は、前記供給ダクトに設置された圧力センサと前記圧力センサによって制御される比例弁とによって決定され、前記放出は、オン/オフ弁とフローリミッタとを介して行われることを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ分析システムに導入する試料の採取方法。
【請求項3】
前記フローリミッタは、較正されたフローリミッタであることを特徴とする請求項2に記載のクロマトグラフ分析システムに導入する試料の採取方法。
【請求項4】
前記圧力を放出する工程中の前記放出ダクト内の圧力は、前記放出ダクトに設置された圧力センサと比例弁とによって制御されることを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ分析システムに導入する試料の採取方法。
【請求項5】
前記供給ダクトおよび前記放出ダクトを介する前記不活性ガスの流れは、前記供給ダクトに設置されたフローセンサと比例弁とによって制御されることを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ分析システムに導入する試料の採取方法。
【請求項6】
前記供給ダクトを介して前記ヘッドスペースに導入される不活性ガスの圧力および、前記圧力を放出する工程中の前記供給ダクト内の不活性ガスの圧力は、前記供給ダクトに設置された圧力センサと比例弁とによって制御され、前記放出は、フローセンサと比例弁とを介して行われることを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ分析システムに導入する試料の採取方法。
【請求項7】
フローセンサは、前記供給ダクトに設けられ、比例弁は、前記放出ダクトに設けられることを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ分析システムに導入する試料の採取方法。
【請求項8】
前記放出ダクトに供給される前記不活性ガスの流れを定量的に制御することにより、前記放出ダクトに沿った試料の凝縮を回避することを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ分析システムに導入する試料の採取方法。
【請求項9】
前記放出ダクトに供給される前記不活性ガスの流れを定量的に制御することは、前記供給ダクトおよび/または前記放出ダクトに作用するフローセンサと比例弁とによって行われることを特徴とする請求項8に記載のクロマトグラフ分析システムに導入する試料の採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ分析システムに導入される試料の採取方法に関し、特に、ガスクロマトグラフ分析において、試料が収容されている小びんまたは容器のヘッドスペースからの試料の採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の一つは、密封された小びん内で、例えば、小びん自体の閉鎖隔膜を貫通する針によって、そのヘッドスペース、すなわち固体または液体試料の上に存在する空間を加圧することからなっている。この針には、圧力検出器により比例弁が作動し、当該ヘッドスペース内の圧力を制御する供給ダクトにより、不活性ガスが供給される。
【0003】
さらに、この従来技術によれば、ヘッドスペースの加圧が完了すると、供給ダクトは閉じられ、小びんに接続され、かつ所定量のガス試料が蓄積されている一定容積を有するループまたはチャンバーに接続された放出ダクトが開けられる。放出工程の終わりに、分析を行うために、ループは、公知の6方弁によって、キャリアガスの供給源とガスクロマトグラフ用カラムとに接続される。
【0004】
放出ダクト内の圧力、従ってループ内の圧力は、放出ダクトに設けられた圧力検出器によって操作される比例弁によって、または、放出ダクトに設けられた、あまり精巧ではない手段であるオン/オフ弁と、較正されたフローリミッタとによって制御される。
【0005】
この従来技術は、本発明が解決しようとしている一連の問題と、不完全性とを有している。
【0006】
第1の問題は、ループ内に残っている試料の量が、その内部の絶対圧力に依存するという事実によって生じる。内部圧力が大気圧である場合、内部圧力の変化は、分析に使用される試料の量、従って、このような分析の反復性に影響を及ぼすこととなる。分析結果を大気圧に依存しないようにするために、しばしば残留圧力をループ内に残すようにしている。ループ内の残留圧力を制御する上述の2つのシステムのうち、第2のものは、明らかに精度が劣り、かつ不十分なシステムであり、第1のものは、精緻な比例弁の使用を必要とするため、損傷を受けやすく、流れる試料によって比例弁が汚染される可能性がある。さらに、ループ内の圧力が所望の値以下であることが確認された場合、第1のシステムでは元に戻すことは不可能である。もう一つの問題は、放出中に、ループの容積を超える部分の試料が、放出路のより冷たい領域に達し、そこに放出弁が設置されていると、凝縮(特に液体試料中の溶媒)することにより、弁自体の誤動作および/または損傷を引き起こす可能性があるということである。この欠点を回避するために、弁の上流において放出ダクトにフィルターを追加することが提案されているが、ラインの容積を、望ましくないまでに大としてしまう。代替案として、放出領域を加熱することは可能であるが、これには、大きなコストと高温に耐える特殊な弁が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上述の問題を解消するか、または少なくとも低減することである。本質的には、請求項1に記載の試料の採取方法に関する。従属請求項は、本発明の保護されるべき別の局面を示すものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
次に本発明を、その異なる実施形態を示している添付の図面を参照して説明する。図面は、単なる例を示すものであり、いかなる限定をなすものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の方法を実施するために使用することができる装置の構成を示す略図である。
図2】本発明の方法を実施するための装置の第1の変形例の構成を示す略図である。
図3】本発明の方法を実施するための装置の第2の変形例の構成を示す略図である。
図4】同じく第3の変形例の構成を示す略図である。
図5図1の構成により、本発明によるループ内に試料を移送する工程を示す図である。
図6図1の構成により、本発明によるループ内に試料を移送する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示す装置は、キャリアガスを供給するための供給ダクト11と、キャリアガスを試料とともにガスクロマトグラフ用カラムに供給するためのダクト12とが、公知の要領で接続されている6口サンプリング弁10を備えている。また弁10は、弁自体における2つの開口部14および15に接続された所定の容積を有するいわゆるループ13も備えている。2つの開口部14および15は、それぞれ弁の内側で、開口部16および17に接続されている。
【0011】
弁10の開口部16は、図示の位置において、比例弁19および圧力センサ20の制御下で供給される不活性ガス供給ダクト18に接続されている(比例弁19および圧力センサ20は、比例弁19を開閉してダクト内の圧力を増減させるようになっている)。試料24を保有し、かつ密閉された小びん23のヘッドスペース22に、隔膜を介して挿入された針で終わっているダクト21を、所望の圧力に加圧するために、比例弁19および圧力センサ20は、協働して、ダクト18から開口部16、14を介してループ13まで、かつループ13から開口部15、17まで供給される不活性ガスの圧力を制御することができる。
【0012】
図5には、小びん23の加圧操作を示してある。また不活性ガスの経路も示してある。
【0013】
公知技術では、小びん23の加圧が終了すると、補助ガス供給は閉じられ、その圧力は、比例弁19および圧力センサ20の下流のダクト18から分岐した放出ダクト25から放出される。放出ダクト25は、開閉式オンオフ弁26とフローリミッタ27とを備えており、ダクト21、開口部17、15、ループ13、開口部14、16、および放出ダクト25が分岐するまでの供給ダクト18を介して、小びん23から来る試料でループ13が満たされるまで、オン/オフ弁26は、開いたままである。ループ13が所望の量の試料、すなわち所望の圧力で満たされると、6口サンプリング弁10は、弁自体の開口部17、16が開口部28、29に対応する位置まで回転することにより、試料は、キャリアガスによって、ガスクロマトグラフシステムまで供給される。
【0014】
しかし、上に示した公知技術は、前述した欠点を有している。
【0015】
このような欠点を回避するために、本発明では、圧力放出中には、不活性ガス供給ダクト18は開いたままであり、かつ圧力は、圧力センサ20および比例弁19によって、明らかに以前の圧力よりも低い所望の値に調整されるようになっている。このような手法により、ループ13内の圧力を所望の値に調整し、その中の試料の量が正確に所望の値になるように保証することが可能となっている。さらに、オン/オフ弁26を使用することにより、放出ダクト内の試料を希釈する不活性ガスを供給すると、比例弁よりもより信頼性が高いオン/オフ弁26の汚染の可能性は低減される。
【0016】
汚染のおそれをさらに小さくするための、本発明によるこの工程は、図1の構成にコールトラップ30を追加した図6に示されている。
【0017】
図2は、図1とは別の構成を示している。ここでは、ダクト18に比例弁19を制御するためのフローセンサ31が設けられており、放出ダクト25には、圧力センサ33によって制御される比例弁32が設けられている。ループ内に試料を収集する方法は、上述の方法と同じである。
【0018】
図3は、図1の構成の変形例であり、放出ダクト25に沿ってトラップ30を設け、フローセンサ34および比例弁35によって放出を制御するようになっている。この構成により、放出工程中に、放出流れを調整して、特に試料または溶媒が凝縮するという問題を回避することができる。
【0019】
また、図4に示すように、比例弁35を制御するダクト18にフローセンサ34を設けることによって、放出中の流れを、最高の状態で制御することができる。
【0020】
特に図1に示すように、加圧工程中の小びん23の圧力と、小びんを減圧するときのループ13の圧力との両方を制御するために、同じ圧力コントローラ19、20が使用されていることに留意されたい。減圧中では、不活性ガスの供給ライン18は、本発明によれば、ガスを試料と共に放出ライン25に供給するため、開いたままである。これにより、ループ13の下流の圧力を正確に調整することができ、かつ公知技術とは異なり、放出の調整中に、ループ13の圧力が所望の値を下回る場合には、ライン18上のコントローラ19、20によって、圧力を復元することは、依然として可能である。
【0021】
図1の構成の別の利点は、一般的に比例弁よりもより信頼性が高いオン/オフ弁26を使用し、ループの下流圧力の調整精度を維持するという事実によって得られる。最終的には、ガス供給ラインは、常に清浄なガスで占められ、決して汚染されることはない。
【0022】
ループを充填する工程では、ヘッドスペースにある成分は、放出弁(比例弁またはオン/オフ弁とは別のもの)を開くことによって、ループ内に移送される。ループの容積を超える部分の試料は、放出路のより冷たい領域(そこには弁が設置されている)に達し、液体試料の場合には、特に溶媒が凝縮するという危険性がある。この問題は、どのように気圧調整がなされるかにかかわらず、既存のすべてのヘッドスペースシステムに共通している。放出領域に到達する成分の濃度が高いほど、凝縮の危険性が高くなる。凝縮した溶媒によって、弁の膜が損傷を受けることさえある。さらに、試料自体がループ内で後方に拡散することにより、その後の分析において、目に見える汚染を引き起こすおそれがある。また、凝縮による放出ルートの部分的な閉塞は、システムの精度を損なうおそれがある。
【0023】
この問題は、弁の前にフィルターを置くことで緩和することができるが、これは希望しない容積をラインに加えることになってしまう。放出領域を加熱することが、別の解決策となり得るが、それには高温に耐える弁を使用することが必要となり、そのため、より多くの費用がかかってしまう。
【0024】
本発明による気圧システムは、純粋ガスにより放出ライン内の試料を希釈することによる凝縮の危険性を低減するという利点を有している。実際には、ループを充填する工程は、供給ラインからのガスの連続流れを用いて行い、ループの容積を超える試料をこのように希釈することによって、設定圧力をより安定になるようにしている。
【0025】
放出ラインでの溶媒の凝縮を回避するために、採取したガスを希釈するために加えられる純粋ガスの容積または流れは、推定することもできる。
【0026】
サンプリング温度が小びん内部の温度に達してしまったとすれば、液体上の溶媒/マトリックス蒸気からなるガス(ヘッドスペース)は、飽和状態となり、マトリックスの分圧は、その蒸気圧に対応するようになる。このような値は、温度およびマトリックス自体の性質がわかれば、(例えば、決定された化合物の蒸気圧を温度に関連付けるアントワン式を用いることにより)計算することができる。
【0027】
排出流れ(ループ充填中に小びんから放出される飽和蒸気の流れ)は、小びんの自由容積(ヘッドスペースの容積)および排出中の小びん内の圧力低下に基づいて、推定することができる。
【0028】
理想気体とみなすことにより、放出流れは、次式から得ることができる。
排出流れ=Vvial×(Tref/Tvial)×(1/Pref)×(dP/dt)
ここで、Vvialは、小びん内の自由容積、TrefおよびPrefは、容積流れの基準温度および基準圧力、Tvialは、小びんの温度、dPは、小びん内の圧力変化、dtは、小びんを排出するのに必要な時間(dP/dt=平均減圧速度)であり、これらは、計器によって利用可能な、および/または制御されるパラメータである。
【0029】
放出温度における蒸気の凝縮を回避するために(通常は周囲温度で行われる)、放出蒸気は、その露点温度(飽和温度)が放出温度(周囲温度)より低くなるまで希釈しなければならない。
【0030】
一般化して、次のように算定することができる。
希釈すべきガス流れ=排出流れ×[(小びん温度における飽和圧力)/(周囲温度における飽和圧力)]
即ち:
希釈すべき不活性ガス流れ=Vvial×(Tref/Tvial)×(1/Pref)×(dP/dt)×[(小びん温度における飽和圧力)/(周囲温度における飽和圧力)]
ここで、マトリックス(溶媒)の種類と、小びん温度および放出温度(周囲温度)とがわかれば、両飽和圧力は、アントワン式によって計算することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 6口サンプリング弁
11 キャリアガス供給ダクト
12 キャリアガス&試料供給ダクト
13 ループ
14~17 開口部
18 不活性ガス供給ダクト
19 比例弁
20 圧力センサ
21 ダクト
22 ヘッドスペース
23 小びん
24 試料
25 放出ダクト
26 オン/オフ弁
27 フローリミッタ
28,29 開口部
30 コールトラップ
31 フローセンサ
32 比例弁
33 圧力センサ
34 フローセンサ
35 比例弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6