IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧 ▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

<>
  • 特許-等速ジョイント 図1
  • 特許-等速ジョイント 図2
  • 特許-等速ジョイント 図3
  • 特許-等速ジョイント 図4
  • 特許-等速ジョイント 図5
  • 特許-等速ジョイント 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】等速ジョイント
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/223 20110101AFI20220815BHJP
   F16D 3/2233 20110101ALI20220815BHJP
   F16D 3/2237 20110101ALI20220815BHJP
【FI】
F16D3/223
F16D3/2233
F16D3/2237
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018072115
(22)【出願日】2018-04-04
(65)【公開番号】P2019183884
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】柏木 勇史
(72)【発明者】
【氏名】池尾 眞人
(72)【発明者】
【氏名】篠田 佳享
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 豪軌
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-2961(JP,A)
【文献】特開2010-133444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/223,3/2233,3/2237
B60B 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるジョイント中心固定型の等速ジョイントであって、
軸方向一方側が開口する有底筒状に形成され、内周面に第一外側ボール溝及び第二外側ボール溝を有する外側ジョイント部材と、
前記外側ジョイント部材の内側に配置され、外周面に、前記第一外側ボール溝に対応する第一内側ボール溝及び前記第二外側ボール溝に対応する第二内側ボール溝を有する内側ジョイント部材と、
前記第一外側ボール溝と前記第一内側ボール溝との間に配置される第一ボールと、
前記第二外側ボール溝及び前記第二内側ボール溝との間に配置される第二ボールと、
前記外側ジョイント部材の内周面と前記内側ジョイント部材の外周面との間に配置され、前記第一ボール及び前記第二ボールをそれぞれ収容可能な複数の窓部を有する保持器と、
を備え、
前記第一外側ボール溝は、前記外側ジョイント部材の中心軸線方向において前記ジョイント中心を含む範囲に形成される第一外中央部を備え、
前記第一外中央部を転動する前記第一ボールの中心軌跡は、直線状に形成され、前記外側ジョイント部材の底側へ向かうにつれて前記外側ジョイント部材の中心軸線からの距離が小さくなるように傾斜し、
前記第二外側ボール溝は、
前記外側ジョイント部材の中心軸線方向において前記ジョイント中心を含む範囲に形成される第二外中央部と、
前記第二外中央部よりも前記外側ジョイント部材の前記底側に形成される第二外底側部と、
を備え、
前記第二外中央部を転動する前記第二ボールの中心軌跡は、直線状に形成され、前記外側ジョイント部材の前記底側へ向かうにつれて前記外側ジョイント部材の中心軸線からの距離が大きくなるように傾斜し、
前記第二外底側部を転動する前記第二ボールの中心軌跡は、円弧状に形成され、前記第二外中央部と前記第二外底側部との接続位置における前記第二外底側部側の接線よりも前記外側ジョイント部材における径方向内側に位置し、
前記第一外中央部を転動する前記第一ボールの中心軌跡は、前記ジョイント中心を通る平面であって前記外側ジョイント部材の中心軸線に直交する前記平面に対して、前記第二外中央部を転動する前記第二ボールの中心軌跡を反転させた形状に形成され、
前記車両の直進時において使用される最大のジョイント角を、最大常用角と定義し、
前記第一外中央部及び前記第二外中央部が形成される角度は、前記最大常用角に一致する、等速ジョイント。
【請求項2】
前記第一外側ボール溝は、前記第一外中央部よりも前記外側ジョイント部材の前記底側に形成される第一外底側部と、
前記第一外中央部よりも前記外側ジョイント部材の開口側の一部分に形成される第一外つなぎ開口側部と、を備え、
前記第一外底側部を転動する前記第一ボールの中心軌跡は、円弧状に形成され、前記第一外中央部と前記第一外底側部との接続位置における前記第一外底側部側の接線よりも前記外側ジョイント部材における径方向内側に位置し、
前記第一外中央部と前記第一外つなぎ開口側部との接続位置におけるジョイント角と、前記第二外中央部と前記第二外底側部との接続位置におけるジョイント角とは、同一角度である、請求項に記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記第一外つなぎ開口側部を転動する前記第一ボールの中心軌跡は、円弧状に形成され、前記ジョイント中心を通る平面であり且つ前記外側ジョイント部材の中心軸線に直交す
る前記平面に対して、前記第二外底側部を転動する前記第二ボールの中心軌跡を反転させた形状に形成される、請求項に記載の等速ジョイント。
【請求項4】
前記第一外側ボール溝は、前記第一外つなぎ開口側部から前記外側ジョイント部材の前記開口の端部に至る範囲に形成される第一外開口側部を備え、
前記第一外開口側部を転動する前記第一ボールの中心軌跡は、直線状に形成されると共に、前記第一外中央部と前記第一外開口側部との接続位置における接線を含み且つ前記接線よりも前記外側ジョイント部材の径方向内側の領域に位置する、請求項に記載の等速ジョイント。
【請求項5】
前記第二外側ボール溝は、前記第二外中央部から前記外側ジョイント部材の前記開口の端部に至る範囲に形成される第二外開口側部を備え、
前記第二外開口側部を転動する前記第二ボールの中心軌跡は、直線状に形成され、前記第二外中央部を転動する前記第二ボールの中心軌跡の延長線上に位置する、請求項1-の何れか一項に記載の等速ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
有底筒状の外側ジョイント部材と、外側ジョイント部材の内側に配置される内側ジョイント部材と、外側ジョイント部材に形成された複数の外側ボール溝と内側ジョイント部材に形成された複数の内側ボール溝との間に配置される複数のボールと、ボールを保持する保持器とを備えた等速ジョイントが知られている。各々のボールは、外側ボール溝の転動面と内側ボール溝の転動面とにより転動可能に支持され、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材との間でトルクを伝達する。
【0003】
また、従来の等速ジョイントにおいて、複数の外側ボール溝のボール溝形状を全て同一形状とし、且つ、複数の内側ボール溝のボール溝形状を全て同一形状としつつ、外側ボール溝のボール溝中心と内側ボール溝のボール溝中心とをジョイント中心に対して互いに逆方向へオフセットさせる技術が知られている。こうした等速ジョイントでは、ボールを外側ジョイント部材の開口側へ押し出そうとする力が作用するのに伴い、ボールを保持する保持器が外側ジョイント部材の開口側へ移動しようとする。この際、保持器と外側ジョイント部材の内周面及び内側ジョイント部材の外周面との間に摩擦が発生し、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材との間でトルク伝達を行う際に機械的損失が発生する。
【0004】
この点に関し、特許文献1には、複数の外側ボール溝のボール溝形状を交互に異なる形状とし、且つ、複数の内側ボール溝のボール溝形状を交互に異なる形状とした等速ジョイントが開示されている。第一の外側ボール溝と第一の内側ボール溝との間を転動するボールの中心軌跡をS字形状としつつ、周方向において第一の外側ボール溝に隣接する第二の外側ボール溝のボール溝中心を第一の外側ボール溝のボール溝中心に対して逆方向へオフセットさせつつ、且つ、周方向において第一の内側ボール溝に隣接する第二の内側ボール溝のボール溝中心を第一の内側ボール溝のボール溝中心に対して逆方向へオフセットさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-169915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両に搭載される等速ジョイントに関して、ボールは、車両の直進時において、主として、外側ボール溝の溝延伸方向の中央付近及び内側ボール溝の溝延伸方向の中央付近(常用角の領域)を移動する。そのため、車両に搭載される等速ジョイントにおいて、ボールが常用角の領域に配置される頻度は、非常に高い。
【0007】
上記した特許文献1に記載の等速ジョイントでは、常用角の領域において、第一の外側ボール溝を転動するボールの中心軌跡は、外側ジョイント部材の中心軸線上の点を中心とした円弧形状となり、第一の内側ボール溝を転動するボールの中心軌跡は、内側ジョイント部材の中心軸線上を中心とした円弧形状となる。同様に、第二の外側ボール溝を転動するボールの中心軌跡は、外側ジョイント部材の中心軸線上の点を中心とした円弧形状となり、第二の内側ボール溝を転動するボールの中心軌跡は、内側ジョイント部材の中心軸線上を中心とした円弧形状となる。
【0008】
つまり、上記した特許文献1に記載の等速ジョイントでは、常用角の領域において、第一の内側ボール溝とボールとの接触、及び、第二の内側ボール溝とボールとの接触は、何れも、凸面形状どうしの接触となる。この場合、当該接触における接触面積が小さくなるため、接触部位に加わる面圧が大きくなる。従って、特に、ボールが配置される頻度の高い常用角の領域において、全ての内側ボール溝に加わる負荷による面圧を低減し、内側ジョイント部材の耐久性の向上を図ることが求められる。
【0009】
本発明は、保持器と外側ジョイント部材の内周面及び内側ジョイント部材の外周面との間に発生する摩擦を抑制しつつ、内側ジョイント部材の耐久性を向上させることができる等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の等速ジョイントは、車両に搭載されるジョイント中心固定型の等速ジョイントであって、軸方向一方側が開口する有底筒状に形成され、内周面に第一外側ボール溝及び第二外側ボール溝を有する外側ジョイント部材と、前記外側ジョイント部材の内側に配置され、外周面に、前記第一外側ボール溝に対応する第一内側ボール溝及び前記第二外側ボール溝に対応する第二内側ボール溝を有する内側ジョイント部材と、前記第一外側ボール溝と前記第一内側ボール溝との間に配置される第一ボールと、前記第二外側ボール溝及び前記第二内側ボール溝との間に配置される第二ボールと、前記外側ジョイント部材の内周面と前記内側ジョイント部材の外周面との間に配置され、前記第一ボール及び前記第二ボールをそれぞれ収容可能な複数の窓部を有する保持器と、を備える。
【0011】
前記第一外側ボール溝は、前記外側ジョイント部材の中心軸線方向において前記ジョイント中心を含む範囲に形成される第一外中央部を備え、前記第一外中央部を転動する前記第一ボールの中心軌跡は、直線状に形成され、前記外側ジョイント部材の底側へ向かうにつれて前記外側ジョイント部材の中心軸線からの距離が小さくなるように傾斜する。
【0012】
前記第二外側ボール溝は、前記外側ジョイント部材の前記軸線方向において前記ジョイント中心を含む範囲に形成される第二外中央部と、前記第二外中央部よりも前記外側ジョイント部材の前記底側に形成される第二外底側部と、を備える。前記第二外中央部を転動する前記第二ボールの中心軌跡は、直線状に形成され、前記外側ジョイント部材の前記底
側へ向かうにつれて前記外側ジョイント部材の中心軸線からの距離が大きくなるように傾斜する。前記第二外底側部を転動する前記第二ボールの中心軌跡は、円弧状に形成され、前記第二外中央部と前記第二外底側部との接続位置における前記第二外底側部側の接線よりも前記外側ジョイント部材における径方向内側に位置する。
前記第一外中央部を転動する前記第一ボールの中心軌跡は、前記ジョイント中心を通る平面であって前記外側ジョイント部材の中心軸線に直交する前記平面に対して、前記第二外中央部を転動する前記第二ボールの中心軌跡を反転させた形状に形成される。前記車両の直進時において使用される最大のジョイント角を、最大常用角と定義し、前記第一外中央部及び前記第二外中央部が形成される角度は、前記最大常用角に一致する。
【0013】
本発明の等速ジョイントは、少なくとも、外側ジョイント部材の中心軸線方向において第一ボールの中心がジョイント中心に一致するとき、第一ボールには、外側ジョイント部材の開口側へ第一ボールを移動させようとする力が加わる。一方、外側ジョイント部材の中心軸線方向において第二ボールの中心がジョイント中心に一致するとき、第二ボールには、外側ジョイント部材の底側へ第二ボールを移動させようとする力が加わる。
【0014】
このとき、第一ボールに作用する力と第二ボールに作用する力とが互いに打ち消し合うので、本発明の等速ジョイントは、保持器と外側ジョイント部材の内周面及び内側ジョイント部材の外周面との間に発生する摩擦を抑制できる。その結果、本発明の等速ジョイントは、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材との間でトルク伝達を行う際に発生する機械的損失を抑制できる。
【0015】
また、等速ジョイントは、第一外中央部を転動する第一ボールの中心軌跡が直線状に形成される。この場合、第一ボールが第一外中央部を転動する際に、第一内側ボール溝と第一ボールとの接触が、平面形状と凸面形状との接触になる。これにより、等速ジョイントは、第一内側ボール溝と第一ボールとの接触が、凸面形状どうしの接触となる場合と比べて、第一ボールが第一外中央部を転動する際に、第一ボールから第一内側ボール溝に加わる面圧を低減させることができる。
【0016】
同様に、等速ジョイントは、第二外中央部を転動する第二ボールの中心軌跡が直線状に形成される。この場合、第二ボールが第二外中央部を転動する際に、第二内側ボール溝と第二ボールとの接触が、平面形状と凸面形状との接触になる。これにより、等速ジョイントは、第二内側ボール溝と第二ボールとの接触が、凸面形状どうしの接触となる場合と比べて、第二ボールが第二外中央部を転動する際に、第二ボールから第二内側ボール溝に加わる面圧を低減させることができる。従って、本発明の等速ジョイントは、内側ジョイント部材の耐久性を向上させることができる。
【0017】
さらに、第二外底側部を転動する第二ボールの中心軌跡は、円弧状に形成され、第二外中央部と第二外底側部との接続位置における第二外底側部側の接線よりも、外側ジョイント部材における径方向内側に位置する。これにより、等速ジョイントは、外側ジョイント部材の小型化を図りつつ、第二外底側部が形成される部位における外側ジョイント部材の肉厚を十分に確保することができるので、外側ジョイント部材の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態における等速ジョイントの軸方向断面を示す図である。
図2】第一外側ボール溝を含む外側ジョイント部材の軸方向断面を示す図であり、図1に示す外側ジョイント部材の上側部分を拡大した図である。
図3】第一内側ボール溝を含む内側ジョイント部材の軸方向断面を示す図であり、図1に示す内側ジョイント部材の上側部分を拡大した図である。
図4】第二外側ボール溝を含む外側ジョイント部材の軸方向断面を示す図であり、図1に示す外側ジョイント部材の下側部分を拡大し、上下反転させた図である。
図5】第二内側ボール溝を含む内側ジョイント部材の軸方向断面を示す図であり、図1に示す内側ジョイント部材の下側部分を拡大し、上下反転させた図である。
図6】ジョイント角が最大可動角をとったときの等速ジョイントの軸方向断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る等速ジョイントを適用した実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、図1から図6を参照して、本発明の一実施形態における等速ジョイント100について説明する。等速ジョイント100は、車両(図示せず)に搭載されるジョイント中心固定型の等速ジョイントであって、フロントドライブシャフトのアウトボードジョイントとして好適に使用される。
【0020】
(1.等速ジョイント100の概略構成)
図1に示すように、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10と、内側ジョイント部材20と、第一ボール30A及び第二ボール30Bと、保持器40と、を主に備える。
【0021】
外側ジョイント部材10は、中心軸線L1方向一方側(図1左側)が開口する有底筒状に形成される。外側ジョイント部材10は、凹球面状の内周面11と、その内周面11に形成される第一外側ボール溝12及び第二外側ボール溝13とを備える。外側ジョイント部材10の底部には、中心軸線L1方向他方側(図1右側)へ延びる連結軸10aが一体形成される。この連結軸10aは、図示しない他の動力伝達軸に連結される。第一外側ボール溝12及び第二外側ボール溝13は、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向に延びる溝状に形成される。外側ジョイント部材10には、3つの第一外側ボール溝12と3つの第二外側ボール溝13とが、周方向において交互に形成される。
【0022】
内側ジョイント部材20は、環状に形成される。内側ジョイント部材20は、凸球面状の外周面21と、その内側ジョイント部材20の外周面21に形成される第一内側ボール溝22及び第二内側ボール溝23とを備える。第一内側ボール溝22及び第二内側ボール溝23は、内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向に延びる溝状に形成される。内側ジョイント部材20には、3つの第一内側ボール溝22と3つの第二内側ボール溝23とが周方向において交互に形成され、第一内側ボール溝22が第一外側ボール溝12に、第二内側ボール溝23が第二外側ボール溝13に、それぞれ対応する。内側ジョイント部材20は、外側ジョイント部材10の内側に配置され、第一内側ボール溝22が第一外側ボール溝12に、第二内側ボール溝23が第二外側ボール溝13に、それぞれ対向配置される。
【0023】
第一ボール30A及び第二ボール30Bは、外側ジョイント部材10と内側ジョイント部材20との間でトルクの伝達を行う。第一ボール30Aは、第一外側ボール溝12と第一内側ボール溝22との間に転動可能に配置され、第二ボール30Bは、第二外側ボール溝13と第二内側ボール溝23との間に転動可能に配置される。内側ジョイント部材20は、第一ボール30A及び第二ボール30Bを転動させながら、外側ジョイント部材10に対してジョイント中心Oまわりに相対回転する。即ち、内側ジョイント部材20は、外側ジョイント部材10に対して角度(ジョイント角)をとることができる。
【0024】
保持器40は、外側ジョイント部材10の内周面11と内側ジョイント部材20の外周面21との間に配置される。保持器40には、3つの第一ボール30A及び3つの第二ボール30Bを1つずつ収容可能な6つの窓部41が形成される。保持器40は、第一ボール30A及び第二ボール30Bの転動に伴ってジョイント中心Oまわりを回転する。
【0025】
ここで、第一外側ボール溝12を転動する第一ボール30Aの中心軌跡Aと第一内側ボール溝22を転動する第一ボール30Aの中心軌跡aとのなす角であって、第一外側ボール溝12と第一内側ボール溝22とが広がる側の角度を、第一開放角αと定義する。また、第二外側ボール溝13を転動する第二ボール30Bの中心軌跡Bと第二内側ボール溝23を転動する第二ボール30Bの中心軌跡bとのなす角であって、第二外側ボール溝13と第二内側ボール溝23とが広がる側の角度を、第二開放角βと定義する。
【0026】
ここで、図1に示す直線SAは、第一ボール30Aの中心における中心軌跡Aの接線に平行な線であり、図1に示す直線Saは、第一ボール30Aの中心における中心軌跡aの接線に平行な線である。そして、図1には、図面を見やすくするために、直線SAと直線Saとのなす角を、第一開放角αとして図示する。また、図1に示す直線SBは、第二ボール30Bの中心における中心軌跡Bの接線に平行な直線であり、図1に示す直線Sbは、第二ボール30Bの中心における中心軌跡bの接線に平行な線である。そして、図1には、図面を見やすくするために、直線SBと直線Sbとのなす角を、第二開放角βとして図示する。
【0027】
等速ジョイント100では、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において第一ボール30Aの中心がジョイント中心Oに一致するときに、第一開放角αは、外側ジョイント部材10の開口側(図1左側)を向く。このとき、第一ボール30Aには、外側ジョイント部材10の開口側へ第一ボール30Aを移動させようとする力が加わる。これに対し、第二開放角βは、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において第二ボール30Bの中心がジョイント中心Oに一致するときに、外側ジョイント部材10の底側(図1右側)を向く。このとき、第二ボール30Bには、外側ジョイント部材10の底側へ第二ボール30Bを移動させようとする力が加わる。
【0028】
従って、少なくとも、第一ボール30A及び第二ボール30Bの中心が外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向においてジョイント中心Oに一致するとき、第一ボール30Aに作用する力と第二ボール30Bに作用する力とが互いに打ち消し合う。よって、等速ジョイント100は、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦を抑制できる。その結果、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10と内側ジョイント部材20との間でトルク伝達を行う際に発生する機械的損失を抑制できる。
【0029】
(2.第一外側ボール溝12)
次に、図2を参照して、第一外側ボール溝12について説明する。図2に示すように、第一外側ボール溝12は、第一外中央部121と、第一外底側部122と、第一外つなぎ開口側部123と、第一外開口側部124と、を備える。
【0030】
第一外中央部121は、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向においてジョイント中心Oを含む範囲に形成される。第一外底側部122は、第一外中央部121よりも外側ジョイント部材10の底側(図2右側)に形成される。第一外つなぎ開口側部123は、第一外中央部121よりも外側ジョイント部材10の開口側(図2左側)の一部分に形成される。第一外開口側部124は、第一外つなぎ開口側部123から外側ジョイント部材10の開口の端部に至る範囲に形成される。
【0031】
(3.第一内側ボール溝22)
次に、図3を参照して、第一内側ボール溝22について説明する。図3に示すように、第一内側ボール溝22は、第一内中央部221と、第一内開口側部222と、第一内つなぎ底側部223と、第一内底側部224と、を備える。
【0032】
第一内中央部221は、第一外中央部121(図2参照)に対応する部位であり、内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向においてジョイント中心Oを含む範囲に形成される。第一内開口側部222は、第一外底側部122(図2参照)に対応する部位であり、第一内中央部221よりも内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向一方側(外側ジョイント部材10における開口側、図3左側)に形成される。
【0033】
第一内つなぎ底側部223は、第一外つなぎ開口側部123(図2参照)に対応する部位であり、第一内中央部221よりも内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向他方側(外側ジョイント部材10における底側、図3右側)の一部分に形成される。第一内底側部224は、第一外開口側部124(図2参照)に対応する部位であり、第一内つなぎ底側部223から内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向他方側の端部に至る範囲に形成される。
【0034】
(4.第一ボール30Aの中心軌跡A)
次に、図2及び図3を参照しながら、第一ボール30Aの中心軌跡Aの形状について説明する。図2及び図3に示すように、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1は、直線状に形成される。そして、この中心軌跡A1は、外側ジョイント部材10の底側(図2右側)へ向かうにつれて外側ジョイント部材10の中心軸線L1からの距離が小さくなるように傾斜する。
【0035】
また、第一内中央部221を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a1は、直線状に形成される。そして、この中心軌跡a1は、内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向他方側(外側ジョイント部材10における底側、図3右側)へ向かうにつれて内側ジョイント部材20の中心軸線L2からの距離が大きくなるように傾斜する。
【0036】
ここで、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1、及び、第一内中央部221を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a1は、直線状に形成される。これにより、第一ボール30Aが第一外中央部121と第一内中央部221との間を転動する際に、第一内側ボール溝22と第一ボール30Aとの接触は、平面形状と凸面形状との接触になる。
【0037】
従って、等速ジョイント100は、第一内中央部221と第一ボール30Aとの接触が、凸面形状どうしの接触になる場合と比べて、第一ボール30Aが第一外中央部121と第一内中央部221との間を転動する際に、第一ボール30Aと第一内側ボール溝22との接触面積を大きくすることができる。その結果、等速ジョイント100は、第一ボール30Aから第一内中央部221に加わる面圧を低減させることができる。従って、等速ジョイント100は、内側ジョイント部材20の耐久性を向上させることができる。
【0038】
第一外底側部122を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A2は、所定の円弧中心点RA2を有する円弧状に形成される。そして、中心軌跡A2の円弧中心点RA2は、外側ジョイント部材10の中心軸線L1と第一外側ボール溝12との間(図2において、外側ジョイント部材10の中心軸線L1よりも上側)に位置する。また、第一内開口側部222を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a2は、所定の円弧中心点ra2を有する円弧状に形成され、中心軌跡a2の円弧中心点ra2は、内側ジョイント部材20の中心軸線L2と第一内側ボール溝22との間(図3において、内側ジョイント部材20の中心軸線L2よりも上側)に位置する。これにより、等速ジョイント100は、第一外底側部122を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A2の円弧半径を小さな寸法に設定することができるので、外側ジョイント部材10の小型化を図ることができる。
【0039】
また、第一外底側部122を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A2は、第一外中央部121と第一外底側部122との接続位置における第一外底側部122側の接線TAよりも、外側ジョイント部材10における径方向内側に位置する。これにより、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10の小型化を図りつつ、第一外底側部122が形成される部位において、外側ジョイント部材10の肉厚を十分に確保することができるので、外側ジョイント部材10の耐久性を向上させることができる。
【0040】
第一外つなぎ開口側部123を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A3は、所定の円弧中心点RA3を有する円弧状に形成される。そして、中心軌跡A3の円弧中心点RA3は、外側ジョイント部材10の中心軸線L1と第一外側ボール溝12との間に位置する。また、第一内つなぎ底側部223を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a3は、所定の円弧中心点ra3を有する円弧状に形成され、中心軌跡a3の円弧中心点ra3は、内側ジョイント部材20の中心軸線L2と第一内側ボール溝22との間に位置する。
【0041】
ここで、等速ジョイント100が搭載される車両(図示せず)の直進時において使用される最大のジョイント角を、最大常用角θ1と定義する。即ち、車両の直進時において、等速ジョイント100がとり得るジョイント角は、最大常用角θ1以下となる。また、等速ジョイント100のジョイント角が最大常用角θ1であるときの第一ボール30A(第二ボール30B)の中心とジョイント中心Oとを結ぶ仮想線を、常用角仮想線VL1と定義する。このとき、ジョイント中心Oを通る平面であって外側ジョイント部材10の中心軸線L1に直交する平面Pに対する常用角仮想線VL1の傾斜角度は、θ1/2となる。
【0042】
なお、最大常用角θ1は、8度以下に設定されることが好ましい。これにより、第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B2と第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1との接続位置が、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において、ジョイント中心Oから大きく離れることを防止できる。その結果、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向における小型化を図ることができる。
【0043】
そして、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1と第一外底側部122を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A2との接続位置は、最大常用角θ1の位置となる。即ち、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1と第一外底側部122を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A2との接続位置は、図2において外側ジョイント部材10の底側へ傾斜する常用角仮想線VL1の線上に設けられる。
【0044】
同様に、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1と第一外つなぎ開口側部123を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A3との接続位置は、最大常用角θ1の位置となる。即ち、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1と第一外つなぎ開口側部123を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A3との接続位置は、図2において外側ジョイント部材10の開口側へ傾斜する常用角仮想線VL1の線上に設けられる。
【0045】
この場合、第一外中央部121が形成される角度は、最大常用角θ1に一致し、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1は、図2において外側ジョイント部材10の底側へ傾斜する常用角仮想線VL1と外側ジョイント部材10の開口側へ傾斜する常用角仮想線VL1との間に設けられる。
【0046】
また、第一内中央部221を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a1と第一内開口側部222を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a2との接続位置は、最大常用角θ1の位置となる。即ち、第一内中央部221を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a1と第一内開口側部222を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a2との接続位置は、図3において内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向一方側へ傾斜する常用角仮想線VL1の線上に設けられる。
【0047】
同様に、第一内中央部221を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a1と第一内つなぎ底側部223を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a3との接続位置は、最大常用角θ1の位置となる。即ち、第一内中央部221を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a1と第一内つなぎ底側部223を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a3との接続位置は、図3において内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向他方側へ傾斜する常用角仮想線VL1の線上に設けられる。
【0048】
この場合、第一内中央部221が形成される角度は、最大常用角θ1に一致し、第一内中央部221を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a1は、図3において内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向一方側へ傾斜する常用角仮想線VL1と内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向他方側へ傾斜する常用角仮想線VL1との間に設けられる。
【0049】
なお、外側ジョイント部材10の底側へ傾斜する常用角仮想線VL1の平面Pに対する傾斜角度は、外側ジョイント部材10の開口側へ傾斜する常用角仮想線VL1の平面Pに対する傾斜角度と同一角度(θ1/2)である。即ち、等速ジョイント100は、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1と第一外底側部122を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A2との接続位置におけるジョイント角と、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1と第一外つなぎ開口側部123を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A3との接続位置におけるジョイント角とは、同一角度(最大常用角θ1)である。
【0050】
さらに、等速ジョイント100のストッパ構造(例えば、内側ジョイント部材20に連結されたシャフト(図示せず)と外側ジョイント部材10の開口の端部との干渉等)により可動を規制される際の等速ジョイント100のジョイント角を、最大可動角θ2と定義する。この場合、等速ジョイント100がとり得るジョイント角は、最大可動角θ2以下となる。また、等速ジョイント100のジョイント角が最大可動角θ2であるときの第一ボール30A(第二ボール30B)の中心とジョイント中心Oとを結ぶ仮想線を、可動角仮想線VL2と定義する。このとき、平面Pに対する可動角仮想線VL2の傾斜角度は、θ2/2となる。
【0051】
第一外つなぎ開口側部123を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A3の円弧中心点RA3は、図2において外側ジョイント部材10の開口側へ傾斜する可動角仮想線VL2の線上に位置する。また、第一内つなぎ底側部223を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a3の円弧中心点ra3は、図3において内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向他方側へ傾斜する可動角仮想線VL2の線上に位置する。
【0052】
第一外側ボール溝12において、第一外中央部121と第一外開口側部124とが、第一外つなぎ開口側部123を介して接続される。また、第一内側ボール溝22において、第一内中央部221と第一内底側部224とが、第一内つなぎ底側部223を介して接続される。これにより、等速ジョイント100は、第一外中央部121と第一外開口側部124とが直に接続される場合や、第一内中央部221と第一内底側部224とが直に接続される場合と比べて、第一ボール30Aを円滑に転動させることができる。
【0053】
また、第一外開口側部124を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A4は、直線状であって、外側ジョイント部材10の中心軸線L1に平行に延びる。そして、第一内底側部224を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a4は、直線状であって、内側ジョイント部材20の中心軸線L2に平行に延びる。この場合、等速ジョイント100は、最大可動角θ2をより大きな角度に設定しつつ、第一外開口側部124が形成される部位において、外側ジョイント部材10の肉厚を十分に確保することができる。よって、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10の耐久性を向上させることができる。
【0054】
なお、第一外開口側部124を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A4は、外側ジョイント部材10の中心軸線L1に平行でなくてもよい。即ち、第一外つなぎ開口側部123と第一外開口側部124との接続位置における接線を含み且つ接線よりも外側ジョイント部材10の径方向内側の領域に位置にあればよい。従って、第一外開口側部124を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A4が、外側ジョイント部材10の中心軸線L1に対して2~3度傾斜していてもよい。
【0055】
また、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において、第一ボール30Aの中心が、外側ジョイント部材10の開口側の最大可動角θ2の位置から外側ジョイント部材10の底側の最大可動角θ2の位置に至る全範囲(外側ジョイント部材10の開口側へ傾斜する可動角仮想線VL2と外側ジョイント部材10の底側へ傾斜する可動角仮想線VL2との間における全範囲)の何れに移動した場合であっても、第一開放角αは、外側ジョイント部材10の開口側を向く。
【0056】
これにより、等速ジョイント100は、第一ボール30Aの中心が、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において、外側ジョイント部材10の開口側の最大可動角θ2の位置から外側ジョイント部材10の底側の最大使用角θ3の位置に至る全範囲において、第一ボール30Aに対し、外側ジョイント部材10の開口側へ移動させようとする力を加えることができる。その結果、等速ジョイント100は、車両の搭載時において、ジョイント角が何れの角度をとった場合であっても、第一ボール30Aに対し、外側ジョイント部材10の開口側へ移動させようとする力を加えることができる。
【0057】
(5.第二外側ボール溝13)
次に、図4を参照して、第二外側ボール溝13について説明する。図4に示すように、第二外側ボール溝13は、第二外中央部131と、第二外底側部132と、第二外開口側部133と、を備える。
【0058】
第二外中央部131は、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向においてジョイント中心Oを含む範囲に形成される。第二外底側部132は、第二外中央部131よりも外側ジョイント部材10の底側(図4右側)に形成される。第二外開口側部133は、第二外中央部131から外側ジョイント部材10の開口の端部に至る範囲に形成される。
【0059】
(6.第二内側ボール溝23)
次に、図5を参照して、第二内側ボール溝23について説明する。図5に示すように、第二内側ボール溝23は、第二内中央部231と、第二内開口側部232と、第二内底側部233と、を備える。
【0060】
第二内中央部231は、第二外中央部131(図4参照)に対応する部位であり、内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向においてジョイント中心Oを含む範囲に形成される。第二内開口側部232は、第二外底側部132(図4参照)に対応する部位であり、第二内中央部231よりも内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向一方側(外側ジョイント部材10における開口側、図5左側)に形成される。第二内底側部233は、第二外底側部132(図4参照)に対応する部位であり、第二内中央部231から内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向他方側(外側ジョイント部材10における底側、図5右側)の端部に至る範囲に形成される。
【0061】
(7.第二ボール30Bの中心軌跡B)
次に、図4及び図5を参照しながら、第二ボール30Bの中心軌跡Bの形状について説明する。図4及び図5に示すように、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1は、直線状に形成される。そして、中心軌跡B1は、外側ジョイント部材10の底側(図4右側)へ向かうにつれて外側ジョイント部材10の中心軸線L1からの距離が大きくなるように傾斜する。
【0062】
また、第二内中央部231を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b1は、直線状に形成される。そして、中心軌跡b1は、内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向他方側へ向かうにつれて内側ジョイント部材20の中心軸線L2からの距離が小さくなるように傾斜する。
【0063】
ここで、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1、及び、第二内中央部231を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b1は、直線状に形成される。この場合、第二ボール30Bが第二外中央部131と第二内中央部231を転動する際に、第二内側ボール溝23と第二ボール30Bとの接触が、平面形状と凸面形状との接触になる。
【0064】
これにより、等速ジョイント100は、第二内側ボール溝23と第二ボール30Bとの接触が、凸面形状どうしの接触となる場合と比べて、第二ボール30Bが第二外中央部131と第二内中央部231との間を転動する際に、第二ボール30Bと第二内側ボール溝23との接触面積を大きくすることができる。その結果、等速ジョイント100は、第二ボール30Bから第二内中央部231に加わる面圧を低減させることができる。従って、等速ジョイント100は、内側ジョイント部材20の耐久性を向上させることができる。
【0065】
第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B2は、所定の円弧中心点RB2を有する円弧状に形成される。そして、中心軌跡B2の円弧中心点RB2は、外側ジョイント部材10の中心軸線L1と第二外側ボール溝13との間(図4において外側ジョイント部材10の中心軸線L1よりも上側)に位置する。また、第二内開口側部232を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b2は、所定の円弧中心点rb2を有する円弧状に形成される。そして、中心軌跡b2の円弧中心点rb2は、内側ジョイント部材20の中心軸線L2と第二内側ボール溝23との間(図5において内側ジョイント部材20の中心軸線L2よりも上側)に位置する。これにより、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10の小型化を図ることができる。
【0066】
また、第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B2は、第二外中央部131と第二外底側部132との接続位置における第二外底側部132側の接線TBよりも、外側ジョイント部材10における径方向内側に位置する。これにより、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10の小型化を図りつつ、第二外底側部132が形成される部位における外側ジョイント部材10の肉厚を十分に確保することができるので、外側ジョイント部材10の耐久性を向上させることができる。
【0067】
第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3は、直線状に形成される。よって、外側ジョイント部材10は、第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3が曲線状に形成される場合と比べて、第二外側ボール溝13の形状を簡素化できる。これに加え、中心軌跡B3は、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1の延長線上に位置する。この場合、例えば、外側ジョイント部材10は、第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3の曲率が途中で反転するS字形状のような形状となるように第二外開口側部133を形成する場合と比べて、第二外側ボール溝13の形状を簡素化できる。
【0068】
同様に、第二内底側部233を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b3は、直線状に形成される。よって、内側ジョイント部材20は、第二内底側部233を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b3が曲線状に形成される場合と比べて、第二内側ボール溝23の形状を簡素化できる。これに加え、中心軌跡b3は、第二内中央部231を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b1の延長線上に位置する。よって、内側ジョイント部材20は、第二内側ボール溝23の形状を簡素化できる。従って、等速ジョイント100は、第二外側ボール溝13及び第二内側ボール溝23を容易に成形することができる。
【0069】
ここで、本実施形態において、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1と第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B2との接続位置は、最大常用角θ1の位置となる。即ち、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1と第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B2との接続位置は、図4において外側ジョイント部材10の底側へ傾斜する常用角仮想線VL1の線上に設けられる。同様に、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1と第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3との接続位置は、最大常用角θ1の位置となる。即ち、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1と第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3との接続位置は、図4において外側ジョイント部材10の開口側へ傾斜する常用角仮想線VL1の線上に設けられる。
【0070】
この場合、第二外中央部131が形成される角度は、最大常用角θ1に一致し、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1は、図4において外側ジョイント部材10の底側へ傾斜する常用角仮想線VL1と外側ジョイント部材10の開口側へ傾斜する常用角仮想線VL1との間に形成される。これにより、等速ジョイント100は、車両の直進時において、第二ボール30Bの中心を、第二外中央部131と第二内中央部231との間に配置することができる。
【0071】
なお、外側ジョイント部材10の底側へ傾斜する常用角仮想線VL1の平面Pに対する傾斜角度は、外側ジョイント部材10の開口側へ傾斜する常用角仮想線VL1の平面Pに対する傾斜角度と同一角度(θ1/2)である。即ち、等速ジョイント100は、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1と第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B2との接続位置におけるジョイント角と、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1と第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3との接続位置におけるジョイント角とは、同一角度(最大常用角θ1)となる。
【0072】
さらに、第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1の円弧中心点RB2は、図4において外側ジョイント部材10の底側へ傾斜する可動角仮想線VL2の線と、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1と第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡A2との接続位置において中心軌跡B1に直交する線との交点に位置する。また、第一内開口側部222を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b2の円弧中心点rb2は、図5において内側ジョイント部材20の中心軸線L2方向一方側へ傾斜する可動角仮想線VL2の線と、第二内中央部231を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b1と第二内開口側部を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b2との接続位置において中心軌跡b1に直交する線との交点に位置する。
【0073】
この場合、等速ジョイント100は、ジョイント角が最大可動角θ2となるときに、第二開放角βが0度(直線SBと直線Sbとが平行、図6参照)となる。つまり、第二ボール30Bの中心が、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において、ジョイント中心Oから外側ジョイント部材10の底側の最大可動角θ2の位置まで移動する間(図5に示す状態において、第二ボール30Bの中心が、平面Pと可動角仮想線VL2との間を移動するとき)に、第二開放角βは、外側ジョイント部材10の底側を向く状態から開口側を向く状態に反転しない。
【0074】
よって、等速ジョイント100は、第二ボール30Bの中心が、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において、ジョイント中心Oから外側ジョイント部材10の底側の最大可動角θ2の位置へ移動する間において、第二ボール30Bに対し、外側ジョイント部材10の開放側へ移動させようとする力が加わることを防止できる。
【0075】
(8.第一ボール30Aの中心軌跡Aと第二ボール30Bの中心軌跡Bとの関係)
ここで、図2から図5を参照しながら、第一ボール30Aの中心軌跡Aと第二ボール30Bの中心軌跡Bとの関係について説明する。図2から図5に示すように、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1は、平面Pに対して、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1を反転させた形状に形成される。また、第一内中央部221を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a1は、平面Pに対して、第二内中央部231を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b1を反転させた形状に形成される。
【0076】
これにより、等速ジョイント100は、第一ボール30Aが第一外中央部121と第一内中央部221との間に配置された状態であって、第二ボール30Bが第二外中央部131と第二内中央部231との間に配置された状態において、第一ボール30Aに作用する力と第二ボール30Bに作用する力とを効果的に相殺することができる。その結果、等速ジョイント100は、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦を抑制できる。
【0077】
なお、等速ジョイント100において、第二開放角βは、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において第二ボール30Bの中心がジョイント中心Oの近傍に位置するときに、角度が大きくなる。即ち、等速ジョイント100では、第二ボール30Bが第二外中央部131と第二内中央部231との間を転動する状態において、外側ジョイント部材10の底側へ第二ボール30Bを移動させようとする力が大きくなる。
【0078】
この点に関し、等速ジョイント100において、第一外中央部121と第一外底側部122との接続位置におけるジョイント角と、第二外中央部131と第二外底側部132との接続位置におけるジョイント角とは、同一角度(最大常用角θ1)である。そして、第一外中央部121、第一内中央部221、第二外中央部131及び第二内中央部231が形成される角度は、最大常用角θ1に一致する。即ち、第一外中央部121、第一内中央部221、第二外中央部131及び第二内中央部231は、常用角の領域に形成される。
【0079】
この場合、車両の直進時において、第一ボール30Aは、第一外中央部121と第一内中央部221との間に配置されるので、第一ボール30Aが第一外中央部121及び第一内中央部221を転動する頻度が非常に高くなる。同様に、車両の直進時において、第二ボール30Bは、第二外中央部131と第二内中央部231との間に配置されるので、第二ボール30Bが第二外中央部131及び第二内中央部231を転動する頻度が非常に高くなる。
【0080】
即ち、等速ジョイント100は、車両に搭載された状態において、第一ボール30Aが第一外中央部121と第一内中央部221との間を転動する頻度を高くし、第二ボール30Bが第二外中央部131と第二内中央部231との間を転動する頻度を高くすることにより、第一ボール30Aに作用する力を第二ボール30Bに作用する力によって効果的に相殺することができる。その結果、等速ジョイント100は、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦を効果的に抑制できる。
【0081】
また、等速ジョイント100では、第一外中央部121及び第一内中央部221を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1,a1が直線状に形成されている。これにより、等速ジョイント100は、第一ボール30Aが第一外中央部121と第一内中央部221との間を転動する際に、第一ボール30Aから第一内中央部221に加わる面圧を低減させることができる。同様に、等速ジョイント100では、第二外中央部131及び第二内中央部231を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1,b1が直線状に形成される。これにより、等速ジョイント100は、第二ボール30Bが第二外中央部131と第二内中央部231との間を転動する際に、第二ボール30Bから第二内中央部231に加わる面圧を低減させることができる。
【0082】
そして、等速ジョイント100は、車両に搭載された状態において、第一ボール30Aが第一外中央部121と第一内中央部221との間を転動する頻度を高くすることにより、第一ボール30Aから第一内中央部221に加わる面圧が低減される状態を長くすることができる。同様に、等速ジョイント100は、車両に搭載された状態において、第二ボール30Bが第二外中央部131と第二内中央部231との間を転動する頻度を高くすることにより、第二ボール30Bから第二内中央部231に加わる面圧を低減し、且つ、第一ボール30Aに作用する力と第二ボール30Bに作用する力とを相殺できるジョイント角の範囲を大きくすることができる。
【0083】
このように、等速ジョイント100では、車両の直進時において、第一ボール30Aが第一外中央部121と第一内中央部221との間に配置され、第二ボール30Bが第二外中央部131と第二内中央部231との間に配置される。これにより、等速ジョイント100は、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦を効果的に抑制できると共に、内側ジョイント部材20の耐久性を効果的に向上させることができる。
【0084】
また、第一外つなぎ開口側部123を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A3は、平面Pに対して、第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B2を反転させた形状に形成される。同様に、第一内つなぎ底側部223を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a3は、平面Pに対して、第二内開口側部232を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b2を反転させた形状に形成される。
【0085】
これにより、等速ジョイント100は、第一ボール30Aが第一外つなぎ開口側部123と第一内つなぎ底側部223との間に配置された状態であって、第二ボール30Bが第二外底側部132と第二内開口側部232との間に配置された状態において、第一ボール30Aに作用する力と第二ボール30Bに作用する力とを効果的に相殺することができる。従って、等速ジョイント100は、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦を抑制できる。
【0086】
さらに、第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3、及び、第二内底側部233を転動する第二ボール30Bの中心軌跡b3は、直線状に形成される。よって、等速ジョイント100は、第二ボール30Bから第二内底側部233に加わる面圧を低減させることができる。同様に、第一外開口側部124を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A4、及び、第一内底側部224を転動する第一ボール30Aの中心軌跡a4は、直線状に形成される。よって、等速ジョイント100は、第一ボール30Aから第一内底側部224に加わる面圧を低減させることができる。これにより、等速ジョイント100は、耐久性を向上させることができる。
【0087】
(9.等速ジョイント100の動作態様)
次に、図6を参照して、等速ジョイント100の動作態様を説明する。図6には、第二ボール30Bの中心がジョイント中心Oよりも外側ジョイント部材10の底側に位置し、ジョイント角が最大可動角θ2であるときの等速ジョイント100が図示されている。
【0088】
図6に示すように、等速ジョイント100は、ジョイント角が最大可動角θ2となるときに、第二開放角βが0度(直線SBと直線Sbとが平行)となる。即ち、第二ボール30Bの中心が、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において、ジョイント中心Oから外側ジョイント部材10の底側の最大可動角θ2の位置まで移動する間(図6において、第二ボール30Bの中心が、平面Pと可動角仮想線VL2との間を移動するとき)に、第二開放角βは、外側ジョイント部材10の底側を向く状態から開口側を向く状態に反転しない。
【0089】
一方、第一開放角αは、第一ボール30Aの中心が、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において、ジョイント中心Oから外側ジョイント部材10の開口側の最大可動角θ2の位置に移動する間(図6において、第一ボール30Aの中心が、平面Pと可動角仮想線VL2との間を移動するとき)に、外側ジョイント部材10の開口側へ向いた状態を維持する。
【0090】
従って、等速ジョイント100は、第二ボール30Bの中心が、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において、ジョイント中心Oから外側ジョイント部材10の底側の最大可動角θ2の位置に移動する間において、第一ボール30Aに作用する力と第二ボール30Bに作用する力とが互いに打ち消し合う。よって、等速ジョイント100は、ジョイント角が最大可動角θ2をとった状態であっても、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦を抑制できる。
【0091】
このように、等速ジョイント100は、ジョイント角を大きくとった状態であっても、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦を抑制できる。その結果、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10と内側ジョイント部材20との間でトルク伝達を行う際に発生する機械的損失を抑制できる。
【0092】
ここで、車両に搭載されるフロントドライブシャフトに用いる等速ジョイントは、リヤドライブシャフトに用いる等速ジョイントと比べて、使用時において大きなジョイント角を必要とする。この点に関し、等速ジョイント100は、ジョイント角を大きくとった状態であっても、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦を抑制できる。その結果、等速ジョイント100は、フロントドライブシャフトの機能を高めることができる。
【0093】
(10.その他)
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。また、上記各実施形態に挙げた数値は一例であり、他の数値を適用することは当然に可能である。
【0094】
(11.効果)
以上説明したように、本発明における等速ジョイント100は、車両に搭載されるジョイント中心固定型の等速ジョイントであって、軸方向一方側が開口する有底筒状に形成され、内周面11に第一外側ボール溝12及び第二外側ボール溝13を有する外側ジョイント部材10と、外側ジョイント部材10の内側に配置され、外周面21に、第一外側ボール溝12に対応する第一内側ボール溝22及び第二外側ボール溝13に対応する第二内側ボール溝23を有する内側ジョイント部材20と、第一外側ボール溝12と第一内側ボール溝22との間に配置される第一ボール30Aと、第二外側ボール溝13及び第二内側ボール溝23との間に配置される第二ボール30Bと、外側ジョイント部材10の内周面11と内側ジョイント部材20の外周面21との間に配置され、第一ボール30A及び第二ボール30Bをそれぞれ収容可能な複数の窓部41を有する保持器40と、を備える。
【0095】
第一外側ボール溝12は、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向においてジョイント中心Oを含む範囲に形成される第一外中央部121を備える。第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1は、直線状に形成され、外側ジョイント部材10の底側へ向かうにつれて外側ジョイント部材10の中心軸線L1からの距離が小さくなるように傾斜する。
【0096】
第二外側ボール溝13は、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向においてジョイント中心Oを含む範囲に形成される第二外中央部131と、第二外中央部131よりも外側ジョイント部材10の底側に形成される第二外底側部132と、を備える。第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1は、直線状に形成され、外側ジョイント部材10の底側へ向かうにつれて外側ジョイント部材10の中心軸線L1からの距離が大きくなるように傾斜する。第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B2は、円弧状に形成され、第二外中央部131と第二外底側部132との接続位置における第二外底側部132側の接線TBよりも外側ジョイント部材10における径方向内側に位置する。
【0097】
この等速ジョイント100は、少なくとも、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において第一ボール30Aの中心がジョイント中心Oに一致するとき、第一ボール30Aには、外側ジョイント部材10の開口側へ第一ボール30Aを移動させようとする力が加わる。一方、外側ジョイント部材10の中心軸線L1方向において第二ボール30Bの中心がジョイント中心Oに一致するとき、第二ボール30Bには、外側ジョイント部材10の底側へ第二ボール30Bを移動させようとする力が加わる。
【0098】
このとき、第一ボール30Aに作用する力と第二ボール30Bに作用する力とが互いに打ち消し合うので、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦が抑制される。その結果、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10と内側ジョイント部材20との間でトルク伝達を行う際に発生する機械的損失を抑制できる。
【0099】
また、等速ジョイント100は、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1が直線状に形成される。この場合、第一ボール30Aが第一外中央部121を転動する際に、第一内側ボール溝22と第一ボール30Aとの接触が、平面形状と凸面形状との接触になる。これにより、等速ジョイント100は、第一内側ボール溝22と第一ボール30Aとの接触が、凸面形状どうしの接触となる場合と比べて、第一ボール30Aが第一外中央部121を転動する際に、第一ボール30Aから第一内側ボール溝22に加わる面圧を低減させることができる。
【0100】
同様に、等速ジョイント100は、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1が直線状に形成される。この場合、第二ボール30Bが第二外中央部131を転動する際に、第二内側ボール溝23と第二ボール30Bとの接触が、平面形状と凸面形状との接触になる。これにより、等速ジョイント100は、第二内側ボール溝23と第二ボール30Bとの接触が、凸面形状どうしの接触となる場合と比べて、第二ボール30Bが第二外中央部131を転動する際に、第二ボール30Bから第二内側ボール溝23に加わる面圧を低減させることができる。従って、等速ジョイント100は、内側ジョイント部材20の耐久性を向上させることができる。
【0101】
さらに、第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B2は、円弧状に形成され、第二外中央部131と第二外底側部132との接続位置における第二外底側部132側の接線TBよりも外側ジョイント部材10における径方向内側に位置する。これにより、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10の小型化を図りつつ、第二外底側部132が形成される部位における外側ジョイント部材10の肉厚を十分に確保することができるので、外側ジョイント部材10の耐久性を向上させることができる。
【0102】
上記した等速ジョイント100において、第一外中央部121を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A1は、ジョイント中心Oを通る平面であって外側ジョイント部材10の中心軸線L1に直交する平面Pに対して、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1を反転させた形状に形成される。
【0103】
この等速ジョイント100は、第一ボール30Aが第一外中央部121を転動し、第二ボール30Bが第二外中央部131を転動する状態において、第一ボール30Aに作用する力と第二ボール30Bに作用する力とを効果的に相殺することができる。従って、等速ジョイント100は、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦を抑制できる。
【0104】
上記した等速ジョイント100において、第一外側ボール溝12は、第一外中央部121よりも外側ジョイント部材10の底側に形成される第一外底側部122と、第一外側ボール溝12は、第一外中央部121よりも外側ジョイント部材10の開口側の一部分に形成される第一外つなぎ開口側部123とを備える。第一外底側部122を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A2は、円弧状に形成され、第一外中央部121と第一外底側部122との接続位置における第一外底側部122側の接線TAよりも外側ジョイント部材10における径方向内側に位置する。第一外中央部121と第一外つなぎ開口側部123との接続位置におけるジョイント角と、第二外中央部131と第二外底側部132との接続位置におけるジョイント角とは、同一角度である。
【0105】
この等速ジョイント100によれば、第一ボール30Aが第一外中央部121を転動し、第二ボール30Bが第二外中央部131を転動する頻度を高くすることができる。この場合、等速ジョイント100は、第一ボール30Aから第一内中央部221に加わる面圧が低減される状態を長くすることができる。また、等速ジョイント100は、第二ボール30Bから第二内中央部231に加わる面圧を低減し、且つ、第一ボール30Aに作用する力と第二ボール30Bに作用する力とを相殺できるジョイント角の範囲を大きくすることができる。従って、等速ジョイント100は、内側ジョイント部材20の耐久性を効果的に向上させることができる。
【0106】
上記した等速ジョイント100において、第一外つなぎ開口側部123を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A3は、円弧状に形成され、ジョイント中心Oを通る平面であり且つ外側ジョイント部材10の中心軸線L1に直交する平面Pに対して、第二外底側部132を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B2を反転させた形状に形成される。
【0107】
この等速ジョイント100は、第一ボール30Aが第一外つなぎ開口側部123を転動し、第二ボール30Bが第二外底側部132を転動する状態において、第一ボール30Aに作用する力と第二ボール30Bに作用する力とを効果的に相殺することができる。従って、等速ジョイント100は、保持器40と外側ジョイント部材10の内周面11及び内側ジョイント部材20の外周面21との間に発生する摩擦を抑制できる。
【0108】
上記した等速ジョイント100において、第一外側ボール溝12は、第一外つなぎ開口側部123から外側ジョイント部材10の開口の端部に至る範囲に形成される第一外開口側部124を備える。第一外開口側部124を転動する第一ボール30Aの中心軌跡A4は、直線状に形成されると共に、第一外つなぎ開口側部123と第一外開口側部124との接続位置における接線を含み且つ接線よりも外側ジョイント部材10の径方向内側の領域に位置する。
【0109】
この等速ジョイント100は、最大のジョイント角をより大きな角度に設定しつつ、第一外開口側部124が形成される部位において、外側ジョイント部材10の肉厚を十分に確保することができる。よって、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10の耐久性を向上させることができる。
【0110】
上記した等速ジョイント100において、第二外側ボール溝13は、第二外中央部131から外側ジョイント部材10の開口の端部に至る範囲に形成される第二外開口側部133を備える。第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3は、直線状に形成され、第二外中央部131を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B1の延長線上に位置する。
【0111】
この等速ジョイント100は、第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3が直線状に形成されるので、第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3が曲線状に形成される場合と比べて、第二外側ボール溝13及び第二内側ボール溝23の形状を簡素化できる。
【0112】
また、等速ジョイント100は、第二外開口側部133を転動する第二ボール30Bの中心軌跡B3が曲線状に形成される場合と比べて、第二ボール30Bが第二外開口側部133を転動する際に、第二ボール30Bから第二外側ボール溝13及び第二内側ボール溝23に加わる面圧を低減させることができる。よって、等速ジョイント100は、内側ジョイント部材20の耐久性を向上させることができる。
【0113】
上記した等速ジョイント100において、車両の直進時において使用される最大のジョイント角を、最大常用角θ1と定義する。第一外中央部121及び第二外中央部131が形成される角度は、最大常用角θ1に一致する。
【0114】
この等速ジョイント100によれば、第一外中央部121及び第二外中央部131が、常用角の領域に形成される。即ち、等速ジョイント100では、第一ボール30A及び第二ボール30Bが配置される頻度が非常に高い常用角の領域において、第一ボール30Aが第一外中央部121を転動し、第二ボール30Bが第二外中央部131を転動する。よって、等速ジョイント100は、内側ジョイント部材20の耐久性を向上させることができると共に、車両の直進時において、ジョイント角の変更を円滑に行うことができる。
【符号の説明】
【0115】
10:外側ジョイント部材、 11:外側ジョイント部材の内周面、 12:第一外側ボール溝、 13:第二外側ボール溝、 20:内側ジョイント部材、 21:内側ジョイント部材の外周面、 22:第一内側ボール溝、 23:第二内側ボール溝、 30A:第一ボール、 30B:第二ボール、 40:保持器、 41:窓部、 100:等速ジョイント、 121:第一外中央部、 122:第一外底側部、 123:第一外つなぎ開口側部、 124:第一外開口側部、 131:第二外中央部、 132:第二外底側部、 133:第二外開口側部、 A1:第一外中央部を転動する第一ボールの中心軌跡、 A2:第一外底側部を転動する第一ボールの中心軌跡、 A3:第一外つなぎ開口側部を転動する第一ボールの中心軌跡、 A4:第一外開口側部を転動する第一ボールの中心軌跡、 B:第二外側ボール溝を転動する第二ボールの中心軌跡、 B1:第二外中央部を転動する第二ボールの中心軌跡、 B2:第二外底側部を転動する第二ボールの中心軌跡、 B3:第二外開口側部を転動する第二ボールの中心軌跡、 L1:外側ジョイント部材の中心軸線、 O:ジョイント中心、 θ1:最大常用角
図1
図2
図3
図4
図5
図6