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特許7122858水系バインダー樹脂組成物、非水系電池用スラリー、非水系電池電極、非水系電池セパレータ、及び非水系電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】水系バインダー樹脂組成物、非水系電池用スラリー、非水系電池電極、非水系電池セパレータ、及び非水系電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220815BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20220815BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20220815BHJP
   C08L 25/14 20060101ALI20220815BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20220815BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220815BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20220815BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20220815BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20220815BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F212/08
C08F220/12
C08L25/14
C08L33/06
H01M10/0569
H01M50/414
H01M50/443 M
H01M50/446
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018091761
(22)【出願日】2018-05-10
(65)【公開番号】P2018198199
(43)【公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017102655
(32)【優先日】2017-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】倉田 智規
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 充
(72)【発明者】
【氏名】内屋敷 純也
(72)【発明者】
【氏名】堀越 秀雄
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-106354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
C08F 212/08
C08F 220/12
C08L 25/14
C08L 33/06
H01M 10/0569
H01M 50/414
H01M 50/443
H01M 50/446
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系バインダー樹脂組成物であって、
前記水系バインダー樹脂組成物がバインダー樹脂と水性媒質(e)とを含み、
前記バインダー樹脂がエチレン性不飽和単量体(a)の共重合体であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、
エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)と、
スチレン(a2)と、
共役ジエン構造を有するジエン類単量体(a3)と、
2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)と
を含み、
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)単位の含有割合が10~70質量%であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)単位の含有割合が8~60質量%であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)単位の含有割合が0.01~10質量%であり、
前記バインダー樹脂のプロピオン酸プロピルに対する膨潤率1(WB)が450%以下であり、
前記バインダー樹脂の炭酸ジメチルに対する膨潤率2(WC)が300%以下であり、かつ、
前記膨潤率1(WB)と前記膨潤率2(WC)との比(膨潤率1/膨潤率2、WB/WC)が0.8~1.5であり、
なお、前記膨潤率1(WB)は、前記水系バインダー樹脂組成物中の水性媒質を乾燥させて出来るキャストフィルムにおいて、60℃で24時間プロピオン酸プロピルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率であり、
前記膨潤率2(WC)は、前記キャストフィルムにおいて、60℃で24時間炭酸ジメチルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率であることを特徴とする水系バインダー樹脂組成物。
【請求項2】
前記水系バインダー樹脂組成物が水性媒質(e)に乳化分散しているエマルジョンである、請求項1に記載の水系バインダー樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)単位の含有割合が0.01~5質量%であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)単位の含有割合が8~60質量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水系バインダー樹脂組成物。
【請求項4】
非水系電池に使用される水系バインダー樹脂組成物であって、
前記水系バインダー樹脂組成物がバインダー樹脂と水性媒質とを含み、
前記バインダー樹脂のプロピオン酸プロピルに対する膨潤率1(WB)が450%以下であり、
前記バインダー樹脂の炭酸ジメチルに対する膨潤率2(WC)が300%以下であり、かつ、
前記膨潤率1(WB)と前記膨潤率2(WC)との比(膨潤率1/膨潤率2、WB/WC)が0.8~1.5であることを特徴とする水系バインダー樹脂組成物。
なお、前記膨潤率1(WB)は、前記水系バインダー樹脂組成物中の水性媒質を乾燥させて出来るキャストフィルムにおいて、60℃で24時間プロピオン酸プロピルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率であり、
前記膨潤率2(WC)は、前記キャストフィルムにおいて、60℃で24時間炭酸ジメチルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率である。
【請求項5】
非水系電池に用いられる請求項1~の何れか1項に記載の水系バインダー樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の水系バインダー樹脂組成物と、活物質とを含むことを特徴とする非水系電池電極用スラリー。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の水系バインダー樹脂組成物と、非導電性粒子とを含むことを特徴とする非水系電池セパレータ用スラリー。
【請求項8】
請求項記載の非水系電池電極用スラリーを用いて形成されたものであることを特徴とする非水系電池電極。
【請求項9】
請求項記載の非水系電池セパレータ用スラリーを用いて形成されたものであることを特徴とする非水系電池セパレータ。
【請求項10】
請求項に記載の非水系電池電極若しくは請求項に記載の非水系電池セパレータと、カルボン酸エステル系電解液と直鎖カーボネート系電解液と、
を備える非水系電池であって、
前記カルボン酸エステル系電解液が、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、及びプロピオン酸プロピルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記直鎖カーボネート系電解液が炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、及び炭酸エチルメチルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする非水系電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系バインダー樹脂組成物、非水系電池用スラリー、該非水系電池用スラリーを用いて形成された非水系電池電極、該非水系電池用スラリーを用いて形成された非水系電池セパレータ、及び該非水系電池電極若しくは該非水系電池セパレータを備える非水系電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系電池としてリチウムイオン二次電池が代表例として挙げられる。非水系電池が小型化、軽量化の面からノート型パソコン、携帯電話、電動工具、電子・通信機器の電源として使用されている。また、最近では環境車両適用の観点から電気自動車やハイブリッド自動車用にも使用されている。その中で、非水系電池の高出力化、高容量化、長寿命化等が強く求められてきている。
【0003】
非水系電池は、金属酸化物などを活物質とした正極、黒鉛等の炭素材料を活物質とした負極、セパレータ、及び電解液溶剤から構成されており、イオンが正極と負極間を移動することにより電池の充放電が行われる二次電池である。
【0004】
正極は、金属酸化物とバインダーから成る正極用スラリーをアルミニウム箔などの正極集電体表面に塗布し、乾燥させた後に、適当な大きさに切断することにより得られる。負極は、炭素材料とバインダーから成る負極用スラリーを銅箔などの負極集電体表面に塗布し、乾燥させた後に、適当な大きさに切断することにより得られる。
【0005】
正極及び負極に使用されるバインダーには、活物質同士及び活物質と集電体を結着させ、集電体からの活物質の剥離を防止させる役割がある。バインダーとして、有機溶剤系のN-メチロールピロリドン(NMP)を溶剤としたポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダーがよく知られている。しかしながら、このバインダーは活物質同士及び活物質と集電体との結着性が低く、実際に使用するには多量のバインダーを必要とし、結果として非水系電池の容量が低下する欠点がある。またバインダーに高価な有機溶剤であるNMPを使用しているため、最終製品の価格、及び電極用スラリーまたは集電体作製時の作業環境保全にも問題があった。
【0006】
これらの問題を解決する方法として、従来から水分散系バインダーの開発が進められておる。たとえば、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を併用したスチレン-ブタジエンゴム(SBR)系の水分散体が知られている。このSBR系分散体は、水分散体であるため安価であり、作業環境保全の観点から有利である。また、活物質同士及び活物質と集電体との結着性が比較的良好なことから、PVDF系バインダーよりも少ない使用量で電極の生産が可能であり、結果として非水系電池の高出力化、及び高容量化ができるという利点がある。これらのことから、SBR系分散体は、水系バインダーとして広く使用されている。
また、セパレータは樹脂多孔質膜などの有機基材が一般的に用いられてきた。近年は耐熱性等の付与のため、基材の少なくとも一方の面にバインダーと非導電性粒子とを含むセパレータ用スラリーを塗布し、乾燥させる方法が知られている(特許文献1)。
【0007】
ところで、非水系電池に使用される電解液溶剤には、一般にカーボネート類や難燃性のイオン液体が用いられる。特許文献2では、水分散系バインダーとしてSBRを用い、電解液溶剤としてカーボネート類とカルボン酸エステルを併用する方法が提案されている。実施例1では、カルボン酸エステルを電解液中の40%混合することにより、充放電サイクル特性が向上することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-008966号公報
【文献】特開2013-137875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の通り、電解液溶剤としてカーボネート類とカルボン酸エステルを併用する方法がサイクル特性の改善に有効であることが知られているが、電極又はセパレータ用バインダーとして従来の水分散系バインダーを用いた場合、車載等の室温よりも高温を想定した環境下での充放電サイクル特性が大幅に低下するという問題があった。
【0010】
本発明は、従来技術の問題点を解決し、カーボネート類及びカルボン酸エステルへの耐電解液性が高く、高温での充放電サイクル時の寿命特性に優れた非水系電池が得られる水系バインダー樹脂組成物を提供することを目的とする。また、それを用いて得られる非水系電池用スラリー、非水系電池電極、非水系電池用セパレータ、及び非水系電池電極若しくは非水系電池用セパレータを含む非水系電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、カルボン酸エステル及びカーボネート類それぞれに対するバインダーの膨潤率の差を小さくすることで、電解液にカルボン酸エステルとカーボネート類を併用した電池の充放電サイクル特性を向上できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、下記[1]~[11]に関するものである。
[1] 水系バインダー樹脂組成物であって、
前記水系バインダー樹脂組成物がバインダー樹脂と水性媒質(e)とを含み、
前記バインダー樹脂がエチレン性不飽和単量体(a)の共重合体であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、
エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)と、
スチレン(a2)と、
共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)と、
2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)と
を必須として含み、
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)単位の含有割合が10~70質量%であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)単位の含有割合が8~60質量%であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)単位の含有割合が0.01~10質量%であることを特徴とする水系バインダー樹脂組成物。
[2] 前記バインダー樹脂のプロピオン酸プロピルに対する膨潤率1(WB)が450%以下であり、
前記バインダー樹脂の炭酸ジメチルに対する膨潤率2(WC)が300%以下であり、かつ、
前記膨潤率1(WB)と前記膨潤率2(WC)との比(膨潤率1/膨潤率2、WB/WC)が0.8~1.5であることを特徴とする[1]に記載の水系バインダー樹脂組成物。
なお、前記膨潤率1(WB)は、前記水系バインダー樹脂組成物中の水性媒質を乾燥させて出来るキャストフィルムにおいて、60℃1日間プロピオン酸プロピルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率であり、
前記膨潤率2(WC)は、前記キャストフィルムにおいて、60℃1日間炭酸ジメチルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率である。
[3] 前記水系バインダー樹脂組成物が前記エチレン性不飽和単量体を界面活性剤(a3)の存在下で乳化重合して得られることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の水系バインダー樹脂組成物。
[4] 前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)単位の含有割合が0.01~5質量%であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)単位の含有割合が8~60質量%である
ことを特徴とする[1]~[3]の何れかに記載の水系バインダー樹脂組成物。
[5] 非水系電池に使用される水系バインダー樹脂組成物であって、
前記水系バインダー樹脂組成物がバインダー樹脂と水性媒質とを含み、
前記バインダー樹脂のプロピオン酸プロピルに対する膨潤率1(WB)が450%以下であり、
前記バインダー樹脂の炭酸ジメチルに対する膨潤率2(WC)が300%以下であり、かつ、
前記膨潤率1(WB)と前記膨潤率2(WC)との比(膨潤率1/膨潤率2、WB/WC)が0.8~1.5であることを特徴とする水系バインダー樹脂組成物。
なお、前記膨潤率1(WB)は、前記水系バインダー樹脂組成物中の水性媒質を乾燥させて出来るキャストフィルムにおいて、60℃で24時間プロピオン酸プロピルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率であり、
前記膨潤率2(WC)は、前記キャストフィルムにおいて、60℃で24時間炭酸ジメチルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率である。
[6]非水系電池に用いられる[1]~[5]の何れかに記載の水系バインダー樹脂組成物。
[7] [1]~[6]の何れかに記載の水系バインダー樹脂組成物と、活物質とを含むことを特徴とする非水系電池電極用スラリー。
[8] [1]~[6]の何れかに記載の水系バインダー樹脂組成物と、非導電性粒子とを含むことを特徴とする非水系電池セパレータ用スラリー。
[9] [7]記載の非水系電池電極用スラリーを用いて形成されたものであることを特徴とする非水系電池電極。
[10] [8]記載の非水系電池セパレータ用スラリーを用いて形成されたものであることを特徴とする非水系電池セパレータ。
[11] [9]記載の前記非水系電池電極若しくは[10]に記載の非水系電池セパレータと、カルボン酸エステル系電解液と直鎖カーボネート系電解液と、を備える非水系電池であって、
前記カルボン酸エステル系電解液が、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、及びプロピオン酸プロピルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記直鎖カーボネート系電解液が炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、及び炭酸エチルメチルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする非水系電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水系バインダー樹脂組成物からなる非水系電池用スラリーを用いることより、水分散系でカルボン酸エステルとカーボネート類を併用した電解液組成の仕様でも耐電解液性を有する非水系電池電極又は非水系電池用セパレータを提供することができる。また、これにより、本発明の非水系電池の充放電高温サイクル特性を向上することができ、車載用途等室温より高温になる環境での電池性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「水系バインダー樹脂組成物(A1)」
本実施形態の水系バインダー樹脂組成物(以下「バインダー」「(A1)]と略記する場合がある。)は、バインダー樹脂と水性媒質(e)とを含む。前記バインダー樹脂はエチレン性不飽和単量体(a)の共重合体である。
【0015】
本実施形態にかかるエチレン性不飽和単量体(a)は、エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)、スチレン(a2)、共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)、及び2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)を必須として含み、前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)単位の含有割合が10~70質量%であり、前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)単位の含有割合が8~60質量%であり、前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)単位の含有割合が0.01~10質量%である。
【0016】
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、(a1)~(a4)のいずれでもない他のエチレン性不飽和単量体(a5)を含むことが好ましい。
本実施形態の水系バインダー樹脂組成物(A1)は、例えば、前記エチレン性不飽和単量体(a)を界面活性剤(b)の存在下で乳化重合して得られる。
【0017】
ただし、前記2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)が前記エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)又は前記共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)にも該当する場合は、(a4)として扱うものとする。つまり、前記2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)は前記エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)、前記共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)、及び他のエチレン性不飽和単量体(a5)を含まない。
さらに、前記エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)が前記共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)にも該当する場合は、(a1)として扱うものとする。つまり、前記エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)は、共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)及び2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)、及び他のエチレン性不飽和単量体(a5)の何れも含まないとする。
【0018】
本実施形態の水系バインダー樹脂組成物(A1)に含められているバインダー樹脂のプロピオン酸プロピルに対する膨潤率1(WB)と炭酸ジメチルに対する膨潤率2(WC)は、後述の測定方法で評価される。本実施形態の水系バインダー樹脂組成物(A1)は、前記バインダー樹脂の膨潤率1(WB)が450%以下であり、前記バインダー樹脂の膨潤率2(WC)が300%以下であり、かつ、前記膨潤率1(WB)と前記膨潤率2(WC)との比(膨潤率1/膨潤率2、WB/WC)が0.8~1.5であることが好ましい。
【0019】
[エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)]
エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)は、エチレン性不飽和結合が1個のカルボン酸のエステルであり、例えば下記式(1)のような構造を有する。
【0020】
【化1】
【0021】
式中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、Rは水酸基で一部又は全部の水素原子が置換されていても良い炭素数1~20の直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基、又は芳香族基を表す。
「それぞれ独立に」とは、化合物に含まれる複数個のRが同一でも互いに異なっていてもよいことを意味する。
【0022】
を構成する炭素数1~20のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等を挙げることができる。炭素数1~2のアルコキシ基の具体例としてはメトキシ基及びエトキシ基が挙げられる。炭素数2~6のアルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等を挙げることができる。
【0023】
具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸エステル類等が好ましく挙げられる。これらエチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の中でも、乳化重合の容易さや耐溶出性の観点から、(メタ)アクリル酸-メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルを用いることが好ましい。
【0024】
[共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)]
共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2‐クロロ‐1,3‐ブタジエン、2‐フェニル‐1,3‐ブタジエン、3‐メチル‐1,3‐ペンタジエン、イソプレン(2‐メチル‐1,3‐ブタジエン)等が挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。
【0025】
[2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)]
2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)は、例えば、ベンゼン環に2つ以上のエチレン性不飽和結合を含む構造を有するビニルベンゼン類単量体である。ビニルベンゼン類単量体の具体例は、ジビニルベンゼンである。
【0026】
また、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)は、例えば、多官能アクリレートであってもよい。多官能アクリレートのモノマーとしては、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ペンタグリセロールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセリントリメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。これらの中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましく、トリメチロールプロパントリメタクリレートがさらに好ましい。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
[他のエチレン性不飽和単量体(a5)]
他のエチレン性不飽和単量体(a5)は(a1)~(a4)以外のエチレン性不飽和単量体を表し、例えばスルホ基、カルボキシル基、リン酸基などを含む酸又はその塩やエステルであるエチレン性不飽和単量体や、ビニルエステル、反応性界面活性剤などが挙げられる。
【0028】
カルボキシル基を含むエチレン性不飽和単量体の具体例としては、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、β‐カルボキシエチルアクリレート、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル等が挙げられ、その中でもイタコン酸が好ましい。スルホ基を含むエチレン性不飽和単量体の具体例は、p-スチレンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸ソーダ、が挙げられる。
【0029】
リン酸基を含む酸であるエチレン性不飽和単量体の具体例は、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート、ビス(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)ホスフェート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート、3-クロロ2-アシッドホスホオキシプロピルメタクリレート、メタクロイルオキシエチルアシッドホスフェート・モノエタノールアミン塩などが挙げられる。
ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどが挙げられる。
反応性界面活性剤の具体例は、以下の化学式(2)~化学式(5)で表される。
【0030】
【化2】
【0031】
(式(2)中、Rはアルキル基、nは10~40の整数である。)
【0032】
【化3】
【0033】
(式(3)中、lは10~12の整数、mは10~40の整数である。)
【0034】
【化4】
【0035】
(式(4)中、Rはアルキル基、MはNHまたはNaである。)
【0036】
【化5】
【0037】
(式(5)中、Rはアルキル基、MはNHまたはNaである。)
【0038】
[単量体の混合比]
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)単位の含有割合が10~70質量%であり、17~70質量%が好ましく、より好ましくは15~68質量%であり、さらに好ましくは20~65質量%である。エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)の含有割合を10質量%以上とすれば、バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)が高くなり過ぎず、かつカルボン酸エステルに対する膨潤率が低くなり過ぎない。また、エチレン性不飽和結合が1個のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)の含有割合を70質量%以下とすれば、カルボン酸エステルに対する膨潤率が高くなり過ぎず、カーボネート類に対する膨潤率との差を小さくすることができる。
【0039】
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記スチレン(a2)単位の含有割合は15~50質量%であることが好ましく、より好ましくは20~50質量%であり、さらに好ましくは30~50質量%である。スチレン(a2)の含有割合を15%以上とすれば、活物質に対し良好な密着性を示す。また、スチレン(a2)の含有割合を50質量%以下とすれば、バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)が高くなり過ぎず、良好な可撓性を示す電極又はセパレータを作製することが出来る。
【0040】
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)単位の含有割合が8~60質量%であり、好ましくは8~50質量%であり、よりに好ましくは8~40質量%である。共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)単位の含有割合が8質量%以上とすれば、可撓性が良好な電極又はセパレータを作製することが出来、共役ジエン構造を含むジエン類単量体(a3)単位の含有割合を40質量%以下とすれば、電流に対し安定なバインダーを作製することが出来る。
【0041】
前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、前記2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)単位の含有割合が0.01~10質量%であり、0.01~5質量%が好ましく、より好ましくは0.02~5質量%であり、さらに好ましくは0.04~5質量%である。前記2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)単位の含有割合を0.01以上とすれば、電解液に対する膨潤や溶出を抑制することが出来る。また、前記2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(a4)単位の含有割合を10質量%以下とすることで、可撓性が良好な電極又はセパレータを作製することが出来る。
【0042】
また、他のエチレン性不飽和単量体(a5)(例えばスルホ基、カルボキシル基、リン酸基などを含む酸又はその塩であるエチレン性不飽和単量体や、反応性界面活性剤等)を含む場合、前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計に対して、他のエチレン性不飽和単量体(a5)(例えば、反応性界面活性剤)単位の含有割合が0.1~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~5質量%であり、さらに好ましくは0.5~5質量%である。前記他のエチレン性不飽和単量体(a5)の含有割合を0.1質量%以上とすることで、機械的安定性が良好なバインダーを得ることが出来る。また、前記他のエチレン性不飽和単量体(a5)の含有割合を10質量%以下とすることで、粘度が低く、スラリーの粘度上昇を抑制することが出来る。
【0043】
[界面活性剤(b)]
本実施形態において乳化重合する際に用いられる界面活性剤(b)としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0044】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩等が挙げられる。
【0045】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フィニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0046】
上記の界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、反応性界面活性剤は、特に制限されるものではないが、粒子の安定性が向上するため、より好ましい。本発明では、反応性界面活性剤の中に、エチレン性不飽和性結合を含む反応性界面活性剤は、界面活性剤(b)に含まれないとする。このようなエチレン性不飽和性反応性界面活性剤は、エチレン性不飽和単量体(a5)に分類する。すなわち、本発明の一実施態様の水系バインダー樹脂組成物(A1)は、エチレン性不飽和結合を有する反応性界面活性剤を由来する構造を含むバインダー樹脂を含んでもよい。
【0047】
反応性界面活性剤を使用する場合、その量は界面活性剤(b)及び反応性界面活性剤の合計に対して10~100質量%であることが好ましく、20~100質量%であることがより好ましく、30~100質量%であることがさらに好ましい。
【0048】
界面活性剤(b)及び反応性界面活性剤の合計量は、反応性界面活性剤を除く全モノマー成分(前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計から反応性界面活性剤を除いた量)100質量部に対して0.1~3.5質量部が好ましく、より好ましくは0.1~3.0質量部であり、さらに好ましくは0.2~2.5質量部である。界面活性剤(b)及び反応性界面活性剤の合計量が、反応性界面活性剤を除く全モノマー成分100質量部に対して0.1質量部以上にすることにより、重合時のポリマー転化率を高くすることが出来、3.5質量部以下とすることにより電池の内部抵抗が低くなるため好ましい。
【0049】
[塩基性物質(c)]
本実施形態においては、バインダーを製造するために行う乳化重合中及び/または乳化重合終了後に塩基性物質を加えて、エチレン性不飽和単量体に含まれるエチレン性不飽和カルボン酸を中和し、pHを調整する事により、乳化重合中のエチレン性不飽和単量体及び/または乳化重合終了後のバインダーの機械的安定性、化学的安定性を向上させてもよい。
【0050】
水性バインダー樹脂組成物(A1)のpHは、1.5~10であることが好ましく、より好ましくは5~9であり、さらに好ましくは6~9である。pHが1.5~10の範囲内であれば、スラリーが安定なものとなり活物質や非導電性粒子の沈降を防ぐことが出来る。
【0051】
塩基性物質としては、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。これらの塩基性物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
[ラジカル重合開始剤(d)]
乳化重合の際に用いられるラジカル重合開始剤(d)としては、特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、などの過硫酸塩、過酸化水素、アゾ系化合物、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。中でも、過硫酸塩や有機過酸化物が好ましい。
【0053】
ラジカル重合開始剤の量は全モノマー成分(前記エチレン性不飽和単量体(a)の合計)100質量部に対して0.1~3.0質量部が好ましく、より好ましくは0.1~2.0質量部であり、さらに好ましくは0.1~1.5質量部である。ラジカル重合開始剤の量は全モノマー成分100質量部に対して0.1質量部以上であれば、重合時のポリマー転化率を高くすることが出来、3.0質量部以下であれば、樹脂の分子量が十分高くなり、電解液に対する膨潤率を下げることが出来る。
【0054】
また、本実施形態においては、必要に応じて、乳化重合の際にラジカル重合開始剤と、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とを併用して、レドックス重合してもよい。
【0055】
[水性媒質(e)]
本実施形態においては、水性媒質(e)として水を用いることができる。なお、本実施形態においては、得られるバインダーの重合安定性を損なわない限り、水性媒質として、水に親水性の溶媒を添加したものを用いてもよい。水に添加する親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及びN‐メチルピロリドン等が挙げられる。
【0056】
水性バインダー樹脂組成物(A1)の不揮発分は、好ましくは20~60質量%、より好ましくは25~55質量%、さらに好ましくは30~50質量%である。
【0057】
水性バインダー樹脂組成物(A1)の粘度は、1~5000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは1~3000mPa・sであり、さらに好ましくは1~2000mPa・sである。粘度を5000mPa・s以下とすることにより、スラリー作製時のバインダーのロス削減、及びスラリーの脱泡工程の短縮が可能となる。本発明における水性バインダー樹脂組成物(A1)の粘度は、ブルックフィールド型粘度計を用いて、液温23℃、回転数60rpm、No.1またはNo.2またはNo.3ローターにて算出できる。また、不揮発分は、皿またはプレートなど平板状の容器に、樹脂を約1g秤量し、105℃で1時間乾燥させた後の残分として算出する。
水性媒質の量は、重合安定性を損なわない限り特に制限は無いが、上述の好ましい不揮発分及び粘度を達成できるよう調整することが好ましい。
【0058】
「水性バインダー樹脂組成物(A1)の製造方法」
本実施形態においてバインダーを製造するために用いる乳化重合法としては、例えば、乳化重合に使用する成分を全て一括して仕込んで乳化重合する方法や、乳化重合に使用する各成分を連続供給しながら乳化重合する方法等が適用される。乳化重合は、通常30~90℃の温度で攪拌しながら行う。
本実施形態において、水性バインダー樹脂組成物(A1)は、水性媒質中にバインダー樹脂が分散した分散液として得られる。
【0059】
[バインダー樹脂及びその膨潤率の測定方法]
本発明にかかるバインダー樹脂は、本発明の水系バインダー樹脂組成物(A1)中の水性媒質を乾燥させて得られる。
膨潤率1(WB)は、前記水系バインダー樹脂組成物(A1)中の水性媒質を乾燥させて出来るキャストフィルム(バインダー樹脂)において、60℃1日間プロピオン酸プロピルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率である。また、膨潤率2(WC)は、前記キャストフィルムにおいて、60℃1日間炭酸ジメチルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率である。乾燥方法としては、例えば、水性媒質が水である場合、組成物中の水を50℃で6時間ホットプレート上で乾燥させた後、50℃で12時間真空乾燥させ、20mm×20mm×0.5mmのキャストフィルムを得ることが出来る。
【0060】
本発明のバインダー樹脂の膨潤率は、具体的には以下の方法でn=2で測定した数値の平均値である。
まずポリエチレン製シャーレの上に水系バインダー樹脂組成物を塗布し、50℃で6時間ホットプレート上で乾燥させる。ここで、バインダー樹脂組成物の塗布量は、乾燥後に0.5mm厚のフィルムが得られるように固形分濃度やフィルムサイズから計算する。基材から水系バインダー樹脂組成物の乾燥物を剥がし、0.5mm厚のキャストフィルムを得た後、20mm×20mmのサイズを2枚カッターナイフで切り出す。70mLの密閉容器にプロピオン酸プロピル10gを入れた容器B、及び70mLの密閉容器に炭酸ジメチル10gを入れた容器Cを用意し、切り出したキャストフィルムをそれぞれ1枚ずつ入れる。60℃で24時間浸漬させた後に取り出し、浸漬後質量を測定する。その後、それぞれのキャストフィルムを100℃で12時間真空乾燥機で乾燥させ、再乾燥質量を測定する。測定した各質量を用い、以下の計算式[1]に従ってプロピオン酸プロピル及び炭酸ジメチルそれぞれの溶媒に対する膨潤率を算出する。
【0061】
膨潤率(%)=(浸漬後質量-浸漬後再乾燥質量)/浸漬後再乾燥質量×100 [1]
【0062】
プロピオン酸プロピルへ浸漬した場合の膨潤率1(WB)及び炭酸ジメチルへ浸漬した場合の膨潤率2(WC)から、比(WB/WC)を算出する。
本発明のバインダー樹脂のWB/WCは0.8~1.5であり、好ましくは0.9~1.4であり、より好ましくは0.9~1.3である。
バインダー樹脂のWB/WCが0.8未満のときとは、リチウムイオン電池の電解液に溶媒として用いるカルボン酸エステルに対するバインダー樹脂の膨潤率がカーボネート類に対する膨潤率より極端に高い場合である。本発明者らは、カルボン酸エステルに対するバインダー樹脂の膨潤率が特定の値の範囲内でリチウムイオン電池のサイクル試験を繰り返すと、カーボネート類の電気分解によるカルボン酸エステル濃度の上昇を抑制でき、サイクル特性を良好に保てることを見出した。
【0063】
一方、WB/WCが1.5超のときは、カルボン酸エステルに対する膨潤率がカーボネート類に対するバインダー樹脂の膨潤率より極端に低い場合である。カルボン酸エステルに対する膨潤率が特定の値の範囲内であれば、バインダー樹脂とカルボン酸エステルとの液馴染みが良好であり、電極中へ電解液が浸み込むことから、電解液にカルボン酸エステルを添加する効果が十分に得られる。またセパレータにも十分に浸み込むことで、リチウムイオン透過性が向上する。
【0064】
プロピオン酸プロピルに対するバインダー樹脂の膨潤率1(WB)は好ましくは0~450%、より好ましくは0~400、さらに好ましくは0~350%である。WBが0~450%であれば、活物質層間の結着力低下による活物質の滑落を抑制でき、電池性能、特に充放電サイクル特性を良好に保つことができる。
炭酸ジメチルに対するバインダー樹脂の膨潤率2(WC)は好ましくは0~300%、より好ましくは0~270%、さらに好ましくは0~240%である。WCが0~300%であれば、活物質層間の結着力低下による活物質の滑落を抑制でき、電池性能を良好に保つことができる。
【0065】
「水系バインダー樹脂組成物(A11)」
本発明のその他の実施形態の水系バインダー樹脂組成物(A11)は、非水系電池に使用される水系バインダー樹脂組成物であって、バインダー樹脂と水性媒質とを含む。前記バインダー樹脂のプロピオン酸プロピルに対する膨潤率1(WB)が450%以下であり、前記バインダー樹脂の炭酸ジメチルに対する膨潤率2(WC)が300%以下であり、かつ、前記膨潤率1(WB)と前記膨潤率2(WC)との比(膨潤率1/膨潤率2、WB/WC)が0.8~1.5であることを特徴とする。なお、前記膨潤率1(WB)は、前記水系バインダー樹脂組成物中の水性媒質を乾燥させて出来るキャストフィルムにおいて、60℃で24時間プロピオン酸プロピルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率であり、前記膨潤率2(WC)は、前記キャストフィルムにおいて、60℃で24時間炭酸ジメチルへ浸漬する測定方法で得られる膨潤率である。
水系バインダー樹脂組成物(A11)の製造方法の一例としては、例えば、上記水系バインダー樹脂組成物(A1)の製造方法と同様な方法を用いることができる。
【0066】
「非水系電池電極用スラリー」
次に、本実施形態の非水系電池電極用スラリーについて詳述する。
本実施形態の非水系電池電極用スラリー(以下「電極用スラリー」と略記する場合がある。)は、本実施形態の水性バインダー樹脂組成物(A1)と活物質(A2)とを含む。
【0067】
水性バインダー樹脂組成物(A1)の添加量は、不揮発分換算で活物質(A2)100質量部に対して0.2~3.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.3~2.5質量部であり、さらに好ましくは0.5~2.0質量部である。バインダー分散液の使用量が0.2質量部以上であると、電極用スラリーを塗布乾燥後の活物質と集電体との結着性に優れ、かつ充放電高温サイクル特性が向上する傾向があり、3質量部以下であると、本実施形態の電極用スラリーを用いて得られる非水系電池の初期容量が大きくなる傾向にある。
【0068】
[活物質(A2)]
活物質(A2)としては、リチウム等をドープ/脱ドープ可能な材料であればよい。本実施形態の非水系電池電極用スラリーが負極形成用のものである場合、例えば、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー、あるいはコークス、石油コークス、ピッチコークス、石炭コークス等のコークス類、ポリマー炭、カーボンファイバー、アセチレンブラック等のカーボンブラック、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛類、チタン酸リチウム、シリコン等が挙げられる。これら活物質の中でも、体積当たりのエネルギー密度が大きい点から、カーボンブラック、グラファイト、天然黒鉛、チタン酸リチウム、シリコン等を用いることが好ましい。中でも、炭素材料、すなわち、コークス、石油コークス、ピッチコークス、石炭コークス等のコークス類、ポリマー炭、カーボンファイバー、アセチレンブラック等のカーボンブラック、及び人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛類であると、本発明のバインダーによる結着性を向上させる効果が顕著である。
【0069】
本実施形態の非水系電池電極用スラリーが正極形成用のものである場合、正極活物質としては、非水系電池に用いることができる正極活物質であれば特に限定されるものではなく、コバルト酸リチウム(LiCoO)、Ni-Co-Mn系のリチウム複合酸化物、Ni-Mn-Al系のリチウム複合酸化物、Ni-Co-Al系のリチウム複合酸化物などのニッケルを含むリチウム複合酸化物や、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)、オリビン型燐酸鉄リチウム、TiS、MnO、MoO、V、などのカルコゲン化合物のうちの1種、あるいは複数種が組み合わせて用いられる。
【0070】
[増粘剤(A3)]
本発明の電極用スラリーは増粘剤(A3)を含むことができる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、または、これらのアンモニウム及びアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸、または、これらのアンモニウム塩及びアルカリ金属塩、ポリビニルアセトアミド(NVA)、または、NVA-アクリル酸ソーダ共重合体、ポリビニルアルコ-ル、ポリビニルピロリドン、等が挙げられる。これらの増粘剤の中でも、活物質が分散した電極用スラリーを容易に作製出来るため、カルボキシメチルセルロース、及びポリ(メタ)アクリル酸、または、これらのアンモニウム塩及びアルカリ金属塩、及びポリビニルアセトアミド(NVA)、または、NVA-アクリル酸ソーダ共重合体を用いることが好ましい。
【0071】
電極用スラリーに含まれる増粘剤(A3)の添加量は、活物質(A2)100質量部に対して0.5~1.5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.6~1.4質量部、さらに好ましくは0.7~1.3質量部である。電極用スラリーが前記の添加量で増粘剤を含有する場合、電極用スラリーの塗工性が良好なものとなるとともに、電極用スラリーを塗布して乾燥してなる活物質層における活物質同士及び活物質と集電体との結着性がより一層優れたものとなる。
【0072】
[非水系電極用スラリーの不揮発分及び粘度]
本実施形態の電極用スラリーは、不揮発分が好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは40~60質量%である。また電極用スラリーの粘度は、23℃において好ましくは500~20000mPa・sであり、より好ましくは1000~20000mPa・s、さらに好ましくは2000~20000mPa・sである。電極用スラリーの不揮発分や粘度がこの範囲に入っていると、集電板への塗布性が良好で、電極の生産性に優れる。
電極用スラリーの不揮発分は、分散媒の量により調整する。また電極用スラリーの粘度は、分散媒の量や増粘剤(A3)により調整する。
電極用スラリーの粘度及び不揮発分の調整に使用される分散媒は、水性媒質(a5)から選択できる。非水系バインダー樹脂組成物(A1)の作製時に使用した水性媒質(a5)と同じものを使用しても良いし、別の種類のものを加えても構わない。
【0073】
本実施形態の電極用スラリーを調製する方法としては、公知の方法を用いることができ特に限定されないが、例えば、水性バインダー樹脂組成物(A1)と、活物質(A2)と、必要に応じて含有される増粘剤(A3)と分散媒(水性媒質(a5))とを、攪拌式、回転式、または振とう式などの混合装置を使用して混合する方法が挙げられる。
電池の耐久性などの観点から、電極用スラリーのpHは、23℃において2~10であることが好ましく、より好ましくはpH4~9であり、さらに好ましくはpH6~9である。
【0074】
「非水系電池セパレータ用スラリー」
次に、本実施形態の非水系電池セパレータ用スラリーについて詳述する。
本実施形態の非水系電池セパレータ用スラリー(以下「セパレータ用スラリー」と略記する場合がある。)は、本実施形態の水性バインダー樹脂組成物(A1)と非導電性粒子(A4)とを含む。
【0075】
水性バインダー樹脂組成物(A1)の添加量は、不揮発分換算で非導電性粒子(A4)100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.3~7.5質量部であり、さらに好ましくは0.3~5.0質量部である。バインダー分散液の使用量が0.1質量部以上であると、セパレータ用スラリーを塗布乾燥後の非導電性粒子と基材との結着性に優れ、かつ耐久性に優れるセパレータを得ることが出来る。10質量部以下であると、リチウムイオン透過性に優れるセパレータを得ることができ、内部抵抗の低い電池を得ることが出来る。
【0076】
[非導電性粒子(A4)]
非導電性粒子(A4)としては、無機粒子、有機粒子を使用することが出来る。無機粒子としては、例えばアルミナ(酸化アルミニウム)、酸化チタン、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、ふっ化カルシウム、ふっ化バリウム、ジルコニア、シリカ、ゼオライト、カオリン、ベーマイト、などを挙げることが出来る。有機粒子としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリイミドアミド、アクリル樹脂、フェノール樹脂などを挙げることが出来る。これらは単独でも、2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0077】
[増粘剤(A3)]
本発明のセパレータ用スラリーは増粘剤(A3)を含むことができる。増粘剤としては、上述の通りである。
【0078】
セパレータ用スラリーに含まれる増粘剤(A3)の添加量は、非導電性粒子(A4)100質量部に対して0.1~10.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2~7.5質量部、さらに好ましくは0.3~5.0質量部である。セパレータ用スラリーが前記の添加量で増粘剤を含有する場合、セパレータ用スラリーの塗工性が良好なものとなるとともに、セパレータ用スラリーを塗布して乾燥してなる非導電性粒子層における非導電性粒子同士及び非導電性粒子と基材との結着性がより一層優れたものとなる。
【0079】
[非水系電池セパレータ用スラリーの不揮発分及び粘度]
本実施形態のセパレータ用スラリーは、不揮発分が好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~65質量%、さらに好ましくは30~60質量%である。またセパレータ用スラリーの粘度は、好ましくは23℃において500~20000mPa・sであり、より好ましくは1000~20000mPa・s、さらに好ましくは2000~20000mPa・sである。セパレータ用スラリーの不揮発分や粘度がこの範囲に入っていると、基材への塗布性が良好で、セパレータの生産性に優れる。
セパレータ用スラリーの不揮発分は、分散媒の量により調整する。またセパレータ用スラリーの粘度は、分散媒の量や増粘剤(A3)により調整する。
セパレータ用スラリーの粘度及び不揮発分の調整に使用される分散媒は、水性媒質(a5)から選択できる。非水系バインダー樹脂組成物(A1)の作製時に使用した水性媒質(a5)と同じものを使用しても良いし、別の種類のものを加えても構わない。
【0080】
本実施形態のセパレータ用スラリーを調製する方法としては、公知の方法を用いることができ特に限定されないが、例えば、水性バインダー樹脂組成物(A1)と、非導電性粒子(A4)(A2)と、必要に応じて含有される増粘剤(A3)と分散媒(水性媒質(a5))とを、攪拌式、回転式、または振とう式などの混合装置を使用して混合する方法が挙げられる。
電池の耐久性などの観点から、セパレータ用スラリーのpHは、23℃において2~10であることが好ましく、より好ましくはpH4~9であり、さらに好ましくはpH6~9である。
【0081】
「非水系電池用電極」
本実施形態の非水系電池用電極(A)は、本実施形態の電極用スラリーを用いて形成されたものである。
例えば、本実施形態の電極は、本実施形態の電極用スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて活物質層を形成した後、適当な大きさに切断することにより製造できる。
【0082】
本実施形態の電極に用いられる集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属性のものが挙げられ、特に限定されない。また、集電体の形状についても、特に限定されないが、通常、厚さ0.001~0.5mmのシート状のものが用いられる。
【0083】
電極用スラリーを集電体上に塗布する方法としては、一般的な塗布方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法及びスクイーズ法などを挙げることができる。これらの中でも、非水系電池電極に用いられるスラリーの粘性等の諸物性及び乾燥性に対して好適であり、良好な表面状態の塗布膜を得ることが可能である点で、ドクターブレード法、ナイフ法、又はエクストルージョン法を用いることが好ましい。
【0084】
電極用スラリーは、集電体の片面にのみ塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。電極用スラリーを集電体の両面に塗布する場合は、片面ずつ逐次塗布してもよいし、両面同時に塗布してもよい。また、電極用スラリーは、集電体の表面に連続して塗布してもよいし、間欠で塗布してもよい。電極用スラリーを塗布してなる塗布膜の厚さ、長さや幅は、電池の大きさなどに応じて、適宜、決定できる。
【0085】
電極用スラリーを塗布してなる塗布膜を乾燥して活物質層を形成する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、乾燥方法として、熱風、真空、(遠)赤外線、及び低温風を単独あるいは組み合わせて用いることができる。塗布膜を乾燥させる温度は、通常40~180℃の範囲であり、乾燥時間は、通常1~30分である。
【0086】
本実施形態においては、活物質層の形成された集電体を、電極として適当な大きさや形状にするために、切断する。活物質層の形成された集電体の切断方法は特に限定されないが、例えば、スリット、レーザー、ワイヤーカット、カッター、トムソン等を用いることができる。
【0087】
本実施形態においては、活物質の滑落を低減し、更に電極を薄くすることによる非水系電池のコンパクト化が可能であるため、活物質層の形成された集電体を切断する前または後に、必要に応じてプレスしてもよい。プレスの方法としては、一般的な方法を用いることができ、特に金型プレス法やロールプレス法を用いることが好ましい。プレス圧は、特に限定されないが、プレスによる活物質へのリチウムイオンのドープ/脱ドープに影響を及ぼさない範囲である0.5~5t/cmとすることが好ましい。
【0088】
「非水系電池用セパレータ」
本実施形態の非水系電池用セパレータは、本実施形態のセパレータ用スラリーを用いて形成されたものである。
例えば、本実施形態のセパレータは、本実施形態のセパレータ用スラリーを有機基材上に塗布し、乾燥させて本発明のバインダー樹脂組成物からなる耐熱層を形成した後、適当な大きさに切断することにより製造できる。
【0089】
本実施形態のセパレータに用いられる有機基材としては、従来のリチウムイオン電池用セパレータとして用いられる多孔性の樹脂膜が挙げられ、特に限定されない。多孔性の樹脂としては、ポリオレフィン系、ナイロン系、ポリエステル系などが挙げられ、形態としては織物、編物、不織布などが挙げられる。また、形状についても、特に限定されないが、通常、厚さ0.001~0.5mmのシート状のものが用いられる。
【0090】
セパレータ用スラリーを有機基材上に塗布する方法としては、一般的な塗布方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法及びスクイーズ法、セパレータ用スラリー中に基材を浸漬する浸漬法などを挙げることができる。これらの中でも、セパレータ用スラリーの粘性等の諸物性及び乾燥性に対して好適であり、良好な表面状態の塗布膜を得ることが可能である点で、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、又は浸漬法を用いることが好ましい。
【0091】
セパレータ用スラリーは、基材の片面にのみ塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。セパレータ用スラリーを集電体の両面に塗布する場合は、片面ずつ逐次塗布してもよいし、両面同時に塗布してもよい。また、セパレータ用スラリーは基材の表面に連続して塗布してもよいし、間欠で塗布してもよい。セパレータ用スラリーを塗布してなる塗布膜の厚さ、長さや幅は、電池の大きさなどに応じて、適宜、決定できる。
【0092】
セパレータ用スラリーを塗布してなる塗布膜を乾燥して耐熱層を形成する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、乾燥方法として、熱風、真空、(遠)赤外線、及び低温風を単独あるいは組み合わせて用いることができる。塗布膜を乾燥させる温度は、通常40~180℃の範囲であり、乾燥時間は、通常1~30分である。
【0093】
本実施形態においては、耐熱層の形成されたセパレータを、電極として適当な大きさや形状にするために、切断する。耐熱層の形成されたセパレータの切断方法は特に限定されないが、例えば、スリット、レーザー、ワイヤーカット、カッター、トムソン等を用いることができる。
【0094】
「非水系電池」
本実施形態の非水系電池(リチウムイオン二次電池)は、本実施形態の電極及びセパレータの少なくとも1つを含むものである。本実施形態の電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータ等の部品とが、外装体に収容されたものである。本実施形態においては、正極と負極のうちの一方または両方に本実施形態の電極を用いることができる。電極の形状としては、積層体や捲回体が挙げられ、特に限定されない。
【0095】
[電解液]
電解液は、電解質と、電解質を溶解する溶媒とを含むものである。
電解質としては、公知のリチウム塩を用いることができ、活物質(A2)の種類等に応じて適宜選択できる。電解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、CFSOLi、CHSOLi、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON、脂肪族カルボン酸リチウム等が挙げられる。
【0096】
電解質を溶解する溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジメチルカーボネート(DMC)等の公知のものを用いることができる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、カルボン酸エステル系溶媒(B)及び直鎖カーボネート系溶媒(C)を組合せたものを用い
ることが好ましい。
カルボン酸エステル系溶媒(B)としてはプロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル等が挙げられ、直鎖カーボネート系溶媒(C)としては炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル等が挙げられる。
【0097】
外装体としては、金属外装体やアルミラミネート外装体などを適宜使用できる。
電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型等、いずれの形状であってもよい。実施形態の電池は、公知の製造方法を用いて製造できる。
【実施例
【0098】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断りのない場合はそれぞれ「質量部」「質量%」を示す。
「評価方法」
実施例中のバインダーの計算Tg及び水性バインダー樹脂組成物(A1)の不揮発分については、上述の通りである。その他、実施例及び比較例で使用したバインダー、これらバインダーを用いて得た実施例及び比較例の電池の物性及び性能評価試験は、以下の方法により行った。
【0099】
(初期効率)
電池の容量を測定するために、電解液を注液した電池を定電流定電圧(CC(0.2C)-CV(上限電圧4.2V))充電を実施し、30分放置後、定電流(CC(0.2C))で、下限電圧2.75Vになるまで放電した。これを5サイクル継続し、後の2サイクル時の放電容量の平均を初期容量とし、以下の計算式[2]で初期効率を算出した。
【0100】
初期効率(%)=初期容量/理論容量×100 [2]
【0101】
(充放電サイクル特性)
電池の充放電サイクル試験は、60℃の条件下、CC-CV充電(上限電圧(4.2V)になるまでCC(1C)で充電し、CV(4.2V)で1/20Cになるまで充電する。30分静置後、CC放電(下限電圧(2.75V)になるまでCC(1C)で放電)を実施した。これを繰り返し行った。電池の充放電高温サイクル特性は、容量維持率、つまり1サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の割合を指標とした。容量維持率が80%以上の電池を充放電サイクル特性が良好なものとする。
【0102】
(水系バインダー組成物α1の作製)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、イオン交換水125部、スチレン43.8部、1,3-ブタジエン32.0部、アクリル酸n-ブチル8.5部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル1.9部、メタクリル酸メチル11.6部、イタコン酸1.0部、ジビニルベンゼン1.2部、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1.2部、重合開始剤として過硫酸カリウム1.0部を一括で仕込み、十分に撹拌した後、60℃に加温して8時間重合した。冷却後、アンモニア水1.4部とイオン交換水を添加して、樹脂の割合が40%のアニオン性水系エマルジョンである水系バインダー樹脂組成物Aを得た。粘度220mPa・s、pH.7.2であった。
なお、粘度は、ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、液温23℃、回転数60rpm、No.2またはNo.3ローターにて測定した。
また、プロピオン酸プロピル及び炭酸ジメチルに対する膨潤率を測定し、WB/WCを算出した。
【0103】
(水系バインダー樹脂組成物α2~13の合成)
表1の配合及び重合温度に変更した以外は、バインダーα1の合成と同様にしてアニオン性水系エマルジョンである水系バインダー樹脂組成物α2~13を得て、不揮発分、粘度、pH、膨潤率、WB/WCを求めた。
【0104】
(実施例1)
<正極用スラリー及び正極の作製>
LiNi1/3Mn1/3Co1/3を90部、導電補助剤としてアセチレンブラックを5部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン5部を混合したものに、N-メチルピロリドンを100部加えてさらに混合して正極用スラリーを作製した。
次いで、ドクターブレード法により、集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にロールプレス処理後の厚さが60μmになるように該組成物を塗布し、120℃で5分乾燥、プレス工程を経て正極活物質含有層を形成した。得られた正極活物質含有層を50mm×40mmに切り出し、導電タブをつけて正極を作製した。
【0105】
<負極用スラリー及び負極の作製>
活物質(SCMG(登録商標)-X、昭和電工社製)を100部、上記水系バインダー樹脂組成物Aを3.75部(不揮発分として1.5部)、及びCMC(重量平均分子量300万、置換度0.9)の2%水溶液を50部混合し、さらに水を28部添加して、実施例1の非水系電池電極(負極)スラリーを得た。
次いで、該スラリーを集電体となる厚さ10μmの銅箔の片面にロールプレス処理後の厚さが60μmとなるように塗布し、80℃で5分硬化し、プレス工程を経て負極活物質含有層を形成した。得られた負極活物質含有層を52mm×42mmに切り出し、導電タブをつけて負極を作製した。
【0106】
<電池の作製>
正極と負極との間にポリオレフィン系の多孔性フィルムからなるセパレータ(商品名:セルガード#2400、ポリエチレン製、10μm)を介在させて、正極と負極との活物質含有層が互いに対向するようにアルミラミネート外装体(電池パック)の中に収納した。この外装体中にLiPFの1.0mol/L(リットル)エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/プロピオン酸プロピル(PP)=30/40/30(体積比)にビニレンカーボネートを1質量%添加した電解液を注液し真空含浸を行い、注液部分を熱融着し、実施例1の非水系電池を得た。評価結果を表1と2に示す。
【0107】
(実施例2~8、比較例1~5)
<負極用スラリー及び負極の作製、電池の作製>
負極の作製に用いる活物質及び水系バインダー樹脂組成物を表1の水系バインダー樹脂組成物に変更した以外は、実施例1と同様にして、非水系電池電極用スラリー、非水系電池電極及び非水系電池を得た。評価結果を表1と2に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
表2に示した水系バインダー組成物及びその組成物を含む電極用スラリーを用いて作製された二次電池の評価結果から明らかなように、本発明の非水系電池電極用水系バインダー組成物より作製した実施例1~8の二次電池電極に含まれているバインダー樹脂は耐電解液性が高く充放電高温サイクル特性に優れるものであった。