(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】船外機
(51)【国際特許分類】
B63H 20/12 20060101AFI20220815BHJP
B63H 20/02 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
B63H20/12 100
B63H20/02 100
(21)【出願番号】P 2018092955
(22)【出願日】2018-05-14
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512013765
【氏名又は名称】マリーン カナダ アクイジション インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Marine Canada Acquisition Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 真
(72)【発明者】
【氏名】南條 盛彦
(72)【発明者】
【氏名】ノーム ディーン ダビッドソン
(72)【発明者】
【氏名】レイ タット ルン ウォン
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06276977(US,B1)
【文献】実開平02-006700(JP,U)
【文献】特開2005-193739(JP,A)
【文献】特開2003-320995(JP,A)
【文献】特開2006-219130(JP,A)
【文献】特開2006-306176(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0212568(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104670463(CN,A)
【文献】特開2015-054627(JP,A)
【文献】特開2005-153748(JP,A)
【文献】特開2005-239126(JP,A)
【文献】実開昭61-172899(JP,U)
【文献】米国特許第06402577(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/12
B63H 20/02
B63H 25/42
B63H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側面と、前記内側面で開口する内周面と、船体の後面に取付可能な取付部とがそれぞれに設けられ、左右方向に間隔を空けて配置された一対のクランプブラケットと、
前記一対のクランプブラケットの間に配置されており、左右方向に延びるチルト軸線まわりに前記一対のクランプブラケットに対して回転可能なスイベルブラケットと、
前記スイベルブラケットの上方の位置と前記クランプブラケットの前記内周面で取り囲まれた空間内の位置とを含む複数の位置に移動可能であり、側面視で少なくとも一部が前記クランプブラケットの前記内周面に取り囲まれた移動体と、
前記移動体を左右方向に貫通する支持軸と、
前記移動体の移動に伴って、上下方向に延びるステアリング軸線まわりに回転するステアリングシャフトと、
プロペラを回転させる動力を発生する原動機を含み、前記ステアリングシャフトと共に前記ステアリング軸線まわりに回転する船外機本体とを含む、船外機。
【請求項2】
前記移動体は、側面視で前記チルト軸線に重なる、請求項1に記載の船外機。
【請求項3】
前記
支持軸は、前記チルト軸線と平行または略平行な軸方向に延び
、
前記移動体は、前記支持軸に沿って前記支持軸の軸方向に移動可能である、請求項2に記載の船外機。
【請求項4】
前記支持軸は、前記クランプブラケットを貫通している、請求項3に記載の船外機。
【請求項5】
前記支持軸を支持するシャフトダンパーをさらに含む、請求項3または4に記載の船外機。
【請求項6】
前記スイベルブラケットは、前記チルト軸線を取り囲んでおり、前記クランプブラケットの前記内周面内に挿入された筒状部を含み、
前記移動体は、前記クランプブラケットの前記内周面および筒状部の両方に取り囲まれた空間内の位置に移動可能である、請求項1~5のいずれか一項に記載の船外機。
【請求項7】
前記ステアリングシャフトと共に前記ステアリング軸線まわりに回転する従動部材と、前記移動体よりも前記従動部材の近くに配置されており、前記移動体と共に前記移動体の移動方向に移動する駆動部材とを含み、前記移動体の移動を前記ステアリングシャフトの回転に変換する運動変換機構をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の船外機。
【請求項8】
前記駆動部材は、前記移動体よりも上下方向に短く、前記移動体よりも左右方向に短い、請求項7に記載の船外機。
【請求項9】
前記運動変換機構は、前記駆動部材を前記移動体の移動方向に案内するガイドをさらに含む、請求項7または8に記載の船外機。
【請求項10】
前記運動変換機構は、前記ガイドを支持するガイドダンパーをさらに含む、請求項9に記載の船外機。
【請求項11】
前記運動変換機構は、前記ステアリング軸線と平行または略平行な回転軸線まわりに回転可能であり、前記駆動部材から伝達された運動を前記従動部材の方に伝達する回転アームをさらに含む、請求項7または8に記載の船外機。
【請求項12】
前記
支持軸は、前記チルト軸線と平行または略平行な軸方向に延び
、
前記船外機は、前記支持軸に取り付けられ、前記スイベルブラケットに対する前記支持軸の回転を防止する固定ナット
をさらに含み、
前記移動体は、前記支持軸を取り囲むインナーチューブと、前記インナーチューブを回転させる電動モータと、前記インナーチューブまたは支持軸の回転に伴って、前記インナーチューブおよび支持軸を前記支持軸の軸方向に相対移動させる減速装置と、を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の船外機。
【請求項13】
前記船外機は、操作者が前記支持軸を回転させるときに前記操作者によって操作されるハンドルをさらに含み、
前記支持軸は、前記ハンドルが取り付けられたハンドル取付部を含む、請求項12に記載の船外機。
【請求項14】
前記支持軸は、前記固定ナットだけで前記スイベルブラケットに対する回転が防止されている、請求項12または13に記載の船外機。
【請求項15】
前記支持軸は、前記クランプブラケットに対して回転が防止されている、請求項12または13に記載の船外機。
【請求項16】
前記移動体は、前記移動体が一方の前記クランプブラケットの前記内周面に挿入された位置と、前記移動体が他方の前記クランプブラケットの前記内周面に挿入された位置と、の間で移動可能である、請求項1~15のいずれか一項に記載の船外機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶を推進させる船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、船外機を備える舶用推進装置が開示されている。舶用推進装置は、ト
ランサムに取り付けられるトランサムブラケットと、チルト軸線まわりに回転可能にトラ
ンサムブラケットに支持されたスイベルブラケットと、ステアリング軸線まわりに船外機
を回転させるステアリングシリンダとを含む。
ステアリングシリンダは、側面視において、トランサムブラケットの上方でかつ船外機
のカウルの下方の位置に配置されている。ステアリングシリンダは、スイベルブラケット
と一体である。ステアリングシリンダは、ピストン部材を収容している。ピストン部材が
ステアリングシリンダ内でステアリングシリンダの中心線に沿って移動すると、スイベル
チューブがステアリング軸線まわりに駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な舶用推進装置では、操舵用の油圧シリンダがスイベルブラケットの前方に配置
される。船外機をチルトアップさせると油圧シリンダがトランサムの前方に移動するため
、油圧シリンダを配置する空間を船内に確保しなければならない。特許文献1の舶用推進
装置は、これを回避するために、ステアリングシリンダをトランサムブラケットの上方に
配置している。
【0005】
しかしながら、特許文献1の舶用推進装置では、ステアリングシリンダが配置される空
間を、トランサムブラケットと船外機のカウルとの間に確保する必要があるので、カウル
を小型化する、もしくは、船外機全体を上方に移動させる必要がある。カウルを小さくす
ると、内燃機関などのカウル内に配置される装置のレイアウトがさらに制限される。船外
機全体を上方に移動させると、船外機をチルトアップさせたときに船体内に進入する船外
機の一部が大きくなる。そのため、より広いスペースを船体内に確保する必要がある。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、カウルの大きさと船外機本体の位置に影響を与えるこ
となく、船外機本体を操舵する移動体を後方に配置できる船外機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、内側面と、前記内側面で開口する内周面と、船体の後面に取り付け可能な取付部とがそれぞれに設けられ、左右方向に間隔を空けて配置された一対のクランプブラケットと、前記一対のクランプブラケットの間に配置されており、左右方向に延びるチルト軸線まわりに前記一対のクランプブラケットに対して回転可能なスイベルブラケットと、前記スイベルブラケットの上方の位置と前記クランプブラケットの前記内周面で取り囲まれた空間内の位置とを含む複数の位置に移動可能であり、側面視で少なくとも一部が前記クランプブラケットの前記内周面に取り囲まれた移動体と、前記移動体を左右方向に貫通する支持軸と、前記移動体の移動に伴って、上下方向に延びるステアリング軸線まわりに回転するステアリングシャフトと、プロペラを回転させる動力を発生する原動機を含み、前記ステアリングシャフトと共に前記ステアリング軸線まわりに回転する船外機本体とを含む、船外機を提供する。
【0008】
この構成によれば、プロペラを回転させる船外機本体が、移動体の移動に伴って、ステ
アリングシャフトと共にステアリング軸線まわりに回転する。移動体の少なくとも一部は
、側面視でクランプブラケットの内周面に取り囲まれている。したがって、移動体を配置
する空間をクランプブラケットとカウルとの間に設けなくてもよい。さらに、移動体がク
ランプブラケットの内周面内に移動可能なので、クランプブラケットを移動体の移動範囲
の側方に配置しなくてもよい。そのため、一対のクランプブラケットが左右方向に大型化
することを抑制できる。
【0009】
船外機本体がステアリング軸線まわりに左右方向に回転すると、右または左のクランプ
ブラケットに船外機本体が近づく。左右方向への一対のクランプブラケットの幅が大きい
と、船外機本体がクランプブラケットに接触するかもしれない。そのため、これを未然に
回避するために、クランプブラケットを前後方向に短くする、もしくは、クランプブラケ
ットを左右方向に薄くする必要がある。この構成によれば、一対のクランプブラケットの
幅を抑えることができるので、このような対策を行わなくてよい。
【0010】
前記実施形態において、前記移動体は、側面視で前記チルト軸線に重なっていてもよい
。
船外機本体がチルト軸線まわりに回転すると、移動体もチルト軸線まわりに回転する。
移動体が側面視でチルト軸線に重なっている場合、重なっていない場合と比較すると、移
動体が通過する範囲が小さい。したがって、船外機本体がチルトアップされた際に船外機
本体の一部が配置される船体内のスペースを減少させることができる。これにより、船体
内のスペースを有効に利用できる。
【0011】
前記実施形態において、前記支持軸は、前記チルト軸線と平行または略平行な軸方向に延びていてもよい。前記移動体は、前記支持軸に沿って前記支持軸の軸方向に移動可能であってもよい。
前記実施形態において、前記支持軸は、前記クランプブラケットを貫通していてもよい。
【0012】
移動体は、支持軸に沿って支持軸の軸方向に移動する。支持軸が長ければ、移動体の移
動範囲を広げることができる。移動体の移動範囲が大きければ、船外機本体の操舵角(ス
テアリング軸線まわりの回転角)を増やすことができる。この構成によれば、支持軸は、
クランプブラケットを貫通する長さを有している。したがって、移動体の移動範囲を広げ
ることができ、船外機本体の操舵角を増やすことができる。
【0013】
前記実施形態において、前記船外機は、前記支持軸を支持するシャフトダンパーをさら
に含んでいてもよい。
この構成によれば、支持軸に加わる衝撃がシャフトダンパーによって吸収される。その
ため、支持軸に要求される強度が下がるので、支持軸を細くできる。さらに、支持軸を介
して移動体に加わる衝撃も吸収されるので、移動体を細くできる。このように、移動体お
よび支持軸を小型化できるので、一対のクランプブラケットの幅をさらに低減できる。
【0014】
前記実施形態において、前記スイベルブラケットは、前記チルト軸線を取り囲んでおり
、前記内周面内に挿入された筒状部を含んでいてもよい。前記移動体は、前記クランプブ
ラケットの前記内周面および筒状部の両方に取り囲まれた空間内の位置に移動可能であっ
てもよい。
この構成によれば、チルティングシャフトに相当する筒状部が、スイベルブラケットに
設けられている。スイベルブラケットは、クランプブラケットに対して筒状部まわりに回
転可能である。移動体は、筒状部の中にまで移動可能である。言い換えると、クランプブ
ラケットに挿入されるチルティングシャフトが、移動体を配置する空間をクランプブラケ
ットの中に形成している。これにより、移動体の移動範囲を確保しながら、一対のクラン
プブラケットの幅を抑えることができる。
【0015】
前記実施形態において、前記船外機は、前記ステアリングシャフトと共に前記ステアリ
ング軸線まわりに回転する従動部材と、前記移動体よりも前記従動部材の近くに配置され
ており、前記移動体と共に前記移動体の移動方向に移動する駆動部材とを含み、前記移動
体の移動を前記ステアリングシャフトの回転に変換する運動変換機構をさらに含んでいて
もよい。
【0016】
この構成によれば、移動体および駆動部材が移動体の移動方向に移動すると、従動部材
がステアリング軸線まわりに旋回する。従動部材の旋回角(ステアリング軸線まわりの回
転角)が同じであれば、ステアリング軸線から従動部材の先端までの距離が大きいほど、
従動部材の旋回範囲(従動部材が通過する範囲)が広がる。従動部材の旋回範囲が大きい
と、一対のクランプブラケットの幅を広げなければならないかもしれない。
【0017】
例えば、移動体を従動部材に近づければ、従動部材の先端までの距離を短縮できる。し
かしながら、移動体を従動部材に近づけると、カウルを小型化する、もしくは、船外機本
体を上方に移動させる必要が生じるかもしれない。
この構成によれば、駆動部材の一部が、移動体と従動部材との間に位置している。した
がって、移動体を従動部材に近づけることなく、移動体の動きを従動部材に伝達できる。
これにより、カウルの大きさおよび船外機本体の位置を変更することなく、従動部材の旋
回範囲を狭めることができる。そのため、一対のクランプブラケットの幅を狭めることが
できる。
【0018】
前記実施形態において、前記駆動部材は、前記移動体よりも上下方向に短くてもよいし
、前記移動体よりも左右方向に短くてもよい。
駆動部材の一部は、移動体と従動部材との間に位置している。駆動部材が上下方向に長
い場合、カウルの大きさまたは船外機本体の位置を変更しなければならないかもしれない
。しかしながら、駆動部材が移動体よりも上下方向に短いので、カウルの大きさおよび船
外機本体の位置を変更することなく、駆動部材の一部を移動体と従動部材との間に配置す
ることができる。さらに、駆動部材が移動体よりも左右方向に短いので、移動方向への駆
動部材の移動量は移動体と同じであるにもかかわらず、駆動部材の移動範囲(駆動部材が
通過する範囲)は移動体よりも小さい。そのため、一対のクランプブラケットの幅をさら
に狭めることができる。
【0019】
前記実施形態において、前記運動変換機構は、前記駆動部材を前記移動体の移動方向に
案内するガイドをさらに含んでいてもよい。
この構成によれば、駆動部材がガイドによって支持されているので、駆動部材を安定し
て移動方向に移動させることができる。さらに、駆動部材は、移動体およびガイドの両方
に支持されるので、駆動部材の撓みを低減できる。
【0020】
前記実施形態において、前記運動変換機構は、前記ガイドを支持するガイドダンパーを
さらに含んでいてもよい。
この構成によれば、ガイドに加わる衝撃がガイドダンパーによって吸収される。そのた
め、ガイドに要求される強度が下がるので、ガイドを細くできる。このように、ガイドを
小型化できるので、一対のクランプブラケットの幅をさらに低減できる。
【0021】
前記実施形態において、前記運動変換機構は、前記ステアリング軸線と平行または略平
行な回転軸線まわりに回転可能であり、前記駆動部材から伝達された運動を前記従動部材
の方に伝達する回転アームをさらに含んでいてもよい。
この構成によれば、駆動部材の運動が回転アームの回転に変換され、回転アームの回転
が従動部材の回転に変換される。これにより、ステアリングシャフトがステアリング軸線
まわりに回転する。回転アームが設けられているので、回転アームがない場合と比較する
と、駆動部材の先端を従動部材から遠ざけることができる。これにより、移動体からの駆
動部材の突出量を低減でき、駆動部材に加わる曲げモーメントを低減できる。さらに、駆
動部材を短くできるので、駆動部材を支持するガイドを省略できる。
【0022】
前記実施形態において、前記支持軸は、前記チルト軸線と平行または略平行な軸方向に延びていてもよい。前記船外機は、前記支持軸に取り付けられ、前記スイベルブラケットに対する前記支持軸の回転を防止する固定ナットをさらに含んでいてもよい。前記移動体は、前記支持軸を取り囲むインナーチューブと、前記インナーチューブを回転させる電動モータと、前記インナーチューブまたは支持軸の回転に伴って、前記インナーチューブおよび支持軸を前記支持軸の軸方向に相対移動させる減速装置と、を含んでいてもよい。
【0023】
この構成によれば、スイベルブラケットに対する支持軸の回転が、支持軸に取り付けら
れた固定ナットによって防止されている。電動モータがインナーチューブを回転させると
、インナーチューブの回転が減速装置によって支持軸の軸方向へのインナーチューブおよ
び支持軸の相対移動に変換される。これにより、移動体が左右方向に移動し、船外機本体
が自動で操舵される。
【0024】
固定ナットを緩めると、スイベルブラケットに対する支持軸の回転の防止が解除される
。この状態で、操作者が支持軸を回転させると、支持軸の回転が減速装置によって支持軸
の軸方向へのインナーチューブおよび支持軸の相対移動に変換される。これにより、移動
体が左右方向に移動し、船外機本体が手動で操舵される。
操作者が船外機本体を直接押して、船外機本体を手動で操舵することが考えられる。こ
の場合、減速装置の減速比が大きいと、電動モータを駆動する回路を開いても、船外機本
体に大きな力を加えないと、船外機本体を手動で操舵することができない。これに対して
、支持軸を回転させる場合は、船外機本体を直接押す場合に比べて小さな力で船外機本体
を手動で操舵することができる。
【0025】
前記実施形態において、前記船外機は、操作者が前記支持軸を回転させるときに前記操
作者によって操作されるハンドルをさらに含んでいてもよい。前記支持軸は、前記ハンド
ルが取り付けられたハンドル取付部を含んでいてもよい。操作者は、船外機のユーザーま
たはディーラーであってもよいし、船外機のメンテナンス担当者であってもよい。
この構成によれば、船外機本体を手動で操舵するときに操作されるハンドルが、船外機
に設けられており、ハンドル取付部に取り付けられている。したがって、船外機のユーザ
ーは、工具等を用意する必要がないし、工具等をハンドル取付部に取り付ける必要もない
。そのため、船外機本体の手動操舵の準備に要する時間を短縮できる。
【0026】
前記実施形態において、前記支持軸は、前記固定ナットだけで前記スイベルブラケットに対する回転が防止されていてもよい。
この構成によれば、支持軸は1つの固定ナットだけでスイベルブラケットに対する回転が防止されている。複数の固定ナットが支持軸に取り付けられている場合、全ての固定ナットを緩めないと、スイベルブラケットに対する支持軸の回転の防止が解除されない。これに対して、1つの固定ナットだけでスイベルブラケットに対する支持軸の回転が防止されている場合は、1つの固定ナットだけを緩めれば、スイベルブラケットに対する支持軸の回転の防止が解除される。したがって、船外機本体の手動操舵の準備に要する時間を短縮できる。
前記実施形態において、前記移動体は、前記移動体が一方の前記クランプブラケットの前記内周面に挿入された位置と、前記移動体が他方の前記クランプブラケットの前記内周面に挿入された位置と、の間で移動可能であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、カウルの大きさと船外機本体の位置に影響を与えることなく、船外機
本体を操舵する移動体を後方に配置できる船外機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る船外機の左側面を示す模式図である。
【
図2】船外機に備えられた懸架装置を上から見た模式図である。
【
図3】懸架装置の上部を左方から見た模式図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿う水平断面を示す断面図である。
【
図5】トップカバーが取り外された懸架装置を上から見た部分断面図であり、ステアリングチューブが中央に位置している状態を示している。
【
図6】トップカバーが取り外された懸架装置を上から見た部分断面図であり、ステアリングチューブが左に移動した状態を示している。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る懸架装置を上から見た部分断面図である。
【
図8】トップカバーが取り外された本発明の第3実施形態に係る懸架装置および操舵装置を上から見た部分断面図であり、船外機本体が原点位置に配置されているときのステアリングチューブの位置を示している。
【
図9】トップカバーが取り外された本発明の第3実施形態に係る懸架装置および操舵装置を上から見た部分断面図であり、船外機本体が右最大転舵位置に配置されているときのステアリングチューブの位置を示している。
【
図10】サイドカバーが取り外された本発明の第4実施形態に係る懸架装置の上部を左方から見た側面図である。
【
図11】ロッドが挿入されたハンドルの左側面図である。
【
図12】懸架装置の左端部を上から見た部分断面図である。
【
図13】懸架装置の右端部を上から見た部分断面図である。
【
図14】船外機本体を手動で操舵するときの手順について説明ための部分断面図である。
【
図15】本発明の他の実施形態に係るハンドル取付部を示す模式図である。
【
図16】本発明のさらに他の実施形態に係る懸架装置の上部を左方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
後述するように、船外機本体2は、ステアリング軸線Asまわりに左右に回動可能であ
り、チルト軸線Atまわりに上下に回動可能である。以下では、特に断りがない限り、基
準姿勢の船外機本体2について説明する。基準姿勢は、クランクシャフト12の回転軸線
Acが鉛直方向に延び、クランクシャフト12の回転軸線Acに直交するプロペラシャフ
ト15の回転軸線Apが前後方向に延びる姿勢である。前後、上下および左右の各方向は
、基準姿勢の船外機本体2に基づいて定義される。幅方向は、左右方向に相当する。側方
は、幅方向における外方を意味する。
【0030】
図1は、本発明の第1実施形態に係る船外機1の左側面を示す模式図である。
図2は、
船外機1に備えられた懸架装置3を上から見た模式図である。
図2では、トランサムT1
の上端と等しい高さにおける船外機本体2の外面の輪郭形状を二点鎖線および一点鎖線で
示している。二点鎖線は、船外機本体2が右最大転舵位置と左最大転舵位置との中間の原
点位置に位置している状態を示している。一点鎖線は、船外機本体2が右最大転舵位置に
位置している状態を示している。
【0031】
図1に示すように、船外機1は、船舶を推進させる推力を発生する船外機本体2と、船
外機本体2を船体H1に取り付ける懸架装置3と、船外機本体2を左右方向に回動させる
操舵装置4と、左右方向に水平に延びるチルト軸線Atまわりに船外機本体2を回動させ
るチルト装置5とを含む。
船外機本体2は、プロペラ16を回転させる動力を発生する原動機の一例であるエンジ
ン11と、エンジン11の動力をプロペラ16に伝達する動力伝達装置とを含む。船外機
本体2は、さらに、エンジン11を収容するエンジンカウル17と、動力伝達装置を収容
するケーシング18とを含む。上下方向に延びる回転軸線Acまわりに回転可能なクラン
クシャフト12の回転は、動力伝達装置のドライブシャフト13、前後進切替機構14、
およびプロペラシャフト15を介して、プロペラ16に伝達される。
【0032】
懸架装置3は、船体H1の後部に設けられたトランサムT1に取付可能な一対のクラン
プブラケット21と、左右方向に延びるチルト軸線Atまわりに回転可能に一対のクラン
プブラケット21に支持されたスイベルブラケット22と、上下方向に延びるステアリン
グ軸線Asまわりに回転可能にスイベルブラケット22に支持されたステアリングシャフ
ト23とを含む。
【0033】
懸架装置3は、さらに、スイベルブラケット22の上方に配置されたトップカバー24
と、一対のクランプブラケット21の右方および左方にそれぞれ配置された一対のエンド
キャップ25と、船外機本体2内に配置された上ダンパーマウントM1および下ダンパー
マウントM2にステアリングシャフト23を連結する上マウントブラケット26および下
マウントブラケット27とを含む。
【0034】
図2に示すように、一対のクランプブラケット21は、それぞれ、スイベルブラケット
22の右方および左方に配置されている。クランプブラケット21の内側面21iは、ス
イベルブラケット22の外側面22oに対向している。クランプブラケット21は、船体
H1に取り付けられる取付部28と、スイベルブラケット22を支持するスイベル支持部
29とを含む。取付部28は、トランサムT1の後方に配置される。スイベル支持部29
は、トランサムT1の上方に配置される。クランプブラケット21を船体H1に固定する
ボルトb1は、取付部28に設けられたボルト取付穴h1に挿入される。
【0035】
スイベルブラケット22は、操舵装置4を収容する収容部31と、ステアリングシャフ
ト23を回転可能に支持する筒状のシャフト支持部32と、クランプブラケット21のス
イベル支持部29に支持された一対の筒状部33とを含む。一対の筒状部33は、それぞ
れ、収容部31の右方および左方に配置されている。筒状部33は、収容部31から側方
に突出している。筒状部33は、左右方向に延びている。シャフト支持部32は、筒状部
33よりも後方に位置している。ステアリングシャフト23は、シャフト支持部32内に
挿入されている。ステアリングシャフト23の中心線は、ステアリング軸線As上に位置
している。
【0036】
図1に示すように、上マウントブラケット26および下マウントブラケット27は、そ
れぞれ、シャフト支持部32の上方および下方に配置されている。上マウントブラケット
26は、ボルトによって上ダンパーマウントM1に連結されており、下マウントブラケッ
ト27は、ボルトによって下ダンパーマウントM2に連結されている。上マウントブラケ
ット26および下マウントブラケット27は、ステアリングシャフト23と共にステアリ
ング軸線Asまわりに回転する。
【0037】
図3は、懸架装置3の上部を左方から見た模式図である。
図4は、
図3のIV-IV線
に沿う水平断面を示す断面図である。
図5および
図6は、トップカバー24が取り外され
た懸架装置3を上から見た部分断面図である。
図3では、エンドキャップ25やブッシュ
53等の図示を省略している。
図5は、ステアリングチューブ44が中央に位置している
状態を示しており、
図6は、ステアリングチューブ44が左に移動した状態を示している
。
【0038】
図3に示すように、スイベルブラケット22の収容部31は、一対のクランプブラケッ
ト21の間に配置された底壁31bと、底壁31bの前縁から上方に延びる前壁31fと
、底壁31bの右縁および左縁からそれぞれ上方に延びる2つの側壁31sとを含む。ト
ップカバー24は、ボルトb2によって収容部31に連結されている。トップカバー24
および収容部31は、操舵装置4を収容する収容室を形成している。操舵装置4のステア
リングアクチュエータ41は、底壁31bの上方で前壁31fの後方の位置に配置されて
いる。
【0039】
図4に示すように、クランプブラケット21のスイベル支持部29は、スイベルブラケ
ット22の収容部31の側方に位置している。スイベルブラケット22の筒状部33は、
スイベル支持部29内に挿入されている。筒状部33は、筒状部33とスイベル支持部2
9との間に介在する複数のブッシュ53を介して、スイベル支持部29に支持されている
。筒状部33は、スイベル支持部29を左右方向に貫通している。エンドキャップ25は
、複数のボルトb3によって筒状部33に固定されている。操舵装置4に設けられたステ
アリングアクチュエータ41のステアリングロッド42は、複数のシャフトダンパー54
を介して、2つのエンドキャップ25に支持されている。
【0040】
図5に示すように、操舵装置4は、電力を左右方向への直線運動に変換する電動式のス
テアリングアクチュエータ41と、ステアリングアクチュエータ41から生じた直線運動
をステアリングシャフト23の回転に変換する運動変換機構46とを含む。ステアリング
アクチュエータ41は、左右方向に延びるステアリングロッド42と、ステアリングロッ
ド42に沿って左右方向に往復するステアリングチューブ44とを含む。ステアリングロ
ッド42は、支持軸の一例である。
【0041】
ステアリングチューブ44およびステアリングロッド42は、チルト軸線Atに沿って
左右方向に延びている。ステアリングロッド42は、ステアリングチューブ44を左右方
向に貫通している。ステアリングロッド42の両端部は、それぞれ、ステアリングチュー
ブ44の両端部から突出している。ステアリングロッド42の両端部は、2つのエンドキ
ャップ25を介して、スイベルブラケット22に支持されている。
【0042】
ステアリングチューブ44は、ステアリングロッド42を取り囲むインナーチューブ6
9と、インナーチューブ69を回転させる電動モータ62とを含む。ステアリングチュー
ブ44は、さらに、インナーチューブ69またはステアリングロッド42の回転に伴って
インナーチューブ69およびステアリングロッド42をステアリングロッド42の軸方向
に相対移動させる減速装置63と、インナーチューブ69、電動モータ62および減速装
置63を収容する筒状のハウジング67とを含む。
【0043】
電動モータ62は、インナーチューブ69を取り囲むローター62bと、ローター62
bを取り囲むステーター62aとを含む。ステーター62aは、配線45を介してバッテ
リーに接続されている。ステーター62aは、ハウジング67に取り囲まれている。ステ
ーター62aは、ハウジング67に保持されている。ローター62bは、インナーチュー
ブ69に保持されている。ローター62bは、インナーチューブ69とともにステアリン
グロッド42の中心線まわりに回転する。
【0044】
減速装置63は、電動モータ62の回転を左右方向へのステアリングチューブ44の直
線運動に変換する減速装置の一例である。減速装置63は、たとえば、ボールネジ機構で
ある。減速装置63は、チルト軸線Atに沿って左右方向に延びるボールネジ64と、ボ
ールネジ64を取り囲むボールナット66と、ボールネジ64とボールナット66との間
に介在する複数のボール65とを含む。ボールネジ64は、ステアリングロッド42に設
けられており、ボールナット66は、インナーチューブ69に設けられている。ボールネ
ジ64は、ステアリングロッド42と一体であってもよいし、ステアリングロッド42に
固定されたステアリングロッド42とは別の部材であってもよい。同様に、ボールナット
66は、インナーチューブ69と一体であってもよいし、インナーチューブ69に固定さ
れたインナーチューブ69とは別の部材であってもよい。
【0045】
ハウジング67は、インナーチューブ69を取り囲んでいる。ハウジング67は、イン
ナーチューブ69よりも左右方向に長い。ハウジング67は、複数のベアリングB1を介
してボールナット66を保持している。筒状のハウジング67の外径は、スイベルブラケ
ット22の筒状部33の内径よりも小さい。ハウジング67は、スイベルブラケット22
の収容部31の上方の位置とスイベルブラケット22の筒状部33で取り囲まれた空間内
の位置とを含む複数の位置に移動可能である。
【0046】
バッテリーの電力がステーター62aのコイルに供給されると、ローター62bおよび
ボールナット66が、ボールネジ64に対して回転しながら、ボールネジ64に対してボ
ールネジ64の軸方向に移動する。それに伴って、ハウジング67がボールネジ64に対
してボールネジ64の軸方向に移動する。左右方向へのハウジング67の直線運動は、運
動変換機構46によって、ステアリングシャフト23の回転に変換される。これにより、
船外機本体2がステアリング軸線Asまわりに回転する。
【0047】
運動変換機構46は、左右方向に相当するステアリングアクチュエータ41の軸方向に
移動する駆動部材47と、ステアリング軸線Asまわりに回転する従動部材50と、駆動
部材47の直線運度を従動部材50の回転に変換する円柱ピン48およびスライド溝49
とを含む。
図5は、円柱ピン48が駆動部材47に固定されており、円柱ピン48が嵌め
られたスライド溝49が従動部材50に設けられている例を示している。従動部材50は
、ステアリングシャフト23と共にステアリング軸線Asまわりに回転するステアリング
アームの一例である。
【0048】
図3に示すように、駆動部材47は、ステアリングチューブ44の後方に配置されてい
る。駆動部材47は、ステアリングチューブ44から後方に延びている。駆動部材47の
前端部は、ステアリングチューブ44のハウジング67に固定されている。駆動部材47
は、ハウジング67と共にボールネジ64の軸方向に移動する。先端部に相当する駆動部
材47の後端部は、従動部材50の前端部の上方に配置されている。円柱ピン48は、駆
動部材47の後端部から下方に延びている。駆動部材47は、ステアリングチューブ44
よりも上下方向に短く、ステアリングチューブ44よりも左右方向に短い。
【0049】
従動部材50は、ステアリングシャフト23から前方に延びている。従動部材50は、
ステアリングシャフト23に固定されている。先端部に相当する従動部材50の前端部は
、ステアリングシャフト23よりも前方でステアリングチューブ44よりも後方の位置に
配置されている。従動部材50の前端部は、スイベルブラケット22の底壁31bの上方
に位置している。スライド溝49は、従動部材50の前端部に設けられている。スライド
溝49は、径方向(ステアリング軸線Asに直交する方向)に延びる平面視U字状であっ
てもよいし、径方向に長い平面視O字状であってもよい。
【0050】
図5に示すように、駆動部材47は、左右方向に延びるガイドシャフト51に支持され
ている。ガイドシャフト51は、駆動部材47を貫通するガイド穴h2に挿入されている
。ガイドシャフト51は、ステアリングロッド42と平行な平行ガイドである。駆動部材
47は、ガイドシャフト51によってガイドシャフト51の軸方向に案内される。ガイド
シャフト51は、2つのガイドダンパー52を介してスイベルブラケット22の側壁31
sに支持されている。2つのガイドダンパー52は、それぞれ、ガイドシャフト51の両
端部に取り付けられている。ガイドダンパー52は、ゴムや樹脂などの弾性材料で作成さ
れている。ガイドダンパー52は、ガイドシャフト51の外周面を取り囲む円筒部と、ガ
イドシャフト51の端面に対向する底部とを含む。
【0051】
ガイドシャフト51の一端部(
図5では、右端部)は、側壁31sの内側面で開口する
止り穴h3に挿入されている。ガイドシャフト51の一端部は、ガイドダンパー52を介
して止り穴h3の底面に支持されている。ガイドシャフト51の他端部(
図5では、左端
部)は、側壁31sを貫通する通り穴h4に挿入されている。プラグP1は、通り穴h4
にねじ止めされている。ガイドシャフト51の他端部は、ガイドダンパー52を介してプ
ラグP1に支持されている。これにより、ガイドシャフト51がスイベルブラケット22
に保持されている。
【0052】
図3および
図4に示すように、ステアリングチューブ44およびステアリングロッド4
2の中心線は、チルト軸線At上に位置している。スイベルブラケット22の筒状部33
の内周面は、側面視でステアリングチューブ44を取り囲んでいる。筒状部33の内径は
、ステアリングチューブ44の外径よりも大きい。筒状部33の内径とステアリングチュ
ーブ44の外径との差は、ステアリングシャフト23の外径よりも小さい。クランプブラ
ケット21のスイベル支持部29は、筒状部33を取り囲む内周面29aを含む。内周面
29aは、クランプブラケット21の内側面21iおよび外側面21oの両方で開口して
いる。ステアリングアクチュエータ41、筒状部33、および内周面29aは、同軸であ
る。
【0053】
図4に示すように、スイベルブラケット22の筒状部33は、2つのブッシュ53を介
して、クランプブラケット21のスイベル支持部29に支持されている。ブッシュ53は
、樹脂や金属などのクランプブラケット21およびスイベルブラケット22よりも軟らか
い材料で作成されている。ブッシュ53は、内周面29aと筒状部33との間に介在する
円筒部53aと、円筒部53aの端部から外方に延びる環状のフランジ部53bとを含む
。一方のブッシュ53のフランジ部53bは、クランプブラケット21の内側面21iと
スイベルブラケット22の外側面22oとの間に介在している。他方のブッシュ53のフ
ランジ部53bは、クランプブラケット21の外側面21oとエンドキャップ25の内側
面との間に介在している。
【0054】
図3に示すように、スイベルブラケット22の筒状部33は、側面視でステアリングア
クチュエータ41のステアリングチューブ44を取り囲む円環部33aと、円環部33a
の内周面から内方に突出する複数の突出部33bとを含む。エンドキャップ25をスイベ
ルブラケット22に固定する複数のボルトb3(
図4参照)の軸は、筒状部33に設けら
れた複数の雌ネジ穴h5に取り付けられる。複数の雌ネジ穴h5は、筒状部33の端面で
開口している。複数の雌ネジ穴h5は、周方向に並んでいる。複数の突出部33bは、複
数の雌ネジ穴h5に対応する位置に配置されている。
図4に示すように、突出部33bは
、円環部33aよりも左右方向に短い。
【0055】
図4に示すように、エンドキャップ25は、筒状部33と同軸の円板状である。エンド
キャップ25の外径は、クランプブラケット21の内周面29aの直径よりも大きい。筒
状部33の開口は、エンドキャップ25によって側方から覆われている。エンドキャップ
25の外周部は、筒状部33の外周面よりも外方に配置されている。ボルトb3の軸は、
エンドキャップ25を左右方向に貫通する通り穴h6に外方から挿入されており、エンド
キャップ25から内方に突出している。ボルトb3の軸の先端部は、筒状部33に設けら
れた雌ネジ穴h5にねじ止めされている。ボルトb3の頭は、エンドキャップ25の外方
に配置されている。
【0056】
ステアリングアクチュエータ41のステアリングロッド42の端部は、2つのシャフト
ダンパー54を介してエンドキャップ25に支持されている。ステアリングロッド42の
端部は、エンドキャップ25の中心部をその厚み方向に貫通する貫通穴h7に挿入されて
いる。ステアリングロッド42は、大径部42aと、小径部42bと、雄ネジ部42cと
を含む。ステアリングロッド42の小径部42bは、エンドキャップ25を左右方向に貫
通している。ステアリングロッド42の雄ネジ部42cは、エンドキャップ25の外方に
配置されている。固定ナットN1は、ステアリングロッド42の雄ネジ部42cにねじ止
めされている。
【0057】
シャフトダンパー54は、ゴムや樹脂などの弾性材料で作成されている。シャフトダン
パー54は、ステアリングロッド42の外周面とエンドキャップ25の内周面との間に介
在する円筒部54aと、円筒部54aの端部から外方に延びる環状のフランジ部54bと
を含む。2つのシャフトダンパー54の円筒部54aの端面は、エンドキャップ25の貫
通穴h7内で互いに対向している。エンドキャップ25は、2つのフランジ部54bの間
に配置されている。2つのシャフトダンパー54は、2つのワッシャーW1によって軸方
向に挟まれている。
【0058】
船外機本体2を操舵するために操船者がステアリングハンドルを操作すると、ステアリ
ングハンドルの操作量に対応する回転角だけ電動モータ62が回転する。これにより、ス
テアリングチューブ44がステアリングロッド42に対してステアリングアクチュエータ
41の軸方向に移動する。ステアリングチューブ44の移動量および移動方向は、電動モ
ータ62の回転角および回転方向によって制御される。
図6は、ステアリングチューブ4
4の一部が、スイベルブラケット22の筒状部33およびクランプブラケット21の内周
面29aの両方に取り囲まれた空間内に位置している状態を示している。
【0059】
駆動部材47は、ステアリングチューブ44と共にステアリングアクチュエータ41の
軸方向に移動する。それに伴って、スライド溝49を形成する従動部材50の内面が、円
柱ピン48によって左右方向に押される。このとき、円柱ピン48がスライド溝49内で
従動部材50に対して径方向に移動しながら、従動部材50がステアリング軸線Asまわ
りに旋回する。これにより、ステアリングシャフト23がステアリング軸線Asまわりに
回転し、それに伴って、船外機本体2がステアリング軸線Asまわりに回転する。
【0060】
以上のように本実施形態では、プロペラ16を回転させる船外機本体2が、移動体の一
例であるステアリングチューブ44の移動に伴って、ステアリングシャフト23と共にス
テアリング軸線Asまわりに回転する。ステアリングチューブ44は、側面視でクランプ
ブラケット21の内周面29aに取り囲まれている。したがって、ステアリングチューブ
44を配置する空間をクランプブラケット21とカウル17との間に設けなくてもよい。
さらに、ステアリングチューブ44がクランプブラケット21の内周面29a内に移動可
能なので、クランプブラケット21をステアリングチューブ44の移動範囲の側方に配置
しなくてもよい。そのため、一対のクランプブラケット21が左右方向に大型化すること
を抑制できる。
【0061】
船外機本体2がステアリング軸線Asまわりに左右方向に回転すると、右または左のク
ランプブラケット21に船外機本体2が近づく(
図2において一点鎖線で示す船外機本体
2を参照)。左右方向への一対のクランプブラケット21の幅が大きいと、船外機本体2
がクランプブラケット21に接触するかもしれない。そのため、これを未然に回避するた
めに、クランプブラケット21を前後方向に短くする、もしくは、クランプブラケット2
1を左右方向に薄くする必要がある。本実施形態では、一対のクランプブラケット21の
幅を抑えることができるので、このような対策を行わなくてよい。
【0062】
また本実施形態では、ステアリングチューブ44が側面視でチルト軸線Atに重なって
いる。船外機本体2がチルト軸線Atまわりに回転すると、ステアリングチューブ44も
チルト軸線Atまわりに回転する。ステアリングチューブ44が側面視でチルト軸線At
に重なっている場合、重なっていない場合と比較すると、ステアリングチューブ44が通
過する範囲が小さい。したがって、船外機本体2がチルトアップされた際に船外機本体2
の一部が配置される船体H1内のスペースを減少させることができる。これにより、船体
H1内のスペースを有効に利用できる。
【0063】
また本実施形態では、支持軸の一例であるステアリングロッド42が、クランプブラケ
ット21を貫通している。ステアリングチューブ44は、ステアリングロッド42に沿っ
てステアリングロッド42の軸方向に移動する。ステアリングロッド42が長ければ、ス
テアリングチューブ44が移動範囲を広げることができる。ステアリングチューブ44の
移動範囲が大きければ、船外機本体2の操舵角(ステアリング軸線Asまわりの回転角)
を増やすことができる。本実施形態では、ステアリングロッド42は、クランプブラケッ
ト21を貫通する長さを有している。したがって、ステアリングチューブ44の移動範囲
を広げることができ、船外機本体2の操舵角を増やすことができる。
【0064】
また本実施形態では、ステアリングロッド42に加わる衝撃がシャフトダンパー54に
よって吸収される。そのため、ステアリングロッド42に要求される強度が下がるので、
ステアリングロッド42を細くできる。さらに、ステアリングロッド42を介してステア
リングチューブ44に加わる衝撃も吸収されるので、ステアリングチューブ44を細くで
きる。このように、ステアリングチューブ44およびステアリングロッド42を小型化で
きるので、一対のクランプブラケット21の幅をさらに低減できる。
【0065】
また本実施形態では、チルティングシャフトに相当する筒状部33が、スイベルブラケ
ット22に設けられている。スイベルブラケット22は、クランプブラケット21に対し
て筒状部33まわりに回転可能である。ステアリングチューブ44は、筒状部33の中に
まで移動可能である。言い換えると、クランプブラケット21に挿入されるチルティング
シャフトが、ステアリングチューブ44を配置する空間をクランプブラケット21の中に
形成している。これにより、ステアリングチューブ44の移動範囲を確保しながら、一対
のクランプブラケット21の幅を抑えることができる。
【0066】
また本実施形態では、ステアリングチューブ44および駆動部材47がステアリングチ
ューブ44の移動方向に移動すると、従動部材50がステアリング軸線Asまわりに旋回
する。従動部材50の旋回角(ステアリング軸線Asまわりの回転角)が同じであれば、
ステアリング軸線Asから従動部材50の先端までの距離D1(
図5参照)が大きいほど
、従動部材50の旋回範囲(従動部材50が通過する範囲)が広がる。従動部材50の旋
回範囲が大きいと、一対のクランプブラケット21の幅を広げなければならないかもしれ
ない。
【0067】
たとえば、ステアリングチューブ44を従動部材50に近づければ、従動部材50の先
端までの距離を短縮できる。しかしながら、ステアリングチューブ44を従動部材50に
近づけると、カウル17を小型化する、もしくは、船外機本体2を上方に移動させる必要
が生じるかもしれない。
本実施形態では、駆動部材47の一部が、ステアリングチューブ44と従動部材50と
の間に位置している。したがって、ステアリングチューブ44を従動部材50に近づける
ことなく、ステアリングチューブ44の動きを従動部材50に伝達できる。これにより、
カウル17の大きさおよび船外機本体2の位置を変更することなく、従動部材50の旋回
範囲を狭めることができる。そのため、一対のクランプブラケット21の幅を狭めること
ができる。
【0068】
また本実施形態では、駆動部材47は、ステアリングチューブ44よりも上下方向およ
び左右方向に短い。駆動部材47の一部は、ステアリングチューブ44と従動部材50と
の間に位置している。駆動部材47が上下方向に長い場合、カウル17の大きさまたは船
外機本体2の位置を変更しなければならないかもしれない。しかしながら、駆動部材47
がステアリングチューブ44よりも上下方向に短いので、カウル17の大きさおよび船外
機本体2の位置を変更することなく、駆動部材47の一部をステアリングチューブ44と
従動部材50との間に配置することができる。さらに、駆動部材47がステアリングチュ
ーブ44よりも左右方向に短いので、移動方向への駆動部材47の移動量はステアリング
チューブ44と同じであるにもかかわらず、駆動部材47の移動範囲(駆動部材47が通
過する範囲)はステアリングチューブ44よりも小さい。そのため、一対のクランプブラ
ケット21の幅をさらに狭めることができる。
【0069】
また本実施形態では、駆動部材47がガイドシャフト51によって支持されているので
、駆動部材47を安定して移動方向に移動させることができる。さらに、駆動部材47は
、ステアリングチューブ44およびガイドシャフト51の両方に支持されるので、駆動部
材47の撓みを低減できる。
また本実施形態では、ガイドシャフト51に加わる衝撃がガイドダンパー52によって
吸収される。そのため、ガイドシャフト51に要求される強度が下がるので、ガイドシャ
フト51を細くできる。このように、ガイドシャフト51を小型化できるので、一対のク
ランプブラケット21の幅をさらに低減できる。
【0070】
第2実施形態
図7に示すように、運動変換機構46は、ステアリング軸線Asと平行または略平行な
回転軸線Arまわりに回転可能な回転アーム55をさらに備えていてもよい。
回転アーム55は、上下方向に延びる中心シャフト56を介してスイベルブラケット2
2に支持されている。回転アーム55は、中心シャフト56の中心線に相当する回転軸線
Arまわりに回転可能である。回転アーム55は、スイベルブラケット22の底壁31b
の上方に配置されている。回転アーム55は、駆動部材47および従動部材50よりも下
方に配置されている。駆動部材47は、回転アーム55から上方に延びる円柱ピン48a
と、駆動部材47に設けられたスライド溝49aとによって、回転アーム55に連結され
ている。従動部材50は、回転アーム55から上方に延びる円柱ピン48bと、従動部材
50に設けられたスライド溝49bとによって、回転アーム55に連結されている。
【0071】
ステアリングアクチュエータ41のステアリングチューブ44が、スイベルブラケット
22に対してステアリングアクチュエータ41の軸方向に移動すると、駆動部材47の直
線運動が、円柱ピン48aおよびスライド溝49aによって、回転軸線Arまわりの回転
アーム55の回転に変換される。そして、回転アーム55の回転は、円柱ピン48bおよ
びスライド溝49bによって、ステアリング軸線Asまわりの従動部材50の回転に変換
される。これにより、ステアリングシャフト23がステアリング軸線Asまわりに回転し
、それに伴って、船外機本体2がステアリング軸線Asまわりに回転する。
【0072】
このように、
図7に示す構造では、駆動部材47の運動が回転アーム55の回転に変換
され、回転アーム55の回転が従動部材50の回転に変換される。これにより、ステアリ
ングシャフト23がステアリング軸線Asまわりに回転する。回転アーム55が設けられ
ているので、回転アーム55がない場合と比較すると、駆動部材47の先端を従動部材5
0から遠ざけることができる。これにより、ステアリングチューブ44からの駆動部材4
7の突出量を低減でき、駆動部材47に加わる曲げモーメントを低減できる。さらに、駆
動部材47を短くできるので、駆動部材47を支持するガイドシャフト51(
図5参照)
を省略できる。
【0073】
第3実施形態
図8および
図9は、トップカバー24(
図1参照)が取り外された懸架装置3および操
舵装置4を上から見た部分断面図である。
図8は、船外機本体2(
図1参照)が原点位置に配置されているときのステアリングチ
ューブ44の位置を示している。
図9は、船外機本体2が右最大転舵位置に配置されてい
るときのステアリングチューブ44の位置を示している。
図8および
図9に示す基準面W
Oは、ステアリング軸線Asを通り且つ左右方向に直交する鉛直面を意味する。
図8およ
び
図9において、前述の
図1~
図7に示された構成と同等の構成については、
図1等と同
一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0074】
図8に示すように、ステアリングアクチュエータ41は、第1実施形態に係る減速装置
63に代えて、減速装置70を備えている。減速装置70は、たとえばローラスクリュー
アッセンブリーである。ローラスクリューアッセンブリーは、左右方向に延びるセンター
シャフト71と、センターシャフト71のまわりに配置された複数の円柱ローラ72と含
む。インナーチューブ69は、複数の円柱ローラ72を取り囲んでいる。
【0075】
センターシャフト71の中心線は、チルト軸線At上に配置されている。センターシャ
フト71は、ステアリングロッド42と一体であってもよいし、ステアリングロッド42
に固定されたステアリングロッド42とは別の部材であってもよい。各円柱ローラ72の
外周面に設けられたらせん状のネジ山は、センターシャフト71の外周面に設けられたら
せん状のネジ山と、インナーチューブ69の内周面に設けられたらせん状のネジ山とに噛
み合っている。
【0076】
センターシャフト71の回転は、センターシャフト71、円柱ローラ72、およびイン
ナーチューブ69によって、インナーチューブ69の直線運動に変換される。同様に、イ
ンナーチューブ69の回転は、センターシャフト71、円柱ローラ72、およびインナー
チューブ69によって、センターシャフト71の直線運動に変換される。センターシャフ
ト71およびインナーチューブ69の一方を回転させると、センターシャフト71および
インナーチューブ69の他方が直線運動し、センターシャフト71およびインナーチュー
ブ69がセンターシャフト71の軸方向(左右方向)に相対移動する。
【0077】
電動モータ62がインナーチューブ69を回転させると、電動モータ62からインナー
チューブ69に伝達されたトルクが、センターシャフト71、円柱ローラ72、およびイ
ンナーチューブ69によって、インナーチューブ69を左右方向に直線移動させる駆動力
に変換される。ステアリングチューブ44は、この駆動力によってステアリングロッド4
2に対して右方向または左方向に移動する。ステアリングチューブ44の移動量および移
動方向は、電動モータ62の回転量および回転方向によって制御される。
【0078】
図8に示すように、操舵装置4は、第1実施形態に係る運動変換機構46に代えて、ス
テアリングアクチュエータ41の直線運動をステアリングシャフト23の回転に変換する
運動変換機構81を備えている。
運動変換機構81は、ステアリングアーム50の前端部に取り付けられた球状のブッシ
ュ82と、ブッシュ82を保持するブッシュホルダー83とを含む。ブッシュホルダー8
3は、ステアリングチューブ44とともにステアリングロッド42に対して左右方向に移
動する。ステアリングアーム50の前端部は、ブッシュホルダー83の後面から前方に延
びるアーム挿入穴83hに挿入されている。ステアリングアーム50の前端部は、さらに
、ブッシュ82の球状の外面82oから前方に延びる差し込み穴82hに挿入されている
。
【0079】
図9に示すように、ステアリングアクチュエータ41がステアリングチューブ44を左
方向に移動させる右操舵力を発生すると、この右操舵力は、ハウジング67、ブッシュホ
ルダー83、およびブッシュ82を介してステアリングアーム50に伝達される。これに
より、ステアリングアーム50が左方に押され、ステアリングアーム50およびステアリ
ングシャフト23がステアリング軸線Asまわりに左方に回動する。これにより、船外機
本体2がステアリング軸線Asまわりに右方に回動する。
【0080】
同様に、ステアリングアクチュエータ41がステアリングチューブ44を右方向に移動
させる左操舵力を発生すると、この左操舵力は、ハウジング67、ブッシュホルダー83
、およびブッシュ82を介してステアリングアーム50に伝達される。これにより、ステ
アリングアーム50が右方に押され、ステアリングアーム50およびステアリングシャフ
ト23がステアリング軸線Asまわりに右方に回動する。これにより、船外機本体2がス
テアリング軸線Asまわりに左方に回動する。
【0081】
図9は、船外機本体2が右最大転舵位置に配置されているときのステアリングチューブ
44の位置を示している。船外機本体2が右最大転舵位置に配置されると、ステアリング
チューブ44の左端部は、左方のクランプブラケットのスイベル支持部29とスイベルブ
ラケット22の左方の筒状部33との両方に取り囲まれた空間内に配置される。左最大転
舵位置は、基準面WOに関して右最大転舵位置と対称な位置である。船外機本体2が左最
大転舵位置に配置されると、ステアリングチューブ44の右端部は、右方のクランプブラ
ケットのスイベル支持部29とスイベルブラケット22の右方の筒状部33との両方に取
り囲まれた空間内に配置される。
【0082】
第4実施形態
図10は、サイドカバー93(
図12参照)が取り外された懸架装置3の上部を左方か
ら見た側面図である。
図11は、ステアリングロッド42が挿入されたハンドル92の左
側面図である。
図12は、懸架装置3の左端部を上から見た部分断面図である。
図13は
、懸架装置3の右端部を上から見た部分断面図である。
図14は、船外機本体2(
図1参
照)を手動で操舵するときの手順について説明ための部分断面図である。
図10~
図14
において、前述の
図1~
図9に示された構成と同等の構成については、
図1等と同一の参
照符号を付してその説明を省略する。
【0083】
図10に示すように、船外機1は、
図5に示す自動操舵装置4に加えて、船外機本体2
を左右に回動させる手動操舵装置91を備えていてもよい。
図11に示すように、手動操
舵装置91は、船外機本体2が手動で操舵されるときに操作者によって操作されるハンド
ル92と、ハンドル92が取り付けられたハンドル取付部42dとを含む。ハンドル取付
部42dは、ステアリングロッド42に設けられており、ハンドル92は、ステアリング
ロッド42に取り付けられている。
【0084】
図12および
図13に示すように、懸架装置3は、エンドキャップ25に取り付けられ
たサイドカバー93をさらに備えていてもよい。サイドカバー93は、エンドキャップ2
5の側方に配置されており、ボルトb4によってエンドキャップ25に固定されている。
図12に示すように、ハンドル92は、左方のサイドカバー93と左方のエンドキャップ
25との間に配置されており、サイドカバー93で覆われている。
【0085】
図11に示すように、ハンドル92は、操作者の手に接触する少なくとも一つの接触部
92aと、少なくとも一つの接触部92aをハンドル取付部42dに連結する連結部92
bとを含む。
図11は、2つの接触部92aがハンドル92に設けられている例を示して
いる。ハンドル92は、例えば折り曲げられた金属プレートである。接触部92aは、側
面視でステアリングロッド42の大径部42aのまわりに配置されている。
【0086】
ハンドル取付部42dは、ハンドル92の連結部92bを左右方向に貫通する貫通穴9
2hに挿入されたハンドル取付軸である。ハンドル取付部42dは、ステアリングロッド
42の小径部42bの外周面に設けられている。
図11は、ハンドル92の貫通穴92h
が四角形状であり、ハンドル取付部42dが互いに平行な2つの平面42sを含む例を示
している。ハンドル92からステアリングロッド42にトルクを伝達できる形状であれば
、ハンドル取付部42dおよび貫通穴92hはどのような形状であってもよい。例えば、
ハンドル取付部42dがスプライン軸であり、貫通穴92hがスプライン穴であってもよ
い。また、ハンドル92は、溶接またはかしめによってハンドル取付部42dに固定され
ていてもよい。
【0087】
図12に示すように、ステアリングロッド42の左端部は、小径部42bおよび雄ネジ
部42cを含む。ステアリングロッド42の小径部42bは、左方のエンドキャップ25
の中央部を左右方向に貫通する貫通穴h7に挿入されている。貫通穴h7の内径は、ステ
アリングロッド42の大径部42aの外径よりも小さい。ステアリングロッド42の雄ネ
ジ部42cは、エンドキャップ25の側方に配置されている。固定ナットN1は、雄ネジ
部42cにねじ止めされている。ハンドル92の連結部92bは、固定ナットN1とエン
ドキャップ25との間に配置されている。
【0088】
ハンドル92およびエンドキャップ25は、固定ナットN1の内側面N1xと大径部4
2aの端面42xとによってステアリングロッド42の軸方向に挟まれている。これによ
り、ステアリングロッド42およびハンドル92がエンドキャップ25に固定されている
。エンドキャップ25は、ボルトb3によってスイベルブラケット22に固定されている
。したがって、ステアリングロッド42およびハンドル92は、間接的にスイベルブラケ
ット22に固定されている。固定ナットN1が締められているとき、ステアリングロッド
42およびハンドル92は、スイベルブラケット22に対して回転できない。
【0089】
これに対して、
図13に示すように、ステアリングロッド42の右端部には小径部42
bおよび雄ネジ部42cが設けられていない。ステアリングロッド42の右端部に相当す
るステアリングロッド42の大径部42aの右端部は、右方のエンドキャップ25の中央
部を左右方向に貫通する通り穴h8に挿入されている。通り穴h8の内径は、ステアリン
グロッド42の大径部42aの外径よりも大きい。ステアリングロッド42は、右方のエ
ンドキャップ25の内周面に支持されているだけで、右方のエンドキャップ25に固定さ
れていない。したがって、固定ナットN1を緩めると、スイベルブラケット22に対する
ステアリングロッド42およびハンドル92の固定が解除される。
【0090】
図14に示すように、船外機本体2(
図1参照)を手動で操舵するときは、サイドカバ
ー93をエンドキャップ25に固定するボルトb4を回し、ボルトb4を緩める。その後
、左方のサイドカバー93をエンドキャップ25から外す。これにより、固定ナットN1
およびハンドル92が露出する。その後、固定ナットN1を回し、固定ナットN1を緩め
る。これにより、スイベルブラケット22に対するステアリングロッド42およびハンド
ル92の固定が解除される。
【0091】
固定ナットN1を緩めた後は、ハンドル92を手で回す。これにより、ハンドル92お
よびステアリングロッド42が、チルト軸線Atに相当するステアリングロッド42の中
心線まわりに回転する。ステアリングロッド42の回転は、
図5に示す減速装置63によ
って、左右方向へのステアリングチューブ44の移動に変換される。これにより、船外機
本体2がステアリング軸線Asまわりに左右に回動し、船外機本体2が手動で操舵される
。
【0092】
以上のように第4実施形態では、スイベルブラケット22に対するステアリングロッド
42の回転が、ステアリングロッド42に取り付けられた固定ナットN1によって防止さ
れている。電動モータ62がインナーチューブ69(
図5参照)を回転させると、インナ
ーチューブ69の回転が減速装置63によってステアリングロッド42の軸方向へのイン
ナーチューブ69およびステアリングロッド42の相対移動に変換される。これにより、
移動体の一例であるステアリングチューブ44が左右方向に移動し、船外機本体2が自動
で操舵される。
【0093】
固定ナットN1を緩めると、スイベルブラケット22に対するステアリングロッド42
の回転の防止が解除される。この状態で、操作者がステアリングロッド42のハンドル取
付部42dに取り付けられたハンドル92を操作してステアリングロッド42を回転させ
ると、ステアリングロッド42の回転が減速装置63によってステアリングロッド42の
軸方向へのインナーチューブ69およびステアリングロッド42の相対移動に変換される
。これにより、ステアリングチューブ44が左右方向に移動し、船外機本体2が手動で操
舵される。
【0094】
操作者が船外機本体2を直接押して、船外機本体2を手動で操舵することが考えられる
。この場合、減速装置63の減速比が大きいと、電動モータ62を駆動する回路を開いて
も、船外機本体2に大きな力を加えないと、船外機本体2を手動で操舵することができな
い。これに対して、ハンドル92の操作によりステアリングロッド42を回転させる場合
は、船外機本体2を直接押す場合に比べて小さな力で船外機本体2を手動で操舵すること
ができる。
【0095】
本実施形態では、船外機本体2を手動で操舵するときに操作されるハンドル92が、船
外機1に設けられており、ハンドル取付部42dに取り付けられている。したがって、船
外機1のユーザーは、工具等を用意する必要がないし、工具等をハンドル取付部42dに
取り付ける必要もない。そのため、船外機本体2の手動操舵の準備に要する時間を短縮で
きる。
【0096】
本実施形態では、ステアリングロッド42は1つの固定ナットN1だけでスイベルブラ
ケット22に対する回転が防止されている。複数の固定ナットN1がステアリングロッド
42に取り付けられている場合、全ての固定ナットN1を緩めないと、スイベルブラケッ
ト22に対するステアリングロッド42の回転の防止が解除されない。これに対して、1
つの固定ナットN1だけでスイベルブラケット22に対するステアリングロッド42の回
転が防止されている場合は、1つの固定ナットN1だけを緩めれば、スイベルブラケット
22に対するステアリングロッド42の回転の防止が解除される。したがって、船外機本
体2の手動操舵の準備に要する時間を短縮できる。
【0097】
他の実施形態
本発明は、前述の実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲内において
種々の変更が可能である。
第1実施形態では、ステアリングアクチュエータ41のステアリングロッド42が、チ
ルト軸線Atと平行である場合について説明した。しかし、ステアリングアクチュエータ
41のステアリングロッド42は、チルト軸線Atに対して傾いていてもよい。
【0098】
第1実施形態では、クランプブラケット21の内周面29aが、クランプブラケット2
1の内側面21iおよび外側面21oの両方で開口している場合について説明した。しか
し、内周面29aは、クランプブラケット21の外側面21oで開口していなくてもよい
。つまり、内周面29aによって形成された挿入穴は、貫通穴ではなく、止り穴であって
もよい。
【0099】
ステアリングアクチュエータ41のステアリングロッド42は、エンドキャップ25に
直接支持されていてもよい。つまり、ステアリングロッド42とエンドキャップ25との
間に介在するシャフトダンパー54が省略されてもよい。同様に、ガイドシャフト51と
スイベルブラケット22との間に介在するガイドダンパー52が省略されてもよい。また
、駆動部材47をステアリングアクチュエータ41の軸方向に案内するガイドシャフト5
1が省略されてもよい。
【0100】
クランプブラケット21の内周面29a内に挿入される筒状部33は、スイベルブラケ
ット22の収容部31とは別の部材であってもよい。この場合、スイベルブラケット22
に対する筒状部33の固定方法は、圧入、溶接、およびボルトによる締結のいずれかであ
ってもよいし、これら以外の方法であってもよい。
第1実施形態では、円柱ピン48が駆動部材47に固定されており、スライド溝49が
従動部材50に設けられている例について説明した。しかし、円柱ピン48が従動部材5
0に設けられ、スライド溝49が駆動部材47に設けられてもよい。
【0101】
第4実施形態において、ステアリングロッド42の右端部は、ステアリングロッド42
の左端部と同様に、固定ナットN1によって右方のエンドキャップ25に固定されていて
もよい。
第4実施形態に係るハンドル取付部42dは、ステアリングロッド42の左端面から凹
んだ、側面視多角形状のハンドル取付穴であってもよい。
図15は、側面視六角形状のハ
ンドル取付穴がステアリングロッド42の左端面に設けられている例を示している。この
例の場合、ハンドルの一例である六角レンチ94の端部をハンドル取付穴に差し込み、六
角レンチを回転させればよい。
【0102】
第4実施形態に係る船外機1は、ハンドル92を備えていなくてもよい。この場合、ハ
ンドルの一例である専用または汎用工具を必要に応じてハンドル取付部42dに取り付け
ればよい。例えば、固定ナットN1を緩めた後に、ハンドル92と追加のナットとをステ
アリングロッド42の雄ネジ部42cに取り付け、2つのナット(固定ナットN1と追加
のナット)でハンドル92をステアリングロッド42の軸方向に挟んでステアリングロッ
ド42に固定してもよい。つまり、ステアリングロッド42の雄ネジ部42cがハンドル
取付部42dを兼ねていてもよい。
【0103】
図16に示すように、ステアリングアクチュエータ41は、チルト軸線Atに対して偏
心していてもよい。つまり、ステアリングチューブ44およびステアリングロッド42の
中心線は、チルト軸線At上に配置されていなくてもよい。この場合、ステアリングアク
チュエータ41は、側面視で、チルト軸線Atに重なっていなくてもよい。
前述の全ての構成の2つ以上が組み合わされてもよい。
【0104】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能で
ある。
【符号の説明】
【0105】
1:船外機、2:船外機本体、3:懸架装置、4:操舵装置、5:チルト装置、11:
エンジン、16:プロペラ、17:カウル、18:ケーシング、21:クランプブラケッ
ト、21i:内側面、21o:外側面、22:スイベルブラケット、22o:外側面、2
3:ステアリングシャフト、25:エンドキャップ、28:取付部、29:スイベル支持
部、29a:内周面、31:収容部、33:筒状部、41:ステアリングアクチュエータ
、42:ステアリングロッド、42d:ハンドル取付部、44:ステアリングチューブ、
45:配線、46:運動変換機構、47:駆動部材、48:円柱ピン、49:スライド溝
、50:従動部材、51:ガイドシャフト、52:ガイドダンパー、53:ブッシュ、5
4:シャフトダンパー、55:回転アーム、62:電動モータ、63:減速装置、64:
ボールネジ、66:ボールナット、67:ハウジング、69:インナーチューブ、70:
減速装置、As:ステアリング軸線、At:チルト軸線、H1:船体、N1:固定ナット
、T1:トランサム