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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】電動車両および電動車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/04 20060101AFI20220815BHJP
   A61G 5/02 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
A61H3/04
A61G5/02 707
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018131750
(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公開番号】P2020006038
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100141830
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩明
【審査官】関本 達基
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-013675(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035726(WO,A1)
【文献】特開2018-071318(JP,A)
【文献】特開2016-217851(JP,A)
【文献】特開2015-047307(JP,A)
【文献】特開2005-335405(JP,A)
【文献】特開2012-143488(JP,A)
【文献】特開2010-172522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/04
A61G 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両の走行抵抗を推定する走行抵抗推定部と、
前記走行抵抗推定部の推定結果に基づいて、前記電動車両の駆動力を制御する駆動力制御部と、を備え
前記走行抵抗推定部は、前記電動車両の走行時の加速度に基づいて前記走行抵抗を推定し、
前記走行抵抗推定部は、前記電動車両に作用する鉛直方向の加速度成分のうち、所定周波数以下の周波数となる振幅の積分値と、全周波数の振幅の積分値との割合を、予め定められた値と比較することによって、前記走行抵抗を推定し、
前記電動車両は、電動アシスト歩行車、電動車椅子、電動台車又は電動シニアカーである、電動車両。
【請求項2】
前記電動車両の加速度を測定する加速度センサを更に備え、
前記走行抵抗推定部は、前記加速度センサの出力のうち鉛直方向の加速度成分に基づいて、前記走行抵抗を推定する、請求項記載の電動車両。
【請求項3】
前記駆動力制御部は、前記走行抵抗推定部の推定結果が予め定められた値よりも小さいとき、発電ブレーキを作動させる、請求項1又は2記載の電動車両。
【請求項4】
前記電動車両は、電動アシスト歩行車である、請求項1乃至のいずれか一項記載の電動車両。
【請求項5】
電動車両の走行抵抗を推定する走行抵抗推定工程と、
前記走行抵抗推定工程の推定結果に基づいて、前記電動車両の駆動力を制御する駆動力制御工程と、を備え
前記走行抵抗推定工程において、前記電動車両の走行時の加速度に基づいて前記走行抵抗を推定し、
前記走行抵抗推定工程において、前記電動車両に作用する鉛直方向の加速度成分のうち、所定周波数以下の周波数となる振幅の積分値と、全周波数の振幅の積分値との割合を、予め定められた値と比較することによって、前記走行抵抗を推定し、
前記電動車両は、電動アシスト歩行車、電動車椅子、電動台車又は電動シニアカーである、電動車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両および電動車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、老人や脚力の弱い人の歩行を補助するために、電動モータ付き歩行補助車(電動アシスト歩行車)と呼ばれる電動車両が知られている。電動アシスト歩行車は、歩行時に歩行者(使用者)と一体となって使用され、使用者により与えられる操作力では不足する分の力を発生させるように車輪のモータを駆動する。これにより、使用者の歩行をアシストする。使用者は、電動アシスト歩行車によって発生させられた力を利用することで、脚力が弱くても、容易に歩行を行うことができる。
【0003】
従来の電動アシスト歩行車としては、使用者に操作される左右のハンドルにそれぞれ操作力センサを備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。このような電動アシスト歩行車においては、各操作力センサの出力に応じた車輪駆動用モータの制御により、平地や上り坂での走行補助用の駆動力や、下り坂での抑速用の発電ブレーキ等を、使用者の操作力に応じて発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2014/188726号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電動アシスト歩行車を用いる使用者は、補助駆動力や発電ブレーキを得るために、左右ハンドルの各操作力センサを介して車両を操作しなければならない。こうしたハンドル操作は、とりわけ握力や腕力が乏しい使用者にとっては大きな負担となる。
【0006】
本発明は、操作力センサを用いることなく走行抵抗を推定することができ、この推定された走行抵抗に基づき、電動車両のアシスト駆動力を算出することが可能な、電動車両および電動車両の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動車両は、電動車両の走行抵抗を推定する走行抵抗推定部と、前記走行抵抗推定部の推定結果に基づいて、前記電動車両の駆動力を制御する駆動力制御部と、を備えている。
【0008】
本発明の電動車両において、前記走行抵抗推定部は、前記電動車両の走行時の加速度に基づいて前記走行抵抗を推定しても良い。
【0009】
本発明の電動車両において、前記電動車両の加速度を測定する加速度センサを更に備え、前記走行抵抗推定部は、前記加速度センサの出力のうち鉛直方向の加速度成分に基づいて、前記走行抵抗を推定しても良い。
【0010】
本発明の電動車両において、前記走行抵抗推定部は、前記電動車両に作用する鉛直方向の加速度成分のうち、所定周波数以下の周波数となる振幅の積分値と、全周波数の振幅の積分値との割合を、予め定められた値と比較することによって、前記走行抵抗を推定しても良い。
【0011】
本発明の電動車両において、前記駆動力制御部は、前記走行抵抗推定部の推定結果が予め定められた値よりも小さいとき、発電ブレーキを作動させても良い。
【0012】
本発明の電動車両において、前記電動車両は、電動アシスト歩行車であっても良い。
【0013】
本発明の電動車両の制御方法は、電動車両の走行抵抗を推定する走行抵抗推定工程と、前記走行抵抗推定工程の推定結果に基づいて、前記電動車両の駆動力を制御する駆動力制御工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、操作力センサを用いることなく走行抵抗を推定することができ、この推定された走行抵抗に基づき、電動車両のアシスト駆動力を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係る電動車両の一例として電動アシスト歩行車を模式的に示す斜視図。
図2図1に示す歩行車の側面図。
図3図1の歩行車に搭載される制御部および周辺構成の一例を示す図。
図4】本発明の一実施の形態に係る歩行車の制御部による動作の一例を示すフローチャート。
図5】歩行車の走行中における周波数と振幅との関係を示すグラフ。
図6】歩行車を整地および不整地でそれぞれ走行させたときの全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合を求めたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の構成には同一の符号を付し、それらについての繰り返しの説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電動車両の一例として電動アシスト歩行車(以下、歩行車と呼ぶ)100を模式的に示す斜視図である。図2は、図1の歩行車100の側面図である。
【0018】
図1および図2に示すように、歩行車100は、本体フレーム11と、本体フレーム11に設けられた一対の前輪12および一対の後輪13と、本体フレーム11に設けられた支持パッド(身体支持部)14と、を備えている。歩行車100は、老人や脚力の弱い人の歩行を補助するために利用される。使用者は、歩行車100の使用時、支持パッド14に前腕や肘を載せて、支持パッド14に体重(荷重)をかけた状態で、ハンドルバー15とブレーキレバー16とをつかみながら、歩行動作を行う。歩行車100は、使用者により与えられる力では不足する分の力を発生させるように後輪13に連結したモータ20を駆動することで、歩行車100を自立走行させ、これにより、歩行のアシスト制御を行う。
【0019】
図1に示す歩行車100には、このようなアシスト制御を実行するための制御部30(後述する図3参照)が搭載されている。以下、図1に示す歩行車100についてさらに詳細に説明する。
【0020】
本体フレーム11は、歩行車100の設置面に垂直な方向から所定の角度だけ傾斜された一対の支持フレーム21を備えている。支持フレーム21は、一例として、パイプ状部材により構成される。支持フレーム21の下端側に、一対の下段フレーム51が水平に配設されている。下段フレーム51の前端側には、一対の前輪12が取り付けられている。下段フレーム51の後端側には、一対のリンク機構55が設けられている。
【0021】
一対の下段フレーム51の上方に、一対の上段フレーム54が配設されている。上段フレーム54の後端側には、一対の後輪フレーム57の一端側が、軸56を介して回動可能に結合されている。後輪フレーム57の他端側には、一対の後輪13がそれぞれ設けられている。一対の後輪13には、それぞれ対応する後輪13を駆動する一対のモータ20が連結されている。モータ20は、サーボモータ、ステッピングモータ、ACモータ、DCモータ等、任意のモータを用いることができ、さらに減速機を一体に形成されたものを用いてもよい。
【0022】
一対の支持フレーム21の上端部には、それぞれ一対のハンドル24が設けられている。一対のハンドル24は、歩行車100の設置面に対して概ね水平であり、一例として、パイプ状部材により構成される。一対のハンドル24には、着座時に使用者が姿勢を安定させるためにつかまるグリップ部23(図2参照)がそれぞれ設けられている。また、一対のハンドル24の前方側には、ハンドル24と一体に、パイプ状のハンドルバー15が形成されている。ハンドルバー15の一端は、一対のハンドル24のうちの一方に、ハンドルバー15の他端は、他方のハンドル24に結合されている。なお、ハンドルバー15が、ハンドル24とは別の素材により構成されてもよい。
【0023】
本実施の形態において、歩行車100には、使用者がハンドルのグリップ等を操作する際の操作力を直接検知する操作力センサ、例えばグリップセンサ、歪みセンサ、近接センサまたは圧力センサ等は設けられていない。このため、グリップを操作するための握力や腕力が小さい使用者でも、グリップ等の特定の操作部を操作することなく、歩行車100を押したり引いたりするだけで容易にアシスト駆動力を得ることができる。
【0024】
一対の後輪13の外周には、機械的に接触可能な一対のブレーキシュー25(図1において省略、図2参照)が設けられている。ブレーキシュー25は、本体フレーム11内に配設された図示しないブレーキワイヤー(以下、ワイヤー)の一端に接続され、ワイヤーの他端は、ハンドルバー15の両側に設けられた一対のブレーキユニット61のワイヤー接続機構に連結させられている。なお、ワイヤーは本体フレーム11内に格納されているが、ワイヤーを本体フレームの外側に配設して、外観上、使用者から見えるような構成にしてもよい。
【0025】
ハンドルバー15の前下方向に、ハンドルバー15に対向するようにして、ブレーキレバー16が配置されている。ブレーキレバー16の両端部はそれぞれ、一対のブレーキユニット61に連結されている。ブレーキレバー16の両端部は、巻きばね等の付勢手段を介して、ブレーキユニット61に取り付けられている。使用者は、ブレーキレバー16を手前に(図2の矢印R1の方向に)引くことで、ワイヤアクションにより、機械的なブレーキをかけることができる。すなわち、ブレーキレバー16の操作により、ブレーキシュー25を制御できる。
【0026】
例えば、使用者は、ブレーキレバー16を手前側に(ハンドルバー15に近づける方向に)ブレーキ作動位置まで引く。ブレーキレバー16と連結されたワイヤーのアクションによって、ブレーキシュー25が移動し、後輪13の外周を押圧する。これによって、機械的なブレーキが行われる。使用者がブレーキレバー16から手を離すと、ブレーキレバー16は元の位置(通常位置)に戻る。これに伴って、ブレーキシュー25も後輪13から離れ機械的なブレーキが解除される。また、ブレーキレバー16は矢印R1の反対方向(下側)に降ろすことができるようになっている。ブレーキレバー16をパーキング位置まで降ろすことで、ワイヤアクションを介して、ブレーキシュー25で後輪13を押圧した状態を維持するパーキングブレーキがかけられる。
【0027】
一対のハンドル24の上方に、一対のハンドル24にまたがるようにして、上述した支持パッド14が搭載されている。支持パッド14は、使用者の身体の一部を支持する身体支持部の一形態である。本実施の形態では、使用者の前腕または肘またはこれらの両方を支持する使用形態を想定する。ただし、あご、手、または胸など、別の部位を支持する使用形態も可能である。
【0028】
ハンドル24と支持パッド14との間には、使用者により歩行車100が歩行に使用されているかを検出するための検出機構71(図2参照)が設けられている。具体的には、検出機構71は、支持パッド14に使用者から荷重(体重)がかけられているか、または使用者が支持パッド14に接触しているかを検出する。
【0029】
支持パッド14の形状は、一例として馬蹄状であるが、これに限定されず、他の任意の形状でもよい。支持パッド14は、一例として、スポンジまたはゴム製素材のようなクッション材を、木板または樹脂板などの板材の上に置き、樹脂性や布製の任意の被覆材で被覆したものとして構成される。ただし、この構成に限定されず、他の任意の構成でもよい。
【0030】
支持パッド14の下面の左右両側には、一対のアーム部材26の一端側が、固定されている。アーム部材26の他端側は、一対のハンドルバー15の外側にそれぞれ回動可能に取り付けられている。使用者は、支持パッド14を上方に押し上げる(跳ね上げる)ことで、支持パッド14が、図2の矢印R2の方向に回動し、所定位置(退避位置)で固定される(図2の仮想線参照)。シート部37上には、使用者の上半身を収容する空間が確保される。この状態で、使用者は、一対のグリップ部23を両手でつかみながら、支持パッド14を背中側にして、シート部37に着座することができる。グリップ部23をつかむことで、使用者は、着座の際、自身の姿勢を安定させることができる。このように、支持パッド14は、押し上げられる前の位置(通常位置)において歩行車のシート部37に使用者が着座することを阻害し、押し上げられた後の位置(退避位置)において、シート部37に使用者が着座することを許容する。
【0031】
ここでは、使用者が手動で支持パッド14を押し上げる構成を示したが、別の例として、図示しないロック機構を設け、ロック機構により固定を解除することで、自動的に支持パッド14が押し上げられる構成でもよい。または、アーム部材26を回動させる電動機構(モータ等)を設け、電動機構をスイッチ起動により作動させることで、支持パッド14を押し上げる構成でもよい。
【0032】
一対の上段フレーム54の間には、収容部27(図2参照)が吊り下げられるように設けられている。収容部27は、上方が開口した袋形状を有する。収容部27は、樹脂性でもよく、布製であってもよい。収容部27の蓋部として、上述した着座用のシート部37が設けられている。収容部27内には、後述する制御部30(図3参照)などが設置されている。
【0033】
収容部27の後ろ側に、一対の上段フレーム54から下方向に延在したレバー28が設けられている。レバー28は、使用者がレバー28を脚で踏みつけることが可能な位置に配設されている。使用者がレバー28を下げることで一対の後輪フレーム57および一対の後輪13が、一対の前輪12に近づくようにリンク機構55が折り畳まれる。その結果、歩行車100を折畳むことができる。
【0034】
収容部27には、上述したように制御部30が収容されている。制御部30は、モータ20等、歩行車100の全体を制御するものである。次に、図3を参照して、制御部30の詳細について説明する。
【0035】
図3に示すように、制御部30は、加速度センサ(検知部)31と、加速度センサ31に接続された走行抵抗推定部32と、走行抵抗推定部32に接続された駆動力制御部33とを有している。駆動力制御部33は、一対の後輪13にそれぞれ設けられたモータ20が接続されている。
【0036】
このうち加速度センサ31は、歩行車100の加速度を検知し、この加速度の信号を、走行抵抗推定部32を介して駆動力制御部33に対して送信する。加速度センサ31としては、2軸または3軸のものを、一つまたは複数使用できるが、少なくとも歩行車100の前後および鉛直方向(上下方向)の加速度を測定できるものが用いられる。加速度センサ31は、ジャイロセンサであってもよい。この加速度センサ31は、歩行車100が斜面に位置することを検知する傾斜センサとしての役割も果たしても良い。なお、加速度センサ31は、直接駆動力制御部33にも接続されている。すなわち、加速度センサ31は、走行抵抗推定部32による走行抵抗の推定を行うか否かに関わらず、歩行車100の前後方向の加速度の信号を駆動力制御部33に対して送信することが可能である。
【0037】
走行抵抗推定部32は、加速度センサ31で測定された歩行車100の走行時の鉛直方向の加速度成分に基づいて、歩行車100の走行抵抗を推定するものである。具体的には、走行抵抗推定部32は、歩行車100に作用する鉛直方向の加速度成分のうち、所定周波数以下の周波数となる振幅の積分値と、所定周波数以外の周波数となる振幅の積分値との割合を、予め定められた値と比較することによって、走行抵抗を推定する。なお、走行抵抗推定部32による走行抵抗の推定手法の詳細は、後述する。
【0038】
駆動力制御部33は、モータ20を制御することにより、後輪13の回転力をアシストするものである。通常、駆動力制御部33は、加速度センサ31で測定された歩行車100の前後方向の加速度の値に基づいて、モータ20を制御する(後述する通常のアシスト制御)。また、駆動力制御部33は、走行抵抗推定部32で推定した歩行車100の走行抵抗に基づいて、歩行車100の駆動力を制御する。一般に、走行抵抗は、芝生のような不整地で高く、屋内の床面のような整地では低い。このため、芝生など路面の走行抵抗が大きい不整地を走行しているとき、操作者が大きな操作力を付与しても、歩行車100に十分な加速度を与えることができないおそれがある。この場合、駆動力制御部33が路面の走行抵抗に応じてモータ20に駆動力を発生させることにより、歩行車100の路面走行に対して十分な補助駆動力を付与することができる。
【0039】
(制御部による制御方法)
次に、制御部30による歩行車100の制御方法について説明する。図4は、制御部30の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【0040】
まず、制御部30が通常のアシスト制御を実施している場合を想定する。この場合、歩行車100の後輪13の回転がモータ20によってアシストされ、使用者が歩行車100を押すだけでは不足する分の力を発生させるようにモータ20が駆動される。このとき、駆動力制御部33は、加速度センサ31で測定された歩行車100の前後方向の加速度の値に基づいて、使用者の押し力を推定してモータ20を制御する。例えば、駆動力制御部33は、歩行車100の前後方向の加速度の値が小さい場合、モータ20によるアシスト力を高め、反対に、歩行車100の前後方向の加速度の値が大きい場合、モータ20によるアシスト力を弱めても良い。
【0041】
しかしながら、仮に、歩行車100が床面等の整地から芝生等の不整地に移動した場合、操作者が大きな操作力を付与しても、歩行車100の加速度は必然的に低下してしまう。このような場合に、歩行車100の前後方向の加速度だけで使用者の押し力を推定しても、使用者の意思により歩行車100を減速させているのか、使用者は歩行車100を押しているが、不整地にある歩行車100が進みにくくなっているのか、判断することは難しい。
【0042】
このため、本実施の形態においては、駆動力制御部33は、走行抵抗推定部32で推定した推定結果(走行抵抗)に基づいて、歩行車100の後輪13の駆動力を制御するようになっている。すなわち、走行抵抗推定部32は、加速度センサ31で測定された歩行車100の走行時の鉛直方向の加速度成分に基づいて、走行抵抗を推定する。以下、このような走行抵抗推定部32による走行抵抗の推定方法について更に説明する。
【0043】
まず、加速度センサ31は、歩行車100の走行時の鉛直方向の加速度を測定し、これを走行抵抗推定部32に送信する。
【0044】
次に、走行抵抗推定部32は、加速度センサ31から送られた歩行車100の走行時の鉛直方向の加速度を取り込む(図4のステップS1)。次に走行抵抗推定部32は、この鉛直方向の加速度の信号を、ローパスフィルタを通して信号処理し、鉛直方向の加速度の信号のうち所定周波数以下の低周波成分を分離する。上記所定周波数としては、例えば5Hz~15Hzのうちのいずれかの周波数、好ましくは約10Hzとすることができる。信号処理の手法としては、ローパスフィルタに限らない。例えば、フーリエ変換により加速度の信号を信号処理し、各周波数毎の振幅を求めても良い。
【0045】
次に、走行抵抗推定部32は、鉛直方向の加速度成分のうち、上記所定周波数(例えば約10Hz)以下の周波数となる振幅の積分値である低周波振幅積分値と、全周波数の振幅の積分値である全周波振幅積分値との割合(算出割合)を求める(図4のステップS2)。具体的には、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合(0~1)を求める。ここで、低周波振幅積分値は、例えば図5に示すように、ある時点における加速度の信号のうち、低周波数(例えば約10Hz以下)となる周波数の振幅の積分値であり、図5の斜線部の面積に相当する。全周波振幅積分値は、ある時点における加速度の信号のうち、全周波数の振幅の積分値であり、図5のグラフの実線と縦軸と横軸とで囲まれた全面積(低周波成分と高周波成分との合計)に相当する。なお、歩行車100が傾斜面等にある場合に誤差が生じることを考慮して、低周波振幅積分値から、例えば約1Hz以下の定常成分の周波数領域の分を除去しても良い。
【0046】
なお、走行抵抗推定部32は、全周波振幅積分値が所定の閾値(ゼロに近い値)以下であるか否かを判断する(図4のステップS3)。そして走行抵抗推定部32は、全周波振幅積分値が所定の閾値以下である場合、振動がほとんど生じていないと判断する。すなわち走行抵抗推定部32は、歩行車100が静止しているか、または歩行車100が滑らかで振動がほぼ発生しない路面を走行していると推定し、上記算出割合を0と見なす(図4のステップS4)。これにより、低周波振幅積分値をゼロに近い全周波振幅積分値で割ることにより、これらの割合として異常値が算出されることを防止する。
【0047】
また、走行抵抗推定部32は、加速度センサ31からの加速度を用いて算出した歩行車100の速度が所定の閾値(歩行車100が停止しようとしている速度、例えば時速0.5km)以下か否かを判断する(図4のステップS5)。そして走行抵抗推定部32は、歩行車100の速度が所定の閾値以下である場合、使用者が歩行車100を停止させようとしていると推定し、上記算出割合を0と見なす(図4のステップS4)。これにより、使用者が歩行車100を停止させようとしている際に、モータ20を不必要にアシスト制御することを防止することができる。
【0048】
次に、走行抵抗推定部32は、上述した全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の算出割合を、予め定められた値と比較することによって、走行抵抗を推定する(走行抵抗推定工程、図4のステップS6)。この場合、推定される走行抵抗は2段階であり、すなわち、予め定められた値よりも大きい走行抵抗大の場合(不整地)と、予め定められた値よりも小さい走行抵抗小の場合(整地)である。具体的には、走行抵抗推定部32は、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合が予め定められた値よりも大きい(または予め定められた値以上の)場合、歩行車100が不整地を走行していると判断する。一方、走行抵抗推定部32は、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合が予め定められた値よりも小さい(または予め定められた値以下の)場合、歩行車100が整地を走行していると判断する。この予め定められた値としては、例えば0.4~0.5のいずれかの値であり、好ましくは0.45である。なお、推定される走行抵抗が3段階以上に分かれていても良い。
【0049】
このように、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合によって、歩行車100が整地および不整地のいずれかを走行しているか推定できるのは、以下の理由によると考えられる。すなわち、一般に、歩行車100が不整地を走行している場合、地面の小さい凹凸の影響により、加速度センサ31は、低周波(約10Hz以下)の鉛直方向の加速度成分を検出しやすい傾向がある。一方、不整地は地面が柔らかいため、高周波の鉛直方向の加速度成分は地面に吸収されやすい。このため加速度センサ31は、高周波成分を検出しにくくなる。したがって、歩行車100が整地を走行している場合と比較して、歩行車100が不整地を走行している場合、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合が大きくなる傾向がある。
【0050】
続いて、走行抵抗推定部32は、推定された走行抵抗(不整地または整地)を駆動力制御部33に送信する。そして駆動力制御部33は、この推定された推定結果である走行抵抗に基づいて、歩行車100の駆動力を制御する。
【0051】
具体的には、歩行車100が不整地を走行していると推定される場合、駆動力制御部33は、モータ20の駆動力を制御することにより、後輪13の回転力をアシストする(駆動力制御工程、図4のステップS7)。これにより、使用者は、軽い力で歩行車100を押して不整地を走行することができる。このとき、駆動力制御部33は、モータ20による後輪13の補助駆動力を、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合の数値に応じて変化させる。例えば、上記割合が小さいほどアシスト駆動力を小さくし、上記割合が大きいほどアシスト駆動力を大きくしても良い。これにより、より適切なアシスト駆動力で、歩行車100による歩行のアシスト制御を行うことができる。
【0052】
一方、歩行車100が整地を走行していると推定される場合、駆動力制御部33は、モータ20によって後輪13の回転力をアシストすることを行わない(図4のステップS8)。あるいは、駆動力制御部33は、モータ20によって後輪13の回転力を弱い力でアシストしても良い。このとき、駆動力制御部33は、モータ20による後輪13のアシスト力を、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合の数値によって変化させても良い。例えば、上記割合が小さいほどアシスト駆動力を小さくし、上記割合が大きいほどアシスト駆動力を大きくしても良い。
【0053】
また、走行抵抗推定部32の推定結果が予め定められた値よりも小さいとき、すなわち歩行車100が整地を走行していると推定される場合、駆動力制御部33は、モータ20に対して発電ブレーキを作動させるようにしても良い。発電ブレーキは、モータ20の各相の間をショートさせ(通常の駆動を停止し)、モータ20の回転により発電する逆起電力を利用して、制動力(ブレーキ力)を得るものである。発電ブレーキの特徴として、電力を回生できるとともに、ブレーキをなめらかにすることができる。これにより、歩行車100が整地を走行している場合には、発電ブレーキを作動させることにより、走行を安定させつつ電力を補充することができる。
【0054】
次に、図6により、上記実施の形態における具体的実施例について説明する。
【0055】
具体的には、実際に歩行車100を整地および不整地でそれぞれ走行させ、このときの全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合を算出した。この場合、まず加速度センサ31により歩行車100の走行時の鉛直方向の加速度成分を測定した。走行抵抗推定部32は、加速度センサ31から送られた鉛直方向の加速度成分のうち、10Hz以下の周波数となる振幅の積分値である低周波振幅積分値を求め、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合を求めた。
【0056】
このような測定は、互いに異なる場所にある3箇所の整地(整地1、整地2、整地3)と、互いに異なる場所にある3箇所の不整地(不整地1、不整地2、不整地3)で行った。この場合、各整地および各不整地で、停止した状態から歩行車100を押し始め、歩行車100を約40秒間略等速で走行させた。この結果を図6に示す。
【0057】
図6に示すように、歩行車100が移動を開始した後、約3秒間経過した以降はデータが安定し、各整地(整地1、整地2、整地3)において、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合が約0.4以下となった。一方、各不整地(不整地1、不整地2、不整地3)において、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合は約0.5以上となった。したがって、全周波振幅積分値に対する低周波振幅積分値の割合の閾値を約0.45に設定することにより、歩行車100が整地を走行しているか、不整地を走行しているかを適切に判断できるものと考えられる。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態によれば、走行抵抗推定部32が歩行車100の走行抵抗を推定し、駆動力制御部33が、走行抵抗推定部32の推定結果に基づいて、歩行車100の駆動力を制御する。これにより、操作力センサを用いることなく歩行車100の走行抵抗を推定することができ、この推定された走行抵抗に基づき、歩行車100のアシスト駆動力を適切に算出することができる。このため、芝生などの不整地を走行する際、使用者は、軽い力で歩行車100を押すことができる。とりわけ、使用者の握力や腕力が乏しくて、ハンドル操作を苦手とする場合であっても、歩行車100の車体のいずれかの箇所を押したり引いたりすることで、走行抵抗に応じた走行補助駆動力を容易に得ることができる。
【0059】
また、本実施の形態によれば、走行抵抗推定部32は、歩行車100の走行時の加速度に基づいて走行抵抗を推定するので、歩行車100の加速度に基づいて、走行抵抗を比較的適切に算出推定することができる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、走行抵抗推定部32は、加速度センサ31の出力のうち鉛直方向の加速度成分に基づいて、走行抵抗を推定するので、走行時の歩行車100の車体の振動状況から路面の柔らかさを判断し、歩行車100の走行抵抗を推定することができる。
【0061】
また、本実施の形態によれば、走行抵抗推定部32は、歩行車100に作用する鉛直方向の加速度成分のうち、所定周波数以下の周波数となる振幅の積分値(低周波振幅積分値)と、全周波数の振幅の積分値(全周波振幅積分値)との割合を、予め定められた値と比較することによって、走行抵抗を推定する。これにより、走行抵抗推定部32は、低周波振幅積分値が全周波振幅積分値に対して大きいと判断した場合、走行抵抗が大きいと判断することができ、歩行車100が整地を走行しているか、不整地を走行しているかを的確に判断することができる。
【0062】
また、本実施の形態によれば、駆動力制御部33は、走行抵抗推定部32の推定結果としての走行抵抗が予め定められた値よりも小さいとき、発電ブレーキを作動させる。これにより、走行抵抗が小さい路面では発電ブレーキを発生させることにより、微量なブレーキをかけつつ走行安定化を得ながら電力を補充することができる。これにより1回の充電での歩行車100の使用可能時間を延ばすことができる。
【0063】
さらに、本実施の形態によれば、歩行車100に操作力センサを設ける必要がないので、歩行車100の構造が簡単であり、歩行車100の製造コストを低減することができる。
【0064】
本実施の形態において、モータ20は各後輪13に取り付けられているが、これに限定されず、モータ20が一対の前輪12にのみ取り付けられてもよい。または、モータ20が、一対の前輪12および一対の後輪13の全てに取り付けられてもよい。また、車輪(後輪13)の制動部としてモータ20を用いたが、モータ20とは別に、車輪の制動部を、モータ20とは別に設けてもよい。例えば機械的ブレーキを行ってもよいし、電磁ブレーキを用いてもよい。
【0065】
本実施の形態においては、モータ20により一対の後輪(車輪)13を駆動する例を用いて説明したが、これに限定されず、起動輪、転輪、遊動輪(誘導輪)を囲むように一帯に接続された履板の環である無限軌道をモータにより駆動してもよい。この場合、無限軌道がブレーキ(制動)の対象となる。
【0066】
本実施の形態では、電動車両の一例として電動アシスト歩行車100を例にとって説明したが、電動車両としては、電動歩行車に限らず、電動車椅子、電動台車、電動シニアカー等であってもよい。
【0067】
本実施の形態においては、歩行車100の走行時の加速度に基づいて走行抵抗を推定する際、加速度センサ31により歩行車100の走行時の鉛直方向の加速度成分を求める場合を例にとって説明した。しかしながら、これに限らず、加速度センサ31により歩行車100の前後左右方向の加速度の加速度成分を求め、走行抵抗推定部32は、この前後左右方向の加速度成分に基づいて、歩行車100の走行抵抗を推定しても良い。あるいは、加速度センサ31に代えて、前輪12または後輪13の回転数を微分することにより、歩行車100の走行時の鉛直方向の加速度成分を求めてもよい。
【0068】
本実施の形態においては、走行抵抗推定部32は、歩行車100の走行時の加速度に基づいて走行抵抗を推定する場合を例にとって説明した。しかしながら、これに限らず、走行抵抗推定部32は、下記の(i)~(iv)のいずれかに基づいて歩行車100の走行抵抗を推定しても良い。
【0069】
(i)走行路面を撮影したカメラ撮影画像
例えば、歩行車100に走行路面を撮影する図示しないカメラを設け、走行抵抗推定部32は、このカメラからの撮影画像を予め登録された複数の基準画像と対比することにより、歩行車100が走行している路面が整地であるか不整地であるかを推定しても良い。
【0070】
(ii)前輪キャスタの歪ゲージ
例えば、前輪12に、この前輪12に加わる鉛直方向の力を測定する図示しない歪ゲージを設け、走行抵抗推定部32は、この歪ゲージからの圧力値を予め設定された値と比較することにより、歩行車100が走行している路面が整地であるか不整地であるかを推定しても良い。
【0071】
(iii)走行路面の水分量
例えば、歩行車100に、走行路面の水分量を測定する図示しない水分センサを設け、走行抵抗推定部32は、この水分センサで測定した水分量を予め設定された値と比較することにより、歩行車100が走行している路面が整地であるか不整地であるかを推定しても良い。
【0072】
(iv)走行路面の柔軟度
例えば、前輪12または後輪13に、そのタイヤの空気圧を測定する図示しない圧力センサを設け、走行抵抗推定部32は、この圧力センサからのタイヤの空気圧を予め設定された値と比較することにより、歩行車100が走行している路面が整地であるか不整地であるかを推定しても良い。
【0073】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記本実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記本実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
11 本体フレーム
12 前輪
13 後輪
14 支持パッド
20 モータ
30 制御部
31 加速度センサ
32 走行抵抗推定部
33 駆動力制御部
100 歩行車
図1
図2
図3
図4
図5
図6