(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】赤外線吸収性UVインキ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/037 20140101AFI20220815BHJP
C09D 11/101 20140101ALI20220815BHJP
C09D 11/106 20140101ALI20220815BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20220815BHJP
C09D 11/36 20140101ALI20220815BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220815BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
C09D11/037
C09D11/101
C09D11/106
C09D11/322
C09D11/36
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2018178055
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】狩野 真啓
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104855(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121845(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121801(WO,A1)
【文献】特開2013-137337(JP,A)
【文献】特開2006-098444(JP,A)
【文献】特開2018-100987(JP,A)
【文献】特開2018-124300(JP,A)
【文献】特開2018-127527(JP,A)
【文献】特表2009-511661(JP,A)
【文献】特開平08-143853(JP,A)
【文献】特開平10-060409(JP,A)
【文献】特開2011-094252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン系赤外線吸収性顔料、溶媒、前記溶媒に可溶なアクリル系樹脂、UV硬化性アクリル系単量体、及び光硬化剤を含
み、
前記溶媒が、前記顔料を分散可能な第1の溶媒と、前記第1の溶媒と相溶性でありかつ前記アクリル系樹脂を溶解可能な第2の溶媒とを含み、
前記第1の溶媒が、グリコールエーテル類の有機溶媒を含み、
前記第2の溶媒が、芳香族炭化水素類及び脂肪族炭化水素類から選ばれる溶媒を含む、
赤外線吸収性UVインキ。
【請求項2】
前記溶媒がさらに希釈用溶媒を含む、請求項
1に記載の赤外線吸収性UVインキ。
【請求項3】
前記希釈用溶媒が、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、及び脂肪族炭化水素類から選ばれる溶媒を含む、請求項2に記載の赤外線吸収性UVインキ。
【請求項4】
分散剤をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の赤外線吸収性UVインキ。
【請求項5】
前記分散剤が、アミン、水酸基、カルボキシル基、及びエポキシ基から選ばれる官能基を有する化合物である、請求項4に記載の赤外線吸収性UVインキ。
【請求項6】
前記溶媒、前記UV硬化性アクリル系単量体及び前記光硬化剤の合計100質量部に対して、
2~10質量部の前記タングステン系赤外線吸収性顔料、及び
5~40質量部の前記アクリル系樹脂
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の赤外線吸収性UVインキ。
【請求項7】
前記タングステン系赤外線吸収性顔料が、
一般式(1):M
xW
yO
z{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、または
一般式(2):W
yO
z{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物
から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の赤外線吸収性UVインキ。
【請求項8】
インクジェット用インキである、請求項1~7のいずれか一項に記載の赤外線吸収性UVインキ。
【請求項9】
以下を含む、赤外線吸収性UVインキの製造方法:
タングステン系赤外線吸収性顔料及び前記顔料を分散可能な第1の溶媒を含む分散体と、アクリル系樹脂及び前記アクリル系樹脂を溶解可能な第2の溶媒を含むアクリル系樹脂組成物とを混合して、粘性分散体を得ること、
ここで、
前記第1の溶媒は、グリコールエーテル類の有機溶媒を含み、
前記第2の溶媒は、芳香族炭化水素類及び脂肪族炭化水素類から選ばれる溶媒を含む、並びに
前記粘性分散体と、UV硬化性アクリル系モノマー及び光硬化剤を混合すること。
【請求項10】
さらに、希釈用溶媒を混合して粘度を調節することを含む、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収性UVインキ及びその製造方法に関する。特に、本発明は、耐塩基性が高い印刷物、例えば耐洗濯性が高い印刷物を与えるができ、容易に製造することができ、かつ様々な印刷方法によって印刷可能な、タングステン系の赤外線吸収性顔料を含有するUVインキ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線吸収性インキは、様々な用途に用いることができ、例えば有価証券の一部に印刷して偽造防止のために使用することができる。特許文献1では、硬化性樹脂に包含された赤外線吸収色素を含む、赤外線吸収性インキが開示されている。特許文献2では、タングステン系赤外線吸収性顔料を含有する、偽造防止用の赤外線吸収性インキが開示されている。
【0003】
タングステン系赤外線吸収性顔料は、特許文献3に記載のように、その赤外線吸収特性から、熱線遮蔽材料としても用いられており、一般的には高い耐候性を有するといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-174164号公報
【文献】国際公開第2016/121801号
【文献】特開2016-29166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らは、このようなタングステン系赤外線吸収性顔料が、洗剤等の塩基性物質の影響によって失活し、赤外線吸収能を喪失することを発見した。
【0006】
これに対して、本発明者らは、UVインキの耐候性の高さに着目して、タングステン系赤外線吸収性顔料をUVインキに含有させようとしたところ、顔料がインキ中で沈降してしまい、印刷に適したインキを得ることができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、耐塩基性、特に耐洗濯性が高い印刷物を与えることができ、かつ印刷に適している、タングステン系赤外線吸収性顔料を含有するUVインキ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
タングステン系赤外線吸収性顔料、溶媒、前記溶媒に可溶なアクリル系樹脂、UV硬化性アクリル系単量体、及び光硬化剤を含む、赤外線吸収性UVインキ。
《態様2》
前記溶媒が、前記顔料を分散可能な第1の溶媒と、前記第1の溶媒と相溶性でありかつ前記アクリル系樹脂を溶解可能な第2の溶媒とを含む、態様1に記載の赤外線吸収性UVインキ。
《態様3》
前記第1の溶媒及び第2の溶媒が、有機溶媒から選択される、態様2に記載の赤外線吸収性UVインキ。
《態様4》
前記第1の溶媒が、グリコールエーテル類の有機溶媒を含む、態様2又は3に記載の赤外線吸収性UVインキ。
《態様5》
前記溶媒がさらに希釈用溶媒を含む、態様2~4のいずれか一項に記載の赤外線吸収性UVインキ。
《態様6》
前記溶媒、前記UV硬化性アクリル系単量体及び前記光硬化剤の合計100質量部に対して、
2~10質量部の前記タングステン系赤外線吸収性顔料、及び
5~40質量部の前記アクリル系樹脂
を含む、態様1~5のいずれか一項に記載の赤外線吸収性UVインキ。
《態様7》
前記タングステン系赤外線吸収性顔料が、
一般式(1):MxWyOz{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、または
一般式(2):WyOz{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物
から選択される、態様1~6のいずれか一項に記載の赤外線吸収性UVインキ。
《態様8》
インクジェット用インキである、態様1~7のいずれか一項に記載の赤外線吸収性UVインキ。
《態様9》
以下を含む、赤外線吸収性UVインキの製造方法:
タングステン系赤外線吸収性顔料及び前記顔料を分散可能な第1の溶媒を含む顔料分散体と、アクリル系樹脂及び前記アクリル系樹脂を溶解可能な第2の溶媒を含むアクリル系樹脂組成物とを混合して、粘性分散体を得ること、及び
前記粘性分散体と、UV硬化性アクリル系モノマー及び光硬化剤を混合すること。
《態様10》
さらに、希釈用溶媒を混合して粘度を調節することを含む、態様9に記載の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は、実施例4のIR反射スペクトルを示しており、
図1(b)は、比較例1のIR反射スペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《赤外線吸収性UVインキ》
本発明の赤外線吸収性UVインキは、タングステン系赤外線吸収性顔料、溶媒、溶媒に可溶なアクリル系樹脂、UV硬化性アクリル系単量体、及び光硬化剤を含む。
【0011】
UVインキは、UV硬化性アクリル系単量体の粘性が十分に低いために、通常は溶媒を含まず、またこの溶媒を含まないことが作業性等において有利な点であると考えられていた。
【0012】
本発明者らが検討したところ、その従来の構成のUVインキに対してタングステン系赤外線吸収性顔料を分散させようとしても、顔料がインキ中ですぐに沈降してしまい、又は顔料を含む分散体がUVインキと分離してしまい、その分散体は、印刷用のインキとして実用性がなかった。
【0013】
それに対して、本発明者らはさらに検討し、タングステン系赤外線吸収性顔料をまずアクリル系樹脂組成物に分散させて、これを、従来の構成のUVインキと混合することによって、印刷用のインキとして実用的な分散体が得られることを見出した。そして、このインキによって印刷した印刷物は、耐塩基性、すなわち耐洗濯性が非常に高いことがわかった。印刷物は、衣類と共に洗濯されることがあるため、耐塩基性が高い印刷物を与えることができる本発明のインキは、非常に有用である。
【0014】
理論に拘束されないが、上記のような本発明のインキ効果は、本発明のインキが溶媒に可溶なアクリル樹脂を含有していることによって、タングステン系赤外線吸収性顔料の周囲に効果的な樹脂コーティングを形成できること、及びアクリル樹脂が、UV硬化性アクリル系モノマーと親和性が高いことに起因していると考えられる。
【0015】
また、タングステン系赤外線吸収性顔料は、高度に分散されて使用されない場合には赤外線吸収性が低下するが、本発明のUVインキで印刷した印刷物は、高い赤外線吸収性を有することがわかった。さらに、従来のUVインキは、溶媒を含まないことが有利であるとされていたが、少なくとも特定の態様に関する本発明のUVインキでは、印刷後には、UV硬化したアクリル樹脂中に溶媒が取り込まれること等によって、溶媒の乾燥等の工程を省略することも可能あった。
【0016】
そして、本発明のインキは、特に複雑な工程を得ることなく製造することができ、かつ様々な印刷方法によって印刷できる。特に、本発明のインキは、タングステン系赤外線吸収性顔料が高度に分散できる結果として、インクジェット印刷が可能である。インクジェット印刷が可能な、赤外線吸収性インキは、従来において実用化されておらず、本発明のUVインキは、それを可能とする点でも特に有利である。
【0017】
本発明のインキの粘度は、約25℃の温度において、約300mPa・s以下、約150mPa・s以下、又は約80mPa・s以下であることが好ましく、また、この粘度は、約10mPa・s以上、又は約15mPa・s以上であることが好ましい。
【0018】
〈タングステン系赤外線吸収性顔料〉
本発明のインキには、タングステン系赤外線吸収性顔料が分散している。例えば、このようなタングステン系赤外線吸収性顔料としては、上記特許文献2に開示されているような顔料を挙げることができる。
【0019】
したがって、タングステン系赤外線吸収性顔料としては、一般式(1):MxWyOz{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、または一般式(2):WyOz{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物から選択される1種以上の赤外線吸収性顔料を挙げることができる。
【0020】
タングステン系赤外線吸収性顔料の製法として、特開2005-187323号公報に説明されている複合タングステン酸化物又はマグネリ相を有するタングステン酸化物の製法を使用することができる。
【0021】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物には、元素Mが添加されている。この為、一般式(1)におけるz/y=3.0の場合も含めて、自由電子が生成され、近赤外光波長領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線を吸収する材料として有効である。
【0022】
特に、近赤外線吸収性材料としての光学特性及び耐候性を向上させる観点から、M元素としては、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnのうちの1種類以上とすることができる。
【0023】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物を、シランカップリング剤で処理することによって、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性を高めてもよい。
【0024】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0超であれば、十分な量の自由電子が生成され近赤外線吸収効果を十分に得ることができる。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し近赤外線吸収効果も上昇するが、通常はx/yの値が1程度で飽和する。x/yの値が1以下として、顔料含有層中における不純物相の生成を防いでもよい。x/yの値は、0.001以上、0.2以上又は0.30以上であってもよく、0.85以下、0.5以下又は0.35以下であってもよい。x/yの値は、特に0.33とすることができる。
【0025】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たすので、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値が2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすようにしてもよい。
【0026】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を有するか、又は六方晶の結晶構造からなるとき、赤外線吸収性材料微粒子の可視光波長領域の透過が大きくなり、かつ近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。六方晶の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光波長領域の透過が大きくなり、近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。ここで、一般には、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、これらの元素に限定されるものではなく、これらの元素以外の元素でも、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよい。
【0027】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有する場合には、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下とすることができ、0.30以上0.35以下とすることができ、特に0.33とすることができる。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の実質的に全てに配置されると考えられる。
【0028】
また、六方晶以外では、正方晶又は立方晶のタングステンブロンズも近赤外線吸収効果がある。これらの結晶構造によって、近赤外光波長領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光波長領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、可視光波長領域の光をより透過して、近赤外光波長領域の光をより吸収する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いてもよい。
【0029】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物において、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす組成比を有する所謂「マグネリ相」は、安定性が高く、近赤外光波長領域の吸収特性も高いため、近赤外線吸収顔料として好適に用いられる。
【0030】
上記のような顔料は、近赤外光波長領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調が青色系から緑色系となる物が多い。また、そのタングステン系赤外線吸収性顔料の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持して応用する場合には、体積平均で2000nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。これは、分散粒子径が2000nm以下であれば、可視光波長領域での透過率(反射率)のピークと近赤外光波長領域の吸収とのボトムの差が大きくなり、可視光波長領域の透明性を有する近赤外線吸収顔料としての効果を発揮できるからである。さらに分散粒子径が2000nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光波長領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。
【0031】
さらに可視光波長領域の透明性を重視する場合には、粒子による散乱を考慮することが好ましい。具体的には、タングステン系赤外線吸収性顔料の体積平均の分散粒子径は、200nm以下であることが好ましく、好ましくは100nm以下、50nm以下、又は30nm以下であることがより好ましい。赤外線吸収性材料微粒子の分散粒子径が200nm以下になると、幾何学散乱又はミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い、散乱が低減し透明性が向上する。さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましい。一方、分散粒子径が1nm以上、3nm以上、5nm以上、又は10nm以上あれば工業的な製造は容易となる傾向にある。ここで、タングステン系赤外線吸収性顔料の体積平均の分散粒子径は、ブラウン運動中の微粒子にレーザー光を照射し、そこから得られる光散乱情報から粒子径を求める動的光散乱法のマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製)を用いて測定した。
【0032】
本発明のインキ中のタングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1.0重量%以上、2.0重量%以上、又は3.0重量%以上であってもよく、20重量%以下、10重量%以下、8.0重量%以下、5.0重量%以下、3.0重量%以下、又は1.0重量%以下であってもよい。
【0033】
本発明のインキは、100質量部の溶媒に対して、タングステン系赤外線吸収性顔料を、3質量部以上、5質量部以上、8質量部以上、又は10質量部以上含んでいてもよく、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、又は10質量部以下で含んでいてもよい。
【0034】
本発明のインキは、溶媒、UV硬化性アクリル系単量体及び光硬化剤の合計100質量部に対して、タングステン系赤外線吸収性顔料を、1質量部以上、2質量部以上、3質量部以上、又は4質量部以上含んでいてもよく、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、8質量部以下、5質量部以下、又は4質量部以下で含んでいてもよい。
【0035】
〈アクリル系樹脂〉
本発明のインキ中で用いられるアクリル系樹脂は、溶媒に対して可溶であり、UV硬化性アクリル系単量体との親和性が高く、かつインキ中で分離せずに用いることができれば、特にその種類は特に限定されない。
【0036】
アクリル系樹脂としては、アクリル酸及びそのエステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸及びそのエステル等の重合体並びに共重合体が挙げられ、特にアクリルウレタン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、アクリルポリオール系樹脂等を用いることができる。
【0037】
アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、例えば、0℃以上、30℃以上、50℃以上、又は70℃以上であってもよく、150℃以下、120℃以下、100℃以下であってもよい。
【0038】
本発明のインキ中のアクリル系樹脂の含有量は、1.0重量%以上、3.0重量%以上、5.0重量%以上、10重量%以上、又は15重量%以上であってもよく、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、又は8.0重量%以下であってもよい。
【0039】
本発明のインキは、100質量部の溶媒に対して、アクリル系樹脂を、5質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上、又は30質量部以上含んでいてもよく、100質量部以下、80質量部以下、60質量部以下、50質量部以下、40質量部以下、又は30質量部以下で含んでいてもよい。
【0040】
本発明のインキは、溶媒、UV硬化性アクリル系単量体及び光硬化剤の合計100質量部に対して、アクリル系樹脂を、3質量部以上、5質量部以上、8質量部以上、又は10質量部以上含んでいてもよく、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、又は15質量部以下で含んでいてもよい。
【0041】
〈溶媒〉
本発明のUVインキには、溶媒が含まれる。従来のUVインキにおいては、通常は溶媒を含まず、またこの溶媒を含まないことが作業性等において有利な点であると考えられていたが、少なくとも特定の態様に関する本発明のUVインキにおいては、印刷後には、UV硬化したアクリル樹脂中に溶媒が取り込まれること等によって、溶媒の乾燥等の工程を省略することも可能であった。
【0042】
本発明で用いられる溶媒としては、アクリル樹脂を溶解することができ、かつ本発明の有利な効果が得られる範囲であれば特に限定されない。例えば、本発明で用いられる溶媒は、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ノルマルヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類といった各種の有機溶媒を挙げることができる。
【0043】
本発明においては、複数の種類の溶媒が組み合せて用いられることが好ましい。特に、本発明で用いられる溶媒は、タングステン系赤外線吸収性顔料を分散可能な第1の溶媒と、第1の溶媒と相溶性でありかつアクリル系樹脂を溶解可能な第2の溶媒とが、少なくとも組合せて用いられることが好ましい。この場合、タングステン系赤外線吸収性顔料及び第1の溶媒を含む分散体と、アクリル系樹脂及び第2の溶媒を含む樹脂組成物とを混合する工程を含む方法によって、本発明のインキを比較的簡単に調製することができる。
【0044】
この場合、第1の溶媒、第2の溶媒及び希釈用溶媒としては、全て同じ種類の溶媒であってもよく、その2つが同じ種類であってもよく、それぞれ異なる種類の溶媒であってもよいが、いずれも上述のような種類の溶媒を用いることができる。この場合、第1の溶媒としては、グリコールエーテル類の有機溶媒を特に挙げることができ、第2の溶媒としては、芳香族炭化水素類又は脂肪族炭化水素類の溶媒を特に挙げることができ、希釈用溶媒として、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類又は脂肪族炭化水素類の溶媒を特に挙げることができる。
【0045】
本発明のインキ中の溶媒の含有量は、10重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、又は40重量%以上であってもよく、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、又は35重量%以下であってもよい。
【0046】
本発明のインキは、溶媒、UV硬化性アクリル系単量体及び光硬化剤の合計100質量部に対して、溶媒を、10質量部以上、20質量部以上、30質量部以上、40質量部以上、45質量部以上、又は50質量部以上含んでいてもよく、80質量部以下、70質量部以下、60質量部以下、50質量部以下、又は45質量部以下で含んでいてもよい。
【0047】
〈UV硬化性アクリル系単量体〉
UV硬化性アクリル系単量体は、従来からUVインキに使用されていたアクリル系単量体を用いることができる。本明細書においては、アクリル系単量体は、常温で液体であれば、モノマーだけではなく、オリゴマーを含む。
【0048】
そのようなアクリル系単量体としては、エチレン性不飽和結合を有するアクリレートを挙げることができ、単官能アクリレート及び/又は2官能アクリレートを使用してよい。
【0049】
単官能アクリレートとしては、例えば、カプロラクトンアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールジアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルフリコールアクリル酸安息香酸エステル、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸などが挙げられる。
【0050】
2官能アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、アルコキシ化ヘキサンジオールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレートなどが挙げられる。
【0051】
さらに、オリゴマーとしては、例えば、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレートなどのオリゴマーを使用することが好ましい。
【0052】
本発明のインキ中のUV硬化性アクリル系単量体の含有量は、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、45重量%以上、又は50重量%以上であってもよく、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、又は35重量%以下であってもよい。
【0053】
本発明のインキは、溶媒、UV硬化性アクリル系単量体及び光硬化剤の合計100質量部に対して、UV硬化性アクリル系単量体を、10質量部以上、20質量部以上、30質量部以上、40質量部以上、45質量部以上、又は50質量部以上含んでいてもよく、80質量部以下、70質量部以下、60質量部以下、50質量部以下、又は45質量部以下で含んでいてもよい。
【0054】
〈光硬化剤〉
光硬化剤は、紫外線照射によって活性酸素等のラジカルを発生する化合物であり、従来からUVインキに使用されていた光硬化剤を用いることができる。本発明に用いられる光硬化剤としては、上記のUV硬化性アクリル系単量体を光重合させることができれば、その種類は特に限定されない。
【0055】
光重合開始剤としては、限定されるものではないが、例えば、アセトフェノン、α-アミノアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル)ケトン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノンなどのアセトフェノン類;ベイゾイン、ベイゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン-n-プロピルエーテル、ベイゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインジメチルケタール、ベンゾインパーオキサイドなどのベンゾイン類;2,4,6-トリメトキシベンゾインジフェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホフィンオキサイド類;ベンジル及びメチルフェニル-グリオキシエステル;ベンゾフェノン、メチル-4-フェニルベンゾフェノン、o-ベンゾイルベンゾエート、2-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド、アクリル-ベンゾフェノン、3,3’4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントンなどのチオキサントン類;ミヒラーケトン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノンなどのアミノベンゾフェノン類;テトラメチルチウラムモノスルフィド;アゾビスイソブチロニトリル;ジ-tert-ブチルパーオキサイド;10-ブチル-2-クロロアクリドン;2-エチルアントラキノン;9,10-フェナントレンキノン;カンファキノン;チタノセン類、並びにこれらの組合せなどが挙げられる。
【0056】
また、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルなどの光重合開始助剤を上記光重合開始剤と併用してもよい。
【0057】
UV硬化性アクリル系単量体100重量部に対する光硬化剤の使用量は、0.1重量部以上、0.5重量部以上、1.0重量部以上、2.0重量部以上、又は3.0重量部以上であってもよく、20重量部以下、10重量部以下、8.0重量部以下、5.0重量部以下、3.0重量部以下、又は1.0重量部以下であってもよい。
【0058】
〈その他-分散剤〉
タングステン系赤外線吸収性顔料のインキ中への分散性を高めるために、インキには分散剤が含有されていてもよい。分散剤としては、アミン、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有している化合物を挙げることができる。これらの官能基は、タングステン系赤外線吸収性顔料の表面に吸着し、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集を防ぐことで、インキ中においてタングステン系赤外線吸収性顔料を均一に分散させる。
【0059】
好適に用いることのできる分散剤として、リン酸エステル化合物、高分子系分散剤、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、等があるが、これらに限定されるものではない。高分子系分散剤としては、アクリル系高分子分散剤、ウレタン系高分子分散剤、アクリル・ブロックコポリマー系高分子分散剤、ポリエーテル類分散剤、ポリエステル系高分子分散剤などを挙げることができる。なかでも、分散剤が粉体であることが、熱可塑性樹脂と混錬しやすいため好ましい。
【0060】
インキ中の分散剤の含有量は、0.5重量%以上、1.0重量%以上、1.5重量%以上、又は2.0重量%以上であってもよく、5.0重量%以下、3.0重量%以下、2.0重量%以下、又は1.5重量%以下であってもよい。
【0061】
本発明のインキは、溶媒、UV硬化性アクリル系単量体及び光硬化剤の合計100質量部に対して、分散剤を、0.5質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、又は2.0質量部以上含んでいてもよく、10質量部以下、8.0質量部以下、5.0質量部以下、3.0質量部以下、又は2.0質量部以下で含んでいてもよい。
【0062】
タングステン系赤外線吸収性顔料の重量に対する分散剤の重量(分散剤の重量/タングステン系赤外線吸収性顔料の重量)は、1.0以上、2.0以上、3.0以上、又は4.0以上であってもよく、10以下、以下、8.0以下、5.0以下、4.0以下、3.0以下、2.0以下、又は1.0以下であってもよい。
【0063】
《赤外線吸収性UVインキの製造方法》
本発明の赤外線吸収性UVインキの製造方法は、タングステン系赤外線吸収性顔料及び第1の溶媒を含む顔料分散体と、アクリル系樹脂及び第2の溶媒を含むアクリル系樹脂組成物とを混合して、粘性分散体を得ること、及び粘性分散体と、UV硬化性アクリル系モノマー及び光硬化剤を混合することを含む。
【0064】
また、本発明の方法は、さらに希釈用溶媒を混合して粘度を調節することを含んでもよい。この場合、希釈用溶媒は、粘性分散体を得る前に、顔料分散体及び/又はアクリル系樹脂組成物に混合してもよく、粘性分散体を得た後に粘性分散体に混合してもよく、UV硬化性アクリル系モノマーに混合してもよい。
【0065】
本発明の方法で得られる赤外線吸収性UVインキとしては、上述の赤外線吸収性UVインキであってもよく、したがって本発明の製造方法に関する各構成については、本発明のUVインキに関して説明した各構成を参照することができる。
【0066】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
《製造例》
希釈用溶媒として10グラムの酢酸エチルを用いて、アクリル系樹脂及びその溶媒を含む7.5グラムのアクリル系樹脂組成物(DIC株式会社、アクリディック(商標)A-814)を希釈した。この希釈物に、タングステン系赤外線吸収性顔料が溶媒に分散されている顔料分散液(住友金属鉱山株式会社、CWO(商標)YMS―01A2)10グラムを加えて混合した。その混合物に、UV硬化性アクリル系単量体及び光硬化剤を含む、30グラムのUV硬化性組成物を加えて混合して、実施例1のインキを得た。
【0068】
ここで、上記のアクリル系樹脂組成物(DIC株式会社、アクリディック(商標)A-814)は、50重量%のアクリル樹脂(Tg:85℃)、42.5重量%のトルエン、及び7.5重量%の酢酸エチルを含んでいた。
【0069】
上記の顔料分散液(住友金属鉱山株式会社、CWO(商標)YMS―01A2)は、タングステン系赤外線吸収性顔料である六方晶Cs0.33WO3を25重量%含み、58.9重量%のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、1.86重量%のジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1.74重量%の酢酸ブチル及び12.5重量%の分散剤等を含んでいた。
【0070】
UV硬化性組成物は、100重量部のUV硬化性アクリル系単量体(株式会社T&K TOKA、BESTCURE)に対して4質量部の光硬化剤(BASF、IRGACURE500)を混合して調製した。
【0071】
表1に記載のように、重量比を変更することによって、実施例2~5のインキを得た。
【0072】
アクリル系樹脂組成物を、それぞれアクリディックVU‐191及びアクリディックWFL‐523に変更したこと以外は実施例4と同様にして、実施例6及び7のインキを得た。ここで、アクリディックVU‐191は、55重量%のアクリル樹脂(Tg:95℃)、22.5重量%のトルエン、及び22.5重量%の酢酸イソブチルを含んでおり、アクリディックWFL‐523は、50重量%のアクリル樹脂(Tg:85℃)、35重量%の酢酸ブチル、及び15重量%のブタノールを含んでいた。
【0073】
また、アクリル系樹脂組成物とUV硬化性組成物とを使用せずに、比較例1のインキを得た。
【0074】
なお、比較例2として、上記のアクリル系樹脂組成物及び希釈用溶媒を使用せずにインキを製造しようとしたが、タングステン系赤外線吸収性顔料が沈殿してしまい、印刷可能なインキを得ることはできなかった。
【0075】
また、比較例3として、上記のアクリル系樹脂組成物のみを使用せずにインキを製造しようとしたが、比較例2と同様に、印刷可能なインキを得ることはできなかった。
【0076】
《評価》
〈粘度〉
上記の実施例1~7及び比較例1のインキの粘度を、株式会社エー・アンド・デイ社製、音叉振動式粘度計 SV-1A(固有振動数30Hz)を用いて、JIS Z 8803に準拠し、2mlのサンプルを温度25℃で測定した。
【0077】
〈洗濯前後の赤外線反射率〉
上記の実施例1~7及び比較例1のインキを、OCR用紙にワイヤーバー#10を用いて塗工した。塗工物を2cm×4cmのサイズにして、これをpH12で温度90℃の水溶液に30分間浸漬した。この水溶液は、蒸留水に0.5重量%の洗濯用洗剤(花王株式会社、アタック(商標))及び1重量%の炭酸ナトリウムを加えて調製した。浸漬後に、水洗して乾燥させてから、各例についてUV-vis反射スペクトル測定器を使用して、JIS K 0115に準拠して、赤外線の反射率を測定した。そして、波長1000nmでの反射率をこの洗濯試験前後で比較した。なお、赤外線反射率は数値が低いほど、赤外線吸収率が高いことを意味している。
【0078】
〈洗濯前後の顔料残存率〉
上記の塗工物に対して、洗濯試験後の波長1000nmでの反射率に対する洗濯試験前の波長1000nmでの反射率を計算し、この計算値(顔料残存率)を、赤外線吸収機能がどれだけ維持できたかを判断する指標とした。
【0079】
〈洗濯後の赤外線カメラでの観察結果〉
上記の洗濯試験後の塗工物を、赤外線カメラにて観察した。このカメラでは、赤外線照明に波長940nmの赤外LEDを使用し、820nm以下の波長の光をカットするためにフィルターを有していた。25万画素の画素数、水平67°及び垂直47°のレンズ画角、並びに22×18mmの描画範囲の観察条件で観察し、以下のように判定した:
〇:塗工部をはっきり判別できる;
△:非塗工部と塗工部とを同時に確認すれば塗工部を判別できる;
×:非塗工部と塗工部とを同時に確認しても塗工部を判別できない。
【0080】
《結果》
結果を表1にまとめる。また、
図1に実施例4と比較例1についての赤外線の反射スペクトルを示す。
【0081】
【0082】
実施例1~5を参照すると、アクリル樹脂系組成物の量が多くなるほど顔料残存率が高くなることがわかる。これは、アクリル系樹脂がタングステン系赤外線吸収性顔料をコーティングすることで、UV硬化性アクリル系単量体との親和性が高くなったこと、及びそのコーティングによってアルカリ耐性が発現したことが理由として考えられる。実施例6及び7を参照すれば、アクリル樹脂系組成物の種類が変わっても、同様の効果が得られることがわかる。
【0083】
比較例1では、タングステン系赤外線吸収性顔料のアルカリ耐性が低いことに起因して、洗濯試験によって赤外線吸収機能が喪失している。