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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】微短絡検知方法、及び微短絡検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20220815BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220815BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20220815BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/44 Q
H02J7/00 Y
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018203036
(22)【出願日】2018-10-29
(65)【公開番号】P2020071054
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】小野田 識十
(72)【発明者】
【氏名】花村 玲
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-32506(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0298417(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0025832(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/48
H01M 10/44
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の定電流充電による充電期間において微短絡を検知する微短絡検知方法であって、
前記リチウム二次電池の充電電流に対する電池容量の比率で単位時間を規定する単位時間規定工程と、
前記充電期間における前記リチウム二次電池の電池電圧を前記単位時間おきに取得する電圧取得工程と、
前記電池電圧の前記単位時間おきの電圧変化量を算出する変化量算出工程と、
前記リチウム二次電池の前記充電期間に前記電圧変化量が所定の閾値を下回った場合に微短絡が発生したと判定する微短絡判定工程と、を含み、
前記閾値は、前記単位時間に応じた係数αと予め取得された前記電圧変化量の平均値μ及び標準偏差σとを用いて、Th=μ-α×σとして設定される、微短絡検知方法。
【請求項2】
前記係数αは、前記充電期間における前記電圧変化量の算出回数の逆数が、前記閾値で規定される分布の区間から外れる確率よりも低くなるように設定される、請求項1に記載の微短絡検知方法。
【請求項3】
前記微短絡判定工程においては、微短絡が発生したと判定される回数が所定回数以上となった場合に、前記リチウム二次電池の充電が停止される、請求項1又は2に記載の微短絡検知方法。
【請求項4】
リチウム二次電池を充電する充電回路と、
前記リチウム二次電池の充電電流を測定する電流計と、
前記リチウム二次電池の電池電圧を測定する電圧計と、
前記充電回路を制御することにより前記リチウム二次電池を充電する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記リチウム二次電池の定電流充電による充電期間において、前記充電電流に対する前記リチウム二次電池の電池容量の比率で規定した単位時間ごとに前記電池電圧の電圧変化量を算出すると共に、前記電圧変化量が所定の閾値を下回った場合に前記リチウム二次電池に微短絡が発生したと判定し、
前記閾値は、前記単位時間に応じた係数αと予め取得された前記電圧変化量の平均値μ及び標準偏差σとを用いて、Th=μ-α×σとして設定される、微短絡検知装置。
【請求項5】
前記係数αは、前記充電期間における前記電圧変化量の算出回数の逆数が、前記閾値で規定される分布の区間から外れる確率よりも低くなるように設定される、請求項4に記載の微短絡検知装置。
【請求項6】
前記制御部は、微短絡が発生したと判定される回数が所定回数以上となった場合に、前記リチウム二次電池の充電を停止する、請求項4又は5に記載の微短絡検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微短絡検知方法及び微短絡検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、一般的に、リチウムが挿入脱離可能な金属酸化物を正極に使用し、リチウムが挿入脱離可能な黒鉛材料を負極に使用して構成されることが多く、充電時においては正極からリチウムイオンが脱離して負極に挿入される。そして、リチウム二次電池は、エネルギー密度、出力電圧、電池寿命等の面で比較的優れていることから、様々な電子機器の電力供給源として広く使用されている。
【0003】
ところで、リチウム二次電池は、充電時における負極表面においてデンドライトと呼ばれるリチウムの針状結晶が析出することがあり、デンドライトが正極と負極との間に介在するセパレータを突き破って正極まで成長した場合には、短絡不良を引き起こして電解液やセパレータの発火を招く虞がある。また、この場合、リチウム二次電池の正極として使用されるリチウム酸化物は、高温になることにより活性の高い酸素イオンを放出し、熱暴走による激しい燃焼を引き起こす虞がある。
【0004】
上記のような短絡不良への対策として、特許文献1には、リチウム二次電池の充電中において、電極間が短絡する兆候としての微短絡の発生を判定するための従来技術が開示されている。より具体的には、当該従来技術では、充電中のリチウム二次電池の電池電圧の変化量の逆数が、事前に設定された規定値よりも大きい値となった場合に、デンドライトが析出したと判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-89363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リチウム二次電池の電池電圧の変化量は、電池特性や充電条件などの諸条件によって異なる。このため、微短絡を判定するための電池電圧の変化量が、上記の規定値を設定するために予め取得されたデータと異なる条件で取得されていた場合には、正しく微短絡を判定することができない。よって、上記の従来技術では、微短絡の発生を正しく判定するための条件が制約され汎用性が低下してしまう。また、測定される電池電圧は、測定系に起因して確率的に発生するノイズの影響により、稀に真の電圧値から大きく外れた値を示す場合があり、当該外れ値により微短絡の発生を誤判定させる虞がある。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、リチウム二次電池の微短絡検知における汎用性及び判定精度を改善する微短絡検知方法及び微短絡検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<本発明の第1の態様>
本発明の第1の態様は、リチウム二次電池の定電流充電による充電期間において微短絡を検知する微短絡検知方法であって、前記リチウム二次電池の充電電流に対する電池容量の比率で単位時間を規定する単位時間規定工程と、前記充電期間における前記リチウム二次電池の電池電圧を前記単位時間おきに取得する電圧取得工程と、前記電池電圧の前記単位時間おきの電圧変化量を算出する変化量算出工程と、前記リチウム二次電池の前記充電期間に前記電圧変化量が所定の閾値を下回った場合に微短絡が発生したと判定する微短絡判定工程と、を含み、前記閾値は、前記単位時間に応じた係数αと予め取得された前記電圧変化量の平均値μ及び標準偏差σとを用いて、Th=μ-α×σとして設定される、微短絡検知方法である。
【0009】
本発明の第1の態様に係る微短絡検知方法は、リチウム二次電池の充電期間において、充電電流に対する電池容量の比率で単位時間を規定すると共に、当該単位時間おきに取得した電池電圧の電圧変化量を算出することにより、リチウム二次電池の電池電圧及び充電電流に依存しない微短絡検知のための指標を算出することができる。さらに、本発明の第1の態様に係る微短絡検知方法は、単位時間に応じた係数αと予め取得された電圧変化量の平均値μ及び標準偏差σとを用いて閾値を設定することにより、確率的に発生するノイズに起因する誤検知の発生を抑制した微短絡検知が可能となる。これにより、本発明の第1の態様に係る微短絡検知方法によれば、リチウム二次電池の微短絡検知における汎用性及び判定精度を改善することができる。
【0010】
<本発明の第2の態様>
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記係数αは、前記充電期間における前記電圧変化量の算出回数の逆数が、前記閾値で規定される分布の区間から外れる確率よりも低くなるように設定される、微短絡検知方法である。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、微短絡検知のための閾値の算出に用いられる係数αが、確率的に発生するノイズに起因する微短絡の誤検知を抑制する値として設定されることから、微短絡の検知精度をより向上させることができる。
【0012】
<本発明の第3の態様>
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第1又は2の態様において、前記微短絡判定工程においては、微短絡が発生したと判定される回数が所定回数以上となった場合に、前記リチウム二次電池の充電が停止される、微短絡検知方法である。
【0013】
本発明の第3の態様によれば、確率的に発生するノイズに起因して万が一、微短絡の発生を単発的に誤判定した場合であっても、直ちにリチウム二次電池の充電を停止しないことにより、正常なリチウム二次電池を誤って廃棄してしまう虞を低減することができる。
【0014】
<本発明の第4の態様>
本発明の第4の態様は、リチウム二次電池を充電する充電回路と、前記リチウム二次電池の充電電流を測定する電流計と、前記リチウム二次電池の電池電圧を測定する電圧計と、前記充電回路を制御することにより前記リチウム二次電池を充電する制御部と、を備え、前記制御部は、前記リチウム二次電池の定電流充電による充電期間において、前記充電電流に対する前記リチウム二次電池の電池容量の比率で規定した単位時間ごとに前記電池電圧の電圧変化量を算出すると共に、前記電圧変化量が所定の閾値を下回った場合に前記リチウム二次電池に微短絡が発生したと判定し、前記閾値は、前記単位時間に応じた係数αと予め取得された前記電圧変化量の平均値μ及び標準偏差σとを用いて、Th=μ-α×σとして設定される、微短絡検知装置である。
【0015】
本発明の第4の態様に係る微短絡検知装置は、リチウム二次電池の充電期間において、充電電流に対する電池容量の比率で単位時間を規定すると共に、当該単位時間おきに取得した電池電圧の電圧変化量を算出することにより、リチウム二次電池の電池電圧及び充電電流に依存しない微短絡検知のための指標を算出することができる。さらに、本発明の第4の態様に係る微短絡検知装置は、単位時間に応じた係数αと予め取得された電圧変化量の平均値μ及び標準偏差σとを用いて閾値を設定することにより、確率的に発生するノイズに起因する誤検知の発生を抑制した微短絡検知が可能となる。これにより、本発明の第4の態様に係る微短絡検知装置によれば、リチウム二次電池の微短絡検知における汎用性及び判定精度を改善することができる。
【0016】
<本発明の第5の態様>
本発明の第5の態様は、上記した本発明の第4の態様において、前記係数αは、前記充電期間における前記電圧変化量の算出回数の逆数が、前記閾値で規定される分布の区間から外れる確率よりも低くなるように設定される、微短絡検知装置である。
【0017】
本発明の第5の態様によれば、微短絡検知のための閾値の算出に用いられる係数αが、確率的に発生するノイズに起因する微短絡の誤検知を抑制する値として設定されることから、微短絡の検知精度をより向上させることができる。
【0018】
<本発明の第6の態様>
本発明の第6の態様は、上記した本発明の第5又は6の態様において、前記制御部は、微短絡が発生したと判定される回数が所定回数以上となった場合に、前記リチウム二次電池の充電を停止する、微短絡検知装置である。
【0019】
本発明の第6の態様によれば、確率的に発生するノイズに起因して万が一、微短絡の発生を単発的に誤判定した場合であっても、直ちにリチウム二次電池の充電を停止しないことにより、正常なリチウム二次電池を誤って廃棄してしまう虞を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、リチウム二次電池の微短絡検知における汎用性及び判定精度を改善する微短絡検知方法及び微短絡検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る充電器の回路構成を模式的に示す構成図である。
図2】制御部が実行する手順を示すフローチャートである。
図3】電池容量が5[mAh]、充電電流が1[mA]の場合の電池電圧及び電圧変化量を示すグラフである。
図4】電池容量が5[mAh]、充電電流が5[mA]の場合の電池電圧及び電圧変化量を示すグラフである。
図5】電池容量が5[mAh]、充電電流が15[mA]の場合の電池電圧及び電圧変化量を示すグラフである。
図6】電池容量が10[mAh]、充電電流が2[mA]の場合の電池電圧及び電圧変化量を示すグラフである。
図7】電池容量が10[mAh]、充電電流が10[mA]の場合の電池電圧及び電圧変化量を示すグラフである。
図8】電池容量が10[mAh]、充電電流が30[mA]の場合の電池電圧及び電圧変化量を示すグラフである。
図9】微短絡が発生したリチウム二次電池の電池電圧及び電圧変化量の第1の例を示すグラフである。
図10】微短絡が発生したリチウム二次電池の電池電圧及び電圧変化量の第2の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、実施の形態の説明に用いる図面は、いずれも構成部材を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、または省略などを行っており、構成部材の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。
【0023】
図1は、本発明に係る充電器1の回路構成を模式的に示す構成図である。充電器1は、本実施形態においては、外部電源2及びリチウム二次電池3にそれぞれ接続されることにより、外部電源2から供給される電力でリチウム二次電池3を充電する。また、充電器1は、リチウム二次電池3を定電流で充電する充電期間において、リチウム二次電池3における微短絡の発生を検知する「微短絡検知装置」として機能する。
【0024】
充電器1は、より具体的には、充電回路10、制御部20、電流計30、電圧計40、入力部50、及び出力部60を備える。
【0025】
充電回路10は、制御部20による制御に基づいて、外部電源2から入力される電力をリチウム二次電池3の充電電力に変換して出力する。ここで、充電回路10は、外部電源2から交流電力が供給される場合には、当該交流電力を直流電力に変換する。
【0026】
制御部20は、例えば公知のマイコン制御回路やパーソナルコンピュータなどの電子計算機からなり、リチウム二次電池3の状態を監視しながら充電制御を行うと共に、詳細を後述するようにリチウム二次電池3における微短絡の発生を検知する。
【0027】
電流計30は、充電回路10とリチウム二次電池3とを接続する回路上に直列に設けられ、リチウム二次電池3に供給される充電電流を測定して制御部20に出力する。
【0028】
電圧計40は、充電回路10とリチウム二次電池3とを接続する回路上に並列に設けられ、リチウム二次電池3の電池電圧を測定して制御部20に出力する。
【0029】
ここで、電流計30及び電圧計40は、内蔵されたADコンバータでアナログ信号としての電流及び電圧をそれぞれ測定し、それぞれのスペックに応じたサンプリング周期でデジタル信号に変換して制御部20に出力する。このため、制御部20が電流及び電圧を取得する周期は、電流計30及び電圧計40で電流及び電圧を測定する周期とは異なる場合がある。
【0030】
入力部50は、リチウム二次電池3に対する充電制御や微短絡発生の判定を行うための制御に必要となる各種パラメータの入力に使用され、入力される各種パラメータを制御部20に出力する。入力部50は、例えばキーボードであってもよく、パラメータを選択するボタンであってもよい。
【0031】
出力部60は、制御部20から出力される各種情報をユーザに提示するために使用され、リチウム二次電池3の充電状態や微短絡の発生などを通知する。出力部60は、例えばディスプレイであってもよく、LEDの点灯により各種情報を提示する表示灯であってもよい。
【0032】
次に、充電器1における制御部20の動作について説明する。図2は、制御部20が実行する手順を示すフローチャートである。制御部20は、図2に示される微短絡検知方法によって、リチウム二次電池3を充電しつつ微短絡の検知を行う。
【0033】
尚、本実施形態においては、充電器1は、リチウム二次電池3に対して目標電圧(ここでは4.2[V]とする)に達するまで定電流充電を行い(CC充電)、その後に定電圧充電(CV充電)に切り替える所謂CCCV充電(Constant Current Constant Voltage)を行うものとする。本発明に係る微短絡検知はCC充電の充電期間において実行されるため、以下ではCV充電の詳細な説明は省略する。
【0034】
充電器1の制御部20は、まず、図2のフローチャートを開始するための準備として、リチウム二次電池3についての各種パラメータが入力される。より具体的には、制御部20は、入力部50を介して入力される充電対象のリチウム二次電池3の電池容量A[Ah]、及びリチウム二次電池3を充電する充電電流B[A]の設定値を読み込む。
【0035】
各種パラメータが読み込まれると、制御部20は、フローチャートに沿った手順を開始し、微短絡を判定するための演算周期である単位時間dtを規定する(ステップS1、単位時間規定工程)。より具体的には、制御部20は、リチウム二次電池3の充電電流Bに対する電池容量Aの比率として以下の式(1)により単位時間dtを規定する。ここで、式中の数値である3600は、電池容量Aの単位を[Ah]としていることによるものであり、単位の表記により適宜変更され得る。
dt=A/(B×3600)・・・式(1)
【0036】
次に、制御部20は、微短絡の発生を逐次判定するための閾値THを算出する(ステップS2)。ここで、閾値THは、リチウム二次電池3の充電期間における電池電圧Vの電圧変化量dV/dtに対する閾値であり、その算出方法については詳細を後述する。
【0037】
単位時間dtの規定と閾値THの算出が完了すると、制御部20は、充電回路10を制御することにより、読み込まれた充電電流B[A]の設定値でリチウム二次電池3に対する定電流充電を開始する(ステップS3)。
【0038】
充電が開始されると、制御部20は、ステップS1で規定した単位時間dtが経過したか否かを判定する(ステップS4)。すなわち、ステップS4では、微短絡の判定を単位時間dtごとに行うために、以降の処理を一時的に保留する(ステップS4でNo)。
【0039】
単位時間dtが経過すると、制御部20は、電圧計40が連続的に測定しているリチウム二次電池3の電池電圧Vのうち、このタイミングの電池電圧Vを取得する(ステップS5)。すなわち、制御部20は、リチウム二次電池3の電池電圧Vを単位時間dtおきに取得する(電圧取得工程)。
【0040】
そして、制御部20は、取得した電池電圧Vが目標電圧の4.2[V]に達したか否かを判定する(ステップS6)。
【0041】
電池電圧Vが目標電圧に達した場合には(ステップS6でYes)、制御部20は、リチウム二次電池3に対する微短絡検知を含む定電流充電を終了し、引き続き上記した定電圧充電に移行する。ここで、制御部20は、定電流充電が正常に終了した旨や定電流充電の充電期間中に微短絡が検知されなかったことを、出力部60を介してユーザに提示してもよい。
【0042】
一方、ステップS6で電池電圧Vが目標電圧に達していない場合には(ステップS6でNo)、制御部20は、電池電圧Vの単位時間dtおきの電圧変化量dV/dtを算出する(ステップS8、変化量算出工程)。
【0043】
そして、制御部20は、算出された電圧変化量dV/dtとステップS2で算出された閾値THとを比較することにより、リチウム二次電池3に微短絡が発生したか否かを判定する(ステップS9、微短絡判定工程)。
【0044】
ここで、リチウム二次電池3は、微短絡が発生した場合には、正極と負極とが瞬間的に導通することで電池電圧Vが低下し、これにより電圧変化量dV/dtの値を低下させることになる。そのため、制御部20は、電圧変化量dV/dtが閾値THを下回った場合に(ステップS9でYes)、リチウム二次電池3に微短絡が発生したと判定し、ステップS7において定電流充電を終了する。この場合、制御部20は、微短絡の発生により定電流充電を強制終了した旨を、出力部60を介してユーザに提示する。
【0045】
ステップS9において、電圧変化量dV/dtが閾値TH以上であると判定された場合には(ステップS9でNo)、制御部20は、リチウム二次電池3の微短絡が未検知であるとして、ステップS4に戻り、リチウム二次電池3の定電流充電を継続する。これにより、制御部20は、定電流充電の充電期間において、単位時間dtおきに微短絡判定を継続する。
【0046】
続いて、電池電圧V及び電圧変化量dV/dtの実測データについて説明する。ここでは、新たに作製したリチウム二次電池3に対し、複数の条件で上記の定電流充電を行った場合の測定データを例示する。まず、リチウム二次電池3を以下の手順により作製した。
【0047】
(正極)
アルミニウム集電体の片面に、活物質であるLiNiCoAlO2を94重量部、導電材であるアセチレンブラックを3重量部、バインダであるPVdFを3重量部で調整したスラリーを、片面塗布量11[mg/cm2]で塗布し、乾燥・プレス後17×17[mm](端子溶接部を除く)で切り出し、正極電極を得た。
【0048】
(負極)
銅集電体の片面に、グラファイトを100重量部、増粘剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)を1.5重量部、バインダであるSBR(スチレンブタジエンゴム)を3.0重量部の組成に調整したスラリーを片面塗布量7.0[mg/cm2]で塗布し、乾燥・プレス後18×18[mm](端子溶接部を除く)で切り出し、負極電極を得た。
【0049】
(セパレータ)
セパレータは、一般的なリチウムイオン二次電池で用いられるオレフィン製やセルロース製のセパレータを用いることができ、厚さ35[μm]のセルロース製不織布(市販品)を使用した。
【0050】
(セルの作成)
正極、セパレータ、負極の順に積層し、積層体を作成した。得られた積層体を外装材であるアルミラミネートフィルムに挿入し、セルを組み立てた。セルの内部に、電解液(エチレンカーボネート、ジエチルカーボネートを重量比で1:2とした混合溶媒にLiPF6を1[mol/l]の濃度で溶解した溶液)を注入し、減圧含浸後、真空封止した。アルミラミネートの封止幅は2.5[mm]として、表面にPTFEシートを配置した180[℃]のヒートバーにて、四辺を封止してセルを作製した。このときの電池容量Aは約5[mAh]であった。
【0051】
また、上記と同様の作成方法により、電池容量Aが約10[mAh]であるリチウム二次電池3を作製した。
【0052】
上記のように作製したリチウム二次電池3に対し、複数の充電電流Bでそれぞれ充電したときの電池電圧V及び電圧変化量dV/dtを図3乃至8に示す。図3乃至8は、リチウム二次電池3を目標電圧まで充電した場合の電池電圧V及び電圧変化量dV/dtのデータ系列について、横軸を充電開始からの時間[s]として表している。
【0053】
より具体的には、電池容量Aが5[mAh]であるリチウム二次電池3の電池電圧V及び電圧変化量dV/dtについて、充電電流Bが1[mA]の場合(0.2C)を図3に示し、充電電流Bが5[mA]の場合(1C)を図4に示し、充電電流Bが15[mA]の場合(3C)を図5に示している。
【0054】
また、電池容量Aが10[mAh]であるリチウム二次電池3の電池電圧V及び電圧変化量dV/dtについて、充電電流Bが2[mA]の場合(0.2C)を図6に示し、充電電流Bが10[mA]の場合(1C)を図7に示し、充電電流Bが30[mA]の場合(3C)を図8に示している。
【0055】
図3乃至8に見られるように、リチウム二次電池3は、充電電流Bの大きさに伴い目標電圧に達するまでに要する時間やデータのバラつきが異なるものの、上記の式(1)で規定される単位時間dtごとに取得される電池電圧Vに基づいて電圧変化量dV/dtが算出されているため、いずれの条件においても電圧変化量dV/dtの値が約-0.0005に揃うことが確認できる。すなわち、リチウム二次電池3は、微短絡が発生していない限り、電圧変化量dV/dtを式(1)の単位時間dtごとに算出することで、リチウム二次電池3の電池容量Aや充電電流Bに関わらず安定した電圧変化量dV/dtを算出することができる。
【0056】
次に、微短絡検知のための上記した閾値THについて、その算出方法をより詳しく説明する。充電器1の制御部20において算出される閾値THは、図3乃至8のいずれかに示されるような電圧変化量dV/dtを予め取得しておくことにより算出される。ここでは、図3に示される電圧変化量dV/dtが予め取得された場合を例として説明する。
【0057】
リチウム二次電池3は、定電流で充電した場合、初期においては電池電圧Vが比較的急激に上昇し、その後は目標電圧に向かって比較的緩やか且つ一定のペースで電池電圧Vが上昇していく。図3においては、リチウム二次電池3の電圧変化量dV/dtは、充電開始から約2000秒から略一定の値に収束していることが確認できる。そこで、約2000秒以降における電圧変化量dV/dtのデータ系列が正規分布に従うと仮定し、その平均μ及び標準偏差σを算出する。図3の電圧変化量dV/dtの例においては、平均μ=0.0005、標準偏差σ=1.8であった。
【0058】
そして、充電器1における制御部20は、予め取得される電圧変化量dV/dtの上記の平均μ及び標準偏差σを記憶しておき、ステップS1において規定した単位時間dtに応じた係数αを用いて、以下の式(2)により閾値THを算出する。
TH=μ-α×σ・・・(2)
【0059】
ここで、係数αは、リチウム二次電池3の電圧変化量dV/dtのバラつきに対する許容量を調整するパラメータである。すなわち、算出される電圧変化量dV/dtは、例えば測定系に起因して確率的に発生するノイズの影響により、本来の値から大きく外れる場合があるため、設定される係数αが小さな値である程、バラつきに対して微短絡が発生したものと誤検知されやすくなる。一方、設定される係数αが大きな値である程、微短絡の発生を見落としやすくなる。そのため、係数αは、ノイズの発生確率を考慮して以下のように設定される。
【0060】
例えば、充電器1が電池容量A=5[mAh]であるリチウム二次電池3を充電電流B=2.5[mA]で充電する場合(0.5C)、ステップS1の単位時間規定工程において、上記の式(1)により単位時間dt=2[s]と規定される。このとき、リチウム二次電池3が目標電圧に達するまでに算出される電圧変化量dV/dtの算出回数nは、9000回ということになる。尚、単位時間dtがその他の値として算出される場合であっても、同様の方法により算出回数nを算出することができ、単位時間dtと算出回数nとの対応関係の一例を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
また、リチウム二次電池3の電圧変化量dV/dtは、データ系列が正規分布に従うと仮定していることにより、係数αに応じたμ±α×σの区間に含まれる確率、及び当該区間から外れる確率を算出することができる。係数αの値に対するそれぞれの確率を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
上記の確率に基づき、充電器1の制御部20は、ステップS2において、充電期間における電圧変化量dV/dtの算出回数nの逆数が、閾値THで規定される分布の区間、すなわちμ±α×σで規定される区間から外れる確率よりも低くなるように係数αを設定し、上記の式(2)に基づいて閾値THを算出する。
【0065】
より具体的には、本実施形態の場合、電圧変化量dV/dtの算出回数nが9000回であることから、電圧変化量dV/dtの算出値が測定系に起因して確率的に発生するノイズの影響によりμ±α×σで規定される区間から外れる確率が1/9000よりも低くなるように係数αが設定される。ここでは、係数αを例えば5に設定することにより、ノイズの発生確率よりも1桁分、誤検知の発生確率を抑制できることになる。同様に、単位時間dt=20[s]である場合には、算出回数n=900であるため、係数αを例えば4に設定することにより、ノイズの発生確率よりも1桁分、誤検知の発生確率を抑制できることになる。
【0066】
尚、充電器1の制御部20は、本実施形態においては、図2のフローチャートにおけるステップS9に見られるように、電圧変化量dV/dtが閾値THを下回った場合に微短絡が発生したと判定して充電を終了することとしているが、微短絡が発生したと判定される回数をカウントし、当該回数が所定回数(例えば3回)以上となった場合に、リチウム二次電池3の充電を停止してもよい。また、充電器1の制御部20は、予め任意に設定された時間内において、微短絡が発生したと判定される回数が所定回数以上となった場合に、リチウム二次電池3の充電を停止してもよい。
【0067】
ここで、リチウム二次電池3の充電中に微短絡が発生した場合の実測データについて説明する。図9及び図10は、充電期間に微短絡が発生したリチウム二次電池3の電池電圧V及び電圧変化量dV/dtをプロットしたグラフである。
【0068】
より具体的には、図9及び図10は、電池容量A=5[mA]であるリチウム二次電池3を充電電流B=5[mA]で充電した場合の電池電圧V及び電圧変化量dV/dtを表している。ここでは、微短絡が発生したと判定した後も充電を継続してデータを取得している。尚、閾値THは、図3における上記した平均μ=0.0005、標準偏差σ=1.8の値と、単位時間dtに基づいて上記のように設定された係数α=5として、上記の式(2)によりTH=-0.0004と算出されているものとする。
【0069】
図9及び図10において、リチウム二次電池3は、充電開始からおおよそ300[s]~2700[s]までの間は、電圧変化量dV/dtが0.0005付近で安定しているが、T1で示すタイミングにおいて電圧変化量dV/dtがバラつきはじめ、閾値Thを下回ることにより微短絡が発生したと判定される。そして、T2で示すタイミングで短絡状態に至り、電池電圧Vが急降下していることが確認できる。すなわち、充電器1は、電圧変化量dV/dtと、上記のように設定される閾値THに基づいてリチウム二次電池3の微短絡を判定することにより、短絡状態に至る前にリチウム二次電池3の充電を停止することができる。
【0070】
以上のように、本発明によれば、リチウム二次電池3の微短絡検知において、充電電流Bに対する電池容量Aの比率で単位時間dtを規定し、単位時間dtに応じた係数αと予め取得された電圧変化量dV/dtの平均値μ及び標準偏差σとを用いて閾値THを設定することにより、充電対象のリチウム二次電池3の電池容量Aや充電電流Bの条件を問わず、確率的に発生するノイズに起因する誤検知の発生を抑制した微短絡検知が可能となる。従って、本発明によれば、リチウム二次電池3の微短絡検知における汎用性及び判定精度を改善することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 充電器
2 外部電源
3 リチウム二次電池
10 充電回路
20 制御部
30 電流計
40 電圧計
50 入力部
60 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10