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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】鋳鉄接種剤及び鋳鉄接種剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/10 20060101AFI20220815BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220815BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20220815BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20220815BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20220815BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20220815BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220815BHJP
   C22C 37/04 20060101ALN20220815BHJP
【FI】
C21C1/10 101
B22F1/00 V
B22F1/14
B22F1/14 500
B22F1/16
C01B32/21
C01B33/06
C22C38/00 302Z
C22C37/04 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018568798
(86)(22)【出願日】2017-06-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 NO2017050174
(87)【国際公開番号】W WO2018004356
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-05-28
(31)【優先権主張番号】20161094
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518170804
【氏名又は名称】エルケム エイエスエイ
【氏名又は名称原語表記】ELKEM ASA
【住所又は居所原語表記】Drammensveien 169, 0277 OSLO NORWAY
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【弁理士】
【氏名又は名称】八木田 智
(72)【発明者】
【氏名】スカランド,トルビヨルン
(72)【発明者】
【氏名】オット,エマニュエル
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-124112(JP,A)
【文献】特開昭63-282206(JP,A)
【文献】特開平05-331590(JP,A)
【文献】国際公開第99/029911(WO,A1)
【文献】米国特許第05733502(US,A)
【文献】堀江皓、小綿利憲,薄肉球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数に及ぼすビスマスの影響,鋳物,1988年,第60巻、第3号,p.173-178,https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia1962/26/9/26_9_842/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-1/18
C21C 1/00-3/00
C21C 5/02-5/06
C21C 5/52-5/56
C22C 38/00-38/60
C22C 1/05
B22D 1/00
C01B 32/21,33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状黒鉛、バーミキュラ黒鉛又は球状黒鉛を有する鋳鉄を製造するための接種剤であって、40~80重量%の珪素、
合計量が0.5~5重量%のカルシウム及び/又はストロンチウム及び/又はバリウム、
0より多く、10重量%以下の希土類、
0より多く、5重量%以下のマグネシウム、
0より多く、5重量%以下のアルミニウム、
残余である鉄、及び、通常量の付随的不純物を含む粒子状フェロシリコン合金を含み、
前記接種剤は前記接種剤全重量に対して、0.2~10重量%の粒子状酸化ビスマス、
前記接種剤全重量に対して任意選択的な合計量が0.1~10重量%の一種以上の粒子状金属硫化物及び/又は一種以上の酸化鉄
をさらに含み、前記粒子状酸化ビスマスは、前記フェロシリコン粒子に混合又はブレンドされるか、前記フェロシリコン合金粒子を被覆するか、又は前記粒子状フェロシリコン粒子と同時に液状鋳鉄に加えられる、接種剤。
【請求項2】
前記フェロシリコン合金は、45~60重量%の珪素を含む、請求項1に記載の接種剤。
【請求項3】
前記フェロシリコン合金は、60~80重量%の珪素を含む、請求項1に記載の接種剤。
【請求項4】
前記フェロシリコン合金は、合計量が0.5~3重量%のカルシウム及び/又はストロンチウム及び/又はバリウムを含む、請求項1~3の何れか一項に記載の接種剤。
【請求項5】
前記フェロシリコン合金は、0.5~5重量%のアルミニウムを含む、請求項1~4の何れか一項に記載の接種剤。
【請求項6】
前記フェロシリコン合金は、0より多く、6重量%以下の希土類を含む、請求項1~5の何れか一項に記載の接種剤。
【請求項7】
前記フェロシリコン合金は、0より多く1重量%未満のマグネシウムを含む、請求項1~6の何れか一項に記載の接種剤。
【請求項8】
前記接種剤は、0.2~5重量%の粒子状酸化ビスマスを含む、請求項1~7の何れか一項に記載の接種剤。
【請求項9】
前記希土類は、セリウム及び/又はランタンである請求項1~8の何れか一項に記載の接種剤。
【請求項10】
前記接種剤が、前記粒子状フェロシリコンベース合金及び前記粒子状酸化ビスマス、及び任意選択的な前記粒子状金属硫化物及び/又は前記粒子状酸化鉄のブレンド又は混合物の形態である、請求項1~9の何れか一項に記載の接種剤。
【請求項11】
前記接種剤が、前記粒子状フェロシリコンベース合金及び前記粒子状酸化ビスマス、及び任意選択的な前記粒子状金属硫化物及び/又は前記粒子状酸化鉄の混合物から作られる凝集体の形態である、請求項1~10の何れか一項に記載の接種剤。
【請求項12】
前記接種剤が、前記粒子状フェロシリコンベース合金及び前記粒子状酸化ビスマス、及び任意選択的な前記粒子状金属硫化物及び/又は前記粒子状酸化鉄の混合物から作られるブリケットの形態である、請求項1~11の何れか一項に記載の接種剤。
【請求項13】
前記粒子状フェロシリコンベース合金及び前記粒子状酸化ビスマス及び任意選択的な前記金属硫化物粒子及び/又は前記粒子状酸化鉄を別々だが同時に液体鋳鉄に加える、請求項1~12の何れか一項に記載の接種剤。
【請求項14】
板状黒鉛、バーミキュラ黒鉛又は球状黒鉛を有する鋳鉄を製造するための接種剤を製造するための方法であり、
40~80重量%の珪素、
合計量が0.5~5重量%のカルシウム及び/又はストロンチウム及び/又はバリウム、
0より多く、10重量%以下の希土類、
0より多く、5重量%以下のマグネシウム、
0より多く、5重量%以下のアルミニウム、
残余である鉄、及び、通常量の付随的不純物を含む粒子状ベース合金を用意することと、
前記粒子状ベース合金に、接種剤全重量に対して0.2~10重量%の酸化ビスマス並びに、
任意選択的な接種剤全重量に対して合計量が0.1~10重量%の一種以上の金属硫化物及び/又は一種以上の酸化鉄
を混合し、接種剤を製造することとを含む、方法。
【請求項15】
前記希土類は、セリウム及び/又はランタンである請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状、圧縮体、球状の黒鉛を有する鋳鉄を製造するためのフェロシリコンベース接種剤及び該接種剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄は、一般的に溶銑炉又は誘導炉において製造され、通常、2~4%の炭素を含む。炭素は鉄と密接に混ぜ合わされ、凝固した鋳鉄において炭素が成す構造は、鋳鉄の特徴及び特性にとって非常に重要である。炭素が炭化鉄の形態を取る場合、鋳鉄は白鋳鉄と呼ばれ、硬くてもろい物理的特性を有する。ある種の応用において、それは望ましくない。炭素が黒鉛の形態をとる場合、鋳鉄は柔らかくて機械加工が可能であり、ねずみ鋳鉄と呼ばれる。
【0003】
黒鉛は、板状、圧縮体、球状の形態で、鋳鉄内及びそれらの変性体において発生する場合がある。球状の形態は、最も強靭性がありかつ最も延性があるタイプの鋳鉄を製造する。
【0004】
炭化鉄に対する黒鉛の量のみならず、黒鉛が取る形状、大きさ及びノジュール数密度(mm当たりのノジュール数)も、鋳鉄が固形化する間、黒鉛の形成を促進する特定の添加物によって制御され得る。これらの添加物は接種剤と呼ばれ、鋳鉄への添加は接種と呼ばれる。液状の鉄から鉄製品を鋳造する際、鋳造物の薄い部分に炭化鉄が形成される危険が常に存在する。炭化鉄の形成は、鋳造物のより厚い部分のより遅い冷却と比較して、薄い部分が急速に冷えることによって行われる。鋳造物における炭化鉄の形成部[A1]は、この分野の取引間で「チル」と呼ばれる。チルの形成部は「チル深さ」を計量することによって定量化され、チルを防止してチル深さを減らすための接種剤の力は、接種剤の力を測定して比較する上で有用な方法である。
【0005】
球状の黒鉛を含む鋳鉄において、接種剤の力は、鋳放し状態の球状黒鉛粒子の単位面積当たり、数密度でも通常測定される。球状黒鉛の単位面積当たりのより高い数密度は、接種又は黒鉛核形成の力が改良されたことを意味する。
【0006】
延性がある鋳鉄における球状黒鉛の数密度を上昇させるだけでなく、チル深さを減らしてねずみ鋳鉄の機械処理適性を改善する接種剤の発見は、恒常的に必要である。
【0007】
接種の正確な化学的性質とメカニズム、及び接種剤がなぜそのように機能するかについて完全に理解されていないため、多くの研究が、新しくかつ改良された接種剤を産業界へ提供することに注がれている。
【0008】
カルシウム及び特定の他の元素が炭化鉄の形成を抑制して、黒鉛の形成を促進すると考えられている。大多数の接種剤は、カルシウムを含む。これらの炭化鉄抑制剤の添加は、通常フェロシリコン合金の添加によって容易になり、おそらく、最も広く使われているフェロシリコン合金は、70~80%の珪素を含む高珪素合金、及び、45~55%の珪素を含む低珪素合金である。
【0009】
米国特許第3,527,597号は、約0.35%未満のカルシウム及び5%以下のアルミニウムを含むシリコンベアリング接種剤に対する約0.1~10%のストロンチウムの添加によって、良好な接種力が得られるということを発見した。
【0010】
バリウムがカルシウムと併せて用いられる場合、それら二つは一緒に働くことで、等価量のカルシウムより大幅にチルを縮小することは更に公知である。
【0011】
炭化物形成の抑制は、接種剤の核特性に関連付けられる。核特性によって、接種剤によって形成される核の数が理解される。形成される核数が多ければ、増加した黒鉛ノジュール数密度をもたらし、そして接種効果を改善して、炭化物の抑制を改善する。更に、高い核形成速度は、接種後の溶融鉄の長期にわたる保持の間、接種効果の減退に対して、より良好な抵抗を与えることも可能である。
【0012】
米国特許第4,432,793号は、Spherix(登録商標)接種剤として販売されている、ビスマス、鉛及び/又はアンチモンを含有する接種剤を開示している。ビスマス、鉛及び/又はアンチモンが、高い接種力を有し、核数の増加をもたらすことは公知である。これらの元素は非球状化元素としても公知であり、鋳鉄におけるこれらの元素の増加は球状黒鉛構造の変性を引き起こすことも知られている。Spherix(登録商標)は、0.005%~3%の希土類と、0.005%から3%の金属元素(ビスマス、鉛及び/又はアンチモン)の1つを含むフェロシリコン合金である。
【0013】
米国特許第5,733,502号によると、Spherix(登録商標)接種剤は、合金が製造される時に、ビスマス、鉛及び/又はアンチモン収率を改善する若干のカルシウムを常に含み、これらの元素が鉄-珪素相において低い可溶性を呈するので、合金内で均質にこれらの元素の分散することを促進する。しかしながら、貯蔵されている間、製品は分解する傾向があり、粒度分布は微粒子量の増加に向かう傾向がある。粒度分布の減少は、接種剤の粒子境界で集められたカルシウム-ビスマス相の、大気水分によって生じる分解と関連付けられた。米国特許第5,733,502号においては、三元ビスマス-マグネシウム-カルシウム相と同様に、二元ビスマス-マグネシウム相が水によって攻撃されないことがわかった。この結果は、高珪素・フェロシリコン合金接種剤についてのみ達成されたが、低珪素FeSi接種剤については、貯蔵されている間、製品は分解した。このように、米国特許第5,733,502号による接種のためのフェロシリコンベース鉄合金は、重量%で0.005~3%の希土類、0.005~3%のビスマス、鉛及び/又はアンチモン、0.3~3%のカルシウム及び0.3~3%のマグネシウムを含み、Si/Fe比は2より大きいものである。
【0014】
Spherix(登録商標)接種剤及び米国特許第5,733,502号に記載されている接種剤において、ビスマス金属は、フェロシリコンベース接種剤と合金になる。上記のように、ビスマスのフェロシリコン合金における可溶性は低い。このように、溶融フェロシリコンに対する添加ビスマス金属の収率は低く、これによりビスマス含有接種剤のコストが上昇する。更に、元素ビスマスの高密度のため、鋳造及び凝結の間、均質な合金を得ることは困難となる場合がある。他の問題点は、FeSiベース接種剤の他の元素と比べて低溶解温度であることに起因するビスマス金属の揮発特性である。したがって、ビスマスを含有するFeSiベース接種剤合金を用意することは、かなり複雑であり費用がかかる。
【0015】
国際特許公開WO95/24508から、鋳鉄接種剤が、増加した核形成速度を示すことは公知である。この接種剤は、カルシウム及び/又はストロンチウム及び/又はバリウムを含み、一種以上の金属酸化物の形態においてアルミニウムが4%未満かつ酸素が0.5~10%であるフェロシリコンベース接種剤である。しかしながら、国際特許公開WO95/24508によると、接種剤を用いて形成される核の数の再現性はかなり低いことが発見された。いくつかの例において、高核数は鋳鉄において形成されるが、他の例では、形成される核数はかなり低い。国際特許公開WO95/24508の接種剤は、上記の理由により、実際のところほとんど使用されていない。
【0016】
国際特許公開WO99/29911から、国際特許公開WO95/24508の接種剤への硫黄の追加は、鋳鉄の接種において好ましい効果があり、核の再現性を増加させることは公知である。
【0017】
国際特許公開WO95/24508及び国際特許公開WO99/29911において、酸化鉄(FeO、Fe及びFe)は、好適な金属酸化物である。これらの特許出願に記載の他の金属酸化物は、SiO、MnO、MgO、CaO、Al、TiO及びCaSiO、CeO、ZrOである。
【0018】
本発明の目的は、上記の不利な点がないビスマスを含むFeSiベース接種剤を提供することにある。本発明の別の目的は、接種剤の製造において、従来技術の接種剤と比較して高ビスマス収率を有し、Fe/Siの比率がどんなものであっても分解しにくいFeSiベース接種剤を提供することである。更に別の目的は、Biの形態で接種剤に制御された量の酸素を意図的に導くことである。本発明のこれらの、そしてまた他の利点は、以下の説明において明らかであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】米国特許第4,432,793号
【文献】米国特許第5,733,502号
【文献】国際特許公開WO95/24508
【文献】国際特許公開WO99/29911
【発明の概要】
【0020】
驚くべきことに、酸化ビスマス含有接種剤を鋳鉄に加える際、国際特許公開WO99/29911の接種剤への酸化ビスマスの添加が、結果として鋳鉄において著しくより高核数又は高ノジュール数密度になることが判明した。
【0021】
第一態様によれば、本発明は、板状、圧縮体、球状の黒鉛を有する鋳鉄を製造する接種剤であって、40~80重量%の珪素、0.5~5重量%のカルシウム及び/又はストロンチウム及び/又はバリウム、0~10重量%のセリウム及び/又はランタンなどの希土類、0~5重量%のマグネシウム、5重量%以下のアルミニウム、0~10重量%のマンガン及び/又はジルコニウム及び/又はチタン、残余である鉄、及び、通常量の付随的不純物を含む粒子状フェロシリコン合金を含み、前記接種剤は前記接種剤全重量に対して、0.1~10重量%の粒子状酸化ビスマス、前記接種剤全重量に対して任意選択的な0.1~10重量%の一種以上の粒子形態の金属硫化物及び/又は酸化鉄をさらに含み、前記粒子状酸化ビスマスは、前記フェロシリコン粒子に混合されているか、又は同時に粒子状フェロシリコン合金粒子を有する鋳鉄に加えられる、接種剤に関する。
【0022】
第一態様によれば、フェロシリコン合金は、45~60重量%の珪素を含む。
【0023】
第二態様によれば、フェロシリコン合金は、60~80重量%の珪素を含む。
【0024】
第三態様によれば、フェロシリコン合金は、0.5~3重量%のカルシウム及び/又はストロンチウム及び/又はバリウムを含む。
【0025】
第四態様によれば、フェロシリコン合金は、0.5~5重量%のアルミニウムを含む。
【0026】
第五態様によれば、フェロシリコン合金は、6重量%以下の希土類を含む。ある態様において、希土類は、セリウム及び/又はランタンである。
【0027】
第六態様によれば、フェロシリコン合金は、6重量%以下のマンガン及び/又はジルコニウム及び/又はチタンを含む。
【0028】
第七態様によれば、接種剤は、接種剤の合計重量に基づき0.2~5重量%の酸化ビスマスを含む。本発明による接種剤は、接種剤の合計重量に基づいて、0.5~3.5重量%の粒子状酸化ビスマスを含むことができる。
【0029】
第八態様によれば、接種剤は、粒子状フェロシリコンベース合金、粒子状酸化ビスマス及び任意選択的な金属硫化物粒子及び/又は粒子状酸化鉄の混合物の形態である。
【0030】
第九態様によれば、接種剤は、粒子状フェロシリコンベース合金、粒子状酸化ビスマス及び任意選択的な金属硫化物粒子及び/又は粒子状酸化鉄の凝集混合物の形態である。
【0031】
第十態様によれば、粒子状フェロシリコンベース合金、粒子状酸化ビスマス及び任意選択的な金属硫化物粒子及び/又は粒子状酸化鉄の混合物から作られるブリケットの形態である。
【0032】
第十一態様によれば、粒子状フェロシリコン合金及び粒子状酸化ビスマス及び任意選択的な金属硫化物粒子及び/又は粒子状酸化鉄を別々だが同時に鋳鉄に加えられる。
【0033】
第十二態様によれば、接種剤は、0.1~5重量%、例えば、0.5~3重量%の一種以上の金属硫化物及び/又は酸化鉄を含む。第十三態様によれば、接種剤は、金属硫化物又は酸化鉄を含まない。
【0034】
第十四態様によれば、フェロシリコン合金は、1重量%未満のマグネシウムを含む。マグネシウムは、FeSiベース合金において付随的不純物元素としてのみ存在してもよい。
【0035】
驚くべきことに、酸化ビスマスを含有する本発明の接種剤は、当該接種剤を鋳鉄に加えると、ノジュール数密度の増加をもたらし、それにより、従来の接種剤と同じ量の本発明の接種剤を用いることによって、炭化鉄形成を大きく抑制することができる、又は、従来の接種剤を用いた場合よりも、少ない量の本発明の接種剤を用いることにより同じ程度に炭化鉄形成を抑制できることが明らかなになった。
【0036】
第二の側面によれば、本発明は、板状、圧縮体、球状の黒鉛を有する鋳鉄を製造するための接種剤を製造するための方法に関するものであり、当該方法は、40~80重量%の珪素、0.5~5重量%のカルシウム及び/又はストロンチウム及び/又はバリウム、0~10重量%のセリウム及び/又はランタンなどの希土類、0~5重量%のマグネシウム、5重量%以下のアルミニウム、0~10重量%のマンガン及び/又はチタン及び/又はジルコニウム、残余である鉄、及び、通常量の付随的不純物を含む粒子状ベース合金を用意することと、前述の粒子状ベース合金、接種剤全重量に対して0.1~10重量%の酸化ビスマス、任意選択的な接種剤全重量に対して0.1~10重量%の一種以上の金属硫化物及び/又は一種以上の酸化鉄を混合し、接種剤を製造することとを含む。
【0037】
本方法の一態様によれば、粒子状酸化ビスマス及び任意選択的な粒子状金属硫化物及び/又は粒子状酸化鉄は、機械混合又はブレンドによって粒子状FeSiベース合金と混合される。
【0038】
本方法の別の態様によれば、粒子状酸化ビスマス、任意選択的な金属硫化物及び/又は粒子状酸化鉄は、FeSiベース合金と機械混合又はブレンドされ、その後のバインダー、好ましくは珪素ナトリウム溶液を用いた圧縮により粉体混合物の凝集物になる。凝集物は、その後粉砕されて、必要な最終製品サイズに選別される。粉体混合物の凝集体は、添加された酸化ビスマスの粉体の分離を確実にし、任意選択的な添加粒子状金属酸化物及び粒子状金属硫化物は除去される。
【0039】
本方法の第三態様によれば、粒子状酸化ビスマス及び任意選択的な金属硫化物粒子及び/又は粒子状酸化鉄が同時に粒子状FeSiベース合金と共に液状鋳鉄に加えられる。
【0040】
本方法の第四態様によれば、FeSiベース合金は、45~60重量%の珪素を含む。
【0041】
本方法の第五様によれば、FeSiベース合金は、60~80重量%の珪素を含む。
【0042】
本方法の第六態様によれば、FeSiベース合金は、0.5~3重量%のカルシウム及び/又はストロンチウム及び/又はバリウムをを含む。
【0043】
本方法の第七態様によれば、FeSiベース合金は、0.5~5重量%のアルミニウムを含む。
【0044】
本方法の第八態様によれば、FeSiベース合金は、6重量%以下の希土類を含む。本方法の一つの態様において、希土類は、セリウム及び/又はランタンである。
【0045】
本方法の第九態様によれば、FeSiベース合金は、6重量%以下のマンガン及び/又はチタン及び/又はジルコニウムを含む。
【0046】
本方法の第十態様によれば、接種剤は、接種剤の合計重量に基づいて、0.2~5重量%の粒子状酸化ビスマスを含む。本発明の接種剤は、接種剤の合計重量に基づいて、例えば0.5~3.5重量%の酸化ビスマスを含むことができる。
【0047】
本方法の第十一態様によれば、接種剤は、接種剤の合計重量に基づいて、一種以上の金属硫化物及び/又は酸化鉄を0.1~5重量%、例えば0.5~3重量%含む。第十二態様において、接種剤は、金属硫化物又は酸化鉄を含まない。
【0048】
本方法の第十三態様によれば、フェロシリコン合金は、1重量%未満のマグネシウムを含む。マグネシウムは、FeSiベース合金の偶発的な不純物元素としてのみ、存在することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】鋳鉄用試験棒を示す図である。
図2】鋳鉄サンプルのノジュール数密度を示す図である。
図3a】本発明による接種剤;Bi粉体で被覆されたFeSiのSEM写真を示す。Biは、白粒子として見える。
図3b】本発明による接種剤;Bi粉体で被覆されたFeSiのSEM写真を示す。Biは、白粒子として見える。
【発明を実施するための形態】
【0050】
球状の黒鉛を有する鋳鉄を製造するための製造方法において、鋳鉄溶融物は、接種剤処理の前にMg-FeSi合金を慣例的に用いることにより、通常ノジュール化処理される。黒鉛が沈殿し、成長する時、ノジュール化処理は、黒鉛の形態をフレーク状からノジュールに変える目的を有する。これが行われる方法は、界面黒鉛/溶融物の界面エネルギーを変えることによるものである。MgとCeは、界面エネルギーを変える元素であり、MgがCeよりも効果的であることが知られている。Mgがベース鉄の溶融物に加えられるときに、Mgは酸素及び硫黄と最初に反応する。それは、ノジュール化効果を有するであろう「遊離マグネシウム」のみである。ノジュール化反応は、攪拌をもたらし、激しいものであり、表面に浮遊するスラグを生成する。反応の激しさは、黒鉛の核生成サイトの大部分が既に溶解しており(原料物質によって導入される)、その他の含有物は、トップのスラグの一部であり、除去される。しかしながら、ノジュール化処理の間に製造される若干のMgOとMgS含有物は、まだ溶融状態であろう。これらの含有物は、それ自体としては良い核生成サイトではない。
【0051】
接種剤の第一の機能は、黒鉛の核生成サイトの導入によって炭化物の形成を阻むことである。核生成サイトを導入することに加え、接種剤は、Ca、Ba又はSrを有する層を接種剤に加えることによって、ノジュール化処理の間に形成されたMgO及びMgS含有物を核生成サイトに変換する。
【0052】
本発明によれば、粒子状FeSiベース合金は、40~80重量%のSiを含むべきである。FeSiベース合金は、60~80%の珪素を含む高珪素合金、又は45~60%の珪素を含む低珪素合金でもよい。FeSiベース合金は、接種剤として従来の範囲内にある粒子径を有するべきであり、例えば、0.2~6mmである。
【0053】
本発明によれば、粒子状FeSiベース合金は、0.5~5重量%のCa及び/又はSr及び/又はBaを含む。より高い量のCa、Ba及び/又はSrの使用は、接種剤の性能を減らし、スラグ形成を増加させ、コストを上昇させる場合がある。FeSiベース合金中のCa及び/又はSr及び/又はBaの量は、0.5~3重量%であり得る。
【0054】
FeSiベース合金は、10重量%以下の希土類(RE)を含むことができる。REは例えばCe及び/又はLaにすることができる。REの量が6重量%以下であるときに、良好な接種剤性能を達成することができる。REの量は、好ましくは少なくとも0.1重量%でなければならない。好ましくは、REは、Ce及び/又はLaである。
【0055】
溶融物(破壊的元素とも呼ばれる)中に存在するBiのような少量の元素の存在は、マグネシウムが所望のノジュール化効果を有することを防止するであろう。この悪い影響は、Ceを用いて中和することができる。接種剤と共にBiを導入することは、溶融物及び「遊離」Mgにおいて周辺のMg包含浮遊物を有する既存システムに反応物を加えることである。これは激しい反応でなく、そして、Bi収率(溶融物中にあるBi/Bi)は高いと思われる。接種剤が、接種剤の合計重量に基づいて粒状Biの0.2~5重量%を含むときに、良好な接種効果も観察される。粒状Biの量は、いくつかの態様において、接種剤の合計重量に基づき、例えば、約0.5~約3.5重量%にすることができる。
Bi粒子は小さい粒子サイズ、すなわちミクロ径(例えば、1~10μm)に設定すべきであり、それにより、鋳鉄溶融物に導入したときに、Bi粒子がとても早く溶融する、又は、融解する。有利な点として、Bi粒子は、鋳鉄溶融物に接種剤を加える前に、粒子状FeSiベース合金と混合される。図3は、Bi粒子がFeSi合金粒子と混合されている本発明の接種剤を示す。Bi粒子は、白粒子として見える。Bi粒子とFeSiベース合金粒子を混合させるなら、安定した均質の接種剤をもたらす。以下の実施例は、接種剤を鋳鉄に加えるときに、FeSiベース合金粒子にBi粒子を加えることは、増加したノジュール数密度になり、所望の接種効果を達成するのに必要な接種剤の量を減らすことを示す。
【実施例
【0056】
2つの鋳鉄溶融物P及びQは、タンディッシュ蓋取鍋における鋳鉄の重量に基づいて1.05重量%のMgFeSiノジュール化合金で処理された。MgFeSiノジュール化合金は、重量で以下の組成を有していた:5.8%のMg、1%のCa、1%のRE、0.7%のAl、46%のSi、残りは鉄である。
【0057】
Mg処理済鋳鉄溶融物はP及びQを、フェロシリコンに接種した。接種剤Aは、71.8重量%のSi、1.07重量%のAl、0.97重量%のCa、1.63重量%のCeを含み、残りは鉄と通常の量の偶発的な不純物である。粒子形態の酸化ビスマス、粒状形態の硫化鉄及び粒状形態の酸化鉄の様々な量を接種剤Aに加え、異なる接種材料の均質な混合物を得るために機械的に混合した。
【0058】
比較目的のために、同じ鋳鉄溶融物を、酸化鉄及び/又は硫化鉄(従来技術)だけが加えられた接種剤Aに接種した。
【0059】
最終的な鋳鉄の化学組成は、3.5~3.7重量%のC、2.3~2.5重量%のSi、0.29~0.30重量%のMn、0.009~0.011重量%のSi、0.040~0.050重量%のMgであった。
【0060】
FeSiベース合金への酸化ビスマス、酸化鉄及び硫化鉄の添加量を表1に示す。酸化ビスマス、酸化鉄及び硫化鉄の量は、接種剤の合計重量に基づく。
【表1】
【0061】
様々な接種剤を、鋳鉄溶融物P及びQに0.2重量%の量で加えた。接種済鋳鉄を、28mmの直径の円筒状試験棒サンプルに注入した。各試験から得た1本の試験棒における微細構造を調査した。図1に示される位置2において試験棒を切断し、準備して、画像分析によって評価した。ノジュール数密度(ノジュール数/mm)を決定した。結果を図2に示す。
【0062】
図2から分かるように、本発明によれば、従来の接種剤P1、P4、Q3、Q4で処理した鋳鉄と比較して、Bi含有接種剤P2、P3、Q1、Q2、Q5及びQ6で処理した鋳鉄は、より高いノジュール数密度を示すという点で、結果は非常に重要な傾向を示す。
【0063】
本発明の好ましい実施形態を説明してきたが、その概念を組み込んだ他の実施形態を使用できることは当業者には明らかである。上記及び添付の図面に示される本発明のこれら及びその他の実施例は、例示のためのみに意図されるものであり、本発明の実際の範囲は、特許請求の範囲から決定されるべきものである。
図1
図2
図3a
図3b