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特許7122988炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法及び分別回収装置
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  • 特許-炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法及び分別回収装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法及び分別回収装置
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20220815BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20220815BHJP
   B29B 17/04 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
B29B17/02
C08J11/12
B29B17/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019047745
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020146961
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
(72)【発明者】
【氏名】中村 充志
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-033915(JP,A)
【文献】特表2013-519498(JP,A)
【文献】特開2017-066383(JP,A)
【文献】特開2016-068020(JP,A)
【文献】特開2016-036922(JP,A)
【文献】特開2016-013692(JP,A)
【文献】特開2004-107672(JP,A)
【文献】特開2018-202810(JP,A)
【文献】特開2013-095001(JP,A)
【文献】特開2018-016695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B17/00-17/04
C08J11/00-11/28
B07B1/00-15/00
B09B1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチック含有物を250℃~450℃の温度で加熱する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程で得られた炭素繊維強化プラスチック含有物を破砕する破砕処理工程と、
前記破砕処理工程で得られた炭素繊維強化プラスチック含有物を重質産物と軽質産物に風力分離する乾式分離処理工程を備える炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法であって、前記乾式分離処理工程において分離された前記軽質産物に、前記炭素繊維を回収する、該方法
【請求項2】
前記加熱処理工程において、加熱温度に応じて10分間~10時間の範囲で加熱時間を設定することを特徴とする、請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法。
【請求項3】
前記破砕処理工程において、前記加熱処理工程で得られた炭素繊維強化プラスチック含有物を破砕して、全量が目開き20mmの篩いを全通することを特徴とする、請求項1又は2に記載の炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法。
【請求項4】
前記乾式分離処理工程において、前記破砕処理工程で得られた炭素繊維強化プラスチック含有物に振動を加えながら風力分離することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法。
【請求項5】
前記乾式分離処理工程において回収された炭素繊維が存在する軽質産物に、前記乾式分離処理工程を繰り返すことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法。
【請求項6】
炭素繊維強化プラスチック含有物を加熱するための加熱装置と、
加熱された炭素繊維強化プラスチック含有物を破砕するための破砕装置と、
破砕された炭素繊維強化プラスチック含有物を、重質産物と軽質産物に風力分離するための乾式分離装置を備える炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置であって、前記乾式分離装置は、該装置において分離された前記軽質産物に、前記炭素繊維を回収するように構成されている、該装置
【請求項7】
前記破砕装置と前記乾式分離装置の間に、前記破砕装置で破砕された炭素繊維強化プラスチック含有物を分級するための分級装置を備えることを特徴とする、請求項6に記載の炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置。
【請求項8】
前記乾式分離装置に供される、前記破砕装置で破砕された炭素繊維強化プラスチック含有物を加振するための振動装置が付設されていることを特徴とする、請求項6又は7に記載の炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置。
【請求項9】
前記乾式分離装置が集塵機を含み、前記振動装置が揺動テーブル又は振動フィーダのいずれかを含むことを特徴とする、請求項6~8のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置。
【請求項10】
前記分級装置が篩いを含み、当該篩いの篩い目が5mm~20mmであることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置。
【請求項11】
前記乾式分離装置で回収された前記軽質産物を、前記乾式分離装置とは別の乾式分離装置に供給するための輸送装置を備えることを特徴とする、請求項6~10のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置。
【請求項12】
前記乾式分離装置で回収された前記軽質産物を、再度前記乾式分離装置に供給するための循環供給装置を備えることを特徴とする、請求項6~10のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチックの含有物から、炭素繊維を分離、回収するための、分別回収方法及び分別回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車リサイクル法により引取と再資源化が義務づけられたASR(Automobile Shredder Residue、シュレッダーダスト)は、さまざまな物質の混合物であり、樹脂、発泡ウレタン、繊維、ゴム等の可燃物が6割を占め、選別できなかった金属やガラス、土砂、水分が残りの4割を占める。このASRのリサイクル方法は、(素材選別+燃料代替)、(燃料代替+原料化)、(焼却処理+熱回収+原料化)、(乾留ガス化+ガス利用(熱回収)+原料化)の4種類に大別されるが、その全てにおいて燃料代替や熱回収と言ったサーマルリサイクルを含んでいる。
【0003】
ここで、炭素繊維強化プラスチック(以後、「CFRP」と称する場合もある。)は、軽い、強い、硬い、錆びない等の優れた特性を有することから、自動車産業においても車両の軽量化等を目的に使用が拡大しており、上記ASRへのCFRPの混入割合が増大する傾向にある。CFRPには、上記の特性に加えて、燃え難い、導電性を有するという特性をも有することから、最近では、ASRのサーマルリサイクル施設の排ガス処理工程において、飛灰中に存在するCFRP由来の炭素繊維によって電気集塵機が短絡したり、バグフィルタが損傷したりして、排煙不良が生じる事例が報告されている。このことは、サーマルリサイクル以外の有効なリサイクル処理方法を有していないCFRPを混入したASRは、埋め立て処理で対応せざるを得ないことになり、CFRPを高度に使用した自動車の普及を阻害することにもなりかねない。
【0004】
ASRのような多種の物質からなる混合物からCFRPを分別回収する方法として、例えば、特許文献1には、電磁誘導を用いて炭素繊維強化複合材料に反発力を発生させ、炭素繊維強化複合材料のみを選択的に排出する工程を組み入れる、廃プラスチック混合物からの炭素繊維強化複合材料の分別回収方法が開示されている。また、例えば、特許文献2には、電磁誘導加熱工程、温度測定工程、及び炭素繊維強化複合材料のみを選択的に排出する排出工程を組み合わせて用いる、廃プラスチック混合物からの炭素繊維強化複合材料の選別方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-165009号公報
【文献】特開2018-165010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の方法はともに、電磁誘導を用いる方法であるため、対象物にアルミ片等の良伝導体が存在するとそれらもCFRP同様の挙動を示してしまうので、処理対象物は廃プラスチック混合物等の他の良伝導体を含まないものに限定され、例えば上記ASRに適用することは困難である。
【0007】
よって、本発明の目的は、炭素繊維強化プラスチック含有物のリサイクル処理に際し、炭素繊維強化プラスチックが含有する炭素繊維を効率的に分別し、回収するための分別回収方法、及び当該分別回収方法を実施するための分別回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、第1に、
炭素繊維強化プラスチック含有物を250℃~450℃の温度で加熱する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程で得られた炭素繊維強化プラスチック含有物を破砕する破砕処理工程と、
前記破砕処理工程で得られた炭素繊維強化プラスチック含有物を重質産物と軽質産物に風力分離する乾式分離処理工程を備えることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法を提供するものである。
【0009】
上記の炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法によれば、炭素繊維強化プラスチックを加熱して脆化させる加熱処理工程を備えることから、炭素繊維強化プラスチック中の炭素繊維を簡便な方法で効率的に分別回収することができる。特に、当該加熱処理工程の加熱温度を250℃~450℃とすることで、炭素繊維強化プラスチックの樹脂部の脆化とともに、炭素繊維強化プラスチック含有物に含まれるその他樹脂をも脆化させて、次工程の破砕工程における樹脂の破砕が容易となり、炭素繊維強化プラスチックからの炭素繊維の分離や炭素繊維強化プラスチック含有物の解砕が可能となる。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、第2に、上記炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法において、
前記加熱処理工程において、加熱温度に応じて10分間~10時間の範囲で加熱時間を設定することを特徴とする炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法を提供するものである。
【0011】
上記の炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法によれば、炭素繊維強化プラスチックの樹脂部及び炭素繊維強化プラスチック含有物中の炭素繊維強化プラスチック以外の樹脂について、機械的強度を充分に低減することができるので、炭素繊維強化プラスチックからの炭素繊維の分離や炭素繊維強化プラスチック含有物の解砕が、より一層容易となる。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、第3に、上記炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法において、
前記破砕処理工程において、前記加熱処理工程で得られた炭素繊維強化プラスチック含有物を破砕して、全量が目開き20mmの篩いを全通することを特徴とする炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法を提供するものである。
【0013】
上記の炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法によれば、脆化された炭素繊維強化プラスチック含有物を、20mm未満の大きさに破砕するので、炭素繊維強化プラスチックからの炭素繊維の回収率を、より一層向上させることができるとともに、炭素繊維強化プラスチック含有物の構成物の分離が、より一層容易となる。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、第4に、上記炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法において、
前記乾式分離処理工程において、前記破砕処理工程で得られた炭素繊維強化プラスチック含有物に振動を加えながら風力分離することを特徴とする炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法を提供するものである。
【0015】
上記の炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法によれば、異種構成相が凝集してなる炭素繊維強化プラスチック含有物の破砕物を、振動によって解して、当該破砕物の構成相が分離されてから風力分離される状態を作ることによって、炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の回収率を、より一層向上させることができる。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は、第5に、上記炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法において、
前記乾式分離処理工程において回収された炭素繊維が存在する軽質産物に、前記乾式分離処理工程を繰り返す、前記炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法を提供するものである。
【0017】
上記の構成によれば、炭素繊維強化プラスチック含有物の破砕物に乾式分離処理を繰り返し施すことにより、当該炭素繊維強化プラスチック含有物に対する分別回収処理の精度を、より一層高めることができる。これにより、マテリアルリサイクル又はサーマルリサイクルとして有効活用可能な、炭素繊維が除去された炭素繊維強化プラスチック含有物を多量に確保することが可能であると共に、サーマルリサイクルとして有効活用することができる炭素繊維については、不純物相をより低減した状態で回収することができる。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明は、第6に、
炭素繊維強化プラスチック含有物を加熱するための加熱装置と、
加熱された炭素繊維強化プラスチック含有物を破砕するための破砕装置と、
破砕された炭素繊維強化プラスチック含有物を、重質産物と軽質産物に風力分離するための乾式分離装置を備えることを特徴とする、炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置を提供するものである。
【0019】
上記の炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置によれば、上述した炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法を効果的に実施することができる。特に、炭素繊維と樹脂が強固に接合されている炭素繊維強化プラスチックは破砕することが困難であるが、加熱装置を備えることにより炭素繊維強化プラスチックを脆化することができ、炭素繊維の分別回収が容易となる。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明は、第7に、上記炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置において、
前記破砕装置と前記乾式分離装置の間に、前記破砕装置で破砕された炭素繊維強化プラスチック含有物を分級するための分級装置を備えることを特徴とする、前記炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置を提供するものである。
【0021】
上記の構成によれば、所定の大きさの炭素繊維強化プラスチック含有物の構成相片のみを乾式分離装置に供給することができるため、処理対象物間の比重差を利用して分別する乾式分離装置による炭素繊維の分離、回収の精度が、より一層高まる。さらに、上記の破砕装置と組み合わせることによって破砕系の閉回路システムを構築することができ、供給された炭素繊維強化プラスチック含有物の全量を、風力分離に最適な状態で後段の乾式分離装置に供給することが可能になる。
【0022】
上記目的を達成するため、本発明は、第8に、
上記乾式分離装置に供される、前記破砕装置で破砕された炭素繊維強化プラスチック含有物を加振するための振動装置が付設されていることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置を提供するものである。
【0023】
上記の炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置によれば、炭素繊維強化プラスチック含有物の破砕物に振動を加えることによって、構成相同士が複雑に凝集している炭素繊維強化プラスチック含有物の破砕物を解して、炭素繊維強化プラスチック含有物から炭素繊維を分離し易くすることができ、炭素繊維の回収率を、より一層向上させることができる。
【0024】
上記目的を達成するため、本発明は、第9に、上記乾式分離装置が集塵機を含み、上記振動装置が揺動テーブル又は振動フィーダのいずれかを含むことを特徴とする炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置を提供するものである。
【0025】
上記の炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置によれば、特殊な乾式分離装置を用いずに、汎用的な装置の組合せによって、炭素繊維強化プラスチック含有物から炭素繊維を分別回収することが可能である。
【0026】
上記目的を達成するため、本発明は、第10に、上記炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置において、
上記分級装置が篩いを含み、当該篩いの篩い目が5mm~20mmであることを特徴とする前記炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置を提供するものである。
【0027】
上記の構成によれば、その篩により、乾式分離装置による分離、回収の精度の高い条件を簡便に構築することができる。
【0028】
上記目的を達成するため、本発明は、第11に、上記炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置において、
前記乾式分離装置で回収された前記軽質産物を、前記乾式分離装置とは別の乾式分離装置に供給するための輸送装置を備えることを特徴とする前記炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置を提供するものである。
【0029】
上記の構成によれば、炭素繊維強化プラスチック含有物の破砕物を乾式分離装置に繰り返し供給することができるため、当該炭素繊維強化プラスチック含有物の破砕物に対する分別回収処理の精度を、より一層高めることができる。これにより、マテリアルリサイクル又はサーマルリサイクルされる、炭素繊維を取り除いた炭素繊維強化プラスチック含有物の量を最大化すると共に、炭素繊維と共に軽質産物として回収される炭素繊維以外の炭素繊維強化プラスチック含有物構成相(不純物)の量が最小化されるので、軽質産物中の炭素繊維の純度が高まり、サーマルリサイクルとして有効活用することが可能となる。
【0030】
上記目的を達成するため、本発明は、第12に、上記炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置において、
前記乾式分離装置で回収された前記軽質産物を、再度前記乾式分離装置に供給するための循環供給装置を備えることを特徴とする前記炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置を提供するものである。
【0031】
上記の構成によれば、炭素繊維強化プラスチック含有物の破砕物を乾式分離装置に繰り返し供給することができるため、当該炭素繊維強化プラスチック含有物の破砕物に対する分別回収処理の精度を、より一層高めることができる。これにより、マテリアルリサイクル又はサーマルリサイクルされる、炭素繊維を取り除いた炭素繊維強化プラスチック含有物の量を最大化すると共に、炭素繊維と共に軽質産物として回収される炭素繊維以外の炭素繊維強化プラスチック含有物構成相(不純物)の量が最小化されるので、軽質産物中の炭素繊維の純度が高まり、サーマルリサイクルとして有効活用することが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明によれば、炭素繊維強化プラスチック含有物をリサイクル処理するに際し、リサイクル施設からの排煙不良の原因となる炭素繊維の分離除去及び回収を効率的に行うことができる。また、回収された炭素繊維は不純物含有量が少ないので、良質な代替燃料とすることができる。さらに、回収された炭素繊維以外の構成相についても、有効にマテリアルリサイクル等に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係る炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法の一実施形態を表わすフロー図である。
図2】本発明に係る炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収装置の一実施形態を表わす全体構成図である。
図3】本発明に用いることができる乾式分離装置の一例を示した概略構成図である。
図4】本発明に用いることができる乾式分離装置の他の一例を示した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の処理対象物である炭素繊維強化プラスチック含有物は、上述のASRの様にCFRPをその一部として有するものだけでなく、廃CFRPのみの場合や、CFRPの製造工程から発生する端材等のみの場合をも含むものである。すなわち、本発明の炭素繊維強化プラスチック含有物は、CFRPを含むものであれば、その混合割合に制限は生じないが、炭素繊維の回収という観点からは、CFRPの混合割合が1質量%以上であるのが好ましい。
【0035】
CFRPは、軽量でありながら機械的特性や耐蝕性に非常に優れた構造材料であり、一般的に、30質量%~80質量%程度の炭素繊維を含有している。この炭素繊維としては、グラファイト状の炭素から形成され、剛性等の機械的特性に優れた繊維が用いられており、例えば、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系又はセルロース系繊維等を酸化性雰囲気中で150℃~400℃に加熱して耐炎化処理を行なった後、不活性雰囲気中で300℃~2500℃で炭化又は黒鉛化処理をして得られたものの他、水蒸気等の半活性雰囲気で賦活化した活性炭素繊維が挙げられる。また、CFRPを構成するマトリックス材料(樹脂)としては、例えば、ポリアミド樹脂、またはポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂等の熱可塑性樹脂や、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられている。
【0036】
CFRP及び炭素繊維の見かけ比重は、前者が0.3g/cm~0.8g/cmであり、後者が0.1g/cm~0.5g/cmである。
【0037】
炭素繊維強化プラスチック含有物中に粗大物が存在する場合には、本炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法に供する前に、それら粗大物を処理対象物から取り除くか、適当な大きさに粉砕する必要がある。炭素繊維強化プラスチック含有物から粗大物を除去するには、例えば、篩い分け機や磁選機を用いればよい。また、当該粗大物を粉砕して小片化するには、例えば、篩い分け機と粉砕機を組合せて用いればよい。ここで、本炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法に供する炭素繊維強化プラスチック含有物の構成相の大きさとしては、一般的な破砕装置の仕様を満足する観点から、例えば、最大径が15cm以下であればよい。
【0038】
以下、本発明についてより具体的に説明するために図面を参照するが、本発明は、これら図面とともに説明する態様に限定されるものではない。
【0039】
図1には、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法の一実施形態を表わすフロー図を示す。
【0040】
この実施形態に示されるように、本発明による炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法の構成は、加熱処理工程と、粉砕処理工程と、乾式分離処理工程に大別され、これをもって最小限の必要構成とされている。そして図1に示す実施形態においては、炭素繊維強化プラスチック含有物中の樹脂を脆化するための加熱処理工程S1と、加熱されて脆化した樹脂部を有する炭素繊維強化プラスチック含有物を破砕するための破砕処理工程S2と、破砕処理工程S2から供給された炭素繊維強化プラスチック含有物の破砕物を分級するための分級処理工程S3と、分級処理で得られた細粒分を風力の作用により分離(以後、「風力分離」と称する。)するための第1乾式分離処理工程S4と、第1乾式分離処理で得られた第1軽質産物を風力の作用により風力分離するための第2乾式分離処理工程S5を備えている。
【0041】
なお、図1に示す実施形態において、炭素繊維強化プラスチック含有物は、上述したとおり、当該含有物中の粗大物は取除かれたか、粉砕して小片化された炭素繊維強化プラスチック含有物である。
【0042】
前記加熱処理工程S1では、炭素繊維強化プラスチック含有物が250℃~450℃の温度で加熱されて、炭素繊維強化プラスチック含有物中の樹脂が脆化して、機械的強度が低下する。ここで、加熱温度が250℃未満であると加熱処理に要する時間が長時間化し、さらに樹脂の脆化の程度も小さくなる場合がある。また、加熱温度が450℃を超えると、樹脂の焼失によって最終的な樹脂の回収率が低下すると同時に、樹脂の燃焼時に生じるタールや有毒ガスの発生量が多くなってしまう。
【0043】
加熱処理を行う時間(加熱時間)は、加熱温度に応じて10分間~10時間の範囲内で設定すればよい。この加熱時間は、炭素繊維強化プラスチック含有物中の樹脂の焼失を抑制しつつ脆化させる観点からは、加熱温度が高い場合には短く、加熱温度が低い場合には長くする必要がある。具体的には、マトリックス材料がエポキシ樹脂であるCFRPの場合、加熱処理におけるCFRPの重量減少率が、5質量%~50質量%となるように加熱処理を施すことが好ましく、10質量%~40質量%とすることがより好ましく、15質量%~35質量%とすることがさらに好ましい。このCFRPの重量減少は、加熱による樹脂の揮発によって生じるため、樹脂の種類によりその程度は異なる。
【0044】
なお、一般的には、JIS M 8812「石炭類及びコークス類―工業分析方法」の揮発分定量方法に準拠して求められるCFRP中の揮発分の含有率(100質量%)に対して、CFRPの重量減少率が15質量%~70質量%となるように加熱処理を施すことが好ましく、20質量%~65質量%とすることがより好ましく、30質量%~55質量%とすることがさらに好ましい。当該値を15質量%以上とすることで、CFRPが脆化されて、次工程での破砕が容易となる。また、当該値を70質量%以下とすることで、サーマルリサイクルできるCFRPの樹脂部を十分に回収することが可能となる。
【0045】
破砕処理工程S2は、上記加熱処理工程S1を経た炭素繊維強化プラスチック含有物を、所定の大きさに破砕する工程である。この破砕処理によって、上記加熱処理工程S1で脆化したCFRPが破壊されて炭素繊維と樹脂部が分離すると共に、炭素繊維強化プラスチック含有物の構成相も解れて分離するか、分離し易い状態になるので、後段の第1乾式分離処理S4での風力分離による炭素繊維の回収の精度を向上させることができる。なお、ここでの所定の大きさとは、後段の分級処理工程S3で用いる篩いを通過する大きさをいう。
【0046】
また、図1に示す実施形態において、破砕処理工程S2は、後段の分級処理工程S3と共に閉回路破砕システムを構成している。すなわち、後段の分級処理工程S3で篩いを通過しなかった粗粒分は、本破砕処理工程S2に返送されて再度破砕されることになる。こうすることで、炭素繊維強化プラスチック含有物の全量を後述の第1乾式分離処理工程S4に供することができるとともに、本破砕処理工程S2において炭素繊維強化プラスチック含有物を過剰に破砕することを抑制することができるので、当該第1乾式分離処理工程S4に大きさの揃った破砕物を供給することが可能となる。
【0047】
分級処理工程S3は、上記破砕処理工程S2を経た炭素繊維強化プラスチック含有物を分級して、所定の大きさ以下の炭素繊維強化プラスチック含有物を得る工程である。この分級処理によって、後段の第1乾式分離処理工程S4及び第2乾式分離処理工程S5に供給する炭素繊維強化プラスチック含有物の大きさを均一化して、風力分離の精度を向上させることができる。
【0048】
分級処理工程S3における篩いの目開きは、後段の第1乾式分離処理工程S4及び第2乾式分離処理工程S5で用いる設備の仕様に応じて設定すればよい。ただし、大型のCFRPは、脆化していても、その内部に炭素繊維が残っていることもあるので、かかる篩いの目開きは、炭素繊維強化プラスチック含有物中の炭素繊維の大きさをも考慮して決定する必要があり、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは8mm以下である。
【0049】
第1乾式分離処理工程S4及び第2乾式分離処理工程S5は、上記分級処理工程S3を経た炭素繊維強化プラスチック含有物を、炭素繊維を主体とする構成相とそれ以外の構成相とに分離して、別個に回収する工程である。この乾式分離処理によって、マテリアルリサイクルが可能な、炭素繊維を主体とする構成相以外の構成相は重質産物として、サーマルリサイクルが可能な、炭素繊維を主体とする構成相は軽質産物として、それぞれが回収される。なお、炭素繊維強化プラスチック含有物がCFRPを多量に含む場合には、第1乾式分離処理工程S4及び第2乾式分離処理工程S5で得られる重質産物は樹脂等の可燃物がほとんどであり、このような場合には、重質産物であっても、サーマルリサイクルが可能である。
【0050】
なお、図1に示す実施形態においては、乾式分離処理工程を2回繰り返す態様を示しているが、目的とする純度の回収物が得られるのであれば、乾式分離処理工程は1回でもよいし、3回以上実施してもよい。また、乾式分離処理工程を複数回実施する場合には、乾式分離処理の生成物を循環させて、再度同一の装置にかける循環処理を行うようにしてもよい。さらに、乾式分離処理工程を複数回実施する場合は、各乾式分離処理の方法や運転操作条件等は全て同一でも、個別に異なっていてもよい。
【0051】
ここで、加熱処理によって脆化したCFRPであっても、炭素繊維と樹脂部の分離が十分でなく、樹脂が付着した状態の炭素繊維が回収される場合がある。この樹脂が付着した炭素繊維については、炭素繊維と樹脂の分離が容易でないことと、炭素繊維と樹脂の双方がサーマルリサイクルが可能なので、そのままの状態で回収して、サーマルリサイクルすればよい。
【0052】
乾式分離処理工程S4、S5において、炭素繊維強化プラスチック含有物を構成する軽質産物と重質産物の分離をより効率的に行うために、炭素繊維強化プラスチック含有物に振動を加えながら(加振してから)風力分離してもよい。この加振によって、炭素繊維強化プラスチック含有物から炭素繊維が主体の軽質産物が分離するか、分離しやすい状態にすることができる。
【0053】
回収された炭素繊維を主体とする軽質産物は、サーマルリサイクルすることができる。なお、当該軽質産物をサーマルリサイクルする場合、軽質産物の大部分を構成する炭素繊維による排煙不良を生じさせないために、燃焼によって完全に焼失するような大きさにするか、使用設備を限定するのが好ましい。例えば、セメントキルンの主バーナの代替燃料として当該軽質産物を用いる場合、当該軽質産物中の炭素繊維の長さは10mm以下であればよい。なお、炭素繊維が10mmより大きい場合は、カッターミルやローラーミルなどで破砕すればよい。
【0054】
図2には、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置の一実施形態を表わす全体構成図を示す。この実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置1は、受入れた炭素繊維強化プラスチック含有物W1を収容するためのホッパ2、ホッパ2から排出された炭素繊維強化プラスチック含有物W1を加熱して、CFRPが脆化された炭素繊維強化プラスチック含有物W2にするための加熱装置3、炭素繊維強化プラスチック含有物W2、もしくは後述の炭素繊維強化プラスチック含有物W5を破砕して、小片化された炭素繊維強化プラスチック含有物W3を得るための破砕装置4、炭素繊維強化プラスチック含有物W3を分級して、所定の大きさを満足する炭素繊維強化プラスチック含有物W4と、所定の大きさを満足しない炭素繊維強化プラスチック含有物W5を分別するための分級装置5、炭素繊維強化プラスチック含有物W4を加振するための振動装置6-1、加振された炭素繊維強化プラスチック含有物W4中の相対的に軽量の炭素繊維含有物W6(図1に説明した「第1軽質産物」に対応する。)を、吸引エアーによる風力の作用により吸い上げて分離するための吸引装置7-1、炭素繊維含有物W6を後述する振動装置6-2に送るための輸送装置8、炭素繊維含有物W6を加振するための振動装置6-2、加振された炭素繊維含有物W6中の相対的に軽量の炭素繊維を主体とする構成相を、炭素繊維を含む回収物として(図1に説明した「第2軽質産物」に対応する。)、吸引装置7-1と同様にして風力の作用により吸い上げて分離するための吸引装置7-2から構成されている。そして、振動装置6-1及び6-2から排出された相対的に重量の回収物A(図1に説明した「重質産物」に対応する。)はマテリアルリサイクル又はサーマルリサイクルへ、吸引装置7-2で回収された炭素繊維を含む回収物CFはサーマルリサイクルへ供される態様とされている。なお、この実施形態による焼却灰の前処理装置1においては、振動装置6-1と吸引装置7-1との組み合わせが第1の乾式分離装置を構成しており、振動装置6-2と吸引装置7-2との組み合わせが第2の乾式分離装置を構成している。また、第1の乾式分離装置からの軽質産物は、同一の乾式分離装置に所定のタイミングで戻して再度の乾式分離処理を行ってもよく、その場合は輸送装置8の機構が、第1の乾式分離装置からの軽質産物を第1の乾式分離装置に再送するための循環供給装置を構成し得る。
【0055】
ホッパ2は、受入れた炭素繊維強化プラスチック含有物W1を収容する。ホッパ2に収容される炭素繊維強化プラスチック含有物W1は、ホッパ2からの排出トラブルを回避するために、最大辺の長さが15cm以上のものを除去できるように破砕されている。なお、ホッパ2に炭素繊維強化プラスチック含有物W1の貯槽が付設されていてもよく、さらに、かかる貯槽の上流側に、受け入れた炭素繊維強化プラスチック含有物から粗大物を除去するための分級設備や、粗大物を上記の粒度にするための破砕分級設備が付設されていてもよい。これらの分級設備や破砕分級設備は、受入れた炭素繊維強化プラスチック含有物の状態に応じて適宜に使用するようにしてもよい。
【0056】
ホッパ2は、炭素繊維強化プラスチック含有物W1を定量的に排出できるものであれば特に限定されず、ロスインウエイト方式のホッパや、定量フィーダ又はロータリーフィーダが付設されたホッパ等が好適に使用できる。
【0057】
加熱装置3において、炭素繊維強化プラスチック含有物W1は加熱されて、内包するCFRPが脆化された炭素繊維強化プラスチック含有物W2になる。加熱装置3は、炭素繊維強化プラスチック含有物W1を250℃~450℃の温度で加熱できるものであれば特に限定されず、固定炉、ストーカ炉、ロータリーキルン炉、流動床炉、竪型炉、多段炉等の各種加熱炉が使用できる。中でも、迅速且つ均一な加熱を連続的に行う観点からは、ロータリーキルン炉が好ましく、還元条件での加熱が行えることから外熱式ロータリーキルン炉がより好ましい。また、加熱装置3としてロータリーキルン炉の様な材料撹拌型の加熱装置を用いた場合、物理的な撹拌作用によって炭素繊維強化プラスチック含有物W1の凝集状態が解される効果を得ることもできる。
【0058】
破砕装置4において、炭素繊維強化プラスチック含有物W2は破砕されて炭素繊維強化プラスチック含有物W3になる。破砕装置4は、炭素繊維強化プラスチック含有物W2に内包されるCFRP中の炭素繊維が分離可能な程度に、炭素繊維強化プラスチック含有物W2を破砕する必要があり、その破砕の程度は炭素繊維強化プラスチック含有物W2に内包されるCFRPの大きさ、及び炭素繊維強化プラスチック含有物W2中のCFRPの含有状態に依存する。したがって、破砕装置4は、破砕物の大きさを20mm~数mmにすることが可能な装置、又は装置の組み合わせである。
【0059】
破砕装置4としては、ジョークラッシャ、ジャイレトリクラッシャ、コーンクラッシャ、インパクトクラッシャ、ロールクラッシャ及びエアロフォールミル等が好適に使用できる。なお、これら破砕装置を複数組合せて破砕装置4とする場合、各破砕機の間に分級機を併設して閉回路破砕システムを構築することによって、粒度の揃った炭素繊維強化プラスチック含有物W3を効率的に得ることができる。
【0060】
図2に示す実施態様による炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置1においては、この粉砕装置4が、図1に説明した破砕処理工程S2に対応している。
【0061】
分級装置5において、炭素繊維強化プラスチック含有物W3は所定の大きさ以下の炭素繊維強化プラスチック含有物W4と、所定の大きさよりも大きい炭素繊維強化プラスチック含有物W5に分級される。分級装置5は、所定の分級点で炭素繊維強化プラスチック含有物W3を分級できるものであれば特に限定されず、篩い(面内運動篩い、振動篩い)、重力式分級機、慣性力式分級機、サイクロン等の遠心式分級機が好適に使用できる。中でも、設備の簡便性と操作、調整の容易性から篩いが好ましい。篩いの篩い目としては、好ましくは5mm~20mmであり、より好ましくは5mm~15mmであり、さらに好ましくは8mm~15mmである。
【0062】
図2に示す実施形態では、分級装置5において所定の分級点よりも大きいとされた炭素繊維強化プラスチック含有物W5は、前記の破砕装置4に返送される、閉回路破砕システムを採用している。この閉回路破砕システムを採用することによって、破砕装置4による過破砕、すなわち炭素繊維強化プラスチック含有物W4の過剰な小粒化を抑制しながら、破砕装置4に供給される炭素繊維強化プラスチック含有物W2の全量を、最終的に望ましい大きさを満たす炭素繊維強化プラスチック含有物W4とすることができる。一方、炭素繊維強化プラスチック含有物W4が過剰に小粒化した場合、炭素繊維強化プラスチック含有物W4中の炭素繊維も微小化してしまい、後段の乾式分離装置における炭素繊維の回収精度が低下してしまう。
なお、分級装置5としては、篩い網を内蔵している破砕機も好適に使用できる。
【0063】
図2に示す実施態様による炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置1においては、この分級装置5が、図1に説明した分級処理工程S3に対応している。
【0064】
振動装置6-1において、炭素繊維強化プラスチック含有物W4は加振され、炭素繊維強化プラスチック含有物W4の凝集状態が解れると同時に、炭素繊維強化プラスチック含有物W4を構成していた軽量の構成相は振動装置6-1上に浮遊するようになる。すなわち、振動装置6-1を用いることによって炭素繊維等の比重が小さく軽量のものを浮遊させて、振動装置6-1の上方に設置した吸引装置7-1で回収し易い状態をつくる。
【0065】
振動装置6-1としては、供給された炭素繊維強化プラスチック含有物W4を上記の状態にできるものであれば限定されず、揺動テーブルや振動フィーダ(クランク式、錘式、電磁式)が使用できる。また、炭素繊維強化プラスチック含有物W4を上記の状態にできるのであれば、炭素繊維強化プラスチック含有物W4にエアーを吹き付けるものでもよい。なお、振動装置6-1では炭素繊維強化プラスチック含有物W4由来の軽量物を人為的に舞わせる。このため、処理対象物が周囲に飛散することを防止するために、振動装置6-1は、吸引装置7-1との連結箇所を含めた全体を筐体で覆うのが好ましい。
【0066】
吸引装置7-1によって回収される炭素繊維含有物W6は、炭素繊維強化プラスチック含有物W4中の相対的に軽量な構成相からなる炭素繊維含有物である。一方、吸引装置7-1で回収されなかった、炭素繊維強化プラスチック含有物W4中の相対的に重量な構成相は、重質産物Aとして前記振動装置6-1から排出される。ここで、回収された炭素繊維含有物W6には、炭素繊維強化プラスチック含有物W4に混在していた炭素繊維のほぼ全量が含まれることが好ましい。すなわち、マテリアルリサイクルされる回収物A側には炭素繊維を漏らさないことが好ましい。
【0067】
吸引装置7-1としては、振動装置6-1上の炭素繊維強化プラスチック含有物W4中の相対的に軽量な構成相を回収できる乾式装置であれば特に限定されず、例えばエアー吸引型の集塵機等が好適に使用できる。また、その集塵機等の吸引力を調整すること等により、回収される炭素繊維含有物W6に、炭素繊維強化プラスチック含有物W4に混在していた炭素繊維のほぼ全量が含まれるようにすることができる。
【0068】
なお、乾式分離処理を行う乾式分離装置としては、上記した吸引機構に代えて又はそれと共に、ジグザグ型風力分級機や同時多産物乾式微粉分級機(例えば、日鉄鉱業株式会社製エルボージェットや日本ニューマチック工業株式会社製ディスパージョンセパレータ)、エアテーブルなどの、一般的な乾式分離装置を用いてもよい。この場合、前記振動装置8-1は、それによる前処理を行ってもよく、省略してもよい。
【0069】
図3には、本発明に用いることができる乾式分離装置の一例として、振動装置6-1に振動フィーダ9を、吸引装置7-1に集塵機をそれぞれ使用して、それらを組み合わせて構成した装置の概略構成を示している。この例の乾式分離装置では、振動フィーダ9の周囲が筐体10で覆われており、筐体10は、振動フィーダ9の上方に配置された集塵機のエアー吸引管11に連接されている。
【0070】
図4には、本発明に用いることができる他の乾式分離装置の一例として、ジグザグ型風力分級機の概略構成を示している。この例の乾式分離装置では、投入槽20から供給された処理対象物は、ブロア21から機内に供給されたエアー22によって(風力の作用によって)、ジグザグチャネル23に向けて吹き上げられる。処理対象物の中に含まれる軽質産物は、ジグザグチャネル23を通過して、上部に配置された軽質産物排出口24から機外に排出される。一方、処理対象物の中に含まれる重質産物は、ジグザグチャネル23を通過できず、機内下方に落下して、重質産物排出口25から機外に排出される。これにより、処理対象物の中に含まれている軽質産物と重質産物とが分離され、それぞれ回収される。
【0071】
図2に示す実施態様による炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置1においては、この振動装置6-1及び吸引装置7-1が、図1に説明した第1乾式分離処理工程S4に対応している。
【0072】
図2に示した実施形態においては、輸送装置8によって、第1の乾式分離装置を構成している振動装置6-1と吸引装置7-1で回収された炭素繊維含有物W6は、第2の乾式分離装置を構成している振動装置6-2に搬送される。輸送装置8は、乾いた粉体又は小径粒を輸送できるものであれば特に限定されずベルトコンベア、スクリューコンベア、振動コンベア、空気輸送、エアスライド等が使用できる。
【0073】
振動装置6-2において、炭素繊維含有物W6は加振され、炭素繊維含有物W6の凝集状態が解れると同時に、炭素繊維含有物W6を構成していた炭素繊維のほとんどは振動装置6-2上に浮遊するようになる。ここで、第1の乾式分離装置を構成している振動装置6-1と吸引装置7-1によって回収された炭素繊維含有物W6は、炭素繊維と炭素繊維以外の軽量の炭素繊維強化プラスチック含有物構成相から構成されており、炭素繊維とそれ以外の構成相間の重量差(≒比重差)は非常に小さい。すなわち、第2の乾式分離装置を構成している振動装置6-2では、そのような重量差の小さい対象物の中から、炭素繊維が選択的に浮遊する状態をつくる必要がある。そこで、振動装置6-2には、前記振動装置6-1と同種の装置を使用することができるが、その運転操作条件等は、炭素繊維が選択的に浮遊する状態を作るよう、振動装置6-1とは異なるものとしてもよい。
【0074】
図2に示す実施態様による炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置1においては、この振動装置6-2及び吸引装置7-2が、図1に説明した第2乾式分離処理工程S5に対応している。
【0075】
図2に示した実施形態においては、第2の乾式分離装置を構成している振動装置6-2と吸引装置7-2によって、炭素繊維含有物W6中の炭素繊維を主体とする軽質産物は、ほぼ全量が回収され、サーマルリサイクルに供される。一方、相対的に重量物のために第2の乾式分離装置7-2で回収されなかった、炭素繊維含有物W6の炭素繊維以外の構成相は、重質産物Aとして前記振動装置6-2から排出され、前記振動装置6-1から排出された重質産物Aと共にマテリアルリサイクル又はサーマルリサイクルに供される。
【0076】
このように、本発明の炭素繊維強化プラスチック含有物からの炭素繊維の分別回収方法を用いることで、受入れた炭素繊維強化プラスチック含有物を安定してリサイクル処理することが可能になる。
【実施例
【0077】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するために具体的な試験例を示すが、本発明はこれら試験例の態様に限定されるものではない。
【0078】
CFRP(板状、10mm角)を20質量%含有するASRについて、乾式分離装置の態様による炭素繊維の回収率と、回収物中の炭素繊維の重量割合を比較した。
比較用試料には、前記ASRを、固定炉を使用して、325℃で60分間加熱処理した後、インパクトクラッシャで破砕して目開き8mmの篩いを全通させたものを用いた。
乾式分離装置として、以下の3つを準備した。なお、各乾式分離装置の運転条件は、それぞれについて予め確認された最適運転条件を適用した。
(1)ジグザグ型風力分級機
(2)エアテーブルと集塵機の組合せ
(3)振動コンベアと集塵機の組合せ
なお、全水準で、処理対象物量は40kg、処理時間は60分間である。
結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1から分かるとおり、本発明における加熱処理と破砕処理を経た炭素繊維強化プラスチック含有物であれば、どのような態様の乾式分離装置であっても、その運転条件を最適化することで、炭素繊維強化プラスチック含有物に含まれていた炭素繊維の全てを、軽質産物として回収できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0081】
1 炭素繊維強化プラスチック含有物の分別回収装置
2 ホッパ
3 加熱装置
4 破砕装置
5 分級装置
6-1、6-2 振動装置
7-1、7-2 吸引装置
8 輸送装置
9 振動フィーダ
10 筐体
11 集塵機のエアー吸引管
20 投入槽
21 ブロア
22 エアー
23 ジグザグチャネル
24 軽質産物排出口
25 重質産物排出口
W1、W2、W3、W4、W5 炭素繊維強化プラスチック含有物
W6 炭素繊維含有物
A 重質産物として回収された回収物
CF 軽質産物として回収された炭素繊維を含む回収物
図1
図2
図3
図4