(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】高性能同期変速機
(51)【国際特許分類】
B60K 23/02 20060101AFI20220815BHJP
F16H 61/32 20060101ALI20220815BHJP
F16H 63/18 20060101ALI20220815BHJP
F16D 43/18 20060101ALI20220815BHJP
F16D 13/46 20060101ALI20220815BHJP
F16H 3/085 20060101ALI20220815BHJP
B62M 11/16 20060101ALI20220815BHJP
B62M 11/10 20060101ALI20220815BHJP
B60K 17/06 20060101ALI20220815BHJP
B62M 9/04 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
B60K23/02 Q
B60K23/02 M
F16H61/32
F16H63/18
F16D43/18
F16D13/46 A
F16H3/085
B62M11/16 G
B62M11/10
B60K17/06 A
B62M9/04 C
(21)【出願番号】P 2019528855
(86)(22)【出願日】2017-11-30
(86)【国際出願番号】 EP2017081074
(87)【国際公開番号】W WO2018100111
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】102016000122091
(32)【優先日】2016-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】515217546
【氏名又は名称】ピアッジオ エ チ.ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】マリオッティ ウォルター
(72)【発明者】
【氏名】ヌティ ルカ
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-106730(JP,A)
【文献】特開昭58-118481(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0127099(US,A1)
【文献】特開平11-82734(JP,A)
【文献】特表平10-508367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/02
F16H 61/32
F16H 63/18
F16D 43/18
F16D 13/46
F16H 3/085
B62M 11/16
B62M 11/10
B60K 17/06
B62M 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって生み出された運動を、オートバイの正中面に対して垂直でありかつ互いに平行なクランクシャフト(2)とハブ・シャフトとの間で駆動輪に伝達するために、前記オートバイに搭載して使用される高性能同期変速機(1)であって、電気モータ(81)を有するアクチュエータ(80)を備え、前記電気モータ(81)は、アクチュエータ・シャフト(85)を回転させ、前記アクチュエータ・シャフト(85)は、1組のカム(86)に対して作用して、入力クラッチ(40)に対して作用するクラッチ・レバー(47)および第2のクラッチ(5)に対して作用する第1の制御レバー(20)を、係合されるギアホイールと同期するように作動させ
、
前記入力クラッチ(40)が変速機(1)の1次シャフト(51)に配置され、前記第2のクラッチ(5)が前記クランクシャフト(2)に配置された遠心クラッチであることを特徴とする、高性能同期変速機(1)。
【請求項2】
同じアクチュエータ・シャフト(85)が、デスモドロミック・ドラム(70)の回転を制御して1対の可動連結部(67、68)の偏移を決定し、前記1対の可動連結部(67、68)のそれぞれは、動作中のギアホイールを係合解除して後のギアホイールまたは前のギアホイールを係合させることにより、前記1次シャフト(51)から選択的に前記運動を受け取るギアボックスの各2次シャフト(52、53)に対して作用する、請求項
1に記載の同期変速機(1)。
【請求項3】
前記アクチュエータ・シャフト(85)の軸が、前記1次シャフト(51)に対して平行である、請求項
1に記載の同期変速機(1)。
【請求項4】
前記カム・セット(86)が、
前記アクチュエータ・シャフト(85)のアクチュエータ・ピニオン(84)に隣り合って配置されるカム・ディスク(88)の周辺部に形成された第1のカム(87)と、
やはりディスク(126)を備え、前記ディスク(126)上にカム・フォロア・プロファイルが形成されるカム・フォロア(89)と、
を備える、請求項
1に記載の同期変速機(1)。
【請求項5】
前記カム・ディスク(88)が、半径方向および軸方向に固定され、前記カム・フォロア(89)が、前記アクチュエータ・シャフト(
85)とともに回転し、前記アクチュエータ・シャフト(85)上で軸方向に並進する、請求項
4に記載の同期変速機(1)。
【請求項6】
前記カム・フォロア(89)が、前記アクチュエータ・シャフト(85)の上に配置されたブッシング(123)を有し、前記ブッシング(123)は、回転という観点ではそこに拘束されているが、プリズム状の連結部があることにより軸方向に動くことができる、請求項
5に記載の同期変速機(1)。
【請求項7】
前記カム(87)のカム・プロファイルが、それぞれが90°だけ間隔をあけて配置された4つの頂部および4つの谷部を有し、前記谷部が、第1の速度から第4の速度までの各速度に対応し、前記頂部が、代わりにアイドル位置(F)に対応する、請求項
4から
6のいずれか一項に記載の同期変速機(1)。
【請求項8】
前記回転カム・フォロア(89)に追加のカム(128)が形成され、前記カム・フォロア(89)およびこうした追加のカム(128)が、前記クラッチ・レバー(47)および前記第1の制御レバー(20)の端部を駆動させるものであり、前記カム・フォロア(89)が、前記第2のアクチュエータ・シャフト(85)の拡張部に相当するが前記カム(87)と前記カム・フォロア(89)の相互作用に応じて交互になる運動で動くことができる作動凸部(127)を有し、前記作動凸部(127)が、各ギアホイール・シフトに際して前記クラッチ・レバー(47)を揺り動かすことにより、前記クラッチ・レバー(47)の作動端部(125)に直接的に作用する、請求項
5から
7のいずれか一項に記載の同期変速機(1)。
【請求項9】
前記追加のカム(128)が、前記第1の速度の係合に対応する凸部を有するカム・プロファイルを備え、前記
追加のカム(128)のカム・プロファイルは、前記第1の速度においてのみ前記制御レバー(20)を作動させることにより、前記制御レバー(20)の作動端部(124)に対して作用して、前記クランクシャフト(2)の遠心クラッチ(5)が除外されることを防止する、請求項
8に記載の同期変速機(1)。
【請求項10】
前輪(103)から後方駆動輪(105)へと延在するシャシー(102)の内側でサドル(101)の下の位置に配置された推進ユニット(106)と、前記推進ユニット(106)と前記後輪(105)の間にあり、前記オートバイ(100)の露出面ではカバー(110)によって囲まれたコンテナ(109)によって受けられる、請求項1から
9のいずれか一項に記載の変速機とを備える、オートバイ(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータによって生み出された運動を、駆動輪、特にオートバイの後輪に伝達するための要素として、特にスクータなどのオートバイに搭載して使用される、高性能変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
最新世代のスクータにおいては、最も一般的に使用されている変速機は、連続変速機、または連続バリエータとして知られている、CVT(無段変速機)タイプのものである。
【0003】
これには、連続的なトラクションを提供し、様々な比を手動で作動させることを必要としないという利点がある。しかし、摺動タイプの要素を使用しているので、こうした変速機は、変速機ベルトのヒステリシス効果が最大になる移行的な(transitory)手順においてはとりわけ性能が低いという特徴がある。
【0004】
これにより、車両の全体的な性能が引き下げられ、その消費が増加する。
【0005】
一方、この分野で強く求められているのは、CVTギアボックスにより、可能な限り消費を抑えるが、市場に要求されたときはいつでも、使用者が慣れている快適さのレベルを維持するということである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の根底にある目的は、都市交通用の2輪車両において、変速機の全体的な性能を大幅に向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかし、スクータなどのための変速機の設計では、シリンダのピストンから運動を受け取るクランクシャフトと、変速機の運動力学的連鎖の最後に運動を後輪へと伝達するハブ・シャフトとが互いに平行であり、かつこれらがエンジン位置に応じたある距離で配置されるということからなる、基本的な制約が存在する。
【0008】
CVTタイプの変速機では、これら2つのシャフトが、それらの間の距離を埋めることによってこうしたシャフトに運動力学的に連結される2つのプーリの間に延在するベルトによって実質的に連結される場合、この方式を、異なる変速比でそれらの間に係合される複数の歯車を使用する同期変速機の場合に適用するのは容易ではなく、これらすべてを横並びに配置できないという制約がある。
【0009】
さらに、同期変速機の別の固有の難点は、車両の動作条件によって、自動ギアボックスを有する必要性があることである。実際、ねじれ、がたつき、および急な減速を生じさせることなしに最大限に漸進的かつ穏やかに走行する、シフトの増加または減少を実現することが必要である。
【0010】
上記のタイプの変速機を提供するという課題に対する解決法のアイデアは、2つの歯付きプーリの間の同期ベルト、または場合によっては別の同期システム、たとえばピニオン/チェーン/歯車のシステムを使用してもよい、変速機自体の性能を最適化することにある。しかし、可変的な変速比をもつCVTベルトの代わりに固定的な変速比を備え、既定の数の比をもつ機械的ギアボックスを備える、クランクシャフトとハブ・シャフトの間で運動を伝達するための高性能システムが、CVTのプーリによって得られる比のバリエーションに取って代わる。
【0011】
具体的には、この新しいタイプの変速機には、機械的ギアボックスの連結機構との完全な同期を保証することによって異なるクラッチを同時に作動させるために、クランクシャフトの側と被動シャフトの側の両方に対して作用することができる、速度を作動させるための機構を提供するという課題がある。
【0012】
したがって、上記の課題は、添付の請求項1に定められる、上に規定した高性能同期変速機によって解決される。
【0013】
本発明による高性能変速機の主な利点は、少なくとも、アイドル状態を実現するために入力クラッチに対して作用するクラッチ・レバーを、ギアホイールの係合と同期させる可能性が提案されるということにある。
【0014】
本発明は、添付の図面を参照しながら、一例として提供され、限定する目的をもたない、そのいくつかの好ましい実施形態にしたがって以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による変速機を組み込むスクータの側面図である。
【
図2】そのコンテナに囲まれた
図1の変速機、および関連するエンジン・ブロックの斜視図である。
【
図3】外側ケーシングのない、本発明による高性能同期変速機の一実施形態例の正面図である。
【
図4】
図3の変速機の斜視上面図および水平縦断面図である。
【
図7】
図3の変速機の第1の詳細の斜視断面図である。
【
図9】
図7の第1の詳細のいくつかの構成要素の斜視図である。
【
図10】
図3の変速機の第3の詳細の部分断面の正面斜視図である。
【
図10A】前の図の詳細を組み合わせる連結方式を示す図である。
【
図11】
図3の変速機の右側の上面斜視部分図および水平縦断面図である。
【
図12】
図3の変速機の第4の詳細の斜視断面図である。
【
図13A】
図3の変速機の第5の詳細の部分断面の斜視図である。
【
図13B】
図3の変速機の第5の詳細の部分断面の別の斜視図である。
【
図14A】そのいくつかの変形形態による、
図3の変速機を作動させるためのいくつかの方式を示す図である。
【
図15】
図3の変速機の左側の上面斜視部分図および水平縦断面図である。
【
図16】
図3の変速機の第6の詳細の斜視図である。
【
図21】
図16の第6の詳細の追加の構成要素の概略図である。
【
図23】
図3の変速機の第7の詳細の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1および
図2を参照すると、オートバイ、具体的にはスクータが、全体として100で示されている。本発明は、サドルを備えた車両、または一般に2つ、3つ、もしくは4つの車輪を備えた、またがって駆動させる鞍乗型車両の分野に関し、またサドル101の下でシャシー102の内側の位置に配置された推進ユニットを有するスクータを特に参照しており、シャシー102は、本明細書では、ハンドルバー104によって制御される前輪103から駆動後輪105へと、横方向に延在するように示されている。
【0017】
推進ユニット106(
図2)、または簡単に言うとエンジンは、前方へ直線的に走行している間の2つの車輪の回転面に対応する車両の正中面上でわずかに傾斜した位置に配置された、1つ以上のシリンダを有するタイプのものである。
【0018】
エンジン106は、この実施形態の例ではシリンダ108、および関連するピストン(図示せず)を受ける、一体型のエンジン・ブロック107を有する。
【0019】
前記シリンダ108の中で作動するピストンは、前記正中面に対して横方向かつ垂直に位置決めされたクランクシャフト2に連結される。変速機装置1、またはより簡単に言うとクランクシャフトから後輪105のハブへの運動の変速機が、スクータ100の図示されている側(
図1および
図2)に提供される。
【0020】
本明細書に記載の変速機は、同期タイプ、またはほぼ同期タイプのものであり、環状ベルト、好ましくは歯付きプーリ上の歯付きベルト、またはたとえばStretch Fit(登録商標)タイプのものなどの高性能ベルトによって運動力学的に連結された、1対のプーリを使用する。
【0021】
以下に記載することは、他のタイプの均等な同期変速機、たとえばピニオン/チェーン/歯車の変速機にも、全体的または部分的に適用され得ることを意図している。
【0022】
この例を参照すると、変速機1は、以下でより詳細に説明される変速機要素を内部に受けるコンテナ109を有する。コンテナ109は、クランクシャフト2およびそこに連結されるあらゆる変速機要素を収容するトンネル状のケーシングを形成することにより、エンジン・ブロック107に連結される。
【0023】
さらに、オートバイ100の露出面では、コンテナ109は、エンジン106から駆動輪105のハブ・シャフト75へと実質的に延在する、変速機1のカバー110によって囲まれている。カバー110は、適したボルト111によってコンテナ109に締結される。前記カバー110から変速機要素へとアクセスし、かつ/または冷却するための開口、スリット、空気取入れ部が提供されてもよい。
【0024】
カバー110はコンテナ109の締結縁部112に載置され、この締結縁部112は、前記ボルト111用の締結座面113を備え、またエンジン・ブロック107および変速機1が振動することを可能にする軸Aのヒンジ連結部を備える前方連結部114用、ならびにリア・サスペンション116に連結されてケーシング109および変速機1全体を車両100のフレームに連結する後方連結部115用の追加の座面を備える。
【0025】
こうした変速機は複数速度のタイプおよび同期タイプ1のものであり、これら2つのシャフトが互いに平行になり、事前に決定された距離で配置されることを考慮して、1つ以上のピストンの移動による運動を受けるクランクシャフト2をハブ・シャフト75に連結するように構成される。ハブ・シャフト75は、その一方の遠位端部に、後輪105へと連結するピニオン76を備える。
【0026】
クランクシャフト2とハブ・シャフト75はどちらも、前輪および後輪の回転面によって画定される車両の正中面に対して垂直である。このタイプの変速機の使用は本明細書に示す2輪のスクータに限定されず、1対の前輪を備えるスクータ、または4つの車輪を備えるスクータに拡張されてもよいことが、さらに意図されている。
【0027】
図3およびそれに続く図を参照すると、変速機は、本明細書では全体として1で示されており、クランク3を備えたクランクシャフト2を備え、クランク3には、図示されていないピストンによる運動を受け取る連結ロッド4が連結される。しかし、こうした変速機は、いくつかのシリンダをもつエンジンにも適用され得ることを意図している。
【0028】
クランクシャフト2はクランクの両側から延在し、すなわち、変速機とは逆の方向では、クランクシャフトは、一例として、限定はされないがハイブリッド・タイプの動作の場合には電気エンジン発電機に、また冷却弁に連結されることになる。
【0029】
変速機の方向には、クランクシャフトは起動遠心クラッチ5を備え、これは停止状態からの車両の起動を管理するのに有用である。
【0030】
実際、クランクシャフト2が回転すると、このシャフトの小さいハブ6、およびそこに連結された分銅軸受プレート7が回転し、これにより2つのクラッチ分銅8(
図8)が回転し、これにより、2つのクラッチ分銅8は、そこに作用する遠心力の効果により、クラッチばね9にとは反対に、そこから離れるように動く。
【0031】
クラッチがアイドル位置にあるとき、定められた回転状況に達すると、分銅8は、クランクシャフト2とハウジング10の間の回転を保証するために、その外周部に配置された摩擦材料を介して、クラッチ軸受12に組み付けられたブッシング11に堅く噛み合わせられた(keyed)第1のクラッチ・ハウジング10へと運動を伝達する。
【0032】
さらに、駆動プーリ13がブッシング11上に配置され、このプーリは、ブッシング11の遠位端部を囲み、そこに堅く噛み合わせられる。駆動プーリ13(
図7)は可動連結要素14を有し、この可動連結要素14は王冠状の形状であり、駆動プーリ13の内部に、すなわちプーリ13とブッシング11の間に挿入され、シャフト2の遠位端部に対して摺動することができる。可動連結要素14は、駆動プーリ13と可動王冠部14の遠位端部の間に配置されたプリロードばね15とは逆に自由に並進するように、シャフト2の遠位端部の周りに摺動可能に設けられる。
【0033】
クランクシャフト2の遠位端部には、代わりにそこに一体になった固定連結要素77が提供され、前記可動連結要素14は、この固定連結要素77に対して摺動する。
【0034】
これら2つの可動連結要素と固定連結要素は、遠心クラッチ5を除外することによって駆動プーリ13をクランクシャフト2に直接連結するように係合および係合解除するように摺動式かつ軸方向に制御され得、これらは、この変速機の遠心クラッチを除外する機能を備えた、クランクシャフト2と駆動プーリの間の連結部を構成する。
【0035】
固定連結要素77は、半径方向に外側へ突出する第1の軸方向歯部78を有し、可動連結要素14は、半径方向にその内側へ突出して前記第1の軸方向歯部77と連結するものである第2の軸方向歯部79と、半径方向に外側へ突出する第3の軸方向歯部21(
図9)の両方を有する。
【0036】
軸方向歯部においては、歯部とは、その歯が、属している要素の軸方向にしたがって延在しており、軸方向に摺動することにより、相補的な軸方向歯部の歯と連結するように構成されていることを意味する。
【0037】
駆動プーリ13は第4の軸方向歯部22を有し、これは可動連結要素14の前記第3の軸方向歯部21に連結するものである。駆動プーリ13は、その辺縁部に載置されて駆動プーリ13の外側にそれと同軸に突出するカップ形状の要素16を有し、このカップ形状の要素16は、この方向に押し進められた場合、第2の軸方向歯部79および第3の軸方向歯部21を、それぞれ第1の軸方向歯部78および第4の軸方向歯部22に対して摺動させることにより、可動連結要素14を押し進めることができる。
【0038】
カップ形状の要素16は、第1の作動ボタン16、または係合ボタンとして機能する。
【0039】
この構成は、第1の作動ボタン16に圧力が加えられていないとき、可動連結要素14が、プリロードばね15の力によって押し進められてブッシング11から離れるように動くことにより、クランクシャフト2に対して同軸に並進するような構成である。こうした並進により、クランクシャフト2に一体化している固定連結要素77の第1の歯部78と可動連結要素14の第2の歯部79との連結が決定し、一方、可動連結要素14の第3の軸方向歯部21と駆動プーリ13の第4の軸方向歯部22とは常に互いに係合しているが、これらはプリズム状の連結部を実装することにより、可動連結要素14が駆動プーリ13に対して摺動することを可能にする。
【0040】
したがって、第1の作動ボタン16を自由なままにしておくことにより、クランクシャフト2、固定連結要素77、(第1の軸方向歯部78および第2の軸方向歯部79による)可動連結要素14、および(第3の歯部21および第4の歯部22による)駆動プーリ13の間の直接的な機械的連結が決定し、こうした動作条件の下では、駆動プーリ13は、クランクシャフト2がどのような回転状況であっても、すなわち、遠心クラッチ5がどのような動作状態であっても、クランクシャフト2によって回転される。
【0041】
この動作状態では、ブッシング11が遠心クラッチ5による運動を受け取っていない場合であっても、ブッシング11さえもが駆動プーリ13によって回転される。すなわち、ブッシング11は、実際のところのその回転状況がクランクシャフト2の回転状況に等しい場合でも軸受12上で自由に回転することができるが、移行フェーズでのねじれは避けられる。逆に、遠心クラッチ5が係合した場合、その回転状況は、クランクシャフト2および駆動プーリ13の回転状況に等しくなる。
【0042】
本明細書において以下で明確に示されるように、この動作状態は、第2の速度、第3の速度、および第4の速度、すなわち第1の速度よりも速い任意の速度に対応し、この場合、クランクシャフト2の回転状況にかかわらず、したがって遠心クラッチ5の係合解除が決まることになる閾値を下回っていたとしても、駆動プーリ13が駆動輪105に運動を伝達することが望まれる。
【0043】
逆に、第1の作動ボタン16が押圧された場合、可動連結要素14は、第1の軸方向歯部78と第2の軸方向歯部79の係合を解除し、次いでクランクシャフト2から駆動プーリ13を係合解除することにより、プリロードばね15の作用とは反対に、ブッシング11の方向に押し進められる。この状態では、可動連結要素14は、遠心クラッチ5を介してブッシング11によって与えられた運動を受け取り、伝達することができる。実際、軸受12のおかげで、ブッシング11はクランクシャフト2から解放される。
【0044】
この状態は、第1の速度またはアイドル状態に対応し、クランクシャフト2の回転状況に応じて、遠心クラッチ5が第1の速度からアイドル状態への移行、およびその逆を決定する。
【0045】
したがって、要約すると、第1の速度では、クランクシャフト2の所定の回転状況を上回り遠心クラッチ5がそれ自体の係合を生じた場合に運動の伝達およびオートバイ100の起動を可能にすることにより、遠心クラッチは普通に動作する。
【0046】
第2の速度、およびそれに続く速度では、クランクシャフト2の回転状況にかかわらず、したがって遠心クラッチ5が係合しなくなる前記閾値を下回る場合でさえも、運動がクランクシャフト2によって駆動プーリ13へと直接伝達されるので、遠心クラッチ5は、実際には運動力学的連鎖から除外される。
【0047】
図7にはこの第2の状態が示してあり、ブッシング11の遠位端部と可動連結要素14の近位端部との間には間隙が存在する。
【0048】
駆動プーリ13は、代わりにクランクシャフト2から、後方ギアボックスの入力部を構成する被動プーリ17の軸へと運動を伝達するのに有用である。
【0049】
これら2つの駆動プーリ13および被動プーリ17は歯付きであり、これらは固定的な変速比で同期ベルト18によって連結される。変速性能を最適化するために、ベルト18の側部格納部(side containment)がこの駆動プーリ13にマウントされる(
図10)。
【0050】
この点に関して、第1の作動ボタン16、すなわち係合ボタンに圧力を加えるために、制御レバー20が提供される。
【0051】
したがって、第1の速度で起動する際、制御レバー20が動作し、第1の作動ボタン16を押し進め、したがって王冠状の可動連結要素14を押し進めて、第1の歯部78と第2の歯部79とを係合解除する。
【0052】
第2の速度以降では、レバー20は第1の作動ボタン16から遠ざかるように動き、介入しない位置で、いかなる圧力も加えない。
【0053】
これにより、CVTシステムを含め、自動遠心クラッチを備えたあらゆるシステムで不可能な手順である、クラッチ5を連結する際の回転状況よりも低いエンジン回転状況での走行という可能性が実現される。
【0054】
この点に関して、レバー20は押圧端部24を有し、これは変速機の固定部分に、したがってコンテナ109(
図4)に一体化された支点25に対して揺れ動いている。制御レバー20を作動させる方式は、以下で説明する。
【0055】
前に説明したように、環状ベルト18には歯が付いているので、駆動プーリ13に巻かれたこの環状ベルト18によって同期連結が実現され、このベルト18は、ベルト18の下方部分(
図10A)においてベルト18が形成する輪の外側に配置されて輪自体の内側に向かって押圧する、固定テンショナ30の存在を必要とする。
【0056】
このベルト18は、クランクシャフト2の軸から後輪105の領域に配置されたギアボックス入力部の軸へと運動を伝達するために必要とされる。
【0057】
変速比は固定されており、テンショナ30は、あらゆる使用条件の下で、一定の荷重を保たなければならない。
【0058】
既に強調したように、テンション装置30の有無にかかわらず実質的に同期するかまたはほぼ同期するいわゆる高変速性能ベルトが存在するので、ベルト18は必ずしも歯付きでなくてもよいことに留意されたい。
【0059】
テンション装置30(
図10)は、その中心締結部(central fastening)に偏心を有する。すなわち、テンション装置30は、変速機の固定部分に一体化された固定ピン31を有し、その上に、円形の周辺部を形成する、円形で偏心した支持要素32が組み付けられ、その上に、テンショナ軸受33が組み付けられ、その上に、その平滑な外周部35とベルト18の歯の外面36の間で圧力を加えるように位置決めされた押圧ホイール34が組み付けられる。
【0060】
固定ピン31は支持要素32に対して偏心して配置されており、したがって、組立て中に支持要素2を回転させることにより、ベルト18に荷重をかけることによってホイール34を動かすことが可能である。
【0061】
固定ピン31はねじタイプのものであり、締められると、支持要素32をその所望の動作位置にロックする。
【0062】
ゆるめられた場合、固定ピン31は、押圧ホイール34をベルト18から遠ざかるように動かすことにより、たとえば、そのライフ・サイクルの最後にそれを交換しやすくすることにより、支持要素32が再び回転することを可能にする。次いで、偏心支持要素32をその最大テンション位置に再配置すれば十分である。
【0063】
選択されたベルトに応じて、被動プーリ17も歯付きプーリであるか、または他のタイプのものである。被動プーリ17により、ベルト18から、速度シフトを実質的に実施する入力クラッチ40(
図11および
図12)へと運動が伝達される。
【0064】
入力クラッチ40はディスク・タイプのクラッチであり、被動プーリ17に連結された第2のクラッチ・ハウジング41を備える。入力クラッチ40により、ギアボックスの1次シャフト51に運動が伝達され、変速機1のカバー110のほうに向いた1次シャフト51の遠位端部は、クラッチ・ハブ42に連結される。
【0065】
第2のクラッチ・ハウジング41も、1対の第1のクラッチ軸受37を用いてギアボックスの1次シャフト51に組み付けられており、そのため、シャフト51の回転はクラッチ・ハウジングに影響を与えず、逆も同様である。
【0066】
ハウジング41の内部には、入力クラッチ40の2つのクラッチ・ディスクが含まれており、すなわち、より外側の第1のクラッチ・ディスク38はハウジング41に連結され、一方、第2のクラッチ・ディスク39は、より内側でハウジング41に向き合っている。第2のクラッチ・ディスク39は、内側ディスク押圧要素44に連結されかつそれに一体化されており、内側ディスク押圧要素44は、それが連結されているクラッチ・ハブ42を囲み、それを含む。内側ディスク押圧要素は、クラッチ・ディスク38、39を開閉させることにより、それらに対して軸方向に作用する。
【0067】
クラッチ・カバー26は、第1のクラッチ・ディスク38に連結され、このカバーは、第2のクラッチ・ハウジング41の中に含まれる空間を囲み、以下に説明するディスク押圧要素を支持する。
【0068】
この点に関して、クラッチばね46が、クラッチ・ハブ42と、クラッチ・ハブ42を覆ってその上に載る内側ディスク押圧要素45との間に位置決めされる。1次シャフト51の遠位端部では、したがってその回転中心では、外側ディスク押圧要素45が、第2のクラッチ軸受49に組み付けられた第2の作動ボタン48を備え、第2のクラッチ軸受49により、第2の作動ボタン48が外側ディスク押圧要素45の回転から解放される。
【0069】
第2の作動ボタン48には、入力クラッチ40の係合解除を決定する圧力を加えることができる。
【0070】
クラッチ・ディスク38、39は、普通、クラッチばね46の荷重の効果によって閉じている。したがって、運動は、被動プーリ17によってハウジング41へと、またディスク38、39へと伝達され、そこから2つのディスク押圧要素44、45へと、またクラッチ・ハブへと伝達され、次いで1次シャフト51へと伝達される。
【0071】
第2の作動ボタン48に圧力が加えられたとき、これにより、1次シャフト51の遠位端部に向かって外側ディスク押圧要素45が押し進められ、すなわち、内側ディスク押圧要素により、第2のクラッチ・ディスク39が第1のクラッチ・ディスク38から遠ざかるように動かされて、第2のクラッチ・ハウジング41とクラッチ・ハブ42との間の運動力学的な連続性が妨げられる。
【0072】
作動ボタンへの圧力はクラッチ・レバー47によって得られ、そのクラッチ支点27は、制御レバー20について説明したのと同様に、変速機1の固定部分、すなわちコンテナ109または変速機カバー110に連結される。
【0073】
クラッチ・レバー47は、押圧動作端部28を介して圧力を加え、この圧力は、クラッチ40のドラッグ荷重(dragging load)を定めるクラッチばね46の荷重に対抗する。
【0074】
クラッチ・レバー47の作動は、ここでは、この説明において以下でより詳細に説明する。
【0075】
図23および
図24を参照すると、入力クラッチ40では、入力クラッチ40とクラッチ・レバー47の間で、その押圧動作端部28と外側ディスク押圧要素45に連結された第2の作動ボタン48との間のクリアランスの調整が可能になっている。
【0076】
こうした調整はクリアランス調整要素90によって得られ、このクリアランス調整要素90により、定められた組立てクリアランスを調整すること、また場合によってはメンテナンス時に調節可能にすることが可能になる。こうした調整により、アクチュエータとクラッチ自体との間のタイミングが変わる可能性のある、起こり得る摩耗が発生したときには、また許容差のために、組立てクリアランスをゼロに設定することが可能になる。この介入点が調整されると、この介入点は、以下に説明する各速度を作動させる装置の動作が、作動クリアランスの許容差によって提供されるマージンを用いて、同じやり方で常に同期され、段階的に実施されることになるのに従う。
【0077】
クリアランス調整要素90は、ねじが切られた穴43のところで前記動作端部28に組み付けられるロッキング・ナット29を提供し、これは、前記ナット29および前記穴43に挿入される調整ねじ92を組み付けるのに有用である。
【0078】
調整ねじ92の軸方向位置は、適したレンチを用いて単にその頭部93に作用して、所望のクリアランスを調節することによって動作端部28の現れ方を調整することによって動かすことができる。
【0079】
実際、調整ねじ92の軸方向位置を変動させることにより、第2のクラッチ軸受49(
図24)に組み付けられた第2の作動ボタン48に干渉するその載置末端部94が並進する。
【0080】
入力クラッチ40は機械的ギアホイール変速機50を駆動するように構成され、その比の数は限定されない。以下に説明する方式では、4つの比が提供される。
【0081】
使用されているギアボックスの方式では、1次軸および2つの2次軸、ならびに最後のハブ・シャフト、すなわちホイール軸が提供される。この方式は、軸方向のコンパクトさ、および比の管理に自由度があることにより、スクータに適用されるタイプでは最も適した方式である可能性がある。
【0082】
したがって、ギアボックス50は、1次シャフト51に運動を伝達する入力クラッチ40を参照して既に述べた、クラッチ・ハブ42に連結される入力ギアホイール60を備えた1次シャフト51と、直径が異なる第1の運動歯車61および第3の運動歯車63を用いた第1の速度および第3の速度に対応付けられ、後方駆動輪105に連結されたハブ・シャフト75に係合するそれぞれの第1の出力ギアホイール71を備える、第1の2次シャフト52と、第2の運動歯車62および第4の運動歯車64を用いた第2の速度および第4の速度のためのものであり、後方駆動輪105に連結されたハブ・シャフト75と係合する出力ギアホイール72を備える、第2の2次シャフト53と、最後に、大きい直径を有してハブ・シャフト75の変速比を追加で減速させる出力歯車73を支持する、既に述べたハブ・シャフト75とを備える。
【0083】
それぞれ第1の速度、第2の速度、第3の速度、および第4の速度の、上記の歯車61、62、63および64は、固定された所定の軸方向位置にとどまって各2次シャフト52、53に対して回転することができるように、各2次シャフト52、53に自由な状態で組み付けられる。歯車61、62、63および64は、それぞれ第1の運動ピニオン54、第2の運動ピニオン55、第3の運動ピニオン56、および第4の運動ピニオン57に係合する。これらのピニオンは、1次シャフト51に固定的に一体化されるように配置されて、2つの2次シャフト52、53の各歯車61、62、63および64の直径が互いに異なることにより、また1次シャフト51(
図13B)のピニオン54、55、56および57の直径が互いに異なることにより第1の速度から第4の速度へと小さくなる変速比で、第1の速度(第1の2次シャフト52の第1の歯車61および1次シャフト51の第1のピニオン54)、第2の速度(第2の2次シャフト53の第2の歯車62および1次シャフト51の第2のピニオン55)、第3の速度(第1の2次シャフト52の第3の歯車63および1次シャフト51の第3のピニオン56)、および第4の速度(第2の2次シャフト53の第4の歯車64および1次シャフト51の第4のピニオン57)を伝達する。
【0084】
歯車61、62、63および64が係合していないとき、歯車61、62、63および64は、それら自体の2次シャフト52、53に運動を伝達することなしに、ピニオン54、55、56および57に引きずられて回転することが意図されている。
【0085】
この点に関して、それぞれの第1の摺動連結部65および第2の摺動連結部66が各2次シャフト52、53に対して作用し、これら連結部は、対応する第1の連結フォーク67および第2の連結フォーク68により、2次シャフト52、53に対する軸方向の並進を制御される。
【0086】
摺動連結部65、66は、各2次シャフト52、53の周りに配置されるそれら自体の各内側王冠部上に、各2次シャフト52、53に形成された対応するスプラインと係合する第1のスプライン連結部131および第2のスプライン連結部132(
図14C)をそれぞれ有するホイールである。前記摺動連結部65、66は、それらの連結フォーク67、68に対して自由に回転することが意図されている。
【0087】
連結フォーク67、68には、デスモドロミック・ドラム70によって動かされるされるカム移動端部69が備えられ、このデスモドロミック・ドラム70は、円筒形表面79を有し、その上に単一のデスモドロミック・トラック19が形成される。
【0088】
第1の摺動連結部65は、第1の歯車61の方向および第3の歯車63の方向にそれぞれ軸方向に突出する第1の連結ピン133および第2の連結ピン134を、その両側に有する。
【0089】
同様に、第2の摺動連結部66は、第2の歯車62の方向および第4の歯車64の方向にそれぞれ軸方向に突出する第3の連結ピン135および第4の連結ピン136を、その両側に有する。
【0090】
各摺動連結部65、66が軸方向に摺動運動した場合、ピン133、134、135および136は、それらが向き合っている歯車61、62、63および64に係合することが意図されており、後者の歯車は、それぞれ第1の連結凹部137、第2の連結凹部138、第3の連結凹部139、および第4の連結凹部140を有する。
【0091】
本明細書に記載の動作原理によれば、連結フォーク67、68のカム・フォロア端部69は、その回転中、デスモドロミック・ドラム70に実装されたトラック19によって定められる経路に従うように制約される。
【0092】
選択すべきギアホイールに応じて変動する角度量を回転するデスモドロミック・ドラム70が作動すると、フォーク67、68が軸方向に並進する。
【0093】
2つのフォーク67、68のそれぞれは、ギアボックスの各2次シャフトにつき1つである選択要素65、66に連結され、この選択要素65、66は、溝プロファイル131、132によってそれ自体のシャフトに噛み合わされる。連結部に溝プロファイルを取り入れることにより、回転運動を伝達することが可能になり、同時に、選択要素を軸方向に並進させることが可能になる。
【0094】
各選択要素の各面には、具体的には4つの凸部が提供され、これらの凸部は、ギアボックスの2つの2次シャフトに組み付けられる各歯車に適当に実装された対応する凹部に挿入するのに適当な形状にされる。2つの2次シャフトは、以下のように、すなわち一方のシャフトが第1の速度および第3の速度、他方のシャフトが第2の速度および第4の速度になるように分けられる。
【0095】
毎回、選択されたギアホイールに応じて、選択要素は一方の側に、または他方の側に動くことになる。各ギアホイールがシフトする際、関係しているギアホイールを係合または係合解除することにより、両方の選択要素が動くことになる。
【0096】
たとえば、第1の比から第2の比へと速度が移行する際、ギアボックスの2つの2次シャフトのうちの第1の2次シャフトに配置される選択要素65は係合位置からニュートラル位置へと動くことになり、同時に、ギアボックスの第2の2次シャフトに組み付けられた選択要素66は、第2の速度に関連する歯車62をそれ自体の2次シャフトに噛み合わせることにより、ニュートラル位置から係合位置へと動くことになり、すなわち、選択要素の凸部は、第2の速度の歯車に実装された凹部に入ることになる。
【0097】
述べたように、各選択要素の作動は同時的かつ鏡のよう(specular)であるので、4つのすべての速度を作動させることができる単一のトラックを備えたデスモドロミック・ドラムを実装することが可能である。これらすべてが、この解決法のレイアウトが単純になり、実装が安価になるという利点になる。
【0098】
連結フォーク67、68は互いに同一であり、対称な面を有し、またそれらは一方を他方に対して180°だけ回転したものであり、これにより構造の単純さが増すということに留意されたい。摺動連結部65、66も互いに等しい。
【0099】
デスモドロミック・トラック19のプロファイルが
図14Bに示してあり、S1は、第1の2次シャフト52に作用する第1の連結フォーク67の視点からのトラック19を表現したものを示しており、S2は、第2の2次シャフト53に作用する第2の連結フォーク68の視点からのトラック19を表現したものを示している。
【0100】
C1およびC2はそれぞれ、クラッチ・レバー47および制御レバー20をそれぞれ制御する、以下により詳細に説明するカムのプロファイルを示している。
【0101】
1a、2a、3aおよび4aは、第1のギアホイールから第4のギアホイールまでのギアホイールの係合を示し、Fはアイドル状態を示し、アイドル状態の場合、被動プーリ17から1次シャフト51への、同期装置40(
図14B)を介した運動の伝達は発生しない。
【0102】
この実施形態の例では、トラック経路S1およびS2は、それぞれが90°の幅をもつ第4の区域に分割される、単一の周辺トラック19から形成される。
【0103】
したがって、この単一の周辺トラック19は、中央部が対向した2つの区域を備え、これらはニュートラル周辺部に続いており、2つの対向区域は互い違いに配置されており、2つの中央区域に対して、やはり周辺部コースが存在する。こうした区域は、各ランプ部によって互いの間を連結されている。
【0104】
具体的には、各ランプ部は上昇区域、上昇区域の最高点から延在する直線区域、および直線区域から延在する下降区域を備え、上昇区域、直線区域、および下降区域は、実質的に台形のプロファイルを画定する。
【0105】
トラックS1およびS2から、ギアホイールの係合を決定する、各2次シャフト52、53に対する摺動連結部65、66の並進が推定される。各ギアホイールの係合は、アイドル状態によって交互になる。
【0106】
図14Bを参照すると、対応するカム・フォロア端部69が、第1の歯車61および第3の歯車63の方向にそのカム・フォロア端部69を動かす、トラック19の互い違い区域に移動したとき、第1の摺動連結部65および各第1の連結フォーク67は、軸方向に並進する。逆に、このカム・フォロア端部69が中央の区域にあるとき、第1の2次シャフト52は運動を伝達しない。
【0107】
同様に、第2の摺動連結部66および各第2の連結フォーク68が軸方向に並進するとき、対応するカム・フォロア端部69は、第2の歯車62および第4の歯車64の方向にそのカム・フォロア端部69を動かす、トラック19の互い違い区域に移動する。そうではなく、このカム・フォロア端部69が中央の区域にあるとき、第2の2次シャフト53は運動を伝達しない。
【0108】
この例では、連結フォーク67、68の各カム・フォロア端部69は、デスモドロミック・ドラム上で90°の円弧だけ間隔をあけて配置される。
【0109】
ハブ・シャフト75、2つの2次シャフト52、53、および1次シャフト51は、後輪105においてひとまとめにされる、互いに平行な軸を有することに留意されたい。
【0110】
デスモドロミック・ドラム70の回転軸も、前に述べた各シャフトの軸に平行である。
【0111】
これ以降より詳細に説明するように、デスモドロミック・ドラム70は、以下に説明するアクチュエータ80によって作動される。
【0112】
この使用されるギアボックス方式により、図を参照して説明される、いくつかの考えられる変形形態が提供される(
図14Aを参照)。
【0113】
方式A:一定デルタ回転比スケール(constant delta revolution ratio scale)をもつ4つの比。これは最も単純で最も小型の解決法である。これは第1の2次シャフトと第2の2次シャフトの間の2対の同一のギアホイールに、互いに同一な2つの摺動連結部および連結フォーク、ならびにギアホイールを定めるための、デスモドロミック・ドラム上の単一のトラックを提供する。
【0114】
方式B:これは本明細書に記載の実施形態の例に関連して示した解決法であり、これは、累進的な(progressive)デルタ回転比スケールをもつ4つの比を提供する。この解決法は、第1の2次シャフトと第2の2次シャフトの間の同一の1対の(第1および第2の)ギアホイール;互いに同一な2つの摺動連結部および2つの連結フォーク、ならびにギアホイールを定めるための、デスモドロミック・ドラム上の単一のトラックを提供する。
【0115】
方式C:一定デルタ回転およびダブル・クラッチをもつ4つの比を備えた解決法:この考えられる変形形態は、ギアホイールをシフトするために、ダブル・クラッチの使用を可能にし、これは、ギアホイール間で、一方のギアホイールから他方のギアホイールへとトルク穴なしで移るために有用であり得る。これは、互いに同一な2つの摺動連結部および2つの連結フォーク、ならびに単一のデスモドロミック・ドラムの円筒形表面に実装される、2つの別個のトラックを提供する。
【0116】
方式D:6つの累進的なデルタ回転比を備えた解決法。この変形形態は、6つの速度を採用することを可能にする。一定の、または累進的なデルタ回転比において、同じ方式が提案され得る。
【0117】
作動の各方式から明らかに生じるように、前に述べた幾何形状の効果により、2次シャフト(S1およびS2)の2つのトラックは同一になるが、90°だけずらされることになり、これは使用されるギアボックス方式によるものである。したがって、デスモドロミック・ドラム70の、90°だけずらされたデスモドロミック・トラック19に2つの連結フォーク67、68を位置決めすることにより、互いに等しい2つの連結フォーク67、68、およびデスモドロミック・ドラム70上の単一のトラックを有する可能性が得られ、構造的な便利さが高まる。
【0118】
電気機械的アクチュエータ80は、各ギアホイールのシフト手順において、専用のクラッチ・レバー47を用いて後方クラッチを開き、動作中のギアホイールを係合解除して後のギアホイールまたは前のギアホイールを係合させることによって2つの連結フォーク67、68を動かし、クラッチ40を再び閉じることを定めるという目的をもつ。さらに、アクチュエータ80は、第1の速度では前方の遠心クラッチ5の制御レバー20を作動させるように構成される。このように、回転する単一の電気エンジンを使用することにより、これらすべての手順が同期される。
【0119】
電気機械的アクチュエータ80は、両方の回転方向にしたがってモータ軸を回転させるために制御ユニットによって適当に給電される回転電気モータ81を備える。電気モータの回転軸は、1次シャフト51、2次シャフト52および53、ならびにハブ・シャフト75の軸に対して垂直であることに留意されたい。
【0120】
電気モータ81の回転出力に関しては、モータから出て行く変速比を小さくするために1対のギアホイール82、83が提供され、これらギアホイールは平行な軸を有し、精度をより高めクリアランスの影響をより小さくすることを可能にする不可逆的なタイプの係合を用いて、第1のアクチュエータ・シャフト84を制御する。アクチュエータ・シャフト84の両端部は、第1のアクチュエータ軸受95によって支持される。第1のアクチュエータ・シャフト84の軸も、1次シャフト51、2次シャフト52および53、ならびにハブ・シャフト75の軸に対して垂直であり、これにより、全体的な寸法を小さくすることが可能になる。
【0121】
第1のアクチュエータ・シャフト84はアクチュエータ・ピニオン96に係合し、このアクチュエータ・ピニオン96は、前のアクチュエータ・シャフトに対して垂直でありしたがって1次シャフト51、2次シャフト52および53、ならびにハブ・シャフト75の軸に対して平行な第2のアクチュエータ・シャフト85を、適した減速比で制御する。
【0122】
第2のアクチュエータ・シャフト85は、アクチュエータ・ピニオン96の両側に延在して、前に説明したデスモドロミック・ドラム70と、クラッチ・レバー47および制御レバー20を作動させるカム・セットの両方を制御し、1対の第2のアクチュエータ軸受97が、カム・セットの側に配置される。
【0123】
デスモドロミック・ドラム70は、変速機1の、内燃機関および後輪に対応する側にある。前記カム・システムは、前記レバー20、47とともに、変速機1の、カバー110によって覆われた側にあり、そこには同期装置40も存在する。
【0124】
デスモドロミック・ドラム70は、第2のアクチュエータ・シャフト85に直接噛み合わされた第1のアクチュエータ歯車98によって制御される。第1のアクチュエータ歯車98は、アクチュエータ80とギアボックス50の間に位置決めされた第2のアクチュエータ歯車58に係合し、これは、デスモドロミック・ドラム80の基部に締結されしたがって適当に回転される第3のアクチュエータ・シャフト59の回転を直接的に制御する。
【0125】
この例では、第2のアクチュエータ・シャフト85と第3のアクチュエータ・シャフト59の変速比は1:1であり、したがって、デスモドロミック・ドラム70の、したがってギアホイール・シフト(
図14B)の90°の回転角度は、第1の(または第2の)アクチュエータ・ホイール98の90°の回転角度に対応する。これは、4つの速度のギアボックスの場合である。
【0126】
したがって、精密なギアホイールの係合が、90°だけずれた、第1のアクチュエータ歯車98の各位置に対応する。この点に関して、次いで、アクチュエータ80の回転によって決まる係合したギアホイールを示すフィードバック信号を提供することが考えられる。
【0127】
したがって、第1のアクチュエータ歯車98は、90°である円弧の単一周辺部において間隔をあけて交互に配置された、複数の磁石119Nおよび119S、具体的には4つの(各極性につき2つの)磁石を備える。
【0128】
速度が3つの解決法では、3つの磁石で十分であり得ることが意図されている。磁石119Nおよび119Sは、ホイール98の、第2のアクチュエータ・シャフト85に連結される側に配置される。
【0129】
この側には、第2のアクチュエータ・シャフト85の範囲全体に延在するアクチュエータ・ケーシング99の内側に、磁石119に対応した周辺部に配置され90°の円弧だけ隔てられた1対のホール・センサ121を備える検出カード120が存在する。
【0130】
アクチュエータ・ケーシング99(
図18)は、変速機のコンテナ109、ならびにカード120と一体化され、カード120は、コネクタ122(
図22)を用いて前記フィードバック信号を受ける制御ユニットに接続される。カード120は、そこに割り当てられた他の機能を実施する他のチップも備える。
【0131】
ホール・センサ121のそれぞれが、近くを通過する磁石119の極性にしたがって、異なる極性をもつピーク信号を生成するので、ホール・センサ121は、第1のアクチュエータ歯車85の磁石の極性を検出することができる。Nに対応する信号を0に変換し、Sに対応する信号を1に変換する(またはこの逆に変換する)ことにより、1対のセンサ121は、全体として4つの別個の値とみなすことができる、
図22の表によるバイナリ信号(N-N;N-S;S-S、S-N)を提供し、そのそれぞれが、1つの速度に対応することになる。
【0132】
完全にパッシブであり、同期装置のカム・アクチュエータの回転のみに依存するこのやり方では、係合されたギアホイールを表す信号を生成することが可能であり、この信号は、任意の目的で使用することができる。具体的には、この信号は、1つ以上の制御ユニットに対し、実際に係合しているギアホイールを示すことができる。
【0133】
アクチュエータ・ピニオン84の他方の側では、アクチュエータ・ピニオン84に隣り合って配置された第1のカム・ディスク88の周辺部に形成される第1のカム87を備えたカム・セット86が、第2のアクチュエータ・シャフト85の端部に存在する。
【0134】
第1のカム87は、半径方向と軸方向の両方に固定されており、すなわち、第1のカム87は、それを閉じ込めているアクチュエータ・ケーシング99に対して動くことができない。
【0135】
こうした第1のカム87のカム・プロファイルは、それぞれが90°だけ間隔をあけて配置された4つの頂部および4つの谷部を有し、谷部は、第1の速度から第4の速度までの各速度に対応し、そこに、第1のアクチュエータ歯車98の磁石119が同様に対応することになる。簡単に理解されるように、頂部は、代わりにアイドル位置F(
図14B)に対応する。
【0136】
カム・セット86は、第2のアクチュエータ・シャフト85の上に配置されたカム・フォロア・ブッシング123を有するカム・フォロア89をさらに備え、これは、回転という観点ではそこに拘束されているが、プリズム状の対を形成する、図示されていない1つ以上の軸方向リブがあるので、第2のアクチュエータ・シャフト85に沿って軸方向に動くことができる。
【0137】
カム・フォロア89は、2つの対向する面を有する第2のカム・ディスク126をさらに備え、これらの面の一方は、第1のカム87のほうに向き、第1のカム87のプロファイルに類似したカム・プロファイルを有するが、それは鏡のようになっており、すなわち、このカム・プロファイルは、それぞれが90°だけ間隔をあけて配置された4つの頂部および4つの谷部を有し、谷部は、第1の速度から第4の速度までの各速度に対応し、そこに、第1のアクチュエータ歯車98の磁石119が同様に対応することになる。簡単に理解されるように、頂部は、代わりにアイドル位置F(
図14B)に対応する。
【0138】
したがって、入力クラッチ40の第2の作動ボタン48を押圧して被動プーリ17から1次シャフト51への運動の伝達を妨げ、それと同時にデスモドロミック・ドラム70の回転を介してギアボックス50の摺動連結部65、66に作用することによってアイドル状態Fを得ることが必要なとき、カム・フォロア89は、アクチュエータ・ピニオン84から遠ざかるように動く。
【0139】
同様に、任意の速度が入ったとき、すなわち、第2の作動ボタン48を押圧する必要がなく、それにより被動プーリ17から1次シャフト51への運動の伝達が可能になるとき、カム・フォロア89は、アクチュエータ・ピニオン84に近づく。
【0140】
このように近づき、または戻るためには、従来のタイプの戻り機構を、たとえばクラッチ・レバー47に配置することが必要になることになる。
【0141】
第2の作動ボタン48への前記圧力を得るために、第2のカム・ディスク126の、カム・フォロアのプロファイルとは逆の面では、カム・フォロアは、第2のアクチュエータ・シャフト85の拡張部に相当するが第1のカム87とカム・フォロア89の相互作用に応じて交互になる運動で動くことができる、作動凸部127を有する。
【0142】
作動凸部127は、各ギアホイール・シフトに際してクラッチ・レバー47を揺り動かすことにより、第2の押圧端部28の反対側の、クラッチ・レバー47の作動端部125に直接的に作用し、それにより、アイドル状態F、およびデスモドロミック・ドラム70を介して駆動されるギアホイール・シフトが決まる。
【0143】
この揺動は、
図14BのトラックC1によって表されている。
【0144】
さらに、第2のカム・ディスク126の、カム・フォロアのプロファイルとは反対側の面において、第2のカム・ディスク126は、こうした面上に第2のカム128を決定する、追加のカム・プロファイルを有する。こうしたプロファイルは、第1のギアホイールの係合に対応する凸部を有し、この凸部は、制御レバー20を揺り動かすことにより、第1の押圧端部24の反対側の、制御レバー20の作動端部124に作用し、次いで、制御レバー20が、やはり作動ボタンとして作用して、第1の作動ボタン16に対して作用することができ、このことにより、前に述べたように第1の速度においてのみであるが、クランクシャフト2上で、遠心クラッチ5を効果的に係合解除することが可能になる。
【0145】
この揺動は、
図14BのトラックC2によって表されている。
【0146】
発生し得る追加の必要性を満たすために、当業者は、上記の同期変速機に対し、いくつかの追加の修正および変更を加えることができるが、そのすべては、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の保護範囲に含まれる。