(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂用芯鞘複合糸及びこれを使用した繊維強化樹脂
(51)【国際特許分類】
D02G 3/38 20060101AFI20220815BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20220815BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20220815BHJP
D02G 3/44 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
D02G3/38
B29B11/16
D02G3/04
D02G3/44
(21)【出願番号】P 2019529095
(86)(22)【出願日】2018-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2018025499
(87)【国際公開番号】W WO2019013091
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2017134852
(32)【優先日】2017-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 明
(72)【発明者】
【氏名】横田 博
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/097666(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038445(WO,A1)
【文献】特開2008-240193(JP,A)
【文献】特開2003-055850(JP,A)
【文献】国際公開第2009/131149(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸と被覆糸を含む繊維強化樹脂用芯鞘複合糸であって、
前記芯糸は強度:14cN/decitex以上、弾性率:300cN/decitex以上のスーパー繊維糸であり、
前記被覆糸は炭素繊維糸、ガラス繊維糸、アラミド繊維糸及び高強度ポリエチレン繊維糸から選ばれる少なくとも一つであり、
前記被覆糸は、少なくとも1本の長繊維糸で前記芯糸の周囲を巻回被覆して
おり、
前記被覆糸の外側にさらに保護糸が撚られており、前記保護糸はポリエステル糸、ナイロン糸、ポリプロピレン糸及び前記スーパー繊維糸から選ばれる少なくとも一つの繊維糸であることを特徴とする繊維強化樹脂用芯鞘複合糸。
【請求項2】
前記被覆糸は、巻回方向の異なる少なくも2本の糸で芯糸の周囲を巻回被覆している請求項1に記載の繊維強化樹脂用芯鞘複合糸。
【請求項3】
前記スーパー繊維糸は、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維糸である請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂用芯鞘複合糸。
【請求項4】
前記芯糸は1本又は複数本である請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化樹脂用芯鞘複合糸。
【請求項5】
前記芯糸に対する被覆糸1本あたりの巻き付け数は100~1500回/mである請求項1~
4のいずれかに記載の繊維強化樹脂用芯鞘複合糸。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の芯鞘複合糸を含む繊維強化樹脂用であって、
前記芯鞘複合糸をマトリックス樹脂と一体成形するか、又は前記芯鞘複合糸を含む繊維構造物をマトリックス樹脂と一体成形したことにより、衝撃エネルギー吸収性を有することを特徴とする繊維強化樹脂。
【請求項7】
前記繊維構造物が、前記芯鞘複合糸を一方向に揃えたスダレ状基材、前記芯鞘複合糸を緯糸及び経糸から選ばれる少なくとも一方の糸とした織物、前記芯鞘複合糸を含む編物、前記芯鞘複合糸を含む組物及び前記芯鞘複合糸を含む多軸挿入たて編物から選ばれる少なくとも一つである請求項
6に記載の繊維強化樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃エネルギー吸収性を有する繊維強化樹脂用芯鞘複合糸及びこれを使用した繊維強化樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の繊維強化プラスチック(FRP)は高強度繊維で熱硬化プラスチック材料を補強したFRPは、軽量で高強度、高弾性率という特徴を持ち、鉄やアルミニウムの代替材料として期待されてきた。この特徴を生かし航空機や自動車の材料として使用されてきている。これとは別に金属代替を目指すよりも軽量性に着目し、長さ5cm程度にカットしたガラス繊維束を一定目付になるようにランダムに配置させたマット材にポリエステル樹脂を含浸させた基材であるSMC(Sheet Molding Compound)があり、SMCを金型に入れ加熱プレスすることで成形するものもある。この例としてはバスタブがある。この場合は不連続繊維なので形状の自由度を特徴としている。これらのFRPは高強度、高弾性率、軽量性といった特徴を生かしたものだが、許容以上の過大な荷重が作用すると脆性的に破壊するという問題がある。これに比べて金属では延性変形域が存在し、脆性的な破壊の前に変形域が存在する。このような衝撃エネルギーの問題を解決するため、特許文献1にはFRPの内層と外層の伸度を特定な関係とする提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術は、衝撃エネルギーの問題を解決するにはいまだ不十分であり、さらなる改善が求められていた。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、衝撃エネルギー吸収性の高い繊維強化樹脂用芯鞘複合糸及びこれを使用した繊維強化樹脂を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維強化樹脂用芯鞘複合糸は、芯糸と被覆糸を含む繊維強化樹脂用芯鞘複合糸であって、前記芯糸は強度:14cN/decitex以上、弾性率:300cN/decitex以上のスーパー繊維糸であり、前記被覆糸は炭素繊維糸、ガラス繊維糸、アラミド繊維糸及び高強度ポリエチレン繊維糸から選ばれる少なくとも一つであり、前記被覆糸は、少なくとも1本の長繊維糸で前記芯糸の周囲を巻回被覆しており、前記被覆糸の外側にさらに保護糸が撚られており、前記保護糸はポリエステル糸、ナイロン糸、ポリプロピレン糸及び前記スーパー繊維糸から選ばれる少なくとも一つの繊維糸であることを特徴とする。
【0007】
本発明の繊維強化樹脂は、前記の芯鞘複合糸を含む繊維強化樹脂であって、前記芯鞘複合糸をマトリックス樹脂と一体成形するか、又は前記芯鞘複合糸を含む繊維構造物をマトリックス樹脂と一体成形したことにより、衝撃エネルギー吸収性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の芯鞘複合糸は、芯糸と被覆糸を含み、衝撃エネルギー吸収材料に使用する芯鞘複合糸であって、前記芯糸は強度:14cN/decitex以上、弾性率:300cN/decitex以上のスーパー繊維糸であり、前記被覆糸は炭素繊維糸、ガラス繊維糸、アラミド繊維糸及び高強度ポリエチレン繊維糸から選ばれる少なくとも一つであり、前記被覆糸は、少なくとも1本の長繊維糸で前記芯糸の周囲を巻回被覆していることにより、マトリックス樹脂と一体成形して強化基材とすれば、衝撃エネルギーが加わったときに芯糸が破断しても鞘糸がコイルのように変形することで延伸変形でき、衝撃エネルギー吸収性の高い繊維強化樹脂用芯鞘複合糸及びこれを使用した繊維強化樹脂を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態の芯鞘複合糸の模式的斜視図である。
【
図2】
図2は同、芯鞘複合糸を緯糸に使用した織物の模式的斜視図である。
【
図3】
図3Aは同、複数枚積層した織物の模式的斜視図、
図3Bは同、複数枚積層した織物とマトリックス樹脂を一体化した繊維強化樹脂シートの模式的斜視図である。
【
図4】
図4は同、衝撃エネルギーの吸収量を測定するパンクチャ―衝撃試験装置の模式的説明である。
【
図5】
図5は同、パンクチャ―衝撃試験測定データのグラフの説明図である。
【
図6】
図6は本発明の実施例1のパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフである。
【
図7】
図7は本発明の実施例2のパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフである。
【
図8】
図8は本発明の実施例3のパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフである。
【
図9】
図9は比較例1のパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフである。
【
図10】
図10は比較例2のパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフである。
【
図11】
図11は比較例3のパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフである。
【
図12】
図12は比較例4のパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフである。
【
図13】
図13は比較例5のパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフである。
【
図14】
図14は本発明の各実施例と各比較例のパンクチャ―衝撃試験の亀裂進展エネルギーの比較グラフである。
【
図15】
図15は本発明の別の実施形態の芯鞘複合糸に保護糸を付与した模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、FRPを構成する強化繊維に破断後もエネルギーを吸収できるような構造を持たせれば良いと考えた。またFRP内部でらせん状の複合糸が破断せずに伸びることでエネルギーを吸収できれば、脆性的な構造物にFRPを貼り付けることで衝撃エネルギーによる脆性破壊を防げると考えた。それには、従来のFRPの強化繊維のように直線的に用いるだけでなく、屈曲させることが必要である。これらの構造を実現させるため、芯糸の周囲に高強度繊維をコイル状に巻き付けた構造を着想した。これを実現させる手段として従来からあるカバリングマシンを利用することにした。糸の構造を
図1に示す。このような構造の糸(芯鞘複合糸)を用いて平面を構成したものを強化基材とすれば、衝撃エネルギーが加わったときに芯糸が破断しても鞘糸がコイルのように変形することで延伸変形できると考えた。このような変形を実現させるため、マトリックス樹脂には衝撃エネルギーにより脆性破壊することのなく変形できる弾性系樹脂を用いることも有効である。非弾性系樹脂の場合は、鞘糸が樹脂の脆性破壊時に一緒に破壊してコイルが伸びるという効果が得られないと考えられる。芯糸には目的により選定することができる。つまり衝撃荷重が最大になるまでの衝撃エネルギー吸収も効果的にするには有機繊維を選択すれば良い。最大荷重までは芯糸が働くからである。これとは違って、最大荷重後の亀裂進展時の衝撃エネルギーの吸収のみを得るには芯糸は強度の低い糸でよい。例えばナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンなどの汎用化学繊維である。またこのような糸を用いて基材を形成するには織物構造が良い。織物構造により衝撃エネルギーを吸収できるからである。
【0011】
本発明の芯鞘複合糸の芯糸は、強度:14cN/decitex以上、弾性率:300cN/decitex以上のスーパー繊維糸を用いる。さらに好ましくは、強度:18cN/decitex以上、弾性率:380cN/decitex以上のスーパー繊維糸とする。また、被覆糸は炭素繊維糸、ガラス繊維糸、アラミド繊維糸又は高強度ポリエチレン繊維糸であり、少なくとも1本の糸で芯糸の周囲を巻回被覆している。なお、1本の被覆糸により巻回被覆では複合糸に捩れが生じ、取扱い性が低下するため、好ましくは、巻回方向の異なる少なくも2本の糸で芯糸の周囲を被覆する。このような被覆糸をWカバリング糸ともいう。芯糸の好ましい繊度は10~2000texである。また被覆糸の好ましい繊度は、巻回性すなわちコイル状に巻き付けやすさを鑑みれば5~100texである。
【0012】
前記芯糸のスーパー繊維糸は、アラミド繊維(パラ系アラミド繊維の強度:19~25cN/decitex、弾性率:380~980cN/decitex)、ポリアリレート繊維(強度:18~22cN/decitex、弾性率:600~741cN/decitex)、ポリ(p-フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維(強度:37cN/decitex、弾性率:1060~2200cN/decitex)、ポリ(p-フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維(強度:26~40cN/decitex、弾性率:883~1413cN/decitex)、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維糸であるのが好ましい(強度及び弾性率の出典:「繊維の百科事典」522頁、丸善、平成14年3月25日発行)。とくにアラミド繊維は強度と弾性率が高く、マトリックス樹脂との接着性も良いことから好ましい。
【0013】
前記芯糸は1本又は複数本としてもよい。芯糸は必要な太さを保持するために複数本とするのが好ましい。芯糸は複数本引き揃えてもよいし、複数本撚り合わせてもよい。
【0014】
前記被覆糸の外側にさらに保護糸が付与されていてもよい。前記保護糸はポリエステル糸、ナイロン糸、ポリプロピレン糸及び前記スーパー繊維糸から選ばれる少なくとも一つの繊維糸であってもよく、またいわゆるスリットヤーンのようなものでカバリングするのでもよい。付与形態は通常巻きつけ又は引き揃えであるが、特に限定されるものではない。前記芯鞘複合糸の外側の被覆糸は炭素繊維糸、ガラス繊維糸、アラミド繊維糸又は高強度ポリエチレン繊維糸であるため、織物装置上で筬等を通過する際、摩擦により糸が破損する場合もあるので、前記保護糸により破損防止できる。
【0015】
前記芯糸に対する被覆糸の巻き付け数、すなわち被覆糸1本あたりの巻き付け数は、100~1500回/mであるのが好ましい。これにより好ましい強度及び衝撃エネルギー吸収ができる。
【0016】
本発明の衝撃エネルギー吸収材料性を有する繊維強化樹脂は、前記芯鞘複合糸をマトリックス樹脂と一体成形するか、又は前記芯鞘複合糸を含む繊維構造物をマトリックス樹脂と一体成形したものである。なお、コンクリート、プラスチック、金属などによる構造物の片面または両面に本発明による材料を接着させても良い。芯鞘複合糸をマトリックス樹脂と一体成形したものは、ロービング強化樹脂として、ゴルフシャフトや釣り竿等に適用することができる。前記芯鞘複合糸を含む繊維構造物をマトリックス樹脂と一体成形したものは、面状強化樹脂に適用することができる。前記繊維構造物は、前記芯鞘複合糸を一方向に揃えたスダレ状基材、前記芯鞘複合糸を緯糸及び経糸から選ばれる少なくとも一方の糸とした織物、前記芯鞘複合糸を含む編物、前記芯鞘複合糸を含む組物及び前記芯鞘複合糸を含む多軸挿入たて編物から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。一例として、前記芯鞘複合糸を織物の緯糸及び経糸から選ばれる少なくとも一方の糸とし、前記織物はマトリックス樹脂と一体成形されている。織物を使用する理由は、タテ及びヨコ方向の寸法安定性が良いからである。織物の緯糸又は経糸に前記芯鞘複合糸を使用すれば、その方向の衝撃エネルギーを吸収できる。緯糸及び経糸の双方に使用した場合は、タテ及びヨコ方向の衝撃エネルギーを吸収できる。
【0017】
マトリックス樹脂は、通常のFRPに使用される樹脂であればどのようなものでもよく、例えばエポキシ樹脂がある。エポキシ樹脂の中でも弾性樹脂が好ましく、さらに好ましくは柔軟性のあるゴム変性エポキシ樹脂(例えばDIC社製、商品名”TSR-930”)、高耐久性・柔軟強靭エポキシ樹脂(例えばDIC社製、商品名”EXA-4816”)である。
【0018】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態の芯鞘複合糸1の模式的斜視図である。この芯鞘複合糸1は、芯糸2と被覆糸3,4で構成される。芯糸2は強度:14cN/decitex以上、弾性率:300cN/decitex以上のスーパー繊維糸であり、被覆糸3,4は炭素繊維糸又はガラス繊維糸であり、被覆糸3,4は、巻回方向の異なる少なくも2本の糸で芯糸2の周囲を被覆している。被覆の程度は、被覆糸3,4により、芯糸2が見えない程度が好ましい。
【0019】
図2は同、芯鞘複合糸を緯糸に使用した織物5の模式的斜視図である。この織物は経糸6と緯糸7で構成され、前記芯鞘複合糸は緯糸7に配置されている。経糸6は通常のポリエステル糸又はナイロン糸等の合成繊維糸である。
【0020】
図3Aは同、複数枚積層した織物5の模式的斜視図、
図3Bは同、複数枚積層した織物5とマトリックス樹脂8を一体化した繊維強化樹脂シートの模式的斜視図である。この例においては、マトリックス樹脂8は弾性樹脂を使用した。
【0021】
図15は本発明の別の実施形態の芯鞘複合糸に保護糸を付与した模式的斜視図である。
図1の芯鞘複合糸1に、さらに保護糸18及び/又は保護糸19を巻きつけている。20は保護糸を巻き付けた芯鞘複合糸である。
【0022】
図4は同、衝撃エネルギーの吸収量を測定するパンクチャ―衝撃試験装置10の模式的説明である。この装置は基台9の上にサンプル12を載せ、さらにホルダー11を載せてサンプル12を固定し、上からインパクタ―14を取り付けたロードセル13を落下させ、サンプル12に衝撃を与えて衝撃荷重と変位から衝撃エネルギーの吸収量を分析する。この試験方法は、衝撃エネルギーの吸収量を測定する試験方法としてJIS K7211-2 硬質プラスチックのパンクチャー衝撃試験方法に従った。
(1)材料のエネルギー吸収値としてパンクチャーエネルギー(J)を用いた。
(2)試験機:IMATEK 社製IM10T-20HV
(3)サンプル大きさ:60mm×60mm
(4)ストライカー:φ10mm 半円球
(5)高さ:1m
(6)衝撃速度:4.4m/sec
(7)衝撃エネルギー:91J
上記の条件により、本件のサンプルはすべて貫通させることができた。
【0023】
図5は同、パンクチャ―衝撃試験測定データのグラフの説明図である。
図5の衝撃荷重-変位のグラフにおいて、パンクチャーエネルギーはグラフの立ち上がり線から下降線の最大荷重の1/2までの面積である。最大荷重までの面積を最大荷重までのエネルギー15とする。最大荷重から最大荷重の1/2までの変位の面積を亀裂進展エネルギー16とする。パンクチャーエネルギー(15+16)に占める亀裂進展エネルギー(16)の割合(%)で比較した。詳しくは実施例、比較例で説明する。
【実施例】
【0024】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
芯糸として繊度167texのパラ系アラミド繊維糸(東レ・デュポン社製、商品名"ケブラー")を使用し、下糸被覆糸として繊度66texの炭素繊維糸を芯糸の周囲にZ方向に600回/mの割合で巻回させ、次に上糸被覆糸として繊度66texの炭素繊維糸を芯糸の周囲にS方向に600回/mの割合で巻回させ、トータル繊度378.6texの芯鞘複合糸を得た(
図1)。この芯鞘複合糸を緯糸にし、経糸にポリエステル(PET)333texのマルチフィラメント糸を使用して単位面積当たりの質量(目付)776.5g/m
2の平織物を得た(
図2)。この織物はタテ40cm,ヨコ20cmであった。この織物4枚を、芯鞘複合糸を基準に0°/90°/90°/0°となるように方向を異ならせてクロスプライ積層した(
図3A)。次いで、ゴム変性エポキシ樹脂(DIC社製、商品名”TSR-930”)を主剤とし、硬化剤にDIC社製、商品名"WH-420"を用いて成形板を作製した(
図3B,以下「CF-AF-930」ともいう。)。得られた成形板の中心部の厚さ6.2mm、単位面積当たりの質量(目付)6939.3g/m
2であった。得られた成形板の中心部を
図4に示すパンクチャ―衝撃試験をしたところ、
図6のグラフのようになり、次のデータが得られた。
(1)パンクチャーエネルギー:28.88J
(2)パンクチャー変位:13.47mm
(3)ピークエネルギー:8.27J
(4)ピーク変位:5.09mm
(5)亀裂進展エネルギー:20.61J
(6)[亀裂進展エネルギー/パンクチャーエネルギー]×100=71.4%
【0025】
(実施例2)
芯糸として繊度167texのパラ系アラミド繊維糸(東レ・デュポン社製、商品名"ケブラー")を使用し、下糸被覆糸として繊度33texのガラス繊維糸を芯糸の周囲にZ方向に800回/mの割合で巻回させ、次に上糸被覆糸として繊度66texのガラス繊維糸を芯糸の周囲にS方向に800回/mの割合で巻回させ、トータル繊度288.6texの芯鞘複合糸を得た(
図1)。この芯鞘複合糸を緯糸にし、経糸にポリエステル(PET)333texのマルチフィラメント糸を使用して単位面積当たりの質量(目付)999.6g/m
2の平織物を得た(
図2)。この織物を実施例1と同様に積層し、ゴム変性エポキシ樹脂(DIC社製、商品名”TSR-930”)を主剤とし、硬化剤にDIC社製、商品名"WH-420"を用いて成形板を作製した(
図3B,以下「GF-AF-930」ともいう。)。得られた成形板の中心部の厚さ7.0mm、単位面積当たりの質量(目付)8301.9g/m
2であった。得られた成形板の中心部を
図4に示すパンクチャ―衝撃試験をしたところ、
図7のグラフのようになり、次のデータが得られた。
(1)パンクチャーエネルギー:45.64J
(2)パンクチャー変位:14.93mm
(3)ピークエネルギー:20.14J
(4)ピーク変位:6.87mm
(5)亀裂進展エネルギー:25.50J
(6)[亀裂進展エネルギー/パンクチャーエネルギー]×100=55.90%
【0026】
(実施例3)
マトリックス樹脂をDIC社製エポキシ樹脂、商品名”EXA-4816”を主剤とし、硬化剤にDIC社製、商品名"WH-619"を用いた以外は実施例2と同様に成形板を作製した(
図3B,以下「GF-AF-4816」ともいう。)。得られた成形板の中心部の厚さ7.7mm、単位面積当たりの質量(目付)8780g/m
2であった。得られた成形板の中心部を
図4に示すパンクチャ―衝撃試験をしたところ、
図8のグラフのようになり、次のデータが得られた。
(1)パンクチャーエネルギー:46.95J
(2)パンクチャー変位:8.61mm
(3)ピークエネルギー:27.08J
(4)ピーク変位:5.19mm
(5)亀裂進展エネルギー:18.87J
(6)[亀裂進展エネルギー/パンクチャーエネルギー]×100=42.30%
以上のデータを表1にまとめて示す。
【0027】
【0028】
(比較例1~5)
比較例1は、ステンレスSUS304、厚さ0.5mmのパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフを
図9に示し、データを表2にまとめて示す。
比較例2は、アルミニウムA5052、厚さ1.5mmのパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフを
図10に示し、データを表2にまとめて示す。
比較例3は、市販のガラス繊維織物強化エポキシ樹脂成形品(GFRP)、厚さ2.5mmのパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフを
図11に示し、データを表2にまとめて示す。
比較例4は、市販の炭素繊維織物を中央に配置し、その両表面にパラ系アラミド織物をサンドイッチ状に積層した強化エポキシ樹脂成形品(CF-AFRP)、厚さ3.3mmのパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフを
図12に示し、データを表2にまとめて示す。
比較例5は、市販のガラス繊維織物を中央に配置し、その両表面にパラ系アラミド織物をサンドイッチ状に積層した強化エポキシ樹脂成形品(GF-AFRP)、厚さ4.4mmのパンクチャ―衝撃試験測定データのグラフを
図13に示し、データを表2にまとめて示す。
【0029】
【0030】
図14は本発明の各実施例と各比較例のパンクチャ―衝撃試験の亀裂進展エネルギーの比較グラフである。
図14から、本発明の各実施例の破壊開始後のエネルギー吸収比率は、比較例品に比べて高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の繊維強化樹脂用芯鞘複合糸及びこれを使用した繊維強化樹脂は、破壊開始後のエネルギー吸収比率が高いことから、自動車や乗り物の衝撃吸収材、高速道路の衝撃緩和装置、各種防爆シート等に適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 芯鞘複合糸
2 芯糸
3,4 被覆糸
5 織物
6 経糸
7 緯糸
8 マトリックス樹脂
9 基台
10 パンクチャ―衝撃試験装置
11 ホルダー
12 サンプル
13 ロードセル
14 インパクター
15 最大荷重までの面積を最大荷重までのエネルギー
16 最大荷重から最大荷重の1/2までの亀裂進展エネルギー
18,19 保護糸
20 保護糸を巻き付けた芯鞘複合糸