(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】酸素透過素子及びスパッタリングターゲット材
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20220815BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20220815BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
C23C14/08 K
C23C14/34 A
C04B35/50
(21)【出願番号】P 2019567025
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001283
(87)【国際公開番号】W WO2019146493
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2018013091
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 旬春
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】城 勇介
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-076710(JP,A)
【文献】特開2007-169779(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084404(WO,A1)
【文献】特開2011-181262(JP,A)
【文献】特開平05-105536(JP,A)
【文献】特開平07-140099(JP,A)
【文献】JIANG Zhiyi, et al.,Bismuth oxide-coated (La,Sr)MnO3 cathods for intermediate temperature solid oxide fuel cells with yt,Electrochimica Acta,2009年04月15日,Vol.54 No.11,Page.3059-3065
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 - 14/58
C04B 35/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、両極間に位置する固体電解質とを有し、該アノードと該カソードとの間に電圧が印加されることで、該カソード側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、該固体電解質を通じて該アノード側に透過させる酸素透過素子であって、
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方と前記固体電解質との間に中間層を有し、
前記中間層がビスマスの酸化物を含み、
前記固体電解質がランタンの酸化物を含む、酸素透過素子。
【請求項2】
前記固体電解質が、ランタン及びケイ素の複合酸化物を含む請求項1に記載の酸素透過素子。
【請求項3】
前記固体電解質が、La
9.33+x[T
6.00-yM
y]O
26.0+z(式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)で表され、式中のxは-1.00以上1.00以下の数であり、式中のyは1.00以上3.00以下の数であり、式中のzは-2.00以上2.00以下の数であり、Mのモル数に対するLaのモル数の比率が3.00以上10.0以下である複合酸化物を含む請求項1に記載の酸素透過素子。
【請求項4】
前記中間層は、その厚みが1nm以上350nm以下である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の酸素透過素子。
【請求項5】
前記中間層が、ビスマスと希土類元素との複合酸化物を含む請求項1ないし4のいずれか一項に記載の酸素透過素子。
【請求項6】
前記中間層が、ビスマスと、ランタン、ガドリニウム又はイットリウムとの複合酸化物を含む請求項5に記載の酸素透過素子。
【請求項7】
前記アノード又は前記カソードが、白金族の元素を含む請求項1ないし6のいずれか一項に記載の酸素透過素子。
【請求項8】
前記アノードと前記カソードのいずれもが前記固体電解質との間にビスマスの酸化物を含む中間層を有する請求項1ないし7のいずれか一項に記載の酸素透過素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素透過素子に関する。また本発明はスパッタリングターゲット材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン伝導性の固体電解質が種々知られている。かかる固体電解質は、例えば酸素透過素子、燃料電池の電解質、及びガスセンサなどとして様々な分野で用いられている。例えば特許文献1には、固体電解質の両面に電極を形成してなる薄膜型ガスセンサにおいて、固体電解質と電極とを金属酸化物を主成分とする層を介して接合することが記載されている。金属酸化物としては、CuO、Cu2O、Bi2O3、ZnO、CdOなどが用いられる。
【0003】
特許文献2には、酸素イオン伝導性固体電解質の焼結基板と、その表面に形成された白金電極膜からなる電気化学素子が記載されている。白金電極膜は、酸化ビスマス及び酸化第二銅の結合材と、酸素イオン伝導性固体電解質の焼結体と、白金との混合物からなる。この電気化学素子によれば、酸化ビスマスの劣化による酸素イオン伝導性の低下を電極中の酸素イオン伝導性固体電解質が補うので、耐久性が向上すると同文献には記載されている。
【0004】
特許文献3には、アノード側電極とカソード側電極との間にアパタイト型複合酸化物からなる固体電解質が介装された電解質・電極接合体が記載されている。カソード側電極と固体電解質との間には、酸化物イオン伝導が等方性を示す中間層が介装されている。中間層は、サマリウム、イットリウム、ガドリニウム又はランタンがドープされた酸化セリウムからなる。固体電解質は、LaxSi6O1.5X+12(8≦X≦10)からなる。この電解質・電極接合体によれば、固体酸化物形燃料電池の発電性能が向上すると、同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-99892号公報
【文献】特開平8-136497号公報
【文献】特開2013-51101号公報
【発明の概要】
【0006】
特許文献1ないし3に記載のとおり、酸素イオン伝導性の固体電解質を利用した素子は種々提案されているものの、素子全体で評価した場合、固体電解質が本来的に有している酸素イオン伝導性を十分に引き出しているとは言えなかった。
【0007】
したがって本発明の課題は、固体電解質が本来的に有している酸素イオン伝導性を十分に活用できる素子を提供することにある。
【0008】
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討したところ、酸素イオン伝導性の固体電解質に取り付けられる電極の材料を工夫することで、固体電解質が本来的に有している酸素イオン伝導性を十分に引き出し得ることを知見した。
【0009】
本発明は前記知見に基づきなされたものであり、アノードと、カソードと、両極間に位置する固体電解質とを有し、該アノードと該カソードとの間に電圧が印加されることで、該カソード側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、該固体電解質を通じて該アノード側に透過させる酸素透過素子であって、
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方と前記固体電解質との間に中間層を有し、
前記中間層がビスマスの酸化物を含み、
前記固体電解質がランタンの酸化物を含む、酸素透過素子を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【0010】
また本発明は、前記の酸素透過素子における中間層の製造に用いられ、且つビスマスの酸化物を含むスパッタリングターゲット材を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の酸素透過素子の一実施形態を示す厚み方向に沿う断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には本発明の酸素透過素子の一実施形態が示されている。同図に示す酸素透過素子10は固体電解質の層(以下「固体電解質層」ともいう。)11を備えている。固体電解質層11は、所定の温度以上で酸素イオン伝導性を有する材料からなる。固体電解質層11は、アノード13とカソード12との間に位置している。つまりアノード13及びカソード12は、固体電解質層11の各面に配置されている。アノード13は、直流電源14の正極に電気的に接続可能になっている。一方、カソード12は、直流電源14の負極に電気的に接続可能になっている。したがってアノード13とカソード12との間には直流電圧が印加されるようになっている。アノード13とカソード12との間に所定の電圧が印加されることで、カソード12側においてO
2が電子を受け取りO
2-が生成する。生成したO
2-は固体電解質層11中を移動してアノード13に達する。アノード13に達したO
2-は電子を放出してO
2となる。このような反応によって、固体電解質層11は、カソード12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じてアノード13側に透過させることが可能になっている。カソード12側で生成した酸素イオン(酸化物イオン)が、固体電解質層11に含まれる酸素イオン伝導性を有する材料を経由してアノード13側に移動することに伴い、電流が生じる。また、得られる電流値がカソード12側の酸素濃度に依存することから、本発明の酸素透過素子は限界電流式酸素センサとしても使用することができる。
【0013】
カソード12と固体電解質層11との間には、カソード側中間層15が配置されている。一方、アノード13と固体電解質層11との間には、アノード側中間層16が配置されている。
図1においては、カソード12とカソード側中間層15とが異なるサイズで示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えばカソード12とカソード側中間層15とは同じサイズであってもよい。アノード13とアノード側中間層16に関しても同様であり、両者は同じサイズであってもよく、あるいは例えばアノード13よりもアノード側中間層16のサイズの方が大きくなっていてもよい。また、
図1においては、カソード側中間層15のサイズと固体電解質層11のサイズとが同じに示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えば固体電解質層11とカソード側中間層15とが異なるサイズであってもよい。アノード13側に関しても同様である。
【0014】
図1に示すとおり、カソード側中間層15は、カソード12及び固体電解質層11と直接に接している。したがって、カソード側中間層15とカソード12との間には何らの層も介在していない。また、カソード側中間層15と固体電解質層11とも直接に接しており、両者間には何らの層も介在していない。アノード13側の中間層16、固体電解質層11についても同様である。
【0015】
カソード側中間層15及びアノード側中間層16(以下、便宜的に両者を総称して単に「中間層」ということもある。)は、酸素透過素子10におけるカソード12とアノード13との間の電気抵抗を低減させる目的で用いられる。酸素透過素子10における電気抵抗を低減させるためには、固体電解質層11の酸素イオン伝導性を高めることが重要であるところ、酸素イオン伝導性の高い材料を用いて固体電解質層11を構成すると、電極間での電気抵抗が高くなる傾向にあることが本発明者の検討の結果判明した。特に、固体電解質層として、酸素イオン伝導性の高い材料の一つである、ランタンの酸化物を含む固体電解質層を用いた場合に、電極間での電気抵抗が高くなり、酸素透過素子10中の酸素透過速度が低下する傾向にある。この理由は現在のところ明確でないが、固体電解質層とカソード及びアノード間の界面の電気抵抗が高いことに起因していると本発明者は考えている。
【0016】
酸素透過素子の電極間における電気抵抗の増大、及びそれに起因する酸素透過速度の低下の問題を解決すべく本発明者が鋭意検討したところ、固体電解質層11がランタンの酸化物を含む場合には、カソード側中間層15及びアノード側中間層16の少なくとも一方が、ビスマスの酸化物を含んで構成されていることが有効であることが判明した。特に、カソード側中間層15及びアノード側中間層16のいずれもが、ビスマスの酸化物を含んで構成されていることが、酸素透過素子の電極間における電気抵抗を一層低くし、酸素透過速度を一層大きくする観点から有効である。
【0017】
なお、酸素イオン伝導性の高い材料として例えばジルコニア系の材料が知られている。しかしジルコニア系の材料はこれを高温にして初めて高酸素イオン伝導性を示す。ジルコニア系の材料からなる固体電解質層に、ビスマスの酸化物を含んで構成される中間層を設けた場合、該酸化物は比較的低温で融解する材料であることから、ジルコニア系の材料からなる固体電解質層が高酸素イオン伝導性を示す温度に達する前に融解するおそれがある。これに対してランタンの酸化物は、ジルコニア系の材料に比べて比較的低温の300℃以上で高酸素イオン伝導性を示す。したがって、ランタンの酸化物を含んでなる固体電解質層に、ビスマスの酸化物を含んで構成される中間層を設けた場合、該固体電解質層が高酸素イオン伝導性を示す温度まで加熱しても、ビスマスの酸化物が融解するおそれは少ない。このように、ビスマスの酸化物を含んでなる中間層は、ランタンの酸化物を含んでなる固体電解質層と組み合わせて用いることで、その効果が発揮されるものである。
【0018】
ランタンの酸化物を含んで構成される固体電解質層11は、酸素イオンがキャリアとなる導電体である。ランタンの酸化物を含む酸素イオン伝導性材料としては、例えばランタン及びガリウムを含む複合酸化物や、該複合酸化物にストロンチウム、マグネシウム又はコバルトなどを添加した複合酸化物、ランタン及びモリブデンを含む複合酸化物などが挙げられる。特に、酸素イオン伝導性が高いことから、ランタン及びケイ素の複合酸化物からなる酸素イオン伝導性材料を用いることが好ましい。
【0019】
ランタン及びケイ素の複合酸化物としては、例えばランタン及びケイ素を含むアパタイト型複合酸化物が挙げられる。アパタイト型複合酸化物としては、三価元素であるランタンと、四価元素であるケイ素と、Oとを含有し、その組成がLaxSi6O1.5x+12(Xは8以上10以下の数を表す。)で表されるものが、酸素イオン伝導性が高い点から好ましい。このアパタイト型複合酸化物を固体電解質層11として用いる場合には、結晶のc軸方向を固体電解質層11の厚み方向と一致させることが好ましい。このアパタイト型複合酸化物の最も好ましい組成は、La9.33Si6O26である。このアパタイト型複合酸化物は、単結晶であってもよいし、各結晶粒のc軸方向が固体電解質層11の厚み方向に配向された多結晶体であってもよい。この複合酸化物は、例えば特開2013-51101号公報に記載の方法に従い製造することができる。
【0020】
ランタンの酸化物を含んで構成される固体電解質層11の別の好ましい例として、La9.33+x[T6.00-yMy]O26.0+zで表される複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物もアパタイト型構造を有するものである。式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。c軸配向性を高める観点から、MはB、Ge及びZnからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素であることが好ましい。
【0021】
式中のxは、配向度及び酸素イオン伝導性を高める観点から、-1.00以上1.00以下であることが好ましく、0.00以上0.70以下であることが更に好ましく、0.45以上0.65以下であることが一層好ましい。式中のyは、アパタイト型結晶格子におけるT元素位置を埋める観点から、1以上3以下であることが好ましく、1.00以上2.00以下であることが更に好ましく、1.00以上1.62以下であることが一層好ましい。式中のzは、アパタイト型結晶格子内での電気的中性を保つという観点から、-2.00以上2.00以下であることが好ましく、-1.50以上1.50以下であることが更に好ましく、-1.00以上1.00以下であることが一層好ましい。
【0022】
前記式中、Mのモル数に対するLaのモル数の比率、言い換えれば前記式における(9.33+x)/yは、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つ観点から、3.00以上10.0以下であることが好ましく、6.20以上9.20以下であることが更に好ましく、7.00以上9.00以下であることが一層好ましい。
【0023】
La9.33+x[T6.00-yMy]O26.0+zで表される複合酸化物の具体例としては、La9.33+x(Si4.70B1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Ge1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Zn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70W1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Sn1.30)O26.0+x、La9.33+x(Ge4.70B1.30)O26.0+zなどを挙げることができる。これらの複合酸化物は、例えば国際公開WO2016/111110の〔0029〕~〔0041〕に記載の方法に従い製造することができる。
【0024】
固体電解質層11の厚みは、酸素透過素子10の電極間での電気抵抗を効果的に低下させる観点から、10nm以上1000μm以下であることが好ましく、100nm以上500μm以下であることが更に好ましく、400nm以上500μm以下であることが一層好ましい。固体電解質層11の厚みは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0025】
中間層は、上述のとおり、ビスマスの酸化物を含んで構成されていることが好ましい。ビスマスの酸化物としては例えば酸化ビスマス(III)やビスマスと他の金属元素との複合酸化物が挙げられる。他の金属元素としては、例えば一種以上の希土類元素が挙げられる。希土類元素としては、例えばランタン、ガドリニウム、イットリウム、エルビウム、イッテルビウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。特に中間層は、ビスマスと、ランタン、ガドリニウム又はイットリウムとの複合酸化物を含んで構成されることが、酸素透過素子10の電極間での電気抵抗を効果的に低下させ得る観点から好ましい。更にこの複合酸化物は、(LnmBin)2O3で表されることが好ましい。式中、Lnは希土類元素を表す。mとnの和は1であり、n>0である。また、mは0.1以上0.4以下であることが好ましい。なおカソード側中間層15とアノード側中間層16のいずれもが、ビスマスの酸化物を含んで構成されていれば、両中間層15,16を構成する該酸化物は同種でもよく、あるいは異種でもよい。また、カソード側中間層15及びアノード側中間層16のうちの一方が、ビスマスの酸化物を含んで構成されており、他方が他の物質から構成されていてもよい。
【0026】
中間層の厚みは、一定以上の厚みがあれば、酸素透過素子10の電極間での電気抵抗を効果的に低下させ得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、中間層の厚みは、カソード12側及びアノード13側それぞれ独立に、1nm以上350nm以下であることが好ましく、5nm以上300nm以下であることが更に好ましい。この中間層の厚みは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いて測定することができる。カソード側中間層15の厚みとアノード側中間層16の厚みとは同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0027】
アノード13及びカソード12はそれぞれ独立に導電性材料から構成される。特に、形成が容易であり、且つ触媒活性が高い等の利点があることから、白金族の元素を含んで構成されることが好ましい。白金族の元素としては、例えば白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウム等が挙げられる。これらの元素は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、アノード13及びカソード12として、それぞれ独立に、白金族の元素を含んだサーメットを用いることもできる。
【0028】
図1に示す実施形態の酸素透過素子10は、例えば以下に述べる方法で好適に製造することができる。まず、公知の方法で固体電解質層11を製造する。製造には、例えば先に述べた特開2013-51101号公報や国際公開WO2016/111110に記載の方法を採用することができる。
【0029】
次いで固体電解質層11における対向する2面に、カソード側中間層15及びアノード側中間層16をそれぞれ形成する。各中間層15,16の形成には例えばスパッタリングを用いることができる。スパッタリングに用いられるターゲットは例えば次の方法で製造することができる。すなわち、ビスマスの酸化物及び必要に応じて希土類元素の酸化物を含む粉体を、乳鉢や、ボールミル等の攪拌機を使用し混合し、酸素含有雰囲気下で焼成し原料粉を得る。この原料粉をターゲットの形状に成形し、ホットプレス焼結する。焼結条件は、温度500℃以上700℃以下、圧力20MPa以上35MPa以下、時間60分以上180分以下とすることができる。雰囲気は、窒素ガスや希ガス等の不活性ガス雰囲気とすることができる。このように、本発明によれば、酸素透過素子10におけるカソード側中間層15及び/又はアノード側中間層16の製造に用いられ、且つビスマスの酸化物を含むスパッタリングターゲット材が提供される。尤も、スパッタリングターゲット材の製造方法は、この製造方法に限定されるものではなく、ターゲット形状の成形体を、大気中又は酸素含有雰囲気下で焼結してもよい。
【0030】
このようにして得られたターゲットを用い、例えば高周波スパッタリング法によって固体電解質層11の各面に中間層を形成する。基板の温度を予め300~500℃の範囲内に昇温し、該温度を保持しながらスパッタリングしてもよい。スパッタリングの完了後には、中間層をアニーリングしてもよい。アニーリングの条件は、温度750℃以上1500℃以下、時間30分以上120分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。その他の成膜方法として、例えばアトミックレイヤデポジション、イオンプレーティング、パルスレーザデポジション、めっき法、及び蒸着法などを挙げることができる。
【0031】
このようにして中間層を形成した後、各中間層の表面にアノード13及びカソード12をそれぞれ形成する。アノード13及びカソード12の形成には、例えば白金族の金属の粒子を含むペーストを用いる。該ペーストを各中間層の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで多孔質体からなるアノード13及びカソード12が形成される。焼成条件は、温度700℃以上1000℃以下、時間30分以上120分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。
【0032】
以上の方法で目的とする酸素透過素子10が得られる。このようにして得られた酸素透過素子10を使用する場合には、
図1に示すとおり、アノード13を直流電源14の正極に接続するとともに、カソード12を直流電源14の負極に接続して、両極12,13の間に所定の直流電圧を印加する。印加する電圧は、酸素ガスの透過量を高める観点から、0.1V以上4.0V以下に設定することが好ましい。両極間に電圧を印加するときには、固体電解質層11の酸素イオン伝導性が十分に高くなっていることが好ましい。例えば酸素イオン伝導性が、導電率で表して1.0×10
-3S/cm以上になっていることが好ましい。このため、固体電解質層11を、又は酸素透過素子10の全体を所定温度に保持することが好ましい。この保持温度は、固体電解質層11の材質にもよるが、一般に300℃以上600℃以下の範囲に設定することが好ましい。この条件下で酸素透過素子10を使用することで、カソード12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じてアノード13側に透過させることができる。
【0033】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、カソード12と固体電解質層11との間、及びアノード13と固体電解質層11との間の双方に中間層を配したが、これに代えて、カソード12と固体電解質層11との間にのみ中間層を配するか、又はアノード13と固体電解質層11との間にのみ中間層を配してもよい。カソード12又はアノード13のうちの一方にのみ中間層を配する場合には、カソード12と固体電解質層11との間にのみ中間層を配することが、酸素透過素子10の電極間での電気抵抗を効果的に低下させる観点から有利である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0035】
〔実施例1〕
本実施例では、以下の(1)-(3)の工程に従い
図1に示す構造の酸素透過素子10(ただし、アノード側中間層16は形成せず)を製造した。
(1)固体電解質層11の製造
La
2O
3の粉体とSiO
2の粉体とをモル比で1:1となるように配合し、エタノールを加えてボールミルで混合した。この混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、白金るつぼを使用して大気雰囲気下に1650℃で3時間にわたり焼成した。この焼成物にエタノールを加え、遊星ボールミルで粉砕して焼成粉を得た。この焼成粉を、20mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形した。更に600MPaで1分間冷間等方圧加圧(CIP)を行ってペレットを成形した。このペレット状成形体を、大気中、1600℃で3時間にわたり加熱してペレット状焼結体を得た。この焼結体を粉末X線回折測定及び化学分析に付したところ、La
2SiO
5の構造であることが確認された。
【0036】
得られたペレット800mgと、B2O3粉末140mgとを、蓋付き匣鉢内に入れて、電気炉を用い、大気中にて1550℃(炉内雰囲気温度)で50時間にわたり加熱した。この加熱によって、匣鉢内にB2O3蒸気を発生させるとともにB2O3蒸気とペレットとを反応させ、目的とする固体電解質層11を得た。この固体電解質層11は、La9.33+x[Si6.00-yBy]O26.0+zにおいて、x=0.50、y=1.17、z=0.16であり、LaとBのモル比は8.43であった(以下、この化合物を「LSBO」と略称する。)。600℃における酸素イオン伝導率は6.3×10-2S/cmであった。固体電解質層11の厚みは350μmであった。
【0037】
(2)カソード側中間層15の製造
Bi2O3の粉体を、50mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。この焼結の条件を、窒素ガス雰囲気、圧力30MPa、温度600℃、3時間とした。このようにしてスパッタリング用のターゲットを得た。このターゲットを用いて高周波スパッタリング法によって、LSBOからなる固体電解質層11の一面にスパッタリングを行った。スパッタリングの条件は、RF出力が30W、アルゴンガスの圧力が0.8Paであった。スパッタリング後、大気中、750℃にて1時間のアニーリングを行った。このようにしてカソード側中間層15を製造した。該中間層15の組成及び厚みは表1に示すとおりであった。
【0038】
(3)カソード12及びアノード13の製造
白金ペーストを、カソード側中間層15の表面に塗布して塗膜を形成した。また、固体電解質層11の2つの面のうち、カソード側中間層15が形成されていない方の面に白金ペーストを塗布し塗膜を形成した。これらの塗膜を大気中で、700℃で1時間焼成して、多孔質体からなるカソード12及びアノード13を得た。
【0039】
〔実施例2〕
カソード側中間層15として表1に示す材料を用いた。この材料からなるカソード側中間層15は、以下の方法で製造されたターゲットを用い、スパッタリング法によって形成した。これら以外は実施例1と同様にして酸素透過素子10を得た。
〔ターゲットの製造〕
La2O3の粉体とBi2O3の粉体とを所定量配合し、エタノールを加えてボールミルで混合した。この混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、アルミナるつぼを使用して大気雰囲気下700℃で3時間にわたり焼成した。次いで、この焼成物にエタノールを加えて遊星ボールミルで粉砕し、焼成粉を得た。この焼成粉を、50mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。焼結の条件は、窒素ガス雰囲気、圧力30MPa、温度600℃、3時間とした。このようにしてスパッタリング用のターゲットを得た。
【0040】
〔実施例3〕
実施例2において、La2O3に代えてY2O3を用いてターゲットを製造し、これを用いてカソード側中間層15を製造した。これら以外は実施例2と同様にして酸素透過素子10を得た。
【0041】
〔実施例4〕
実施例3においてカソード側中間層15を形成することに代えて、アノード側中間層16を形成した。これ以外は実施例3と同様にして酸素透過素子10を得た。
【0042】
〔実施例5〕
実施例2において、La2O3に代えてGd2O3を用いてターゲットを製造し、このターゲットを用いてカソード側中間層15を製造した。これら以外は実施例2と同様にして酸素透過素子10を得た。
【0043】
〔実施例6〕
実施例5においてカソード側中間層15を形成することに代えて、アノード側中間層16を形成した。これ以外は実施例5と同様にして酸素透過素子10を得た。
【0044】
〔実施例7〕
実施例2において、カソード側中間層15におけるLaとBiのモル比を表1に示す値とした。これ以外は実施例2と同様にして酸素透過素子10を得た。
【0045】
〔実施例8〕
実施例7においてカソード側中間層15を形成することに代えて、アノード側中間層16を形成した。これ以外は実施例7と同様にして酸素透過素子10を得た。
【0046】
〔実施例9ないし12〕
実施例2においてカソード側中間層15の厚みを表1に示す値とした。これ以外は実施例2と同様にして酸素透過素子10を得た。
【0047】
〔実施例13〕
実施例2においてカソード側中間層15に加えてアノード側中間層16も形成した。厚みは表1に示すとおりとした。これ以外は実施例2と同様にして酸素透過素子10を得た。
【0048】
〔比較例1〕
実施例1においてカソード側中間層15を形成せず、固体電解質層11の表面に直接、カソード12を形成した。これ以外は実施例2と同様にして酸素透過素子を得た。
【0049】
〔比較例2〕
実施例1において、カソード側中間層15として表1に示す材料からなるものを形成した。このカソード側中間層15はスパッタリングによって形成した。スパッタリング完了後、この中間層15を大気中で1400℃にて1時間アニーリングした。これ以外は実施例2と同様にして酸素透過素子を得た。
【0050】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた酸素透過素子について、電極間での電気抵抗を以下の方法で測定した。また、実施例13及び比較例1で得られた酸素透過素子について、酸素透過速度を以下の方法で測定した。これらの結果を以下の表1及び2に示す。
【0051】
〔電気抵抗の測定〕
測定は600℃で行った。大気中で素子電極間に直流1Vを印加し、得られた電流値から電気抵抗値を算出した。
【0052】
〔酸素透過速度の測定〕
測定は600℃で行った。酸素供給素子のカソード側に空気を、アノード側にN2ガスを、それぞれ200ml/minで供給し、電極間に直流1Vを印加した。アノード側に酸素センサを取り付け、電圧印加前後のアノード側雰囲気中の酸素濃度の変化を測定し、酸素透過速度(ml・cm-2・min-1)を算出した。また、表2中の効率は、〔酸素濃度計で計測した酸素透過速度〕/〔電流密度から算出した酸素透過速度〕×100で算出した。
【0053】
【0054】
【0055】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた酸素透過素子は、比較例1及び2の酸素透過素子に比べて電気抵抗が低いことが判る。また、表2に示す結果から明らかなとおり、実施例13で得られた酸素透過素子は、比較例1の酸素透過素子に比べて、酸素透過速度が極めて大きいことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、酸素の透過速度が大きい酸素透過素子が提供される。