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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】レンズおよびレンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20220815BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20220815BHJP
   G02B 5/23 20060101ALI20220815BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20220815BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20220815BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20220815BHJP
   G02C 7/12 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
G02C7/10
G02C7/02
G02B5/23
C09K9/02 B
C09K3/00 104C
C09K3/00 104A
C09K3/00 104Z
B29C65/48
G02C7/12
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019570792
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2019004354
(87)【国際公開番号】W WO2019156143
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018022153
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】岡田 好信
(72)【発明者】
【氏名】浅田 博文
(72)【発明者】
【氏名】青野 暁史
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-522270(JP,A)
【文献】特開2012-155328(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093530(WO,A1)
【文献】特表2015-511893(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047685(WO,A1)
【文献】特許第5075080(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/10
G02C 7/02
G02B 3/14
G02B 5/23
C09K 9/02
C09K 3/00
B29C 65/48
G02C 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイウェア用のレンズであって、
主面を有し、透明な第一基板と、
前記主面と対向して配置され、所定の波長域の光に対する透過率が前記第一基板と異なる第二基板と、
前記第一基板と前記第二基板との間に設けられ、液晶層を有し、電気的制御により光学特性が変化する電気素子と、
前記第一基板と前記第二基板との間に設けられた接着層と、を備え、
前記第一基板は、場所によって前記レンズの光軸の方向における厚さ寸法が異なり、
前記第二基板は、全体にわたり前記光軸の方向における厚さ寸法が等しく、ユーザが前記アイウェアを装着した状態において、前記第基板よりも前記ユーザから遠い側に配置され、前記透過率を前記第一基板と異ならせるための添加剤であって、前記第一基板に含まれない前記添加剤が練り込まれている、
レンズ。
【請求項2】
前記添加剤は、フォトクロミック化合物を含む、請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記添加剤は、380nm以上500nm以下の波長域の光を選択的に吸収する選択吸収剤を含む、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記添加剤は、希土類金属化合物又は有機系色素を含む、請求項1~3の何れか一項に記載のレンズ。
【請求項5】
前記接着層は、光硬化型の接着剤からなる、請求項1~4の何れか一項に記載のレンズ。
【請求項6】
前記第二基板が発色していない状態を通常状態とし、かつ、波長が365nmである紫外線を高さ155mmの位置から10分間前記第二基板に照射することにより前記第二基板を発色させた状態を発色状態とした場合に、
前記発色状態において、波長が380nmである光に対する前記第二基板の透過率が8%以下であり、
前記通常状態における第二基板のL*、a*、およびb*、ならびに、前記発色状態における第二基板のL*、a*、およびb*、に基づいて、下記式(A)より算出した色相の変化量ΔE*abが、15以上であり、
前記通常状態における第二基板のL*、a*、およびb*、ならびに、前記発色状態の前記第二基板を暗所に10分間静置した後の前記第二基板のL*、a*、およびb*、に基づいて、下記式(A)より算出した色相の変化量ΔE*abが10未満である、請求項2に記載のレンズ。
(式A)ΔE*ab=[(ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
【請求項7】
前記選択吸収剤が紫外線を吸収するベンゾトリアゾール系選択吸収剤を含み、
波長が400nmである光に対する前記第二基板の光カット率が、99.8%以上である、請求項3に記載のレンズ。
【請求項8】
前記選択吸収剤は、クロロホルム溶液に溶解させた際の極大吸収波長が350nm以上370nm以下に極大吸収波長を有する紫外線吸収剤を含み、
前記第二基板と同様の組成を有しかつ厚み2mmの試験体において、
波長が440nmである光に対する前記試験体の光透過率が、80%以上であり、
波長が420nmである光に対する前記試験体の光透過率が、70%以下であり、かつ、
波長が410nmである光に対する前記試験体の光透過率が、10%以下である、請求項3に記載のレンズ。
【請求項9】
前記紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、および、サリチル酸エステル系化合物のうちの少なくとも一つの化合物を含む、請求項8に記載のレンズ。
【請求項10】
前記紫外線吸収剤は、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなるベンゾトリアゾール系化合物である、請求項9に記載のレンズ。
【請求項11】
前記添加剤は、440~580nmの間の波長領域に吸収極大波長を有する希土類金属化合物又は有機系色素を含み、
波長が580nmである光に対する光透過率が、60%以上90%以下である、請求項4に記載のレンズ。
【請求項12】
請求項1~11の何れか一項に記載のレンズの製造方法であって、
電気的制御により光学特性が変化する電気素子を第一基板に設けるステップと、
所定の波長域の光に対する透過率が前記第一基板と異なる第二基板を、前記第一基板に固定するステップと、を含む、
レンズの製造方法。
【請求項13】
前記固定するステップは、前記第一基板の主面または前記第二基板において前記主面と対向する面に光硬化型の接着剤を設けるステップと、
前記接着剤に光線を照射して硬化させることにより、前記第二基板を前記主面に固定するステップと、を含む、請求項12に記載のレンズの製造方法。
【請求項14】
前記接着剤を設けるステップの後、
前記第一基板および前記第二基板を密閉容器内に配置するステップと、
前記密閉容器内の気圧を大気圧よりも低い気圧に減圧するステップと、
減圧された前記密閉容器内において、前記第一基板と前記第二基板とを貼り合わせるステップと、
前記密閉容器内の気圧を大気圧に戻すステップと、を含む、請求項13に記載のレンズの製造方法。
【請求項15】
前記貼り合わせるステップの後、貼り合わされた状態の前記第一基板と前記第二基板とを、所定時間保持するステップを、さらに含む、請求項14に記載のレンズの製造方法。
【請求項16】
前記固定するステップは、前記第一基板の主面と隙間を介して対向した状態で、前記第二基板を配置するステップと、光硬化型の接着剤を前記隙間に流し込むステップと、前記接着剤に光線を照射して硬化させることにより、前記第二基板を前記主面に固定するステップと、を含む、請求項13に記載のレンズの製造方法。
【請求項17】
前記固定するステップの後、前記第一基板に後加工を施すステップを、さらに含む、請求項12~16の何れか一項に記載のレンズの製造方法。
【請求項18】
前記第二基板が、フォトクロミックレンズであり、
前記固定するステップにおいて、前記光線を、前記第一基板の裏側から照射する、請求項16に記載のレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイウェア用のレンズおよびレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動電圧の印加によって駆動する電気素子、たとえば、屈折率が変化する液晶レンズを有するレンズを備えるアイウェアが開発されている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-522842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなアイウェアにおいて、用途に応じた光学特性を有するレンズが望まれている。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであり、用途に応じた光学特性を有するレンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレンズは、アイウェア用のレンズであって、主面を有し、透明な第一基板と、主面と対向して配置され、所定の波長域の光に対する透過率が第一基板と異なる第二基板と、第一基板と第二基板との間に設けられ、液晶層を有し、電気的制御により光学特性が変化する電気素子と、第一基板と第二基板との間に設けられた接着層とを備える。
このようなレンズを実施する場合に、第一基板は、場所によってレンズの光軸の方向における厚さ寸法が異なってもよい。
又、第二基板は、全体にわたり光軸の方向における厚さ寸法が等しくてもよい。
又、第二基板は、ユーザがアイウェアを装着した状態において、第基板よりもユーザから遠い側に配置されてもよい。
更に、第二基板は、透過率を第一基板と異ならせるための添加剤であって、第一基板に含まれない添加剤が練り込まれていてもよい。



【0007】
本発明に係るレンズの製造方法は、上述のアイウェア用のレンズの製造方法であって、電気的制御により光学特性が変化する電気素子を第一基板に設けるステップと、所定の波長域の光に対する透過率が前記第一基板と異なる第二基板を、第一基板に固定するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、用途に応じた光学特性を有するレンズを提供することを課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る電子メガネの斜視図である。
図2図2は、電子メガネの内部回路を示すブロック図である。
図3図3は、図1のA-A線断面図である。
図4図4は、レンズの正面図である。
図5図5は、実施形態1に係るレンズの製造方法のフローチャートである。
図5A図5Aは、図5に示すステップS110の工程を説明するための中間組立体の断面図である。
図6図6は、本発明の実施形態2に係るセミフィニッシュドレンズの正面図である。
図7図7は、図6のB-B線断面図である。
図8A図8Aは、セミフィニッシュドレンズの製造方法における第一工程を説明するための断面図である。
図8B図8Bは、セミフィニッシュドレンズの製造方法における第二工程を説明するための断面図である。
図8C図8Cは、セミフィニッシュドレンズの製造方法における第三工程を説明するための断面図である。
図8D図8Dは、セミフィニッシュドレンズの製造方法における第四工程を説明するための断面図である。
図8E図8Eは、セミフィニッシュドレンズの製造方法における第五工程を説明するための断面図である。
図8F図8Fは、セミフィニッシュドレンズの製造方法における第六工程を説明するための断面図である。
図9図9は、実施形態2に係るレンズの断面図である。
図10図10は、実施形態2に係るセミフィニッシュドレンズの製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。以下の説明では、本発明に係るアイウェア用のレンズの代表例として、電気的制御によって、その光学特性を変化させることができる電気素子を有する視力矯正用のレンズについて説明する。
【0011】
[実施形態1]
図1図4を参照して、本発明の実施形態1に係る電子メガネ100について説明する。
【0012】
<電子メガネについて>
図1は、本実施形態に係る電子メガネ100の構成の一例を示す斜視図である。図2は、電子メガネ100の内部回路を示すブロック図である。電子メガネ100は、フレーム10、一対のレンズ11、制御部13、検出部14、および一対の電源15を有する。
【0013】
<フレームについて>
フレーム10は、フロント101および一対のテンプル102を有する。なお、以下、フロント101が配置される部分を電子メガネ100の正面(前方)とする。一対のテンプル102は、制御部13、検出部14、および一対の電源15を保持する。なお、一対の電源15は、何れか一方のみでもよい。この場合には、電源15は、一対のテンプル102のうちの一方のテンプル102(たとえば、右用のテンプル102)にのみ保持される。
【0014】
電子メガネ100のユーザ(装着者)は、テンプル102に設けられた検出部14を操作(たとえば、タッチ操作)することにより、レンズ11の液晶レンズ部11aの光学特性(たとえば、透過率)を切り替える。
【0015】
ユーザにより検出部14が操作されると、制御部13は、当該操作に基づいて、液晶レンズ部11aに電圧を印可した状態と、電圧を印可しない状態とを切り替える。
【0016】
<レンズについて>
図3は、図1のA-A線断面図である。図4には、電子メガネ100を前方から見たときに、左側に配置されるレンズ11が示される。
【0017】
以下、レンズ11の構成を説明するにあたり、説明の便宜のために、直交座標系(X,Y,Z)を使用する。各図に示される直交座標系(X,Y,Z)は、共通の直交座標系である。
【0018】
X方向は、アイウェアをユーザが装着した状態(以下、単に「装着状態」という。)において、ユーザの左右方向に一致する。Y方向は、装着状態において、ユーザの上下方向に一致する。Z方向は、装着状態において、ユーザの前後方向およびレンズ11の光軸の方向に一致する。
【0019】
また、以下の説明において、特に断ることなく「厚さ方向」といった場合には、レンズ11の厚さ方向を意味する。厚さ方向は、上述の直交座標系のZ方向に一致する。
【0020】
また、各部材の「表面」は、装着状態において、ユーザから遠い側(Z方向+側)の面である。一方、各部材の「裏面」は、装着状態において、ユーザに近い側(Z方向-側)の面である。
【0021】
本実施形態の場合、レンズ11は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する。ただし、図3において、レンズ11の曲率は、ゼロとして示される。
【0022】
一対のレンズ11は、電子メガネ100を正面視したときに、左右対称となるように形成されており、互いに同一の構成要素を有する。そこで、以下の説明では、電子メガネ100の右目用のレンズ11について説明し、左目用のレンズ11については、その説明を省略する。
【0023】
レンズ11は、液晶レンズ部11a、および、液晶レンズ部11a以外の部分である通常レンズ部11bを有する。
【0024】
液晶レンズ部11aは、電圧によりその焦点距離(度数)を切替え可能である。図3に示されるように、液晶レンズ部11aは、後方側(Z方向-側)から順に、第一基板111、第一電極112、液晶層113、第二電極114、および第二基板115を有する。なお、第一電極112、液晶層113および第二電極114は、電気素子を構成する。
【0025】
通常レンズ部11bは、後方側から順に、第一基板111、第一電極112、接着層116、第二電極114、および第二基板115を有する。液晶レンズ部11aと通常レンズ部11bとは、第一基板111、第一電極112、第二電極114、および第二基板115を共有する。液晶レンズ部11aおよび通常レンズ部11bの構成要素はそれぞれ、可視光に対して透光性を有する。
【0026】
<第一基板について>
第一基板111は、Z方向+側(図3の上側)に向かって凸状に湾曲する板状である。第一基板111の表面111aは、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する凸曲面である。また、第一基板111の裏面111bは、Z方向+側に向かって凹状に湾曲する凹曲面である。
【0027】
第一基板111は、場所によって、レンズ11の光軸の方向における厚さ寸法が異なる。たとえば、近視矯正用のレンズ(マイナスレンズともいう。)の場合には、第一基板111は、外周縁における厚さ寸法が、最も大きい。また、遠視矯正用のレンズ(プラスレンズともいう。)の場合には、第一基板111は、外周縁における厚さ寸法が、最も小さい。なお、第一基板111は、全体にわたり、レンズ11の光軸の方向における厚さ寸法が等しくてもよい。
【0028】
なお、表面111aおよび裏面111bはそれぞれ、単一の曲率を有する球面であってもよいし、複数の曲率を有する複合曲面であってもよい。また、表面111aおよび裏面111bの少なくとも一方の面は、平面であってもよい。
【0029】
第一基板111は、表面111aの液晶レンズ部11aに対応する部分に、回折領域111cを有する。回折領域111cは、中央部分に配置される半球状の凸部111dと、凸部111dを中心とした同心円上に配置される複数の円環状の第一凸条111eとを有する。
【0030】
凸部111dおよび第一凸条111eの形状の例として、フレネルレンズ形状が挙げられる。なお、凸部111dおよび第一凸条111eは、一部がフレネルレンズ形状であってもよいし、全部がフレネルレンズ形状であってもよい。
【0031】
第一基板111は、無機ガラスまたは有機ガラスから造られる。第一基板111は、有機ガラスから造られるのが好ましい。有機ガラスは、熱硬化性ポリウレタン類、ポリチオウレタン類、ポリエポキシド類、もしくはポリエピスルフィド類からなる熱硬化性材料、もしくはポリ(メタ)アクリレート類からなる熱可塑性材料、または、これらの共重合体もしくは混合物からなる熱硬化性(架橋した)材料の何れかである。ただし、第一基板111の材料は、これらに限定されず、レンズの材料として使用される公知の材料が採用されうる。また、レンズの厚み軽減などの観点から、第一基板111および第二基板115の屈折率は高いことが好ましい。第一基板111および第二基板115の屈折率は、1.55以上であることが好ましく、1.65以上であることがより好ましい。
【0032】
<第一電極および第二電極について>
第一電極112および第二電極114は、透光性を有する一対の透明電極である。第一電極112は、第一基板111と液晶層113との間に配置される。第二電極114は、液晶層113と第二基板115との間に配置される。
【0033】
第一電極112および第二電極114は、少なくとも液晶層113に電圧を印加できる範囲(液晶レンズ部11a)に亘って配置されていればよい。
【0034】
第一電極112および第二電極114の材料は、所期の透光性および導電性を有していれば特に限定されない。第一電極112および第二電極114の例として、酸化インジウムスズ(ITO)および酸化亜鉛(ZnO)などが挙げられる。第一電極112および第二電極114の材料は、互いに同じで、または異なっていてもよい。
【0035】
<液晶層について>
液晶層113は、第一電極112と第二電極114との間に配置される。液晶層113は、電圧の印加の有無に応じて、その屈折率が変化するように構成される。たとえば、液晶層113の屈折率は、液晶層113に電圧が印加されていない状態において、第一基板111の屈折率および第二基板115の屈折率とほぼ同じであるように調整される。一方、液晶層113の屈折率は、液晶層113に電圧が印加されている状態において、第一基板111の屈折率および第二基板115の屈折率と異なるように調整される。
【0036】
液晶層113は、液晶材料を含有する。電圧が印加されているときの当該液晶材料の配向状態と、電圧が印加されていないときの当該液晶材料の配向状態とは、互いに異なる。液晶材料は、第一基板111の屈折率および第二基板115の屈折率に応じて、適宜選択されうる。たとえば、液晶材料は、コレステリック液晶やネマチック液晶などにより構成されうる。
【0037】
<第二基板について>
第二基板115は、第一基板111よりも前方に、第一基板111の表面111aに対向する状態で配置される。第二基板115は、前方側に向かって凸状に湾曲する板状である。第二基板115の表面115aは、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する凸曲面である。第一基板111の裏面115bは、Z方向+側に向かって凹状に湾曲する凹曲面である。
【0038】
第二基板115は、全体にわたり、レンズ11の光軸の方向における厚さ寸法が等しい。本実施形態において、第二基板115の上記光軸の方向における厚さ寸法が等しいとは、±10%の誤差(±0.1W)を含んでよい。なお、第二基板115は、場所によって、レンズ11の光軸の方向における厚さ寸法が異なってもよい。また、表面115aおよび裏面115bはそれぞれ、単一の曲率を有する球面であってもよいし、複数の曲率を有する複合曲面であってもよい。また、表面115aおよび裏面115bの少なくとも一方の面は、平面であってもよい。
【0039】
第二基板115は、所定の波長域の光に対する透過率が第一基板111と異なる。このために、第二基板115は、第一基板111が有していない添加剤を含む。なお、第二基板115の基材は、第一基板111と同じである。また、第二基板115の屈折率(第二屈折率)と、第一基板111の屈折率(第一屈折率)とは等しい。本実施形態において、第一屈折率と第二屈折率とが等しいとは、第一屈折率と第二屈折率との差が±0.1の範囲を含んでよい。
【0040】
添加剤として、フォトクロミック化合物、紫外線を選択的に吸収する選択吸収剤(以下、「紫外線吸収剤」という。)、高エネルギー可視光線(400~500nmのうち、特に400~420nmの短波調光)である青色光を選択的に吸収する選択吸収剤(以下、「青色選択吸収剤」という。)、希土類金属化合物(たとえばネオジム化合物)、および有機系色素(たとえばポルフィリン化合物)などが挙げられる。
【0041】
フォトクロミック化合物が添加されたレンズは、屋内では透明色のレンズとして機能し、屋外では太陽光(紫外線)に反応してレンズがグレー、ブラウンなどに発色し、眩しさから目を守る機能を発揮する。フォトクロミック化合物を添加されたレンズが発色していない状態を、第二基板の通常状態と称することもある。フォトクロミック化合物を添加されたレンズが発色した状態を、第二基板の発色状態と称することもある。このようなレンズを有する眼鏡は、屋内および屋外の両方での使用に対応する高機能な眼鏡であり、近年、その需要が拡大している。
【0042】
フォトクロミック化合物として、種々のものを用いることができる。例えば、フォトクロミック化合物として、国際公開第2012/141306号パンフレット、特開2004-78052号公報、国際公開第2014/208994号パンフレット、特開平8-272036号公報、特開2005-23238号公報、および、特開2008-30439号公報に記載のフォトクロミック化合物が挙げられる。
【0043】
具体的には、フォトクロミック化合物として、スピロピラン系化合物、クロメン系化合物、スピロオキサジン系化合物、フルギド系化合物、および、ビスイミダゾール系化合物の中から所望の着色に応じて、1種または2種以上を混合したフォトクロミック化合物が挙げられる。
【0044】
また、フォトクロミック化合物は、公知の方法で合成することができる。たとえば、特表2004-500319号、国際公開第2009/146509号パンフレット、国際公開第2010/20770号パンフレット、国際公開第2012/149599号パンフレット、および、国際公開第2012/162725号パンフレットに記載の方法により得られる。
【0045】
紫外線吸収剤が添加されたレンズは、紫外線による障害から目などを保護することができる。近年、波長400nm以下の紫外線は、角膜や水晶体に悪影響を及ぼすことが知られており、このような紫外線を効果的に吸収できるレンズが求められている。
【0046】
たとえば、第一基板111および第二基板115にポリウレタン系樹脂原料であるイソ(チオ)シアナート、ポリチオールを用いる場合、2-[2-ヒドロキシ-3-(ジメチルベンジル)-5-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、イソオクチル-3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾールといったベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を添加し、ポリウレタン系樹脂を製造する。このようなポリウレタン系樹脂は、光学物性低下のない無色透明で高い紫外線カット率を有する。このようなポリウレタン系樹脂から第一基板111および第二基板115と同様の組成を有しかつ厚み9mmの樹脂板を作成した場合、この樹脂板の400nmの光に対する光線カット率は、99.8%以上となる。
【0047】
なお、紫外線吸収剤は、2-[2-ヒドロキシ-3-(ジメチルベンジル)-5-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、イソオクチル-3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ペンチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、および、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0048】
また、紫外線吸収を目的とした場合の紫外線吸収剤の添加量は、重合性組成物に対し0.03~1.5wt%が好ましく、0.05~0.5wt%だとさらに好ましい。
【0049】
また、高エネルギー可視光線(波長が400~420nmの範囲にある交線)のカットを目的とした場合の、紫外線吸収剤は、クロロホルム溶液に溶解させた際の極大吸収波長が350nm以上370nm以下に極大吸収波長を有するものであれば特に限定されないが、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、又は、サリチル酸エステル系化合物を用いることができる。紫外線吸収剤としては、これら紫外線吸収剤の1種以上を用いることが好ましく、異なる2種以上の紫外線吸収剤を含有してもよい。たとえば、ベンゾトリアゾール系化合物である、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤が好ましい。
【0050】
高エネルギー可視光線のカットを目的とした場合の紫外線吸収剤の添加量は、光学材料用樹脂または重合性化合物の重量総和に対し0.3~2重量%、好ましくは0.3~1.5重量%、より好ましくは0.3~1.2重量%の範囲である。
【0051】
なお、高エネルギー可視光線のカットを目的とした場合、紫外線吸収剤を含む第一基板111および第二基板115と同様の組成を有しかつ厚み2mmの試験体において、波長が440nmである光に対する上記試験体の光透過率は、80%以上、好ましくは85%以上であり、波長が420nmである光に対する上記試験体の光透過率は、70%以下、好ましくは50%以下であり、かつ、波長が410nmである光に対する上記試験体の光透過率は、10%以下であり、好ましくは5%以下である。
【0052】
上述の光透過率の範囲であれば、波長が420nm程度である青色光に対する遮断効果が高く、かつ、無色透明であり外観に優れたレンズを得ることができる。また、波長が440nmの光に対する光透過率を80%以上とすることにより、無色透明であり外観に優れた成形体(光学材料)を得ることができる。なお、これらの数値範囲は任意に組み合わせてよい。
【0053】
また、青色選択吸収剤が添加されたレンズは、高エネルギー可視光線(HEV light:波長が400~500nmの光線)による障害から目などを保護することができる。近年、高エネルギー可視光線は、網膜まで光線が届くため、長期的には加齢性黄斑変性症の原因になると考えられており、特に波長が400~420nmの短波調光は網膜細胞にダメージを与えるものと考えられていることから、高エネルギー可視光線の中で特に波長が400~420nmの領域(可視光短波長領域ともいう。)の光線をカットできるレンズが求められている。このようなレンズは、網膜細胞のダメージを低減し加齢性黄斑変性症の原因を低減できる。なお、レンズは、波長が420nmである光に対して約5%以下の光カット率を有すると好ましい。
【0054】
希土類金属化合物は、コントラストを高め鮮明に見える効果や防眩効果を付与する。希土類金属化合物は、可視光線領域での吸収波長帯における吸光スペクトルのピーク形状が極めてシャープであるため、吸収できる波長の領域が狭い。このため、希土類金属化合物は、眩しさを与え易い波長帯を選択的に遮光できる。このような希土類金属化合物の特性は、視認性に必要な波長帯を透過させるとともに、眩しさに悪影響を与える波長帯を選択的に吸収することができるため、防眩性と視認性とを兼ね備えたレンズを実現できる。一例として、波長が585nm付近である可視光を波長選択的に吸収できる希土類金属化合物をレンズに添加すると、効果的な防眩性を得ることができる。
【0055】
このような希土類金属化合物は、希土類金属イオンを含む化合物であってよい。希土類金属イオンは、必要とする光学的性質(つまり、光吸収特性)に応じて適宜選択されてよい。たとえば、三価のネオジムイオンは、可視光線域おいて575nmおよび525nm付近に吸収ピークを有する。また、三価のエルビウムイオンは、520nm付近に吸収ピークを有する。また、三価のプラセオジムイオンは、575nmおよび445nm付近に吸収ピークを有する。また、三価のホルミウムイオンは、535nmおよび450nm付近に吸収ピークを有する。このような希土類金属イオンの吸収ピークを考慮して、それぞれの用途に適した希土類金属を選択すればよい。
【0056】
本実施形態において採用され得る希土類金属イオンは、一例として、ネオジム、エルビウム、プラセオジム、ホルミウム、ジスプロシウム、ツリウム、イッテルビウム、および、ルテチウムから選択されてよい。希土類金属イオンは、ネオジム、エルビウム、プラセオジム、および、ホルミウムから選択されると好ましい。また、希土類金属イオンは、ネオジムおよびエルビウムから選択されると、より好ましい。希土類金属イオンとして、ネオジムが最も好ましい。なお、希土類金属化合物に含まれる希土類金属イオンの種類は、単数であってもよいし、複数であってもよい。一例として、光の三原色のコントラストを高め、鮮明に見えるフィルターを製作することを目的とした場合は、ネオジムイオンが単独であるいはエルビウムイオンと組み合わせて用いられてよい。
【0057】
ネオジム化合物を添加されたレンズは、波長が585nm付近であるイエローライトを選択的にカットして眩しさを低減することにより、明るさの差、色の差を見分ける力をアシストする。ネオジム化合物を添加されたレンズは、波長が585nm付近である光に対して約60%程度のカット率を有すると好ましい。また、ネオジム化合物を添加されたレンズは、波長が580nmである光に対して60%以上90%以下の透過率を有すると好ましい。
【0058】
また、ポルフィリン化合物としては、440~570nmの間の波長領域に吸収極大波長を有し、濃度0.01g/Lトルエン溶液の光路長10mmで測定した吸収スペクトルにおいて、吸収ピークの半値幅が10nm以上40nm未満、より好ましくは15nm以上35nm未満である化合物が好ましい。また、ポルフィリン化合物としては、440~510nmの間の波長領域に吸収極大波長を有する化合物、520~570nmの間の波長領域に吸収極大波長を有する化合物が、より好ましい。
【0059】
以下、フォトクロミック化合物が添加された第二基板115を、フォトクロミックレンズと称する。また、青色選択吸収剤を添加された第二基板115を、ブルーライトカットレンズと称する。さらに、ネオジム化合物が添加された第二基板115を、ネオコントラストレンズと称する。
【0060】
フォトクロミック化合物を第二基板115に添加する方法として、たとえば、コーティング、染色、および練り込みが挙げられる。
【0061】
コーティングの場合には、第二基板115は、表面115aおよび裏面115bのうちの少なくとも一方の面(以下、「被覆面」という。)に、フォトクロミック化合物を含むコーティング層を有する。このようなコーティング層は、被覆面にコーティング組成物を塗布し、硬化させることにより形成される。コーティング組成物の硬化方法の例として、紫外線または可視光線などの光エネルギー線を照射して光硬化する方法(以下、「光硬化方法」という。)、および、熱エネルギーを加えて熱硬化する方法(以下、「熱硬化方法」という。)などが挙げられる。このようなコーティング工程は、第二基板115が第一基板111に固定される前の状態で行われる。
【0062】
また、染色の場合には、第二基板115は、所定の温度に温められた染色液に浸されることにより、フォトクロミック化合物を添加される。このような染色工程は、第二基板115が第一基板111に固定される前の状態で行われると好ましい。
【0063】
また、練り込みの場合には、第二基板115は、溶融した基材にフォトクロミック化合物を練り込み、型に流し込んで固めることにより形成される。このような練り込み工程は、当然、第二基板115が第一基板111に固定される前の状態で行われる。
【0064】
フォトクロミック化合物が添加された第二基板115は、光(紫外線)の量に応じて、透明着色状態と透明状態との間を連続的に変化するフォトクロミック機能を有する。
【0065】
たとえば、フォトクロミック化合物を添加された(練り込まれた)第二基板115は、発色状態において、波長380nmの光に対する透過率を8%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下まで抑制できる。
【0066】
フォトクロミック化合物を含む第二基板115のフォトクロミック性能(発色性能)について説明する。まず、フォトクロミック化合物を含む第二基板115と同等の組成で厚さ2.0mmの試験体(不図示)を作る。次に、アズワン社製ハンディUVランプSLUV-6を用いて、上記試験体に、波長が365nmである紫外線を高さ155mmの位置から10分間照射する。そして、色彩色差計(コニカミノルタ社製CR-200)を使用して、UV照射前後の試験体の色相におけるL*値、a*値、および、b*値を測定する。フォトクロミック化合物を含む第二基板115のフォトクロミック性能(発色性能)は、UV照射前後のL*値、a*値、および、b*値を基に、下記式1より色相の変化量を算出した値(ΔE*ab)が、15以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。なお、照射前の成形体の色相におけるL*値、a*値、および、b*値をそれぞれ、L*、a*、および、b*とする。また、照射後の成形体の色相におけるL*値、a*値、および、b*値をそれぞれ、L*、a*、および、b*とする。フォトクロミック性能(発色性能)を算出する場合、下記式1において、ΔL*は、L*とL*との差(ΔL*=L*-L*)であり、Δa*は、a*とa*との差(Δa*=a*-a*)であり、Δb*は、b*とb*との差(Δb*=b*-b*)である。
【0067】
ΔE*ab=[(ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2 ・・・ (1)
【0068】
次に、フォトクロミック化合物を含む第二基板115のフォトクロミック性能(退色性能)について説明する。まず、フォトクロミック化合物を含む第二基板115と同等の組成で厚さ2.0mmの試験体(不図示)を作る。次に、アズワン社製ハンディUVランプSLUV-6を用いて、上記試験体に、波長が365nmである紫外線を高さ155mmの位置から10分間照射する。そして、紫外線を照射された試験体を遮光された暗所に10分間静置した後、色彩色差計(コニカミノルタ社製CR-200)により、この試験体の色相におけるL*値、a*値、および、b*値を測定する。フォトクロミック化合物を含む第二基板115のフォトクロミック性能(退色性能)は、UV照射前の試験体のL*値、a*値、およびb*値、ならびに、UV照射後10分間静置した時の試験体のL*値、a*値、およびb*値、に基づいて、上記式1より色相の変化量を算出した値(ΔE*ab)が、5以上10未満であることが好ましく、5未満であることがより好ましい。フォトクロミック性能(退色性能)を算出する場合、上記式1において、ΔL*は、L*とL*との差(ΔL*=L*-L*)であり、Δa*は、a*とa*との差(Δa*=a*-a*)であり、Δb*は、b*とb*との差(Δb*=b*-b*)である。
【0069】
また、青色選択吸収剤を、第二基板115に添加する方法として、たとえば、コーティングおよび練り込みが挙げられる。青色選択吸収剤は、380nm以上500nm以下の波長域の光を選択的に吸収する機能を有する。
【0070】
コーティングの場合には、第二基板115は、表面115aおよび裏面115bのうちの少なくとも一方の面に、青色選択吸収剤を含むコーティング層を有する。このようなコーティング層は、被覆面にコーティング組成物を塗布し、硬化させることにより形成される。コーティング組成物の硬化方法は、フォトクロミック化合物の場合と同様である。このようなコーティング工程は、第二基板115が第一基板111に固定される前の状態で行われる。
【0071】
また、練り込みの場合には、第二基板115は、溶融した基材に青色選択吸収剤を練り込み、型に流し込んで固めることにより(たとえば、射出成形により)形成される。このような練り込み工程は、当然、第二基板115が第一基板111に固定される前の状態で行われる。
【0072】
青色選択吸収剤を含む第二基板115の青色光カット率の測定方法について説明する。先ず、2mm厚のプラノーレンズまたは2mm厚の樹脂平板である試験体を作る。次に、日本分光製UV-VISスペクトロメータで、試験体の吸収スペクトルを測定する。そして、試験体の青色光カット率を算出する。なお、青色光カット率は、100から、波長が380~500nmである光に対する試験体の平均透過率を減じた値である。
【0073】
また、青色選択吸収剤を含む第二基板115の光透過率の測定方法について説明する。先ず、2mm厚のプラノーレンズまたは2mm厚の樹脂平板である試験体を作る。次に、日本分光製UV-VISスペクトロメータで、試験体の800nm~250nmの間の吸収スペクトルを測定し、各波長におけると透過率を測定する。
【0074】
また、青色選択吸収剤を含む第二基板115の屈折率およびアッベ数は、島津製プルフリッヒ屈折計KPR-30を用い、20℃にて測定する。
【0075】
また、ネオジム化合物などの希土類金属化合物又はポルフィリン化合物などの有機系色素を、第二基板115に添加する方法として、たとえば、練り込みが挙げられる。練り込みの場合には、第二基板115は、溶融した基材にネオジム化合物を練り込み、型に流し込んで固めることにより形成される。このような練り込み工程は、当然、第二基板115が第一基板111に固定される前の状態で行われる。
【0076】
前述のように、何れの添加剤の場合でも、当該添加剤を第二基板115に添加する工程は、第二基板115が第一基板111に固定される前の状態で行われるのが好ましい。
【0077】
前述のような添加剤を練り込みにより添加する場合には、第二基板115の厚さ寸法が場所によって異なると、厚さ寸法に応じて、正面視した際のレンズ11に色むらが生じる。具体的には、第二基板115において、厚さ寸法が大きい部分の色が濃くなり、厚さ寸法が小さい部分の色が薄くなる。一方、第二基板115の厚さ寸法が全体にわたり等しいと、正面視した際のレンズ11に色むらが生じ難くなる。
【0078】
なお、添加剤は、上述の添加剤に限定されない。添加剤としては、所定の波長域の光に対する第二基板115の透過率を第一基板111の透過率と異ならせることができる、種々の添加剤が選択されうる。
【0079】
また、添加剤をコーティング層により第二基板115に添加する場合には、コーティング層は、複数種類の層からなる多層構造でもよい。すなわち、第二基板115は、フォトクロミック化合物を含むコーティング層、青色選択吸収剤を含むコーティング層、およびネオジム化合物を含むコーティング層から選択される複数のコーティング層を有していてもよい。
【0080】
接着層116は、通常レンズ部11bにおいて、第一基板111と第二基板115との間に配置されており、第一基板111と第二基板115とを接着する。第一電極112および第二電極114が、通常レンズ部11bにも配置される場合には、接着層116は、第一電極112と第二電極114との間に配置される。また、接着層116は、液晶層113を構成する液晶材料を封止する機能も有する。
【0081】
接着層116は、接着剤の硬化物により構成される。当該接着剤の材料は、透光性を有し、かつ第一基板111と第二基板115とを適切に接着することができれば特に限定されない。レンズ11の光学パワーを調整する観点から、所期の屈折率を有する接着剤が選択されうる。
【0082】
接着層116を構成する接着剤は、紫外線または可視光線などの光エネルギー線を照射して光硬化する接着剤であると好ましい。このような接着剤は、硬化する際、第一基板111、第二基板115、および液晶レンズ部11aに熱が加わらないため、これら各部材の変形または損傷の防止に効果的である。
【0083】
レンズ11は、必要に応じて、透光性を有する他の構成要素をさらに有してもよい。当該他の構成要素の例には、絶縁層および配向膜が含まれる。
【0084】
絶縁層は、第一電極112と第二電極114との間の導通を防止する。たとえば、絶縁層は、第一電極112と液晶層113との間と、液晶層113と第二電極114との間とにそれぞれ配置される。絶縁層の材料としては、透光性を有する絶縁層として使用される公知の材料が使用されうる。絶縁層の材料として、二酸化ケイ素が挙げられる。
【0085】
配向膜は、液晶層113における液晶材料の配向状態を制御する。たとえば、配向膜は、第一電極112と液晶層113との間と、液晶層113と第二電極114との間とにそれぞれ配置される。配向膜の材料としては、液晶材料の配向膜として使用される公知の材料が使用されうる。配向膜の材料の例には、ポリイミドが含まれる。
【0086】
<レンズの製造方法について>
レンズ11は、たとえば、つぎのような製造方法により製造される。以下、図5を参照して、本実施形態に係るレンズ11の製造方法について説明する。
【0087】
まず、図5のステップS101において、作業者は、第一基板111を準備する。第一基板111は、射出成形など公知の方法で造られる。この時点で、第一基板111の平面視における外形は、レンズ11の平面視における外形と等しい形状に加工されている。第一基板111は、同一の構造のフレームに組み込まれるレンズ11において、共通部品である。したがって、第一基板111は、共通の製造方法で造られる。
【0088】
つぎに、図5のステップS102において、作業者は、第二基板115を準備する。このような第二基板115も、射出成形などの公知の方法で製造される。第二基板115は、同一構造のフレームに組み込まれるレンズ11において、所望の光学特性に応じて選択可能な非共通部品である。つまり、第二基板115については、所定の波長域の光に対する透過率が第一基板111と異なる複数種類の第二基板115が製造される。
【0089】
添加剤の添加方法がコーティングまたは染色の場合には、射出成形により造られた中間レンズに対して、コーティング処理または染色が施される。また、添加剤の添加方法が練り込みの場合には、射出成形の前に、射出成形で使用される溶融基材に対して添加剤を添加する。
【0090】
そして、作業者は、フォトクロミックレンズ、ブルーライトカットレンズ、およびネオコントラストレンズなどの光学特性が異なる複数種類の第二基板115の中から、所望の光学特性を有する第二基板115を選択する。
【0091】
つぎに、図5のステップS103において、作業者は、第一基板111上に第一電極112を設ける。
【0092】
つぎに、図5のステップS104において、作業者は、第二基板115上に第二電極114を設ける。なお、第一基板111上に第一電極112を設ける方法と、第二基板115上に第二電極114を設ける方法の例として、真空蒸着法およびスパッタリング法が挙げられる。このような方法は、いずれも電極を設ける部材(つまり、第一基板111および第二基板115)のガラス転移点「Tg」以下の温度で行われると好ましい。
【0093】
つぎに、図5のステップS105において、作業者は、第一電極112が設けられた第一基板111の回折領域111c上に液晶材料を配置するとともに、第一基板111の表面111aにおける回折領域111cおよび回折領域111cの周囲に存在する円輪状の予備領域111f(図5A参照)以外の部分に接着剤を配置する。
【0094】
予備領域111fは、ステップS105において、接着剤が塗布されない。予備領域111fは、接着剤の塗布パターンや塗布量、最終的な接着剤層の厚み、回折領域111cの大きさや形状、減圧の程度(後述するステップS107)などを考慮して形成される。
【0095】
接着剤は、複数の接着剤要素からなる。接着剤要素はそれぞれ、玉状であって、ジェットディスペンサー(不図示)により、第一基板111の表面111aに供給される。隣り合う接着剤要素同士は、接触しない。
【0096】
つぎに、図5のステップS106において、作業者は、液晶材料および接着剤が配置された第一基板111を、密閉容器(不図示)の内部空間に配置する。第一基板111は、固定部材(不図示)により密閉容器に対して固定される。
【0097】
また、図5のステップS106において、作業者は、第二電極114が設けられた第二基板115を、密閉容器の内部空間に配置する。第二基板115は、固定部材(不図示)により密閉容器に対して固定される。また、第二基板115は、第一基板111と所定の隙間を介して対向する。
【0098】
つぎに、図5のステップS107において、第一基板111および第二基板115が配置された内部空間の気圧を、真空ポンプにより、大気圧よりも低い気圧に減圧する。図5のステップS107の工程は、減圧工程と呼ばれる。
【0099】
つぎに、図5のステップS108において、第一基板111を、第二基板115に近づくように移動させる。第一基板111の移動させる手段は、手動であってもよいし、自動であってもよい。また、ステップS108において、第二基板115を、第一基板111に近づくよう移動させてもよい。
【0100】
ステップS108において、第一基板111の表面111aが、第二基板115の裏面115bに接すると、第二基板115の固定が解除される。すると、第二基板115の自重により、第二基板115の裏面115bが、第一基板111の表面111aに押圧される。このようにして第一基板111と第二基板115とが貼り合わされる。図5のステップS108の工程は、貼り合わせ工程と呼ばれる。
【0101】
つぎに、図5のステップS109において、第一基板111および第二基板115は、互いに貼り合わされた状態で、所定時間保持される。すると、第一基板111と第二基板115との間で隣り合うように配置された接着剤要素同士は、第二基板115により押圧されてつながる。この結果、接着剤は、回折領域111cの周囲を取り囲むように配置される。
【0102】
この状態において、第一基板111の予備領域111fと、第二基板115の裏面115bとの間には、予備空間111g(図5A参照)が形成される。予備空間111gおよび回折領域111cは、接着剤により外部空間から隔離される。図5のステップS109の工程は、待機工程と呼ばれる。本実施形態では、予備領域111fの外周縁と回折領域111cの外周縁との距離を、予備領域111fの外周縁付近における接着剤要素同士の塗布間隔よりも大きくしているため、予備空間111gが形成されやすい。
【0103】
つぎに、図5のステップS110において、密閉容器内の気圧は、大気圧に復圧される。このとき、回折領域111cの周囲の予備空間111gは、接着剤により囲まれているために、予備空間111gに向かって接着剤が引き込まれる。また、接着剤は粘性を持っているので、流れ込む速度が復圧速度に追いつかないと、予備空間111g内は負圧となる。
【0104】
予備空間111g内が負圧であるため、第二基板115は、大気圧により第一基板111に押し付けられる。その結果、液晶材料は、回折領域111cの全体に行き渡る。また、接着剤は、回折領域111cを除く第一基板111の凸状の湾曲面全体に行き渡って、図3に示すように、予備空間111gはほぼ消滅する。図5のステップS110の工程は、復圧工程と呼ばれる。
【0105】
ここで、液晶材料の塗布量は、復圧工程の段階において、液晶材料が第二基板115における表面張力によって回折領域111c上に保持される程度の量としている。このため、予備空間111gへ引き込まれるのは、接着剤のみであり、液晶材料が引き込まれることはない。すなわち、接着剤と液晶材料とが混ざることはないため、接着層における接着強度を高めることができる。
【0106】
最後に、図5のステップS111において、作業者は、接着剤を硬化させる。以上の工程により、レンズ11が造られる。なお、接着剤の硬化方法は、前述の通りである。第二基板115がフォトクロミックレンズの場合には、第一基板111の後面側から光を照射して接着剤を硬化させる。これは、前面側、すなわち、第二基板115の前面側から光を照射すると、フォトクロミックレンズである第二基板115が光を吸収して硬化しないからである。
【0107】
接着剤の硬化方法が、光硬化方法であれば、上述のステップS111において、レンズ11の構成部材に、第一基板111および第二基板115のガラス転移点「Tg」より高い温度の熱が加わることはない。以上のような図5のステップS106~ステップS111で行う処理は、真空接合と呼ばれる。
【0108】
なお、接着剤は、第二基板115における、第一基板111の回折領域111c以外の部分と対向する部分に配置されてもよい。また、前述のステップS101~S111の順序は、技術的に矛盾しない範囲で、適宜入れ替えられる。また、技術的に矛盾しない範囲で、前述のステップS101~S111は、並列に実施されもよい。また、前述の製造方法を実施する主体は、人に限らず、機械でもよい。また、必要に応じて、図5のステップS111の後に、レンズ11の表面および裏面の少なくとも一方の面に、コーティング加工、切削加工、研削加工、または研磨加工などの後加工を施してもよい。
【0109】
<本実施形態の作用・効果について>
以上のような構成を有する本実施形態によれば、第二基板115が有する添加剤を変えることにより、ユーザの用途に応じた光学特性を有するレンズ11を提供できる。
【0110】
また、第一基板と第二基板とを貼り合わせたレンズに特殊な光学特性を付与する場合、貼り合わせ工程の後に、光学特性を付与する工程(たとえば、コーティング工程)が必要となるため、生産効率が低下する可能性がある。一方、本実施形態の場合、第一基板111と第二基板115とを貼り合わせる前の状態で、特殊な光学特性を備えた複数種類の第二基板115と、共通部品である第一基板111とを用意できる。そして、複数種類の第二基板115から所望の光学特性を備えた第二基板115を選び、第一基板111に貼り合わせる。すなわち、本実施形態の場合、第二基板115に光学特性を付与する工程は、貼り合わせ工程の後に行われない。このような本実施形態の構成は、貼り合わせたレンズに特殊な光学特性を付与する場合と比べて、生産効率の向上(つまり、製造時間の短縮)に効果的である。
【0111】
また、本実施形態の場合、第二基板115の厚さ寸法が全体にわたり等しい。このため、添加剤を練り込みにより添加する場合でも、第二基板115に色むらが生じ難くなる。よって、正面視した際のレンズ11に色むらが生じ難くなる。
【0112】
さらに、本実施形態の場合、第二基板115に添加剤を添加する工程は、第二基板115が第一基板111に固定される前に行われる。このため、添加剤を添加する工程において、第二基板115に熱を加える場合でも、第一基板111および液晶層113に熱が加わることはない。このような本実施形態の構成は、第一基板111および液晶層113の変形または損傷の防止に効果的である。
【0113】
[実施形態2]
図6図10を参照して、本発明に係る実施形態2のセミフィニッシュドレンズ20について説明する。図6は、セミフィニッシュドレンズ20の正面図である。図7は、図6のB-B線断面図である。
【0114】
セミフィニッシュドレンズ20は、後加工により前述した実施形態1のレンズ11へと加工される。このようなセミフィニッシュドレンズ20も、本発明の対象である。
【0115】
セミフィニッシュドレンズ20は、第一中間基板21、第一接着層22、フィルム素子23、スペーサ部材24、第二中間基板25、第二中間接着層26、および固定部材27を有する。
【0116】
<第一中間基板について>
図7を参照して、第一中間基板21(第一基板ともいう。)について説明する。第一中間基板21は、表面21aおよび裏面21bを有する透明な板状部材からなる光学素子である。具体的には、第一中間基板21は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する円板状である。第一中間基板21の表面21aは、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する凸曲面である。第一中間基板21の裏面21bは、Z方向+側に向かって凹状に湾曲する凹曲面である。
【0117】
表面21aは、仕上加工により光学面に仕上げられている。一方、裏面21bは、仕上加工を施されていない、未完成面である。このような裏面21bは、後加工により光学面に仕上げられる。
【0118】
本実施形態の場合、表面21aは、単一の曲率を有する球面である。一方、裏面21bも、単一の曲率を有する球面である。裏面21bは、後加工により、たとえば、ユーザの視力に応じた形状に加工される。
【0119】
なお、表面21aおよび裏面21bの少なくとも一方の面は、複数の曲率を有する複合曲面であってもよい。また、表面21aおよび裏面21bの少なくとも一方の面は、平面であってもよい。
【0120】
第一中間基板21の材料は、前述した実施形態1の第一基板111の材料と同様である。
【0121】
<第一接着層について>
図7を参照して、第一接着層22について説明する。第一接着層22は、第一中間基板21の表面21aとフィルム素子23の裏面との間に配置されて、フィルム素子23と第一中間基板21とを固定する。このような第一接着層22は、外形が、後述するフィルム素子23とほぼ同形状のシート状部材である。第一中間基板21に固定された状態において、第一接着層22は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する。
【0122】
第一接着層22は、たとえば、光学用感圧接着剤、熱硬化型接着剤、または紫外線硬化型接着剤からなるフィルム状の接着剤により構成される。
【0123】
<フィルム素子について>
図7を参照して、フィルム素子23の構造について説明する。フィルム素子23(電気素子ともいう。)は、電気的制御により光学特性が変化するフィルム状の光学素子である。このようなフィルム素子23は、第一接着層22を介して第一中間基板21の表面21aに固定される。第一中間基板21に固定された状態において、フィルム素子23は、第一中間基板21の表面21aに沿うように、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する。
【0124】
図示は省略するが、フィルム素子23は、第一フィルム部材と第二フィルム部材との間に、第一フィルム側から順に、内側第一電極、液晶層、および内側第二電極が配置された積層構造である。内側第一電極および内側第二電極は、前述した実施形態1の第一電極112および第二電極114に対応する。液晶層は、実施形態1の液晶層113に対応する。第一フィルム部材と第二フィルム部材とは、周縁同士を、接着層により固定されている。接着層は、第一フィルム部材と第二フィルム部材とを固定するとともに、液晶層を構成する液晶材料を封止する機能も有する。このようなフィルム素子23としては、公知のフィルム素子を採用できるため、詳しい説明は省略する。なお、フィルム素子23の代わりに、電気素子として、前述した実施形態1の液晶レンズ部11aの構成を採用してもよい。
【0125】
<スペーサ部材について>
図7を参照して、スペーサ部材24について説明する。スペーサ部材24は、第一中間基板21と第二中間基板25との間に設けられて、第一中間基板21と第二中間基板25とが、スペーサ部材24の厚さ寸法よりも近づくことを防止する。
【0126】
このようなスペーサ部材24は、第一中間基板21の表面21aにおける外周縁部の複数箇所(本実施形態の場合、3箇所)に配置される。各スペーサ部材24は、第一中間基板21の外周縁に沿う方向において等間隔(たとえば、120度間隔)で配置されると好ましい。
【0127】
本実施形態の場合、スペーサ部材24は、柱状部材であって、所定の厚さ寸法を有する。スペーサ部材24の一端部(Z方向+側の端部)は、第二中間基板25の裏面25bに、たとえば、接着剤により固定される。スペーサ部材24の他端部(Z方向-側の端部)は、第一中間基板21の表面21aに、たとえば、接着剤により固定される。
【0128】
第一中間基板21と第二中間基板25との間にスペーサ部材24が配置されることにより、第一中間基板21と第二中間基板25との間には、第二中間接着層26を配置するための空間201(図8D参照)が形成される。
【0129】
空間201の厚さ寸法は、スペーサ部材24の厚さ寸法と等しい。また、空間201の厚さ寸法は、フィルム素子23の厚さ寸法よりも大きい。以上のようなスペーサ部材24は、後加工(具体的には、外周加工)において除去される。
【0130】
なお、スペーサ部材は、周方向の1箇所に不連続な部分を有する部分円筒状であってもよい。上記不連続な部分は、後述する第二中間接着層26を構成する硬化性組成物を空間201に供給する際の供給口である。
【0131】
また、スペーサ部材は、全周にわたり連続した円筒状であってもよい。このような円筒状のスペーサ部材は、周方向における少なくとも一箇所に、内周面から外周面へと貫通した貫通孔または切欠きを有する。上記貫通孔および上記切欠きは、第二中間接着層26を構成する硬化性組成物を空間201に供給する際の供給口である。
【0132】
<第二中間基板について>
図7を参照して、第二中間基板25(第二基板ともいう。)について説明する。第二中間基板25は、フィルム素子23よりもZ方向+側に配置され、第二中間接着層26を介してフィルム素子23を覆う。
【0133】
このような第二中間基板25は、透明な板状部材からなる光学素子である。具体的には、第二中間基板25は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する円板状である。第二中間基板25の表面25aは、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する凸曲面である。第二中間基板25の裏面25bは、Z方向+側に向かって凹状に湾曲する凹曲面である。
【0134】
表面25aおよび裏面25bは、仕上加工により光学面に仕上げられている。本実施形態の場合、表面25aは、単一の曲率を有する球面である。裏面25bも、単一の曲率を有する球面である。表面25aの曲率と、裏面25bの曲率とは、表面25aと裏面25bとの距離が全体にわたり一定となるような関係にある。
【0135】
なお、表面25aおよび裏面25bの少なくとも一方の面は、複数の曲率を有する複合曲面であってもよい。また、表面25aおよび裏面25bの少なくとも一方の面は、平面であってもよい。
【0136】
第二中間基板25の材料は、前述した実施形態1の第二基板115の材料と同様である。すなわち、本実施形態の場合も、第二中間基板25は、所定の波長域の光に対する透過率が第一中間基板21と異なる。
【0137】
<第二中間接着層について>
図7を参照して、第二中間接着層26について説明する。第二中間接着層26は、第一中間基板21と第二中間基板25との間の空間201に配置されて、第一中間基板21と第二中間基板25とを固定するとともに、フィルム素子23を衝撃から保護する。
【0138】
このような第二中間接着層26は、透明な板状部材からなる光学素子である。具体的には、第二中間接着層26は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する円板状である。第二中間接着層26の表面は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する凸曲面である。第二中間接着層26の裏面は、Z方向+側に向かって凹状に湾曲する凹曲面である。第二中間接着層26は、裏面に、フィルム素子23を配置するための凹部26aを有する。
【0139】
以上のような第二中間接着層26は、後述する固定部材27の連通部27aを介して空間201に硬化性組成物を注入し、硬化させることにより形成される。第二中間接着層26を構成する硬化性組成物の例として、種々の光学用接着剤が挙げられる。特に、第二中間接着層26を構成する硬化性組成物の例として、紫外線または可視光線などの光エネルギー線の照射により光硬化する光硬化型接着剤が好ましい。なお、第二接着層26を構成する硬化性組成物の例として、熱エネルギーを加えられることにより熱硬化する熱硬化型接着剤も挙げられる。このような各接着剤は、粘度の低いものが好ましい。
【0140】
<固定部材について>
固定部材27は、たとえば、テープ状であって、空間201を取り巻くように、第一中間基板21の外周面および第二中間基板25の外周面に巻かれる。固定部材27は、第一中間基板21と第二中間基板25とを固定する機能も有する。このような固定部材27は、周方向の少なくとも一箇所に、空間201を外部空間に連通する連通部27aを有する。
【0141】
<セミフィニッシュドレンズの製造方法について>
つぎに、図8A図8Fおよび図10を参照して、セミフィニッシュドレンズ20の製造方法について説明する。
【0142】
まず、図10のステップS201において、作業者は、フィルム素子23の裏面に、フィルム状の第一接着層22の表面を貼り付けて、第一組立体M1(図8A参照)を造る。第一組立体M1において、フィルム素子23および第一接着層22は、湾曲していない。
【0143】
つぎに、図10のステップS202において、作業者は、第一組立体M1における第一接着層22の裏面を、第一中間基板21の表面21aに貼り付けて第二組立体M2(図8B参照)を造る。
【0144】
第一中間基板21は、射出成形など公知の方法で造られる。この時点で、第一中間基板21の平面視における外形は、レンズ11の平面視における外形を含むような形状である。つまり、第一中間基板21の平面視における外形は、レンズ11の平面視における外形よりも大きい。第一中間基板21は、同一サイズのセミフィニッシュドレンズ20において共通する共通部品である。したがって、第一中間基板21は、共通の製造方法で造られる。
【0145】
なお、第一組立体M1を第一中間基板21の表面21aに貼り付ける作業は、治具(不図示)を使用して行われる。治具は、第一組立体M1を保持可能な保持面を有する。当該保持面は、表面21aに押し付けられると表面21aに沿うように弾性変形する。フィルム素子23を保持した保持面が表面21aに押し付けられると、フィルム素子23は、表面21aに沿うように変形しつつ、表面21aに貼り付けられる。
【0146】
つぎに、図10のステップS203において、作業者は、第一中間基板21の表面21aにおいてフィルム素子23が固定された部分の周囲に複数のスペーサ部材24を配置して、第三組立体M3(図8C参照)を造る。第三組立体M3において、各スペーサ部材24の他端部(Z方向-側の端部)はそれぞれ、第一中間基板21の表面21aに、たとえば、接着剤により固定される。
【0147】
つぎに、図10のステップS204において、作業者は、第一中間基板21のZ方向+側に、第二中間基板25を配置して、第四組立体M4(図8D参照)を造る。第四組立体M4において、各スペーサ部材24の一端部(Z方向+側の端部)はそれぞれ、第二中間基板25の裏面25bに、たとえば、接着剤により固定される。第四組立体M4において、第一中間基板21と第二中間基板25との間には、空間201が存在する。
【0148】
このような第二中間基板25は、射出成形などの公知の方法で製造される。第二中間基板25は、同一サイズの同一サイズのセミフィニッシュドレンズ20において、所望の光学特性に応じて選択可能な非共通部品である。つまり、第二中間基板25については、所定の波長域の光に対する透過率が第一中間基板21と異なる複数種類の第二中間基板25が製造される。作業者は、その中から、所望の光学特性に応じた第二中間基板25を選択する。
【0149】
添加剤の添加方法がコーティングまたは染色の場合には、射出成形により造られた中間レンズに対して、コーティング処理または染色が施される。また、添加剤の添加方法が練り込みの場合には、射出成形の前に、射出成形で使用される溶融基材に対して添加剤を添加する。
【0150】
そして、作業者は、フォトクロミックレンズ、ブルーライトカットレンズ、およびネオコントラストレンズなどの光学特性が異なる複数種類の第二中間基板25の中から、所望の光学特性を有する第二基板115を選択する。
【0151】
つぎに、図10のステップS205において、作業者は、空間201を取り巻くように、第一中間基板21の外周面および第二中間基板25の外周面に固定部材27を巻きつけて、第五組立体M5(図8E参照)を造る。第五組立体M5において、空間201は、固定部材27の連通部27a以外の部分により塞がれる。換言すれば、空間201は、連通部27aを介してのみ外部空間と連通する。
【0152】
最後に、図10のステップS206において、図8Fに矢印Fで示されるように、作業者は、固定部材27の連通部27aを介して、第二中間接着層26を構成する硬化性組成物を空間201に供給する。そして、作業者は、空間201内の硬化性組成物を硬化させて、セミフィニッシュドレンズ20(図7参照)を造る。なお、前述のステップS201~S206の順序は、技術的に矛盾しない範囲で、適宜入れ替えられる。また、前述のステップS101~S107は、技術的に矛盾しない範囲で、並列に実施されもよい。また、前述の製造方法を実施する主体は、人に限らず、機械でもよい。
【0153】
以上のような図8A図8Fを参照した各工程は、熱を加える工程を含まない。このようなセミフィニッシュドレンズの製造方法は、第一中間基板21、第二中間基板25、およびフィルム素子23の変形または損傷の防止に効果的である。
【0154】
以上のような製造方法により得られるセミフィニッシュドレンズ20に後加工を施すことにより、セミフィニッシュドレンズ20は、レンズ11B(図9参照)へと加工される。後加工の詳細な説明は省略するが、セミフィニッシュドレンズ20は、後加工により除去部202(図7の二点鎖線で囲まれた部分)を除去されることにより、レンズ11へと加工される。
【0155】
具体的には、セミフィニッシュドレンズ20の第一中間基板21は、後加工を施された後、レンズ11Bの第一基板111Bとなる。また、セミフィニッシュドレンズ20の第二中間基板25は、後加工を施された後、レンズ11Bの第二基板115Bとなる。また、セミフィニッシュドレンズ20の第二中間接着層26は、レンズ11Bの接着層116Bとなる。セミフィニッシュドレンズ20のスペーサ部材24および固定部材27は、後加工により除去される。
【0156】
なお、後加工には、研削加工によりセミフィニッシュドレンズ20の裏面を削る裏面加工、および、切削加工および研磨加工によりセミフィニッシュドレンズ20の外周を削る外周加工が含まれる。
【0157】
また、たとえば、裏面加工を施した後のセミフィニッシュドレンズ20の裏面(第二中間基板25の裏面)に、コーティング層を形成するコーティング処理を施してもよい。また、適宜のタイミングで、セミフィニッシュドレンズ20の表面(第一中間基板21の表面21a)にコーティング層を形成するコーティング処理を施してもよい。
【0158】
コーティング層は、たとえば、プライマー層、ハードコート層、反射防止膜層、防曇コート層、防汚染層、および撥水層の少なくとも1層を含む。コーティング層は、複数種類の層からなる多層構造でもよい。ただし、表面側コーティング層は、1種類の層からなる単層構造でもよい。このようなコーティング層を形成するコーティング処理は、セミフィニッシュドレンズ20に熱を加えない処理であると好ましい。
【0159】
<本実施形態の作用・効果について>
前述のような本実施形態によれば、用途に応じた光学特性を有するレンズを低コストで提供できる。以下、この理由について説明する。
【0160】
特殊な光学特性を付与するための添加剤を含む第二中間基板25の材料は、添加剤を含まない第一中間基板21の材料よりも高価である。本実施形態の場合、図6および図7に示されるように、セミフィニッシュドレンズ20に占める第二中間基板25の体積は、第一中間基板21の体積よりも小さい。すなわち、セミフィニッシュドレンズ20に使用される第二中間基板25の材料は、第一中間基板21の材料よりも少ない。したがって、本実施形態の構成は、第一中間基板21に添加剤を添加する構成と比べて、セミフィニッシュドレンズ20およびレンズ11の低コスト化を図れる。
【0161】
また、前述の後加工においてセミフィニッシュドレンズ20から除去される除去部202(図7の二点鎖線で囲まれた部分)に占める第二中間基板25の割合は、第一中間基板21よりも小さい。すなわち、後加工により除去される量は、第二中間基板25の方が、第一中間基板21よりも少ない。このため、本実施形態の構成は、第一中間基板21の材料に添加剤を添加する構成と比べて、添加剤を含む材料に関する歩留まりを高くできる。このような観点からも、本実施形態の構成は、セミフィニッシュドレンズ20およびレンズ11の低コスト化に有利である。
【0162】
また、本実施形態の場合、第二中間基板25に添加剤を添加する工程は、第二中間基板25が第一中間基板21に固定される前に行われる。このため、添加剤を添加する工程において、第二中間基板25に熱を加える場合でも、第一中間基板21およびフィルム素子23に熱が加わることはない。さらに、第二中間接着層26として光硬化型接着剤を採用すれば、第二中間基板25と第一中間基板21とを固定する工程においても、第一中間基板21およびフィルム素子23に熱が加わることはない。このような製造方法は、第一中間基板21およびフィルム素子23の変形または損傷の防止に効果的である。
【0163】
<付記>
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。たとえば、実施形態2において、フィルム素子23は、第二中間基板25に固定されてもよい。この場合には、第二中間基板25が第一基板であり、第一中間基板21が第二基板である。
【0164】
また、本発明に係るレンズを適用可能なアイウェアには、視力補正レンズのようにユーザの視力向上のための補助機構を有する眼鏡(電子メガネおよびサングラスを含む)およびゴーグルが含まれる。また、本発明に係るレンズを適用可能なアイウェアには、ユーザの視界または眼に対して情報提示を行う機構を有する種々のデバイス(例えば、眼鏡型ウェアラブル端末や、ヘッドマウントディスプレイなど)が含まれる。
【0165】
また、本発明に係るレンズを適用可能なアイウェアは、視力または視界向上のための補助機構や情報提示のための機構などを、使用者の目の前又は周囲に保持できる構成であればよい。本発明に係るレンズを適用可能なアイウェアは、両耳に掛けられる眼鏡型に限られず、頭部や片耳などに装着される型でもよい。また、本発明に係るレンズを適用可能なアイウェアは、両眼用のアイウェアに限られず、片眼用のアイウェアであってもよい。
【0166】
2018年2月9日出願の特願2018-022153の日本出願に含まれる明細書、図面及び要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明に係るレンズは、メガネ用のレンズに限らず、様々なアイウェア用のレンズに適用できる。
【符号の説明】
【0168】
100 電子メガネ
10 フレーム
101 フロント
102 テンプル
11、11B レンズ
11a 液晶レンズ部
111、111B 第一基板
111a 表面
111b 裏面
111c 回折領域
111d 凸部
111e 第一凸条
111f 予備領域
111g 予備空間
112 第一電極
113 液晶層
114 第二電極
115、115B 第二基板
115a 表面
115b 裏面
116、116B 接着層
11b 通常レンズ部
13 制御部
14 検出部
15 電源
20 セミフィニッシュドレンズ
21 第一基板
21a 表面
21b 裏面
22 第一接着層
23 フィルム素子
24 スペーサ部材
25 第二基板
25a 表面
25b 裏面
26 第二接着層
26a 凹部
27 固定部材
27a 連通部
201 空間
202 除去部
M1 第一組立体
M2 第二組立体
M3 第三組立体
M4 第四組立体
M5 第五組立体
図1
図2
図3
図4
図5
図5A
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9
図10