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特許7123143マルエイジング鋼粉末からの物体の付加的製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】マルエイジング鋼粉末からの物体の付加的製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/64 20210101AFI20220815BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220815BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20220815BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20220815BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220815BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20220815BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220815BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220815BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20220815BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20220815BHJP
【FI】
B22F10/64
B22F1/00 T
B22F10/28
B33Y40/20
B33Y70/00
B33Y80/00
C22C33/02 B
C22C38/00 302N
C22C38/00 304
C22C38/50
B22F9/08 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020533213
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2018085788
(87)【国際公開番号】W WO2019121879
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】102017131218.8
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518407582
【氏名又は名称】フォエスタルピネ ベーラー エデルシュタール ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ライトナー ハラルド
(72)【発明者】
【氏名】ザンムト クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ズンコ ホルスト
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/217913(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
B22F 10/00-12/90
B33Y 10/00-99/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルエイジング鋼から物品を製造する方法であって、前記物品が付加的製造プロセスにおいて鋼粉から製造され、前記付加的製造プロセスの後に、前記物品を時効熱処理に供し、Ni16SiTi相(G相)が形成される、
ここで、前記鋼粉が重量%で以下の組成:
C=0.01~0.05
Si=0.4~0.8
Mn=0.1~0.5
Cr=12.0~13.0
Ni=9.5~10.5
Mo=0.5~1.5
Ti=0.5~1.5
Al=0.5~1.5
Cu=0.05以下
を必須成分として、残部が鉄および製錬誘導不純物を有する、方法。
【請求項2】
前記粉末は、選択的レーザー溶融(SLM)、選択的レーザー焼結(SLS)、選択的加熱焼結(SHS)、バインダー噴射、または電子ビーム溶融(EBM)法によって付加的に製造されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粉末が、5~150μmの粒度分布で使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記粉末が、10~60μmの粒度分布で使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記粉末が、15~45μmの粒度分布で使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記時効を475℃~525℃で行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記時効を2~6時間行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記時効後、前記印刷した物品は再転換オーステナイト含有量が4~8体積%であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記時効後、前記印刷した物品は再転換オーステナイト含有量が5~7.5体積%であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記時効後、前記物品が50HRC超の硬さを有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
重量%で以下の組成:
C=0.01~0.05
Si=0.4~0.8
Mn=0.1~0.5
Cr=12.0~13.0
Ni=9.5~10.5
Mo=0.5~1.5
Ti=0.5~1.5
Al=0.5~1.5
Cu=0.05以下
を必須成分として、残部が鉄および製錬誘導不純物を有するマルエイジング鋼で構成される粉末を印刷材料としてなる印刷物品であって、前記印刷物品はNi16SiTi相(G相)を有する物品。
【請求項12】
前記物品が、50HRC超の硬度および4~8体積%の再転換オーステナイト含有量を有することを特徴とする、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
前記物品が、50HRC超の硬度および5~7体積%の再転換オーステナイト含有量を有することを特徴とする、請求項11に記載の物品。
【請求項14】
請求項1~10のいずれかに記載の方法に用いる粉末であって、前記粉末が重量%で以下の組成:
C=0.01~0.05
Si=0.4~0.8
Mn=0.1~0.5
Cr=12.0~13.0
Ni=9.5~10.5
Mo=0.5~1.5
Ti=0.5~1.5
Al=0.5~1.5
Cu=0.05以下
を必須成分として、残部が鉄および製錬誘導不純物、ならびに5~150μmの粒度分布を有することを特徴とする、粉末。
【請求項15】
請求項1~10のいずれかに記載の方法に用いる粉末であって、前記粉末が重量%で以下の組成:
C=0.01~0.05
Si=0.4~0.8
Mn=0.1~0.5
Cr=12.0~13.0
Ni=9.5~10.5
Mo=0.5~1.5
Ti=0.5~1.5
Al=0.5~1.5
Cu=0.05以下
を必須成分として、残部が鉄および製錬誘導不純物、ならびに10~60μmの粒度分布を有することを特徴とする、粉末。
【請求項16】
請求項1~10のいずれかに記載の方法に用いる粉末であって、前記粉末が重量%で以下の組成:
C=0.01~0.05
Si=0.4~0.8
Mn=0.1~0.5
Cr=12.0~13.0
Ni=9.5~10.5
Mo=0.5~1.5
Ti=0.5~1.5
Al=0.5~1.5
Cu=0.05以下
を必須成分として、残部が鉄および製錬誘導不純物、ならびに15~45μmの粒度分布を有することを特徴とする、粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の序文によるマルエイジング鋼を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるマルエイジング鋼は、その合金が実質的に無炭素である鋼である。
【0003】
一方、マルエイジング鋼は高い強度を有し、他方、良好な靭性を良好な加工および溶接特性と共に有している。それらは、例えば、複雑な形状のダイで鋳造した、または射出成形したプラスチック工具と共に、ならびにフェンシングのスポーツのためのナイフおよびブレードを製造するために、高温で使用するための工具鋼として使用される。
【0004】
マルエイジング鋼の例は、熱間加工鋼1.2709および1.6356である。
【0005】
特許文献1はマルエイジング鋼を開示しており、それは最大で0.01%のC、8~22%のニッケル、5~20%のコバルト、2~9%のモリブデン、0~2%のチタン、最大で1.7%のアルミニウム、0~10ppmのマグネシウム、10ppm未満の酸素、15ppm未満の窒素ならびに残りの鉄およびランダム不純物を含み、このマルエイジング鋼は最大長15μmの窒化物含有物および最大長20μmの酸化物含有物を含み、酸化物含有物はスピネル型含有物および酸化アルミニウム含有物を含み、長さ少なくとも10μmのスピネル型含有物および長さ10μmのAlの合計含有量において、長さ少なくとも10μmのスピネル型含有物のパーセンテージは0.33より大きい。この意図は、非金属含有物を著しく減少させる目的を考慮に入れることである。
【0006】
特許文献2は、高強度のステンレス機械加工鋼を開示しており、それは粉末冶金によって製造され、析出硬化性ステンレス鋼合金を含有しているはずであり、この合金は、最大で0.03%の炭素、最大で1%のマンガン、最大で0.75%のケイ素、最大で0.04%のリン、0.01~0.05%の硫黄、10~14%のクロム、6~12%のニッケル、最大で6%のモリブデン、最大で4%の銅、0.4~2.5%のチタン、および他の微量合金添加剤を含有し、残りは鉄および通常の不純物から構成されているはずであり、粉末冶金製品は、これから製造されるべきであり、これは、その主寸法が約5μm以下の微細な硫化物粒子の微細な分散体を含有しているはずである。それはまた、ワイヤの製造にも使用できる。
【0007】
特許文献3は、析出硬化型マルテンサイト鋼を開示しており、合金に添加される通常の少量の金属に加えて、また10~14%のクロム、7~11%のニッケル、2.5~6%のモリブデン、および0.5~4%の銅を含み、この場合、それは、最大9%のコバルトを含むこともでき、残りは鉄および通常の不純物からなる。
【0008】
特許文献4は、蒸気タービンロータ、対応する蒸気タービンおよびタービン発電設備を開示しており、蒸気タービンロータは、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼で構成され、0.1%未満の炭素および9~14%のクロムならびに9~14%のニッケル、0.5~2.5%のモリブデンおよび0.5%以下のケイ素を含む蒸気タービン低圧最終段階長ブレードである。
【0009】
一方、いわゆる付加的製造プロセスは、すでに産業部門において非常に広く普及している。特にプロトタイプの生産において、付加的製造プロセスは、今日非常に広く使用されている。
【0010】
付加的生産プロセスとは、印刷データがCADデータによって、またはCADデータから生成され、例えばプラスチックから、好適なプリンターを使用して物品を印刷することができる生産プロセスである。
【0011】
このようなプロセスは、生成型生産プロセスとも呼ばれる。
【0012】
生成型生産プロセスで、また、金属粉末を印刷することも可能であり、後者はいわゆるパウダーベッド法で製造されることが多い。適切な粉末床処理には、選択的レーザー溶融(SLM)、選択的レーザー焼結(SLS)、選択的加熱焼結(SHS)、バインダー噴射、および電子ビーム溶融(EBM)が含まれる。
【0013】
これらの方法では、粉末層が生成され、物品が金属から生成される領域では、エネルギーが、対応する手段(レーザーまたは電子ビーム)と共に導入され、それは、その領域中の粉末床の粉末を選択的に溶融させる。溶融後、別の粉末層を適用し、次いで溶融させる。溶融は、この溶融した粉末層を、すでに溶融して再び固化している、またはまだ溶融相にある下にある粉末層に結合し、したがって物品を、いわば層毎に製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】ドイツ国特許第603 19 197 T2号
【文献】欧州特許第1 222 317 B1号
【文献】欧州特許第0 607 263 B1号
【文献】欧州特許第2 631 432 B1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、硬度対靭性の最適な比率を可能とする、マルエイジング鋼から物品を製造する方法を創製することにある。
【0016】
目的は、請求項1に記載の特徴によって達成される。
【0017】
有利な修正は、従属請求項に開示されている。
【0018】
別の目的は、硬度対靭性の最適比を有するマルエイジング鋼から物品を製造することである。
【0019】
この目的は、請求項8に記載の特徴によって達成される。
【0020】
有利な修正は、それに従属する請求項において開示される。
【0021】
別の目的は、付加的製造プロセスで使用するための鋼粉を製造することであり、これは硬度対靭性の最適比を有する物品を製造する。
【0022】
目的は、請求項11に記載の特徴によって達成される。
【0023】
有利な修正は、それに従属する請求項において開示される。
【課題を解決するための手段】
【0024】
従来技術によるマルエイジング鋼では、高レベルの硬度または高レベルの靭性のいずれかが達成され得る。高レベルの靭性は、特に、時効が高いパーセンテージの再転換オーステナイトの達成を可能にする場合、可能である。しかし、再転換オーステナイトのこのパーセンテージは、今度は、最大の達成可能な硬度に対して負の影響を及ぼす。
【0025】
本発明によれば、高レベルの硬度を有し、それにもかかわらず高レベルの靭性の達成を可能にする合金概念が発見された。
【0026】
また、本発明によれば、本発明による合金の概念を用いて製造された金属粉末は印刷可能であり、時効のみの後に必要な機械的値を示すことが発見され、それにより、追加の、通常必要とされる溶体化焼鈍工程を解消することができる。
【0027】
本発明によれば、硬化元素としてニッケル、アルミニウム、チタン、およびケイ素を本質的にベースとする合金概念が使用される。
【0028】
合金の硬度、強度および靭性を高レベルで調和させるために、2つの点、すなわち、一方では、析出密度およびタイプを変更することによって硬度および強度値を増加させることに焦点を当てた。これを達成するために、本発明によれば、析出促進元素であるアルミニウムおよびチタンの含有量を増加させた。
【0029】
靭性を増加させるために、再転換オーステナイトのパーセンテージを増加させ、ニッケル含有量を増加させることによって達成することができた。
【0030】
本発明を図面に基づいて例によって説明する。図面において:
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、チタン含有量の影響を示す。
図2図2は、モリブデン含有量の影響を示す。
図3図3は、熱処理の時間/温度図式を示し、これは、溶液および洗浄手順、続いて室温への空冷および時効プロセスからなる。
図4図4は、平衡にある鉄/ニッケルの相図を示す。
図5図5は、加熱および冷却の間のマルテンサイトとオーステナイトの変換温度のヒステリシスを示す。
図6図6は、本発明による鋼の化学組成を示す表1を示す。
図7図7は、本発明による粉末の別の組成を示す表2を示す。
図8図8は、種々の合金の時効温度の関数としての硬度を示す。
図9図9は、種々の合金の時効温度の関数としてのオーステナイト含有量を示す。
図10図10は、本発明によるものでない印刷された熱処理された材料の引張強さおよび硬度値を示す。
図11図11は、本発明による印刷、時効させた材料における、および溶液焼鈍し、時効させた材料における時効温度の関数としての硬度曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下は、マルエイジング鋼における、および特に本発明における最も重要な合金元素ならびに微細構造および特性に対するその影響のリストである。
【0033】
ニッケル(Ni):
ニッケルは、マルエイジング鋼中で最も重要な合金元素である。マルエイジング合金中では炭素含有量が低いので、FeへのNiの添加は、立方晶Fe-Niマルテンサイトの形成をもたらす。Ni含有量の制御も重要であり、これはNiがオーステナイト安定化元素であり、従ってNiが再転換されたオーステナイトの形成に決定的であるためである。Niは、Al、Ti、およびMnのような多数の元素を有する金属間析出物を形成し、従って、析出促進元素として追加の決定的役割を果たす。
【0034】
アルミニウム(Al):
アルミニウムは、析出元素としてマルエイジング鋼に添加される。それは固溶強化を増加させ、特にNiと共に金属間析出物を形成する。より高いAl含有量は微細構造中にδフェライトの存在をもたらし得、これは機械的性質と耐食性に対して負の影響を及ぼす。
【0035】
チタン(Ti):
チタンは、マルエイジング鋼中の最も活性な元素の一つであると見られる。それは時効中に析出し、マルエイジング鋼中の析出物の形成に最も重要な合金元素と考えることができる。それは、開発され、今日複雑な合金化系で使用されている最初のマルエイジング鋼中の析出促進元素として使用された。
【0036】
最大の利点は、急速な析出である;従って、チタンは、析出の早期の段階において、例えば、C型およびT型マルエイジング鋼中のMoよりもはるかに活性である。引張強さ18%NiおよびCo含有マルエイジング鋼に及ぼすTi含有量の膨大な影響を、図1に示す。さらに、炭化物を形成するために、Ti非含有マルエイジング鋼に、少量のTiを添加する。目的は、他の析出元素が炭化物を形成できないように炭素Cに結合することである。
【0037】
Ti含有量の影響を、図1に示す。
【0038】
モリブデン(Mo):
Mo含有量の増加に伴い、MoがNiと金属間化合物を形成するため、時効後の硬度の増加が観察できる(図2)。Moの析出挙動は、他の元素によって、特に、中でもコバルト(Co)によって強く影響される。Coの添加は、マトリックスへのMoの溶解度を減少させ、Moも、強制的に析出物を形成させる。これにより、硬度の増加につながる(図2)。さらに、Moは固溶強化も増加させ(図2)、高Cr含有マルエイジング鋼の耐食性を改善する。
【0039】
Mo含有量の影響を、図2に示す。
【0040】
クロム(Cr):
マルエイジング鋼の耐食性を改善するためにクロムを添加する。これにより、例えばプラスチック成形鋼として使用できる鋼が得られ、プラスチックの製造中に化学的侵食に曝される。合金へのCrの添加は、Laves相の析出を促進する。しかし、より高いCr含有量は、σ位相の形成をもたらし得、それは、機械的特性に負の影響を及ぼす。更に、長期時効では、Feに富む、およびCrに富む相へのスピノーダル偏析が起こり得、これはノッチ衝撃強さを低下させる。
【0041】
マンガン(Mn):
経済的なマルエイジング鋼を開発するために、時々、Mnを用いて、より高価なNiを代替した。Niと一致して、MnはMnマルテンサイトを形成するが、オーステナイト安定化効果がより少なく、従ってFe-Mn合金中にかなりの量のδフェライトが存在する。このδフェライトは、機械的特性と耐食性に対して負の影響を及ぼす。
【0042】
また、MnはFeおよびNiと金属間化合物を形成することも既に知られている。
【0043】
炭素(C):
炭素は、マルエイジング鋼の合金元素ではない。マルエイジング鋼は炭化物から高強度を得ることができないため、鋼の製造中は炭素含有量をできるだけ低く保つ。このため、マルエイジング鋼の炭素含有量は、1/100%の範囲である。
【0044】
ステンレスマルエイジング鋼中に炭素がCr炭化物を形成すると、耐食性と溶接性が劣化する。PH 13-8 Moマルエイジング鋼では、Cは、MoおよびCrと共に炭化物を形成する。
【0045】
銅(Cu):
Cuは、マルエイジング鋼中の析出促進元素として働く;それは、しかしながら、他の元素との化合物を形成しない。初期には、それは、Feマトリックス中に立方晶の体心構造で析出した。時効中、それは、9R構造を発生し、終了時には、それは、平衡においてその立方晶面心構造を形成する。銅の役割は、急速に析出し、他の析出の核形成部位として役立つことである。
【0046】
ケイ素(Si):
ケイ素は、通常、鋼中の不純物元素と考えられる。しかし、マルエイジング鋼では、Siは金属間相を形成し、特にTiを含む合金では、いわゆるNi16Si7Ti6 G相を形成する。「G相」という用語は、相が顆粒境界で初めて発見されたために使用される;しかしながら、これは、マルエイジング鋼ではそうではない。
【0047】
マルエイジング鋼の良好な機械的特性は、2段階熱処理に起因し得る。
【0048】
図3に、このような熱処理の時間/温度プランの一例を示し、それは、溶体化焼鈍手順、続いて室温への空冷および時効プロセスからなる。
【0049】
溶体化焼鈍手順の後に、オーステナイト単相場からの焼入れを行うと、軟らかいが強く歪んだNi-マルテンサイトが形成され、それを、必要に応じて容易に機械加工および冷間加工することができる。その後の時効は、典型的には400℃~600℃の温度範囲で実施される。時効プロセスの間、3つの反応が起こる:
(i)金属間相の析出
(ii)マルテンサイトの回収
(iii)再転換したオーステナイトの形成
【0050】
高nm金属間相の析出が、時効後の強度の巨大な増加の原因である。マルエイジング鋼は、一連の本質的な利点を有する:
・2段階の熱処理だけが必要である
・時効していない状態で複雑な形状を容易に加工することができる
・最小の変形を伴うその後の硬化
【0051】
平衡にあるFe-Niの相図式を、図4に示す。それは、Niがオーステナイトからフェライトへの変換温度を低下させ、数%より多いNiを含む合金では、室温で平衡にある構造はオーステナイトとフェライトからなることを明瞭に示す。
【0052】
しかし、実際には、オーステナイト単相から出発する実際の冷却条件下では、材料は、平衡でオーステナイトおよびフェライトの組成に分解しない。その代わり、オーステナイトは、さらに冷却すると共に、立方晶マルテンサイトに転換される。
【0053】
マルエイジング鋼中のNiの影響によりマルテンサイト構造の時効が可能であり、これは加熱および冷却中のマルテンサイトおよびオーステナイトの変換温度のヒステリシスにつながる(図5)。Ni含有量の増加と共に、加熱および冷却の変換温度は低下する。この関連では、変換温度間の差異は、Ni含有量に依存する。
【0054】
溶体化焼鈍後、変換温度より低温に冷却した場合、材料はマルテンサイトに転換される。Ni含有量および他の合金元素に依存して、あるパーセンテージのオーステナイトを室温で再転換できる。微細構造を再びα-γ変換温度より低温に再加熱すると、マルテンサイトはオーステナイトとフェライトで構成される平衡構造に分解する。この再変換反応の速度は、使用する温度に依存する。幸いなことに、マルエイジング鋼では、この変換は、再変換反応前の過飽和溶液形態からの金属間相の析出が支配的になる程度に十分遅い。
【0055】
一方、合金をα-γ変換温度より高温に加熱すると、焼鈍プロセスによりマルテンサイトが再転換される。
【0056】
本発明による合金概念は、本質的に、硬化元素としてのNi、Al、Ti、およびSi(図6参照)に関して構築される概念に基づいている。
【0057】
合金の硬度、強度、靭性を高めるために、合金開発の焦点を本質的に2点に置いた:
・析出密度およびタイプを修正することにより、硬度および強度値の増加を達成した。析出促進元素AlおよびTiの含有量も増加した。
・靭性を増加させるために、再転換されたオーステナイトのパーセンテージを増加させた。Ni含有量の増加によりこれを達成することができた。
【0058】
上述した従来の方法とは対照的に、特に2段熱処理において、本発明によれば、特にレーザー溶融法を用いて印刷した本発明によるマルエイジング粉末では、溶体化焼鈍工程を解消することができ、かつ時効工程だけで所望のレベルの強度および靭性が達成されることが保証されることが分かった。これは予期されておらず、かなり驚くべきことであり、現在では時効処理だけを行わなければならないという利点を伴っており、これにより、全体的なプロセスが短縮され、当然またそれはより有利になる。これは、本発明による材料において、強度レベルおよびまた溶体化焼鈍も達成されることを示す図11から非常に明らかである。
【実施例
【0059】
以下の例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【0060】
ガス噴霧法により、図7による化学組成および顆粒画分15~45μmの粉末を製造する。これを達成するために、真空誘導炉中で溶融され、場合によってはエレクトロスラグ再溶解(ESR)または真空アーク再溶解(VAR)によって再溶融された棒材ストックは、真空誘導炉中で同一組成で溶融され、次いで不活性ガス(Ar、He、N)によって噴霧される。粉末画分は、その後の歪みによって調整される。
【0061】
次いで、得られた粉末画分を処理して、選択的レーザー溶融の原理に従って機能する3Dプリンターでサンプル本体を作製する。
【0062】
これらのサンプル本体の形態において、印刷した材料は、次いで、その組織、硬化/時効挙動、および機械的特性に関して種々の熱処理状態で特徴付けられる。
【0063】
この例では、「印刷+時効として」の状態は、「印刷+溶体化焼鈍+時効」の状態と比較される。
【0064】
溶体化焼鈍は1000℃で1h行い、時効は525℃で3h行った。次いで、Rockwell方法を用いて硬度を決定した。機械的特性は、引張試験により決定した。
【0065】
図8および図9は、硬度および靭性に関する複数の合金の特性値を示す。
【0066】
この関連で、これらの図面の両方において、図6の表による合金V21、V311、V321、およびV322は、本発明による合金に対応する。
【0067】
図8は、本発明による対応する合金がすべての合金の硬度の上限範囲にあり、したがって絶対的に十分な硬度特性を有することを示している。
【0068】
図9は、時効温度の関数としてのオーステナイトのパーセンテージを示す。この場合、種々のパーセンテージの再転換されたオーステナイトが生成し、再転換されたオーステナイトが材料の靭性の原因であった。本発明による合金は、すべて互いに非常に近接しており、特に時効温度が525℃であることは明らかであり、オーステナイトのパーセンテージは、高いレベルの靭性に対して絶対的に十分である。
【0069】
これを比較合金と比較すると、実際に、オーステナイトのパーセンテージが高い合金が存在することは明らかであるが、これを図8と比較すると、それらは硬度の点で短くなっていることは明らかである。他の合金は、オーステナイトのパーセンテージが著しく低いか、またはさらにオーステナイトが一切なく、したがって、硬度がより良好であっても、靭性が非常に悪い。
【0070】
したがって、本発明は、硬度と靭性との特に成功した組み合わせを可能にすることは明らかである。この場合、熟成後の硬度は、50HRCより大きい。
【0071】
また図10から明らかなように、本発明によるものではないTi非含有の変形では、機械的試験の結果は、「印刷+時効」と「印刷+溶体化焼鈍+時効」とでは異なって判明する。本発明によるものではない印刷および時効された材料は、従来の熱処理、溶体化焼鈍、時効された材料に劣る機械的特性を有する。
【0072】
本発明によるものではないこれらの実施例において最良の機械的特性を達成するためには、印刷後、溶体化焼鈍処理が、時効前に必要となる。
【0073】
すでに述べたように、本発明による変形(図11)を用いると、印刷およびその後の時効によって、溶体化焼鈍処理を行わなくても所望の結果が得られることは明らかである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11