(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】バラスト水処理システムおよびそれを備えた船舶
(51)【国際特許分類】
C02F 1/461 20060101AFI20220815BHJP
C02F 1/00 20060101ALI20220815BHJP
B63J 4/00 20060101ALI20220815BHJP
B63B 13/00 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
C02F1/461 Z
C02F1/00 B
B63J4/00 Z
B63B13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021515400
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017590
(87)【国際公開番号】W WO2020217372
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000232818
【氏名又は名称】日本郵船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻須 俊輔
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-020218(JP,A)
【文献】特開平09-294986(JP,A)
【文献】特開2013-043144(JP,A)
【文献】特開2013-006141(JP,A)
【文献】特表2017-520399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/461
C02F 1/00
B63J 4/00
B63B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラストタンクに注水されるバラスト水を電気分解して浄化するバラスト水処理機と、
海水から真水を製造する造水機と、
前記造水機により真水を製造する際に発生した高濃度塩水を回収して貯留するブラインタンクと、
前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理機に供給する塩水供給配管と、
船外水を前記バラスト水処理機に供給する取水管と、
船外水をバラスト水として前記バラストタンクに注水するときに、前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理機に供給するポンプと、
船外水を前記塩水供給配管に注入する注入配管と、
前記注入配管により前記塩水供給配管に注入される船外水の流量を調整する流量調整機と、を有し、
前記塩水供給配管から前記バラスト水処理機に供給される高濃度塩水の濃度を船外水により調整する、バラスト水処理システム。
【請求項2】
請求項1記載のバラスト水処理システムにおいて、
前記造水機の塩水流出口と前記ブラインタンクの塩水流入口とを接続する塩水回収配管に迂回配管を設け、前記塩水流出口から排出される高濃度塩水の塩分濃度を高める濃縮機を前記迂回配管に設けた、バラスト水処理システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のバラスト水処理システムにおいて、
前記取水管により前記バラスト水処理機に供給される船外水の流量を検出する流量センサと、
前記流量センサで検出される船外水の流量に基づいて、前記ブラインタンクからバラスト水処理機に供給される高濃度塩水の流量を制御する制御手段と、
を有する、バラスト水処理システム。
【請求項4】
請求項3記載のバラスト水処理システムにおいて、
前記制御手段は、前記バラスト水処理機に供給される船外水の流量と、前記高濃度塩水の塩分濃度とに基づいて、前記流量調整機を制御し、前記塩水供給配管に供給される船外水と、ブラインタンクから吐出される高濃度塩水との混合割合を調整する、バラスト水処理システム。
【請求項5】
バラスト水処理機によりバラストタンクに注水されるバラスト水を電気分解して浄化する工程と、
造水機により海水から真水を製造する工程と、
前記造水機により真水を製造する際に生成される高濃度塩水をブラインタンクに貯留する工程と、
船外水をバラスト水として前記バラストタンクに注水するときに、前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理機に供給する工程と、を有
し、
前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理器に供給する工程において、高濃度塩水の濃度を船外水により調整する、バラスト水処理方法。
【請求項6】
請求項5記載のバラスト水処理方法において、
前記造水機から前記ブラインタンクに供給される高濃度塩水の塩分濃度を、濃縮機により高める工程を有する、バラスト水処理方法。
【請求項7】
請求項5または6記載のバラスト水処理方法において、
前記ブラインタンクから前記バラスト水処理機に供給される高濃度塩水に船外水を注入し、高濃度塩水に注入される船外水の流量を流量調整機により調整する工程を有する、バラスト水処理方法。
【請求項8】
バラストタンクに注水されるバラスト水を電気分解して浄化するバラスト水処理機が設けられた船体と、
前記船体に設けられ、海水から真水を製造する造水機と、
前記船体に設けられ、前記造水機により真水を製造する際に発生した高濃度塩水を回収して貯留するブラインタンクと、
前記船体に設けられ、前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理機に供給する塩水供給配管と、
前記船体に設けられ、船外水を前記バラスト水処理機に供給する取水管と、
前記船体に設けられ、船外水をバラスト水として前記バラストタンクに注水するときに、前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理機に供給するポンプと、
船外水を前記塩水供給管に注入する注入配管と、
前記塩水供給配管に設けられ、前記注入配管により前記塩水供給配管に注入される船外水の流量を調整する流量調整機と、を有する、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト水を浄化処理するためのバラスト水処理技術およびそれを備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
原油タンカーや貨物運搬船等の船舶においては、船体を安定させるために、空荷で出港するときには港の海水がバラストタンクに積み込まれる。バラストタンクに船舶の重りとして積み込まれる海水は、貨物を積載する港で船外に排出される。バラストタンクに積み込まれる海水つまりバラスト水には、水生生物、細菌および微生物等が含まれており、貨物を積載する寄港地でバラスト水をそのまま排出すると、バラスト水に含まれている水生生物が寄港地において外来種として生態系に影響を与えるおそれがある。
【0003】
そこで、船外から取水されたバラスト水を浄化するために、バラスト水はフィルタに送られて、通常50μm程度より大きな生物やゴミが異物として取り除かれ、さらに、フィルタで取り除くことができなかった生物の殺滅処理が行われる。このようにして、浄化された海水がバラストタンクに注水される。
【0004】
海水中に含まれている水生生物等を除去するために、海水を電気分解する技術が開発されている。海水の電気分解により殺菌剤を生成し、殺菌剤により水生生物等を殺滅処理すると、海水を浄化することができる。特許文献1および特許文献2に記載されるように、海水を電気分解して殺菌剤を生成するバラスト水処理機の処理方式には、主に全量電気分解式と側流電気分解式とがある。全量電気分解式は、バラストタンクに注水つまり積み込まれる海水を全て電気分解する直接電解法である。側流電気分解式は、バラストタンクに注水する海水の一部だけを電気分解して殺菌剤を生成し、これをバラスト水に定量投入する間接電解法である。
【0005】
特許文献1に記載されたバラスト水処理装置は、船外から取水されたバラスト水をバラストタンクに注水する取水側海水ラインを有し、この取水側海水ラインから分岐されたバラスト水を電気分解モジュールにおいて電気分解している。バラスト水を電気分解すると、海水の主たる成分である塩化ナトリウムと水がそれぞれ塩素、水酸化ナトリウム、水素に分解され、塩素と水酸化ナトリウムが化学反応して次亜塩素酸ナトリウムが生成される。次亜塩素酸ナトリウムは、バラストタンクに送られるバラスト水と混合されてバラスト水を浄化し、浄化されたバラスト水がバラストタンクに注水される。
【0006】
特許文献2に記載される処理装置は、船外から取水されたバラスト水を電解槽に案内するラインと、バラストタンクに注水するラインとを有しており、電解槽において生成された塩素イオンを用いて得ることができる次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤をバラストタンクに流入されるバラスト水に混合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2011-528982号公報
【文献】特開2016-209876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
海水を電気分解しないと塩素を生成することができないので、河川等の淡水域において船外の水をバラスト水として取水しても、そのバラスト水は塩分を含んでおらず、浄化処理することができない。また、河口部のように、淡水と海水が混在した汽水域においてバラスト水を船外から取水しても、塩分濃度が低いので、効率的にバラスト水を浄化処理することができない。淡水は塩分濃度が0.05%以下であり、海水の塩分濃度は3.0%以上であり、汽水の塩分濃度は0.05~3.0%である。
【0009】
したがって、淡水域や汽水域において取水された船外水をバラスト水とする場合には、電気分解型のバラスト処理機により有効に浄化処理するために、海水域を航行中に海水を取り込み、種海水として種海水用タンクあるいはバラストタンクの一部に貯蔵しておく場合がある。
【0010】
汽水域や淡水域において塩分濃度が低い船外水をバラストタンクにバラスト水として注水するときに、種海水用タンク等の種海水を電気分解してバラスト水に混合することにより、バラスト水を浄化することができる。しかし、このように種海水を貯留すると、少なくともその重量分、貨物の搭載量を減らさざるを得なくなり、貨物の輸送効率が低下する。
【0011】
他の方法として、船舶内に多量の塩を保管しておき、塩分濃度が低い船外水をバラストタンクに注水するときに、電解ユニットに注水された船外水に塩を投入し、生成された塩水を電気分解して塩素を生成することがある。このようにして塩素を生成するには、予め多量の塩を袋詰めして保管しておき、淡水等に塩を混入して塩水を製造する必要があり、バラスト水の浄化処理のために乗員の作業負荷及びコストの増加を招く。
【0012】
本発明の目的は、貨物の積載量の減少を最小限にとどめ、淡水域や汽水域において取水した船外水を効率的に浄化処理してバラストタンクに注水し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のバラスト水処理システムは、バラストタンクに注水されるバラスト水を電気分解して浄化するバラスト水処理機と、海水から真水を製造する造水機と、前記造水機により真水を製造する際に発生した高濃度塩水を回収して貯留するブラインタンクと、前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理機に供給する塩水供給配管と、船外水を前記バラスト水処理機に供給する取水管と、船外水をバラスト水として前記バラストタンクに注水するときに、前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理機に供給するポンプと、船外水を前記塩水供給配管に注入する注入配管と、前記注入配管により前記塩水供給配管に注入される船外水の流量を調整する流量調整機と、を有し、前記塩水供給配管から前記バラスト水処理機に供給される高濃度塩水の濃度を船外水により調整する。
【0014】
本発明のバラスト水処理方法は、バラスト水処理機によりバラストタンクに注水されるバラスト水を電気分解して浄化する工程と、造水機により海水から真水を製造する工程と、前記造水機により真水を製造する際に生成される高濃度塩水をブラインタンクに貯留する工程と、船外水をバラスト水として前記バラストタンクに注水するときに、前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理機に供給する工程と、を有し、前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理器に供給する工程において、高濃度塩水の濃度を船外水により調整する。
【0015】
本発明の船舶は、バラストタンクに注水されるバラスト水を電気分解して浄化するバラスト水処理機が設けられた船体と、前記船体に設けられ、海水から真水を製造する造水機と、前記船体に設けられ、前記造水機により真水を製造する際に発生した高濃度塩水を回収して貯留するブラインタンクと、前記船体に設けられ、前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理機に供給する塩水供給配管と、前記船体に設けられ、船外水を前記バラスト水処理機に供給する取水管と、前記船体に設けられ、船外水をバラスト水として前記バラストタンクに注水するときに、前記ブラインタンク内の高濃度塩水を前記バラスト水処理機に供給するポンプと、船外水を前記塩水供給配管に注入する注入配管と、前記塩水供給配管に設けられ、前記注入配管により前記塩水供給配管に注入される船外水の流量を調整する流量調整機と、を有する。
【発明の効果】
【0016】
船舶内において使用される真水を造水機により製造する際に発生する高濃度塩水を、廃棄することなくブラインタンクに回収して貯留し、汽水域や淡水域の船外水をバラスト水として利用するときには、貯留した高濃度塩水を電気分解して得られた殺菌剤により、バラスト水を浄化してバラストタンクに注水する。これにより、種海水として貯留する高濃度塩水の量は海水を貯留する場合に比べて減少するため、船舶の貨物の積載量への影響を最小限にとどめることができる。また、汽水域等における塩分濃度の低いかまたは塩分を含まない船外水を電気分解するために塩を投入する必要がなく、船外水を効率的に浄化処理してバラストタンクに注水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施の形態であるバラスト水処理システムが設けられた船舶を示す概略断面図である。
【
図2】
図1に示されたバラスト水処理システムを示すシステム構成図である。
【
図3】バラスト水処理システムの制御回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は原油タンカー等の船舶10を示しており、船舶10の船体10aには複数のバラストタンク11が備えられている。船舶10内の貨物積載量に応じて船外から取り込まれた水をバラスト水として、これをバラストタンク11に注水したり、排水したりすることにより、バラスト水を重りとして吃水および船首と船尾の吃水差が調整される。
図1においては、船首側のバラストタンク11が便宜的に3つのみ示されている。
【0019】
船舶10内にはバラスト水処理機12が設けられている。バラスト水処理機12のバラスト水流入口13と、船体に設けられた取水口14との間には取水管15が接続されており、取水口14から流入した船外水はバラスト水処理機12に供給される。取水管15にフィルタを設けて、バラスト水処理機12に供給される船外水の異物等を除去するようにしても良い。バラスト水処理機12としては、バラストタンクに注水される塩水を全て電気分解する全量電気分解式、バラストタンクに注水する塩水の一部だけを電気分解してこれをバラスト水に定量投入する側流電気分解式、その他、電気分解で殺滅処理する方式で適用することができる。
【0020】
船舶10内には造水機16が設けられており、船体に設けられた取水口17と造水機16の海水流入口18との間には取水管19が接続されている。船外から取り込まれた海水から造水機16により真水が造られて、雑用清水、飲料水、ボイラ水として利用される。雑用清水は洗濯、トイレ等の生活用水として使用され、ボイラ水は加熱蒸気やタービン駆動用に使用される。造水機16は、海水から真水を造るために海水を加熱沸騰させて、その蒸気を冷却して集める。
【0021】
造水機16により造られた真水は真水供給配管24を介してタンク21に供給・貯留され、必要な時に配管25により使用箇所に送られる。
【0022】
造水機16により海水から真水を造る際には、副次的に海水よりも塩分濃度が高い高濃度塩水が生成される。その高濃度塩水を廃棄することなく、高濃度塩水はブラインタンク26に回収されて貯留される。高濃度塩水をブラインタンク26に供給するために、造水機16の塩水流出口27とブラインタンク26の塩水流入口28との間には、塩水回収配管31が接続されている。なお、ブラインタンク26の代わりにバラストタンク11の一部をブラインタンクとして用いるようにしても良い。
【0023】
図2に示されるように、塩水回収配管31には、造水機16により造られた高濃度塩水をブラインタンク26に供給するために、ポンプ32が設けられている。ポンプ32の下流側には三方弁33が設けられ、汽水域等への寄航の計画が無い場合や必要量の高濃度塩水がブラインタンク26に貯留されている場合に、造水機16により造られた高濃度塩水を排出管33aを介して船外に排出する。
【0024】
塩水回収配管31に設けられた迂回用の三方弁34と、三方弁34よりも下流側の塩水回収配管31との間には迂回配管40が設けられており、造水機16から吐出される高濃度塩水の濃度を更に高めるために、迂回配管40には濃縮機35が設けられている。濃縮機35の下流側に位置させて迂回配管40には逆止弁36が設けられている。逆止弁36により塩水回収配管31から濃縮機35への高濃度塩水の逆流が防止される。
【0025】
濃縮機35としては、逆浸透式の造水機と同様の構造のものを使用することができるが、濃縮機35として造水機16と同様に蒸発式を用いても良い。また、造水機16として、逆浸透式のものを用いるようにしても良い。
【0026】
ブラインタンク26内の高濃度塩水は、バラスト水処理機12に送られる。ブラインタンク26の塩水吐出口37と、バラスト水処理機12の塩水供給口38との間には、塩水供給配管39が接続されており、ブラインタンク26内の高濃度塩水は塩水供給配管39によりバラスト水処理機12に注入される。ブラインタンク26内からバラスト水処理機12に高濃度塩水を送るためのポンプ41と、送られる高濃度塩水を清浄化するためのフィルタ42が塩水供給配管39に設けられている。
【0027】
バラスト水処理機12は、図示しない電解ユニットを有し、電解ユニットはブラインタンク26から供給された高濃度塩水を電気分解する。高濃度塩水を電気分解すると、塩水の主たる成分である塩化ナトリウムと水がそれぞれ塩素、水酸化ナトリウム、水素に分解され、塩素と水酸化ナトリウムが化学反応して次亜塩素酸ナトリウムが形成される。次亜塩素酸ナトリウムは、バラスト水処理機12のバラスト水流入口13とバラスト水注水口43との間に接続された処理流路に殺菌剤として注入される。
【0028】
これにより、取水口14から流入して取水管15によりバラスト水処理機12に供給されたバラスト水には殺菌剤が注入されて、バラスト水は浄化処理される。浄化処理されたバラスト水は、バラスト水注水口43に接続されたバラスト水注水配管44により、バラストタンク11に注水される。それぞれのバラストタンク11には、所定量のバラスト水が供給される。バラストタンク11内のバラスト水を船外に排出するために、図示しない排出口がバラストタンク11に設けられている。
【0029】
流量調整機45が塩水供給配管39に設けられており、取水口14に接続された注入配管46が流量調整機45に接続されている。流量調整機45は、ブラインタンク26内からバラスト水処理機12に供給される高濃度塩水と、注入配管46によりバラスト水処理機12に供給される船外水との混合比を調整する。これにより、塩水供給配管39からバラスト水処理機12に供給される高濃度塩水の流量と濃度を調整することができる。なお、取水口14とは別の取水口から注入配管46に船外水を注入するようにしても良い。
【0030】
取水管15によりバラスト水処理機12に供給されるバラスト水の流量を検出する第1の流量センサ47と、塩分濃度を検出する第1の濃度センサ48と、温度を検出する第1の温度センサ49が取水管15に設けられている。一方、塩水供給配管39によりバラスト水処理機12に供給される高濃度塩水の流量を検出する第2の流量センサ51と、塩分濃度を検出する第2の濃度センサ52と、温度を検出する第2の温度センサ53が塩水供給配管39に設けられている。
【0031】
図3はバラスト水処理システムの制御回路を示すブロック図である。上述したバラスト水処理システムはコントローラ54を有し、コントローラ54によりバラスト水処理システムを構成する機器の作動が制御される。操作ボード55がコントローラ54に接続され、操作ボード55に設けられたキー等を操作することにより、バラスト水処理システムの起動や制御条件が設定される。また、バラスト水処理機12に設けられた電解ユニットの電極への通電制御もコントローラ54により行うことができる。
【0032】
図2に示した流量センサ47、51、濃度センサ48、52、温度センサ49、53からの検出信号が制御手段としてのコントローラ54に送られる。ポンプ41と流量調整機45はコントローラ54により制御される。流量調整機45は、取水管15によりバラスト水処理機12に供給される海水や汽水等の船外水の流量等に応じて、注入配管46により塩水供給配管39に注入される船外水と、ブラインタンク26から吐出された高濃度塩水との混合割合が調整される。これにより、バラスト水処理機12に供給される高濃度塩水の濃度と流量が制御される。
【0033】
取水管15によりバラスト水処理機12に供給される船外水の流量、塩分濃度および温度と、塩水供給配管39によりバラスト水処理機12に供給される高濃度塩水の流量、塩分濃度および温度とに基づいて、ポンプ41によりブラインタンク26から吐出される高濃度塩水の流量を制御することもできる。
【0034】
次に、上述したバラスト水処理システムを備えた船舶におけるバラスト水処理方法について説明する。
【0035】
船舶10が海水域を航海中に造水機16が駆動され、海水から真水が製造される。製造工程により製造された真水から雑用清水、飲料水およびボイラ水が製造され、それぞれタンクに貯留される。海水から真水を製造する際に生成された高濃度塩水は、ポンプ32によりブラインタンク26に送られる。ブラインタンク26に送る前の高濃度塩水の全量または一部を迂回配管40により濃縮機35に送り、ブラインタンク26に送られる高濃度塩水の濃度を、濃縮工程によりさらに高めるようにしても良い。このようにして、高濃度塩水が貯留工程を経てブラインタンク26内に貯留される。
【0036】
船舶が汽水域や淡水域においてバラストタンク11にバラスト水を注入する際には、取水口14から取り込まれた汽水域等における塩分濃度の低い船外水が取水管15によりバラスト水処理機12に送られるとともに、ブラインタンク26に貯留された高濃度塩水がバラスト水処理機12に送られる。送られた高濃度塩水は、バラスト水処理機12に設けられた電解ユニットにより電気分解する際に種海水として用いられ、殺菌剤が生成される。これにより、汽水域や淡水域における船外水は、生成された殺菌剤により浄化処理されて、浄化処理工程を経てバラストタンク11に供給される。
【0037】
全量電気分解式のバラスト水処理機12によりバラスト水を浄化処理するには、取水管15により取り込まれた船外水と高濃度塩水とを混合させて電解ユニットに供給する。この全量電気分解式のバラスト水処理機12においては、塩水供給配管39を取水管15に接続することにより、予め船外水に高濃度塩水が混合された混合水がバラスト水処理機12に供給される。この形態においては、高濃度塩水は取水管15を介してバラスト水処理機12に供給される。一方、側流電気分解式のバラスト水処理機12によりバラスト水を浄化処理するには、バラスト水処理機12内の電解ユニットに高濃度塩水を供給して殺菌剤を生成し、取水管15により取り込まれた船外水に殺菌剤を注入する。
【0038】
ブラインタンク26からバラスト水処理機12に供給される高濃度塩水の量は、取水管15によりバラスト水処理機12に供給される処理前のバラスト水、つまり汽水域や淡水域の船外水の流量に基づき、コントローラ54において演算される。コントローラ54は、流量センサ51により求められた高濃度塩水の流量と演算結果とに差があるときには、その差に応じてポンプ41および流量調整機45を制御する。
【0039】
バラスト水処理機12が全量電気分解式の場合、さらにバラスト水処理機12に供給されるバラスト水および高濃度塩水それぞれの温度および塩分濃度を、温度センサ49、53、濃度センサ48、52により検出し、これらの検出結果を加味することにより、高濃度塩水の量をより高精度に求めることができ、効率的にバラスト水処理機12により汽水域や淡水域の船外水を浄化処理することができる。
【0040】
バラスト水処理機12が側流電気分解式の場合は、バラスト水処理機12に供給される高濃度塩水の温度及び塩分濃度の検出値を加味することにより、高濃度塩水の量をより高精度に求めることができる。また、流量調整機45を制御することにより、注入配管46から塩水供給配管39に注入される船外水の量を高濃度塩水と注入配管46から注入される船外水との混合比を調整する。これにより、電解ユニットが効率よく動作する塩分濃度の塩水を、バラスト水処理機12に供給することができる。
【0041】
このように、船舶内において使用される水を造水機16により製造する際に発生する高濃度塩水を、廃棄することなくブラインタンク26に回収して貯留し、汽水域や淡水域の船外水をバラスト水として利用するときには、貯留した高濃度塩水を電気分解して得られた殺菌剤により、バラスト水を浄化してバラストタンク11に注水する。これにより、汽水域等における船外水をバラスト水として利用する場合に、予め海水を種海水としてタンクに貯留する場合に比べて少ない量の高濃度塩水を貯留することになり、貨物の積載量を増加させることができる。
【0042】
また、汽水域等における塩分濃度が低い水をバラスト水とするために、電解ユニットに注水されたバラスト水に注入するために多量の塩を保管する必要がなく、バラスト水の浄化処理を効率的に行うことができる。
【0043】
海水域において船外水をバラストタンク11に注入する際には、高濃度塩水を使用することなく、取水管15により取り込まれた船外水、すなわち海水をバラスト水処理機12に供給して電解ユニットにより海水を電気分解して殺菌剤を生成することができる。ただし、海水を電気分解する際にも、高濃度塩水をバラスト水処理機12に供給するようにしても良い。
【0044】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、注入配管46を設けることなく、ブラインタンク26から一定量の高濃度塩水をバラスト水処理機12に吐出し、取水管15にポンプを設けて取水管15によりバラスト水処理機12に供給される船外水の流量を調整するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、原油タンカー等の船舶において船体を安定させるバラスト水を処理するために適用される。