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特許7123254向上した耐食性を有する、Al-Mg-Mn合金板製品を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】向上した耐食性を有する、Al-Mg-Mn合金板製品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/047 20060101AFI20220815BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20220815BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220815BHJP
【FI】
C22F1/047
C22C21/06
C22F1/00 612
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 630M
C22F1/00 640A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021517906
(86)(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2019064313
(87)【国際公開番号】W WO2019238449
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-12-08
(31)【優先権主張番号】18176931.6
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518412058
【氏名又は名称】ノベリス・コブレンツ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Novelis Koblenz GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】ネーレ・マライケ・クナーク
(72)【発明者】
【氏名】ブレント・ヤコビー
(72)【発明者】
【氏名】アヒム・ビュルガー
(72)【発明者】
【氏名】オットマー・マルティン・ミュラー
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-283923(JP,A)
【文献】特開2006-283138(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106244872(CN,A)
【文献】特表平11-507102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/047
C22C 21/06
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3mm以上の最終ゲージを有する、Al-Mg-Mnアルミニウム合金板製品を製造する方法であって、前記方法が、
(a)重量%で、
Mg 3.5%~5.3%、
Mn 0.20%~1.2%、
Fe 最大0.4%、
Si 最大0.4%、
Cu 最大0.10%、
Cr 最大0.25%、
Zr 最大0.25%、
Zn 最大0.2%、
Ti 最大0.15%、
不可避不純物、及び残りのアルミニウムからなる組成を有するアルミニウム合金の圧延原材料を提供することと、
(b)予熱及び/または均質化させることと、
(c)前記圧延原料をmm~310mmの範囲の圧延した最終ゲージに熱間圧延することと、
(d)(i)3%~20%の範囲で延伸させること、及び(ii)5%~25%の範囲の冷間圧延下率で冷間圧延すること、からなる群から選択される、第1の冷間加工処理をすることと、
(e)200℃~280℃の範囲の温度で前記冷間加工した板を焼きなましすることと、
(f)0.4%~3%の範囲で延伸させること、からなる第2の冷間加工処理をすることと、の工程を含
ASTM G66-99に従って試験した場合に、100℃で7日間の鋭敏化の前と後の前記Al-Mg-Mnアルミニウム合金板製品の試験結果が、PAまたはPBである、
前記方法。
【請求項2】
前記Al-Mg-Mnアルミニウム合金板製品、ASTM G67-13に従って試験した場合に、25mg/cm満の質量損失を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Al-Mg-Mnアルミニウム合金板製品が、前記板製品が100℃~120℃の範囲の温度で7日間鋭敏化された段階の後に粒界にβ相粒子の連続膜を含まない、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記Al-Mg-Mnアルミニウム合金板製品が、3mm~120mmの範囲の最終ゲージを有する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(e)の間に、焼きなましが220℃~260℃の範囲の温度で実行される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の冷間加工処理が、3%~20%の範囲で延伸させることからなる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルミニウム合金が、最大で1.05%のMn含有量を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記アルミニウム合金が、少なくとも4.0%のMg含有量を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記アルミニウム合金が、0.04%~0.25%の範囲のCr含有量を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アルミニウム合金が、最大で0.15%のZn含有量を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記Al-Mg-Mnアルミニウム合金板製品が、再結晶化されていない微細構造を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記Al-Mg-Mnアルミニウム合金板製品が、少なくとも200MPaの引張降伏強度を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記Al-Mg-Mnアルミニウム合金板製品が、少なくとも290MPaの最大の引張強度を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
船体の建造で、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法により得られる、アルミニウム板の使用方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上した耐食性を有するAl-Mg-Mn板製品を製造する方法に関する。板製品は、とりわけ、海水との頻繁または一定の直接的な接触が予想される、海洋船体構造及び他の海洋用途、ならびに同様の環境で使用できる。
【背景技術】
【0002】
AA5083、AA5383及びAA5456のようなアルミニウム合金は、高比強度、耐食性及び溶接性を考慮しつつ、船体重量の低減の要求を満たすために船体の建造で広く使用されている。高レベルのマグネシウムを含むアルミニウム合金は、高強度であることが知られている。しかし、高レベルのマグネシウムを有するアルミニウム合金は、粒界腐食(IGC)及び応力腐食割れ(SCC)の影響を受けやすいことも知られている。これらのAl-Mg-Mn合金に関する特別な懸念は、特に約80~200℃を超えて使用される場合、高陽極のβ相(AlMg)が粒界に析出するときの鋭敏化であり、それは粒界腐食(IGC)、剥離、及び応力腐食割れ(SCC)を起こす。
【0003】
鋭敏化熱処理の前と後の両方で、高い機械的強度及び良好な耐食性を有する板製品をもたらす、Al-Mg-Mn合金板を製造する方法を提供することを、本発明は目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0004】
以下のとおり本明細書で明らかなように、特に明記されていない限り、アルミニウム合金と焼き戻しという呼称は、2016年にAluminium Associationが発行したAluminum Standards and Data and the Registration RecordsのAluminium Associationの呼称を指し、それは当業者には周知である。
【0005】
合金組成または好ましい合金組成の任意の説明において、すべてのパーセンテージへの言及は、特に明記しない限り、重量パーセントによるものである。
【0006】
本明細書で使用する場合、「最大」及び「最大約」という用語は、それが言及する特定の合金化成分のゼロ重量パーセントの可能性を明示的に含むが、これに限定されない。例えば、最大0.1%のZnは、Znを含まない合金を含み得る。
【0007】
この目的及び他の目的、ならびに更なる利点は、3mm以上、好ましくは3mm~300mm、好ましくは3mm~120mm、より好ましくは4mm~90mmの範囲の最終ゲージを有する、Al-Mg-Mnアルミニウム合金板製品を製造する方法を提供する、本発明によって達成される、またはそれを上回る。この方法は、
(a)重量%で、
Mg 3.5%~5.3%、
Mn 0.20%~1.2%、
Fe 最大0.4%、
Si 最大0.4%、
Cu 最大0.10%、
Cr 最大0.25%、
Zr 最大0.25%、
Zn 最大0.2%、
Ti 最大0.15%、
通常はそれぞれ0.05%未満、合計で0.15%未満の不可避不純物、及び残りのアルミニウム、を含む組成を有するアルミニウム合金の圧延原材料を提供することと、
(b)予熱及び/または均質化させることと、
(c)圧延原料を3mm~310mm、好ましくは3mm~130mm、より好ましくは4mm~100mmの範囲の圧延した最終ゲージに熱間圧延することと、
(d)(i)3%~20%の範囲で延伸させること、及び(ii)5%~25%の範囲の冷間圧延下率で冷間圧延すること、からなる群から選択される、第1の冷間加工処理をすることと、
(e)第1の冷間加工処理に続いて、200℃~280℃の範囲の温度での板の焼きなまし熱処理をすることと、
(f)(i)0.4%~3%、好ましくは0.4%~2%未満の範囲で延伸させること、及び(ii)0.5%~5%の範囲の冷間圧延下率で冷間圧延すること、からなる群から選択される、第2の冷間加工処理をすることと、の工程をこの順序で含む。
【0008】
本発明による方法は、鋭敏化熱処理(100℃にて7日間)の前と後の両方で、強度と耐食性の望ましいバランスを有する、Al-Mg-Mn合金板製品を提供する。
【0009】
Al-Mg-Mn合金板製品は、剥離腐食に対する耐性がある。「剥離腐食に対する耐性」とは、アルミニウム合金製品が、「5XXXシリーズアルミニウム合金の剥離腐食感受性の目視評価のための標準試験方法(ASSET試験)」と題する、ASTM標準G66-99(2013)に合格することを意味する。PA、PB、PC及びPDは、ASSET試験の結果を示し、PAは最良の結果を表す。本発明に従って製造された板製品は、PB結果またはそれ以上を達成する。
【0010】
Al-Mg-Mn合金板製品は、粒界腐食にも耐性がある。「粒界腐食耐性」とは、Al-Mg-Mn合金が鋭敏化される(100℃にて7日間)前と後の両方で、アルミニウム合金板製品が、「硝酸への曝露後の質量損失による5XXXシリーズアルミニウム合金の粒界腐食に対する感受性を決定するための標準試験方法」(NAMLT試験)と題する、ASTM標準G67-13に合格することを意味する。ASTM G67-13により測定した質量損失が15mg/cm以下の場合、試料は、粒界腐食の影響を受けないとみなされる。質量損失が少なくとも約25mg/cmより大きい場合、試料は、粒界腐食の影響を受けやすいとみなされる。測定した質量損失が15mg/cmと25mg/cmの間である場合、その後、顕微鏡による更なる検査が行われて、腐食の種類及び深さが決定され、そこで当業者であれば、顕微鏡検査の結果を介して粒界腐食があるかどうかを判定することができる。本発明に従って製造された板製品は、鋭敏化した段階の前と後の両方で、15mg/cm以下のASTM G67-13により測定した質量損失を達成する。「鋭敏化」とは、アルミニウム合金板製品が、少なくとも20年の耐用年数を表す状態まで焼きなましされていることを意味する。例えば、アルミニウム合金板製品は、数日間連続して高温(例えば、7日間で100℃~120℃の範囲の温度)に曝露されてもよい。
【0011】
Al-Mg-Mnアルミニウム合金は、鋳造製品の技術で一般的な半連続鋳造技術(例えば、DC鋳造、EMC鋳造、EMS鋳造)を使用し、及び好ましくは、約300mm以上(例えば、400mm、500mmまたは600mm)の範囲のインゴット厚さを有する、圧延原料に加工するためのインゴットまたはスラブとして提供され得る。圧延原料は、好ましくは、幅が約1,000mm以上、長さが約3.5m以上である。そのような大きなインゴットは、本発明を実施する上で、特に、例えば、海洋船舶の建造で使用するための大きな板製品を作製するのに好ましい。別の実施形態で、連続鋳造(例えば、ベルトキャスターまたはロールキャスター)から得られて、最大約40mmの厚さを有する薄いゲージのスラブは、Al-Mg-Mn圧延原料を提供するために使用でき、本発明による、より薄いゲージ板製品の製造のために使用できる。
【0012】
圧延原料を鋳造した後、特に厚い鋳放しインゴットは、鋳造インゴットの鋳造表面近くの分離ゾーンを取り除くために、一般的に表面を削られる。
【0013】
アルミニウム合金ストックは、1つまたは複数の工程で熱間圧延する前に、少なくとも480℃の温度で、予熱及び/または均質化させることが望ましい。インゴットの中におこり得る望ましくない細孔形成をもたらす共晶溶融を回避するために、温度は高すぎてはならず、通常は535℃を超えるべきではない。大規模な商業用インゴットにおける温度の時間は、約1~36時間であり得る。長期間(例えば、48時間以上)は、望ましい特性にすぐに悪影響を及ぼすことはないが、経済的には魅力に欠ける。一般的な工業規模の炉を使用する場合、加熱速度は、通常、約30℃/時間~約40℃/時間の範囲である。
【0014】
合金は熱間圧延されて、大規模な商業用の出発圧延ストック(例えば、約400mm以上の厚さ)を使用する場合、例えば、金属を前後に転がしてその厚みを細らせる逆転ホットミルを使用して、その厚さを最初の厚さの少なくとも約40%(例えば、その厚さの約60%または65%以上)に低減する。したがって、最初の熱間圧延は、さまざまな圧延機を使用して段階的に行うことができる。また、失われた熱を戻すために、圧延パスの間の約500℃での従来の再加熱処置を含めることができる。
【0015】
本発明の重要な特徴は、最終的な熱間圧延厚さの圧延材料を、好ましくは周囲温度で、その後、別々の冷間加工処理及び2つの冷間加工処理の間の焼きなまし熱処理にて、2回、冷間加工されることである。好ましい実施形態で、第1及び第2の冷間加工処理の両方は、延伸によるものである。延伸は、延伸方向、通常は対象の板製品のL方向の永久伸びとして定義される。
【0016】
熱間圧延処理に続いて、合金板製品は、(i)約3%~約20%の範囲で延伸させること、及び(ii)約5%~約25%の範囲の冷間圧延下率で冷間圧延すること、からなる群から選択される、第1の冷間加工処理により冷間加工される。あまり好ましくないモードではあるが、冷間加工工程は、例えば、冷間圧延処理とそれに続く延伸処理の組み合わせでも実行できる。
【0017】
周囲温度での第1の冷間加工処理の好ましい実施形態で、それは、延伸装置を使用することによって行われ、冷間圧延処理は行われていない。延伸は、約3%~約20%の範囲である。延伸は、1回の延伸処理で行うことができる。延伸は、特により高い延伸度のために、2つ以上の連続的な延伸処理、例えば2つまたは3つで行うことができる。
【0018】
好ましい実施形態で、第1及び第2の冷間加工処理の後の最終ゲージが50mmを超える板製品は、好ましくは約5%~約15%の範囲で、より好ましくは少なくとも約7%で延伸される。更に、第1及び第2の冷間加工処理の後の最終ゲージが最大50mmである板製品は、好ましくは約3%~約16%の範囲で、好ましくは少なくとも5%で及び好ましくは12%以下で延伸される。
【0019】
冷間加工処理に続いて、好ましくは延伸処理により、冷間加工した板に焼きなまし熱処理を施して、前の処理工程で形成された可能性のある、実質的にすべてのβ相粒子を、約200℃~280℃の範囲の、好ましくは約220℃~260℃の範囲の、より好ましくは約230℃~250℃の範囲の設定温度の炉で溶融させて、その後冷却する。当業者であれば、アルミニウム合金中のMg含有量が増加すると、β相粒子を溶融させる温度も上がることは既知である。
【0020】
焼きなまし温度の時間は、15分~約4時間、好ましくは最大約3時間、及びより好ましくは最大約2時間の範囲である。最終的な板製品の強度レベルに悪影響を及ぼす、微細構造の(部分的な)再結晶化を防ぐために、280℃を超える焼きなまし温度または設定焼きなまし温度での長すぎる浸漬時間は避けるべきである。
【0021】
アルミニウム合金板製品は、少なくとも部分的には、粒界にβ相粒子の連続膜がないため、その結果、応力腐食割れ及び粒界腐食に対する耐性を得る。アルミニウム合金製品は多結晶である。「粒子」はアルミニウム合金の多結晶構造の結晶であり、「粒界」はアルミニウム合金の多結晶構造の粒子を結合する境界であり、「β相」はAlMgであり、「β相の連続膜」は、β相粒子の連続体積が粒界の大部分に存在することを意味する。β相の連続性は、例えば、適切な解像度(例えば、少なくとも200倍の倍率)の顕微鏡検査を介して決定され得る。
【0022】
設定焼きなまし温度から約200℃への冷却は、好ましくは10℃/時間以下、好ましくは5℃/時間以下の冷却速度で行うべきである。比較的遅い冷却速度は、粒界での不連続なβ相粒子の析出にとって、及び周囲温度への冷却後とAl-Mg-Mn合金の鋭敏化後の両方でのβ相粒子の連続膜の析出を回避するために重要である。
【0023】
約200℃から約85℃未満への冷却はそれほど重要ではなく、析出の粗雑化を最小限に抑えるために、例えば20℃/時間を超える、より高速な冷却速度で行うことができる。約85℃から周囲温度への冷却は重要ではない。
【0024】
あるいは、他の熱処理工程を200℃~280℃の温度範囲で実行して、本明細書で説明する冷却速度から生じる熱処理と同等の、同じ温度での時間の結果を得ることができる。これらの熱処理は、中間の浸漬工程と組み合わせたときの、より速い冷却速度を含み得る。
【0025】
次に、焼きなましされて冷却された板製品は、板製品の強度を高めるために第2の冷間加工処理を施され、それは、(i)約0.4%~約3%、好ましくは約0.4%~約2%未満の範囲で延伸させること、及び(ii)約0.5%~約5%の範囲、好ましくは約0.5%~約4%の範囲の冷間圧延下率で冷間圧延すること、からなる群から選択される。冷間圧延処理は、調質圧延の形で行うことができる。
【0026】
周囲温度での第2の冷間加工処理の好ましい実施形態で、それは、延伸装置を使用することによって行われ、冷間圧延処理は行われていない。延伸は、第2の延伸処理の開始時のその長さの約0.4%~約3%、好ましくは約0.4%~約2%未満、より好ましくは約0.5%~約1.7%の範囲である。
【0027】
第2の延伸処理の後、Al-Mg-Mn板製品は、3mm~約300mm、好ましくは3mm~約200mm、より好ましくは約3mm~約120mm、及び最も好ましくは4mm~90mmの範囲の最終ゲージである。
【0028】
その後、板製品は縁をトリミングされ、最終寸法に切断または長さ調整され、保管され、出荷される。
【0029】
好ましい実施形態で、最終的なAl-Mg-Mnアルミニウム合金板製品は、再結晶化されていない微細構造、より好ましくは完全に再結晶化されていない微細構造を有し、強度と耐食性を含む特性の必要なバランスを提供する。「完全に再結晶化されていない」とは、微細構造の再結晶化の程度が、約25%以下、好ましくは約20%以下、より好ましくは約15%以下であることを意味する。
【0030】
本発明によるアルミニウム合金板製品は、すべての通常の溶接技術(例えば、MIG及び摩擦撹拌溶接)によって溶接できる。アルミニウム板は、通常の溶加ワイヤ(例えば、AA5183)を使用して、または高いMg及び/またはMn含有量を有する改質した溶加ワイヤによって溶接できる。
【0031】
本発明の方法に従って製造されたアルミニウム合金板製品で、Mgの含有量は約3.5%~約5.3%の範囲であるべきであり、アルミニウム合金の主要な強化要素を形成する。板材料に十分な強度を提供するためのMg含有量の好ましい下限は、約4.0%、より好ましくは約4.4%、最も好ましくは約4.6%である。Mg含有量の好ましい上限は、約5.1%、より好ましくは約4.95%である。耐食性、特に粒界腐食、剥離腐食及び応力腐食に対する耐性は、Mgレベルが高くなると急速に低下する。
【0032】
Mn含有量は、約0.20%~約1.2%の範囲である必要があり、それは、別の必須の合金元素である。Mn含有量の好ましい下限は、約0.35%、好ましくは約0.5%、より好ましくは約0.6%である。強度と耐食性のバランスを提供するためのMn含有量の好ましい上限は、約1.05%、より好ましくは約1.0%である。
【0033】
最終製品の微細構造を制御するには、Mnの添加の次に、分散質形成元素として、それぞれ最大約0.25%のCrまたはZrのいずれかの意図的な添加を行うことが好ましい。
【0034】
Crの好ましい添加量は、約0.04%~0.25%、より好ましくは約0.06%~約0.20%の範囲である。Cr含有量のより好ましい上限は約0.15%である。Crが意図的に添加される場合、更にZrレベルが0.10%を超えないことが好ましく、それは好ましく約0.07%未満である。そのうえ、Zrレベルの好ましい下限含有量は、約0.01%、好ましくは約0.02%である。
【0035】
鉄(Fe)は一般的な不純物であり、最大約0.4%の範囲で存在でき、好ましくは最大約0.25%に抑えられる。通常の好ましい鉄レベルは、最大0.20%の範囲である。
【0036】
ケイ素(Si)は一般的な不純物であり、最大約0.4%の範囲で存在でき、好ましくは最大約0.25%に抑えられる。通常の好ましいSiレベルは、最大0.20%の範囲である。
【0037】
海洋環境で使用する場合、耐食性は板材料の非常に重要な工学特性であるため、銅(Cu)を0.10%以下の低レベル、好ましくは0.08%以下のレベル、より好ましくは0.06%以下のレベルに維持することが好ましい。なぜなら、それは、特にASSET試験結果に悪影響を及ぼし得るからである。
【0038】
亜鉛(Zn)は一般的な不純物であり、特に、NAMLT試験結果に悪影響を及ぼす可能性があるため、最大約0.2%、好ましくは最大約0.15%、より好ましくは最大約0.10%に抑えられるのが好ましい。
【0039】
Tiは、本発明の合金製品を使用して製造したインゴット及び溶接継手の両方の固化中の結晶粒微細化剤として重要である。Tiレベルは約0.15%を超えてはならず、Tiの好ましい範囲は約0.005%~0.1%である。Tiは、粒子サイズ制御のために、1つの元素として、または当技術分野で知られているように鋳造助剤として使用されるホウ素または炭素のいずれかと共に、添加することができる。
【0040】
本発明の一実施形態で、Al-Mg-Mnアルミニウム合金は、重量%で、Mg3.5%~5.3%、Mn0.20%~1.2%、Fe最大0.4%、Si最大0.4%、Cu最大0.10%、Cr最大0.25%、Zr最大0.25%、Zn最大0.2%、Ti最大0.15%、不可避不純物それぞれ0.05%未満、合計で0.15%未満、残りのアルミニウムからなり、本明細書に記載かつ特許請求されるように、好ましいより狭い組成範囲を有する。
【0041】
本発明による方法は、最大40mmの最終ゲージで、本明細書に記載かつ特許請求されている組成を有し、少なくとも215MPa、好ましくは少なくとも220MPa、最良の例では225MPa以上のL方向の引張降伏強度を有する、Al-Mg-Mn板製品の製造を可能にする。L方向の最大の引張強度は、少なくとも315MPa、好ましくは少なくとも320MPa、最良の例では330MPa超である。L方向の破断伸び(A5×)は、少なくとも12%である。これらの機械的特性は、ASTM B557に従って測定される。
【0042】
本発明による方法は、40mm~90mmの最終ゲージで、本明細書に記載かつ特許請求されている組成を有し、少なくとも200MPa、好ましくは少なくとも210MPaのL方向の引張降伏強度を有する、Al-Mg-Mn板製品の製造を可能にする。L方向の最大の引張強度は、少なくとも290MPa、好ましくは少なくとも300MPaである。L方向の破断伸び(A5×)は、少なくとも12%である。これらの機械的特性は、ASTM B557に従って測定される。
【0043】
本発明による方法により得られるAl-Mg-Mn板材料は、海洋船舶に使用するための理想的な候補である。
【0044】
本発明の方法は、本明細書に記載かつ特許請求されているアルミニウム合金組成を有し、強度の望ましいバランス(例えば、L方向の引張降伏強度が少なくとも190MPa、好ましくは少なくとも200MPa、L方向の引張強度が少なくとも310MPa、好ましくは少なくとも325MPa)、及び鋭敏化熱処理(例えば、100℃にて7日間)の前と後の両方での耐食性も提供する、押し出し部片の製造にも適用できる。押し出されたAl-Mg-Mn合金プロファイルまたは部片は、前に参照したASTM標準G66-99(2013)に従って測定した場合、剥離腐食に対する耐性がある。押し出されたAl-Mg-Mn合金プロファイルまたは部片は、前に参照したASTM標準G67-13に従って測定した場合、粒界腐食に対する耐性がある。前記方法は、
(a)本明細書に記載かつ特許請求されているアルミニウム合金の、例えば、DC鋳造による押し出しインゴットを提供することと、
(b)好ましくは、圧延原材料と同様の温度及び時間で、押し出しインゴットを予熱及び/または均質化することと、
(c)2mm~約20mm、好ましくは2mm~約15mmの範囲の断面または壁の厚さを有する、押し出しプロファイルにインゴットを熱間押し出しすることであって、押し出し処理の開始時のビレット温度が、通常、約425℃~約500℃の範囲である、前記熱間押し出しすることと、
(d)約3%~20%、好ましくは約3%~15%、より好ましくは約3%~10%の範囲で第1の延伸処理することと、
(e)押し出され、延伸したプロファイルを約200℃~280℃の範囲の温度で焼きなましすることであって、好ましい温度と浸漬時間と冷却処理が圧延原材料と同じである、焼きなましすることと、
(f)約0.4%~5%、好ましくは約0.4%~3%、より好ましくは約0.4%~1.8%の範囲で第2の延伸処理することと、の工程をこの順序で含む。
【0045】
本発明は、前術した実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内で広く変化し得る。