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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】近赤外線センサカバー
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20220816BHJP
   G01S 7/497 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01S7/497
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021109847
(22)【出願日】2021-07-01
(62)【分割の表示】P 2018056640の分割
【原出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2021152556
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】奥村 晃司
(72)【発明者】
【氏名】大川 新太朗
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏明
(72)【発明者】
【氏名】前田 英登
(72)【発明者】
【氏名】飯村 公浩
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-506459(JP,A)
【文献】特表2003-518633(JP,A)
【文献】特表2018-505383(JP,A)
【文献】特開平5-157830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48-7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00-3/32
B60R 9/00-11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外部へ向けて近赤外線を送信する送信部と、前記車両の外部の対象物に当たって反射されて戻ってきた近赤外線を受信する受信部とを備える近赤外線センサに適用される近赤外線センサカバーであり、
板状をなし、かつ厚み方向を前記近赤外線の送信及び受信の方向に合致させた状態で配置されて、前記送信部及び前記受信部を覆うカバー本体部と、前記カバー本体部の前記厚み方向における一側に配置され、かつ通電により発熱するヒータ線とを備え、
前記ヒータ線は、互いに平行に延びる複数の直線部と、隣り合う前記直線部の端部同士を連結する複数の連結部とを備えており、
隣り合う前記直線部の間隔が3mm~10mmに設定され、前記ヒータ線の直径が0.01mm~0.2mmに設定されており、
前記送信部は、走査経路に沿ってビームを走査することにより近赤外線を送信するものであり、
前記走査経路は、互いに平行に延びる複数の主経路により構成されており、
前記ヒータ線の前記直線部は、前記走査経路の前記主経路に沿って延びるように配置されている近赤外線センサカバー。
【請求項2】
前記ヒータ線の前記直線部は、前記走査経路の前記主経路に対し平行に配置されている請求項1に記載の近赤外線センサカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線センサにおける近赤外線の送信部及び受信部を覆う近赤外線センサカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては、近赤外線を利用して、先行車両、歩行者等を含む対象物との距離や相対速度を検出するために、近赤外線レーダ装置が設置されることがある。近赤外線レーダ装置の一部を構成する近赤外線センサは、近赤外線の送信部及び受信部を有する。送信部及び受信部は、近赤外線を透過する近赤外線センサカバーによって覆われる。近赤外線センサでは、送信部から近赤外線が近赤外線センサカバーを介して車両の外部へ向けて送信される。車両の外部の対象物に当たり反射されて戻ってきた近赤外線は、近赤外線センサカバーを介して受信部で受信される。近赤外線の上記送信及び受信により、上記距離や相対速度が検出される。
【0003】
上記近赤外線レーダ装置では、近赤外線センサカバーに雪が付着すると、近赤外線の透過を妨げるため、検出を一時的に停止する処置を採っている。しかし、近赤外線レーダ装置の普及に伴い、降雪時でも検出を行なうことが要望されている。
【0004】
そこで、近赤外線センサカバーにヒータ線を配置し、通電に伴いヒータ線が発する熱により雪を溶かすことが考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-268015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ヒータ線が金属によって形成されているため、特許文献1のように、近赤外線センサカバーにヒータ線が配線された場合、近赤外線がヒータ線に照射されて反射されるおそれがある。反射された近赤外線の分、近赤外線センサカバーを透過する近赤外線が少なくなり、近赤外線センサの検出機能に影響を及ぼすおそれがある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、融雪機能を発揮しつつ、近赤外線の透過性能の向上を図ることのできる近赤外線センサカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する近赤外線センサカバーは、車両の外部へ向けて近赤外線を送信する送信部と、前記車両の外部の対象物に当たって反射されて戻ってきた近赤外線を受信する受信部とを備える近赤外線センサに適用される近赤外線センサカバーであり、板状をなし、かつ厚み方向を前記近赤外線の送信及び受信の方向に合致させた状態で配置されて、前記送信部及び前記受信部を覆うカバー本体部と、前記カバー本体部の前記厚み方向における一側に配置され、かつ通電により発熱するヒータ線とを備え、前記ヒータ線は、互いに平行に延びる複数の直線部と、隣り合う前記直線部の端部同士を連結する複数の連結部とを備えており、隣り合う前記直線部の間隔が3mm~10mmに設定され、前記ヒータ線の直径が0.01mm~0.2mmに設定されており、前記送信部は、走査経路に沿ってビームを走査することにより近赤外線を送信するものであり、前記走査経路は、互いに平行に延びる複数の主経路により構成されており、前記ヒータ線の前記直線部は、前記走査経路の前記主経路に沿って延びるように配置されている。
【0009】
上記の構成によれば、近赤外線センサの送信部から近赤外線が近赤外線センサカバーを介して車両の外部へ向けて送信される。車両の外部の対象物に当たり反射されて戻ってきた近赤外線は、近赤外線センサカバーを介して受信部で受信される。
【0010】
また、ヒータ線は通電されると発熱する。そのため、近赤外線センサカバーに雪が付着しても、ヒータ線が通電により発熱されることで、その雪は、ヒータ線から伝わる熱によって溶かされる。
【0011】
ここで、カバー本体部の厚み方向における一側に配置されたヒータ線は、近赤外線が近赤外線センサカバーを透過する際の妨げとなる。ヒータ線に照射された近赤外線は反射される。反射される近赤外線の量(反射量)が多くなるに従い、近赤外線センサカバーを透過する近赤外線の量が少なくなり、近赤外線センサの検出機能が低下する。
【0012】
ヒータ線が、上記の構成によるように複数の直線部及び複数の連結部を備える構成を採っている場合には、ヒータ線で反射される近赤外線の量(反射量)は、隣り合う直線部の間隔(ピッチ)と、ヒータ線の直径とから影響を大きく受ける。間隔が大きくなるに従い、また、直径が小さくなるに従い、ヒータ線による近赤外線の反射量が少なくなって、近赤外線センサカバーを透過する近赤外線が多くなる。反面、ヒータ線の発熱量が少なくなり、融雪機能が低下する。
【0013】
この点、上記の構成によるように、隣り合う直線部の間隔が3mm~10mmに設定され、かつヒータ線の直径が0.01mm~0.2mmに設定されることにより、必要な融雪機能が確保される。また、ヒータ線で反射される近赤外線の量(反射量)が許容値に抑えられる。そして、近赤外線センサが検出機能を適正に発揮するのに必要な量以上の近赤外線が、近赤外線センサカバーを透過する。
【0014】
また、ヒータ線の直線部が、走査経路の主経路に沿って延びるように配置されることで、近赤外線がヒータ線に当たりにくくなり、ヒータ線で反射される近赤外線の量(反射量)を許容値に抑えることが容易となる。
【0015】
上記近赤外線センサカバーにおいて、前記ヒータ線の前記直線部は、前記走査経路の前記主経路に対し平行に配置されていることが好ましい。
上記の構成によるように、ヒータ線の直線部が、走査経路の主経路に対し平行に配置されることで、近赤外線がより一層ヒータ線に当たりにくくなる。
【発明の効果】
【0016】
上記近赤外線センサカバーによれば、融雪機能を発揮しつつ、近赤外線の透過性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は、一実施形態における近赤外線センサカバーを用いて構成された近赤外線センサの側断面図、(b),(c)はそれぞれ、図1(a)の一部を拡大して示す部分側断面図。
図2】一実施形態の近赤外線センサカバーが適用された車両の斜視図。
図3】一実施形態におけるビームの走査経路を、その一部を省略した状態で示す正面図。
図4】一実施形態におけるヒータ線を、その一部を省略した状態で示す部分正面図。
図5】一実施形態におけるヒータ線とビームとの関係を示す部分正面図。
図6】(a)は、比較例の近赤外線センサカバーを用いて構成された近赤外線センサの側断面図、(b),(c)はそれぞれ、図6(a)の一部を拡大して示す部分側断面図。
図7】変形例の近赤外線センサカバーによりカバーが兼ねられた近赤外線センサを示す側断面図。
図8】近赤外線センサとは別に設けられた変形例の近赤外線センサカバーを、近赤外線センサとともに示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、近赤外線センサカバーの一実施形態について、図1図6を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。
【0019】
図1及び図2に示すように、車両10の平面視における四隅(右前部、左前部、右後部、左後部)には、近赤外線センサ11が取り付けられている。なお、図2は、車両10の左前部に取り付けられた近赤外線センサ11のみを示している。また、4箇所の近赤外線センサ11は、互いに同一の構成を有している。そのため、以下では、車両10の左前部に取り付けられた近赤外線センサ11のみについて説明し、他の3箇所の近赤外線センサ11については説明を割愛する。
【0020】
近赤外線センサ11は、近赤外線レーダ装置の一部を構成する部品であり、近赤外線IR1を車両10の外方である前方へ向けて送信し、かつ先行車両、歩行者等を含む車外の対象物に当たって反射された近赤外線IR2を受信することで、対象物との距離や相対速度を検出する。検出結果は、衝突被害軽減制御、誤発進抑制制御等に用いられる。
【0021】
赤外線は、電磁波の一種であり、可視光の波長(0.36μm~0.83μm)よりも長い波長を有する。近赤外線IR1,IR2は、赤外線の中で最も短い波長(0.83μm~3μm)を有している。
【0022】
上記近赤外線レーダ装置と類似した機能を有するものとしてミリ波レーダ装置がある。ミリ波レーダ装置は、車両10の前方の所定の角度範囲へ向けてミリ波を発し、送信波と受信波との時間差や受信波の強度等から、車両10の前方を走行する先行車両との車間距離や相対速度を検出する。
【0023】
近赤外線レーダ装置における近赤外線センサ11は、上記ミリ波レーダ装置よりも広い角度範囲へ向けて近赤外線IR1を発する。また、近赤外線センサ11はミリ波レーダ装置よりも近い距離離れた対象物を検出対象とする。
【0024】
近赤外線センサ11の外殻部分の後半部はケース12によって構成され、前半部分はカバーによって構成されている。近赤外線センサ11は、車両10のボディに固定されている。
【0025】
ケース12は、筒状をなす周壁部13と、周壁部13の後端部に形成された底壁部17とを備えており、前面が開放された有底筒状をなしている。
図1(c)に示すように、周壁部13の前端内周部からは、環状をなす内環状突部14が前方へ向けて突出している。周壁部13の前端外周部からは、環状をなす外環状突部15が前方へ向けて突出している。周壁部13の前端部からは、環状をなす中間環状突部16が、上記内環状突部14及び外環状突部15から離間した状態で前方へ突出している。内環状突部14、中間環状突部16及び外環状突部15の突出高さh1は、互いに同一に設定されており、それらの前端面14a,16a,15aは、前後方向における同一面上に位置している。上記突出高さh1は、0.7mm以上に設定されることが望ましい。これは、後述する内環状段差部35、中間環状凹部34及び外環状段差部36との接触(密着)面積を確保するためである。
【0026】
上記のように構成されたケース12は、近赤外線IR1,IR2を含む光線を透過しにくい樹脂材料であるPBT(ポリブチレンテレフタレート)によって形成されている。
底壁部17の前面であって、上下方向における中央部よりも上方には、上記近赤外線IR1を送信する送信部18が取り付けられている。また、上記中央部よりも下方には、上記近赤外線IR2を受信する受信部19が取り付けられている。
【0027】
送信部18は、図3に示す走査経路21に沿ってビーム22(図5の二点鎖線参照)を走査することにより近赤外線IR1を送信する。走査経路21の一部は、互いに上下方向に平行に離間した状態で車幅方向に延びる複数の主経路23により構成されている。走査経路21の他の一部は、隣り合う主経路23の端部同士を連結する複数の副経路24により構成されている。
【0028】
図1(a)に示すように、近赤外線センサ11のカバーは、近赤外線センサカバー31によって構成されている。近赤外線センサカバー31は、筒状をなす周壁部32と、周壁部32の前端部に形成された板状のカバー本体部37とを備えている。
【0029】
図1(c)に示すように、周壁部32の後端部であって、同周壁部32の内外方向における中間部分には、同後端部の後端面33から前方へ凹む環状の中間環状凹部34が形成されている。周壁部32の後端部の内周側の角部には、上記中間環状凹部34から内周側へ離間した状態で、同後端部の後端面33から前方へ延びる環状の内環状段差部35が形成されている。周壁部32の後端部の外周側の角部には、上記中間環状凹部34から外周側へ離間した状態で、同後端部の後端面33から前方へ延びる環状の外環状段差部36が形成されている。
【0030】
そして、中間環状凹部34には、上記中間環状突部16が密着した状態で入り込んでいる。内環状段差部35には、上記内環状突部14が密着した状態で係合されている。外環状段差部36には、上記外環状突部15が密着した状態で係合されている。
【0031】
図1(a)に示すように、カバー本体部37は、上記周壁部13の前端開放部分を塞ぐ最小限の大きさに形成されている。カバー本体部37は底壁部17の前方に位置しており、送信部18及び受信部19を前方から覆っている。
【0032】
カバー本体部37の厚み方向は、車両10の前後方向と略合致している。上記近赤外線IR1,IR2は、カバー本体部37の厚み方向に透過する。
図1(b)に示すように、カバー本体部37の後面37bであって、上下方向における略中央部には、車幅方向に延びる溝部38が形成されている。溝部38は、カバー本体部37の車幅方向の略全幅にわたって形成されている。カバー本体部37のうち、溝部38よりも前側の部分の厚みt2は、溝部38の設けられていない箇所の厚みt1に対し1/2以下に設定されている。本実施形態では、厚みt1が2mmに設定されているのに対し、厚みt2が1mmに設定されている。
【0033】
上記カバー本体部37及び周壁部32は、透明な樹脂材料であるPC(ポリカーボネート)によって形成されているが、そのほかにも、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、COP(シクロオレフィンポリマー)等の透明な樹脂材料によって形成されてもよい。
【0034】
図1(a),(b)に示すように、溝部38には、ケース12及びカバー本体部37とは別に、PC(ポリカーボネート)によって形成された仕切り板41の前端部が圧入されている。
【0035】
カバー本体部37の厚み方向における一側である後側には、ヒータ部42が配置されている。ヒータ部42は、樹脂シート43と、その樹脂シート43上に形成されたヒータ線44とを備えている。樹脂シート43としては、例えば、PC(ポリカーボネート)等の透明な樹脂材料によって形成されたものが用いられている。また、ヒータ線44としては、例えば、ニクロム線、カーボン発熱体、銀ペースト等を印刷することにより形成されたものが用いられている。
【0036】
図4及び図5に示すように、ヒータ線44は、複数の直線部45と複数の連結部46とを備えている。複数の直線部45は、互いに上下方向に離間した状態で平行に延びている。複数の連結部46は、隣り合う直線部45の端部同士を連結している。隣り合う直線部45の間隔p1は、3mm~10mmに設定されている。本実施形態では、間隔p1が6.7mmに設定されている。また、ヒータ線44の直径d1は、0.01mm~0.2mmに設定されている。本実施形態では、直径d1が0.08mmに設定されている。
【0037】
さらに、各直線部45は、上記走査経路21の主経路23(図3参照)に沿って延びるように配置されることが望ましく、本実施形態では、主経路23に対し平行となるように、すなわち車幅方向に延びるように配置されている。
【0038】
図1(a)~(c)に示すように、カバー本体部37の前面及び周壁部32の外周面には、撥水層47が形成されている。撥水層47は、例えば、有機系塗装膜、シリコーン膜等によって構成されている。
【0039】
そして、近赤外線センサカバー31における近赤外線IR1,IR2の光線透過率は60%以上であり、表面反射率は30%以下である。
次に、上記のように構成された本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0040】
図1(a)に示すように、近赤外線センサ11の送信部18から近赤外線IR1が送信されると、その近赤外線IR1は、近赤外線センサカバー31のカバー本体部37を透過する。
【0041】
このとき、仕切り板41は、送信部18から送信された近赤外線IR1が、カバー本体部37において溝部38よりも下方部分に照射されるのを規制する。また、仕切り板41の前方にはカバー本体部37の一部が位置する。近赤外線IR1がカバー本体部37の上記部分を透過し、散乱するおそれがある。しかし、本実施形態では、カバー本体部37のうち、溝部38よりも前側の部分の厚みt2が溝部38の設けられていない箇所の厚みt1の1/2以下に設定されており、この厚みt2が薄い。そのため、近赤外線IR1がカバー本体部37の上記部分を透過し、散乱するのを抑制することができる。
【0042】
カバー本体部37を透過した上記近赤外線IR1は、先行車両、歩行者等を含む対象物に当たって反射される。反射された近赤外線IR2は、再びカバー本体部37を透過し、受信部19によって受信される。近赤外線センサ11による近赤外線IR1,IR2の上記送信及び受信により、先行車両、歩行者等を含む対象物との距離や相対速度が検出される。
【0043】
一方、ヒータ線44は通電されると発熱する。そのため、降雪時には、ヒータ線44に通電してこれを発熱させる。すると、近赤外線センサカバー31に雪が付着する現象が抑制される。また、近赤外線センサカバー31に雪が付着しても、その雪は、発熱したヒータ線44から伝わる熱によって溶かされる。
【0044】
ここで、カバー本体部37の厚み方向における後側に配置されたヒータ線44は、近赤外線IR1,IR2が近赤外線センサカバー31を透過する際の妨げとなる。ヒータ線44に照射された近赤外線IR1,IR2は反射される。反射される近赤外線IR1,IR2の量(反射量)が多くなるに従い、近赤外線センサカバー31を透過する近赤外線IR1,IR2の量が少なくなり、近赤外線センサ11の検出機能が低下する。
【0045】
ヒータ線44が、複数の直線部45及び複数の連結部46を備えている本実施形態では、ヒータ線44で反射される近赤外線IR1,IR2の量(反射量)は、隣り合う直線部45の間隔(ピッチ)p1と、ヒータ線44の直径d1とから影響を大きく受ける。間隔p1が大きくなるに従い、また、直径d1が小さくなるに従い、ヒータ線44による近赤外線IR1,IR2の反射量が少なくなって、近赤外線センサカバー31を透過する近赤外線IR1,IR2が多くなる。反面、ヒータ線44の発熱量が少なくなり、融雪機能が低下する。
【0046】
この点、本実施形態のように、隣り合う直線部45の間隔p1が3mm~10mmを満たす値(6.7mm)に設定され、かつヒータ線44の直径d1が0.01mm~0.2mmを満たす値(0.08mm)に設定されることにより、必要な融雪機能を確保することができる。また、ヒータ線44で反射される近赤外線IR1,IR2の量(反射量)を許容値に抑えることができる。そして、近赤外線センサ11が検出機能を適正に発揮するのに必要な量の近赤外線IR1,IR2が、近赤外線センサカバー31において透過されるようにすることができる。
【0047】
また、カバー本体部37の前面、及び周壁部32の外周面に形成された撥水層47は、近赤外線センサカバー31の前面に付着した水を弾き、同近赤外線センサカバー31を濡れにくくする。従って、融雪時にカバー本体部37の前面等に水の膜が形成されるのを撥水層47によって抑制することができる。
【0048】
ところで、ケース12の周壁部13の前端部や、近赤外線センサカバー31の周壁部32の後端部を上述したような形状にし、溝部38に仕切り板41を取り付ける構成を採用したのは、次の理由による。
【0049】
上記のように、後半部がケース12により構成され、かつ前半部が近赤外線センサカバー31により構成される近赤外線センサ11では、それらの間に気密性が要求される。そこで、図6(a)~(c)の比較例に示すように、仕切り板41が配置されたインサート型を用いてケース12を成形し、その後に、ケース12及び仕切り板41をインサートとして近赤外線センサカバー31を成形(インサート成形)することが考えられる。なお、上記比較例において、本実施形態と共通する部材については本実施形態と同一の符合が付されている。また、図6(a)~(c)では、撥水層47の図示が省略されている。
【0050】
図6(c)に示すように、ケース12の周壁部13の前端内周部からは、環状をなす内環状突部14が前方へ向けて突出している。周壁部13の前端外周部からは、環状をなす外環状突部15が、上記内環状突部14から外周側へ離間した状態で、前方へ向けて突出している。内環状突部14は、外環状突部15よりも前方へ多く突出している。
【0051】
近赤外線センサカバー31における周壁部32であって、同周壁部32の後端部の内周側の角部には、同後端部の後端面33から前方へ延びる環状の内環状段差部35が形成されている。周壁部32の後端部の外周側の角部には、上記内環状段差部35から外周側へ離間した状態で、上記後端面33から前方へ延びる環状の外環状段差部36が形成されている。
【0052】
そして、内環状段差部35には、上記内環状突部14が密着した状態で係合されている。外環状段差部36には、上記外環状突部15が密着した状態で係合されている。
さらに、図6(b)に示すように、仕切り板41の前端面41aは、近赤外線センサカバー31におけるカバー本体部37の前面37aに露出されている。
【0053】
上記の構成を有する図6(a)~(c)の比較例では、最初に、インサート型に仕切り板41が配置される。次に、周壁部13の前端に内環状突部14及び外環状突部15を有するケース12が成形される。続いて、ケース12及び仕切り板41をインサートとし、周壁部32の後端部に内環状段差部35及び外環状段差部36を有する近赤外線センサカバー31がインサート成形される。近赤外線センサカバー31の成形時には、図6(b)において二点鎖線の矢印で示すように、溶融樹脂の熱及び圧力が仕切り板41に対し、その上下両側から加わる。これらの熱及び圧力の影響を受けて、仕切り板41が変形し、その前端面41aが歪むおそれがある。
【0054】
また、図6(c)に示すように、近赤外線センサカバー31の成形時に、溶融樹脂の熱及び圧力が、ケース12における周壁部13の前端部に加わる。これらの熱及び圧力の影響を受けて、周壁部13の前端部が溶融する。この溶融の影響を受けて近赤外線センサカバー31の前面37aであって、ケース12の周壁部13の前方となる部分が歪むおそれがある。また、上記周壁部13において溶融した部分13aが、同図6(c)において二点鎖線で示すように、カバー本体部37の後面37bにまで流れ込むおそれがある。ケース12の材料であるPBTは近赤外線IR1,IR2を透過しにくいため、上記部分13aにより近赤外線センサカバー31における近赤外線IR1,IR2の透過性が低下する。
【0055】
そして、上記のように、仕切り板41の前端面41aやカバー本体部37の前面37aが歪んだり、溶融した部分13aがカバー本体部37の後面37bに位置したりすると、近赤外線センサ11の検出精度が低下するおそれがある。
【0056】
これに対し、本実施形態では、図1(a)~(c)に示すように、近赤外線センサカバー31の成形時に溝部38が形成される。カバー本体部37は、溝部38よりも上側部分と下側部分とが、溝部38よりも前側の部分で繋がった状態で形成される。上記成形は、仕切り板41が配置されない状態でなされる。そのため、図6(a)~(c)の上記比較例とは異なり、溶融樹脂の熱及び圧力が仕切り板41に対し、その上下両側から加わることがない。熱及び圧力の影響を受けて、仕切り板41が変形することがない。従って、仕切り板41の前端面41a、ひいてはカバー本体部37において溝部38の前方の前面37aが歪むのを抑制することができる。
【0057】
また、カバー本体部37は、溝部38よりも上側部分と下側部分とが、溝部38よりも前側の部分で繋がった状態で形成される。この形成に際し、溝部38よりも上側部分から下側部分に向けて流れる溶融樹脂と、溝部38よりも下側部分から上側部分へ向けて流れる溶融樹脂とがぶつかることで、カバー本体部37において溝部38よりも前側部分が変形したり歪んだりするおそれがある。しかし、本実施形態では、上述したように、溝部38よりも前側の部分の厚みt2が溝部38の設けられていない箇所の厚みt1の1/2以下に設定されている。そのため、カバー本体部37において溝部38よりも前側部分が変形したり歪んだりするのを抑制することができる。
【0058】
なお、仕切り板41は、近赤外線センサカバー31の成形後に、溝部38に圧入されることで取り付けられる。
また、本実施形態では、内環状突部14の前端が上記図6(a)~(c)で示す比較例よりも後方へ後退されていて、内環状突部14の前端面14a、中間環状突部16の前端面16a及び外環状突部15の前端面15aが、前後方向における同一面上に位置している。内環状突部14、中間環状突部16及び外環状突部15がカバー本体部37の前面37aから上記比較例よりも後方へ遠ざかっている。そのため、近赤外線センサカバー31の成形時に、溶融樹脂の熱及び圧力が、ケース12における周壁部13の前端部に加わり、周壁部13の前端部が溶融したとしても、同前面37aが歪みにくい。また、上記周壁部13において溶融した部分13aが、カバー本体部37の後面37bにまで流れ込む現象が起こりにくくなる。それに伴い、溶融した部分13aがカバー本体部37の後面37bに位置することによる透過性の低下を抑制することができる。
【0059】
また、近赤外線センサカバー31の周壁部32の後端部の形状を、上述した図6(a)~(c)の比較例と同様の形状にした場合に比べ、周壁部32の後端部と周壁部13の前端部との接触面積が多くなる。これは、中間環状突部16が中間環状凹部34に係合されているからである。そのため、周壁部32の後端部と周壁部13の前端部との密着力を高めることができる。
【0060】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
・一般に、ビーム22の放射強度は、ビーム22の中心部で最も高く、中心部から径方向に離れるに従い低下する傾向にある。
【0061】
そこで、ヒータ線44のうち近赤外線IR1の当たる部分は、次の条件を満たす箇所に配置されることが好ましい。その条件とは、図5に示すように、ヒータ線44の該当部分に対し、ビーム22が中央部において当たることである。
【0062】
上記の条件が満たされるようにヒータ線44が配置されることで、ビーム22が放射強度の高い部分(中央部)でヒータ線44に当たることとなり、同ヒータ線44が近赤外線センサ11の検出機能に及ぼす影響度合いを小さくすることができる。
【0063】
・ヒータ線44は、樹脂シート43上に形成されることなく、単体で用いられて、カバー本体部37の後側に配置されてもよい。
・ヒータ線44は、カバー本体部37の厚み方向において、上記実施形態とは反対側である前側に配置されてもよい。このようにすると、ヒータ線44が近赤外線センサカバー31の最前部に位置することになる。そのため、ヒータ線44が通電により発生した熱が近赤外線センサカバー31の前面に付着した雪に伝わりやすい。そのため、付着した雪をヒータ線44の熱によって効率よく溶かすことができる。
【0064】
・上記実施形態とは異なり、近赤外線センサカバー31に、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能が付与されてもよい。具体的には、図7に示すように、近赤外線センサカバー31は、筒状をなす周壁部32と、周壁部32の前端部に形成された板状のカバー本体部37とを備えている点で上記実施形態と共通する。ただし、カバー本体部37は、その後部に、近赤外線透過性を有する基材51を備えている。基材51は、AES(アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合)樹脂等の樹脂材料によって形成されている。
【0065】
また、カバー本体部37は、上記実施形態におけるカバー本体部37よりも大きな大きさ、より具体的には、周壁部13の前端開放部分よりも大きな大きさに形成されている。カバー本体部37の周縁部分は周壁部32よりも外方へ拡張されている。この場合、ヒータ線44は、基材51の後面に配置される。
【0066】
このように変更された場合であっても、上記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
・上記実施形態及び上記図7の変形例は、近赤外線センサカバー31が近赤外線センサ11の一部を構成するものであったが、図8に示すように、近赤外線センサカバー31が近赤外線センサ11とは別に設けられてもよい。
【0067】
すなわち、近赤外線センサ11が、送信部18及び受信部19を組み付けられたケース12と、ケース12の前側に配置されて、送信部18及び受信部19を覆うカバー52とによって構成される。
【0068】
図8の変形例では、上記図7の変形例で説明したものと同様の構成を有する近赤外線センサカバー31が、近赤外線センサ11のカバー52の前方に配置される。この場合、近赤外線センサカバー31は、近赤外線センサ11とは別に車両10のボディに固定される。
【0069】
この場合にも、上記実施形態及び図7の変形例と同様の作用及び効果が得られる。
【符号の説明】
【0070】
10…車両、11…近赤外線センサ、18…送信部、19…受信部、21…走査経路、22…ビーム、23…主経路、24…副経路、31…近赤外線センサカバー、37…カバー本体部、44…ヒータ線、45…直線部、46…連結部、d1…直径、IR1,IR2…近赤外線、p1…間隔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8