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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】コンポジット粒子
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/00 20060101AFI20220816BHJP
   C08G 65/323 20060101ALI20220816BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20220816BHJP
   C08K 5/53 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C08L71/00
C08G65/323
C08K3/24
C08K5/53
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018031092
(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2019143101
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】木島 哲史
(72)【発明者】
【氏名】金海 吉山
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-228816(JP,A)
【文献】特開2006-040457(JP,A)
【文献】特開平09-128741(JP,A)
【文献】特開2003-178419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 65/00-67/04
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
HO(CH 2 ) a C m F 2m (OC n F 2n ) b O(CF 2 ) c O(C n F 2n O) d C m F 2m (CH 2 ) a OH 〔I〕
(ここで、aは1~6の整数、cは1~6の整数であり、b+dは0~50の整数であり、mは1または2であり、nは1、2または3である)で表されるフルオロエーテルアルコール、磁性粒子および少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物である、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸または2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸よりなるコンポジット粒子。
【請求項2】
一般式〔I〕で表されるフルオロエーテルアルコールが、一般式
HO(CH2)aCF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕bO(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)(CH2)aOH
〔II〕
(ここで、aは1~6の整数であり、cは1~6の整数であり、b+dは0~50の整数である)で表される化合物である請求項1記載のコンポジット粒子。
【請求項3】
磁性粒子がマグネタイトである請求項1記載のコンポジット粒子。
【請求項4】
フルオロエーテルアルコールとホスホン酸部位含有化合物との合計量を100とした場合に、フルオロエーテルアルコールが45~80重量%、ホスホン酸部位含有化合物が55~20重量%の割合で用いられた請求項1記載のコンポジット粒子。
【請求項5】
フルオロエーテルアルコールとホスホン酸部位含有化合物との合計量に対し10~90重量%の割合で磁性粒子が用いられた請求項1または3記載のコンポジット粒子。
【請求項6】
含フッ素表面処理剤として用いられる請求項1記載のコンポジット粒子。
【請求項7】
磁石を用い、油水混合物中の水分除去に用いられる請求項1記載のコンポジット粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポジット粒子に関する。さらに詳しくは、含フッ素表面処理剤や油水混合液中からの水の回収等に有効に用いられるコンポジット粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面に撥油性を付与するために、主としてフッ素化合物、特にパーフルオロアルキル基含有化合物の重合体を表面処理剤として用いる方法が知られているが、含フッ素化合物重合体は撥油性と同時に撥水性をも示し、親水化されていないため、基材表面に汚れだけが残る状態が生じることがあり、問題となっている。
【0003】
このことから、水洗による自動洗浄を可能にする表面処理剤としては、撥油性と親水性とを併せ持つ撥油親水剤が必要とされ、すぐれた撥油親水剤であれば、防汚性能を示す表面処理剤としてだけではなく、濡れ性の向上により、水の速乾性や油水分離性なども期待できる。
【0004】
また従来、油ガス田、化学プラント、ガソリンスタンド、飲食店から排出される油を含んだ汚染水を処理するため、比重分離、微生物処理、化学処理等で油と水の分離を行なっているが、これは処理時間、コストが掛かるなどの問題があることから、産業用から一般家庭までの分野では、油水混合液からの水の有効な回収が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-38015号公報
【文献】米国特許第3,574,770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、含フッ素表面処理剤や油水混合液中からの水の回収等に有効に用いられるコンポジット粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、一般式
HO(CH 2 ) a C m F 2m (OC n F 2n ) b O(CF 2 ) c O(C n F 2n O) d C m F 2m (CH 2 ) a OH 〔I〕
(ここで、aは1~6の整数、cは1~6の整数であり、b+dは0~50の整数であり、mは1または2であり、nは1、2または3である)で表されるフルオロエーテルアルコール、磁性粒子および少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物である、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸または2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸よりなるコンポジット粒子によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るコンポジット粒子は、これを有機溶媒に分散してガラス、金属等の基質の表面を処理することで、撥油親水性を有する薄膜を形成させることができる。すなわち、含フッ素表面処理剤として有効に用いられる。
【0009】
また、フルオロエーテルアルコール由来の撥油性に加えて、ホスホン酸部位を有する化合物を用いることにより親水性を得ることができ、マグネタイト微粒子等の磁性粒子を用いることで、コンポジット粒子に磁性を持たせることができる。
【0010】
このように、コンポジット粒子が撥油親水性および磁性を持つことにより、コンポジット粒子を水と油の混合液に溶かした状態において、磁石によってコンポジット粒子および水を引き寄せることで水と油とを分離することができ、油との混合液から水を回収することを可能とする。
【0011】
具体的には、油ガス田、化学プラント、ガソリンスタンド、飲食店から排出される油を含んだ汚染水等からの水分の有効な回収を有効にするという効果がもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のコンポジット粒子は、フルオロエーテルアルコール、磁性粒子およびホスホン酸部位含有化合物からなる。
【0013】
フルオロエーテルアルコールとしては、一般式
HO(CH 2 ) a C m F 2m (OC n F 2n ) b O(CF 2 ) c O(C n F 2n O) d C m F 2m (CH 2 ) a OH 〔I〕
a:1~6
b+d:0~50
c:1~6
m:1~2
n:1~3
で表される化合物が挙げられる。
【0014】
一般式〔I〕で表されるフルオロエーテルアルコールとしては、例えば一般式
HO(CH2)aCF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕bO(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)(CH2)aOH 〔II〕
a:1~6、好ましくは1~3、特に好ましくは1
b+d:0~50、好ましくは1~20
b+dの値に関しては、分布を有する混合物であってもよい
c:1~6、好ましくは2~4
で表される化合物等が用いられる。
【0015】
一般式〔II〕で表されるフルオロエーテルアルコールにおいて、a=1の化合物は特許文献1~2に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
FOCRfCOF → H3COOCRfCOOCH3 → HOCH2RfCH2OH
Rf:-CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕bO(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)-
【0016】
一般式〔I〕で表される、ポリフルオロアルキレンエーテル基を有するフルオロエーテルアルコールとしては、例えば一般式
HOCH 2 CF 2 (OCF 2 CF 2 ) q (OCF 2 )OCF 2 CH 2 OH 〔III〕
q:0~50、好ましくは10~40
で表される化合物等が用いられる。
【0017】
磁性粒子としては、例えばマグネタイト、フェライト、マグヘマイト、けい素鉄、パーマロイ、アモルファス金属等の微粒子、好ましくはマグネタイトのナノ粒子等が用いられる。
【0018】
少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物としては、
1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸〔HEDP〕
2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕
が挙げられる。
【0019】
これらのホスホン酸部位含有化合物は、フルオロエーテルアルコールとホスホン酸部位含有化合物との合計量を100とした場合に、目的の撥油親水性を示す限り1~99重量%の範囲内で任意に設定されるが、好ましくはフルオロエーテルアルコールが45~80重量%、ホスホン酸部位含有化合物が55~20重量%の割合で用いられる。ホスホン酸部位含有化合物が用いられないと、後記比較例2の結果に示されるように、親水性が殆ど発揮されない。
【0020】
磁性粒子は、フルオロエーテルアルコールとホスホン酸部位含有化合物との合計量に対し10~90重量%の割合で用いられる。
【0021】
コンポジット粒子の調製は、フルオロエーテルアルコールおよび磁性粒子をテトラヒドロフラン中約40℃以下で約3~5時間超音波攪拌した後、ホスホン酸部位含有化合物を加え、同様の条件下で超音波攪拌することにより行われる。
【0022】
溶媒を除去した粗生成物は、一晩テトラヒドロフラン中に分散させた後、磁石により生成物を沈殿させ、分離された生成物を数回テトラヒドロフランで洗浄し、溶媒除去後約50~70℃で減圧乾燥することにより、生成物が取得される。
【0023】
金属、ガラス等の無機質基材、合成樹脂、ゴム等の有機質基材への撥油親水性コンポジット粒子の適用は、例えばコンポジット粒子テトラヒドロフラン分散液中に任意の塗布手段、例えばディップコート、スプレーコート、刷毛塗り、ローラー塗布、スピンコート等の手段で行われる。
【0024】
コンポジット粒子のテトラヒドロフラン分散液を用いて基材表面にこれを適用し、撥油親水性を発現せしめるためには、室温条件下で乾燥させた後、約100~200℃、好ましくは約120~150℃で焼成せしめることが望ましく、その焼成時間は約1~24時間である。
【0025】
本発明のコンポジット粒子は、撥油性と親水性とを併せ持つ撥油親水剤として有効である。すぐれた撥油親水性を有する表面処理剤は、水洗による自動洗浄を可能とするばかりではなく、防汚性能や濡れ性の向上により、水の速乾性用途や油水の分離用途にも有効に用いることもできる。
【0026】
また、このコンポジット粒子は、撥油親水性および磁性を持つことにより、コンポジット粒子を水と油の混合液に分散させた状態において、磁石によってコンポジット粒子および水を引き寄せることで水と油とを分離することができ、油との混合液から水を回収することを可能とする。
【実施例
【0027】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0028】
実施例1
容量13.5mlの反応容器に、フルオロエーテルアルコール〔OXF9PO-OH (b+d=7)〕
HO(CH2)CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕bO(CF2)2O〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)(CH2)OH
100mg、マグネタイトナノ粒子(戸田工業製品、平均粒径10nm)100mgおよびテトラヒドロフラン5mlを仕込み、30℃以下で3時間超音波攪拌した。その後、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸〔HEDP〕(60重量%水溶液)を純分として30mgを加え、さらに3時間超音波攪拌した。
【0029】
超音波攪拌後、85℃、減圧条件下で溶媒を除去し、粗生成物を新たなテトラヒドロフラン中に一夜分散させた。その後、磁石で生成物を沈殿させ、分離された生成物をテトラヒドロフランで数回洗浄した。溶媒除去後に、50℃で減圧乾燥させることにより、目的とするコンポジット粒子を得た。
【0030】
実施例2
実施例1において、HEDP量が90mgに変更された。
【0031】
実施例3
実施例1において、HEDP量が120mgに変更された。
【0032】
実施例4
実施例1において、HEDPの代わりに、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕(50重量%水溶液)が25mg用いられた。
【0033】
実施例5
実施例1において、HEDPの代わりに、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕(50重量%水溶液)が50mg用いられた。
【0034】
実施例6
実施例1において、HEDPの代わりに、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕(50重量%水溶液)が75mg用いられた。
【0035】
実施例7
実施例1において、HEDPの代わりに、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕(50重量%水溶液)が100mg用いられた。
【0036】
比較例1
カバーガラス自体の接触角が測定された。
【0037】
比較例2
実施例1において、HEDPが用いられなかった。
【0038】
比較例3
実施例3において、OXF9PO-OHが用いられなかった。
【0039】
比較例4
実施例7において、OXF9PO-OHが用いられなかった。
【0040】
以上の各実施例および比較例で得られたコンポジット粒子のテトラヒドロフラン分散液について、次のようにして液滴の接触角(単位:°)の測定が行われた。
【0041】
乾燥して得られたコンポジット粒子の全量を5mlのテトラヒドロフラン中に加え、超音波照射して5時間分散させ、コンポジット粒子のテトラヒドロフラン分散液を得た。このコンポジット粒子分散液をマイクロピペットで0.30ml取り、これをカバーガラス(松浪ガラス工業製品硼ケイ酸ガラス;18×18mm)に滴下し、室温下で溶媒を蒸発させた後、真空下で一日乾燥させた。得られた改質基材に、n-ドデカンまたは水の液滴4μlを静かに接触させ、付着した液滴の接触角をθ/2法により、接触角計(協和界面化学製Drop Master 300)を用いて経時的な測定を行った。
【0042】
得られた結果は、次の表1に示される。
表1
n-ドデカン
0分 5分 0分 5分 10分 15分 20分 25分 30分
実施例1 59 56 70 0 0 0 0 0 0
〃 2 29 29 12 0 0 0 0 0 0
〃 3 74 66 11 0 0 0 0 0 0
〃 4 22 17 10 0 0 0 0 0 0
〃 5 24 20 9 0 0 0 0 0 0
〃 6 33 26 37 0 0 0 0 0 0
〃 7 26 22 11 0 0 0 0 0 0
比較例1 0 0 54 42 35 24 20 20 20
〃 2 65 54 138 114 110 107 105 98 96
〃 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0
〃 4 3 0 25 13 8 0 0 0 0
【0043】
実施例8
実施例3で得られたコンポジット粒子を用いて、磁石による油中の水分の回収についての評価を行った。
容量9mlのスクリュー管にn-ドデカン2mlおよび青色に着色した水0.1mlを加えて混合溶液を調製し、この溶液中にコンポジット粒子10mgを加えて10秒間攪拌させた。その後、スクリュー管の側面から磁石を近づけ、そのままスクリュー管を傾けてn-ドデカンを空のスクリュー管にデカンテーションした。デカンテーションしたn-ドデカン中の水を目視で確認し、全くない場合は○、少量ある場合は△、多量ある場合は×と評価した。
【0044】
比較例5
実施例8において、実施例3で得られたコンポジット粒子の代わりに、同量の比較例3で得られたコンポジット粒子が用いられた。
【0045】
比較例6
実施例8において、実施例3で得られたコンポジット粒子の代わりに、同量のマグネタイトナノ粒子が用いられた。
【0046】
以上の実施例および各比較例における評価は、次の表2に示される。
表2
コンポジット粒子 評価結果
実施例8 実施例3 ○
比較例5 比較例3 △
〃 6 Fe3O4 ×