(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】地中音源位置の測定方法及び測定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 5/22 20060101AFI20220816BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
G01S5/22
E02D3/12 101
(21)【出願番号】P 2018084848
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000151368
【氏名又は名称】株式会社東京ソイルリサーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 秋男
(72)【発明者】
【氏名】稲川 雄宣
(72)【発明者】
【氏名】柳 東雲
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-058025(JP,A)
【文献】特開平06-273533(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050618(WO,A1)
【文献】特開2012-062626(JP,A)
【文献】特開平03-028495(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0286787(US,A1)
【文献】特開昭64-043789(JP,A)
【文献】特開2000-121741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/18- 5/30
G01V 1/00- 1/52
E02D 3/12
E21D 1/00- 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中にある音源位置で発生する
、噴射された所定の液体が地盤に衝突する接触面で発生する個体音を予め特定してデータ収録手段にデータ収録しておき、
地中に設けられた噴射部から前記所定の液体を噴射するようになっており、
少なくとも3個のセンサを地表面に配置し、
前記液体が前記地盤に当たって前記地盤中を移動していく状態を、前記個体音が前記地盤中を伝播して地表面に到達する音波を含む音情報
として前記センサで検出し、
前記センサで検出した前記音情報を前記データ収録手段でフィルタリングして
前記個体音を特定し、
解析手段が、前記センサそれぞれの特定された前記個体音の位相差により、前記音源位置を三次元的に特定することを特徴とする地中音源位置の測定方法。
【請求項2】
地盤中にある音源位置で発生する、
噴射された所定の液体が地盤に
衝突する接触面で発生する個体音を
予め特定してデータ収録手段にデータ収録しておき、
ボーリングにより垂直方向に所定長さ掘り下げた位置に設けられた噴射部から略水平方向に前記所定の液体を噴射するようになっており、
少なくとも2個のセンサを地表面に配置し、
前記液体が前記地盤に当たって前記地盤中を移動していく状態を、前記個体音が前記地盤中を伝播して地表面に到達する音波を含む音情報
として前記センサで検出し、
前記センサで検出した前記音情報を前記データ収録手段でフィルタリングして
前記個体音を特定し、
解析手段が、前記センサそれぞれの特定された前記個体音の位相差と前記噴射部の前記地表面からの垂直方向の長さにより、前記音源位置を三次元的に特定することを特徴とする地中音源位置の測定方法。
【請求項3】
前記センサを前記地面に密着又は前記地面に埋没させた状態で配置していることを特徴とする請求項1又は2に記載の地中音源位置の測定方法。
【請求項4】
地盤中にある音源位置で発生する
、噴射された所定の液体が地盤に衝突する接触面で発生する個体音を予め特定してデータ収録したデータ収録手段と、
地表面に配置され、
前記液体が前記地盤に当たって前記地盤中を移動していく状態を、前記個体音が前記地盤中を伝播して地表面に到達する音波を含む音情報
として検出する複数のセンサと、
を有し、
前記センサで検出した前記音情報を前記データ収録手段でフィルタリングして
前記個体音を特定するようになっており、
かつ、前記センサそれぞれの特定された前記個体音の位相差により、前記音源位置を三次元的に特定する解析手段を有することを特徴とする地中音源位置の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地盤中にある音源から発生する地中音をセンサで検出することにより、地中音の発生する位置を特定する測定方法及び測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤中の地盤改良位置や掘削ロッドの位置等を特定するための地中音源位置の測定装置及び測定方法が提案されている。
【0003】
このような技術としては、改良範囲の位置とは別に、予め地盤中に掘削された孔にセンサを設置して改良範囲を確認する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、別孔に設置されたセンサが、地盤中に噴射されている地盤改良剤の音を検出し、地盤改良位置を特定するようになっている。
【0004】
また、掘削施工機械の掘削ロッドの先端に人工的な音源を設置し、人工的な音源が発生した地中音をセンサにより検出する技術も提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。この技術では、人工的な音源から発生した地中音が地盤中を伝播し、これが地表面に到達したときの音波を複数のセンサで検出し、複数のセンサが検出した音波の位相差を演算装置が演算することにより掘削ロッドの位置を特定するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-62626
【文献】特開2012-58025
【文献】特開2012-58038
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている地中音源位置の測定方法では、地盤中にセンサを設置するために地盤中に別孔を掘削する必要があるため、測定の価格コストが高くなると共に測定の工程数が多く掛かるという問題が生じていた。
【0007】
また、特許文献2及び3に記載されている地中音源位置の測定方法では、地表面に複数のセンサを設けるだけでなく、掘削施工機械の切削ロッドに人工的な音源を設ける必要があるため、測定の価格コストが嵩むという問題が生じていた。
【0008】
そこで、この発明は、地盤中に別孔を設けてセンサを設置したり、掘削施工機械の掘削ロッドの先端に人工的な音源を設けたりすることなく、最小の構成のセンサのみで音源で発生する音を検出し、これを解析することにより、価格コストと測定の工程数を掛けずに行うことができる地中音源位置の測定方法及び測定装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を鑑みて、請求項1に記載の発明は、地盤中にある音源位置で発生する、噴射された所定の液体が地盤に衝突する接触面で発生する個体音を予め特定してデータ収録手段にデータ収録しておき、地中に設けられた噴射部から前記所定の液体を噴射するようになっており、少なくとも3個のセンサを地表面に配置し、前記液体が前記地盤に当たって前記地盤中を移動していく状態を、前記個体音が前記地盤中を伝播して地表面に到達する音波を含む音情報として前記センサで検出し、前記センサで検出した前記音情報を前記データ収録手段でフィルタリングして前記個体音を特定し、解析手段が、前記センサそれぞれの特定された前記個体音の位相差により、前記音源位置を三次元的に特定する地中音源位置の測定方法としたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、地盤中にある音源位置で発生する、噴射された所定の液体が地盤に衝突する接触面で発生する個体音を予め特定してデータ収録手段にデータ収録しておき、ボーリングにより垂直方向に所定長さ掘り下げた位置に設けられた噴射部から略水平方向に前記所定の液体を噴射するようになっており、少なくとも2個のセンサを地表面に配置し、前記液体が前記地盤に当たって前記地盤中を移動していく状態を、前記個体音が前記地盤中を伝播して地表面に到達する音波を含む音情報として前記センサで検出し、前記センサで検出した前記音情報を前記データ収録手段でフィルタリングして前記個体音を特定し、解析手段が、前記センサそれぞれの特定された前記個体音の位相差と前記噴射部の前記地表面からの垂直方向の長さにより、前記音源位置を三次元的に特定する地中音源位置の測定方法としたことを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記センサを前記地面に密着又は前記地面に埋没させた状態で配置している地中音源位置の測定方法としたことを特徴とする。
【0012】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、地盤中にある音源位置で発生する、噴射された所定の液体が地盤に衝突する接触面で発生する個体音を予め特定してデータ収録したデータ収録手段と、地表面に配置され、前記液体が前記地盤に当たって前記地盤中を移動していく状態を、前記個体音が前記地盤中を伝播して地表面に到達する音波を含む音情報として検出する複数のセンサと、を有し、前記センサで検出した前記音情報を前記データ収録手段でフィルタリングして前記個体音を特定するようになっており、かつ、前記センサそれぞれの特定された前記個体音の位相差により、前記音源位置を三次元的に特定する解析手段を有する地中音源位置の測定装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、少なくとも3個のセンサを地表面に配置し、当該センサで検出した音情報をデータ収録手段でフィルタリングして個体音を特定し、解析手段が、センサそれぞれの特定された固体音の位相差により音源位置を特定するため、地盤中にセンサ及び人工的な音源を設置することなく、地表面のセンサのみで音源の個体音を検出して、測定装置の価格コストと測定の工程数を掛けずに音源位置を三次元で特定することができる。
【0014】
また、この発明によれば、ボーリングによって垂直方向の長さが判明している噴射部から液体を噴射して地盤に当たって発生する個体音について、少なくとも2個のセンサを地表面に配置し、当該センサで検出した音情報をデータ収録手段でフィルタリングして個体音を特定し、解析手段が、センサそれぞれの特定された固体音の位相差と噴射部の深さにより音源位置を特定するため、地盤中にセンサ及び人工的な音源を設置することなく、地表面のセンサと噴射部の深さのみで音源の個体音を検出して、測定装置の価格コストと測定の工程数を掛けずに音源位置を三次元で特定することができる。
【0015】
また、この発明によれば、センサを地面に密着又は地面に埋没させた状態で配置することで、音源位置の個体音をより正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る噴射系地盤改良工法における地中音源位置の測定装置の概要図である。
【
図2】同実施の形態1に係る地中音源位置の測定装置のセンサ、アンプ、データ収録・解析装置のブロック図である。
【
図3】同実施の形態1に係る地中音源位置の測定装置のセンサが検出した音源S1の重合波形を示す図である。
【
図4】同実施の形態1に係る地中音源位置の測定装置のセンサが検出した音源S1の重合波形をフーリエ変換し、周波数領域の波形で示した図である。
【
図5】同実施の形態1に係る地中音源位置の測定装置のセンサが検出した周波数領域の音源S1の周波数領域の波形をフーリエ逆変換し、時間領域で示した図で、(a)~(c)は音源S1の特定の周波数成分の異なる波形の例である。
【
図6】同実施の形態1に係るデータ収録・解析装置が地盤改良剤の位置を特定する原理を説明する概略図である。
【
図7】この発明の実施の形態2に係るボーリングマシンの掘削ロッドの先端位置の特定における地中音源位置の測定装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
図1乃至
図6には、この発明の実施の形態1を示す。
【0018】
この実施の形態1に係る地中音源位置の測定装置100は、
図1に示すように、施工機械1のロッドの先端の地盤改良剤噴射位置4から地盤改良剤を高圧で噴射して地盤改良を行う噴射系地盤改良工法において、音源である地盤改良剤の位置を特定するものである。この実施の形態1において、地中音源位置の測定装置100は、改良範囲の外延部に高速度で噴射された地盤改良剤が、地盤2にあたることにより発生する個体音を、後述する地表面3に設置した6つのセンサ7により検出して、解析することにより、地盤改良剤の位置を特定するものである。
【0019】
また、この実施の形態1においては、
図1に示すように、地盤2中に地盤改良剤が1箇所に噴射されており、センサ7で捉える音情報には、後述する音源S1が含まれている。
【0020】
さらに、この実施の形態1では、地盤2中に地盤改良剤を噴射している状態で音情報を検出するようになっており、地盤改良剤が地盤2中を移動している状態で地中音源位置の測定を行っている。
【0021】
この実施の形態1の地中音源位置の測定装置100は、
図1に示すように、音源位置としての個体音発生位置5で発生した個体音11を含む、地表面3に到達した音波を音情報として検出し、当該音情報の信号を発信するセンサ7と、センサ7の信号を増幅するアンプ8と、アンプ8が増幅した信号を受信してデータを収録し、解析して地盤改良剤の位置を特定するデータ収録・解析装置9を備えている。なお、この実施の形態1では、このデータ収録・解析装置9がデータ収録手段と解析手段の双方を兼ね備えた装置となっている。
【0022】
このセンサ7は、個体音を測定できる20Hzから20000Hzの広範囲の周波数成分の音を検出するものであり、この実施の形態1では、音場音圧型のマイクロフォンが設けられている。なお、このセンサ7は、音場音圧型のマイクロフォンだけでなく、音場音圧型のジオフォン、又は、加速度計でもよい。このセンサ7は、地盤2中の個体音伝播経路6を経て三次元的に広がって伝播する個体音を検出するため、
図1に示すように、地表面3に平面アレイ状に6つ設けられる。また、これらのセンサ7は、音源S1である地盤改良剤が個体音発生位置5で発生した個体音11を検出し、
図5に示す音源S1の個体音11とその他の工事等で発生する雑音が重合した、
図3に示すような波形の音波を音情報(ここでは信号化している)としてアンプ8を経由してデータ収録・解析装置9に発信するように構成されている。
【0023】
一方、アンプ8は、
図2に示すように、6つのセンサ7のそれぞれと接続され、それぞれのセンサ7が検出して発信した個体音11の信号を増幅して、データ収録・解析装置9に送信するように構成されている。
【0024】
また、一方で、データ収録・解析装置9は、アンプ8によって増幅された個体音11の音波の信号を受信してA/D変換し、周波数成分ごとに分離して、リアルタイムで複数の個体音11が有する特定の周波数成分と位相を解析し、それぞれの地盤改良剤の個体音発生位置5を特定するコンピュータを備えている。
【0025】
データ収録・解析装置9は、このコンピュータにより、6つのセンサ7から受信した信号を、
図3に示すように、横軸を検出時間、縦軸を電圧、電流等の成分とした時間領域で、音源S1の波形が重合した波形で検知するように構成されている。
【0026】
また、このコンピュータは、音源S1の時間領域の波形をフーリエ変換して、
図4に示すように、横軸を周波数成分、縦軸を振幅又は位相とした周波数領域の波形に演算するように構成されている。
【0027】
さらに、このコンピュータには、地盤改良剤と地盤との接触面で発生する個体音11の特徴的な特定の周波数が複数、収録されている。コンピュータは、収録されている特徴的な周波数と、
図4に示すような音源S1の周波数領域の波形で振幅がある周波数とを比較して、音源S1の特定の周波数成分11を分析する。この周波数領域の波形のうち、他の周波数成分の波形をフィルタリングすることにより、それぞれの音源の特徴的な周波数成分である音源S1の特定の周波数成分11、音源S2の特定の周波数成分12、音源S3の特定の周波数成分13のみの波形をそれぞれ分離して抽出するように構成されている。
【0028】
また、コンピュータは、この分離して抽出した音源S1の特定の周波数成分11の周波数領域の波形をフーリエ逆変換して、それぞれ、
図5(a)、(b)、(c)に示すような時間領域の波形に演算するように構成されている。
【0029】
さらにまた、このコンピュータは、6つのセンサ7が検出した音源S1の個体音の音波の波形のそれぞれから音源S1の特定の周波数成分11をフィルタリングして分離して抽出し、各センサ7の
図5(a),(b),(c)に示すような音源の波形をそれぞれ6つずつ検知するように構成されている。
【0030】
また、コンピュータは、この各センサ7からの信号を解析して得られた6つずつの音源S1の波形の横軸方向の時間成分の位相の差を解析して、音源S1である地盤改良剤の位置をそれぞれ特定するように構成されている。このデータ収録・解析装置が、コンピュータにより、地盤改良剤の位置を特定する原理及び解析手順については、測定方法で詳細に説明する。
【0031】
また、データ収録・解析装置9には、成分が異なる複数の種類の地盤改良剤と地盤2との接触面で発生する個体音11の周波数のデータが収録されており、コンピュータにより、個体音11が有する特定の周波数成分の周波数特性と比較分析し、地盤改良剤の硬さや物質成分など、地盤改良剤の物質特性を特定するように構成されている。
【0032】
さらに、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、噴射されて地盤2中を常に移動する地盤改良剤が地盤2と衝突して接触面で発生する個体音11の信号を解析して位置を特定するように構成されている。
【0033】
次に、この実施の形態1に係る地中音源位置の測定装置100による測定方法について説明する。
【0034】
まず、作業者は、センサ7a,7b,7c,7d,7e,7fを地表面に配置する。このとき、センサ7a,7b,7c,7d,7e,7fを地面に密着させる又は地面に埋没させるようにしておくのが好ましい。なお、突起を有しているようなセンサの場合は、当該突起を地面に突き刺しても良い。地中音源位置の測定装置100のセンサ7、アンプ8、データ収録・解析装置9を起動する。次に、作業者は、
図1に示すように、施工機械1の掘削ロッドの改良剤噴射位置4から、地盤改良剤を噴射させる。噴射された地盤改良剤は音源S1として地盤2と衝突し、その接触面である個体音発生位置5が音源S1となって個体音11を発生する。
【0035】
これらの個体音11は、地盤2中の個体音伝播経路6を伝播して地表面3に到達する。この地表面3まで伝播した音源S1の個体音11を含む音波の音情報をセンサ7a,7b,7c,7d,7e,7fが検出し、それぞれのセンサ7a,7b,7c,7d,7e,7fが個体音11,12,13を含むの音情報の信号を発信する。発信された信号は、
図2に示すように、センサ7と連結されているアンプ8で増幅され、アンプ8に連結されているデータ収録・解析装置9に受信される。
【0036】
データ収録・解析装置9は、センサ7から受信した音源S1の情報の信号を、
図3に示すような、横軸を検出時間、縦軸を電圧、電流等の成分とした時間領域の音源S1の音波の波形が重複した波形で検知する。
【0037】
データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、この音源S1の時間領域の波形の信号をフーリエ変換して、
図4に示すような、横軸を周波数成分、縦軸を振幅又は位相とした周波数領域の波形に演算する。
【0038】
また、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、
図4に示すような、この周波数領域の音源S1の波形で振幅がある周波数に対して、予め収録されている地盤改良剤と地盤との接触面で発生する個体音の特徴的な特定の周波数を取り出すようにフィルタリングして、ほぼ一致するものを取り出す。この特徴的な特定の周波数とほぼ一致する音源S1の特定の周波数成分11のみの波形を分離して抽出する。
【0039】
さらに、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、この分離して抽出した音源S1の特定の周波数成分11の周波数領域の波形をフーリエ逆変換して、
図5の(a)、(b)、(c)に示すような音源の波形を抽出する。これらの音源の波形は、6つのセンサ7a,7b,7c,7d,7e,7fで検出されたものであるため、6つずつ抽出される。また、この6つ抽出された音源S1の波形は、音源である地盤改良剤と各センサ7の距離が異なるため、伝播時間の差により、横軸の時間成分の位相に差が生じている。詳しくは、6つのセンサのうちの3つを抽出して位相差を見ることで、音源位置を三次元的に特定することができる。この作業を異なる3つのセンサで複数回行い、平均を取るようにすると、より精度の良い音源位置を特定することができる。
【0040】
ここで、データ収録・解析装置9のコンピュータが、この6つの音源の波形の横軸方向の時間成分の位相の差を解析して、地盤改良剤の位置を特定する原理を、
図6を用いて説明する。
図6では、センサ7aとセンサ7bにより、地盤改良剤である音源S1の2つの波形の位相の差を解析して、地盤改良剤の位置を特定する構成原理について簡単に説明する。
【0041】
コンピュータは、センサ7a,7bから得られたそれぞれの音源S1の波形の横軸方向の時間成分を解析して、測定開始時間から波形が表示し始めるまでの時間から、各センサ7a、7bに検出されるまでの音源S1の個体音の伝播時間を演算する。この伝播時間と、波形の周波数から、センサ7aから音源S1までの距離lとセンサ7bから音源S1までの距離(l+d)が演算される。センサ7a、7bから得られた音源S1の波形とでは横軸方向の時間成分で位相の差があり、この位相の差から伝播時間の差が解析でき、この伝播時間の差からセンサ7a,7bから音源S1までの距離の差dが演算される。
【0042】
また、このコンピュータには、センサ7のそれぞれの位置座標のデータが収録されている。コンピュータは、センサ7a,7bの位置座標のデータからセンサ7aとセンサ7bの相対距離wを演算する。
【0043】
このコンピュータは、演算して得られたセンサ7aから音源S1までの距離l、センサ7bから音源S1までの距離(l+d)、センサ7aとセンサ7bの相対距離wと、音源S1と地表面の垂直線分の距離z、この垂直線分とセンサ7aまでの距離xとを用いて、周知のピタゴラスの定理により地盤改良剤である音源S1の位置を演算する。
【0044】
このl、w、z、xの成分を用いて、周知のピタゴラスの定理より、
x
2+z
2=l
2
(w-x)
2+z
2=(l+d)
2
という式が成り立つ。この式を展開して整理すると、以下の[数1]の式になる。
[数1]
図6には示していないが、二つのセンサ7a,7bの線を結ぶ線の垂直平面と音源S1の位置には、奥行き方向にずれがあるため、奥行き方向をy軸として、センサ7a,7bの線を結ぶ垂直平面から音源S1の位置までのy軸方向の距離をyとすると、以下の[数2]の式になる。
[数2]
dは地盤中の音の伝播速度に依存するので、d、x、y、zという要素によって曲面が形成される。
【0045】
同様に、コンピュータは、センサ7a,7b,7c,7d,7e,7fのうち二つのセンサ7間の相対距離とその二つのセンサ7から音源S1の波形の位相の差から演算して、d、x、y、zの要素による曲面を多数形成し、これら複数の曲面が交差する点を解析する。コンピュータは、この複数の曲面が交差する点を地盤改良剤である音源S1の位置として特定する。
【0046】
このようにして、データ収録・解析装置9は、センサ7が検出した信号をA/D変換して、コンピュータで周波数分析と位相の解析を行い、リアルタイムで複数の地盤改良剤の個体音発生位置5を特定する。
【0047】
また、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、抽出した音源S1の特定の周波数成分11と、成分が異なる複数の種類の地盤改良剤と地盤2との接触面で発生する個体音11の周波数のデータとを比較分析し、地盤改良剤が接触する地盤の硬さや物質成分を特定する。このように地盤改良剤が接触する硬さや物質成分を特定したデータを有していると、施工済み地盤改良体と接触しているかどうかの判定ができ、これにより、出来形管理を行うことができるものである。
【0048】
さらに、噴射系地盤改良工法の作業中では、地盤改良剤は常に地盤2中に噴射されているため、地盤改良剤の位置は常に移動している。データ収録・解析装置9は、センサ7が地盤改良剤の個体音の音波を逐次検出して発信した信号を解析して移動する地盤改良剤の位置を特定する。
【0049】
作業者は、データ収録・解析装置9が特定した移動する地盤改良剤の位置と地盤改良剤の硬さや物質成分を確認し、作業工程を進める。
【0050】
以上のように、この実施の形態1の地中音源位置の測定装置100及び測定方法によれば、センサ7として広範囲の周波数の音波を検出する音場音圧型のマイクロフォンを複数、平面アレイ状に地表面3に配置し、当該センサ7で検出した音情報に基づき、データ収録・解析装置9でデータ収録された当該音源S1の個体音11を特定し、当該音源S1の位置を特定するため、地盤2中に別のセンサや人工的な音源装置を設置することなく、地表面3のセンサ7のみで音源S1の個体音11を検出でき、測定装置の価格コストと測定の工程数をかけずに地盤改良剤の位置を三次元で特定することができる。
【0051】
また、この地中音源位置の測定装置100及び測定方法では、データ収録・解析装置9が、センサ7で検出した音情報をフィルタリングして、音源S1である地盤改良剤と地盤2との接触面で発生した個体音11が有する特徴的な特定の周波数成分を分離して検出する。そのため、地盤2中のノイズに妨げられることなく、音源S1による個体音11の特定の周波数を選択して検出でき、正確に音源S1の位置を特定することできる。
【0052】
また、この地中音源位置の測定装置100及び測定方法では、データ収録・解析装置9が、センサ7で検出した音情報をフィルタリングして、音源S1で発生した個体音11の有する特徴的な特定の周波数成分を分離して個別に検出するため、高精度に音源S1の位置を特定することができる。
【0053】
また、この地中音源位置の測定装置100及び測定方法では、データ収録・解析装置9が、複数のセンサ7で検出した音情報をA/D変換して、コンピュータで音源S1の周波数分析と位相の解析を行い、リアルタイムで地盤2中の地盤改良剤の位置を特定するため、作業者は、噴射式地盤過料工程の最中に地盤改良剤の位置を確認することができ、工程の進行具合の確認や工程の見直し等の対処をすることが可能となる。
【0054】
さらにまた、この地中音源位置の測定装置100及び測定方法では、データ収録・解析装置9が、音源S1の特定の周波数成分11と予め収録されている複数の種類の成分の地盤改良剤と、成分が異なる複数の種類の地盤改良剤と地盤2との接触面で発生する個体音11の周波数のデータとを比較分析し、地盤改良剤が接触する地盤の硬さや物質成分を特定するため、作業者は、施工済み地盤改良体と接触しているかどうかの判定ができ、これにより、出来形管理を行うことができる。
【0055】
また、この地中音源位置の測定装置100及び測定方法では、データ収録・解析装置9が、噴射式地盤改良工程の最中に、噴射されて地盤2中を常に移動する地盤改良剤の個体音11をリアルタイムで解析して、移動する地盤改良剤の位置を逐次特定するため、作業者は、移動する地盤改良剤の位置を逐次確認して、移動する音源S1の個体音11にも対処することができる。
[発明の実施の形態2]
次に、この発明の実施の形態2について、説明する。
【0056】
【0057】
この実施の形態2に係る地中音源位置の測定装置100及びその方法は、
図7に示すように、地盤を掘削するボーリングマシン10の先端位置を特定するものである。
【0058】
なお、この実施の形態2に係る地中音源位置の測定装置100及びその方法について、実施の形態1に係る地中音源位置の測定装置100の構成及び測定方法と重複する部分は省略する。
【0059】
この地中音源位置の測定装置100のセンサ7は、5つ設けられ、地表面3に平面アレイ状に配置されている。
【0060】
また、データ収録・解析装置9には、地盤2の硬さや物質成分などの物理的特性に対してボーリングマシン10の掘削ロッドの先端との接触面で発生する個体音の周波数のデータが複数収録されている。
【0061】
その他の構成は、前記した実施の形態1と同様となる。
【0062】
次に、この実施の形態2での地中音源位置の測定方法について説明するが、実施の形態1と重複する部分は省略して説明する。
【0063】
まず、作業者は、地中音源位置の測定装置100のセンサ7、アンプ8、データ収録・解析装置9を起動する。次に、作業者は、ボーリングマシン10を起動して、掘削ロッドの先端を振動させて地盤を掘削する。なお、この実施の形態2では、水平方向へのボーリングを行っているが、鉛直方向へのボーリングの場合は、ボーリングの掘り下げ位置が特定されるため、地表面からの垂直方向の長さhが予め特定されていることになる。
【0064】
また、このとき、掘削ロッドの先端と地盤とが掘削により接触し、接触面である個体音発生位置5から個体音が発生する。この個体音は個体音伝播経路6を伝播して、地表面3に到達し、伝播してきた個体音をセンサ7が検出して個体音の情報の信号を発信する。センサ7からの個体音の信号はアンプ8で増幅され、データ収録・解析装置9に受信される。
【0065】
データ収録・解析装置9は、受信した信号の音波の波形から、コンピュータにより周波数成分と位相の解析を行い、実施の形態1と同様の測定手順で、ボーリングマシン100の掘削ロッドの先端位置を特定する。作業者は、データ収録・解析装置9で特定されたボーリングマシン100の掘削ロッドの位置や地盤2の硬さや物質成分を見て、作業工程を進める。なお、鉛直方向へのボーリングの場合は、ボーリングマシン100の掘削ロッドの先端位置の前後左右の平面軸方向のみを特定するだけでも良い。
【0066】
以上のように、この実施の形態2の地中音源位置の測定装置100及び測定方法によれば、センサ7として広範囲の周波数の音波を検出する音場音圧型のマイクロフォンを5つ、平面アレイ状に地表面3に配置し、ボーリングマシン100の掘削ロッドの先端と地盤2との接触面である個体音発生位置5で発生した音源の個体音を検出するため、地盤2中に別のセンサや人工的な音源装置を設置することなく、地表面3のセンサ7のみで音源の個体音を検出でき、測定装置の価格コストと測定の工程数をかけずに地盤改良剤の位置を三次元で特定することができる。
【0067】
また、この地中音源位置の測定装置100及び測定方法では、データ収録・解析装置9が、掘削ロッドの先端と地盤2との接触面で発生する個体音と異なる地盤2中の様々な音をフィルタリングするため、地盤2中のノイズに妨げられることなく、掘削ロッドの先端と地盤2の接触による音源の特定の周波数成分を選択して検出でき、正確に掘削ロッドの先端位置を特定するので、作業者は、さらに正確に掘削ロッドの先端位置を確認することが可能となる。
【0068】
また、この地中音源位置の測定装置100及び測定方法では、データ収録・解析装置9が、複数のセンサ7で検出した音情報をA/D変換して、コンピュータで音源の周波数分析と位相の解析を行い、リアルタイムで地盤2中の地盤改良剤の位置を特定するため、作業者は、作業工程の最中に掘削ロッドの先端位置を確認し、工程の進行具合の確認や工程の見直し等の対処をすることが可能となる。
【0069】
また、この地中音源位置の測定装置100及び測定方法では、地盤2中を常に移動する掘削ロッドの先端と地盤2との接触で発生する個体音をリアルタイムで解析して、移動する掘削ロッドの先端位置を逐次特定するため、作業者は、移動する掘削ロッドの先端位置を逐次確認して、移動する音源の個体音にも対処することができる。
【0070】
なお、上記各実施の形態は本発明の例示であり、本発明が上記各実施の形態のみに限定されることを意味するものではないことは、言うまでもない。
【0071】
例えば、実施の形態1では6つのセンサ7、実施の形態2では5つのセンサ7を地表面3に配置しているが、3個以上であれば、いくつセンサ7を配置しても良い。また、ボーリングのように垂直方向の長さが特定されている場合には、センサ7が2個以上有ればよい。
【0072】
また、実施の形態1及び実施の形態2では、複数のセンサ7とデータ収録・解析装置9の間にアンプ8を1つ設けているが、センサ7が発信する個体音の信号がデータ収録・解析装置9で受信、解析できるほどの大きさであればよく、アンプ8がなくても、また、各センサ7ごとに1つずつアンプ8が接続されていても良い。
【0073】
さらに、この実施の形態1では、データ収録・解析装置9が、コンピュータにより、音源S1の特定の周波数成分11から、音源の地盤改良剤の位置を特定しているが、異なる位置で同様の音源S1の特定の周波数成分11を検出する必要がある場合には、地中音源位置の測定方法として、それぞれの音源S1にあたる地盤改良剤の噴射し始める時間に差をつけ、その時間差分、音源S1の時間領域の波形の横軸の時間成分がずれていることを確認して、それぞれの音源S1に対する地盤改良剤の位置を特定するようにすることが考えられる。
【0074】
さらにまた、実施の形態1及び実施の形態2において、データ収録・解析装置9に、特定した地盤改良剤の位置を表示するモニタが備えられていても良い。
【0075】
また、実施の形態1では、1つの地盤改良剤の位置を特定しているが、2つ、又は、3つ以上の地盤改良剤の位置を特定しても良い。
【0076】
さらに、実施の形態2では、1つのボーリングマシン10の掘削ロッドの先端位置を特定しているが、複数のボーリングマシン10の掘削ロッドの先端位置を特定しても良い。
【0077】
さらにまた、実施の形態1では噴射式地盤改良工程における地盤改良剤の位置の特定、実施の形態2ではボーリングマシン10の掘削ロッドの先端位置の特定に、地中音源位置の測定装置100を用いているが、地盤中の音源であれば、この地中音源位置の測定装置100を用いて、水が流れている位置や他の機械がが動作している位置等、他の音源の位置を特定すること可能である。
【0078】
また、この地中音源位置の測定装置100及び測定方法は、従来の地中にセンサを設けたり、掘削ロッドの先端等に人工的な音源を設ける地中音源位置の測定方法と併用することも可能である。
【0079】
また、前記した実施の形態では、データ収録手段と解析手段の双方を兼ねたデータ収録・解析装置を有していたが、これに限るものではなく、データ収録手段と解析手段とが異なる装置で構成されていても良い。
【符号の説明】
【0080】
1……施工機械
2……地盤
3……地表面
4……改良剤噴射位置
5……個体音発生位置(音源位置)
6……個体音伝播経路
7……センサ
8……アンプ
9……データ収録・解析装置(データ収録手段、解析手段)
10……ボーリングマシン
11……音源S1の特定の周波数成分(個体音)
100……地中音源位置の測定装置
S1……音源