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特許7123335コンクリート打継部の止水構造の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】コンクリート打継部の止水構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/38 20060101AFI20220816BHJP
   E04B 1/684 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
E21D11/38 Z
E04B1/684 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018090160
(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公開番号】P2019196614
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591000506
【氏名又は名称】早川ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石岡 賢治
(72)【発明者】
【氏名】池尻 一仁
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 了
(72)【発明者】
【氏名】岩戸 幸蔵
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光弘
(72)【発明者】
【氏名】高木 弘毅
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-261197(JP,A)
【文献】特開2014-025299(JP,A)
【文献】特開平10-114955(JP,A)
【文献】特開2017-095944(JP,A)
【文献】特開平02-101243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/38
E04B 1/684
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コンクリートの表面に、コンクリート打継部を有する二次コンクリートが形成されてなるコンクリート構造体における、コンクリート打継部の止水構造の施工方法であって、
前記一次コンクリートの表面のうち、前記コンクリート打継部に対応する位置に止水シートを取り付ける、止水シート取り付け工程と、
前記止水シートの一部を巻き込むようにして前記二次コンクリートの先打ちコンクリートを施工し、次いで、前記コンクリート打継部から張出す前記止水シートの一部を巻き込むようにして前記二次コンクリートの後打ちコンクリートを施工する二次コンクリート施工工程と、を有し、
前記止水シート取り付け工程では、前記止水シートの表面のうち、前記コンクリート打継部を跨ぐ位置において、該止水シートと前記二次コンクリートとの間の縁を切る縁切りシートを接着して、該止水シートと該縁切りシートからなるユニットを予め製作しておき、該ユニットを取り付けることを特徴とする、コンクリート打継部の止水構造の施工方法。
【請求項2】
前記止水シートが基材の表面に接着されて止水板を形成し、該基材を前記一次コンクリートの表面に取り付けることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート打継部の止水構造の施工方法。
【請求項3】
前記縁切りシートがセロテープ(登録商標)からなり、該セロテープの接着面を前記止水シートの表面に接着することを特徴とする、請求項1又は2に記載のコンクリート打継部の止水構造の施工方法。
【請求項4】
前記二次コンクリートがトンネルの二次覆工であり、前記コンクリート打継部が該二次覆工のコンクリート打継部であり、
前記二次コンクリート施工工程に先行して前記止水シート取り付け工程を行い、二次覆工の施工に先行して、複数の前記コンクリート打継部に対して前記ユニットを取り付けることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコンクリート打継部の止水構造の施工方法。
【請求項5】
前記二次コンクリートがトンネルの二次覆工であり、前記コンクリート打継部が該二次覆工のコンクリート打継部であり、
前記止水シート取り付け工程と前記二次コンクリート施工工程をセット工程として、複数の前記コンクリート打継部の対応する領域ごとに該セット工程を行い、トンネルの軸方向に該セット工程を順次行うことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコンクリート打継部の止水構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート打継部の止水構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一次コンクリートの表面に対して、コンクリート打継部を有する二次コンクリートが形成されてなるコンクリート構造体が、様々な形態で存在している。例えば、地中連続壁等の土留め壁の表面に対して本設の地中コンクリート構造物のスラブ(底盤、各階床、天井等)や壁が接続されている形態では、地中連続壁等の土留め壁が一次コンクリートとなり、本設の地中コンクリート構造物の壁やスラブが二次コンクリートとなる。そして、この形態では、例えばスラブと壁の間のコンクリート打継部や、壁と壁の間のコンクリート打継部が存在し得る。また、山岳トンネル等のトンネルにおいては、鋼製支保工を巻き込むようにして施工されている吹付けコンクリートが一次コンクリートとなり、一次コンクリートの内側に施工されている二次覆工が二次コンクリートとなる。そして、この二次覆工には、トンネルの軸方向において、所定の間隔を置いてコンクリート打継部が存在し得る。
コンクリート打継部の止水構造においては止水板が設置されることもあり、止水板の設置に際しては、先打ちコンクリートの打設前に妻枠を設置し、この妻枠に対して止水板が仮固定されるのが一般的である。妻枠に対して止水板を仮固定した後、先打ちコンクリートを打設して止水板の一部を先打ちコンクリートに埋設し、先打ちコンクリートの妻側の端面から張出している止水板の一部を後打ちコンクリートが巻き込むようにして施工されることにより、コンクリート打継部の止水構造が形成される。このように妻枠に対して止水板を仮固定する施工では、止水板を仮固定するように妻枠を加工する必要があり、妻枠に対する止水板の仮固定にも施工手間を要することから、妻枠に対して止水板を仮固定する施工が工期を長期化させる要因となり得る。特に、上記する山岳トンネルの施工においては、トンネル延長が長くなってコンクリート打継部の数が多くなるに従い、この課題はより一層顕著になる。
【0003】
このように、妻枠に止水板を仮固定する方法に関し、トンネル覆工コンクリートのアーチ部分とインバート部分のコンクリート打継ぎ部に止水板を設置する設置方法が提案されている。この止水板の設置方法では、アーチ部分のコンクリート打設時のコンクリートの流動圧や浮力等の外部応力によるアーチ側の止水板の変形を、敷設された定木用の台木に取り付けられている固定金物によって防止し、コンクリート打設中に止水板に変形を与えることなく固定金物を引抜き、同引抜き穴部にコンクリートを自然流入させて閉塞させる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-133199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の止水板の設置方法では、妻枠に相当する定木用の台木に取り付けられている固定金物を設置し、この固定金物にて止水板の仮固定を図ることから、妻枠に止水板を仮固定する場合に生じ得る上記課題を解消することは難しい。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、妻枠に対する止水板の仮固定を不要にできるコンクリート打継部の止水構造の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成すべく、本発明によるコンクリート打継部の止水構造の一態様は、
一次コンクリートの表面に、コンクリート打継部を有する二次コンクリートが形成されてなるコンクリート構造体における、コンクリート打継部の止水構造であって、
前記一次コンクリートの表面であって、前記コンクリート打継部に対応する位置に取り付けられている止水シートと、
前記止水シートの表面であって、前記コンクリート打継部を跨ぐ位置に取り付けられていて、該止水シートと前記二次コンクリートとの間の縁を切る縁切りシートと、を有することを特徴とする。
【0007】
本態様によれば、一次コンクリートの表面に止水シートが直接的もしくは間接的に取り付けられていることにより、妻枠に対する止水シートの取り付け(仮固定)を不要にできる。そして、止水シートと二次コンクリートのコンクリート打継部との間に縁切りシートが介在することにより、二次コンクリートの施工によって止水シートが拘束される所謂ゼロスパン現象が生じ難くなり、このゼロスパン現象の際に生じ得るコンクリート構造体の変形に起因した止水シートの破損が解消される。
本態様において、一次コンクリートと二次コンクリートを有するコンクリート構造体には、既述するように、一次コンクリートである地中連続壁等の土留め壁と、二次コンクリートである本設の地中コンクリート構造物とから形成されるコンクリート構造体や、一次コンクリートである吹付けコンクリートと、二次コンクリートである二次覆工からなる山岳トンネル等のトンネルが一例として挙げられる。
【0008】
止水シートに取り付けられて、止水シートと二次コンクリートとの間に介在する縁切りシートは、例えば、二次コンクリートに臨む表面が平滑で二次コンクリートとの間の摩擦係数が小さく、従って二次コンクリートが変形した際に、この変形によって縁切りシートが引きずられるのを抑制する形態が挙げられる。また、縁切りシートが変形性能を有し、従って二次コンクリートが変形した際にこの変形に縁切りシートが追随もしくは変形を吸収する形態が挙げられる。更には、これらの性能の双方を有する形態が挙げられる。いずれの形態であっても、このような性能を有することにより、文字通り、止水シートと二次コンクリートとの間の「縁切りシート」となり、二次コンクリートの変形による影響を止水シートに及ぼさない、もしくは影響を可及的に低減することを可能とし、ゼロスパン現象に起因する止水シートの破損を解消することができる。
【0009】
また、本発明によるコンクリート打継部の止水構造の他の態様において、前記止水シートが基材の表面に接着されて止水板を形成し、該基材が前記一次コンクリートの表面に取り付けられていることを特徴とする。
本態様によれば、止水シートが基材の表面に接着されて止水板を形成していることにより、この基材を一次コンクリートの表面に直接取り付けることができ、止水シートを直接取り付ける際に生じ得る止水シートの破損等の問題を解消できる。ここで、止水板を形成する基材としては、一定の硬度を有した樹脂製の基材が適用され得る。また、トンネルの内空面に止水板が適用される場合には、止水シートは十分な変形性能を有していることから、トンネルの有する所定の曲率に応じた曲げ加工を可能とした変形性能を有する、樹脂製の基材が適用されるのが好ましい。ここで、一次コンクリートに対する止水板(の基材)の取り付け方法としては、接着による方法、釘や鋲等による方法、これらを組み合わせた方法などが挙げられる。
【0010】
また、本発明によるコンクリート打継部の止水構造の他の態様において、前記一次コンクリートの表面に防水シートが取り付けられており、該防水シートの表面に前記止水シートが取り付けられていることを特徴とする。
本態様によれば、一次コンクリートの表面に防水シートが取り付けられ、この防水シートの表面に止水シートが取り付けられていることにより、止水構造の止水性がより一層高まることに加えて、一次コンクリートに対して止水シートを直接取り付ける場合に比べて止水シートの取り付け性が良好になる。
【0011】
また、本発明によるコンクリート打継部の止水構造の他の態様において、前記止水シートが被取り付け面に対して接着されていることを特徴とする。
本態様によれば、止水シートが接着にて取り付けられていることにより、止水シートの妻枠への仮固定が不要になることは勿論のこと、止水シートの被取り付け面への取り付けを容易に行うことができる。ここで、「被取り付け面」とは、止水シートが一次コンクリートの表面に直接取り付けられている場合は、一次コンクリートの表面が被取り付け面となる。一方、一次コンクリートの表面に防水シートが取り付けられている場合は、防水シートの表面が被取り付け面となる。
【0012】
また、本発明によるコンクリート打継部の止水構造の他の態様において、前記縁切りシートが前記止水シートに対して接着されていることを特徴とする。
本態様によれば、止水シートに対して縁切りシートが接着されていることにより、縁切りシートを備えた止水シートを容易に製作することができる。例えば、樹脂製の止水シートに対して、セロテープ(登録商標)等からなる縁切りシートの接着面を接着することにより、止水シートに対する縁切りシートの取り付けが容易に行われると共に、セロテープの有する平滑な表面と伸縮性により、二次コンクリートとの間の優れた縁切り効果が発揮される。更に、縁切りシートにセロテープ等を適用することにより、縁切りシートを表面に備えた止水シートの製作コストを可及的に安価にできる。
【0013】
また、本発明によるコンクリート打継部の止水構造の施工方法の一態様は、
一次コンクリートの表面に、コンクリート打継部を有する二次コンクリートが形成されてなるコンクリート構造体における、コンクリート打継部の止水方法であって、
前記一次コンクリートの表面であって、前記コンクリート打継部に対応する位置に止水シートを取り付ける、止水シート取り付け工程と、
前記止水シートの一部を巻き込むようにして前記二次コンクリートの先打ちコンクリートを施工し、次いで、前記コンクリート打継部から張出す前記止水シートの一部を巻き込むようにして前記二次コンクリートの後打ちコンクリートを施工する二次コンクリート施工工程と、を有し、
前記止水シート取り付け工程において、前記止水シートの表面であって、前記コンクリート打継部を跨ぐ位置において、該止水シートと前記二次コンクリートとの間の縁を切る縁切りシートを取り付けておくことを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、妻枠に対する止水シートの取り付け(仮固定)を不要にしながら、一次コンクリートの表面に止水シートを直接的もしくは間接的に取り付けることができるため(防水シートが存在する場合は、一次コンクリートへの間接的な取り付けとなる)、止水構造を効率的に施工することができ、止水構造の施工に起因した工期の長期化の問題は生じ難くなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコンクリート打継部の止水構造の施工方法によれば、一次コンクリートの表面に、コンクリート打継部を有する二次コンクリートが形成されてなるコンクリート構造体において、妻枠に対する止水板の仮固定を不要にでき、効率的に止水構造を施工することができる。更に、二次コンクリートのコンクリート打継部において、二次コンクリートの変形に起因した止水シートの破損を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造の施工方法の一例を示す工程図である。
図2】(a)、(b)、(c)はいずれも、止水構造を形成する止水シートと縁切りシートのユニットの実施形態を示す斜視図である。
図3図1に続いて止水構造の施工方法の一例を示す工程図である。
図4図3に続いて止水構造の施工方法の一例を示す工程図である。
図5図4に続いて止水構造の施工方法の一例を示す工程図である。
図6】実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造の一例を示す横断面図である。
図7】性能確認試験にて用いた実施例に係る試験体1を示す図であって、(a)は試験体1の縦断面図であり、(b)は試験体1を上から見て二次コンクリートを透視した平面図である。
図8】性能確認試験にて用いた比較例に係る試験体2を示す図であって、(a)は試験体2の縦断面図であり、(b)は試験体2を上から見て二次コンクリートを透視した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造とその施工方法について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0018】
[実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造とその施工方法]
図1乃至図6を参照して、実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造とその施工方法の一例を説明する。ここで、図1図3乃至図5は順に、実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造の施工方法を示す工程図である。また、図2は、止水構造を形成する止水シートと縁切りシートのユニットの実施形態を示す斜視図であり、図6は、実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造の一例を示す横断面図である。以下、一次コンクリートと二次コンクリートから形成されるコンクリート構造体として山岳トンネルを取り上げて説明する。
【0019】
図1に示すように、地山Gを削孔し、所定寸法で所定の断面形状のトンネルTを造成する。ここで、地山Gの削孔方法は、トンネルボーリングマシンにて造成してもよいし、切羽面にジャンボ等の機械で穴を掘り、ダイナマイトを装薬して爆破することによって造成してもよい。所定延長の削孔の後、不図示の鋼製のアーチ支保工を所定間隔にて設置し、孔壁の保護を図る。その後、支保工を巻き込むようにしてコンクリートの吹付けを行うことにより、図示するように所定厚み(例えば5cm乃至25cm程度)の一次コンクリート10(吹付けコンクリート)を施工する。一次コンクリート10の施工は、トンネルT内にコンクリートミキサー車を運び込み、吹付け機にてコンクリートを孔壁に吹き付けることにより行われる。一次コンクリート10の施工に際して、地山G側に金網を取り付けておき、この金網を表面に備えた地山Gに対して吹付けコンクリートを施工することにより、地山Gに対して吹付けコンクリートを良好に付着させることもできる。
【0020】
コンクリートの吹付け完了後、ロックボルト11を設置する。ロックボルト11は、例えば3m乃至4m程度の棒状鋼材からなり、地山GのトンネルT側へ向かう変形に起因する引張力をボルトに負担させ、トンネルTの孔壁の変形を抑制するものである。ロックボルト11は、トンネルTの軸方向に直交する面内において径方向に設置されてもよいし、トンネルTの削孔方向に向かう斜め方向に設置されてもよい。後者のトンネルTの削孔方向への設置は先受け工であるが、この先受け工として、ロックボルト11に替えて、例えば10m以上の長尺鋼管を適用してもよい。より具体的には、注入式の長尺先受け工法が適用でき、専用ビットで地山を削孔しながら所定外径の小口径鋼管を挿入し、鋼管に所定圧力にて注入材を注入して先受け工を構築する方法である。このように、地山掘削後、吹付けコンクリート10の施工とロックボルト11の施工を行うことにより、地山Gの緩みを抑制してトンネルTを施工する、NATM工法(NATM:New Austrian Tunneling Method)が適用される。
【0021】
地山Gの削孔からロックボルト11の設置までの作業を所定回数繰り返すことにより、一次コンクリート10とロックボルト11にて補強されている所定延長のトンネルTを施工した後、一次コンクリート10の内側に防水シート20を敷設する防水工を行う。この防水シート20としては、耐薬品性と耐衝撃性に優れたEVA樹脂(EVA: ethylene-vinylacetate copolymer、エチレン・酢酸ビニル共重合体)等の防水シートを適用できる。また、EVA樹脂の裏面(一次コンクリート10側)に、排水性のある不織布等からなる裏面緩衝材が配設されてもよい。以上が、コンクリート打継部の止水構造の施工方法における、防水シートの取り付けを含む止水シート取り付け工程となる。
【0022】
次に、二次コンクリートからなる二次覆工を所定延長ごとに施工するに当たり、隣接する二次覆工間のコンクリート打継部に対して止水シートの設置を行う。ここで、図2を参照して、種々の形態の止水シートを説明する。尚、図2は、本来的には長尺の止水シートを途中で切断した態様で示している。本実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造では、止水シートの表面において、止水シートと二次コンクリートとの間の縁を切る縁切りシートが取り付けられており、従って、各実施形態共に止水シートと縁切りシートのユニット構成を基本構成として有する。
【0023】
図2(a)に示す形態は、止水シート30と、止水シート30の表面に接着されている縁切りシート40とを有する。止水シート30としては、ブチル再生ゴムを用いた非加硫型粘着塑性体を適用でき、より具体的には、早川ゴム株式会社製のスパンシール(登録商標)を適用できる。このスパンシールは、セメント中に含まれる金属酸化物(CaO)と、スパンシールの有する活性基(カルボキシル基)がイオン反応して化学的に結合することにより、コンクリートと一体化して止水するものである。また、縁切りシート40としては、セロテープ(登録商標)等からなる裏面が接着面となるシートが適用される。尚、セロテープは、木材パルプを原料とした天然素材のセロハン(基材)の片面に、天然ゴム及び天然樹脂が主成分の粘着剤が塗られた帯状のテープである。
【0024】
縁切りシート40は、例えば、二次コンクリートに臨む表面が平滑で二次コンクリートとの間の摩擦係数が小さく、従って二次コンクリートが変形した際に、この変形によって縁切りシートが引きずられるのを抑制する作用を奏する。あるいは、縁切りシート40は変形性能を有し、従って、二次コンクリートが変形した際にこの変形に縁切りシート40が追随もしくは変形を吸収する作用を奏する。このような性能を有する縁切りシート40により、文字通り、止水シート30と二次コンクリートとの縁が切られ、二次コンクリートがコンクリート打継部を境界として相対変位等した際に、この相対変位による影響が防水シート30に付与されるのを防止する効果を有している。止水シート30は、図1に示す防水シート20の表面に接着剤にて取り付けることができ、あるいは、防水シート20を介してその背面の一次コンクリート10に対して釘等にて取り付けることができる。
【0025】
一方、図2(b)に示す形態は、止水シート30が基材50に接着されて止水板60を形成し、この止水板60と縁切りシート40とを有する。基材50としては、EVA樹脂製の基材が適用される。基材50がEVA樹脂製であると、基材50が良好な変形性能を有することとなり、トンネルTの周方向に基板50を容易に変形させながら湾曲した防水シート20の表面に対して基材50を取り付けることができる。基材50を有する止水板60を備えていることにより、防水シート20及び一次コンクリート10に対して止水板60を釘等にて取り付ける場合、止水シート30に直接釘を打ち込まないことから、釘の打ち込みによる止水シート30の破損を解消できる。
【0026】
一方、図2(c)に示す形態は、釘打ち溝50bを有する釘打ち部50aを備えた基材50Aと止水シート30とから形成される止水板60Aと、縁切りシート40とから構成される。尚、釘打ち部50aの釘打ち溝50b以外の基材50A表面に釘を打ってもよいが、基板50Aが釘打ち部50aを有していることから、防水シート20の背面の一次コンクリート10に対する釘による取り付け性が一層良好になる。また、基材50Aが図示例のように断面が略V字状の釘打ち溝50bを有することにより、後工程で二次コンクリートを打設し、型枠を脱型した際の止水シート30の剥がれを防止することができる。
【0027】
以下、図2(b)に示す形態の止水板60と縁切りシート40のユニットを用いて、コンクリート打継部の止水構造とその施工方法について説明する。尚、以下の説明において、二次覆工である二次コンクリートの施工に先行して施工されるインバートコンクリートの図示とその説明は省略する。
【0028】
二次覆工である二次コンクリートは、トンネルTの軸方向に例えば10m程度の間隔にて施工される。この二次コンクリートの施工に際しては、コンクリート打継部となる位置に、図3に示すように止水板60と縁切りシート40のユニットをトンネルTの周方向に取り付ける。防水シート20(及び一次コンクリート10)に対する止水板60の取り付けは、接着による方法、釘打ちによる方法、それらの組み合わせによる方法のいずれであってもよい。図3において、縁切りシート40がトンネルTの内側に臨むように配設されており、コンクリート打継部の中央位置、即ち、二次コンクリートの先打ちコンクリートと後打ちコンクリートに跨る位置に縁切りシート40が配設される。ここで、止水板60と縁切りシート40のユニットの取り付けは、二次覆工の施工に先行して、コンクリート打継部となる例えば10m置きに先行して行ってもよいし、止水板60と縁切りシート40のユニットの取り付け施工と二次覆工の施工を交互に行ってもよい。例えば、ユニットの取り付けを二次覆工の施工に先行して各コンクリート打継部に対して先行して行い、二次覆工用の配筋を先行して行った後に、二次覆工用のコンクリート打設を行う施工方法が適用できる。尚、図3以降の各図において、配筋の図示は省略している。
【0029】
防水シート20の表面に止水板60と縁切りシート40のユニットを取り付けた後、図4に示すように、止水シート30の一部を巻き込むようにして二次コンクリートの先打ちコンクリート70Aを施工する。図4に示すように、この先打ちコンクリート70Aは、止水シート30の一部のみならず、止水シート30の表面にある縁切りシート40の一部を巻き込むようにして施工される。
【0030】
次に、図5に示すように、先打ちコンクリート70Aに連続する後打ちコンクリート70Bを施工することにより、コンクリート打継部CJを介して、二次覆工である二次コンクリート70を施工する。二次覆工である二次コンクリート70の厚みは、一次コンクリート10と同程度の厚みであってもよいし、より耐震性を有する二次覆工として、1m程度の厚みを有してもよい。二次コンクリート70の施工により、吹付けコンクリートにて形成される一次コンクリート10と、防水シート20と、コンクリート打継部CJを有する二次覆工である二次コンクリート70と、を備えたコンクリート構造体80が施工される。以上が、コンクリート打継部の止水構造の施工方法における、二次コンクリート施工工程となる。トンネルTは、その軸方向において、所定間隔を置いてコンクリート打継部CJを有し、コンクリート打継部CJの左右に先打ちコンクリート70Aと後打ちコンクリート70Bからなる二次コンクリート70を有する。
【0031】
以上で説明するコンクリート打継部の止水構造の施工方法によれば、一次コンクリート10及び防水シート20の表面であって、二次コンクリート70のコンクリート打継部となる位置に、縁切りシート40を有する止水板60(止水シート30)を取り付け、その後に縁切りシート40の左右に先打ちコンクリート70Aと後打ちコンクリート70Bを順次施工して二次コンクリート70が施工される。そのため、先打ちコンクリート70Aの施工に際して、コンクリート打継部に対応する位置の妻枠に対して止水シートを仮固定するといった、手間のかかる作業を一切不要にできることから、コンクリート構造体80の良好な施工性が得られる。従って、トンネルTの延長が長くなり、コンクリート打継部の数が多くなるにつれて、この効果はより一層顕著になる。
【0032】
実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造の施工方法により、コンクリート打継部CJにおいては、図6に一例として示すコンクリート打継部の止水構造100が形成される。図6に示すように、止水構造100は、防水シート20の表面に例えば接着等にて取り付けられている止水板60と、止水シート30の表面に接着にて取り付けられている縁切りシート40とを有し、縁切りシート40が先打ちコンクリート70Aと後打ちコンクリート70Bとに跨って配設されている。
【0033】
一次コンクリート10に密着する防水シート20の表面には多分に不陸が存在するが、二次覆工である二次コンクリート70を施工する際のコンクリート厚により、止水板60はこの不陸に馴染むようにして防水シート20の表面に密着される。そして、止水シート30が上記するスパンシールから形成される場合は、二次コンクリートを形成するセメント中の金属酸化イオンとスパンシールのカルボキシル基がイオン反応して化学的に結合し、コンクリートと一体化された止水構造100が形成される。
【0034】
ここで、図6からも明らかなように、二次コンクリート70の施工により、止水シート30は二次コンクリート70にて拘束され、トンネルの軸方向にも軸直角方向にも余裕代(遊び代)のない、所謂ゼロスパン現象が生じている。そして、このように止水シート30にゼロスパン現象が生じている場合に、地震等により、トンネルTがトンネル軸方向に伸長変形したり軸直角方向にせん断変形すると、トンネルTのこれらの変形に起因して止水シート30が破損に至り得る。しかしながら、図示するコンクリート打継部の止水構造100によれば、止水シート30と二次コンクリート70がコンクリート打継部CJにおいて縁切りシート40にて縁が切られていることにより、トンネルTの変形による影響が縁切りシート40にて吸収もしくは緩和される。そのため、コンクリート構造体の変形に起因した止水シート30の破損は効果的に解消される。
【0035】
[性能確認試験とその結果]
<性能確認試験の概要>
次に、本発明者等による、実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造に関する性能確認試験とその結果について、図7及び図8を参照して説明する。ここで、図7及び図8はそれぞれ、性能確認試験にて用いた実施例に係る試験体1と比較例に係る試験体2を示す図であって、図7(a)及び図8(a)はそれぞれ、試験体1と試験体2の縦断面図であり、図7(b)及び図8(b)はそれぞれ、試験体1と試験体2を上から見て二次コンクリートを透視した平面図である。
【0036】
図7及び図8に示すように、試験体1,2は共に、円筒状の基材の表面に円筒状の止水シートが接着されたものが、一次コンクリートと二次コンクリートとに跨るようにして埋設されている。試験体1では、止水シートの表面に更に円筒状の縁切りシートが接着されており、試験体2はこの縁切りシートを有していない点が双方の違いとなる。円筒状の基材の内側であって、一次コンクリートと二次コンクリートのコンクリート打継部には、下方から順に縁切りシートと緩衝材が配設されている。そして、この緩衝材に先端が当接するようにして加圧水が供給される供給管が配設され、供給管の加圧水の供給口は二次コンクリートの上端よりも外側に設けられている。さらに、供給管には圧力ゲージが備え付けられており、加圧水の水圧を測定可能となっている。
【0037】
コンクリート配合におけるセメントには低熱ポルトランドセメントを適用し、早強コンクリートを適用すると共に、配合は、呼び強度30、スランプ12cm、粗骨材の最大寸法20mm、セメント種による記号Hとした。性能試験は、以下の表1に示すとおり、大きく3種類の状態と3段階の目標性能に基づき実施した。
【0038】
【表1】
【0039】
(試験Iについて)
図7及び図8に示すように、供給管を介して加圧水をX1方向に一次コンクリートと二次コンクリートの界面部に供給し、緩衝材を介して止水シート側へ加圧水をX2方向に浸透させ、円筒状の止水シートを介してその外側に加圧水が漏水するか否かを検証した。ここで、水圧を0.10MPaピッチで目標とする水圧まで加圧してゆき、止水板と一次コンクリート-二次コンクリート界面部における止水性をブルドン管式圧力計にて確認した。各水圧段階は1分程度とし、異常がなければ次の水圧段階へ移行するものとした。
【0040】
(試験IIについて)
試験体1,2に対して、水圧を0.10MPaピッチで目標とする水圧まで加圧してゆき、止水板と一次コンクリート-二次コンクリート界面部における止水性をブルドン管式圧力計にて確認した。ただし、各水圧設定後5分間は保持し、1分ピッチで水圧変化を測定した。その際、漏水の有無も目視にて確認した。
【0041】
(試験IIIについて)
試験体1,2の上層部を油圧ジャッキにて目標とするせん断変形量まで強制変形させた後(図7及び図8の矢印方向)、上部受け鋼材と試験体1,2の隙間に厚み調整プレートをセットした。水圧を0.10MPaピッチで目標とする水圧まで加圧してゆき、止水板と一次コンクリート-二次コンクリート界面部における止水性をブルドン管式圧力計にて確認した。ただし、各水圧設定後5分間は保持し、1分ピッチで水圧変化を測定した。その際、漏水の有無も目視にて確認する。
【0042】
(試験サイクルについて)
試験II(伸長)と試験III(せん断)では、試験体1,2共に別々の試験体を用いるものとし、いずれも試験I(常態)を実施した後に、性能1乃至性能3を確認した。具体的には、試験体タイプをXとして、「試験(試験体の名称)-(試験の種類)-(目標性能)」の順に記載した場合に、以下の通りの試験サイクルにて試験を実施した。
試験X1-I-1 → 試験X1-II-1 → 試験X1-II-2 → 試験X1-II-3
試験X2-I-1 → 試験X2-III-1 → 試験X2-III-2 → 試験X2-III-3
尚、目標とする変形量が異なる試験間においては、水圧を除荷して変形量を調整した後に水圧を再載荷した。
【0043】
<性能試験結果>
試験結果を以下の表2に示す。表2において、各目標性能を満たした場合を○、満たしていない場合を×として示している。
【0044】
【表2】
【0045】
まず、比較例(試験体2)の伸長試験における常態では、漏水や圧力計の低下もなく、異常は見られなかった。さらに、伸長試験において、目標性能1(変形量10mm、水圧0.25MPa)までは異常が見られなかったが、0.45MPaの水圧を載荷した段階で一次コンクリートと二次コンクリートの境界部から漏水が始まり、圧力が低下し始めたため、試験を終了した。
また、比較例(試験体2)のせん断試験における常態では、漏水や圧力計の低下もなく、異常は見られなかった。さらに、せん断試験において、油圧ジャッキにてせん断変形させている段階(水圧値:0.08MPa)で漏水が始まったため、試験を終了した。
【0046】
以上の結果より、比較例に係る試験体2では、引張変形量10mmに対して0.40Maまでの耐水圧性能を有するものの、せん断変形量10mmに対しては耐水圧性能を有さないと判定される。
【0047】
一方、実施例(試験体1)の伸長試験における常態では、漏水や圧力計の低下もなく、異常は見られなかった。さらに、伸長試験において、目標性能3(変形量10mm、水圧0.60MPa)まで異常が見られず、目標とする3段階の性能を全て満足する結果となった。
また、実施例(試験体1)のせん断試験における常態では、漏水や圧力計の低下もなく、異常は見られなかった。さらに、せん断試験において、目標性能3(変形量10mm、水圧0.60MPa)まで異常が見られず、目標とする3段階の性能を全て満足する結果となった。その後、0.70MPaの水圧載荷時にコンクリート境界部から漏水が始まったため、試験を終了した。
【0048】
以上の結果より、実施例に係る試験体1では、引張変形量及びせん断変形量10mmに対して0.60MPa以上の耐水圧性能を有すると判定される。
【0049】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【0050】
例えば、図示例のコンクリート打継部の止水構造100では、防水シート20が構成要素であるが、防水シート20を備えていない止水構造であってもよい。また、図示例のコンクリート打継部の止水構造100は山岳トンネルを対象としたものであるが、山岳トンネル以外にも、一次コンクリートである地中連続壁等の土留め壁と、二次コンクリートである本設の地中コンクリート構造物とから形成されるコンクリート構造体等に対して実施形態に係るコンクリート打継部の止水構造が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10:一次コンクリート(吹付けコンクリート)、11:ロックボルト、20:防水シート、30:止水シート、40:縁切りシート、50,50A:基材、60,60A:止水板、70:二次コンクリート、70A:先打ちコンクリート、70B:後打ちコンクリート、80:コンクリート構造体、100:コンクリート打継部の止水構造(止水構造)、G:地山、CJ:コンクリート打継部、T:トンネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8