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特許7123339銅に関連した疾患を処置するための手段及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】銅に関連した疾患を処置するための手段及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/07 20060101AFI20220816BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 39/04 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
A61K38/07 ZMD
A61P1/16 ZNA
A61P39/04
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2018531559
(86)(22)【出願日】2016-12-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-27
(86)【国際出願番号】 EP2016081407
(87)【国際公開番号】W WO2017103094
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-12-03
(31)【優先権主張番号】15201070.8
(32)【優先日】2015-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】92979
(32)【優先日】2016-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】501357201
【氏名又は名称】ヘルムホルツ ツェントゥルム ミュンヘン ドイチェス フォルシュングスツェントゥルム フューア ゲズントハイト ウント ウムヴェルト (ゲーエムベーハー)
(73)【特許権者】
【識別番号】503249418
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(73)【特許権者】
【識別番号】304057287
【氏名又は名称】アイオワ・ステイト・ユニバーシティ・リサーチ・ファウンデイション・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Iowa State University Research Foundation, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ツィシュカ,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】リヒトマンネガー,ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ディスピリト,アラン・アンジェロ
(72)【発明者】
【氏名】セムラウ,ジェレミー・デイヴィッド
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08735538(US,B1)
【文献】ACS Chem. Biol., (2012), 7, [2], p.260-268
【文献】J. Trace Elem. Med. Biol., (2011), 25, [1], p.36-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 41/00-45/08
A61K 48/00
A61K 50/00-51/12
C07K 1/00-19/00
A61P 1/16
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅結合性メタノバクチンを含む、被験者におけるウィルソン病の処置のための医薬であって、該処置が、(a)メタノバクチンの投与という第一期、続いて(b)非処置の第二期という処置サイクルを少なくとも1回含み、第二期は、第一期より長く、第二期が、少なくとも2週間の期間に持続し、処置サイクルの第二期の後に、少なくとも1回のさらなる処置サイクルが続く、及び/又は
処置法が周期的処置サイクルを含む、医薬。
【請求項2】
第一期が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日間又はそれ以上の連続した日数持続する、請求項1の医薬。
【請求項3】
メタノバクチンが、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、隔日、又は連続的に1回量で投与される、請求項1又は2の医薬。
【請求項4】
ウィルソン病が急性期ウィルソン病を含む、請求項1~のいずれか一項の医薬。
【請求項5】
急性期ウィルソン病が急性肝不全によって特徴付けられる、請求項の医薬。
【請求項6】
メタノバクチンが、少なくとも1mg/kg体重の用量で被験者に投与される、請求項1~のいずれか一項の医薬。
【請求項7】
メタノバクチンが、以下の一般式(I):
-(X)2~5-R(I)
(式中、
及びRは各々、Nを含みかつエネチオレートに結合している5員ヘテロ環であり;
各Xは、独立して任意のアミノ酸から選択される)
を含む、請求項1~のいずれか一項の医薬。
【請求項8】
メタノバクチンが10-15又はそれ以下のKでCu(I)に結合する、及び/又は処置が、10-15又はそれ以下のKでCu(I)に結合するメタノバクチンの投与を含む少なくとも1回の処置サイクル、及び10-15又はそれ以上のKでCu(I)に結合するメタノバクチンの投与を含む少なくとも1回の処置サイクルを含む、請求項1~のいずれか一項の医薬。
【請求項9】
メタノバクチンが細菌に由来する、及び/又はメタノバクチンが、(a)メチロサイナス・トリコスポリウム(Methylosinus trichosporium)OB3bのメタノバクチン(mb-OB3b)、(b)メチロシスティス(Methylocystis)SB2株のメタノバクチン(mb-SB2)、(c)メチロコッカス・カプスラタス(Methylococcus capsulatus)Bathのメタノバクチン(mb-Bath)、(d)メチロマイクロビウム・アルブム(Methylomicrobium album)BG8のメタノバクチン(mb-BG8)、(e)メチロシスティスM株のメタノバクチン、(f)メチロシスティス・ヒルスタ(Methylocystis hirsuta)CSC1のメタノバクチン、(g)メチロシスティス・ロセア(Methylocystis rosea)のメタノバクチン(mb-ロセア)、(h)メチロサイナス属LW3株のメタノバクチン(mb-LW3)、(i)メチロサイナス属LW4株のメタノバクチン(mb-LW4)、(j)メチロシスティス属LW5株のメタノバクチン(mb-LW5)、(k)メチロサイナス属PW1株のメタノバクチン(mb-PW1)、(l)メチロシスティス・パルバス(Methylocystis parvus)OBBPのメタノバクチン(mb-OBBP)、(m)カプリアビダス・バシレンシス(Cupriavidus basiliensis)B-8のメタノバクチン(mb-B-8)、(n)シュードモナス・エクストリームアウストラリス(Pseudomonas extremaustralis)14-3のメタノバクチン(mb-14-3)、(o)アゾスピリルム(Azospirillum)属B510株のメタノバクチン(mb-B510)、(p)チストレラ・モビリス(Tistrella mobilis)KA081020-065(mb-モビリス)のメタノバクチン、及び(q)コマモナス・コムポスティ(Comamonas composti)DSM21721のメタノバクチン(mb-21721)から選択される、請求項1~のいずれか一項の医薬。
【請求項10】
mb-OB3bが、式RGSCYRSCM(II)で示され、ここでのRが(N-2-イソプロピルエステル-(4-チオニル-5-ヒドロキシ-イミダゾール)及びN-2-イソプロピルエステル-(4-チオカルボニル-5-ヒドロキシ-イミダゾレート)から選択され、Rがピロリジン-(4-ヒドロキシ-5-チオニル-イミダゾール)及びピロリジン-(4-ヒドロキシ-5-チオカルボニル-イミダゾレート)から選択され、mb-SB2が式RASRAA(III)で示され、ここでのRが4-グアニジノブタノイル-イミダゾールであり、Rが1-アミノ-2-ヒドロキシ-オキサゾロンである、請求項の医薬。
【請求項11】
mb-OB3bが、式(IV)
【化5】

を有するか、又はmb-SB2が式(V)
【化6】

を有する、請求項9又は10のいずれか一項の医薬。
【請求項12】
mb-OB3bが以下の構造(VI)
【化7】

(式中、
Yは、Zn(I)、Zn(II)、Cu(I)、及びCu(II)から選択される)
を含むか又はからなるか、
あるいは、mb-SB2が以下の構造(VII)
【化8】

(式中、
Yは、Zn(I)、Zn(II)、Cu(I)、及びCu(II)から選択される)
を含むか又はからなる、請求項11の医薬。
【請求項13】
メタノバクチンが安定化形で提供される、請求項1~12のいずれか一項の医薬。
【請求項14】
メタノバクチンが、Zn(I)及び/又はZn(II)と錯体を形成する並びに/あるいはpH≧9で提供される、請求項13の医薬。
【請求項15】
処置が、以下の(i)全肝内の銅レベル、(ii)全肝細胞内の銅レベル、及び/又は(iii)肝細胞ミトコンドリア内の銅レベルの少なくとも1つを減少させる、請求項1~14のいずれか一項記載の医薬。
【請求項16】
処置により胆汁を介して銅が排出される、請求項1~14のいずれか一項記載の医薬。
【請求項17】
銅結合性メタノバクチンを含む、被験者におけるウィルソン病の処置のための医薬であって、該処置が、(a)メタノバクチンの投与という第一期、続いて(b)非処置の第二期という処置サイクルを少なくとも1回含み、第二期は、第一期より長く、メタノバクチンが、安定化形態で提供され、メタノバクチンが、メチロシスティス(Methylocystis)SB2株のメタノバクチン(mb-SB2)を含む、医薬。
【請求項18】
第一期が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日間又はそれ以上の連続した日数持続する、請求項17の医薬。
【請求項19】
メタノバクチンが、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、隔日、又は連続的に1回量で投与される、請求項17又は18の医薬。
【請求項20】
第二期が、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、5週間又はそれ以上の期間に持続する、請求項17~19のいずれか一項の医薬。
【請求項21】
処置サイクルの第二期の後に、少なくとも1回のさらなる処置サイクルが続く、及び/又は
処置法が周期的処置サイクルを含む、
請求項17~20のいずれか一項の医薬。
【請求項22】
ウィルソン病が急性期ウィルソン病を含む、請求項17~21のいずれか一項の医薬。
【請求項23】
急性期ウィルソン病が急性肝不全によって特徴付けられる、請求項22の医薬。
【請求項24】
メタノバクチンが、少なくとも1mg/kg体重の用量で被験者に投与される、請求項17~23のいずれか一項の医薬。
【請求項25】
メタノバクチンが10-15又はそれ以下のKでCu(I)に結合する、及び/又は処置が、10-15又はそれ以下のKでCu(I)に結合するメタノバクチンの投与を含む少なくとも1回の処置サイクル、及び10-15又はそれ以上のKでCu(I)に結合するメタノバクチンの投与を含む少なくとも1回の処置サイクルを含む、請求項1~のいずれか一項の医薬。
【請求項26】
mb-SB2が、式RASRAA(III)で示され、ここでのRが4-グアニジノブタノイル-イミダゾールであり、Rが1-アミノ-2-ヒドロキシ-オキサゾロンである、請求項17~25のいずれか一項の医薬。
【請求項27】
mb-SB2が、式(V)
【化9】

を有する、請求項17~25のいずれか一項の医薬。
【請求項28】
mb-SB2が、以下の構造(VII)
【化10】

(式中、
Yは、Zn(I)、Zn(II)、Cu(I)、及びCu(II)から選択される)
を含むか又はからなる、請求項11のいずれか一項の医薬。
【請求項29】
メタノバクチンが、Zn(I)及び/又はZn(II)と錯体を形成する及び/又はpH≧9で提供される、請求項17~28のいずれか一項の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国エネルギー省によって授与された補助金DE-SC0006630の下で政府の支援により行なわれた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
背景
銅は、酵素活性、酸素輸送、及び細胞シグナル伝達などの決定的な生物学的機能において重要な役割を果たす、真核生物及び大半の原核生物にとって必須な微量元素である。しかしながら、その高い酸化還元活性及びフリーラジカル生成を触媒するその能力のために、銅は、脂質、タンパク質、DNA、及び他の生体分子に対して有害な作用を及ぼす可能性がある。特に、ミトコンドリアは、銅毒性から生じる酸化的傷害における主要な標的であると考えられている。さらに、銅はタンパク質と干渉する可能性があり、金属タンパク質に由来する亜鉛などの他の金属を置換する可能性があり、これにより、その活性が抑制される。銅がその起こり得る毒性作用を発揮しないために、それは通常、遊離形ではなく、錯体としてのみ存在する。ヒト生体では、血漿中の銅の約95%が、肝細胞によって合成されかつ分泌されるマルチ銅フェロキシダーゼであるセルロプラスミンなどのタンパク質に結合している。1つの細胞あたり1原子より少ない遊離銅が存在していると推定されている。
【0003】
代謝におけるその相反する役割のために、銅バイオアベイラビリティーのあらゆる不均衡は必然的に欠乏症又は毒性をもたらし、全ての生物はその吸収、排出及びバイオアベイラビリティーを調節する機序を進化させてきた。哺乳動物では、銅の吸収は、小腸において腸細胞による取り込みを介して行なわれ、その後、それは銅輸送体のATP7Aによって血中へ移行する。肝臓は銅代謝において決定的な役割を果たし、銅貯蔵部位として、並びに、血清及び組織へのその分布及び胆汁への過剰な銅の排出を調節するという両方の役目を果たしている。特に、肝細胞は、特殊な輸送体のATP7Bを介して生理学的な銅を輸送及び調節する。
【0004】
ATP7A及びATP7Bは構造及び機能が密接に関連し、約60%のアミノ酸配列同一率を有する。それらは、ATP依存性のリン酸化及び脱リン酸化サイクルを受けることにより、多くの必須銅酵素の金属化のための並びに毒性を防ぐ過剰な細胞内の銅の除去のための細胞膜を横断する銅の移行を触媒する。
【0005】
ATP7Bの突然変異により、細胞レベル及び全身レベルで肝細胞が銅恒常性を維持する能力が大きく障害され、その結果、胆汁への銅の排出が損なわれ、肝臓に持続的に銅が蓄積される、ウィルソン病(WD)として知られる容態が生じる。これにより(肝臓の銅の溢流に起因する可能性が最も高い(Bandmann et al., The Lancet. Neurology 14, 103-113 (2015)))、脳に対する有害な作用がもたらされ得、多くの場合、慢性肝疾患がもたらされ得るが、しかしまた劇症肝不全ももたらされ得る(Gitlin, Gastroenterology 125, 1868-1877 (2003))。
【0006】
未処置のウィルソン病は全般的に致命的であり、大半の患者は肝疾患により死亡する。体内の銅恒常性を回復するために、臨床的に使用される銅キレート剤のD-ペニシラミン(D-PA)及びトリエンチン(TETA)又は候補薬のテトラチオモリブデート(TTM)が1日1回投与される(Gitlin JD, Gastroenterology. 2003 Dec;125(6):1868-77)。進行した肝疾患又は神経学的疾患の発症前に開始された場合にのみ、この生涯続く治療法は有効である(Roberts et al., Am J Clin Nutr88, 851S-854S (2008))。同じことが亜鉛塩についても該当し、これは軽症例のウィルソン病において、消化管を介した銅の吸収を減少させるために、又はキレート剤で処置されたWD患者における銅維持療法として主に使用される(Gitlin JD、同上)。しかしながら、診断の遅れ、処置の失敗、又は急速に発症した劇症肝炎のいずれかによって引き起こされた急性肝不全の環境ででは、肝移植が実施されなければ死はほぼ確実である(Gitlin JD、同上)。全ての現在FDA/EMAにより認可されている銅キレート剤は、骨髄毒性、腎毒性、肝毒性、貧血、及び自己免疫疾患の誘引をはじめとする、重度の有害作用を有する(Gitlin JD、同上)。D-PAの毒性のために、WD患者のほぼ3分の1に処置の中止が必要とされる(Weiss & Stremmel, Current gastroenterology reports 14, 1-7 (2012))。
【0007】
現在認可されている薬理学的処置は通常、急性WDにおける銅恒常性を回復させることができず、したがって、肝移植が唯一の生存可能な処置選択肢となる。これらの問題を考えると、WD及び他の銅関連疾患の代替的かつ画期的な処置に対する医学的需要は明らかに充足していない。本出願の根底にある技術的問題は、WD、特に急性WDなどの銅関連疾患の代替的かつ画期的な処置についての充足していない医学的需要に応じることである。
【0008】
概要
本発明者らは初めて、肝細胞及び肝細胞ミトコンドリアから銅を大量に除去する意外なメタノバクチンの能力に基づいた、(1)銅除去期、続いて非処置期を含む、新規な処置処方計画、(2)(以前には処置が困難であった又は処置不可能であった)急性期ウィルソン病の新規な処置、及び(3)不安定なメタノバクチンの優れた能力を保持しているが(したがって、上記に示された処置処方計画及び医学的適応症に従って使用するのに適している)、体温において向上した安定性という利点を与える安定化形メタノバクチン、を示唆する。
【0009】
メタノバクチンは、多くのメタノトローフ細菌によって産生される低分子量の銅結合性分子であり、環境からの銅の獲得を媒介することが実証されている(Semrau et al., 2010. FEMS Microbiol. Rev 34:496-531)。本発明者らは初めて、メタノバクチンが、多種多様な銅関連疾患及び容態の処置に対するかなりの効力を保持すること、そして、それらの優れた銅結合親和性(Choi et al., 2006. Biochemistry 45: 1442 - 1453)及びインビボにおける耐容性により、それを必要とする患者において過剰な銅レベルを大量かつ迅速に除去するための有望な新規薬剤であることを実証した。それらの有益な特性により、メタノバクチンは、ウィルソン病患者における緊急の銅除去療法において特に有用であると考えられる。
【0010】
したがって、第一の態様では、本発明は、被験者におけるWDの処置法に使用するための銅結合性メタノバクチンに関し、ここでの処置は、(a)メタノバクチンの投与という第一期、続いて(b)非処置の第二期(第二期は第一期より長い)という処置サイクルを含む。前記の第一期は、連続して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日間又はそれ以上の期間におよび持続し得、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、隔日、又は連続的に1回量でのメタノバクチンの投与を含み得る。第二期は、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、5週間又はそれ以上におよび持続し得る。処置サイクルの非処置の第二期の後に、少なくとも1回のさらなる処置サイクルが続き得る。特に、本発明の方法による処置は、連続処置サイクルを含み得る。
【0011】
さらなる態様では、本発明はまた、被験者における急性期ウィルソン病の処置法に使用するための銅結合性メタノバクチンにも関する。
【0012】
いずれの事象においても、本発明の使用のためのメタノバクチンは、以下の一般式(I):
-(X)2~5-R(I)
(式中、
R1及びR2は各々、Nを含みかつエネチオレートに結合している5員ヘテロ環であり;
各Xは、独立して任意のアミノ酸から選択される)
を含み得るかまたはからなり得る。
【0013】
メタノバクチンは、メチロシスティス属、メチロサイナス属、メチロマイクロビウム属、及びメチロコッカス属などのメタノトローフ細菌及び非メタノトローフ細菌をはじめとする、細菌に由来し得るとさらに考えらえる。例えば、メタノバクチンは、(a)メチロサイナス・トリコスポリウム(Methylosinus trichosporium)OB3bのメタノバクチン(mb-OB3b)、(b)メチロシスティス(Methylocystis)SB2株のメタノバクチン(mb-SB2)、(c)メチロコッカス・カプスラタス(Methylococcus capsulatus)Bathのメタノバクチン(mb-Bath)、(d)メチロマイクロビウム・アルブム(Methylomicrobium album)BG8のメタノバクチン(mb-BG8)、(e)メチロシスティスM株のメタノバクチン、(f)メチロシスティス・ヒルスタ(Methylocystis hirsuta)CSC1のメタノバクチン、及び(g)メチロシスティス・ロセア(Methylocystis rosea)のメタノバクチン(mb-ロセア)、(h)メチロサイナス属LW3株のメタノバクチン(mb-LW3)、(i)メチロサイナス属LW4株のメタノバクチン(mb-LW4)、(j)メチロシスティス属LW5株(mb-LW5)、(k)メチロサイナス属PW1株のメタノバクチン(mb-PW1)、(l)メチロシスティス・パルバス(Methylocystis parvus)OBBPのメタノバクチン(mb-OBBP)、(m)カプリアビダス・バシレンシス(Cupriavidus basiliensis)B-8のメタノバクチン(mb-B-8)、(n)シュードモナス・エクストリームアウストラリス(Pseudomonas extremaustralis)14-3のメタノバクチン(mb-14-3)、(o)アゾスピリルム(Azospirillum)属B510株のメタノバクチン(mb-B510)、(p)チストレラ・モビリス(Tistrella mobilis)KA081020-065のメタノバクチン(mb-モビリス)、及び(q)コマモナス・コムポスティ(Comamonas composti)DSM21721のメタノバクチン(mb-21721)から選択され得る。
【0014】
本発明の使用のためのメタノバクチンは、銅、特にCu(I)と10-15以下のKで結合すると考えられる。
【0015】
前記メタノバクチンは、Zn(I)及び/又はZn(II)と錯体を形成し得る。
【0016】
さらなる態様では、本発明は、安定化メタノバクチンを含む医薬組成物を提供する。該医薬組成物は、37℃で少なくとも20時間以上安定であり得る。安定化は、a)pH≧9で医薬組成物を提供することによって、並びに/あるいは、Zn(I)及び/又はZn(II)との錯体の形態でメタノバクチンを提供することによって達成され得る。前記の亜鉛:メタノバクチン錯体は、1:1の比のZn(I)及び/又はZn(II)の量とメタノバクチンの量とを水溶液中で接触させることによって調製され得る。本発明の医薬組成物は、ウィルソン病、がん、神経変性疾患、糖尿病、細菌感染症、炎症性疾患、線維症、肝硬変、家族性筋萎縮性側索硬化症、鉛中毒及び/又は水銀中毒をはじめとする、多種多様な疾患を処置するのに有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】LPPラットにおける肝疾患は、破壊的なミトコンドリア内の銅の過負荷によるWD患者における急性肝不全を反映する。(A)疾患を有するLPP-/-ラット(上のパネル)及び急性肝不全を有する未処置のWD患者(下のパネル)における、肝傷害の組織病理学的比較(HE染色)。吸収性炎症を伴う組織壊死並びに修復(線維症)を検出することができ(黒色の矢尻)、胆管の増殖(円)、核大小不同(黒色の矢印)、及びいくつかの炎症性浸潤(白色の矢印)に印が付けられている。挿入図は、アポトーシス(白色の星印)及び風船様腫大した肝細胞を有する小結節(黒色の星印)を示す。スケールバー:100μm。(B)疾患を有するLPP-/-ラット(左の両パネル)及び急性肝不全を有する未処置のWDの肝臓(右の両パネル)におけるミトコンドリア構造の障害。様々なサイズの透明な液胞(星印)、クリステ拡大(矢印)、電子密度の顕著な差、及び分離した内膜と外膜(矢尻)を同定することができる。スケールバー:500nm。(C)LPP-/-ラット及び急性肝不全を有する未処置のWD患者に由来する全肝ホモジネート及び精製された肝ミトコンドリア中の同等な銅の負荷量。対照ヘテロ接合型LPP+/-(N=17);強く上昇した銅を有するが、AST<200U/L、ビリルビン<0.5mg/dlである罹患したLPP-/-(N=13);AST>200U/L、ビリルビン<0.5mg/dlである疾患の発症したLPP-/-(N=8);AST>200U/L、ビリルビン>0.5mg/dlである疾患を有するLPP-/-(N=10)。対照に対して有意、罹患に対して有意、疾患発症に対して有意、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図2】漸増する銅の負荷は、ミトコンドリア膜の完全性を重度に攻撃する。(A)LPP-/-ラットにおける進行性の疾患状態は、正常な構造のミトコンドリアの減少(タイプ1及び2)及び構造の変化したミトコンドリアの増加(タイプ3及び4)に対応する。スケールバー:500nm。対照LPP+/-82~89日間、N=4、n=766;罹患したLPP-/-82~93日間、N=6、n=886;疾患の発症したLPP-/-81~93日間、N=4、n=784;疾患を有するLPP-/-104~107日間、N=5、n=939。N=ラット数、n=分析されたミトコンドリアの数。対照に対して有意、疾患発症に対して有意、p<0.05、**p<0.01。(B)対照ミトコンドリアに対するLPP-/-ミトコンドリアにおける、膜内脂質相(DPH)ではなくタンパク質-脂質界面(TMA-DPH)におけるミトコンドリア膜特性の物理的変化の蛍光偏光法による実証。N=ラット数。n=測定回数。対照に対して有意、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。(C)カルシウム又は銅により誘発されるMPTにより、単離されたLPP+/-ミトコンドリアは大きな振幅の膨潤を受けるが、これは疾患を有するラット及び疾患の発症したラットに由来するLPP-/-ミトコンドリアにおいては有意に減少している。(N=2~3、n=4~6)。対照に対して有意、罹患に対して有意、疾患発症に対して有意、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。(D)カルシウム(100μM)により誘発されるMPTは、Cys-A(5μM)によって効果的に抑制され得る。この遮断効果は、疾患を有するLPP-/-ラット及び疾患の発症したLPP-/-ラットに由来するミトコンドリアにおいては重度に損なわれている。表(左)は平均値及び標準偏差を示し、一方、曲線(右)は1回の例示的な測定を示す。対照に対して有意、罹患に対して有意、疾患発症に対して有意、p<0.05、**p<0.01。(E)LPP-/-ミトコンドリアは、対照ミトコンドリアと比較してより早期の時点でそれらの膜電位を失う。表(左)は平均値及び標準偏差を示し、一方、曲線(右)は1回の例示的な測定を示す。対照に対して有意、罹患に対して有意、疾患発症に対して有意、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図3】肝ミトコンドリア、肝細胞、及び全肝からの、メタノバクチン(MB)により誘導された銅の除去。(A)新たに単離された銅の負荷されたLPP-/-ミトコンドリアからの、銅キレート剤であるD-PA、TETA、及びTTM(各々2mM、30分間のインキュベーション、Co=緩衝液により処置された対照、N=3)による銅の抽出に対する、MBにより誘導された銅の抽出。対照に対して有意、**p<0.01。(B)銅依存性ミトコンドリア呼吸複合体IV活性に対して、TTMを用いて観察された毒性に対する、MBの毒性(MB:N=3、n=9;TTM:N=1、n=3)。緩衝液対照に対して有意、それぞれのMB濃度に対して有意、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。(C)銅の予め負荷されたHepG2(N=3)及びウィルソン病患者由来の肝細胞様(HLC)細胞(2つの独立した実験のうちの1つ)は、MBによって非常に効率的に銅が除去される((+)24時間のMBによる処置、(-)未処置の対照)。未処置対照に対して有意、***p<0.001。(D)2及び24時間後におけるHepG2細胞への用量依存的な細胞内へのMBの取り込み(細胞性タンパク質1mgあたりMBのμgで示される)。(E)TTMと比較したMBの細胞内(HepG2)毒性(N=3、n=9)。ΔΨを消散させるプロトノフォアCCCPは、陽性対照としての役目を果たした。緩衝液対照に対して有意、それぞれのMB濃度に対して有意、**p<0.01、***p<0.001。矢印は、低いΔΨを有する細胞を示す。(F)MB(500μM)により処置されたHepG2細胞は、ミトコンドリア膜電位喪失の中間相のみを示す(250μM CCCP、N=2)。染色は、核(青色)、ΔΨを有するミトコンドリア(オレンジ色-赤色)、及びΔΨを有さないミトコンドリア(緑色)を示す。スケールバー:50μm。(G)2時間のLPP-/-肝灌流時の胆汁への累積的な銅の排出。MB(0.7μM)は、TTM(0.8μM)と比較して、10倍以上の量の銅を胆汁へと押し出す(MB(右、青色の軸)、並びにD-PA、TETA、及びTTM(左、黒色の軸)について尺度が異なることを注意されたい)。D-PA(2.2μM)及びTETA(1.8μM)は銅を胆汁へと押し出さなかった(N=3、Co=クレブスリンガー緩衝液対照)。(H)2時間のLPP-/-肝灌流中における灌流液中の銅の濃度。TTM以外の全てのキレート剤は、銅を灌流液へと輸送する(Gと同様の濃度、N=2)。(I)2時間のLPP-/-肝灌流。MBは、D-PA、TETA、TTM及びクレブスリンガー緩衝液で灌流された対照とは対照的に、肝内の銅含量を有意に減少させる(Gと同様なキレート剤の濃度、N=3)。対照に対して有意、p<0.05。
図4】急性肝不全は、メタノバクチン(MB)を用いての短期間のインビボでの処置によって効率的に回避される。(A)明白な肝傷害の組織病理学的特色の低減が、MBによって3又は5日間処置されたLPP-/-肝において認められたが、D-PA又はTETAによって4日間処置されたものにおいては認められなかった(スケールバー:100μm、HE染色、記号に対する説明文は図1、6と同様である)。1日量は150mg(130μmol)のMB/kg(体重)、100mg(540μmol)のD-PA/kg(体重)、又は480mg(2190μmol)のTETA/kg(体重)であった。(B)未処置のLPP-/-対照(U、N=6)、及びD-PA(8番、9番)又はTETA(10番、11番)により処置されたLPP-/-ラットとは対照的に、MBにより短期間処置されたLPP-/-動物(1~7番)は、顕著に減少し正常に戻ったASTレベルを示した。(C)腹腔内注射時には、MBは、血清中に30分間だけ検出可能であり、このことは、非常に短い全身滞留時間を示す(n=2)。(D)MBにより短期間処置されたLPP-/-ラット(N=3、各々)は、未処置のLPP-/-対照(N=4)及びD-PA又はTETA(N=2、各々)で処置されたLPP-/-ラットとは対照的に、全肝内銅レベルにおいては進行的ではあるが小さな減少を示したが、ミトコンドリア内銅レベルにおいては有意な減少を示した。未処置対照に対して有意、p<0.05。(E)未処置のLPP-/-対照(図2A)及びD-PA又はTETAにより処置されたLPP-/-ラットから単離されたミトコンドリアとは対照的に、重度に障害された構造を有するミトコンドリア(タイプ4)の大きく減少した数が、MBにより短期間処置されたLPP-/-ラットから単離された。(N=2、各々、図9Aにおける定量化、スケールバー:1μm)。
図5】メタノバクチンによる急性肝不全からの防御は、数週間持続する。(A)MBにより短期間処置されたLPP-/-ラットは少なくとも2週間健康であり続け、その後、血清中AST及びビリルビン(示されていない)レベルは再び上昇する。分析時に1匹の動物(1番)は依然として健康であり、2匹の動物(2番、3番)は疾患を有する。(B、C、D)この順で(ラット1~3)、ミトコンドリア内の銅含量は増加するが、全肝内銅含量は増加せず(B)、明白な肝傷害の典型的な組織学的特色の出現頻度は増加し(C)、及びミトコンドリア構造障害の重度は増加(D)する。スケールバー:(C)では100μm、(D)では500nm。
図6】(A)マッソントリクローム染色は、疾患を有するLPP-/-ラット肝において線維症(青色に染色)の兆候を示したが(左パネル)、外植されたWD患者の肝臓においては顕著な線維症を示した(右パネル)。スケールバー:100μm。(B)様々な疾患状態におけるLPPラット肝の組織病理学的分析(HE染色)は、疾患の進行中に漸増している変化を示す(スケールバー:100μm;白色の星印:(様々な段階の)アポトーシス、黒色の矢印:核大小不同、黒色の星印:風船様腫大した肝細胞、白色の矢印:炎症性浸潤物;白色の矢尻:細胞質内凝縮)。(C)Bのような疾患状態に対応するインサイツにおけるLPPラット肝ミトコンドリアの電子顕微鏡写真(スケールバー:500nm)。分離した内膜及び外膜が矢印によって示されている。(D)D-PAによる処置が失敗したWD患者の外植された肝臓における肝傷害。左パネル:HE染色は、肝傷害及び広範囲な線維症という組織病理学的特色を明らかとする(黒色の矢尻、スケールバー:100μm)。中央のパネル:いくつかの領域は比較的インタクトなミトコンドリアを呈し(I)、他はいくつかの構造的障害を示す(II、III、図1B参照、スケールバー:500nm)。右パネル:急性肝不全を有する未処置のWD患者と比較して(図1C参照)、より低い銅総含量が、D-PAによる処置の失敗したWD患者の肝臓に由来する組織ホモジネート及び単離されたミトコンドリアにおいて決定された。
図7】(A)単離された対照ミトコンドリア(LPP+/-)の銅の負荷。ミトコンドリア(4mg/ml)をDTT(1mM)と共にプレインキュベートし、濃(20mM)又は希(2mM)銅ストック溶液を用いてチャレンジし、続いて密度勾配遠心分離によって再精製し、その銅負荷を決定した(N=4)。(B)(A)からの銅の予め負荷されたLPP+/-ミトコンドリアを、銅キレート剤(2mM)と共に30分間インキュベートし、続いて、密度勾配遠心分離によって再精製した。(N=5、対照に対して有意、p<0.05、**p<0.01)。(C)銅依存性ミトコンドリア呼吸複合体IV活性に関する、LPP-/-ミトコンドリアに対するMBの効果と、LPP+/-対照ミトコンドリアに対するMBの効果の比較。(LPP+/-:N=3、n=9、LPP-/-:N=2、n=6、緩衝液対照に対して有意、それぞれのLPP+/-濃度に対して有意、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。(D)MBによる処置は、基礎的な銅の負荷を有するHepG2細胞内の銅の50%の減少を引き起こす(N=3、(+)MBで24時間処置、(-)未処置対照、未処置対照に対して有意、p<0.05)。(E)HepG2細胞に対するヒスチジンの結合した銅の用量依存的毒性(ニュートラルレッド)(N=5;対照に対して有意、p<0.05)。
図8】(A)2時間のLPP-/-肝の灌流中の胆汁流量。3回の独立した実験の平均値が示されている。(B)MBによる2時間のLPP-/-肝の灌流中の胆汁による累積的な銅の排出(N=3)。(C)2時間のLPP-/-肝の灌流中の灌流液中へのLDH及び銅の平行した放出。
図9】(A)図4Eの定量化。未処置LPP-/-動物及びD-PA又はTETAで処置されたLPP-/-動物から単離されたミトコンドリアとは対照的に、重度に障害された構造を有するミトコンドリア(タイプ4)の大きく減少した数が、MBを用いて短期間処置されたLPP-/-動物から単離された(N=ラット数、n=ミトコンドリア数;罹患(A):N=6、n=886;疾患発症(Do):N=4、n=784;3日間 MB:N=2、n=324;5日間 MB:N=2、n=527:D-PA:N=2、n=252;TETA:N=2、n=366)。(B)MBの休薬日後の図5のMBで処置されたLPP-/-ラットに由来するミトコンドリアの呼吸分析。分析時に、依然として健康な動物(1番)由来のミトコンドリアは、対照ミトコンドリアと同じようにインタクトであり(基質としてコハク酸塩を用いた呼吸調節比、RCRs(respiratory control ratio))、一方、2匹の疾患を有する動物(2番、3番)由来のミトコンドリアは損なわれている。(C)金属非含有のMB及びZnの負荷されたMBの2つの準安定なオキサゾロン環の37℃での吸光度測定(394nmにおけるOxaA/ZnA及び340nmにおけるOxaB/ZnB)57による、それらの安定性分析。金属非含有のメタノバクチンとは対照的に、Zn-MBは37℃で時間に対して安定である。(D)未処置(左)及びMBで処置された(右)瀕死のLPP-/-ラットの組織病理学的分析。肝傷害は両方の組織に存在していたが、MBで処置された動物では重度がより低く、このことは肝再生を示す(スケールバー:100μm、HE染色、記号は図1、6と同様)。(E)単離されているか(左)又はインサイツ(右)のいずれかであるDに記載の動物に由来するミトコンドリア。未処置動物とは対照的に、MBで処置されたLPP-/-ラットではほんの小さな構造的変化しか観察されなかった(スケールバー:500nm)。(F)様々な疾患状態におけるLPP-/-ラットから単離されたミトコンドリアの進行的に障害されたATP生成。MBを用いた短期間の処置は、この障害を元に戻す。
図10】様々な適用経路又は処置処方計画は、MBにより誘発されたミトコンドリア内の銅除去をさらに増強させ得る。5×MB(腹腔内)、5×MB(静脈内)のいずれかによる、特に16×MB(腹腔内)(1週間、1日2回)による1週間という短期間の処置は、ミトコンドリア内の銅負荷を劇的に減少させる。
図11】M.トリコスポリウムOB3b(A)(144、155)、メチロシスティス属M株(B)(136)、M.ヒルスタCSC1(C)(136)、M.ロセア(D)(136)及びメチロシスティス属SB2株(E)(135)に由来する完全長mbの化学構造。
図12】Mb前駆体ペプチド。構造的に特徴付けられたmbを有するメタノトローフ由来の公知のゲノム配列を有する細菌において検出された配列は赤色で示され、メタノトローフ由来の公知のゲノム配列を有する細菌において検出された配列は青色で示され、メタノトローフ以外に由来する公知のゲノム配列を有する細菌において検出された配列は緑色で示される。アミノ酸の上の棒は、オキサゾロン基、イミダゾロン基、又はピラジンジオン基へと翻訳後修飾されるか又は翻訳後修飾されることが提唱されるアミノ酸対を示す。略称:メチロサイナス・トリコスポリウムOB3b(mb-OB3b)、メチロサイナス属LW3株(mb-LW3)、LW4(mb-LW4)、PW1(mb-PW1)、メチロシスティス・パルバスOBBP(mb-OBBP)、メチロシスティス・ロセア(mb-ロセア)、メチロシスティスSB2株(mb-SB2)、SC2(mb-SC2)、及びLW5(mb-LW5)、カプリアビダス・バシレンシス(Cupriavidus basiliensis)B-8(mb-B-8)、シュードモナス・エクストリームアウストラリス14-3(mb-14-3)、アゾスピリルム属B510株(mb-B510)、チストレラ・モビリスKA081020-065(mb-モビリス)、並びにコマモナス・コムポスティDSM21721(mb-21721)由来のメタノバクチン。
図13】Mb遺伝子クラスター。メタノトローフであるM.トリコスポリウムOB3b、メチロシスティス属SB2及びメチロシスティス・ロセアの完全ゲノムの遺伝子クラスター。
図14】周期的銅除去期間を用いての周期的処置処方計画。LPP-/-ラットを、1日3回5日間のMB注射(腹腔内)、続いて非処置期間からなる、1回目の処置サイクルにかけた。周期的処置サイクルにより、未処置動物と比較して、ミトコンドリア内及び肝臓内の銅の負荷は顕著に減少し、疾患発症までの時間は2倍に延長された。
図15】メチロシスティスSB2株由来のmb-SB2などの構造的及び化学的に異なるメタノバクチン(MB)ペプチドは、肝細胞ミトコンドリアから銅を除去する上で同じような治療能を示す。メチロシスティスSB2株由来のMB-SB2は、3匹の異なるLPP-/-ラットから新しく単離されたミトコンドリアに対して、D-PAなどの既存の臨床的に認可された銅キレート剤と比較して有望な銅キレート剤として作用する(1mMのD-PA、Ob3b、SB2、30分間のインキュベーション、対照=緩衝液で処置された対照、N=3)。メチロシスティスSB2株由来のMBペプチドmb-SB2は、他のMBペプチド(例えば、メチロサイナス・トリコスポリウムOB3b由来のmb-OB3b)とは構造的及び化学的に逸脱している。
【0018】
詳細な説明
ウィルソン病(WD)は、常染色体劣性遺伝性銅過負荷障害であるが、これは未処置のまま放置した場合には致命的である依然として治癒不可能な疾患である。全体的な治療アプローチは、医学療法又は肝移植のいずれかによる、正常な銅恒常性の回復及び維持である。銅キレート剤(例えば、D-ペニシラミン、トリエンチン、及びテトラチオモリブデート)及び/又は亜鉛塩は現在、WD処置の標準基準を示す。選択された具体的なアプローチに関わらず、処置は、患者の生涯にわたって継続しなければならない。なぜなら、銅の異常な蓄積は、銅含量の少ない食事によって制御することができないからである。重要なことには、医学療法の不履行又は中止は、難治性の肝臓悪化又は神経学的悪化のリスクを伴う。
【0019】
現在利用可能な処置の選択肢は、残念なことに、銅レベルを減少させることに関して低い効力しかなく;さらに、胆汁を介した生理学的な銅の排出を回復させることはできない。重度の副作用と共に、高用量及び反復投与(しばしば1日数回)の必要性により、生活の質がひどく損なわれ、全体的に患者のコンプライアンスは低くなる。
【0020】
さらに、一般的に処方されているWD治療薬は、一旦、例えば診断の遅れ、低いコンプライアンス、又は急速な劇症肝炎に因り、WDが進行肝不全として顕現した場合には、肝機能を回復させることができない。この場合、どれほど固有のリスク及び弊害があっても肝移植が現在依然として、唯一の生存可能な選択肢である。肝移植は正常な胆汁による銅の排出を回復するのに有効であり(それにより疾患の再発を予防する)かつ肝外部位からの銅の除去を促進するが、適切なドナー臓器の慢性的不足並びに手術に伴うかなりの罹患率及び死亡率を考えると、それは、生命を脅かす環境においてのみ処置選択肢として考えられる。
【0021】
したがって、WD処置のための新規な手段及び方法が緊急に必要とされる。本発明の根底にある驚くべき所見は、メタノトローフ由来のカルコフォア(chalkophore)であるメタノバクチンが、驚くほど強力でかつ十分な耐容性を示す銅除去剤であることを示す。意外なことに、本発明者らは、それらの優れた銅結合親和性のために、メタノバクチンは(はるかにより低い効力である他の銅キレート剤とは対照的に)有利には、長期の効果を有する大量の(過剰な)銅の除去のために使用され得、これにより、患者のコンプライアンスは顕著に向上すると予想される新規な処置処方計画が可能となり、その結果、全体的な治療的成功が可能となることを発見した。さらに、本発明者らは、メタノバクチンが、多くの疾患において組織及び臓器の傷害の根底にある酸化的ストレスに対する決定的な原因因子として近年示唆されている、ミトコンドリア内に蓄積された銅を除去することさえできることを発見した。それ故、メタノバクチンは、WDの処置に対してだけでなく、血中、全細胞中、及び/又はその中のミトコンドリア内において上昇した銅レベルに連関している多くの関連性のない疾患にとっても有望な薬剤である。
【0022】
ウィルソン病
ウィルソン病(WD)は、銅を輸送するATPアーゼであるATP7Bにおける突然変異を伴う遺伝性障害であり、その結果、障害され機能的ではないか、又は障害されたATP7Bタンパク質活性がもたらされる。ATP7Bにおける500個を超える突然変異が同定され、その大半が少量の突然変異である。
【0023】
WDは典型的には、胆汁への銅の排出の重度の障害(又はさらには完全な欠如)によって特徴付けられ、その結果、肝内への銅の過負荷、及び最終的には循環中及び/又は中枢神経系への銅の溢流が起こる。
【0024】
過剰な銅による細胞損傷を反映している多種多様な兆候及び症状が、罹患患者に存在し得る。WD患者には多くの種類の肝疾患が認められ得、呈する肝疾患の症状は、生化学的な異常のみを有する無症候性から明白な肝硬変まで非常に多様であり得る。WDはまた、本明細書の何処かに記載されているような急性肝不全として存在する場合もある。他の徴候としては、クームス陽性溶血性貧血、心筋症、及び内分泌機能異常が挙げられる。10代又は20代でより頻度が高い神経学的兆候は多様であり、殆どの場合、振戦、運動失調、及びジストニアを含み、これは基底核の関与する神経病理学的所見と一致する。最も一般的な精神医学的特色は、異常行動(典型的には易怒性又は脱抑制の増加)、人格の変化、不安、及び鬱病である。
【0025】
WDの診断は典型的には、第8回ウィルソン病国際会議(ライプツィヒ、2001)で研究班によって提案され(Ferenci et al. Liver Int. 2003;23(3):139-42)、かつ現在、欧州肝臓学会(EASL)のウィルソン病診療ガイドライン(EASL診療ガイドライン:ウィルソン病、J Hepatol. 2012 Mar;56(3):671-85)に含まれる診断スコアによって反映される、試験の組合せを必要とする。しばしば、カイザー・フライシャー輪及び下限正常値(典型的には0.1g/L又はそれ以下)より50%減少した低い血清中セルロプラスミンの組合せは、診断を確立するのに十分である。カイザー・フライシャー輪は、角膜のデスメ膜への銅の沈着によって引き起こされ、細隙灯検査によって評価され得る。ATP7Bの機能消失、及びその結果としてセルロプラスミン生合成中に銅を取り込めなくなることにより、酵素活性を欠失しかつ急速に分解されるアポタンパク質が分泌され、これは典型的にはWD患者に認められる酵素的に活性なセルロプラスミンの血清中濃度が低いことの原因であり、ひいては、比例して低い血清中総濃度の銅が認められ、ただし重度の肝損傷又は急性肝不全の場合を除き、その場合には、肝臓からの銅の突然の放出に因ってセルロプラスミンに結合していない銅の血清中濃度は高い。
【0026】
EASL診療ガイドライン(同上)による他の重要な診断パラメータとしては、尿中への銅の排出の増加(24時間あたり1.6μmol超、又は小児では24時間あたり0.64μmol超)、セルロプラスミンに結合していない銅(「遊離銅」)レベルが1.6μmol/L超、及び肝実質内の銅含量が4μmol/g(乾燥重量)超が挙げられる。WDの臨床診断を確定するための、ATP7B突然変異についての直接的な遺伝子検査もますます利用可能となっている。
【0027】
特に、本発明によるメタノバクチンによる処置は一般的に、前記の兆候及び症状のいずれかを顕現しているWD用に考えられる。その優れた銅結合親和性に因り、メタノバクチンは、あらゆる病型のWDにも有用であると考えられている。したがって、特記しない限り、「ウィルソン病」又は「WD」という用語は、肝臓の異常及び/又は神経学的異常を提示している急性及び非急性型のWD、乳児期における早期発症型WD、並びに成人における後期発症型WD、以前に処置されたWD及び未処置のWDを含む。有利には、特に本明細書に提供される処置処方計画に従って投与されるメタノバクチンはまた、疾患の最初の症状として急性肝不全を示すWD患者、従来の銅キレート剤療法に対する無応答者、末期肝疾患(ESLD)及び重度の肝不全を呈する患者、並びにSchilsky ML, Ann N Y Acad Sci. 2014 May;1315:45-9によって概説されているような肝不全を伴わない神経学的WD患者をはじめとする、さもなくば肝移植が適応される場合にも有効であると考えられる。該用語によって、イヌを含む非ヒト哺乳動物被験体における関連した銅過負荷疾患も包含される。WDという用語はまた、WDの動物モデル、例えばその肝内銅輸送活性を完全に消失させるATP7B突然変異を有するLPP-/-ラットも含む。
【0028】
一般的に、以前に記載されたいずれかの徴候を呈する患者は、メタノバクチン療法から恩恵を受けると予想される。特に、本明細書に記載の処置処方計画によるメタノバクチン投与の結果としての大量の銅除去の(周期的)処置サイクルは、前記のいずれかの兆候及び症状を呈するWDに対して、有効で、十分な耐容性を示し、患者が遵守する処置選択肢であると予想される。
【0029】
処置処方計画
したがって、第一の態様では、本発明は、被験者におけるウィルソン病の処置法に使用するための銅結合性メタノバクチンを提供し、該処置は、(a)メタノバクチンの投与という第一期、続いて(b)非処置の第二期(第二期は第一期より長い)という処置サイクルを少なくとも1回含む。「非処置」は、メタノバクチンが全く投与されない期間を指す。場合により及び有利には、「非処置」は、他のWD治療薬(特に銅キレート剤)が全く投与されないことを含み得る。驚くべきことには、本明細書に記載のメタノバクチンは、長期の作用を有する、大量の銅の除去の(周期的)処置期を可能とする、極めて効果的かつ十分な耐容性を示す銅除去剤であることが判明した。すなわち、本発明者らは、(当技術分野において公知である銅キレート剤の場合のような)定常的な投与は、WD処置のためにメタノバクチンを使用する場合には必ずしも必要とされず、患者はむしろ、過剰な銅を除去するためにメタノバクチンによる(周期的)処置期、続いて好ましくはWD治療薬の投与を全く必要としない期間を受けることができることを発見した。これは、一生続く高用量での定常的な投与をしばしば必要とする現在公知であるWD治療薬を上回る意義ある利点である。それ故、本発明による処置処方計画は、WD患者の生活の質を顕著に向上させ、それにより、患者のコンプライアンス及び全体的な治療の成功を向上させることが期待される。
【0030】
特に、本発明の処置処方計画の第一期は、連続して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日間又はそれ以上の期間におよび持続すると考えられる。第一期(「銅除去期」)の処置中に、メタノバクチンは、本明細書の何処かで記載されているように、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、隔日、又は連続的に1回量で投与され得る。メタノバクチン投与という第一期の後に、非処置の第二期が続く。有利には、該第二期は、添付の実施例に実証されているようにメタノバクチン投与という第一期より長いとさえ考えられ、したがって、少なくとも1、2、3、4、又は5週間又はさらにはそれ以上続くと予想される。当業者によって容易に認識されているように、第二期の期間は、いくつかの因子、例えば栄養による銅の摂取、体組成、WDの重症度などに依存するだろう。それにも関わらず、少なくとも1週間という非処置の最短期間が、第一期のメタノバクチン投与後に本明細書において考えられる。
【0031】
周期的処置サイクルが考えられ、すなわち、前記されているような数回の処置サイクルが互いに続き得ることが容易に理解されるだろう。具体的には、非処置期の後に処置期(銅除去期)が続き得、続く非処置期の後に、別の銅除去期が続き得、と続いていく。処置サイクルは、間隔を置いて、数週間、数か月間、数年間、又はさらには一生におよび反復され得る。本発明の処置処方計画は、定期的な予防的な銅の除去(すなわち、WDの兆候及び症状が起こる前)、並びに/又は必要に応じて緊急の及び場合により周期的な銅除去処置を提供する。当業者は、いつ本発明によるメタノバクチン処置が適応されるかを容易に評価することができるだろう。
【0032】
急性WD
以前に説明されているように、本発明は、WD患者における(場合により反復)銅除去を可能とする、新規かつ効果的な処置処方計画を提供する。本発明の根底にある別の驚くべき洞察は、メタノバクチンが、今日までに肝移植が実施されなければ必ず致命的であった容態である、急性肝不全(ALF)を呈している急性WDの処置に対して有効であるという事実である。
【0033】
急性WDは、WDの初期症状であり得るか又はWDの処置を停止した場合に起こり得る、急性肝不全(ALF)として顕現しているWDとして本明細書において定義されている。WD療法のために現在使用されている公知の銅キレート剤はこれまで、過剰な銅に十分に結合し除去することにより、ALFを呈するWD患者に見られる肝機能の急速な悪化を治療することができない。これに対し、本明細書に記載のメタノバクチンは驚くべきことに、銅をとても効率的に除去することができるので、ALFとして顕現している急性WDを呈するWD患者でさえも、緊急肝移植を必要とすることなく効果的に処置可能であると考えられることが判明した。
【0034】
急性肝不全は、患者において場合により凝固障害及び肝性脳症を伴う、肝細胞の機能障害の急速な発症(すなわち、最初の肝症状の発症から26週間以内)として定義される。肝性脳症は、高次脳機能障害(例えばグレードIにおいては気分、集中力)から深昏睡(グレードIV)として提示され得る。凝固障害は典型的には、プロトロンビン時間延長(通常、国際標準化比(INR)≧1.5)及び進行的な血小板減少症(全血球数において検出可能)として顕現する。
【0035】
ALFの診断は、理学的検査、臨床検査所見、及び患者の病歴に基づく。臨床検査では、肝機能は、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALP)、γグルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)、総ビリルビン、及び/又はアルブミンレベルを評価すことによって査定され得る。WDに因りALFを有する被験者は、肝不全の発症より前に起こり得るか又は肝損傷と同時に起こり得る、非免疫性(クームス陰性)溶血性貧血を呈することが多い。肝細胞の崩壊により、大量の貯蔵された銅が循環中に放出され得、これにより、「遊離」(セルロプラスミンに結合していない)銅レベルが上昇する。アルカリホスファターゼ(ALP)の相対的な減少及びビリルビンの増加(溶血及び肝機能障害から生じる)に起因する4:1未満のアルカリホスファターゼ(ALP)対ビリルビンの比の増加、2.2:1超のアスパラギン酸トランスアミナーゼ(ALT)対アラニントランスアミナーゼ(ALT)の比、及び血清中銅の典型的には200μg/dLを上回る増加は、急性WDに因るALFを示唆する。このような患者の同定法に関する指針は、とりわけ、Schilsky ML, Ann NY Acad Sci. 2014 May;1315:45-9及びBermann et al. Gastroenterology. 1991 Apr;100(4):1129-34によって提供される。特に、アルカリホスファターゼ(ALP)対ビリルビンの比が4:1超であり、かつ同時にAST対ALTの比が2.2を上回る場合、WDに因るALFが推定され得る。
【0036】
診断は、臨床症状(例えば、強い黄疸)及び従来のWD診断パラメーター(本明細書の何処かで記載されているような、セルロプラスミン、血清、又は尿中の銅)を含む、ウィルソン病を示唆する他の兆候及び症状を評価することによって確定され得る。診断は、肝生検及び/又は以前に記載されているような突然変異分析によって肝内の銅含量を決定することによって確定されなければならない。
【0037】
急性WDの臨床症状は典型的には肝不全から腎不全へと急速に進行し、未処置の場合、緊急肝移植が利用できなければほぼ95%の死亡率がもたらされる。本発明者らは、メタノバクチンを、急性WDの重度の臨床徴候の有効な治療薬として使用することができることを認識した最初の人々であった。メタノバクチンの投与による銅の除去は、急性WD患者における肝移植を陳旧なものとさえし得ると考えられる。メタノバクチンによる急性WDの処置は、本明細書の何処かで記載された処置処方計画に従って、又は当業者が適切であると考える任意の他の処置計画に従って実施され得る。典型的には、急性WDの処置は、十分量のメタノバクチンの投与による大量の銅の除去期を含み、これは、一旦急性WDの兆候及び症状が鎮静すれば;及び/又は臨床検査値が改善すれば終了してもよい。続いて、本発明の処方計画による処置が後に続き得る。
【0038】
メタノバクチン
本明細書の何処かで示されているように、本発明者らは、新規な処置処方計画によるWDの処置のための、及び薬物療法では元に戻すことができないと現在まで考えられてた急性WDの処置のための、安全かつ有効な銅除去剤としてのメタノバクチンの治療能を認識した最初の人々であった。本明細書において使用する「メタノバクチン」又は「mb」という用語は一般的に、細菌、特にメタノトローフ細菌に由来する銅結合性(及びCu(II)還元性)ペプチドを指す。特記しない限り、「銅」は本明細書においてCu(I)及びCu(II)の両方を指すために使用される。天然メタノバクチンは、細胞外培地に分泌されると考えられ、そこで、それらはCu(II)又はCu(I)に結合し銅を細胞内へとシャトルすることによってカルコフォアとして機能する。
【0039】
本明細書において使用する「メタノバクチン」という用語は特に、1つのオキサゾロン環及び第二のオキサゾロン環、イミダゾロン環、又はピラジンジオン環の存在によって特徴付けられる修飾されたペプチドを包含する。2つの環は、2~5アミノ酸残基だけ離れている。各環は、隣接するチオアミド基を有する。構造的には、mbは2つのグループに分類され得、これらは両方共が本発明による使用に考えられる(図11、12)。ある種類(グループI)は、メチロサイナス・トリコスポリウムOB3b由来のmbによって示される。配列類似性及びアラインメントに基づいて、メチロサイナス属LW3株(mb-LW3)、メチロサイナス属LW4株(mb-LW4)、メチロサイナス属PW1株(mb-PW1)、メチロシスティスLW5株(mb-LW5)由来の推定mb、及びメチロシスティス・パルバスOBBP(mb-OBBP(2))由来の2つのmbの中の1つもまた、このグループに該当するだろう(図12)。このグループでは環は4又は5アミノ酸だけ離れ、mbは、環形成に関与していない2つ又はそれ以上のCysを含有している。
【0040】
第二のグループ(グループII)は、メチロシスティスSB2株、ロセア株、及びSC2株由来の構造的に特徴付けられたmbによって示される(図11、12)。このmbグループは、コアペプチドにCysを欠失し、mb-OB3bに見られるジスルフィド結合がないことに因りより小型でおそらくより剛性が低い。このグループでは、環は、2アミノ酸だけ離れている。グループIIのmbの他のメンバーとは対照的に、mb-B-8、mb-14-3、mb-B510及びmb-21721は4つのCysを含有している。しかしながら、Cysの位置に基づいて、本発明者らは、4つ全てのCysは修飾されてヘテロ環になっていると予測する。このグループの構造的に特徴付けられたメンバーに由来するmbは、Ser2の骨格アミドと水素結合を作ることによって堅固な屈曲の形成を補助し得る、硫酸基を含有している。硫酸基はまた、Cu2+/1+に対する親和性も高める(El Ghazouani et al., 2012. Proc. Nat. Acad.Sc. 109: 8400)。C末端環に隣接する保存されたT/Sは、このグループの他のメンバーも硫酸基を含有することを示唆する。
【0041】
M.トリコスポリウムOB3b内の推定mb前駆体に一致する配列のゲノム領域は、多くの明確に異なりかつ際立った特色を有することが発見された(図13)。これらは、(a)前駆体ペプチドの翻訳修飾されたペプチド;(b)分泌を示唆する、リーダーペプチドとコアペプチドとの間の可能性ある切断部位;(c)mb前駆体配列の成熟、輸送、及びmb生合成の調節において可能性ある役割と適合性である、タンパク質配列をコードしているmb遺伝子クラスターの上流及び下流の遺伝子、を含む。この初期の研究の精巧化により、例えば、メチロシスティス・パルバスOBBP、メチロサイナス属LW3、並びにメタノトローフではないアゾスピリルム属B510、アゾスピリルム属B506、シュードモナス・エクストリームアウストラリス、シュードモナス・エクストリームアウストラリス亜株ラウモンディイ(laumondii)TT01、チストレラ・モビリス(Tistrella mobilis)、グルコナセトバクター属SXCC、グルコナセトバクター・オボエディエンス(Gluconacetobacter oboediens)、メチロバクテリウム属B34、カプリアビダス・バシレンシス(Cupriavidus basilensis)B-8、フォトラダブス・ルミネセンス(Photorhabdus luminescens)、及びビブリオ・カリベンチクス(Vibrio caribbenthicus)BAA-2122において、M.トリコスポリウムOB3b mb遺伝子クラスターのそれと一致する特徴を有する遺伝子クラスターを含有している一連のゲノムが判明した。
【0042】
現在、公知の機能を有するメチロサイナス・トリコスポリウムOB3b mb遺伝子クラスター内の唯一の遺伝子は、mb-OB3bの構造遺伝子であるMbnA、及びCu-mb-OB3bの取り込みに関与しているTonB輸送体(MbnT)である(Semrau et al.、非公表の結果)。チトクロムcペルオキシダーゼMbnH、及びメタノトローフ遺伝子クラスターMbnF内にMbnHの代わりに又は時にはそれに加えて存在するFAD依存性酸化還元酵素は、環形成に必要とされる酸化工程に関与する候補の可能性が高い。さらに、mb-OB3b遺伝子クラスターには見られるがmb-SB2遺伝子クラスターには見られないアミノトランスフェラーゼMbnNは、N末端ケト-イソプロピル基の形成に関与し得、mb-SB2及びmb-ロセア遺伝子クラスターには見られるがmb-OB3b遺伝子クラスターには見られないスルホトランスフェラーゼMbnSは、トレオニンのスルホン化を触媒し得る。1つの他の遺伝子産物である多剤及び毒素押出(MATE)タンパク質が、成熟したmbの分泌に関与していることが示唆されている。
【0043】
一般的に、本発明は、mb遺伝子、好ましくはメチロサイナス・トリコスポリウムOB3b mb遺伝子又はその変異体又はそのオルソログによってコードされるメタノバクチンを包含する。核酸配列に関する「変異体」という用語は、多形、すなわち、該変異体が由来する「親」核酸配列と比較した、それぞれ、1つ以上のヌクレオチドの変化、欠失、又は挿入を指す。「オルソログ」又はオルソロガスな遺伝子は、種分化によって共通の先祖遺伝子から進化した異なる種における遺伝子である。本明細書において使用する変異体又はオルソログは、添付の実施例で評価されたmbと同じ有利な特性を好ましくは示す銅結合性メタノバクチンをコードする。mb-OB3b遺伝子の変異体又はオルソログは、mb遺伝子に対して少なくとも約60%、例えば少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一率を有する核酸配列を含む又はからなると予想される。
【0044】
mb OB3b遺伝子、その変異体、又はそのオルソログは、UniProtアクセッション番号E3YBA4(2015年6月24日のエントリバージョン15番)を有しかつ配列番号1に示されているような公知のmb-OB3b前駆体ペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも約60%、例えば少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一率を有するアミノ酸配列を含む又はからなるmb前駆体ペプチドをコードすると予想される(図12)。特に、より詳細に以下に記載されているように、mb OB3b遺伝子は、存在し得る切断部位によって分離されている、リーダーペプチド及びコアペプチドを含む、前駆体ペプチドをコードすることが判明した。全体の前駆体ペプチドに対する好ましい配列同一率%は上記に示されている。さらに、コードされている(すなわち翻訳修飾されていない)メタノバクチン(すなわちコアペプチド)は、配列番号1に示されるような公知のmb-OB3bコア前駆体ペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも約60%、例えば少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一率を有するアミノ酸配列を含む又はからなると予想される(図12)。
【0045】
一般的に、「配列同一率」という用語は、2つ(ヌクレオチド又はアミノ酸)の配列がアラインメントにおける同じ位置において同一の残基を有する程度を示し、しばしば百分率として表現される。好ましくは、同一率は、比較される配列の全長にわたり決定される。したがって、正確に同じ配列を有する2つのコピーは100%の同一率を有するが、あまり高度に保存されておらず、かつ欠失、付加、又は置換を有する配列は、より低い同一度を有し得る。当業者は、いくつかのアルゴリズムが、標準的なパラメーター、例えばBlast(Altschul, et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)、Blast2(Altschul, et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410)、スミス・ウォーターマン(Smith, et al. (1981) J. Mol. Biol. 147:195-197)、及びClustalWを使用して配列同一率を決定するために利用することができることを認識しているだろう。したがって、例えば、配列番号1のアミノ酸配列は「サブジェクト配列」又は「基準配列」としての役目を果たし得、一方、それとは異なるポリペプチド又はポリヌクレオチドのアミノ酸配列又は核酸配列は「クエリ配列」としての役目を果たし得る。
【0046】
銅に対する高い親和性は、メタノバクチンの一般的な特色である。それ故、本発明のメタノバクチンは、銅、具体的にはCu(I)に高い結合親和性で結合すると予想される。「親和性」又は「結合親和性」という用語は、Cu(I)に対するメタノバクチンなどのリガンドの結合強度を指す。所与のリガンドのその標的に対する結合親和性はしばしば、会合定数(kon)及び解離定数(koff)を測定し、konに対するkoffの割合を計算することにより決定され、これにより平衡解離定数K(K=koff/kon)が得られ、これは結合親和性に逆相関し、すなわち、K値が低ければ低いほど、結合親和性は高くなる。本発明の好ましいメタノバクチンは、Cu(I)にナノモル範囲の、すなわち10-7、10-8、10-9、ピコモル範囲の、すなわち10-10、10-11、10-12、又はフェムトモル範囲の、すなわち10-13、10-14、10-15の平衡解離定数又はKで結合する。好ましくは、本発明のメタノバクチンは、Cu(I)にフェムトモル範囲のKで結合し、特に10-15又はそれ以下のKでCu(I)に結合すると予想される。mbの金属結合親和性定数を決定するために多くの異なる方法が使用されている。全ての測定法が、約1021-1又はそれ以上のCu(II)/(I)及びCu(I)親和性を示し、生物学的系について知られている最も高いもののうちの1つである。この提案に関して、mb-OB3bは、インビトロ及びインビボの両方の実験においてメタロチオネインからCuを除去することが示された。Mbは、嫌気的条件下で不溶形のCu(I)を可溶化しかつ結合し、銅鉱物、腐植質材料、及びガラスからCuを抽出することが示されている。銅(Cu(I))結合親和性は例えば、競合リガンド、すなわちジチオトレイトール(DTT)又はジエチル-ジチオ-カルバメート(DETC)の漸増濃度において金属化されたCu(I)結合性リガンド/金属化されていないCu(I)結合性リガンド比の変化の同時モニタリングに依拠する、Banci et al.(Nature. 2010 Jun 3;465(7298):645-8)のESI-MSアプローチに従って測定され得る。あるいは、Cu(I)結合親和性は例えば、El Ghazoiani A et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 May 29;109(22):8400-4によって記載されているような発色性銅キレート剤であるバソクプロインジスルホン酸塩(BCS)を用いての競合的滴定から決定され得る。この方法を用いてCu(I)結合親和性を測定すると、本発明によって包含されるメタノバクチンはまた、10-15又はそれ以下、例えば10-16、10-17、10-18、10-19、10-20、10-21又はそれ以下のKを示すだろう。
【0047】
本明細書で以前に示されているように、高い銅結合親和性を示す(かつ10-15又はそれ以下のKでCu(I)に結合する、「高親和性mb」)メタノバクチンは特に、本発明による使用のために、特に(急性)WD療法における大量の銅除去のために考えられる。しかしながら、より高いKを有する(すなわちより低い親和性でCu(I)に結合する)メタノバクチンもまた、様々な疾患の処置に成功裡に使用され得る。例えば、あまり徹底的ではない及び/又はあまり迅速ではない銅除去が望ましい場合、Cu(I)に対してより低い結合親和性を有するメタノバクチン(「低親和性mb」)を利用することができる。また、処置のために異なるCu(I)結合親和性を有するメタノバクチンを組み合わせることも考えられる。例えば、患者からの徹底的な銅の除去のための高親和性mbを用いての1回以上の処置サイクルの後に、過度に銅を除去することなく銅レベルを低く保つための維持療法のための低親和性mbを用いる1回以上の処置サイクルが続き得る。逆に、処置はまた、低親和性mbを用いて開始し、1回以上の処置サイクル後に、場合により次第により高いCu(I)結合親和性を有するmbを使用して継続してもよい。
【0048】
「メタノバクチン」という用語は、天然メタノバクチン、並びに銅(すなわちCu(I)及びCu(II))との錯体形成能を保持し、好ましくは天然メタノバクチンと同等か又はさらにはそれよりも高い結合親和性でCu(I)に結合する、その機能的変異体、その断片、及びその誘導体を含む。
【0049】
以前に示されているように、本発明のメタノバクチンは、メチロシスティス属、メチロサイナス属、メチロマイクロビウム属、及びメチロコッカス属を含む、図12に列挙された細菌に由来し得る。特に、メタノバクチンは、(a)メチロサイナス・トリコスポリウムOB3bのメタノバクチン(mb-OB3b)、(b)メチロシスティスSB2株のメタノバクチン(mb-SB2)、(c)メチロコッカス・カプスラタスBathのメタノバクチン(mb-Bath)、(d)メチロマイクロビウム・アルブムBG8のメタノバクチン(mb-BG8)、(e)メチロシスティスM株のメタノバクチン、(f)メチロシスティス・ヒルスタCSC1のメタノバクチン、及び(g)メチロシスティス・ロセアのメタノバクチン(mb-ロセア)、(h)メチロサイナス属LW3株のメタノバクチン(mb-LW3)、(i)メチロサイナス属LW4株のメタノバクチン(mb-LW4)、(j)メチロシスティス属LW5株(mb-LW5)、(k)メチロサイナス属PW1株のメタノバクチン(mb-PW1)、(l)メチロシスティス・パルバスOBBPのメタノバクチン(mb-OBBP)、(m)カプリアビダス・バシレンシスB-8のメタノバクチン(mb-B-8)、(n)シュードモナス・エクストリームアウストラリス14-3のメタノバクチン(mb-14-3)、(o)アゾスピリルム属B510株のメタノバクチン(mb-B510)、(p)チストレラ・モビリスKA081020-065(mb-モビリス)のメタノバクチン、及び(q)コマモナス・コムポスティDSM21721のメタノバクチン(mb-21721)から選択され得る。
【0050】
本発明による使用のために選択されるメタノバクチンは好ましくは、添付の実施例において評価され及び/又は本明細書の何処かに記載されているようなmbと同じ有益な特性を有する。
【0051】
一般的に、本発明のメタノバクチンは、以下の一般式(I):
-(X)2~5-R(I)
(式中、
及びRは各々、Nを含みかつエネチオレートに結合している5員ヘテロ環であり;
各Xは、独立して任意のアミノ酸から選択される)
を含み得るか又はからなり得る。
【0052】
「アミノ酸」又は「アミノ酸残基」という用語は典型的には、アラニン(Ala又はA);アルギニン(Arg又はR);アスパラギン(Asn又はN);アスパラギン酸(Asp又はD);システイン(Cys又はC);グルタミン(Gln又はQ);グルタミン酸(Glu又はE);グリシン(Gly又はG);ヒスチジン(His又はH);イソロイシン(Ile又はI);ロイシン(Leu又はL);リジン(Lys又はK);メチオニン(Met又はM);フェニルアラニン(Phe又はF);プロリン(Pro又はP);セリン(Ser又はS);トレオニン(Thr又はT);トリプトファン(Trp又はW);チロシン(Tyr又はY);及びバリン(Val又はV)からなる群より選択されるアミノ酸などのその認められている定義を有するアミノ酸を指すが、修飾されたアミノ酸、合成アミノ酸、又は希少なアミノ酸も所望であれば使用され得る。一般的に、アミノ酸は、非極性側鎖(例えばAla、Ile、Leu、Met、Gly、Phe、Pro、Val);負に荷電した側鎖(例えばAsp、Glu);正に荷電した側鎖(例えばArg、His、Lys);又は非荷電で極性の側鎖(例えばAsn、Cys、Gln、Ser、Thr、Trp、及びTyr)を有するとして分類され得る。該用語は、天然アミノ酸及び合成アミノ酸、並びに、天然アミノ酸と同じように機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体も包含する。天然アミノ酸は、遺伝子コードによってコードされるアミノ酸、並びに、後に修飾されたアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、及びO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基に結合した炭素を有する化合物、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。このような類似体は、修飾されたR基(例えばノルロイシン)又は修飾されたペプチド骨格を有するが、天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造を保持している。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と同じように機能する化合物を指す。
【0053】
特に、メタノバクチンがmb-OB3bである場合、式(II)
GSCYRSCM(II)
(式中、
は、(N-2-イソプロピルエステル-(4-チオニル-5-ヒドロキシ-イミダゾール)及びN-2-イソプロピルエステル-(4-チオカルボニル-5-ヒドロキシ-イミダゾレート)から選択され、Rはピロリジン-(4-ヒドロキシ-5-チオニル-イミダゾール)及びピロリジン-(4-ヒドロキシ-5-チオカルボニル-イミダゾレートから選択される)
を含むか又はからなると考えられる。該mb-OB3bは特に、式(IV):
【化1】

を含み得るか又はからなり得る。
【0054】
亜鉛又は銅と錯体を形成する場合、前記mb-OB3bは以下の構造(VI)
【化2】

(式中、
Yは銅(Cu(I)又はCu(II))又は亜鉛(Zn(I)又はZn(II))から選択される)
を有すると予想される。
【0055】
メタノバクチンがmb-SB2である場合、それは式(III)
ASRAA(III)
(式中、
は、4-グアニジノブタノイル-イミダゾールであり、Rは1-アミノ-2-ヒドロキシ-オキサゾロンである)
であると予想される。
【0056】
前記mb-SB2は特に、式(V):
【化3】

であり得る。
【0057】
亜鉛又は銅と錯体を形成する場合、前記mb-SB2は、以下の構造(VII):
【化4】

(式中、
Yは、銅(Cu(I)又はCu(II))又は亜鉛(Zn(I)又はZn(II))から選択される)
を有すると予想される。
【0058】
メチルシスティスSB2株に由来するこの特定のMBペプチドmb-SB2は、D-PAなどの既存の臨床的に認可されている銅キレート剤と比較して、有望な銅キレート剤として最も効果的に作用する。mb-SB2は、上記のようなメチロサイナス・トリコスポリウムOB3bに由来する別のMBペプチドmb-OB3bと少なくとも同じぐらい効果的に銅を除去さえする。
【0059】
メチロシスティスSB2株に由来するMBペプチドmb-SB2は、他のMBペプチドとは、特にメチロサイナス・トリコスポリウムOB3bに由来するmb-OB3bとは構造的及び化学的に逸脱している。しかし、MBファミリー内の構造的に異なりかつあまり重くないペプチドは、銅キレート剤と同じような治療能を示す。
【0060】
本明細書において使用する「錯体を形成している」及び「結合している」という用語は互換的に使用され、すなわち、例えば銅に「結合している」メタノバクチンは、銅と「錯体を形成している」メタノバクチンと理解され、また逆も同様である。「錯体を形成している」という用語は一般的に、中心イオンと、リガンド又は錯化剤として知られる周辺の一連の分子とからなる錯体の形成を意味する。本発明では、中心イオンは、銅(すなわちCu(I)又はCu(II))、又は亜鉛(すなわちZn(I)又はZn(II))であり、リガンドはメタノバクチンであろう。あるメタノバクチンは典型的には、1つの銅又は亜鉛イオンと錯体を形成して、メタノバクチン-銅錯体又はメタノバクチン-亜鉛錯体をそれぞれ形成するだろう。当業者は、メタノバクチン-銅錯体が典型的には、被験者にメタノバクチンが投与された後、メタノバクチンが錯体を形成した場合に形成され、それにより被験者の体内の(過剰な)銅を除去するであろうことを容易に理解するだろう。メタノバクチン-亜鉛錯体は、本明細書において以下に記載のような安定化形のメタノバクチンであると予想される。
【0061】
本明細書の何処かで示されているように、メタノバクチンの断片、変異体、及び誘導体も、本明細書に記載の使用に考えられる。
【0062】
「メタノバクチンの断片」は、それらが由来する「親」メタノバクチンの銅結合性領域を保持する、「機能的な」又は「銅結合性」ペプチドである。例えば、神経学的WD又はCNSにおける銅の過負荷に関連した他の容態を効果的に処置するために血液脳関門を通過することができる特に小型のメタノバクチン断片を提供することが予想される。
【0063】
「メタノバクチンの変異体」という用語は、「親」メタノバクチンの一般的なメタノバクチンの式(図12)を有するが、親メタノバクチンと比較して少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、又は挿入を含有しているメタノバクチンを指し、ただし、該変異体は、本明細書に記載の望ましい銅結合親和性及び/又は生物学的活性を保持している。
【0064】
「メタノバクチン誘導体」は、化学的に修飾されたメタノバクチンである。一般的に、メタノバクチンの有益な効果を消失しない限り、全種類の修飾が、本発明によって含まれる。すなわち、メタノバクチン誘導体は好ましくは、それらが由来するメタノバクチンの銅結合親和性及び/又は生物学的活性を保持している。メタノバクチン誘導体はまた、以下に記載のような安定化メタノバクチンも含む。
【0065】
本発明の脈絡における起こり得る化学的修飾としては、アミノ酸残基のアシル化、アセチル化、又はアミド化が挙げられる。他の適切な修飾としては、例えば、様々な長さのポリマー鎖を用いてのアミノ基の伸長(例えばXTEN技術又はPAS化(登録商標))、N-グリコシル化、O-グリコシル化、及びヒドロキシエチルスターチ(例えばHES化(登録商標))又はポリシアル酸(例えばPolyXen(登録商標)技術)などの糖鎖の化学反応によるコンジュゲーションが挙げられる。アルキル化(例えばメチル化、プロピル化、ブチル化)、アリール化、及びエーテル化などの化学的修飾が可能であり得、これもまた考えられる。本明細書において考えられるさらなる化学的修飾は、ユビキチン化、治療剤又は診断剤へのコンジュゲーション、標識化(例えば放射性核種又は様々な酵素を用いての)、及び非天然アミノ酸の化学合成による挿入又は置換である。
【0066】
他の可能な修飾は、オキサゾロン基を、より安定なイミダゾロン基又はピラジンジオン基で置換することを含み得る。グループIIのメタノバクチンのオペロンからグループIへの遺伝子の付加及び/又は遺伝子の欠失あるいはその逆により変化がもたらされ、これにより環の種類の変化が起こり得る。オキサゾロン基(群)をイミダゾロン基(群)又はピラジンジオン基(群)で置換することにより、経口投与が可能となり得る時点までメタノバクチンの安定性は増加するだろう。
【0067】
本発明の目的のために、上記に定義されているようなメタノバクチンはまた、薬学的に許容されるその塩(群)も含む。本明細書において使用する「薬学的に許容される塩(群)」という語句は、処置に対して安全でかつ効果的であるメタノバクチンの塩を意味する。薬学的に許容される塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コリンなどに由来する塩などの陰イオンを用いて形成された塩、及び、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来する塩などの陽イオンを用いて形成された塩を含む。
【0068】
以前に示されているように、メタノバクチンの断片、変異体及び誘導体は好ましくは、添付の実施例で評価されたメタノバクチンの有益な能力を保持している。
【0069】
生物学的効果
以前に説明されているように、本発明によるメタノバクチンは、本明細書に記載のような望ましい生物学的効果を誘発すると予想され、すなわち、それらは好ましくは高い結合親和性で銅に結合することができ、系からの銅の除去及び好ましくは胆汁を介したその排出を奏功することができる。特定の理論に固定したくはないが、本発明者らは、増加した銅負荷量に因るミトコンドリア障害が、WDモデルであるLPP-/-ラット由来の肝臓における疾患状態と共に次第に増加することを確立した。添付の実施例に示されているように、メタノバクチンは、ミトコンドリア内及び肝細胞内の銅を急速に除去することができる。本明細書に記載のようなメタノバクチンは好ましくは、同じ有益な特徴を示すと予想される。
【0070】
したがって、メタノバクチンは、ウィルソン病の処置の使用に考えられ、該処置は、(i)全肝内銅レベル、(ii)全肝細胞内銅レベル、及び/又は(iii)肝細胞ミトコンドリア内銅レベルを減少させる。さらに、メタノバクチンは好ましくは、胆汁を介した(過剰な)銅の排出を奏功する。
【0071】
治療効果
メタノバクチンのそれを必要とする被験者(特にWD患者)への投与は、治療効果を誘発することが期待される。本明細書において使用する「治療効果」という用語は一般的に、処置の望ましい影響又は有益な影響、例えば、疾患徴候の寛解又は緩解を指す。疾患の「徴候」という用語は本明細書においてその知覚できる表出を説明するために使用され、これは、理化学的検査中に検出され得る及び/又は患者によって知覚され得る疾患のしるし(すなわち症状)として本明細書で以後に定義される臨床徴候、並びに、細胞レベル及び分子レベルで疾患の表出を意味する病理学的徴候の両方を含む。WD徴候の寛解又は緩解は、WDの診断について記載されているのと同じ試験を使用することによって評価され得る。さらに又は代替的には、それぞれの患者の一般的な外見(例えば体力、健康)を評価することも可能であり、これはまた、治療効果が誘発されたかどうかを当業者が評価することを助けるだろう。当業者は、本発明の化合物の治療効果を観察するのに適した数多くの他の方法を知っているだろう。
【0072】
安定化されたメタノバクチン
さらなる態様では、本発明者らは、安定化形のメタノバクチンを提供する方法を発見した。
【0073】
特定の理論で固めたくはないが、mb-OB3bは、時間依存的及び/又は温度依存的な崩壊を受けやすいことが発見された。したがって、処置中(及び処置後)に被験者の体内においてメタノバクチンの延長された生物学的半減期及び/又は上昇した血漿中濃度を可能とし、それ故、好ましくは治療効力を向上させかつメタノバクチンによる処置の長期効果を提供するために、安定化形のメタノバクチンを提供することが考えられる。一般的に、メタノバクチンの安定化を可能とする任意の形の化学的修飾が考えられ得る(またメタノバクチン誘導体を参照)。具体的には、本発明は、亜鉛、すなわちZn(I)又はZn(II)と錯体を形成している安定化形のメタノバクチンを提供する。特記しない限り、「亜鉛」という用語は一般的に、Zn(I)及び/又はZn(II)を指す。さらに、本発明者らは、メタノバクチンが、pH≧9で提供された場合に安定化され得ることを見い出した。したがって、本発明の使用及び方法のために、安定化形のメタノバクチン、すなわち、Zn(I)又はZn(II)と錯体を形成している及び/又はpH9、10、若しくは11で提供されているメタノバクチンを提供することが考えられる。特に、このような安定化形のメタノバクチンは、本明細書の何処かで示される処置処方計画によるWDの処置のために、及び/又は急性期WDの処置のために使用され得る。本明細書に記載のような安定化形のメタノバクチンは、以前には医薬として使用されていなかった。したがって、本発明はまた、安定化メタノバクチンを含む医薬組成物を含み、該メタノバクチンはZn(I)及び/又はZn(II)と錯体を形成し、並びに/あるいはpH≧9で提供される。当業者は、メタノバクチンが安定化の理由でpH≧9で提供された場合に、メタノバクチン(場合により亜鉛と錯体を形成している)を含む医薬組成物もpH≧9を有することが必要とされることを容易に理解するだろう。
【0074】
Zn(I)又はZn(II)と錯体を形成しているメタノバクチンを含む医薬組成物は、1:1比のZn(I)及び/又はZn(II)の量とメタノバクチンの量とを水溶液中で接触させることによって提供され得る。医薬組成物中における過剰量の遊離亜鉛イオンを避けるために、等モル量の亜鉛及びメタノバクチンの使用が有益であり得る。
【0075】
医薬組成物
前記に示されているように、メタノバクチン、特に安定化形のメタノバクチンを含む医薬組成物も本明細書において考えられる。特に、該医薬組成物は、ウィルソン病の処置の使用のために考えられ、該処置は(i)全肝内の銅レベル、(ii)全肝細胞内の銅レベル、及び/又は(iii)肝細胞ミトコンドリア内の銅レベルを減少させる。すなわち、医薬組成物は好ましくは、Zn(I)又はZn(II)と錯体を形成しているメタノバクチンを含み、並びに/あるいはpH≧9で提供される。該組成物は37℃で少なくとも20、50、75、100、125、150時間又はそれ以上安定であり得る。したがって、本発明のさらなる態様は、本明細書に記載のような(特に、安定化された)メタノバクチンを含む医薬組成物、及び医薬組成物の製造のための該(安定化)メタノバクチンの使用を含む。「医薬組成物」という用語は特に、ヒトへの投与に適した組成物を指す。しかしながら、非ヒト動物への投与に適した組成物も本明細書において考えられる。
【0076】
医薬組成物及びその成分(すなわち、活性成分及び場合により賦形剤又は担体)は好ましくは薬学的に許容可能であり、すなわち、レシピエントにおいて望ましくない局所的又は全身的な作用を全く引き起こすことなく所望の治療効果を誘発することができる。本発明の薬学的に許容される組成物は特に、無菌及び/又は薬学的に不活性であり得る。具体的には、「薬学的に許容される」という用語は、動物、より特定するとヒトにおける使用のために規制当局又は他の一般的に認められている薬局方によって認可されていることを意味し得る。
【0077】
本明細書に記載の「安定化」メタノバクチンは好ましくは、治療有効量で医薬組成物中に存在する。「治療有効量」によって、所望の治療効果を誘発するメタノバクチンの量を意味する。正確な用量は処置の目的に依存し、公知の技術を使用して当業者によって確認可能であるだろう。治療有効性及び毒性、例えばED50(個体群の50%に対して治療的に有効な用量)及びLD50(個体群の50%に対して致死的な用量)は、細胞培養液又は実験動物における標準的な薬学的手順によって決定され得る。治療効果と毒性作用の間の用量比は治療指数であり、それはED50/LD50の比として表現され得る。大きな治療指数を示す医薬組成物が一般的に好ましい。
【0078】
医薬組成物は、本明細書に記載のような特に安定化形のメタノバクチンを、好ましくは治療有効量で、場合により1つ以上の担体、賦形剤、及び/又は追加の活性物質と共に含むと考えられる。
【0079】
「賦形剤」としては、充填剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、吸着剤、粘着防止剤、潤滑剤、保存剤、抗酸化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、溶媒、共溶媒、緩衝化剤、キレート剤、粘度付与剤、表面活性剤、希釈剤、湿潤剤、担体、希釈剤、保存剤、乳化剤、安定化剤、及び等張修飾剤が挙げられる。本発明の医薬組成物に使用するのに例示的な適切な担体としては、食塩水、緩衝化食塩水、デキストロース、及び水が挙げられる。
【0080】
追加の活性物質
医薬組成物はまた、関心のある特定の疾患の処置に有効であるさらなる活性物質を含み得る。例えば、WDの処置に現在使用されている活性物質としては、銅キレート剤であるd-ペニシラミン(D-PA)、トリエンチン(TETA)及びテトラチオモリブデート(TTM)並びに亜鉛塩が挙げられる。がんの処置のために有用な追加の活性物質としては、公知の化学療法剤、例えばアルキル化剤、代謝拮抗剤、微小管阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤;細胞傷害性抗生物質、及びモノクローナル抗体が挙げられる。神経変性障害の処置のための活性物質としては、レボドパ及びその誘導体、ドーパミンアゴニスト、MAO-B阻害剤、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤、抗コリン作動剤、アマンタジン、コリンエステラーゼ阻害剤、メマンチン、及びリルゾールが挙げられるがこれらに限定されない。特定の疾患の処置のために適切な追加の薬剤を選択することは、当業者の知識範囲内である。
【0081】
製剤
本発明の医薬組成物は、様々な剤形で、例えば固形剤形、液体剤形、気体剤形、若しくは凍結乾燥剤形で製剤化され得、とりわけ、軟膏剤、クリーム剤、経皮パッチ、ゲル剤、散剤、錠剤、溶液剤、エアゾール、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳化剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、若しくは流エキス剤の剤形で、又は所望の投与法に特に適した剤形であり得る。医薬品を生産するためのそれ自体公知のプロセスは、Forth, Henschler, Rummel (1996) Allgemeine und spezielle Pharmakologie und Toxikologie, Urban & Fischerに示されている。
【0082】
投与
様々な経路が、本発明によるメタノバクチン及び医薬組成物の投与に考えられ得る。典型的には、投与は、非経口的に成し遂げられるが、経口投与も考えられる。非経口送達法としては、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、くも膜下腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、子宮内、膣内、舌下、又は鼻腔内の投与が挙げられる。
【0083】
がん処置
本明細書に開示されたメタノバクチン及び医薬組成物はまた、様々ながんの処置にも考えられる。多くのがん種は、増加した腫瘍内の銅及び/又は変化した銅の全身分布を示す。銅は、増殖、血管新生、及び転移をはじめとする腫瘍進行の多くの局面における限定要因としての役目を果たすと認識されている。したがって、本明細書に記載のメタノバクチン及び医薬組成物は、これらの過程を阻害する有望なツールである。
【0084】
Denoyer et al., Metallomics. 2015 Nov 4;7(11):1459-76によって概説されているように、高い血清中銅濃度は報告によると、リンパ腫、細網肉腫、気管支原性及び喉頭扁平上皮細胞癌、子宮頸癌、乳癌、胃癌、及び肺癌をはじめとする様々ながんに関連し、上昇した血清中銅は、結腸直腸癌及び乳癌、並びに、血液学的悪性疾患、例えば慢性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、及びホジキンリンパ腫における疾患の段階及びその進行に相関することが判明した。悪性組織内の上昇した銅はまた、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、胃癌、及び白血病をはじめとする、一連のがん種においても確立されている。がん発生及び進行における銅の役割は依然として解明されていない。酸化還元活性を有する上昇したレベルの銅は、酸化的ストレス及び慢性炎症をもたらし得、これは本質的に細胞の悪性形質転換に関連している。それ故、組織又は血清中の上昇した銅は、発癌のリスク因子であり得ると提唱されている。本明細書に記載のメタノバクチン及び医薬組成物を使用して、全体的な銅レベルを減少させ、これにより癌を発生するリスクを最小限にすることができた。
【0085】
銅はまた、血管新生誘導応答を誘発する様々な分子経路に影響を及ぼすことが報告されている。銅は、血管新生増殖因子に直接結合することができ、NFκBの活性化を介してそれらの分泌及び発現に影響を及ぼすことができる。さらに、銅は、癌細胞の侵入能及び転移能に直接影響を及ぼすことが判明した。
【0086】
Papa et al., Genes Cancer. 2014 Apr;5(1-2):15-21はさらに、ミトコンドリアマトリックスの抗酸化機構の脱調節によって引き起こされる上昇したレベルの活性酸素種(ROS)に対処するために、銅依存性ジスムターゼSOD1が多くの癌において過剰発現されていることを報告した。銅の除去は、全体的なSOD1活性を減少させ、これにより腫瘍細胞の増殖及び生存を低減させると考えられる。したがって、本明細書に記載のメタノバクチン及び医薬組成物はまた、SOD1を過剰発現するがんの処置にも考えられる。
【0087】
公知の銅キレート剤(例えばD-PA)は、血管新生を制御する能力、したがって、推論によって、癌の増殖及び転移を障害するそれらの能力について研究されている。しかしながら、本明細書に記載のメタノバクチン及び医薬組成物は、以前、がん処置については解明されていない。それ故、さらに本明細書において、細網肉腫、気管支原性及び喉頭扁平上皮細胞癌、子宮頸癌、乳癌、結腸直腸癌、胃癌、肺癌、肝臓癌、前立腺癌、脳癌、慢性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、及びホジキンリンパ腫を含むがこれらに限定されない様々ながんの処置のための本明細書に記載のメタノバクチン及び医薬組成物の使用が提供される。
【0088】
神経変性障害
タンパク質凝集は、パーキンソン病、アルツハイマー病、プリオン病、例えばクロイツフェルトヤコブ病(CJD)、致死性家族性不眠症(FFI)、及びゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群(GSS)、家族性筋萎縮性側索硬化症(fALS)及び多くのその他をはじめとする、様々な神経変性障害の注目すべき特色である。ますます増えつつある研究が、遷移金属は、病的沈着物に見られるいくつかのタンパク質の凝集プロセスを加速することができ、特に銅は最も顕著な凝集の加速を引き起こすことを示唆する。したがって、それ故、メタノバクチンによる処置による銅の除去は、タンパク質の凝集を減少させ、これにより、該疾患の兆候及び症状を寛解又はさらには元に戻すと考えられる。
【0089】
それ故、パーキンソン病、アルツハイマー病、プリオン病、ハンチントン病、及びfALSをはじめとする神経変性疾患の処置のために本明細書に記載のメタノバクチン及び医薬組成物を使用することがさらに考えられる。
【0090】
糖尿病
さらに、銅調節異常は、損なわれた抗酸化防御機序及び酸化的ストレスに起因する、糖尿病における臓器傷害の原因機序として示唆されている。顕著には、TETAによる処置は、糖尿病患者におけるエネルギー代謝に役割を有するミトコンドリアタンパク質に対して作用することが示され、その結果、心臓の構造及び機能の回復がなされた(Jullig et al., Proteomics Clin Appl. 2007 Apr;1(4):387-99)。本出願の実施例3に実証されているように、メタノバクチンは驚くべきことに、蓄積されたミトコンドリア内の銅を効率的に除去することができ、それ故、特にミトコンドリアから過剰な銅レベルを除去し、これにより全体的な酸化的ストレス及び組織傷害を減少させることに基づいた、新規な糖尿病療法のための有望な薬剤でもある。以前の研究に一致して、メタノバクチンは特に、糖尿病性心筋症並びに動脈及び/又は腎の構造/機能を改善し、糖尿病患者における左心室(LV)肥大を寛解すると考えられる(Zhang et al. Cardiovasc Diabetol. 2014 Jun 14;13:100参照)。
【0091】
他の障害
本明細書に記載のメタノバクチン及び医薬組成物を用いての処置に好適なさらなる疾患及び障害としては、細菌感染症、炎症疾患、線維症、肝硬変、鉛及び/又は水銀中毒が挙げられる。
【0092】
特に、細菌感染中にマクロファージは、銅毒性を通して侵入してくる微生物を死滅させるために銅を放出する。これにより、微生物の侵入の際に銅ストレス応答が誘導される(Gleason et al., PNAS 2014 Apr; vol.111, no.16:5866-5871)。Gleason et al.(2014)によると、この高いレベルの宿主内の銅は、C.アルビカンス(C. albicans)のSOD5活性化に好ましい。C.アルビカンスは、最も蔓延しているヒト真菌病原体である酵母真菌であり、これは、その発現されたスーパーオキシドジスムターゼ5(SOD5)、すなわち単量体の銅のみのSODを用いて宿主免疫応答(例えばマクロファージ)と戦うことができる。それ故、銅の除去は、より重要なことには、全体的なSOD5活性を減少させ、したがって、細菌感染中のヒト真菌病原体を減少させる。したがって、本明細書に記載のメタノバクチン及び医薬組成物はまた、SOD5を過剰発現するC.アルビカンスなどの細菌感染症中のヒト真菌病原体の処置にも考えられる。
【0093】
それ故、本発明は医薬組成物を包含し、細菌感染症は、ヒト真菌病原体にとって好ましく、好ましくは該ヒト真菌病原体はカンジダ・アルビカンスである。
【0094】
処置
全てのその文法形における「処置」という用語は、本明細書に記載の疾患、特にWDの治療的又は予防的処置を含む。「治療的又は予防的処置」は、臨床的及び/又は病理学的徴候の完全な予防を目的とした予防的処置、あるいは、臨床的及び/又は病理学的徴候の寛解又は緩解を目的とした治療的処置を含む。したがって、「処置」という用語はまた、本明細書に記載の疾患、具体的にはWDの寛解又は予防を含む。
【0095】
「被験者」又は「個体」又は「動物」又は「患者」という用語は本明細書において互換的に使用され、療法が望まれる任意の被験体、特に哺乳動物被験者を指す。哺乳動物被験者は、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシなどを含み、ヒト被験者が特に、本発明による処置に考えられる。
【0096】
用量
メタノバクチンの正確な用量は、処置の目的に依存し得(例えば急性WDの予防療法又は維持療法、対、処置)、公知の技術を使用して当業者によって確認可能であるだろう。投与経路、年齢、体重、全般的な健康状態、性別、食事、投与時刻、薬物相互作用、及び容態の重症度の調整が必要であり得、当業者による日常的な実験を用いて確認可能であろう。一般的に、1mg/kg(体重)(bw)の用量が、本明細書の何処かで記載されているような所望の治療効果を誘発することができる可能性がある。本発明の使用及び方法に適用可能な例示的な用量は、1mg/kg(bw)~1000mg/kg(bw)、例えば1mg/kg(bw)~100kg/mg(bw)、特に1mg/kg(bw)~50mg/kg(bw)、例えば1、2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50mg/kg(bw)の用量を含む。
【0097】
キット
また、本明細書に記載のメタノバクチン、特に安定化形のメタノバクチン、及び医薬組成物は、キットの一部として提供され得ることが考えられる。したがって、さらなる態様では、本発明はまた、ウィルソン病の処置に使用するための、メタノバクチン、具体的にはこのような安定化形のメタノバクチン又はそれを含む医薬組成物を含むキットに関し、該処置は、(i)全肝内の銅レベル、(ii)全肝細胞内の銅レベル、及び/又は(iii)肝細胞ミトコンドリア内の銅レベルを減少させる。
【0098】
キットは、2つ以上の部分からなるキットであり得、以前に記載されたメタノバクチン、又はそれを含む医薬組成物、並びにさらなる活性物質及び/又は薬学的賦形剤を含む。例えば、該キットは、d-ペニシラミン(D-PA)、トリエンチン(TETA)及びテトラチオモリブデート(TTM)及び/又は亜鉛塩などのWDを処置するのに有用な1つ以上の活性物質又はそれを含む医薬組成物を含み得る。キット成分は、容器又はバイアルに含有され得る。キット成分は、メタノバクチン又はそれを含む医薬組成物の投与に関して、同時に、又は順次、又は別々に投与されると考えられる。本発明はさらに、様々な投与経路を介したキット成分の適用を包含する。例えば、慣用的な銅キレート剤は経口投与され得、一方、メタノバクチンについては非経口投与経路が使用され得る。
【0099】
本明細書において使用する単数形「a」、「an」及び「the」は、内容から別様であると明らかに示されない限り複数の言及を含むことが注記されなければならない。したがって、例えば、「試薬」への言及は、1つ以上のこのような異なる試薬も含み、「方法」への言及は、本明細書に記載の方法のために修飾又は置換され得る当業者に公知の等価な工程及び方法への言及も含む。
【0100】
特記しない限り、一連の要素の前にある「少なくとも」という用語は、一連のものの中のあらゆる要素を指すと理解されたい。当業者は、日常的な実験を超えることなく、本明細書に記載の本発明の具体的な実施態様に対する多くの均等物を認識するか、又は確認することができるだろう。このような均等物は、本発明によって包含されることを意図する。
【0101】
本明細書において使用される場合にはいつでも「及び/又は」という用語は、「及び」、「又は」、及び「該用語によって接続されている要素の全て又は任意の他の組合せ」の意味を含む。
【0102】
本明細書において使用する「約」又は「およそ」という用語は、所与の数値又は範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。しかしながら、それはまた、具体的な数字も含み、例えば約20は20を含む。
【0103】
「より少ない」又は「より大きい」という用語は、具体的な数字を含む。例えば、20より少ないは、20より少ない又は20に等しいことを意味する。同様に、超える又はより大きいは、それぞれ、超える若しくは等しい、又はより大きい若しくは等しいを意味する。
【0104】
本明細書及び以下の特許請求の範囲の全体を通して、特記しない限り、「含む(comprise)」という単語並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる」などの変化形は、記載の1つの整数若しくは工程又は整数群若しくは工程群の包含を意味すると理解されるが、任意の他の整数若しくは工程又は整数群若しくは工程群の排除を意味するものではない。本明細書において使用する場合、「含んでいる」という用語は、「含有している」若しくは「含んでいる(including)」という用語又は本明細書において使用される場合には時には「有する」という用語を用いて置き換えてもよい。
【0105】
本明細書において使用する場合の「からなる」は、特許請求の範囲の要素に明記されていないあらゆる要素、工程、又は成分を除外する。本明細書において使用する場合の「実質的にからなる」は、特許請求の範囲の基本的及び新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程を除外しない。
【0106】
本明細書における各場合において「含んでいる」、「実質的にからなる」及び「からなる」という用語のいずれかを、他の2つの用語のいずれかで置き換えてもよい。
【0107】
本発明は、本明細書に記載の特定の方法、プロトコール、材料、試薬、及び物質などに限定されず、従って変更され得ることが理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、単に特定の実施態様を説明する目的のためのものであり、本発明の範囲を限定する意図はなく、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0108】
上記であれ下記であれ、本明細書の文書全体に引用されている全ての刊行物及び特許(全ての特許、特許出願、科学的刊行物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書におけるいずれの事項も、本発明が、従来の発明によりこのような開示に先行する資格を有さないという承認と捉えられるべきではない。参照により組み入れられた材料が、本明細書と矛盾しているか又は不一致である限り、本明細書はあらゆるこのような材料を取り替えるだろう。
【0109】
実施例
材料及び方法
患者から得られた試料
ハイデルベルク大学病院でウィルソン病のために移植を受けた肝不全を有する4人のWD患者の肝臓を、この治験に含めた。2名の患者(1番及び2番)は、以前に銅キレーション療法を全く受けておらず、一方、2名の患者(3番及び4番)は、D-PA処置後に肝不全を呈した。患者はインフォームドコンセントに同意し、治験は、ドイツのハイデルベルグ医科大学の倫理委員会によって承認された。外植時にWD患者の肝臓を、液体窒素中で衝撃凍結させ、-80℃で保存した。融解した試料を、組織学的分析及び電子顕微鏡による分析のために直ちに固定した。
【0110】
動物
LPPラット株は、Jimo Borjigin(ミシガン大学、アナーバー、米国)(ahmed et al.、同上)によって提供された。ラットを、自由接取のAltromin 1314食餌(Altromin Spezialfutter GmbH、ドイツ)及び水道水で維持した。食餌の銅含量は13mg/kgであった。全ての動物は、ヘルムホルツセンターミュンヘンの実験動物の管理と使用に関するガイドラインの下で処置された。LPP-/-ラットはATP7b突然変異を備え、したがってATP7b-/-である。ヘテロ接合型LPP+/-ラットは、この治験における対照としての役目を果たした。
【0111】
動物の処置
動物実験は、オーバーバイエルン行政府(ミュンヘン、ドイツ)の政府機関によって承認された。
【0112】
インビボでの処置
LPPラットを、150mg/kg(bw)の用量で1日1回連続して3若しくは5日間の腹腔内注射、又は1日2回連続して8日間の腹腔内注射のいずれかによりMBを用いて、あるいはそれぞれ100mg/kg(bw)/日の用量のD-PA若しくは480mg/kg(bw)/日の用量のTETAを用いて飲料水を介して4日間処置した(Togashi et al., Hepatology 15, 82-87 (1992))。処置開始年齢時のAtp7b-/-ラット肝における250μg/gの重量比の銅含量平均値に基づいて(Zischka et al.、同上)、8gの重量比のLPP-/-ラット肝は、約31.5μmolの銅を含有している。1回量のMBは、この銅の量に対して等モルになるように選択された。D-PAの場合、投与された用量及び選択された適用経路が、LECラットにおいて長期の適用で肝炎の発症を成功裡に予防したと報告されている(Togashi et al.、同上)。ラットにおける亜慢性毒性試験より、飲料水を介した3000ppmの用量におけるTETAの毒性は全くないことが明らかとなった(Greenman et al., Fundam Appl Toxicol 29, 185-193 (1996))。250gの体重のラットにおける1日あたりの水分摂取量を40mlと仮定すると、これは480mg/kg(bw)/日の用量に換算される。85日齢のLPP-/-ラットにおける肝内銅含量平均値に関して、適用されたキレート剤のモル比は、それぞれ、MB 1:D-PA 4.3:TETA 17.4であった。MBの静脈内適用(150mg/kg(bw))のために、PinPort(商標)(インステック・ラボラトリーズ社、米国)に接続されたカテーテルを、ラットの大腿静脈に挿入し、非吸収性縫合糸で固定し、皮下トンネルを作り、肩間に作られた皮膚切開部を通して外に出した。
【0113】
肝灌流
LPP-/-肝(動物の年齢は79~83日齢)を、5mMのブドウ糖を含有しているクレブス-リンガー重炭酸塩溶液を1回通過させて灌流した(Beuers et al., J Biol Chem 278, 17810-17818 (2003))。媒体に95%O/5%COを通気し、37℃で保持した。ラット肝を門脈を介して灌流し(Beuers et al.、同上)、右側面肝葉を結索し、その銅含量は灌流前対照としての役目を果たした(Beuers et al., Hepatology 33, 1206-1216 (2001))。胆管へのカニューレ挿入後、20分間の胆汁の試料を回収し、その後、銅キレート剤を灌流媒体に連続的に加えた。胆汁及び流出灌流液を、本明細書の何処かで記載のように10分間間隔で回収した(Beuers et al.、同上)。D-PAHCl(20mg/108μmol)、TETA2HCl(20mg/91μmol)、TTM2NH4(10mg/38μmol)及びMB(40mg/35μmol)を各々、50mlの0.9%NaClに溶解し、灌流ポンプ(灌流器、ブラウン社、メルズンゲン)を介して2時間以内に灌流媒体に連続的に加えた。適用されたキレート剤のモル比は、MB 1:D-PA 3.1:TETA 2.6:TTM 1.1であった。流出灌流液中のLDHを、記載のように10分毎に測定した(Beuers et al.、同上)。対照灌流液は、クレブス・リンガー重炭酸塩溶液のみを用いて行なわれた。
【0114】
組織学的検査、血漿/血清AST、及びビリルビン
ホルマリンで固定されパラフィン包埋された肝試料を4μm厚の切片へと切り出し、標準的な分析のためにヘマトキシリン及びエオシンを用いて、又は線維化組織の分析のためにマッソントリクロームを用いてのいずれかで染色した。動物血漿又は血清中のAST活性及びビリルビン濃度をレフロトロンシステム(ロシュ社)を用いて測定した。
【0115】
ミトコンドリア分析
ミトコンドリアは、WD患者から外植された凍結させた肝臓から、又は以前に記載されているように(Zischka et al., Anal Chem 80, 5051-5058 (2008))新たに調製されたラット肝ホモジネートからのいずれかから得られた。具体的には、ミトコンドリアを、パーコール(登録商標)又はニコデンツ(登録商標)のいずれかを使用して、分画・密度勾配遠心分離によって精製した。新鮮なラット肝ミトコンドリアを、呼吸測定、キレート剤による処置、膨潤分析(MPT)、膜内外電位差(ΔΨm)、分極実験、ATP合成のために使用し、その後の電子顕微鏡による分析のためにグルタルアルデヒドを用いて固定した。保存し凍結させたミトコンドリアを、呼吸複合体IV活性及び金属分析のために使用した。
【0116】
単離されたミトコンドリアの機能的完全性は、クラークタイプの酸素電極における標準的な呼吸測定によって評価された(オキシグラフ、ハンザテック・インスツルメンツ社)(Zischka et al.、同上)。キットに基づいたアッセイを使用して、ATP合成を分析した(ATPバイオルミネッセンスアッセイキット、ロシュ社)(Zischka et al.、同上)。ミトコンドリアの膨潤を、96ウェルプレートフォーマットにおいて540nmでの吸光度リーダーを用いた光散乱によって測定した(Schulz et al., Biochimica et biophysica acta 1828, 2121-2133 (2013))。ΔΨmの評価は、96ウェルプレートリーダー(バイオテック社)におけるRh123蛍光の消光によって行なわれた(Schulz et al.、同上)。分極が、DPH及びTMA-DPHで染色されたミトコンドリアにおいて測定された(Prendergast et al.、同上)。簡潔に言えば、ミトコンドリア(3mg/ml)を37℃でDPH又はTMA-DPH(それぞれ、50μM及び20μM)のいずれかと共に30分間インキュベートした。平行及び垂直の蛍光を、励起366nm及び発光425nmで二回反復で評価した。分極は、式
【数1】

を使用してmPolで計算された(Grebowski et al., Biochim Biophys Acta 1828, 241-248 (2013))。
【0117】
単離されたミトコンドリアをキレート剤を用いてインビトロで処置
増加した銅を有する新たに単離され密度勾配精製されたLPP-/-ミトコンドリアを、2mM D-PA、TETA、TTM、又はMBのいずれかを用いた30分間のキレート剤による処置にかけ、続いて、ニコデンツ(登録商標)勾配により再精製することにより、溶液中の銅を、ミトコンドリアに取り込まれた銅から分離した。検証実験では、対照ラット(LPP+/-)由来のミトコンドリアを、1mM DTTと共に室温で5分間インキュベートし、その後、Cu2+をさらに20分間かけて加えた(最終濃度は200~600μM)。次いで、銅の負荷されたミトコンドリアをニコデンツ(登録商標)勾配遠心分離によって再精製し、続いて、上記のようなキレート剤を用いて処置した。
【0118】
細胞培養
HepG2細胞を、2%FCSを含むMEM中に保持した。本発明者らは、Zn-MBが、金属非含有メタノバクチンとは対照的に37℃で時間に対して安定であることを発見した(図9C)。それ故、20mMのMB溶液を調製し、等モル濃度のZn溶液をpH制御下で加えることによって作製されたZn-MBを、細胞培養実験に使用した。
【0119】
ニュートラルレッドによる細胞毒性アッセイを、何処かで記載されている通りに実施した(Repetto et al., Nat Protoc 3, 1125-1131 (2008))。簡潔に言えば、2×10個の細胞を、培地のみ(2%FCSを含有、陰性対照)、0.05~1mMの亜鉛-MB、又はミトコンドリア毒性陽性対照としての0.25mMのCCCPのいずれかと共に24時間インキュベートし、続いてニュートラルレッドによって分析した。
【0120】
免疫蛍光染色のために、2×10個の細胞を、培地のみ、500μMのMB、又は250μMのCCCPのいずれかと共に透明なガラス底を有する黒色の96ウェルプレート中でインキュベートした。染色は、1.6μMのヘキスト33342(励起360~400nm、発光410~480nm)、300nMのミトトラッカー(登録商標)レッド(励起620~640nm、発光650~760nm)、及び1μMのノニルアクリジンオレンジ(NAO、励起460~490nm、発光500~550nm)によって37℃で40分間行なわれた。洗浄工程後、蛍光を分析した。
【0121】
MBの細胞内銅除去効率を決定するために、細胞を、2%FCS含有培地又は15μMの銅-ヒスチジンを用いて24時間かけて前処置し、続いて、500μMのMBを用いての24時間の処置にかけた。その後、細胞を2回洗浄し、計数した。2.5×10個の細胞中の銅は、65%の硝酸を用いて試料を湿式灰化した後にICP-OESによって決定された。
【0122】
細胞内へのMBの取り込みは、モノクローナル抗MB抗体を使用した競合的ELISAによって様々な濃度のMBを用いて2時間又は24時間インキュベートした細胞溶解液から決定された。
【0123】
ウィルソン病患者の肝細胞様細胞(HLC)の生成
新たに供与された中間尿から膀胱上皮細胞を、400×gで10間かけてペレット化した(Zhou et al., J Am Soc Nephrol 22, 1221-1228 (2011))。細胞を、10%のウシ胎児血清(FBS、PAA)、0.1mMの非必須アミノ酸(NEAA、シグマ社)、0.1mMのβ-メルカプトエタノール、1mMのグルタマックス(ライフテクノロジーズ社)、及びSingleQuotキットCC-4127REGM(ロンザ社)の補充された、ダルベッコ改変イーグル培地/HamのF-12培養培地(DMEM/F12、ロンザ社)からなる、膀胱細胞培地(UCM)中で培養した。膀胱上皮細胞を、Amaxa Basic Nucleofectorキット(ロンザ社、VPI-1005)を使用して、エピソーム発現ベクターpCXLE-hOCT3/4-shp53-F、pCXLE-hSK、及びpCXLE-hUL(アドジーン社)のヌクレオフェクションにより初期化した。iPS細胞(iPSC)を、mTeSR細胞培養培地中のマトリゲルでコーティングされたプレート上に維持し、1U/mlのディスパーゼ(ステムセルテクノロジーズ社)を用いて小さなクラスターへと解離し、5~7日間毎に継代培養した。WD iPSCを、以前に報告された方法(Basma et al., Gastroenterology 136, 990-999 (2009))の改変によって肝細胞様細胞(HLC)へと分化させた。5×10個のiPSCの単一の細胞を、マトリゲルで予めコーティングされた6ウェルプレート上に蒔いた。翌日、培地を、100ng/mlの組換えアクチビン-A(ペプロテック社)、100ng/mlの線維芽細胞増殖因子-2(FGF2、ペプロテック社)と50ng/mlの組換えヒトWnt3a(R&Dシステムズ社)で強化されたDMEM/F12に交換した。続いて、培地を標準的なプロトコールに従って14日目までに交換した(Basma et al.、同上)。細胞を、フローサイトメトリーによって及びqRT-PCR分析によって特徴付けることにより、肝細胞系統の典型的なマーカーを評価した。
【0124】
HLCを、14日目に6ウェルプレート中でCu-ヒスチジン(15μM)と共に24時間インキュベートした。翌日、培地を取り出し、MB(300μM)を含有しているOptiMEMに交換した。24時間インキュベートした後、洗浄した細胞を回収し、計数し、その銅含量を評価した。
【0125】
メタノバクチン(MB)抗体生成及び競合的ELISA
Lou/cラットを、オボアルブミンに結合させたMB(50μg)(Squarix社、マール、ドイツ)、5nmolのCPGオリゴヌクレオチド(TibMolbiol社、ベルリン)、500μlのPBS及び500μlの不完全フロイントアジュバントの混合物を用いて皮下及び腹腔内に免疫化した。アジュバントを用いないブーストを、最初の注射から6週間後に行なった。標準的な手順を使用して融合を実施した。組織培養上清(TCS)を、固相イムノアッセイで、BSAに結合させたMB、又はBSAでコーティングされたELISAプレートに結合させた関連性のないペプチドを4μg/mlの濃度で用いて試験した。MBに結合したTCS由来の抗体(mAb)を、ラットIgGアイソタイプに対するHRPにコンジュゲートさせたmAbを用いて検出し(TIB173 IgG2a、TIB174 IgG2b、TIB170 IgG1は全てATCCから、R-2c IgG2cは自家製)、これにより、IgMクラスのmAbは避けられる。HRPを、すぐ使用できるTMB(1工程のTM Ultra TMB-ELISA、Thermo社)を用いて可視化した。MBと特異的に反応した86個のハイブリドーマを凍結させ、抗体を含有しているTCSを、さらなる分析のために使用した。
【0126】
競合的ELISA。86個全てのTCSを緩衝液(PBS、5%FCS、0.01%アジ化ナトリウム)を用いて1:10に希釈した。TCS各50μlを、MB溶液 50μl(緩衝液中1000ng/ml)又は緩衝液と共に一晩プレインキュベートした。実験は2回反復で行なわれた。プレインキュベートされた試料 50μlを、スクリーニングのために使用されるMBでコーティングされたELISAプレートに加えた。10分後、プレートを洗浄し、MBに対する結合した抗体を、ラットIgGアイソタイプに対するHRPにコンジュゲートさせたmAbを用いて検出し、HRPをTMBを用いて可視化した。遊離MBを認識したMAb(MBと共にプレインキュベートした場合にはシグナルは全くない、緩衝液対照においては陽性シグナル)を、MBの連続希釈液中(1000ng/mlから2ng/ml)さらに分析した。遊離MBを最も良く認識した4つのmAbを確立した(10B10、12D9、18H7、21G5、全てラットIgG2aサブクラス)。試験システムの感度を高めるために、確立されたハイブリドーマのTCSを、MBでコーティングされたELISAプレート上で滴定した。10B10の力価は、12D9(1:320)、18H7(1:10)及び21G5(1:320)よりもはるかに良好であった(1:1260)。
【0127】
試験システムのために10B10を、1:500の希釈率で使用し、プレインキュベーション時間は1時間に短縮された。
【0128】
金属含量の決定
肝ホモジネート、細胞溶解液、及びミトコンドリア調製物中の銅を、65%の硝酸を用いて試料を湿式灰化した後に、ICP-OES(Ciros Vision、SPECTRO Analytical Instruments GmbH社)によって分析した(Zischka et al.、同上)。
【0129】
その他
肝組織及び肝ミトコンドリアの電子顕微鏡検査は、以前に記載のように実施された32。単離されたミトコンドリアの構造分析のために、それらは、タイプ1:「凝縮した」タイプの正常な構造のミトコンドリア(Hackenbrock, J Cell Biol 37, 345-369 (1968))、タイプ2:僅かに増加したクリステのような小さな変化を有するミトコンドリア、タイプ3:大きく増加したクリステを有するミトコンドリア、及びタイプ4:大量のマトリックスの凝縮、マトリックスの空胞形成、内境界膜の脱離、及び重度のクリステ変形を有するミトコンドリア、に分類された。メタノバクチンは、以前に記載されているようにメチロサイナス・トリコスポリウムOB3bの使用済み培地から単離された(Bandow et al., Methods Enzymol 495, 259-269 (2011))。メタノバクチンにおける内毒素は、カイネティック比色法(チャールスリバー社、エキュリ、フランス)によって検出され、平均して4.5IU/mgであった。タンパク質の定量は、ブラッドフォードアッセイ(ブラッドフォード社、Anal Biochem 72, 248-254 (1976))によって実施された。単離されたミトコンドリアにおけるチトクロムCオキシダーゼ活性は、何処かに記載されているように決定された(Kiebish et al., J Neurochem 106, 299-312 (2008))。
【0130】
銅キレート剤及び化学物質
D-ペニシラミンHCl(D-PA)はHeyl Pharma社(ベルリン)からの寄贈品であり、トリエンチン2HCl(TETA)はシグマ社(タウフキルヘン、ドイツ)製であり、テトラチオモリブデート2NH4(純度98%)(TTM)はKT. Suzuki(千葉大学、日本)からの贈呈品であった。CCCPはシグマ社製であった。DPH及びTMA-DPHはライフテクノロジーズ社から入手した。
【0131】
統計
本研究全体を通して、Nは分析された動物の数であり、nは、技術的反復測定回数である。データは、平均値及び標準偏差として提示される。スチューデントt検定のために、図3I(対応のない及び片側)に提示されたもの以外は、データに対応のない検定及び両側検定を行なった。p値が0.05未満である場合には差異は統計学的に有意であると判断された。P値の平均値:p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0132】
実施例1:ミトコンドリア障害は、WD患者における肝不全及びLPP-/-ラットにおける肝傷害に対して特徴的である
ATP7Bの完全な機能消失を引き起こす突然変異により、ヒトにおいて重度のWD表現型がもたらされる(Das & Ray, Nat Clin Pract Neurol 2, 482-493 (2006))。LPP-/-ラットは、その肝内銅輸送活性を完全に消失させるAtp7b突然変異を有する(Burkhead et al. Biometals 24, 455-466 (2011))。これらの動物は、銅の負荷された肝臓から肝不全及び死滅へと急速に進行する(Zischka、同上)。急性発症型WDを有する未処置患者(肝移植を受けたことがあった)に由来する疾患を有する肝臓を、進行疾患状態を有するLPP-/-ラット由来の肝臓と比較した(図1)。さらに、移植前に非成功裡のD-PA処置を受けていたことがあったWD患者の肝臓もこの試験に含めた(図6D)。
【0133】
肝損傷の臨床段階を比較するために、80~100日齢のラットを、肝傷害が明らかとなった時に、3つのグループに分類した:(1)血清AST<200U/L、ビリルビン<0.5mg/dlである、肝内の増加した銅に「罹患した」ラット、(2)AST>200U/L、ビリルビン<0.5mg/dlである、「疾患発症」を示したラット、及び(3)AST>200U/L、ビリルビン>0.5mg/dlである、「疾患を有する」ラット(図10A)。
【0134】
同じ組織傷害の特色が、未処置WD患者の肝臓及び疾患を有するLPP-/-肝臓において観察された(図1A)。線維症が全てのWD患者の肝臓に観察され、初期の線維症が、疾患を有するLPP-/-ラット由来の肝臓に見られた(図6A)。これらの特徴は、ヘテロ接合型LPP+/-対照肝臓には存在しなかったが、LPP-/-ラットでは着実に進行した(図6B)。
【0135】
LPP-/-ラットの肝臓とWD患者の肝臓との間の別の顕著な類似性は、ミトコンドリアの構造的傷害であった(図1B及び図6C、D)。無定形であるが高電子密度の物質を含有している様々なサイズの透明な液胞、分離された内膜と外膜、電子密度の顕著な差、及びクリステの拡大が観察され(図1B及び図6C、D)、これは典型的なWDミトコンドリア表現型を示す20。重要なことには、同等な高いレベルの銅が、疾患を有するLPP-/-ラット及び未処置のWD患者の肝臓から得られた、肝ホモジネート及び肝ミトコンドリアに見られた(図1C)。これに対し、より低い銅含量が、外植された肝臓の組織ホモジネート及びD-PAで前処置されたWD患者の単離されたミトコンドリアに存在していた。これはミトコンドリア構造のより不均一な損傷と一致し(図6D)、これはおそらく、これらの肝臓内の広範囲の線維症から発生する帯状の不均一性から生じる(図6D)。
【0136】
実施例2:漸増する銅の負荷は、ミトコンドリア膜の完全性及び機能を損なう
ミトコンドリア内の銅含量は、LPP-/-ラットの肝臓における疾患状態と共に進行的に増加する(図1C図10A)。これは、新たに単離されたミトコンドリアのレベルで直接的に実証されるように重度な膜の異常の漸増に呼応する(図2):
【0137】
対照に対する、LPP-/-ラットにおける構造的に正常なラット肝ミトコンドリア(タイプ1及び2)の劇的な減少、及び構造的に変化した細胞小器官の数の対応する増加(タイプ3及び4、図2A)が観察された。
【0138】
フルオロフォアDPH及びTMA-DPHを用いての膜分極測定(Prendergast et al. Biochemistry 20, 7333-7338 (1981))により、膜内脂質相ではなく(DPH)、膜の脂質-水界面の極性頭部におけるミトコンドリア膜の「流動性」の変化が明らかとなった(TMA-DPH)(図2B)。
【0139】
カルシウム又は銅のいずれかによるミトコンドリア透過性遷移(MPT)誘導時に、対照ミトコンドリアは大きな振幅の膨潤を受け(Zischka、同上)、これは疾患を有するLPP-/-ラット及び疾患の発症したLPP-/-ラット由来のミトコンドリアでは有意に減少していた(図2C)。
【0140】
カルシウムにより誘発されるMPTをCys-Aが遮断する能力は、対照ミトコンドリアに対してLPP-/-ミトコンドリアにおいて有意に損なわれていた(図2D)。
【0141】
内部ミトコンドリア膜内外電位(ΔΨ)の時間に対する安定性は危うくなり、LPP-/-ミトコンドリアは、対照ミトコンドリアと比較してより早期の時点でそれらの膜電位を失った(図2E)。
【0142】
LPP-/-ミトコンドリアは、ATPを生成する能力が損なわれていることが判明した(図9F)。
【0143】
実施例3:細菌性ペプチドのメタノバクチンは、蓄積されたミトコンドリア内の銅を急速に除去する
新たに単離されたLPP-/-ミトコンドリアから銅を除去するメタノバクチン(MB)の能力と、既存の臨床的に認可されている銅キレート剤であるD-PA、TETA、及び候補薬のTTMの能力を比較した。MBペプチドは例外的に高い銅親和性を有し、銅の少ない環境で増殖させるとメタン酸化細菌によって生成される(Kim et al., Science 305, 1612-1615 (2004))。D-PA及びTETAとは対照的に、MB及びTTMは両方共に、LPP-/-ミトコンドリアに関連する銅を急速に減少させた(図3A)。類似の結果が、銅が人工的に予め負荷された野生型ラットのミトコンドリアを用いて得られた(図7A、B)。さらに、MBは、生命維持に必要な銅依存性ミトコンドリア呼吸複合体IVの障害を評価した場合にTTMよりも有意により毒性が低いことが判明した(図3B、7C)。
【0144】
他のMBペプチド(例えば、メチロサイナス・トリコスポリウムOB3bに由来するmb-OB3b)とは構造的及び化学的に逸脱している、メチロシスティスSB2株に由来するmb-SB2などの特定のMBペプチドでさえ、D-PAなどの既存の臨床的に認可されている銅キレート剤と比較して、有望な銅キレート剤として作用する。3匹の異なるLPP-/-ラットでは、新たに単離されたミトコンドリア(ATP7B-/-)を、1mMの銅キレート剤のD-PA、mb-OB3b及びmb-SB2と共に30分間インキュベートし、それらのキレーション能を、緩衝液で処置された対照と比較して調べた。3匹全てのLPP-/-ラットミトコンドリアにおいて、MBペプチドmb-SB2は、メチロサイナス・トリコスポリウムOB3b由来のMBペプチドmb-OB3bと少なくとも同じぐらい効果的に減少させた。
【0145】
実施例4:メタノバクチンは、低い細胞毒性で肝細胞から効率的に銅を除去する
細胞レベルでは、MBによる一晩の処置は、基礎的な銅を有するか(図7D)又はほんの軽度の毒性を示す銅の量が予め負荷された(図3C、7E)HepG2細胞内の銅の50%の減少を引き起こした。さらに、WD患者試料に対するMBの有効性を試験する試みで、これらの患者由来の膀胱上皮細胞を、誘導性多能性幹細胞(iPSC)へと初期化し、肝細胞様細胞(HLC、図7F~I)へと分化させた。MBによる処置時の同等な銅の除去が、銅が予め負荷されたHepG2及びHLCの両方に見られた(図3C)。
【0146】
MBに対して特異的なモノクローナル抗体を使用して、MBは、HepG2細胞によって用量依存的に取り込まれることが判明した(図3D)。MBの不当な細胞毒性作用は、ミリモル濃度のMBにおいてのみ観察された(図3E)。ミトコンドリアレベルでは、無毒性MB濃度(500μM)は、部分的にしかミトコンドリアの膜電位を減少させなかった(図3F)。したがって、MBは、大きな毒性副作用を伴うことなく肝細胞から効率的に銅を除去する。
【0147】
実施例5:メタノバクチンは肝内の銅を胆汁に指向させる
MBの銅除去効力を、全臓器レベルでさらに検証した(図3G~I)。2時間のLPP-/-肝臓の灌流中に、TTMと比較してMBの存在下では10倍量の銅が、銅の主な生理学的排出経路である胆汁へと放出された(Ferenci, Clinical gastroenterology and hepatology : the official clinical practice journal of the American Gastroenterological Association 3, 726-733 (2005))(図3G図8A、B)。D-PA及びTETAは、胆汁への検出可能な銅の放出を誘起しなかった(図3G)。しかしながら、TTMを除く全てのキレート剤が、灌流液中の銅の存在の増加を引き起こし(図3H)、これは、TTMが細胞内で銅を沈殿させる能力に関連している可能性がある(Ogra et al., Toxicology 106, 75-83 (1996))。灌流液への銅の放出は、肝疾患状態に一部には依存していた。なぜなら、肝臓傷害マーカーのLDHが、銅放出曲線に呼応していたからである(図8C)。注記すべきことには、MBのみが、2時間以内の灌流中にLPP-/-肝臓の銅含量を有意に減少させた(図3I)。
【0148】
実施例6:メタノバクチンの短期間の適用は、インビボにおいて肝傷害を元に戻す
短期間のMBによる処置計画の有効性を、肝疾患発症年齢時(85~90日齢)にLPP-/-ラットにおいて評価した。動物は、MB(腹腔内)を3若しくは5日間、又は、経口投与された臨床的に使用される銅キレート剤であるD-PA若しくはTETAを4日間受けた。
【0149】
MBの適用により、D-PA又はTETAを用いての処置とは対照的に、LPP-/-肝臓における組織病理学的肝傷害マーカーの強い減少がもたらされた(図4A)。前者の2つのキレート剤は、血清ASTレベルの増加(進行的な肝傷害を示す、図4B)を回避することができず、このことは、短期間のD-PA又はTETAによる処置は、治療効果を伴わなかったことを意味する。これに対し、7匹中6匹のMBにより処置されたLPP-/-ラットでは、ASTレベルは顕著に減少し(図4B)、動物は体重を回復した(図10B)。重要なことには、5日間のMBによる処置後、疾患の発症した2匹のLPP-/-動物及び1匹の疾患を有するLPP-/-ラットは、肝機能不全から救出された(AST<200U/L、図4B図10B)。
【0150】
薬物の安全性に関して、MBを用いて処置された対照LPP+/-ラットは、毒性の兆候を全く示さず、体重、肝内銅濃度、血清AST、及びビリルビン値は生理学的範囲内に留まった(N=4、データは示されていない)。さらに、MBは、僅か30分間だけ血清中に検出可能であった(図4C)。
【0151】
MBは、全肝内の銅の進行的な減少を誘導し、これはミトコンドリア区画においてさらにより顕著であった(図4D)。D-PA又はTETAを用いての処置時には銅の減少は、全肝においても精製されたミトコンドリアにおいても全く見られなかった(図4D)。MBのミトコンドリアからの銅除去効果は、超微細構造検査によって確認された(図4E)。重度に損なわれたミトコンドリア(タイプ4、図2A)は、MBで処置されたLPP-/-動物からの単離物においてはほぼ存在しなかったが、D-PA又はTETAにより処置された動物からの単離物においてはそうではなかった(図4E図9Aにおける定量化)。
【0152】
短期間のMBによる処置は、どのぐらい急性肝不全の発症を延期するだろうか?この問題に対処するために、3匹のLPP-/-ラットをMBを用いて5日間処置し、続いて、MBの休薬日を設定した。MBによる処置が開始されると、亜鉛の強化された食物(1000ppm)(Halestrap, Biochem Soc Trans 38, 841-860 (2010))が与えられた。なぜなら、亜鉛は、WDにおいて臨床的に妥当な銅維持療法であるからである12。全てのMBにより処置された動物は、正常な血清ASTの回復を示し、少なくとも2週間持続し、その後、ASTレベルは再度上昇した(図5A)。分析時に、1匹の動物は依然として健康であり、2匹の動物は異なる段階の肝疾患を示した(図5A、C)。肝傷害の程度は、ミトコンドリア内(全肝内ではない)の銅レベル(図5B)、並びに構造的(図5D)及び機能的なミトコンドリアの異常(図9B)に相関していた。
【0153】
腹腔内(i.p.)又は静脈内(i.v.)のMBの適用経路が代替的に使用され得る(図10B及びC)。静脈内注射のために、3匹のLPP-/-ラットの大腿静脈にカテーテルを挿入した。3日間の回復期間の後、動物は、連続して5日間、1日1回のMBの投与を受けた。全ての動物が体重を回復し、AST又はビリルビンが上昇していた場合、レベルは正常に戻った(図10C)。さらに、銅含量の顕著な減少が、全肝及び精製されたミトコンドリアのレベルで見られた(図10C)。
【0154】
実施例7:急性肝不全の処置のためのメタノバクチン
1日2回の1週間のMB注射(すなわち合計して16回の腹腔内注射、図10D)からなる「緊急救出処方計画」によって、疾患を有するLPP-/-ラットを救出するMBの能力を評価した。強く上昇したASTレベルを有する4匹のLPP-/-ラットを処置した(図10D)。全ての動物が生き延び、体重を回復し、処置処方計画の終了時には正常な血清AST及びビリルビン並びに例外的に低い銅値を提示した(図10D)。この強力な治療効果は、3番の動物の症例によって最もよく例示されている(図10D)。進行的な体重減少及び8mg/dlより高いビリルビンレベルを呈する、疾患を有するLPP-/-ラットは(図10A)、瀕死と考えられなければならない。なぜなら、このような動物は通常、数日間以内に死亡するからである。これに対し、「緊急救出処方計画」後に、3番の動物は体重が29%回復し、AST及びビリルビンレベルが正常値まで下がるという劇的な減少、大量の構造的及び機能的なミトコンドリアの回復に伴う肝内銅除去を示した(図10D図9D~F)。
【0155】
実施例8:mbによる反復処置
短期間のMBによる処置の有効性により、本発明者らは毎日のキレーション療法を、より長い観察サイクルが介在する反復処置サイクルからなる処方計画に置き換えることを目的とした最初の試験を実施した(図14)。5匹のLPP-/-ラット並びに5匹の年齢及び性別の一致したLPP+/-ラット対照を含めた。1対のラットを、それぞれ実験第1、8、29、36及び85日目に屠殺した。実験1日目に、全ての動物は健康であり、屠殺されたLPP-/-ラットは、そのLPP+/-対照(対1)と比較して、著しい肝臓内及びミトコンドリア内の銅負荷及び僅かに損なわれたミトコンドリア機能(87%のATP生成能)を示した。4匹の残りのLPP-/-ラットは、1日3回5日間のMB注射(i.p.)からなる1回目の処置サイクルを受けた。全ての動物は健康であり続け、これにより実験8日目に銅負荷量の40%の減少がもたらされ(対2)、これはさらなる3週間の観察後に開始レベルまで増加して戻った(29日目、対3)。2回目の処置サイクル時に銅負荷量は再度減少したが、今回は開始値の25%まで減少し、その結果、LPP-/-ミトコンドリア内の前例のない低い銅負荷量がもたらされた(36日目、対4)。75%というこの銅除去効率は、その後のさらなる7週間の観察期間を伴い、その間も残りのLPP-/-ラットは健康であり続けた。実験85日目に、肝臓内及びミトコンドリア内の銅負荷量は、処置開始前の値まで上昇して戻り(1日目)、そのLPP+/-対照(対5)と比較して損なわれたミトコンドリア機能(65%のATP生成能)を伴った。これは、未処置LPP-/-ラットが疾患を有するようなった時の年齢の2倍に相当する。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図10
図11
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【配列表】
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