(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】空間光通信装置及び空間光通信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/118 20130101AFI20220816BHJP
H04B 10/07 20130101ALI20220816BHJP
【FI】
H04B10/118
H04B10/07
(21)【出願番号】P 2019142576
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】向井 達也
(72)【発明者】
【氏名】高山 佳久
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-150455(JP,A)
【文献】特開2004-159032(JP,A)
【文献】国際公開第2017/029808(WO,A1)
【文献】特表2017-526287(JP,A)
【文献】特開2002-335218(JP,A)
【文献】特開2018-121281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/118
H04B 10/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙機へ向けて第1レーザ光を送信する送信部と、
前記宇宙機から送信される第2レーザ光を受信する受信部と、
前記第2レーザ光の受光強度を検出する第1検出部と、
前記第2レーザ光を受光する受光面を有し、前記第2レーザ光の伝播経路上における大気の揺らぎを検出する第2検出部と、
前記第1レーザ光の出射方向を検出する第3検出部と、
前記第1検出部
、前記第2検出部及び前記第3検出部の出力に基づいて、前記第1レーザ光
を制御する制御信号を生成する制御部と
を具備
し、
前記制御部は、
前記第2レーザ光の受光強度が所定範囲未満のときは、前記第1レーザ光の拡がり角を拡大させるとともにパワーを増加させる制御信号を生成する第1の処理を実行し、
前記第2レーザ光の受光強度が前記所定範囲を超えるときは、前記第1レーザ光の拡がり角を狭めるとともにパワーを減少させる制御信号を生成する第2の処理を実行し、
前記第1の処理又は前記第2の処理を所定回数繰り返しても前記第2レーザ光の受光強度が前記所定範囲に収まらないときは、前記第1レーザ光のビームワンダリングに伴うビーム蛇行を検出して出射方向を補正するための制御信号を生成する第3の処理を実行する
空間光通信装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の空間光通信装置であって、
前記第2検出部は、前記受信部に取り付けられる
空間光通信装置。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の空間光通信装置であって、
前記第3検出部は、前記送信部に配置され前記第1レーザ光の大気による散乱光を撮影するカメラを含む
空間光通信装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の空間光通信装置であって、
前記カメラは、第1の平面上への前記散乱光の投影像と、前記第1の平面と所定の角度で交差する第2の平面上への前記散乱光の投影像とを取得する
空間光通信装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1つに記載の空間光通信装置であって、
前記受信部は、前記第2レーザ光を集光する望遠鏡である
空間光通信装置。
【請求項6】
送信部により宇宙機へ向けて第1レーザ光を送信し、
受信部により前記宇宙機から送信される第2レーザ光を受信し、
第1検出部により前記第2レーザ光の受光強度を検出し、
第2検出部により前記第2レーザ光の伝播経路上における大気の揺らぎを検出し、
第3検出部により前記第1レーザ光の出射方向を検出し、
前記第2レーザ光の受光強度が所定範囲未満のときは、前記第1レーザ光の拡がり角を拡大させるとともにパワーを増加させる制御信号を生成する第1の処理を実行し、
前記第2レーザ光の受光強度が前記所定範囲を超えるときは、前記第1レーザ光の拡がり角を狭めるとともにパワーを減少させる制御信号を生成する第2の処理を実行し、
前記第1の処理又は前記第2の処理を所定回数繰り返しても前記第2レーザ光の受光強度が前記所定範囲に収まらないときは、前記第1レーザ光のビームワンダリングに伴うビーム蛇行を検出して出射方向を補正するための制御信号を生成する第3の処理を実行する
空間光通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、宇宙空間を周回する人工衛星などの宇宙機と光通信を行う空間光通信装置及び空間光通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、宇宙空間において地球周回軌道を周回する人工衛星等の宇宙機により、地球上の地上局と光衛星通信を行う研究が進められている。この光衛星通信は、大容量データ伝送が可能であり、かつ、軽量で小型なシステム構成で実現でき、電波と比較して干渉が少ない等の利点があることから、今後の宇宙通信を担う技術として注目されている。
【0003】
宇宙-地上間光空間伝送は、その伝送区間を雲にブロッキングされないようにするため、雲が存在しない空間(地球大気下)で行われる。一方、宇宙機から地上局へ向けて送信されるダウンリンクが大気擾乱の影響を受け、受信側で受光可能な電力が減少して通信品質が低下し、最悪の場合、バースト的に情報が失われることがある。このため、大気の影響を抑制することが可能な何らかの補償技術が必要となる。
【0004】
従来、大気影響を補償するために、ダウンリンクを受信する地上局の望遠鏡で集められた光エネルギを後段の補償システムで補償する仕組みがとられているが、望遠鏡入射前の空間における大気影響によりかなりの光エネルギを失っている。このため、地上局側で宇宙機に対してアップリンクを連続あるいは短時間照射し、地上局の方向を宇宙機へ知らせる灯台のごとく、ダウンリンクを地上局の方向へ誘導する。しかし、アップリンクも同様に大気影響を受けて宇宙機の光通信機のセンサ視野に到達しないことが多く、単純なアップリンク照射では効果が小さい。
【0005】
このような問題を解消するため、例えば特許文献1には、人工衛星から出射された受信光波を集光すると共に人工衛星へ向けて出射される送信光波の伝播経路を含む空間を伝播した経路伝播光を望遠鏡により集光し、集光された受信光波及び経路伝播光の波面歪に基づいて、大気の揺らぎやフェージングの影響を加味した送信光波の伝播経路の角度を算出し、当該角度で送信光波が人工衛星へ到達するように望遠鏡の可変形鏡を制御する空間光通信装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
地上からアップリンクを出射する場合に、送信レーザの伝播方向が地上から宇宙空間までの空間の影響、特に大気影響(地上から宇宙空間に至る連続的な大気濃度変化に伴う連続的な屈折率変化や、エアロゾル等の大気中微粒子による光散乱)により大気中を折れ曲がりながら伝播する(ビームワンダリング(Beam Wandering)現象)。このため、予報値に沿って望遠鏡が宇宙機を追尾しても、その先の宇宙機にアップリンクがうまく到達せず、その結果、宇宙機は、眼下のどの位置から地上局がアップリンクを出射しているかを把握することができなくなる。また、大気影響が時間的、空間的に時々刻々とランダムに変化するため、大気の状況変化に対する適応性が不十分である。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、大気影響に適応しながら、宇宙機との良好な通信を維持することができる空間光通信装置及び空間光通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係る空間光通信装置は、送信部と、受信部と、第1検出部と、制御部とを具備する。
前記送信部は、宇宙機へ向けて第1レーザ光を送信する。
前記受信部は、前記宇宙機から送信される第2レーザ光を受信する。
前記第1検出部は、前記第2レーザ光の受光強度を検出する。
前記制御部は、前記第1検出部の出力に基づいて、前記第1レーザ光の拡がり角及びパワーを制御する制御信号を生成する。
【0010】
上記空間光通信装置は、第2レーザ光の受光強度が目標値となるように第1レーザ光の出射条件を補正するように構成される。これにより、時々刻々と変化する大気状態に追従して、第1レーザ光の出射条件を最適化でき、大気影響によらずに安定した通信品質を確保することができる。
【0011】
前記制御部は、前記第2レーザ光の受光強度が所定範囲未満のときは、前記第1レーザ光の拡がり角を拡大させるとともにパワーを増加させる制御信号を生成するように構成されてもよい。
【0012】
また、前記制御部は、前記第2レーザ光の受光強度が前記所定範囲を超えるときは、前記第1レーザ光の拡がり角を狭めるとともにパワーを減少させる制御信号を生成するように構成されてもよい。
【0013】
前記空間光通信装置は、第2検出部をさらに具備してもよい。
前記第2検出部は、前記第2レーザ光を受光する受光面を有し、前記第2レーザ光の伝播経路上における大気の揺らぎを検出する。前記制御部は、前記第1検出部及び前記第2検出部の出力に基づいて、前記第1レーザ光の拡がり角及びパワーを制御する制御信号を生成する。
【0014】
前記第2検出部は、前記受信部に取り付けられてもよい。
【0015】
前記空間光通信装置は、前記第1レーザ光の伝播方向を検出する第3検出部をさらに具備してもよい。前記制御部は、前記第3検出部の出力に基づいて、前記送信部から送信される前記第1レーザ光の出射方向を補正するための制御信号を生成してもよい。
【0016】
前記第3検出部は、前記送信部に配置され前記第1レーザ光の大気による散乱光を撮影するカメラを含んでもよい。
前記カメラは、第1の平面上への前記散乱光の投影像と、前記第1の平面と所定の角度で交差する第2の平面上への前記散乱光の投影像とを取得するように構成されてもよい。
【0017】
前記受信部は、前記第2レーザ光を集光する望遠鏡であってもよい。
【0018】
本発明の一形態に係る空間光通信方法は、
宇宙機へ向けて第1レーザ光を送信し、
前記宇宙機から送信される第2レーザ光を受信し、
前記第2レーザ光の受光強度に基づいて、前記第1レーザ光の拡がり角及びパワーを制御する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、空間光通信装置は、大気影響に適応しながら、宇宙機との良好な通信を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空間光通信装置を含む空間光通信システムを示す概略構成図である。
【
図2】上記空間光通信装置における送信部の一構成例を示す概略図である。
【
図3】宇宙機から空間光通信装置へ送信されるダウンリンク(第2レーザ光)の大気の揺らぎによる影響を説明する模式図である。
【
図4】第1検出部としてのシーイングモニタの一構成例を示す概略斜視図である。
【
図5】上記シーイングモニタの受光面における第2レーザ光の結像画像を示す模式図である。
【
図6】第2検出部としての受光強度モニタの一構成例を示す模式図である。
【
図7】宇宙機へ向けて送信されるアップリンク(第1レーザ光)のビームワンダリング現象を説明する模式図である。
【
図8】第3検出部としてのビームモニタの一構成例を示す図である。
【
図10】上記ビームモニタの作用を説明する図である。
【
図11】上記ビームモニタの他の構成例を示す図である。
【
図12】上記空間光通信装置における制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図13】上記空間光通信装置の各部の動作を時系列的に示すシーケンス図である。
【
図14】上記制御部において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図15】上記制御部において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る空間光通信システム100を示す概略構成図である。空間光通信システム100は、空間光通信装置Gと、宇宙機Sとを含み、空間光通信装置Gと宇宙機Sとの間で光通信(衛星通信)を行う。
【0023】
宇宙機Sは、典型的には、人工衛星、宇宙ステーションなどの宇宙空間を移動可能な通信機能を有する構造体を意味する。人工衛星は、静止軌道(GEO:Geostationary Earth Orbit)を周回する静止衛星のほか、地球の自転周期とは無関係に地球低軌道(LEO:Low Earth Orbit)や中軌道(MEO:Medium Earth Orbit)、さらには深宇宙等を飛翔する人工衛星などを含む。すなわち宇宙機Sの地表からの高度は特に制限されない。人工衛星は、典型的には気象衛星や通信衛星などであるが、いかなる目的に基づいて打ち上げられたものであってもよい。
【0024】
[空間光通信装置]
空間光通信装置Gは、宇宙機Sとの間で光空間伝送を行う地上局として構成される。空間光通信装置Gは、宇宙機Sから送信される光信号(ダウンリンク)を受信する、あるいは、宇宙機Sとの間で光信号を送受信するための望遠鏡10を備える。本実施形態において望遠鏡10は、主として、宇宙機Sから送信されるダウンリンク(第2レーザ光L2)を受信する受信部として構成される。
【0025】
第2レーザ光L2は、連続レーザであってもよいし、パルスレーザであってもよい。第2レーザ光L2は、典型的には赤外光であり、その波長は、例えば、1550nmあるいは1064nmである。
【0026】
望遠鏡10は、地上に設置された基台11に設置される。基台11は、望遠鏡10の姿勢を調整する調整機構11aを有し、望遠鏡10は、宇宙機Sを追尾可能に基台11に支持される。基台11は、予報値に従って宇宙機Sを追尾するように望遠鏡10の光軸の方位及び/または仰角を制御する。予報値とは、宇宙機Sの軌道から計算される宇宙機Sの空間座標であり、基台11の設置場所から宇宙機Sまでの空間伝送路の第1レーザ光L1または第2レーザ光L2の波長における屈折率を考慮したものであってもよい。
【0027】
望遠鏡10の口径は特に限定されず、例えば、30cm~10mである。望遠鏡10の開口は単数に限られず、複数であってもよい。望遠鏡10は、集光した第2レーザ光L2を電気信号に変換し、受信情報の解析等の所定の信号処理を施す信号処理部(図示せず)を有する。
【0028】
なお空間光通信装置Gは、地上局として構成される例に限られず、車両や船舶、航空機等の移動体に搭載されてもよい。また、空間光通信装置Gは、ゲートウェイや地上に設置された地上通信ネットワーク、車両、船舶、航空機等をはじめとした通信体と接続されてもよい。この場合、上記ゲートウェイや地上通信ネットワーク、通信体等は、空間光通信装置Gを介して、宇宙機Sとの間で光信号の送受信を行う。
【0029】
空間光通信装置Gは、送信部20と、第2検出部としてのシーイングモニタ31と、第1検出部としての受光強度モニタ32と、第3検出部としてのビームモニタ33と、制御部40とを備える。
送信部20は、宇宙機Sへ向けて送信される第1レーザ光L1を出射する。シーイングモニタ31は、宇宙機Sから送信される第2レーザ光L2に基づいて、第2レーザ光L2の伝播経路上における大気の状態(あるいは当該大気の状態を反映したビーム位置情報)を検出する。受光強度モニタ32は、第2レーザ光L2の受光強度を検出する。ビームモニタ33は、第1レーザ光L1の出射方向を検出する(本実施形態では、ビームワンダの影響を受けたビーム出射角度(方位、仰角)を検出するために、第1レーザ光L1の散乱光L1sをモニタする)。制御部40は、予報値に従って宇宙機Sを追尾可能に望遠鏡10の光軸の方位、仰角を制御する。制御部40は、シーイングモニタ31、受光強度モニタ32及びビームモニタ33の出力に基づいて送信部20を制御する。
空間光通信装置Gは、第1レーザ光L1の出射方向上空を観察する観測器34をさらに備える。
【0030】
宇宙機Sと空間光通信装置Gとの間の光空間伝送は、雲が存在しない空間(地球大気下)で行われるが、宇宙機Sから空間光通信装置Gへ向けて送信されるダウンリンクが大気擾乱の影響を受け、受信側で受光可能な電力が減少して通信品質が低下することがある。このため、地上局G側で宇宙機Sに向けてアップリンクを連続あるいは短時間照射することで地上局Gの方向を宇宙機Sへ知らせて、ダウンリンクを地上局の方向へ誘導している。
しかしながら、アップリンクも同様に大気影響を受けて宇宙機Sに到達しないことが多く、単純なアップリンク照射では効果が小さい。
そこで本実施形態の空間光通信装置Gは、シーイングモニタ31等によって検出されるダウンリンク(第2レーザ光L2)の光学特性に基づいて、宇宙機Sへ向けて出射されるアップリンク(第1レーザ光L1)の拡がり角及びパワーを制御するように構成される。以下、その詳細について説明する。
【0031】
(送信部)
送信部20は、アップリンク用の第1レーザ光L1を生成するレーザ光源を有する。第1レーザ光L1は、主として、宇宙機Sのダウンリンクを空間光通信装置Gへ向けて出射させるための誘導光として機能する。第1レーザ光L1は、連続レーザであってもよいし、パルスレーザであってもよい。第1レーザ光L1は、典型的には赤外光であり、その波長は、例えば、1550nmあるいは1064nmである。第1レーザ光L1の拡がり角、パワーも特に限定されず、例えば、拡がり角が50μrad~1mrad、パワーが1W~数10kW(例えば、50kW)である。
【0032】
送信部20は、望遠鏡10の外周部に取り付けられることで、望遠鏡10と一体的に基台11に対して相対移動可能に構成される。送信部20における第1レーザ光L1の出射光軸は、望遠鏡10の光軸と平行に設置される。本実施形態では、多連のレーザ出射ユニットを有し、各々のレーザ出射ユニットが宇宙機Sへ向けて第1レーザ光L1を出射するように構成される。なお勿論、レーザ出射ユニットは複数である場合に限られず、単数であってもよい。また、送信部20は、望遠鏡10の外周部に取り付けられる例に限られず、望遠鏡10の内部に配置されてもよい。
【0033】
図2は、送信部20の一構成例を示す概略図である。送信部20は、ケーシング21と、複数(本例では2つ)のレーザ出射ユニット22とを有する。レーザ出射ユニット22は、ケーシング21の内部に配置され、レーザ光源221、レンズユニット222、出射ミラー223、シャッタ224等をそれぞれ有する。
【0034】
ケーシング21は、望遠鏡10の外周部に固定される。ケーシング21の光出射面には、各レーザ出射ユニット22から出射する第1レーザ光L1を透過させる窓部21W(
図1参照)が設けられる。レーザ光源221は、第1レーザ光L1を出射するレーザダイオードであり、レンズユニット222は、レーザ光源221からの出射光の拡がり角を任意に調整可能な複数のレンズを含む。レンズユニット222には、典型的にはビームエクスパンダと呼ばれるレンズユニットを用いることができる。出射ミラー223は、レンズユニット222からの出射光を窓部21Wへ導く複数のミラー素子を含む。当該複数のミラーは、典型的には、窓部21Wからの第1レーザ光L1の出射角をその光軸に関して相互に直交する2軸方向について個々に調整可能な複数の可変ミラーを含む。シャッタ224は、レーザ光の出射経路の任意の位置に配置され、レーザ光源221からの出射光を遮蔽可能に構成される。
【0035】
送信部20は、各レーザ光源221へ電力を供給する駆動回路23と、各レーザ光源221へ供給される電流値を調整する増幅器24とをさらに有する。レーザ出射ユニット22、駆動回路23及び増幅器24は、後述する制御部40からの指令に基づいて個々に制御されることが可能に構成される。
【0036】
(シーイングモニタ)
シーイングモニタ31は、宇宙機Sから空間光通信装置Gへ向けて送信される第2レーザ光L2の伝播経路上における大気の状態を検出する。本実施形態では、大気の状態を反映した第2レーザ光L2のビームポジションを位置情報として検出するため、シーイングモニタ31として、DIMM(Differential Image Motion Monitor)が採用される。
【0037】
ここで、大気の状態とは、典型的には、大気の揺らぎ(seeing)を意味する。大気の揺らぎは、気象条件、大気汚染、周囲の地形、時間、季節等により変動する。宇宙機Sと空間光通信装置Gとの間における空間光伝送は、地上の大気の影響(例えば、連続的な屈折率変化)を強く受けるため、この大気影響を踏まえて、誘導光としてのアップリンク(第1レーザ光L1)が宇宙機Sへ到達するようにその拡がり角、送信強度、送信方向があらかじめ設定される。
しかし、大気の揺らぎのパターンは時々刻々と変化するため、アップリンクの送信条件が固定されると、大気状態の変化によって宇宙機Sによるアップリンク(第1レーザ光L1)の捕捉が不十分となり、アップリンクの到来方向の検出精度が低下するとともに、空間光通信装置Gにおいてはダウンリンク(第2レーザ光L2)の受光強度が低下し、通信品質が劣化する。
そこで本実施形態では、シーイングモニタ31により大気状態を検出し、その検出信号に基づいて、アップリンク用の第1レーザ光L1の拡がり角及び送信強度をリアルタイムで補正することで、宇宙機Sと空間光通信装置Gとの間の最適な通信環境を維持する。
【0038】
図3は、宇宙機Sから空間光通信装置Gへ送信されるダウンリンク(第2レーザ光L2)の大気の揺らぎによる影響を説明する模式図である。
図3に示すように、宇宙機Sから送信される第2レーザ光L2の波面L2wは、宇宙空間では平面であるのに対し、大気中では歪み面となる。この歪みの程度は、大気状態によって変化し、大気揺らぎの強度が大きいほど大きくなる結果、焦点位置がシフトする。このように、シーイングモニタ31において第2レーザ光L2の焦点位置のシフト量を検出することで、第2レーザ光L2の伝播経路における大気の揺らぎの強度を検出することが可能となる。
【0039】
図4は、シーイングモニタ31の一構成例を示す概略斜視図である。シーイングモニタ31は、例えば直径10cm以下の反射望遠鏡構造を有する。シーイングモニタ31は、望遠鏡10の外周部に固定された筒部311と、筒部311の先端に相互に離間して配置された2つのプリズム(あるいはウェッジ)312と、プリズム312を介して筒部311へ進行した第2レーザ光L2を反射する第1ミラー313及び第2ミラー314と、第2ミラー314の反射光を受光する受光面315aを有する赤外線カメラ315とを有する。
【0040】
図5は、受光面315aにおける第2レーザ光L2の結像画像を示す模式図である。図においてX軸及びY軸はそれぞれ受光面315aの横軸及び縦軸を示し、Z軸はシーイングモニタ31の光軸(軸心)に相当する。図中、P0は、基準値(受光開始時の初期値)における2つのプリズム312を透過した各レーザ光の焦点位置(以下、基準点ともいう)をそれぞれ示している。シーイングモニタ31は、受光面315a上におけるレーザ光の2つの結像点Pの基準点P0からのX軸及びY軸方向のシフト量(X/Y)を検出する。具体的には、シーイングモニタ31を構成する光学系の焦点距離から求められる入射角と、基準点P0からのX軸及びY軸方向のシフト量とから、公知の方法により、シーイング[arcsec]を算出する。
【0041】
シーイングモニタ31の検出信号は、演算器50(
図1参照)へ出力される。演算器50は、赤外線カメラ315で検出された2つの結像点Pの基準点P0からのシフト量から、大気の揺らぎに関するフリードパラメータ(Fried parameter)
r0[mm]を算出する。フリードパラメータ
r0は、シーイングを定量的に評価するための指標であり、所定の演算式によって算出されて制御部40へ出力される。なお、演算器50は、シーイングモニタ31の一部として構成されてもよいし、制御部40の一部として構成されてもよい。また、シーイング及びフリードパラメータの算出処理は、制御部40において実行されてもよい。
【0042】
フリードパラメータr0の算出に際しては、シーイングモニタ31の口径に応じた補正係数が乗じられてもよい。DIMMは一般的に、25cm以上の口径を有し、その大きさよりも小さい口径では計測誤差が大きくなることが知られている。しかし、衛星追尾中に同時にダウンリンク光を計測してアップリング制御をするためには、宇宙通信で想定される望遠鏡口径(0.3m~10m程度)に同架可能な大きさにDIMMを小型化する必要がある。
【0043】
そこで本実施形態では、シーイングモニタ31に適用される口径10cm以下のDIMMに関して、口径が25cm程度の基準望遠鏡と比較した統計的分析に基づく補正係数を予め算出し、当該補正係数をシーイングモニタ31の出力に乗じて得られる値からフリードパラメータr0を算出するようにしている。これにより、小型化に起因するDIMMの測定誤差による弊害を抑え、大気状態を高精度に計測することが可能となる。
【0044】
(受光強度モニタ)
受光強度モニタ32は、宇宙機Sから空間光通信装置Gへ向けて送信される第2レーザ光L2の受光強度を検出する。本実施形態において受光強度モニタ32は、望遠鏡10の外周部にシーイングモニタ31と隣接して配置されるが、取付け位置はこれに限られない。受光強度モニタ32は、単位面積当たりの第2レーザ光L2の受光強度を検出可能な光電変換素子で構成される。
【0045】
図6は、受光強度モニタ32の一構成例を示す模式図である。受光強度モニタ32は、筒部321に集光レンズ322と、集光レンズ322で集光した第2レーザ光L2を受光する受光センサ323とを有する。受光センサ323は、第2レーザ光L2の強度に応じた電流値を出力する光電変換素子であり、その出力(Rx[dBm])が制御部40へ供給される。
【0046】
(ビームモニタ)
ビームモニタ33は、第1レーザ光L1のビームワンダリングに伴うビーム蛇行を検出する。送信部20から出射されるアップリンク(第1レーザ光L1)もまた、上空の大気の揺らぎ、高度により段階的に変化する屈折率等の影響を受けて強度が減衰し、あるいは伝播方向が蛇行する。この現象をビームワンダリングといい、その様子を
図7に模式的に示す。
【0047】
アップリンク用の第1レーザ光L1のビームワンダリングに伴うビーム蛇行が所定以上に大きい場合、第1レーザ光L1が宇宙機Sへ到達しにくくなるため、宇宙機Sにとっては、第1レーザ光L1の検出精度が低下する。その結果、ダウンリンク用の第2レーザ光L2の出射方向の精度が低下するため、空間光通信装置Gにおける第2レーザ光L2の受光強度も低下する。そこで本実施形態では、ビームモニタ33によってアップリンク用の第1レーザ光L1のビームワンダリングの影響を受けたビーム蛇行を観測し、その観測値の結果に応じて第1レーザ光L1の出射方向を制御するように構成される。
【0048】
具体的には、観測値からビームの出射方向(方位、仰角)を算出し、宇宙機Sの空間位置に関する予報値(方位、仰角)との差分値を計算する。制御部40は、その差分値を打ち消すように第1レーザ光L1の出射方向を補正するための制御信号を生成する。
【0049】
図8及び
図9は、ビームモニタ33の一構成例を示す原理図である。ビームモニタ33は、送信部20から上空に出射された第1レーザ光L1の大気中粒子等による散乱光L1sを撮影することが可能に構成される。ビームモニタ33は、筐体331と、筐体331の内部にそれぞれ配置された第1ミラー332、第2ミラー333、第3ミラー334、ビームスプリッタ335、カメラ336及び画像処理部337を有する。
【0050】
第1ミラー332及び第2ミラー333は、送信部20から出射される第1レーザ光L1の大気による散乱光L1s(L1sx,L1sy)を反射する。第1ミラー332で反射した散乱光L1sxは、ビームスプリッタ335を介してカメラ336へ入射する。一方、第2ミラー333で反射した散乱光L1syは、第3ミラー334及びビームスプリッタ335を介してカメラ336へ入射する。この時、ビームスプリッタ335に入射する2つの反射光は所定の角度をなすように、ビームスプリッタ335及び第1ミラー332、第2ミラー333が配置される。なお
図8及び
図9では、ビームスプリッタ335に入射する2つの反射光が互いに直交するようにビームスプリッタ335及び第1ミラー332、第2ミラー333が配置されている。また、後述するが、カメラ336の撮影画像336vは、画像処理部337へ出力される。
【0051】
図9においてZ軸は、送信部20における第1レーザ光L1の出射中心を示し、X軸及びY軸方向は、Z軸に直交する2軸方向を示している。第1ミラー332は、XZ平面に平行なX面(第1の平面)から見た第1レーザ光L1の散乱光L1sxを反射し、第2ミラー333は、X面と所定の角度で交差(本実施形態では直交)する、XY平面に平行なY面(第2の平面)から見た第1レーザ光L1の散乱光L1syを反射する。カメラ336は、赤外線カメラであり、X面内において屈折あるいは発散しながら進行する第1レーザ光L1のX面上への散乱光L1sxの投影像と、Y面内において屈折あるいは発散しながら進行する第1レーザ光L1のY面上への散乱光L1syの投影像とを同時に取得する。
【0052】
図10は、カメラ336で取得された散乱光L1sx,L1syの画像336vを示す図である。カメラ336は、赤外線カメラである。同図において、+X方向と-X方向とのなす角が散乱光L1xの散乱角を、そして、+Y方向と-Y方向とのなす角が散乱光L1yの散乱角にそれぞれ相当する。画像処理部337は、散乱光L1x,L1yの画像を分析することで第1レーザ光L1のビームワンダリングの影響を受けた出射ビームの形状を解析し、制御部40へ出力する。典型的には、制御部40は散乱光L1sxと散乱光L1syの画像を重ね合わせて、第1レーザ光L1の伝播方向を割り出す。なお、伝播方向の算出は、制御部40において実行される場合に限らず、画像処理部337において実行されてもよい。
【0053】
なお、ビームモニタ33は、1台のカメラ336で構成される例に限られず、2台のカメラで構成されてもよい。その構成例を
図11に模式的に示す。
図11において、第1ミラー332及び第2ミラー333で反射した散乱光L1sx,L1syは、それぞれビームスプリッタ338を介して第1カメラ336a及び第2カメラ336bへ入射する。この場合、画像処理部337は、第1カメラ336a及び第2カメラ336bにより取得された散乱光L1sx,L1syの画像から第1レーザ光L1のビームワンダリングの影響を受けた出射ビームの伝播方向を計測する。
【0054】
(観測器)
観測器34(
図1参照)は、上空の雲Cや航空機等の飛翔体Fを観測可能な熱赤外線カメラあるいは可視光カメラなどで構成される。観測器34は、送信部20と一体的に取り付けられ、その出力画像が制御部40へ出力される。制御部40は、観測器34からの出力を監視し、第1レーザ光L1の出射方向に雲Cや飛翔体Fの存在を確認したときは、シャッタ224を駆動して第1レーザ光L1の出射を停止させる。なお、観測器34の視野角はビームモニタ33の視野角よりも広く、これにより第1レーザ光L1の照射領域に接近する雲Cや飛翔体Fを事前に検出することができる。
【0055】
(制御部)
図12は、制御部40の構成を示す機能ブロック図である。
【0056】
制御部40は、空間光通信装置Gの各部の動作を統括的に制御する。制御部40は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)やメモリを有するコンピュータで構成される。制御部40は、シーイングモニタ31(あるいは演算器50)、受光強度モニタ32、ビームモニタ33及び観測機34の各出力を取得する取得部41と、取得部41において取得された各モニタの出力に基づいて、第1レーザ光L1のビーム拡がり角(ビーム幅)及びパワーの補正の有無等を判定する判定部42と、判定部42の出力に基づいて送信部20を制御する制御信号を生成する信号生成部43を有する。
【0057】
[空間光通信装置の動作]
以下、制御部40の構成の詳細について、空間光通信装置Gの動作と併せて説明する。
図13は、空間光通信装置Gの各部の動作を時系列的に示すシーケンス図、
図14及び
図15は、制御部40において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0058】
空間光通信装置Gは、
図1に示すように、送信部20から宇宙機Sへ向けてアップリンク用の第1レーザ光L1を送信し、宇宙機Sは、第1レーザ光L1の到来方向に向けてダウンリンク用の第2レーザ光L2を送信する。望遠鏡10は、第2レーザ光L2を集光し、所定の信号処理を施す。
【0059】
制御部40は、第2レーザ光L2の受光強度Rx等に基づき、後述する第1~第3のループ処理を実行することで、第1レーザ光L1を出射する送信部20を制御する。
【0060】
(第1のループ処理)
制御部40は、シーイングモニタ31及び演算器50の出力に基づいて大気の揺らぎ(シーイング)及びフリードパラメータr0を取得あるいは算出する(ステップ101,102)。また、制御部40は、受光強度モニタ32の出力に基づいて第2レーザ光L2の受光強度Rxを取得あるいは算出する(ステップ103)。
【0061】
続いて、制御部40は、第2レーザ光L2の受光強度Rxが、所定の強度範囲に達しているか否かを判定する(ステップ104)。所定の強度範囲とは、典型的には、望遠鏡10による受信信号の信号処理を適切に行うのに必要な第2レーザ光L2の強度範囲をいい、任意の一点(ターゲット値)であってもよいが、制御の安定性を高めるため、本例では上記ターゲット値を中心とする所定範囲に設定される。
【0062】
第2レーザ光L2の受光強度Rxが所定の強度範囲内であるときは、大気の揺らぎに変動がないものとみなすことができる。したがって、この場合、制御部40は、第1レーザ光L1の現在の出射条件(ビーム拡がり角、送信パワー(Tx))をそのまま維持し(ステップ105,106)、上述のステップ101~106の処理(以下、第1のループ処理ともいう)を繰り返す。
【0063】
なお上述の例では、第2レーザ光L2の受光強度Rxのみを監視対象として第1のループ処理を実行したが、これに限られず、
図16に示すように、第2レーザ光L2のビームワンダw及び第2レーザ光L2の受光強度Rxの双方を監視対象として第1のループ処理を実行してもよい(後述する第2のループ処理についても同様)。この場合、例えば、ステップ102とステップ103との間に第2のレーザ光L2のビームワンダwを算出する処理102aが追加される(
図16参照)。第2のレーザ光L2のビームワンダwは、ステップ102で取得されたフリードパラメータ、第2レーザ光L2のレーザ波長とビーム径、伝播距離等に基づいて算出することができる。
【0064】
(第2のループ処理)
第2レーザ光L2の受光強度が所定強度範囲に収まらない要因として、大気揺らぎが経時的に変動し、これにより宇宙機Sへ到達する第1レーザ光L1の強度が減衰し、宇宙機Sで捕捉される第1レーザ光L1の到来方向を精度よく検出することができなくなったことが挙げられる。そこで、第2のループ処理においては、宇宙機Sが第1レーザ光L1の到来方向を精度よく検出することができるように、送信部20から出射される第1レーザ光L1の拡がり角及び送信パワーTxが補正される。
【0065】
制御部40は、第2レーザ光L2の受光強度が所定の強度範囲内ではないと判定したとき、第2のループ処理(ステップ108~112)を実行する。本実施形態では、第2のループ処理が所定値を超えて連続してN回繰り返されたとき、
図15に示す第3のループ処理が実行される(ステップ107)。
【0066】
制御部40は、第2レーザ光L2の受光強度が所定の強度範囲未満であるか否かを判定する(ステップ108)。そして、ステップ108における判定結果が「Yes」の場合、制御部40は、第1レーザ光L1のビーム拡がり角を現在値のn(nは1より大きい正数)倍大きく、送信パワー(Tx)が現在値のn2倍大きくするための制御信号を生成し、これを送信部20へ出力する(ステップ109,110)。
【0067】
これにより、第1レーザ光L1のビーム幅が広げられるため、宇宙機Sへ到達する第1レーザ光L1の光量を高めることができる。その結果、宇宙機Sで捕捉される第1レーザ光L1の到来方向を精度よく検出することができるため、宇宙機Sから空間光通信装置Gへ向けて送信される第2レーザ光L2の方向精度が高まり、その受光強度Rxを高めることができる。また、ビーム拡がり角の拡大に合わせて送信パワーTxも同時に増大させるため、ビーム拡がり角の拡大に伴う単位面積当たりの光エネルギの低下が抑えられる。
【0068】
第1レーザ光L1の拡がり角は、送信部20のレンズユニット222における各レンズ間距離を調整することで任意の大きさに変更でき、送信パワーTxは、送信部20の増幅器24を調整することで任意の大きさに変更できる。
【0069】
nの値は固定値でもよいし、第2レーザ光L2の受光強度Rx(あるいは、ビームワンダw)の所定範囲からのシフト量に対応して予め定められた可変値であってもよい。nの値は、ビーム拡がり角及び送信パワーの制御量として同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。また、nの値は、ステップ101において取得した大気の揺らぎに関する情報やステップ102において取得したフリードパラメータ等から、所定のテーブルあるいはアルゴリズムに基づいて動的に変化させてもよい。
【0070】
nの値は特に限定されず、典型的には、1.5以上10以下の数値であり、望ましくは、2以上5以下である。大気の状態にもよるが、nの値が1.5未満の場合には、宇宙機Sが第1レーザ光L1を捕捉する効果が十分とはいえない場合がある。また、nの値が10を超える場合には、第1レーザ光L1の送信パワーが過大となり、空間光通信装置Gにおける電力の効率的な運用に支障をきたす可能性がある。
【0071】
なお、ステップ108における判定結果が「No」の場合、制御部40は、第1レーザ光L1のビーム拡がり角を現在値のn(nは1より大きい正数)倍小さく、送信パワー(Tx)が現在値のn2倍小さくするための制御信号を生成し、これを送信部20へ出力する(ステップ112,113)。これにより、第1レーザ光L1のビーム幅が狭められるとともに送信パワーも低減されるため、第1レーザ光L1の過剰出力を抑えることができる。
【0072】
制御部40は、上述の第2のループ処理の実行後、第1のループ処理を再度実行する。制御部40は、第2レーザ光L2の受光強度Rx(あるいは、受光強度Rxおよびビームワンダw(
図16))がそれぞれ所定範囲に収まるまで、第2のループ処理を繰り返し実行する。
【0073】
以上のように、時々刻々と変化する大気状態に応じてアップリンク用の第1レーザ光L1の出射条件をリアルタイムで補正することで、宇宙機Sから送信される第2レーザ光L2の安定した受信を維持することができる。したがって本実施形態によれば、時々刻々と変化する大気状態に追従可能な適応性の高い空間光通信を実現することができる。
【0074】
一方、上述の第2のループ制御を複数回実行しても、第2レーザ光L2の受光強度Rxが所定強度範囲にならない場合がある。そこで本実施形態では、第2のループ処理をN回連続して実行した後でも受光強度Rxが所定範囲に入らない場合(ステップ108において「Yes」)、制御部40は、第3のループ処理を実行するように構成される。Nの値は任意に設定可能であり、例えば、3以上の自然数に設定される。
【0075】
(第3のループ処理)
上述の第2のループ処理を実行しても第2レーザ光L2の受光強度Rxが所定範囲に収まらない要因として、送信部20から出射される第1レーザ光L1が大気状態あるいはその変動により目標地点(宇宙機S)へ適切に到達していないことが挙げられる。そこで、第3のループ処理においては、第1レーザ光L1が目標地点へ適切に到達するように、送信部20からの第1レーザ光L1の出射方向が修正される。
【0076】
第3のループ処理では、
図15に示すように、制御部40は、ビームモニタ33から第1レーザ光L1の大気での散乱光L1sx,L1syの撮像データを取得する(ステップ201)。制御部40は、ビームモニタ33のカメラ336による撮影画像から、X面及びY面(
図9参照)における第1レーザ光L1の散乱光L1sのビームポジション(送信部20からの出射方向。以下同じ)を検出する(ステップ202,203)。
図9に示した例では、X面におけるビームポジションは、カメラ336へ直接的に入射する散乱光L1sxの画像から求められ、Y面におけるビームポジションは、X軸上に設置された第3ミラー334を介してカメラ336へ入射する散乱光L1syの画像から求められる。
【0077】
制御部40は、上記X面及びY面のビームポジションから与えられた第1レーザ光散乱光L1sの2次元座標をそれぞれ計算し、決定する(ステップ204,205、
図10)。これにより、X面及びY面の各面における第1レーザ光L1の伝播方向を把握でき、これらを重ね合わせることで上空のどの地点に第1レーザ光L1が位置するかを推定することができる。
【0078】
制御部40は、X面及びY面におけるビームポジションから第1レーザ光L1が目標地点に向かって進行しているか否かを判定する(ステップ206)。ここでの判定結果が「No」の場合、制御部40は、X面及びY面のうち少なくとも1つの面においてビームポジションが当初の設定値よりも所定方向にシフトしていると判断したとき、当該シフト量を消失させる方向に送信部20の出射ミラー223を調整する(ステップ207,208,209)。これにより、第1レーザ光L1の宇宙機Sへの到達精度が高まる結果、宇宙機Sから送信される第2レーザ光L2の受光強度Rxの向上を図ることができる。
【0079】
なお、X面及びY面におけるビームポジションから第1レーザ光L1が目標地点に向かって進行していると判定された場合(ステップ206において「Yes」)、受光強度Rxの低下が別の要因に基づくものと判断されるため、制御部40は、第1レーザ光L1の出射方向を現状の設定値に維持したまま処理を終了する(ステップ210)。
【0080】
以上のように本実施形態の空間光通信装置Gは、宇宙機Sからのダウンリンク(第2レーザ光L2)の受光強度Rxが目標値となるようにアップリンク(第1レーザ光L1)の出射条件を自動的に補正する。これにより、時々刻々と変化する大気状態に追従して、アップリンクの最適化を図ることができ、これにより大気影響によらずに安定した通信品質を確保することができる。
【0081】
また本実施形態によれば、シーイングモニタ31及び受光強度モニタ32が宇宙機Sを追尾する望遠鏡10と一体的に取り付けられているため、上述したダウンリンクに基づくアップリンク最適化制御の信頼性を高めることができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0083】
例えば以上の実施形態では、宇宙機との光通信を例に挙げて説明したが、これに限られない。例えば、地球大気を伝送路に挟んで宇宙機と地上局間においてレーザにより距離計測するシステム(光衛星測距、能動デブリ観測)、地球大気を伝送路に挟んで宇宙機と受電設備間においてレーザによりエネルギを伝送するシステム(光エネルギ伝送)等にも、本発明は適用可能である。また、空間光通信装置に用いるレーザについて、典型例である赤外線レーザとして説明してきたが、これに限るものではなく、可視光を用いてもよい。
【0084】
また、以上の実施形態では、第1検出部としてのシーイングモニタ31、第2検出部としての受光強度モニタ32等が望遠鏡10の外周部に一体的に取り付けられた例を説明したが、これらの検出部を望遠鏡の内部に設置することも可能である。また、第2検出部としての受光強度モニタは、望遠鏡において集光されたダウンリンクレーザ光の受光センサで構成されてもよい。
【0085】
さらに以上の実施形態では、大気の状態(シーイングモニタ31の出力)と第2レーザ光L2の受光強度(受光強度モニタ32の出力)とに基づいて第1レーザ光L1の拡がり角及び出射強度を制御するように構成されたが、これに限られない。例えば、第2レーザ光L2の受光強度のみに基づいて第1レーザ光L1の上記条件を制御するようにしてもよい。
同様に、第1レーザ光L1の出射方向(ビームポジション)の検出に
図8~
図11に示したビームモニタ33を用いたが、これに限られず、第1レーザ光L1の出射方向を検出可能な他の構成のビームモニタが採用されてもよい。
【符号の説明】
【0086】
10…望遠鏡
20…送信部
31…シーイングモニタ(第2検出部)
32…受光強度モニタ(第1検出部)
33…ビームモニタ(第3検出部)
34…観測器
40…制御部
G…空間光通信装置
L1…第1レーザ光(アップリンク)
L2…第2レーザ光(ダウンリンク)
S…宇宙機