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7123344印刷済みシートの脱墨方法、及び再生紙の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】印刷済みシートの脱墨方法、及び再生紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 38/18 20060101AFI20220816BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220816BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20220816BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220816BHJP
   D21C 5/02 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B32B38/18 E
C08K3/013
C08L23/02
C08L101/00
D21C5/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020200302
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022088063
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】笹川 剛紀
(72)【発明者】
【氏名】出井 晃治
(72)【発明者】
【氏名】林 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直也
(72)【発明者】
【氏名】宮本 蒼
(72)【発明者】
【氏名】奈木 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】杉山 卓己
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-105000(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第0510954(EP,A1)
【文献】特開2008-121138(JP,A)
【文献】特開2013-057142(JP,A)
【文献】特開平11-181689(JP,A)
【文献】特開平10-292279(JP,A)
【文献】特開2004-190149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 38/18
C08K 3/013
C08L 101/00
C08L 23/02
D21C 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷済みシートの脱墨方法であって、
前記印刷済みシートが、基材と、前記基材の片面又は両面に積層されたコート層と、を有し、
前記基材が、熱可塑性樹脂及び無機物質粉末を含み、
前記脱墨方法が、脱墨剤の存在下で前記印刷済みシートからインキを剥離させる剥離工程と、剥離した前記インキをフローテーションによって分離除去する分離除去工程と、を含み、
前記脱墨剤が、下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤を含む、
脱墨方法。
RO-(EO)n-H (1)
(式(1)中、Rは炭素数9~11の分岐型アルコール由来のアルキル基を表し、nはエチレンオキシド(EO)の付加モル数を表し、nは5~8である。)
【請求項2】
前記剥離工程及び前記分離除去工程が、前記脱墨剤、水酸化ナトリウム、及びエチドロン酸の存在下で行われる、請求項1に記載の脱墨方法。
【請求項3】
前記基材は、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末と、を質量比50:50~10:90の割合で含む、請求項1又は2に記載の脱墨方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂からなる、請求項1から3の何れかに記載の脱墨方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂及び/又はポリエチレン樹脂からなる、請求項4に記載の脱墨方法。
【請求項6】
前記コート層は、アクリル系ポリマーからなる、請求項1から5の何れかに記載の脱墨方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の脱墨方法を含む、再生紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷済みシートの脱墨方法、及び再生紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、環境保護等の観点から、古紙の再生利用が試みられている。古紙の再生に際しては、紙に印刷されているインキを除去する必要があり、このような工程は「脱墨」として知られる。
【0003】
脱墨の方法としては、「フローテーション」と呼ばれる方法が知られる。この方法では、薬剤によって紙から剥離させたインキを気泡の表面に吸着させることで、紙とインキとを分離する。フローテーションにおいて用いられる薬剤(脱墨剤)は種々開発されている(例えば、特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-186985号公報
【文献】特開平6-257083号公報
【文献】特開平6-257086号公報
【文献】特開2019-35172号公報
【文献】特開2019-35173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らは、古紙の種類によっては従来の方法では十分に脱墨できないことを見出した。
特に、古紙が熱可塑性樹脂等の樹脂を含むものである場合、従来の脱墨剤を用いた方法ではほとんど脱墨できないことを見出した。
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂を含む印刷済みシートに対する脱墨方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の非イオン性界面活性剤を脱墨剤として用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 印刷済みシートの脱墨方法であって、
前記印刷済みシートが、基材と、前記基材の片面又は両面に積層されたコート層と、を有し、
前記基材が、熱可塑性樹脂及び無機物質粉末を含み、
前記脱墨方法が、脱墨剤の存在下で前記印刷済みシートからインキを剥離させる剥離工程と、剥離した前記インキをフローテーションによって分離除去する分離除去工程と、を含み、
前記脱墨剤が、下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤を含む、
脱墨方法。
RO-(EO)n-H (1)
(式(1)中、Rは炭素数9~11の分岐型アルコール由来のアルキル基を表し、nはエチレンオキシド(EO)の付加モル数を表し、nは5~8である。)
【0009】
(2) 前記剥離工程及び前記分離除去工程が、前記脱墨剤、水酸化ナトリウム、及びエチドロン酸の存在下で行われる、(1)に記載の脱墨方法。
【0010】
(3) 前記基材は、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末と、を質量比50:50~10:90の割合で含む、(1)又は(2)に記載の脱墨方法。
【0011】
(4) 前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂からなる、(1)から(3)の何れかに記載の脱墨方法。
【0012】
(5) 前記ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂及び/又はポリエチレン樹脂からなる、(4)に記載の脱墨方法。
【0013】
(6) 前記コート層は、アクリル系ポリマーからなる、(1)から(5)の何れかに記載の脱墨方法。
【0014】
(7) (1)から(6)の何れかに記載の脱墨方法を含む、再生紙の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱可塑性樹脂を含む印刷済みシートに対する脱墨方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに特に限定されない。
【0017】
<脱墨方法>
本発明の脱墨方法は、以下の要件を全て満たす印刷済みシートの脱墨方法である。
(要件1)印刷済みシートが、基材と、該基材の片面又は両面に積層されたコート層と、を有する。
(要件2)基材が、熱可塑性樹脂及び無機物質粉末を含む。
(要件3)脱墨方法が、脱墨剤の存在下で印刷済みシートからインキを剥離させる剥離工程と、剥離した該インキをフローテーションによって分離除去する分離除去工程と、を含む。
(要件4)脱墨剤が、下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤を含む。
RO-(EO)n-H (1)
(式(1)中、Rは炭素数9~11の分岐型アルコール由来のアルキル基を表し、nはエチレンオキシド(EO)の付加モル数を表し、nは5~8である。)
【0018】
上記要件1及び2に規定される構成を有するシートは、合成紙(熱可塑性樹脂等の樹脂を含む紙)の一種であり、主成分がセルロースであるパルプを原料とする紙とは異なるものである。
本発明者らの検討の結果、従来の脱墨方法は、パルプを原料とする紙に付着したインキを脱墨することができても、上記要件1及び2を満たすシートのインキはほとんど脱墨できないことを見出した。
従って、従来は、上記要件1及び2を満たすシートの再生利用が困難であった。
【0019】
本発明者による更なる検討の結果、意外にも、要件4に規定される成分、すなわち、上記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤を含む脱墨剤(以下、「本発明における脱墨剤」ともいう。)を用いることで、上記要件1及び2を満たすシートを良好に脱墨できることを見出した。
【0020】
本発明の効果が奏されるメカニズムは定かではないが、以下のように推察される。
まず、上記要件1及び2を満たす印刷済みシートにおいて、インキは、通常コート層に付着している。
本発明者らは、本発明における脱墨剤はコート層に浸透しやすく、その結果、コート層を脆くし、さらには基材から剥離させやすくすることを見出した。
そのため、通常実施される脱墨方法(すなわち、要件3を満たす方法)において、本発明における脱墨剤を用いることで、上記要件1及び2を満たす印刷済みシートを良好に脱墨できることがわかった。具体的には、本発明における脱墨剤によれば、コート層をインキとともに基材から剥離させることができる。そして、剥離させたコート層及びインキを、フローテーションによって分離除去することで、印刷済みシートを脱墨し、再生利用することができる。
【0021】
本発明において「脱墨」とは、印刷済みシートに付着したインキの一部又は全てをシートから除去することを意味する。
印刷済みシートからインキが除去されたかどうかは、シート表面のインキ残りの有無や程度を目視観察すること等で特定される。十分に脱墨されたシートは、通常、基材の色(白色等)のみを呈する。
【0022】
以下、本発明の脱墨方法の詳細を説明する。
【0023】
(1)印刷済みシート
本発明の脱墨対象である印刷済みシートは、上記要件1及び2を満たすものであれば特に限定されず、任意の古紙(合成紙)等を使用できる。
【0024】
印刷済みシートは、基材と、該基材の片面又は両面に積層されたコート層と、を有する。コート層は、基材表面の一部又は全部に積層されている。
【0025】
印刷済みシートの表面(特にコート層)には、任意の印刷方法によって、インキが付着している。インキは任意の着色剤であり得る。
【0026】
印刷済みシートは、任意の方法で基材とコート層とを積層させたものであり得る。
【0027】
(基材)
基材は、熱可塑性樹脂及び無機物質粉末を含み、好ましくは熱可塑性樹脂及び無機物質粉末からなる。
【0028】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂は、合成紙の原料として通常採用されるものであれば特に限定されないが、好ましくはポリオレフィン樹脂を含み、より好ましくはポリオレフィン樹脂からなる。
【0029】
ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂である。なお、「オレフィン成分単位を主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上含まれることを意味し、その含有量は好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0030】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。基材に含まれるポリオレフィン樹脂は、好ましくはポリプロピレン樹脂及び/又はポリエチレン樹脂を含み、より好ましくはポリプロピレン樹脂及び/又はポリエチレン樹脂からなる。
【0031】
[無機物質粉末]
無機物質粉末は、合成紙の原料として通常採用されるものであれば特に限定されないが、好ましくは炭酸カルシウムを含み、より好ましくは炭酸カルシウムからなる。
【0032】
[熱可塑性樹脂と無機物質粉末との比率]
熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との質量比は特に限定されないが、好ましくは、熱可塑性樹脂:無機物質粉末=50:50~10:90である。該質量比は、好ましくは40:60~20:80、より好ましくは40:60~25:75である。
【0033】
基材に含まれる熱可塑性樹脂及び無機物質粉末の合計量は、特に限定されないが、基材全体に対し、好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0034】
[その他の成分]
基材には、通常合成紙に配合され得るその他の成分(例えば、可塑剤等)が含まれていてもよい。
【0035】
(コート層)
コート層は、合成紙において通常採用されるものであれば特に限定されないが、本発明の効果を奏しやすいという観点から、好ましくはアクリル系ポリマーを含み、より好ましくはアクリル系ポリマーからなる。
【0036】
アクリル系ポリマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
【0037】
(2)剥離工程及び分離除去工程
古紙の脱墨は、通常、インキを紙から剥離する工程と、剥離したインキをフローテーションによって系外へ除去する工程と、からなることが知られる。
本発明の脱墨方法は、脱墨剤の存在下で印刷済みシートからインキを剥離させる剥離工程と、剥離した該インキをフローテーションによって分離除去する分離除去工程とを含む。これらの工程では、本発明における脱墨剤を使用する点以外は、従来知られるフローテーション法における条件を採用できる。
【0038】
印刷済みシートは、剥離工程及び分離除去工程に供する際に、処理しやすい大きさ(5~10mm角)に裁断してもよい。
【0039】
剥離工程においては、本発明における脱墨剤と、印刷済みシートとを接触させる。この工程により、印刷済みシートから、コート層とともにインキが剥離する。
【0040】
通常、剥離工程においては媒体として水(脱イオン水、水道水等)を用いる。
【0041】
剥離工程において、本発明における脱墨剤の使用量は特に限定されないが、通常、媒体に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0042】
剥離工程において、本発明における脱墨剤に対する印刷済みシートの量が少ないほど、インキの剥離効果を高めやすく、さらには、シートへのインキの再付着を防ぎやすい傾向にある。
例えば、本発明における脱墨剤に対する印刷済みシートの質量比は、好ましくは、本発明における脱墨剤:印刷済みシート=99:1~50:50である。
【0043】
分離除去工程においては、本発明における脱墨剤及び媒体を撹拌等によって発泡させた状態で、脱墨剤によってシートから剥離したインキを、脱墨剤とともに泡に吸着させ、インキを系外に分離除去する。この工程は、フローテーションとも呼ばれる。
【0044】
分離除去工程において、発泡のための手段としては特に限定されないが、ディスパー等の攪拌機を使用できる。
【0045】
剥離工程及び分離除去工程は、通常同時に行われる。
【0046】
剥離工程及び分離除去工程を同時に行う場合、その方法としては、発泡させた状態の本発明における脱墨剤(媒体との混合物)へ印刷済みシートを投入し、泡と印刷済みシートとを接触させる方法等を採用できる。
【0047】
剥離工程及び分離除去工程を同時に行う場合、特に限定されないが、処理時間は通常5~30分間、処理温度は通常40~80℃である。
【0048】
剥離工程及び分離除去工程の完了後、必要に応じてシートを水洗、乾燥等を行い、脱墨されたシートを得ることができる。
【0049】
(本発明における脱墨剤)
本発明における脱墨剤は、下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤を含む。
RO-(EO)n-H (1)
(式(1)中、Rは炭素数9~11の分岐型アルコール由来のアルキル基を表し、nはエチレンオキシド(EO)の付加モル数を表し、nは5~8である。)
【0050】
一般式(1)においてRで表されるアルキル基としては、2,6-ジメチルヘプチル基、2-メチルオクチル基、1-ブチルペンチル基、7-メチルオクチル基(イソノニル基)、3,7-ジメチルオクチル基、4-メチルノニル基、3-エチルオクチル基、2,2-ジエチルヘキシル基、8-メチルノニル基(イソデシル基)、2,2-ジメチルノニル基、2-メチルデシル基、2,3,7-トリメチルオクチル基、1-メチルデシル基、及び9-メチルデシル基(イソドデシル基)等が挙げられ、イソノニル基、イソデシル基及びイソドデシル基等が好ましい。
【0051】
一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤は、特開2001-342156号公報等に記載の公知の方法で炭素数9~11の分岐型アルコール(1モル)に対してエチレン5~8モルのエチレンオキサイドを付加することにより得ることが出来る。
【0052】
(その他の成分)
剥離工程及び分離除去工程においては、本発明における脱墨剤及び媒体とともに、本発明の効果を阻害しない範囲内でその他の成分を用いてもよい。このような成分の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0053】
その他の成分としては、アルカリ剤(水酸化ナトリウム等)、キレート剤(エチドロン酸等)が挙げられる。
本発明の効果を奏しやすいという観点から、剥離工程及び分離除去工程は、脱墨剤、水酸化ナトリウム、及びエチドロン酸の存在下で行うことが好ましい。
【0054】
なお、キレート剤は、本発明における脱墨剤が有する界面活性剤機能を抑制するイオンを捕捉し、本発明の効果を高めることができる。ただし、このようなイオンは、特に水道水に含まれるものであり、媒体がイオン交換水である場合はキレート剤を配合しなくともよい。
【0055】
<再生紙の製造方法>
本発明は、上記脱墨方法を含む、再生紙の製造方法も包含する。該製造方法においては、従来知られる再生紙の製造方法における条件を採用できる。
【実施例
【0056】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明の概念及び範囲の理解を容易なものとするうえで、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するものである。従って、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
<印刷済みシートの準備>
印刷済みシートとして、様々な色のインキによって印刷された合成紙を準備した。この合成紙は、基材、及び、基材の少なくとも片面に積層されたコート層からなる。
合成紙の基材は、ポリプロピレン樹脂(熱可塑性樹脂に相当する。)と、炭酸カルシウム(無機物質粉末に相当する。)の混合物からなる。これらの質量比は、ポリプロピレン樹脂:炭酸カルシウム=30:70である。
合成紙のコート層は、メタクリル酸メチル(アクリル系ポリマーに相当する。)からなる。
【0058】
印刷済みシートを以下の剥離工程及び分離除去工程に供する前に、シートを5~10mm角程度に裁断した。
【0059】
<剥離工程及び分離除去工程>
以下の方法によって印刷済みシートを脱墨した。
【0060】
表1の「洗浄液の組成」の項に示す組成を有する各洗浄液(100g)を容器に入れ、60℃で保温した。
次いで、ディスパー(1400rpm)によって洗浄液を発泡させた後、ディスパーによる撹拌を続けたまま、印刷済みシートを、表1の「印刷済みシートの処理量」の項に示す量で容器内に入れ、洗浄液の泡と30分間接触(フローテーションに相当する。)させた。
本例は、剥離工程及び分離除去工程を同時に行う態様に相当する。
【0061】
なお、表1中、用いた成分の詳細は以下のとおりである。
イオン性界面活性剤:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
非イオン性界面活性剤-1:R-O-(PO)-[(EO)49/(PO)20]-(PO)-H(Rは炭素数18のアルキル基、EOはエチレンオキシ基、POはプロピレンオキシ基)
非イオン性界面活性剤-2:イソデシルアルコールのエチレンオキサイド(6モル)付加物
キレート剤:エチドロン酸
アルカリ剤:水酸化ナトリウム
【0062】
なお、「非イオン性界面活性剤-1」は、パルプを主原料とする紙に対する脱墨剤として知られる成分であり、特開2019-035173号公報の合成例1と同様に行って得た非イオン性界面活性剤である。
【0063】
「非イオン性界面活性剤-2」は、以下の方法で製造した。
<非イオン性界面活性剤―2の製造方法>
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、イソデカノール(商品名:デカノール、KHネオケム製)158重量部(1モル部)及び水酸化カリウム0.1部を投入し、耐圧反応容器内を窒素で置換し反応容器を密閉した。反応容器内を70℃まで加熱昇温し、70℃で1時間、反応容器内を減圧して内容物の脱水を行った。続いて反応容器内の温度を130℃まで昇温し、反応容器内の圧力が0.2MPaGを超えないように調整しながらエチレンオキサイド264重量部(6モル部)を5時間かけて滴下した。続いて、130℃を維持したまま撹拌を2時間続けてエチレンオキサイドの反応を行い、30℃に冷却した後、酢酸0.1部を投入してイソデカノールへのエチレンオキサイドの付加反応を完了させ、非イオン性界面活性剤-2を得た。
【0064】
フローテーション後、印刷済みシートを、洗浄液が完全に除去されるまで水で洗い流し、乾燥させた。
乾燥後、印刷済みシートの表面を目視観察、及び走査電子顕微鏡(SEM)観察した。目視観察では、インキ残りの有無や程度を観察した。
【0065】
目視観察の結果を表1の「インキ残り」の項に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示されるとおり、本発明における脱墨剤は、合成紙に対して顕著な脱墨効果を奏することがわかった。
【0068】
また、SEM観察の結果、実施例1~3の印刷済みシートはいずれもコート層が認められなかった。一方で、比較例の印刷済みシートにはコート層が基材表面に残っていた。
このことから、本発明の脱墨方法は、インキが付着したコート層を基材から剥離させることによってインキを脱墨するものと推察された。
【0069】
実施例1~3の比較から、洗浄液(本発明における脱墨剤の量)に対する印刷済みシートの量が少ないほど脱墨効果が高まりやすいことがわかった。