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特許7123346生体適合性材料、コーティング組成物、コーティング膜及び物品
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  • 特許-生体適合性材料、コーティング組成物、コーティング膜及び物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】生体適合性材料、コーティング組成物、コーティング膜及び物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 123/36 20060101AFI20220816BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20220816BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220816BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20220816BHJP
   C09D 127/20 20060101ALI20220816BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220816BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220816BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20220816BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20220816BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20220816BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20220816BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220816BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20220816BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20220816BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 9/00 20060101ALN20220816BHJP
   A61P 11/00 20060101ALN20220816BHJP
【FI】
C09D123/36
C09D127/12
C09D7/20
C09D127/18
C09D127/20
B32B27/30 D
B05D7/24 302L
A61L27/34
A61L27/50 300
A61L29/08 100
A61L29/12
A61L27/40
A61L31/10
A61L31/12
A61L33/06 200
A61P9/00
A61P11/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021016373
(22)【出願日】2021-02-04
(62)【分割の表示】P 2017525289の分割
【原出願日】2016-06-16
(65)【公開番号】P2021091908
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2015121356
(32)【優先日】2015-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】谷原 正夫
(72)【発明者】
【氏名】安藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 匡康
(72)【発明者】
【氏名】大向 吉景
(72)【発明者】
【氏名】神原 將
(72)【発明者】
【氏名】田中 義人
(72)【発明者】
【氏名】毛利 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】三木 淳
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-511733(JP,A)
【文献】特表2012-519540(JP,A)
【文献】特開平1-108270(JP,A)
【文献】Pucheng Wang et al.,"Synthesis and properties of a well-defined copolymer of chlorotrifluoroethylene and N-vinylpyrrolidone by xanthate-mediated radical copolymerization under 60Co γ-ray irradiation",Polymer Chemistry,2014年,Vol.5,p.6358-6364
【文献】G. A. BOFFA et al.,"Polytetrafluoroethylene-N-Vinylpyrrolidone Graft Copolymers: Affinity with Plasma Proteins",Journal of Biomedical Materials Research,1977年,Vol.11,p.317-337
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
BIOSIS(STN)
EMBASE(STN)
MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマーからなる生体適合性材料、及び、有機溶剤からなるコーティング組成物であって、
前記フルオロポリマーは、フルオロオレフィンとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体であり、フルオロオレフィン単位が65~5モル%であり、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が35~95モル%であり、
前記有機溶剤は、メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-ブタノール、1-ブタノール、1-ヘキサノール、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド及びジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
フルオロオレフィンは、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のコーティング組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のコーティング組成物を塗布して得られることを特徴とするコーティング膜。
【請求項4】
請求項1又は2記載のコーティング組成物を塗布して得られるコーティング膜を備えることを特徴とする物品。
【請求項5】
医療用具又は医療用容器である請求項4記載の物品。
【請求項6】
請求項4又は5記載の物品であって、抗血栓用、バイオ医薬用、抗菌用、細胞培養用、又は、抗タンパク吸着用に使用することを特徴とする物品。
【請求項7】
請求項4、5又は6記載の物品であって、フィルム、シート、チューブ、バッグ、シャーレ、ディッシュ、ウェル、又は、バイアル瓶であることを特徴とする物品。
【請求項8】
請求項1又は2記載のコーティング組成物を塗布する工程を含むことを特徴とするコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性材料に関する。また、本発明は、上記生体適合性材料からなるコーティング組成物、コーティング膜及び物品にも関する。
【背景技術】
【0002】
人工材料を生体成分と接触させると、タンパク質や血小板などが表面に付着し、材料の性能低下や生体反応への悪影響等の問題が生じるおそれがある。そのため、生体成分と接触させる用途に用いられる人工材料には表面の生体適合性が強く求められる。
【0003】
非特許文献1には、クロロトリフルオロエチレンとN-ビニルピロリドンとの共重合体及びポリビニルピロリドンからなるフッ素化両親媒性ブロック共重合体が良好な生体適合性を示すことが記載されている。
【0004】
特許文献1には、フッ素化モノマーと親水性モノマーを有する生体適合性ポリマーが記載されており、上記親水性モノマーとして、ビニルピロリドン等が例示されている。
【0005】
このように、非特許文献1及び特許文献1には、生体適合性を有する人工材料として、フッ素化モノマーとビニルピロリドンとの共重合体が記載されている。これらの他、フッ素化モノマーとビニルピロリドンとの共重合体としては、次の共重合体が公知であるが、生体適合性の有無は不明である。
【0006】
例えば、特許文献2には、フルオロオレフィン、N-ビニル-ラクタム化合物、架橋可能な官能基を有する単量体およびこれらと共重合可能な単量体がそれぞれ30~70モル%、70~5モル%、2~40モル%、0~63モル%の割合で共重合した含フッ素共重合体が記載されている。
【0007】
非特許文献2には、クロロトリフルオロエチレンとN-ビニルピロリドンとの共重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5142718号公報
【文献】特開平1-108270号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Pucheng Wang、外5名、「Synthesis and properties of a well-defined copolymer of chlorotrifluoroethylene and N-vinylpyrrolidone by xanthate-mediated radical copolymerization under 60Co γ-ray irradiation」、Polymer Chemistry、2014年、第5巻、p.6358-6364
【文献】CAO JIN、外2名、「Radiation-Induced Copolymerization of N-Vinylpyrrolidone with Monochlorotrifluoroethylene」、J. Macromol. Sci. Chem., 1985年、A22(3)、p.379-386
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、改善された生体適合性を有する新規な生体適合性材料、コーティング膜及び物品を提供することを目的とする。
【0011】
より詳細には、本発明は、タンパク質、血液成分、細胞又は細菌が付着しにくい生体適合性材料、コーティング膜及び物品を提供することを目的とする。
【0012】
更に、本発明は、生体適合性を有するコーティング膜を形成することができるコーティング組成物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、フルオロオレフィン単位及びアミド結合を有する重合性ビニル化合物単位を極めて限定された量で含むフルオロポリマーが、優れた生体適合性を示すことを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち本発明は、フルオロポリマーからなる生体適合性材料であって、上記フルオロポリマーは、フルオロオレフィンとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体であり、フルオロオレフィン単位が65~5モル%であり、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が35~95モル%であることを特徴とする生体適合性材料である。
【0015】
上記フルオロオレフィンは、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
本発明は、上述の生体適合性材料及び有機溶剤からなることを特徴とするコーティング組成物でもある。
【0017】
本発明は、上述の生体適合性材料からなることを特徴とする物品でもある。
【0018】
本発明は、上述の生体適合性材料を成形して得られることを特徴とする物品でもある。
【0019】
本発明は、上述の生体適合性材料、又は、上述のコーティング組成物を塗布して得られることを特徴とするコーティング膜でもある。
【0020】
本発明は、上述の生体適合性材料、又は、上述のコーティング組成物を塗布して得られるコーティング膜を備えることを特徴とする物品でもある。
【0021】
上記物品は、医療用具又は医療用容器であることが好ましい。
【0022】
本発明は、上述の物品であって、抗血栓用、バイオ医薬用、抗菌用、細胞培養用、又は、抗タンパク吸着用に使用することを特徴とする物品でもある。
【0023】
本発明は、上述の物品であって、フィルム、シート、チューブ、バッグ、シャーレ、ディッシュ、ウェル、又は、バイアル瓶であることを特徴とする物品でもある。
【0024】
本発明は、上述の生体適合性材料、又は、上述のコーティング組成物を塗布する工程を含むことを特徴とするコーティング方法でもある。
【発明の効果】
【0025】
本発明の生体適合性材料は、上記構成を有することから、改善された生体適合性を有しており、特に、タンパク質、血液成分、細胞又は細菌が付着しにくい。また、本発明の物品及びコーティング膜は、上記構成を有することから、生体適合性に優れており、特に、タンパク質、血液成分、細胞又は細菌が付着しにくい。
【0026】
本発明のコーティング組成物は、物品に生体適合性を与えるコーティング膜を形成することができる。
本発明のコーティング方法は、物品に生体適合性を与えるコーティング膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例11で得られた接着大腸菌の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例11で得られた接着大腸菌の拡大走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例12で得られた接着大腸菌の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】実施例12で得られた接着大腸菌の拡大走査型電子顕微鏡写真である。
図5】比較例6で得られた接着大腸菌の走査型電子顕微鏡写真である。
図6】比較例6で得られた接着大腸菌の拡大走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0029】
本発明の生体適合性材料は、フルオロポリマーからなり、上記フルオロポリマーがフルオロオレフィンとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体であって、上記共重合体が65~5モル%のフルオロオレフィン単位、及び、35~95モル%のアミド結合を有する重合性ビニル化合物単位を含むことを特徴とする。これらの特徴によって、本発明の生体適合性材料は、優れた生体適合性を有している。
【0030】
上記フルオロオレフィン単位は、上記共重合体を構成する全単量体単位に対して65~5モル%である。一層優れた生体適合性を示すことから、上記フルオロオレフィン単位は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上が更に好ましく、55モル%以下であることが好ましく、45モル%以下であることがより好ましく、40モル%以下であることが更に好ましい。
【0031】
上記アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位は、上記共重合体を構成する全単量体単位に対して35~95モル%である。一層優れた生体適合性を示すことから、上記アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位は、45モル%以上であることが好ましく、55モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることが更に好ましく、90モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがより好ましく、70モル%以下であることが更に好ましい。
【0032】
フルオロオレフィン単位が上記範囲より少なく、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が多い場合は、上記共重合体が水に可溶となり、実際の使用中に共重合体が水中に溶出するため好ましくない。
【0033】
本明細書において、フルオロオレフィン単位及びアミド結合を有する重合性ビニル化合物単位を含む共重合体を、フルオロオレフィン/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体と記載することがある。
【0034】
上記フルオロオレフィン/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体において、良好な生体適合性を得られることから、フルオロオレフィン単位とアミド結合を有する重合性ビニル化合物単位とのモル比(フルオロオレフィン単位/アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位)が、1.80~0.05であることが好ましく、0.11以上であることがより好ましく、0.25以上であることが更に好ましく、0.43以上であることがより更に好ましく、1.00以下であることがより好ましく、0.82以下であることが更に好ましく、0.67以下であることがより更に好ましい。
【0035】
上記フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、モノフルオロエチレン、フルオロアルキルビニルエーテル、フルオロアルキルエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、トリフルオロスチレン、及び、一般式:CH=CFRf(式中、Rfは炭素数1~12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基)で表されるフルオロオレフィンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、TFE、CTFE、フッ化ビニリデン及びHFPからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、耐熱性及び耐薬品性により一層優れ、タンパク質、血液成分、細胞又は細菌がより一層付着しにくいことから、TFE及びHFPからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
上記耐熱性は、次の方法により評価する。熱重量分析装置を用いて、上記フルオロポリマーを空気雰囲気下、10℃/minで600℃まで昇温する。一定重量部と重量減少部からそれぞれ接線を引き、交点を熱分解温度とする。
上記耐薬品性は、次の方法による重量減少率で評価する。上記重量減少率は、次の計算式により算出する値である。
重量減少率=100―(次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)水溶液に浸漬した後のフルオロポリマーの重量)/(NaClO水溶液に浸漬させる前のフルオロポリマーの重量)×100
NaClO水溶液に浸漬した後の重量は、フルオロポリマー(サンプル)を、5000ppmのNaClOを含む水溶液(pH13となる様に水酸化ナトリウムを添加して調製する)に、20℃で168時間浸漬させた後、フルオロポリマーを回収し、60℃で15時間乾燥して得られるフルオロポリマーの重量である。
なお、サンプルは13質量%のフルオロポリマーを含むポリマー溶液から、直径約58mmのシャーレ上にキャスト成膜したフィルムを使用する。
【0036】
上記重合性ビニル化合物は、アミド結合を有しており、アミド結合に加えて重合性ビニル基を有していることが好ましい。上記アミド結合は、カルボニル基と窒素原子の間の結合をいう。
上記重合性ビニル基としては、ビニル基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、アクリル基等が挙げられる。
【0037】
上記アミド結合を有する重合性ビニル化合物としては、N-ビニル-β-プロピオラクタム、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-γ-バレロラクタム、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-ヘプトラクタムなどのN-ビニルラクタム化合物、N-ビニルホルムアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミドなどの非環状のN-ビニルアミド化合物、N-アリル-N-メチルホルムアミド、アリル尿素などの非環状のN-アリルアミド化合物、1-(2-プロペニル)-2-ピロリドンなどのN-アリルラクタム化合物、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等のアクリルアミド化合物が挙げられる。
【0038】
上記アミド結合を有する重合性ビニル化合物としては、また、
【化1】
(式中、R及びRは独立にH又は炭素数1~10のアルキル基)で示される化合物、
【化2】
(式中、R及びRは独立にH又は炭素数1~10のアルキル基)で示される化合物等も挙げられる。
【0039】
なかでも、N-ビニルラクタム化合物又は非環状のN-ビニルアミド化合物が好ましく、N-ビニル-β-プロピオラクタム、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-γ-バレロラクタム、N-ビニル-2-ピペリドン、及び、N-ビニル-ヘプトラクタムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、N-ビニル-2-ピロリドン、及び、N-ビニル-2-ピペリドンからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、N-ビニル-2-ピロリドンが特に好ましい。
【0040】
上記フルオロオレフィン/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、フルオロオレフィン単位及びアミド結合を有する重合性ビニル化合物単位以外の他の単量体単位を有していてもよい。他の単量体単位としては、ビニルエステルモノマー単位、ビニルエーテルモノマー単位、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルモノマー単位、ポリエチレングリコールを側鎖に有するビニルモノマー単位、長鎖炭化水素基を有する(メタ)アクリルモノマー単位、長鎖炭化水素基を有するビニルモノマー単位等が挙げられる。他の単量体単位の合計は、0~50モル%であってもよく、0~40モル%であることが好ましく、0~30モル%であることがより好ましく、0~20モル%であることが更に好ましく、0~15モル%であることがより更に好ましく、0~10モル%であることが特に好ましく、0~5モル%であることが最も好ましい。
【0041】
上記フルオロオレフィン/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体は、実質的にフルオロオレフィン単位及びアミド結合を有する重合性ビニル化合物単位のみからなることが好ましい。
【0042】
上記フルオロオレフィン/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体は、重量平均分子量が10000以上であることが好ましい。より好ましくは、15000~500000であり、更に好ましくは、20000~300000である。上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0043】
上記フルオロオレフィン/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体は、ラジカル重合によって製造できる。製造プロセスの種類や媒体の種類・有無、重合反応系内の均一性等に関して特に限定されることはないが、例えば、溶液重合、乳化重合、ソープフリー重合、懸濁重合、沈殿重合、分散重合、塊状重合などにより製造できる。
【0044】
上記生体適合性材料からは生体適合性に優れた物品を製造できる。また、上記生体適合性材料は、物品の表面に生体適合性の膜を形成することができる。上記生体適合性材料は、コーティング膜であることが好適な態様の一つである。上記コーティング膜とは、上記生体適合性材料又は上記生体適合性材料からなるコーティング組成物を塗布することにより得られる膜をいう。上記コーティング膜の製膜方法としては、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップニップ法、スプレーコート法、刷毛塗り法、浸漬法、静電塗装法、インクジェットプリント法等が挙げられる。中でも、簡便性の点で、スピンコート法、ドロップキャスト法、浸漬法が好ましい。
【0045】
上記コーティング膜の膜厚は0.1~50μmであることが好ましく、0.5~30μmであることがより好ましく、1.0~20μmであることが更に好ましい。
【0046】
上記生体適合性材料及び有機溶剤からなることを特徴とするコーティング組成物も本発明の一つである。上記コーティング膜は、上記コーティング組成物を塗布することにより得られることが好ましい。
【0047】
上記有機溶剤としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-ブタノール、1-ブタノール、1-ヘキサノール、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が使用できる。なかでも、透明で均一なコーティング膜が容易に得られる点で、2-ブタノール、1-ブタノール、1-ヘキサノール、テトラヒドロフランが好ましい。また、上記生体適合性材料の溶解性の観点からは、メタノール、エタノール、2-プロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0048】
上記生体適合性材料は、優れた生体適合性を有することから、医療用具又は医療用容器を形成するための材料として好適に使用できる。また、上記生体適合性材料は、タンパク質、血液成分、細胞又は細菌が付着しにくいことから、タンパク質、血液成分、細胞又は細菌の付着を避けることが要求される種々の物品に適用できる。
【0049】
上記タンパク質としては、血漿タンパク質、後述するバイオ医薬等を挙げることができる。上記血漿タンパク質としては、アルブミン、グロブリン、フィブリノーゲン等が挙げられる。上記血液成分としては、血小板等を挙げることができる。
【0050】
上記物品は、上記生体適合性材料を公知の成形方法により成形して得られたものであってもよいし、上記生体適合性材料又は上記生体適合性材料からなるコーティング組成物を、医療用具又は医療用容器等の物品に塗布することにより得られたものであってもよい。また、上記物品は、上記コーティング膜を備えるものであってもよく、物品の表面に上記コーティング膜を備えるものであってもよい。
【0051】
上記生体適合性材料の成形方法及び塗布方法は特に限定されず、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップニップ法、スプレーコート法、刷毛塗り法、浸漬法、インクジェットプリント法、静電塗装法、圧縮成形法、押出成形法、カレンダー成形法、トランスファー成形法、射出成形法、ロト成形法、ロトライニング成形法、熱誘起相分離法、非溶媒誘起相分離法等が採用できる。
【0052】
上記生体適合性材料からなることを特徴とする物品、上記生体適合性材料を成形して得られることを特徴とする物品、上記生体適合性材料又は上記コーティング組成物を塗布して得られることを特徴とするコーティング膜、及び、上記生体適合性材料又は上記コーティング組成物を塗布して得られるコーティング膜を備えることを特徴とする物品は、いずれも、生体適合性に優れている。上記物品は、医療用具又は医療用容器として好適に利用できる。
【0053】
上記生体適合性材料又は上記コーティング組成物を塗布する工程を含むことを特徴とするコーティング方法も本発明の一つである。上記コーティング方法において、上記生体適合性材料又は上記コーティング組成物を物品の表面に塗布することが好ましい。上記コーティング方法によって、物品の表面に生体適合性に優れたコーティング膜を付与することができる。
【0054】
上記物品の形状は特に限定されず、フィルム、シート、チューブ、バッグ、シャーレ、ディッシュ、ウェル、又は、バイアル瓶であってよい。
【0055】
上記物品は、抗血栓用、バイオ医薬用、抗菌用、細胞培養用、又は、抗タンパク吸着用に好適に使用できる。上記物品であって、抗血栓用、バイオ医薬用、抗菌用、細胞培養用、又は、抗タンパク吸着用に使用することを特徴とする物品も本発明の一つである。
【0056】
上記抗血栓用物品としては、バイアル瓶、人工血管、ステント、カテーテル、人工心臓、人工肺、人工心弁、血液保存バッグ等が好ましい。
【0057】
上記バイオ医薬用物品としては、バイオ医薬用シート、バイオ医薬用フィルム、バイオ医薬用バイアル瓶、バイオ医薬用シャーレ、バイオ医薬用フラスコ等が挙げられる。
【0058】
バイオ医薬を保管するための器具やバイオ医薬を使用するための器具にバイオ医薬が吸着しやすいと、バイオ医薬を正確に定量できなかったり、正確な分析が困難になったりする。また、バイオ医薬は高価であるため、経済的損失も大きい。バイオ医薬用バッグ、バイオ医薬用シート、バイオ医薬用フィルム、バイオ医薬用バイアル瓶、バイオ医薬用シャーレ、又は、バイオ医薬用フラスコが、上述の生体適合性材料からなるものであると、バイオ医薬が吸着しにくく、バイオ医薬を高い回収率で回収することができる。
【0059】
上記バイオ医薬としては、タンパク質医薬品、遺伝子組み換えウイルス、細胞性治療薬、核酸医薬品等が挙げられる。
【0060】
上記タンパク質医薬品としては、(1)酵素類のタンパク質:アルテラーゼ、モンテブラーゼ、イミグルセラーゼ、ベラグルセラーゼ アルファ、アガルシダーゼ アルファ、アガルシダーゼ ベータ、ラロニダーゼ、アルグルコシダーゼ アルファ、イデュルスルファーゼ、ガルスルファーゼ、ラスブリカーゼ、ドルナーゼ アルファ、(2)血液凝固線溶系因子類のタンパク質:オクトコグ アルファ、ルリオクトコグ アルファ、エプタコグ アルファ(活性型)、ノナコグアルファ、ツロクトコグ アルファ、エフトレノナコグ アルファ、トロンボモデュリン アルファ、(3)血清タンパク質類:人血清アルブミン、(4)ホルモン類のタンパク質:ヒトインスリン、インスリン リスプロ、インスリン アスパルト、インスリン グラルギン、インスリン デテミル、インスリン グルリジン、インスリン デグルデク、インスリン デグルデク及びインスリン アスパルト、ソマトロピン、ペグビソマント、メカセルミン、カルペリチド、グルカゴン、ホリトロピン アルファ、フォリトロピン ベータ、リラグルチド、テリパラチド、メトレレプチン、(5)ワクチン類のタンパク質:組換え沈降B型肝炎ワクチン(酵母由来)、乾燥細胞培養不活化A型肝炎ワクチン、組換え沈降2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)、組換え沈降4価ヒトパピローマウイルス様粒ワクチン(酵母由来)、(6)インターフェロン類のタンパク質:インターフェロン アルファ(NAMALWA)、インターフェロン アルファ-2b、インターフェロン アルファ(BALL-1)、インターフェロン アルファコン-1、インターフェロン ベータ、インターフェロン ベータ-1a、インターフェロン ベータ-1b、インターフェロン ガンマ-1a、ペグインターフェロン アルファ-2a、ペグインターフェロン アルファ-2b、(7)エリスロポエチン類のタンパク質:エポエチン アルファ、エポエチン ベータ、ダルベポエチン アルファ、エポエチン ベータ ペゴル、エポエチン カッパ、(8)サイトカイン類のタンパク質:フィルグラスチム、ペグフィルグラスチム、レノグラスチム、ナルトグラスチム、セルモロイキン、テセロイキン、トラフェルミン、(9)抗体類のタンパク質:ムロモナブ-CD3、トラスツズマブ、リツキシマブ、パリビズマブ、インフリキシマブ、バシリキシマブ、トシリズマブ、ゲムツズマブ オゾガマイシン、ベバシズマブ、イブリツモマブ チウキセタン、アダリムマブ、セツキシマブ、ラニビズマブ、オマリズマブ、エクリズマブ、パニツムマブ、ウステキヌマブ、ゴリムマブ、カナキヌマブ、デノスマブ、モガムリズマブ、セルトリズマブ ペゴル、オファツムマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブ エムタンシン、ブレンツキシマブ ベドチン、ナタリズマブ、ニボルマブ、アレムツズマブ、(10)融合タンパク質類:エタネルセプト、アバタセプト、ロミプロスチム、アフリベルセプト等が挙げられる。
【0061】
また、核酸医薬品としては、アンチセンス、siRNA、デコイ核酸、核酸アプタマー、リボザイム、miRNAアンチセンス、miRNAmimic、CpGオリゴデオキシヌクレオチドが挙げられる。
【0062】
上記抗菌用物品としては、コンタクトレンズ、トイレタリー用品、キッチン水回り器具、エアコン、食品工場設備、下水処理場設備、排水管等が挙げられる。
【0063】
上記細胞培養用物品としては、細胞培養用バッグ、細胞培養用シート、細胞培養用フィルム、細胞培養用バイアル瓶、細胞培養用シャーレ、細胞培養用フラスコ等が挙げられる。
【0064】
上記細胞培養用物品としては、また、胚様体形成用培養容器も挙げられる。上記胚様体形成用培養容器は、2個以上のウェルを有することが好ましい。各ウェルの形状は特に限定されないが、垂直方向における断面が略U字形状の底部、及び、略円形の開口部を有することが好ましい。更に、上記底部内面の曲率半径(R’)が、1.0mm以上、3.5mm以下であることが好ましく、3.0mm以下とすることがより好ましい。上記開口部の直径は4.0~11.0mmとすることが好ましい。各ウェルの容量は80~500μLとすることができる。上記胚様体形成用培養容器は、少なくともウェルの内面が上記生体適合性材料からなるものであることが好ましい。
【0065】
細胞を培養するために使用する器具に細胞が付着しやすいと、培養した細胞の回収率が低下したり、細胞が増殖している形状のまま回収できなかったり、細胞の性質が変化してしまったりする。細胞培養用バッグ、細胞培養用シート、細胞培養用フィルム、細胞培養用バイアル瓶、細胞培養用シャーレ又は細胞培養用フラスコが、上述の生体適合性材料からなるものであると、細胞が付着しにくく、培養により得られた細胞を高い回収率で、かつ細胞の形状や性質を好ましい状態で回収することができる。
【0066】
上記細胞としては、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系肝細胞、中胚葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、胚性幹細胞等の幹細胞や、幹細胞を目的の細胞に分化させた細胞、あるいは免疫系細胞、血球系細胞、神経細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞、上皮細胞、角化細胞、角膜細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、表皮細胞、肝細胞、膵β細胞、心筋細胞、骨髄細胞、羊膜細胞、臍帯血細胞などの生体由来の細胞、あるいはNIH3T3(エヌアイエイチスリーティースリー)細胞、3T3-L1(スリーティースリーエルワン)細胞、3T3-E1(スリーティースリーイーワン)細胞、HeLa(ヒーラ)細胞、PC-12(ピーシーツェルブ)細胞、P19(ピーナインティーン)細胞、CHO(チャイニーズハムスター卵母)細胞、COS(シーオーエス)細胞、HEK(エッチイーケー)細胞、Hep-G2(ヘップジーツー)細胞、L929(エルナインツーナイン)細胞、C2C12(シーツーシーツェルブ)細胞、Daudi(ダウディ)細胞、Jurkat(ジャーカット)細胞、KG-1a(ケージーワンエー)細胞、CTLL-2(シーティーエルエルツー)細胞、NS-1(エヌエスワン)細胞、MOLT-4(エムオーエルティーフォー)細胞、HUT78(エッチユーティーセブンティエイト)細胞、MT-4(エムティーフォー)細胞などの株化細胞、あるいは抗体産生細胞である各種ハイブリドーマ細胞株、あるいはこれら細胞を遺伝子工学的に改変した細胞が挙げられる。
【0067】
特に高分子材料に付着しやすい細胞である接着性細胞を培養する場合であっても、上記細胞培養用物品であれば、培養した細胞の付着を抑制することができる。
【0068】
上記細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの胚様体(embryoid body:EB)も挙げられる。
【0069】
胚様体形成は、ES細胞をはじめとする多能性幹細胞をin vitroで分化誘導する際に有効であるため、広く採用されている手法である。胚様体形成はES細胞やiPS細胞を培養容器に接着させない浮遊状態で培養することが重要であり、通常の培養容器を使用した接着培養では胚様体は形成されにくい。上記胚様体形成用培養器が、上述の生体適合性材料からなるものであると、均一で、効率よく、質の高い胚様体を形成することができる。
【0070】
上記抗タンパク吸着用物品としては、上述した抗血栓用物品、バイオ医薬用物品、抗菌用物品、細胞培養用物品等が挙げられる。
【0071】
上記生体適合性材料を上記物品に適用する工程を含むことを特徴とする、上記物品へのタンパク質、血液成分、細胞又は細菌の付着を防止する方法は、上記生体適合性材料の使用方法として好ましい。上記生体適合性材料を適用する方法は、特に限定されず、物品の少なくとも表面の一部を上記生体適合性材料で覆うことができる方法であれば特に限定されない。例えば、上記生体適合性材料又は上記生体適合性材料を含むコーティング組成物を塗布することによりコーティング膜を形成させる方法が挙げられる。
【0072】
上記物品表面の大腸菌の増殖を阻害する方法であって、上記物品の表面に上記生体適合性材料を適用することを特徴とする方法も、上記生体適合性材料の使用方法として好ましい。上記生体適合性材料を適用する方法は、特に限定されず、物品の少なくとも表面の一部を上記生体適合性材料で覆うことができる方法であれば特に限定されない。例えば、上記生体適合性材料又は上記生体適合性材料を含むコーティング組成物を塗布することによりコーティング膜を形成させる方法が挙げられる。
【実施例
【0073】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0074】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0075】
モノマーのモル比
元素分析により測定した。
【0076】
分子量の測定はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により行った。
【0077】
製造例1
テトラフルオロエチレンとN-ビニルピロリドンの共重合体(1)の調製
気密検査済みの耐圧性反応容器内を十分に窒素置換した後、脱酸素処理したアセトン(752g)及びN-ビニルピロリドン(27.2g)を添加した。続いてテトラフルオロエチレン(100g)を加圧添加し、攪拌しながら混合物の内温を60℃となる様に調整した上で、t-ブチルパーオキシピバレート1.7gを加えて反応を開始した。反応開始から35分後、残存するテトラフルオロエチレンを除去し、精製、乾燥することで目的の共重合体(1)を15g得た。得られた共重合体(1)は、重量平均分子量6.4×10、分子量分布1.9、50モル%のテトラフルオロエチレン単位及び50モル%のN-ビニルピロリドン単位を含む共重合体であることが分かった。テトラフルオロエチレン単位/N-ビニルピロリドン単位のモル比は1であり、フッ素含有率は36質量%であった。
【0078】
製造例2
テトラフルオロエチレンとN-ビニルピロリドンの共重合体(2)の調製
気密検査済みの耐圧性反応容器内を十分に窒素置換した後、脱酸素処理したメチルイソブチルケトン(90.3g)及びN-ビニルピロリドン(9.80g)を添加した。続いてテトラフルオロエチレンを加圧添加し、スターラーで攪拌しながら混合物の内温を60℃となる様に調整した上で、アゾビスイソブチロニトリル(0.197g)を加えて反応を開始した。反応開始から1時間後、残存するテトラフルオロエチレンを除去し、ヒドロキノン(0.132g)を添加した。次いで反応混合物を精製、乾燥させ目的の共重合体(2)を3.3g得た。得られた共重合体(2)は、重量平均分子量6.5×10、分子量分布2.0、34モル%のテトラフルオロエチレン単位及び66モル%のN-ビニルピロリドン単位を含む共重合体であった。テトラフルオロエチレン単位/N-ビニルピロリドン単位のモル比は0.52であり、フッ素含有率は24質量%であった。
【0079】
共重合体(1)及び(2)について表1に示す。
【表1】
【0080】
実施例1
共重合体(1)の0.1質量%メタノール溶液を室温でPETコーティング済みQCMチップ(円盤状:直径1.4cm)の片側反応面へスピンコートした。具体的には、上記溶液30μLをPETコーティング済みQCMチップ上に滴下し、60秒間、2000rpm回転させた。その後、室温にて3時間、ロータリー真空ポンプにて減圧乾燥し、コーティング膜(QCMチップ)を得た。得られたコーティング膜をQCM-Dに組み込み、以下の方法でコーティング膜上のタンパク質吸着試験(ウシ血清アルブミン)を評価した。実験の結果を表2~4に示す。
【0081】
〔タンパク質吸着試験〕
上記の方法でPETコーティング済みQCMチップに重ねて共重合体(1)をコーティングしたQCMチップをQCM-Dに装着させ、23.4℃環境下のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で安定化を行った。
【0082】
周波数のベースラインが水平であることを確認した上、タンパク質を含むリン酸緩衝生理食塩水溶液(タンパク質の濃度0.05mg/mL)を0.5mL注入し、吸着時間30分間の周波数の変化量を測定した。タンパク質としては、ウシ血清アルブミン(BSA)またはウシ血漿フィブリノーゲン(BPF)およびウシ血清由来免疫グロブリンG(IgG)を使用した。
【0083】
コーティング膜に吸着したタンパク質量は、実験から得られた吸着時間30分後の周波数を解析ソフトQToolsに導入されているSauerbreyの式からAreal mass[ng/cm]の解析を行い算出した。
【0084】
実施例2~6
実施例1と同様にQCM-Dを用いて、表2~4に記載したように、共重合体(1)または(2)について、ウシ血清アルブミン(BSA)またはウシ血漿フィブリノーゲン(BPF)およびグロブリン(IgG)の吸着を評価した。実験の結果を表2~4に示す。
【0085】
比較例1~3(PET)
ポリエチレンテレフタレート(PET)の1.0質量%溶液(トリフルオロ酢酸、ジクロロメタンと1,1,2,2-テトラクロロエタンの混合溶剤(混合比1/4/45)に溶解させたもの)を室温でQCMチップ(円盤状:直径1.4cm)の片側反応面へスピンコートした。具体的には、上記溶液30μLをQCMチップ上に滴下し、60秒間、2000rpm回転させた。その後、50℃にて3時間以上、ロータリー真空ポンプにて減圧乾燥し、コーティング膜を得た。
得られたコーティング膜について実施例1~6と同様にタンパク質の吸着試験を実施した。実験の結果を表2~4に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
実施例7
共重合体(1)の0.1質量%メタノール溶液を室温でPETフィルム(1cm×1cm)上へスピンコートした。具体的には、上記溶液30μLをPETフィルム上に滴下し200rpmで10秒間回転した。その後、室温にて、ロータリー真空ポンプにて減圧乾燥し、コーティング膜を得た。さらにこのコーティングされたPETフィルムを0.5cm×0.5cmにカットしコーティング膜(PETフィルムの表面に形成されたコーティング膜)を得た。得られたコーティング膜について、以下の方法で抗血栓性(30分間)を評価した。結果を表5に示す。
【0090】
〔血小板粘着性及び血小板の活性化(30分間)〕
得られたコーティング膜を直径3.3cmの秤量瓶の底に少量のシリコン接着剤で固定した。これを純水で3回洗浄後、リン酸塩緩衝生理食塩液(PBS)に12時間浸漬した。PBSを除いた後、PBSで3倍希釈した0.1%クエン酸ナトリウムを含む多血小板血漿(PRP、血小板数:2×10個/μL)を上記秤量瓶に2.0mL加え、37℃で30分間静置した。PRPを除き、PBSでコーティング膜を3回洗浄した。2%グルタルアルデヒドを含むPBSを加え4℃で2時間静置し、コーティング膜表面に粘着した血小板を固定化した。サンプルをPBSで3回、純水で1回洗浄し、1晩減圧乾燥を行った。得られたサンプルを金スパッタ装置で金コートし、走査型電子顕微鏡を用いてコーティング膜表面を倍率400倍で5視野任意に観察し、粘着した血小板数をカウントした。粘着した血小板の活性化が抑制され血小板形態が球状の場合(-)、わずかに偽足化または偏平化の場合(±)、明らかな偽足化または偏平化の場合(+)、明らかな偽足化または偏平化があり血小板同士の凝集が認められた場合(++)とした。
【0091】
実施例8
実施例7と同様の方法で共重合体(2)のコーティング膜を得た。得られたコーティング膜について実施例7と同様の方法で抗血栓性(30分間)を評価した。結果を表5に示す。
【0092】
比較例4
実施例7で用いたものと同様のPETフィルム(コーティング無)について実施例7と同様の方法で抗血栓性(30分間)を評価した。結果を表5に示す。
【0093】
【表5】
【0094】
実施例9
共重合体(1)の0.1質量%メタノール溶液を室温でPETフィルム(1.0cm×1.0cm)上へスピンコートした。具体的には、上記溶液30μLをPETフィルム上に滴下し、60秒間、2000rpm回転させた。その後、室温にて3時間、ロータリー真空ポンプにて減圧乾燥し、コーティング膜を得た。得られたコーティング膜について、以下の方法で細胞の接着試験を評価した。結果を表6に示す。
【0095】
〔細胞接着試験〕
PETフィルム(1.0cm×1.0cm)上に共重合体(1)をスピンコートしたコーティング膜を24穴の細胞培養プレートの底に少量のシリコン接着剤で固定した。超純水で3回洗浄した後に37℃環境下のPBS中で12時間浸漬させた。
【0096】
マウス繊維芽細胞(NIH3T3)を5%CO、37℃環境下で10%ウシ胎児血清(FCS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(FCS含有DMEM)中で培養した。培養したNIH3T3細胞を滅菌PBSで一回洗浄し、1mLの0.02% エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液と1mLの0.25%トリプシン溶液を加え細胞培養プレートから剥がした。その細胞懸濁液を遠心してNIH3T3細胞を回収した後、FCS含有DMEMで再懸濁し61.2×10個/mLの溶液を得た。
【0097】
細胞懸濁液は、コーティング膜を固定した細胞培養プレートの各ウェルに対して1×10個/cmに培地で調製し、コーティング膜上に播種した。5%CO、37℃環境下で1時間培養した後、コーティング膜をPBSで3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド PBS溶液を用いてコーティング膜上の接着細胞を固定化した。超純水で3回洗浄した後、ロータリー真空ポンプにて減圧乾燥した。1質量%濃度のクリスタルバイオレット PBS染色液で接着細胞を染色し、光学顕微鏡を用いて5視野任意に観察を行い接着細胞の数を数えた。
【0098】
実施例10
実施例9と同様の方法で共重合体(2)のコーティング膜を得た。得られたコーティング膜について実施例9と同様の方法で細胞接着試験を実施した。結果を表6に示す。
【0099】
比較例5
実施例9で用いたものと同様のPETフィルム(コーティング無)について、実施例9と同様の方法で細胞接着試験を実施した。結果を表6に示す。
【0100】
【表6】
【0101】
実施例11
共重合体(1)の0.1質量%メタノール溶液を室温でPETフィルム(1cm×1cm)上へスピンコートした。具体的には、上記溶液30μLをPETフィルム上に滴下し2000rpmで60秒間回転した。その後、室温にて、ロータリー真空ポンプにて減圧乾燥し、コーティング膜(PETフィルムの表面に形成されたコーティング膜)を得た。
【0102】
得られたコーティング膜について、以下の方法で大腸菌の接着性を評価した。結果を表7に示す。
【0103】
〔大腸菌の接着性:化学発光法による定量〕
得られたコーティング膜を24穴細胞培養ディッシュの底に少量のシリコン接着剤で固定した。これを純水で3回洗浄後、リン酸塩緩衝生理食塩液(PBS)に12時間浸漬した。PBSを除いた後、対数増殖期にある大腸菌(E.coli ATCC(R) 25922TM)を含む10質量% Muller-Hinton II (MH)培地でOD600=0.003に調製した分散液を上記細胞培養ディッシュに2.0mL加え、37℃で20時間静置培養した。上清を96穴の細胞培養ディッシュに100μLずつ加え、OD590を測定し大腸菌分散液の濃度を求めた。大腸菌が接着したコーティング膜は、24穴細胞培養ディッシュから取り出し、PBSで3回洗浄した後に新しい24穴細胞培養ディッシュに移した。接着した大腸菌の定量はBacTiter-GloTM Microbial Cell Viability Assayを用いて行った。10% BacTiter-GloTM Reagent水溶液500μLを大腸菌が接着したコーティング膜に添加し、5分間室温で静置した。その後、添加した水溶液を化学発光用96穴マイクロプレートに100μLずつ加え、プレートリーダーを用いて化学発光強度を測定した。
【0104】
〔接着大腸菌のコロニー形成:SEM観察〕
得られたコーティング膜を24穴細胞培養ディッシュの底に少量のシリコン接着剤で固定した。これを純水で3回洗浄後、リン酸塩緩衝生理食塩液(PBS)に12時間浸漬した。PBSを除いた後、対数増殖期にある大腸菌(E.coli ATCC(R) 25922TM)を含む10質量% Muller-Hinton II (MH)培地でOD600=0.003に調製した分散液を上記細胞培養ディッシュに2.0mL加え、37℃で20時間静置培養した。上清を除き、PBSでコーティング膜を3回洗浄した。2%グルタルアルデヒドを含むPBSを加え4℃で2時間静置し、コーティング膜表面に接着した大腸菌を固定化した。サンプルをPBSで3回、純水で1回洗浄し、1晩減圧乾燥を行った。得られたサンプルを金スパッタ装置で金コートし、走査型電子顕微鏡を用いてコーティング膜表面を倍率400倍及び2500倍で3視野任意に観察し、大腸菌の接着性、コロニー形成を評価した。大腸菌のコロニー形成が全く確認できないものを-、大腸菌数が400cells未満の小さなコロニーが分散して存在するもの±、大腸菌数が400cells以上の大きなコロニーが存在するものを+、大腸菌数が400cells以上の大きなコロニーが存在し、かつ広範囲にコロニー形成が広がっているものを++と表7に記す。
【0105】
実施例12
実施例11と同様の方法で共重合体(2)のコーティング膜を得た。得られたコーティング膜について実施例11と同様の方法で大腸菌の接着性および接着大腸菌のコロニー形成を評価した。結果を表7に示す。
【0106】
比較例6
実施例11で用いたものと同様のPETフィルム(コーティング無)について、実施例11と同様の方法で大腸菌の接着性および接着大腸菌のコロニー形成を評価した。結果を表7に示す。
【0107】
【表7】
【0108】
実施例11、実施例12、比較例6で得られた接着大腸菌のSEM写真を図1~6に示す。
【0109】
製造例3
テトラフルオロエチレンとN-ビニルピロリドンの共重合体(3)の調製
気密検査済みの耐圧性反応容器内を十分に窒素置換した後、脱酸素処理したアセトン(890g)及びN-ビニルピロリドン(NVP)(60.1g)を添加した。続いてテトラフルオロエチレン(TFE)(74g)を加圧添加し、攪拌しながら混合物の内温を60℃となる様に調整した上で、t-ブチルパーオキシピバレート(2.6g)を加えて反応を開始した。反応圧の低下に応じて、TFEとNVPを追加仕込みをおこない、圧が一定になるようにした。追加仕込みしたTFEは合計91g、NVPは200gであった。反応開始から218分後、残存するTFEを除去し、反応を完了させた。次いで反応混合物を精製、乾燥させ、目的の共重合体(3)を1284g得た。得られた共重合体(3)は、重量平均分子量4.3×10、分子量分布1.9、35モル%のTFE単位及び65モル%のNVP単位を含む共重合体であることが分かった。
【0110】
製造例4
テトラフルオロエチレンとN-ビニルピロリドンの共重合体(4)の調製
製造例3と同じ条件で重合をおこなった。ただし、追加仕込みしたTFEは合計88g、NVPは188gであった。反応開始から214分後、残存するTFEを除去し、反応を完了させた。次いで反応混合物を精製、乾燥させ、目的の共重合体(4)を1273g得た。得られた共重合体(4)は、重量平均分子量4.5×10、分子量分布1.9、37モル%のTFE単位及び63モル%のNVP単位を含む共重合体であることが分かった。
【0111】
製造例5
ヘキサフルオロプロピレンとN-ビニルピロリドンの共重合体(5)の調製
気密検査済みの耐圧性反応容器内を十分に窒素置換した後、脱酸素処理したアセトン(890g)及びN-ビニルピロリドン(NVP)(135g)を添加した。続いてヘキサフルオロプロピレン(HFP)(147g)を加圧添加し、撹拌しながら混合物の内温を60℃となる様に調整した上で、t-ブチルパーオキシピバレート(2.2g)を加えて反応を開始した。反応開始から164分後、残存するヘキサフルオロプロピレンを除去し、反応を完了させた。次いで反応混合物を精製、乾燥させ、目的の共重合体(5)を1157g得た。得られた共重合体(5)は、重量平均分子量1.1×10、分子量分布1.7、29モル%のHFP単位及び71モル%のNVP単位を含む共重合体であることが分かった。
【0112】
製造例6
トリフルオロクロロエチレンとN-ビニルピロリドンの共重合体(6)の調製
気密検査済みの耐圧性反応容器内を十分に窒素置換した後、脱酸素処理したアセトン(751g)及びN-ビニルピロリドン(26.0g)を添加した。続いてトリフルオロクロロエチレン(116g)を加圧添加し、攪拌しながら混合物の内温を60℃となる様に調整した上で、t-ブチルパーオキシピバレート(1.8g)を加えて反応を開始した。反応開始から120分後、残存するトリフルオロクロロエチレンを除去し、ヒドロキノン(1.1g)を添加した。次いで反応混合物を精製、乾燥させ、目的の共重合体(6)を3g得た。得られた共重合体(6)は、重量平均分子量4.7×10、分子量分布4.3、64モル%のトリフルオロクロロエチレン単位及び36モル%のN-ビニルピロリドン単位を含む共重合体であることが分かった。
【0113】
実施例13~16及び比較例7
BSA吸着量評価実験
製造例3~6でえられた共重合体に関し、タンパク質吸着試験(ウシ血清アルブミン)をおこなった。
【0114】
共重合体(3)~(6)およびPVDFをジメチルアセトアミド溶液に溶解させ、1質量%のポリマー溶液とした。このポリマー溶液をQCMチップであるAuセンサー(円盤状、直径1.4cm)表面に1滴垂らし、2000rpmで30秒スピンコートを行った。このセンサーを80℃、真空中で3時間乾燥させ、共重合体(3)~(6)又はPVDFで表面がコーティングされたセンサーを作製した。この作製したセンサーをQCMにセットし、0.1M PBS(リン酸緩衝液)に溶解させた100ppm ウシ血清アルブミン(BSA)を供給することで吸着挙動を測定した。
【0115】
コーティング膜に吸着したタンパク質量は、実験から得られた吸着時間30分後の周波数を解析ソフトQToolsに導入されているSauerbreyの式からAreal mass[ng/cm]の解析を行い算出した。
【0116】
結果は、比較例7の値を100として表8に示す。
【0117】
比較としてダイキン工業社製ポリフッ化ビニリデン(PVDF) VW410を用いた。
【0118】
【表8】
【0119】
製造例7
テトラフルオロエチレンとN-ビニルピロリドンの共重合体(7)の調製
気密検査済みの耐圧性反応容器内を十分に窒素置換した後、脱酸素処理したアセトン(890g)及びN-ビニルピロリドン(NVP)(36.0g)を添加した。続いてテトラフルオロエチレン(TFE)(131g)を加圧添加し、攪拌しながら混合物の内温を60℃となる様に調整した上で、t-ブチルパーオキシピバレート(2.6g)を加えて反応を開始した。反応圧の低下に応じて、TFEとNVPを追加仕込みをおこない、圧が一定になるようにした。追加仕込みしたTFEは合計90g、NVPは100gであった。反応開始から5時間後、残存するTFEを除去し、反応を完了させた。次いで反応混合物を精製、乾燥させ、目的の共重合体(7)を229g得た。得られた共重合体(7)は、重量平均分子量5.0×10、分子量分布2.0、46モル%のTFE単位及び54モル%のNVP単位を含む共重合体であることが分かった。
【0120】
実施例17~19
実施例1と同様にQCM-Dを用いて、表9に記載したように、共重合体(5)、(3)、又は(7)について、ウシ血漿フィブリノーゲン(BPF)の吸着を評価した。実験の結果を表9に示す。結果は比較例2の値を100として表9に示す。
【0121】
実施例20~22
実施例1と同様にQCM-Dを用いて、表10に記載したように、共重合体(5)、(3)、又は(7)について、グロブリン(IgG)の吸着を評価した。実験の結果を表10に示す。結果は比較例3の値を100として表10に示す。
【0122】
【表9】
【0123】
【表10】
図1
図2
図3
図4
図5
図6