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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】水性分散体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20220816BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20220816BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C08L33/06
C08F220/18
C08K3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018124292
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020002289
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】391015373
【氏名又は名称】大東化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【氏名又は名称】井上 勉
(72)【発明者】
【氏名】東山 浩章
(72)【発明者】
【氏名】長谷 昇
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-137138(JP,A)
【文献】特開2017-202983(JP,A)
【文献】特開2010-053158(JP,A)
【文献】特開2016-041675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00- 33/26
C08K 3/04
C08F 220/00-220/70
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カーボンブラックと、
(B)ガラス転移温度(Tg)が20~50℃であり、酸価が50~100(mgKOH/g)である二種以上のポリ(メタ)アクリル酸誘導体と、
(C)水と、
を含有する水性分散体組成物であって、
(B)前記ポリ(メタ)アクリル酸誘導体として、
(B1)ガラス転移温度(Tg)が20~30℃であり、酸価が75~100(mgKOH/g)である(メタ)アクリル酸アルキル共重合体と、
(B2)ガラス転移温度(Tg)が35~50℃であり、酸価が50~70(mgKOH/g)である(メタ)アクリル酸アルキル共重合体と、
を含有し、
(B)前記ポリ(メタ)アクリル酸誘導体の含有量は、10~35質量%である水性分散体組成物。
【請求項2】
(B)前記ポリ(メタ)アクリル酸誘導体は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、アクリル酸からなる群から選択される二種以上をモノマー成分とする(メタ)アクリル酸アルキル共重合体である請求項1に記載の水性分散体組成物。
【請求項3】
(A)前記カーボンブラックは、総炭素量が99%以上である請求項1又は2に記載の水性分散体組成物。
【請求項4】
(A)前記カーボンブラックの含有量は、10重量%以上である請求項1~3の何れか一項に記載の水性分散体組成物。
【請求項5】
界面活性剤を実質的に含まない請求項1~4の何れか一項に記載の水性分散体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料の原材料として使用可能な水性分散体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、通常、平均粒径がサブμm以下の微粒子であるため、凝集し易いという性質がある。そのため、凝集状態にあるカーボンブラックを化粧料の黒色顔料として使用するためには、水に分散させた水性分散体とするなどの工夫が必要である。ところが、カーボンブラックは粒子の表面活性が低いため、そのままの状態で水に混合するだけでは良好な水性分散体を得ることは難しい。
【0003】
従来におけるカーボンブラックの水への分散性を高める手法として、例えば、カーボンブラックに対して酸化処理を行ってカーボンブラックの表面に親水性の官能基を導入する技術(例えば、特許文献1を参照)や、カーボンブラックを水に分散させる際に界面活性剤を併用する技術(例えば、特許文献2を参照)があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-3498号公報
【文献】特開2010-53158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているカーボンブラックは、水性顔料インキの原材料として使用されるものであり、表面に水酸基やカルボキシル基を導入することで親水性を向上させている。このような親水性基を導入したカーボンブラックは、自己分散型のカーボンブラックに分類され、それ自体で水に対して良好な分散性を示すが、耐水性に劣るという問題がある。このため、自己分散型のカーボンブラックは、特許文献1のような水性顔料インキの原材料として使用することは可能であっても、化粧料のように常に湿潤な環境に曝される用途には向いていない。
【0006】
特許文献2に開示されているカーボンブラックは、化粧料の黒色顔料として使用されるものであり、水に分散させる際に分散剤として非イオン系界面活性剤を併用している。ところが、このような界面活性剤の使用は、時として様々な問題を引き起こすことがある。例えば、界面活性剤と溶媒との組み合わせによってはソルベントショックによりカーボンブラックの沈降現象が発生することがある。また、界面活性剤の使用によってカーボンブラックが過剰な親水性を有するようになると、化粧料の肌への被膜形成が脆弱なものとなり、その結果、化粧落ちが激しくなることがある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、カーボンブラックが水に安定して分散した化粧料の原材料として好適な水性分散体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明にかかる水性分散体組成物の特徴構成は、
(A)カーボンブラックと、
(B)ガラス転移温度(Tg)が20~50℃であり、酸価が50~100(mgKOH/g)である二種以上のポリ(メタ)アクリル酸誘導体と、
(C)水と、
を含有することにある。
【0009】
本構成の水性分散体組成物によれば、カーボンブラックを水に分散させる際に、ガラス転移温度(Tg)が20~50℃であり、酸価が50~100(mgKOH/g)である二種以上のポリ(メタ)アクリル酸誘導体を用いることで、水性分散体組成物の肌への塗布前にはカーボンブラックの水中での安定した良好な分散性を維持しながら、水性分散体組成物の肌への塗布後にはカーボンブラックを含む皮膜の耐水性及び強度を高めることができる。
【0010】
本発明にかかる水性分散体組成物において、
(B)前記ポリ(メタ)アクリル酸誘導体は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、アクリル酸からなる群から選択される二種以上をモノマー成分とする(メタ)アクリル酸アルキル共重合体であることが好ましい。
【0011】
本構成の水性分散体組成物によれば、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体として、上記の中から選択される二種以上をモノマー成分とする(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を使用することで、水中でのカーボンブラックの分散性と、カーボンブラックを含む皮膜の耐水性及び強度とのバランスが優れたものとなる。
【0012】
本発明にかかる水性分散体組成物において、
(B)前記ポリ(メタ)アクリル酸誘導体として、
(B1)ガラス転移温度(Tg)が20~30℃であり、酸価が75~100(mgKOH/g)である(メタ)アクリル酸アルキル共重合体と、
(B2)ガラス転移温度(Tg)が35~50℃であり、酸価が50~70(mgKOH/g)である(メタ)アクリル酸アルキル共重合体と、
を含有することが好ましい。
【0013】
本構成の水性分散体組成物によれば、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体として、ガラス転移温度(Tg)が20~30℃であり、酸価が75~100(mgKOH/g)である(メタ)アクリル酸アルキル共重合体と、ガラス転移温度(Tg)が35~50℃であり、酸価が50~70(mgKOH/g)である(メタ)アクリル酸アルキル共重合体とを使用することで、水中でのカーボンブラックの分散性と、カーボンブラックを含む皮膜の耐水性及び強度とのバランスがより優れたものとなる。
【0014】
本発明にかかる水性分散体組成物において、
(B)前記ポリ(メタ)アクリル酸誘導体として、
(B1)モノマーとして、メタクリル酸メチルを40~50重量%、アクリル酸ブチルを40~50重量%、及びメタクリル酸を1~15重量%含有する(メタ)アクリル酸アルキル共重合体と、
(B2)モノマーとして、メタクリル酸メチルを55~65重量%、アクリル酸ブチルを35~40重量%、及びメタクリル酸を1~10重量%含有する(メタ)アクリル酸アルキル共重合体と、
を含有することが好ましい。
【0015】
本構成の水性分散体組成物によれば、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体として、モノマーとして、メタクリル酸メチルを40~50重量%、アクリル酸ブチルを40~50重量%、及びメタクリル酸を1~15重量%含有する(メタ)アクリル酸アルキル共重合体と、モノマーとして、メタクリル酸メチルを55~65重量%、アクリル酸ブチルを35~40重量%、及びメタクリル酸を1~10重量%含有する(メタ)アクリル酸アルキル共重合体とを使用することで、水中でのカーボンブラックの分散性と、カーボンブラックを含む皮膜の耐水性及び強度とのバランスがより優れたものとなる。
【0016】
本発明にかかる水性分散体組成物において、
(B)前記ポリ(メタ)アクリル酸誘導体の含有量は、10~35質量%であることが好ましい。
【0017】
本構成の水性分散体組成物によれば、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体の含有量を10~35質量%とすることで、水中でのカーボンブラックの分散性と、カーボンブラックを含む皮膜の耐水性及び強度とのバランスがより優れたものとなることに加えて、水性分散体組成物が適切な粘度を有することになるため、取り扱いが容易なものとなる。
【0018】
本発明にかかる水性分散体組成物において、
(A)前記カーボンブラックは、総炭素量が99重量%以上であることが好ましい。
【0019】
本構成の水性分散体組成物によれば、カーボンブラックは、総炭素量が99重量%以上であることから、化粧料の原材料として適した安全性の高い水性分散体組成物とすることができる。
【0020】
本発明にかかる水性分散体組成物において、
(A)前記カーボンブラックの含有量は、10重量%以上であることが好ましい。
【0021】
本構成の水性分散体組成物によれば、カーボンブラックの含有量が10重量%以上であることから、化粧料の原材料として使用するにあたり、水性分散体組成物の配合量を少量としながら黒色の発色性が十分なものとなる。
【0022】
本発明にかかる水性分散体組成物において、
界面活性剤を実質的に含まないことが好ましい。
【0023】
本構成の水性分散体組成物によれば、界面活性剤を実質的に含まないため、従来技術に見られたカーボンブラックの沈降現象や化粧落ちの問題が解消された化粧料の原材料として適した使い易い水性分散体組成物とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の水性分散体組成物について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されることを意図しない。
【0025】
本発明の水性分散体組成物は、化粧料(例えば、アイシャドウ、マスカラ、アイライナー、ファンデーション、頬紅等)の原材料として使用可能なものである。水性分散体組成物は、以下の成分(A)~(C):
(A)カーボンブラック
(B)ガラス転移温度(Tg)が20~50℃であり、酸価が50~100(mgKOH/g)である二種以上のポリ(メタ)アクリル酸誘導体
(C)水
を含有する。すなわち、本発明の水性分散体組成物は、(A)カーボンブラックと、(B)ポリ(メタ)アクリル酸誘導体とを、(C)水に分散させたものである。以下、本発明の水性分散体組成物の主成分である(A)カーボンブラック、及び(B)ポリ(メタ)アクリル酸誘導体について説明する。なお、(C)水については特に詳細な説明は省略するが、精製水、イオン交換水、水道水等の不純物が少ない水を使用することができる。
【0026】
<カーボンブラック>
本発明の水性分散体組成物において、(A)成分として用いるカーボンブラックは、化粧料用途であること考慮し、不純物の含有量が少ないものが好ましい。具体的には、総炭素量が99重量%以上であるカーボンブラックが好ましい。このような高純度のカーボンブラックは、例えば、ファーネス法により製造することができる。カーボンブラックの総炭素量が99重量%以上であれば、化粧料の原材料として適した安全性の高い水性分散体組成物を調製することができる。
【0027】
カーボンブラックの粒子径(水中分散状態で測定)は、サブμm程度であることが好ましい。例えば、粒子径が0.2~0.3μmのカーボンブラックを用いれば、化粧落ちが少なく且つきめ細かなメイクが可能な化粧料を調製することができる。なお、カーボンブラックは、気相中では通常凝集状態にあるため、水性分散体組成物を調製するにあたっては、湿式分散機を用いてカーボンブラックを微粒子化することが好ましい。湿式分散機としては、例えば、ホモミキサー、ディスパー、ニーダー、ロールのような分散機や、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、サンドグラインドミル等の各種メディアミルが挙げられる。
【0028】
本発明で使用可能なカーボンブラックは、例えば、石炭系オイルを高温雰囲気中に高圧で噴霧し、不完全燃焼雰囲気条件下で熱分解させるファーネス法により製造することができる。本発明で使用可能なカーボンブラックの特性(規格)は、以下のとおりである。
【0029】
(1)強熱減量 :2質量%以下
(2)灰分 :0.15質量%以下
(3)砒素含有量 :3ppm以下
(4)鉛含有量 :10ppm以下
(5)水銀含有量 :1ppm以下
(6)硫黄分 :0.65質量%以下
(7)多環芳香族炭化水素類(PAHs) :500ppb以下
(8)ジベンゾ〔a,h〕アントラセン :5ppb以下
(9)ベンゾ〔a〕ピレン含有量 :5ppb以下
(10)総炭素量 :99重量%以上
【0030】
水性分散体組成物におけるカーボンブラックの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。カーボンブラックの配合量が10質量%以上であれば、本発明の水性分散体組成物を化粧料の原材料として使用するにあたり、水性分散体組成物の配合量を少量としながら黒色の発色性が十分なものとなる。このため、例えば、化粧料に保湿成分や薬効成分などの自然由来の成分を配合する場合、それらの効能に与える影響(例えば、拮抗作用等)を低減することができる。
【0031】
<ポリ(メタ)アクリル酸誘導体>
本発明の水性分散体組成物において、(B)成分として用いるポリ(メタ)アクリル酸誘導体は、アクリル酸及び/又はアクリル酸エステルと、メタクリル酸及び/又はメタクリル酸エステルとを含む高分子化合物(すなわち、ポリ(メタ)アクリル酸エステル)を意味する。ポリ(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えば、アクリル酸アルキル共重合体、メタクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体が挙げられる。以降の説明では、上記3種の共重合体を、(メタ)アクリル酸アルキル共重合体と総称する。
【0032】
(メタ)アクリル酸アルキル共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が20~50℃、好ましくは25~40℃であり、酸価が50~100(mgKOH/g)、好ましくは60~90(mgKOH/g)である高分子化合物が使用される。ガラス転移温度(Tg)が20℃より低い場合、本発明の水性分散体組成物を最終製品形態として化粧料に応用したとき、化粧料の塗布後の皮膜強度が低下するとともに化粧料の粘着性が増大するため、化粧料の耐剥離性が悪化する虞がある。一方、ガラス転移温度(Tg)が50℃より高い場合、化粧料の成膜性が悪化する虞がある。また、酸価が50(mgKOH/g)より小さい場合、(メタ)アクリル酸アルキル共重合体の水分散体又はエマルジョンの経時安定性が劣る傾向がある。一方、酸価が100(mgKOH/g)より大きい場合、最終製品形態としての化粧料の耐水性が劣る傾向がある。
【0033】
本発明の水性分散体組成物を調製するにあたっては、上記の特性を有する(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を二種以上選択する。(メタ)アクリル酸アルキル共重合体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、アクリル酸からなる群から選択される二種以上をモノマー成分とするものが使用される。これらのモノマー成分を二種以上含有する(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を使用すれば、本発明の水性分散体組成物を最終製品形態として化粧料に応用したとき、水中でのカーボンブラックの分散性と、カーボンブラックを含む皮膜の耐水性及び強度とのバランスが優れたものとなる。
【0034】
二種以上の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体は、ガラス転移温度(Tg)及び酸価が相互に異なるように選択することが好ましい。例えば、第一の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体として、ガラス転移温度(Tg)が20~30℃であり、酸価が75~100(mgKOH/g)である共重合体と、第二の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体として、ガラス転移温度(Tg)が35~50℃であり、酸価が50~70(mgKOH/g)である共重合体とを選択する。このような二種の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を選択することにより、本発明の水性分散体組成物を最終製品形態として化粧料に応用したとき、水中でのカーボンブラックの分散性と、カーボンブラックを含む皮膜の耐水性及び強度とのバランスがより優れたものとなる。
【0035】
二種以上の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体は、モノマー比が相互に異なるように選択することも可能である。例えば、第一の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体として、モノマーとして、メタクリル酸メチルを40~50重量%、アクリル酸ブチルを40~50重量%、及びメタクリル酸を1~15重量%含有する共重合体と、第二の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体として、モノマーとして、メタクリル酸メチルを55~65重量%、アクリル酸ブチルを35~40重量%、及びメタクリル酸を1~10重量%含有する共重合体とを選択する。このような二種の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を選択することによっても、本発明の水性分散体組成物を最終製品形態として化粧料に応用したとき、水中でのカーボンブラックの分散性と、カーボンブラックを含む皮膜の耐水性及び強度とのバランスがより優れたものとなる。
【0036】
水性分散体組成物における(メタ)アクリル酸アルキル共重合体の含有量は、10~35質量%が好ましい。上記の範囲であれば、本発明の水性分散体組成物を最終製品形態として化粧料に応用したとき、水中でのカーボンブラックの分散性と、カーボンブラックを含む皮膜の耐水性及び強度とのバランスがより優れたものとなることに加えて、水性分散体組成物が適切な粘度を有することになるため、取り扱いが容易なものとなる。(メタ)アクリル酸アルキル共重合体の含有量が10質量%未満の場合、水性分散体組成物の経時安定性、及び最終製品形態としての化粧料の耐水性が劣る虞がある。一方、(メタ)アクリル酸アルキル共重合体の含有量が35質量%を超える場合、水性分散体組成物の粘度が大きくなり過ぎるため、取り扱いが困難となる。
【0037】
本発明の水性分散体組成物には、上記のカーボンブラック及び(メタ)アクリル酸アルキル共重合体の他に、乾燥防止剤、潤滑剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤などを添加することも可能である。
【0038】
乾燥防止剤、湿潤剤、pH調整剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどの多価アルコールアルキルエーテル類が挙げられる。
【0039】
防腐剤、防黴剤としては、パラオキシ安息香酸アルキルエステル、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、フェノキシエタノール、サリチル酸、石炭酸、パラクロルメタクレゾール、ヘキサクロロフェン、塩化ベンザルコニウム、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド、トリクロサン、デヒドロ酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【実施例
【0040】
(A)カーボンブラック、及び(B)ポリ(メタ)アクリル酸誘導体を、(C)水に分散させて水性分散体組成物を調製した。得られた水性分散体組成物について、分散性及び耐水性の評価を行った。
【0041】
(A)カーボンブラック
カーボンブラックとして、以下の特性を有するファーネス法で製造されたカーボンブラックを使用した。
(1)強熱減量 :0.65質量%
(2)灰分 :0.12質量%
(3)砒素含有量 :3ppm未満
(4)鉛含有量 :5ppm未満
(5)水銀含有量 :1ppm未満
(6)硫黄分 :0.38質量%
(7)多環芳香族炭化水素類(PAHs) :28ppb
(8)ジベンゾ〔a,h〕アントラセン :1ppb未満
(9)ベンゾ〔a〕ピレン含有量 :1ppb未満
(10)総炭素量 :99.2重量%
【0042】
(B)ポリ(メタ)アクリル酸誘導体
ポリ(メタ)アクリル酸誘導体として、下記の表1に示すモノマー成分及び特性を有する(メタ)アクリル酸アルキル共重合体A~Eを使用した。
【0043】
【表1】
【0044】
湿式ビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製、DYNO-MILL)に、水性分散体組成物の原材料を、下記の表2に示す配合でφ0.5mmジルコニアビーズとともに充填率が70%となるように投入し、周速10m/sにて1時間分散混合することにより、実施例1~4、及び比較例1~4の水性分散体組成物を調製した。なお、比較例1において使用するモノラウリン酸ポリグリセリルは、非イオン系界面活性剤である。
【0045】
【表2】
【0046】
<特性評価>
実施例1~4、及び比較例1~4の水性分散体組成物について、(1)分散性、及び(2)耐水性について評価試験を行った。
【0047】
(1)分散性評価
ガラス容器に入れた1日経過後の水性分散体組成物の試料、及び40℃で1ヶ月保存した水性分散体組成物の試料について、ガラス容器を十分に振とうした後、粒子の再分散性を目視にて観察した。評価基準は以下のとおりである。
〔1日経過後の評価基準〕
○:分散粒子は均一で、凝集を認めなかった。
△:分散粒子はほぼ均一であるが、わずかな凝集を認めた。
×:分散粒子は均一でなく、著しい凝集を認めた。
〔1ヶ月保存後の評価基準〕
○:分散粒子は均一で、凝集を認めなかった。
△:分散粒子はほぼ均一であるが、わずかな凝集を認めた。
×:粒子は再分散せず、沈降又は著しい凝集を認めた。
【0048】
(2)耐水性評価
水性分散体組成物の試料を前腕内側部に塗布し、10分放置して乾燥させ、水を滴下した。その後、水性分散体組成物の塗布膜の状態を目視にて観察した。評価基準は以下のとおりである。
○:水をはじき、塗布膜の水による濡れを認めなかった。
△:水を少しはじくが、塗布膜の水によるわずかな濡れを認めた。
×:水をはじかず、塗布膜の水による著しい濡れを認めた。
【0049】
評価試験の結果を下記の表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
カーボンブラックと、ガラス転移温度(Tg)が20~50℃であって酸価が50~100(mgKOH/g)である二種の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体とを含む原材料を精製水に分散させて調製した実施例1~4の水性分散体組成物は、分散性及び耐水性が良好であり、化粧料の原材料として好適なものであった。一方、上記の二種の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体の代わりに、モノラウリン酸ポリグリセリルを配合した比較例1の水性分散体組成物は、分散性が不十分であり、耐水性についても劣るものであった。(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を一種しか含まない比較例2及び3の水性分散体組成物は、分散性が劣っており、耐水性についても不十分であった。二種の(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を含むがそのうちの一種が本発明で規定するガラス転移温度(Tg)及び酸価の範囲外である(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を含む比較例4の水性分散体組成物は、分散性及び耐水性の両方とも劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の水性分散体組成物は、アイシャドウ、マスカラ、アイライナー、ファンデーション、頬紅等の化粧料の原材料として利用可能である。