(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】自閉症の特徴を示すげっ歯類動物
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20220816BHJP
C12N 15/877 20100101ALI20220816BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220816BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
A01K67/027
C12N15/877 Z
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2018092200
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-05-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月12日 Neuroscience 2017,the annual meeting of the Society for Neuroscienceにおける公開
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】三好 悟一
(72)【発明者】
【氏名】宮田 麻理子
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】Neuron 74, 1045-1058, June 21, 2012
【文献】genesis 44:611-621(2006)
【文献】Developmental Biology 313(2008) 35-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
C12N 15/877
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自閉症の特徴を示すげっ歯類動物であって、
脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方に
おいてのみFoxG1遺伝子のコピー数
が2コピーから1コピーへと減少
していることを特徴とする、げっ歯類動物。
【請求項2】
自閉症の特徴を示すげっ歯類動物の作製方法であって、
脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方に
おいてのみFoxG1遺伝子のコピー数を2コピーから1コピーへと減少させる工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項3】
自閉症の特徴を示すげっ歯類動物であって、
脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方に
おいてのみFoxG1遺伝子の発現量
が、野生型動物と比較して1.2~2.0倍に増加
していることを特徴とする、げっ歯類動物。
【請求項4】
自閉症の特徴を示すげっ歯類動物の作製方法であって、
脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方に
おいてのみFoxG1遺伝子の発現量を野生型動物と比較して1.2~2.0倍に増加させる工程を生後7日以降に行うことを特徴とする、方法。
【請求項5】
自閉症の特徴が社会的コミュニケーションの障害である、請求項1又は3に記載のげっ歯類動物。
【請求項6】
自閉症の特徴が社会的コミュニケーションの障害である、請求項2又は4に記載の作製方法。
【請求項7】
げっ歯類動物がマウスである、請求項1又は3に記載のげっ歯類動物。
【請求項8】
げっ歯類動物がマウスである、請求項2又は4に記載の作製方法。
【請求項9】
自閉症の治療薬又は予防薬をスクリーニングする方法であって、
請求項1若しくは3に記載のげっ歯類動物又は請求項2若しくは4に記載の方法で作製されたげっ歯類動物に試験物質を投与する工程、及び
げっ歯類動物が示す自閉症の特徴に対する試験物質の効果に基づいて、治療薬又は予防薬を選択する工程、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自閉症の特徴を示すげっ歯類動物及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自閉症は、現在では70人に1人の子供が発症するとも考えられている、社会的な注目を集めている神経発達障害である。
自閉症は臨床的知見に基づいて症候群型と特発性とに分類されるところ、症候群型自閉症は単一遺伝子変異により発症することから、モデル動物が開発されている(非特許文献1)。
一方、自閉症の95%以上を占める特発性自閉症では明らかな遺伝子変異が認められないため、モデル動物は開発されていない。
症候群型及び特発性の各自閉症に共通する病態基盤として、FoxG1遺伝子の制御異常が近年脚光を浴びている。例えば、特発性自閉症患者由来のiPS細胞を用いた分化アッセイでは、FoxG1遺伝子自体に明らかな変異がないにもかかわらず、神経分化過程でFoxG1遺伝子発現量の異常が認められ、発達期におけるFoxG1遺伝子制御異常により自閉症が発症する可能性が示唆されている(非特許文献2)。
なお、FoxG1遺伝子は14番染色体長腕に位置し、FoxG1因子をコードする。FoxG1因子はフォークヘッド形のDNA結合領域をもつ抑制性の転写因子であり、胎生期の大脳形成に重要な役割を果たすことが知られている。
また、FoxG1遺伝子変異はヒトで確認されており、FoxG1遺伝子の増加(遺伝子座の重複)及び減少(点変異によるハプロ不全)のいずれの場合にも自閉症FoxG1症候群が発症することが近年明らかにされている(非特許文献3~4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Nature Neuroscience, Vol.19, No.11, p.1408-1417 (2016)
【文献】Cell, Vol.162, Issue 2, p.375-390 (2015)
【文献】Mol Syndromol. 2011 Apr; 2(3-5): 153-163
【文献】Eur J Hum Genet. 2011 Jan; 19(1):102-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
治療法や早期診断法の開発にはヒト自閉症に共通する病態基盤を再現するモデル動物が不可欠であるが、そのようなモデル動物は開発されていない。実際、2012年設立の国際FoxG1基金(URL:https://foxg1.org)はモデル動物の開発を活動目標の一つに挙げている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記モデル動物を開発すべく本発明者は鋭意検討したところ、脳の特定細胞におけるFoxG1遺伝子を特定時期に制御して作製したマウスがヒト自閉症の特徴を示すことを見いだした。本発明はこの知見に基づいてなされたものである。
【0006】
すなわち、本発明は下記〔1〕~〔9〕に関するものである。
〔1〕自閉症の特徴を示すげっ歯類動物であって、
脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方におけるFoxG1遺伝子のコピー数を2コピーから1コピーへと減少させる操作を施して作製されたことを特徴とする、げっ歯類動物。
〔2〕自閉症の特徴を示すげっ歯類動物の作製方法であって、
脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方におけるFoxG1遺伝子のコピー数を2コピーから1コピーへと減少させる工程を含むことを特徴とする、方法。
〔3〕自閉症の特徴を示すげっ歯類動物であって、
脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方におけるFoxG1遺伝子の発現量を、野生型動物と比較して1.2~2.0倍に増加させる操作を生後7日以降に施して作製されたことを特徴とする、げっ歯類動物。
〔4〕自閉症の特徴を示すげっ歯類動物の作製方法であって、
脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方におけるFoxG1遺伝子の発現量を野生型動物と比較して1.2~2.0倍に増加させる工程を生後7日以降に行うことを特徴とする、方法。
〔5〕自閉症の特徴が社会的コミュニケーションの障害である、前記〔1〕又は〔3〕に記載のげっ歯類動物。
〔6〕自閉症の特徴が社会的コミュニケーションの障害である、前記〔2〕又は〔4〕に記載の作製方法。
〔7〕げっ歯類動物がマウスである、前記〔1〕又は〔3〕に記載のげっ歯類動物。
〔8〕げっ歯類動物がマウスである、前記〔2〕又は〔4〕に記載の作製方法。
〔9〕自閉症の治療薬又は予防薬をスクリーニングする方法であって、
前記〔1〕若しくは〔3〕に記載のげっ歯類動物又は前記〔2〕若しくは〔4〕に記載の方法で作製されたげっ歯類動物に試験物質を投与する工程、及び
げっ歯類動物が示す自閉症の特徴に対する試験物質の効果に基づいて、治療薬又は予防薬を選択する工程、
を含む方法。
【発明の効果】
【0007】
後記する実施例に示されるように、本発明の自閉症モデル動物は、ヒト自閉症に共通する病態基盤を再現している。したがって、本発明は、ヒト自閉症の治療法や早期診断法の開発に必要な知見の取得や創薬スクリーニング等に有用なリサーチツールを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1のマウスの興奮性神経細胞及び抑制性神経細胞の双方でFoxG1遺伝子のコピー数減少が起こる機序、及び、コピー数減少をGFPに基づいて確認する機序の概要を示す。
【
図2】
図2は、実施例1のマウスの脳内のGFPの発現様式を示す。
【
図3】
図3は、3チャンバー社会性アッセイの概要及び実施例1~2のマウスに対するアッセイ結果を示す。
【
図4】
図4は、実施例2のマウスの大脳皮質バレル領野をFoxG1抗体で染色した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
自閉症の特徴を示すげっ歯類動物(以下、「自閉症モデル動物」ともいう)に関する本発明を更に詳細に説明する。
【0010】
「自閉症の特徴」とは、ヒトの症候群型及び特発性の自閉症に共通して現れる病態(症状)をいう。具体的には、米国精神医学会作成の「精神疾患の診断・統計の手引き第5版」(DSM-5)において自閉症スペクトラム障害の症状として分類されている「社会的コミュニケーションの障害」と「限定された興味」をいう。
自閉症モデル動物は、前記「自閉症の特徴」の1つ以上を示すことができる。
【0011】
「自閉症の特徴」の有無の判断は、症候群型自閉症のモデル動物で用いられている方法にて実施できる。例えば、「社会的コミュニケーションの障害」の有無は、3チャンバー社会性アッセイ(Nat Rev Neurosci. 2010 Jul;11(7):490-502)を用いて判断できる。マウスを用いた3チャンバー社会性アッセイの概要を以下に説明する。
(1)通路で連結された3つのチャンバーを準備する。検査対象マウスとは別ケージで飼育した同性同年齢のマウス(未遭遇マウス)を入れるための小ケージ1及び2を両端のチャンバーに設置する。
(2)慣らし期間として、検査対象マウス(一匹)を、3つのチャンバー間を自由に行き来させる(10分間)。
(3)続いて、第一の未遭遇マウス(一匹)を小ケージ1にいれ、検査対象マウスが第一未遭遇マウスに対して示す興味の程度を計測する(10分間)。
(4)続いて、第二の未遭遇マウス(一匹)を小ケージ2にいれ、検査対象マウスが、第一未遭遇マウス((3)で慣れている)又は第二未遭遇マウスのいずれに対し興味を示すのかを計測する(10分間)。
正常のマウスは、(3)では第一未遭遇マウスに興味を示すので小ケージ1を設置したチャンバーに長く滞在し、(4)では第一未遭遇マウスよりも第二未遭遇マウスに興味を示すので小ケージ2を設置したチャンバーに長く滞在する。
一方、自閉症マウスは正常マウスとは異なる行動を示す。具体的には、(3)では第一未遭遇マウスを避けるので、小ケージ1を設置したチャンバー以外のチャンバーに滞在する時間が長くなる。(4)では第一及び第二未遭遇マウス(より新規のマウス)の間で選択性はなく、なおかつ未遭遇第一第及び二マウスが共にいない中央のチャンバーに滞在する期間が長くなる。したがって、各チャンバーにおける滞在時間を指標に社会的コミュニケーションの障害の有無を判断できる。
また、「限定された興味」の有無は、文献(Nat Rev Neurosci. 2010 Jul;11(7):490-502)に記載の方法を用いて判断できる。
【0012】
自閉症モデル動物として利用可能な「げっ歯動物」としては、マウス、ラット、ハダカデバネズミやモルモット等が挙げられる。なかでも、繁殖周期が短く、1年中繁殖が可能であり、かつ遺伝子操作を含む取扱い技術が確立されているマウスが好ましい。
【0013】
自閉症モデル動物は「脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方におけるFoxG1遺伝子のコピー数を2コピーから1コピーへと減少させる操作」により作製できる。
前記操作は、Cre/loxPシステムを用いた公知のコンディショナルノックアウト操作、例えば文献(Dev Cell. 2004 Jan;6(1):7-28)に記載の操作により実施できる。
Cre/loxPシステムとは、Cre(DNA組換え酵素)がloxP配列(DNA配列)に作用して起こる部位特異的組換え反応を利用した公知の遺伝子組換えシステムである。
FoxG1遺伝子のノックアウトは、転写因子FoxG1のタンパク質情報をコードする塩基配列の両端にloxP配列を挿入したトランスジェニック動物と、脳特異的プロモーター制御下でCreを発現するトランスジェニック動物とを交配して達成できる。交配で得られた個体では、片方のゲノムにおいて脳特異的プロモーター制御下で発現したCreがloxP配列に作用してFoxG1遺伝子の欠損(ノックアウト)が起こるので、FoxG1遺伝子のコピー数は2コピーから1コピーへと減少する。
本発明では、「分化状態」にある興奮性神経細胞及び抑制性神経細胞内の片方の遺伝子座においてノックアウトを起こす(コンディショナルノックアウト)。コンディショナルノックアウトは、
(1)両端にloxP配列が挿入されたFoxG1遺伝子を2コピー保持するトランスジェニック動物A(メス)と、
(2)一方のゲノムのNex遺伝子座にCre遺伝子が挿入され、他方のゲノムではDlx遺伝子プロモーター制御下にCre遺伝子をもつ断片が挿入されたトランスジェニック動物B(オス)とを交配して達成できる。
トランスジェニック動物Bにおいて、Nex遺伝子座に在るNex遺伝子プロモーターは未分化増殖細胞が興奮性神経細胞へ分化したときに機能し、Dlx遺伝子(ホメオボックス遺伝子)プロモーターは未分化増殖細胞が抑制性神経細胞へ分化したときに機能する。
交配で得られた全ての個体はloxP配列が挿入されたFoxG1遺伝子を保持しているが、トランスジェニック動物B由来の遺伝子構成に基づき下記4種類が存在する。
(i)Nex遺伝子プロモーター制御下のCre遺伝子のみを保持する。
(ii)Dlx遺伝子プロモーター制御下のCre遺伝子のみを保持する。
(iii)(i)及び(ii)の双方のCre遺伝子を保持する。
(iv)(i)及び(ii)の双方のCre遺伝子を保持しない。
ジェノタイピング法を用いた遺伝型判定により個体(iii)を同定する。この個体では、分化した興奮性神経細胞が脳内に発生したときにNex遺伝子プロモーターが機能して下流のCre遺伝子が発現し、分化した抑制性神経細胞が脳内に発生したときにDlx遺伝子プロモーターが機能して下流のCre遺伝子が発現するので、両方の細胞内でCre/loxPシステムによるFoxG1遺伝子のコピー数半減が起こる。
【0014】
コンディショナルノックアウト動物の選抜は、文献(Neuron. 2012 Jun 21;74(6):1045-58)記載の方法で実施できる。概要を以下に説明する。
トランスジェニック動物Aの各ゲノムのFoxG1遺伝子下流側のloxP配列の更に下流に別のDNA組み換え酵素Flpeの遺伝子を挿入しておく。トランスジェニック動物Bの各ゲノムに、両端がFRT配列(DNA配列)で挟まれた発現停止カセットと、その下流に緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を挿入しておく。なお、FlpeはFRT配列に作用して部位特異的組換え反応を起こす。
トランスジェニック動物AとBとの交配により得られた動物のうち、コンディショナルノックアウトが起きた動物では、FlpeがFRT配列に作用して発現停止カセットの欠損が起きてGFP遺伝子が発現するので蛍光が生じる。この機構を用いることで、蛍光発光を指標としてコンディショナルノックアウト動物を選抜でき、なおかつ動物脳内においてFoxG1遺伝子のコピー数が2から1に減少した興奮性神経細胞および抑制性神経細胞を同定することができる。
【0015】
FoxG1遺伝子の塩基配列は公知であり、例えばマウスFoxG1遺伝子の塩基配列はアクセッション番号「NM_001160112」でGenBankに登録されている(URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NM_001160112.1)。
loxP配列の挿入は公知のジーンターゲティング法により実施できる。loxP配列は公知であり、例えば、アクセッション番号「AF237862.1」でGenBankに登録されている配列(URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF237862.1)の127位~160位に該当する配列を使用できる。
トランスジェニック動物Aは、文献(Neuron. 2012 Jun 21;74(6):1045-58)に記載の方法により作製できる。
【0016】
トランスジェニック動物Bは、
(1)Nex遺伝子座においてNex遺伝子プロモーター下流にCre遺伝子が挿入されたゲノムを1コピー保持するトランスジェニック動物(Nex-Cre動物)と、
(2)Dlx遺伝子プロモーター下流にCre遺伝子をもつ断片が挿入されたゲノムを保持するトランスジェニック動物(Dlx-Cre動物)とを交配して得られる。
Nex-Cre動物は文献(Genesis. 2006 Dec;44(12):611-21)記載の方法にて作製可能であり、マックス・プランク医学実験研究所ゲッティンゲン(ドイツ)のKlaus Nave博士からも入手可能である。
Dlx-Cre動物は文献(Neuron. 2006 Aug 17;51(4):455-66)記載の方法にて作製可能であり、又は市場で入手可能(例えばThe Jackson Laboratory社のJackson mouse Stock No: 008199 | Dlx5/6-Cre(URL: https://www.jax.org/strain/008199)のマウス)である。
【0017】
前記の作製方法に加えて、自閉症モデル動物は「脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方におけるFoxG1遺伝子の発現量を、野生型動物と比較して1.2~2.0倍に増加させる操作を生後7日以降に施す」ことでも作製できる。
この操作は、
(1)Creによる組み換えが起こった時にのみトランス活性化因子tTAを恒常的に発現する遺伝子座(R26-stop-tTA)と、tTA依存的に発現を誘導するプロモーター(TRE: Tet Responsive Element)の下流にFoxG1遺伝子を保持する遺伝子座(TRE-FoxG1)の双方をホモ接合により2コピー保持するトランスジェニック動物C(メス)と、
(2)前記トランスジェニック動物B(オス)とを交配して達成できる。
トランスジェニック動物CのR26-stop-tTAにはloxP配列に挟まれた発現停止カセットが挿入されている。交配により得られた個体において、未分化増殖細胞が興奮性又は抑制性神経細胞へと分化してCreが発現しloxP配列へ作用して発現停止カセットの欠損が起こるとtTAが誘導され、このtTAにより活性化されたTRE-FoxG1は下流のFoxG1遺伝子の発現を誘導する。
なお、本発明では、前記のFoxG1遺伝子発現量増加操作を生後7日以降に実施するが、これは、メスにプラグ(交配成立の指標)がついた胎生0日目からtTA阻害剤(ドキシサイクリン)を含んだエサを与えておき、生後7日目に通常のエサに切り換えることで達成できる。
交配で得られた全ての個体は、loxP配列によりCre依存的にtTAを発現するR26-stop-tTAと、tTA依存的にFoxG1遺伝子を発現するTRE-FoxG1の双方を1コピーずつ保持しているが、トランスジェニック動物B由来の遺伝子構成に基づき下記4種類が存在する。
(v)Nex遺伝子プロモーター制御下のCre遺伝子のみを保持する。
(vi)Dlx遺伝子プロモーター制御下のCre遺伝子のみを保持する。
(vii)(v)及び(vi)の双方のCre遺伝子を保持する。
(viii)(v)及び(vi)の双方のCre遺伝子を保持しない。
ジェノタイピング法を用いた遺伝型判定により個体(vii)を同定する。この個体に対し生後7日以降にtTA阻害剤(ドキシサイクリン)を含むエサから通常のエサに切り換えるという誘導操作を行うと、tTA阻害剤により不活化されていたtTAが活性化状態となりFoxG1遺伝子の発現量増加が生じる。
本発明の自閉症モデル動物におけるFoxG1遺伝子の発現量増加は、野生型動物のFoxG1遺伝子の発現量に対して1.2~2.0倍、好ましくは1.5~2.0倍である。なお、1.2~2.0倍の発現量増加は前記トランスジェニック動物B~Cを用いた操作で達成できるが、tTA阻害剤のエサへの配合量調節やトランスジェニック動物CにおけるTRE-FoxG1のコピー数を増やすことによってFoxG1遺伝子の発現量増加の程度を調節してもよい。また、FoxG1遺伝子の発現量増加の定量は、FoxG1抗体を用いた免疫染色により実施できる。
【0018】
R26-stop-tTAを持つトランスジェニック動物Cの作製に関わる配列は公知であり、例えば、
R26はマウス第6染色体に在るR26遺伝子座(Gt(ROSA)26Sor)の配列(アクセッション番号「MGI:MGI:104735」でGenBankに登録されている配列(URL: http://www.informatics.jax.org/marker/MGI:104735))を使用でき、
発現停止カセット(stop)はアクセッション番号「KX803821.1」でGenBankに登録されている配列(URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/KX803821.1)を使用でき、
tTAは、アクセッション番号「KX766191」でGenBankに登録されている配列(URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/KX766191.1)を使用できる。
TREの配列も公知であり、例えば、アクセッション番号「MG874803」でGenBankに登録されている配列(URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/MG874803.1)を使用できる。
トランスジェニック動物Cは、
(1)R26遺伝子座においてR26遺伝子プロモーター下流にloxP配列で挟まれた発現停止カセットと、さらにその下流にトランス活性化因子tTAが挿入されたゲノムを1コピー保持するトランスジェニック動物(R26-stop-tTA動物)と、
(2)tTA依存的に発現を誘導するプロモーター(TRE)の下流にFoxG1遺伝子をもつ断片が挿入されたゲノムを保持するトランスジェニック動物(TRE-FoxG1動物)とを交配して得られる。
R26-stop-tTA動物は文献(Neurobiol Dis 29(3):400-8)記載の方法にて作製可能であり、又は市場で入手可能(例えば、The Jackson Laboratory社のJackson mouse Stock No: 008600 Gt(ROSA)26Sortm1(tTA)Roos(URL: https://www.jax.org/strain/008600)のマウス)である。
TRE-FoxG1動物は文献(J Neurosci. 2002 Aug 1;22(15):6526-36)記載の方法にて作製可能である。
【0019】
本発明の自閉症モデル動物は、ヒト自閉症の治療法や早期診断法の開発におけるリサーチツールとして利用できる。
例えば、本発明の自閉症モデル動物に試験物質を投与し、投与前に当該モデル動物が示していた自閉症の特徴に対する試験物質の効果に基づいて、ヒト自閉症の治療薬又は予防薬をスクリーニングできる。
【0020】
次に実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
〔実施例1〕
実施例1では、公知のコンディショナルノックアウト操作(Dev Cell. 2004 Jan;6(1):7-28)をマウスに適用して「脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方におけるFoxG1遺伝子のコピー数を2コピーから1コピーへと減少させる操作」が施された自閉症マウスを作製した。
【0022】
(1)トランスジェニック動物A
文献(Neuron. 2012 Jun 21;74(6):1045-58)記載の方法に従い、マウス(商品名:floxed-FoxG1、入手先:ニューヨーク大学)からトランスジェニック動物A(メス)を作製した。
トランスジェニック動物Aは、両端にloxP配列が挿入されたFoxG1遺伝子を2コピー保持し、更に各コピーのFoxG1遺伝子下流側のloxP配列の更に下流にはFlpe遺伝子が挿入されていた。
FoxG1遺伝子の配列は、アクセッション番号「NM_001160112」でGenBankに登録されている配列であった。
loxP配列は、アクセッション番号「AF237862.1」でGenBankに登録されている配列の127位~160位に該当する配列であった。
Flpe遺伝子の配列は、アクセッション番号「GU253314」でGenBankに登録されている配列であった。
【0023】
(2)トランスジェニック動物B
トランスジェニック動物Bを、Nex-Cre動物(Nex遺伝子座においてNex遺伝子プロモーター下流にCre遺伝子が挿入されたゲノムを1コピー保持するトランスジェニック動物)と、Dlx-Cre動物(Dlx遺伝子プロモーター下流にCre遺伝子をもつ断片が挿入されたゲノムを保持するトランスジェニック動物)とを交配して作製した。
Nex-Cre動物は、文献(Genesis. 2006 Dec;44(12):611-21)記載の方法に従い作製したマウスを使用した。
Dlx-Cre動物は、The Jackson Laboratory社のJackson mouse Stock No: 008199 | Dlx5/6-Cre(URL: https://www.jax.org/strain/008199)のマウスを使用した。
交配で得られたオスのマウス40匹のなかから、ジェノタイピング法によりトランスジェニック動物Bを選抜した。トランスジェニック動物Bでは、一方のゲノムのNex遺伝子座にCre遺伝子が挿入され、他方のゲノムではDlx遺伝子プロモーター制御下にCre遺伝子をもつ断片が挿入されていた。
Nex-Cre動物及びDlx-Cre動物におけるCre遺伝子配列は、アクセッション番号「X03453」でGenBankに登録されている配列(URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NC_005856.1)であった。
Nex-Cre動物において、Creが挿入される前のマウス第6染色体に在るNex遺伝子座の配列は、アクセッション番号「NM_009717」でGenBankに登録されている配列(http://asia.ensembl.org/Mus_musculus/Gene/Summary?db=core;g=ENSMUSG00000037984;r=6:55677822-55681263;t=ENSMUST00000044767)であった。
Dlx-Cre動物におけるDlx遺伝子プロモーター配列は、アクセッション番号「AF201695」でGenBankに登録されている配列(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF201695.4)であった。
【0024】
(3)FoxG1遺伝子のコピー数を2コピーから1コピーへと減少させる操作
トランスジェニック動物A(メス)15匹とトランスジェニック動物B(オス)6匹とを交配した。得られたマウス125匹の中から、(i)Nex遺伝子プロモーター制御下のCre遺伝子と(ii)Dlx遺伝子プロモーター制御下のCre遺伝子の双方を保持する個体(34匹)をジェノタイピング法により選抜した。
選抜されたマウスの興奮性神経細胞及び抑制性神経細胞の双方においてFoxG1遺伝子のコピー数が2コピーから1コピーへと減少していたことを蛍光発光に基づいて確認した。
ここで、蛍光発光の機序を
図1に基づいて説明する。未分化増殖細胞ではDNA組み替え酵素Creは発現しないが、未分化増殖細胞が興奮性神経細胞へ分化するとNex遺伝子プロモーターが機能して下流のCre遺伝子が発現し、未分化増殖細胞が抑制性神経細胞へ分化するとDlx遺伝子プロモーターは機能して下流のCre遺伝子が発現する(図上段)。発現したCreがloxP配列に作用してFoxG1遺伝子の組み換え(欠損)が起こることでFoxG1遺伝子のコピー数が2から1に減少する(図中段左)。更に、FoxG1遺伝子の組み換え(欠損)が正しく起こると、元々はFoxG1遺伝子の発現を制御していたFoxG1遺伝子座のプロモーターの機能によって下流のDNA組み換え酵素Flpeの発現が起こる(図中段右)。FlpeはFRT配列に挟まれた発現停止カセットを欠損させるので(図下段左)、下流の緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子が発現して蛍光が生じる(図下段右)。
【0025】
図2に、生後3週間後の選抜マウス(左)、興奮性神経細胞においてのみFoxG1遺伝子のコピー数を減少させたマウス(中央)、及び抑制性神経細胞においてのみFoxG1遺伝子のコピー数を減少させたマウス(右)のそれぞれにおける脳内のGFPの発現様式を示す。興奮性神経細胞に存在するGFP発現と、抑制性神経細胞に存在するGFP発現を、GFPを認識する抗体(商品名:ラットGFP抗体 #GF090R。供給者名:ナカライテスク)を用いた染色により測定した。GFPシグナルが黒になるように示す。
大脳皮質の約8割は興奮性神経細胞で占められ(残りは抑制性神経細胞)、線条体は抑制性神経細胞のみで構成されるところ、興奮性神経細胞においてのみFoxG1遺伝子のコピー数を減少させたマウス(
図2中央)では大脳皮質でのみGFPシグナルが観察された。
抑制性神経細胞においてのみFoxG1遺伝子のコピー数を減少させたマウス(
図2右)では、線条体と大脳皮質の一部でのみGFPシグナルが観察された。
一方、選抜マウス(
図2左)では、前記2つの染色結果を重ね合わせたような染色結果(すなわち、大脳皮質及び線条体でGFPシグナルが観察)となった。この図より、選抜マウスでは興奮性神経細胞と抑制性神経細胞の双方でFoxG1遺伝子のコピー数減少が起きたことが理解される。
【0026】
(4)自閉症の特徴の評価
(3)で得られたマウスについて、自閉症の特徴の1つである社会的コミュニケーションの障害の有無を3チャンバー社会性アッセイ(Nat Rev Neurosci. 2010 Jul;11(7):490-502)で評価した。具体的手順を
図3に基づいて以下に説明する。
(i)通路で連結された3つのチャンバーを準備した。検査対象マウス((3)で得られたマウス)とは別ケージで飼育した同性同年齢のマウス(未遭遇マウス)を入れるための小ケージ1及び2を両端のチャンバーに設置した(
図3、左上)。
(ii)慣らし期間として、検査対象マウス(一匹)を、3つのチャンバー間を自由に行き来させた(10分間)(
図3、右上の「慣らし期間」)。
(iii)続いて、第一の未遭遇マウス(一匹)を小ケージ1にいれ、検査対象マウスが第一未遭遇マウスに対して示す興味の程度を計測した(10分間)(
図3、右上の「社会性」)。
(iv)続いて、第二の未遭遇マウス(一匹)を小ケージ2にいれ、検査対象マウスが、第一未遭遇マウス((iii)で慣れている)又は第二未遭遇マウスのいずれに対し興味を示すのかを計測した(10分間)(
図3、右上の「社会性(新旧)」)。
【0027】
正常マウスは、(iii)では第一未遭遇マウスに興味を示し、小ケージ1を設置したチャンバーに長く滞在した(
図3、左下の棒グラフ「正常」「社会性」)。また、(iv)では第一未遭遇マウスよりも第二未遭遇マウスに興味を示し小ケージ2を設置したチャンバーに長く滞在した(
図3、左下の棒グラフ「正常」「新旧」)。
一方、検査対象マウスは正常マウスとは異なる行動を示した。具体的には、(iii)では第一未遭遇マウスを避け、小ケージ1を設置したチャンバー以外のチャンバーに滞在する時間が長くなった(
図3、左下の棒グラフ「興奮+抑制 コピー半減」「社会性」)。また、(iv)では第一及び第二未遭遇マウス(より新規のマウス)の間で選択性はなく、なおかつ未遭遇第一第及び二マウスが共にいない中央のチャンバーに滞在する期間が長くなった(
図3、左下の棒グラフ「興奮+抑制 コピー半減」「新旧」)。
正常マウスとは異なるこれらの行動に基づき、検査対象マウス((3)で得られたマウス)は、社会的コミュニケーションの障害を示すと判断した。
なお、「分化した興奮性神経細胞のみでFoxG1遺伝子のコピー数を2コピーから1コピーへと減少させたマウス」(
図3、左下の棒グラフ「興奮 コピー半減」)と「分化した抑制性神経細胞のみでFoxG1遺伝子のコピー数を2コピーから1コピーへと減少させたマウス」(
図3、左下の棒グラフ「抑制 コピー半減」)では、正常マウスと同程度の社会性を示した。なお、
図3左下の棒グラフにおける「*」はP<0.05を示す。
【0028】
〔実施例2〕
実施例2では、「脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方におけるFoxG1遺伝子の発現量を、野生型動物と比較して1.2~2.0倍に増加させる操作を生後7日以降に施された」自閉症マウスを作製した。
【0029】
(1)トランスジェニック動物C
R26-stop-tTA動物として、市販のマウス(The Jackson Laboratory社のJackson mouse Stock No: 008600 Gt(ROSA)26Sortm1(tTA)Roos(URL: https://www.jax.org/strain/008600))を使用した。
TRE-FoxG1動物(マウス)は、文献(J Neurosci. 2002 Aug 1;22(15):6526-36)記載の方法に従い作製した。
R26-stop-tTAマウスとTRE-FoxG1マウスとを交配して得られたマウス8匹について、さらに交配を進めた後、R26-stop-tTAとTRE-FoxG1の双方をホモ接合により2コピー保持しているトランスジェニック動物Cをジェノタイピング法により選抜した。
R26遺伝子座の配列は、アクセッション番号「MGI:MGI:104735」でGenBankに登録されている配列であった。
発現停止カセット(stop)の配列は、アクセッション番号「KX803821.1」でGenBankに登録されている配列であった。
tTAの配列は、アクセッション番号「KX766191」でGenBankに登録されている配列であった。
TREの配列は、アクセッション番号「MG874803」でGenBankに登録されている配列であった。
【0030】
(2)トランスジェニック動物B
実施例1記載の手順で作製したトランスジェニックマウスを使用した。
【0031】
(3)FoxG1遺伝子の発現量を増加させる操作
トランスジェニック動物C(メス)9匹とトランスジェニック動物B(オス)3匹とを交配した。得られたマウス78匹の中から、(i)Nex遺伝子プロモーター制御下のCre遺伝子と(ii)Dlx遺伝子プロモーター制御下のCre遺伝子の双方を保持する個体(17匹)をジェノタイピング法により選抜した。
選抜された個体について、親トランスジェニック動物C(メス)にプラグ(交配成立の指標)がついた胎生0日目から生後6日までは、tTA阻害剤(ドキシサイクリン)が添加されたエサ(商品名:Mod LabDiet 5001w/200 PPM Doxycycline。供給者:TestDiet)を与えた。生後7日以降は通常のエサのみ(tTA阻害剤を含まない)を与えた。この給餌手順を用いて、FoxG1遺伝子の発現量を増加させる操作を生後7日以降に実施した。
生後14日に、選抜マウスの脳に存在する分化した興奮性神経細胞及び分化した抑制性神経細胞の双方におけるFoxG1遺伝子の発現量を下記手順に従い測定し、野生型マウスと比較した。測定対象として、大脳皮質内での場所の特定が容易であり、かつ興奮性神経細胞と抑制性神経細胞の双方が存在するバレル領野を選定した。
バレル領野を含む大脳切片を作成し、FoxG1抗体(商品名:ウサギFoxG1抗体。供給者名:ニューラセル)で染色した。染色結果を
図4に示す。
図4中の点線囲い部が測定対象領域のバレル領野の第5層である。
バレル領野内の第5層で観察されたドット状染色(pixel)のうち、シグナル強度が256段階で157以上のもの(強度が上位100のもの)を、FoxG1遺伝子発現を示すpixelとした。
対照マウス(野生型マウス)では、バレル領野内の全46464 pixelのうち、FoxG1遺伝子発現を示すpixel数は2736(全pixel数に対して0.05888)であった。
一方、FoxG1遺伝子発現量増加操作を施したマウスでは、バレル領野内の全52528 pixelのうち、FoxG1遺伝子発現を示すpixel数は5332(全pixel数に対して0.1015077)であった。
したがって、
図4に示すFoxG1遺伝子発現量増加操作マウスでは、FoxG1遺伝子の発現量が、野生型マウスに対して1.723倍(0.1015077/0.05888)増加していた。
なお、バレル領野の第5層以外の皮質層や、他の視覚野や運動野でも同様の発現量増加が観察された。
【0032】
(4)自閉症の特徴の評価
(3)でFoxG1遺伝子の発現量増加が確認されたマウス(検査対象マウス)について、実施例1記載の3チャンバー社会性アッセイに従い社会的コミュニケーションの障害の有無を評価した。
正常マウスは、(iii)では第一未遭遇マウスに興味を示し、小ケージ1を設置したチャンバーに長く滞在した(
図3、右下の棒グラフ「正常」「社会性」)。また、(iv)では第一未遭遇マウスよりも第二未遭遇マウスに興味を示し小ケージ2を設置したチャンバーに長く滞在した(
図3、右下の棒グラフ「正常」「新旧」)。
一方、検査対象マウスは正常マウスとは異なる行動を示した。具体的には、(iii)では第一未遭遇マウスを避け、小ケージ1を設置したチャンバー以外のチャンバーに滞在する時間が長くなった(
図3、右下の棒グラフ「興奮+抑制 発現増加」「社会性」)。また、(iv)では第一未遭遇マウスよりも第二未遭遇マウス(より新規のマウス)に親和性を示す傾向はみられたものの、未遭遇第一第及び二マウスが共にいない中央のチャンバーに滞在する期間が長くなった(
図3、右下の棒グラフ「興奮+抑制 発現増加」「新旧」)。
正常マウスとは異なるこれらの行動に基づき、検査対象マウスは、社会的コミュニケーションの障害を示すと判断した。
なお、「分化した興奮性神経細胞のみでFoxG1遺伝子の発現量を生後7日目以降に増加(1.2~2.0倍)させたマウス」(
図3、右下の棒グラフ「興奮 発現増加」)と「分化した抑制性神経細胞のみでFoxG1遺伝子の発現量を生後7日目以降に増加(1.2~2.0倍)させたマウス」(
図3、右下の棒グラフ「抑制 発現増加」)では、正常マウスと同程度の社会性を示した。なお、
図3右下の棒グラフにおける「*」はP<0.05を示す。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、ヒト自閉症の治療法や早期診断法等の開発におけるツールとして利用できる。