(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】果実袋及びその取り付け方法
(51)【国際特許分類】
A01G 13/02 20060101AFI20220816BHJP
【FI】
A01G13/02 101B
(21)【出願番号】P 2018097826
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2020-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】500122385
【氏名又は名称】奥西 穂積
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】富松 優
(72)【発明者】
【氏名】青木 五十三
(72)【発明者】
【氏名】奥西 穂積
(72)【発明者】
【氏名】奥西 将之
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-178282(JP,A)
【文献】特開平04-016132(JP,A)
【文献】実開昭52-143343(JP,U)
【文献】特開2004-057142(JP,A)
【文献】実開昭56-015370(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0137993(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏2枚の方形の上辺幅方向中央の所定幅が上方に延設された帯紐を備え、底辺、側辺および上辺の前記帯紐部を除いた領域が溶着あるいは折込みで表裏が連続する胴部となし、当該胴部の容積が成果より大きく、前記帯紐の内側に形成される開口部の径が幼果が入る大きさとし、前記胴部の少なくとも1箇所に
間隙幅のないスリットである切り込みを入れた果実袋。
【請求項2】
請求項1に記載の果実袋を用いて、当該果実袋の帯紐の内側に形成される開口部から幼果を挿入し、実柄部で、前記表裏の帯紐を連結して前記胴部を封止し、更に、前記表裏の帯紐を枝の上で連結することを特徴とする果実袋の取り付け方法。
【請求項3】
前記表裏2枚の帯紐の結び又は溶着によって、実柄部での帯紐の連結を形成し、更に、前記表裏2枚の帯紐の結び又は溶着によって、枝の上での帯紐の連結を形成する請求項3に記載の果実袋の取り付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はいわゆる袋掛けに用いる果実袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
果樹栽培において、果実は結実してからそのまま放置しておくと、種々の原因で腐敗することが多い。特に果実の柔らかいイチジク等にそのような現象が顕著に見られる(非特許文献1参照)。多くは虫や昆虫が媒介する菌、雨で跳ね上がって葉等に付着する地中の菌、等が原因である。このような現象を回避するために消毒作業や、袋掛け作業がなされるのであるが、消毒は、農薬を使用する関係上、消費者に一定の壁がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】イチジク病害図鑑(平成18年6月:愛知県農業試験場)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
果実の生育過程で、あるいは収穫前の決められた時期に、農薬を使用して病原菌を死滅させることが通常実施されるが、農薬に対する消費者の危惧を排除することができず、見た目の商品価値は上がっても、心理的な不安を解消することはできない。
【0005】
袋掛けをしておくと、昆虫や虫の寄付きがすくなくなり、果実に上記のような菌が付着することは少なくなって、結果として短期間で腐敗する果実は少なくなるが、完全ではない。
【0006】
袋掛けが完全ではない理由のひとつとして、取り付け作業に手間がかかる他、果柄部の取り付け部が完全に封止状態に至らずに、隙間があく。その隙間から害虫が入って菌を運ぶことが多い。雨で濡れた紙は破れやすくなっており、例えば枝に触れた状態で風が吹くと、すぐに敗れることになり、また、乾いた状態であっても甲虫等に噛まれると破れることになる。
【0007】
通気性を重視して紙の袋を使用しているのであるが、紙であると逆に透光性が劣り、リンゴの場合、色付きを良くするために、出荷前の一定期間前に袋をはずすことになる。この作業は手間がかかる上に、外している期間に病原菌や害虫にさらされる。また、鳥や甲虫よって果実が傷つけられ破れることも多く、破れるとハエや蜂等の運ぶ菌が付着し腐敗に進むことになる。特にスリップスは等の害虫は2~3ミリの隙間でもすり抜けて袋内に侵入して果実を齧ることから、果実の質に及ぼす影響は大きい。
【0008】
また、紙袋では強度の劣化の進行がはやく強度が不足することが発生する。従って、枝に結束したとしても、台風の強風での果実の落下は避けられない。また、不透明であるため果実の状態を目で観察することが困難であり、農薬を散布したときに、農薬が紙に吸着されて果実に接触し吸収されるおそれがある。
【0009】
紙に代えてナイロン・ポリウレタン製の市販のストッキングを袋状に加工して果実に被せることが提案されている。この方法は、ストッキング自体が網目でありアザミウマのような極小な昆虫はすり抜けて内部に入ることができるので、効果は限定的である。
【0010】
方形の単純な形状の合成樹脂シートを果実に被せて枝にくくりつけることも現実に行われているが、この形状の袋では、ハエや蜂、スリップスの侵入する隙間ができるので、効果は限定的である。特に、合成樹脂であっても薄い材質(0.2mm以下)を用いると、甲虫が齧ると破れるので、さらに効果は限定的である。
【0011】
本発明は、上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、害虫を寄せ付けない密封性と強度を備え、かつ十分な透光性を保持した果実袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、表裏2枚の方形の上辺幅方向中央の所定幅が上方に延設された帯紐を備え、底辺、側辺および上辺の前記帯紐部を除いた領域が溶着あるいは折込みで表裏が連続する胴部となし、当該胴部の容積が成果より大きく、前記帯紐の内側に形成される開口部の径が幼果が入る大きさとした果実袋である。
【0013】
前記胴部には、少なくとも1箇所に間隙幅のないスリットである切り込みを入れる。
【0014】
前記の果実袋を用いて、当該果実袋の帯紐の内側に形成される開口部から幼果を挿入し、実柄部で、前記表裏の帯紐を連結して前記胴部を封止し、更に、前記表裏の帯紐を枝の上で連結する。前記表裏2枚の帯紐の結び又は溶着によって、実柄部での帯紐の連結を形成し、更に、前記表裏2枚の帯紐の結び又は溶着によって、枝の上での帯紐の連結を形成する。
【発明の効果】
【0015】
上記果実用袋を用いて上記の方法で袋掛けをすると、開口部が完全に封止されるので、ハエやスリップス等の虫が入りにくく、虫の運ぶ病原菌による腐敗がなく、樹脂シートであるので丈夫であり、風雨に耐え、更に透明であるので透光性に優れているので、成果に育ったときの見栄えもよく不良率がほぼ0%に近くなる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明の袋の使用手順を示すフロー図である。
【
図3】本発明の袋の使用手順を示す別のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
【0018】
ビニール、ナイロン等の透明、半透明の表裏2枚の方形の胴部11の上辺幅方向中央から、所定幅の帯紐12を立ち上げた形状である。底辺11aと側辺11bは溶着(太線)あるいは折り込み(細線)によって、表裏が連続しており、上辺11cも前記帯紐12の立ち上げ部を除いて溶着して封止される。底辺11a、側辺11b、および前記上辺11cの溶着部で形成される胴部11の容積は、成果より大きく、上部の帯紐12の内側に形成される開口部13の径は幼果が入る大きさとする。
【0019】
胴部11の大きさについて“成果より大きく”であるから、果実の種類によって異なることになるが、現実には大、中、小の3種程度を用意する。表裏の帯紐12の内側の開口部13の開口径は“幼果が入る大きさ”であり、この大きさも果実の種類に依存することになるが、30mm以下となる。この場合も前記胴部11の大、中、小の大きさに対応して、例えば30mm、20mm、10mmを用意することが好ましい。
【0020】
通気性と排水性を確保するために、胴部11の少なくとも一箇所に小穴あるいはスリット13を形成しておく。
【0021】
上記の構成の果樹袋の使用方法について以下に説明する。
【0022】
図2(a)に示すように、まず、花が受粉して幼果Aが形成されたとき、前記上記の開口部13より当該幼果Aを包むように、当該果樹袋10に入れる。この状態で、
図2(b)に示すように、帯紐12を当該幼果が付いている枝Cの下側の果柄Bの部分で一旦結んで、結びXを形成し、胴部11を封止する。ついで、
図2(c)に示すように、前記表裏2枚の帯紐12の結びの先端を枝Cを挟むように上側に回して、枝Cの上で再び結んで、結びYを形成する。
【0023】
前記結びX(連結)によって、胴部11の上端は封止され、スリップス類、ハエ類、蜂類等の虫が胴部11に侵入することは全くなく、従って、これらが運ぶ菌による腐敗の発生はない。またナイロン等の強度の高い材質のシートを用いているので甲虫等が齧っても破れることはなく、更に、前記結びY(連結)によって、果実の重量を吊り下げるようになっているので、成果になった果実の重量が増えた状態で大雨に遭遇、あるいは強い風が吹いても果実が落下する確率は極めて小さくなる。
【0024】
尚、通気兼排水穴(スリット)13を設けない場合は、内部に水が溜まる場合があるが、この溜水は果実の品質に影響を与えないことも確認した。但し、この場合溜水の重みが枝に掛ることになり、枝の負担が大きくなる。
【0025】
図3(b)は、前記果柄Bの部分での結びXに代えて、果柄Bの部分を残して溶着部15(連結)を形成したものである。前記溶着部15は、胴部11の上辺11cに対応して、表裏の帯紐12の開口部13をより狭くするように設け、これによって、表裏の帯紐12の間から前記害虫、菌等が侵入することが防止できる。更に、
図3(c)は
図2の枝Cの上で溶着部16(連結)を形成し前記上の結びYと同様の吊り下げ効果を持たせたものである。
【0026】
以上、表裏の帯紐12の間の開口部13を連結する方法として、結びや溶着を用いたが、他の手段、例えば事務用のホッチキスを用いることでもよい。また、枝Aの上での帯紐12の連結の方法も結びや溶着に買えて他の方法を用いることもできる。
【実施例1】
【0027】
表1はイチジク「桝井ドーフィン」に対して本発明の果樹袋で袋掛けした例について、スリップス被害の発生を程度別に表した他、実重、着色割合、糖度を示すものである。平成16年6月23日に、頭径が10~30mmの果実に本願発明の袋掛けをし、収穫までそのままの状態を維持した果実について、袋掛けをしない場合とでのスリップスの発生について比較したものである。
【0028】
本願発明に係る果樹袋を掛けた場合には、25サンプルすべてについてスリップス被害はなかった。これに対して袋掛けしない場合は22サンプル中被害のなかったのは7サンプルのみで、後は程度の差はあるがなんらかのスリップス被害があった。
【0029】
スリップス被害の程度は、収穫後の果実を割って、内部の褐変程度で判断(被害程度0:無し、1:軽微な褐変、2:1/2以下の褐変、3:1/2以上の褐変、4:黒変)
【0030】
【実施例2】
【0031】
表2は蓬莱柿に対して本発明の果樹袋で平成16年7月下旬に袋掛けし9月4日に収穫した例について、生育過程でのショウジョウバエの影響で発生する腐敗果数等について観察した結果である。本発明による袋を掛けた場合には腐敗確率はゼロであったのに対して、袋掛けをしない場合には14%もの腐敗があった。
【0032】
【実施例3】
【0033】
実施例2で収穫した蓬莱柿を5℃で6日間貯蔵した後に果頂部にカビが発生したもの、あるいは水浸状になったものを腐敗果として、その割合を観察した。有袋果は収穫時までカビ菌を野路していないせいか、腐敗果はゼロであった。
【0034】
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上説明したように、本発明は、害虫や菌の侵入をほぼ完全に防止できるので、出荷時まで果実が腐敗することないので、果実農園、家庭菜園での利用でも大いに効果を挙げることができる。
【符号の説明】
【0036】
10・・果樹袋
11・・胴部
11a・・底辺、11b・・側辺、11c・・上辺
12・・帯紐
13・・開口部
14・・スリット
15、16・・溶着部
A・・果実、B・・実柄、C・・枝
X、Y・・結び