(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】流体管のフルカット切断方法及びフルカット切断装置
(51)【国際特許分類】
F16L 55/00 20060101AFI20220816BHJP
B23B 41/08 20060101ALI20220816BHJP
B23D 21/04 20060101ALN20220816BHJP
B23B 47/34 20060101ALN20220816BHJP
B23D 33/00 20060101ALN20220816BHJP
【FI】
F16L55/00 C
B23B41/08
B23D21/04
B23B47/34 A
B23D33/00 B
(21)【出願番号】P 2018103162
(22)【出願日】2018-05-30
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】396020361
【氏名又は名称】株式会社水道技術開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永森 保行
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-136804(JP,A)
【文献】特開2013-029153(JP,A)
【文献】実公平07-038797(JP,Y2)
【文献】特開平07-332580(JP,A)
【文献】特開2013-029152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 55/00
B23B 41/08
B23D 21/04
B23B 47/34
B23D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体管を密封状に取り囲む筐体の内部で、円筒形状のホールソーと、その軸中心に位置するセンタードリルとを備える穿孔機の前記ホールソーによって前記流体管を不断流状態でフルカット切断すると共に前記センタードリルをフルカット切断で生じる切片に貫通させる切断工程と、
前記切断工程の後、前記穿孔機を引き上げるとともに、フルカット切断で生じた切片の内面に前記センタードリルに設けられる脱落防止コマで引っ掛けて前記切片を回収する回収工程と、を備え、
前記切断工程では、前記切片と前記筐体の底部内面との間に配置された落下規制部材により前記切片の落下を規制
し、
前記落下規制部材は、前記筐体の底部に設けられた孔を介して前記筐体の内部に配置され、前記筐体の底部内面より前記流体管に向かって突出する姿勢で前記切片を下方から支持する、流体管のフルカット切断方法。
【請求項2】
前記孔は、前記筐体の底部の中心部位に設けられた排出孔であり、
前記落下規制部材は、外部からの操作に応じて、前記排出孔の軸方向の投影領域の内部に先端部が配置される第1の姿勢と、前記投影領域の外部に先端部が配置される第2の姿勢との間で姿勢変更が可能であり、
前記第2の姿勢にある前記落下規制部材の先端部を前記切片に当接させることにより前記切片を下方から支持する、請求項
1に記載の流体管のフルカット切断方法。
【請求項3】
前記落下規制部材は、外部からの操作に応じて、前記筐体の底部内面からの突出量を調整可能であり、
前記落下規制部材の先端部を前記切片に当接させることにより前記切片を下方から支持する、請求項
1に記載の流体管のフルカット切断方法。
【請求項4】
前記回収工程の後、前記流体管の切断部に挿入体を挿入する挿入工程を備え、
前記挿入工程で挿入した前記挿入体の底部外面と前記筐体の底部内面との間をシール材で密封し、前記流体管内を流れる流体が前記孔に行き届かないようにした後で、前記筐体から前記落下規制部材を取り外す、請求項
1~3いずれか1項に記載の流体管のフルカット切断方法。
【請求項5】
流体管を密封状に取り囲む筐体の内部で、円筒形状のホールソーと、その軸中心に位置するセンタードリルとを備える穿孔機の前記ホールソーによって前記流体管を不断流状態でフルカット切断すると共に前記センタードリルをフルカット切断で生じる切片に貫通させる切断工程と、
前記切断工程の後、前記穿孔機を引き上げるとともに、フルカット切断で生じた切片の内面に前記センタードリルに設けられる脱落防止コマで引っ掛けて前記切片を回収する回収工程と、を備え、
前記切断工程では、前記切片と前記筐体の底部内面との間に配置された落下規制部材により前記切片の落下を規制し、
前記落下規制部材が、前記切片と前記筐体の底部内面との間に配置されるように前記流体管に取り付けられたクッション材で形成されており、
前記落下規制部材は、前記流体管の管周方向に沿って延びた装着部材を介して前記流体管に巻き付けて装着され、
前記落下規制部材は、前記筐体で前記流体管を密封状に取り囲む前に、予め前記流体管に取り付けられ、
前記回収工程では、前記切片とともに前記落下規制部材を回収する
、流体管のフルカット切断方法。
【請求項6】
流体管を密封状に取り囲む筐体と、
円筒形状のホールソーと、その軸中心に位置するセンタードリルとを備え、前記筐体の内部で前記流体管を前記ホールソーでフルカット切断すると共に前記センタードリルをフルカット切断で生じる切片に貫通させ、前記切片の内面に前記センタードリルに設けられる脱落防止コマを引っ掛けて前記切片を回収可能に構成された穿孔機と、
フルカット切断で生じる切片と前記筐体の底部内面との間に配置され、前記切片の落下を規制するように構成された落下規制部材と、を備え
、
前記落下規制部材が、前記筐体の底部に設けられた孔を介して前記筐体の内部に配置され、前記筐体の底部内面より前記流体管に向かって突出する姿勢で前記切片を下方から支持するように構成されている、流体管のフルカット切断装置。
【請求項7】
前記孔は、前記筐体の底部の中心部位に設けられた排出孔であり、
前記落下規制部材は、外部からの操作に応じて、前記排出孔の軸方向の投影領域の内部に先端部が配置される第1の姿勢と、前記投影領域の外部に先端部が配置される第2の姿勢との間で姿勢変更が可能であり、
前記第2の姿勢にある前記落下規制部材の先端部を前記切片に当接させることにより前記切片を下方から支持するように構成されている、請求項
6に記載の流体管のフルカット切断装置。
【請求項8】
前記落下規制部材は、外部からの操作に応じて、前記筐体の底部内面からの突出量を調整可能であり、
前記落下規制部材の先端部を前記切片に当接させることにより前記切片を下方から支持するように構成されている、請求項
6に記載の流体管のフルカット切断装置。
【請求項9】
流体管を密封状に取り囲む筐体と、
円筒形状のホールソーと、その軸中心に位置するセンタードリルとを備え、前記筐体の内部で前記流体管を前記ホールソーでフルカット切断すると共に前記センタードリルをフルカット切断で生じる切片に貫通させ、前記切片の内面に前記センタードリルに設けられる脱落防止コマを引っ掛けて前記切片を回収可能に構成された穿孔機と、
フルカット切断で生じる切片と前記筐体の底部内面との間に配置され、前記切片の落下を規制するように構成された落下規制部材と、を備え、
前記落下規制部材が、前記切片と前記筐体の底部内面との間に配置されるように前記流体管に取り付け可能なクッション材により形成され、
前記落下規制部材は、前記流体管の管周方向に沿って延びた装着部材を介して、前記筐体で前記流体管を密封状に取り囲む前に、予め前記流体管に巻き付けて装着可能である
、流体管のフルカット切断装置。
【請求項10】
前記落下規制部材は、前記流体管の管周方向に沿って延びた装着部材を介して、前記流体管に巻き付けて装着可能に構成されている、請求項
9に記載の流体管のフルカット切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿孔機を用いて流体管を管軸方向に切り離す、いわゆるフルカット切断を行うための方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設の水道管(流体管の一例)を筐体で密封状に取り囲み、その筐体の内部で水道管を不断水状態でフルカット切断した後、水道管の切断部に弁装置などの挿入体を挿入する工事が知られている。かかる工事は、例えば特許文献1~3に記載されている。
【0003】
一般に、フルカット切断には、
図10に示すような円筒形状のホールソー91と、その軸中心に位置するセンタードリル92とを備えた穿孔機9が用いられる。ホールソー91の直径は水道管1の管径よりも大きいため、ホールソー91により水道管1を管軸方向(
図10において紙面に垂直な方向)に切り離すことができる。ホールソー91の内部に収容される水道管1の周壁は、短管状の切片10となる。センタードリル92は、フルカット切断で生じた切片10を貫通し、そのセンタードリル92に設けられた脱落防止コマ93,94が切片10の内部に配置される。
【0004】
フルカット切断を完了したら、穿孔機9を引き上げて、ホールソー91やセンタードリル92を筐体8の外部に配置する。その際、切片10の内面に脱落防止コマ93を引っ掛けることにより、切片10を回収することができる。センタードリル92には、異なる高さに複数(
図10の例では二つ)の脱落防止コマ93,94が設けられている。これにより、一番上の脱落防止コマ93が引っ掛からない場合には、その下の脱落防止コマ94を引っ掛けて切片10を回収することができ、切片10を回収する確度を高めている。
【0005】
図10は、水道管1が完全に切り離された時点でのホールソー91の位置を示す。このフルカット切断の直後に、切片10は距離D1を落下して脱落防止コマ93に引っ掛かる。距離D1は、切片10の内面から脱落防止コマ93までの上下方向の距離に相当する。脱落防止コマ93に引っ掛からずに、その下の脱落防止コマ94に引っ掛かる場合、切片10は距離(D1+D2)を落下することになる。距離D2は、脱落防止コマ93から脱落防止コマ94までの上下方向の距離に相当する。
図10では、脱落防止コマ94に引っ掛かった切片10を破線で描いている。
【0006】
落下した切片はホールソー91と共に回転しているため、筐体8の底部内面8fに接触すると、その筐体8の内面塗装が剥がれるなどの損傷を起こし、そこから錆が発生して水質に影響を及ぼす恐れがある。そのため、脱落防止コマ94に引っ掛かった切片10が底部内面8fに接触しないよう、その切片10から底部内面8fまでの上下方向の距離D3を大きく確保して、空間的に余裕を持たせる必要があり、その結果、筐体8(の下側部材82)の小型化が困難であった。かかる事情の下、筐体8をコンパクトに構成するべく、距離D1や距離D2を小さくすることが考えられるが、下記のように何れも実用に見合わないことが判明した。
【0007】
即ち、脱落防止コマ93を引っ掛けるためには、切片10の内面から脱落防止コマ93を適度に離さなければならず、距離D1を所定以上に確保する必要があった。特に水道管1が鋼管である場合には、センタードリル92が貫通することにより切片10の内面にバリが発生するので、そのバリに脱落防止コマ93が干渉しない程度に距離D1を確保する必要があった。かと言って、鋼管専用のドリルを用意することは、経済性の観点から望ましいとはいえない。また、異なる高さに複数の脱落防止コマ93,94を設ける意義に照らすと、距離D2についても所定以上に確保する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-61391号公報
【文献】特開2016-70464号公報
【文献】特開2016-223528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、切片による筐体の底部内面の損傷を防いで、筐体をコンパクトに構成できるようにした、流体管のフルカット切断方法及びフルカット切断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る流体管のフルカット切断方法は、流体管を密封状に取り囲む筐体の内部で、穿孔機によって前記流体管を不断流状態でフルカット切断する切断工程と、前記切断工程の後、前記穿孔機を引き上げるとともに、フルカット切断で生じた切片を前記穿孔機で引っ掛けて回収する回収工程と、を備え、前記切断工程では、前記切片と前記筐体の底部内面との間に配置された落下規制部材により前記切片の落下を規制する。この方法では、切片と筐体の底部内面との間に配置された落下規制部材によって切片の落下を規制するので、筐体の底部内面に切片が接触することが妨げられる。そのため、切片による筐体の底部内面の損傷を防いで、筐体をコンパクトに構成できる。
【0011】
前記落下規制部材は、前記筐体の底部に設けられた孔を介して前記筐体の内部に配置され、前記筐体の底部内面より前記流体管に向かって突出する姿勢で前記切片を下方から支持することが好ましい。この場合、筐体の底部内面より流体管に向かって突出した姿勢の落下規制部材で切片を下方から支持することにより、切片の落下を適切に規制できる。
【0012】
前記孔は、前記筐体の底部の中心部位に設けられた排出孔であり、前記落下規制部材は、外部からの操作に応じて、前記排出孔の軸方向の投影領域の内部に先端部が配置される第1の姿勢と、前記投影領域の外部に先端部が配置される第2の姿勢との間で姿勢変更が可能であり、前記第2の姿勢にある前記落下規制部材の先端部を前記切片に当接させることにより前記切片を下方から支持することが好ましい。この方法では、排出孔を介して落下規制部材が筐体の内部に配置されるので、落下規制部材のために孔明け加工を筐体に施す必要がない。第1の姿勢は、筐体に対して落下規制部材を出し入れする際に有用となる。また、第2の姿勢では、落下規制部材の先端部が排出孔の投影領域の外部に配置されるため、切断時の穿孔機(のセンタードリル)に先端部を干渉させることなく、切片を下方から支持できる。
【0013】
前記落下規制部材は、外部からの操作に応じて、前記筐体の底部内面からの突出量を調整可能であり、前記落下規制部材の先端部を前記切片に当接させることにより前記切片を下方から支持するものでもよい。この場合、落下規制部材の突出量を適度に大きくすることにより、切片の落下を適切に規制できる。また、落下規制部材の突出量を適度に小さくすることにより、流体管の切断部に挿入された挿入体に先端部が干渉することを避けられる。
【0014】
前記回収工程の後、前記流体管の切断部に挿入体を挿入する挿入工程を備え、前記挿入工程で挿入した前記挿入体の底部外面と前記筐体の底部内面との間をシール材で密封し、前記流体管内を流れる流体が前記孔に行き届かないようにした後で、前記筐体から前記落下規制部材を取り外すものでもよい。これにより、落下規制部材を筐体から安全に取り外すことができる。
【0015】
前記落下規制部材が、前記切片と前記筐体の底部内面との間に配置されるように前記流体管に取り付けられたクッション材で形成されており、前記回収工程では、前記切片とともに前記落下規制部材を回収するものでもよい。かかる方法によれば、クッション材で形成された落下規制部材によって切片の落下を適切に規制できる。クッション材は、切片と筐体の底部内面との間に配置されるように流体管に取り付けられるため、筐体の下方での操作や作業を必要としない。
【0016】
また、本発明に係る流体管のフルカット切断装置は、流体管を密封状に取り囲む筐体と、前記筐体の内部で前記流体管をフルカット切断するための穿孔機と、フルカット切断で生じる切片と前記筐体の底部内面との間に配置され、前記切片の落下を規制するように構成された落下規制部材と、を備えたものである。この装置によれば、切片と筐体の底部内面との間に配置された落下規制部材によって切片の落下を規制できるため、筐体の底部内面に切片が接触することが妨げられる。そのため、切片による筐体の底部内面の損傷を防いで、筐体をコンパクトに構成できる。
【0017】
前記落下規制部材が、前記筐体の底部に設けられた孔を介して前記筐体の内部に配置され、前記筐体の底部内面より前記流体管に向かって突出する姿勢で前記切片を下方から支持するように構成されていることが好ましい。この場合、筐体の底部内面より流体管に向かって突出した姿勢の落下規制部材で切片を下方から支持することにより、切片の落下を適切に規制できる。
【0018】
前記孔は、前記筐体の底部の中心部位に設けられた排出孔であり、前記落下規制部材は、外部からの操作に応じて、前記排出孔の軸方向の投影領域の内部に先端部が配置される第1の姿勢と、前記投影領域の外部に先端部が配置される第2の姿勢との間で姿勢変更が可能であり、前記第2の姿勢にある前記落下規制部材の先端部を前記切片に当接させることにより前記切片を下方から支持するように構成されていることが好ましい。この装置では、排出孔を介して落下規制部材が筐体の内部に配置されるので、落下規制部材のために孔明け加工を筐体に施す必要がない。第1の姿勢は、筐体に対して落下規制部材を出し入れする際に有用となる。また、第2の姿勢では、落下規制部材の先端部が排出孔の投影領域の外部に配置されるため、切断時の穿孔機(のセンタードリル)に先端部を干渉させることなく、切片を下方から支持できる。
【0019】
前記落下規制部材は、外部からの操作に応じて、前記筐体の底部内面からの突出量を調整可能であり、前記落下規制部材の先端部を前記切片に当接させることにより前記切片を下方から支持するように構成されているものでもよい。この場合、落下規制部材の突出量を適度に大きくすることにより、切片の落下を適切に規制できる。また、落下規制部材の突出量を適度に小さくすることにより、流体管の切断部に挿入された挿入体に先端部が干渉することを避けられる。
【0020】
前記落下規制部材が、前記切片と前記筐体の底部内面との間に配置されるように前記流体管に取り付け可能なクッション材により形成されているものでもよい。かかる構成によれば、クッション材で形成された落下規制部材によって切片の落下を適切に規制できる。クッション材は、切片と筐体の底部内面との間に配置されるように流体管に取り付けられるため、筐体の下方での操作や作業を必要としない。落下規制部材を簡単に取り付けられるよう、前記落下規制部材は、前記流体管の管周方向に沿って延びた装着部材を介して、前記流体管に巻き付けて装着可能に構成されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】フルカット切断前の水道管を側方から見た縦断面図
【
図3】本発明の第1実施形態において切片の落下を規制する状態を示す図
【
図5】
図3の水道管の切断部に弁装置を挿入した状態を示す図
【
図6】本発明の第2実施形態において切片の落下を規制する状態を示す図
【
図7】
図6の水道管の切断部に弁装置を挿入した状態を示す図
【
図8】本発明の第3実施形態における落下規制部材を水道管に取り付けた状態を示す図
【
図9】本発明の第3実施形態において切片の落下を規制する状態を示す図
【
図10】水道管をフルカット切断した状態を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
[第1実施形態]
図1,2は、それぞれ管路の一部を構成する既設の水道管1(流体管の一例)を示している。水道管1はダクタイル鋳鉄管であるが、これに限られず、例えば鋼管でもよい。本実施形態では、水道管1を不断水状態(不断流状態)でフルカット切断した後、その水道管1の切断部に弁装置(挿入体の一例)を挿入する例を示す。かかる工事は、例えば、水道管を更新する区間の前後で既設管路を分岐させてバイパス管路を設けるために行われる。
【0024】
筐体2は、通水状態にある水道管1の一部を密封状に取り囲んでいる。筐体2は、既設の水道管1に対して外嵌可能な割り構造を有し、より具体的には、上側部材21と下側部材22とを互いに接合してなる上下二つ割り構造を有する。この接合は、ボルトとナットで構成される締結具(図示せず)により行われるが、これに代えて溶接などで接合してもよい。筐体2の底部2Bは、すり鉢状に形成されている。底部2Bの中心部位には、切断時に発生する切屑を排出するための排出孔23が設けられている。排出孔23は、その軸方向(
図1における上下方向)と、その軸方向に垂直な方向とに開口しており、それぞれにプラグ23a,23bが装着されている。
【0025】
筐体2は、T字管形状をしており、水道管1の管軸方向(
図1における左右方向)と交差する方向に延びた分岐部24を上方に向けている。分岐部24には、筒状のアダプタ25を介して、作業用仕切弁26(以下、単に「作業弁26」と呼ぶ)が接続されている。筐体2の上方には、水道管1をフルカット切断するための穿孔機3が設置されている。穿孔機3は、円筒形状のホールソー31と、その軸中心に位置するセンタードリル32とを備え、それらは作業弁26に接続された密閉ケース27の内部に配置されている。
図1では、作業弁26が閉状態にあり、筐体2の内部空間と密閉ケース27の内部空間とが弁体26vによって仕切られている。
【0026】
ホールソー31の直径は水道管1の管径よりも大きいため、これによって水道管1を管軸方向に切り離すことができる。センタードリル32には、異なる高さに複数(
図1の例では二つ)の脱落防止コマ33,34が設けられている。脱落防止コマ33は、センタードリル32の外面に形成された凹所内で上下回動可能に軸支されている。脱落防止コマ33は、水道管1の周壁を貫通する際には、上方に回動してセンタードリル32の外面から突出せず、水道管1の周壁を貫通した後に、回転に伴う遠心力によって下方に回動し、センタードリル32の外面から突出して切片10(
図3参照)の内面に引っ掛かるように構成されている。脱落防止コマ34もこれと同様である。
【0027】
水道管1をフルカット切断する際は、作業弁26を開状態とし、筐体2の内部空間と密閉ケース27の内部空間とを互いに連通させたうえで、穿孔機3を下降させる。そして、水道管1を密封状に取り囲む筐体2の内部で、穿孔機3によって水道管1を不断水状態でフルカット切断する(切断工程)。このとき、ホールソー31とセンタードリル32が分岐部24を通じて筐体2の内部へ侵入し、ホールソー31が水道管1を管軸方向に切り離す。また、ホールソー31の内部に収容された短管状の切片10をセンタードリル32が貫通し、脱落防止コマ33,34が切片10の内部に侵入する。切断工程の後は、穿孔機3を引き上げるとともに、フルカット切断で生じた切片10を穿孔機3で引っ掛けて回収する(回収工程)。
【0028】
フルカット切断により水道管1が切り離されると、その直後に切片10は落下し、脱落防止コマ33または脱落防止コマ34に引っ掛かる。既述のように、切片10が筐体2の底部内面2fに接触すると、その筐体2の内面塗装が損傷する恐れがあり、そのために筐体2の小型化が困難であった。特に水道管1が鋼管である場合には、切片10の内面に発生するバリと脱落防止コマ33が干渉しない程度にセンタードリル32を下降させる必要があり、やはり筐体2の小型化が困難であった。この問題に対し、脱落防止コマの位置を調整した鋼管専用のドリルを用意することも考えられるが、経済性の観点から望ましいとはいえない。
【0029】
そこで、本実施形態では、
図3のように、切断工程において、切片10と筐体2の底部内面2fとの間に配置された落下規制部材4により切片10の落下を規制する。これにより、筐体2の底部内面2fに切片10が接触せず、切片10による底部内面2fの損傷を防止できる。その結果、脱落防止コマ34で引っ掛けたときの切片10から底部内面2fまでの距離(
図10の距離D3参照)を大きく確保する必要がなく、筐体2(の下側部材22)をコンパクトに構成することが可能となる。また、脱落防止コマ33がバリと干渉しない程度にセンタードリル32を下降させても支障ないため、鋼管専用のドリルを用意する必要がなく、鋳鉄管に供されるドリルとの兼用が可能である。
【0030】
この第1実施形態では、落下規制部材4が、筐体2の底部2Bに設けられた孔(排出孔23)を介して筐体2の内部に配置され、その筐体2の底部内面2fより水道管1に向かって突出する姿勢で切片10を下方から支持する。
図3では落下規制部材4の先端部が切片10に当接しており、脱落防止コマ33及び脱落防止コマ34の何れが切片10に引っ掛かる場合であっても、この状態から切片10が更に落下することはない。落下規制部材4は、金属などの剛性の高い材料で形成されている。落下規制部材4は、一対の棒材で構成されている。落下規制部材4の先端部は、センタードリル32の下端部よりも上方に配置されている。
【0031】
落下規制部材4は、
図4に示す落下規制装置40に備えられている。落下規制装置40は、落下規制部材4と、落下規制部材4を操作するための操作部材41と、排出孔23を密封するための密封部材42とを備える。操作部材41は、落下規制部材4を構成する棒材に対応して一対で設けられ、それぞれ軸43を中心に回動可能に構成されている。落下規制部材4と操作部材41との相対位置は固定されており、操作部材41を軸43周りに回動させることで、第1の姿勢と第2の姿勢との間で落下規制部材4の姿勢変更が行われる。落下規制装置40は、水道管1を切断する前に予め筐体2の底部2Bに装着される。
図3,5のように、操作部材41は筐体2の外部に配置され、密封部材42はプラグ23aに代えて排出孔23に嵌入される。
【0032】
落下規制部材4は、外部からの操作に応じて(具体的には、操作部材41の操作に応じて)、排出孔23の軸方向の投影領域23sの内部に先端部が配置される第1の姿勢と、その投影領域23sの外部に先端部が配置される第2の姿勢との間で姿勢変更が可能であり、第2の姿勢にある落下規制部材4の先端部を切片10に当接させることにより切片10を下方から支持するように構成されている。投影領域23sは、排出孔23の横断面積を有して排出孔23の軸方向に延びる領域である。第1の姿勢は、筐体2に対して落下規制部材4を出し入れする際に有用である。
【0033】
本実施形態では、切屑を排出するための排出孔23を利用して、落下規制部材4を筐体2の内部に配置する。それ故、落下規制部材4のために孔明け加工を筐体2に施す必要がない。但し、排出孔23を介して筐体2の内部に配置された落下規制部材4の先端部は、筐体2の中心部位に配置されるため、センタードリル32と干渉する恐れがある。そこで、筐体2の内部に配置した後で落下規制部材4の姿勢を第2の姿勢に変更し、その先端部を投影領域23sの外部に配置する。これにより、切断時の穿孔機3(のセンタードリル32)に落下規制部材4の先端部を干渉させることなく、切片10を下方から支持できる。切断工程において、必要であればプラグ23bを外して排出孔23を一時的に開放し、切断により発生した切屑を外部に排出する。
【0034】
回収工程では、ホールソー31やセンタードリル32が筐体2の外部に位置するまで穿孔機3を上昇させて、作業弁26を閉状態とする。切片10は、脱落防止コマ33または脱落防止コマ34に引っ掛かった状態で引き上げられて回収される。切断工程だけでなく回収工程でも落下規制部材4は穿孔機3に干渉しない。穿孔機3を撤去したら、弁装置5を内部に配置した密閉ケース27を作業弁26に接続する。弁装置5は、図示しない操作桿によって押し下げられ、
図5のように分岐部24を通じて水道管1の切断部に挿入される。このように、本実施形態では、回収工程の後、水道管1の切断部に挿入体としての弁装置5を挿入する(挿入工程)。
【0035】
弁装置5は、図示しない弁体を内蔵した仕切弁として構成されている。
図5では、弁装置5を輪郭で示しており、その外観や断面の詳細な記載は省略している。弁装置5は、底部外面の中止部位に設けられ且つ下方に向けて開口する内空部51と、その底部外面に装着されたシール材52(パッキン)とを備える。
図5のように、本実施形態では、切断部に挿入した弁装置5の内空部51に、第1の姿勢にある落下規制部材4の先端部が収容されるように構成されている。よって、挿入工程では、落下規制部材4を第1の姿勢にしておくことにより、弁装置5に落下規制部材4を干渉させることなく、弁装置5を円滑に挿入できる。
【0036】
また、本実施形態では、挿入工程で挿入した弁装置5の底部外面と筐体2の底部内面2fとの間をシール材52で密封し、水道管1内を流れる流体(即ち、水)が孔(排出孔23)に行き届かないようにした後で、筐体2から落下規制部材4を取り外す。これにより、落下規制部材4を筐体2から安全に取り外すことができ、延いては落下規制装置40を簡便に撤去できる。落下規制部材4を取り外した後、プラグ23a(
図1,2参照)を装着して排出孔23を閉塞しておく。
【0037】
[第2実施形態]
第2実施形態は、第1実施形態において落下規制部材(延いては落下規制装置)の態様を変形したものである。第2実施形態は、以下に説明する構成の他は、第1実施形態と同様に構成できるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。第1実施形態で説明した部材と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0038】
第2実施形態では、
図6のように、切断工程において、切片10と筐体2の底部内面2fとの間に配置された落下規制部材6により切片10の落下を規制する。落下規制部材6は、筐体2の底部2Bに設けられた孔28を介して筐体2の内部に配置され、その筐体2の底部内面2fより水道管1に向かって突出する姿勢で切片10を下方から支持する。落下規制部材6は、金属などの剛性の高い材料で形成されている。落下規制部材6は、一対の棒材で構成されている。落下規制部材6の先端部は、センタードリル32の下端部よりも上方に配置されている。本実施形態では、切断後に距離D4を落下した位置で切片10を支持しているが、この距離D4がゼロとなるように、即ち切片10を落下させずに支持してもよい(この点は第1実施形態でも同じ)。
【0039】
落下規制部材6は、落下規制装置60に備えられている。落下規制装置60は、落下規制部材6と、落下規制部材6を操作するための操作部材61と、それらを保持するためのソケット部材62とを備える。落下規制部材6は、操作部材61の先端部に連接されている。操作部材61は、ボルトで構成されており、ソケット部材62に螺合されている。ソケット部材62は、落下規制部材6を孔28に挿通させるようにして、筐体2の底部2Bに、例えば螺合により取り付けられている。水密性が保持されるよう、底部2Bまたはソケット部材62にはOリングが装着されている。落下規制装置60は、孔28に対応して一対で設けられている。
【0040】
落下規制部材6は、外部からの操作に応じて(具体的には、操作部材61の操作に応じて)、底部内面2fからの突出量を調整可能であり、その先端部を切片10に当接させることにより切片10を下方から支持するように構成されている。本実施形態では、落下規制部材6が、筐体2の底部内面より突出しない非突出状態(
図7参照)と、筐体2の底部内面2fより突出した突出状態(
図6参照)との間で変位可能であり、その突出状態にある落下規制部材6の先端部を切片10に当接させている。落下規制部材6は、センタードリル32の軸方向に対して傾斜し、
図6における左右両側から一対で切片10を支持する。落下規制部材6の長さや角度、孔28の位置は、落下規制部材6の先端部がセンタードリル32と干渉しないように設定される。
【0041】
挿入工程では、落下規制部材6の突出量を適度に小さくしておくことで、より好ましくは、
図7のように落下規制部材6を非突出状態にしておくことにより、弁装置5に落下規制部材6を干渉させることなく、弁装置5を円滑に挿入できる。挿入工程で挿入した弁装置5の底部外面と筐体2の底部内面2fとの間をシール材52で密封し、水道管1内を流れる流体が孔28に行き届かないようにした後で、筐体2から落下規制部材6を取り外す。これにより、落下規制部材6を筐体2から安全に取り外すことができ、延いては落下規制装置60を簡便に撤去できる。落下規制部材6を取り外した後、キャップ(図示せず)を装着して孔28を閉塞しておく。
【0042】
[第3実施形態]
第3実施形態は、第1実施形態において落下規制部材の態様を変形したものである。第3実施形態は、以下に説明する構成の他は、第1実施形態と同様に構成できるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。第1実施形態で説明した部材と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0043】
第3実施形態では、
図8に示すように、落下規制部材7が、切片10と筐体2の底部内面2fとの間に配置されるように水道管1に取り付けられたクッション材70で形成されている。底部内面2fを傷付けないように、クッション材70は、ゴムなどの弾性材料により形成されている。落下規制部材7は、筐体2で水道管1を密封状に取り囲む前に、予め水道管1に取り付けられる。落下規制部材7は、水道管1の管周方向に沿って延びた装着部材71を介して、水道管1に巻き付けて装着可能に構成されている。図面では、落下規制部材7及び装着部材71を着色して描いている。
【0044】
切断工程では、
図9のように、切片10と筐体2の底部内面2fとの間に配置された落下規制部材7により切片10の落下を規制する。このようにして底部内面2fに対する切片10の接触を妨げることにより、底部内面2fの損傷を防止できる。第1及び第2実施形態とは違って、本実施形態では筐体2の下方での操作を必要としない。切断工程後の回収工程では、穿孔機3を引き上げるとともに、フルカット切断で生じた切片10を穿孔機3で引っ掛けて回収する。その際、切片10とともに落下規制部材7を回収する。挿入工程は、従来と同様に実施することができる。
【0045】
本発明は上述した第1~第3実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【0046】
前述の実施形態では、穿孔機3のセンタードリル32に設けられた脱落防止コマ33,34に切片10を引っ掛けて回収する例を示したが、これに限られない。脱落防止コマ以外の手法で切片を回収する場合であっても、切片の落下を規制して筐体の底部内面の損傷を防ぐことにより、上述した有利な効果が得られる。
【0047】
前述の実施形態では、弁装置5が仕切弁として構成されている例を示したが、これに限られず、例えば、流路を切替え可能な切替弁として構成されたものでもよい。また、挿入体は、弁装置に限られるものではなく、例えば流路を遮蔽する遮蔽装置でもよい。
【0048】
本発明は、水道管に適用できるものであるが、これに限られず、水以外の各種の液体、気体などの流体に用いる流体管に幅広く適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 水道管(流体管の一例)
2 筐体
2B 底部
2f 底部内面
3 穿孔機
4 落下規制部材
5 弁装置(挿入体の一例)
6 落下規制部材
7 落下規制部材
10 切片
23 排出孔
23s 投影領域
28 孔
31 ホールソー
32 センタードリル
33 脱落防止コマ
34 脱落防止コマ
52 シール材
70 クッション材