(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】被膜形成装置および転動体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20220816BHJP
B05B 14/10 20180101ALI20220816BHJP
B05D 1/12 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C23C24/04
B05B14/10
B05D1/12
(21)【出願番号】P 2021030777
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2022-04-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501489971
【氏名又は名称】豊実精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】大野 勲
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-256085(JP,A)
【文献】特開2009-024202(JP,A)
【文献】特開2010-209443(JP,A)
【文献】特開2009-257568(JP,A)
【文献】特開2009-014126(JP,A)
【文献】特開2006-322061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/04
B05B 14/10
B05D 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを生成する生成部と、
前記エアロゾルをワークに噴射する噴射部と、
前記噴射部が配置された側に開口
するとともに、前記ワーク
として転動体を収容可能である容器と、
重力方向に対して傾いている回転軸を中心として、前記容器を回転させる駆動部と、
前記容器が回転している場合に前記容器の内面において前記転動体が移動可能であると推定される移動領域に配置され、前記容器の内側に向けて突出した突出部と、
を備え、
前記容器には、前記ワークが通過せずに前記微粒子を通過可能な大きさの孔が形成されて
おり、
前記突出部は線材で構成されている、
被膜形成装置。
【請求項2】
前記容器は、複数の前記転動体を収容可能である、
請求項
1に記載の被膜形成装置。
【請求項3】
前記容器のうち少なくとも一部は網状であり、
前記容器のうち網状の部分には、前記ワークが通過せずに前記微粒子を通過可能な大きさの網の目が形成されている、
請求項1又は2に記載の被膜形成装置。
【請求項4】
前記容器のうち網状の部分は、
断面が円形である線材を編み込んで形成されて
いる、
請求項3に記載の被膜形成装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の被膜形成装置を用いて、表面に被膜が形成された転動体を製造する製造方法において、
前記生成部により、前記微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを生成する生成工程と、
前記容器に前記ワークである転動体を収容する収容工程と、
前記噴射部により、前記エアロゾルを前記転動体に噴射して前記転動体の表面に被膜を形成する被膜形成工程と、
を備える、転動体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜形成装置および転動体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子を用いて被膜を形成する技術として、エアロゾルデポジション法が知られている。この方法では、微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを加速してワークに噴射することによって、ワーク表面に被膜が形成される。
【0003】
特許文献1には、ワークを入れた密閉容器を振動させた状態において、エアロゾル発生部から密閉容器にエアロゾルが噴射される被膜形成装置が開示されている。かかる被膜形成装置では、ワーク同士もしくはワークと密閉容器の壁との衝突により、粗大な凝集状態にあった微粒子が解砕および粉砕されながら、ワーク表面に被膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された被膜形成装置において、エアロゾルに含まれる微粒子のうちワークの周囲に接合できず被膜の一部になれなかった微粒子は、密閉容器内に蓄積していく。微粒子が蓄積している状態で密閉容器が振動されると、蓄積していた微粒子が密閉容器内に飛散する。すると、飛散した微粒子が、エアロゾル発生部から噴射されたエアロゾルが加速された状態を維持したままワーク近傍に到達するのを妨げ、被膜形成の効率を低下させるおそれがある。また、被膜の一部になれなかった微粒子が蓄積するたびに密閉容器から当該微粒子を除去する作業を行うことは、被膜形成装置の操作を煩雑にするという問題もある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、エアロゾルを用いて被膜を形成する場合に、被膜の一部になれなかった微粒子がワーク周辺に蓄積することを抑制できる被膜形成装置を提供することにある。さらに、被膜形成装置を用いた転動体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の被膜形成装置は、
微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを生成する生成部と、
前記エアロゾルをワークに噴射する噴射部と、
前記噴射部が配置された側に開口して前記ワークを収容可能である容器と、
を備え、
前記容器には、前記ワークが通過せずに前記微粒子を通過可能な大きさの孔が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被膜形成装置によれば、ワーク表面に被膜が形成される際、容器に収容されたワークに向けて噴射されたエアロゾルに含まれる微粒子のうち、ワークの周囲に接合できず被膜の一部になれなかった微粒子は、容器の孔を介して容器から排出される。そのため、被膜の一部になれなかった微粒子がワーク周辺に蓄積することを抑制できる。また、容器から当該微粒子を除去する作業を省力化できることから、被膜形成装置の操作が煩雑になることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】容器の内面におけるワークの移動領域を示す図。
【
図6】突出部を備えていない容器が回転している状態を示す図。
【
図7】表面に被膜が形成された転動体を製造する手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(被膜形成装置)
以下、本発明に係る被膜形成装置を具体化した実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1に示す被膜形成装置10は、微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、噴射部30から容器41に収容されたワークに対して噴射することにより、ワークの表面にエアロゾルデポジション法を用いて被膜を形成するための装置である。
【0012】
生成部20は、エアロゾルを生成する。生成部20は、微粒子が充填された充填容器(不図示)と、充填容器に不活性ガスを供給するガス供給装置(不図示)と、を含む。生成部20では、充填容器に機械的な振動作用が与えられて微粒子が攪拌されている状態において、ガス供給装置から不活性ガスが充填容器に送られて微粒子をガス中に分散させることにより、エアロゾルが生成される。
【0013】
被膜形成装置10は真空チャンバー80を備えており、真空チャンバー80内に噴射部30が配置されている。噴射部30は、生成部20により生成されたエアロゾルをワークに噴射する。噴射部30は、容器41より重力方向上側に配置されており、重力方向下側に向けてエアロゾルを噴射する。噴射部30が噴射する際、真空チャンバー80内は図示しない真空ポンプにより真空引きされることから、大気圧の状態と比べて、エアロゾルは加速された状態でワークに噴射される。なお、噴射部30の位置は、水平方向および重力方向に調整可能である。
【0014】
次に、容器41を含む収容ユニット40について説明する。収容ユニット40は真空チャンバー80内に配置されている。
図1、2に示すように、容器41は、噴射部30が配置された側である重量方向上側に開口して、複数のワークWを収容可能な容器である。容器41は、ワークWとして、複数の転動体を収容可能である。容器41は、円筒の底面が下方へ凸となる半球面になった形状に形成されており、その底面と反対側に開口が形成されている。
【0015】
収容ユニット40のうち支持部材42は、容器41を支持する部材である。支持部材42は輪形状に形成されており、容器41の開口周縁には枠状部分41aが設けられている。そして、枠状部分41aを支持部材42の下面に当接させた状態で両者をビス42aで固定することにより、容器41が支持部材42に支持される。
【0016】
収容ユニット40のうち土台43は、円形状に形成されている。収容ユニット40のうち間隔保持部材44は、支持部材42と土台43とを所定の間隔だけ空けて保持する部材である。間隔保持部材44は、棒形状に形成されており、下端は土台43において等間隔に離れた4つの位置に固定されている。上端は、支持部材42において等間隔に離れた4つの位置に固定されている。ここでいう所定の間隔とは、支持部材42が容器41を支持している状態において、容器41の底が土台43と接触しないよう土台43と支持部材42とを隔てた距離のことである。このため、容器41、支持部材42、土台43、間隔保持部材44が組み立てられて一体化している状態において、容器41の底は土台43から上方へ離れている。
【0017】
収容ユニット40には、調整ユニット50が取り付けられている。調整ユニット50も、収容ユニット40とともに真空チャンバー80内に配置されている。調整ユニット50は、収容ユニット40の回転を制御し、かつ収容ユニット40の水平方向に対する傾きを調整するユニットである。調整ユニット50はモータ51及び減速機52を備えており、モータ51の回転による動力が減速機52を介して回転軸53に伝達される。回転軸53は減速機52の上方へ突出しており、回転軸53の先端は土台43の中心に取り付けられている。軸線AXは、回転軸53を軸方向に延長した仮想線であり、容器41の中心を通っている。モータ51が稼働する際、収容ユニット40は、回転軸53(軸線AX)を中心として回転する。本実施形態において、モータ51および減速機52が駆動部に相当する。
【0018】
調整ユニット50のうち減速機52が固定される台座部54は、水平方向に対する傾きを調整可能に設けられている。重力方向に対する回転軸53の傾きは、台座部54の水平方向に対する傾きを調整することによって調整される。被膜形成装置10による被膜形成が行われる際、回転軸53は重力方向に対して傾けられている。本実施形態では、6つのワークWを容器41に収容した状態で被膜形成を行う際に、重力方向に対する回転軸53の傾きは15度に設定されるとともに、回転軸53の回転数は60rpmに設定される。回転軸53の傾きおよび回転軸53の回転数は、容器41に収容されるワークWの個数に応じて調整される。
【0019】
被膜形成装置10は、収容回収部60を備える。収容回収部60は、容器41へのワークWの収容と容器41からのワークWの回収とを行う。本実施形態では、収容回収部60は、容器41にワークWを搬送するワーク搬送装置(不図示)と、台座部54の傾きを調整する傾き調整装置(不図示)と、を含む。収容回収部60は、ワーク搬送装置から容器41に対してワークWを搬送することにより容器41へのワークWの収容を実現する。また、収容回収部60は、傾き調整装置により、台座部54の傾きを鉛直方向に近付けて、容器41からワークWを図示しない回収容器(被膜形成装置10の近傍に配置)に落下させることによって、容器41からのワークWの回収を実現する。
【0020】
被膜形成装置10は、制御部70を備える。制御部70は、真空チャンバー80内を真空引きするための真空ポンプの稼働、容器41を回転させるためのモータ51の駆動、噴射部30によるエアロゾルの噴射、生成部20および収容回収部60による動作を制御する。制御部70によるモータ51の回転制御により、容器41を一定速度で回転させることができる。
【0021】
図2には、容器41が回転している際にワークWが集まる位置の例について示されている。
図2において、理解を容易にするために、支持部材42、土台43、間隔保持部材44および回転軸53の図示を省略しているが、容器41は回転軸53(軸線AX)を中心として回転している状態である。容器41のうち少なくとも一部は網状である。本実施形態では、容器41のうち開口を画定している枠状部分41aを除いた他の部分は網状である。
【0022】
図2において、容器41には6つのワークWが収容されている。ワークWは球形状である。回転する容器41内に収容されたワークWは、ワークWにかかる遠心力が重力より比較的小さい場合、重力方向下側に向かおうとする。
図2には、重力方向に対して傾斜したまま回転している容器41において、重力方向下側寄りの位置に6つのワークWが集まっている状態が図示されている。なお、
図2の状態と比べて容器41の回転数が高くなって各々のワークWにかかる遠心力が大きくなる場合には、ワークWが集まる位置は、
図2で示した位置から容器41の側面側の位置へ変化する。なお、容器41に収容されるワークWの個数は、回転する容器41内を各々のワークWが十分に移動できるよう、容器41の容積に対して、複数のワークWの合計の体積が3割以下とするのが好ましい。
【0023】
図3には、網状の部分を拡大した容器41が示されている。本実施形態では、網状の部分は、線径0.15mmの線材41bを平織りで編み込んで形成されている。また、網状の部分は、40メッシュであることから、目開きLは、0.485mmである。そして、このような目開きLを用いて計算される開孔率は、58.3%である。孔Hは、上述したように、網状の部分における網の目であり、正方形状に形成されている。孔Hのサイズは、ワークWが通過せずに微粒子を通過可能な大きさではあるが、ワークWが孔Hに嵌まって移動できなくなることを防止する観点から、ワークWの直径の半分(半径)の長さより目開きLは短い方が好ましい。
【0024】
図4には、線材41bの長さ方向に対して垂直な平面で線材41bを切断した断面が示されている。
図4は、
図3の線IVの位置における断面に相当する。線材41bの長さ方向と直交する断面は、円形である。容器41は、さらに突出部41cを備える。突出部41cは、容器41の網状部分から内側に向けて突出している。本実施形態では、突出部41cは、容器41の網状部分から内側に向けて突出する一対の線状突出部分と、容器41の網状部分から離れた位置でそれら一対の線状突出部分をつなぐ線状連結部分と、からなる。突出部41cは、
図5に示されるように、容器41の内側において、移動領域Maに配置される。
【0025】
図5を用いて、移動領域Maについて説明する。
図5は、容器41を開口している側から見た図である。容器41のうち移動領域Maが占める部分がドットで示されている。移動領域Maは、容器41が回転している場合に、容器41の内面においてワークWである転動体が移動可能であると推定される領域である。
【0026】
図6を用いて、移動領域Maの特定について説明する。
図6は、容器41Pが回転している状態を、容器41Pが開口している側から見た図である。容器41Pは、突出部41cを備えていない点を除いて本実施形態の容器41と同様の構成である。
図6に示された容器41Pは、容器41の代わりに本実施形態の被膜形成装置10に装着されて回転しているものとする。容器41Pは、6つのワークWを収容した状態で回転している。このように、回転している容器41Pの内面においてワークWが通過した領域を、容器41Pと同一形状の容器41に対応付けることによって、移動領域Maが特定される。そのため、容器41が装着された被膜形成装置10を用いて、実際にワークWに被膜を形成する際の条件(容器41へ一度に収容するワークWの個数、回転軸53の傾きおよび回転数)と同じ条件を容器41Pが装着された被膜形成装置10に適用して、移動領域Maが特定される。
【0027】
図6において、ワークWaは、6つのワークWのうち周囲を他の5つのワークWに囲まれたワークWのことである。
図5に示された二点鎖線は、6つのワークWを収容した状態で容器41Pが回転した際にワークWaが通過する軌道を、容器41Pと同一形状の容器41に対応付けたものである。本実施形態では、突出部41cは、移動領域Maのうち当該二点鎖線上において、等間隔に離れた4つの位置に配置される。また、突出部41cは、容器41の回転方向と略直交する向きに配置される。このように配置することで、回転している容器41内において、ワークWと突出部41cとを接触させやすくすることができる。
【0028】
図6のように、複数のワークWが収容された状態で容器41Pを回転させている場合、それら複数のワークW同士の相対的な位置関係が維持されたままになることがある。例えば、ワークW同士の相対的な位置関係が
図6に示されたような状態で維持されると、各々のワークWの表面のうち噴射部30が配置された側に晒される領域は、一定の領域になりやすい。また、容器41Pの回転が継続されても、各々のワークWの表面のうち当該一定の領域と異なる領域は噴射部30が配置された側に晒されにくい。また、そうしたワークWの中でも、特にワークWaは他のワークWに囲まれていることにより移動が妨げられることから、噴射部30が配置された側に晒される領域がより一層限られた一定の領域になりやすい。
【0029】
しかし、本実施形態の被膜形成装置10における容器41では、容器41Pとは異なり、その移動領域Maに突出部41cが配置されている。このため、相対的な位置関係が維持された複数のワークWのうちいずれかのワークWが突出部41cと接触した場合には、当該ワークWの軌道が変化するとともに周囲のワークWにも接触して、周囲のワークWの軌道にも変化をもたらすことができる。したがって、突出部41cが配置されていない容器41Pと比べて、複数のワークW同士の相対的な位置関係を維持しにくくすることができる。このような被膜形成装置10においては、複数のワークW同士の位置関係が変化しやすいことから、各々のワークWにおいて噴射部30が配置された側に晒される領域を変化させやすい。したがって、ワークW表面への被膜形成の精度を向上させることができる。
【0030】
(転動体の製造方法)
図7は、上述の実施形態で説明した被膜形成装置10を用いて、表面に被膜が形成された転動体を製造する手順を示すフローチャートである。当該手順が開始されると、ステップS10において、制御部70は、容器41にワークWである転動体を収容する収容工程を実行する。具体的には、制御部70は、容器41にワークWを搬送するよう収容回収部60を制御する。次に、ステップS11において、制御部70は、生成工程として、エアロゾルを生成するよう生成部20を制御する。
【0031】
次に、ステップS12において、制御部70は、被膜形成工程として、エアロゾルが容器41内に収容されたワークWである転動体に噴射されるよう、噴射部30を制御してワークWの表面に被膜を形成させる。ステップS12では、噴射部30による噴射が開始される前に、制御部70は、真空ポンプを稼働させて真空チャンバー80内を真空状態にするとともに、モータ51を駆動させる。
【0032】
ワークWの表面に被膜が形成された後、ステップS13において、制御部70は、台座部54を傾けて容器41からワークWが回収容器(被膜形成装置10の近傍に配置)に落下するよう、収容回収部60を制御する。ステップS13を実行したのち、制御部70は、
図7に示された手順を終了する。なお、ステップS11は、ステップS10より前に行われてもよい。
【0033】
本実施形態の被膜形成装置10によれば、以下の作用効果を奏することができる。
【0034】
(1)容器41には、ワークWが通過せずに微粒子を通過可能な大きさの孔Hが形成されている。被膜形成装置10を用いてワークWに被膜を形成する際、容器41の開口を介して、容器41に収容されたワークWに噴射部30からエアロゾルが噴射される。噴射されたエアロゾルに含まれる微粒子のうちワークWの周囲に接合できた微粒子は、被膜の一部となる。一方、ワークWの周囲に接合できず被膜の一部になれなかった微粒子は、容器の孔Hを介して容器から排出される。そのため、被膜の一部になれなかった微粒子がワークW周辺に蓄積することを抑制できる。また、容器から当該微粒子を除去する作業を省力化できることから、被膜形成装置の操作が煩雑になることを抑制できる。
【0035】
(2)容器41のうち少なくとも一部は網状であり、容器41に形成された孔Hは網の目のことである。容器41には網の目として孔Hが配置されていることから、少数の孔が点在して配置された容器と比べて、孔Hが密集しているとともにその分布は規則的である。したがって、被膜の一部になれなかった微粒子が孔Hに到達して容器41から排出される可能性を上昇させることができる。
【0036】
(3)容器41のうち網状の部分は、線材41bを編み込んで形成されており、線材41bは長さ方向と直交する断面が円形である。このような構成によれば、断面が矩形である線材を編み込んで網状の部分が形成された容器と比べて、被膜の一部になれなかった微粒子が線材41bの上に堆積しにくくなることから、容器41内に微粒子が蓄積することを抑制できる。
【0037】
(4)容器41は、重力方向に対して傾いている回転軸53を中心として回転する。重力方向に沿った回転軸を中心として容器41が回転する場合、ワークWは容器41の底面のうち中央付近に留まりやすいことから、容器41に対するワークWの相対的な位置の変化が少なくなる傾向にある。一方、重力方向に対して傾いている回転軸53を中心として容器41が回転する場合、ワークWは容器41の底面の中央から離れた軌道を通りやすいことから、容器41に対するワークWの相対的な位置の変化が大きくなる傾向にある。相対的な位置の変化が大きいほど、ワークWの表面のうち噴射部30が配置された側に晒される領域は変化しやすくなることから、ワークW表面への被膜形成の精度向上に寄与することができる。
【0038】
(5)容器41の内側に向けて突出した突出部41cは、容器41が回転している場合に、容器41の内面においてワークWである転動体が移動可能であると推定される移動領域に配置されている。突出部41cを備えていない、もしくは、移動領域に突出部41cが配置されていない容器内にワークWを収容した状態で当該容器が回転している場合、ワークWの軌道は一定になりやすい。一方、移動領域に突出部41cが配置されている場合、ワークWと突出部41cとが接触することによって、ワークWの軌道は変化させられる。このように軌道が変化すると、軌道が一定であった場合と比べて、ワークWの表面のうち噴射部30が配置された側に晒される領域は変化しやすいことから、ワークW表面への被膜形成の精度向上に寄与することができる。
【0039】
また、突出部41cは、一対の線状突出部分と、線状連結部分と、からなる。このような形状により、容器41の網状部分から内側に向けて直方体状に突出する突出部と比べて、突出部41c全体は線状であることから突出部41cの表面に付着する微粒子の量を少なくできる。このため、ワークWの被膜形成に用いられなかった微粒子が突出部41cに付着して容器41内に蓄積することを抑制できる。なお、突出部41cが直方体状であっても立方体状より板状に近い形状である場合には、立方体状である場合と比べて、突出部41cの表面に付着する微粒子の量を少なくできる。また、突出部41cは線状連結部分を有することで、容器41の網状部分から内側に向けて突出する線状突出部分のみからなる突出部と比べて、突出部41c自体の幅を広くすることができる。このため、回転している容器41内において、ワークWと突出部41cとを接触させやすく、ワークWの軌道を高確率で変化させることができる。
【0040】
(6)土台43は、台座部54の傾き調整に応じて、水平方向に対して傾いて配置することが可能である。このため、土台43が水平方向に対して傾いて配置されている場合、孔Hを通過して土台43の上に到達した微粒子は、土台43の表面から落下しやすい。したがって、土台43の表面に堆積しにくくなることから、土台43の表面から微粒子を除去する作業を省力化できる。
【0041】
(7)間隔保持部材44は、棒形状に形成されているとともに、支持部材42と土台43との間において等間隔に離れた4つの位置に固定されている。このため、孔Hを通過した微粒子が容器41から離れる方向に移動することの妨げとなりにくい。したがって、容器41の周辺に微粒子が蓄積することを抑制できる。
【0042】
(8)容器41、支持部材42、土台43、間隔保持部材44が組み立てられて一体化している状態において、容器41の底は土台43から上方へ離れている。容器41の底が土台43と接触していた場合、その接触部分の付近にある孔Hは、土台43によって微粒子を通過させにくい状態となる。一方、容器41の底が土台43から離れていれば、その土台43は、微粒子が孔Hを通過することを妨げない。したがって、容器41の底周辺に微粒子が蓄積することを抑制できる。
【0043】
(9)輪形状である支持部材42は、容器41の開口の周囲を覆うように配置された状態で、容器41を支持する。このため、容器41の周囲から容器41を支持しつつ、噴射部30による容器41の内側への噴射を妨げない。また、支持部材42は、容器41のうち網状の部分は覆っていないことから、微粒子が孔Hを通過することも妨げない。
【0044】
(10)容器41は、噴射部30が配置された側である重量方向上側に開口している。すなわち、噴射部30は、容器41より重力方向上側に配置されており、重力方向下側に向けてエアロゾルを噴射する。このため、容器41に向けて噴射されたエアロゾルに含まれる微粒子のうち、ワークWの周囲に接合できず被膜の一部になれなかった微粒子を、重力により容器41の下側に集めることができる。そして、容器41の下側に形成された孔Hから微粒子を排出することができる。
【0045】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
【0046】
・上記実施形態では、孔Hは、網状の部分における網の目のことである。これに代えて、孔は、網の目ではなく板状部材の一部を貫くことによって形成された孔であってもよい。また、板状部材を貫く孔は、板状部材に1つだけ形成されてもよいし、複数形成されてもよい。複数形成される場合には、それら孔の分布は、千鳥型や並列型であってもよい。
また、孔の延びる方向は直線的である方が好ましい。すなわち、板状部材の厚みに対する板状部材を貫通する孔の長さの割合(曲路率)が、1.0から1.5までの範囲内の値である方が好ましい。上記実施形態の場合は、線材の線形が厚みに相当することから、線形に対する孔の長さが曲路率に相当し、その値はほぼ1である。このように、孔は、板状部材の内部を曲がりくねることなく貫いている孔である方が好ましい。そのような孔は、微粒子が孔内に詰まりにくく、微粒子を排出するのに好適である。
【0047】
・上記実施形態では、孔は正方形状に形成されている。これに代えて、孔は、長方形やひし形、平行四辺形などの四角形であってもよいし、四角形とは異なる形状であってもよい。なお、どのような形状であっても角を有する場合、角に微粒子が詰まることを抑制する観点から、その角は30度以上であることが好ましい。孔が丸形状である場合には、角がないことから、孔の縁に微粒子が詰まることを防止できる。
【0048】
・上記実施形態では、開孔率は58.3%である。これに代えて、開孔率は、25%から75%までの範囲内において任意の値の開孔率であってもよい。なお、上述したように、開孔率は、ワークWが孔Hに嵌まって移動できなくならないよう、ワークWの大きさおよび形状に応じて調整されるべきである。
【0049】
・上記実施形態では、回転軸53の傾きは、台座部54の水平方向に対する傾きを調整することにより調整可能である。これに代えて、被膜形成装置10は、台座部54を備えておらず、回転軸53自体の傾きを直接調整可能に構成されていてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、回転軸53の傾きを15度に設定したが、10度から45度までの範囲内であればよい。回転軸53の回転数を60rpmに設定したが、1rpmから150rpmの範囲内であればよい。
【0051】
・上記実施形態では、容器41に収容されるワークWとしての転動体は球形状である。これに代えて、容器41に収容される転動体は、円柱形のころや円錐形のころであってもよい。なお、球形状の転動体に被膜を形成することによりボールベアリング(玉軸受)が得られ、円柱又は円錐のころに被膜を形成することによりニードルベアリング(ころ軸受)が得られる。
【0052】
・上記実施形態では、収容回収部60は、ワーク搬送装置と、傾き調整装置と、を含む。これに代えて、被膜形成装置10は、収容回収部60を備えていなくてもよい。このような場合、容器41へのワークWの収容および容器41からのワークWの回収は、被膜形成装置10を使用する作業者によって実行される。
【0053】
・上記実施形態では、突出部41cは、周囲を他のワークWに囲まれたワークWaが通過する軌道を示した二点鎖線上に配置されている。これに代えて、もしくは、これに加えて、突出部41cは、移動領域Maのうち当該二点鎖線上とは異なる位置に配置されてもよい。また、上記実施形態では、突出部41cは、一対の線状突出部分と、線状連結部分と、からなる。これに代えて、突出部41cは、容器41の内面のうち一部が隆起した部分であってもよい。このような場合、ワークWは突出部41cの上を通過して弾まされることによって、その軌道を変化させられる。すなわち、突出部41cは、容器41に収容されたワークWの軌道を変化させ得る限り任意の形状であってよい。
【0054】
・上記実施形態では、容器41は重力方向に対して傾いている回転軸53を中心として回転する。これに代えて、容器41は回転しなくてもよい。このような場合、容器41の形状は、回転させることを考慮した形状でなくてよく、例えば、皿形状であってもよい。皿形状の容器であっても、ワークWが通過せずに微粒子を通過可能な大きさの孔が形成されている限り、ワークWの周囲に接合できず被膜の一部になれなかった微粒子が発生した場合には、容器の孔を介して容器から排出させることができる。そのため、微粒子がワークW周辺に蓄積することを抑制できる。
【0055】
・上記実施形態では、容器41は、複数の転動体を収容可能である。これに代えて、容器41は、1つの転動体のみを収容可能であってもよい。なお、このような容器41であっても、移動領域に突出部41cが配置されている方が好ましい。
【0056】
・上記実施形態では、容器41は、円筒の底面が下方へ凸となる半球面になった形状に形成されており、その底面と反対側に開口が形成されている。これに代えて、容器41は、線材41bを螺旋状に巻いて形成されるとともに、その底面側は螺旋径を小さくすることにより形成された形状であってもよい。ここで、螺旋径とは、螺旋の中心と線材41bの軸中心との間の距離を2倍した長さのことである。また、容器41は、その側面にあたる部分は線材41bを螺旋状に巻いて形成され、その底面にあたる部分は板状部材であってもよい。ここで挙げた形状の容器41においては、孔は、螺旋状に巻かれた線材41b間の空隙である。すなわち、本発明に係る被膜形成装置において、孔とは、一方から他方まで突き抜けている空間のことである。
【0057】
・上記実施形態では、制御部70によるモータ51の回転制御により、容器41を一定速度で回転させることができる。これに加えて、制御部70は、モータ51の回転制御により、容器41を正逆回転させることができてもよい。容器41を正逆回転させることができれば、ワークW同士の相対的な位置関係や噴射部30が配置された側に晒されるワークWの表面の領域が一定になることを一層抑制することができる。
【符号の説明】
【0058】
10…被膜形成装置、20…生成部、30…噴射部、40…収容ユニット、41…容器、42…支持部材、43…土台、44…間隔保持部材、50…調整ユニット、51…モータ、52…減速機、53…回転軸、54…台座部、60…収容回収部、70…制御部、80…真空チャンバー
【要約】
【課題】被膜の一部になれなかった微粒子がワーク周辺に蓄積することを抑制できる被膜形成装置を得る。
【解決手段】被膜形成装置10は、微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを生成する生成部20と、エアロゾルをワークWに噴射する噴射部30と、噴射部30が配置された側に開口してワークWを収容可能である容器41と、を備えている。容器41には、ワークWが通過せずに微粒子が通過可能な大きさの孔が形成されている。このような被膜形成装置10においては、被膜の一部になれなかった微粒子がワークW周辺に蓄積することを抑制できる。
【選択図】
図1