(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】耐酸性セメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20220816BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20220816BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20220816BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20220816BHJP
C04B 14/42 20060101ALI20220816BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20220816BHJP
E21D 11/08 20060101ALN20220816BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/14 A
C04B18/08 Z
C04B16/06 A
C04B14/42 Z
C04B20/00 B
E21D11/08
(21)【出願番号】P 2018170222
(22)【出願日】2018-09-12
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017182055
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592037907
【氏名又は名称】株式会社デイ・シイ
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 了
(72)【発明者】
【氏名】小菅 太朗
(72)【発明者】
【氏名】須崎 一定
(72)【発明者】
【氏名】二戸 信和
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132667(JP,A)
【文献】特開2011-207669(JP,A)
【文献】特開平09-086978(JP,A)
【文献】特許第6185682(JP,B1)
【文献】特開2002-336813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmの高炉スラグ微粉末および/または累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmのフライアッシュを用い
、前記累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmの高炉スラグ微粉末と累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmのフライアッシュの合計が10~85質量%であり、前記セメントの割合が15~40質量%であり、さらに繊維を外割で0.15~0.50質量%添加してあることを特徴とする
耐酸性セメント組成物。
【請求項2】
請求項
1記載の
耐酸性セメント組成物において、細骨材として高炉スラグ細骨材を用いることを特徴とする
耐酸性セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性濃度の高い環境下での使用に適した耐酸性セメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水道関連施設では、硫酸などの酸とセメントの水和生成物である水酸化カルシウムおよびカルシウムシリケート水和物との中和反応が起こる。この反応により、セメントの水和生成物が分解されることでコンクリート構造物の劣化が起こる。下水道関連施設のみならず化学工場など酸性環境下にあるコンクリートは多い。
【0003】
特許文献1では、普通ポルトランドセメントが30~40質量%、シリカフュームが12~25質量%、高炉水砕スラグ粉が40~58質量%で、これら3成分で100質量%となり、シリカフュームと高炉水砕スラグ粉との割合が、質量比で、高炉水砕スラグ粉/シリカフューム=2.0~3.2であり、普通ポルトランドセメントとシリカフュームとの割合が、質量比で、普通ポルトランドセメント/シリカフューム=1.9~2.5である耐酸性セメント組成物を開示している。
【0004】
特許文献2では、新規な無機バインダー系、水硬性モルタルの製造のための無機バインダー系の使用、及びこのバインダー系を含むモルタルに関する技術を開示している。潜在水硬性バインダーは、高炉スラグ、スラグ砂、粉砕高炉スラグ、電熱式燐スラグまたは鉄鋼スラグから選択されている。
【0005】
特許文献3では、コンクリートやモルタルを保護し得る、耐食性モルタル組成物を開示している。(A)セメント、(B)高炉スラグ微粉末、(C)フライアッシュ、(D)膨張材、(E)カルシウムとアルミニウムを化学成分として含む特定の骨材、(F)増粘剤を含有し、セメント用ポリマーを実質的に含まない耐食性モルタル組成物で、(E)の骨材としてスラグ系骨材、例えば高炉スラグ骨材、電気炉酸化スラグ骨材等が挙げられている。
【0006】
特許文献4には、耐塩害性、耐酸性の特性を有する密実な硬化体を短時間に製造できる高炉スラグ粉末を主体とした耐硫酸セメント硬化体が開示されている。高炉スラグを主体としたセメント系結合材で成形したセメント硬化体であって、粗骨材を含む内部コンクリートと、コンクリートの表層に3~10mm未満の層厚でモルタル成分のみで形成した反応保護層とによる二層構造とし、反応保護層にセメント結合材(A)が高炉スラグ粉末(B)と石灰・石膏複合物(C)とセメントとを含み、細骨材のすべてを高炉スラグ細骨材としたモルタルとしている。
【0007】
非特許文献1には、結合材の一部を高炉スラグ微粉末とし、細骨材の全量を高炉スラグ細骨材とすることで、耐酸性の向上が図れたことが記述されている。
【0008】
非特許文献2には、モルタルの細骨材に高炉スラグ細骨材を使用することで、耐酸性の向上が図れたことが記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5442249号公報
【文献】特許第5730325号公報
【文献】特開2017-132667号公報
【文献】特許第5878258号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】藤井隆史、細谷多慶、松永久宏、綾野克紀、「高炉水砕スラグを用いたセメント硬化体の耐硫酸性に関する研究」、コンクリート工学年次論文集、Vol.31、No.1、2009、pp.847-852
【文献】綾野克紀、小河内誠、藤井隆史、入矢桂史郎、「モルタルの耐硫酸性に細骨材の種類が及ぼす影響」、コンクリート工学年次論文集、Vol.30、No.2、2008、pp.559-564
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
化学工場などは下水道関連施設より酸性濃度の高い環境である。しかし、耐酸性のセメント材料は5%硫酸で評価することが一般的であり、従来のセメント系材料では15%硫酸に対する耐久性を有しない。
【0012】
特許文献1では、シリカフュームが12~25質量%と多く、シリカフュームの増量は材料コストの問題で対応が難しい。そのため、シリカフュームを減量するかまたは使用しない材料で対応することが望まれる。
【0013】
また、耐酸性にはセメント割合を減少させることが有効であるが、そうすると強度不足となる恐れがある。さらに、セメントの割合の減少のみで15%硫酸などの高濃度の酸に対する耐久性の付与は困難である。
【0014】
本発明は、上述のような課題の解決を図ったものであり、化学工場などにおける酸性濃度の非常に高い環境下でも硬化物の劣化を抑制することができる耐酸性セメント組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る耐酸性セメント組成物は、セメントと、累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmの高炉スラグ微粉末および/または累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmのフライアッシュを用いたことを特徴とするものである。
本発明において、累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmの高炉スラグ微粉末と累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmのフライアッシュの合計は、10~85質量%であることが望ましい。
【0016】
耐酸性セメント組成物として、セメントに、累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmの高炉スラグ微粉末および/または累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmのフライアッシュを混合することで、耐酸性が向上するが、セメント量が減るとコンクリートあるいはモルタルとしての圧縮強度が低下するため、累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmの高炉スラグ微粉末と累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmのフライアッシュの合計は、85%以下であることが望ましい。
【0017】
また、累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmの高炉スラグ微粉末と累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmのフライアッシュの合計が10%以下の場合は、十分な耐酸性効果が得にくい。
【0018】
累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmの高炉スラグ微粉末と、累積体積率50%粒径が1.0~5.0μmのフライアッシュフライアッシュの割合(質量比)においては、概してフライアッシュの割合が多いほど耐酸性効果が大きい反面、高炉スラグ微粉末が多いほど高い強度が得られる。
【0019】
本発明のセメント組成物におけるセメントの割合としては、15~40質量%が好ましい。15質量%より少ないと、コンクリートまたはモルタルとしての十分な強度が得にくく、40質量%より多くなると十分な耐酸性効果が得にくい。
【0020】
本発明では、セメント組成物にさらに繊維を添加することで、耐酸性効果の向上が図れる。繊維の添加量が多いほど硫酸に対する抵抗性が大きく、繊維の添加量としては結合材に対する外割で0.15~0.50質量%が好ましい。
【0021】
セメント組成物の細骨材として、高炉水砕スラグ砂などの高炉スラグ細骨材を用いることで、耐酸性を向上させることができる。高炉スラグ細骨材を用いた場合、珪砂の場合と比べて、質量変化や中性化深さが改善される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の耐酸性セメント組成物は、従来の耐酸性セメント組成物と比較して、より酸性濃度の高い環境下でも硬化物の劣化を抑制することができ、下水道施設などに限らず化学工場などでも大きな耐酸性効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔実験1〕
本発明の効果を確認するため、実験1ではJIS規格のフライアッシュ(フライアッシュ1)と本発明で規定するフライアッシュ(フライアッシュ2)、JIS規格の高炉スラグ微粉末(高炉スラグ微粉末1)と本発明で規定する高炉スラグ微粉末(高炉スラグ微粉末2)を用い、これらを普通セメント(普通ポルトランドセメントを使用)、細骨材(セメント協会強さ試験用標準砂)、及び供試体No.14についてはシリカヒュームと混合してモルタルの供試体を作成し、圧縮強度及び硫酸浸透を比較した。
【0024】
(1) 供試体の組成
供試体(No.1~No.14)の組成を表1に示す。
【0025】
【0026】
表1における使用材料は以下の通りである。
普通セメント:普通ポルトランドセメント、
フライアッシュ1:JISII種のフライアッシュ、
フライアッシュ2:フライアッシュ1を粉砕したもの(累積体積率50%粒径が3.3μm)、
高炉スラグ微粉末1:高炉スラグ微粉末4000
高炉スラグ微粉末2:高炉スラグ微粉末1を粉砕したもの(累積体積率50%粒径が1.6μm)、
シリカフューム:シリカヒューム(JISA6207)
【0027】
(2) 供試体の作成
モルタル(水/結合材=30%、結合材:細骨材=1:1.4(質量比)、0打フロー:260±10mm、空気量4.0%以下となるように高性能AE減水剤、消泡剤で調整)をφ5×10mmの供試体に成型して、水中養生と蒸気養生にて作成した。
蒸気養生は、前養生2時間、60℃まで2時間で上昇、60℃で3時間保持、17時間かけて20℃まで下降した。
【0028】
(3) 試験方法
「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル平成24年4月」に準拠した。ただし、硫酸は5%溶液ではなく15%溶液で浸漬した。
No.1~No.3、No.13、No.14が比較例、No.4~No.12が実施例である。
【0029】
(4) 試験結果
試験結果を表2に示す。
【表2】
【0030】
表2より、比較例であるNo.1~No.3は、本発明の実施例であるNo.4~No.12と比較して、水中養生の材齢3日と蒸気養生の強度が小さいことが分かる。
【0031】
フライアッシュ(フライアッシュ1またはフライアッシュ2)と高炉スラグ微粉末(高炉スラグ微粉末1または高炉スラグ微粉末2)の割合(質量比)との関係では、概してフライアッシュの割合が多く、高炉スラグ微粉末が少ないほど、硫酸浸漬の結果が良好である反面、フライアッシュの割合が少なく、高炉スラグ微粉末が多いほど圧縮強度が高い。
【0032】
また、フライアッシュ(フライアッシュ1またはフライアッシュ2)と高炉スラグ微粉末(高炉スラグ微粉末1または高炉スラグ微粉末2)の割合(質量比)が同じもの同士を比較した場合、すなわちNo.1とNo.4、No.7、No.10の比較と、No.2とNo.5、No.8、No.11の比較と、No.3とNo.6、No.9、No.12の比較においても、本発明の実施例の方が硫酸浸透の結果が良好であることが分かる。
【0033】
本発明の実施例であるNo.4~No.12は、比較例であるNo.13とNo.14と比較して、15%硫酸浸漬による供試体の質量減少率、中性化深さ、硫酸イオン浸透深さがかなり小さく、耐酸性に優れていることが分かる。
【0034】
〔実験2〕
実験2では繊維を添加した場合、及びセメントの割合を変えた場合について実験を行った。繊維以外の使用材料および試験方法は実験1と同じである。ただし、蒸気養生は行っていない。
【0035】
(1) 供試体の組成
供試体(No.15~No.35)の組成を表3に示す。
【0036】
【0037】
(2) 繊維の性質および繊維の組成
繊維の性質を表4に、繊維の組成を表5に示す。
なお、表4の「タフバインダー」は東レ・アムテックス株式会社の登録商標、「パルチップ」は萩原工業株式会社の登録商標である。
表5の数値は、結合材に対する割合(%)である。細骨材の内割添加。
【0038】
【0039】
【0040】
(3) 試験結果
試験結果を表6に示す。
【0041】
【0042】
表6より、セメントの割合が少ない場合に硫酸に対する抵抗性が大きいことが分かる。また、本発明に規定するフライアッシュを用いた場合に硫酸に対する抵抗性が大きい。
【0043】
繊維の添加により硫酸に対する抵抗性が大きくなった。特にナイロンの効果が大きい。また、繊維の添加量が多いほど硫酸に対する抵抗性が大きい。同一の繊維添加量のとき繊維長が異なるものの組み合わせた場合では硫酸に対する抵抗性が小さくなる傾向となる。
【0044】
〔実験3〕
実験3では細骨材(珪砂)を高炉水砕スラグ砂に変えた場合について実験を行った。
(1) 供試体の組成
供試体(No.14、36、37)の組成を表7に示す。No.14は、実験1で示したものと同じである。
【表7】
【0045】
表7における使用材料は以下の通りである。
普通セメント:普通ポルトランドセメント
高炉スラグ微粉末1:高炉スラグ微粉末4000
高炉スラグ微粉末2:高炉スラグ微粉末1を粉砕したもの(累積体積率50%粒径が1.6μm)
珪砂1:日瓢礦業株式会社製 3号珪砂
珪砂2:日瓢礦業株式会社製 6号珪砂
珪砂1と珪砂2は、質量比が7対3の割合で混合した。
高炉水砕スラグ砂:JFEスチール株式会社製の水砕スラグを300μmふるいにかけた。300μmふるいの通過分と残留分を質量比で1対1の割合で混合した。
【0046】
(2) 供試体の作成
モルタル(水/結合材=30%、結合材:細骨材=1:1.4(質量比)、15打フロー:170±10mmとなるように高性能AE減水剤で調整)をΦ5×10mmの供試体に成型して、水中養生にて作成した。
【0047】
(3) 試験方法
「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル平成24年4月」に準拠した。硫酸は当該規格の通りの5%溶液に浸漬した。
【0048】
(4) 試験結果
試験結果を表8に示す。
【0049】
【0050】
表8より、細骨材として高炉水砕スラグ砂を用いたNo.37は、比較例であるNo.14とNo.36と比較して、水中養生の材齢3日の圧縮強度が大きいことが分かる。材齢28日のNo.37の圧縮強度は、No.36よりも小さいが、No.14よりは大きく、良好な結果であるといえる。
【0051】
また、細骨材として高炉水砕スラグ砂を用いたNo.37は、比較例であるNo.14とNo.36と比較して、5%硫酸浸漬による供試体の質量変化率、中性化深さが小さく、耐酸性に優れていることが分かる。