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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/12 20060101AFI20220816BHJP
   F16D 43/02 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
F16D41/12 C
F16D43/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019011259
(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2020118250
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】岩野 彰
(72)【発明者】
【氏名】片山 修
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-249115(JP,A)
【文献】特開昭50-106055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00
F16D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸に且つ相対回転可能に配置された外輪および内輪と、
トルク伝達可能に前記外輪と前記内輪とを係合可能な係合機構と、
前記内輪に対してロックする前記外輪の一方または他方への回転方向を切り替え可能な切り替え機構と、を備えたクラッチ装置において、
前記係合機構は、前記外輪の内周部と前記内輪の外周部の何れか一方に設けられたノッチと、前記外輪の内周部と前記内輪の外周部の何れか他方に設けられ、前記ノッチに係合可能な第1の係合部材を備え前記ノッチと係合することにより前記内輪に対する前記外輪の前記他方の回転方向への回転をロック可能な第1のラチェット機構部と、前記ノッチに係合可能な第2の係合部材を備え前記ノッチと係合することにより前記内輪に対する前記外輪の前記一方の回転方向への回転をロック可能な第2のラチェット機構部とであり、
前記切り替え機構は、前記外輪および前記内輪と同軸上に前記外輪および前記内輪に隣接して配置され、前記外輪および前記内輪に対して軸方向に移動可能な環状の移動部材を有し、前記移動部材が軸方向に移動することによって、前記ノッチに対する前記第1の係合部材の係合状態または非係合状態と、前記ノッチに対する前記第2の係合部材の係合状態または非係合状態との組み合わせを変更し、
前記第1のラチェット機構部は、周方向に所定間隔で複数が設けられ、
前記第2のラチェット機構部は、周方向に所定間隔で複数が設けられ、
前記複数の前記第1のラチェット機構部と前記複数の第2のラチェット機構部とは、周方向に交互に配置され、
前記移動部材は、前記外輪および前記内輪に対する第1の軸方向位置と第2の軸方向位置と第3の軸方向位置とに選択的に位置し、
前記切り替え機構は、前記移動部材が前記第1の軸方向位置にあるとき、前記内輪に対する前記外輪の一方または他方の回転方向への回転をロックし、前記移動部材が前記第2の軸方向位置にあるとき、前記内輪に対する前記外輪の一方または他方の回転方向への何れの回転方向への回転も非ロック状態とし、前記移動部材が前記第3の軸方向位置にあるとき、前記内輪に対する前記外輪の一方または他方の回転方向への何れの回転方向への回転もロックすることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
前記移動部材は、軸方向一方側に突出し、軸方向一方側に移動するに従い前記外輪と前記内輪との間の空間に挿入されてゆく複数の突出部を有し、
前記複数の突出部はそれぞれ、前記移動部材の軸方向移動の際、1つの前記第1の係合部材に接触可能な第1の接触部と、前記第1の係合部材と周方向に隣り合う1つの前記第2の係合部材に接触可能な第2の接触部とを有し、
前記第1の接触部と前記第2の接触部とは、異なる軸方向位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記切り替え機構は、前記移動部材が軸方向に移動することにより、前記第1の接触部が前記第1の係合部材に接触し、前記ノッチに対する前記第1の係合部材の係合状態と非係合状態とを切り替え、前記第2の接触部が前記第2の係合部材に接触し、前記ノッチに対する前記第2の係合部材の係合状態と非係合状態とを切り替えることを特徴とする請求項に記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や産業機械等においてトルク伝達用の装置として用いられるクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の変速機等に用いられるクラッチ装置であって、外側レースに対する内側レースの回転方向に関し、一方の回転方向への回転をロックするとともに、前記一方の回転方向とは反対の回転方向(以後、単に「反対の回転方向」という)への回転を可能とする一方向ロック状態と、一方の回転方向および反対の回転方向の両方向への回転をロックする両方向ロック状態とを切り替えることが可能なものがある(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1のクラッチ装置は、一方向ロック状態においては、外側レースに対して内側レースが一方の回転方向へ回転すると、内側レースに設けられた爪部材が外側レースに係合し、外側レースと内側レースとの間でトルク伝達を可能とする一方、外側レースに対して内側レースが反対の回転方向へ回転すると、前記爪部材は外側レースに係合せず、外側レースに対して内側レースは空転し、トルク伝達は行わない。また、両方向ロック状態においては、外側レースに対して内側レースが一方の回転方向または反対の回転方向の何れの回転方向へ回転しても、前記爪部材が外側レースに係合し、外側レースと内側レースとの間でトルク伝達を可能としている。
【0004】
なお、特許文献1のクラッチ装置は、内側レースの回転が所定の速さを上回ると、内側レースの回転による遠心力によって前記爪部材が所定方向に揺動し、前記爪部材と外側レースとの係合が解除される構成となっている。この状態において、外側レースに対して内側レースが一方の回転方向または反対の回転方向の何れの回転方向へ回転しても、前記爪部材は外側レースに係合せず、外側レースに対して内側レースは空転し、トルク伝達は行わない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-508582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のクラッチ装置は、外側レースと同心に配置され、外側レースに対して所定角度の範囲で回転可能な円環状のアクチュエータカムを有している。アクチュエータカムは内周部にカム歯が形成され、カム歯は内側レースの爪部材の姿勢を変化させるように構成されている。具体的には、アクチュエータカムのカム歯は、外側レースに対するアクチュエータカムの回転角度位置によって、外側レースに対する前記爪部材の係合状態を変化させる構成となっている。
【0007】
このような構成を有する従来のクラッチ装置は、円環状のアクチュエータカムを回転させて外側レースに対するアクチュエータカムの角度位置を変更し、外側レースに対する前記爪部材の係合状態を変化させることによって、クラッチ装置の前記一方向ロック状態と両方向ロック状態とを切り替えている。そして外側レースに対するアクチュエータカムの回転は、アクチュエータカムを回転させるために設けられた専用のアクチュエータを用いて行っている。
近年、このようなトルク伝達方向の切り替えが可能なクラッチ装置に対する小型化、およびトルク伝達方向を切り替えるための切り替え機構の簡素化が求められている。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、小型であって、トルク伝達方向を切り替えるための切り替え機構を簡素化することができるクラッチ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係るクラッチ装置は、
同軸に且つ相対回転可能に配置された外輪および内輪と、
トルク伝達可能に前記外輪と前記内輪とを係合可能な係合機構と、
前記内輪に対してロックする前記外輪の一方または他方への回転方向を切り替え可能な切り替え機構と、を備えたクラッチ装置において、
前記係合機構は、前記外輪の内周部と前記内輪の外周部の何れか一方に設けられたノッチと、前記外輪の内周部と前記内輪の外周部の何れか他方に設けられ、前記ノッチに係合可能な第1の係合部材を備え前記ノッチと係合することにより前記内輪に対する前記外輪の前記他方の回転方向への回転をロック可能な第1のラチェット機構部と、前記ノッチに係合可能な第2の係合部材を備え前記ノッチと係合することにより前記内輪に対する前記外輪の前記一方の回転方向への回転をロック可能な第2のラチェット機構部とであり、
前記切り替え機構は、前記外輪および前記内輪と同軸上に前記外輪および前記内輪に隣接して配置され、前記外輪および前記内輪に対して軸方向に移動可能な環状の移動部材を有し、前記移動部材が軸方向に移動することによって、前記ノッチに対する前記第1の係合部材の係合状態または非係合状態と、前記ノッチに対する前記第2の係合部材の係合状態または非係合状態との組み合わせを変更し、
前記第1のラチェット機構部は、周方向に所定間隔で複数が設けられ、
前記第2のラチェット機構部は、周方向に所定間隔で複数が設けられ、
前記複数の前記第1のラチェット機構部と前記複数の第2のラチェット機構部とは、周方向に交互に配置され、
前記移動部材は、前記外輪および前記内輪に対する第1の軸方向位置と第2の軸方向位置と第3の軸方向位置とに選択的に位置し、
前記切り替え機構は、前記移動部材が前記第1の軸方向位置にあるとき、前記内輪に対する前記外輪の一方または他方の回転方向への回転をロックし、前記移動部材が前記第2の軸方向位置にあるとき、前記内輪に対する前記外輪の一方または他方の回転方向への何れの回転方向への回転も非ロック状態とし、前記移動部材が前記第3の軸方向位置にあるとき、前記内輪に対する前記外輪の一方または他方の回転方向への何れの回転方向への回転もロックすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小型であって、トルク伝達方向を切り替えるための切り替え機構を簡素化することができるクラッチ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は実施形態に係るクラッチ装置の要部を示す正面図であり、第1の状態を示している。
図2図2(a)は図1の2A-2A矢視断面図であり、図2(b)は図1の2B-2B矢視断面図である。
図3図3はクラッチ装置の要部の斜視図である。
図4図4はクラッチ装置の要部を示す正面図であり、第2の状態を示している。
図5図5(a)は図4の5A-5A矢視断面図であり、図5(b)は図4の5B-5B矢視断面図である。
図6図6はクラッチ装置の要部を示す正面図であり、第3の状態を示している。
図7図7(a)は図6の7A-7A矢視断面図であり、図7(b)は図6の7B-7B矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一つの実施形態に係るクラッチ装置を、図面を参照しながら説明する。
【0013】
まず、本実施形態におけるクラッチ装置に係る方向について定義する。本実施形態において、「中心軸線」とはクラッチ装置の中心軸線すなわち外輪および内輪の軸線のことをいい、軸方向、径方向、周方向とは、中心軸線に関する軸方向、径方向、周方向のことをいう。また、軸方向について、図1図4図6においては紙面手前側を軸方向一方側とし、紙面奥側を軸方向他方側とし、図2図5図7においては紙面左方側を軸方向一方側とし、紙面右方側を軸方向他方側とする。周方向について、図1図4図6において、紙面に向かって右側に回転する方向を周方向一方側あるいは時計方向とし、紙面に向かって左側に回転する方向を周方向他方側あるいは反時計方向とする。また、回転方向については、周方向一方側すなわち時計方向への回転方向を一方の回転方向とし、周方向他方側すなわち反時計方向への回転方向を他方の回転方向とする。なお、クラッチ装置の回転方向については、説明の便宜上、内輪に対する外輪の回転方向について説明するが、内輪の回転と外輪の回転とは相対的なものである。
【0014】
図1は、実施形態に係るクラッチ装置の要部を示す正面図であり、後述する第1の状態を示している。図1は、クラッチ装置1について、中心軸線Cを中心として略90度の角度範囲を示し、他の部分の記載を省略している。このことは後述する図4および図6も同様である。
図2(a)は、図1の2A-2A矢視断面図であり、図2(b)は、図1の2B-2B矢視断面図である。
図3は、図1に示すクラッチ装置1の要部の斜視図である。なお、図3においては、外輪を取り払い、環状のカム部材が最も軸方向他方側に位置し、2つの爪部材が起立している状態を示している。
【0015】
本実施形態に係るクラッチ装置1は、環状の外輪3と、外輪3に対して径方向内方に離間し、外輪3と同軸に且つ外輪3と相対回転可能に配置された環状の内輪5と、外輪3と内輪5との間でトルク伝達を可能とするトルク伝達機構と、を有している。外輪3の内周面と内輪5の外周面とは、環状の空間Sを介して径方向に対向している。本実施形態におけるトルク伝達機構は、後述するように、ラチェット機構である。
【0016】
外輪3の内周部には、径方向内方に突出する多数の歯部9が周方向の全周に亘って等間隔に形成されている。各歯部9は外輪3の軸方向全長に亘って形成されている。周方向に隣り合う歯部9によって、1つのノッチ11が形成されている。したがって外輪3の内周部には、多数のノッチ11が周方向の全周に亘って等間隔に形成されている。
【0017】
内輪5の外周部には、外輪3のノッチ11と噛み合い可能な第1の爪部材13を含む第1の爪機構部15と、ノッチ11と噛み合い可能な第2の爪部材17を含む第2の爪機構部19とが設けられている。第1の爪機構部15と第2の爪機構部19とはそれぞれ同数が設けられ、内輪5の外周部の全周に亘って所定間隔で交互に配置されている。本実施形態においては、4つの第1の爪機構部15と4つの第2の爪機構部19が設けられている。図1には、周方向一方側から周方向他方側に向かって順に並んだ第1の爪機構部15と第2の爪機構部19とが示されている。このように並んだ第1の爪機構部15と第2の爪機構部19とは一対の爪機構部を構成している。したがって本実施形態においては、図示は省略するが、4対の爪機構部が設けられている。以下、一対の爪機構部の構成について説明するが、他の爪機構部の構成も同様である。
【0018】
第1の爪機構部15は、第1の爪部材13と、内輪5の外周部に形成され、第1の爪部材13を保持する爪保持部21と、コイル状のスプリング23と、スプリング23を内部に収容するポケット25とを有している。爪保持部21は、軸方向一方側から見て、内輪5の外周面に開口し、開口から径方向内方に向かって凹んだ凹部27と、凹部27の周方向一方側に凹部27と連続して設けられ、内輪5の外周部を切り欠いた切り欠き部29とからなる。凹部27および切り欠き部29は、内輪5を軸方向に貫通している。軸方向一方側から見た凹部27の断面形状は、径方向外方且つ周方向一方側に開口する円弧形状に形成されている。凹部27の断面の円弧形状は、中心角が180度以上の扇形の弧となっている。したがって凹部27の内周側の壁は、軸方向に延在し、径方向外方且つ周方向一方側に開口する断面が円弧状の溝を形成している。
【0019】
ポケット25は、切り欠き部29の底面に穿設され、略径方向内方に向かって凹んだ凹部である。ポケット25は軸方向一方側から見た断面形状が略矩形に形成され、内輪5を軸方向に貫通している。
【0020】
第1の爪部材13は、爪保持部21の凹部27に、凹部27の軸方向に沿って配置される円柱部13aと、円柱部13aの外周面から突出する爪部13bとから構成されている。円柱部13aの外周面は、凹部27の断面形状の円弧より僅かに小さい曲率半径を有している。第1の爪部材13は、円柱部13aが凹部27に回動可能に配置され、爪部13bが凹部27の開口から周方向一方側に向かって突出している。このような構成なので、第1の爪部材13は、円柱部13aを軸にして爪部13bが径方向に揺動可能に、爪保持部21に保持されている。
【0021】
第1の爪部材13の爪部13bは切り欠き部29に配置され、ポケット25の径方向外方を覆い、内輪5の外周面近傍部まで延在している。ポケット25に収容されているスプリング23は、爪部13bの内径側の面に接触し、爪部13bを径方向外方すなわち外輪3の内周面に向けて常に付勢している。第1の爪部材13は、スプリング23のこの付勢力によって、円柱部13aを軸にして爪部13bの先端部が外輪3に近づく方向に回動して起立し、外輪3のノッチ11との係合が可能となっている。なお、図1および図2(a)においては、第1の爪部材13は起立をしていない状態すなわち倒伏している状態であり、外輪3のノッチ11とは非係合状態である。
【0022】
以上の構成により、第1の爪機構部15は、外輪3のノッチ11と共に第1のラチェット機構を構成し、外輪3のノッチ11と係合することにより、内輪5に対する外輪3の反時計方向すなわち他方の回転方向への回転をロックすると共に、内輪5に対する外輪3の時計方向すなわち一方の回転方向への回転を可能としている。
【0023】
第2の爪機構部19は、軸方向から見て、第1の爪機構部15とは周方向の向きが反対となるように構成されている。
【0024】
第2の爪機構部19は、第2の爪部材17と、内輪5の外周部に形成され、第2の爪部材17を保持する爪部材保持部31と、コイル状のスプリング33と、スプリング33を内部に収容するポケット35とを有している。爪部材保持部31は、軸方向一方側から見て、内輪5の外周面に開口し、開口から径方向内方に向かって凹んだ凹部37と、凹部37の周方向他方側に凹部37と連続して設けられ、内輪5の外周部を切り欠いた切り欠き部39とからなる。凹部37および切り欠き部39は、内輪5を軸方向に貫通している。軸方向一方側から見た凹部37の断面形状は、径方向外方且つ周方向他方側に開口する円弧形状に形成されている。凹部37の断面の円弧形状は、中心角が180度以上の扇形の弧となっている。したがって凹部37の内周側の壁は、軸方向に延在し、径方向外方且つ周方向他方側に開口する断面が円弧状の溝を形成している。
【0025】
ポケット35は、切り欠き部39の底面に穿設され、略径方向内方に向かって凹んだ凹部である。ポケット35は軸方向一方側から見た断面形状が略矩形に形成され、内輪5を軸方向に貫通している。ポケット35に収容されているスプリング33は、第1の爪機構部15のスプリング23と同様の構成である。
【0026】
第2の爪部材17は、爪保持部31の凹部37に、凹部37の軸方向に沿って配置される円柱部17aと、円柱部17aの外周面から突出する爪部17bとから構成されている。円柱部17aの外周面は、凹部37の断面形状の円弧より僅かに小さい曲率半径を有している。第2の爪部材17は、円柱部17aが凹部37に回動可能に配置され、爪部17bが凹部37の開口から周方向他方側に向かって突出している。このような構成なので、第2の爪部材17は、円柱部17aを軸にして爪部17bが径方向に揺動可能に、爪保持部31に保持されている。
【0027】
第2の爪部材17の爪部17bは切り欠き部39に配置され、ポケット35の径方向外方を覆い、内輪5の外周面近傍部まで延在している。ポケット35に収容されているスプリング33は、爪部17bの内径側の面に接触し、爪部17bを径方向外方すなわち外輪3の内周面に向けて常に付勢している。第2の爪部材17は、スプリング33のこの付勢力によって、円柱部17aを軸にして爪部17bの先端部が外輪3に近づく方向に回動して起立し、外輪3のノッチ11との係合が可能となっている。なお、図1および図2(b)においては、第2の爪部材17は起立している状態であり、外輪3のノッチ11と係合状態である。
【0028】
以上の構成により、第2の爪機構部19は、外輪3のノッチ11と共に第2のラチェット機構を構成し、外輪3のノッチ11と係合することにより、内輪5に対する外輪3の時計方向すなわち一方の回転方向への回転をロックすると共に、内輪5に対する外輪3の反時計方向すなわち他方の回転方向への回転を可能としている。
【0029】
本実施形態のクラッチ装置1は、外輪3のノッチ11に対する第1の爪機構部15の係合状態または非係合状態と、外輪3のノッチ11に対する第2の爪機構部19の係合状態または非係合状態との組み合わせを変更することによって、内輪5に対してロックする外輪3の回転方向または内輪5に対して回転可能な外輪3の回転方向を変更し、回転伝達方向すなわちトルク伝達方向を切り替えることができる構成となっている。次にこのようなトルク伝達方向を切り替える切り替え機構について説明する。
【0030】
本実施形態のクラッチ装置1のトルク伝達方向を切り替えるための切り替え機構は、外輪3および内輪5に対して軸方向に移動可能な環状のカム部材41を用いている。カム部材41は、外輪3および内輪5の軸方向他方側に、外輪3および内輪5と同心に、且つ軸方向移動可能に配置されている。カム部材41は内輪5と一体回転する。カム部材41は、軸方向に延在する円筒部43と、円筒部43の軸方向他方端から径方向内方に延在するフランジ部45とを有している。円筒部43は内輪5と同等または内輪5よりも小さい軸方向長さを有している。また円筒部43は、外輪3と内輪5との間の環状の空間Sの外径よりも小さい外径を有している。フランジ部45には、内径側縁部から軸方向他方側に延在する突出部47が形成されている。突出部47は、本実施形態のクラッチ装置1が搭載される作動機構、例えば搭載された本体からの油圧や電動等の制御機構にて軸方向移動となる。
【0031】
カム部材41の円筒部43の軸方向一方側の端面には、軸方向一方側に突出するカム部49が複数形成されている。図1乃至3に示すように、1つのカム部49は、第1の爪保持部21の凹部27と第2の爪保持部31の凹部37との間の内輪5の外周面の部分5aに沿う円弧状に形成されている。カム部49の周方向一方端は、軸方向一方側から見て、内輪5の外周面の部分5aの周方向一方端よりも周方向一方側に突出し、第1の爪保持部21の凹部27の開口の周方向他方側の部分を覆っている。またカム部49の周方向他方端は、軸方向一方側から見て、内輪5の外周面の部分5aの周方向他方端よりも周方向他方側に突出し、第2の爪保持部31の凹部37の開口の周方向一方側の部分を覆っている。本実施形態においては、4対の爪機構部に一対一に対応して、4つのカム部49が周方向所定間隔に形成されている。
【0032】
カム部49は、内輪5の外周面の軸方向長さと同等の軸方向長さを有している。カム部49の外周面は、外輪3の多数の歯部9の頂部に接する内接円よりも小さい曲率半径を有している。カム部49の内周面は、内輪5の外周面の曲率半径よりも僅かに大きい曲率半径を有している。したがってカム部49は、外輪3と内輪5との間の環状の空間Sに軸方向に挿入可能となっている。カム部49は、カム部材41が最も軸方向他方側に位置しているときは、図3に示すように、ほぼ全体が環状の空間Sの軸方向他方側に位置しており、この状態からカム部材41が軸方向一方側に移動するに従って空間S内に挿入されていく。カム部材41が内輪5に対して軸方向に移動する際、カム部49の内周面は内輪5の外周面の部分5a上を滑らかに摺動する。
【0033】
カム部49の内周面には、軸方向一方側の縁部の周方向中央部に、径方向内方に突出する凸部51が形成されている。内輪5の外周面の部分5aには、周方向中央部に軸方向溝5bが形成されている。軸方向溝5bは内輪5の軸方向全長に亘って形成されている。カム部49の凸部51は、内輪5の軸方向溝5bに軸方向移動可能に係合している。すなわち内輪5の軸方向溝5bは、カム部材41の軸方向移動の案内溝を構成している。また、カム部49の凸部51が内輪5の軸方向溝5bに係合することにより、カム部材41と内輪5とは一体回転する。なお、カム部49の凸部51は、軸方向に延在する畝状に形成しても良い。
【0034】
カム部49の内周面の周方向一方側端部には、径方向内方に突出する第1の突出部53が形成されている。第1の突出部53は、軸方向一方側から見て、内輪5の外周面の部分5aの周方向一方端よりも周方向一方側に突出したカム部49の部分に形成されている。第1の突出部53は、カム部49の軸方向他方端から軸方向一方側に向かって延在し、図2(a)に示すように、カム部49の軸方向第1中間部55まで延在している。したがってカム部49の周方向一方側端部は、軸方向他方側の部分が厚肉部となっている。
【0035】
第1の突出部53の軸方向一方側の端部は、軸方向一方側に向かうに従い中心軸線Cから遠くなり、軸方向他方側に向かうに従い中心軸線Cに近づく方向に傾斜した斜面57となっている。したがって、第1の突出部53の内周面59と、第1の突出部53よりも軸方向一方側のカム部49の部分の内周面49aとは、斜面57によって滑らかに連続している。
【0036】
図3に示すように、第1の爪部材13が起立状態すなわち外輪3のノッチ11と係合している状態において、軸方向一方側から見て、第1の突出部53の斜面57は第1の爪部材13の爪部13bの外周面13cに対応する径方向位置に位置している。一方、この状態において、第1の突出部53よりも軸方向一方側のカム部49の部分は爪部13bの外周面13cよりも外径側に位置している。したがって第1の突出部53の斜面57は、内輪5に対するカム部材41の軸方向への移動により、第1の爪部材13の爪部13bの外周面13cの軸方向他方側縁部に接触可能となっている。
【0037】
カム部49の第1の突出部53が第1の爪部材13よりも軸方向他方側に位置し、第1の爪部材13が起立している状態からカム部材41が軸方向一方側に移動し、第1の突出部53の斜面57が第1の爪部材13の爪部13bの外周面13cの軸方向他方側縁部に接触すると、カム部材41が軸方向一方側へ移動するに従い爪部13bの外周面13cの軸方向他方側縁部は相対的に斜面57を軸方向一方側から軸方向他方側に向かって摺動する。すると第1の爪部材13を径方向外方に付勢しているスプリング23が圧縮され、第1の爪部材13は円柱部13a中心に爪部13bが径方向内方に揺動し、起立状態から倒伏状態へと変位していく。そしてカム部材41が軸方向一方側へさらに移動し、第1の突出部53の内周面59が第1の爪部材13の外周面13cと接触する状態になると、第1の爪部材13は倒伏状態となる。この状態において、第1の爪部材13の爪部13bは、外輪3のノッチ11に対して非係合状態で保持される。
【0038】
一方、第1の爪部材13が倒伏している状態からカム部材41が軸方向他方側に移動すると、爪部13bの外周面13cの軸方向他方側縁部は相対的に第1の突出部53の斜面57を軸方向他方側から軸方向一方側に向かって摺動する。すると第1の爪部材13はスプリング23の付勢力により円柱部13a中心に爪部13bが径方向外方に揺動し、倒伏状態から起立状態へと変位していく。そしてカム部材41が軸方向他方側へさらに移動し、第1の突出部53が第1の爪部材13よりも軸方向他方側に位置する状態になると、第1の爪部材13は起立状態となり、第1の爪部材13は外輪3のノッチ11に対して係合状態となる。
【0039】
このように、カム部49の第1の突出部53は、カム部材41の軸方向移動によって、第1の爪部材13の爪部13bの外周面13cの軸方向他方側縁部が相対的に斜面57上を軸方向に摺動することにより、爪部13bを径方向に移動させ、第1の爪部材13の起立状態と倒伏状態とを切り替える。このように、第1の突出部53の斜面57は、カム部材41の軸方向への運動を第1の爪部材13の径方向への運動に変換するカム面を構成している。カム部49の第1の突出部53は、このように第1の爪部材13の起立状態と倒伏状態とを切り替えることにより、外輪3のノッチ11に対する第1の爪部材13の係合状態と非係合状態とを切り替えている。
【0040】
カム部49の内周面の周方向他方側端部には、径方向内方に突出する第2の突出部63が形成されている。第2の突出部63は、軸方向一方側から見て、内輪5の外周面の部分5aの周方向他方端よりも周方向他方側に突出したカム部49の部分に形成されている。第2の突出部63は、カム部49の軸方向他方端から軸方向一方側に向かって延在し、図2(b)に示すように、カム部49の軸方向第2中間部65まで延在している。したがってカム部49の周方向一方側端部は、軸方向他方側の部分が厚肉部となっている。
【0041】
カム部49の軸方向第2中間部65は、図2(a)に示す軸方向第1中間部55よりも軸方向他方側に位置している。したがって第2の突出部63は、第1の突出部53よりも軸方向寸法が短く形成されている。
【0042】
第2の突出部63の軸方向一方側の端部は、軸方向一方側に向かうに従い中心軸線Cから遠くなり、軸方向他方側に向かうに従い中心軸線Cに近づく方向に傾斜した斜面67となっている。したがって、第2の突出部63の内周面69と、第2の突出部63よりも軸方向一方側のカム部49の部分の内周面49bとは、斜面67によって滑らかに連続している。第2の突出部63の斜面67は第1の突出部53の斜面57と同様の構成である。第2の突出部63は第1の突出部53よりも軸方向寸法が短く形成されているので、第2の突出部63の斜面67は、第1の突出部53の斜面57よりも軸方向他方側に位置している。すなわち第1の突出部53の斜面57と第2の突出部63の斜面67とは、カム部49の異なる軸方向位置に形成されている。
【0043】
図2(b)に示すように、第2の爪部材17が起立状態すなわち外輪3のノッチ11と係合している状態において、軸方向一方側から見て、第2の突出部63の斜面67は第2の爪部材17の爪部17bの外周面17cに対応する径方向位置に位置している。一方、この状態において、第2の突出部63よりも軸方向一方側のカム部49の部分は爪部17bの外周面17cよりも外径側に位置している。したがって第2の突出部63の斜面67は、内輪5に対するカム部材41の軸方向への移動により、第2の爪部材17の爪部17bの外周面17cの軸方向他方側縁部に接触可能となっている。
【0044】
カム部49の第2の突出部63は、第1の突出部53と同様に、第2の爪部材17の起立状態と倒伏状態とを切り替え可能な構成となっている。すなわち、カム部材41が内輪5に対して軸方向に移動し、カム部49の第2の突出部63の斜面67が第2の爪部材17の爪部17bの外周面17cの軸方向他方側縁部に接触し、爪部17bの外周面17cの軸方向他方側縁部が相対的に斜面67上を摺動することにより、第2の爪部材17の起立状態と倒伏状態とを切り替えている。すなわち、第2の突出部63の斜面67は、カム部材41の軸方向への運動を第2の爪部材17の径方向への運動に変換するカム面を構成している。そしてカム部49の第2の突出部63は、第1の突出部53と同様に、軸方向移動によって第2の爪部材17の起立状態と倒伏状態とを切り替えることにより、外輪3のノッチ11に対する第2の爪部材17の係合状態と非係合状態とを切り替えている。
【0045】
本実施形態のクラッチ装置1は、以上のような構成のカム部49を有するカム部材41の外輪3および内輪5に対する軸方向位置を変更することにより、外輪3のノッチ11に対する第1の爪部材13と第2の爪部材17の係合状態と非係合状態との組み合わせを変更することができる。具体的には、カム部材41は外輪3および内輪5に対して3つの軸方向位置を取り得る構成となっている。そしてクラッチ装置1は、カム部材41の各軸方向位置において、それぞれ異なるトルク伝達状態となる。以下、内輪5に対するカム部材41の3つの軸方向位置を、第1の軸方向位置と、第1の軸方向位置よりも軸方向一方側の第2の軸方向位置と、第1の軸方向位置よりも軸方向他方側の第3の軸方向位置として、クラッチ装置の作動について説明する。
【0046】
まず、カム部材41が第1の軸方向位置にあるクラッチ装置1の第1の状態について説明する。
図1図2(a)および図2(b)は、カム部材41が第1の軸方向位置にある状態を示している。この状態において、カム部49の第1の突出部53は、図2(a)に示すように、その内周面59が第1の爪機構部15の第1の爪部材13の外周面13cと接触している状態であり、第1の爪部材13はカム部49の第1の突出部53によって、図1に示すように倒伏状態に保持されている。したがって第1の爪部材13は、図1に示すように、外輪3のノッチ11に対して非係合状態である。この状態において、第1の爪機構部15は、内輪5に対する外輪3の一方の回転方向および他方の回転方向の何れの回転方向への回転もロックせず、内輪5に対する外輪3の何れの回転方向への回転も可能としている。
【0047】
一方、カム部49の第2の突出部63は、第1の突出部53よりも軸方向他方側に形成されているので、図2(b)に示すように、第2の爪機構部19の第2の爪部材17よりも軸方向他方側に位置し、第2の爪部材17は起立状態である。したがって第2の爪部材17は、図1に示すように、外輪3のノッチ11に対して係合状態である。この状態において、第2の爪機構部19は、内輪5に対する外輪3の一方の回転方向への回転をロックすると共に、内輪5に対する外輪3の他方の回転方向への回転を可能としている。
【0048】
カム部材41が第1の軸方向位置にある状態においては、第1の爪部材13は外輪3のノッチ11に対して非係合状態であり、第2の爪部材17は外輪3のノッチ11に対して係合状態である。したがってこの状態において、クラッチ装置1は、内輪5に対する外輪3の一方の回転方向への回転がロックされ、内輪5に対する外輪3の他方の回転方向への回転を可能としている。すなわちクラッチ装置1は、第1の状態において、内輪5と外輪3との間で、一方向へのトルク伝達が可能な状態である。
【0049】
次に、カム部材41が第2の軸方向位置にあるクラッチ装置1の第2の状態について説明する。
図4は、カム部材41が第2の軸方向位置にある状態におけるクラッチ装置1の要部を示す正面図であり、図5(a)は図4の5A-5A矢視断面図であり、図5(b)は図4の5B-5B矢視断面図である。
【0050】
カム部材41が第1の軸方向位置(図2(a)、(b))から軸方向一方側に移動すると、カム部49の第1の突出部53は、図2(a)に示す状態から、その内周面59が第1の爪機構部15の第1の爪部材13の外周面13c上を軸方向一方側に移動する。この状態において、第1の突出部53の内周面59は、図5(a)に示すように、第1の爪部材13の外周面13cと接触している状態であり、第1の爪部材13はカム部49の第1の突出部53によって倒伏状態に保持されている。したがって第1の爪部材13は、図4に示すように、外輪3のノッチ11に対して非係合状態である。
【0051】
一方、カム部材41が第1の軸方向位置から軸方向一方側に移動すると、図2(b)に示す状態から、カム部49の第2の突出部63の斜面が第2の爪部材17の爪部17bの外周面17cの軸方向他方側縁部に接触し、爪部17bの外周面17cの軸方向他方側縁部は相対的に斜面67を軸方向一方側から軸方向他方側に向かって摺動する。すると第2の爪部材17は、図1に示す起立状態から倒伏状態へと変位していく。そしてカム部材41が第2の軸方向位置まで移動すると、図5(b)に示すように、第2の突出部63の内周面69が第2の爪部材17の外周面17cと接触する状態となり、第2の爪部材17は倒伏状態となる。したがって第2の爪部材17は、図4に示すように、外輪3のノッチ11に対して非係合状態である。
【0052】
カム部材41が第2の軸方向位置にある状態においては、第1の爪部材13も第2の爪部材17も外輪3のノッチ11に対して非係合状態である。したがってこの状態において、クラッチ装置1は、内輪5に対する外輪3の一方の回転方向および他方の回転方向の何れの回転方向への回転もロックせず、内輪5に対する外輪3の何れの回転方向への回転も可能としている。すなわちクラッチ装置1は、第2の状態において、内輪5と外輪3との間でトルク伝達が不能な状態である。
【0053】
なお、カム部材41が第2の軸方向位置から第1の軸方向位置に移動する際は、第1の爪部材13は倒伏状態が保持され、第2の爪部材17はカム部49の第2の突出部63によって倒伏状態から起立状態へと変位する。
【0054】
次に、カム部材41が第3の軸方向位置にあるクラッチ装置1の第3の状態について説明する。
図6は、カム部材41が第3の軸方向位置にある状態におけるクラッチ装置1の要部を示す正面図であり、図7(a)は図6の7A-7A矢視断面図であり、図7(b)は図6の7B-7B矢視断面図である。
【0055】
カム部材41が第1の軸方向位置(図2(a)、(b))から軸方向他方側に移動すると、カム部49の第1の突出部53は、図2(a)に示す状態から、その内周面59が第1の爪部材13の外周面13c上を軸方向他方側に移動する。そしてカム部材41が軸方向他方側に移動するに従い、第1の爪部材13の爪部13bの外周面13cの軸方向他方側縁部は、相対的に第1の突出部53の斜面57を軸方向他方側から軸方向一方側に向かって摺動する。すると第1の爪部材13は、スプリング23の付勢力により図1に示す倒伏状態から起立状態へと変位していく。そしてカム部材41が第3の軸方向位置まで移動すると、図7(a)に示すように、カム部49の第1の突出部53は、第1の爪部材13よりも軸方向他方側に位置し、第1の爪部材13は起立状態となる。したがって第1の爪部材13は、図6に示すように、外輪3のノッチ11に対して係合状態である。
【0056】
一方、図2(b)に示す状態から図7(b)に示す状態までカム部材41が第1の軸方向位置から軸方向他方側に移動しても、カム部49の第2の突出部63は第2の爪部材17よりも軸方向他方側に位置し、第2の爪部材17は起立状態である。したがって第2の爪部材17は、図6に示すように、外輪3のノッチ11に対して係合状態である。
【0057】
カム部材41が第3の軸方向位置にある状態においては、第1の爪部材13も第2の爪部材17も外輪3のノッチ11に対して係合状態である。したがってこの状態において、クラッチ装置1は、内輪5に対する外輪3の一方の回転方向および他方の回転方向の何れの回転方向への回転もロックし、内輪5に対する外輪3の何れの回転方向への回転も不能としている。すなわちクラッチ装置1は、第3の状態において、内輪5と外輪3との間で、何れの回転方向へもトルク伝達が可能な状態である。
【0058】
なお、カム部材41が第3の軸方向位置から第1の軸方向位置に移動する際は、第1の爪部材13はカム部49の第1の突出部53によって起立状態から倒伏状態へと変位し、第2の爪部材17は起立状態が保持される。
【0059】
このように、本実施形態のクラッチ装置1は、内輪5に対する外輪3の一方の回転方向への回転をロックする第1の状態と、内輪5に対する外輪3の一方の回転方向および他方の回転方向の何れの回転方向への回転もロックしない第2の状態と、内輪5に対する外輪3の一方の回転方向および他方の回転方向の何れの回転方向への回転もロックする第3の状態とを切り替えることが可能である。そしてクラッチ装置1の第1の状態と第2の状態と第3の状態とは、外輪3および内輪5に対するカム部材41の軸方向位置を変更してカム部材41を第1乃至第3の3つの軸方向位置に選択的に位置させることにより、ラチェット機構である第1の爪機構部15および第2の爪機構部19の外輪3に対する係合状態と非係合状態との組み合わせを変更することによって切り替えられる。
【0060】
そして本実施形態においては、カム部材41は、本実施形態のクラッチ装置1が搭載される作動機構、例えば搭載された本体からの油圧や電動等の制御機構にて軸方向移動となる。したがってクラッチ装置1にカム部材41を駆動させるための専用の個別装置を別途設ける必要がない。したがって本実施形態によれば、クラッチ装置1自体の小型化を図ることができる。
【0061】
また、外輪3に対する第1の爪機構部15および第2の爪機構部19の係合状態と非係合状態との組み合わせの変更は、カム部49を有するカム部材41を第1乃至第3の3つの軸方向位置に選択的に位置させることによってなされる。したがって本実施形態のクラッチ装置1は、簡素な機構によって第1乃至第3の状態の切り替えが可能であり、その結果小型化および軽量化を図ることができる。
【0062】
なお、上記実施形態は、内輪5に対してロック状態とする外輪3の回転方向、あるいは内輪5に対して非ロック状態とする外輪3の回転方向について説明したが、内輪5の回転と外輪3の回転とは相対的なものである。したがって、上記第1乃至第3の状態のクラッチ装置1において、内輪5と外輪3の何れを駆動側または被駆動側として内輪5と外輪3との間でトルク伝達をするかは、本実施形態のクラッチ装置1が用いられる装置の用途等によって適宜設定される。したがって、図1に示す内輪5の内周部に設けられたスプライン71は、図示は省略するが駆動側の軸部材または被駆動側の軸部材に嵌合される。
【0063】
本実施形態のクラッチ装置1は、上記実施形態に限定されるものではなく、適宜変更が可能である。例えば、上記実施形態においては、クラッチ装置1は第1の状態において、内輪5に対する外輪3の一方の回転方向への回転がロックされるが、第1の状態において、内輪5に対する外輪3の他方の回転方向への回転がロックされるようにしても良い。このような構成とするためには、カム部49の第1の突出部53の斜面57の軸方向位置と第2の突出部63の斜面69の軸方向位置とを、本実施形態とは逆の状態とすれば良い。
【0064】
また、上記実施形態においては、ノッチ11を外輪3の内周部に形成し、第1爪機構部15および第2爪機構部19を内輪5の外周部に設けたが、ノッチ11を内輪5の外周部に形成し、第1爪機構部15および第2爪機構部19を外輪3の内周部に設けても良い。また、第1爪機構部15および第2爪機構部19の数は、クラッチ装置1が伝達するトルク容量によって適宜設計することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 クラッチ装置
3 外輪
5 内輪
11 ノッチ
13 第1の爪部材
15 第1の爪機構部
17 第2の爪部材
19 第2の爪機構部
21 爪部材保持部
27 凹部
29 切り欠き部
31 爪部材保持部
37 凹部
39 切り欠き部
41 カム部材
49 カム部
53 第1の突出部
57 斜面
63 第2の突出部
67 斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7