(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20220816BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20220816BHJP
C09J 7/21 20180101ALI20220816BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J183/04
C09J7/21
(21)【出願番号】P 2018000205
(22)【出願日】2018-01-04
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 好映
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222779(JP,A)
【文献】特開2006-232930(JP,A)
【文献】特開2002-080806(JP,A)
【文献】特開2017-190463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛である基材と、
ヘテロ原子含有ポリマー成分からなる層と、
シリコーン粘着剤層と、を備える粘着シートであって、
前記ヘテロ原子含有ポリマーは、側鎖を構成する原子にヘテロ原子が含まれているポリマー(但し、ポリオキシアルキレン基を有するポリマーは除く。)であり、この側鎖はN,N-置換アミノ基又は複素環基を有しており、
前記ヘテロ原子含有ポリマー成分からなる層は、前記基材の全面又は一部を被覆しており、
前記シリコーン粘着剤層は、前記ヘテロ原子含有ポリマー成分と接するように積層されている、粘着シート。
【請求項2】
前記複素環基は、ヘテロ原子として窒素原子を有する複素環基である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記ヘテロ原子含有ポリマー成分は、前記基材上に層を形成している、請求項1又は2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記ヘテロ原子含有ポリマー成分は、前記基材の表面及び内部に存在する、請求項1又は2に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記シリコーン粘着剤は、架橋したシリコーン粘着剤である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記N,N-置換アミノ基は、-NR
1
R
2
で表され、R
1
及びR
2
は、同一の基、又はそれぞれ異なる基である、請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
R
1
及びR
2
は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基である、請求項6に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記複素環基は、
環を構成する原子の少なくとも1個がヘテロ原子である複素環に由来する基であり、該複素環は、同一の環内に、同一又は異なる1種又は2種以上のヘテロ原子を含んでいる、請求項1~7のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項9】
前記複素環は多環であり、該多環は、二環式複素環又は三環式複素環である、請求項8に記載の粘着シート。
【請求項10】
前記ヘテロ原子含有ポリマーは、ブタジエン-スチレン-ビニルピリジン共重合体、ジメチルアミノエチルアクリレート-メチルアクリレート共重合体、1-ビニルイミダゾール-メチルアクリレート共重合体、及び1-ビニル-2-ピロリジン-メチルアクリレート共重合体から選ばれる、請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シートを構成する粘着剤としては、アクリル系、シリコーン系、天然ゴム系など多くの種類が知られている。粘着剤は架橋して用いられることもあり、架橋方法の一つとして、電子線架橋等の放射線架橋が用いられる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/096535号
【文献】国際公開第2010/056544号
【文献】国際公開第2012/091167号
【文献】欧州特許第1458833号明細書
【文献】特開2011-219549号公報
【文献】特表2015-500734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着シートは巻き取った形態、すなわち粘着テープとして提供されることも多く、このような場合は粘着テープを巻き出すときに、粘着剤層が基材から離れ、隣接していたテープ背面上に残留することがある。また、皮膚等の被着体に一時的に貼り付けてその後剥離するような場合、剥離時に基材と粘着剤層が分離し、粘着剤層のみが被着体に残ることがある。
【0005】
本発明の課題は、投錨性(アンカー効果)が高く、実用途において、巻き出しや再剥離の際に基材と粘着剤層の分離が実質的に生じない粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも表面の一部にヘテロ原子含有ポリマー成分を有する基材と、該ヘテロ原子含有ポリマー成分と接するように積層されたシリコーン粘着剤層と、を備える粘着シートであって、ヘテロ原子含有ポリマーは、側鎖に、N,N-置換アミノ基又は複素環基を有するポリマーである、粘着シートを提供する。
【0007】
上記粘着シートは、シリコーン粘着剤と基材との密着性、すなわち投錨性(アンカー効果)が高く、実用途において、巻き出しや再剥離の際に基材と粘着剤層の分離が実質的に生じない。更に、少なくとも表面の一部にヘテロ原子含有ポリマー成分を有する基材においては、べたつきの発生が抑制されている。
【0008】
複素環基は、ヘテロ原子として窒素原子を有する複素環基であってもよい。このような構成を有することで、一態様においては、投錨性がさらに優れるようになる。
【0009】
なお、ヘテロ原子含有ポリマー成分は、基材上に層を形成していても、基材の表面及び内部に存在していてもよい。基材としては布帛が有用であり、シリコーン粘着剤は、架橋したシリコーン粘着剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、投錨性(アンカー効果)が高く、巻き出しや再剥離の際に基材と粘着剤層の分離が生じない粘着シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態に係る粘着シートは、少なくとも表面の一部にヘテロ原子含有ポリマー成分を有する基材と、このヘテロ原子含有ポリマー成分と接するように積層されたシリコーン粘着剤層と、を備えている。粘着シートはシート状の形状を有していればよく、テープ形状の粘着シート、すなわち粘着テープも粘着シートに含まれる。なお、粘着テープは巻き取った形状で提供されてもよい。
【0013】
粘着シートにおいては、ヘテロ原子含有ポリマー成分は、基材の少なくとも表面の一部に形成されていればよいため、基材が例えばフィルムである場合は、(a)基材の全面にヘテロ原子含有ポリマー成分からなる層が形成されている形態、(b)基材の一部の面上にヘテロ原子含有ポリマー成分からなる層が形成されている形態、(c)フィルム状基材を構成する素材にヘテロ原子含有ポリマーが含まれておりそれが表面の一部又は全部に露出している形態等が含まれる。
【0014】
基材が布帛である場合(なお、布帛の意義は後述する。)、(d)布帛の全面をヘテロ原子含有ポリマー成分からなる層が被覆している形態、(e)布帛の一部をヘテロ原子含有ポリマー成分からなる層が被覆している形態、(f)繊維の表面の一部又は全部にヘテロ原子含有ポリマー成分からなる層が形成されておりその繊維から布帛が形成されている形態、(g)複数の繊維の少なくとも一部がヘテロ原子含有ポリマーからなっておりその繊維から布帛が形成されている形態等が含まれる。なお、布帛においては、繊維間の空隙が全てヘテロ原子含有ポリマーで埋められている場合、繊維間の空隙の一部がヘテロ原子含有ポリマーで埋められている場合、繊維間の空隙がヘテロ原子含有ポリマーで埋められていない場合があり得る。
【0015】
上記形態のうち(a)、(b)、(d)及び(e)は、ヘテロ原子含有ポリマー成分が基材上に層を形成している態様に相当し、(c)、(f)及び(g)は、ヘテロ原子含有ポリマー成分が、基材の表面及び内部に存在する態様に相当する。
【0016】
基材の表面の少なくとも一部に存在する成分であるヘテロ原子含有ポリマーは、側鎖を構成する原子にヘテロ原子が含まれているポリマーであり、この側鎖は、N,N-置換アミノ基又は複素環基を有している。ここで、側鎖にN,N-置換アミノ基又は複素環基を有するとは、N,N-置換アミノ基又は複素環が、直接又は他の基(2価の有機基等)を介して主鎖に結合していることを意味する。側鎖としては、N,N-置換アミノ基及び複素環基のいずれか一方或いは両方を有するものであってよい。
【0017】
N,N-置換アミノ基(N,N-二置換アミノ基ともいう。)とは、アミノ基(-NH2)の2個の水素原子が他の基に置換された基をいう。ここで、アミノ基の2個の水素原子は、同種の基で置換されていてもよく、異種の基で置換されていてもよい。
【0018】
すなわち、N,N-置換アミノ基は、-NR1R2で表すことができ、R1及びR2は、同一の基であってもよく、それぞれ異なる基であってもよい。R1及びR2は、例えば、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、アラルキル基であり、アルキル基としては炭素数が1~6のアルキル基が好ましく、1~3のアルキル基がより好ましい。R1及びR2の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、フェニル基が挙げられる。R1及びR2は、好ましくはメチル基である。
【0019】
複素環基とは、環を構成する原子の少なくとも1個がヘテロ原子である複素環に由来する基であり、典型的には、複素環を構成する炭素原子又はヘテロ原子が主鎖と直接又は他の基を介して結合可能となった基である。ここで、複素環は、同一の環内に、同一又は異なる1種又は2種以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。また、複素環は単環であっても多環であってもよく、多環の場合は、二環式複素環又は三環式複素環が好ましい。複素環は、不飽和結合を含むもの(不飽和複素環)であってもよく、不飽和結合を含まないもの(飽和複素環)であってもよい。なお、複素環は、芳香族複素環(例えば、ピリジン環、イミダゾール環)であってもよく、非芳香族複素環(例えば、ピロリドン環)であってもよい。
【0020】
複素環を構成する環のそれぞれは、三員環、四員環、五員環、六員環、七員環、八員環、九員環又は十員環であり得、三員環、四員環、五員環又は六員環が好ましく、五員環又は六員環がより好ましい。複素環としては、環を構成する原子数が5~10の単環又は二環式複素環がよく、環を構成する原子数が5~6の単環の複素環が特に好ましい。
【0021】
複素環の同一の環内に存在するヘテロ原子は、1~3個とすることができ、1~2個がより好ましい。なお、ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられ、これらの中では窒素原子又は硫黄原子が好ましく、窒素原子がより好ましい。複素環は、ヘテロ原子として、窒素原子を2つ、又は、窒素原子及び硫黄原子を1つずつ有してもよい。
【0022】
複素環は、置換基で置換されていてもよい。この置換基は1価又は多価の基を意味し、例えば、炭素数1~6のアルキル基、オキソ基(=O)が含まれる。
【0023】
複素環の例としては、(1)三員環で窒素原子を1つ有するものとして、アジリジン環、アジリン環、(2)三員環で酸素原子を1つ有するものとして、オキシラン環、オキシレン環、(3)三員環で硫黄原子を1つ有するものとして、チイラン環、チイレン環、(4)四員環で窒素原子を1つ有するものとして、アゼチジン環、アゼト環、(5)四員環で酸素原子を1つ有するものとして、オキセタン環、(6)四員環で硫黄原子を1つ有するものとして、チエタン環、が挙げられる。
【0024】
また、(7)五員環で窒素原子を1つ有するものとして、ピロリジン環、アゾール環、(8)五員環で窒素原子1つと置換基1つを有するものとして、ピロリドン環(2-ピロリドン環等)、(9)五員環で酸素原子を1つ有するものとして、オキソラン環、オキソール環、(10)五員環で硫黄原子を1つ有するものとして、チオラン環、チオール環、(11)五員環で窒素原子を2つ有するものとして、イミダゾール環、ピラゾール環、イミダゾリン環、(12)五員環で酸素原子を2つ有するものとして、ジオキソラン環、(13)五員環で窒素原子と酸素原子を1つずつ有するものとして、オキサゾール環、イソキサゾール環、(14)五員環で窒素原子と硫黄原子を1つずつ有するものとして、チアゾール環、イソチアゾール環、(15)五員環で窒素原子を3つ有するものとして、トリアゾール環、(16)五員環で窒素原子2つと酸素原子1つ有するものとして、オキサジアゾール環、(17)五員環で窒素原子を4つ有するものとして、テトラゾール環、が挙げられる。
【0025】
また、(18)六員環で窒素原子を1つ有するものとして、ピペリジン環、ピリジン環、(19)六員環で酸素原子を1つ有するものとして、オキサン環、(20)六員環で硫黄原子を1つ有するものとして、チアン環、(21)六員環で窒素原子を2つ有するものとして、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピペラジン環、(22)六員環で酸素原子を2つ有するものとして、ジオキサン環、(23)六員環で窒素原子と酸素原子を1つずつ有するものとして、モルホリン環、(24)六員環で窒素原子と硫黄原子を1つずつ有するものとして、チアジン環、チオモルホリン環、(25)六員環で窒素原子を3つ有するものとして、トリアジン環が挙げられる。
【0026】
さらに、(26)二環式複素環で窒素原子を1つ有するものとして、インドール環、イソインドール環、キノリン環、イソキノリン環、(27)二環式複素環で酸素原子を1つ有するものとして、クロメン環、イソクロメン環、ベンゾフラン環、(28)二環式複素環で硫黄原子を1つ有するものとして、ベンゾチオフェン環、(29)二環式複素環で窒素原子を2つ有するものとして、ベンゾイミダゾール環、キノキサリン環、シンノリン環、インダゾール環、(30)二環式複素環で窒素原子を3つ有するものとして、ベンゾトリアゾール環、(31)二環式複素環で窒素原子を4つ有するものとして、プリン環、プテリジン環、(32)三環式複素環で窒素原子を1つ有するものとして、アクリジン環、カルバゾール環、(33)三環式複素環で酸素原子を1つ有するものとして、キサンテン環、(34)三環式複素環で酸素原子を2つ有するものとして、ベンゾ-C-シンノリン環、が挙げられる。
【0027】
複素環としては、芳香族複素環である、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、インドール環、インダゾール環、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、オキサジアゾール環、又は、非芳香族複素環である、ピロリドン環(2-ピロリドン環等)、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、チオモルホリン環が好ましく、より好ましくは、ピリジン環、イミダゾール環、ピロリドン環である。
【0028】
ヘテロ原子含有ポリマーは、例えば、側鎖にN,N-置換アミノ基又は複素環基を有するビニルモノマー(ヘテロ原子含有モノマー)のビニル重合反応、又は、側鎖にN,N-置換アミノ基又は複素環基を有する化合物の重縮合反応或いは重付加反応で得ることができる。なお、ビニル重合、重縮合、重付加で主鎖を形成した後に、側鎖にN,N-置換アミノ基又は複素環基を導入してもよい。ヘテロ原子含有ポリマーとしては、ビニル重合反応で得られるものが好ましく、この場合、ヘテロ原子含有モノマーとこれ以外のモノマー(ヘテロ原子非含有モノマー)を共重合させてもよい。ヘテロ原子非含有モノマーとしては、エチレン性不飽和結合を有する化合物、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニルが挙げられる。
【0029】
ヘテロ原子含有ポリマーが、ヘテロ原子含有モノマーとヘテロ原子非含有モノマーの共重合で得られる場合、全モノマーに占めるヘテロ原子含有モノマーの割合を20~80モル%又は30~50モル%にしてよい。
【0030】
ヘテロ原子含有ポリマーの重量平均分子量は、5,000以上、20,000以上、又は70,000以上であってよい。ヘテロ原子含有ポリマーの重量平均分子量の上限は、特に制限されない。ヘテロ原子含有ポリマーの重量平均分子量が上記範囲内である場合、ヘテロ原子含有ポリマー成分を基材の少なくとも一部に形成させた際のべたつきの発生がより一層抑制される。べたつきの発生が抑制されているため、テープ製造及び取り扱い時等の加工性がより改善され、また、当該ヘテロ原子含有ポリマー成分を有する基材の一時保管安定性がより向上する。重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される、標準ポリスチレン換算値である。
【0031】
表面にヘテロ原子含有ポリマー成分を有する基材は、上述のようにフィルム又は布帛であり得るが、これらに限定されない。なお、布帛とは、複数の繊維を用いて薄く板状に成形したものを意味し、製造法に従って、織物、編物、レース、フェルト、不織布、紙に分類される。粘着シートは各種被着体に貼付して用いられるが、粘着シートを皮膚に貼付する場合は、粘着シートが皮膚の動きに追随することが求められ、通気性、透湿性も必要である。したがって、このような用途に使用する場合は、基材として布帛を用いることが好適である。基材として布帛等を用いた場合は、基材表面にヘテロ原子含有ポリマー成分を効果的に固定することも可能となる。なお、特定の不織布等を基材として用いると、粘着シートに手切れ性という特性を付与することもできる。
【0032】
織物は、経糸と緯糸を交差させて得られる生地、編物は、1又は数本の糸でループを作りそのループに次の糸を掛けて新しいループを作ることで得られる編地を意味する。レースは、1又は数本の糸ですかし模様の布状にしたものをいい、フェルトは、獣毛繊維等を薄く板状に圧縮したシートを意味する。不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたシートである(紙、フェルト、編物を除く)。不織布には、短繊維(すなわちステープル)で構成される不織布(短繊維不織布)、及び長繊維(すなわちフィラメント)で構成される不織布(長繊維不織布)が含まれる。短繊維不織布としては、一般的に、カーデッド不織布、エアレイド不織布、湿式不織布等が挙げられる。長繊維不織布としては、一般的に、スパンボンド不織布、スパンレース不織布等が挙げられる。短繊維不織布及び長繊維不織布における繊維間結合としては、熱、接着樹脂、及び紙等における繊維間結合と同じ繊維間水素結合等が挙げられる。なお、ステープルは、これに限定されないが、一般的には数百mm以下の繊維長を有している。
【0033】
基材がフィルムである場合は、厚さが12~250μmのものが好ましく、単層フィルムであっても多層フィルムであってもよい。基材が布帛である場合は、坪量が10~300g/m2のものが好ましい。なお基材はコロナ処理が施されたものであってもよい。
【0034】
基材の少なくとも表面の一部にヘテロ原子含有ポリマー成分を形成させるためには、塗布、スプレー、溶融押出キャストなどの方法でヘテロ原子含有ポリマー(有機溶剤溶液、水溶液、水分散物、溶融物のいずれであってもよい。)を基材上に適用すればよい。また、ヘテロ原子含有ポリマーの有機溶剤溶液、水溶液、水分散物又は溶融物に、基材を浸漬してもよい。なお、基材そのものがヘテロ原子含有ポリマーを含有する場合は、基材を構成するポリマー等とヘテロ原子含有ポリマーを混合して基材を製造すればよい。
【0035】
基材としては、上述のように不織布を用いることができるが、基材が不織布の場合は上述の方法に加えて、以下に述べるような方法により、基材の少なくとも表面の一部にヘテロ原子含有ポリマー成分を形成させることができる。
【0036】
不織布は、エクストルーダ、溶融した熱可塑性材料の押し出しチャンバ、溶融した熱可塑性材料が押し出されるダイオリフィス及びガス(加熱空気等)が高速で噴射されるガスオリフィスを有するメルトブローンダイを備えるメルトブローン装置を使用して製造することができる。この場合において、溶融した樹脂をメルトブローンダイから押し出してメルトブローン繊維を形成させ、このメルトブローン繊維を回転するドラムに吹き付けて、ドラム表面に繊維を集積させることで不織布を得る。
【0037】
この場合において、メルトブローンダイを複数用い、そのうちの一つからヘテロ原子含有ポリマーを押し出してヘテロ原子含有ポリマー繊維を形成させ、他の繊維と交絡させることで、基材の少なくとも表面の一部にヘテロ原子含有ポリマー成分を形成させることができる。また、芯鞘構造の繊維を形成することのできるメルトブローンダイを用い、鞘をヘテロ原子含有ポリマー成分となるようにしてもよい。
【0038】
上述した方法で、少なくとも表面の一部にヘテロ原子含有ポリマー成分を有する基材が得られるが、このヘテロ原子含有ポリマー成分と接するようにシリコーン粘着剤を積層してシリコーン粘着剤層とし、目的とする粘着シートを得ることができる。
【0039】
シリコーン粘着剤は、ポリオルガノシロキサン骨格を有する成分を含有する粘着剤であり、ポリオルガノシロキサン骨格を有する成分としては、未変性シリコーン(ストレートシリコーン)、変性シリコーン及びこれらの組み合わせを用いることができる。
【0040】
ここで、未変性シリコーンはジメチルシリコーン(ポリシロキサンの側鎖及び末端が全てメチル基であるシリコーン)を、変性シリコーンはメチル基の少なくとも一部が他の基又は原子に置換したものをいうものとする。他の基又は原子としては、反応性のもの(反応性基)と非反応性のもの(非反応性基)に分類され、非反応性基を有する変性シリコーンとしてはメチルフェニルシリコーン(ジメチルシリコーンの側鎖の一部がフェニル基となったもの)が、反応性の原子を有する変性シリコーンとしてはメチルハイドロジェンシリコーン(ジメチルシリコーンの側鎖の一部が水素原子となったもの)が、例示できる。
【0041】
変性シリコーンは、側鎖及び/又は末端にメチル基以外の基又は原子を有することができる。このうち反応性基としては、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、ポリエーテル基、メルカプト基、カルボキシ基、フェノール基、水酸基、反応性の原子としては上述した水素原子(ハイドロジェン変性)が挙げられる。非反応性基としては、上述したフェニル基、長鎖アルキル基、アラルキル基が挙げられる。
【0042】
保持力や粘着力を考慮すると、シリコーン粘着剤は架橋したシリコーン粘着剤であることが好ましい。この場合、ポリオルガノシロキサン骨格を有する成分として架橋構造を有するものを使用する。例えば、第1の反応性基を有する変性シリコーンと第2の反応性基を有するシリコーンを使用し、第1及び第2の反応性基を化学結合させることで、架橋構造を導入することができる。この例としては、側鎖及び/又は末端に水素原子を有するシリコーンと、側鎖及び/又は末端にビニル基を有するシリコーンとをヒドロシリル化反応により結合させる場合が挙げられる。このように反応性基を用いて架橋構造を導入する場合は、反応触媒を使用してもよい。
【0043】
架橋構造は、放射線架橋によっても導入可能である。放射線架橋としては、電子線架橋、γ線架橋等が挙げられる。放射線架橋による場合、シリコーンが反応性基を有している必要はなく、また架橋のための反応触媒も不要である。
【0044】
シリコーン粘着剤の粘着性を高めるために、シリケート粘着付与剤を含有させてもよい。シリケート粘着付与剤としては、M単位(1価のR3SiO1/2単位)、D単位(2価のR2SiO2/2単位)、T単位(3価のRSiO3/2単位)及びQ単位(4価のSiO4/2単位)のうちの少なくとも一つから構成されるものが有用である。なおRはアルキル基又はアリール基であり、メチル基が好ましい。
【0045】
シリケート粘着付与剤として特に好ましいのは、M単位とQ単位とからなるMQレジン、M単位、Q単位及びD単位からなるMQDレジン、M単位、Q単位及びT単位からなるMQTレジンである。シリケート粘着付与剤の数平均分子量は、典型的には100~50000である。
【0046】
シリコーン粘着剤には、シリケート粘着付与剤の他、分子量の異なるシリコーン(オイル、フルイド、ガム、エラストマー等)や安定剤、酸化防止剤、フィラー等が含まれていてもよい。
【0047】
粘着シートは、上述した方法で少なくとも表面の一部にヘテロ原子含有ポリマー成分を有する基材を作製し、ヘテロ原子含有ポリマー成分と接するようにシリコーン粘着剤を塗布し、必要により溶媒などを揮発させ、シリコーン粘着剤のタイプに従って、放射線架橋又は化学的架橋を行うことで製造できる。なお、シリコーン粘着剤層の厚さは10~1000μmが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例及び比較例を示しながら、本発明を更に詳細に説明する。
【0049】
以下のポリマーを準備した。なお、ポリマー2~4は、それぞれ調整例1~3に基づき作製した。
ポリマー1:Pyratex(商品名)(ブタジエン‐スチレン‐ビニルピリジン共重合体、Tg:-55℃、日本エイアンドエル株式会社製)
ポリマー2:ジメチルアミノエチルアクリレート‐メチルアクリレート共重合体(調整例1に基づき作製)
ポリマー3:1-ビニルイミダゾール‐メチルアクリレート共重合体(調整例2に基づき作製)
ポリマー4:1-ビニル-2-ピロリジン‐メチルアクリレート共重合体(調整例3に基づき作製)
ポリマー5:Nalster SR 140(商品名)(スチレン‐ブタジエンゴム、Tg:-12℃、日本エイアンドエル株式会社製)
ポリマー6:Nalster SR 119(商品名)(スチレン‐ブタジエンゴム、Tg:-35℃、日本エイアンドエル株式会社製)
ポリマー7:MR173(商品名)(ブタジエン‐アクリロニトリル共重合体、Tg:-20℃、日本エイアンドエル株式会社製)
ポリマー8:NK220(商品名)(ブタジエン‐アクリロニトリル共重合体、Tg:-35℃、日本エイアンドエル株式会社製)
ポリマー9:ポリメントNK350(商品名)(アミノエチル化アクリルポリマー、株式会社日本触媒製)
【0050】
調整例1
ジメチルアミノエチルアクリレート(和光純薬工業株式会社製)を10質量部、メチルアクリレート(和光純薬工業株式会社製)を90質量部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製)を0.04質量部の割合で80質量部の酢酸エチル(和光純薬工業株式会社製)中で均一に攪拌した後、50℃、24時間の条件にて共重合させてポリマー2を含む溶液を調整した。
【0051】
調整例2
1-ビニルイミダゾール(和光純薬工業株式会社製)を15質量部、メチルアクリレート(和光純薬工業株式会社製)を85質量部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製)を0.04質量部の割合で40質量部の酢酸エチルと40質量部のメチルエチルケトン(MEK、和光純薬工業株式会社製)の混合溶媒中で均一に攪拌した後、50℃、24時間の条件にて共重合させてポリマー3を含む溶液を調整した。
【0052】
調整例3
1-ビニル-2-ピロリジン(和光純薬工業株式会社製)を15質量部、メチルアクリレート(和光純薬工業株式会社製)を85質量部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製)を0.04質量部の割合で40質量部の酢酸エチルと40質量部のMEKの混合溶媒中で均一に攪拌した後、50℃、24時間の条件にて共重合させてポリマー4を含む溶液を調整した。
【0053】
後述する基材への塗布には、水又は溶剤によって不揮発分濃度が調整された、ポリマー1~9のいずれかを含む液を用いた。
【0054】
<粘着シートの調製>
実施例1
不揮発分濃度5質量%に調整されたポリマー1を含む液を、ワイヤーバーNo.10を用いてポリエステル/レーヨン不織布基材(3M社製)上に均一に塗布した。塗布後の基材を95℃のオーブン内で完全に乾燥させ、少なくとも表面の一部に上記ポリマー成分を有する基材を得た。
【0055】
上記ポリマー成分を有する基材に対し、後述する方法で調製したシリコーン系粘着剤組成物を50g/m2の量で均一に塗布した。シリコーン系粘着剤組成物が塗布された、上記ポリマー成分を有する基材に電子線照射を行い、その後粘着面をフルオロシリコーンライナー(商品名:K1U、株式会社フジコー製)で覆い実施例1の粘着シートを作製した。なお、電子線照射の条件は電子線発生装置(PCT, Davenport, IA)を用い4.0Mrad(210keV)の条件にて実施した。
【0056】
シリコーン系粘着剤組成物は、以下の方法により調製した。すなわち、ポリジメチルシロキサン(商品名:TSF451 AK 1000,000cs、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)とMQ樹脂(商品名:MQ803TF,Wacker Chemie AG社製)を重量比(ポリジメチルシロキサン/MQ樹脂)77/23で混合し、シリコーン系粘着剤組成物を調製した。
【0057】
実施例2
不揮発分濃度10質量%に調整されたポリマー1を含む液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の粘着シートを作製した。
【0058】
実施例3
不揮発分濃度40質量%に調整されたポリマー1を含む液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の粘着シートを作製した。
【0059】
実施例4
不揮発分濃度10質量%に調整されたポリマー2を含む液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の粘着シートを作製した。
【0060】
実施例5
不揮発分濃度10質量%に調整されたポリマー3を含む液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の粘着シートを作製した。
【0061】
実施例6
不揮発分濃度10質量%に調整されたポリマー4を含む液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の粘着シートを作製した。
【0062】
比較例1
ポリマー1を含む液を塗布せず、基材そのものを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の粘着シートを作製した。
【0063】
比較例2
不揮発分濃度40質量%に調整されたポリマー5を含む液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の粘着シートを作製した。
【0064】
比較例3
不揮発分濃度40質量%に調整されたポリマー6を含む液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の粘着シートを作製した。
【0065】
比較例4
不揮発分濃度40質量%の濃度に調整されたポリマー7を含む液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の粘着シートを作製した。
【0066】
比較例5
不揮発分濃度40%に調整されたポリマー8を含む液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の粘着シートを作製した。
【0067】
比較例6
不揮発分濃度5%に調整されたポリマー9を含む液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6の粘着シートを作製した。
【0068】
比較例7
不揮発分濃度10%に調整されたポリマー9を含む液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例7の粘着シートを作製した。
【0069】
実施例7
基材として軟質ポリ塩化ビニルを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例7の粘着シートを作製した。
【0070】
比較例8
基材として軟質ポリ塩化ビニルを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例8の粘着シートを作製した。
【0071】
<投錨性(界面接着力)評価>
投錨性は、粘着剤と基材の界面接着力を測定することにより評価した。まず、実施例又は比較例の粘着シートを25mm×70mmに切り、末端25mm×5-10mm程度の粘着面を内側に折りタブを作成した。次いで、シリコーン系テープ(No.8510、3M社製)の粘着面と、実施例又は比較例の粘着シートの粘着面を貼りあわせ、2kgのローラーで5mm/秒の速度で圧着させた。粘着シートの基材側を両面テープなどで平らな面に固定し、シリコーン系テープを180°の角度、300mm/分の速度にて剥がしたときの応力(界面接着力)を測定、記録した。
図1及び2は、それぞれ比較例1及び8の粘着シートの界面接着力を100%とした場合の各実施例及び比較例の界面接着力の結果を示す。
【0072】
図1に示すとおり、基材が不織布である場合、実施例1~6の粘着性シートは、投錨性に優れていた(比較例1~7との比較)。
図2に示すとおり、基材に不織布を用いた場合と同様、軟質ポリ塩化ビニルを用いた場合であっても、実施例の粘着シートが投錨性に優れていることが示された。
【0073】
<べたつきの評価>
基材として、マット表面を有するポリエチレンテトラフタレート(PET)フィルム(ユニチカ(株)製ポリエステルフィルムエンブレットS-38)を用いたこと以外は、実施例1~6の方法と同様にして、少なくとも表面の一部にポリマー成分を有する各基材を得た。なお、べたつきの評価では、上記ポリマー(ポリマー成分)を含む液をPETフィルムのマット表面に対して塗布した。
【0074】
オーブンからポリマー成分を有する各基材(基材フィルム)を取り出した直後に、ポリマー成分が塗布された面を上にし、その上に未処理PETフィルムを重ねて圧着(条件:2kgローラー,50mm/sにて一往復)した。圧着後、手ですばやく未処理PETフィルムを基材フィルムから剥がし、ポリマー成分が未処理PETフィルムに転写していないかを確認した。
【0075】
ポリマー成分が未処理PETフィルムに転写されなかった場合にべたつきが抑制されていると評価し、転写された場合にべたついていると評価した。その結果、作製したポリマー成分(ヘテロ原子含有ポリマー成分)を有する基材はいずれもべたつきが抑制されることが確認された。