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  • 特許-車両用制御装置 図1
  • 特許-車両用制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/662 20060101AFI20220816BHJP
   F16H 61/12 20100101ALI20220816BHJP
   F16H 59/18 20060101ALI20220816BHJP
   F16H 59/54 20060101ALI20220816BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20220816BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20220816BHJP
   B60T 8/72 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
F16H61/662
F16H61/12
F16H59/18
F16H59/54
F16H63/50
B60T8/172 Z
B60T8/72
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018007309
(22)【出願日】2018-01-19
(65)【公開番号】P2019124343
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 裕一
(72)【発明者】
【氏名】萩原 孝則
(72)【発明者】
【氏名】山本 明弘
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-78090(JP,A)
【文献】特開2007-270933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F16H 61/662
F16H 59/18-59/22
F16H 59/54
F16H 63/50
B60T 8/17-8/172
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源としての電動モータに連結されたプライマリプーリと駆動輪に連結されたセカンダリプーリとの間に無端帯状部材を巻回し、両プーリを油圧で制御して両プーリ間の動力伝達と変速とを達成すると共に車両のサービスブレーキの制動力を制御可能な車両用制御装置において、
前記プライマリプーリに油圧を供給する油路に、ソレノイドで作動制御されて供給油圧を制御すると共に同ソレノイドへの電流が遮断されたとき前記プライマリプーリへの油圧供給を遮断して前記プライマリプーリの油圧を排出する油圧制御弁を配設し、
前記ソレノイドへの電流遮断故障が発生したとき、同故障発生時から前記プライマリプーリの可動シーブが機械式ストッパに当接して同プライマリプーリの溝幅が最大となるまでの間、前記プライマリプーリの現在の油圧から前記プライマリプーリでベルト滑りが発生しない上限トルクを算出し、前記車両の走行速度とアクセルペダル又はブレーキペダルの操作量から走行又は減速のために必要なトルクを算出し、前記上限トルクと前記必要なトルクとの比較結果に基づいて前記電動モータの発生トルク及び前記サービスブレーキの制動力を設定して、前記電動モータの発生トルク及び前記サービスブレーキの制動力を制御する
ことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記電流遮断故障が発生したとき前記車両の走行速度が所定値以上で前記アクセルペダルが操作されている走行状態の場合、
前記車両の走行速度を前記所定値まで減速させるのに必要な減速トルクを算出し、
前記減速トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値の小さい方に基づいて前記電動モータの発生トルクを設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記減速トルクの絶対値が前記上限トルクの絶対値よりも大きい場合は前記上限トルクに基づいて前記電動モータの発生トルクを設定すると共に前記減速トルクの絶対値と上限トルクの絶対値との差に基づいて前記サービスブレーキの制動力を設定する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記電流遮断故障が発生したとき前記車両の走行速度が所定値以上で前記ブレーキペダルが操作されている走行状態の場合、
前記ブレーキペダルの操作量から設定されるブレーキ減速度を算出し、
前記ブレーキペダルの操作が為されていない状態を前提として前記車両の走行速度を前記所定値まで減速させるための必要減速度を算出し、
前記ブレーキ減速度の絶対値と前記必要減速度の絶対値の大きい方の減速度を達成するために必要な減速トルクを算出し、
前記減速トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値の小さい方に基づいて前記電動モータの発生トルクを設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記減速トルクの絶対値が前記上限トルクの絶対値よりも大きい場合は前記上限トルクに基づいて前記電動モータの発生トルクを設定すると共に前記減速トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値との差に基づいて前記サービスブレーキの制動力を設定する
ことを特徴とする請求項4に記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記電流遮断故障が発生したとき前記車両の走行速度が所定値以下で前記アクセルペダルが操作されている走行状態の場合、
前記アクセルペダルの操作量から前記車両の走行に必要な走行トルクを算出し、
前記走行トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値の小さい方に基づいて前記電動モータの発生トルクを設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項7】
前記電流遮断故障が発生したとき前記車両の走行速度が所定値以下で前記ブレーキペダルが操作されている走行状態の場合、
前記ブレーキペダルの操作量から前記走行速度の減速に必要な減速トルクを算出し、
前記減速トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値の小さい方に基づいて前記電動モータの発生トルクを設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項8】
前記減速トルクの絶対値が前記上限トルクの絶対値よりも大きい場合は前記上限トルクに基づいて前記電動モータの発生トルクを設定すると共に前記減速トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値との差に基づいて前記サービスブレーキの制動力を設定する
ことを特徴とする請求項7に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源とする車両に搭載された無段変速機の油圧制御弁を作動するソレノイドに故障が発生したときに、車両をスムーズに走行させることのできる車両用制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二つのプーリ間にベルト、チェーン等の無端帯状部材を巻回し、両プーリ間の動力伝達と変速を達成するベルト式無段変速機(以下、CVTと称する。)が周知である。車両に搭載されるCVTでは、駆動源に連結されたプライマリプーリと駆動輪に連結されたセカンダリプーリの各プーリの溝幅を油圧で制御することにより変速比を変更することが一般的であり、各プーリに供給する油圧をソレノイドを利用して電子的に制御することが公知である。(特許文献1)
油圧制御のCVTでは、セカンダリプーリに供給する油圧を駆動トルクに応じて設定する一方、プライマリプーリに供給する油圧を増減制御して変速比を変更するものが周知であるが、このようなCVTにおいて、ソレノイドに断線等の故障が発生した場合、両プーリに略同一の油圧を供給し、変速比を略1に固定して、修理工場までの走行を可能とする技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平3-204471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、故障時に変速比を略1に固定してしまうと、車両停止後の発進や登坂路での発進、走行時において充分な駆動トルクが得られず、加速が不足したり、発進、走行ができなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、プライマリプーリへの供給油圧を制御する油圧制御弁のソレノイドに電流遮断故障が生じてプーリへの供給油圧が制御不能となった場合でも、車両の良好な発進性と走行性とを確保することのできる車両用制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の車両用制御装置は、車両の駆動源としての電動モータに連結されたプライマリプーリと駆動輪に連結されたセカンダリプーリとの間に無端帯状部材を巻回し、両プーリを油圧で制御して両プーリ間の動力伝達と変速とを達成すると共に車両のサービスブレーキの制動力を制御可能な車両用制御装置において、前記プライマリプーリに油圧を供給する油路に、ソレノイドで作動制御されて供給油圧を制御すると共に同ソレノイドへの電流が遮断されたとき前記プライマリプーリへの油圧供給を遮断して前記プライマリプーリの油圧を排出する油圧制御弁を配設し、前記ソレノイドへの電流遮断故障が発生したとき、同故障発生時から前記プライマリプーリの可動シーブが機械式ストッパに当接して同プライマリプーリの溝幅が最大となるまでの間、前記プライマリプーリの現在の油圧から前記プライマリプーリでベルト滑りが発生しない上限トルクを算出し、前記車両の走行速度とアクセルペダル又はブレーキペダルの操作量から走行又は減速のために必要なトルクを算出し、前記上限トルクと前記必要なトルクとの比較結果に基づいて前記電動モータの発生トルク及び前記サービスブレーキの制動力を設定して、前記電動モータの発生トルク及び前記サービスブレーキの制動力を制御することを特徴としている。
【0008】
)前記電流遮断故障が発生したとき前記車両の走行速度が所定値以上で前記アクセルペダルが操作されている走行状態の場合、前記車両の走行速度を前記所定値まで減速させるのに必要な減速トルクを算出し、前記減速トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値の小さい方に基づいて前記電動モータの発生トルクを設定することが好ましい。
)また、前記減速トルクの絶対値が前記上限トルクの絶対値よりも大きい場合は前記上限トルクに基づいて前記電動モータの発生トルクを設定すると共に前記減速トルクの絶対値と上限トルクの絶対値との差に基づいて前記サービスブレーキの制動力を設定することが好ましい。
【0009】
)前記電流遮断故障が発生したとき前記車両の走行速度が所定値以上で前記ブレーキペダルが操作されている走行状態の場合、前記ブレーキペダルの操作量から設定されるブレーキ減速度を算出し、前記ブレーキペダルの操作が為されていない状態を前提として前記車両の走行速度を前記所定値まで減速させるための必要減速度を算出し、前記ブレーキ減速度の絶対値と前記必要減速度の絶対値の大きい方の減速度を達成するために必要な減速トルクを算出し、前記減速トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値の小さい方に基づいて前記電動モータの発生トルクを設定することが好ましい。
)また、前記減速トルクの絶対値が前記上限トルクの絶対値よりも大きい場合は前記上限トルクに基づいて前記電動モータの発生トルクを設定すると共に前記減速トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値との差に基づいて前記サービスブレーキの制動力を設定することが好ましい。
【0010】
)前記電流遮断故障が発生したとき前記車両の走行速度が所定値以下で前記アクセルペダルが操作されている走行状態の場合、前記アクセルペダルの操作量から前記車両の走行に必要な走行トルクを算出し、前記走行トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値の小さい方に基づいて前記電動モータの発生トルクを設定することが好ましい。
)前記電流遮断故障が発生したとき前記車両の走行速度が所定値以下で前記ブレーキペダルが操作されている走行状態の場合、前記ブレーキペダルの操作量から前記走行速度の減速に必要な減速トルクを算出し、前記減速トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値の小さい方に基づいて前記電動モータの発生トルクを設定することが好ましい。
)また、前記ブレーキ減速トルクの絶対値が前記上限トルクの絶対値よりも大きい場合は前記上限トルクに基づいて前記電動モータの発生トルクを設定すると共に前記ブレーキ減速トルクの絶対値と前記上限トルクの絶対値との差に基づいて前記サービスブレーキの制動力を設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プライマリプーリへの供給油圧を制御するソレノイド制御タイプの油圧制御弁が、ソレノイドへの電流が遮断されたときプライマリプーリへの油圧供給を遮断してプライマリプーリの油圧を排出するので、ソレノイドの電流遮断故障の発生後、CVTの変速比はプライマリプーリの可動シーブが機械式ストッパに当接した最ロー(プライマリプーリの溝幅が最大の状態)に固定される。この状態では、セカンダリプーリによるベルト引っ張り力の反力がプライマリプーリのベルト挟圧力となるので、ベルト滑りを発生させることなく車両の良好な発進性が確保できる。
また、駆動源としての電動モータは、通常の内燃機関よりも遥かに高い回転速度で運転可能であるので、変速比が最ローのままでも高い速度(例えば、80~100km/h程度)での走行が可能で、良好な走行性も確保できる。
【0012】
さらに、本発明によれば、ソレノイドの電流遮断故障発生時からプライマリプーリの溝幅が最大(変速比最ロー)となるまでの間、車両の走行速度とアクセルペダル及びブレーキペダルの操作に応じて駆動源である電動モータの発生トルク(力行トルクと回生トルク)及び車両のサービスブレーキの制動力を制御するようにしたので、変速比が最ローへ変化する過程において運転者の意図しない走行状態の急変(例えば、急減速)を抑制でき、プライマリプーリの油圧減少によるベルト滑りの発生も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態にかかる車両用制御装置を示す模式的な構成図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる車両用制御装置による制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0015】
本発明の一実施形態が適用される車両には、車両の駆動源としての電動モータ2と、電動モータ2からの回転駆動力を変速して出力するベルト式無段変速機(以下、CVTという)4と、CVT4からの出力を減速して差動機構6を介して駆動輪8に伝達する減速機構10、及び車両制動のためのサービスブレーキ12とが搭載されている。
【0016】
CVT4は、電動モータ2に連結された入力軸13に駆動連結されたプライマリプーリ14と、減速機構10に駆動連結されたセカンダリプーリ16と、両プーリ14,16に形成されたV字状の溝18,20に挟持されて両プーリ14,16間に巻回されたベルト又はチェーン等の無端帯状部材(以下、ベルトという)22とを備えている。
入力軸13には、プライマリプーリ14の可動シーブ24に当接して、溝18の最大幅を規定する従来公知の構造の機械式ストッパ(以下、ストッパという)26が設けられており、可動シーブ24がストッパ26に当接して溝18の幅が最大となると、セカンダリプーリ16の溝20の幅が最小となってCVT4の変速比が最大の値である最ローとなる。
【0017】
また、ベルト22の挟持力調整および溝18,20の溝幅変更による変速操作には油圧が用いられており、同油圧を両プーリ14,16に供給する油圧制御回路(油路)30には、油圧源としてのオイルポンプ32と、ソレノイド34で作動制御されてプライマリプーリ14への供給油圧を制御する油圧制御弁36と、プライマリプーリ14へ供給される油圧の値を検知する油圧センサ38とが配設されている。
【0018】
オイルポンプ32は、電動モータ2とは別の図示しないモータによって駆動される電動式であり、油圧制御弁36はリニアタイプのソレノイド34で直接作動され、同ソレノイド34への電流が遮断されるとオイルポンプ32からプライマリプーリ14への油圧供給を遮断してプライマリプーリ14内の油圧(油圧制御弁36の下流側の油圧)を排出する弁である。
また、セカンダリプーリ16へ供給される油圧の制御は、オイルポンプ32のモータを制御して吐出圧を調整することにより達成可能である。
【0019】
一方、サービスブレーキ(フットブレーキともいう。)12は、運転者によるブレーキペダル40の踏み込みに応答して作動されるマスタシリンダ42に連通した制動油圧制御装置44によって、駆動輪8に装備されたホイールシリンダ46(図示しないが、当然ながら従動輪にも装備されている。)内のブレーキ圧、即ち、各輪の制動力が調節される形式の電子制御式制動装置である。
制動油圧制御装置44には、従来公知の態様で、マスタシリンダ42、オイルポンプ又はオイルリザーバ(図示しない)を選択的にホイールシリンダ46に連通する種々の制御弁(カット弁、油圧保持弁、減圧弁等)が設けられ、通常の作動では、ブレーキペダル40の踏み込みに応答して作動されるマスタシリンダ42で発生した油圧が各ホイールシリンダ46に供給されて各輪が制動される。また、後述する故障発生時等に運転者の意思に関係なく車両を減速させる場合には、後述する車両用制御装置100からの指令により、前記種々の制御弁が作動され、各輪のホイールシリンダ46内のブレーキ圧が所望の制動力を発揮するように調整される。なお、サービスブレーキ12は、空気圧式のものであっても良い。
【0020】
本実施形態に係る車両用制御装置(以下、VCUという。)100は、前記油圧センサ38の他、ブレーキペダル40の操作量を検出するブレーキセンサ45、アクセルペダル48の操作量を検出するアクセルセンサ50、及び車両の走行速度を検知する車速センサ52等からの検出信号を受けて、電動モータ2、CVT4及びサービスブレーキ12を制御する、モータ制御部(以下、MCUという。)54、変速制御部(以下、ATCUという。)56及びブレーキ制御部(以下、BCUという。)58を備えている。なお、各制御部54,56,58は、相互にデータ通信を実行しながら各制御対象を制御する。
【0021】
MCU54は、アクセルセンサ50、車速センサ52からの検出信号及びCVT4の変速比等に基づいて図示しないインバータ等のモータ駆動回路を介して電動モータ2の回転速度と発生トルクを制御すると共に後述するソレノイド34の故障発生時に各検出信号から算出されたデータに基づいて電動モータ2を制御する。
ATCU56は、アクセルセンサ50、車速センサ52からの検出信号及び電動モータ2の発生トルクに基づいてオイルポンプ32とソレノイド34へ指令を発し、オイルポンプ32の吐出圧と、油圧制御弁36の下流側、即ち、プライマリプーリ14への油圧とを制御してCVT4の変速比とベルト22の挟持力を制御する。
また、BCU58は、通常はブレーキペダル40の操作量に応じた制動力が発生するように制動圧制御装置44に指令するが、運転者の意思に関係なく車両を減速させる必要がある場合には、各センサからの検出信号等から算出されたデータに基づいてサービスブレーキ12に制動力を発生させるよう制動圧制御装置44に指令を発する。
【0022】
上記構成を備えた車両において、ソレノイド34に電流遮断故障が発生した場合の制御態様について、図2のフローチャートにより説明する。
なお、このフローチャートは、ソレノイド34の電流遮断故障発生検出後から実行される制御態様のみを示している。
【0023】
ソレノイド34に電流遮断故障が発生すると、油圧制御弁36が、ソレノイド34への電流が遮断されたときプライマリプーリ14への油圧供給を遮断してプライマリプーリ14の油圧を排出するので、プライマリプーリ14への油圧供給が遮断されプライマリプーリ14内の油圧は漸次減少する。一方、オイルポンプ32は作動しており、セカンダリプーリ16内の油圧が保持されているので、セカンダリプーリ16のベルト挟持力によりベルト22が引っ張られ、プライマリプーリ14の溝18の幅が広がる方向に可動シーブ24が移動され、セカンダリプーリ16の溝20の幅が狭まるように変化する。
即ち、ソレノイド34に電流遮断故障が発生すると、CVT4は変速比が最ローとなるように作動、変化され、この動きは可動シーブ24が機械式ストッパ26に当接まで継続する。換言すれば、電流遮断故障発生時のCVT4の変速比の変化は可動シーブ24が機械式ストッパ26に当接した時点で終了する。
そして、この状態では、可動シーブ24の動きが機械式ストッパ26によって強制的に停止されているため、セカンダリプーリ16の強いベルト引っ張り力の反力がプライマリプーリ14におけるベルト22の挟持力となるので、電動モータ2から大きなトルクが入力されてもベルト22の滑りが発生することは無い。
【0024】
上記過程において、車両用制御装置100は、フローチャートのステップS1で現在の走行速度(以下、車速という)Vaとプライマリプーリ14内の現在の油圧(以下、現在圧という)Ppを検知する。
次に、ステップS2で以下の二つの車両走行状態に応じて必要な加速度若しくは減速度を算出する。
(1)電流遮断故障が発生したとき運転者がアクセルペダル48を操作している場合、その操作量から速度維持又は加速に必要な加速度A1を算出する。
(2)電流遮断故障が発生したとき運転者がブレーキペダル40を操作している場合、その操作量から減速に必要なブレーキ減速度D1を算出する。
即ち、上記(1)又は(2)の何れか一方をペダル操作の違いに応じて算出する。
【0025】
次に、ステップS3にてプライマリプーリ14内の現在圧Ppに基づいて、プライマリプーリ14においてベルト22の滑りが発生しない上限トルク(ベルト滑りが発生する直前のトルク)Tvを算出する。
次いで、ステップS4にて、現在の車速Vaが所定車速(所定値。例えば、100km/h)Vlow以上か否かを判定する。
【0026】
ステップS4の判定がYESであった場合、即ち現在の車速Vaが所定車速Vlow以上であった場合は、ステップS5において、現在の車速Vaを、運転者に大きな違和感を与えず且つ安全に所定車速Vlowまで(若しくはVlow以下まで)減速するために必要な必要減速度D2を算出する。この必要減速度D2は、アクセルペダル48の操作量に関係なく且つブレーキペダル40が操作されていないことを前提として算出する。換言すれば、必要減速度D2は、運転者がブレーキペダル40を操作している状況でも、ブレーキペダル40が操作されていないことを前提として算出される。
【0027】
次に、ステップS6にて算出した減速度の選択をするが、ステップS2で(1)であった場合、即ちアクセルペダル48が操作されている場合は、ステップS5で算出した必要減速度D2を選択する。そして、ステップS2で(2)であった場合、即ちブレーキペダル40が操作されている場合は、ステップS2で算出したブレーキ減速度D1とステップS5で算出した必要減速度D2の絶対値が大きい方の減速度を選択する。
次いで、ステップS7にて、ステップS6で選択した減速度(D1若しくはD2)及び車速Vaに基づいて、同減速度を達成するための減速トルクTdを算出する。
【0028】
次に、ステップS8において、ステップS3で算出した上限トルクTvの絶対値とステップS7で算出した減速トルクTdの絶対値とを比較し、上限トルクTvの絶対値が減速トルクTdの絶対値よりも大きければ(ステップS8の判定がYESの場合)、ステップS9にて減速トルクTdから電動モータ2の発生トルクTmを設定し、ステップS10で発生トルクTmをMCU54に指示する。
減速トルクTdの絶対値が上限トルクTvの絶対値よりも小さいということは、ブレーキペダル40が操作されていても、その操作量が少なく運転者が強い減速を望んでいないので、所定車速Vlowまで減速させるために必要な減速度を電動モータ2の発生トルク(回生トルク)Tmのみで達成できると言うことである。
【0029】
また、上限トルクTvの絶対値が減速トルクTdの絶対値よりも小さければ(ステップS8の判定がNOの場合)、ステップS11にて上限トルクTvから電動モータ2の発生トルクTmを設定すると共に減速トルクTdの絶対値と上限トルクTvの絶対値との差からサービスブレーキ12の制動力Tbを設定し、ステップS10で発生トルクTmをMCU54に、制動力TbをBCU58にそれぞれ指示する。
即ち、上記各ステップでは、上限トルクTvの絶対値と減速トルクTdの絶対値の小さい方を電動モータ2の発生トルクTmとして設定することとなる。
そして、ステップS12において、CVT4の変速比が最ローになったか否か(可動シーブ24が機械式ストッパ26に当接してプライマリプーリ14の溝18の幅が最大となったか否か)を判定し、YESであればプログラムを終了し、NOであればステップS1に戻って制御を繰り返して実行する。
【0030】
以上の各ステップを実行することにより、ソレノイド34の電流遮断故障が発生したときに車両が所定車速以上で走行していた場合でも、CVT4の変速比が最ローに到達するまでの間、電動モータ2の発生トルク(この場合は回生トルク)Tmをベルト滑りが発生しない上限トルク以下とするのでベルト滑りが発生することを防止できる。また、減速に必要な減速トルクTdが電動モータ2の発生トルク(回生トルク)Tmだけでは足りない場合はサービスブレーキ12の制動力Tbを付加するようにしているので、運転者に大きな違和感を与えることなく且つ安全に車両の走行速度を所定速度Vlowまで減速させることができる。
【0031】
一方、ステップS4の判定がNOであった場合、即ち現在の車速Vaが所定車速Vlow以下であった場合は、ステップS13にて、車両の走行又は減速に必要なトルクを算出するが、ステップS2で(1)であった場合、即ちアクセルペダル48が操作されている場合は、加速度A1及び車速Vaから車両の走行又は加速に必要な走行トルクTaを算出する。そして、ステップS2で(2)であった場合、即ちブレーキペダル40が操作されている場合は、ブレーキ減速度D1及び車速Vaから車両の減速に必要な減速トルクTdを算出する。
【0032】
次に、ステップS14において、ステップS3で算出した上限トルクTvの絶対値が走行トルクTaの絶対値又は減速トルクTdの絶対値よりも大きいか否かを判定し、上限トルクTvが大きい場合(YESの場合)は、ステップS15に走行トルクTa又は減速トルクTdを電動モータ2の発生トルクTmとして設定し、ステップS10で発生トルクTmをMCU54に指示する。
なお、減速トルクTdの絶対値が上限トルクTvの絶対値よりも小さいということは、ブレーキペダル40が操作されていても、その操作量が少なく運転者が強い減速を望んでいないので、ブレーキ減速度D1を電動モータ2の発生トルク(回生トルク)Tmのみで達成できると言うことである。
【0033】
ステップS14での判定がNO、即ち、上限トルクTvの絶対値よりも走行トルクTa又は減速トルクTdの絶対値の方が大きい場合は、ステップS16において電動モータ2の発生トルクTm及びサービスブレーキ12の制動力Tbを以下の通り設定する。
即ち、ステップS2で(1)であった場合は、上限トルクTvを電動モータ2の発生トルク(力行トルク)Tmとして設定する。また、ステップS2で(2)の場合は、上限トルクTvを電動モータ2の発生トルク(回生トルク)Tmとして設定し、減速トルクTdの絶対値と上限トルクTvの絶対値の差から制動力Tbを設定する。
【0034】
そして、ステップS10にて、発生トルクTm及び制動力TbをMCU54及びBCU58に指示し、以降、前述と同様に、ステップS12において、CVT4の変速比が最ローになったか否か(可動シーブ24が機械式ストッパ26に当接してプライマリプーリ14の溝18の幅が最大となったか否か)を判定し、YESであればプログラムを終了し、NOであればステップS1に戻って制御を繰り返して実行する。
【0035】
以上の各ステップを実行することにより、ソレノイド34の電流遮断故障が発生したときに車両が所定車速以下で走行していた場合、CVT4の変速比が最ローに到達するまでの間、ベルト滑りを発生させることなく、車両の走行、加減速をほぼ運転者の望み通りに達成することができる。
【0036】
なお、上記制御は、CVT4の変速比が最ロー、即ち、可動シーブ24が機械式ストッパ26に当接してプライマリプーリ14の溝18の幅が最大となったときに終了するが、ソレノイド34の電流遮断故障は回復されていないので、ダッシュボード等に警告を表示して運転者に修理を促すことが必要である。
そして、車両を修理工場まで走行させる際、CVT4の変速比は最ローのままであるが、前述の通り、電動モータ2は、通常の内燃機関よりも遥かに高い回転速度で運転可能であるので、運転者の望み通りの良好な走行性が達成可能である。
【0037】
以上、本発明の一実施態様によれば、プライマリプーリ14への供給油圧を制御する油圧制御弁36のソレノイド34に電流遮断故障が発生した場合、油圧制御弁36により、プライマリプーリ14への油圧供給が遮断され、プライマリプーリ14の油圧が排出されるので、CVT4の変速比が最終的に最ローに機械的に固定される。そして、変速比が最ローとなるまでの間、車両の走行速度Vaとアクセルペダル48及びブレーキペダル40の操作とに応じて電動モータ2の発生トルクTm及びサービスブレーキ12の制動力Tbを制御するので、車両の良好な走行性、加減速性が確保できる。(請求項1の構成による効果)
【0038】
また、プライマリプーリ14でベルト滑りが発生しない限界トルクTvと車両の走行に必要なトルクTa又は減速に必要なトルクTdとの比較結果に基づいて電動モータ2の発生トルクTm及びサービスブレーキ12の制動力Tbを設定するので、プライマリプーリ14でベルト滑りが発生することがない。(請求項2の構成による効果)
【0039】
さらに、電流遮断故障が発生したときに車速Vaが所定車速Vlow以上で且つアクセルペダル48が操作されている場合には、電動モータ2の発生トルクTmをベルト滑りが発生しない上限トルクTv以下とし、電動モータ2の発生トルクTmだけでは車速Vaを安全に所定車速Vlow以下までとするための必要運転者の望む減速度D2が達成できない状態ではサービスブレーキ12の制動力Tbを用いるようにしたので、ベルト滑りの発生を防止しつつ、運転者に違和感を与えないように且つ安全に車速Vaを所定車速Vlowまで減速することができる。(請求項3,4の構成による効果)
【0040】
また、電流遮断故障が発生したとき車速Vaが所定車速Vlow以上でブレーキペダル40が操作されている場合、ブレーキペダル40の操作量によるブレーキ減速度D1と、必要減速度D2及び上限トルクTvとに基づいて電動モータ2の発生トルクTmとサービスブレーキ12の制動力Tbを設定するので、ベルト滑りの発生を防止しつつ、運転者に違和感を与えないように且つ安全に車速Vaを所定車速Vlowまで減速することができる。(請求項5,6の構成による効果)
【0041】
さらに、電流遮断故障が発生したときに車速Vaが所定車速Vlow以下である場合にも、アクセルペダル48の操作量による走行トルクTa又はブレーキペダル40の操作量による減速トルクTdと、上限トルクTvとに基づいて電動モータ2の発生トルクTm及び制動力Tbを制御するので、運転者の望む車両の走行性、加減速性が確保できる。(請求項7~9の構成による効果)
【0042】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態を適宜変形して実施することができる。
例えば、プライマリプーリへの供給油圧を制御する油圧制御弁は、前記実施態様のようにリニアタイプのソレノイド34で直接作動させるものではなく、ソレノイド弁で生成した信号油圧で作動させる構成(従来公知)のものでも良い。
また、前記実施態様では、オイルポンプ32の駆動モータを制御して、吐出圧、即ちライン圧を制御する構成としたが、オイルポンプとセカンダリプーリとの間の油路にライン圧調整弁(レギュレータ弁)を介装する構成としても良い。
【符号の説明】
【0043】
2 電動モータ
4 ベルト式無段変速機
8 駆動輪
12 サービスブレーキ
14 プライマリプーリ
16 セカンダリプーリ
18,20 プーリの溝
22 ベルト(無担帯状部材)
24 プライマリプーリ14の可動シーブ
26 機械式ストッパ
30 油圧制御回路(油路)
34 ソレノイド
36 油圧制御弁
40 ブレーキペダル
48 アクセルペダル
100 車両用制御装置
図1
図2