(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】マイクロサテライト検出マイクロアレイ及びこれを用いたマイクロサテライト検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6837 20180101AFI20220816BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220816BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220816BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220816BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20220816BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20220816BHJP
【FI】
C12Q1/6837 Z ZNA
C12M1/00 A
C12N15/09 200
G01N37/00 102
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6886 Z
(21)【出願番号】P 2018056122
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹口 有希華
(72)【発明者】
【氏名】大場 光芳
(72)【発明者】
【氏名】平山 幸一
(72)【発明者】
【氏名】山野 博文
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-011247(JP,A)
【文献】特開2008-072913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象のマイクロサテライトについて、
野生型に対応する野生型プローブと、上記マイクロサテライトにおける単位配列の繰り返し回数の異なる複数の
変異タイプに対応する複数の
変異型プローブと、これら
野生型プローブ及び複数の
変異型プローブを固定する基板とを備え、
上記
変異型プローブは、当該マイクロサテライトに対応する領域と、5’末端にプローブ長を調節する領域とを含み、5’末端にて上記基板に固定されて
おり、上記変異タイプは単位配列の繰り返し回数が上記野生型と比較して少数であることを特徴とするマイクロサテライト検出マイクロアレイ。
【請求項2】
上記複数の
変異型プローブは、そのプローブ長の差が12塩基以内であることを特徴とする請求項1記載のマイクロサテライト検出マイクロアレイ。
【請求項3】
正常組織におけるマイクロサテライトと腫瘍組織における同マイクロサテライトとの間で繰り返し回数がばらつくマイクロサテライト不安定性を解析するマイクロサテライト検出方法であって、
被検者
における正常組織由来のゲノムDNAと腫瘍組織由来のゲノムDNAをそれぞれ鋳型として検出対象のマイクロサテライトを含む核酸を増幅する工程と、
上記検出対象のマイクロサテライトについて、
野生型に対応する野生型プローブと、上記マイクロサテライトにおける単位配列の繰り返し回数の異なる複数の
変異タイプに対応する
変異型プローブと、これら
野生型プローブ及び複数の
変異型プローブを固定する基板とを備え、上記
変異型プローブは、当該マイクロサテライトに対応する領域と、5’末端にプローブ長を調節する領域とを含み、5’末端にて上記基板に固定されて
おり、上記変異タイプは単位配列の繰り返し回数が上記野生型と比較して少数であるマイクロサテライト検出マイクロアレイと、上記工程で増幅した核酸とを接触させる工程と、
上記
野生型プローブ及び複数の
変異型プローブについて、増幅した核酸とのハイブリダイズに基づくシグナルをそれぞれ検出する工程とを含み、
上記
野生型プローブ及び複数の
変異型プローブについて検出したシグナルに基づいて
、上記複数の変異型プローブのそれぞれについて測定したシグナルを、野生型プローブについて測定したシグナルで正規化したシグナル比を上記正常組織及び上記腫瘍組織それぞれについて求め、上記複数の変異型プローブのそれぞれについて腫瘍組織における上記シグナル比と正常組織における上記シグナル比との差を判定値として求め、上記複数の変異型プローブについて求めた上記判定値の合計値を予め規定した閾値と比較して上記被検者におけるマイクロサテライトを解析することを特徴とする、マイクロサテライト検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1塩基又は複数塩基からなる単位配列の繰り返しからなるマイクロサテライトを検出するマイクロアレイ及び当該マイクロアレイを用いたマイクロサテライトの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロサテライトは、ゲノムに存在する1塩基又は複数塩基からなる単位配列の繰り返しを意味し、その繰り返し回数を遺伝子型として見なして多型マーカーとして利用されている。また、マイクロサテライトは、正常組織と腫瘍組織の間で繰り返し回数が異なることが知られている(マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability:MSI))。すなわち、マイクロサテライト不安定性とは、腫瘍組織におけるDNA修復機構の機能低下により、腫瘍組織におけるマイクロサテライト繰り返し回数が非腫瘍(正常)組織と異なる現象を意味する。
【0003】
マイクロサテライト不安定性に関しては、リンチ症候群や散発性大腸がんの診断において検出することが近年、推奨されている。具体的には、一例として、正常組織と腫瘍組織とそれぞれにおいて、BAT25、BAT26、MONO27、NR21及びNR24からなる5種類のマイクロサテライトの繰り返し回数を測定する。そして、繰り返し回数の減少が検出された場合にMSI陽性と判定し、5種類のマイクロサテライトのうち1種類がMSI陽性の場合に低頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-L)、2種類以上がMSI陽性の場合に高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)、MSI陽性がない場合にマイクロサテライト安定性(MSS)と分類する。
【0004】
このとき、従来の技術では、マイクロサテライトを含む領域を増幅し、所謂フラグメント解析によりマイクロサテライトの繰り返し回数を判定していた。例えば、特許文献1には、モノヌクレオチドのマイクロサテライト領域と、テトラヌクレオチドのマイクロサテライト領域の少なくとも3つの遺伝子のセットを多重増幅反応により同時に増幅し、増幅したDNA断片をサイズに基づいて分離して解析する方法が開示されている。また、特許文献2には、所定のマイクロサテライト遺伝子座を増幅し、DNA増幅産物のサイズに基づいて腫瘍に関連するマイクロサテライト不安定性を評価する方法が開示されている。
【0005】
また、マイクロサテライト不安定性に限らず、マイクロサテライトを多型マーカーとして検出する際も、マイクロサテライト多型を含む領域を増幅し、増幅DNA断片のサイズに基づいて多型を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2004-533241号公報
【文献】特表2005-518798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、マイクロサテライト不安定性やマイクロサテライト多型の解析には、マイクロサテライトを含む領域を増幅した後、サイズに基づく解析(キャピラリー電気泳動)や配列解析(シーケンス)によってマイクロサテライトの繰り返し回数を判定していた。しかしながら、サイズに基づく解析や配列解析といったフラグメント解析では、マイクロサテライトの繰り返し回数を高精度に判定できないといった問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、マイクロサテライトの繰り返し回数を高精度に判定できるマイクロサテライト検出マイクロアレイ及びこれを用いたマイクロサテライト検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、所定のマイクロサテライトについて、繰り返し回数の異なる複数のタイプのそれぞれについてプローブを設計するに際し、各プローブのプローブ長を所定の範囲に揃えるための領域を基板側の5’末端側に設けることで、これら複数のタイプのマイクロサテライトをマイクロアレイにより高精度に検出できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下を包含する。
(1)検出対象のマイクロサテライトについて、繰り返し回数の異なる複数のタイプに対応する複数のプローブと、これら複数のプローブを固定する基板とを備え、
上記プローブは、当該マイクロサテライトに対応する領域と、5’末端にプローブ長を調節する領域とを含み、5’末端にて上記基板に固定されていることを特徴とするマイクロサテライト検出マイクロアレイ。
(2)上記複数のプローブは、上記検出対象のマイクロサテライトの野生型に対応する野生型プローブと、上記検出対象のマイクロサテライトの変異型に対応する変異型プローブとからなり、上記変異型は単位配列の繰り返し回数が上記野生型と比較して少数であることを特徴とする(1)記載のマイクロサテライト検出マイクロアレイ。
(3)上記変異型プローブは、単位配列の繰り返し回数の異なる複数の変異タイプに応じて複数であることを特徴とする(2)記載のマイクロサテライト検出マイクロアレイ。
(4)上記複数のプローブは、そのプローブ長の差が12塩基以内であることを特徴とする(1)記載のマイクロサテライト検出マイクロアレイ。
【0011】
(5)被検者由来のDNAを鋳型として検出対象のマイクロサテライトを含む核酸を増幅する工程と、
上記検出対象のマイクロサテライトについて、繰り返し回数の異なる複数のタイプに対応する複数のプローブと、これら複数のプローブを固定する基板とを備え、上記プローブは、当該マイクロサテライトに対応する領域と、5’末端にプローブ長を調節する領域とを含み、5’末端にて上記基板に固定されているマイクロサテライト検出マイクロアレイと、上記工程で増幅した核酸とを接触させる工程と、
上記複数のプローブについて、増幅した核酸とのハイブリダイズに基づくシグナルをそれぞれ検出する工程とを含み、
上記複数のプローブについて検出したシグナルに基づいて上記被検者におけるマイクロサテライトを解析することを特徴とする、マイクロサテライト検出方法。
(6)上記被検者由来のDNAとして、正常組織由来のゲノムDNAと腫瘍組織由来のゲノムDNAをそれぞれ使用し、正常組織におけるマイクロサテライトと腫瘍組織における同マイクロサテライトとの間で繰り返し回数がばらつくマイクロサテライト不安定性を解析することを特徴とする(5)記載のマイクロサテライト検出方法。
(7)上記複数のプローブは、野生型のマイクロサテライトに対応する野生型プローブと、変異型のマイクロサテライトにおける単位配列の繰り返し回数の異なる複数の変異タイプに応じた複数の変異型プローブとからなり、上記複数の変異型プローブのそれぞれについて測定したシグナルを、野生型のプローブについて測定したシグナルで正規化したシグナル比を上記正常組織及び上記腫瘍組織それぞれについて求め、上記複数の変異型プローブのそれぞれについて腫瘍組織における上記シグナル比と正常組織における上記シグナル比との差を判定値として求め、上記複数の変異型プローブについて求めた上記判定値の合計値を予め規定した閾値と比較して上記マイクロサテライト不安定性を解析することを特徴とする(6)記載のマイクロサテライト検出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイでは、基板に固定する5’末端にプローブ長を調節する領域を有するプローブを使用することで、検出対象のマイクロサテライトを高精度に検出することができる。これにより、本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイを使用することで、マイクロサテライト多型の遺伝子型判定や、マイクロサテライト不安定性の解析等を高精度に行うことができる。
【0013】
本発明に係るマイクロサテライト検出方法では、基板に固定する5’末端にプローブ長を調節する領域を有するプローブを有するマイクロサテライト検出マイクロアレイを使用することで、検出対象のマイクロサテライトを高精度に検出することができる。これにより、本発明に係るマイクロサテライト検出方法を適用することで、マイクロサテライト多型の遺伝子型判定や、マイクロサテライト不安定性の解析等を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施例で採用したマイクロサテライトの塩基配列等を示す特性図である。
【
図2】実験1で設計したプローブ3及びプローブ7について、それぞれMSI陰性サンプル及びMSI陽性サンプルを用いたときの蛍光強度を測定した結果を示す特性図である。
【
図3】実験1で設計したプローブについて、それぞれMSI陰性サンプル及びMSI陽性サンプルを用いたときの測定結果であって、横軸にプローブのマイクロサテライト繰り返し回数、縦軸に蛍光強度比とした特性図である。
【
図4】実験2で設計したNR21、NR24、BAT25及びBAT26について設計したプローブを用いて、MSI陰性検体及びMSI陽性検体に対してマイクロサテライト不安定性を解析した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイ及びこれを用いたマイクロサテライト検出方法を詳細に説明する。
【0016】
本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイは、所定のマイクロサテライトについて、繰り返し回数の異なる複数のタイプに対応する複数のプローブと、当該複数のプローブを固定する基板を備えている。
【0017】
ここで、マイクロサテライトとは、ゲノムに存在する1塩基又は複数塩基からなる単位配列を繰り返した領域を意味する。1塩基からなる単位配列を繰り返したマイクロサテライトとは、言い換えると、A、G、C又はTが連続する領域(5’-(N)n-3’:NはA、G、C又はTであり、nは塩基の数)の意味である。また、マイクロサテライトにおいて、複数の塩基からなる単位配列としては、特に限定されないが、例えば2~10塩基からなる単位配列、好ましくは2~4塩基からなる単位配列を挙げることができる。さらにマイクロサテライトにおける単位配列の繰り返し回数は、特に限定されず、例えば2~100回、好ましくは4~100回を挙げることができる。
【0018】
マイクロサテライトについては、例えば、正常組織と腫瘍組織において所定のマイクロサテライトの単位配列の繰り返し回数が異なる現象(マイクロサテライト不安定性)が知られている。マイクロサテライト不安定性とは、ゲノム複製時にミスマッチを修復する機能が低下することによって、マイクロサテライトの繰り返し回数にばらつきが生じる現象を意味している。
【0019】
本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイは、正常組織におけるマイクロサテライトに対応する野生型プローブと、腫瘍組織における繰り返し回数が異なるマイクロサテライトに対応する変異型プローブを備えることにより、マイクロサテライト不安定性を評価する際に利用することができる。
【0020】
具体的には、リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん、Hereditary Nonpolyposis Colon Cancer :HNPCC)は、ミスマッチ修復遺伝子であるMLH1、MSH2、MSH6、PMS2の生殖細胞系列の変異が原因であることが知られている。したがって、当該変異遺伝子を有する腫瘍細胞は、正常細胞と比較するとマイクロサテライトの繰り返し回数がばらつくといった特徴を示す。このように、マイクロサテライト不安定性の一例としては、リンチ症候群における、これらミスマッチ修復遺伝子の変異に起因するマイクロサテライトの繰り返し回数のばらつきを挙げることができる。
【0021】
より具体的に、リンチ症候群の検査においては、BAT25、BAT26、MONO27、NR21及びNR24からなる5種類のマイクロサテライトの繰り返し回数を測定する。BAT25とは、具体的にc-kitのイントロン16に位置する25Tの反復である。BAT26とはhMSH2のイントロン5に位置する26Tの反復である。MONO27とは具体的にMAP4K3遺伝子(cDNA配列GenBank AC007684)に位置する27Tの反復である。NR21とは具体的にSLC7A8遺伝子(cDNA配列GenBank XM_033393)の5'非翻訳領域において同定される21Tの反復である。NR24とは具体的にジンクフィンガー-2遺伝子(cDNA配列GenBank X60152)の3'非翻訳領域において同定される24Tの反復である。その他にもマイクロ不安定性に関しては、結腸及び胃の腫瘍において特徴的な分子的及び臨床病理的なプロフィールを有し、しばしば有利な予後に関連することが知られている。また、マイクロ不安定性腫瘍をもつ結腸直腸癌患者が、5FUベースの化学療法からの良好な生存利益を示すことを示唆する証拠もある。よって、マイクロ不安定性は、このタイプのアジュバント療法への応答についての有用な分子予測マーカーであると考えられる。
【0022】
また、マイクロサテライトについては、個体間において単位配列の繰り返し回数が異なる多数のアリル(メジャーアリルとマイナーアリル)が存在する場合がある。このようなマイクロサテライトは、繰り返し回数を遺伝子型とする多型マーカーとして利用することができる。すなわち、本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイは、メジャーアリルに対応する野生型プローブと、マイナーアリルに対応する変異型プローブを備え、マイクロサテライト多型を同定(タイピング)する際に利用することができる。
【0023】
より具体的に、喘息に関連した遺伝子においてマイクロサテライトを多型マーカーとして利用する例(国際公開番号WO1999/037809)、ヒト肝細胞癌疾病(HCC)の予測評価に有用な診断手段としてマイクロサテライトを多型マーカーとして利用する例(国際公開番号WO1998/045478)、非ヒト被験体から取得した乳腺腫瘍サンプルが悪性腫瘍である可能性を診断する方法においてマイクロサテライトを多型マーカーとして利用する例(特開2013-039070号公報)、癌の診断および治療のためにマイクロサテライトを多型マーカーとして利用する例(国際公開公報WO2004/043387)、癌の診断にマイクロサテライトを多型マーカーとして利用する例(国際公開公報WO2008/090930)、OBCAM及びNTM遺伝子と関係がある癌の診断にマイクロサテライトを多型マーカーとして利用する例(特開2009-165473号公報)、イネ種子の純度管理等にマイクロサテライトを利用する例(特開平11-206374号公報)を挙げることができる。
【0024】
以上のように、本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイは、所定のマイクロサテライトに関して、繰り返し回数の異なる複数のタイプ(野生型と変異型)のそれぞれについて設計した複数のプローブ(1つの野生型プローブと、1又は複数の変異型プローブ)を有している。例えば、本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイにより、多型マーカーとして利用できるマイクロサテライトを検出する際には、当該マイクロサテライトに存在する複数の繰り返し回数毎、すなわち遺伝子型毎にプローブを設計する。また例えば、本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイにより、マイクロサテライト不安定性を評価する際には、正常細胞における当該マイクロサテライトに対応する野生型プローブと、正常細胞における当該マイクロサテライトより少ない繰り返し回数のマイクロサテライトに対応する変異型プローブ(1つでも良いし、複数でも良い)とを設計する。
【0025】
ここで、本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイが有するプローブは、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域と、プローブ長を調節するための領域とを有する。当該プローブは、3’末端から5’末端の方向に向かって、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域と、プローブ長を調節するための領域とをこの順で有しており、5’末端にて基板に固定されている。
【0026】
検出対象のマイクロサテライトに対応した領域とは、検出対象のマイクロサテライトに相補的な配列を有するヌクレオチド鎖である。例えば検出対象のマイクロサテライトが5’-(CA)n-3’である場合、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域は5’-(TG)n-3’となる。なおnはマイクロサテライトの繰り返し回数である。また、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域は、検出対象のマイクロサテライトに相補的な配列と、当該配列の3’末端及び/又は5’末端に続く領域とを有していても良い。検出対象のマイクロサテライトに相補的な配列の3’末端及び5’末端に続く領域とは、それぞれ、検出対象のマイクロサテライトの5’末端及び3’末端に連続する領域に相補的な配列である。検出対象のマイクロサテライトに相補的な配列の3’末端及び5’末端に続く領域は、例えば、両側の合計で10~40塩基長とすることができ、15~30塩基長とすることが好ましい。
【0027】
上述のように、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域は、マイクロサテライトの繰り返し回数に応じてプローブ毎に異なる配列及び長さとなる。仮に、複数のプローブを設計する際に、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域のみが異なり、他の領域を同じ配列とした場合、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域が短いほど(繰り返し回数が少ないほど)、プローブ長が短くなる。そこで、所定のマイクロサテライトに関して、繰り返し回数の異なる複数のタイプのそれぞれにプローブを設計する際に、プローブ間のプローブ長を所定の範囲内となるように、プローブ長を調節するための領域を設計する。より具体的に、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域が短いほど(繰り返し回数が少ないほど)、プローブ長を調節するための領域を長くすることで、複数のプローブについてプローブ長のばらつきを抑え、所定の範囲内とすることができる。
【0028】
ここで、プローブ長を調節するための領域が検出対象のマイクロサテライトに対応した領域の5’末端側に位置するようにプローブを設計する。したがって、プローブ長を調節するための領域は、検出対象のマイクロサテライトから3’末端側に連続する領域に対して相補的な配列として設計される。
【0029】
なお、以上のように、本発明に係るマイクロサテライト検出マイクロアレイが有するプローブは、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域とプローブ長を調節するための領域とを有するものとして設計されるが、これらの領域以外の領域を有していてもよい。例えば、当該プローブは、5’末端にプローブ長を調節するための領域を有し、3’末端に数塩基の領域を有し、これら領域の間にマイクロサテライトに対応する領域を有するような構成であってもよい。或いは、当該プローブは、プローブ長を調節するための領域のさらに5’末端側に基板に固定するためのリンカー配列を有するような構成であっても良い。
【0030】
また、プローブ長を調節するための領域を設けることで、複数のプローブ間の塩基長の差を所定の範囲、例えば、12塩基以内とすることが好ましく、11塩基以内とすることがより好ましく、10塩基以内とすることが更に好ましく、9塩基以内とすることが更に好ましく、8塩基以内とすることが更に好ましく、7塩基以内とすることが更に好ましく、6塩基以内とすることが更に好ましく、5塩基以内とすることが更に好ましく、4塩基以内とすることが更に好ましく、3塩基以内とすることが更に好ましく、2塩基以内とすることが更に好ましく、1塩基以内とすることが更に好ましい。
【0031】
さらに、また、プローブ長を調節するための領域を設けることで、複数のプローブ間の塩基長の差を、最も短いプローブ長の40%以内とすることが好ましい。
【0032】
一方、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域及びプローブ長を調節するための領域を有するプローブを設計する際に、プローブ間のTm値を所定の範囲内とすることが好ましい。所定のマイクロサテライトに関して設計した複数のプローブにおいてTm値は、±5℃以内の範囲とすることが好ましい。当該複数のプローブにおいてTm値をこの範囲とすることによって、検出対象の繰り返し回数の異なる複数のマイクロサテライトをより高精度に検出することができる。
【0033】
ここで、Tm値を計算する方法は、特に限定されないが、例えば、最近接塩基対法(Nearest Neighbor method)、Wallace法及びGC%法等を挙げることができるが、特に最近接塩基対法(Nearest Neighbor method)により計算することが好ましい。なお、Tm値とは、プローブとターゲットがハイブリダズしているとき、その50%が解離する時の温度と定義される(すなわち、結合率50%の時の温度)。また、Tm値に影響を与える要因としては、塩基組成、塩濃度、オリゴ鎖の濃度や変性剤(ホルムアミド、DMSO等)、溶媒和効果、コンジュゲート基(ビオチン、ジゴキシゲニン、アルカリフォスファターゼ、蛍光色素等)が挙げられる。
【0034】
より具体的には、Integrated DNA Technologies社が提供するWEBサービスによりTm値を計算することができ、これにはプローブの塩基配列、プローブ濃度、プローブとハイブリダズするターゲットの濃度、反応液中のNa+並びにK+濃度、反応液中のMg2+濃度及び(場合によっては)dNTPs濃度を設定することでTm値を計算することができる。なお、上述したように設計した複数のプローブのTm値は、プローブの塩基配列以外のパラメータを所定の条件に固定して計算することとなる。
【0035】
上述のように設計した、検出対象のマイクロサテライトに関して、異なる繰り返し回数に対応する複数のプローブは、その5’末端を担体上に固定化することにより、マイクロアレイ(一例としてDNAチップ)の形態で使用される。
【0036】
担体の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されない。例えば、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウム、銀、水銀、タングステンおよびそれらの化合物などの貴金属、およびグラファイト、カ-ボンファイバ-に代表される炭素などの導電体材料;単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などに代表されるシリコン材料、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)などに代表されるこれらシリコン材料の複合素材;ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライト、感光性ガラスなどの無機材料;ポリエチレン、エチレン、ポリプロビレン、環状ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、ポリフェニレンオキサイドおよびポリスルホンなどの有機材料等が挙げられる。担体の形状も特に制限されないが、好ましくは平板状である。
【0037】
本発明においては、担体として、好ましくは表面にカーボン層と化学修飾基とを有する担体を用いる。表面にカーボン層と化学修飾基とを有する担体には、基板の表面にカーボン層と化学修飾基とを有するもの、およびカーボン層からなる基板の表面に化学修飾基を有するものが包含される。基板の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されず、上述の担体材料として挙げたものと同様のものを使用できる。
【0038】
本発明に係るマイクロアレイにおいては、微細な平板状の構造を有する担体が好適に用いられる。形状は、長方形、正方形および丸形など限定されないが、通常、1~75mm四方のもの、好ましくは1~10mm四方のもの、より好ましくは3~5mm四方のものを用いる。微細な平板状の構造の担体を製造しやすいことから、シリコン材料や樹脂材料からなる基板を用いるのが好ましく、特に単結晶シリコンからなる基板の表面にカーボン層および化学修飾基を有する担体がより好ましい。単結晶シリコンには、部分部分でごくわずかに結晶軸の向きが変わっているものや(モザイク結晶と称される場合もある)、原子的尺度での乱れ(格子欠陥)が含まれているものも包含される。
【0039】
本発明において基板上に形成させるカーボン層としては、特に制限されないが、合成ダイヤモンド、高圧合成ダイヤモンド、天然ダイヤモンド、軟ダイヤモンド(例えば、ダイヤモンドライクカーボン)、アモルファスカーボン、炭素系物質(例えば、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ)のいずれか、それらの混合物、またはそれらを積層させたものを用いることが好ましい。また、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステン、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化クロム、炭化バナジウム等の炭化物を用いてもよい。ここで、軟ダイヤモンドとは、いわゆるダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond Like Carbon)等の、ダイヤモンドとカーボンとの混合体である不完全ダイヤモンド構造体を総称し、その混合割合は、特に限定されない。カーボン層は、化学的安定性に優れておりその後の化学修飾基の導入や分析対象物質との結合における反応に耐えることができる点、分析対象物質と静電結合によって結合するためその結合が柔軟性を持っている点、UV吸収がないため検出系UVに対して透明性である点、およびエレクトロブロッティングの際に通電可能な点において有利である。また、分析対象物質との結合反応において、非特異的吸着が少ない点においても有利である。前記のとおり基板自体がカーボン層からなる担体を用いてもよい。
【0040】
本発明においてカーボン層の形成は公知の方法で行うことができる。例えば、マイクロ波プラズマCVD(Chemical vapor deposit)法、ECRCVD(Electric cyclotron resonance chemical vapor deposit)法、ICP(Inductive coupled plasma)法、直流スパッタリング法、ECR(Electric cyclotron resonance)スパッタリング法、イオン化蒸着法、アーク式蒸着法、レーザ蒸着法、EB(Electron beam)蒸着法、抵抗加熱蒸着法などが挙げられる。
【0041】
高周波プラズマCVD法では、高周波によって電極間に生じるグロー放電により原料ガス(メタン)を分解し、基板上にカーボン層を合成する。イオン化蒸着法では、タングステンフィラメントで生成される熱電子を利用して、原料ガス(ベンゼン)を分解・イオン化し、バイアス電圧によって基板上にカーボン層を形成する。水素ガス1~99体積%と残りメタンガス99~1体積%からなる混合ガス中で、イオン化蒸着法によりカーボン層を形成してもよい。
【0042】
アーク式蒸着法では、固体のグラファイト材料(陰極蒸発源)と真空容器(陽極)の間に直流電圧を印加することにより真空中でアーク放電を起こして陰極から炭素原子のプラズマを発生させ蒸発源よりもさらに負のバイアス電圧を基板に印加することにより基板に向かってプラズマ中の炭素イオンを加速しカーボン層を形成することができる。
【0043】
レーザ蒸着法では、例えばNd:YAGレーザ(パルス発振)光をグラファイトのターゲット板に照射して溶融させ、ガラス基板上に炭素原子を堆積させることによりカーボン層を形成することができる。
【0044】
基板の表面にカーボン層を形成する場合、カーボン層の厚さは、通常、単分子層~100μm程度であり、薄すぎると下地基板の表面が局部的に露出する可能性があり、逆に厚くなると生産性が悪くなるので、好ましくは2nm~1μm、より好ましくは5nm~500nmである。
【0045】
カーボン層が形成された基板の表面に化学修飾基を導入することにより、オリゴヌクレオチドプローブを担体に強固に固定化できる。導入する化学修飾基は、当業者であれば適宜選択することができ、特に制限されないが、例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基および活性エステル基が挙げられる。
【0046】
アミノ基の導入は、例えば、カーボン層をアンモニアガス中で紫外線照射することによりまたはプラズマ処理することにより実施できる。または、カーボン層を塩素ガス中で紫外線を照射して塩素化し、さらにアンモニアガス中で紫外線照射することにより実施できる。または、メチレンジアミン、エチレンジアミンで等の多価アミン類ガス中を、塩素化したカーボン層と反応させることによって実施することもできる。
【0047】
カルボキシル基の導入は、例えば、前記のようにアミノ化したカーボン層に適当な化合物を反応させることにより実施できる。カルボキシル基を導入するために用いられる化合物としては、例えば、式:X-R1-COOH(式中、Xはハロゲン原子、R1は炭素数10~12の2価の炭化水素基を表す)で示されるハロカルボン酸、例えばクロロ酢酸、フルオロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、3-クロロアクリル酸、4-クロロ安息香酸;式:HOOC-R2-COOH(式中、R2は単結合または炭素数1~12の2価の炭化水素基を表す)で示されるジカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、トリメリット酸、ブタンテトラカルボン酸などの多価カルボン酸;式:R3-CO-R4-COOH(式中、R3は水素原子または炭素数1~12の2価の炭化水素基、R4は炭素数1~12の2価の炭化水素基を表す)で示されるケト酸またはアルデヒド酸;式:X-OC-R5-COOH(式中、Xはハロゲン原子、R5は単結合または炭素数1~12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるジカルボン酸のモノハライド、例えばコハク酸モノクロリド、マロン酸モノクロリド;無水フタル酸、無水コハク酸、無水シュウ酸、無水マレイン酸、無水ブタンテトラカルボン酸などの酸無水物が挙げられる。
【0048】
エポキシ基の導入は、例えば、前記のようにアミノ化したカーボン層に適当な多価エポキシ化合物を反応させることによって実施できる。あるいは、カーボン層が含有する炭素=炭素2重結合に有機過酸を反応させることにより得ることができる。有機過酸としては、過酢酸、過安息香酸、ジペルオキシフタル酸、過ギ酸、トリフルオロ過酢酸などが挙げられる。
【0049】
ホルミル基の導入は、例えば、前記のようにアミノ化したカーボン層に、グルタルアルデヒドを反応させることにより実施できる。
【0050】
ヒドロキシル基の導入は、例えば、前記のように塩素化したカーボン層に、水を反応させることにより実施できる。
【0051】
活性エステル基は、エステル基のアルコール側に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応を活性化するエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味する。エステル基のアルコール側に、電子求引性の基を有し、アルキルエステルよりも活性化されたエステル基である。活性エステル基は、アミノ基、チオール基、水酸基等の基に対する反応性を有する。さらに具体的には、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、シアノメチルエステル、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等がアルキルエステル等に比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基として知られている。より具体的には、活性エステル基としては、たとえばp-ニトロフェニル基、N-ヒドロキシスクシンイミド基、コハク酸イミド基、フタル酸イミド基、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド基等が挙げられ、特に、N-ヒドロキシスクシンイミド基が好ましく用いられる。
【0052】
活性エステル基の導入は、例えば、前記のように導入したカルボキシル基を、シアナミドやカルボジイミド(例えば、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド)などの脱水縮合剤とN-ヒドロキシスクシンイミドなどの化合物で活性エステル化することにより実施できる。この処理により、アミド結合を介して炭化水素基の末端に、N-ヒドロキシスクシンイミド基等の活性エステル基が結合した基を形成することができる(特開2001-139532)。
【0053】
プローブを、スポッティング用バッファーに溶解してスポッティング用溶液を調製し、これを96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注し、分注した溶液をスポッター装置等によって担体上にスポッティングすることにより、プローブが担体に固定化されたマイクロアレイを製造することができる。または、スポッティング溶液をマイクロピペッターにて手動でスポッティングしてもよい。
【0054】
スポッティング後、プローブが担体に結合する反応を進行させるため、インキュベーションを行うことが好ましい。インキュベーションは、通常-20~100℃、好ましくは0~90℃の温度で、通常0.5~16時間、好ましくは1~2時間にわたって行う。インキュベーションは、高湿度の雰囲気下、例えば、湿度50~90%の条件で行うのが望ましい。インキュベーションに続き、担体に結合していないDNAを除去するため、洗浄液(例えば、50mM TBS/0.05% Tween20、2×SSC/0.2%SDS溶液、超純水など)を用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0055】
以上のように構成されたマイクロアレイを用いることで、被検者における検出対象のマイクロサテライトについて遺伝子型を判定する(野生型、ヘテロ型或いは変異型)ことができ、或いはマイクロサテライト不安定性を評価することができる。
【0056】
具体的に、所定のマイクロサテライト多型について遺伝子型を判定する際には、被検者由来の試料からDNAを抽出する工程と、抽出したDNAを鋳型とし、当該マイクロサテライト多型を含む領域を増幅する工程と、上述したマイクロアレイを用いて、増幅された核酸に含まれるマイクロサテライト多型の遺伝子型(繰り返し回数)を判定する工程とを含む。また、具体的に、所定のマイクロサテライトに関する不安定性を評価する際には、被検者の正常組織及び腫瘍組織からそれぞれDNAを抽出する工程と、抽出したDNAを鋳型とし、当該マイクロサテライトを含む領域を増幅する工程と、上述したマイクロアレイを用いて、増幅された核酸に含まれるマイクロサテライトの繰り返し回数を判定する工程とを含む。
【0057】
被検者は通常ヒトであり、人種等には特に限定されないが、特に、黄色人種、好適には東アジア人種、特に好適には日本人とする。被検者由来の試料は特に制限されない。例えば、血液関連試料(血液、血清、血漿など)、リンパ液、糞便、がん細胞、組織または臓器の破砕物および抽出物などが挙げられる。また、マイクロサテライト不安定性を評価する場合、被検者としては、リンチ症候群や散発性大腸がんが疑われる患者とすることができる。
【0058】
被検者から採取した試料からDNAを抽出する抽出手段としては、特に限定されない。例えばフェノール/クロロホルム、エタノール、水酸化ナトリウム、CTABなどを用いたDNA抽出法を用いることができる。
【0059】
次に、得られたDNAを鋳型として用いて増幅反応を行い、検出対象の一塩基多型を含む領域を増幅する。増幅反応としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法等を適用することができる。増幅反応においては、増幅後の領域を識別できるように標識を付加することが望ましい。このとき、増幅された核酸を標識する方法としては、特に限定されないが、例えば増幅反応に使用するプライマーをあらかじめ標識しておく方法を使用してもよいし、増幅反応に標識ヌクレオチドを基質として使用する方法を使用してもよい。標識物質としては、特に限定されないが、放射性同位元素や蛍光色素、あるいはジゴキシゲニン(DIG)やビオチンなどの有機化合物などを使用することができる。
【0060】
またこの反応系は、核酸増幅・標識に必要な緩衝剤、耐熱性DNAポリメラーゼ、増幅領域に特異的なプライマー、標識ヌクレオチド三リン酸(具体的には蛍光標識等を付加したヌクレオチド三リン酸)、ヌクレオチド三リン酸および塩化マグネシウム等を含む反応系である。
【0061】
また、プライマーにより増幅される核酸断片は、検出対象のマイクロサテライトを含んでいれば特に限定されず、例えば1kbp以下が好ましく、800bp以下がより好ましくは、500bp以下が更に好ましく、350bp以下が特に好ましい。
【0062】
上記のようにして得られた増幅核酸と、担体に固定された野生型プローブ及び変異型プローブとのハイブリダイゼーション反応を行い、野生型プローブ及び変異型プローブに対する増幅核酸のハイブリダイズを検出することで診断対象者における上記マイクロサテライトにおける単位配列の繰り返し回数を判定することができる。
【0063】
標識からのシグナルは、例えば、蛍光標識を用いた場合は、蛍光スキャナを用いて蛍光シグナル検出し、これを画像解析ソフトによって解析することによりシグナル強度を数値化することができる。また、野生型プローブ及び変異型プローブにハイブリダイズした増幅核酸は、例えば、既知量のDNAを含む試料を用いて検量線を作成することにより、定量することもできる。ハイブリダイゼーション反応は、好ましくはストリンジェントな条件下で実施する。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、55℃で16時間ハイブリダイズ反応させた後、2×SSC/0.2% SDS、25℃、10分および2×SSC、25℃、5分の条件で洗浄する条件をさす。或いは、ハイブリダイズする温度としては、塩濃度が0.5×SSCのとき、40~80℃とすることができ、プローブの鎖長が短い場合にはハイブリダイズ温度をこれより低くすることがより好ましく、鎖長が長い場合にはハイブリダイズ温度をこれより高くすることがより好ましい。塩濃度が高くなると特異性を有するハイブリダイズ温度は高くなり、逆に塩濃度が低くなると特異性を有するハイブリダイズ温度は低くなることはいうまでもない。
【0064】
ところで、本発明に係るマイクロアレイを用いてマイクロサテライト不安定性を評価する際には、野生型プローブ及び変異型プローブに対する増幅核酸のハイブリダイズを検出し、以下のようにして判定することができる。なお、マイクロサテライト不安定性を評価する場合、変異型プローブとしては、繰り返し回数を漸次減少させた複数の変異型プローブ(例えば、変異型プローブ1~3)を設計する。正常組織と腫瘍組織それぞれに関して、変異型プローブ1~3で検出した蛍光強度を、野生型プローブで検出した蛍光強度を基準として正規化する。すなわち、変異型プローブ1~3に関して以下の式に従って正常組織と腫瘍組織それぞれに関して蛍光強度比1~3を算出する。
腫瘍組織_蛍光強度比1=腫瘍組織_変異型プローブ1/腫瘍組織_野生型プローブ
正常組織_蛍光強度比1=正常組織_変異型プローブ1/正常組織_野生型プローブ
腫瘍組織_蛍光強度比2=腫瘍組織_変異型プローブ2/腫瘍組織_野生型プローブ
正常組織_蛍光強度比2=正常組織_変異型プローブ2/正常組織_野生型プローブ
腫瘍組織_蛍光強度比3=腫瘍組織_変異型プローブ3/腫瘍組織_野生型プローブ
正常組織_蛍光強度比3=正常組織_変異型プローブ3/正常組織_野生型プローブ
【0065】
そして、次に、下記式に従って、腫瘍組織について算出した蛍光強度比から、正常組織について算出した蛍光強度比を引き、各変異型プローブ1~3に関する判定値1~3を算出する。
判定値1=腫瘍組織_蛍光強度比1-正常組織_蛍光強度比1
判定値2=腫瘍組織_蛍光強度比2-正常組織_蛍光強度比2
判定値3=腫瘍組織_蛍光強度比3-正常組織_蛍光強度比3
【0066】
最後に、算出した判定値1~3の合計を求める。求めた合計値に基づいて、腫瘍組織におけるマイクロサテライト不安定性を評価することができる。例えば、判定値1~3の合計値が予め規定した閾値と比較して高い場合には、腫瘍組織においてマイクロサテライト不安定性があると評価することができる。また、判定値1~3の合計値が予め規定した閾値と比較して同等又は低い場合には、腫瘍組織においてマイクロサテライト不安定性がないと評価することができる。
【0067】
なお、上記説明では便宜的に3種類の変異型プローブ1~3として例示したが、変異型プローブの種類は、これに限定されず、マイクロサテライト毎に適宜設定することができる。例えば、検出対象のマイクロサテライトが取りうる全ての変異タイプ(繰り返し回数)に対応するよう、変異タイプ毎に全ての変異型プローブを準備しても良い。また、検出対象のマイクロサテライトが取りうる全ての変異タイプ(繰り返し回数)のうち、出現頻度の高い変異タイプに対応する変異型プローブを準備しても良い。言い換えると、検出対象のマイクロサテライトが取りうる全ての変異タイプ(繰り返し回数)のうち、出現頻度の低い変異タイプ、例えば、出現頻度が1%以下の変異タイプ、好ましくは出現頻度が0.5%以下の変異タイプ、更に好ましくは出現頻度が0.1%以下変異タイプ、更に好ましくは検出事例が知られていない変異タイプを除く変異タイプについて変異型プローブを準備しても良い。さらに、検出対象のマイクロサテライトが取りうる全ての変異タイプ(繰り返し回数)のうち、上位1/3の範囲に含まれる出現頻度の変異タイプについて変異型プローブを準備しても良い。或いは、検出対象のマイクロサテライトが取りうる全ての変異タイプ(繰り返し回数)について、1回おきの繰り返し回数に対応する変異型プローブ、2回おきの繰り返し回数に対応する変異型プローブ又は3回おきの繰り返し回数に対応する変異型プローブを準備しても良い。
【0068】
例えば、野生型のマイクロサテライトがモノヌクレオチドを24回繰り返した配列であるNR24の場合、当該モノヌクレオチドの繰り返し回数が24回未満である変異タイプが報告されている。この場合、野生型プローブより少ない繰り返し配列を検出する変異型プローブを任意に設計することができる。また、野生型由来のシグナルを特異的に検出するため、野生型プローブよりも5塩基程度長い配列を有するプローブを任意に設計できる。
【0069】
特に、本発明に係るマイクロアレイは、検出対象のマイクロサテライトに対応した領域と、担体に固定される5’末端側にプローブ長を調節するための領域とを有するプローブを備えている。このように構成されたプローブを利用することによって、検出対象のマイクロサテライトにおける繰り返し回数のばらつきを高精度に検出することができる。これと比較して、担体に固定される5’末端側に検出対象のマイクロサテライトに対応した領域を備え、3’末端側にプローブ長を調節するための領域を有するように構成した場合、特に変異型のマイクロサテライトに対応する変異型プローブにおける非特異的なハイブリダイズが生じる結果、検出対象のマイクロサテライトにおける繰り返し回数のばらつきを高精度に検出することができない。
【0070】
したがって、上述のように設計したプローブを有する本発明に係るマイクロアレイによれば、マイクロサテライト多型に関する遺伝子型判定、マイクロサテライト不安定性の評価を高精度に行うことができる。
【0071】
以上のようにマイクロサテライト不安定性の評価に際して、本発明に係るマイクロアレイを利用して複数の変異型プローブのそれぞれについて測定したシグナルを、野生型のプローブについて測定したシグナルで正規化したシグナル比とし、腫瘍組織における上記シグナル比と正常組織における上記シグナル比との差を判定値として求め、複数の変異型プローブについて求めた上記判定値の合計値を用いている。このように、上記判定値を用いることから、検出対象のマイクロサテライトが取りうる全ての変異タイプ(繰り返し回数)に対応する変異型プローブは必須ではなく、上述のように一部の変異型プローブを使用すれば十分にマイクロサテライト不安定性を評価することができる。一般に、マクロアレイを用いて多型を検出する際、一塩基多型については高精度に検出することができるものの、マイクロサテライト多型の検出感度が低いことが知られている。これは、同じ塩基の繰り返し回数のみが相違する場合、プローブの非特異的なハイブリダイズが生じやすいからである。しかしながら、上述のように、マイクロサテライトに対応する複数の変異型プローブのシグナル値それ自体を利用するのではなく、当該シグナル値から算出される上記判定値を用いることでマイクロサテライト不安定性を高精度に評価することができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
本実施例では、リンチ症候群や散発性大腸がんの診断に用いられるマイクロサテライトに関して解析を行った。当該マイクロサテライトとしては、例えば、5種類のマイクロサテライト(NR21、NR24、BAT25、BAT26及びMONO27)を挙げることができる。
図1に、各マイクロサテライトを含む領域の塩基配列(配列番号1~5)を示した。
図1において、四角で囲った領域がマイクロサテライトであり、各塩基配列中、一対の下線部分はマイクロサテライトを含む領域を増幅するための一対のプライマー(表1)を示している。
【0074】
【0075】
マイクロサテライトを含む領域を増幅するため、先ず表2に示す組成のプライマー混合物を準備した。
【0076】
【0077】
次に、表3に示した組成となるようにPCR反応液を準備した。
【0078】
【0079】
PCRの温度条件は表4に示すように設定した。
【0080】
【0081】
そして、予め準備したマイクロサテライト不安定性解析チップ(MSIチップ)を用いてハイブリダイズ反応を行った。具体的には、先ず、ハイブリダイズオーブンを60℃に設定し、水30mLを入れたタッパーを設置して1時間以上置いた。次に、ハイブリダイズ緩衝液(2.25×SSC、0.23%SDS)、PCR産物を冷凍庫から取り出し、常温に戻した。PCR産物4μlとハイブリダイズ緩衝液2μlを混合した。混合液3μLをチップカバーに添加した後、チップにセットした。ハイブリダイズ反応における温度条件を60℃とした。
【0082】
そして、洗浄液(0.1×SSC/0.1%SDS溶液)を調製し、ハイブリダイズ反応後のチップをステンレスホルダーに設置して、洗浄液内を10回上下させることにより洗浄し、5分間静置した。洗浄後、チップを保持するステンレスホルダーを蛍光強度を検出するまで1×SSC溶液中に設置した。
そして、水分を拭き取り、カバーフィルムを被せBIOHSHOTで蛍光強度推定法で測定した。
【0083】
[実験1]
本実験1では、マイクロサテライトを検出するためのプローブの設計について検討した。具体的には、マイクロサテライト領域に対応する領域以外は同配列のプローブセットを使用する条件1、マイクロサテライト領域に対応する領域と、3’末端側にプローブ長を調整するための領域を有する同配列のプローブセットを使用する条件2、マイクロサテライト領域に対応する領域と、5’末端側にプローブ長を調整するための領域を有する同配列のプローブセットを使用する条件3でMSIチップを作製した。ここで、プローブ長を調整するための領域とは、マイクロサテライト領域における塩基数の減少に応じて塩基を付加する領域である。条件1~3で設計したプローブセットをそれぞれ表5~7に示した。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
本実験では、マイクロサテライト不安定性が陽性であるサンプルとしてRKO細胞株を用いて上述したPCRを行い、マイクロサテライト不安定性が陰性であるサンプルとしてSW948細胞株を用いて上述したPCRを行った。なお、マイクロサテライト不安定性が陰性であるサンプルにおいては、供試したマイクロサテライトの繰り返し数が24塩基となる(プローブ3に対応)。また、詳述しないが、MSI陽性のRKO細胞株を用いて上記PCRを行った後にフラグメント解析した結果、マイクロサテライト不安定性が陽性であるサンプルにおいては、供試したマイクロサテライトの繰り返し回数が18塩基となることがわかっている(プローブ7に対応)。
【0088】
条件1、2及び3において、マイクロサテライト不安定性が陰性であるSW948細胞株を用いたときのプローブ3(MSI陰性のマイクロサテライトに対応)の蛍光強度、マイクロサテライト不安定性が陽性であるRKO細胞株を用いたときの及びプローブ7(MSI陽性のマイクロサテライトに対応)において測定された蛍光強度を
図2に示した。
図2に示したように、条件2及び3においては、条件1と比較して、MSI陰性サンプルにおけるプローブ3、MSI陽性サンプルにおけるプローブ7がともに高い蛍光強度で検出された。
【0089】
また、得られた蛍光強度から以下の式に従って蛍光強度比を算出し正規化を行った。
蛍光強度比=(変異型プローブ/野生型プローブ(プローブ3))
【0090】
図3に、横軸にプローブのマイクロサテライト繰り返し回数、縦軸に蛍光強度比とした特性図を示した。なお、
図3において(a)~(c)はそれぞれ条件1~3に対応している。なお、上述したフラグメント解析の結果から、マイクロサテライト不安定性が陰性であるSW948細胞株を用いたときはプローブ3の蛍光強度比が最も高く、マイクロサテライト不安定性が陽性であるRKO細胞株を用いたときはプローブ7の蛍光強度比が最も高くなるはずである。
図3において、SW948細胞株を用いたときの特性図においてプローブ3の蛍光強度比、RKO細胞株を用いたときはプローブ7の蛍光強度比を四角で囲った。
【0091】
図3に示したように、条件1及び3では、最も蛍光強度比が高くなるはずのプローブ(SW948でプローブ3,RKOでプローブ7)において予測通り蛍光強度比が高くなっていた。すなわち、条件1及び3で設計したプローブはフラグメント解析の結果と概ね一致していた。しかしながら、条件2で設計したプローブについては、フラグメント解析の結果と一致せず、マイクロサテライト不安定性が陰性であるSW948細胞株を用いたときに、繰り返し回数の短いプローブ(例えばプローブ8~12)で高い蛍光強度が検出されていた。この結果より、条件2で設計したプローブは、マイクロサテライトの繰り返し回数を解析する際の判定性能が劣ることが明らかになった。
【0092】
本実験の結果より、条件3、すなわちプローブ長を調整するための領域を、基板に固定する5’末端に有するように設計したプローブは、蛍光強度及び判定性能ともに優れることが明らかとなった。
【0093】
[実験2]
本実験2では、実検体を用いて、マイクロサテライト不安定性の陽性(+)と陰性(-)が分離できるかどうか判定性能を確認した。なお、本実験では、マイクロサテライトとしてNR21、NR24、BAT25及びBAT26の4種類について実験1で優れた効果が確認されたプローブの設計方法に従ってプローブを設計した。NR21、NR24、BAT25及びBAT26について設計したプローブをそれぞれ表8~11に示した。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
本実験では、変異既知の実検体(正常組織及びがん組織)8検体、MSI陽性(+):3検体、MSI陰性(-):5検体を用いて、それぞれから正常組織由来のDNA及び腫瘍組織由来のDNAを抽出して使用した。なお、各検体について試験数n=4とした。
【0099】
上述のように、NR21、NR24、BAT25及びBAT26について設計したプローブ(表8~11)について蛍光強度を測定した。そして、各組織部位の野生型プローブを基準とし、蛍光強度比を算出した(正規化)。具体的には下記式に従って蛍光強度比を求めた。
蛍光強度比1=同組織_変異型プローブ1/同組織_野生型プローブ
蛍光強度比2=同組織_変異型プローブ2/同組織_野生型プローブ
蛍光強度比3=同組織_変異型プローブ3/同組織_野生型プローブ
(以下、蛍光強度比4以降も同様に算出する)
【0100】
次に、腫瘍組織の蛍光強度比から正常組織の蛍光強度比を引き、判定値を算出する。具体的には下記式に従って判定値を求めた。
判定値1=腫瘍組織_蛍光強度比1-正常組織_蛍光強度比1
判定値2=腫瘍組織_蛍光強度比2-正常組織_蛍光強度比2
判定値3=腫瘍組織_蛍光強度比3-正常組織_蛍光強度比3
(以下、判定値4以降も同様に算出する)
【0101】
次に、判定値の正の値の合計を求める。得られた判定合計値からMSI(+),(-)の判別を確認した。その結果を
図4に示した。
図4に示すように、供試したマイクロサテライト4種類について、MSI陽性検体(図中(+)と表記)における判定合計値とMSI陰性検体(図中(-)と表記)における判定合計値とは、明確に分離することが明らかとなった。この結果より、本実験で設計したNR21、NR24、BAT25及びBAT26のプローブは、MSI陽性及び陰性に関する判定性能に優れるものであることがわかった。
【配列表】