(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材であって、該金属材料の表面が孔を有する基材及び該基材と樹脂硬化物を含む基材-樹脂硬化物の複合体
(51)【国際特許分類】
C23F 1/00 20060101AFI20220816BHJP
C23F 1/16 20060101ALI20220816BHJP
B32B 38/10 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C23F1/00 101
C23F1/16
B32B38/10
(21)【出願番号】P 2018068521
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-02-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 太一
(72)【発明者】
【氏名】西村 益代
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019164(JP,A)
【文献】特開2016-142119(JP,A)
【文献】特開2010-137475(JP,A)
【文献】特開2008-189914(JP,A)
【文献】国際公開第2007/114261(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C23F 1/00-4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材であって、該金属材料の表面が孔を有し、以下の(1)と(2)の要件を満たす、基材
の製造方法であって、
少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材の表面に、リチウムイオン源とアルカリイオン源を含む表面処理剤を接触させる第一工程と、
該表面処理剤を接触させた該基材の表面上に、無機酸を含む酸性水溶液を接触させる第二工程を含む、製造方法。
(1)断面曲線の負荷長さ率(Pmr)が切断レベル30%、評価長さ10μmにおいて40%以上である
(2)孔の入口における直径の平均値(a)と、孔深さの平均値(b)とのアスペクト比(b/a)が2以上50以下である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材であって、前記金属材料の表面が特定の孔を有する基材と、該基材と樹脂硬化物を含む基材-樹脂硬化物の複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料と樹脂を接合する方法の一つとして、金属材料表面を粗化処理した後に樹脂をインサート成形する方法が知られている。例えば、特許文献1には以下のように記載されている。
【0003】
金属部材と、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材とが接合してなる金属/樹脂複合構造体であって、前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、及び当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)及び(2)を同時に満たす金属/樹脂複合構造体。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が2μmを超える
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に開示されている方法で得られた金属/樹脂複合構造体の接合強度は、不十分な場合があった。
【0006】
本発明は、上記の従来技術の問題を解決すること、すなわち、樹脂との接合強度に優れる特定の孔を有する金属材料を有する基材及び前記基材と樹脂硬化物を含む基材-樹脂硬化物の複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材であって、前記金属材料の表面が特定の孔を有する基材を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の主旨は以下のとおりである。
【0008】
[1]少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材であって、該金属材料の表面が孔を有し、以下の(1)及び(2)の要件を満たす、基材。
(1)断面曲線の負荷長さ率(Pmr)が切断レベル30%、評価長さ10μmにおいて40%以上である
(2)孔の入口における直径の平均値(a)と、孔深さの平均値(b)とのアスペクト比(b/a)が2以上50以下である
[2]基材と樹脂硬化物を含む基材-樹脂複合体であって、該基材が[1]に記載の基材であり、該基材が有する金属材料の表面における孔に、樹脂硬化物を含む、基材-樹脂硬化物の複合体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂との接合強度に優れる、少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材であって、前記金属材料の表面が特定の孔を有する基材及び前記基材と樹脂硬化物を含む基材-樹脂硬化物の複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】基材の表面の断面構造及びその断面曲線の負荷長さ率の測定方法を説明するための模式図である。
【
図2】基材の表面に存在する孔の形状及び孔の直径の測定箇所を説明するための模式図である。
【
図3】
図1に記載の基材の断面構造の模式図であり、孔の入口における直径及び孔深さの測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書において、「孔」とは貫通孔ではなく、凹みを形成するものを意味する。
【0012】
<少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材>
本発明の実施形態に適用される基材は、少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材であれば特に制限されない。
基材の少なくとも表面の全部又は一部に存在する金属材料は、鉄、鉄合金、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金等を挙げることができるが、特に限定されない。基材は、特に限定されず、展伸材、押出材、鋳造材、ダイカスト材を含む。前記金属材料は、単独で用いてもよいし、二種類以上の金属材料を組み合わせて使用してもよい。これらの金属材料の中でも、軽量かつ高強度の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。以後、アルミニウム又はアルミニウム合金を単に「アルミニウム材」と称することもある。
【0013】
鉄又は鉄合金は、特に限定されず、産業上使用される普通鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼などが挙げられる。具体的には、JISG 4051、JIS G 4053、JIS G4304などに規格されたS45C、SCM415、SUS304、SUS316、SUS430などが挙げられる。
【0014】
チタン又はチタン合金は、特に限定されず、産業上使用される純チタン、α-β合金、β合金などが挙げられる。具体的にはJISH 4600に規格された1種から4種の純チタン、Ti-6Al-4V、Ti-22V-4Alなどのチタン合金が挙げられる。
【0015】
アルミニウム又はアルミニウム合金は、特に限定されず、産業上使用されるいずれのアルミニウム材も適用できる。アルミニウム材とは、アルミニウムを60%以上含む材料を指し、アルミニウム以外の合金成分としては、例えば、マグネシウム、ケイ素、チタン、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛を挙げることができる。具体的には、例えば、JIS H 4000、JIS H 5302及びJIS H 5202に規格されたA1050、A2014、A2024、A3003、A5052、A5N01、A6061、A6063、A7075、AC4A、ADC12などが挙げられる。
【0016】
マグネシウム合金は、特に限定されず、産業上使用されるいずれのマグネシウム合金も適用できる。そのマグネシウム合金の具体例としては、AZ92、AZ91、AZ80、AZ63、AZ61、AZ31、AM100、AM60、AM50、AM20、AS41、AS21、AE42、ACM522等が挙げられる。
【0017】
銅又は銅合金は、特に限定されず、産業上使用されるいずれの銅又は銅合金も適用できる。銅又は銅合金の具体例としては、JIS H 3100に規格されたC1020、C1100、C1220、C2801、C4621、C6140などが挙げられる。
【0018】
少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材の形状は、樹脂が接合できる形状であれば特に限定されず、例えば、板、棒、帯、管、線、繊維、箔、塊であってもよい。また、これらを組み合わせた構造体であってもよい。なお、前記基材は中間製品、完成品の全てが本発明の実施形態にかかる基材の範疇に含まれる。前記基材の少なくとも表面の全部又は一部が金属材料であれば、それ以外の部分は金属材料以外の材料であってもよい。もちろん金属材料のみから基材が構成されてもよい。金属材料以外の材料とは、例えば、前記基材以外の金属、樹脂、ゴム、木材、セラミック、複合材料等が挙げられるが、これらに限定されない。前記基材以外の材料の接合方法は特に限定されない。また、樹脂と接合する、基材が有する金属材料の接合部表面の形状は、平面や曲面等が挙げられるが特に限定されない。
【0019】
前記基材は、塑性加工、切削加工、ブラスト加工、研磨加工、放電加工、穴あけ加工、熱処理(時効硬化処理、溶体化処理など)が施されていてもよい。また、前記基材は、表面処理(化成処理、めっき処理、陽極酸化処理など)が施されていてもよいが、下記で説明する孔を形成する前に研磨や化学処理等によってこれらの皮膜成分を除去することが好ましい。
【0020】
本発明の実施形態に係る、少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材は、該金属材料の表面が孔を有し、以下の(1)及び(2)の要件を満たす。
(1)断面曲線の負荷長さ率(Pmr)が切断レベル30%、評価長さ10μmにおいて40%以上である
(2)孔の入口における直径の平均値(a)と、孔深さの平均値(b)とのアスペクト比(b/a)が2以上50以下である
【0021】
これにより、前記孔を有する金属材料を有する基材を、基材-樹脂硬化物の複合体の製造に用いた場合、樹脂との接合強度が優れた複合体を形成することができる。断面曲線の負荷長さ率が上記下限値未満であると、上記強度が低下するため樹脂との接合強度が低下する。断面曲線の負荷長さ率は、より好ましくは45%以上であり、さらに好ましくは50%以上である。断面曲線の負荷長さ率の上限については特に制限はないが、負荷長さ率が高すぎると金属表面に存在する孔の割合が少なく、樹脂との優れた接合強度が得られないという観点から、通常、95%以下である。
また、アスペクト比が2未満の場合、樹脂との接合強度は低下する。
断面曲線の負荷長さ率が上記下限値以上であっても、アスペクト比が2未満の場合は、樹脂との優れた接合強度が得られない。また、アスペクト比が2以上であっても断面曲線の負荷長さ率が上記下限値未満であると、上記強度が低下するため、優れた接合強度が得られない。
したがって、樹脂との優れた接合強度を得るためには、前記(1)及び(2)の2つの要件を同時に満たすことが必要である。
【0022】
本発明の実施形態に係る孔を有する金属材料の断面曲線の負荷長さ率及びアスペクト比の測定方法を以下に説明する。
【0023】
(断面曲線の負荷長さ率(Pmr(c)))
断面曲線の負荷長さ率(Pmr(c))は、式(A)に示すように、評価長さ(ln)に対する切断レベルcにおける輪郭曲線要素の負荷長さMl(c)の比を表したものであり、その測定方法はJIS B 0601に規定されている。
(A) Pmr(c) = Ml(c)/ ln
しかしながら、本発明の実施形態に係る孔の形状は市販の表面粗さ計等では正確に測定することが困難である。したがって、本発明の実施形態における断面曲線の負荷長さ率は、孔を有する金属材料を有する基材の実表面に対して垂直方向に切断したとき、その切り口に現れる断面構造を電子顕微鏡観察で撮影した写真から測定する。断面構造を観察するための試料の作製方法は、特に限定されないが、例えば、機械研磨法、集束イオンビーム法、イオンミリング法、ミクロトーム法などが挙げられる。要するに、孔の構造が観察できればよい。
【0024】
図1に示した表面に孔を有する金属材料を有する基材の断面模式図において、この厚さ方向に直交し、かつ凹凸部の最高部を通過するトップラインと最深部を通過するボトムラインの距離をRtとする。本発明の実施形態においては切断レベルcを30%と設定する。つまり、Rtに対してトップラインから30%の高さが切断レベルである。本発明の実施形態においては、評価長さは10μmに設定する。負荷長さMl(c)は、電子顕微鏡で撮影した写真から切断レベル30%によって切断された輪郭曲線要素の実体側の長さ(
図1においてはMl
1からMl
9)の和を測定することにより求めることができる。
したがって、本発明の実施形態における断面曲線の負荷長さ率とは、孔を有する金属材料を有する基材の実表面に対して垂直方向に切断したとき、その切り口に現れる断面構造を電子顕微鏡で撮影した写真において、Rtに対してトップラインから30%の高さにおける負荷長さMl(c)の評価長さ10μmに対する比率を表したものである。断面曲線の負荷長さ率を求めるためには、電子顕微鏡観察において倍率を1万倍以上にすることが好適である。
【0025】
(アスペクト比)
本発明の実施形態に係るアスペクト比は、孔の入口における直径の平均値(a)と、孔の深さの平均値(b)の比(b/a)により算出される。アスペクト比が2以上とは、前記(b)が前記(a)の2倍以上の孔深さの平均値を有する孔が存在することを意味する。孔の入口における直径の平均値は、孔を有する金属材料を有する基材の表面を電子顕微鏡で撮影した写真から測定可能である。本発明の実施形態に係る基材が有する金属材料の表面には、
図2に示すように円形又は楕円形の孔が観察される。本発明の実施形態に係る孔の入口における直径の平均値は、表面に形成されている円形又は楕円形の開口部の直径(
図2のa)又は短径(
図2のb)の平均値であり、開口部の直径又は短径の長いものから上位2割の孔を選択し、それらの長さを測定し、全てを積算してその上位2割の孔の数で除したものを孔の入口における直径の平均値とする。孔の直径を求めるためには、電子顕微鏡観察において倍率を1万倍以上にすることが好適である。
【0026】
孔の入口における直径の平均値は、多数の孔を測定対象とする場合には、前記基材の実表面に対して垂直方向に切断したとき、その切り口に現れる断面構造を電子顕微鏡で撮影した写真からも測定可能である。その場合、孔の入口における直径の平均値は、形成されている孔の最上部の開口幅(
図3のc)の平均値であり、開口幅の長いものから上位10個を選択し、それらの長さを測定し、全てを積算して10で除したものを孔の入口における直径の平均値とする。孔の直径を求めるためには、電子顕微鏡観察において倍率を1万倍以上にすることが好適である。孔の入口における直径の平均値の測定方法は、孔を有する金属材料を有する基材の表面を電子顕微鏡で撮影した写真から求めるほうがより好ましい。
【0027】
孔深さの平均値は、前記基材の実表面に対して垂直方向に切断したとき、その切り口に現れる断面構造を電子顕微鏡観察で撮影した写真から測定する。孔深さを求めるためには、電子顕微鏡観察において倍率を1万倍以上にすることが好適である。
孔深さの平均値は、形成されている孔における最上部から最深部の間の長さ(
図3のd)の平均値であり、孔深さの長いものから上位10個を選択し、それらの最上部から最深部の長さを測定し、全てを積算して10で除したものを孔深さの平均値とする。
【0028】
本発明の実施形態に係る孔を有する金属材料を有する基材と樹脂との接合強度をより一層向上させる観点から、前記基材の孔の入口における直径の範囲は、好ましくは50nm以上4000nm以下であり、より好ましくは60nm以上2000nm以下であり、さらに好ましくは70nm以上1000nm以下である。
【0029】
本発明の実施形態に係る孔を有する金属材料を有する基材と樹脂との接合強度をより一層向上させる観点から、前記基材の孔深さの範囲は、好ましくは100nm以上10μm以下であり、より好ましくは200nm以上9μm以下であり、さらに好ましくは300nm以上8μm以下である。
【0030】
本発明の実施形態に係る上記(2)で規定されるアスペクト比は、2以上50以下である。本発明の実施形態に係る孔を有する金属材料を有する基材と樹脂との接合強度をより一層向上させる観点から、前記アスペクト比の範囲は、2以上であり、好ましくは3以上であり、さらに好ましくは4以上である。前記アスペクト比が50を超える場合、金属材料自身の強度が低下する。
【0031】
前記孔は、前記基材の表面及び断面の任意の10箇所を観察して1箇所以上確認できればよい。
より具体的には、本発明の実施形態において、金属材料の表面における、前記アスペクト比を有する孔の数は、金属材料の表面の面積1μm2あたり、1個以上を有することが好ましく、2個以上有することがより好ましい。
前記孔は、前記基材の全面に存在する必要はなく、少なくとも後述する樹脂と接合する部分が有していればよい。
【0032】
<孔を有する金属材料を有する基材の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る孔を有する金属材料を有する基材の製造方法(以下、孔形成工程と称することもある)について説明する。
本発明の実施形態において、前記の孔を有する金属材料を有する基材を製造する方法は、特に限定されず、インプリント法、レーザー加工法、化学エッチング法などの公知の方法が挙げられる。インプリント法は、複数の突起を有する基板又はロールを、金属材料を有する基材に押し付けて孔を形成する方法であり、転写法やプレスパターニング法などが挙げられる。レーザー加工法は、金属材料の表面にレーザー光を照射して孔を形成させる方法である。化学エッチング法は、化学薬品を用いた処理液に金属材料を有する基材を接触させることにより腐食を進行させ、孔を形成させる方法である。
本発明の実施形態に係る孔形成工程においては、皮膜形成による孔の作製方法は除く。皮膜としては、陽極酸化皮膜、化成皮膜(リン酸塩系皮膜、ジルコニウム系皮膜、クロム系皮膜、ケイ酸塩皮膜、リチウム系化成皮膜)、めっき膜等が挙げられる。
【0033】
本発明の実施形態において、前記孔を有する基材を製造する方法として、以下に示す化学エッチング法が好適である。この化学エッチング法は、少なくとも表面の全部又は一部にアルミニウム材を有する基材の製造に対して特に好適である。
前記孔を有する基材を製造する方法として、具体的には、少なくとも表面の全部又は一
部が金属材料からなる基材の表面に、リチウムイオン源とアルカリ源を含む表面処理剤(亜鉛イオン及びケイ酸イオンを含むものを除くものであることが好ましい)を接触させる第一工程と、前記表面処理剤を接触させた前記基材の表面上に、無機酸を含む酸性水溶液を接触させる第二工程を含む、製造方法が好適である。
【0034】
少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材の表面に孔を形成する工程では、少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材の表面に、第一工程の表面処理剤を接触させることにより、リチウム元素を含む皮膜を形成させる。その際、少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材表面の酸化皮膜を含む不動態皮膜の溶解反応を伴う。
リチウム元素を含む皮膜は、公知の方法を用いて形成させることが可能である。例えば、ベーマイト処理や化成処理が挙げられるがこれらに限定されるものではない。ここでリチウム元素を含む皮膜とは、基材由来の金属を含む水酸化皮膜、酸化皮膜、水和酸化皮膜などが含まれる。処理方法としては、例えば、特開昭48-89138号公報、特開昭53-11841号公報などに記載の方法を用いることができる。
【0035】
第一工程の表面処理剤は、リチウムイオン源及びアルカリ源を成分として含む。
【0036】
(リチウムイオン源)
リチウムイオン源の形態は特に限定されず、水酸化物、塩化物、炭酸塩、重炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、過硫酸塩、臭化塩、及び臭素酸塩等から適当なものを1種又は2種以上選択することができる。
本発明の実施形態に係る第一工程に用いる処理液は、リチウムイオンを好ましくは0.001mol/L以上5.00mol/L以下、より好ましくは0.10mol/L以上4.00mol/L以下、さらに好ましくは0.50mol/L以上3.50mol/L以下を含む。また、前記リチウム塩濃度は、飽和溶解度を超えていてもよい。
【0037】
(アルカリ源)
第一工程の表面処理剤は、アルカリ源を含む。アルカリ源としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸物、マグネシウムの水酸化物、又は水溶性アミン化合物を例示できる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物としては、特に限定されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム等から適当なものを1種又は2種以上選択することができる。
第一工程の表面処理剤は、アルカリ源として、水酸化物イオンを通常0.001mol/L以上5.00mol/L以下、より好ましくは0.005mol/L以上4.00mol/L以下、さらに好ましくは0.01mol/L以上3.00mol/L以下を含む。また、前記アルカリ金属及び、アルカリ土類金属及びマグネシウムの水酸化物濃度は、飽和溶解度を超えていてもよい。
【0038】
水溶性アミン化合物としては、炭素数1~12のアルキル基が結合した第一級アミン、炭素数1~12のアルキル基が結合した第二級アミン、炭素数1~12のアルキル基が結合した第三級アミン、及び炭素数1~12のヒドロキシアルキル基が結合した第一級アミン、炭素数1~12のヒドロキシアルキル基が結合した第二級アミン、炭素数1~12のヒドロキシアルキル基が結合した第三級アミンのいずれもが使用でき、またこれらの水溶性アミンのほかに、前記のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基の一部又は全部がフェノール基で置換された芳香族アミンも用いられる。
また、前記の炭素数1~12のアルキル基が有する少なくとも1つのメチレンが、-NH-で置換されていてもよい。
具体的な水溶性アミン化合物は、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミ
ン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリエチレンテトラアミン、ヘキサメチレンテトラアミン、エチレンジアミン、及びアンモニア等から適当なものを1種又は2種以上選択することができる。
本発明の実施形態に係る第一工程に用いる処理液は、水溶性アミン化合物を好ましくは0.001mol/L以上1.00mol/L以下、より好ましくは0.005mol/L以上0.90mol/L以下を挙げることができ、さらに好ましくは、0.01mol/L以上0.80mol/L以下を含む。
【0039】
第一工程の表面処理剤として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、マグネシウムの水酸化物、及び水溶性アミン化合物のうち、一つの成分を単独で用いても、数種類の成分を併用して用いることもできる。
【0040】
第一工程の表面処理剤は、亜鉛イオン及びケイ酸イオンを含まないことが望ましい。亜鉛イオンが存在する場合、金属材料としてアルミニウム材を有する基材を用いる場合、アルミニウム材表面に亜鉛置換皮膜が形成するため所望の孔が得られなくなる。また、ケイ酸イオンが存在する場合、アルミニウム材表面にケイ素を含む皮膜が形成するため所望の孔が得られなくなる。さらに、銅、鉄、ニッケル、錫、などの遷移金属イオンについても含まないことが望ましい。アルカリ金属、及びアルカリ土類金属、及びマグネシウムの水酸化物、これらの塩から供給されるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等は、皮膜中に含まれてもよい。
【0041】
第一工程の表面処理剤は、リチウムイオン源及びアルカリ源をイオン交換水、工業用水、水道水等に溶解させることにより容易に調製することができる。前記表面処理剤中には、前記基材及び水由来のアルミニウム、マグネシウム、ケイ素、チタン、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛等の元素が存在していてもよい。
【0042】
第一工程の表面処理剤には、有機溶媒、界面活性剤、キレート剤を添加してもよい。これら他の成分を添加する場合、その合計含有量は、表面処理剤の全量に対して50.0質量%以下であることが好ましい。
【0043】
第一工程の表面処理剤に接触させることによって、少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材表面にリチウム元素を含む皮膜を形成させることができる。前記皮膜の付着量としては、特に制限されず、前記皮膜は連続膜であっても、不連続膜であってもよい。
【0044】
第一工程の表面処理剤を、少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材に接触させる方法としては、浸漬、スプレーによる処理方法が挙げられる。前記表面処理剤を接触させることにより、前記基材上にリチウム元素を含む皮膜を形成させることが可能であるが、電解処理を併用することも可能である。
第一工程で用いるときの表面処理剤の液温は20.0℃から100.0℃が好ましい。pHは8.0から13.0に調整することが好ましい。接触時間は5秒から1800秒が好ましい。前記第一工程の後は、必要に応じて水洗工程、乾燥工程を行ってもよい。
【0045】
前記第二工程の酸性水溶液は、無機酸を含む。前記無機酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、及びアミド硫酸等から適当なものを1種又は2種以上選択することができるが、これらに限定されるものではない。また、前記水溶液には、有機酸、無機酸塩、及び有機酸塩等を含んでもよいが遷移金属を含まないことが望ましい。
前記有機酸としては、蟻酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、コハク酸、マロン酸、エチレンジアミン四酢酸、グルコン酸等から適当なものを1種又は2種以上選択することができるが、これらに限定されるものではない。また、前記無機酸塩及び有機酸塩は、前記
無機酸及び有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩から適当なものを1種又は2種以上選択することができるが、これらに限定されるものではない。前記水溶液は、上記の無機酸、有機酸、又はこれらの塩を1種又は2種類以上配合することができる。前記有機酸、無機酸塩又は有機酸塩いずれか単独の酸性水溶液であっても前記の孔が形成される場合もあるが、工業的な観点から無機酸単独の酸性水溶液が好ましい。
【0046】
前記無機酸を含む成分の合計含有量は、酸性水溶液の全量に対して0.1質量%から70.0質量%であることが好ましく、0.5質量%から50.0質量%であることがより好ましく、1.0質量%から45.0質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
第二工程の酸性水溶液には、界面活性剤やキレート剤等を添加してもよい。これら他の成分を添加する場合、その合計含有量は、酸性水溶液の全量に対して10.0質量%以下であることが好ましい。
【0048】
第二工程の酸性水溶液は、前記の各成分をイオン交換水、工業用水、水道水等に溶解させることによって容易に調製することができる。前記酸性水溶液中には、前記基材及び水由来のアルミニウム、マグネシウム、ケイ素、チタン、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛等の元素が存在していてもよい。また、前記第一工程により形成したリチウム元素を含む皮膜の溶解に伴う成分が混入してもよい。
【0049】
第二工程の無機酸を含む酸性水溶液を、少なくとも表面の全部又は一部が金属材料からなる基材に接触させる方法としては、浸漬、スプレーによる処理方法が挙げられる。また、電解処理を併用することも可能である。
第二工程に用いるときの前記酸性水溶液は液温が10.0℃から80.0℃が好ましい。pHは酸性であればよく、例えば、pH6.0以下に調整することが好ましい。接触時間は1秒から1800秒程度が好ましく、900秒以下であることがより好ましい。第二工程の後は、通常、水洗工程や乾燥工程が行われる。水洗工程においては、超音波を併用してもよい。乾燥工程においては、自然乾燥でもよく、ドライヤー、エアーブロー、オーブン等を用いてもよい。
【0050】
なお、本発明の実施形態に係る製造方法(孔形成工程)では、金属材料を有する基材の表面を処理する際、金属材料を有する基材の全面を処理してもよく、部分的に処理してもよい。樹脂との優れた接合強度を得るためには樹脂と接合する部位だけを処理すればよい。
【0051】
本発明の実施形態に係る孔を有する金属材料を有する基材の製造方法においては、他の工程が存在していてもよい。他の工程の例としては、本発明の実施形態に係る製造方法(孔形成工程)を行う前に、基材が有する金属材料の表面を加工する工程や清浄化させる工程を挙げることができる。また、基材が有する金属材料の表面に孔を形成した後、基材-樹脂硬化物の複合体を製造する方法に供する前に、皮膜を形成する工程を行ってもよい。各工程は、必要であれば繰り返し行ってもよい。以下、各工程を詳述する。
【0052】
(表面加工工程)
本発明の実施形態にかかる基材の製造方法に用いられる、金属材料を有する基材は、本発明の実施形態に係る製造方法(孔形成工程)の前に、ショットブラスト加工、サンドブラスト加工、研削加工等の機械的粗化処理や、レーザー加工、プラズマ加工等の物理的粗化処理や、化学的方法によりあらかじめ粗化処理を実施してもよい。これらの加工後に形成される凹凸形状は問わない。
【0053】
(表面清浄工程)
本発明の実施形態にかかる基材の製造方法に用いられる、金属材料を有する基材は、本発明の実施形態に係る製造方法(孔形成工程)の前に、金属材料の表面を清浄化するため、脱脂処理、酸水溶液による酸処理、及び/又は、アルカリ溶液によるアルカリ処理からなる前処理を行ってもよい。
脱脂処理の方法は、特に限定されず、例えば、溶剤系、水系又はエマルジョン系の脱脂剤を用いることができ、アルカリ塩、界面活性剤等を含んでいてもよい。酸処理による前処理の方法としては、硫酸、硝酸、リン酸、フッ酸等の無機酸や、クエン酸、グルコン酸等の有機酸、これらを混合して調製したものなどを用いることができる。また、アルカリ処理による前処理の方法としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ試薬を調製したもの、又はこれらを混合して調製したものなどを用いることができる。
【0054】
(後処理工程)
本発明の実施形態にかかる基材の製造方法(孔形成工程)の実施後、孔を有する金属材料の表面に皮膜を形成させてもよい。皮膜の形成方法は塗布型であっても反応型であってもよく、形成させる皮膜としては、例えば、自然酸化膜、陽極酸化皮膜、化成皮膜(リン酸塩系皮膜、ジルコニウム系皮膜、クロム系皮膜)、シランカップリング剤硬化皮膜、めっき膜等が挙げられるが、これらに限定されない。皮膜を形成する場合、その膜厚は特に限定されないが、100nm以下にすることが望ましい。前記皮膜の厚みが100nmよりも厚い場合、樹脂との接合強度が低下する場合がある。前記皮膜の厚みは、孔の形状に応じて適宜調整することができる。
【0055】
(その他の処理工程)
前述の工程のほか、必要に応じてその他の工程を適宜行ってもよい。例えば、水洗工程はすべての工程(例えば、表面加工工程、表面清浄工程、孔形成工程、後処理工程等)の前後に行ってもよい。また、各水洗工程後に適宜乾燥工程を行ってもよい。
【0056】
<基材-樹脂硬化物の複合体の製造方法>
本発明の実施形態に係る基材-樹脂硬化物の複合体は、基材と樹脂硬化物を含む基材-樹脂複合体であって、該基材が前記で説明した基材であり、該基材が有する金属材料の表面における孔に、樹脂硬化物を含むものである。
本発明の実施形態に係る基材-樹脂硬化物の複合体における樹脂硬化物とは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー、樹脂塗料が硬化して塗膜となったもの、接着剤が硬化したものなど、あらゆる樹脂であってよい。
本発明の実施形態に係る基材-樹脂硬化物の複合体の製造方法は、本発明の実施形態に係る基材の製造方法に含まれる工程である孔形成工程と、前記孔形成工程において形成された、金属材料の表面が有する孔に前記樹脂を入れる工程と、を含む。前記孔に前記樹脂を入れる工程の後に、前記樹脂を冷却、放置、又は加熱によって硬化して、基材-樹脂硬化物の複合体を形成する。基材-樹脂硬化物の複合体とは、前記基材と樹脂硬化物のみから構成されるものであってもよいし、前記孔を有する金属材料を有する基材と前記樹脂硬化物に加え、その樹脂硬化物に接触する相手材を含むものであってもよい。前記相手材は、樹脂材料だけでなく、金属、ゴム、木材、セラミック、複合材料を含むあらゆる材料であってよい。また、前記相手材の形状は特に限定されず、板、棒、帯、管、線、フィルム等であってもよい。
【0057】
本発明の実施形態に係る基材-樹脂硬化物の複合体を製造する具体的な方法としては、孔を有する金属材料を有する基材の表面又は表面上に対して接着剤を塗布した後に相手材を貼り合わせて接合する方法、孔を有する金属材料を有する基材の表面又は表面上に対して樹脂を当て熱圧着により接合する方法、孔を有する金属材料を有する基材の表面又は表面上に対して樹脂を当てレーザー加熱により樹脂を溶融させて金属と樹脂を接合する方法、孔を有する金属材料を有する基材を射出成形用金型内にセットしてこの金型内に溶融し
た樹脂をインサート成形して接合する方法(以後、射出成形接合と称する)、前記孔を有する基材の表面又は表面上に対して樹脂塗料を接触させた後に硬化させることで前記基材の表面又は表面上に塗膜を形成する方法などが挙げられる。
【0058】
前記熱可塑性樹脂は、用途に応じて公知の熱可塑性樹脂から選択することができる。例えば、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂等から適当なものを1種又は2種以上選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
前記熱硬化性樹脂は、用途に応じて公知の熱硬化性樹脂から選択することができる。例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等から適当なものを1種又は2種以上選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
前記熱可塑性エラストマーは、用途に応じて公知の熱可塑性エラストマーから選択することができる。例えば、ポリエステル系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等から適当なものを1種又は2種以上選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
前記樹脂塗料は、用途に応じて公知の樹脂塗料から選択することができる。例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂等から適当なものを1種又は2種以上選択することができるが、これらに限定されるものではない。該塗料は、顔料、分散剤、可塑剤、溶剤などの成分を任意に含んでもよい。
【0062】
前記接着剤は、例えば、塩化ビニル樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリアクリル系接着剤、ポリアミド系接着剤、セルロース系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、シリコン樹脂系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、スチレン・ブタジエンゴム系接着剤、シリコンゴム系接着剤、アクリルゴム系接着剤、ウレタンゴム系接着剤、ホットメルト接着剤等から適当なものを1種又は2種以上選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
前記、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー、樹脂塗料、接着剤には公知の充填剤が含まれていてもよい。例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維、セラミック繊維、ガラスビーズ、カーボン粉末、金属粉末、セラミック粉末、酸化アルミニウム粉末、等から適当なものを1種又は2種以上選択することができるが、これらに限定されるものではない。充填剤の種類、含有量及び形状は、特に限定されるものではない。
【0064】
本発明の実施形態に係る孔を有する金属材料を有する基材及び樹脂硬化物との複合体の用途
本発明の実施形態に係る孔を有する金属材料を有する基材と、樹脂硬化物との複合体は、自動車用部材、航空機用部材、電子機器用部材、モバイル機器用部材、OA機器用部材、家電機器用部材、医療機器用部材の材料として有用である。前記孔を有する金属材料を有する基材は、樹脂との接合強度のみならず、めっき膜などの密着性も向上させることができる。なお、本発明の実施形態に係る、孔を有する金属材料を有する基材及び基材-樹脂硬化物の複合体は上記の使用用途に限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例を比較例とともに挙げ、本発明及びその効果を具体的に説明する。なお、実施例で使用した基材、すべての処理に用いた薬剤は、市販されている材料や試薬の中から任意に選定したものであり、本発明の実際の用途を限定するものではない。
【0066】
実施例1から3及び比較例1から3に係る基材-樹脂硬化物の複合体の製造においては、特に断りのない限り、基材として幅20mm×長さ45mm×厚み1.5mmのアルミニウム材を用いた。
【0067】
<基材-樹脂硬化物の複合体の製造方法>
実施例1から3及び比較例1から3に係る基材-樹脂硬化物の複合体は、特に断りのない限り、表面清浄工程→孔形成工程(第一工程→第二工程)→射出成形接合工程の各工程を経て製造した。以下、当該処理工程の各処理を説明する。
【0068】
(表面清浄工程)
表面清浄工程は、アルカリ脱脂{ファインクリーナー315E 日本パーカライジング株式会社製、30g/L(固形分濃度)、70℃、浸漬時間1分}の後、アルカリ洗(水酸化ナトリウム1.0mol/L、40℃、浸漬時間1分)を実施し、各工程後に水洗を実施した。
【0069】
(孔形成工程)
第一工程
第一工程は、リチウムイオンを含む表面処理剤に基材を浸漬した後、水洗を実施した。pHに関しては、硝酸水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整した。
【0070】
第二工程
第二工程は、無機酸を含む酸性水溶液に基材を浸漬した後、水洗及び乾燥を実施した。
【0071】
(射出成形接合工程)
射出成形接合工程は、前記孔形成工程後の基材に対し、ガラスファイバーを30%含むポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)を射出成形した。射出成形には東洋機械金属株式会社製電動サーボ射出成形機(Si-50III)を用いた。射出成形条件は、プレヒート125℃、成形温度320℃、金型温度135℃、射出速度30mm/秒、射出圧力1000kgf、保圧1200kgf、冷却時間15秒とした。成形されたPPS樹脂の寸法は、幅10mm×長さ45mm×厚み3mmである。また、基材とPPS樹脂の接合面積は10mm×5mmである。
【0072】
以下、上述した基材及び処理工程に基づき、実施例1から3及び比較例1から3に係る基材-樹脂硬化物の複合体を製造した。以下に、実施例及び比較例での手順等を述べる。
【0073】
[実施例1]
基材として、JIS H 4000で規格されたA2017を用いた。第一工程として、以下の処理液(1)を用いて基材を300秒間浸漬した。第二工程として、以下の処理液(2)を用いて、基材を180秒間浸漬した。このようにして、実施例1に係る基材-樹脂硬化物の複合体を得た。
【0074】
処理液(1)は、目的の容量で、3.0mol/L(モル/L)となる塩化リチウムと、0.1mol/Lとなる硝酸マグネシウム6水和物と、をイオン交換水に加え、ハンディpHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製ポータブルpH計HM-30P)とpH計測用電極(同社製GST-2739C)でpHを計測しながら、硝酸と水酸化ナトリウムを用いて、それをpH10.0に調整し、目標の容量に調整した。処理液(1)の温度
は60℃とした。
【0075】
処理液(2)は、イオン交換水に対して、硝酸が6.5mol/L(モル/L)となるように加えた。今回の例示では、pH調整は実施しなかった。処理液(2)の温度は50℃とした。
【0076】
[実施例2]
基材をJIS H4000で規格されたA3003に変更した点以外は[実施例1]と同様の方法で[実施例2]の基材-樹脂硬化物の複合体を製造した。
【0077】
[実施例3]
基材をJIS H4000で規格されたA5052に変更した点以外は[実施例1]と同様の方法で[実施例3]の基材-樹脂硬化物の複合体を製造した。
【0078】
[比較例1]
基材をJIS H4000で規格されたA2017とした。第一工程及び第二工程の処理条件を変更した点以外は[実施例1]と同様の方法で、基材-樹脂硬化物の複合体を製造した。具体的には、第一工程として、以下の処理液(3)を用いて基材を60秒間浸漬した。第二工程として、以下の処理液(4)を用いて、基材を300秒間浸漬した。
【0079】
処理液(3)は、目的の容量で、4.20mol/L(モル/L)となる水酸化ナトリウムと、0.66mol/Lとなる硝酸亜鉛と、0.06mol/Lとなるチオ硫酸ナトリウムと、をイオン交換水に加え、目標の容量に調整した。処理液(3)の温度は35℃とした。
【0080】
処理液(4)は、目的の容量で、0.84mol/L(モル/L)となる硫酸と、0.96mol/Lとなる塩化第二鉄と、0.03mol/Lとなる塩化第二銅と、0.05mol/Lとなる硫酸マンガン1水和物と、をイオン交換水に加えた。今回の例示では、pH調整は実施しなかった。処理液(4)の温度は30℃とした。
【0081】
[比較例2]
基材をJIS H4000で規格されたA3003に変更した点以外は[比較例1]と同様の方法で[比較例2]の基材-樹脂硬化物の複合体を製造した。
【0082】
[比較例3]
基材をJIS H4000で規格されたA5052に変更した点以外は[比較例1]と同様の方法で[比較例3]の基材-樹脂硬化物の複合体を製造した。
【0083】
(断面曲線の負荷長さ率)
実施例1から3及び比較例1から3の処理後の基材の断面曲線の負荷長さ率の測定は、前記処理後の基材を電界放出形走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、S-4700TypeII)により、倍率1万倍で断面観察を行い、得られた断面観察写真について画像処理ソフト(ImageJ)を用いて測定した。切断レベル30%、評価長さ10μmにおける断面曲線の負荷長さ率が40%以上の場合を良(「○」)とし、40%未満及び算出不可能な場合を悪(「×」)とした。結果を表1に示す。
【0084】
(アスペクト比)
アスペクト比は、孔の入口における直径の平均値(a)と、孔深さの平均値(b)の比(b/a)により算出した。
孔の入口における直径の平均値(a)は、実施例1から3及び比較例1から3の処理後
の基材の表面を前記電子顕微鏡により、倍率5万倍で撮影した写真から測定した。孔の開口部の直径又は短径の長いものから上位10個を選択し、それらの長さを測定し、全てを積算して10で除したものを孔の入口における直径の平均値とした。
孔深さの平均値(b)は、実施例1から3及び比較例1から3の処理後の基材の断面を前記電子顕微鏡により、倍率3万倍で撮影した写真から測定した。孔深さの長いものから上位10個を選択し、それらの最上部から最深部の長さを測定し、全てを積算して10で除したものを孔深さの平均値とした。
アスペクト比(b/a)が2以上の場合を良(「○」)、2未満及び算出不可能な場合を悪(「×」)とした。結果を表1に示す。
【0085】
(引張せん断試験)
実施例1から3及び比較例1から3の基材-樹脂硬化物の複合体について、ISO19095-3に規格化された引張せん断試験方法により接合強度を評価した。引張せん断試験は、株式会社島津製作所製オートグラフ精密万能試験機(AG-100kNX)を使用した。評価は、室温25℃、引張速度10mm/分の条件にて行った。引張せん断強度(接合強度:MPa)は破壊荷重(N)/接合部面積(50mm2)として算出した。引張せん断試験後の基材と樹脂硬化物との間の接合部の破壊形態を目視で調べた。
結果を表1に示す。樹脂硬化物が基材側の接合面積に対して70%以上の面積に残存する破壊形態である場合を良(「〇」)、樹脂硬化物が基材側の接合面積に対して10%以上70%未満の面積に残存する破壊形態である場合を悪(「×」)、樹脂硬化物が基材側の接合面積に対して10%未満の面積に残存する破壊形態である場合をさらに悪(「××」)とした。接合強度が30MPa以上で、接合部の破壊形態の評価が良(「○」)の場合、樹脂との接合強度が優れていると定義した。
【0086】