(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】耐火断熱シート、耐火断熱シートの製造方法及び防炎耐熱材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20220816BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20220816BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20220816BHJP
C09K 21/04 20060101ALI20220816BHJP
C09K 21/12 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
E04B1/94 V
B32B5/02 Z
C09K21/02
C09K21/04
C09K21/12
(21)【出願番号】P 2018130193
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】595164073
【氏名又は名称】川端 重夫
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】川端 重夫
(72)【発明者】
【氏名】浅井 滋記
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-140755(JP,A)
【文献】特開平05-179597(JP,A)
【文献】特開平11-241297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
B32B 5/02-5/12
C09K 21/00-21/14
D21H 13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張性黒鉛と水酸化アルミニウムとを担持する繊維シートと、ケイ酸ナトリウムと、リン又はリン化合物とを含む耐火断熱シートであって、
前記耐火断熱シートの吸水率が35~85%であり
、
前記ケイ酸ナトリウムの固形分含有量が、耐火断熱シートの面積を基準として、2.8g/m
2
~5.8g/m
2
である耐火断熱シート。
前記吸水率は、前記耐火断熱シートを、常温常湿の環境下に1時間静置したのち、常温の水に2分間浸漬した後の吸水量の変化率を表わし、吸水前の重量をa、吸水後の重量をbとした場合に下式1で表される。
(式1) 吸水率(%)=(b-a)/b×100
【請求項2】
前記耐火断熱シートの空隙率が、30%~90%である、請求項1記載の耐火断熱シート。
【請求項3】
前記繊維シートが、有機繊維と無機繊維とを含む繊維シートである、請求項1又は2記載の耐火断熱シート。
【請求項4】
前記有機繊維と前記無機繊維との質量比が、1:6~6:1である、請求項3記載の耐火断熱シート。
【請求項5】
前記有機繊維が、パルプである、請求項3又は4記載の耐火断熱シート。
【請求項6】
前記リン又はリン化合物と前記ケイ酸ナトリウムとの固形分の質量比が、100:0.5~100:20であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の耐火断熱シート。
【請求項7】
少なくとも、熱膨張性黒鉛と水酸化アルミニウムとを担持する繊維シートを形成する繊維シート形成工程と、
リン又はリン化合物を含む、ケイ酸ナトリウム水溶液を調製するケイ酸ナトリウム水溶液調製工程と、
前記繊維シートに、前記ケイ酸ナトリウム水溶液を含浸する含浸工程と、
前記ケイ酸ナトリウム水溶液を含浸した繊維シートを乾燥する乾燥工程とを含む、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の耐火断熱シートの製造方法。
【請求項8】
前記繊維シート形成工程が、繊維シートを抄造する工程を含むことを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
建材として用いられる防炎耐熱材であって、
前記防炎耐熱材は、基材と、請求項1~6のいずれか一項に記載の耐火断熱シートを含み、
前記耐火断熱シートが、前記基材の少なくとも一つの表面に、直接又はその他の層を介して、1層以上積層されることを特徴とする、防炎耐熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火断熱シート、耐火断熱シートの製造方法及び防炎耐熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高い耐火性と、施工時の作業性を向上させた建材として、リン化合物と、中和された熱膨張性黒鉛を担持する不燃性繊維の織布又は不織布を含む耐火断熱シートが提案されている(特許文献1)。前記熱膨張性黒鉛は、耐火断熱シート内で加熱されると急激に膨張し、前記耐火断熱シート内を満たす。前記熱膨張性黒鉛は優れた断熱材であり、前記熱膨張性黒鉛で満たされた前記耐火断熱シートもまた優れた断熱材として作用し、建材への伝熱を防止することで、建材の耐火性を向上させることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で開示されている耐火断熱シートには、内部の熱膨張性黒鉛が膨張した際に、前記織布又は不織布が破損しないように空隙を設けるという構造上避けられない特徴がある。このような耐火断熱シートの表面に表層シート(例えば、壁紙等)を貼りつけて使用する場合に、前記空隙の存在による表面強度が低いという問題があり、表層シートになんらかの衝撃が加えられた場合には、傷つきやへこみなどの破損が生じてしまうおそれがあった。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い耐火性と施工時の高い作業性を確保可能な、表面強度の高い耐火断熱シートを提供することであり、さらに前記耐火断熱シートを適用した防炎耐熱材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題について、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、特定の成分を担持させた繊維シートにケイ酸ナトリウムと、リン又はリン化合物を含むことで、高い耐火性と施工時の高い作業性を確保可能な、表面強度の高い耐火断熱シートが得られることを発見し、本発明を完成するに至った。
即ち、
本発明(1)は、
熱膨張性黒鉛と水酸化アルミニウムとを担持する繊維シートと、ケイ酸ナトリウムと、リン又はリン化合物とを含む耐火断熱シートであって、
前記耐火断熱シートの吸水率が35~85%である、耐火断熱シートである。
前記吸水率は前記耐火断熱シートを、常温常湿の環境下に1時間静置したのち、常温の水に2分間浸漬した後の吸水量の変化率を表わし、吸水前の重量をa、吸水後の重量をbとした場合に下式1で表される。
(式1) 吸水率(%)=(b-a)/b×100
本発明(2)は、
前記繊維シートの空隙率が、30%~90%である、前記発明(1)の耐火断熱シートである。
本発明(3)は、
前記繊維シートが、有機繊維と無機繊維とを含む繊維シートである、前記発明(1)又は(2)の耐火断熱シートである。
本発明(4)は、
前記有機繊維と前記無機繊維との質量比が、1:1~6:1である、前記発明(3)の耐火断熱シートである。
本発明(5)は、
前記有機繊維が、パルプである、前記発明(3)又は(4)の耐火断熱シートである。
本発明(6)は、
前記リン又はリン化合物の固形分と前記ケイ酸ナトリウムとの固形分の質量比が、100:0.5~100:20であることを特徴とする、前記発明(1)~(5)のいずれかの耐火断熱シートである。
本発明(7)は、
少なくとも、熱膨張性黒鉛と水酸化アルミニウムとを担持する繊維シートを形成する繊維シート形成工程と、
リン又はリン化合物を含む、ケイ酸ナトリウム水溶液を調製するケイ酸ナトリウム水溶液調製工程と、
前記繊維シートに、前記ケイ酸ナトリウム水溶液を含浸する含浸工程と、
前記ケイ酸ナトリウム水溶液を含浸した繊維シートを乾燥する乾燥工程とを含む、
ことを特徴とする前記発明(1)~(6)のいずれか一項に記載の耐火断熱シートの製造方法である。
本発明(8)は、
前記繊維シート形成工程が、繊維シートを抄造する工程を含むことを特徴とする、前記発明(7)の製造方法である。
本発明(9)は、
建材として用いられる防炎耐熱材であって、
前記防炎耐熱材は、基材と、前記(1)~(6)のいずれかの耐火断熱シートを含み、
前記耐火断熱シートが、前記基材の少なくとも一つの表面に、直接又はその他の層を介して、1層以上積層されることを特徴とする、防炎耐熱材である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い耐火性と施工時の高い作業性を確保可能な、表面強度の高い耐火断熱シート及び防炎耐熱材を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例1及び比較例1の総発熱量を計測したコーンカロリーメーターの測定結果である。
【
図2】本発明にかかる防炎耐熱材の例を示す構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<主な用語の定義>
【0010】
本明細書内において「耐火断熱シート」と、「防炎耐熱材」とは、区別されて記載される。本発明にかかる「耐火断熱シート」と「防炎耐熱材」は、高耐火性、高断熱性、高耐熱性等の共通の性能を有しており、使用方法としても、建材としての使用については共通している。そのため、本明細書においては、「防炎耐熱材」を、板材の表面に、「耐火断熱シート」が直接又はその他の層を介して、1層以上積層された建材用の耐熱材と定義する。
【0011】
なお、このことは、「耐火断熱シート」を単独で建材として用いることを否定するものではない。
【0012】
本明細書内において、「ケイ酸ナトリウム水溶液」を「水ガラス」と記載する場合がある。本明細書において、断りなく「水ガラス」と記載した場合には、その濃度によらず「ケイ酸ナトリウム水溶液」を指すものとする。
【0013】
また、以下において水溶液(又は水分散液)を調製する場合、溶媒としては、本発明の効果を阻害しない範囲内で、水以外の公知の溶媒(エタノール、メタノール等の水溶性アルコール、アセトン等の水溶性ケトン等)を使用してもよい。なお、この場合、水が溶媒の主成分(例えば、全溶媒の質量を基準として水が70質量%以上)であることが好ましい。なお、水以外の溶媒を使用する場合、1種類のみを使用してもよいし、複数種類を使用してもよい。
【0014】
本明細書における固形分量とは、溶液を乾固させたあとの固形分の質量を示す。ケイ酸ナトリウムの場合には、ケイ酸ナトリウムNa2O・nSiO2と、ケイ酸ナトリウム水和物Na2O・nSiO2・mH2Oを含む。
【0015】
1.耐火断熱シート
本発明にかかる耐火断熱シートは、熱膨張性黒鉛と水酸化アルミニウムとを担持する繊維シートを含み、さらに、ケイ酸ナトリウムと、リン又はリン化合物とを含むことを特徴とする。ケイ酸ナトリウム、及び、リン又はリン化合物は、通常、繊維シートを構成する繊維間や繊維シート表面に付着、あるいは繊維シートを構成する繊維内に浸透した形で存在する。
【0016】
本発明にかかる耐火断熱シートに含まれる繊維シートは、繊維が組み合わさって形成された空隙や、繊維間の隙間等の空間を有している。前記熱膨張性黒鉛と水酸化アルミニウムは、繊維に混ざりながら前記空間に担持されている。
【0017】
繊維シートは、前記空間を有することで、適度な可撓性を有する。これにより、耐火断熱シートの施工時において、組み合せる対象物の形状に合わせやすいため、作業性を高くすることができる。
【0018】
また、前記耐火断熱シートが加熱された場合、熱膨張性黒鉛は、耐火断熱シート内部の前記空間において急速に膨張し、優れた断熱材として作用する。耐火断熱シート内に膨張した熱膨張性黒鉛は、耐火断熱シート内での伝熱を遮断することができ、耐火断熱シートの一方の表面に伝えられた熱を反対側の面に伝達することを妨げることができる。耐火断熱シート内部に、熱膨張黒鉛が膨張可能である前記空間がなかった場合には、熱膨張性黒鉛の膨張により、耐火断熱シートが破損する、若しくは、熱膨張性黒鉛の膨張が妨げられ、十分な断熱性能が発揮されないおそれがある。
【0019】
一方、前記空間は、耐火断熱シートの強度が低くなる原因となっており、本発明にかかるケイ酸ナトリウムと、リン又はリン化合物とは、繊維シートに含まれる前記空間に入り込んで、繊維同士を結合し、強度(表面強度など)や耐熱性等を向上させることができる。
【0020】
耐火断熱シートの空隙率は、特に限定されないが、30%~90%とすることができ、40%~80%がより好ましく、50%~70%がさらに好ましい。かかる範囲にある場合に、熱膨張性黒鉛が膨張する空隙が十分あり、断熱性を高くすることができる。また、ケイ酸ナトリウムと、リン又はリン化合物とが、十分に含まれていることから、耐火断熱シートの表面強度を高めることができる。
【0021】
前記空隙率は、耐火断熱シートの体積に対して繊維、熱膨張性黒鉛、水酸化アルミニウム、ケイ酸ナトリウム、リン又はリン化合物等が存在しない空間の割合であり、耐火断熱シートの体積と質量及び繊維、ケイ酸ナトリウム、リン又はリン化合物等の耐火断熱シートを構成する材料の密度から算出される。
空隙率(%)=(1-耐火断熱シートの質量/(耐火断熱シートの体積×耐火断熱シートの密度))×100
なお、空隙率は、使用する繊維の太さ、量、繊維が交絡した材料の密度、圧縮成形における圧力、熱膨張性黒鉛及び水酸化アルミニウムの含有量、ケイ酸ナトリウム水溶液(リン又はリン化合物を含む)の含浸量等によって調整することができる。
【0022】
なお、耐火断熱シートの密度は、公知の方法で測定することができる。例えば、JIS Z8807:2012「固体の密度及び比重の測定方法」の方法に準拠して測定することができる。
【0023】
前記耐火断熱シートは、吸水率が35~85%、より好適には40%~75%である。本発明における吸水度は、前記耐火断熱シートが有する空隙の量を示す。熱膨張性黒鉛の配合量等と、ケイ酸ナトリウムと、リン又はリン化合物との配合量(付着量)との兼ね合いで、前記耐火断熱シートの断熱性能の指標となる。上述したように、前記耐火断熱シートは、前記空間が少ないと断熱効果を十分に発揮できず、前記空間が大きすぎると表面強度が低くなる。そのため、前記耐火断熱シートの吸水率がかかる範囲にあれば、十分な断熱性と表面強度を両立することが可能となる。
【0024】
前記吸水率は、常温常湿の環境下に1時間静置したのち、常温の水に2分間浸漬した後の吸水量を表わし、吸水前の重量をa、吸水後の重量をbとした場合に下式1で表される。
(式1) 吸水率(%)=(b-a)/b×100
なお、ここで「常温」とは20℃±15℃の範囲とし、「常湿」とは、相対湿度45~85%の範囲とする(JIS Z8703に準拠する)。
【0025】
本発明にかかる耐火断熱シートの平面形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形、多角形、自由曲線を組み合せてできた形状等が挙げられる。さらに、一つ以上の貫通した窓部等が存在していてもよい。これらは、用途や製造上の制約によって選択することができる。
【0026】
本発明にかかる耐火断熱シートの平面形状の大きさは、特に限定されず、用途により選択することができる。
【0027】
本発明にかかる耐火断熱シートの厚さは、特に限定されないが、例えば、0.2mm~10mm、より好ましくは0.3~5mmとすることができる。かかる範囲にあることで、十分な断熱性を有することができ、かつ、防炎耐熱材を形成した際に、厚すぎることがない。
【0028】
1-1.繊維シート
本願発明の繊維シートの構造は、特に限定されず、公知のものとすることができる。例えば、織布、不織布(繊維を抄造したものも含む)とすることができる。後述するが、本願発明にかかる繊維シートは、不織布の繊維シートであることが好ましく、さらに湿式抄造により形成された抄造紙状の繊維シートであることがより好ましい。湿式抄造の場合には、繊維を分散させた水中に熱膨張性黒鉛及び水酸化アルミニウムを分散させることで、容易に、熱膨張性黒鉛及び水酸化アルミニウムを担持した繊維シートを作製することができる。
【0029】
本発明にかかる繊維シートを形成する繊維は、特に限定されず、公知のものを使用することができる。前記繊維としては、例えば、ステンレス鋼繊維、ニッケル繊維、銅繊維、アルミニウム繊維、銀繊維、金繊維、チタン繊維等の金属繊維、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、ロックウ-ル、スラグウ-ル、アルミナ繊維、セラミック繊維等の無機繊維;ポリエチレンテレフタレ-ト(PET)樹脂、ポリビニルアルコ-ル(PVA)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アラミド樹脂、アクリル系樹脂等、セルロース、ビニロン、ナイロン、レ-ヨン、アラミド、フェノ-ル系繊維、フッ素繊維、パルプ(繊維)、ケナフ、麻、竹繊維等の有機繊維;等を挙げることができる。これらのうち一つ、又は、複数を組み合せて用いることができる。本発明の繊維シートは有機繊維と無機繊維とを含むことが好ましく、前記有機繊維がパルプを含むことがより好ましい。パルプは繊維内部までケイ酸ナトリウムと、リン又はリン化合物とを取り込むことができるため、防炎性を高めやすい。有機樹脂が含まれると、ファブリル化や加熱による軟化等により繊維間の接着や絡み合いに寄与して、繊維シートを強固に形成できる。また、熱膨張性黒鉛、水酸化アルミニウム等のフィラーの担持性を高めることができる。無機繊維が含まれると繊維シートの耐熱性、耐火性、断熱性、シートのこし等が向上する。さらにパルプは、ファブリル化により繊維間の結着が強固となるためより好ましい。
【0030】
繊維シートが金属繊維等の無機繊維を含む場合には、繊維同士の結合力を上げるために、繊維シートを加熱して焼結させることができる。焼結方法は、公知の方法を用いることができ、繊維の材質によりことなるが、例えば、ステンレス鋼繊維を単独で用いる場合には、水素ガス雰囲気の還元焼結炉を用い、熱処理温度1120℃、速度15cm/minの焼結条件とすることができる。
【0031】
本発明の繊維シートに用いられる繊維の繊維径は、特に限定されないが、例えば、1μm~50μm、好ましくは2μm~30μm、より好ましくは8μm~20μmとすることができる。
【0032】
本発明の繊維シートに用いられる繊維の繊維長は、製造に支障をきたさない限りにおいて、特に限定されず、例えば、0.1mm~30mm、好ましくは0.5mm~20mm、より好ましくは1mm~15mmとすることができる。
【0033】
前記繊維の配合量としては、特に限定されないが、例えば、繊維シートに含まれる繊維、熱膨張性黒鉛、水酸化アルミニウムの全質量を100質量%とした場合に、下限値を10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上とすることができ、上限値を90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下とすることができる。この範囲にある場合に、強固な繊維シートを形成することが可能であり、かつ、耐熱性、耐火性、断熱性等を高くすることができる。
【0034】
さらに、有機繊維と無機繊維を混合する場合の質量比としては、特に限定されないが、例えば、有機繊維:無機繊維として、1:6~6:1とすることができ、1:5~5:1がより好ましく、1:3~3:1がさらに好ましい。この範囲にある場合に、繊維同士の接着を強固としてシート強度を高めることができ、さらに耐熱性、耐火性、断熱性等を高くすることができる。
【0035】
繊維シートの空隙率は、特に限定されないが、30%~90%とすることができ、40%~85%がより好ましく、50%~80%がさらに好ましい。かかる範囲にある場合には、ケイ酸ナトリウム、リン又はリン化合物等を内部まで浸透させた後においても、熱膨張性黒鉛が膨張する空間が十分であるため、耐火断熱シートの断熱性を高めることができる。これにより、断熱性と表面強度に優れた、耐火断熱シートを得ることができる。
【0036】
前記空隙率は、繊維シートの体積に対して繊維が存在しない空間の割合であり、繊維シートの体積と質量及び繊維素材の密度から算出される。
空隙率(%)=(1-繊維シートの質量/(繊維シートの体積×繊維シートの密度))×100
なお、空隙率は、使用する繊維の太さ、量、繊維が交絡した材料の密度、圧縮成形における圧力等によって調整することができる。
【0037】
1-2.熱膨張性黒鉛
本発明にかかる熱膨張性黒鉛は、膨張開始温度を超えて加熱された場合に、膨張する膨張材料であり、断熱材として、例えば、後述する方法によって繊維シートに担持される。
【0038】
前記熱膨張性黒鉛は、従来公知の熱膨張性黒鉛を用いることができ、特に限定されない。
【0039】
一般に、熱膨張性黒鉛は、層状構造である黒鉛を濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理して層間化合物を生成させたものであり、層間に入れられた物質が、加熱により燃焼・ガス化し、爆発的に層と層の間を押し広げ、黒鉛が層の積み重なり方向に膨張するものである。熱膨張性黒鉛は、加熱により、100~300倍に膨張する。
【0040】
前記熱膨張性黒鉛は、中和処理されたものを用いることができる。中和処理は、前記膨張性黒鉛を、アンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和することができる。
【0041】
前記熱膨張性黒鉛が、中性の場合には、他の構成物を腐食したり、反応したりすることがなく、長期安定性を担保することができる。
【0042】
熱膨張性黒鉛の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、1000μm以下とすることができ、500μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。なお、熱膨張性黒鉛の平均粒径は、50μm以上とすることができ、80μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。前記粒径は、粒径が小さいと黒鉛の膨張の度合いが小さく、大きくなりすぎると膨張度が大きくなる性質を有している。そのため、前記粒径を、後述する繊維シートが有する空隙の大きさや、ケイ酸ナトリウム水溶液の含浸量等により、選択することで本発明の耐火断熱シートの断熱性を調整することができる。
【0043】
ここで、熱膨張性黒鉛の平均粒径の測定方法は、公知の方法で測定することができ、特に限定されない。例えば、JIS準拠の篩を通過した粉体を、その篩の公称目開きの大きさ以下の平均粒径とすることができる。公称目開き150μmの篩を通過した粉体は、平均粒径150μm以下とすることができる。
【0044】
熱膨張性黒鉛の配合量は、特に限定されないが、繊維シートに含まれる繊維、熱膨張性黒鉛、水酸化アルミニウムの全質量を100質量%とした場合に、例えば、下限値を5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上とすることができ、上限値を70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下とすることができる。かかる範囲にある場合に、耐火断熱シートの断熱性を高めることができ、加熱時の膨張により耐火断熱シートを破損させることがない。
【0045】
1-3.水酸化アルミニウム
本発明にかかる水酸化アルミニウムは、繊維シートの防火性を向上させるために、後述する方法によって繊維シートに担持される。
【0046】
前記水酸化アルミニウムは、加熱されると酸化アルミニウムを形成するが、その際に水が発生し、その吸熱作用のため、前記繊維シートの耐熱性・耐火性を向上させることができる。
【0047】
水酸化アルミニウムの配合量は、特に限定されないが、繊維シートに含まれる繊維、熱膨張性黒鉛、水酸化アルミニウムの全質量を100質量%とした場合に、例えば、下限値を5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上とすることができ、上限値を70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下とすることができる。かかる範囲にある場合に、耐火断熱シートの耐熱性・耐火性を高めることができ、耐火断熱シートの表面強度を高くすることができる。
【0048】
本発明に用いられる水酸化アルミニウムの平均粒径は、特に限定されないが、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下、より好ましくは20μm以下とすることができる。また、水酸化アルミニウムの平均粒径は、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.5μm以上、より好ましくは1μm以上とすることができる。
【0049】
ここで、水酸化アルミニウムの平均粒径の測定方法は、JIS準拠の篩を通過した粉体を、その篩の公称目開きの大きさ以下の平均粒径とすることができる。公称目開き150μmの篩を通過した粉体は、平均粒径150μm以下とすることができる。
【0050】
1-4.ケイ酸ナトリウム、及び、リン又はリン化合物
本発明にかかる耐火断熱シートは、ケイ酸ナトリウムと、リン又はリン化合物とを含む。本発明にかかる耐火断熱シートは、例えば、ケイ酸ナトリウムと、リン又はリン化合物とを含むケイ酸ナトリウム水溶液を調製し、前記繊維シートに塗布や含浸などさせた後に、乾燥させることで耐火断熱シートとすることができる。
【0051】
1-4-1.ケイ酸ナトリウム
本発明にかかる耐火断熱シートは、ケイ酸ナトリウムを含む。ケイ酸ナトリウムは、Na2O・nSiO2・mH2Oの分子式で表される。係数nはSiO2・Na2Oのモル比であり、SiO2及びNa2O成分の重量比とモル比の関係は次の式2で示される。
(式2)モル比=(c/d)×1.032
ここで、cはSiO2の質量、dはNa2Oの質量であり、定数である1.032は、SiO2の分子量とNa2Oの分子量の比である。一般に、製造されているケイ酸ナトリウムのモル比(n値)は、0.5~5.0である。
【0052】
本発明に用いられるケイ酸ナトリウムは、Na2O・nSiO2の構造であればよく、n値は、特に限定されない。従って、ケイ酸ナトリウムのn値は、一般に製造されていない、0.5~5.0の範囲外のものでもよいが、入手の容易であるため、0.5~5.0が好ましい。
【0053】
本発明にかかる耐火断熱シートにおけるケイ酸ナトリウムの固形分量は、耐火断熱シートの面積を基準として、0.5g/m2~15g/m2であることが好ましく、0.8g/m2~10g/m2であることがより好ましく、1.2g/m2~8.0g/m2であることがさらに好ましく、2.8g/m2~5.8g/m2が特に好ましい。ケイ酸ナトリウムの含有量をこのような範囲とすることで、耐火断熱シート内に空隙を残しつつも、表面強度を高めることができる。
【0054】
1-4-2.リン又はリン化合物
本発明にかかるリン又はリン化合物は、耐火断熱シートの強度の増加や防火性能を向上させるために用いられる。リン又はリン化合物としては、特に限定されず、公知のものが使用できる。例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類などのポリリン酸塩;等が挙げられる。これらのうち一つ、又は、複数を組み合せて用いることができる。難燃性や耐火断熱シートの強度の向上、安全性、コスト等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0055】
本発明にかかるリン又はリン化合物は、水溶性のリン化合物には限定されず、水に不溶のものでもよい。その場合には、後述するケイ酸ナトリウム水溶液には溶解する必要はなく、前記水溶液に分散させることができる。
【0056】
特に、水に不溶なリン又はリン化合物を用いる場合には、リン又はリン化合物の平均粒径に留意する必要がある。リン又はリン化合物の平均粒径は、本発明の効果が阻害されない限りにおいて、特に限定されないが、リン又はリン化合物が、繊維シートに付着させることを考慮すると、0.1μm~100μm、好ましくは0.5μm~50μm、より好ましくは1~20μmである。
【0057】
ここで、前記リン又はリン化合物の平均粒径の測定方法は、公知の方法で測定することができ、特に限定されない。例えば、JIS準拠の篩を通過した粉体を、その篩の公称目開きの大きさ以下の平均粒径とすることができる。公称目開き150μmの篩を通過した粉体は、平均粒径150μm以下とすることができる。
【0058】
リン又はリン化合物の配合量は、特に限定されないが、例えば、リン又はリン化合物と、ケイ酸水溶液に含まれるケイ酸ナトリウムと、の固形分の質量比を、100:0.5~100:20とすることができ、100:1~100:15が好ましく、100:5~100:10がより好ましい。かかる範囲にあることで、耐火断熱シートの耐火性・耐熱性を高めることができ、さらに耐火断熱シートの強度を高めることができる。
【0059】
本発明にかかる耐火断熱シートにおけるリン又はリン化合物の固形分量は、耐火断熱シートの面積を基準として、2.5g/m2~3000g/m2とすることができ、5.3g/m2~1000g/m2であることがより好ましく、12g/m2~160g/m2であることがさらに好ましく、28g/m2~116g/m2が特に好ましい。ケイ酸ナトリウムの含有量をこのような範囲とすることで、耐火断熱シート内に空隙を残しつつも、表面強度を高めることができる。
【0060】
1-4-3.その他成分
本発明にかかる耐火断熱シートは、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の成分として耐火断熱シートで使用される公知の成分等を含有可能である。また、後述する繊維シート形成工程やケイ酸ナトリウム水溶液調製工程等で使用された成分等を含む場合がある。
【0061】
2.耐火断熱シートの性質
以下に、耐熱シートの性質を示す評価方法について詳述する。
【0062】
2-1.こわさ測定
耐火断熱シートのこわさは、繊維シートに一定の荷重を付加して、押し曲げた際の、たわみ量であり、その抵抗能力を示すものである。いわゆる、紙における「こし」を意味する。耐火断熱シートのこわさは、耐火断熱シート表面に表層シートを貼りつけて使用する場合の表層シートをサポートする能力の指標である。こわさが大きいと表面強度が高くなり、施工作業の効率を高くすることができる。
【0063】
こわさの測定は、公知の方法で測定することができ、例えば、JAPAN TAPPI「紙パルプ試験方法No.40-83 荷重曲げ法による紙及び板紙のこわさ試験方法(ガーレー法)」に準拠して行うことができる。
【0064】
2-2.表面強度測定
耐火断熱シートの表面強度は、公知の方法で測定することができ、例えば、JIS L0849:2013「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」に記載されている摩擦試験機II形(学振形)法に準拠して測定することができる。
【0065】
2-3.総発熱量測定(不燃性・断熱性評価)
耐火断熱シートの総発熱量測定(不燃性・断熱性評価)は、公知の方法で測定できる。例えば、建築基準法の不燃材料等の評価に用いられるコーンカロリーメーターによる発熱性試験(不燃性評価)により、測定することができる。この測定値が低いほど不燃性が高いことを示し、熱を伝え難い(断熱性が高い)ことを示す。本評価において20分間燃焼せず、総発熱量が8MJ/m2未満である場合には、建築基準法によって不燃材料として認められる。
【0066】
3.耐火断熱シートの製造方法
3-1.繊維シート形成工程
繊維シート形成工程は、公知の方法で行うことができ、特に限定されない。例えば、織布とする場合には、シャットル織機、レピア織機、グリッパー織機等の織機を用いて繊維シートとすることができる。また不織布とするには、カーディング方式、エアレイド方式等の乾式法、紙のように漉いて形成する湿式抄造法、スパンボンド法、メルトブロー法等のフリース形成法;サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法(水流絡合法)、ステッチボンド法、スチームジェット法等のフリース結合法が挙げられる。
【0067】
以下に、本発明における好適例である湿式抄造法による繊維シート形成工程を説明する。
本発明にかかる繊維シートの製造方法は、例えば公知の抄紙方法により製造することができる。例えば、一つ又は複数の繊維、必要に応じて他の成分を水に分散させて原料スラリーを調製し、得られた原料スラリーを湿式抄紙して繊維シートを得る。
【0068】
セルロース系繊維等は、予め叩解しておくことが好ましい。叩解は、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、ビーター等の叩解機により適宜行なうことができる。
【0069】
湿式抄紙に用いる湿式抄紙機としては特に限定されず、一般の抄紙技術に適用されている抄紙機、具体的には長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜式抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等を使用できる。
【0070】
抄造工程に於ける脱水及び乾燥工程のプレス圧力、乾燥工程のロール表面温度を調節することで、所望の空隙率を得ることができる。
【0071】
繊維シートに有機繊維を含む場合には、乾燥工程のロール温度を調節することで、繊維同士の結合を高めることができる。
【0072】
また、金属繊維等の無機繊維を含む場合等は、さらに焼結工程を設けることで、強固な繊維シートを形成することができる。焼結条件や装置構成は公知の方法・装置・条件を用いることができ、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼繊維のみの繊維シートを形成する場合には、真空焼結装置を用いて、真空度13.3mPaの真空焼結炉内で、焼結温度1120℃、保持時間30分の焼結条件で、焼結することができる。
【0073】
前述のように、熱膨張性黒鉛及び水酸化アルミニウムを担持した繊維シートを製造するに際して、湿式抄造の場合には、繊維を分散させた水中に熱膨張性黒鉛及び水酸化アルミニウムを分散させることが好ましい。しかしながら、熱膨張性黒鉛及び水酸化アルミニウムを担持した繊維シートを形成する方法はこれには限定されず、繊維をシート状に形成した後に、熱膨張性黒鉛及び水酸化アルミニウムを塗工する方法等であってもよい。
【0074】
さらに、本工程では、繊維シートの作製上の効率のため、又は、繊維シートに特別な機能を付与するために、その他の添加剤を添加することができる。例えば、繊維同士の結合力が弱い場合には、アクリル樹脂をバインダーとして追加することができる。
【0075】
3-2.ケイ酸ナトリウム水溶液調製工程
ケイ酸ナトリウム水溶液調製工程は、公知の方法で行うことができ、特に限定されない。例えば、容器内の水に、所定量のケイ酸ナトリウムを溶解させケイ酸ナトリウム水溶液を調製し、その後、所定量のリン又はリン化合物と、必要に応じてその他の成分とを、ケイ酸ナトリウム水溶液に溶解又は分散させることができる。なお、リン又はリン化合物を含むリン含有液状組成物を調製した後に、ケイ酸ナトリウムやその他の成分を溶解又は分散させ、ケイ酸ナトリウム水溶液としてもよいし、ケイ酸ナトリウム水溶液とリン含有液状組成物とを別々に調製した上で混合し、ケイ酸ナトリウム水溶液としてもよい。
【0076】
上述のように、本発明に用いられるケイ酸ナトリウムは、他の原料と混合する前に水に溶解させ、ケイ酸ナトリウム水溶液とすることができる。その場合に、n値が、1未満の場合には結晶性であり、水への溶解性が容易ではないため、水への溶解が容易である1.0~5.0がより好ましい。n値が1.0~5.0のケイ酸ナトリウムは、水溶性が高く、粉末や液体での入手が可能であるため、ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度は容易に調整が可能である。
【0077】
また本発明に用いられるケイ酸ナトリウム水溶液の濃度は、特に限定されず、ケイ酸ナトリウムを含む水溶液であればよい。例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度の下限値は、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上とすることができ、光源値を90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下とすることができる。前記濃度は、乾燥後に耐火断熱シートの吸水率が所望の吸水率となる濃度に、調整すればよい。
【0078】
前記リン又はリン化合物は、前記ケイ酸ナトリウム水溶液に含まれていればよく、又は、前記ケイ酸ナトリウム水溶液に分散していてもよく、溶解した状態でもよい。
【0079】
本発明にかかるケイ酸ナトリウム水溶液は、その他の成分を含むことができる。本発明の効果が阻害されない限りにおいて、特に限定されないが、例えば、界面活性剤、pH調整剤等を上げることができる。また、これらのうち一つ、又は、複数を組み合せて用いることができる。特に、繊維シートとケイ酸ナトリウム水溶液の濡れ性を改善する目的で、界面活性剤を用いることが好適である。
【0080】
前記界面活性剤としては、公知のものを使用することができ、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤であるイオン性界面活性剤;非イオン性界面活性剤を用いることができる。界面活性剤は、ケイ酸ナトリウム水溶液と、繊維シートを構成する繊維の組み合わせによって選択することができる。
【0081】
その他成分の配合量は、特に限定されないが、例えば、界面活性剤を添加する場合には、前記ケイ酸水溶液に含まれるケイ酸ナトリウム(固形分量)を100質量部とした場合に、下限値を0.01質量部以上、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上とすることができ、上限値を10質量部以下、8質量部以下、5質量部以下とすることができる。かかる範囲にあることで、ケイ酸ナトリウム水溶液の濡れ性を高めることができ、ケイ酸ナトリウムやリン又はリン化合物と繊維シートの結合性を向上させることができるとともに、耐火断熱シートの表面強度を高めることができる。
【0082】
ケイ酸ナトリウムは、水に溶解されているものが市販されている場合には、市販品を用いることができる。
【0083】
3-3.含浸工程(ケイ酸ナトリウム、及び、リン又はリン化合物付与工程)
本発明にかかる耐火断熱シートの製造工程におけるケイ酸ナトリウム、及び、リン又はリン化合物の付与は、公知の方法により行うことができ、特に限定されない。例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液を用いて、前記繊維シートにケイ酸ナトリウム、及び、リン又はリン化合物を付与する方法が挙げられる。
【0084】
前記ケイ酸ナトリウム水溶液は、繊維シートの内部まで浸透させて用いてもよいし、繊維シートの表層部のみに塗布する態様で用いてもよい。具体的には、ケイ酸ナトリウム水溶液を用いる場合、転がし法、浸漬(含浸)法、フローコート法、スプレー法、刷毛塗り、液体静電塗装法、バーコーティング等の接触方法が適用できる。
【0085】
これらケイ酸ナトリウム、及び、リン又はリン化合物の付与方法のうち、浸漬(含浸)法による方法が好ましい。浸漬(含浸)法によれば、繊維シートの内部までケイ酸ナトリウム水溶液を含浸することが可能であり、耐火断熱シートの断熱性や表面強度を高めることが可能となる。浸漬(含浸)法の例としては、繊維シートを常温・常圧の環境下に2時間静置したのち、常温の前記ケイ酸ナトリウム水溶液に2分間浸漬し、含浸を行う方法、Dip-Nip法等の方法が挙げられる。
【0086】
3-4.乾燥工程
本発明にかかる乾燥工程は、ケイ酸ナトリウム水溶液を乾燥するために行われる。乾燥方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、自然乾燥、減圧乾燥、対流型熱乾燥(例えば、自然対流型熱乾燥、強制対流型熱乾燥)、輻射型乾燥(例えば、近赤外線乾燥、遠赤外線乾燥)、紫外線硬化乾燥、電子線硬化乾燥、ベーポキュア等が挙げられる。また、これら複数を組み合わせてもよい。
【0087】
また、乾燥時間は、ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度や組成、乾燥機によって適宜最適な条件を選択することができる。乾燥時間は、1秒以上、1800秒以下の範囲内が好ましく、10秒以上、1200秒以下の範囲内がより好ましい。
【0088】
乾燥温度は、通常の乾燥温度であればよく、繊維シートの最高到達温度が、熱膨張性断熱材の膨張開始温度よりも低い温度であれば特に限定されない。60℃~100℃であることが好ましく、70℃~90℃以下であることがより好ましい。乾燥温度が60℃未満であると、ケイ酸ナトリウム水溶液主溶媒である水分が残存して、耐火断熱シートの表面強度が不十分となる可能性がある。このような場合、水分が揮発するまで60℃未満の温度を維持することも可能であるが、水分が揮発するまで乾燥を続けることは生産性を低下させるため、60℃以上の乾燥温度が好ましい。
【0089】
4.耐火断熱シートの用途
本発明にかかる耐火断熱シートは、耐火断熱材として用いられる用途であれば、特に限定されない。例えば、防火シャッタースクリーン装置のスクリーン材、建物の梁・柱などの建築材料を火災時の熱から保護するシート、防炎耐熱材のような壁耐火用途、鉄骨耐火用途等に用いられる。本発明の耐火断熱シートは、厚さが薄くても効果を有するので、建材として用いられる防炎耐熱材としての用途が好適である。
【0090】
4-1.防炎耐熱材
本発明にかかる防炎耐熱材は、本発明の耐火断熱シートと、基材として合板、中密度繊維板(MDF)、木毛セメント板等の建材とを含む防炎耐熱材である。主に建材として、建築物の防炎性・耐熱性を高めるために用いられる。
【0091】
4-1-1.防炎耐熱材の構造
本発明にかかる防炎耐熱材の構造は特に限定されないが、例えば、前記建材等の少なくとも一つの表面に、直接又はその他の層を介して、本発明の耐火断熱シートを、積層した構造である。また、各層間には、接着剤層を設けることができ、さらに表層シート等を積層させることができる。また、耐火断熱シートは、1層のみ積層された構造{例えば、
図2(a)に示された構造}であってもよいし、2層以上積層された構造{例えば、
図2(b)に示された構造}であってもよい。
【0092】
前記防炎耐熱材は、火災が発生した場合等、前記防炎耐熱材の近傍に熱源が発生した場合でも、本発明の耐火断熱シートの断熱効果(前記建材への伝熱を防止する)により、前記建材等が発火温度に達することを防止することができ、防炎性・耐火性の高い建材とすることが可能となる。
【0093】
本発明の防炎耐熱材の形状、大きさ、厚さ等は、特に限定されず、用途、使用時の作業性、製造容易性等により自由に選択することができる。
【0094】
本発明の防炎耐熱材の基材は、特に限定されず、合板、中密度繊維板(MDF)、木毛セメント板等の可燃性の材質に限られず、アルミ板、鉄板等の金属板等の不燃物を用いることができる。前述したような防炎性・耐火性を付与する目的に限られず、基材に断熱効果を付与する目的で、用いることができる。
【0095】
本発明にかかる表層シートは、特に限定されず、突板化粧、PETシート、コート紙など、様々な化粧仕上げのシート等を挙げることができる。本発明の耐火断熱シートを用いると、表面強度が高いため、これら表層シートが陥没、破損等しにくい。
【0096】
本発明の防炎耐熱材に用いられる粘着剤は、公知の接着剤を用いることができ、特に限定されない。前記接着剤としては、例えば、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤、フェノール系接着剤、メラミン系接着剤、尿素系接着剤、不飽和ポリエステル系接着剤、アルキド系接着剤、等が挙げられ、耐熱性が高い粘着剤が好ましい。本発明の防炎耐熱材に用いられる接着剤は、防炎剤を含むことが好ましい。防炎剤を含むことで火炎に曝された時の発熱量を低く抑えることができる。
【0097】
4-1-2.防炎耐熱材の性質
本発明の防炎耐熱材は、優れた防炎性・耐熱性を有する。前記防炎性・耐熱性の評価は前述した耐火断熱シートの総発熱量測定(不燃性評価)と同じ方法で評価することができる。
【0098】
4-1-3.防炎耐熱材の製造方法
本発明の防炎耐熱材の製造方法を説明する。本発明の防炎耐熱材は、基材の少なくとも一つの表面に、本発明の耐火断熱シートを積層させ、固定することで製造することができる。
【0099】
積層及び固定の方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。固定の方法としては、例えば、接着剤による方法、釘やフックなどの固定具による方法などが挙げられるが、基材への密着性、作業性、伝熱防止の観点から、接着剤による方法が好ましい。
【0100】
接着剤は、接着剤層として、予め耐火断熱シートに積層してもよく、基材表面に積層してもよい。作業性の観点から、予め耐火断熱シートに積層する方法が好ましい。また、別の耐火断熱シートや、その他のシートを積層する場合にも同様の方法を用いることができる。
【0101】
粘着剤層の積層方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。積層方法としては、刷毛、各種スプレー、各種コーター等の塗布による方法が好ましく用いられる。
【実施例】
【0102】
≪耐火断熱シートの製造≫
<繊維シートの形成>
・実施例1~8及び比較例1
平均粒径150μm以下の(JIS Z8801-1の公称目開き150μmのメッシュを通過させた)の熱膨張性黒鉛を30質量%;平均粒径が10μm以下の(JIS Z8801-1の公称目開き10μmのメッシュを通過させた)水酸化アルミニウム粉体を40質量%;繊維長2.0mm、繊維径10μmの木質パルプ20質量%;繊維長3.0mm、繊維径7μmガラス繊維を10質量%;を水中で離解・分散し、スラリーを調製した。
前記スラリーのスラリー濃度を調整して湿式抄造を実施し、全ての実施例及び比較例の繊維シートとした。作製した繊維シートの厚さは、0.49mmであり、空隙率は71.9%であった。得られた繊維シートは、実施例1~6及び比較例1の耐火断熱シートの繊維シートとして用いた。
・実施例7
実施例7の耐火断熱シートの繊維シートは、木質パルプとガラス繊維の配合量をそれぞれ15質量%とした以外は実施例1~6及び比較例1の繊維シートと同一の条件として繊維シートを作製した。作製した繊維シートの厚さは、0.52mmであり、空隙率は74.2%であった。
・実施例8
実施例8の耐火断熱シートの繊維シートは、木質パルプとガラス繊維の配合量をそれぞれ25.7質量%及び4.3質量%とした以外は実施例1~6及び比較例1の繊維シートと同一の条件として繊維シートを作製した。作製した繊維シートの厚さは、0.47mmであり、空隙率は69.9%であった。
【0103】
<ケイ酸ナトリウムの調製方法>
容器に、水とポリリン酸アンモニウム入れ、ポリリン酸アンモニウム濃度が28質量%の水溶液を調製した。さらに、前記ポリリン酸アンモニウムの配合量を100質量部とし、ケイ酸ナトリウムを10質量部溶解させた。これを実施例1のケイ酸ナトリウム水溶液とした。実施例1のケイ酸ナトリウム水溶液のポリリン酸アンモニウムとケイ酸ナトリウムの配合比は変えずに、水の添加量を増加させ、濃度を、1.5倍、2倍、3倍、4倍、6倍に希釈したものを、それぞれ実施例2~6のケイ酸ナトリウム水溶液とした。実施例7及び8は実施例3のケイ酸ナトリウム水溶液を用いた。
【0104】
<ケイ酸ナトリウム、及び、リン又はリン化合物付与>
前記各繊維シートを、常温・常圧の環境下に2時間静置したのち、実施例1~8のケイ酸ナトリウム水溶液を常温として2分間浸漬し、含浸した。
比較例1は、繊維シートに含浸を行わず、繊維シートのまま用いた。
【0105】
<乾燥>
続いて、各実施例及び比較例の繊維シートを、乾燥炉を用いて、80℃で2時間乾燥させ、各実施例及び比較例の耐火断熱シートとした。含浸前後の質量を測定し、含浸量(g/m3)とした。
【0106】
≪防炎耐熱材の作製≫
99mm×99mm×9mm厚さの杉板を、防炎剤(株式会社川端社製:MOE9-k2)に含浸させた準不燃杉合板の一方の表面に実施例1の耐火断熱シートを貼り合わせたものを実施例Aの防炎断熱シートとした。防炎性粘着剤として株式会社オーシカ社製:PWP-65Kに株式会社川端社製のリン酸塩不燃剤Aを適宜調合したものを用いた。
また、前記準不燃杉合板に耐火断熱シートを貼り合わせないものを比較例Aとした。結果を表2に示した。
【0107】
≪評価≫
以下に、各実施例1~8及び比較例1の評価方法を示し、その結果を表1及び表2に示した。
<吸水率測定>
実施例1~8及び比較例の耐火断熱シートを、100mm×100mmに加工し、常温常湿の環境下に1時間静置したのち、常温の水に2分間浸漬した後の吸水量の変化率を表わし、吸水前の重量をa、吸水後の重量をbとして下式1に従って算出した。
(式1) 吸水率(%)=(b-a)/b×100
【0108】
<空隙率の測定>
実施例1~8及び比較例1の耐火断熱シートの空隙率は、得られた耐火断熱シートの質量及び密度を測定し、下式により算出した。
空隙率(%)=(1-耐火断熱シートの質量/(耐火断熱シートの体積×耐火断熱シートの密度))×100
【0109】
耐火断熱シートの密度は、JIS Z8807:2012「固体の密度及び比重の測定方法」の方法で測定した。測定の際、前記測定における密度標準液として25℃の精製水を用いて行い、JIS Z8807:2012「固体の密度及び比重の測定方法」の表1に記載の25℃における比重を用いて算出した。但し、測定に際し、比重瓶内において、標準物質である水に2分間浸漬した後に測定した。
【0110】
<こわさ測定>
実施例1~8及び比較例1の耐火断熱シートを、JAPAN TAPPI No.40の荷重曲げによるこわさ試験方法(ガーレー法)にて実施した。
【0111】
<表面強度測定>
実施例1~8及び比較例1の耐火断熱シートを、安田精機製作所製:学振式摩擦試験機II(No.428)を用い、JIS L0849:2013「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」に記載されている摩擦試験機II形(学振形)法に準拠して測定した。評価水準を下記とした。
A:特に変化が見られない
B:小さな表面傷が観察された
C:表面層に若干の破れが、観察された
D:表面層に明確に破れが、観察された
【0112】
<総発熱量測定>
実施例1~8及び比較例1の耐火断熱シートを、99mm×99mmに加工し、測定を行った。また、実施例A及び比較例Aにかかる防炎断熱シートについても同様の測定を行った。測定は、コーンカロリーメーター(株式会社東洋精機製作所社製コーンカロリーメーターC3)を用いて行った。
図1に実施例A及び比較例Aの総発熱量測定結果を示した。
測定条件を下記に示す。
サンプル方向 :垂直
輻射量 :50.0kW/m
2
排気流量 :0.024m
3/sec.
サンプルまでの距離:25mm
試験時間 :1200sec.
【0113】
【0114】
【0115】
<評価結果>
表1の実施例1~8と比較例1の比較により、本発明によれば、表面強度が高く、総発熱量の低い耐火断熱シートを提供することが可能である。即ち、本発明の耐火断熱シートは、施工時の作業性が高く、耐火性・断熱性に優れていることが理解できる。また
図1に、実施例Aと比較例Aの結果を示した。縦軸は熱量を表わし、横軸は試験時間である。総発熱量と図示している曲線が測定結果である。この曲線と横軸で囲まれた面積が総発熱量を表わす。この結果を見ると、実施例Aでは、試験開始から試験終了の20分間にわたり、徐々に発熱量が増加するものの、かなり総発熱量が低く、断熱性が高いことがわかる。比較例Aでは、試験開始直後から発熱量が上昇し、実施例Aと比較すると大きな総発熱量を示した。以上から本発明の耐火断熱シートを用いた防炎耐熱材が優れた防炎性と断熱性を有することが理解できる。
【符号の説明】
【0116】
1、1‘ 防炎耐熱材
10 合板やMDFなど
20、40 接着剤
30 耐火断熱シート
50 表層シート